以下、実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態における圧縮機の模式的な断面図である。図1中の上下の矢印は、圧縮機の設置状態における上下方向(重力方向)を示している。本実施形態における圧縮機は、給湯機用のヒートポンプサイクル(図示せず)に適用されている。
ヒートポンプサイクルは、圧縮機、水冷媒熱交換器、減圧器、蒸発器および気液分離器等を配管で接続した蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。水冷媒熱交換器は、圧縮機の冷媒吐出口から吐出された冷媒と給湯水とを熱交換して給湯水を加熱する。減圧器は水冷媒熱交換器から流出した冷媒を減圧する。蒸発器は外気から吸熱して、減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる。気液分離器は、蒸発器から流出した冷媒を液相冷媒と気相冷媒とに分離して余剰冷媒を液相冷媒として蓄えるとともに、気相冷媒を圧縮機の冷媒吸入口に供給する。
本実施形態のヒートポンプサイクルは超臨界冷凍サイクルを構成している。具体的には、ヒートポンプサイクルの冷媒として二酸化炭素を採用し、圧縮機から吐出された高圧冷媒の圧力を冷媒の臨界圧力以上にしている。
圧縮機は、スクロール型の電動圧縮機であり、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機部20とを上下方向(縦方向)に配置した縦置きタイプになっている。具体的には、圧縮機構部10が電動機部20の下方側に配置されている。
圧縮機構部10および電動機部20はハウジング30に収容されている。ハウジング30の外側には、圧縮機構部10で圧縮された冷媒から潤滑油を分離する油分離器40が配置されている。ハウジング30および油分離器40は共に、上下方向に延びる縦長形状を有しており、油分離器40はハウジング30の側方に配置されている。
ハウジング30は、上下方向に延びる筒状部材31と、筒状部材31の上端部を塞ぐ上蓋部材32と、筒状部材31の下端部を塞ぐ下蓋部材33とが接合されて構成された密閉容器である。
具体的には、筒状部材31は鉄系金属にて円筒状に形成されており、上蓋部材32および下蓋部材33は共に、鉄系金属にて椀状に形成されている。上蓋部材32および下蓋部材33は、筒状部材31の内部に圧入されてから筒状部材31に対して溶接にて気密的に接合されている。
電動機部20は、固定子をなすステータ21と、回転子をなすロータ22とを有している。ステータ21は、全体として上下方向に延びる円筒形状を有しており、ハウジング30の筒状部材31に固定されている。具体的には、ステータ21は、ステータコア211と、ステータコア211に巻き付けられたステータコイル212とを有している。
ステータコイル212に対する電力の供給は給電端子23を介して行われる。給電端子23はハウジング30の上端部に配置されている。具体的には、給電端子23を貫通させた給電端子固定板24が、ハウジング30の上蓋部材32の中央部に形成された貫通孔を塞ぐように固定されている。
ロータ22は永久磁石にて構成されており、ステータ21の内側に配置されている。ロータ22は上下方向に延びる円筒形状を有しており、ロータ22の中心孔には、上下方向に延びる駆動軸25が圧入により固定されている。ステータコイル212に電力が供給されるとロータ22に回転磁界が与えられてロータ22に回転力が発生し、駆動軸25がロータ22と一体に回転する。
駆動軸25は円筒状に形成されており、その内部空間は、駆動軸25の摺動部に潤滑油を供給する給油通路251を構成している。給油通路251は、駆動軸25の下端面にて開口しており、駆動軸25の上端面においては閉塞部材26で閉塞されている。
駆動軸25の下端側部位(圧縮機構部10側の部位)は、ロータ22よりも下方側に突出している。駆動軸25のうちロータ22よりも下方側に突出している部位には、水平方向(軸方向と直交する方向)に突出する鍔部252が形成されている。鍔部252にはバランスウェイト254が設けられている。なお、ロータ22の上下方向両側にもバランスウェイト221、222が設けられている。
駆動軸25の上端側部位(圧縮機構部10と反対側の部位)は、ロータ22よりも上方側に突出している。駆動軸25のうちロータ22よりも上方側に突出している部位は、軸受部材27によって回転自在に支持されている。
軸受部材27は、介在部材28を介してハウジング30の筒状部材31に固定されている。介在部材28は、水平方向に拡がる環状板の外周部を下方側に向かって屈曲させた形状を有しており、ハウジング30の筒状部材31に固定されている。
軸受部材27の上端部には水平方向に突出する鍔部271が形成されており、鍔部271が介在部材28上に載せられている。そして、軸受部材27の鍔部271と介在部材28とがボルト(図示せず)によって締結固定されている。これにより、介在部材28に対する軸受部材27の水平方向位置(軸方向と直交する方向の位置)を調整可能にして、駆動軸25の芯出しを可能にしている。
駆動軸25のうちロータ22と鍔部252との間の部位は、ミドルハウジング29に構成された軸受部291によって回転自在に支持されている。ミドルハウジング29は、上方側から下方側に向かって階段状に外径および内径が拡大する円筒形状を有しており、その最外周面がハウジング30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。
駆動軸25のうちロータ22よりも下方側の部位はミドルハウジング29の内部に位置しており、ミドルハウジング29のうち内径の最も小さい上方側部位が軸受部291を構成している。
ミドルハウジング29の上下方向中間部、すなわち軸受部291よりも内径が拡大されている部位には、駆動軸25の鍔部252およびバランスウェイト254が収容されている。
ミドルハウジング29のうち内径が最も大きい下方側部位には、圧縮機構部10の可動スクロール11が収容されている。可動スクロール11の下方側には、圧縮機構部10の固定スクロール12が配置されている。
可動スクロール11および固定スクロール12は、円板状の基板部111、121を有している。両基板部111、121は互いに上下方向に対向するように配置されている。
可動スクロール基板部111の中心部には、駆動軸25の下端部253が挿入される円筒状のボス部113が形成されている。駆動軸25の下端部253は、駆動軸25の回転中心に対して偏心した偏心部になっている。したがって、可動スクロール11には、駆動軸25の偏心部253が挿入されていることになる。
可動スクロール11およびミドルハウジング29には、可動スクロール11が偏心部253周りに自転することを防止する自転防止機構(図示せず)が設けられている。このため、駆動軸25が回転すると、可動スクロール11は偏心部253周りに自転することなく、駆動軸25の回転中心を公転中心として公転運動(旋回)する。
可動スクロール11とミドルハウジング29との間には、2枚のスラストプレート13、14が上下方向に積層されている。上方側(ミドルハウジング29側)のスラストプレート13はミドルハウジング29に固定されている。下方側(可動スクロール11側)のスラストプレート14は、可動スクロール11に固定されて、可動スクロール11と一体的に回転する。
可動スクロール11には、基板部111から固定スクロール12側に向かって突出する渦巻き状の歯部112が形成されている。一方、固定スクロール12の基板部121は、ハウジング30の筒状部材31に固定されており、固定スクロール基板部121の上面(可動スクロール11側の面)には、可動スクロール11の歯部112と噛み合う渦巻き状の歯部122が形成されている。具体的には、固定スクロール基板部121の上面に渦巻き状の溝部が形成されており、渦巻き状の溝部の側壁が渦巻き状の歯部122を構成している。
両スクロール11、12の歯部112、122は、2回転した渦巻きの形状に形成されている。換言すれば、両歯部112、122の巻き角は720°になっている。
両スクロール11、12の歯部112、122同士が噛み合って複数箇所で接触することによって、三日月状の作動室15が複数個形成される。なお、図1では図示の都合上、複数個の作動室15のうち1つの作動室のみに符号を付しており、他の作動室については符号を省略している。
作動室15は、可動スクロール11が公転運動することによって外周側から中心側へ容積を減少させながら移動する。作動室15には、冷媒供給通路(図示せず)を通じて冷媒が供給されるようになっており、作動室15の容積が減少することによって作動室15内の冷媒が圧縮される。
作動室15に冷媒を供給する冷媒供給通路(図示せず)は、具体的には、ハウジング30の筒状部材31に形成された冷媒吸入口(図示せず)と、固定スクロール基板部121の内部に形成された冷媒吸入通路(図示せず)とで構成されている。固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)は、固定スクロール基板部121の渦巻き状の溝部のうち最外周側の部位と連通している。
可動スクロール歯部112および固定スクロール歯部122には、作動室15の気密性を確保するためのチップシール16、17が装着されている。チップシール16、17は、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂(PEEK)などの樹脂材料にて、歯部112、122の渦巻き方向に沿って延びる角柱状に形成されている。チップシール16、17は、成形型を用いた射出成形によって一体成形されている。
可動スクロール11側のチップシール16は、可動スクロール歯部112の下面(固定スクロール基板部121側の面)に形成されたチップシール溝に嵌め込まれている。固定スクロール12側のチップシール17は、固定スクロール歯部122の上面(可動スクロール基板部111側の面)に形成されたチップシール溝に嵌め込まれている。
可動スクロール側チップシール16は、固定スクロール基板部121の渦巻き状の溝部の底面(摺動面)に密着して摺動し、固定スクロール側チップシール17は可動スクロール基板部111の下面(摺動面)に密着して摺動する。これにより、作動室15の気密性を確保して、作動室15から冷媒が洩れることを防止する。
固定スクロール基板部121の中心部には、作動室15で圧縮された冷媒が吐出される吐出孔123が形成されている。固定スクロール基板部121内において吐出孔123の下方側には、吐出孔123と連通する吐出室124が形成されている。吐出室124は、固定スクロール12の下面に形成された凹部125と、固定スクロール12の下面に固定された区画部材18とによって区画形成されている。
吐出室124には、作動室15への冷媒の逆流を防止する逆止弁をなすリード弁(図示せず)と、リード弁の最大開度を規制するストッパ19とが配置されている。
吐出室124の冷媒は、冷媒吐出通路(図示せず)を通じてハウジング30外部へ吐出されるようになっている。冷媒吐出通路(図示せず)は、固定スクロール基板部121内に形成された冷媒吐出通路(図示せず)と、ハウジング30の筒状部材31に形成された冷媒吐出口(図示せず)とで構成されている。
ハウジング30の冷媒吐出口(図示せず)は、油分離器40の冷媒流入口(図示せず)に、冷媒配管(図示せず)を介して接続されている。油分離器40は、ハウジング30から吐出された圧縮冷媒から潤滑油を分離し、分離された潤滑油をハウジング30内に戻す役割を果たす。
油分離器40は、上下方向に延びる筒状部材41と、筒状部材41の上端部を塞ぐ上蓋部材42と、筒状部材41の下端部を塞ぐ下蓋部材43とを有している。筒状部材41は鉄系金属にて円筒状に形成されており、上蓋部材42および下蓋部材43は共に鉄系金属にて椀状に形成されている。上蓋部材42および下蓋部材43は、筒状部材41内に圧入されてから筒状部材41に対して溶接にて気密的に接合されている。
油分離器40の筒状部材41は、ハウジング30の筒状部材31に対して、鉄系金属で形成されたブラケット44を介して溶接で接合されている。これにより、油分離器40がハウジング30に固定されることとなる。
上蓋部材42は、外筒部材421と内筒部材422とで構成された二重筒構造になっている。外筒部材421および内筒部材422は上下方向に延びる円筒状の部材であり、内筒部材422は、外筒部材421のうち上方側の部位の内部に挿入されている。
外筒部材421と内筒部材422との間には、上下方向に延びる円筒状空間423が形成されている。円筒状空間423には、油分離器40の冷媒流入口(図示せず)から流入した冷媒が導入される。油分離器40の冷媒流入口(図示せず)は、外筒部材421のうち円筒状空間423の側方部位に形成されている。
円筒状空間423の上端部は内筒部材422によって閉塞されている。具体的には、内筒部材422の上端部が残余の部位よりも拡径されていて、外筒部材421の上端開口部421aを閉塞している。
内筒部材422の上端開口部45は、潤滑油が分離された冷媒を油分離器40外部(換言すれば圧縮機外部)に吐出する冷媒吐出口を構成している。
油分離器40のうち下方側部位は、冷媒から分離された潤滑油を貯める貯油タンクとしての役割を果たす。油分離器40の下蓋部材43には、貯められた潤滑油を油分離器40外部に流出させる油流出口431が形成されている。
油流出口431には油配管46が接続されており、油配管46は、ハウジング30の筒状部材31に固定された配管接続部材34に接続されている。配管接続部材34は、ハウジング30の筒状部材31に形成された貫通孔を貫通し、固定スクロール基板部121の側面に形成された挿入穴126に挿入されている。
固定スクロール基板部121の内部には、油分離器40からの潤滑油が流れる固定側導油通路127が形成されており、可動スクロール基板部111の内部には、固定側導油通路127と断続的に連通する可動側導油通路(図示せず)が形成されている。
固定側導油通路127の一端部は挿入穴126に連通している。固定側導油通路127の他端部(図示せず)は固定スクロール基板部121の上面(可動スクロール基板部111側の面)に開口している。
可動側導油通路(図示せず)の一端部(図示せず)は、固定側導油通路127の他端部(図示せず)と対向するように、可動スクロール基板部111の下面(固定スクロール基板部121側の面)に開口している。
これにより、可動スクロール11の公転運動に伴って可動側導油通路の一端部(図示せず)が固定側導油通路127の他端部(図示せず)と重なったりずれたりすることとなるので、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と断続的に連通する。
可動側導油通路の他端部(図示せず)は、可動スクロール11のボス部113の内面に開口している。このため、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と連通すると、油分離器40からの潤滑油がボス部113と駆動軸25の偏心部253との間の隙間に導入され、次いで駆動軸25の下端部側から駆動軸25の給油通路251に流入する。
駆動軸25には、給油通路251からミドルハウジング29の軸受部291に向かって径方向外側に延びる貫通孔(図示せず)と、給油通路251から軸受部材27に向かって径方向外側に延びる貫通孔(図示せず)とが形成されている。このため、給油通路251に流入した潤滑油は、両貫通孔(図示せず)を通じて、駆動軸25と軸受部291との間、および駆動軸25と軸受部材27との間に供給される。
駆動軸25と軸受部291との間に供給された潤滑油は、重力によってミドルハウジング29の中心孔を流下し、2枚のスラストプレート13、14の間に供給される。2枚のスラストプレート13、14の間に供給された潤滑油は、可動スクロール基板部111の外周側に形成された隙間(ミドルハウジング29の内周面との隙間)を流下し、次いで固定スクロール基板部121を上下方向に貫通する油流下通路(図示せず)を流下して、ハウジング30内の最下部に形成された貯油室35に至る。
貯油室35は、固定スクロール12および区画部材18の下方側に形成されている。区画部材18には、上下方向に貫通する貫通孔181が形成されている。貫通孔181は、固定スクロール基板部121の内部に形成された上述の冷媒吸入通路(図示せず)と連通している。貫通孔181には、貯油室35に貯められた潤滑油を吸い上げるパイプ182が下方側(貯油室35側)から挿入されている。
貯油室35の潤滑油は、パイプ182、区画部材18の貫通孔181、および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給される。
可動スクロール歯部112および可動スクロール側チップシール16の具体的形状を図2〜図4に示す。
固定スクロール歯部122および固定スクロール側チップシール17の具体的形状は図2〜図4に示す可動スクロール歯部112および可動スクロール側チップシール16の具体的形状と同様である。したがって、図2〜図4の括弧内に、固定スクロール歯部122および固定スクロール側チップシール17に対応する符号を付している。
図2に示すように、可動スクロール側チップシール16は、可動スクロール歯部112に形成されたチップシール溝112aに嵌め込まれている。可動スクロール側チップシール16は、可動スクロール歯部112の周方向において、チップシール溝112aに対してある程度の余裕をもって嵌め込まれている。
図3に示すように、可動スクロール側チップシール16は、可動スクロール11の回転軸方向(図2、図3の紙面垂直方向)から見たときに、波状に蛇行しながら可動スクロール歯部112の渦巻き方向に延びている。換言すれば、可動スクロール側チップシール16の両側面は、波状の曲面になっている。
これにより、可動スクロール側チップシール16の両側面には複数個の側面突起部16a、16bが形成されている。具体的には、可動スクロール側チップシール16には、チップシール溝112aの外側壁112bに向かって突出する複数個の外側突起部16aと、チップシール溝112aの内側壁112cに向かって突出する複数個の内側突起部16bが形成されている。
外側突起部16aは、可動スクロール歯部112の径方向外側に向かって突出している。内側突起部16bは、可動スクロール歯部112の径方向内側に向かって突出している。
外側突起部16aおよび内側突起部16bは、可動スクロール歯部112、122の渦巻き方向における位置が互いにずれている。換言すれば、外側突起部16aおよび内側突起部16bは、可動スクロール歯部112、122の渦巻き方向(周方向)に沿って千鳥状に配置されている。換言すれば、外側突起部16aおよび内側突起部16bは、チップシール溝112aの幅方向中心線Lc2(仮想線)に対して、互いに非対称に配置にされている。
したがって、可動スクロール側チップシール16の幅方向中心線Lc1(仮想線)は、チップシール溝112aの幅方向中心線Lc2(仮想線)と少なくとも1箇所で交差している。
図3の例では、複数個の外側突起部16aは、可動スクロール歯部112の周方向において等ピッチに配置されており、複数個の内側突起部16bも、可動スクロール歯部112の周方向において等ピッチに配置されている。
したがって、可動スクロール側チップシール16の幅方向中心線Lc1(仮想線)は、チップシール溝112aの幅方向中心線Lc2(仮想線)と複数の箇所で等ピッチで交差している。
複数個の外側突起部16aおよび複数個の内側突起部16bは、可動スクロール歯部112の周方向において不等ピッチに配置されていてもよい。したがって、可動スクロール側チップシール16の幅方向中心線Lc1(仮想線)は、チップシール溝112aの幅方向中心線Lc2(仮想線)と複数の箇所で不等ピッチで交差していてもよい。
外側突起部16aおよび内側突起部16bがチップシール溝112aの両側壁112b、112cの間で弾性変形することによって、チップシール溝112aの側壁112b、112cと可動スクロール側チップシール16の側面との隙間からの冷媒漏れを抑制できる。
図2、図4に示すように、可動スクロール側チップシール16には、チップシール溝112aの底壁112dに向かって突出する複数個の底側突起部16cが形成されている。底側突起部16cは、固定スクロール12の摺動面121aと反対側に向かって突出している。底側突起部16cは、チップシール16を成形型で射出成形する際に形成される型抜きピン痕である。
図2に示すように、底側突起部16cが形成されている範囲θは、可動スクロール側チップシール16の巻き終わり部16dから巻き始め側に向かって巻き角が180°の範囲になっている。
複数個の底側突起部16cは、可動スクロール歯部112の周方向において等ピッチに配置されている。複数個の底側突起部16cは、可動スクロール歯部112の周方向において不等ピッチに配置されていてもよい。
底側突起部16cは、可動スクロール側チップシール16の他の部分よりもバネ定数が大きくなるように形成されている。底側突起部16cが、チップシール溝112aの底壁112dと固定スクロール基板部121との間で弾性変形することによって、可動スクロール側チップシール16が固定スクロール基板部121の摺動面121aに押し付けられる。そのため、可動スクロール側チップシール16の摺動面(底側突起部16cと反対側の面)と固定スクロール基板部121の摺動面121aとの隙間からの冷媒漏れを抑制できる。
図2〜図4の括弧内に符号を付したように、固定スクロール側チップシール17は、固定スクロール歯部122に形成されたチップシール溝112aに嵌め込まれている。固定スクロール側チップシール17の具体的形状および機能は、可動スクロール側チップシール16と同様である。
すなわち、固定スクロール側チップシール17には、外側突起部17a、内側突起部17bおよび底側突起部17cが形成されている。外側突起部17aは、チップシール溝122aの外側壁122bに向かって突出している。内側突起部17bは、チップシール溝122aの内側壁122cに向かって突出している。底側突起部17cは、チップシール溝122aの底壁122dに向かって突出している。
外側突起部17aは、固定スクロール歯部122の径方向外側に向かって突出している。内側突起部17bは、固定スクロール歯部122の径方向内側に向かって突出している。底側突起部17cは、可動スクロール11の摺動面111aと反対側に向かって突出している。
底側突起部17cは、チップシール17を成形型で射出成形する際に形成される型抜きピン痕である。
チップシール16、17を成形型で射出成形する工程を図5に示す。まず、図5(a)に示すように成形型50、51を締める。これにより、キャビティ空間50aが形成される。キャビティ空間50aは、成形品に対応する形状を有する空間であり、溶融樹脂が注入される。固定側の成形型50には、型抜きピンが挿入される型抜きピン穴50bが形成されている。
次いで、図5(b)に示すように成形型50、51の内部に溶融樹脂52を射出する。溶融樹脂52を冷却した後、図5(c)に示すように成形型50、51を開ける。
次いで、図5(d)、(e)、(f)に示すように、成型品であるチップシール16、17を型抜きピン53で押し出して成形型50から取り出す。
この成形工程において、型抜きピン穴50bによって形成される突起部が底側突起部16c、17cとなる。型抜きピン53が、成型品であるチップシール16、17を押し出すことによって、底側突起部16c、17cの突出先端面に窪み部16e、17eが形成される。
次に、上記構成における作動を説明する。電動機部20のステータコイル212に電力が供給されてロータ22および駆動軸25が回転すると、可動スクロール11が駆動軸25に対して公転運動(旋回)する。これにより、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122との間に形成された三日月状の作動室15が外周側から中心側へ容積を減少させながら移動する。
このとき、外周側に位置する作動室15に対して冷媒および貯油室35の潤滑油が供給される。具体的には、圧縮機外部の冷媒がハウジング30の冷媒吸入口(図示せず)および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給されると同時に、貯油室35の潤滑油がパイプ182、区画部材18の貫通孔181および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給される。
作動室15に供給された冷媒は、作動室15の容積の減少に伴って圧縮される。作動室15で圧縮された冷媒は、固定スクロール12の吐出孔123、吐出室124、ハウジング30の冷媒吐出口(図示せず)を通じてハウジング30外部に吐出され、次いで冷媒配管(図示せず)を通じて油分離器40の冷媒流入口(図示せず)に流入する。
油分離器40の冷媒流入口に流入した冷媒は、油分離器40内の円筒状空間423に導入される。そして、円筒状空間423において冷媒に旋回流れを生じさせ、冷媒の旋回流れによって生じる遠心力の作用によって、冷媒から潤滑油が分離される。
潤滑油が分離された冷媒は、油分離器40の冷媒吐出口45から、圧縮機の吐出冷媒として吐出される。一方、冷媒から分離された潤滑油は、重力によって油分離器40内部を流下して油分離器40内の下部に貯められる。油分離器40内に貯められた潤滑油は、駆動軸25の給油通路251に断続的に供給される。
具体的には、上述のごとく可動スクロール11の公転運動に伴って可動スクロール11の可動側導油通路(図示せず)が固定スクロール12の固定側導油通路127と断続的に連通することによって、油分離器40内に貯められた潤滑油が、油配管46、配管接続部材34、固定側導油通路127、および可動側導油通路(図示せず)を通じて、可動スクロール11のボス部113と駆動軸25の偏心部253との間の隙間に導入され、次いで駆動軸25の下端部側から駆動軸25の内部の給油通路251に流入する。
なお、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と連通していない場合には、駆動軸25の給油通路251への潤滑油の供給が遮断される。
駆動軸25の給油通路251に供給された潤滑油は、駆動軸25の貫通孔(図示せず)を通じて駆動軸25と軸受部291との間、および駆動軸25と軸受部材27との間に供給される。これにより、駆動軸25の摺動部で潤滑性を良好に維持できる。
駆動軸25と軸受部291との間に供給された潤滑油は、重力によってミドルハウジング29の中心孔を流下し、2枚のスラストプレート13、14の間に供給される。これにより、スラストプレート13、14同士の摺動部で潤滑性を良好に維持できる。
2枚のスラストプレート13、14の間に供給された潤滑油は、可動スクロール基板部111の外周側に形成された隙間(ミドルハウジング29の内周面との隙間)を流下し、次いで固定スクロール基板部121を上下方向に貫通する油流下通路(図示せず)を流下して、ハウジング30内の最下部に形成された貯油室35に至る。
チップシール16、17は、低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差によって相手部材121、111の摺動面121a、111aに押し付けられるので、相手部材121、111の摺動面121a、111aに密着して摺動する。これにより、作動室15の気密性を確保して、作動室15から冷媒が洩れることを防止する。
チップシール16、17は、樹脂で形成されているので冷媒環境下では膨潤する。すなわち、チップシール16、17は冷媒を吸収して体積が増加する。特に冷媒が二酸化炭素である場合、チップシール16、17は顕著に膨潤する。
チップシール16、17が顕著に膨潤すると、チップシール16、17の側面がチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cに過度に押し付けられることとなる。そうすると、チップシール16、17の側面とチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの間の摩擦力が過度に大きくなるので、チップシール16、17が相手部材121、111の摺動面121a、111aに押し付けられにくくなり、チップシール16、17と相手部材121、111の摺動面121a、111aとの間から冷媒が洩れやすくなる。
その点に鑑みて、本実施形態では、チップシール16、17に側面突起部16a、17aが形成されているので、チップシール16、17の側面のうち側面突起部16a、17a以外の部位とチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの間に空間が形成され、この空間によってチップシール16、17の膨潤を吸収できる。
そのため、チップシール16、17の側面がチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cに過度に押し付けられることを抑制できる。
外側突起部16aおよび内側突起部16bは、スクロール11、12の歯部112、122の渦巻き方向における位置が互いにずれているので、チップシール16、17の膨潤を効果的に吸収できる。
さらに、チップシール16、17に底側突起部16c、17cが形成されているので、底側突起部16c、17cの弾性力が、チップシール16、17を相手部材121、111の摺動面121a、111aに押し付けるように作用する。
そのため、チップシール16、17が膨潤することによってチップシール16、17の側面とチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの間の摩擦力が大きくなっても、チップシール16、17を相手部材121、111の摺動面121a、111aに押し付けることができる。
したがって、作動室15の気密性を確保して、作動室15から冷媒が洩れることを防止できる。
底側突起部16c、17cの弾性力が、チップシール16、17の側面とチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの間の摩擦力よりも大きくなるように底側突起部16c、17cが形成されていれば、チップシール16、17を相手部材121、111の摺動面121a、111aに確実に押し付けることができる。
チップシール16、17の巻き終わり部16d、17dの近傍では、低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差が小さいので、相手部材121、111の摺動面121a、111aへの押し付け力が得られにくい。
その点、本実施形態では、底側突起部16c、17cがチップシール16、17の巻き終わり部16dの近傍の範囲θに配置されているので、低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差が小さくなるチップシール16、17の巻き終わり部16d、17dの近傍において、底側突起部16c、17cの弾性力によってチップシール16、17を相手部材121、111の摺動面121a、111aに押し付けることができる。
底側突起部16c、17cは、チップシール16、17の巻き終わり部16dの近傍の範囲θ以外には配置されていないので、底側突起部16c、17cを設けることに伴う摺動損失の増加を極力抑制できる。
底側突起部16c、17cは、チップシール16、17を成形型で射出成形する際に形成される型抜きピン痕であるので、底側突起部16c、17cの形成位置および形成範囲、ピッチ、個数を高い自由度で設定できる。また、型抜きピン痕を研削加工等によって除去する必要がないので、チップシール16、17の生産性を向上でき、ひいては製造コストを低減できる。
本実施形態によると、チップシール16、17に、弾性変形する外側突起部16a、17aおよび内側突起部16b、17bが形成されているので、チップシール16、17の側面とチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの隙間から冷媒が洩れることを抑制できる。
また、チップシール16、17の側面のうち外側突起部16a、17aおよび内側突起部16b、17b以外の部位と、チップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cとの間に、チップシール16、17の膨潤を吸収する空間を形成できる。
そのため、チップシール16、17が膨潤しても、チップシール16、17の側面がチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cに過剰に押し付けられることを抑制できる。
チップシール16、17の幅方向中心線Lc1は、チップシール溝112a、122aの幅方向中心線Lc2と少なくとも1箇所で交差しているので、チップシール16、17の外周側と内周側とで接触面圧に差を設けることができる。
そのため、チップシール16、17が膨潤しても、チップシール16、17の側面がチップシール溝112a、122aの側壁112b、112c、122b、122cに過剰に押し付けられることを一層抑制できる。
チップシール16、17に、弾性変形する底側突起部16c、17cが形成されているので、底側突起部16c、17cの弾性力によって、チップシール16、17をスクロール11、12の摺動面111a、121aに押し付けることができる。
以上のことから、チップシール16、17が膨潤しても、チップシール16、17がスクロール11、12の摺動面111a、121aに押し付けられにくくなることを抑制できるので、チップシール16、17の膨潤による作動室15の密閉性(気密性)の低下を抑制できる。
具体的には、本実施形態では、外側突起部16a、17aおよび内側突起部16b、17bは、歯部112、122の渦巻き方向における位置が互いにずれている。より具体的には、本実施形態では、チップシール16、17は、スクロール11、12の回転軸方向から見たときに、波状に蛇行しながら歯部112、122の渦巻き方向に延びている。
これにより、チップシール16、17の幅方向中心線Lc1を、チップシール溝112a、122aの幅方向中心線Lc2と少なくとも1箇所で交差させることができる。
本実施形態では、底側突起部16c、17cは、チップシール16、17の他の部位と比較して、バネ定数が大きくなっている。これにより、底側突起部16c、17cによって、チップシール16、17を摺動面111a、121aに効果的に押し付けることができる。
本実施形態では、底側突起部16c、17cは、チップシール16、17の巻き終わり部16d、17dから巻き始め側に向かって巻き角が180°の範囲θに形成されている。
これにより、低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差が小さくなるチップシール16、17の巻き終わり部16d、17dの近傍において、底側突起部16c、17cの弾性力によってチップシール16、17を相手部材121、111の摺動面に押し付けることができる。
本実施形態では、底側突起部16c、17cには、スクロール11、12の摺動面111a、121aと反対側から摺動面111a、121a側に向かって窪んだ窪み部16e、17eが形成されている。
すなわち、本実施形態では、チップシール16、17を成形型で射出成形する際に形成される型抜きピン痕を底側突起部16c、17cとして利用している。これにより、底側突起部16c、17cの形成位置および形成範囲、ピッチ、個数を高い自由度で設定できるとともに、型抜きピン痕を研削加工等によって除去する工数を低減できる。
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、チップシール16、17の側面突起部16a、17aは、チップシール16、17の厚さ方向(可動スクロール11の回転軸方向)の全域にわたって形成されているが、本実施形態では、図6〜図9に示すように、チップシール16、17の側面突起部16a、17aは、チップシール16、17の厚さ方向において一部の領域に形成されている。図6〜図9は、上記第1実施形態の図4に対応する図である。
図6に示す第1実施例では、チップシール16、17の側面突起部16a、17aは、チップシール16、17の側面のうちスクロール12、11の摺動面121a、111a側の部位に形成されている。
図7に示す第2実施例では、チップシール16、17の側面突起部16a、17aは、チップシール16、17の側面のうちスクロール12、11の摺動面121a、111aと反対側の部位に形成されている。
図8に示す第3実施例では、チップシール16、17の側面突起部16a、17aは、チップシール16、17の厚さ方向に間欠的に形成されている。
本実施形態においても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
(他の実施形態)
(1)上述の実施形態では、ヒートポンプサイクルに本発明の圧縮機を適用しているが、種々の冷凍サイクルに本発明の圧縮機を広く適用可能である。
(2)上述の実施形態では、ヒートポンプサイクルが超臨界冷凍サイクルを構成しており、冷媒として二酸化炭素を採用しているが、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上とならない亜臨界冷凍サイクルを構成していてもよく、フロン系冷媒や炭化水素系冷媒等の冷媒を採用してもよい。
(3)上述の実施形態では、冷媒を圧縮する圧縮機に本発明の圧縮機を適用しているが、種々の圧縮対象流体を圧縮する圧縮機に本発明の圧縮機を広く適用可能である。
(4)上述の実施形態では、チップシール16、17が樹脂材料で形成されているが、これに限定されるものではなく、チップシール16、17が種々の材料で形成されていてもよい。
(5)上述の実施形態では、一対のスクロール11、12のチップシール16、17に側面突起部16a、16bおよび底側突起部16cが形成されているが、一方のスクロールのチップシールのみに側面突起部16a、16bおよび底側突起部16cが形成されていてもよい。