減量弁は、一般に機械的な開閉機構を有しており、経年劣化等に起因し、開いた状態または閉じた状態のまま周辺の部材に固着する場合がある。例えば、減量弁が開いた状態で固着した場合、減量弁に閉弁の指示(閉じる指示)が与えられても、減量弁は閉じることができない。一方、減量弁が閉じた状態で固着した場合、減量弁に開弁の指示(開く指示)が与えられても、減量弁は開くことができない。以下、前者を「開固着異常」といい、後者を「閉固着異常」という。
減量弁を備えた燃料システムが内燃機関(以下「機関」という。)に適用される場合、上述した異常は、機関の空燃比制御(例えば、空燃比を目標値に一致させるためのフィードバック量などのパラメータ)などに影響を及ぼす。例えば、「開固着異常」が生じた場合、減量弁への指示が開弁から閉弁に変わっても、減量弁は実際には閉じない。一方、ポンプの吐出量は、減量弁が閉じたことを前提として切り替えられる(即ち、排出量の分だけ減らされる)。そのため、燃料噴射弁の要求量に対してポンプの吐出量が不足し、燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という。)が低下する。その結果、燃料の噴射量および噴射状態(拡散の度合い等)に意図しない変化が生じ、上記パラメータが変動する。即ち、減量弁の異常に起因し、上記パラメータが変動する。逆に言えば、上記パラメータの変動に基づいて減量弁が異常であるか否かを判定(診断)できる、とも考えられる。
しかしながら、機関の空燃比制御に関するパラメータは、一般に、減量弁の影響だけでなく、減量弁以外の他の部材(例えば、機関の吸気系に属する各種部材)の影響も受ける。そのため、仮に同パラメータに意図しない変化が生じても、その変動が減量弁の異常に起因するか又は他の部材の異常に起因するかを特定することは困難である。換言すると、減量弁が異常であるか否かと、他の部材が異常であるか否かと、を区別して判定することは困難である。
本発明の目的は、減量弁が異常であるか否かを独立して判定できる異常判定装置を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明による減量弁の異常判定装置は、
燃料を噴射する「噴射弁」と、前記噴射弁に接続された供給経路に燃料を吐出する「ポンプ」と、前記供給経路上に設けられる減量弁であって閉弁時に前記ポンプによる吐出燃料の全部を前記噴射弁に供給し且つ開弁時に所定の排出量の燃料を前記供給経路から排出することによって前記吐出燃料の一部を前記噴射弁に供給する「減量弁」と、を有する燃料システム(燃料系)に適用される。
そして、本発明の異常判定装置は、
前記減量弁に開弁又は閉弁の指示を与えると共に前記ポンプに吐出量を指示し、且つ、前記減量弁が異常であるか否かを判定可能な「制御部」を備えている。
ここで、前記制御部は、前記ポンプに指示する吐出量に関し、
「前記噴射弁における燃料の要求量と、前記噴射弁に供給される燃料の圧力である燃圧を目標圧にするためのフィードバック制御におけるフィードバック量であって前記目標圧に対する前記燃圧の偏差の時間積分値に基づく積分項を含むフィードバック量と、前記減量弁への指示が開弁の場合に前記排出量に設定され且つ前記減量弁への指示が閉弁の場合にゼロに設定される補正量と、の合計」を吐出するように、前記ポンプに吐出量を指示するようになっている。
更に、前記制御部は、前記減量弁の「異常判定処理」として、
前記積分項の値を処理前値として保持する「前処理」を行った時点以降に、前記補正量を変更することなく前記減量弁への指示を変更する「主処理」を行い、前記主処理を行ったときの前記燃圧の推移に基づき、前記減量弁が異常であるか否かを判定し、前記判定の後に前記減量弁への指示を前記主処理の前の指示に再変更すると共に前記積分項の値を前記処理前値に一致させる「後処理」を行う、ように構成されている。
上記構成により、上述した異常判定処理に従って減量弁の異常判定が行われる。これら異常判定手法は、減量弁への指示(主処理における開弁の指示)に連動するパラメータ(燃圧)を利用して行われる。更に、このパラメータは、本燃料システムに固有のパラメータである。よって、本発明の異常判定装置は、減量弁が異常であるか否かを他の部材の異常判定と区別して判定できる。
本発明による減量弁の異常判定処理の詳細について、以下に述べる。
本発明の「制御部」は、「前記減量弁に開弁又は閉弁の指示を与えると共に前記ポンプに吐出量を指示」するべく、減量弁およびポンプに指示を与える。具体的には、制御部は、減量弁に対して必要に応じて「開弁又は閉弁の指示」を与える。更に、制御部は、ポンプに対して「前記噴射弁における燃料の要求量」と「燃圧を目標圧にするためのフィードバック制御におけるフィードバック量」と「前記減量弁への指示が開弁の場合に前記排出量に設定され且つ前記減量弁への指示が閉弁の場合にゼロに設定される補正量」との合計を吐出する指示を与える。
但し、「フィードバック制御」は、「燃圧」が目標圧に一致するように吐出量を「フィードバック量」だけ増減する制御である。更に、「排出量」は、減量弁の開弁時に減量弁を介して「供給経路から排出」される(その結果、噴射弁に実際に供給される燃料の量が減量される)量であり、事前の実験等によって予め特定され得る「所定の」量である。排出量は、固定値であってもよく、減量弁の経年劣化等を考慮した可変値であってもよい。加えて、以下、制御部がポンプに指示する吐出量は、単に「吐出量」と称呼される。
減量弁が“正常”である場合、減量弁に閉弁の指示(閉じる指示)が与えられると、同指示に従って減量弁が閉じるため、減量弁によって排出される量(ゼロ)と「補正量」(減量弁への指示が閉弁の場合にはゼロ)とが“一致する”。同様に、減量弁に開弁の指示(開く指示)が与えられると、同指示に従って減量弁が開くため、減量弁によって排出される量(所定の排出量)と「補正量」(減量弁への指示が閉弁の場合には同排出量)とが“一致する”。そのため、この場合、減量弁への指示の変化に伴って吐出量が増減されても、減量弁の開閉によってその増減が相殺されるため、燃圧は変化しない。
逆に言えば、この場合、吐出量に排出量を加算することなく(換言すると、補正量をゼロに維持したまま)減量弁への指示を閉弁から開弁に変えると、排出量の分だけ噴射弁に供給される燃料が不足するため、燃圧が低下することになる。同様に、吐出量から排出量を減算することなく(換言すると、補正量を排出量に維持したまま)減量弁への指示を開弁から閉弁に変えると、排出量の分だけ噴射弁に供給される燃料が過剰となるため、燃圧が上昇することになる。
これに対し、減量弁に“開固着異常”が生じている場合、減量弁に閉弁の指示(閉じる指示)が与えられても、減量弁が閉じない。また、減量弁に“閉固着異常”が生じている場合、減量弁に開弁の指示(開く指示)が与えられても、減量弁が開かない。即ち、減量弁にこれら異常が生じている場合、減量弁への指示を変えても、減量弁の実際の開閉状態は変わらない(開固着または閉固着したままである)。よって、吐出量に排出量を加算することなく(補正量をゼロに維持したまま)減量弁への指示を閉弁から開弁に変えても、燃圧は変化しない。同様に、吐出量から排出量を減算することなく(換言すると、補正量を排出量に維持したまま)減量弁への指示を開弁から閉弁に変えても、燃圧は変化しない。
このように、減量弁に“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、「補正量を変更することなく前記減量弁への指示を変更」する処理(主処理)を行っても、燃圧は同指示が変わる前の値に維持される(変化しない)ことになる。更に、上記説明から理解されるように、この燃圧の推移は、減量弁の異常に起因する。よって、上述した燃圧の推移に基づき、減量弁の異常判定を他の部材の異常判定と区別して行うことができる。これが、本発明における「異常判定処理」である。
但し、上述したように、燃圧は、燃圧を目標圧に一致させるフィードバック制御の制御下にある。そのため、異常判定処理の「主処理」によって燃圧が変動すると(減量弁が正常の場合)、フィードバック量がその変動を抑制するように変化する。具体的には、フィードバック量に含まれる「前記目標圧に対する前記燃圧の偏差の時間積分値に基づく積分項」の値が、燃圧の変動分を相殺するように増減する。一方、主処理の後に「前記減量弁への指示を前記主処理の前の指示に再変更」すると、燃圧が主処理時の変動とは逆方向に変動するため(減量弁が正常の場合)、積分項の値は、再び主処理の前の値にまで減少する。
積分項を算出するためには偏差を時間積分する必要があるため、一般に、燃圧が実際に変化してから、積分項がその変化に追従するまで、の間には時間差(応答遅れ時間)が生じる。そのため、異常判定処理の「主処理」の後、減量弁への指示が再変更されたとき、積分項がその再変更に追従するには、所定の応答遅れ時間を要する。別の言い方をすると、積分項が、再変更の前の値から再変更の後の値に変化するためには、上記応答遅れ時間を要する。この応答遅れ時間の経過中、積分項の値(即ち、フィードバック量。ひいては、吐出量)は、減量弁の開閉状態(閉弁)に対応した値とならない。その結果、このとき、実際の燃圧が目標圧と異なる(乖離する)ことになる。燃圧を精度良く制御する観点からは、このような実際の燃圧と目標圧との間の乖離を出来る限り防ぐことが望ましい。
そこで、異常判定処理においては、主処理が行われた後、「前記減量弁への指示を前記主処理の前の指示に再変更すると共に前記積分項の値を前記処理前値に一致させる後処理」が行われる。これにより、応答遅れ時間の経過を待つことなく(即ち、積分項が徐々に変化するための時間を必要とせず)、積分項の値が「処理前値」に設定される。「処理前値」は、「主処理」が行われる前に「前処理」によって保持した値であり、「再変更」の後の減量弁の開閉状態に適した値である。よって、「後処理」が行われることにより、積分項の値(ひいては、吐出量)を速やかに減量弁の開閉状態(閉弁)に対応した値にすることができる。即ち、実際の燃圧と目標圧との乖離が防がれる。その結果、燃圧制御に及ぼす影響を出来る限り小さくしながら、減量弁の異常判定を行うことができる。
以上に説明したように、本発明の異常判定装置は、減量弁が異常であるか否かを独立して判定できる。
ところで、減量弁が「異常である」とは、減量弁に開固着異常または閉固着異常が生じていることを表す。逆に、減量弁が異常ではない(正常である)とは、減量弁に開固着異常も閉固着異常も生じていないことを表す。
更に、燃圧制御のための「フィードバック量」は、目標圧に対する実際の燃圧の偏差に基づく制御量であり、積分項を含んでいる限り特に制限されない。例えば、フィードバック量は、積分項(I項)に加え、同偏差に基づく比例項(P項)及び同偏差の時間微分値に基づく微分項(D項)の一方または双方を含むように算出され得る。
更に、ポンプに指示される「吐出量」、並びに、後述される「最大吐出量」及び「閾値吐出量」は、燃料システムにおけるポンプの制御機構に対応したパラメータであればよく、特に制限されない。例えば、吐出量として、ポンプから単位時間当たりに吐出される燃料の体積、及び、ポンプをPWM(Pulse Width Modulation)方式にて制御する場合におけるポンプへの入力電圧のデューティ比、等が採用され得る。同様に、例えば、最大吐出量として、ポンプから単位時間当たりに吐出可能な燃料の最大体積、及び、PWM方式の制御における入力電圧のデューティ比の最大値(=1)等が採用され得る。更に、例えば、閾値吐出量として、その最大吐出量から所定量を減じた量が採用され得る(詳細は後述される。)。
以上、本発明の異常判定装置について説明した。次いで、以下、本発明の異常判定装置のいくつかの態様(態様1〜5)について述べる。
・態様1
上述した減量弁の異常判定(異常判定処理)を行うとき、燃圧に対し、燃料システムにおいて通常生じる変動とは異なる変動が生じ得る。例えば、減量弁の正常時、燃圧の強制的な変動を招き得る。そのような変動は、燃料噴射弁の噴射量および噴射状態(拡散の度合い)等に意図しない変化を生じさせる虞がある。そのため、減量弁の異常判定は、可能な限り、上述した判定手法(異常判定処理)と、燃料システムにおいて通常生じる各種パラメータの変動に基づいて減量弁の異常判定が可能な判定手法と、を組合せて実行されることが好ましい。
そこで、一の態様として、前記制御部は、
前記減量弁が異常であるか否かを判定するとき、
「第1異常判定」として、“前記減量弁への指示が閉弁の場合における前記ポンプに指示される吐出量が閾値吐出量以上であるとの条件”が成立していない場合、前記減量弁への指示が開弁である期間中の前記フィードバック量と、前記減量弁への指示が閉弁である期間中の前記フィードバック量と、の差に基づき、前記減量弁が異常であるか否かを判定し、
「第2異常判定」として、前記条件が成立している場合、前記“前処理”を行った時点以降に、前記“主処理”として前記補正量をゼロに維持しながら前記減量弁への指示を閉弁から開弁に変更する処理を行い、前記主処理を行ったときの前記燃圧の推移に基づき、前記減量弁が異常であるか否かを判定し、前記判定の後に前記“後処理”を行う、ように構成され得る。
上記構成により、2種類の異常判定手法(第1異常判定または第2異常判定)に従って減量弁の異常判定が行われる。これら異常判定手法は、減量弁への指示(開弁の指示または閉弁の指示)に連動するパラメータ(フィードバック量または燃料の圧力)を利用して行われる。更に、これらパラメータは、本燃料システムに固有のパラメータである。更に、第1異常判定は、燃料システムにおいて通常生じるフィードバック量の変動に基づいて実行可能である。よって、本発明の異常判定装置は、燃料システムへの影響を出来る限り小さくしながら、減量弁が異常であるか否かを他の部材の異常判定と区別して判定できる。
より具体的に述べると、減量弁が“正常”である場合、上述したように、減量弁への指示の変化に伴って吐出量が増減されても(補正量がゼロと排出量との間で切り替えられても)、減量弁の開閉によってその増減が相殺されるため、燃圧は変化しない。よって、燃圧を制御するためのフィードバック量も変化しない。換言すると、減量弁の開閉は、フィードバック量に影響を及ぼさない。その結果、この場合、「減量弁への指示が開弁である期間中の前記フィードバック量」と、「減量弁への指示が閉弁である期間中の前記フィードバック量」と、は実質的に一致することになる(図3も参照。)。
これに対し、減量弁に“開固着異常”が生じている場合、減量弁に閉弁の指示(閉じる指示)が与えられても、減量弁が閉じないため、実際に排出される量(減量弁が開固着しているため所定の排出量)と、「補正量」(減量弁が閉じることを前提としたゼロ)と、が“一致しない”。そのため、閉弁の指示に伴って燃圧が低下すると共に、燃圧の低下を相殺するようにフィードバック量が増大する。その後、減量弁に開弁の指示(開く指示)が与えられると、実際に排出される量(排出量)と、「補正量」(減量弁が開くことを前提とした排出量)と、が“一致する”。そのため、増大していたフィードバック量が、元の量に戻る(減量弁が正常である場合の量まで減少する)。このように、この場合、減量弁の開閉がフィードバック量に影響を及ぼす。その結果、「減量弁への指示が開弁である期間中の前記フィードバック量」と、「減量弁への指示が閉弁である期間中の前記フィードバック量」と、が相違することになる(図3も参照。)。
また、減量弁に“閉固着異常”が生じている場合、減量弁に開弁の指示(開く指示)が与えられても、減量弁が開かないため、実際に排出される量(減量弁が閉固着しているためゼロ)と、「補正量」(減量弁が開くことを前提とした排出量)と、が“一致しない”。そのため、開弁の指示に伴って燃圧が上昇すると共に、燃圧の上昇を相殺するようにフィードバック量が減少する。その後、減量弁に閉弁の指示(閉じる指示)が与えられると、実際に排出される量(減量弁が閉固着しているためゼロ)と、「補正量」(減量弁が閉じることを前提としたゼロ)と、が“一致する”。そのため、減少していたフィードバック量が、元の量に戻る(減量弁が正常である場合の量まで増大する)。このように、この場合、減量弁の開閉がフィードバック量に影響を及ぼす。その結果、「減量弁への指示が開弁である期間中の前記フィードバック量」と、「減量弁への指示が閉弁である期間中の前記フィードバック量」と、が相違することになる(図3も参照。)。
このように、減量弁に“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、減量弁への指示が相違すると、フィードバック量も相違することになる。更に、上記説明から理解されるように、このフィードバック量の相違は、減量弁の異常に起因する。よって、上述した各フィードバック量の「差」に基づき、減量弁の異常判定を他の部材の異常判定と区別して行うことができる。これが、本発明における「第1異常判定」である。
但し、第1異常判定は、ポンプが“常に”制御部の指示に対応した量の燃料を吐出可能であること(逆に言えば、制御部が何らの制限なくポンプに吐出量を指示可能であること)を前提としている。しかし、一般に、燃料吐出用のポンプは、指示可能な最大吐出量(ポンプの構造およびポンプの制御機構などに起因する上限量)を有する。そのため、制御部がポンプに指示するべき吐出量(上記「合計」)がその最大吐出量よりも多くなる場合、制御部は実際の吐出量をその吐出量に一致させられず、第1異常判定が適切に行われない可能性がある。
そこで、本発明の第1異常判定は、「減量弁への指示が閉弁の場合における前記ポンプに指示される吐出量が閾値吐出量以上であるとの条件が成立していない場合」に限り、行われるようになっている。この理由は、以下の通りである。まず、上述したように、減量弁が正常であるか異常であるかにかかわらず、減量弁への指示が“閉弁”から“開弁”に変わると、吐出量に排出量が加算される(吐出量が増やされる)。そのため、第1異常判定を適切に行う観点からは、吐出量が増やされる“前”(減量弁への指示が“閉弁”のとき)の吐出量が、ポンプに指示可能な最大吐出量に比べて十分に少ない必要がある。そこで、第1異常判定は、「減量弁への指示が閉弁の場合における前記ポンプに指示される吐出量が閾値吐出量以上であるとの条件」が“成立していない”場合に行われる。なお、閾値吐出量は、ポンプに指示可能な最大吐出量よりも十分に少ない量であり、その具体例は後述される。
一方、「前記条件が成立している」場合、本発明の「第2異常判定」が行われる。第2異常判定は、上記「異常判定処理」に相当する判定手法であり、第1異常判定とは異なり、「燃圧」の推移に基づいて異常判定を行うようになっている。
具体的には、第2異常判定は、上記異常判定処理のうちの「前記補正量をゼロに維持しながら前記減量弁への指示を閉弁から開弁に変更する処理」を、主処理として行う。この主処理によれば、上述したように、燃圧の変動のみに基づく異常判定が可能である。換言すると、燃圧の変動に伴うフィードバック制御によって吐出量が変動する前に(即ち、噴射量を実質的に増大させることなく)、異常判定を完了し得る。そのため、第2異常判定は、上記条件が成立している場合(吐出量が閾値吐出量以上であり、減量弁を開弁すると共に吐出量を増量させる指示が困難である場合)であっても、減量弁の異常判定を行うことができる。
・態様2
上記「後処理」は、原理上、「減量弁への指示を前記主処理の前の指示に再変更」した時点以降に「前記積分項の値を前記処理前値に一致させる」ように行われればよい。即ち、前者(減量弁への指示の再変更)と後者(積分項の一致)とは同時に行われてもよく、前者が行われた後に後者が行われてもよい。
一方、ポンプの構成部材および燃料は慣性を有するため、後処理によって積分項が処理前値に一致されても(即ち、積分項が瞬時に変更されても)、実際の吐出量は瞬時には変化(増減)できず、実際の吐出量が積分項に対応した量に一致するまでには時間を要する。即ち、後処理の後に燃圧が目標圧に一致するためにはある程度の時間を要する。
そこで、出来る限り速やかに燃圧を目標圧に一致させるため、「減量弁への指示を前記主処理の前の指示に再変更」した後、所定時間が経過してから「前記積分項の値を前記処理前値に一致させる」ことが好ましい。この理由は、以下の通りである。例えば、減量弁が正常である場合、主処理において減量弁への指示が閉弁から開弁に変更されると、燃圧が目標圧よりも“低下”すると共に、フィードバック量(積分項の値)が“増大”する。そして、燃圧の低下に基づいて異常判定が完了した後、後処理によって減量弁への指示を主処理の前の指示(閉弁)に再変更すると、減量弁が閉じて燃圧が上昇する。このとき、目標圧よりも低下していた燃圧が、目標圧に向かって上昇する。更に、このとき、積分項が増大した状態に維持していれば(即ち、処理前値に一致させていなければ)、燃圧は、目標圧に向かって更に速やかに上昇する。そして、この相乗効果によって実際の燃圧と目標圧との差が十分に小さくなった後、「前記積分項の値を前記処理前値に一致させ」れば、燃圧を目標圧に速やかに一致させることができる。なお、本例とは逆に主処理において減量弁への指示が開弁から閉弁に変更される場合も、同様である。
そこで、一の態様として、
前記制御部は、
前記後処理にて、前記減量弁への指示を再変更する時点と、前記積分項の値を一致させる時点と、の間に所定の待ち時間を設ける、ように構成され得る。
上記「待ち時間」は、上述したように燃圧と目標圧との差を十分に小さくするために適した時間であればよく、事前の実験などによって定められ得る。
・態様3
上記「閾値吐出量」は、吐出量に排出量が加算されてもその吐出量がポンプの最大吐出量に到達しない量、に設定されればよい。具体的には、閾値吐出量は、ポンプの最大吐出量とその閾値吐出量との差が排出量よりも大きくなるように(即ち、最大吐出量から排出量を減じた量よりも閾値吐出量が少なくなるように)定められればよい。一方、閾値吐出量が小さい量に設定されるほど、異常判定処理(又は第2異常判定)が行われる頻度が高まることになる。しかし、上述したように、燃圧制御の観点からは、異常判定処理(又は第2異常判定)が行われる頻度は出来る限り低い(即ち、閾値吐出量が大きい)ことが好ましい。
そこで、一の態様として、
前記閾値吐出量は、前記ポンプに指示可能な最大吐出量よりも前記排出量だけ少ない量に設定され得る。
上記構成により、異常判定処理(又は第2異常判定)が燃圧制御へ及ぼす影響を出来る限り小さくしながら、減量弁の異常判定を行うことができる。
・態様4
上記「制御部」は、上述した従来の燃料システムと同様、ポンプに指示される吐出量が所定の下限量以下となる場合に減量弁に開弁を指示するように構成されてもよい。例えば、制御部は、噴射弁における要求量が下限量以下である場合に減量弁に開弁を指示し、同要求量が下限量よりも多い場合に減量弁に閉弁を指示する、ように構成され得る(図2も参照。)。即ち、制御部は、減量弁の異常判定とは異なる理由により(ポンプの適正作動を目的として)減量弁に開閉の指示を与えるように構成され得る。更に、制御部は、そのような開閉の指示に代えて、減量弁の異常判定を目的として減量弁に開閉の指示を与えてもよい。
換言すると、上記「第1異常判定」において、減量弁への指示が開弁または閉弁であるときの各フィードバック量は、減量弁の異常判定を目的として積極的に減量弁に開閉の指示を与えながら(即ち、アクティブに)取得してもよく、ポンプの適正作動を目的として自然に減量弁の開閉の指示が変化することを待って(即ち、パッシブに)取得してもよい。
例えば、前者(異常判定を目的とした開閉指示)の態様として、前記制御部は、
前記第1異常判定において、前記減量弁への指示を閉弁から開弁に変更したときの前記フィードバック量の変化量の絶対値、及び、前記減量弁への指示を開弁から閉弁に変更したときの前記フィードバック量の変化量の絶対値、の少なくとも一方が第1閾値以上である場合、前記減量弁が異常であると判定する、ように構成され得る。
上記「第1閾値」は、上記変化量の絶対値がその第1閾値以上である場合に減量弁が異常であると判定し得る適値であればよく、第1異常判定の原理上は排出量以下の値であればよい。例えば、第1閾値として、排出量そのもの、又は、排出量よりも所定量だけ少ない量、が採用され得る。
・態様5
上記異常判定処理(又は第2異常判定)は、減量弁が異常である場合には補正量をゼロに維持しながら減量弁への指示を変化させたときに燃圧が“変化しない”ことに着目している。しかし、たとえ減量弁が異常であっても、時々刻々と変化するフィードバック量等に起因し、燃圧が多少は変化する可能性がある。そこで、減量弁の異常判定をより精度よく行う観点から、異常判定処理(又は第2異常判定)は、燃圧の変化量が“減量弁が正常であると判定できる量”に達していなければ減量弁が“異常”である、と判定するように構成されてもよい。
具体的には、一の態様として、前記制御部は、
前記異常判定処理において、前記主処理を行ったときの前記燃圧の変化量の絶対値が第2閾値以上でない場合、前記減量弁が異常であると判定する、ように構成され得る。
上記「第2閾値」は、燃圧の変化量の絶対値がその第2閾値以上である場合に減量弁が正常であると判定し得る適値であればよい。なお、燃圧制御の観点から、異常判定処理(又は第2異常判定)において減量弁が異常であるか否かが判定された後、速やかに減量弁への指示を元に戻す(即ち、同指示を開弁から閉弁に変える)ことが好ましい。即ち、主処理を行って異常判定が完了した後、速やかに後処理が開始されることが好ましい。
<実施形態>
[装置の概要]
図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る異常判定装置(以下「実施装置」という。)の概略構成を説明する。
図1は、実施装置が適用される燃料システムを搭載した内燃機関EG(以下「機関EG」という。)の概略構成を示している。機関EGは、筒内噴射・火花点火式・4サイクルの内燃機関である。機関EGは、以下(1)〜(9)に示す構成を有している。
(1)燃料システム
燃料噴射弁11、デリバリパイプ12、フューエルポンプ13、燃料タンク14、減量弁15、及び、燃圧センサ16が、燃料システムに含まれる。
(2)シリンダブロック部
気筒21、ピストン22、コンロッド23、クランクシャフト24、及び、燃焼室25が、シリンダブロック部に含まれる。
(3)シリンダヘッド部
吸気ポート31、吸気弁32、インテークカムシャフト33、排気ポート34、排気弁35、エキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、及び、イグナイタ38が、シリンダヘッド部に含まれる。
(4)吸気系統
インテークマニホールド41、吸気管42、エアクリーナ43、スロットル弁44、及び、スロットル弁アクチュエータ44aが、吸気系統に含まれる。
(5)排気系統
エキゾーストマニホールド51、排気管52、及び、排ガス浄化用触媒53が、排気系統に含まれる。
(6)アクセルペダル61
(7)イグニッション・キー・スイッチ62
(8)各種センサ
クランクポジションセンサ71、エアフロメータ72、空燃比センサ73,74、吸気温度センサ75、及び、水温センサ76が、各種センサに含まれる。
(9)電子制御装置81
燃料システムに含まれる減量弁15は、フューエルポンプ13から吐出された燃料の全部を燃料噴射弁11に供給すること、及び、同燃料の一部を燃料噴射弁11に供給すること、を切り替え可能な開閉弁である。具体的には、減量弁15は、フューエルポンプ13と燃料噴射弁11(厳密にはデリバリパイプ12)とを繋ぐ燃料供給経路上に設けられており、電子制御装置81の指示信号(開弁の指示または閉弁の指示)に基づいて開閉するようになっている。減量弁15は、開弁しているとき、フューエルポンプ13から吐出された燃料の一部を燃料供給経路から排出させて燃料タンク14に戻すようになっている。即ち、このとき、フューエルポンプ13から吐出された燃料の“一部”(燃料タンク14に戻される燃料以外の燃料)が燃料噴射弁11に供給されることになる。一方、減量弁15は、閉弁しているとき、同排出を行わないようになっている。即ち、このとき、フューエルポンプ13から吐出された燃料の“全部”が燃料噴射弁11に供給されることになる。
フューエルポンプ13は、燃料タンク14から供給された燃料を昇圧すると共に、電子制御装置81の指示信号に対応した量の燃料を吐出するように構成されている。具体的には、電子制御装置81は、下記(A)、(B)及び(C)を合計した量をフューエルポンプ13の吐出量Foutとして算出し、吐出量Foutの燃料を吐出するようにフューエルポンプ13に指示を与えるようになっている(図6の燃圧制御ルーチンも参照。)。以下、フューエルポンプ13に指示される吐出量Foutは、単に「吐出量Fout」とも称呼される。
(A)燃料噴射弁11において要求される要求量Finj
(B)燃圧を制御するためのフィードバック制御におけるフィードバック量Ffb(比例項FBpおよび積分項FBiを含む。詳細は後述される。)
(C)減量弁15への指示が開弁である場合には減量弁15を介して排出される排出量Fdに設定され且つ減量弁15への指示が閉弁である場合にはゼロに設定される補正量Fvopen
なお、フューエルポンプ13は、PWM方式にて制御されている。具体的には、電子制御装置81は、上述したように吐出量Foutを定めた後、その吐出量Foutに対応するようにフューエルポンプ13への入力電圧のデューティ比を定め、そのデューティ比をフューエルポンプ13を作動させるコントローラ(いわゆるFPC。Fuel Pump Controller。図示省略)に指示信号として送信するようになっている。即ち、本例における吐出量Foutは、実質的に上記デューティ比を表す。
図2は、フューエルポンプ13の作動線図(要求量Finj、フィードバック量Ffb、補正量Fvopen(ゼロ又は排出量Fd)、及び、吐出量Foutの関係)である。電子制御装置81は、横軸(Finj+Ffb)の値に基づき、縦軸(Fout)の値の燃料を吐出するようにフューエルポンプ13に指示を与えるようになっている。図2の縦軸(Fout)に示すように、フューエルポンプ13は、その構造および制御機構等に起因する、電子制御装置81が指示可能な吐出量Foutの最大量(最大吐出量)Fmaxを有する。なお、PWM方式の制御において、最大吐出量Fmaxを指示することは、フューエルポンプ13への入力電圧のデューティ比を“1”にすること(即ち、実質的にPWM制御を行っていないこと)に相当する。
更に、縦軸(Fout)に示すように、フューエルポンプ13は、吐出量Foutが所定の最小量(最小吐出量)Fminよりも少ない領域においては使用されないようになっている。具体的には、横軸(Finj+Ffb)の量と最小吐出量Fminとが比較され、横軸(Finj+Ffb)の量が最小吐出量Fmin以下である場合)、横軸の量に排出量Fdを加算した量が、吐出量Foutとして用いられる。例えば、横軸の量がFminのときに吐出量はFmin+Fdであり、横軸の量がゼロのときに吐出量はFminである。
但し、このように排出量Fdが加算される場合、減量弁15に“開弁”が指示される。そのため、減量弁15が正常であれば、吐出量Fout(=Finj+Ffb+Fd)から排出量Fdを減じた量(=Finj+Ffb)の燃料が燃料噴射弁11に供給される。よって、この場合、排出量Fdが吐出量Foutに加算されていても、最終的に燃料噴射弁11に供給される燃料の量は、横軸の量Finj+Ffbのままである。一方、横軸の量Finj+Ffbが最小吐出量Fminよりも多い場合、減量弁15に“閉弁”が指示される。そのため、減量弁15が正常であれば、吐出量Foutの(=Finj+Ffb)燃料がそのまま燃料噴射弁11に供給される。よって、この場合も、吐出量Fout(=Finj+Ffb)の燃料が燃料噴射弁11に供給されることになる。このように、減量弁が正常であれば、横軸の量Finj+Ffbにかかわらず(減量弁15への開閉指示にかかわらず)、横軸の量Finj+Ffbの燃料が燃料噴射弁11に供給される。
最小吐出量Fminは、フューエルポンプ13に指示される吐出量と、実際の吐出量と、の間の比例関係(リニアリティ)が維持され得る最小の吐出量であり、事前の実験等によって予め定められている。本例においては、最小吐出量Fminと排出量Fdとが一致するように、燃料システムが設計されている。
更に、縦軸(Fout)に示すように、フューエルポンプ13に支持可能な最大吐出量Fmaxよりも排出量Fdだけ少ない量が、閾値吐出量Foutthとして図示されている。閾値吐出量Foutthは、後述される異常判定において用いられる量である。閾値吐出量Foutthの詳細は、後述される。
なお、上記説明においては、フューエルポンプ13の最小吐出量Fminと、パラメータFinj+Ffb(図2の横軸に相当)と、を比較し、減量弁15への指示(開弁または閉弁の指示)を切り替えている。しかし、減量弁15の開閉のために最小吐出量Fminと比較するパラメータとして、Finj+Ffb(要求量とフィードバック量との和)に代えて、Finj(要求量のみ)が用いられてもよい。要求量Finjのみを用いる場合、フィードバック量Ffbを考慮することなく減量弁15の開閉処理等を実行できるため、燃料システムの制御を単純化できる。
但し、上記の場合、フィードバック量Ffbの大きさによっては、要求量Finjと、要求量とフィードバック量との和Finj+Ffbと、が大きく相違し、減量弁15を適切なタイミングにて開閉できないとも考えられる。しかし、フィードバック量Ffbは、通常、燃料システムの経年劣化等に起因して徐々に増大する(例えば、PID制御における積分項が大きくなる)傾向がある。そのため、減量弁15を開く必要がないにもかかわらず開弁の指示がなされる場合(Finj+Ffb>Fminであるにもかかわらず、Finj<Fminである場合)は生じ得るものの、その逆の場合(減量弁15を開く必要があるときに閉弁の指示がなされる場合)は通常は生じない。よって、上記パラメータとして要求量Finjのみが用いられても、通常、吐出量Foutが最小吐出量Fminよりも少ない領域にてフューエルポンプ13が使用されることはない。即ち、図2の作動線図に矛盾が生じることはない。
再び図1を参照すると、上述した作動線図に従ってフューエルポンプ13から吐出された燃料は、燃料供給経路を介してデリバリパイプ12に注入される。そして、燃料噴射弁11は、電子制御装置81の指示に従い、気筒21の内部に燃料を噴射するようになっている。なお、デリバリパイプ12に注入された燃料の圧力(燃圧)が、燃圧センサ16によって計測される。
電子制御装置81は、CPU、ROM及びRAM等を含む周知のマイクロコンピュータを主体とした電子回路である。電気制御装置のCPU(以下、単に「CPU」という。)は、燃料噴射弁11、フューエルポンプ13及び減量弁15等に指示信号を送信すると共に、上記各センサから出力される信号を受信するように構成されている。
以上が、実施装置が適用される燃料システム、及び、同燃料システムを搭載した機関EGの概要である。
[減量弁の異常判定]
図3及び図4を参照しながら、実施装置における減量弁15の異常判定の手法を「第1異常判定」及び「第2異常判定」の順に説明する。図3及び図4は、減量弁15の状態(正常、開固着異常、閉固着異常)と、燃料システムにおける各種パラメータと、の関係の一例を表すタイムチャートである。図3及び図4において、“実線”は減量弁15が正常である場合の同パラメータの推移を表し、“破線”は減量弁15に開固着異常が生じている場合の同パラメータの推移を表し、“一点鎖線”は減量弁15に閉固着異常が生じている場合の同パラメータの推移を表す。
但し、説明の便宜上、図3及び図4のタイムチャートにおいては、要求量Finjは一定値Aに維持されながら、減量弁15に開閉が指示されている。即ち、これらタイムチャートにおいては、要求量Finjの大小とは関わりなく(即ち、減量弁15の異常判定を目的として)減量弁15に開閉が指示されている。
・第1異常判定(図3)
図3に示す例においては、時刻t0にて減量弁15に「開弁」が指示されており、時刻t0から所定時間が経過した時刻t1にて減量弁15に「閉弁」が指示される。このとき、減量弁15が“正常”である場合、時刻t1にて、減量弁15の開閉状態が開弁から閉弁に変化する。しかし、“開固着異常”が生じている場合、減量弁15の開閉状態は変わらず、減量弁15は開弁したままとなる。同様に、“閉固着異常”が生じている場合、減量弁15は閉弁したままとなる。
更に、時刻t1にて、閉弁の指示と共に、補正量Fvopenが排出量Fdからゼロに減少する。減量弁15が“正常”である場合、補正量Fvopenの減少と共に減量弁15が閉弁するため、時刻t1の前後において、燃圧FPは目標圧FPtgtに維持される。しかし、“開固着異常”が生じている場合、減量弁15が開弁したまま(即ち、減量弁15の開閉状態が変わらないまま)補正量Fvopenが減少することになるため、燃料噴射弁11に供給される燃料が不足し、燃圧FPが目標圧FPtgtから乖離するように低下する。同様に、“閉固着異常”が生じている場合、減量弁15の開閉状態が変わらないまま補正量Fvopenがゼロに減量されるため、燃圧FPが低下する。なお、上述した燃料の不足量は、排出量Fdに等しい。
そのため、減量弁15が“正常”である場合、時刻t1の前後において、フィードバック量Ffbは値Bに維持される。しかし、“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、低下した燃圧FPを再び目標圧FPtgtに一致させるために(換言すると、燃料の不足分(=Fd)を補うために)、フィードバック量Ffbが増大する。この場合における増大量はFdである。その結果、燃圧FPは、目標圧FPtgtに戻る。但し、フィードバック制御にはある程度の応答時間が必要であるため、時刻t1から所定時間が経過した後、燃圧FPが目標圧FPtgtに一致することになる。
要求量Finj、フィードバック量Ffb及び補正量Fvopenが上述したように推移するため、減量弁15が“正常”である場合、時刻t1にて指示される吐出量Foutは減少する。このときの減少量は、排出量Fdに等しい。一方、“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、吐出量Foutは一旦減少した後に元の量に戻る。
時刻t1から所定時間が経過した時刻t2においては、フィードバック量Ffbが既に収束しているため、燃圧FP及び吐出量Foutは安定している。時刻t2において、“開固着異常”が生じている場合のフィードバック量は、正常時のフィードバック量Bよりも排出量Fdの分だけ大きい値となる。一方、“閉固着異常”が生じている場合のフィードバック量は、正常時のフィードバック量Bと実質的に同一である。
なお、上記同様の理由(各パラメータが推移する理由)により、減量弁15に開弁が指示されている時刻t0において、“開固着異常”が生じている場合のフィードバック量は正常時のフィードバック量Bと実質的に同一であり、“閉固着異常”が生じている場合のフィードバック量は正常時のフィードバック量Bよりも排出量Fdの分だけ小さい値となる。
時刻t2から所定時間が経過すると、時刻t3にて、減量弁15に「開弁」が指示される。このとき、各パラメータの推移は、時刻t1において減量弁15に「閉弁」が指示された場合の推移と、正負が逆である点を除いて同一である。即ち、時刻t1において増大したパラメータは時刻t3において減少し、時刻t1において減少したパラメータは時刻t3において増大する。よって、時刻t3にて、減量弁15が“正常”である場合、時刻t3の前後において、フィードバック量Ffbは値Bに維持される。しかし、“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、フィードバック量Ffbが排出量Fdに相当する量だけ減少する。
このように、減量弁15に“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、減量弁15への指示が変化すると、フィードバック量Ffbが変化することになる。即ち、減量弁15への指示が開弁である期間中のフィードバック量と、同指示が閉弁である期間中のフィードバック量と、は異なることになる。そこで、前者のフィードバック量と、後者のフィードバック量と、の差に基づき、減量弁15が異常であるか否かを判定できる。この判定手法が「第1異常判定」と称呼される。
但し、図3に示すように、減量弁15が正常であるか異常であるかにかかわらず、時刻t3にて減量弁への指示が閉弁から開弁に変化すると、吐出量Foutが増大する。具体的には、減量弁15が“正常”である場合には吐出量Foutが排出量Fd分だけ増大し、減量弁15が“異常”である場合であっても一時的に(フィードバック制御の応答時間が経過するまでの間)吐出量Foutが増大する。ここで、増大時に算出された吐出量Foutが最大吐出量Fmaxよりも多い場合(例えば、デューティ比が1を超える場合)、実際の吐出量をその吐出量Foutに一致させられないことになる。この場合、フィードバック量Ffbの変動が小さくなり、第1異常判定の精度が低下する可能性がある。よって、第1異常判定を精度良く行う観点からは、このように増大した吐出量Foutが最大吐出量Fmaxよりも小さいことが望ましい。そこで、第1異常判定は、「減量弁15への指示が閉弁の場合における吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上である」との条件が成立していない場合に行われる。なお、本例における閾値吐出量Foutthは、図2に示すように、最大吐出量Fmaxよりも排出量Fdだけ少ない量である。
・第2異常判定(図4)
一方、上記条件(減量弁15への指示が閉弁の場合における吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上である)が成立する場合、第2異常判定を行うことにより、吐出量Foutが最大吐出量Fmaxに到達することを防ぎつつ、異常判定を行うことができる。
図4に示す例においては、時刻t0にて減量弁15に「閉弁」が指示されている。そして、時刻t0から所定時間が経過した時刻t1にて、フィードバック量Ffbの積分項FBiの値CがRAMに記憶される(保持される)。これは「前処理」と称呼される。
前処理にて積分項FBiの値C(処理前値)が記憶(保持)された後、その時刻t1にて、減量弁15に「開弁」が指示される。但し、図3に示した例と異なり、時刻t1にて減量弁15に開弁が指示されても、補正量Fvopenはゼロに維持される。これは「主処理」と称呼される。
減量弁15が“正常”であれば、減量弁15が開弁するものの補正量Fvopenがゼロのままであるため、主処理により、時刻t1にて燃圧FPが目標圧FPtgtから離れるように低下し始める。しかし、“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、減量弁15の開閉状態が変わらないため、燃圧FPは目標圧FPtgtに維持される。
このように、減量弁15に“開固着異常”又は“閉固着異常”が生じている場合、補正量Fvopenがゼロに維持されたまま減量弁15への指示が閉弁から開弁に変化すると、燃圧FPが変化しないことになる。即ち、減量弁15が正常である場合における燃圧FPの推移と、減量弁15が異常である場合における燃圧FPの推移と、が異なることになる。そこで、燃圧FPの推移に基づき、減量弁15が異常であるか否かを判定できる。
燃圧FPの推移に基づいて減量弁15が異常であるか否かが判定された後(例えば、燃圧FPが図4に示すように低下することにより、減量弁15が正常であると判定された後)、時刻t1から所定時間が経過した時刻t2にて、減量弁15に「閉弁」が指示される。この時刻t2において、積分項FBiの値は値Cよりも大きい値に維持されている。そして、時刻t2から所定の待ち時間twが経過した時刻t3にて、積分項FBiの値が、RAMに記憶された値C(処理前値)に一致させられる(置き換えられる)。この一連の処理は「後処理」と称呼される。
時刻t1から時刻t3までの期間における各パラメータの推移について述べると、時刻t1にて燃圧FPが低下すると、フィードバック量の比例項FBpが、目標圧FPtgtに対する燃圧FPの偏差ΔFPに対応して増大する。更に、積分項FBiが、偏差ΔFPの積算値に対応して増大する。そして、比例項FBp及び積分項FBiの合計(フィードバック量Ffb)の増大に伴い、吐出量Foutが増大する。その結果、燃圧FPが上昇する。
そして、燃圧FPが未だ目標圧FPtgtよりも低い値である時刻t2において、減量弁15への指示が開弁から閉弁に変更される。このとき、減量弁15が閉じることにより、燃圧FPが上昇する。更に、このとき、積分項FBi及び比例項FBpが未だ正の値であるため、燃圧FPが更に上昇する。この相乗効果により、時刻t2以降において、燃圧FPは、速やかに目標圧FPtgtに近づく。そして、燃圧FPが目標圧FPtgtに十分に近づいた時刻t3にて、積分項FBiの値が値C(処理前値)に一致させられる。これにより、燃圧FPを滞り無く速やかに目標圧FPtgtに一致させることができる。これら一連の判定手法が「第2異常判定」と称呼される。
[装置の作動]
図5〜図8を参照しながら、実施装置の実際の作動を説明する。実施装置において、CPUは、図5に示す「燃圧制御」ルーチンを実行し、フューエルポンプ13に指示する吐出量Foutを調整することにより、燃圧FPを制御する。更に、CPUは、図6〜図8に示す「減量弁の異常判定」ルーチンを実行し、減量弁15が異常であるか否か(開固着異常または閉固着異常が生じているか否か)を判定する。
なお、以下の説明における時刻t0,t1,t2,t3は、図3及び図4における時刻t0,t1,t2,t3にそれぞれ対応している。
まず、CPUは、所定時間が経過する毎に図5のルーチンを実行する。本ルーチンの処理を開始すると、CPUは、ステップ500からステップ505に進み、現時点における要求量Finj(t)を決定する。例えば、現時点を時刻t0とすると、要求量Finj(t0)は、機関EGの運転状態等に基づいて同要求量を決定するための他のルーチン(図示省略)に基づき、決定されるようになっている。
次いで、CPUは、ステップ510に進み、現時点において減量弁15の異常判定(第1異常判定または第2異常判定)が実行中ではないか否かを判定する。具体的には、CPUは、後述される図7又は図8のルーチンを実行中でなければ、現時点にて異常判定が実行されていない(即ち「Yes」)と判定する。一方、CPUは、同ルーチンを実行中であれば、現時点にて異常判定を実行している(即ち「No」)と判定する。
現時点にて異常判定が実行されていない場合、CPUは、「Yes」と判定し、ステップ515に進む。ステップ515にて、CPUは、減量弁15への指示を決定するために「要求量Finj(t0)が最小吐出量Fmin以下であるか否か」を判定する。即ち、本例においては、減量弁15の開閉のために最小吐出量Fminと比較するパラメータとして、Finj(要求量のみ)が用いられている。最小吐出量Fminは、事前の実験等によって予め定められ、ROMに記憶されている。
例えば、現時点(時刻t0)における要求量Finj(t0)が最小吐出量Fmin以下である場合、CPUは、ステップ515にて「Yes」と判定し、ステップ520に進む。CPUは、ステップ520にて、補正量Fvopenの値に、排出量Fdを格納する。排出量Fdは、事前の実験等によって予め定められ、ROMに記憶されている。本例における排出量Fdは固定値であるが、排出量Fdとして減量弁15の経年劣化等を考慮した可変値が用いられてもよい。次いで、CPUは、ステップ525に進み、減量弁15を開弁する指示を、減量弁15を開閉するアクチュエータ(図示省略)に送信する。
これに対し、現時点(時刻t0)における要求量Finj(t0)が最小吐出量Fminよりも多い場合、CPUは、ステップ515にて「No」と判定し、ステップ530に進む。CPUは、ステップ530にて、補正量Fvopenの値にゼロを格納する。次いで、CPUは、ステップ535に進み、減量弁15を閉弁する指示を、減量弁15を開閉するアクチュエータ(図示省略)に送信する。
このように、現時点(時刻t0)における要求量Finj(t0)が最小吐出量Fmin以下である場合、減量弁15に開弁が指示されると共に、補正量Fvopenの値が排出量Fdに設定される。一方、同要求量Finj(t0)が最小吐出量Fminよりも多い場合、減量弁15に閉弁が指示されると共に、補正量Fvopenの値がゼロに設定される。
CPUは、上述した各処理の後、ステップ540〜ステップ560の一連の処理を実行することにより、現時点における燃圧制御用のフィードバック量Ffb(t0)を決定する。フィードバック量Ffb(t0)は、現時点における燃圧FP(t0)を目標圧FPtgt(t0)に一致させるための比例・積分制御(PI制御)に基づき、決定される。
具体的には、CPUは、ステップ540にて、現時点における燃圧の目標圧FPtgtを設定する。目標圧FPtgt(t0)は、機関EGの運転状態等に基づいて目標圧FPtgtを決定するためのマップ(図示省略)に基づき、決定される。
次いで、CPUは、ステップ545に進む。CPUは、ステップ545にて、燃圧センサ16の出力値に基づいて燃圧FP(t0)を取得すると共に、目標圧FPtgt(t0)に対する燃圧FP(t0)の偏差ΔFP(t0)を算出する。
次いで、CPUは、ステップ550に進む。CPUは、ステップ550にて、偏差ΔFP(t0)に所定のゲインKpを乗算することにより、フィードバック量の比例項FBp(t0)を算出する。なお、ゲインKpは、事前の実験等によって予め定められた適値であり、ROMに格納されている。
次いで、CPUは、ステップ555に進む。CPUは、ステップ555にて、偏差ΔFP(t)を時間積分した値(積分開始時点τ=0から現時点τ=tまでの積分値)に所定のゲインKiを乗算することにより、フィードバック量の積分項FBi(t0)を算出する。なお、積分開始時点(τ=0の時点)は、燃料システムの初回起動時である。ゲインKiは、事前の実験等によって予め定められた適値であり、ROMに格納されている。
そして、CPUは、ステップ560に進む。CPUは、ステップ560にて、比例項FBp(t0)と積分項FBi(t0)との和に所定の係数Kfbを乗算することにより、フィードバック量Ffb(t0)を算出する。係数Kfbは、“燃圧”の値として算出される比例項FBp(t0)及び積分項FBi(t0)をフューエルポンプ13に指示する“吐出量”に変換するための係数である。係数Kfbは、事前の実験等によって予め定められ、ROMに格納されている。
ステップ560における処理の後、CPUは、ステップ565に進み、下式(1)に従って吐出量Fout(t0)を算出する。下式(1)に示すように、吐出量Fout(t)は、要求量Finj(t)と、フィードバック量Ffb(t)と、補正量Fvopenと、の合計量である。
Fout(t)=Finj(t)+Ffb(t)+Fvopen …(1)
次いで、CPUは、ステップ570に進み、吐出量Fout(t0)の燃料を吐出するよう、フューエルポンプ13に指示を与える。具体的には、CPUは、「吐出量Fout(t0)に対応したフューエルポンプ13の入力電圧のデューティ比」をROMに格納されたマップ等を参照して特定し、このデューティ比をフューエルポンプ13を動作させるコントローラ(FPC)に指示信号として送信する。
その後、CPUは、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これに対し、ステップ510にて、現時点にて異常判定が実行されている場合、CPUは、「No」と判定してステップ540に直接進む。そのため、この場合、要求量Finjと最小吐出量Fminとの比較に基づく減量弁15の開閉の切り替え(ステップ525又はステップ535)は行われない。この切り替えに代えて、この場合、各異常判定手法に準じて減量弁15の開閉の切り替えが行われる(詳細は後述される。)。よって、この場合、補正量Fvopenの値は、各異常判定手法に準じた値に設定される。
その後、CPUは、上記同様、ステップ540〜ステップ570の処理を実行し、吐出量Fout(t0)の燃料を吐出するよう、フューエルポンプ13に指示を与える。その後、CPUは、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPUは、所定時間が経過する毎に、図6に示す「減量弁の異常判定」ルーチンを実行する。本ルーチンの処理を開始すると、CPUは、ステップ600からステップ610に進み、減量弁15の異常判定を行うための「判定実行条件」が現時点(時刻t0)において成立しているか否かを判定する。具体的には、CPUは、下記条件1〜3の全てが成立した場合に判定実行条件が成立すると判定し、下記条件1〜3の何れか1つが成立しない場合に判定実行条件が成立しないと判定する。
(条件1)
前回の異常判定の実施から所定時間が経過していること。例えば、前回の異常判定が完了した後に減量弁15が開閉した回数の積算値が、所定の閾値以上であること。
(条件2)
機関EGが定常運転中であること。例えば、機関EGの回転数の変化率が所定の閾値以下であり、機関EGの吸入空気量の変化率が所定の閾値以下であり、機関EGの空燃比制御に関する補正量の変化率が所定の閾値以下であること。
(条件3)
燃料噴射弁11、燃圧センサ16及び各種センサ71〜74が正常であること。
条件1は、異常判定が行われる頻度が過度に高くなることを防ぐための条件である。条件2は、機関EGの空燃比制御に起因する要求量Finj及び目標圧FPtgtの変動が出来る限り小さい場合に異常判定を行うための条件である。なお、機関EGの回転数はクランクポジションセンサ71の出力値に基づいて算出され、機関EGの吸入空気量はエアフロメータ72の出力値に基づいて算出され、機関EGの空燃比制御に関する補正量は空燃比センサ73,74の出力値に基づいて算出される。条件3は、異常判定の結果が正しいことを担保するための条件である。なお、燃料噴射弁11、燃圧センサ16及び各種センサ71〜74が正常であるか否かの判定は、同判定を周知の手法に従って行う他のルーチン(図示省略)に基づいて行われる。条件1〜3における各閾値は、事前の実験等によって予め定められ、ROMに格納されている。
現時点において判定実行条件が成立しない場合、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、この場合、減量弁15の異常判定は行われない。
これに対し、現時点において判定実行条件が成立する場合、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ620に進む。CPUは、ステップ620にて、減量弁15への指示が閉弁の場合において指示される吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上であるか否か、を判定する。具体的には、CPUは、現時点(時刻t0)における減量弁15への指示が閉弁であれば、現時点における吐出量Fout(t0)が閾値吐出量Foutth以上であるか否かを判定する。一方、現時点における減量弁15への指示が開弁であれば、CPUは、減量弁15への指示が閉弁となるまで待機し、減量弁15への指示が閉弁になった時点にて吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上であるか否かを判定する。閾値吐出量Foutthは、フューエルポンプ13に指示可能な最大吐出量Fmaxよりも排出量Fdだけ少ない値として設定され(図2参照)、ROMに格納されている。
減量弁15への指示が閉弁の場合に指示される吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上ではない場合、CPUは、ステップ620にて「No」と判定し、ステップ630に進む。CPUは、ステップ630にて、図7に示す「第1異常判定」ルーチンを実行することにより、減量弁15が異常であるか否かを判定する(詳細は図7を参照しながら後述される。)。一方、減量弁15への指示が閉弁の場合の吐出量Foutが閾値吐出量Foutth以上である場合、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定し、ステップ640に進む。CPUは、ステップ640にて、図8に示す「第2異常判定」ルーチンを実行することにより、減量弁15が異常であるか否かを判定する(詳細は図8を参照しながら後述される。)。
例えば、「第1異常判定」を実行する場合、CPUは、図7のステップ700から処理を開始し、ステップ710に進む。CPUは、ステップ710及びステップ720の処理を実行することにより、減量弁15への開閉指示が現時点の状態(本例では開弁の指示)にある場合におけるフィードバック量Ffb1を取得する。CPUは、取得したフィードバック量Ffb1をRAMに記憶する。
具体的には、CPUは、現時点(時刻τ=t0)からなまし時間taが経過する時点(t=t0+ta)までの期間において、フィードバック量Ffb(τ)を下式(2)に順次適用し、なまし値Ffb1(τ)を算出する。なお、下式(2)において、値Nは下式による演算の実行回数(初期値は1)であり、なまし値Ffb1(τ)の初期値はゼロである。
Ffb1(τ)=Ffb1(τ−1)+(Ffb1(τ)−Ffb1(τ−1))/N
…(2)
CPUは、ステップ710の処理を行う毎にステップ720に進み、時刻t0からなまし時間taが経過したか否か(即ち、現時点が時刻t0+taか否か)を判定する。現時点において未だなまし時間taが経過していない場合、CPUは、ステップ720にて「No」と判定し、再びステップ710に戻って同ステップの処理を繰り返す。なお、この間、図5のステップ510及びステップ540〜ステップ570の処理が繰り返し実行される。
そして、なまし時間taが経過すると、CPUは、ステップ720にて「Yes」と判定し、ステップ730に進む。CPUは、ステップ730にて、減量弁15への開閉指示を変更する。具体的には、現時点(時刻t0+ta)における減量弁15への指示が開弁であれば、CPUは、減量弁15に閉弁を指示する。逆に、現時点における減量弁15への指示が閉弁であれば、CPUは、減量弁15に開弁を指示する。更に、この指示と共に、CPUは、減量弁15への指示に合わせて補正量Fvopenを切り替える。具体的には、減量弁15に開弁を指示する場合には補正量Fvopenを排出量Fdに設定し、減量弁15に閉弁を指示する場合には補正量Fvopenをゼロに設定する(図5も参照。)。
なお、本例においては、CPUは、ステップ720にて「Yes」と判定した時点(時刻t0+ta)から所定時間が経過した後の時点(時刻t1)において、ステップ730の処理を実行し、減量弁15への指示を開弁から閉弁に変更する。
次いで、CPUは、ステップ740に進む。CPUは、上記同様、ステップ740及びステップ750の処理を実行することにより、減量弁15への開閉指示が現時点の状態(本例では閉弁の指示)にある場合におけるフィードバック量Ffb2を取得する。CPUは、取得したフィードバック量Ffb2をRAMに記憶する。
具体的には、CPUは、減量弁15への指示を変更した後にフィードバック量が安定した時点(時刻τ=t2)からなまし時間taが経過する時点(t=t2+ta)までの期間において、フィードバック量Ffb(τ)を下式(3)に順次適用し、なまし値Ffb2(τ)を算出する。なお、下式(3)において、値Nは下式による演算の実行回数(初期値は1)であり、なまし値Ffb2(τ)の初期値はゼロである。
Ffb2(τ)=Ffb2(τ−1)+(Ffb(τ)−Ffb2(τ−1))/N
…(3)
CPUは、ステップ740の処理を行う毎にステップ750に進み、時刻t2からなまし時間taが経過したか否か(即ち、現時点が時刻t2+taか否か)を判定する。現時点において未だなまし時間taが経過していない場合、CPUは、ステップ750にて「No」と判定し、再びステップ740に戻って同ステップの処理を繰り返す。なお、上記同様、この間、図5のステップ510及びステップ540〜ステップ570の処理が繰り返し実行される。
そして、なまし時間taが経過すると、CPUは、ステップ750にて「Yes」と判定し、ステップ760に進む。CPUは、ステップ760にて、減量弁15への開閉指示を変更する前のフィードバック量Ffb1と、同指示を変更した後のフィードバック量Ffb2と、の差の絶対値|Ffb1−Ffb2|が、所定の第1閾値Thr1以上であるか否かを判定する。第1閾値Thr1は、上記絶対値がその第1閾値Thr1以上である場合に減量弁15が異常であると判断できる値である。第1閾値Thr1は、事前の実験等によって予め定められ、ROMに記憶されている。
上記絶対値が第1閾値Thr1以上である場合、CPUは、ステップ760にて「Yes」と判定してステップ770に進み、「減量弁15に異常が生じている」と判定する。一方、上記絶対値が第1閾値Thr1よりも小さい場合、CPUは、ステップ760にて「No」と判定してステップ780に進み、「減量弁15に異常は無い」と判定する。その後、CPUは、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
CPUは、図7のルーチンを終了すると、図6のステップ630に戻る。そして、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、「第2異常判定」を実行する場合、CPUは、図8のステップ800から処理を開始し、ステップ805に進む。CPUは、ステップ805にて、現時点(例えば、時刻t0から所定時間が経過した後の時刻t1)における積分項FBi(t)を、記憶値FBstrとしてRAMに記憶する(即ち、前処理を行う。)。
次いで、CPUは、ステップ810に進み、現時点(t1)における燃圧FP(t1)をRAMに記憶する。この燃圧FP(t)が上述した処理前値に相当する。
次いで、CPUは、ステップ815に進む。なお、現時点における減量弁15への指示は、図6のステップ620にて「Yes」と判定されたように、閉弁である。CPUは、ステップ815にて、補正量Fvopenをゼロに維持しながら減量弁15に開弁を指示する。そして、CPUは、ステップ820に進む。CPUは、ステップ820にて、減量弁15に開弁を指示した時点から所定時間tbが経過した後の燃圧FP(t1+tb)を取得する。CPUは、取得した燃圧FP(t1+tb)をRAMに記憶する。所定時間tbは、異常判定が可能な程度に燃圧FPが低下するために要する時間である。所定時間tbは、事前の実験等によって予め定められ、ROMに記憶されている。
次いで、CPUは、ステップ825に進む。CPUは、ステップ825にて、減量弁15に開弁を指示する前の燃圧FP(t1)と、減量弁15に開弁を指示した後の燃圧FP(t1+tb)と、の差の絶対値が所定の第2閾値Thr2以上であるか否かを判定する。第2閾値Thr2は、上記絶対値が第2閾値Thr2以上である場合に減量弁15が正常であると判断できる値である。第2閾値Thr2は、事前の実験等によって予め定められ、ROMに記憶されている。
上記絶対値が第2閾値Thr2以上である場合、CPUは、ステップ825にて「Yes」と判定してステップ830に進み、「減量弁15に異常は無い」と判定する。その後、CPUは、ステップ835に進み、時刻t1+tbから所定時間が経過した時刻t2にて、減量弁15に閉弁を指示する。
次いで、CPUは、ステップ840に進む。CPUは、ステップ840にて、減量弁15に閉弁が指示されてから待ち時間twが経過したか否かを判定する。現時点において未だ待ち時間twが経過していない場合、CPUは、ステップ840にて「No」と判定し、再びステップ840に戻って同ステップの処理を繰り返す。
そして、待ち時間twが経過すると、CPUは、ステップ840にて「Yes」と判定し、ステップ845に進む。CPUは、ステップ845にて、現時点(t3)の積分項FBi(t3)に記憶値FBstrを格納する。即ち、積分項FBiの値が記憶値FBstrに一致させられる。その後、CPUは、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、ステップ825にて、上記絶対値が第2閾値Thr2以上でない場合、CPUは、「No」と判定してステップ850に進み、「減量弁15に異常が生じている」と判定する。その後、CPUは、ステップ835に進んで減量弁15に閉弁を指示し、ステップ840及びステップ845の処理を行った後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
CPUは、図8のルーチンを終了すると、図6のステップ640に戻る。そして、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上に説明したように、実施装置は、減量弁15が異常であるか否かを、他の部材の異常判定と区別して判定できる。更に、実施装置は、フューエルポンプ13の吐出量Foutに対応した適切な手法(第1異常判定および第2異常判定)によって減量弁15の異常判定を実行することにより、燃圧制御への影響を出来る限り小さくしながら、減量弁15の異常判定を実行できる。
<その他の態様>
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。
例えば、実施装置は、燃圧を制御するためのフィードバック制御として、比例・積分制御(PI制御)を用いている(図5のステップ540〜ステップ560)。しかし、本発明の異常判定装置は、比例・積分制御に代えて、比例・積分・微分制御(PID制御)を採用してもよい。
更に、実施装置は、第2異常判定の前処理の際に積分項FBiをRAMに記憶することにより、同積分項FBiの値を処理前値として“保持”している(図8のステップ805)。しかし、本発明の異常判定処理は、この保持方法に代えて、第2異常判定を開始するときに積分項FBiの算出を一時中断し(即ち、積分項FBiの更新を止めて)、後処理の際に積分項FBiの算出を再開する(即ち、一時中断前の積分項FBiをそのまま用いる)、ことにより、同積分項FBiの値を処理前値として“保持”してもよい。
更に、異常判定処理を精度良く行う観点から、本発明の異常判定装置は、異常判定処理の実行中におけるフィードバック制御の応答速度を異常判定処理を実行していないときの応答速度よりも低下させるように構成され得る。これにより、主処理を行ったときの燃圧の変動を大きくすることができるため、異常判定処理の精度が向上される。具体的には、例えば、異常判定処理を行うときのフィードバック制御の不感帯を異常判定処理を実行していないときの前記不感帯よりも広げると共に、異常判定処理を行うときのフィードバック制御のフィードバックゲインを異常判定処理を実行していないときのフィードバックゲインよりも大きくするように構成され得る。
更に、実施装置は、第1異常判定の判定条件(図7のステップ760)を1回満たした場合、減量弁15に異常があると判定するようになっている。しかし、本発明の異常判定装置は、同判定条件を複数回満たした場合、減量弁15に異常があると判定してもよい。第2異常判定の判定条件(図8のステップ825)についても、同様である。
更に、本発明の異常判定装置は、異常判定の実行が機関EGに及ぼす影響を出来る限り小さくする観点から、異常判定を実行する回数を制限してもよい。例えば、本発明の異常判定装置は、第2異常判定を、機関EGがアイドル運転(無負荷の状態において所定のアイドル回転数にて待機する運転)を行う毎に1回だけ実行するように、制限してもよい。更に、本発明の異常判定装置は、第2異常判定を、機関EGを搭載した車両が1回走行する毎に(即ち、或るアイドル運転が終了して車両が走行し始めてから、次のアイドル運転が開始されるまでの間に)1回だけ実行するように、制限してもよい。
更に、実施装置は、燃料噴射弁11が機関EGの気筒21内に燃料を直接噴射する(即ち、筒内噴射の)燃料システムに適用されている。しかし、本発明の異常判定装置は、機関EGの吸気ポート31に燃料を噴射する(即ち、ポート噴射の)燃料システムに適用されてもよい。更に、本発明の異常判定装置は、機関EGの気筒21および吸気ポート31の双方に燃料を噴射する(即ち、筒内噴射・ポート噴射併用型の)燃料システムに適用されてもよい。