以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、燃料電池等の高分子電解質膜として、前記課題を克服すべく、鋭意検討を重ねた結果、イオン性基含有ポリマー(A)に、特定のりん含有添加剤(B)を配合することにより、高分子電解質組成物、特に燃料電池用高分子電解質膜として、低加湿条件下を含むプロトン伝導性と発電特性、製膜性などの加工性、耐酸化性、耐ラジカル性、耐加水分解性などの化学的安定性、膜の機械強度、耐熱水性などの物理的耐久性において優れた性能を発現でき、かかる課題を一挙に解決できることを究明するとともに、さらに種々の検討を加え、本発明を完成した。
すなわち、本発明の高分子電解質組成物は、少なくともイオン性基含有ポリマー(A)とりん含有添加剤(B)とを含有する高分子電解質組成物であって、りん含有添加剤(B)がホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするものである。
ここで、本発明で使用するりん含有添加剤について説明する。本発明において、ホスフィン化合物は一般式PR3で表される化合物、ホスフィナイト化合物は一般式PR2(OR)で表される化合物、ホスホナイト化合物は一般式PR(OR)2で表される化合物、ホスファイト(亜リン酸エステル)化合物は一般式P(OR)3で表される化合物と定義する(Rは有機基)。
これら3価リン含有化合物は、燃料電池運転中に、それぞれ対応する5価リンオキシド含有化合物、すなわち、ホスフィン化合物は一般式O=PR3で表されるホスフィンオキシド化合物、ホスフィナイト化合物は一般式O=PR2(OR)で表されるホスフィネート化合物、ホスホナイト化合物は一般式O=PR(OR)2で表されるホスホネート化合物、ホスファイト(亜リン酸エステル)化合物は一般式O=P(OR)3で表されるホスフェイト(リン酸)化合物、に酸化されている場合がある。
本発明の高分子電解質組成物に使用するりん含有添加剤(B)としては、スルホン酸基などの強酸性水溶液中でも加水分解されにくいこと、より疎水性で耐熱水性に優れることから、ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物から選ばれた少なくとも1種であることが必要であり、より好ましくは、ホスフィン化合物である。一方、従来材料であるホスホナイト化合物やホスファイト化合物は、もともと親水性で、耐熱水性に劣るだけでなく、酸化されたり、加水分解された場合にさらに親水性となったりするため、燃料電池運転中に効果を維持できず、十分な化学的安定性や耐久性を得ることができていなかった。
本発明において、添加剤とは、主として酸化防止剤を指し、例えば、シーエムシー出版の「高分子添加剤ハンドブック(6〜77ページ、2010年出版)」に記載のように、ヒドロキシラジカルや過酸化物ラジカルを発生させる触媒となる金属イオン(Fe2+、Cu2+など)を不活性化し、ラジカルによる連鎖反応の開始を阻害する「ラジカル連鎖開始阻害剤(金属不活性化剤)」としての機能、発生したヒドロキシラジカルや過酸化物ラジカルを不活性化させ、ヒドロキシラジカルや過酸化物ラジカルによる連鎖反応を抑制する「ラジカル捕捉剤」としての機能、過酸化水素が分解してラジカル化する反応を阻害する「過酸化物分解剤」としての機能、のうち少なくとも1種類以上の機能を備えている化合物と定義する。酸化防止剤は、分子量が2000未満の低分子型、または2000以上の高分子型のいずれであっても良い。耐溶出性の点から、高分子型がより好ましく、コストを考慮して適宜選択することができる。
このような機能を有する酸化防止剤としては、ホスファイト、チオエーテル、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノールなど様々な化合物が報告されているが、本発明においては、りん含有添加剤(B)として、ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物から選ばれた少なくとも1種を用いることにより、燃料電池運転中に膜外に溶出することなく、効果を維持でき、優れた化学的安定性や耐久性を得ることができた。
本発明における耐久性向上のメカニズムは十分に解明されていないが、発明者らは、ホスフィン化合物などの3価のリン原子が5価のリンオキシドに酸化されることで、過酸化物分解剤として機能するだけでなく、ホスフィン化合物はホスファイトに比べて、配位子としてより強い配位力を有し、電子供与性を示すことが知られており(例えば、ワイリー出版の「パラジウム リージェント アンド キャタリスト」、4ページに記載)、金属イオン(Fe2+、Cu2+など)に配位し、不活性化する金属不活性化剤としても機能するものと考えている。
本発明で使用するりん含有添加剤(B)は、一般式(C1)、(C2)、(C3)または(C4)で表されるホスフィン化合物、一般式(C1b)、(C2a)または(C2b)で表されるホスフィナイト化合物から選ばれた少なくとも1種である。本発明の高分子電解質組成物は、イオン性基含有ポリマー(A)にりん含有添加剤(B)を配合することで、高分子電解質膜として、優れた化学的安定性と耐久性を示す。
本発明で使用するりん含有添加剤(B)は、下記一般式(C1)で表されるホスフィン化合物、下記一般式(C2)で表されるホスフィン基を合計2個含有するホスフィン化合物(2座ホスフィン化合物)、下記一般式(C3)で表されるホスフィン基を合計3個含有するホスフィン化合物(3座ホスフィン化合物)、または下記一般式(C4)で表される4座ホスフィン基を合計4個含有するホスフィン化合物(4座ホスフィン化合物)、がホスフィン化合物として選ばれる。
(一般式(C1)において、R
1〜R
3は、一般式C
mH
n(mおよびnは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、もしくは、水素原子である。また、R
1〜R
3は、互いに同一でも異なっていてもよい。R
1〜R
3は、一般式(C1a)で表されるように、任意に結合して環構造を形成していても良い。)
(一般式(C2)において、R
4〜R
7は、一般式C
mH
n(mおよびnは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、もしくは、水素原子である。また、Z
1は一般式
C j H k (
jおよび
kは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基である。R
4〜R
7、Z
1は、互いに同一でも異なっていてもよい。R
4〜R
7、Z
1は、一般式(C1a)と同じように、任意に結合して環構造を形成していても良い。)
(一般式(C3)において、R
8〜R
12は、一般式C
mH
n(mおよびnは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、もしくは、水素原子である。また、Z
2、Z
3は一般式
C j H k (
jおよび
kは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基である。R
8〜R
12、Z
2、Z
3は、互いに同一でも異なっていてもよい。R
8〜R
12、Z
2、Z
3は、一般式(C1a)と同じように、任意に結合して環構造を形成していても良い。)
(一般式(C4)において、R
13〜R
18は、一般式C
mH
n(mおよびnは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、もしくは、水素原子である。また、Z
4〜Z
6は一般式
C j H k (
jおよび
kは整数)で表される直鎖、環状、あるいは分岐構造のある炭化水素基である。R
13〜R
18、Z
4〜Z
6は、互いに同一でも異なっていてもよい。R
13〜R
18、Z
4〜Z
6は、一般式(C1a)と同じように、任意に結合して環構造を形成していても良い。)
また、一般式(C1)〜(C4)で表されるホスフィン化合物において、1分子内にR1〜R18およびZ1〜Z6の1個が、アルコキシ基(RO−)やオキシアルコキシ基(−ORO−)となったホスフィナイト化合物も好適に使用できる。
ホスフィナイト化合
物としては、下記一般式(C1b)、(C2a)、(C2b)で表される化合物
から選ばれる。
(一般式(C1b),(C2a),(C2b)において、R
1〜R
7,Z
1は、上記一般式(C1),(C2)に記載されたR
1〜R
7,Z
1と同様の基を表す。)
なかでも、分子量が大きく、耐熱水性に優れており、キレート効果により金属不活性化剤としての効果が大きい、ホスフィン基、ホスフィナイト基から選ばれた少なくとも1種を合計2個以上含有する(2座以上の)、ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物であることが、りん含有添加剤(B)として好ましく、2〜4座の多座ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物がより好ましく、コストの点でより好ましくは、2座の多座ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物、耐加水分解性と耐熱水性の点で、最も好ましくは、2座の多座ホスフィン化合物である。りん含有添加剤(B)は、単独で使用することができるが、複数種類の添加剤を併用することも好適である。また、亜リン酸エステル(ホスファイト)、チオエーテル、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノールなど他の酸化防止剤と併用することも好適である。
一般式(C1)で表されるホスフィン化合物の好適な具体例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−s−ブチルホスフィン、トリ−i−ブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリノニルホスフィン、トリデシルホスフィン、ジシクロヘキシルエチルホスフィン、ジ−t−ブチルネオペンチルホスフィン、ジアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリアリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、フェニルホスフィン、トリルホスフィン、(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、ジトリルホスフィン、ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、ビス(トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、ジ−t−ブチルフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルトリルホスフィン、トリス(ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(トリメチルフェニル)ホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルトリルホスフィン、ジシクロヘキシル(トリメチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルビニルホスフィン、ジビニルフェニルホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、トリス(トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリトリルホスフィン、トリス[4−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8、8−トリデカフルオロオクチル)フェニル]ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリフリルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、プロピルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシル(メチルフェニル)ホスフィン、ジアリルフェニルホスフィン、ジフェニルトリメチルシリルホスフィン、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン、や下記式(C6)〜(C10)、(C16)〜(
C18)、(C20)〜(C29)、(C33)、(C34)、(C36)、(C37)、(C39)〜(C42)、(C63)〜(C71)、(C75)、(C77)〜(C79)にて表される化合物などが挙げられる。本発明の高分子電解質組成物が含有する一般式(C1)で表されるホスフィン化合物は、これらに限定されるものではない。
また、一般式(C2)で表される2座ホスフィン化合物の好適な具体例としては、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘプタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)オクタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ノナン、ビス(ジフェニルホスフィノ)デカン、ビス[ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、ビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン
、((ジフェニルホスフィノ)フェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン
、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(以降、BINAPと略称することがある。)、ビス(ジフェニルホスフィノメチル)ベンゼン
、フェニレンビホスフィン、テトラフェニルビホスフィンや下記式(C
98)
、(C99)、(C101)、(C106)、(C110)などが挙げられる。
一般式(C3)で表される3座ホスフィン化合物の好適な具体例としては、ビス(2−ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、ビス(2−ジシクロペンチルホスフィノエチル)シクロペンチルホスフィン、ビス(2−ジシクロヘキシルホスフィノエチル)シクロヘキシルホスフィン、トリス(ジフェニルホスフィノ−メチル)メタン、トリス(ジフェニルホスフィノ−エチル)メタン、トリス(ジフェニルホスフィノ−メチル)エタン、トリス(ジフェニルホスフィノ−エチル)エタン、トリス(ジフェニルホスフィノ−メチル)プロパン、トリス(ジフェニルホスフィノ−エチル)プロパンなどが挙げられる。
また、一般式(C4)で表される4座ホスフィン化合物の好適な具体例としては、トリス[2−(ジフェニルホスフィノ)エチル]ホスフィンなどが挙げられる。
これらホスフィン化合物の中でも、耐熱水性とコストの点で、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)オクタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ノナン、ビス(ジフェニルホスフィノ)デカン、ビス[ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、ビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン、((ジフェニルホスフィノ)フェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、BINAP、ビス(ジフェニルホスフィノメチル)ベンゼン、フェニレンビホスフィン、テトラフェニルビホスフィンがより好ましく、さらに好ましくは、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ビス[ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、((ジフェニルホスフィノ)フェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、BINAP、最も好ましくは、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、BINAPである。
さらに、ホスフィナイト化合物としては、例えば、メトキシジフェニルホスフィン、エトキシジフェニルホスフィン、ブトキシジフェニルホスフィン、下記式(C111)、(C112)で表される化合物などが挙げられる。また、2座ホスフィナイト化合物としては、3,5−ビス[(ジフェニルホスフィノ)オキシ]安息香酸エチルなどが挙げられる。
本発明で使用するりん含有添加剤(B)の含有量は、発電特性と耐久性のバランスを考慮し、高分子電解質組成物全体の0.02重量%以上、35重量%以下である。好ましくは、0.1重量%以上、5重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以上、3重量%以下である。0.02重量%未満である場合は、耐久性が不足する場合がある。また、35重量%を越える場合は、プロトン伝導性が不足する場合がある。
本発明の高分子電解質組成物としては、Ce、Mn、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Auから選ばれた少なくとも1種の遷移金属をさらに含有することも好ましい。これら遷移金属は、かかる遷移金属、かかる遷移金属のイオン、かかる遷移金属イオンを含む塩、かかる遷移金属の酸化物からなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。
なかでも、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤としての機能が高いことから、Ce、Mn、V、Mo、W、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Auを用いることが好ましく、より好ましくは、Ce、Mn、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、さらに好ましくは、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、最も好ましくは、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Auである。
本発明で使用する遷移金属の含有量は、発電特性と耐久性のバランスを考慮して適宜選択することができ、限定されるものではないが、高分子電解質組成物全体の0.02重量%以上、35重量%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは、0.1重量%以上、5重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以上、3重量%以下である。0.02重量%未満である場合は、耐久性が不足する場合があり好ましくない。また、35重量%を越える場合は、プロトン伝導性が不足する場合があり、好ましくない。
また、本発明で使用するりん含有添加剤(B)と遷移金属の含有比率も、発電特性と耐久性のバランスを考慮して適宜選択することができ、限定されるものではないが、リン/遷移金属のモル比率が、0.1以上、100以下であることがより好ましい。さらに好ましくは、1以上、20以下、最も好ましくは5以上、10以下である。リン/遷移金属のモル比率が0.1未満である場合は、プロトン伝導性や耐熱水性が不足する場合があり好ましくない。また、100を越える場合は、耐久性向上効果が小さくなる場合があり、好ましくない。
遷移金属イオンを含む塩としては、例えば+3価のセリウムイオンを含む塩、+4価のセリウムイオンを含む塩、+2価のマンガンイオンを含む塩、+3価のマンガンを含む塩等が挙げられる。+3価のセリウムイオンを含む塩としては、酢酸セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、硫酸セリウム等が挙げられる。+4価のセリウムイオンを含む塩としては、硫酸セリウム、硫酸四アンモニウムセリウム等が挙げられる。+2価のマンガンイオンを含む塩としては、酢酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。+3価のマンガンを含む塩としては、酢酸マンガン等が挙げられる。なかでも、酸化劣化を抑制する効果が高いことから、硝酸セリウム、硝酸マンガンを用いることが好ましい。
かかる遷移金属イオンは、単独で存在しても良いし、有機化合物、ポリマー等と配位した錯体として存在しても良い。なかでも、ホスフィン化合物等との錯体であると、使用中における添加剤の溶出が抑えられるという観点で好ましく、多座ホスフィン化合物を用いた場合に特に耐熱水性に優れた高分子電解質組成物となる。
また、遷移金属の酸化物としては、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化イリジウム、酸化鉛が挙げられる。なかでも、酸化劣化を抑制する効果が高いことから、酸化セリウム、酸化マンガンを用いることが好ましい。
本発明によれば、上記りん含有添加剤(B)成分は、単独で使用することができるが、複数種類の添加剤を併用することも可能である。本発明において、イオン性基含有ポリマー(A)にりん含有添加剤(B)を配合する方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。なかでも、量産性に優れるという観点で、(1)ないし(3)の方法を用いることがより好ましい。
(1)イオン性基含有ポリマー(A)の溶液または分散液に、りん含有添加剤(B)を溶解または分散させた後、得られた液を用いて製膜し、高分子電解質膜を作製する方法。
(2)りん含有添加剤(B)を溶解させた液を、イオン性基含有ポリマー(A)からなる高分子電解質膜に塗布する方法。
(3)りん含有添加剤(B)を溶解させた液に、イオン性基含有ポリマー(A)からなる高分子電解質膜を浸漬する方法。
次に、本発明に使用するイオン性基含有ポリマー(A)について説明する。
本発明で使用するイオン性基含有ポリマー(A)としては、発電特性と化学的安定性を両立できるものであれば、イオン性基含有パーフルオロ系ポリマーとイオン性基含有炭化水素系ポリマーのいずれでも良い。本発明において、イオン性基含有炭化水素系ポリマーとは、パーフルオロ系ポリマー以外のイオン性基を有するポリマーのことを意味している。ここで、パーフルオロ系ポリマーとは、該ポリマー中のアルキル基および/またはアルキレン基の水素の大部分または全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。本明細書においては、ポリマー中のアルキル基および/またはアルキレン基の水素の85%以上がフッ素原子で置換されたポリマーを、パーフルオロ系ポリマーと定義する。本発明のイオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーの代表例としては、Nafion(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製)およびアシプレックス(登録商標)(旭化成社製)などの市販品を挙げることができる。これらのイオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーの構造は下記一般式(N1)で表すことができる。ただし、本発明で使用するパーフルオロ系ポリマーはこれらに限定されるものではない。
(式(N1)中、n1、n2はそれぞれ独立に自然数を表す。k1およびk2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。)
これらイオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーは、非常に高価であり、ガスクロスオーバーが大きいという課題があるため、本発明で使用するイオン性基含有ポリマー(A)としては、機械強度、物理的耐久性、化学的安定性などの点から、主鎖に芳香環を有する炭化水素系ポリマーであって、イオン性基を有するものがより好ましい。中でも、エンジニアリングプラスチックとして使用されるような十分な機械強度および物理的耐久性を有するポリマーが好ましい。芳香環は炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいても良い。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもかまわない。芳香族ユニットは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、アリロキシ基等の炭化水素系基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン化アルキル基、カルボキシル基、ホスホン酸基、水酸基等、任意の置換基を有していても良い。
主鎖に芳香環を有するポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等のポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むものであり、特定のポリマー構造を限定するものではない。
これらのポリマーのなかでも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド等のポリマーが、機械強度、物理的耐久性、加工性および耐加水分解性の面からより好ましい。
なかでも、機械強度、物理的耐久性や製造コストの面から、芳香族ポリエーテル系重合体がさらに好ましい。主鎖骨格構造のパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質を有する点から、また引張強伸度、引裂強度および耐疲労性の点から、芳香族ポリエーテルケトン系重合体が特に好ましい。ここで、芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーとは、その分子鎖に少なくともエーテル結合およびケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホン、ポリエーテルケトンホスフィンオキシド、ポリエーテルケトンニトリルなどを含む。
本発明に使用するイオン性基含有ポリマー(A)としては、低加湿条件でのプロトン伝導性や発電特性の点から、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体であることがより好ましい。イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)、および前記セグメント間を連結するリンカー部位をそれぞれ1つ以上含有するブロック共重合体も好適な具体例である。
本発明において、セグメントとは、ブロック共重合体中の部分構造であって、1種類の繰り返し単位または複数種類の繰り返し単位の組合せからなるものであり、分子量が2000以上のものを表す。本発明で使用するブロック共重合体は、イオン性基を含有するセグメント(A1)とともに、イオン性基を含有しないセグメント(A2)を含有する。本発明においては、「イオン性基を含有しないセグメント」と記載するが、当該セグメント(A2)は本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲でイオン性基を少量含んでいても構わない。以下「イオン性基を含有しない」は同様の意味で用いる場合がある。
また、本発明において、リンカーとは、イオン性基を含有するセグメント(A1)と、イオン性基を含有しないセグメント(A2)との間を連結する部位であって、イオン性基を含有するセグメント(A1)やイオン性基を含有しないセグメント(A2)とは異なる化学構造を有する部位と定義する。このリンカーは、エーテル交換反応によるランダム化、セグメント切断、副反応を抑制しながら、異なるセグメントを連結することができるので、本発明で使用するブロック共重合体を得るために必要である。リンカーがない場合には、ランダム化等のセグメント切断が起こる場合があるために、本発明の効果が十分に得られない。
本発明で使用するイオン性基含有ポリマー(A)であるブロック共重合体は、2種類以上の互いに不相溶なセグメント鎖、すなわち、イオン性基を含有する親水性セグメントと、イオン性基を含有しない疎水性セグメントがリンカー部位により連結され、1つのポリマー鎖を形成したものである。ブロック共重合体においては、化学的に異なるセグメント鎖間の反発から生じる短距離相互作用により、それぞれのセグメント鎖からなるナノまたはミクロドメインに相分離し、セグメント鎖がお互いに共有結合していることから生じる長距離相互作用の効果により、各ドメインが特定の秩序を持って配置せしめられる。各セグメント鎖からなるドメインが集合して作り出す高次構造は、ナノまたはミクロ相分離構造と呼ばれ、高分子電解質膜のイオン伝導については、膜中におけるイオン伝導セグメントの空間配置、すなわち、ナノまたはミクロ相分離構造が重要になる。ここで、ドメインとは、1本または複数のポリマー鎖において、類似するセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
本発明に使用するイオン性基含有ポリマー(A)としては、なかでも、イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)、および前記セグメント間を連結するリンカー部位をそれぞれ1つ以上含有するブロック共重合体であって、イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)が、それぞれ下記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位を含有するものがさらに好ましい。
(一般式(S1)中、Ar
1〜Ar
4は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar
1および/またはAr
2はイオン性基を含有し、Ar
3およびAr
4はイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar
1〜Ar
4は任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
(一般式(S2)中、Ar
5〜Ar
8は任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar
5〜Ar
8は互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
下記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位を含有するブロック共重合体は、電子吸引性のケトン基で全てのアリーレン基が化学的に安定化されており、なおかつ、結晶性付与による強靱化、ガラス転移温度低下による柔軟化によって物理的耐久性が高く、高分子電解質組成物、特に高分子電解質膜として、低加湿条件下を含むプロトン伝導性と発電特性、製膜性などの加工性、耐酸化性、耐ラジカル性、耐加水分解性などの化学的安定性、膜の機械強度、耐熱水性などの物理的耐久性において優れた性能を発現できる。
本発明で使用するブロック共重合体は、化学構造として、イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)中に、それぞれ前記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位を含有させ、なおかつ、ポリマー高次構造として、ナノまたはミクロ相分離構造を制御することによって、化学的耐久性や物理的耐久性と優れたイオン伝導性、特に、低加湿条件下においても高いプロトン伝導性を実現することができる。
本発明で使用するブロック共重合体の化学構造、セグメント鎖長、分子量、イオン交換容量などを適宜選択することにより、高分子電解質材料の加工性、ドメインサイズ、結晶性/非晶性、機械強度、プロトン伝導性、寸法安定性等の諸特性を制御することが可能である。
ここで、Ar1〜Ar8として好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。Ar1および/またはAr2はイオン性基を含有し、Ar3およびAr4はイオン性基を含有しても含有しなくても良い。また、イオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、物理的耐久性の点でより好ましい。さらに、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp−フェニレン基とイオン性基を含有するp−フェニレン基である。
次に、本発明で使用するブロック共重合体について、好ましい具体例を挙げる。本発明で使用するブロック共重合体は、イオン性基を含有するセグメント(A1)がドメインを形成することで、高分子電解質材料や高分子電解質膜として、幅広い湿度条件で高プロトン伝導度を示す。
本発明で使用するブロック共重合体に使用されるイオン性基は、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。ここで、スルホン酸基は下記一般式(f1)で表される基、スルホンイミド基は下記一般式(f2)で表される基[一般式(f2)中、Rは任意の有機基を表す。]、硫酸基は下記一般式(f3)で表される基、ホスホン酸基は下記一般式(f4)で表される基、リン酸基は下記一般式(f5)または(f6)で表される基、カルボン酸基は下記一般式(f7)で表される基を意味する。
かかるイオン性基は、前記官能基(f1)〜(f7)が塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。好ましい金属イオンの具体例を挙げるとすれば、Li、Na、K、Rh、Mg、Ca、Sr、Ti、Al、Fe、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等が挙げられる。中でも、本発明に用いるブロック共重合体としては、安価で、容易にプロトン置換可能なNa、K、Liがより好ましく使用される。
これらのイオン性基は高分子電解質材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点からスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基から選ばれる少なくとも1種のイオン性基を有することがより好ましく、原料コストの点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
本発明で使用するブロック共重合体がスルホン酸基を有する場合、そのイオン交換容量は、プロトン伝導性と耐水性のバランスの点から、0.1〜5meq/gが好ましく、より好ましくは1.5meq/g以上、最も好ましくは2meq/g以上である。また、3.5meq/g以下がより好ましく、最も好ましくは3meq/g以下である。イオン交換容量が0.1meq/gより小さい場合には、プロトン伝導性が不足する場合があり、5meq/gより大きい場合には、耐水性が不足する場合がある。本明細書において、eqは当量を表す。
本発明で使用するブロック共重合体としては、イオン性基を含有するセグメント(A1)と、イオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比(A1/A2)が、0.2以上であることがより好ましく、0.33以上がさらに好ましく、0.5以上が最も好ましい。また、モル組成比(A1/A2)が5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が最も好ましい。モル組成比A1/A2が、0.2未満あるいは5を越える場合には、本発明の効果が不十分となる場合があり、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足する場合があるので好ましくない。
イオン性基を含有するセグメント(A1)のイオン交換容量は、低加湿条件下でのプロトン伝導性の点から、高いことが好ましく、より好ましくは2.5meq/g以上、さらに好ましくは、3meq/g以上、最も好ましくは3.5meq/g以上である。また、イオン交換容量は6.5meq/g以下がより好ましく、5meq/g以下がさらに好ましく、最も好ましいのは4.5meq/g以下である。イオン性基を含有するセグメント(A1)のイオン交換容量が2.5meq/g未満の場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足する場合があり、6.5meq/gを越える場合には、耐熱水性や物理的耐久性が不足する場合があるので好ましくない。
イオン性基を含有しないセグメント(A2)のイオン交換容量は、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から、低いことが好ましく、より好ましくは1meq/g以下、さらに好ましくは0.5meq/g、最も好ましくは0.1meq/g以下である。イオン性基を含有しないセグメント(A2)のイオン交換容量が1meq/gを越える場合には、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性が不足する場合があるので好ましくない。
ここで、イオン交換容量とは、ブロック共重合体、高分子電解質材料、および高分子電解質膜の単位乾燥重量当たりに導入されたスルホン酸基のモル量であり、この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。イオン交換容量は、元素分析、中和滴定法等により測定が可能である。元素分析法を用い、S/C比から算出することもできるが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは測定することが難しい。従って、本発明においては、イオン交換容量は、中和滴定法により求めた値と定義する。本発明の高分子電解質組成物、および高分子電解質膜は、後述するように本発明で使用するブロック共重合体とそれ以外の成分からなる複合体である態様を含むが、その場合もイオン交換容量は複合体の全体量を基準として求めるものとする。
中和滴定の測定例は、以下のとおりである。測定は3回以上行ってその平均値を取るものとする。
(1)プロトン置換し、純粋で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求める。
(2)電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換する。
(3)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定する。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とする。
(4)イオン交換容量は下記の式により求める。
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
本発明で使用するブロック共重合体を得るためにイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法が挙げられる。
イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法としては、繰り返し単位中にイオン性基を有したモノマーを用いればよい。かかる方法は例えば、ジャーナル オブ メンブレン サイエンス(Journal of Membrane Science),197,2002,p.231-242に記載がある。この方法はポリマーのイオン交換容量の制御、工業的にも適用が容易であり、特に好ましい。
高分子反応でイオン性基を導入する方法について例を挙げて説明する。芳香族系高分子へのホスホン酸基導入は、例えば、ポリマープレプリンツ(Polymer Preprints, Japan),51,2002,p.750等に記載の方法によって可能である。芳香族系高分子へのリン酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族系高分子のリン酸エステル化によって可能である。芳香族系高分子へのカルボン酸基導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有する芳香族系高分子を酸化することによって可能である。芳香族系高分子への硫酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族系高分子の硫酸エステル化によって可能である。芳香族系高分子をスルホン化する方法、すなわちスルホン酸基を導入する方法としては、たとえば日本国特開平2−16126号公報あるいは日本国特開平2−208322号公報等に記載の方法を用いることができる。
具体的には、例えば、芳香族系高分子をクロロホルム等の溶媒中でクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応させたりすることによりスルホン化することができる。スルホン化剤には芳香族系高分子をスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族系高分子をスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により、制御することができる。芳香族系高分子へのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基とスルホンアミド基を反応させる方法によって可能である。
イオン性基を含有しないセグメント(A2)としては、化学的に安定な上、強い分子間凝集力から結晶性を示す構成単位がより好ましく、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性に優れたブロック共重合体を得ることができる。
イオン性基を含有しないセグメント(A2)が含有する前記一般式(S2)で表される構成単位のより好ましい具体例としては、原料入手性の点で、下記一般式(P1)で表される構成単位が挙げられる。中でも、結晶性による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から、下記式(S3)で表される構成単位がさらに好ましい。イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S2)で表される構成単位の含有量としては、より多い方が好ましく、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。含有量が20モル%未満である場合には、結晶性による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性に対する本発明の効果が不足する場合があり好ましくない。
(式(P1)(S3)において、*は、式(P1)(S3)または他の構成単位との結合部位を表す。)
イオン性基を含有しないセグメント(A2)として、一般式(S2)で表される構成単位以外に共重合せしめる構成単位の好ましい例は、ケトン基を含む芳香族ポリエーテル系重合体、すなわち、下記一般式(Q1)で示される構成単位を有するもので、イオン性基を含有しないものが挙げられる。
(一般式(Q1)中のZ
1、Z
2は芳香環を含む2価の有機基を表し、それぞれが2種類以上の基を表しても良いが、イオン性基は含まない。aおよびbはそれぞれ独立に正の整数を表す。)
一般式(Q1)中のZ
1およびZ
2として好ましい有機基としては、Z
1がフェニレン基、かつ、Z
2が下記一般式(X−1)、(X−2)、(X−4)、(X−5)から選ばれた少なくとも1種であることがより好ましい。また、イオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方が結晶性付与の点でより好ましい。Z
1およびZ
2としては、さらに好ましくはフェニレン基、最も好ましくはp−フェニレン基である
(一般式(X−1)、(X−2)、(X−4)、(X−5)で表される基は、イオン性基以外の基で任意に置換されていてもよい。)
前記一般式(Q1)で示される構成単位の好適な具体例としては、下記一般式(Q2)〜(Q7)で示される構成単位などを挙げることができるが、これらに限定されることなく、結晶性や機械強度を考慮して適宜選択することが可能である。なかでも、結晶性と製造コストの点から、前記一般式(Q1)で示される構成単位としては、下記一般式(Q2)、(Q3)、(Q6)、(Q7)がより好ましく、前記一般式(Q2)、(Q7)が最も好ましい。
(一般式(Q2)〜(Q7)は、全てパラ位で表しているが、結晶性を有するものであれば、オルト位やメタ位等他の結合位置を含んでも構わない。ただし、結晶性の観点からパラ位がより好ましい。)
イオン性基を含有するセグメント(A1)としては、化学的に安定で、電子吸引効果により酸性度が高められ、スルホン酸基が高密度に導入された構成単位がより好ましく、低加湿条件下のプロトン伝導性に優れたブロック共重合体を得ることができる。
イオン性基を含有するセグメント(A1)が含有する前記一般式(S1)で表される構成単位のより好ましい具体例としては、原料入手性の点で、下記一般式(P2)で表される構成単位が挙げられる。中でも、原料入手性と重合性の点から、下記式(P3)で表される構成単位がさらに好ましく、下記式(S4)で表される構成単位が最も好ましい。イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S1)で表される構成単位の含有量としては、より多い方が好ましく、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。含有量が20モル%未満である場合には、化学的安定性と低加湿条件下でのプロトン伝導性に対する本発明の効果が不足する場合があり好ましくない。
(式(P2)(P3)(S4)中、M
1〜M
4は、水素、金属カチオン、アンモニウムカチオンNR
4+(Rは任意の有機基)を表し、M
1〜M
4は2種類以上の基を表しても良い。また、r1〜r4は、それぞれ独立に0〜2の整数、r1+r2は1〜8の整数を表し、r1〜r4は2種類以上の数値を表しても良い。*は式(P2)(P3)(S4)または他の構成単位との結合部位を表す。)
イオン性基を含有するセグメント(A1)として、前記一般式(S1)で表される構成単位以外に共重合せしめる構成単位の好ましい例は、ケトン基を含む芳香族ポリエーテル系重合体で、イオン性基を含有するものが挙げられる。
本発明に使用するイオン性基を含有するセグメント(A1)の合成方法については、実質的に十分な分子量が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族活性ジハライド化合物と2価フェノール化合物の芳香族求核置換反応、またはハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。
イオン性基を含有するセグメント(A1)の合成に用いる芳香族活性ジハライド化合物として、芳香族活性ジハライド化合物にイオン酸基を導入した化合物をモノマーとして用いることは、化学的安定性、製造コスト、イオン性基の量を精密制御が可能な点から好ましい。イオン性基としてスルホン酸基を有するモノマーの好適な具体例としては、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジクロロジフェニルケトン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルケトン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも化学的安定性と物理的耐久性の点から、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジクロロジフェニルケトン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
プロトン伝導度および耐加水分解性の点からイオン性基としてはスルホン酸基が最も好ましいが、本発明に使用されるイオン性基を有するモノマーは他のイオン性基を有していても構わない。
イオン性基を有するモノマーとして、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジクロロジフェニルケトン、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルケトンを用いて合成したイオン性基を含有するセグメント(A1)としては、下記一般式(p1)で表される構成単位をさらに含むものとなり、好ましく用いられる。該芳香族ポリエーテル系重合体は、ケトン基の有する高い結晶性の特性に加え、スルホン基よりも耐熱水性に優れる成分となり、高温高湿度条件での寸法安定性、機械強度、物理的耐久性に優れた材料に有効な成分となるのでさらに好ましく用いられる。これらのスルホン酸基は重合の際には、スルホン酸基が1価カチオン種との塩になっていることが好ましい。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
(一般式(p1)中、M
1およびM
2は水素、金属カチオン、アンモニウムカチオンNR
4+(Rは任意の有機基)、a1およびa2は1〜4の整数を表す。一般式(p1)で表される構成単位は任意に置換されていてもよい。)
また、芳香族活性ジハライド化合物としては、イオン性基を有するものと有しないものを共重合することで、イオン性基密度を制御することも可能である。しかしながら、本発明で使用するイオン性基を含有するセグメント(A1)としては、プロトン伝導パスの連続性確保の観点から、イオン性基を持たない芳香族活性ジハライド化合物を共重合しないことがより好ましい。
イオン性基を持たない芳香族活性ジハライド化合物のより好適な具体例としては、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4'−ジクロロジフェニルケトン、4,4'−ジフルオロジフェニルケトン、4,4'−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4'−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。中でも4,4'−ジクロロジフェニルケトン、4,4'−ジフルオロジフェニルケトンが結晶性付与、機械強度や物理的耐久性、耐熱水性の点からより好ましく、重合活性の点から4,4'−ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
芳香族活性ジハライド化合物として、4,4'−ジクロロジフェニルケトン、4,4'−ジフルオロジフェニルケトンを用いて合成したブロック共重合体としては、下記一般式(p2)で表される構成部位をさらに含むものとなり、好ましく用いられる。該構成単位は分子間凝集力や結晶性を付与する成分となり、高温高湿度条件での寸法安定性、機械強度、物理的耐久性に優れた材料となるので好ましく用いられる。
(一般式(p2)で表される構成単位は任意に置換されていてもよいが、イオン性基は含有しない。)
また、共重合することができるイオン性基を有しないモノマーとして、ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができる。ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物としても特に制限されることはないが、4−ヒドロキシ−4'−クロロベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4'−フルオロベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4'−クロロジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4'−フルオロジフェニルスルホン、4−(4'−ヒドロキシビフェニル)(4−クロロフェニル)スルホン、4−(4'−ヒドロキシビフェニル)(4−フルオロフェニル)スルホン、4−(4'−ヒドロキシビフェニル)(4−クロロフェニル)ケトン、4−(4'−ヒドロキシビフェニル)(4−フルオロフェニル)ケトン、等を例として挙げることができる。これらは、単独で使用することができるほか、2種以上の混合物として使用することもできる。さらに、活性化ジハロゲン化芳香族化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物の反応においてこれらのハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を共に反応させて芳香族ポリエーテル系化合物を合成しても良い。
イオン性基を含有するセグメント(A1)として、前記一般式(S1)で表される構成単位以外に共重合せしめる構成単位の好ましい例としては、前記一般式(p1)および(p2)で表される構成単位を含有する下記一般式(T1)および(T2)で表される構成単位からなる芳香族ポリエーテルケトン系共重合体が特に好ましい。
(一般式(T1)および(T2)中、Aは芳香環を含む2価の有機基、M
5およびM
6は水素、金属カチオン、アンモニウムカチオンNR
4+(Rは任意の有機基)を表し、Aは2種類以上の基を表しても良い。)
一般式(T1)と(T2)で表される構成単位の組成比を変えることで、イオン交換容量を制御することが可能である。前記一般式(p1)、(T1)および(T2)で表わされる構成単位の量を、p1,T1およびT2とするとき、T1とT2の合計モル量を基準として、p1の導入量としては、好ましくは75モル%以上、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。p1の導入量が75モル%未満である場合には、プロトン伝導バスの構築が不十分となる場合があり好ましくない。
ここで、一般式(T1)および(T2)中の芳香環を含む2価の有機基Aとしては、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合に用いることができる各種2価フェノール化合物を使用することができ、特に限定されるものではない。また、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸基が導入されたものをモノマーとして用いることもできる。
イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)の数平均分子量は、相分離構造のドメインサイズに関係し、低加湿でのプロトン伝導性と物理的耐久性のバランスから、それぞれ0.5万以上がより好ましく、さらに好ましくは1万以上、最も好ましくは1.5万以上である。また、5万以下がより好ましく、さらに好ましくは、4万以下、最も好ましくは3万以下である。
本発明の高分子電解質組成物は、特に、高分子電解質成型体として好適に用いられる。本明細書において高分子電解質成型体とは、本発明の高分子電解質組成物を含有する成型体を意味する。高分子電解質成型体としては、膜類(フィルムおよびフィルム状のものを含む)の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状、微多孔状、コーティング類、発泡体類など、使用用途によって様々な形態をとりうる。ポリマーの設計自由度の向上および機械特性や耐溶剤性等の各種特性の向上が図れることから、幅広い用途に適応可能である。特に高分子電解質成型体が膜類であるときに好適である。
本発明の高分子電解質組成物を固体高分子型燃料電池用として使用する際には、高分子電解質膜および電極触媒層などが好適である。中でも高分子電解質膜に好適に用いられる。固体高分子型燃料電池用として使用する場合、通常、膜の状態で高分子電解質膜や電極触媒層バインダーとして使用されるからである。本発明の高分子電解質組成物は、高い化学的安定性を有しており、電気化学反応が近くで起こる電極触媒層バインダーにも特に好適に使用できる。
高分子電解質成型体は、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、太陽電池用膜、ガスバリアー材料に適用可能である。また、人工筋肉、アクチュエーター材料としても好適である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池が最も好ましい。
次に、本発明の高分子電解質膜を得るための製造方法について具体的に説明する。
従来のイオン性基を含有するセグメント、イオン性基を含有しないセグメント、およびセグメント間を連結するリンカー部位からなるブロック共重合体は、重合時や製膜時に溶剤可溶性が必要という合成上の制限から、イオン性基を含有するセグメントだけでなく、イオン性基を含有しないセグメントも溶解性のある非晶性ポリマーで構成されていた。これらイオン性基を含有しない非晶性セグメントは、ポリマー分子鎖の凝集力に乏しいため、膜状に成型された場合に靭性が不足したり、イオン性基を含有するセグメントの膨潤を抑えきれず、十分な機械強度や物理的耐久性を達成することができなかった。また、イオン性基の熱分解温度の問題から、通常キャスト成型が用いられるため、溶解性の乏しい結晶性ポリマーでは、均一で強靱な膜を得ることはできなかった。
本発明の高分子電解質膜は、イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上有するブロック共重合体から構成される。当該イオン性基を含有しないセグメント(A2)は、結晶性を示すセグメントであるため、少なくともイオン性基を含有しないセグメント(A2)に保護基を導入したブロック共重合体前駆体を製膜した後、膜に含有される該保護基の少なくとも一部を脱保護せしめることにより製造することが出来る。ブロック共重合体では、ランダム共重合体よりも、ドメインを形成したポリマーの結晶化により、加工性が不良となる傾向があるので、少なくともイオン性基を含有しないセグメント(A2)に保護基を導入し、加工性を向上させることが好ましく、イオン性基を含有するセグメント(A1)についても、加工性が不良となる場合には保護基を導入することが好ましい。
本発明に使用する保護基の具体例としては、有機合成で一般的に用いられる保護基が挙げられ、該保護基とは、後の段階で除去することを前提に、一時的に導入される置換基であり、反応性の高い官能基を保護し、その後の反応に対して不活性とするものであり、反応後に脱保護して元の官能基に戻すことのできるものである。すなわち、保護される官能基と対となるものであり、例えばt−ブチル基を水酸基の保護基として用いる場合があるが、同じt−ブチル基がアルキレン鎖に導入されている場合は、これを保護基とは呼ばない。保護基を導入する反応を保護(反応)、除去する反応を脱保護(反応)と呼称される。
このような保護反応としては、例えば、セオドア・ダブリュー・グリーン(Theodora W. Greene)、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)、米国、ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, Inc)、1981、に詳しく記載されており、これらが好ましく使用できる。保護反応および脱保護反応の反応性や収率、保護基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において保護基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
保護反応の具体例を挙げるとすれば、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタール、で保護/脱保護する方法が挙げられる。これらの方法については、前記「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)のチャプター4に記載されている。また、スルホン酸と可溶性エステル誘導体との間で保護/脱保護する方法、芳香環に可溶性基としてt−ブチル基を導入および酸で脱t−ブチル化して保護/脱保護する方法等が挙げられる。しかしながら、これらに限定されることなく、保護基であれば好ましく使用できる。一般的な溶剤に対する溶解性を向上させる点では、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が保護基として好ましく用いられる。
保護反応としては、反応性や安定性の点で、さらに好ましくは、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタール、で保護/脱保護する方法である。本発明の高分子電解質組成物および高分子電解質膜に用いられるイオン性基含有ポリマー(A)において、保護基を含む構成単位として、より好ましくは下記一般式(U1)および(U2)から選ばれる少なくとも1種を含有するものである。
(式(U1)および(U2)において、Ar
9〜Ar
12は任意の2価のアリーレン基、R
1およびR
2はHおよびアルキル基から選ばれた少なくとも1種の基、R
3は任意のアルキレン基、EはOまたはSを表し、それぞれが2種類以上の基を表しても良い。式(U1)および(U2)で表される基は任意に置換されていてもよい。*は一般式(U1),(U2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
なかでも、化合物の臭いや反応性、安定性等の点で、前記一般式(U1)および(U2)において、EがOである、すなわち、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法が最も好ましい。
一般式(U1)中のR1およびR2としては、安定性の点でアルキル基であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、最も好ましく炭素数1〜3のアルキル基である。また、一般式(U2)中のR3としては、安定性の点で炭素数1〜7のアルキレン基、すなわち、Cn1H2n1(n1は1〜7の整数)で表される基であることがより好ましく、最も好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。R3の具体例としては、−CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、−CH(CH3)CH(CH3)−、−C(CH3)2CH2−、−C(CH3)2CH(CH3)−、−C(CH3)2O(CH3)2−、−CH2CH2CH2−、−CH2C(CH3)2CH2−等があげられるが、これらに限定されるものではない。
前記一般式(U1)および(U2)で表される構成単位のなかでも、耐加水分解性などの安定性の点から少なくとも前記一般式(U2)を有するものがより好ましく用いられる。さらに、前記一般式(U2)のR3としては、安定性、合成の容易さの点から−CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、または−CH2CH2CH2−から選ばれた少なくとも1種であることが最も好ましい。
前記一般式(U1)および(U2)中のAr9〜Ar12として好ましい有機基は、フェニレン基、ナフチレン基、またはビフェニレン基である。これらは任意に置換されていてもよい。本発明で使用するブロック共重合体としては、溶解性および原料入手の容易さから、前記一般式(U2)中のAr11およびAr12が共にフェニレン基であることがより好ましく、最も好ましくはAr11およびAr12が共にp−フェニレン基である。
本発明において、ケトン部位をケタールで保護する方法としては、ケトン基を有する前駆体化合物を、酸触媒存在下で1官能および/または2官能アルコールと反応させる方法が挙げられる。例えば、ケトン前駆体の4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノンと1官能および/または2官能アルコール、脂肪族又は芳香族炭化水素などの溶媒中で臭化水素などの酸触媒の存在下で反応させることによって製造できる。アルコールは炭素数1〜20の脂肪族アルコールである。本発明に使用するケタールモノマーを製造するための改良法は、ケトン前駆体の4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノンと2官能アルコールをアルキルオルトエステル及び固体触媒の存在下に反応させることからなる。
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではない。前記脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械強度、物理的耐久性、耐溶剤性の観点からは、膜等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
ポリマーに対して必要な酸性水溶液の重量比は、好ましくは1〜100倍であるが更に大量の水を使用することもできる。酸触媒は好ましくは存在する水の0.1〜50重量%の濃度において使用する。好適な酸触媒としては塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、硫酸などのような強鉱酸(強無機酸)、及びp−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのような強有機酸が挙げられる。ポリマーの膜厚等に応じて、酸触媒及び過剰水の量、反応圧力などは適宜選択できる。
例えば、膜厚25μmの膜であれば、6N塩酸水溶液、5重量%硫酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、室温〜95℃で1〜48時間加熱することにより、容易にほぼ全量を脱保護することが可能である。また、25℃の1N塩酸水溶液に24時間浸漬しても、実質的に全ての保護基を脱保護することは可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、酸性ガス、有機酸、熱処理によって脱保護しても構わない。
本発明に使用されるセグメントを得るために行う芳香族求核置換反応によるオリゴマー合成は、前記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。また、フェノキシドの求核性を高めるために、18−クラウン−6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。これらクラウンエーテル類は、スルホン酸基のナトリウムイオンやカリウムイオンに配位して有機溶媒に対する溶解性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃〜約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。普通の共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、シクロヘキサンなどが含まれる。もちろん、その沸点が用いた双極性溶媒の沸点よりも低いような共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することにより反応させることができる。
このようにして得られる本発明で使用するイオン性基含有ポリマー(A)の分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で、0.1万〜500万、好ましくは1万〜50万である。0.1万未満では、成型した膜にクラックが発生するなど機械強度、物理的耐久性、耐溶剤性のいずれかが不十分な場合がある。一方、500万を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になるなどの問題がある。
なお、本発明で使用するイオン性基含有ポリマーの化学構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030〜1,045cm-1、1,160〜1,190cm-1のS=O吸収、1,130〜1,250cm-1のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸基の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、例えば6.8〜8.0ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。また、溶液13C−NMRや固体13C−NMRによって、スルホン酸基の付く位置や並び方を確認することができる。
本発明で使用するブロック共重合体は、透過型電子顕微鏡観察によって共連続な相分離構造を観察することができる。ブロック共重合体の相分離構造、つまりイオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)の凝集状態およびその形状を制御することによって、低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を実現できる。相分離構造は透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等によって分析することが可能である。
本発明の高分子電解質組成物において、りん含有添加剤は、その極性(親水性や疎水性)を適宜選択することにより、イオン性基を有するセグメントが形成する親水性ドメイン、イオン性基を有さないセグメントが形成する疎水性ドメインに、りん含有添加剤を集中して配置させることが可能である。ヒドロキシラジカルや過酸化水素は、通常親水性が高く、イオン性基を有するセグメントが形成する親水性ドメインに存在して、当該セグメントを切断すると考えられている。従って、親水性の酸化防止剤は、イオン性基を有するセグメントを安定化するために有効である。一方、イオン性基を有さないセグメントが形成する疎水性ドメインは、機械強度を担う成分であるため、疎水性の酸化防止剤を配置させることにより、物理的耐久性を向上する効果があると考えられる。これらは、必要に応じて、併用することも好適である。
本発明で使用するブロック共重合体としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を5万倍で行った場合に、相分離構造が観察され、画像処理により計測した平均層間距離または平均粒子間距離が8nm以上、100nm以下であるものが好ましい。中でも、平均層間距離または平均粒子間距離が10nm以上、50nm以下がより好ましく、最も好ましくは15nm以上、30nm以下である。透過型電子顕微鏡によって相分離構造が観察されない、または、平均層間距離または平均粒子間距離が8nm未満である場合には、イオンチャンネルの連続性が不足し、伝導度が不足する場合があるので好ましくない。また、層間距離が5000nmを越える場合には、機械強度や寸法安定性が不良となる場合があり、好ましくない。
本発明で使用するブロック共重合体は、好ましくは相分離構造を有しながら、結晶性を有することを特徴とし、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって結晶性が認められる。すなわち、示差走査熱量分析法によって測定される結晶化熱量が好ましくは0.1J/g以上、または、広角X線回折によって測定される結晶化度が好ましくは0.5%以上であるブロック共重合体である。
本発明において、「結晶性を有する」とはポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化していることを意味する。また、非晶性ポリマーとは、結晶性ポリマーではない、実質的に結晶化が進行しないポリマーを意味する。従って、結晶性ポリマーであっても、結晶化が十分に進行していない場合には、ポリマーの状態としては非晶状態である場合がある。
本発明の高分子電解質組成物を高分子電解質膜に成型する方法に特に制限はないが、ケタール等の保護基を有する段階で、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該高分子電解質材料をN−メチル−2−ピロリドン等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
製膜に用いる溶媒としては、高分子電解質組成物を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。また、イオン性基を含有するセグメント(A1)の溶解性を高めるために、18−クラウン−6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。
また、本発明において、ブロック共重合を使用する場合には、溶媒の選択は相分離構造に対して重要であり、非プロトン性極性溶媒と極性の低い溶媒を混合して使用することも好適な方法である。
必要な固形分濃度に調製したポリマー溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過などに供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下が好ましい。濾過を行わないと異物の混入を許すこととなり、膜破れが発生したり、耐久性が不十分となるので好ましくない。
次いで、得られた高分子電解質膜はイオン性基の少なくとも一部を金属塩の状態で熱処理することが好ましい。用いる高分子電解質組成物が重合時に金属塩の状態で重合するものであれば、そのまま製膜、熱処理することが好ましい。金属塩の金属はスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。
この熱処理の温度は好ましくは80〜350℃、さらに好ましくは100〜200℃、特に好ましくは120〜150℃である。熱処理時間は、好ましくは10秒〜12時間、さらに好ましくは30秒〜6時間、特に好ましくは1分〜1時間である。熱処理温度が低すぎると、機械強度や物理的耐久性が不足する場合がある。一方、高すぎると膜材料の化学的分解が進行する場合がある。熱処理時間が10秒未満であると熱処理の効果が不足する。一方、12時間を超えると膜材料の劣化を生じやすくなる。熱処理により得られた高分子電解質膜は必要に応じて酸性水溶液に浸漬することによりプロトン置換することができる。この方法で成形することによって本発明の高分子電解質膜はプロトン伝導度と物理的耐久性をより良好なバランスで両立することが可能となる。
本発明で使用される高分子電解質組成物を膜へ転化する方法としては、該高分子電解質組成物から構成される膜を前記手法により作製後、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とするものである。この方法によれば、溶解性に乏しいイオン性基を含有しないブロックを含むブロック共重合体の溶液製膜が可能となり、プロトン伝導性と機械強度、物理的耐久性を両立することができる。
本発明の高分子電解質膜の膜厚としては、好ましくは1〜2000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の機械強度、物理的耐久性を得るには1μmより厚い方がより好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。かかる膜厚のさらに好ましい範囲は3〜50μm、特に好ましい範囲は10〜30μmである。かかる膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができる。
また、本発明によって得られる高分子電解質膜には、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内でさらに添加することができる。
また、本発明によって得られる高分子電解質膜には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強しても良い。
固体高分子型燃料電池は、電解質膜として水素イオン伝導性高分子電解質膜を用い、その両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造となっている。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、電極−電解質膜接合体(MEA)と称されている。
この触媒層付電解質膜の製造方法としては、電解質膜表面に、触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物を塗布及び乾燥させるという塗布方式が一般的に行われている。しかし、この塗布方式であると、電解膜がペーストに含まれる水、アルコール等の溶剤により膨潤変形してしまい、電解質膜表面に所望の触媒層が形成しにくい問題が生じている。また、乾燥させる工程で、電解膜も高温に曝してしまうため、電解膜が熱膨張等を起こし、変形する問題も生じている。この問題を克服するために、予め触媒層のみを基材上に作製し、この触媒層を転写することにより、触媒層を電解質膜上に積層させる方法(転写法)が提案されている(例えば、日本国特開2009−9910号公報)。
本発明によって得られる高分子電解質膜は、結晶性により、強靱で耐溶剤性に優れるため、前記塗布方式、転写法のいずれの場合であっても、触媒層付電解質膜としても特に好適に使用できる。
加熱プレスにより、MEAを作製する場合は、特に制限はなく、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, p.269.記載の化学メッキ法、電気化学協会編(J. Electrochem. Soc.)、エレクトロケミカル サイエンス アンド テクノロジー (Electrochemical Science and Technology),1988, 135, 9, p.2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。
加熱プレスにより一体化する場合は、その温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。具体的なプレス方法としては圧力やクリアランスを規定したロールプレスや、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から0℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。加圧は電解質膜や電極保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましく、加熱プレス工程による複合化を実施せずに電極と電解質膜を重ね合わせ燃料電池セル化することもアノード、カソード電極の短絡防止の観点から好ましい選択肢の一つである。この方法の場合、燃料電池として発電を繰り返した場合、短絡箇所が原因と推測される電解質膜の劣化が抑制される傾向があり、燃料電池として耐久性が良好となる。
さらに、本発明の高分子電解質組成物および高分子電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、テレビ、ラジオ、ミュージックプレーヤー、ゲーム機、ヘッドセット、DVDプレーヤーなどの携帯機器、産業用などの人型、動物型の各種ロボット、コードレス掃除機等の家電、玩具類、電動自転車、自動二輪、自動車、バス、トラックなどの車両や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機など従来の一次電池、二次電池の代替、もしくはこれらとのハイブリット電源として好ましく用いられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
(1)イオン交換容量(IEC)
以下の(i)〜(iv)に記載の中和滴定法により測定した。測定は3回行って、その平均値を取った。
(i)プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
(ii)電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
(iii)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
(iv)イオン交換容量は下記の式により求めた。
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
(2)プロトン伝導度
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25〜95%の恒温恒湿槽中にそれぞれのステップで30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
(3)数平均分子量、重量平均分子量
ポリマーの数平均分子量、重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー社製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー社製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1重量%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。
(4)膜厚
ミツトヨ社製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ社製ID−C112型を用いて測定した。
(5)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
カラム:DB−5(J&W社製) L=30m Φ=0.53mm D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件
Inj.temp.; 300℃
Detct.temp.; 320℃
Oven; 50℃×1min
Rate; 10℃/min
Final; 300℃×15min
SP ratio; 50:1
(6)酸化防止剤の添加量測定
電解質膜の酸化防止剤添加量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により評価した。5cm×5cmの大きさで電解質膜を切り出し、110℃、減圧下で2時間乾燥した後、質量を精秤し、550℃で2日間静置して、残った灰分を0.1規定硝酸水溶液に溶解させ、添加剤を完全に抽出した液を得た。この液をICP発光分析にて測定し、リン及び各種金属元素量を測定することで、酸化防止剤の定量を行った。
(7)酸化防止剤の耐熱水性
酸化防止剤の耐熱水性は、95℃の熱水浸漬後の残存率を測定することにより評価した。電解質膜を長さ約5cm、幅約10cmの短冊2枚に切り取り、95℃の熱水中に8時間浸漬させることで酸化防止剤を溶出させた。熱水浸漬前後の電解質膜を、5cm×5cmの大きさで切り出し、上記ICP発光分析を行うことで酸化防止剤含量を測定し、酸化防止剤残存率として耐熱水性を評価した。
(8)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、1H−NMRの測定を行い、構造確認、およびイオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比の定量を行った。該モル組成比は、8.2ppm(ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン由来)と6.5〜8.0ppm(ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを除く全芳香族プロトン由来)に認められるピークの積分値から算出した。
装置 :日本電子社製EX−270
共鳴周波数 :270MHz(1H−NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :DMSO−d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(9)化学的安定性
(A)分子量保持率
N−メチルピロリドン(NMP)に可溶な電解質膜については、以下の方法にて電解質膜を劣化させ、劣化試験前後の分子量を比較することで化学安定性を評価した。
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/m2Ptを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用膜電極接合体を得た。
この膜電極接合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm2)にセットし、80℃に保ちながら、低加湿状態の水素(70mL/分、背圧0.1MPaG)と空気(174mL/分、背圧0.05MPaG)をセルに導入し、開回路での劣化加速試験を行った。この条件で燃料電池セルを200時間作動させた後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜の分子量を測定し、分子量保持率として評価した。
(B)開回路保持時間
NMPに溶解不可能な電解質膜については、以下の方法にて電解質膜を劣化させ、開回路電圧の保持時間を比較することで化学安定性を評価した。
上記と同様の方法にて膜電極接合体を作製し、評価用セルにセットした。続いて、上記と同様の条件にて、開回路での劣化加速試験を行った。開回路電圧が0.7V以下まで低下するまでの時間を開回路保持時間として評価した。
(C)電圧保持率
上記(B)の開回路保持時間評価を行っても3000時間以上、0.7V以上を維持できる場合には、そこで評価を打ち切り初期電圧と3000時間後の電圧を比較し電圧保持率として化学耐久性を評価した。
合成例1
下記一般式(G1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(K−DHBP)の合成
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン(DHBP)49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.2%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
合成例2
下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造は1H−NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
合成例3
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’の合成)
(式(G3)中、mは正の整数を表す。)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP 25.8g(100mmol)および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端OM基、なおOM基のMはNaまたはKを表し、これ以降の表記もこれに倣う。)を得た。数平均分子量は10000であった。
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端OM基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、前記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は11000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値10400と求められた。
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP 12.9g(50mmol)および4,4’−ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18−クラウン−6エーテル17.9g(和光純薬、82mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、前記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を得た。数平均分子量は16000であった。
(イオン性基を含有するセグメント(A1)としてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するポリケタールケトン(PKK)系ブロックコポリマーb1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を16g(1mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は33万であった。
ブロックポリマーb1は、イオン性基を含有するセグメント(A1)として、前記一般式(S1)で表される構成単位を50モル%、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として、前記一般式(S2)で表される構成単位を100モル%含有していた。
ブロックコポリマーb1そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は1.8meq/g、1H−NMRから求めたモル組成比(A1/A2)は、56モル/44モル=1.27、ケタール基の残存は認められなかった。
合成例4
(下記式(G6)で表されるセグメントと下記式(G7)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’−ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
ここに、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G5)で示される、ポリエーテルスルホン(住友化学社製スミカエクセルPES5200P、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G6)と下記式(G7)で表されるセグメントを含むブロックコポリマー前駆体b2’(ポリアリーレン前駆体)1.62gを収率99%で得た。重量平均分子量は19万であった。
合成例5
(前記式(G7)で表されるセグメントと下記式(G8)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマーb2の合成)
合成例4で得られたブロックコポリマー前駆体b2’0.23gを、臭化リチウム1水和物0.16gとN−メチル−2−ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の式(G7)で示されるセグメントと下記式(G8)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリアリーレンの重量平均分子量は17万であった。
ブロックコポリマーb2そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.0meq/gであった。
合成例6
(下記式(G9)で表される疎水性オリゴマーa3の合成)
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)を秤量した。
窒素置換後、スルホラン346mL、トルエン173mLを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、目的のオリゴマーa3 107gを得た。オリゴマーa3の数平均分子量は7,400であった。
合成例7
(下記式(G10)で表される親水性モノマーa4の合成)
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸233.0g(2mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン100.4g(400mmolを加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)38.8g(440mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、前記構造式で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルa4の白色結晶を得た。
合成例8
(下記式(G11)で表されるポリアリーレン系ブロックコポリマーb3の合成)
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1Lの3口フラスコに、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)166mLを、合成例6で合成した疎水性オリゴマー(a3)13.4g(1.8mmol)、合成例7で合成した3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル37.6g(93.7mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.5g(40.1mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、亜鉛15.7g(240.5mmol)の混合物中に窒素下で加えた。
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc175mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。撹拌機を取り付けた1Lの3つ口で、この濾液に臭化リチウム24.4g(281ミリモル)を1/3ずつ3回に分け1時間間隔で加え、120℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のブロックコポリマーb3 38.0gを得た。このブロックコポリマーの重量平均分子量は18万であった。
ブロックコポリマーb3そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.5meq/gであった。
合成例9
(下記式(G12)で表されるポリケタールケトン(PKK)系ランダムコポリマーr1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK−DHBPおよびDHBPの混合物(K−DHBP/DHBP=94/6(mol%))20.4g(80mmol)、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン10.5g(アルドリッチ試薬、48mmol)、および前記合成例2で得たジソジウム3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロベンゾフェノン13.5g(32mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)90mL、トルエン45mL中で180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、230℃で10時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、一般式(G12)で示されるランダムコポリマーr1を得た。重量平均分子量は30万であった。
ランダムコポリマーr1そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は1.8meq/g、ケタール基の残存は認められなかった。
実施例1
合成例3にて得た20gのブロックコポリマーb1を80gのNMPに溶解した。この溶液に、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE、Aldrich製)200mgを添加し、撹拌機で20,000rpm、3分間撹拌しポリマー濃度20質量%の透明な溶液を得た。得られた溶液を、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4h乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ポリケタールケトン膜(膜厚15μm)を得た。ポリマーの溶解性は極めて良好であった。95℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜f1を得た。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量(IEC)と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例2
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)を7gにした以外は、実施例1と同様にして電解質膜f2を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例3
DPPEを4mgにした以外は、実施例1と同様にして電解質膜f3を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例4
ブロックコポリマーb1の代わりにフッ素系電解質であるナフィオン(登録商標)NRE211CSを用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f4を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例5
ブロックコポリマーb1の代わりにPES系ブロックコポリマーb2を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f5を製造した。
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例6
ブロックコポリマーb1の代わりにポリアリーレン系ブロックコポリマーb3を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f6を製造した。
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例7
DPPEの代わりにトリフェニルホスフィン(TPP、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f7を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例8
DPPEの代わりに1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン(DCHPE、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f8を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例9
DPPEの代わりにビス(2−ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン(DPPEPP、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f9を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例10
(DPPEと硝酸セリウム(III)との錯体の合成)
100mLのナスフラスコ中に、DPPE3g(7.53mmol)と硝酸セリウム六水和物817mg(1.88mmol)を加えた。そこに、エタノール60mLを注ぎ込み、25℃で24時間攪拌した。白色の懸濁液をロータリーエバポレーターにて濃縮し溶媒を除去した。得られた、白色の固体を精製せずにそのまま添加剤として使用した。
(DPPE−セリウム錯体(DPPE−Ce)含有高分子電解質膜f10の製造)
DPPEの代わりにDPPE−Ceを用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f10を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例11
DPPEの代わりに[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロパラジウム(II)(DPPE−Pd、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f11を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例12
DPPEの代わりにジクロロ[(R)−(+)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル]ルテニウム(II)(BINAP−Ru、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f12を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例13
DPPEの代わりにビス(クロロ金(I))1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(DPPP−Au、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f13を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例14
DPPEの代わりにトリクロロ[1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン]ロジウム(III)(TDPPME−Rh、Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f14を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、3000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例15
DPPEの代わりにジフェニルメトキシホスフィン(Aldrich製)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f15を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
実施例16
ブロックコポリマーb1の代わりにランダムコポリマーr1を用いた以外は、実施例1と同様にして電解質膜f16を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例1
DPPEを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして電解質膜f1’を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例2
DPPEを使用しなかった以外は、実施例4と同様にして電解質膜f2’を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例3
DPPEを使用しなかった以外は、実施例5と同様にして電解質膜f3’を製造した。
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例4
DPPEを使用しなかった以外は、実施例6と同様にして電解質膜f4’を製造した。
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例5
DPPEの代わりにジフェニルホスファイト(北興化学工業製)を使用した以外は実施例1と同様にして電解質膜f5’を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例6
DPPEの代わりにテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(北興化学工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f6’を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
比較例7
DPPEを使用しなかった以外は、実施例16と同様にして電解質膜f7’を製造した。
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量と80℃、相対湿度25%におけるプロトン伝導度を測定し、その結果を表1に示す。
表1より、りん含有添加剤(B)を加えた実施例1〜3、7〜15との開回路保持時間は、同一ポリマーを用いた比較例1よりも長いものであった。その中でも、35質量%のDPPEを加えた実施例2、三官能性ホスフィンを用いた実施例9、多官能性ホスフィンと遷移金属イオンとの錯体を用いた実施例10〜14は、3000時間を上回る極めて優れた化学耐久性を示した。また、実施例4と比較例2、実施例5と比較例3、実施例6と比較例4、実施例16と比較例7に関しても、添加剤を加えた方が開回路保持時間或いは分子量保持率が優れていた。以上より、本発明のホスフィン系添加剤は、燃料電池の発電により生成される過酸化水素または過酸化物ラジカルに対する優れた耐久性を、高分子電解質膜に付与することが出来るものである。
また、実施例1〜3、実施例7〜15、実施例16については比較例5、6と比較しても、より優れた開回路保持時間と耐熱水性を有している。ホスファイトや、ホスホニウムは親水性が高く、発電中に生成する水により溶出しているために、より耐水性の高いホスフィンやホスフィナイトの方が燃料電池の発電により生成される過酸化水素または過酸化物ラジカルに対する優れた耐久性を、高分子電解質膜に付与することが出来るものである。