JP6195716B2 - 抗癌剤耐性診断マーカー - Google Patents
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非特許文献1では、AXLが発現亢進することによりEGFR阻害剤に対して耐性を獲得する肺癌の存在が同定されており、また、このような耐性癌細胞はAXLの発現または活性を阻害することにより増殖及び運動能を抑制することが可能であることが示されている。
非特許文献2では、癌細胞から可溶性AXLが分泌されることが示されている。
本発明者らは、抗癌剤に対する耐性を獲得した癌細胞から分泌されるタンパク質について鋭意検討した結果、受容体型チロシンキナーゼAXLの細胞外ドメインフラグメントが、抗癌剤に耐性の癌などに対する特異的なバイオマーカーとして利用できることを見出した。したがって、本発明者らは、AXL細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定することにより、癌に対する抗癌剤の治療効果を簡便に判定し得ることを着想し、本願発明を完成するに至った。
〔1〕AXL細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質を含む、癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬。
〔2〕AXL細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質が、AXL細胞外ドメインフラグメントに対する抗体である、〔1〕の診断試薬。
〔3〕抗癌剤が肺癌に対する抗癌剤である、〔1〕または〔2〕の診断試薬。
〔4〕抗癌剤の効果が抗癌剤に対する耐性である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの診断試薬。
〔5〕抗癌剤がEGFR阻害剤、MET阻害剤およびプラチナ製剤からなる群より選ばれる1以上の抗癌剤である、〔4〕の診断試薬。
〔6〕抗癌剤の効果が、AXL阻害剤に対する感受性である、〔1〕〜〔3〕のいずれかの診断試薬。
〔7〕AXL阻害剤に対する感受性が、AXL阻害剤による癌の増殖および/または浸潤および/または転移の抑制である、〔6〕の診断試薬。
〔8〕AXL細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質、およびAXL細胞外ドメインフラグメントを含む、癌に対する抗癌剤の効果の診断キット。
〔9〕以下(a)および(b)の工程を含む、癌に対する抗癌剤の効果の試験方法:
(a)被験体由来の生体サンプル中のAXL細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程;および
(b)測定されたAXL細胞外ドメインフラグメントの濃度を、AXL細胞外ドメインフラグメントの濃度と癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程。
また、本発明によれば、抗癌剤に耐性の癌で多量のAXL細胞外ドメインフラグメントが認められること、ならびにこのような多量のAXL細胞外ドメインフラグメントの測定は容易であることから、癌に対する抗癌剤の治療効果を容易に判定できる。
(a)被験体由来の生体サンプル中のAXL細胞外ドメインフラグメントの濃度を測定する工程;および
(b)測定されたAXL細胞外ドメインフラグメントの濃度を、AXL細胞外ドメインフラグメントの濃度と癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程。
ゲフィチニブ(EGFR阻害剤)感受性細胞株HCC4006(ヒト非小細胞肺癌由来、Clin Cancer Res 2006;12:7117−7125.)を、2週間、1ヶ月、3ヶ月または5ヶ月ゲフィチニブ(1μM)に暴露することにより、ゲフィチニブ耐性細胞株を樹立した(それぞれGR2w、GR1m、GR3m、GR5m)。これらのゲフィチニブ耐性細胞株を各種濃度のゲフィチニブに暴露し、次いで72時間後の生存細胞の割合をMTS法でアッセイすることにより、各細胞株のゲフィチニブ感受性を解析した。
その結果、ゲフィチニブ感受性細胞は、ゲフィチニブ暴露期間に依存してゲフィチニブに対する耐性を獲得することが示された(図1)。
実施例1で樹立したゲフィチニブ耐性細胞株による可溶性AXLの分泌を、限外濃縮した培養上清(Supernatant)に対してAXL細胞外ドメインを認識する抗体(UniProt accession:P30530登録のアミノ酸配列において30〜140位のアミノ酸残基からなる組換え体断片を抗原として用いて作製されたモノクローナル抗体)によるウェスタンブロットにより評価した。併せて、細胞抽出液(Lysate)において、AXL、並びに間葉系マーカーおよび上皮系マーカーの上皮間葉移行マーカー(EMT)についてウェスタンブロットを行った。
その結果、可溶性AXLの分泌は、EGFR阻害剤に対する耐性獲得に伴って亢進することが確認された。また、耐性獲得に伴うAXLの発現亢進と間葉系マーカー(N−cadherin、Vimentin、ZEB1)の発現亢進と共に、上皮系マーカー(E−cadherin)の発現抑制が認められた(図2)。
以上より、EMTの進行を伴う、EGFR阻害剤に対する耐性獲得の過程において、AXLの発現および可溶性AXLの分泌が亢進することが示された。
ゲフィチニブ(EGFR阻害剤)感受性細胞株HCC4006中のAXL陽性細胞を、抗AXL抗体を吸着させた磁性粒子(ダイナビーズ)により分画した(HCC4006−AXL+)。さらにその分画から、トランスウェルチャンバーを通過した細胞を、運動性の高い細胞として分画した(HCC4006−AXL+−TW)。これらの細胞分画のゲフィチニブ感受性をMTSアッセイにより比較した。
その結果、AXL陽性細胞AXL+およびAXL陽性高運動性細胞AXL+−TWは、ゲフィチニブに対して親細胞株よりも耐性であった(図3)。
以上より、EGFR阻害剤感受性癌細胞中にAXL陽性細胞が存在すること、およびこのようなAXL陽性細胞がゲフィチニブに耐性能を有することが示された。
EGFR阻害剤(ゲフィチニブ)感受性細胞株HCC827(ヒト非小細胞肺癌由来、Clin Cancer Res 2006;12:7117−7125.)をゲフィチニブ(EGFR阻害剤,1μM)に5ヶ月暴露することにより、ゲフィチニブ耐性細胞株(GR5m)を樹立した。また、HCC827をゲフィチニブに3ヶ月暴露した後、PHA−665752に3ヶ月暴露することによりEGFR阻害剤およびMET阻害剤の組合せに耐性の細胞株(HCC827−GRPR)を樹立した。
その結果、樹立細胞株GR5mは、ゲフィチニブ単独には耐性であったが、EGFR阻害剤(ゲフィチニブ)及びMET阻害剤(PHA−665752、Cancer Res 2003;63:7345―7355.)を参照)の組合せには感受性であった(図4)。また、樹立細胞株HCC827−GRPRは、EGFR阻害剤(ゲフィチニブ)及びMET阻害剤(PHA−665752)の双方に耐性であった(図4)。
実施例4で作製したHCC827由来耐性細胞株における可溶性AXLの分泌を解析した。
その結果、EGFR及びMETの両方に依存性を示すゲフィチニブ耐性細胞株HCC827−GR5mでは可溶性METの分泌が認められたが、ゲフィチニブ及びMET阻害剤の双方に耐性であるHCC827−GRPRは、可溶性METの低い分泌および可溶性AXLの分泌を示した(図5)。また、HCC827−GRPRは、N−cadherinの発現亢進を示し(図5)、EMTの進行を呈した。
以上より、ゲフィチニブ耐性となったMET遺伝子増幅肺癌細胞をさらにMET阻害剤で治療するモデルケースにおいても、EMTの進行を伴う耐性癌にAXL発現および可溶性AXL分泌の亢進が認められることが示された。
MET遺伝子増幅を示し、かつMET阻害剤感受性を示すH1993細胞株(ヒト非小細胞肺癌由来、Cancer Res 2007;67:2081−2088.)より、MET阻害剤PHA−665752に対する耐性細胞株を樹立した(PR5m)。この細胞株から、AXL陽性細胞を、抗AXL抗体を吸着させた磁性粒子(ダイナビーズ)で分画した(PR5m−AXL+)。また、PR5mから、トランスウェルチャンバーを通過した細胞を、運動性の高い細胞として分画した(PR5m−TW)。これらの細胞のAXL発現および可溶性AXL分泌、ならびにEMTマーカーの発現をウェスタンブロットで解析した。
その結果、PR5m−AXL+、およびPR5m−TWでは、AXLの発現および可溶性AXLの分泌が認められ、また、間葉系マーカー(N−cadherin、Vimentin、ZEB1)の発現の亢進が認められた(図6)。
以上より、MET阻害剤耐性細胞中に、AXL陽性でEMTが進行した細胞が存在することが示された。
HCC4006を段階的に濃度を上げたシスプラチン(0.5〜25μM)に4ヶ月暴露することによりシスプラチン耐性細胞株(HCC4006−CR)を樹立した。さらに、シスプラチン耐性細胞株HCC4006−CRを1μMゲフィチニブに2週間暴露することにより、シスプラチンおよびゲフィチニブの双方に耐性である細胞株(HCC4006−CR−GR)を樹立した。これらの細胞株におけるAXL発現および可溶性AXL分泌、ならびにEMTマーカー発現をウェスタンブロットにより解析した。また、ゲフィチニブへのこれらの細胞株の耐性を評価した。
その結果、シスプラチン耐性化に伴い間葉系マーカー(N−cadherin、TWIST1等)の発現と共にAXL発現および可溶性AXL分泌の亢進が認められた(図7)。また、シスプラチンおよびゲフィチニブの双方に耐性である細胞株(HCC4006−CR−GR)では、マーカーの発現の変動が顕著に認められた(図7)。さらに、可溶性AXL分泌が認められるシスプラチン耐性細胞株HCC4006−CRは、ゲフィチニブに部分的に耐性であった(図8)。
以上より、プラチナ製剤に対する耐性獲得に伴うEMTの進行とAXL発現および可溶性AXL分泌との関連性、ならびにプラチナ製剤暴露によりEGFR阻害剤に対する耐性能を獲得する細胞の存在が示された。
先の実施例に記載した種々の細胞の運動能を、トランスウェルマイグレーションアッセイ(Oncogene 2012;31:1493―1503.を参照)により測定した。
その結果、HCC4006由来耐性細胞株では、可溶性AXLの分泌亢進に相関して運動能の亢進が認められた(図9)。H1993由来耐性細胞株では、PR5mが親株よりも運動能が亢進していたが、AXL(可溶性AXL分泌)陽性分画でさらに運動能の亢進が認められた(図10)。可溶性AXL分泌が認められたHCC4006由来シスプラチン耐性細胞株、およびシスプラチンおよびゲフィチニブの双方に耐性である細胞株でも、運動能の亢進が認められた(図11)。癌細胞が浸潤および転移する能力は、トランスウェルマイグレーションアッセイにより細胞の運動能を測定することにより、評価できることが知られている(International Journal of Cancer 2012;130:555−566.を参照)。
以上より、可溶性AXLの分泌が、細胞の運動能と強く相関することが示された。したがって、可溶性AXLの測定により、癌細胞の浸潤および/または転移する能力を評価できると考えられる。
運動能の亢進が認められたHCC4006−CR−GR(シスプラチンおよびゲフィチニブの双方に耐性である、HCC4006由来細胞株)のAXLをsi−RNAにより阻害し、AXL阻害が運動能へ及ぼす影響をトランスウェルマイグレーションアッセイにより解析した。si−AXL−1は、AXL遺伝子の第1標的配列(CCAGCACCUGUGGUCAUCUUACCUU、配列番号1)に対する第1si−RNAを示す。si−AXL−2は、AXL遺伝子の第2標的配列(GAGCUGCGGGAAGAUUUGGAGAACA、配列番号2)に対する第2si−RNAを示す。si−AXL−3は、AXL遺伝子の第3標的配列(CCAGGAACUGCAUGCUGAAUGAGAA、配列番号3)に対する第3si−RNAを示す。
その結果、AXLのノックダウンにより細胞の運動能が顕著に抑制された(図12、13)。
以上より、AXLが抗癌剤に耐性を示す細胞の運動能に機能的に関与していることが示された。
また、図12、13に示した結果より、AXLの発現量と抗癌剤に耐性を示す細胞の運動能との間には相関性があると考えられる。さらには、AXLの発現量と可溶性AXLの量との間にも相関性があると考えられる。したがって、可溶性AXLの測定により、抗癌剤に対する耐性を示す癌のうち、AXL阻害剤による治療が有効な癌(例えば、AXL阻害剤により癌細胞の運動能を抑制し、それによって癌の浸潤および/または転移を抑制する治療が有効な癌)を診断できると考えられる。
Claims (8)
- 可溶性AXLまたはその分解産物に親和性を有する物質を含む、癌に対する抗癌剤の効果の診断試薬であって、該抗癌剤がMET阻害剤、プラチナ製剤およびAXL阻害剤からなる群より選ばれる1以上の抗癌剤である、診断試薬。
- 可溶性AXLまたはその分解産物に親和性を有する物質が、可溶性AXLまたはその分解産物に対する抗体である、請求項1記載の診断試薬。
- 抗癌剤が肺癌に対する抗癌剤である、請求項1または2記載の診断試薬。
- 抗癌剤の効果が、MET阻害剤またはプラチナ製剤に対する耐性である、請求項1〜3のいずれか一項記載の診断試薬。
- 抗癌剤の効果が、AXL阻害剤に対する感受性である、請求項1〜3のいずれか一項記載の診断試薬。
- AXL阻害剤に対する感受性が、AXL阻害剤による癌の増殖および/または浸潤および/または転移の抑制である、請求項5記載の診断試薬。
- 可溶性AXLまたはその分解産物に親和性を有する物質、および可溶性AXLまたはその分解産物を含む、癌に対する抗癌剤の効果の診断キットであって、該抗癌剤がMET阻害剤、プラチナ製剤およびAXL阻害剤からなる群より選ばれる1以上の抗癌剤である、診断キット。
- 癌に対する抗癌剤の効果の試験方法であって、
(a)被験体由来の生体サンプル中の可溶性AXLまたはその分解産物の濃度を測定する工程、および
(b)測定された可溶性AXLまたはその分解産物の濃度を、可溶性AXLまたはその分解産物の濃度と癌に対する抗癌剤の効果との間の関係を示す基準と比較する工程を含み、
該抗癌剤がMET阻害剤、プラチナ製剤およびAXL阻害剤からなる群より選ばれる1以上の抗癌剤である、試験方法。
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