(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電池監視装置の構成を示す図である。図1に示す電池監視装置1は、蓄電池であるn個のセルBC1〜BCnから構成される組電池2と、電圧検出線L0〜Lnを介して接続されている。電池監視装置1は、組電池2の各セルの正極と負極の間の電圧(セル電圧)を測定するためのセル電圧測定機能と、充電状態の高いセルを放電して各セルの充電状態を均等化するバランシング機能とを有している。なお、図1では、組電池2を構成するセルBC1〜BCnのうち、セルBC1、BCn−1およびBCnのみを図示し、セルBC2〜BCn−2の図示を省略している。ここで、nは1以上の任意の自然数であり、各セルのセル電圧や、組電池2が電力を供給する負荷(不図示)の動作電圧等に応じて決定される。
セルBC1の負極と正極には、セルBC1に対応する一対の電圧検出線L0、L1がそれぞれ接続されている。同様に、セルBCn−1の負極と正極には、セルBCn−1に対応する一対の電圧検出線Ln−2(不図示)、Ln−1がそれぞれ接続されており、セルBCnの負極と正極には、セルBCnに対応する一対の電圧検出線Ln−1、Lnがそれぞれ接続されている。すなわち、組電池2の各セルの正極と負極は、各セルに対応して設けられた一対の電圧検出線を介して電池監視装置1とそれぞれ接続されている。なお、電圧検出線L0、Lnを除いた電圧検出線L1〜Ln−1は、セルBC1〜BCn−1の正極にそれぞれ接続されると共に、隣接するセルBC2〜BCnの負極にもそれぞれ接続されており、これらの各隣接セルの間で共通に用いられる。
電池監視装置1には、電圧検出線L0〜Lnにそれぞれ対応して、電圧測定線SL0〜SLnおよび調整線SW0〜SWnが設けられている。各電圧測定線SLn〜SLnと、各調整線SW0〜SWnとは、互いに並列に、各電圧検出線L0〜Lnとそれぞれ接続されている。なお、電圧検出線L0には、電圧測定線SL0および調整線SW0と並列に、電位の基準となるグランド線GNDがさらに接続されている。
電池監視装置1は、上記の電圧測定線SL0〜SLnおよび調整線SW0〜SWnに加えて、セルコントローラ10、マイコン20、バランシング抵抗回路30および電圧測定用ノイズフィルタ回路40をさらに備えている。
セルコントローラ10は、前述のセル電圧測定機能およびバランシング機能や、各種診断を実現するための電圧測定を行う回路であり、IC(集積回路)等を用いて構成されている。セルコントローラ10は、電圧測定端子Taを介して電圧測定線SL0〜SLnに接続されており、バランシング端子Tbを介して調整線SW0〜SWnに接続されており、グランド端子Tgを介してグランド線GNDに接続されている。セルコントローラ10において、各バランシング端子Tbの間には、各セルの放電を制御するためのバランシングスイッチBSW1〜BSWnが配置されている。
なお、図1では、一つのセルコントローラ10のみを図示しているが、電池監視装置1にセルコントローラ10を複数個配置してもよい。その場合、各セルコントローラ10とマイコン20の間の通信は、それぞれ個別で行ってもよいし、デイジーチェーン方式で行ってもよい。たとえば、組電池2のセルを所定個数ごとにグループ化することで、組電池2内に複数のセルグループを設けるようにし、この各セルグループに対してセルコントローラ10を配置することができる。
セルコントローラ10は、第一選択回路11、第二選択回路12、第三選択回路13、差動増幅器14、AD変換器15および送受信回路16を有する。
第一選択回路11は、セル電圧の測定対象とするセルに対して、当該セルに対応する互いに隣接し合う二つの電圧測定端子Taを選択する。これにより、電圧検出線L0〜Lnを介してセルBC1〜BCnの正極と負極にそれぞれ接続されている電圧測定線SL0〜SLnの中から、当該セルの正極と負極にそれぞれ接続されている一対の電圧測定線を選択する。そして、選択した二つの電圧測定端子Taの電位、すなわち選択した一対の電圧測定線の電位を、第三選択回路13に出力する。
第二選択回路12は、互いに隣接し合う二つのバランシング端子Tbを選択する。これにより、電圧検出線L0〜Lnに接続されている調整線SW0〜SWnの中から、断線診断の対象とする一対の電圧検出線にそれぞれ接続されている一対の調整線を選択する。そして、選択した二つのバランシング端子Tbの電位、すなわち選択した一対の調整線の電位を、第三選択回路13に出力する。
第三選択回路13は、第一選択回路11または第二選択回路12のいずれか一方を選択し、選択した方の回路において選択されている一対の電圧測定線または調整線の間の電圧を差動増幅器14に出力する。すなわち、第一選択回路11を選択した場合、第三選択回路13は、第一選択回路11において選択されている一対の電圧測定線間の電圧を、測定対象のセル電圧に応じた電圧信号として差動増幅器14に出力する。一方、第二選択回路12を選択した場合、第三選択回路13は、第二選択回路12において選択されている一対の調整線間の電圧を、電圧検出線の断線診断用の電圧信号として差動増幅器14に出力する。
差動増幅器14は、第三選択回路13から出力された電圧信号を所定の増幅率で増幅することにより、第三選択回路13からの電圧信号をAD変換器15の入力レンジ内の電圧信号に変換する電圧変換を行い、AD変換器15に出力する。
AD変換器15は、第三選択回路13から出力されて差動増幅器14で電圧変換された電圧信号を、所定のAD変換範囲内でアナログ値からデジタル値に変換するための回路である。すなわち、AD変換器15は、第一選択回路11において選択されている一対の電圧測定線間の電圧、または第二選択回路12において選択されている一対の調整線間の電圧を、所定のAD変換範囲内でアナログ値からデジタル値に変換する。これにより、セルコントローラ10において、一対の電圧測定線間の電圧または一対の調整線間の電圧が測定される。
送受信回路16は、マイコン20との間で通信を行い、各種の情報を送受信する。たとえば、送受信回路16は、セルコントローラ10の動作内容を示す情報をマイコン20から受信する。これにより、セルコントローラ10は、マイコン20からの指示を受けることができる。また、送受信回路16は、セルコントローラ10において測定された一対の電圧測定線間の電圧または一対の調整線間の電圧をマイコン20に送信する。これにより、セルコントローラ10は、セル電圧または断線診断用電圧の測定結果をマイコン20に出力することができる。
マイコン20は、セルコントローラ10との間で通信を行い、セルコントローラ10の動作を制御する。マイコン20によるセルコントローラ10の制御内容は、上位コントローラ(不図示)等により決定される。
バランシング抵抗回路30は、バランシング機能を用いてセルB1〜Bnを放電させるときに調整線SW0〜SWnに流れるバランシング電流を制限するための回路である。バランシング抵抗回路30は、調整線SW0〜SWnにそれぞれ接続されたバランシング抵抗RBにより構成されている。
電圧測定用ノイズフィルタ回路40は、電圧測定機能により電圧測定線SL0〜SLnを介して測定されるセルBC1〜BCnのセル電圧からノイズ成分を除去するための回路である。電圧測定用ノイズフィルタ回路40は、電圧測定線SL0〜SLnにそれぞれ接続された抵抗RCと、電圧測定線SL0〜SLnとグランド線GNDの間にそれぞれ接続されたコンデンサCCとにより構成されている。なお、セルBC1〜BCnの電圧を精密に測定できるように、電圧測定用ノイズフィルタ回路40の時定数には、比較的大きな値を設定することが好ましい。
次に、電池監視装置1の断線診断方法について説明する。電池監視装置1は、セルコントローラ10において、第二選択回路12により選択された一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定し、その測定結果をセルコントローラ10からマイコン20に出力することで、電圧検出線の断線診断を行う。これにより、一対の電圧測定線間の電圧を断線診断用電圧として用いた場合と比べて、断線診断時にバランシングスイッチBSW1〜BSWnをオンする時間を短縮し、電力損失を低減するようにしている。すなわち、一対の電圧測定線間の電圧は、電圧測定用ノイズフィルタ回路40を介して測定されるものであるため、バランシングスイッチのオンオフの切り替えに応じてこの電圧が変化するためには、電圧測定用ノイズフィルタ回路40の時定数に応じた分だけの変化時間を要する。これに対して、一対の調整線間の電圧は、こうしたフィルタを介さずに測定されるものであるため、バランシングスイッチのオンオフの切り替えに応じて素早く変化する。したがって、一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として用いることで、断線診断に要するバランシングスイッチの短絡時間を低減することができる。
具体的には、電池監視装置1は、二種類の診断方法のいずれかを用いて、電圧検出線の断線診断を行うことができる。以下では、二種類の診断方法のうち一方を第一の断線診断方法とし、もう一方を第二の断線診断方法として、それぞれ説明する。
最初に第一の断線診断方法について説明する。第一の断線診断方法では、バランシングスイッチBSW1〜BSWnのいずれかをオンし、このときの当該バランシングスイッチの両端電圧、すなわち当該バランシングスイッチが接続されている一対の調整線間の電圧を、断線診断用電圧として測定する。この断線診断用電圧に基づいて、当該バランシングスイッチに対応するセルの両端に接続されている電圧検出線の断線診断を行う。
セルBC1〜BCnのいずれかを放電するために、電池監視装置1において対応するバランシングスイッチをオンすると、当該セルの両端に接続されている電圧検出線が正常であれば、当該セルの両端間が電圧検出線および調整線を介して導通され、バランシング電流が流れる。このときのバランシングスイッチの両端電圧、すなわち調整線間の電圧をVとすると、Vの値は以下の式(1)により表される。式(1)において、Iはバランシング電流を表し、Rはバランシングスイッチのオン抵抗値を表している。
V=I×R ・・・(1)
しかし、電圧検出線が断線している場合は、セルBC1〜BCnのいずれかを放電するために対応するバランシングスイッチをオンしても、当該セルの両端間が導通されないため、バランシング電流が流れない。このときのバランシングスイッチの両端電圧、すなわち調整線間の電圧Vは、電流が流れていないために略0となる。
以上説明したように、電圧検出線が正常である場合と断線している場合とで、バランシングスイッチがオンであるときの調整線間の電圧に差異が生じる。したがって、第一の断線診断方法では、このバランシングスイッチが閉成状態であるときの一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定し、測定した電圧値に基づいて電圧検出線の断線診断を行う。具体的には、たとえば、セルコントローラ10により測定した断線診断用電圧をマイコン20に送信し、その電圧値が所定の閾値以下であるか否かをマイコン20において判断することで、電圧検出線が断線しているか否かを判定することができる。この判定に用いられる閾値は、式(1)で表される正常時の電圧Vよりも小さな値で設定することが好ましい。
なお、本実施形態では、AD変換器15として、所定の電圧幅(たとえば5V)のAD変換範囲を有しており、その中心電圧を複数の電圧の中から選択することで、AD変換範囲を切り替え可能なAD変換器を使用することができる。この場合、上記のように調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定する際には、測定精度を確保するために、AD変換器15のAD変換範囲をセル電圧の測定時から切り替えることが好ましい。この点について、図2に示すAD変換器15の入力レンジと電圧検出誤差の関係例を参照して、以下に説明する。
図2(a)は、AD変換器15のAD変換範囲が0V〜5Vの場合の入力レンジと電圧検出誤差の関係の一例を示している。図2(a)に示すように、AD変換範囲が0V〜5Vの場合は、その中心電圧の2.5V付近で電圧検出誤差が最小となり、0Vや5Vに近づくほど電圧検出誤差が大きくなる。したがって、一対の電圧測定線間の電圧をセル電圧として測定する際には、差動増幅器14による電圧変換後のセル電圧が図2(a)に示す電圧範囲内となるように、AD変換器15のAD変換範囲を0V〜5Vに設定することが好ましい。
図2(b)は、AD変換器15のAD変換範囲が−2.5V〜2.5Vの場合の入力レンジと電圧検出誤差の関係の一例を示している。図2(b)に示すように、AD変換範囲が−2.5V〜2.5Vの場合は、その中心電圧の0V付近で電圧検出誤差が最小となり、−2.5Vや2.5Vに近づくほど電圧検出誤差が大きくなる。したがって、一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定する際には、差動増幅器14による電圧変換後の断線診断用電圧が図2(b)に示す電圧範囲内となるように、AD変換器15のAD変換範囲を−2.5V〜2.5Vに設定することが好ましい。
以上説明したように、一対の電圧測定線間の電圧をセル電圧として測定する場合と、一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定する場合とで、それぞれの電圧範囲に応じてAD変換器15のAD変換範囲を変化させることが好ましい。これにより、断線診断用電圧の測定結果に基づいて、電圧検出線の正常時と断線時の違いを確実に検知することができる。その結果、断線診断をより一層正確に行うことができる。
続いて第二の断線診断方法について説明する。第二の断線診断方法では、バランシングスイッチBSW1〜BSWnのいずれかを所定の短絡時間だけオンした後にオフし、それから所定の待機時間を経過したときの当該バランシングスイッチの両端電圧、すなわち当該バランシングスイッチが接続されている一対の調整線間の電圧を、断線診断用電圧として測定する。この断線診断用電圧に基づいて、当該バランシングスイッチに対応するセルの両端に接続されている電圧検出線の断線診断を行う。
前述の第一の断線診断方法では、式(1)に示したバランシングスイッチのオン抵抗値Rが小さいと、得られる電圧Vの値が0に近くなるため、電圧検出線が断線しているか否かを正確に診断するのが困難となる。これは、バランシングスイッチのオン抵抗値Rを大きくしたり、セルコントローラ10内にバランシングスイッチと直列に抵抗を配置したりすることで解消できるが、これらの措置はセルコントローラ10の発熱を引き起こし、セルコントローラ10の誤作動や故障につながるおそれがある。また、セルコントローラ10の放熱を効率的に行うための放熱機構が必要となり、電池監視装置1の構造を複雑化してしまうという弊害もある。
そこで、第二の断線診断方法では、バランシングスイッチの開閉に伴って変化する一対の調整線間の電圧を測定する。これにより、バランシングスイッチのオン抵抗値Rが小さい場合であっても、電圧検出線が断線しているか否かを正確に診断できるようにする。
たとえば、セルBC1〜BCnのいずれかを放電するために、電池監視装置1において対応するバランシングスイッチをオフからオンに切り替えたとする。このとき、当該セルの両端に電圧検出線を介して接続されている一対の調整線間の電圧は、当該セルのセル電圧から前述の式(1)で求められる電圧Vへと変化する。その後、バランシングスイッチを再びオフにすると、電圧検出線が正常であれば速やかに元のセル電圧へと戻るが、電圧検出線が断線している場合は、周辺回路に応じて決定される時定数に応じて比較的ゆっくりと変化する。
上記のように、電圧検出線が正常である場合と断線している場合とで、バランシングスイッチをオンした後にオフしたときの調整線間の電圧変化速度に差異が生じる。したがって、第二の断線診断方法では、バランシングスイッチを閉じて開いてから所定の待機時間経過後の一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定し、測定した電圧値に基づいて電圧検出線の断線診断を行う。具体的には、たとえば、セルコントローラ10により測定した断線診断用電圧をマイコン20に送信し、その電圧値とセル電圧との差が所定の閾値以下であるか否かをマイコン20において判断することで、電圧検出線が断線しているか否かを判定することができる。
なお、第二の断線診断方法においても、第一の断線診断方法で説明したように、一対の電圧測定線間の電圧をセル電圧として測定する場合と、一対の調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定する場合とで、それぞれの電圧範囲に応じてAD変換器15のAD変換範囲を変化させてもよい。このとき、第一の断線診断方法におけるAD変換範囲と、第二の断線診断方法におけるAD変換範囲とを、それぞれ別のものとしてもよい。
次に、第一の断線診断方法および第二の断線診断方法の詳細について、図3および図4を参照して以下に説明する。図3は、電圧検出線が正常である場合の各調整線の電位変動の様子を示す図であり、図4は、電圧検出線が断線した場合の各調整線の電位変動の様子を示す図である。なお、図3、4では、複数のセルコントローラ10が直列に接続されており、そのうち互いに隣接する2つのセルコントローラ10の境界部分での挙動を例示している。
図3(b)、図4(b)に示すように、一方のセルコントローラ10は、上位側(高電位側)にあるセルBC1、BC2に接続されている。この上位側のセルコントローラ10において、セルBC1に対応する一対の調整線SW0、SW1間の電圧をV1とする。また、もう一方のセルコントローラ10は、下位側(低電位側)にあるセルBC11、BC12に接続されている。この下位側のセルコントローラ10において、セルBC12に対応する一対の調整線SW11、SW12間の電圧をV12とする。
電圧検出線が正常である場合は、図3(a)に示すように、時刻t1_onにおいてセルBC1に対応するバランシングスイッチBSW1をオンにすると、調整線SW0の電位が上昇すると共に、調整線SW1の電位が低下する。そして、調整線SW0、SW1間の時定数に応じて定まる所定の変動時間を経過すると、これらの電位が一定となる。このときの調整線SW0、SW1間の電圧V1(on)は、バランシングスイッチBSW1のオン抵抗値に応じて、前述の式(1)により決定される。
同様に、時刻t2_onにおいてセルBC12に対応するバランシングスイッチBSW12をオンにすると、調整線SW11の電位が上昇すると共に、調整線SW12の電位が低下する。そして、調整線SW11、SW12間の時定数に応じて定まる所定の変動時間を経過すると、これらの電位が一定となる。このときの調整線SW11、SW12間の電圧V12(on)は、バランシングスイッチBSW12のオン抵抗値に応じて、前述の式(1)により決定される。
一方、図4(b)に示すように、調整線SW0およびSW12と接続されている電圧検出線L0が断線していたとする。この場合は、図4(a)に示すように、時刻t1_onにおいてセルBC1に対応するバランシングスイッチBSW1をオンにすると、調整線SW0の電位は上昇するが、調整線SW1の電位は変化しない。そして、所定の変動時間を経過すると、これらの電位が略一致する。このときの調整線SW0、SW1間の電圧V1(on)は、電圧検出線L0の断線によりバランシング電流が流れないことから、前述のように略0となる。
同様に、時刻t2_onにおいてセルBC12に対応するバランシングスイッチBSW12をオンにすると、調整線SW12の電位は低下するが、調整線SW11の電位は変化しない。そして、所定の変動時間を経過すると、これらの電位が略一致する。このときの調整線SW11、SW12間の電圧V12(on)は、電圧検出線L0の断線によりバランシング電流が流れないことから、前述のように略0となる。
第一の断線診断方法では、以上説明したような正常時と断線時での電圧V1(on)、V12(on)の違いを利用して、電圧検出線L0の断線診断を行う。すなわち、セルBC1、BC12に対応するバランシングスイッチBSW1、BSW12をそれぞれオンしたときの電圧V1(on)、V12(on)を断線診断用電圧としてそれぞれ測定し、これらの測定値が略0であるか否かをそれぞれ判定することで、セルBC1およびBC12に接続されている電圧検出線L0の断線診断を行うことができる。
また、電圧検出線L0が正常である場合は、図3(a)に示すように、バランシングスイッチBSW1をオンにした後、時刻t1_offにおいてバランシングスイッチBSW1をオフにすると、調整線SW0の電位が低下すると共に、調整線SW1の電位が上昇する。そして、オン時と同様の変動時間を経過すると、これらの電位は、バランシングスイッチBSW1をオンする前の状態へとそれぞれ戻る。このときの調整線SW0、SW1間の電圧は、セルBC1のセル電圧を表している。なお、時刻t1_onから時刻t1_offまでの時間、すなわちバランシングスイッチBSW1の短絡時間は、上記の変動時間よりも長く設定することが好ましい。
ここで、バランシングスイッチBSW1をオフにしてから所定の待機時間Twを経過したときの時刻t1における調整線SW0、SW1間の電圧V1(t1)を測定すると、この電圧V1(t1)は、時刻t1_on以前の電圧V1、すなわちセルBC1のセル電圧にほぼ等しくなる。なお、待機時間Twは、上記の変動時間よりも長い値を設定することが好ましい。
同様に、バランシングスイッチBSW12をオンにした後、時刻t2_offにおいてバランシングスイッチBSW12をオフにすると、調整線SW11の電位が低下すると共に、調整線SW12の電位が上昇する。そして、オン時と同様の変動時間を経過すると、これらの電位は、バランシングスイッチBSW12をオンする前の状態へとそれぞれ戻る。このときの調整線SW11、SW12間の電圧は、セルBC12のセル電圧を表している。その後、バランシングスイッチBSW1をオフにしてから所定の待機時間Twを経過したときの時刻t2における調整線SW11、SW12間の電圧V12(t2)を測定すると、この電圧V12(t2)は、時刻t2_on以前の電圧V12、すなわちセルBC12のセル電圧にほぼ等しくなる。
一方、図4(b)に示すように、調整線SW0およびSW12と接続されている電圧検出線L0が断線している場合は、バランシングスイッチBSW1をオンにした後、時刻t1_offにおいてバランシングスイッチBSW1をオフにすると、調整線SW0の電位はフローティング状態となる。そのため、時刻t1_off後の調整線SW0の電位は、たとえば図4(a)において符号41、42または43のいずれかに示すように、正常時と比べてゆっくりと低下する。したがって、時刻t1における調整線SW0、SW1間の電圧V1(t1)は、正常時と比べて低くなる。
同様に、バランシングスイッチBSW12をオンにした後、時刻t2_offにおいてバランシングスイッチBSW12をオフにすると、調整線SW12の電位はフローティング状態となる。そのため、時刻t2_off後の調整線SW12の電位についても、たとえば符号41、42または43のいずれかに示すように、正常時と比べてゆっくりと低下する。したがって、時刻t2における調整線SW11、SW12間の電圧V12(t2)は、正常時と比べて低くなる。
第二の断線診断方法では、以上説明したような正常時と断線時での電圧V1(t1)、V12(t2)の違いを利用して、電圧検出線L0の断線診断を行う。すなわち、セルBC1、BC12に対応するバランシングスイッチBSW1、BSW12をそれぞれ所定の短絡時間だけオンしてからオフし、その後に所定の経過時間を経過したときの時刻t1、t2における電圧V1(t1)、V12(t2)を断線診断用電圧としてそれぞれ測定する。そして、これらの測定値と、セルBC1、BC12の各セル電圧とをそれぞれ比較することで、セルBC1およびBC12に接続されている電圧検出線L0の断線診断を行うことができる。なお、セルBC1、BC12の各セル電圧は、バランシングスイッチBSW1、BSW12をそれぞれオンする前の電圧V1、V12の測定値を用いてもよいし、前述のセル電圧測定機能を用いて測定した値を用いてもよい。
以上説明したように、第二の断線診断方法では、正常時と異常時で電圧値が大きく変化する電圧V1(t1)、V12(t2)を用いて、電圧検出線L0の断線診断を行う。そのため、正常時と異常時の差が比較的小さい電圧V1(on)、V12(on)を用いる第一の断線診断方法と比べて、診断能力を向上させることができる。
なお、上記の断線時における調整線の電位低下の早さは、断線部位の周辺回路の状況に応じて変化する。図4(b)に示すように電圧検出線L0が断線した場合、この電圧検出線L0は、調整線SW0およびSW12の他に、上位側のセルコントローラ10のグランド線GNDや、下位側のセルコントローラ10の電源端子に接続された電源ラインとも共用されている。したがってこの場合、バランシングスイッチBSW1をオフした後の調整線SW0の電位変化の早さや、バランシングスイッチBSW12をオフした後の調整線SW12の電位変化の早さは、主にセルコントローラ10の消費電流経路における電流やインピーダンスの大きさ等に応じて決定されることとなる。一方、他の電圧検出線、たとえば調整線SW1と接続されている電圧検出線L1が断線した場合は、主にセルコントローラ10内のリーク電流等に応じて、電圧検出線L1に接続されている調整線SW1の電位変化の早さが決定される。そのため、図4(b)に示す断線部位の場合は、他の断線部位の場合と比べて、調整線SW0や調整線SW12の電位が比較的早く低下することになり、正常時と異常時の判別が困難になることがある。
そこで、第二の断線診断方法では、図4(b)の断線部位に対応する電圧V1(t1)および電圧V12(t2)の両方を用いて、電圧検出線L0の断線診断を行ってもよい。具体的には、以下の式(2)により算出される電圧値Vd0に基づいて、セルBC1とセルBC12の間に接続されている電圧検出線L0が断線しているか否かを判断することができる。式(2)の電圧値Vd0は、電圧V1(t1)と電圧V12(t2)とを合計した電圧和V1(t1)+V12(t2)を求め、セルBC1のセル電圧V1とセルBC12のセル電圧V12との合計値であるV1+V12から、この電圧和V1(t1)+V12(t2)を減算した値を表している。式(2)で求められた電圧値Vd0が略0であれば、電圧検出線L0が正常と判断し、そうでない場合は異常、すなわち断線ありと判断することができる。
Vd0=V1+V12−{V1(t1)+V12(t2)} ・・・(2)
第二の断線診断方法では、以上説明したような診断方法により、さらに診断能力を向上させることができる。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)電池監視装置1は、セルBC1の正極と負極にそれぞれ接続された一対の電圧検出線L1、L0とそれぞれ接続された一対の電圧測定線SL1、SL0と、この電圧測定線SL1、SL0と並列に、一対の電圧検出線L1、L0とそれぞれ接続された一対の調整線SW1、SW0と、この一対の調整線SW1、SW0の間に接続されたバランシングスイッチBSW1とを備える。そして、一対の調整線SW1、SW0間の電圧V1に基づいて、電圧検出線L0の断線を診断する。このようにしたので、電圧検出線L0の断線診断を行うのに必要なバランシングスイッチBSW1の短絡時間を短縮し、電力損失を低減することができる。
(2)電池監視装置1は、第一の断線診断方法を用いて、電圧検出線L0の断線診断を行うことができる。この第一の断線診断方法では、バランシングスイッチBSW1が閉成状態であるときの一対の調整線SW1、SW0間の電圧V1(on)に基づいて、電圧検出線L0の断線を診断する。このようにしたので、正常時と断線時での電圧V1(on)の違いが比較的大きい場合は、容易に断線診断を行うことができる。
(3)また、電池監視装置1は、第二の断線診断方法を用いて、電圧検出線L0の断線診断を行うこともできる。この第二の断線診断方法では、バランシングスイッチBSW1を閉じて開いてから所定の待機時間Twを経過したときの一対の調整線SW1、SW0間の電圧V1(t1)に基づいて、電圧検出線L0の断線を診断する。このようにしたので、正常時と断線時での電圧V1(on)の違いが比較的小さいときでも、確実に断線診断を行うことができる。
(4)電池監視装置1は、電圧測定線SL1、SL0に接続された電圧測定用ノイズフィルタ回路40を備える。そのため、セルBC1のセル電圧の測定値からノイズを除去して、セル電圧を正確に測定することができる。
(5)電池監視装置1は、複数対の調整線および複数対のバランシングスイッチを備える。複数対の調整線は、直列に接続された2つのセルBC1、BC12のうち上位のセルBC1の正極に接続された電圧検出線L1と接続された調整線SW1と、下位のセルBC12の正極および上位のセルBC1の負極に接続された電圧検出線L0とそれぞれ接続された調整線SW0およびSW12と、下位のセルBC12の負極に接続された電圧検出線L11と接続された調整線SW11とを含む。また、複数のバランシングスイッチは、調整線SW1と調整線SW0の間に接続されたバランシングスイッチBSW1と、調整線SW12と調整線SW11の間に接続されたバランシングスイッチBSW12とを含む。この電池監視装置1は、第二の断線診断方法において、バランシングスイッチBSW1を閉じて開いてから待機時間Twを経過したときの調整線SW1と調整線SW0間の電圧V1(t1)と、バランシングスイッチBSW12を閉じて開いてから待機時間Twを経過したときの調整線SW12と調整線SW11間の電圧V12(t2)とを合計した電圧和V1(t1)+V12(t2)を求め、上位のセルBC1のセル電圧V1と下位のセルBC12のセル電圧V12との合計値V1+V12からこの電圧和V1(t1)+V12(t2)を減算した値Vd0に基づいて、電圧検出線L0の断線を診断することができる。このようにしたので、断線診断をより一層正確に行うことができる。
(6)電池監視装置1は、一対の電圧測定線間の電圧または一対の調整線間の電圧を所定のAD変換範囲内でアナログ値からデジタル値に変換するAD変換器15を備える。このAD変換器15は、一対の電圧測定線間の電圧を変換する場合と、一対の調整線間の電圧を変換する場合とで、AD変換範囲を変化させるようにしてもよい。このようにすれば、断線診断をより一層正確に行うことができる。
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係る電池監視装置の構成を示す図である。図5に示す電池監視装置1aは、図1に示した第1の実施形態に係る電池監視装置1と比べて、バランシング抵抗回路30に替えてバランシング用ノイズフィルタ回路30aを備える点が異なっている。
バランシング用ノイズフィルタ回路30aは、図1のバランシング抵抗回路30と同様に、調整線SW0〜SWnにそれぞれ接続されたバランシング抵抗RBを有している。さらに、バランシング抵抗RBに加えて、調整線SW0〜SWnのうち互いに隣接するもの同士の間にそれぞれ接続されたコンデンサCBを有している。このバランシング抵抗RBおよびコンデンサCBにより、各調整線間の電圧を断線診断用電圧として測定する際に、ノイズ成分を除去して測定を行うことができる。
ここで、電圧測定用ノイズフィルタ回路40の時定数は、ノイズを効果的に除去してセル電圧を精密に測定できるように、比較的大きく設定する必要がある。一方、断線診断用電圧の測定には、セル電圧の測定ほどの精密さは不要であるため、バランシング用ノイズフィルタ回路30aの時定数は、電圧測定用ノイズフィルタ回路40に比べて非常に小さくすることが可能である。また、断線診断時にバランシングスイッチをオンする時間を短縮して電力損失を低減するためにも、バランシング用ノイズフィルタ回路30aの時定数はなるべく小さいほうが好ましい。そのため、第2の実施形態では、電圧測定用ノイズフィルタ回路40の時定数がバランシング用ノイズフィルタ回路30aの時定数よりも大きくなるように、バランシング用ノイズフィルタ回路30aの時定数を設定することが好ましい。このようにすれば、セル電圧の測定と断線診断用電圧の測定とを、それぞれ効果的に行うことができる。
なお、以上では種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。