以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
(車両の全体構成)
図1は、この発明の実施の形態による車両10の動力伝達システム及びその制御システムの概略構成図である。図1を参照して、車両10は、エンジン12と、変速部15と、差動歯車装置42と、駆動輪44とを備える。変速部15は、差動部20と、有段変速機30とを含む。また、車両10は、インバータ52と、蓄電装置54と、制御装置60と、パドルスイッチ72と、シフトレバー76とをさらに備える。
エンジン12は、燃料の燃焼による熱エネルギをピストンやロータなどの運動子の運動エネルギに変換することによって動力を発生する内燃機関である。差動部20は、エンジン12に連結される。差動部20は、インバータ52によって駆動されるモータジェネレータと、エンジン12の出力を有段変速機30への伝達部材とモータジェネレータとに分割する動力分割装置とを含む。差動部20は、モータジェネレータの動作点を適宜制御することによって、エンジン12の出力軸の回転速度と、有段変速機30に接続される伝達部材の回転速度との比(変速比)を連続的に変更可能に構成され、無段変速機として機能する。差動部20の構成については、後ほど説明する。
有段変速機30は、差動部20に連結され、差動部20に接続される伝達部材(有段変速機30の入力軸)の回転速度と、差動歯車装置42に接続される駆動軸(有段変速機30の出力軸)の回転速度との比(変速比)を変更可能に構成される。有段変速機30は、油圧により作動する複数の摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)を所定の組合わせで係合又は解放させることにより、変速比を段階的に変更可能である。
そして、有段変速機30の変速比と、差動部20の変速比とによって、変速部15の変速比(エンジン12の出力軸と駆動軸との間の総合変速比)が決定される。なお、有段変速機30の構成についても、差動部20とともに後ほど説明する。差動歯車装置42は、有段変速機30の出力軸に連結され、有段変速機30から出力される動力を駆動輪44へ伝達する。
インバータ52は、制御装置60によって制御され、差動部20に含まれるモータジェネレータの駆動を制御する。インバータ52は、たとえば、三相分の電力用半導体スイッチング素子を含むブリッジ回路によって構成される。なお、特に図示しないが、インバータ52と蓄電装置54との間に電圧コンバータを設けてもよい。
蓄電装置54は、再充電可能な直流電源であり、代表的には、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池によって構成される。なお、二次電池に代えて電気二重層キャパシタなどの蓄電要素によって蓄電装置54を構成してもよい。
制御装置60は、エンジンECU(Electronic Control Unit)62と、MG−ECU64と、電池ECU66と、ECT−ECU68と、HV−ECU70とを含む。これらの各ECUは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置、入出力バッファ等を含み(いずれも図示せず)、所定の制御を実行する。各ECUにより実行される制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
エンジンECU62は、HV−ECU70から受けるエンジントルク指令等に基づいて、エンジン12を駆動するための制御信号を生成し、生成した制御信号をエンジン12へ出力する。MG−ECU64は、HV−ECU70から受ける、差動部20に含まれるモータジェネレータのトルク指令等に基づいて、インバータ52を駆動するための制御信号を生成し、生成した制御信号をインバータ52へ出力する。
電池ECU66は、蓄電装置54の電圧及び/又は電流に基づいて、蓄電装置54の充電状態(満充電状態に対する現在の蓄電量を百分率で表したSOC値によって示される。)を推定し、その推定値をHV−ECU70へ出力する。ECT−ECU68は、HV−ECU70から受けるトルク容量指令等に基づいて、有段変速機30を制御するための油圧指令を生成し、生成した油圧指令を有段変速機30へ出力する。
HV−ECU70は、パドルスイッチ72、シフトレバー76その他各種センサの信号を受け、車両10の各機器を制御するための各種指令を生成する。HV−ECU70により実行される代表的な制御として、HV−ECU70は、アクセルペダルの操作量や車速等に基づいて、エンジン12及び変速部15を所望の状態に制御して走行する走行制御を実行する。また、HV−ECU70は、車両の走行状態(アクセル開度や車速等)、パドルスイッチ72の操作、シフトレバー76のポジション等に基づいて、差動部20及び有段変速機30を所望の変速状態に制御する変速制御を実行する。この変速制御については、後ほど詳しく説明する。
パドルスイッチ72は、変速部15の変速比(差動部20の変速比と有段変速機30の変速比とから成る総合変速比)を運転者が手動で設定するための入力装置である。パドルスイッチ72は、図2に示すように、たとえばステアリングホイール74に設けられており、シフトアップを要求するためのシフトアップ用スイッチと、シフトダウンを要求するためのシフトダウン用スイッチとを含む。シフトアップ用スイッチが操作されると、1回操作毎に1段ずつシフトアップされる。一方、シフトダウン用スイッチが操作されると、1回操作毎に1段ずつシフトダウンされる。
シフトレバー76は、所定のシフトレンジを運転者が選択するためのレバーであり、運転席の近傍に配設される。シフトレバー76は、図3に示すように、シフトゲート78に沿って移動し、パーキングレンジ(Pレンジ)を選択するためのPポジション、リバースレンジ(Rレンジ)を選択するためのRポジション、ニュートラルレンジ(Nレンジ)を選択するためのNポジション、ドライブレンジ(Dレンジ)を選択するためのDポジション、シーケンシャルレンジ(Sレンジ)を選択するためのSポジション、並びにSレンジ選択時の「+」ポジション及び「−」ポジションのいずれかへ移動可能である。
図4は、図1に示した制御装置60に対して入出力される主な信号及び指令を示した図である。図4を参照して、HV−ECU70は、車両10の速度を検出する車速センサからの信号、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサからの信号、エンジン12の回転速度を検出するエンジン回転数センサからの信号を受ける。また、HV−ECU70は、差動部20に含まれるモータジェネレータMG1(後述)の回転速度を検出するためのMG1回転数センサからの信号、差動部20に含まれるモータジェネレータMG2(後述)の回転速度を検出するためのMG2回転数センサからの信号、有段変速機30の出力軸の回転速度を検出するための出力軸回転数センサからの信号をさらに受ける。
さらに、HV−ECU70は、差動部20及び有段変速機30の潤滑油の温度を検出する潤滑油温度センサからの信号、パドルスイッチ72(図1,2)からの信号、シフトレバー76(図1,3)のポジションを検出するシフトポジションセンサからの信号をさらに受ける。さらに、HV−ECU70は、蓄電装置54のSOC値を示す信号を電池ECU66から受ける。
そして、HV−ECU70は、上記の信号に基づいて、エンジン12の出力トルクの目標値を示すエンジントルク指令Terを生成してエンジンECU62へ出力する。また、HV−ECU70は、上記の信号に基づいて、差動部20のモータジェネレータMG1,MG2のトルク指令Tgr,Tmrを生成してMG−ECU64へ出力する。また、HV−ECU70は、パドルスイッチ72及びシフトポジションセンサからの信号に基づいて有段変速機30の変速比(変速段)を決定し、その変速比を実現するためのトルク容量指令Tcrを生成してECT−ECU68へ出力する。
HV−ECU70からエンジントルク指令Terを受けたエンジンECU62は、エンジン12を駆動するためのスロットル信号や点火信号、燃料噴射信号等を生成してエンジン12へ出力する。MG−ECU64は、HV−ECU70から受けるトルク指令Tgr,Tmrに基づいて、インバータ52によりモータジェネレータMG1,MG2を駆動するための信号PWIを生成し、インバータ52へ出力する。ECT−ECU68は、トルク容量指令Tcrに相当するトルク容量を有段変速機30が有するように油圧指令を生成して有段変速機30へ出力する。
(差動部20及び有段変速機30の構成)
図5は、図1に示した差動部20及び有段変速機30の構成を示した図である。なお、この実施の形態では、差動部20及び有段変速機30は、その軸心に対して対称的に構成されているので、図5では、差動部20及び有段変速機30の下側を省略して図示されている。
図5を参照して、差動部20は、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割装置24とを含む。モータジェネレータMG1,MG2の各々は、交流電動機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機によって構成される。モータジェネレータMG1,MG2は、インバータ52によって駆動される。
動力分割装置24は、シングルピニオン型のプラネタリギヤによって構成され、サンギヤS0と、ピニオンギヤP0と、キャリアCA0と、リングギヤR0とを含む。キャリアCA0は、入力軸22すなわちエンジン12の出力軸に連結され、ピニオンギヤP0を自転及び公転可能に支持する。サンギヤS0は、モータジェネレータMG1の回転軸に連結される。リングギヤR0は、伝達部材26に連結され、ピニオンギヤP0を介してサンギヤS0と噛み合うように構成される。伝達部材26には、モータジェネレータMG2の回転軸が連結される。すなわち、リングギヤR0は、モータジェネレータMG2の回転軸とも連結される。
動力分割装置24は、サンギヤS0、キャリアCA0及びリングギヤR0が相対的に回転することによって差動装置として機能する。サンギヤS0、キャリアCA0及びリングギヤR0の各回転数は、後述(図7)するように共線図において直線で結ばれる関係になる。動力分割装置24の差動機能により、エンジン12から出力される動力がサンギヤS0とリングギヤR0とに分配される。サンギヤS0に分配された動力によってモータジェネレータMG1が発電機として作動し、モータジェネレータMG1により発電された電力は、モータジェネレータMG2に供給されたり、蓄電装置54(図1)に蓄えられたりする。動力分割装置24により分割された動力を用いてモータジェネレータMG1が発電したり、モータジェネレータMG1により発電された電力を用いてモータジェネレータMG2を駆動したりすることによって、差動部20は変速機能を実現することができる。
有段変速機30は、シングルピニオン型のプラネタリギヤ32,34と、クラッチC1〜C3と、ブレーキB1,B2と、ワンウェイクラッチF1とを含む。プラネタリギヤ32は、サンギヤS1と、ピニオンギヤP1と、キャリアCA1と、リングギヤR1とを含む。プラネタリギヤ34は、サンギヤS2と、ピニオンギヤP2と、キャリアCA2と、リングギヤR2とを含む。
クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の各々は、油圧により作動する摩擦係合装置であり、重ねられた複数枚の摩擦板が油圧により押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻付けられたバンドの一端が油圧によって引き締められるバンドブレーキ等によって構成される。ワンウェイクラッチF1は、互いに連結されるキャリアCA1及びリングギヤR2を一方向に回転可能とし、かつ、他方向に回転不能に支持する。
この有段変速機30においては、クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2、並びにワンウェイクラッチF1の各係合装置が、図6に示される係合作動表に従って係合されることにより、1速ギヤ段〜4速ギヤ段及び後進ギヤ段が択一的に形成される。なお、図6において、「○」は係合状態であることを示し、「(○)」はエンジンブレーキ時に係合されることを示し、「△」は駆動時にのみ係合されることを示し、空欄は解放状態であることを示す。また、クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の各係合装置をすべて解放状態にすることにより、ニュートラル状態(動力伝達が遮断された状態)を形成することができる。
再び図5を参照して、差動部20と有段変速機30とは、伝達部材26によって連結される。そして、プラネタリギヤ34のキャリアCA2に連結される出力軸36が差動歯車装置42(図1)に連結される。
図7は、差動部20及び有段変速機30によって構成される変速部15の共線図である。図7とともに図5を参照して、差動部20に対応する共線図の縦線Y1は、動力分割装置24のサンギヤS0の回転速度を示し、すなわちモータジェネレータMG1の回転速度を示す。縦線Y2は、動力分割装置24のキャリアCA0の回転速度を示し、すなわちエンジン12の回転速度を示す。縦線Y3は、動力分割装置24のリングギヤR0の回転速度を示し、すなわちモータジェネレータMG2の回転速度を示す。なお、縦線Y1〜Y3の間隔は、動力分割装置24のギヤ比に応じて定められている。
また、有段変速機30に対応する共線図の縦線Y4は、プラネタリギヤ34のサンギヤS2の回転速度を示し、縦線Y5は、互いに連結されたプラネタリギヤ34のキャリアCA2及びプラネタリギヤ32のリングギヤR1の回転速度を示す。また、縦線Y6は、互いに連結されたプラネタリギヤ34のリングギヤR2及びプラネタリギヤ32のキャリアCA1の回転速度を示し、縦線Y7は、プラネタリギヤ32のサンギヤS1の回転速度を示す。そして、縦線Y4〜Y7の間隔は、プラネタリギヤ32,34のギヤ比に応じて定められている。
クラッチC1が係合すると、差動部20のリングギヤR0にプラネタリギヤ34のサンギヤS2が連結され、サンギヤS2がリングギヤR0と同じ速度で回転する。クラッチC2が係合すると、リングギヤR0にプラネタリギヤ32のキャリアCA1及びプラネタリギヤ34のリングギヤR2が連結され、キャリアCA1及びリングギヤR2がリングギヤR0と同じ速度で回転する。クラッチC3が係合すると、リングギヤR0にプラネタリギヤ32のサンギヤS1が連結され、サンギヤS1がリングギヤR0と同じ速度で回転する。ブレーキB1が係合するとサンギヤS1の回転が停止し、ブレーキB2が係合するとキャリアCA1及びリングギヤR2の回転が停止する。
たとえば、図6の係合作動表に示したように、クラッチC1及びブレーキB1を係合し、その他のクラッチ及びブレーキを解放すると、有段変速機30の共線図は「2nd」で示される直線のようになる。プラネタリギヤ34のキャリアCA2の回転速度を示す縦線Y5が、有段変速機30の出力回転速度(出力軸36の回転速度)を示す。このように、有段変速機30において、クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2を図6の係合作動表に従って係合又は解放させることにより、1速ギヤ段〜4速ギヤ段、後進ギヤ段、及びニュートラル状態を形成することができる。
一方、差動部20においては、モータジェネレータMG1,MG2を適宜回転制御することにより、キャリアCA0に連結されるエンジン12の回転速度に対して、リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材26の回転速度を連続的に変更可能な無段変速が実現される。このような差動部20に、伝達部材26と出力軸36との間の変速比を変更可能な有段変速機30を連結することによって、差動部20による無段変速機能を有しつつ、差動部20の変速比を小さくすることができ、モータジェネレータMG1,MG2の損失を小さくすることが可能となる。
(変速制御の説明)
この車両10においては、シフトレバー76によってDレンジが選択されると、走行状態に基づいて自動変速が実行される(自動変速モード)。走行状態とは、たとえば、アクセル開度及び車速であるが、アクセル開度に代えて要求駆動力や出力トルク等であってもよいし、車速に代えて駆動軸の回転速度等であってもよい。たとえば、アクセル開度及び車速に応じて変速比(変速段)を定めた変速線図に従って、アクセル開度及び車速に基づいて有段変速機30の変速比が設定される。そして、有段変速機30の変速比を考慮して所望の回転速度及びトルクが有段変速機30に入力されるように、エンジン12及び差動部20のモータジェネレータMG1,MG2が制御される。
一方、シフトレバー76によってSレンジが選択されると、シフトレバー76をSポジション82から「+」ポジション又は「−」ポジションに移動することによって、変速部15の変速比を段階的に変更可能なシーケンシャルシフトが実行される。このシーケンシャルシフトでは、シフトレバー76の操作によって指示される変速段に応じて予め設定された変速比となるように有段変速機30及び差動部20が制御される。
ここで、シフトレバー76の代わりにパドルスイッチ72(図1,2)を操作することによっても、上記のシーケンシャルシフトと同様の変速操作が実行される。以下、シフトレバー76によってSレンジが選択されている場合のパドルスイッチ72の操作を「Sパドル操作」とも称する。なお、Sパドル操作による変速部15の変速設定は、シフトレバー76の操作による上記シーケンシャルシフトの変速設定と同じであるが、必ずしも同じである必要はない。
さらにここで、本実施の形態に従う車両10においては、シフトレバー76によってDレンジが選択されている場合においても、パドルスイッチ72(図1,2)を操作することによって変速部15の変速比が段階的に変更される。以下、シフトレバー76によってDレンジが選択されている場合のパドルスイッチ72の操作を「Dパドル操作」とも称する。
Dパドル操作によっても、Sパドル操作と同様に変速部15の変速比が段階的に変更されるが、Dパドル操作は、以下の点でSパドル操作と異なる。すなわち、Sパドル操作では、シフトレバー76によってSレンジが選択されている限りは、Sパドル操作によって選択された変速比(変速段)が維持される。一方、Dパドル操作では、パドルスイッチ72が操作されない状態が所定時間継続すると、Dパドル操作に応じて変速比が設定される手動変速モードから、走行状態(アクセル開度や車速等)に基づいて変速比が設定される自動変速モードに変速モードが復帰する。すなわち、シフトレバー76によってDレンジが選択されている場合においても、パドルスイッチ72を操作することによって変速比を手動で設定可能であるが、パドルスイッチ72が所定時間操作されなければ、変速線図に従い走行状態に基づいて変速比が設定される通常の自動変速に復帰する。
Dパドル操作が行なわれ、その後、パドルスイッチ72が所定時間操作されないことによって自動変速モードに復帰する場合、パドルスイッチ72の操作に応じて設定された変速比から、変速線図に従い走行状態に基づいて設定される変速比へ、変速部15の変速比が変更される。この場合、有段変速機30の変速比が変更されると、変速ショックが発生してドライバビリティが悪化する可能性がある。
そこで、この実施の形態に従う車両10においては、Dパドル操作のときは、Sパドル操作のときに比べて、有段変速機30の変速比の変更が抑制されるように、変速部15が制御される。より詳しくは、Dパドル操作においてもSパドル操作においても、パドルスイッチ72の操作によって指示される変速段に応じて予め設定された変速比となるように変速部15が制御されるところ、Dパドル操作のときは、Sパドル操作のときに比べて、有段変速機30の変速比の変更が抑制されるように、有段変速機30及び差動部20が制御される。これにより、Dパドル操作により設定された変速比から、走行状態に基づいて設定される変速比への復帰時に、有段変速機30の変速比の変更が抑制される。したがって、上記の復帰時におけるドライバビリティの悪化を抑制することができる。
有段変速機30の変速比の変更を抑制する具体的な手法としては、種々の手法をとり得る。この実施の形態に従う車両10においては、Dパドル操作が行なわれたとき、有段変速機30の変速比(変速段)は、基本的にDパドル操作前の変速比(変速段)に維持される(差動部20の変速比が変更される。)。そして、有段変速機30の変速比(変速段)については、自動変速の場合と同様に、変速線図に従って走行状態に基づいて設定される。これにより、Dパドル操作時及び自動変速モードへの復帰時に、有段変速機30の変速比の変更が抑制される。
なお、有段変速機30の変速比の変更が抑制される分、差動部20の変速比の変更は大きくなるけれども、差動部20は連続的に(無段階で)変速可能であるので、たとえば変速レートを抑えることによって変速ショックを抑制することが可能である。
図8は、制御装置60のHV−ECU70により実行される変速制御の処理手順を説明するためのフローチャートである。なお、このフローチャートに示される処理は、所定時間毎又は所定条件の成立時にメインルーチンから呼び出されて実行される。
図8を参照して、HV−ECU70は、シフトレバー76によってSレンジが選択されているか否かを判定する(ステップS10)。Sレンジが選択されていると判定されると(ステップS10においてYES)、HV−ECU70は、パドルスイッチ72又はシフトレバー76が操作されたか否かを判定する(ステップS20)。そして、パドルスイッチ72又はシフトレバー76が操作された場合(ステップS20においてYES)、HV−ECU70は、所定のシフトパターンAに従って変速部15の変速制御を実行する(ステップS30)。
図9は、シフトパターンAの一例を示した図である。図9を参照して、このシフトパターンAでは、パドルスイッチ72又はシフトレバー76の操作に応じて「1速」又は「2速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において1速ギヤ段(1st)が形成されるように有段変速機30を制御する。また、パドルスイッチ72又はシフトレバー76の操作に応じて「3速」又は「4速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において2速ギヤ段(2nd)が形成されるように有段変速機30を制御する。
さらに、パドルスイッチ72又はシフトレバー76の操作に応じて「5速」又は「6速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において3速ギヤ段(3rd)が形成されるように有段変速機30を制御する。また、さらに、パドルスイッチ72又はシフトレバー76の操作に応じて「7速」又は「8速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において4速ギヤ段(4th)が形成されるように有段変速機30を制御する。
再び図8を参照して、ステップS20において、パドルスイッチ72及びシフトレバー76は操作されていないと判定されると(ステップS20においてNO)、HV−ECU70は、ステップS90へ処理を移行する。
ステップS10において、Sレンジが選択されていないと判定されると(ステップS10においてNO)、HV−ECU70は、シフトレバー76によってDレンジが選択されているか否かを判定する(ステップS40)。Dレンジが選択されていないと判定されると(ステップS40においてNO)、HV−ECU70は、ステップS90へ処理を移行する。
ステップS40において、Dレンジが選択されていると判定されると(ステップS40においてYES)、HV−ECU70は、パドルスイッチ72が操作されたか否かを判定する(ステップS50)。そして、パドルスイッチ72が操作された場合(ステップS50においてYES)、HV−ECU70は、所定のシフトパターンBに従って変速部15の変速制御を実行する(ステップS60)。
図10は、シフトパターンBの一例を示した図である。図10を参照して、このシフトパターンBでは、HV−ECU70は、所定の変速線図に従って、走行状態(アクセル開度及び車速)に基づいて有段変速機30を制御する。この変速線図は、自動変速モードにおいて用いられる変速線図と同じである。なお、実線はアップシフト線であり、点線はダウンシフト線である。
このシフトパターンBでは、有段変速機30の変速は、走行状態(アクセル開度及び車速)に基づいて行なわれる。すなわち、パドルスイッチ72の操作(Dパドル操作)に応じた有段変速機30の変速比(変速段)の変更は行なわれず、有段変速機30の変速比(変速段)は、基本的にDパドル操作前の変速比(変速段)に維持される。このシフトパターンBによる、変速線図に従う有段変速機30の変速は、基本的に、図9に示したシフトパターンAによる変速よりも、有段変速機30の変速比の変更が抑制される。
再び図8を参照して、ステップS50において、パドルスイッチ72は操作されていないと判定されると(ステップS50においてNO)、HV−ECU70は、パドルスイッチ72の非操作が所定時間継続しているか否かを判定する(ステップS70)。そして、パドルスイッチ72の非操作が所定時間継続していると判定されると(ステップS70においてYES)、HV−ECU70は、変速モードをDパドル操作に基づく手動変速モードから自動変速モードへ復帰し、走行状態(アクセル開度及び車速)に基づく自動変速制御を実行する(ステップS80)。
以上のように、この実施の形態においては、シフトレバー76によりDレンジが選択されている場合においてもパドルスイッチ72の操作は許容される(Dパドル操作)。Dパドル操作においては、パドルスイッチ72の非操作が所定時間継続すると、Dパドル操作に応じて設定された変速比から、走行状態(アクセル開度及び車速等)に基づいて設定される変速比に復帰する。ここで、この実施の形態では、Dパドル操作のときは、Sパドル操作のときに比べて、有段変速機30の変速比の変更を抑制するように変速部15が制御される。これにより、上記の変速比の復帰時に、有段変速機30の変速比の変更が抑制される。したがって、この実施の形態によれば、Dパドル操作後に自動変速モードへ復帰する場合に、ドライバビリティが悪化するのを抑制することができる。
[変形例]
上記の実施の形態では、Dパドル操作の有段変速機30の変速について、所定の変速線図に従って、走行状態(アクセル開度や車速等)に基づいて変速されるものとしたが(シフトパターンB)、シフトパターンBについても、シフトパターンAのように、パドルスイッチ72の操作に応じて所定の変速比(変速段)が形成されるようにしてもよい。
図11は、この変形例におけるシフトパターンの一例を示した図である。図11を参照して、シフトパターンAは、図9に示した実施の形態1におけるパターンと同じである。シフトパターンBについては、Dパドル操作に応じて「1速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において1速ギヤ段(1st)が形成されるように有段変速機30を制御する。また、Dパドル操作に応じて「2速」、「3速」又は「4速」が選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において2速ギヤ段(2nd)が形成されるように有段変速機30を制御する。さらに、Dパドル操作に応じて「5速」から「8速」のいずれかが選択されると、HV−ECU70は、有段変速機30において3速ギヤ段(3rd)が形成されるように有段変速機30を制御する。
シフトパターンBをシフトパターンAと比較すると、シフトパターンBの方がシフトパターンAよりも有段変速機30の変速比(変速段)の変更が抑制されるように、各変速段における有段変速機30の変速比(変速段)が設定される。
以上のように、この変形例においても、Dパドル操作のときは、Sパドル操作のときに比べて、有段変速機30の変速比の変更を抑制するように変速部15が制御される。したがって、この変形例によっても、Dパドル操作後に自動変速モードへ復帰する場合に、ドライバビリティが悪化するのを抑制することができる。
なお、上記の実施の形態においては、Dパドル操作後の自動変速モードへの復帰条件について、パドルスイッチ72の非操作が所定時間継続すると、Dパドル操作に応じて設定された変速比から走行状態に基づいて設定される変速比に復帰するものとしたが、Dパドル操作に応じて変速比(変速段)が設定された後、その設定された変速比で所定距離走行すると自動変速モードへ復帰するようにしてもよい。
また、上記においては、差動部20は、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割装置24とを含んで構成されるものとしたが、差動部20は、CVT(Continuously Variable Transmission)によって構成してもよい。
なお、上記において、差動部20は、この発明における「無段変速機」の一実施例に対応し、パドルスイッチ72は、この発明における「入力装置」の一実施例に対応する。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。