以下、添付図面に従って本発明に係るダイシング装置及びダイシング方法の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、ダイシング装置10の斜視図である。
ダイシング装置10は、ワークWを切削し、個々のチップに分離する装置で、図1に示すように、一般的なダイシング装置と同様、ブレード12、スピンドル14、ワークテーブル16、これらをXYZθ方向へ駆動する駆動機構(図示せず)、アライメント装置(図示せず)等を備えている他、さらに、超音波振動子18、ホーン20等を備えている。また、ダイシング装置10は、スピンドル14、駆動機構、アライメント装置、超音波振動子18等を制御する制御装置(図示せず)を備えている。
ブレード12は、例えば、ダイヤモンドの微細砥粒を表面に保持した円盤形状の薄いブレード(ダイシングブレードとも称される)で、高周波モータ内蔵型のエアーベアリング式スピンドル14のスピンドル軸(図示せず)に装着され、最高80,000rpmの高速で回転される。
ブレード12は、下部以外の外周がスピンドル14に固定されたフランジカバー28で覆われている。フランジカバー28内部には、ブレード12の両側面へ冷却水を噴射する冷却水ノズル(図示せず)が固定されている。また、フランジカバー28には、ブレード12の加工点近傍(例えば、加工点の上方)へ研削水を噴射する研削水ノズル22がブロック24を介して固定されている。研削水ノズル22は、ブレード12を含む鉛直面内に配置されている。
ブレード12(及びこれが装着されたスピンドル14)は、公知の駆動機構(図示せず)により、スピンドル軸の軸方向(図1中矢印Y方向)へインデックス送りされ、鉛直方向(図1中矢印Z方向)へ切込み送りされる。
図2は、ワークWの斜視図である。
ワークWは、例えば、多数の集積回路が形成された半導体ウェーハで、図2に示すように、リング状のフレームFに取り付けられた弾性体であるダイシングテープS上に裏面が貼り付けられた状態でマウントされ、ワークテーブル16上に真空吸着されてこれに保持される。
ワークテーブル16(及びこれに保持されたワークW)は、公知の駆動機構(図示せず)により、X方向(Y軸及びZ軸を含む平面に直交する方向。図1中矢印X方向)へ研削送りされるとともに、鉛直軸(θ軸)を中心にθ回転される。
図3は、超音波振動子18とホーン20との結合関係等を説明するための側断面図である。
図3に示すように、超音波振動子18は、例えば、ボルト締めランジュバン型振動子で、上下に配置された金属製ブロック18a、18b、金属製ブロック18a、18b間に配置されたPZTからなる圧電素子18c、これらを締結するボルト18d等を備えている。超音波振動子18(下側の金属製ブロック18b)は、ブロック26及びフランジカバー28を介してスピンドル14に固定されている。
上記構成の超音波振動子18は、端子18eを介して圧電素子18cへ交流電圧が印加されると、圧電素子18cの厚みが交流の周波数に同期して変化して鉛直方向に振動し、超音波振動を発生する(以下、この鉛直方向の振動を縦方向の振動と称する)。なお、超音波振動子18は、縦方向の超音波振動を発生するものであればよく、ボルト締めランジュバン型振動子に限られず、その他構造の振動子であってもよい。
ホーン20(本発明のワーク振動手段に相当)は、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)する金属製の棒状部材で、図3に示すように、基端部(固定部20a)が超音波振動子18の下端面にネジ止めされて、片持ち梁状に支持されている。
図4はホーン20の斜視図、図5及び図6はホーン20A(ホーン20の変形例)の斜視図である。
図3、図4に示すように、ホーン20は、超音波振動子18にネジ止め固定される固定部20a、一対の水平部20b、20b、固定部20aと一対の水平部20b、20bとを連結する連結部20c等を含んでおり、超音波振動子18が発生する超音波振動による振動(共振)が最大となるように、そのサイズや形状等が設定されている。
なお、一対の水平部20b、20bの先端部は、互いに連結されていなくてもよいし(図4参照)、互いに連結されていてもよい(図5、図6参照)。一対の水平部20b、20bの先端部が互いに連結されていると、剛性が高くなるため、一対の水平部20b、20bをX方向へ延長しても共振させることが可能になるという利点がある。
一対の水平部20b、20bは、左右対称の形状で、固定部20aが超音波振動子18にネジ止め固定された状態で、ブレード12を間に挟んでブレード12の両側に配置され、ブレード12の側面に対して平行かつX方向へ延びている(図1参照)。一対の水平部20b、20bのX方向長さは長い方が望ましいが、長くすると周囲部分に干渉する等の弊害を生ずる。そのため、本実施形態では、一対の水平部20b、20bのX方向長さは、20mm程度とされている。
一対の水平部20b、20bは、X方向に延びかつワークWの上面に対して平行な平面形状の下面20b3、20b3を含んでいる(図7(a)参照)。ブレード12の下部は、図7(a)に示すように、一対の水平部20b、20bの下面20b3、20b3から下方へ所定量突出している。この突出量は、ブレード12がZ方向へ切込み送りされ、予め定められた切り込み位置(例えば、フルカット位置又はハーフカット位置)へ位置決めされた状態で(図7(a)参照)、一対の水平部20b、20b(の下面20b3、20b3)とワークW(の上面)との間に、予め定められた隙間(例えば、1〜3mm)が形成される長さとされている。
なお、フルカット位置とは、ワークW厚より深い深さで切り込んで切削する位置(切り残し無し)のことで、ハーフカット位置とは、ワークW厚より浅い深さで切り込んで切削する位置のことである(切り残し有り)。
一対の水平部20b、20bは、図7(a)に示すように、第1水平部20b1及び第2水平部20b2を含んでいる。
第1水平部20b1(の下面20b3)は、加工開始点P1から、固定部20aとは反対側へ延びた部分で(図7(a)中符号L1参照)、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込む直前、ワークW(未切削の加工ラインLaの両側に位置するワーク部分W1、W1)の上方に配置される(図7(a)参照)。これにより、第1水平部20b1、20b1(の下面20b3、20b3)とワークW(ワーク部分W1、W1)との間に隙間H1(例えば、1〜3mm)が形成される。
隙間H1には流体(主に研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給され、当該隙間H1はこれを保持する。隙間H1に保持された流体は、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)をワークW(ワーク部分W1、W1)へ伝達する媒体として機能する。
なお、加工ラインLaとは、切削が予定されているラインのことで、ワークWが半導体ウェーハの場合、ワークWに形成されたチップ(集積回路)を区画するストリート(又はスクライブラインとも称される)のことである。
第2水平部20b2(の下面20b3)は、加工開始点P1から、固定部20a側へ延びた部分(図7(a)中符号L2参照)で、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込んで加工ラインLa中の加工点P2を切削中、切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2の上方に配置される(図7(b)参照)。これにより、第2水平部20b2、20b2(の下面20b3、20b3)とワーク部分W2、W2との間に隙間H2(例えば、1〜3mm)が形成される。
隙間H2には流体(主に研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給され、当該隙間H2はこれを保持する。隙間H2に保持された流体は、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)をワークW(ワーク部分W2、W2)へ伝達する媒体として機能する。
なお、切削済みラインLbとは、加工ラインLa中の切削済みの部分、すなわち、加工ラインLa中の加工開始点P1と加工点P2との間の部分のことである。
次に、上記構成のダイシング装置10の作用について説明する。
まず、図2に示すように、ワークWが、リング状のフレームFに取り付けられた弾性体であるダイシングテープS上に裏面が貼り付けられた状態でマウントされ、ワークテーブル16上に真空吸着されてこれに保持される。
次に、アライメント装置(図示せず)を用いて、加工ラインとX方向(ブレード12の切削方向)とを一致させるアライメンが実施される。
次に、ブレード12がスピンドル14により高速回転されるとともに、研削水ノズル22と冷却水ノズル(図示せず)から研削水と冷却水がブレード12へ噴射される。
次に、ブレード12(及びこれが装着されたスピンドル14)が、Y方向へインデックス送りされ、最初の加工ラインLaへ位置決めされるとともに、Z方向へ切込み送りされ、予め定められた切込み位置(例えば、フルカット位置又はハーフカット位置)へ位置決めされる。
次に、ワークWを保持したワークテーブル16がX方向へ研削送りされ、上記位置決めされたブレード12がワークテーブル16上に保持されたワークWを、最初の加工ラインLaに沿って切削する。最初の加工ラインLaの切削が完了すると、ブレード12(及びこれが装着されたスピンドル14)は、Y方向へインデックス送りされ、次の加工ラインLaへ位置決めされる。この位置決めされたブレード12は、上記と同様、X方向へ研削送りされるワークテーブル16上に保持されたワークWを、次の加工ラインLaに沿って切削する。以上を繰り返し、全ての加工ラインLaの切削を完了する。
次に、ワークテーブル16が、90度回転される(θ回転)。そして、上記と同様、ブレード12は、X方向へ研削送りされるワークテーブル16上に保持されたワークWを、切削済み加工ラインLaと直交する加工ラインLaに沿って切削する。以上により、ワークWは、個々のチップTに分離される(図2参照)。
次に、上記切削中のホーン20等の作用について説明する。
以下の説明においては、超音波振動子18が超音波振動を発生し、ホーン20が超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)しているものとする。
まず、加工開始時のホーン20等の作用について説明する。
図7(a)は、ワークWを保持したワークテーブル16がX方向へ研削送りされ、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込む直前の様子を表している。
図7(a)に示すように、一対の水平部20b、20b(第1水平部20b1、20b1)は、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込む直前、ワークW(未切削の加工ラインLaの両側に位置するワーク部分W1、W1)の上方に配置される。これにより、第1水平部20b1、20b1(の下面20b3、20b3)とワークW(ワーク部分W1、W1の上面)との間に隙間H1(例えば、1〜3mm)が形成される。
隙間H1には高速回転するブレード12により巻き込まれる流体(主に研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給され、当該隙間H1はこれを保持する。隙間H1に保持された流体は、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)をワークW(ワーク部分W1、W1)へ伝達する媒体として機能する。
超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)は、隙間H1に保持された流体の密度変動により当該隙間H1に保持された流体を介してワークW(ワーク部分W1、W1)へ伝達され、ワークW(ワーク部分W1、W1)を局所的に縦方向に振動(超音波振動)させる。ワークWは弾性体であるダイシングテープS上にマウントされているため、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)は、ワークW(ワーク部分W1、W1)へ良好に伝達される。
ワークW(ワーク部分W1、W1)へ伝達される振動は、縦方向の振動(超音波振動)となる。その理由は、隙間H1に保持された流体の上下方向は、ホーン20(第1水平部20b1、20b1)とワークW(ワーク部分W1、W1)とで挟まれており、縦方向の振動(超音波振動)が流体の密度変動により伝達されるが、水平方向が開放されているため、水平方向の振動(超音波振動)が伝達されないためである(図7(a)参照)。
仮に、ワークW(ワーク部分W1、W1)へ水平方向の振動(超音波振動)が伝達されると、ワークWが水平方向の振動でスピンドル軸方向等へ振動し、カットラインの位置、加工溝幅がバラツク等の品質に対する悪影響を及ぼす場合があるが、本実施形態では、上記のように、水平方向の振動(超音波振動)が伝達されないため、当該悪影響を抑制することが可能となる。
以上のように、本実施形態のダイシング装置10においては、加工開始時、未切削の加工ラインLaの両側に位置するワーク部分W1、W1が局所的に縦方向に振動(超音波振動)する。これにより、次の利点を生ずる。
第1に、ワークW(ワーク部分W1、W1)へ伝達される振動が局所的な縦方向の振動(超音波振動)であるため、加工開始点P1でワークWにせん断方向の力が作用する(図8参照)。図8は、加工開始時、加工開始点P1でワークWにせん断方向の力が作用する様子を表している。
これにより、加工ラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレード12への負荷)が低減し、ワークWが例えばSiCのような難削材の場合であっても、ブレード12が摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。
第2に、ワークWの加工溝内へ超音波が付与された流体(例えば、研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給されるため、ワークWの加工溝内でキャビテーションを生じる。これにより、ブレード12の目詰まり防止、切削屑のワークW上への沈殿抑制、コンタミ軽減等が可能となる。これにより、加工品質が向上する。
第3に、一対の水平部20b、20bが、左右対称の形状で、ブレード12の両側に配置されているため、未切削の加工ラインLaの両側に位置するワーク部分W1、W1を均等に振動させることが可能となる。これにより、ブレード12で切断されたワークWの切断面が左右で同様となり、個々のチップTの品質が向上する。
なお、加工開始時、超音波振動子18(及びホーン20)がワークWに接触しないため(図7(a)参照)、ワークWの品質に物理的ダメージを与えない。
次に、一本の加工ラインLaの加工開始後加工完了前(すなわち一本の加工ラインLaを切削中)のホーン20等の作用について説明する。
図7(b)は、ワークWを保持したワークテーブル16がX方向へ研削送りされ、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込んで加工ラインLa中の加工点P2を切削中の様子を表している。
図7(b)に示すように、一対の水平部20b、20b(第2水平部20b2、20b2)は、ブレード12が加工開始点P1からワークWに切り込んで加工ラインLa中の加工点P2を切削中、切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2の上方に配置される。これにより、第2水平部20b2、20b2(の下面20b3、20b3)とワーク部分W2、W2(の上面)との間に隙間H2(例えば、1〜3mm)が形成される。
隙間H2には高速回転するブレード12により巻き込まれる流体(主に研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給され、当該隙間H2はこれを保持する。隙間H2に保持された流体は、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)をワークW(ワーク部分W2、W2)へ伝達する媒体として機能する。
超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)は、隙間H2に保持された流体の密度変動により当該隙間H2に保持された流体を介してワークW(ワーク部分W2、W2)へ伝達され、ワークW(ワーク部分W2、W2)を局所的に縦方向に振動(超音波振動)させる。ワークWは弾性体であるダイシングテープS上にマウントされているため、超音波振動子18が発生する超音波振動により振動(共振)するホーン20の振動(超音波振動)は、ワークW(ワーク部分W2、W2)へ良好に伝達される。
ワークW(ワーク部分W2、W2)へ伝達される振動は、縦方向の振動(超音波振動)となる。その理由は、隙間H2に保持された流体の上下方向は、ホーン20(第2水平部20b2、20b2)とワークW(ワーク部分W2、W2)とで挟まれており、縦方向の振動(超音波振動)が流体の密度変動により伝達されるが、水平方向が開放されているため、水平方向の振動(超音波振動)が伝達されないためであるである(図7(b)参照)。
仮に、ワークW(ワーク部分W2、W2)へ水平方向の振動(超音波振動)が伝達されると、ワークWが水平方向の振動でスピンドル軸方向等へ振動し、カットラインの位置、加工溝幅がバラツク等の品質に対する悪影響を及ぼす場合があるが、本実施形態では、上記のように、水平方向の振動(超音波振動)が伝達されないため、当該悪影響を抑制することが可能となる。
以上のように、本実施形態のダイシング装置10においては、一本の加工ラインLaの加工開始後加工完了前(すなわち一本の加工ラインLaを切削中)、切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2が局所的に縦方向に振動(超音波振動)する。これにより、次の利点を生ずる。
第1に、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる。なお、加工進展部とは、加工ラインLa中の、ブレード12が切削中の部分、すなわち、切削済みラインLbの先端部のことである。
以下、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる理由について説明する。
図9(a)は、加工ラインLa中の切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2が局所的に縦方向に振動(超音波振動)している様子を表している。図9(a)中の矢印は応力(ひずみエネルギ)の分布を表し、矢印の長さは応力(ひずみエネルギ)の大きさを表している。
ワークWの剛性は、切削済みラインLbの加工開始点P1側と加工点P2側とで異なる(加工点P2から加工開始点P1に向かうに従って剛性が低くなる)。切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2が局所的に縦方向に振動(超音波振動)すると、等分布荷重が付加された片持ち梁と同様、加工進展部30へ応力が集中し、加工進展部30のひずみエネルギが高い状態となる(図9(a)中最長の矢印参照)。ワークWは脆性材料からなるため、応力が集中し、ひずみエネルギが高い状態となった加工進展部30は、わずかな衝撃で破壊に至る状態となる。
その結果、切削済みラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレード12への負荷)が低減し、ワークWが例えばSiCのような難削材の場合であっても、ブレード12が摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる。)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。
第2に、ワークWの振幅は、切削済みラインLbの加工開始点P1側と加工点P2側とで異なる(加工開始点P1から加工点P2に向かうに従って振幅が小さくなる。図9(b)参照)。すなわち、ワークWの加工点P2の振動がスポット的な微小振動となるため(図9(b)参照)、加工点P2がばたつかず、加工点で大きな振幅が発生する従来技術(特許文献1)と比べ、加工品質に影響を与えるのを抑制することが可能となる。これにより、(特に、ブレード12への負荷が大きい加工開始点P1で)ブレード12への負荷を軽減することが可能となる。
第3に、ワークWの加工溝内へ超音波が付与された流体(例えば、研削水ノズル22から噴射される研削水)が供給されるため、ワークWの加工溝内でキャビテーションを生じる。これにより、ブレード12の目詰まり防止、切削屑のワークW上への沈殿抑制、コンタミ軽減等が可能となる。これにより、加工品質が向上する。
第4に、一対の水平部20b、20bが、左右対称の形状で、ブレード12の両側に配置されているため、切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2を均等に振動させることが可能となる。これにより、ブレード12で切断されたワークWの切断面が左右で同様となり、個々のチップTの品質が向上する。
なお、一本の加工ラインLaの加工開始後加工完了前(すなわち一本の加工ラインLaを切削中)、超音波振動子18(及びホーン20)がワークWに接触しないため(図7(b)参照)、ワークWの品質に物理的ダメージを与えない。
また、従来の一般的なダイシング装置(例えば、図11参照)に対して、超音波振動子18やホーン20を後付けするだけで(大がかりな設備や消耗品等を用いることなく、ブレードの制約を受けることなく)、極めて安価に、上記効果を奏するダイシング装置10を構成することが可能となる。
次に、ホーン20の変形例について説明する。
図10はホーン20A(ホーン20の変形例)の斜視図、図11はホーン20Aが適用される従来のダイシング装置90の側面図である。
本変形例のホーン20Aは、上記実施形態のホーン20と比べ、一対の水平部20b、20bがブレード12の側面へ冷却水を噴射する冷却水ノズル20dを備えている(内蔵している)点が相違する。それ以外、ホーン20と同様の構成である。
本変形例のホーン20Aによれば、ブレード92を間に挟んでブレード92の両側に配置された冷却水ノズル94を備えた従来の一般的なダイシング装置90(図11参照)に対して、超音波振動子18を後付けし、冷却水ノズル94をホーン20Aに交換するだけで、極めて安価に、上記効果を奏するダイシング装置10を構成することが可能となる。また、ホーン20Aを冷却水ノズル20dとして兼用することが可能となるため、冷却水ノズル20dの設置スペースを省略することが可能となる。
また、上記実施形態では、本発明の流体供給手段として、加工点近傍へ研削水を噴射する研削水ノズル22を兼用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、研削水ノズル22とは別に、専用の流体供給ノズルを設けてもよい。また、流体供給手段が供給する流体は、水、純水等の他、添加剤等が含まれた加工水であってもよい。
次に、本実施形態のダイシング装置10の利点について、特許文献1(特開2006−319214号公報)に記載のダイシング装置と対比して説明する。
特許文献1に記載のダイシング装置は、超音波振動子から伝達される超音波振動により径方向に超音波振動するブレードを用いてワークを切削するダイシング装置で、このダイシング装置によれば、超音波振動しないブレードを用いてワークを切削する一般的なダイシング装置と比べ、切削抵抗が低減する等の効果を奏する。
本実施形態のダイシング装置10と特許文献1に記載のダイシング装置とを対比すると、両者は、超音波振動子を用いている点で一致するが、以下の点で本質的に相違する。
第1に、特許文献1に記載のダイシング装置では、ワークの種類によっては、切削抵抗が充分に低減されず、ブレードが摩耗しやすい(ブレードライフ(寿命)が短い)という問題がある。このため、切削抵抗のさらなる低減が求められている。
これに対して、本実施形態のダイシング装置10によれば、ホーン20を備えており、ホーン20の作用により切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2が局所的に縦方向に超音波振動する。これにより、加工進展部30へ応力が集中し、加工進展部30のひずみエネルギが高い状態となる(図9(a)参照)。これにより、加工進展部30がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる(ワークWが脆性材料からなるため)。
その結果、切削済みラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレード12への負荷)が低減し、ワークWが例えばSiCのような難削材の場合であっても、ブレード12が摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークWの加工品質が向上する。
第2に、特許文献1に記載のダイシング装置では、平均的な加工抵抗は減少するが、ブレードが径方向に超音波振動し、拡径、縮径を繰り返すため、ブレードの径が拡大する瞬間、ブレード及びワークに突発的な負荷が作用する(図12参照)。また、特許文献1に記載のダイシング装置では、振幅方向に関し、加工面(円弧)に対して常に垂直な方向に力が作用するため、径方向の負荷がそれ以外の方向へ分散されず、ブレード96及びワークWに突発的な負荷が作用する(図13参照)。このため、特許文献1に記載のダイシング装置においては、より脆い材料からなるワークやより薄いワークをダイシングの対象とすることが難しいという問題がある。
これに対して、本実施形態のダイシング装置10によれば、加工点P2の振動がスポット的な微小振動となるため(図9(b)参照)、ブレード12及びワークWに突発的な負荷が作用せず、より脆い材料からなるワークWやより薄いワークWをダイシングの対象とすることが可能となる。
また、本実施形態のダイシング装置10によれば、振幅が常に縦方向であるため、ブレード12及びワークWに作用する負荷がせん断方向(回転方向)と加工面に対し垂直方向へ分散されるため(図14参照)、ブレード12及びワークWに作用する負荷がより小さくなる。
第3に、特許文献1に記載のダイシング装置では、径方向の振幅が全周同じ振幅であるため、加工点での大きな振幅が加工品質に影響を与える場合がある。
これに対して、本実施形態のダイシング装置10によれば、加工点P2の振動がスポット的な微小振動となるため(図9(b)参照)、加工点で大きな振幅が発生する従来技術(特許文献1)と比べ、加工品質に影響を与えるのを抑制することが可能となる。
第4に、特許文献1に記載のダイシング装置では、径方向に超音波振動させるために、専用のブレードが必要となる。このため、ブレード交換の際、専用のブレードと交換する必要があり、ランニングコストが増大するという問題がある。
これに対して、本実施形態のダイシング装置10によれば、ブレード12ではなく、切削済みラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、専用のブレードと交換する必要がなく、専用のブレードと交換する必要がある従来技術(特許文献1)と比べ、ランニングコストを抑えることが可能となる。
第5に、特許文献1に記載のダイシング装置では、ブレードの磨耗状態によってブレードの径が変化し、それに伴ってブレードの振動状態も変化するため、振動状態を一定に保つのが難しいという問題がある。同一の振動状態を保つには、繊細な制御が求められる。
これに対して、本実施形態のダイシング装置10によれば、ブレード12ではなく、加工ラインLbの両側に位置するワーク部分W2、W2を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、ブレード12の磨耗状態にかかわらず、振動状態を一定に保つことが可能となる(振動状態の再現性に優れている)。また、本実施形態のダイシング装置10によれば、超音波振動を伝達するホーン20は摩耗しないため、ランニングコストを抑えることが可能となる。
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
(付記)
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書では以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(付記1)ワークテーブル上に弾性体を介して載置されたワークを、スピンドルにより回転されるブレードにより加工ラインに沿って切削するダイシング装置において、前記加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させるワーク振動手段を備えるダイシング装置。
付記1記載の発明によれば、ワーク振動手段の作用により加工ラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動する。これにより、加工進展部(加工ライン中の、ブレードが切削中の部分)へ応力が集中し、加工進展部のひずみエネルギが高い状態となる。これにより、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる(ワークが脆性材料からなるため)。
その結果、加工ラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレードへの負荷)が低減し、ワークが例えばSiCのような難削材の場合であっても、ブレードが摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。
また、付記1記載の発明によれば、加工点の振動がスポット的な微小振動となるため、ブレード及びワークに突発的な負荷が作用せず、より脆い材料からなるワークやより薄いワークをダイシングの対象とすることが可能となる。また、付記1記載の発明によれば、振幅が常に縦方向であるため、ブレード及びワークに作用する負荷がせん断方向(回転方向)と加工面に対し垂直方向へ分散されるため、ブレード及びワークに作用する負荷がより小さくなる。また、付記1記載の発明によれば、加工点の振動がスポット的な微小振動となるため、加工点で大きな振幅が発生する従来技術(特許文献1)と比べ、加工品質に影響を与えるのを抑制することが可能となる。
また、付記1記載の発明によれば、ブレードではなく、加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、専用のブレードと交換する必要がなく、専用のブレードと交換する必要がある従来技術(特許文献1)と比べ、ランニングコストを抑えることが可能となる。
また、付記1記載の発明によれば、ブレードではなく、加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、ブレードの磨耗状態にかかわらず、振動状態を一定に保つことが可能となる(振動状態の再現性に優れている)。
また、付記1記載の発明によれば、超音波振動を伝達するホーンは摩耗しないため、ランニングコストを抑えることが可能となる。
(付記2)付記1記載の発明において、前記加工ラインの両側に位置するワーク部分は、前記加工ライン中の切削済みラインの両側に位置するワーク部分であるダイシング装置。
付記2記載の発明によれば、ワーク振動手段の作用により切削済みライン(加工ライン中の切削済みの部分)の両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動する。これにより、加工進展部(ブレードが切削中の加工ライン中の部分)へ応力が集中し、加工進展部のひずみエネルギが高い状態となる。これにより、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる(ワークが脆性材料からなるため)。
その結果、切削済みラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレードへの負荷)が低減し、ワークが例えばSiCのような難削材の場合であっても、ブレードが摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。
(付記3)付記1又は付記2に記載の発明において、前記ワーク振動手段は、前記スピンドルに固定された超音波振動子と、前記超音波振動子に固定された固定部と、前記ブレードを間に挟んで前記ブレードの両側に配置され、前記ワーク部分との間に隙間を形成する一対の水平部と、前記固定部と前記一対の水平部とを連結する連結部と、を含み、前記超音波振動子が発生する超音波により共振するホーンと、前記隙間へ、前記超音波振動子が発生する超音波振動により共振する前記ホーンの振動を前記ワーク部分へ伝達する媒体として機能する流体を供給する流体供給手段と、を備えているダイシング装置。
付記3記載の発明によれば、ホーン(及び一対の水平部とワーク部分との間に保持される流体)の作用により加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させることが可能となる。
(付記4)付記3記載の発明において、前記流体供給手段は、加工点近傍へ研削水を噴射する研削水ノズルであるダイシング装置。
付記4記載の発明によれば、研削水ノズルを流体供給手段として兼用することが可能となるため、流体供給手段の設置スペースを省略することが可能となる。
(付記5)付記3又は4記載の発明において、前記一対の水平部は、前記ブレードへ冷却水を噴射する冷却水ノズルを備えているダイシング装置。
付記5記載の発明によれば、ホーンを冷却水ノズルとして兼用することが可能となるため、冷却水ノズルの設置スペースを省略することが可能となる。
(付記6)ワークテーブル上に弾性体を介して載置されたワークを、スピンドルにより回転されるブレードにより加工ラインに沿って切削するダイシング方法において、前記加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させながら前記加工ラインを切削するダイシング方法。
付記6記載の発明によれば、加工ラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動する。これにより、加工進展部(加工ライン中の、ブレードが切削中の部分)へ応力が集中し、加工進展部のひずみエネルギが高い状態となる。これにより、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる(ワークが脆性材料からなるため)。
その結果、加工ラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレードへの負荷)が低減し、ワークがSiCのような難削材の場合であっても、ブレードが摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。
また、付記6記載の発明によれば、加工点の振動がスポット的な微小振動となるため、ブレード及びワークに突発的な負荷が作用せず、より脆い材料からなるワークやより薄いワークをダイシングの対象とすることが可能となる。また、付記6記載の発明によれば、振幅が常に縦方向であるため、ブレード及びワークに作用する負荷がせん断方向(回転方向)と加工面に対し垂直方向へ分散されるため、ブレード及びワークに作用する負荷がより小さくなる。また、付記6記載の発明によれば、加工点の振動がスポット的な微小振動となるため、加工点で大きな振幅が発生する従来技術(特許文献1)と比べ、加工品質に影響を与えるのを抑制することが可能となる。
また、付記6記載の発明によれば、ブレードではなく、加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、専用のブレードと交換する必要がなく、専用のブレードと交換する必要がある従来技術(特許文献1)と比べ、ランニングコストを抑えることが可能となる。
また、付記6記載の発明によれば、ブレードではなく、加工ラインの両側に位置するワーク部分を局所的に縦方向に超音波振動させる構成であるため、ブレードの磨耗状態にかかわらず、振動状態を一定に保つことが可能となる(振動状態の再現性に優れている)。
また、付記6記載の発明によれば、超音波振動を伝達するホーンは摩耗しないため、ランニングコストを抑えることが可能となる。
(付記7)付記6記載の発明において、前記加工ラインの両側に位置するワーク部分は、前記加工ライン中の切削済みラインの両側に位置するワーク部分であるダイシング方法。
付記7記載の発明によれば、切削済みライン(加工ライン中の切削済みの部分)の両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動する。これにより、加工進展部(ブレードが切削中の加工ライン中の部分)へ応力が集中し、加工進展部のひずみエネルギが高い状態となる。これにより、加工進展部がわずかな衝撃で破壊に至る状態となる(ワークが脆性材料からなるため)。
その結果、切削済みラインの両側に位置するワーク部分が局所的に縦方向に超音波振動しない従来技術(特許文献1)と比べ、切削抵抗(及びブレードへの負荷)が低減し、ワークがSiCのような難削材の場合であっても、ブレードが摩耗しにくくなる(ブレードライフ(寿命)が長くなる)。また、切削速度が向上し、ワークの加工品質が向上する。