JP6158769B2 - 高強度高延性鋼板 - Google Patents
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Description
成分組成が、質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:4.0〜7.0%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
鋼組織が、
残留オーステナイトが面積率で40%以上、
フェライトが面積率で5%以下
であり、残部がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトからなるとともに、
EBSDによるIQ値が5000以下の領域が面積率で25%以上、
同IQ値が6000以上の領域が面積率で30%以上であり、
さらに、前記残留オーステナイト中のMn濃度が鋼板全体のMn含有量の1.5倍以上である
ことを特徴とする。
C:0.10〜0.30%
Cは、残留オーステナイトの量に寄与することで、強度と延性を確保するために必須の元素である。またCは、熱間圧延後の巻取り温度での保持中におけるベイナイト変態に寄与し、低IQ領域の面積率と高IQ領域の面積率を上昇させることで、延性に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためには、Cを0.10%以上、好ましくは0.12%以上、さらに好ましくは0.14%以上含有させる必要がある。ただし、C量が過剰になると、ベイナイト変態の速度が大幅に低下し、焼鈍前にベイナイト量を十分に確保できなくなり、延性を劣化させるので、C量は0.30%以下、好ましくは0.28%以下、さらに好ましくは0.26%以下とする。
Siは、固溶強化により強度上昇に寄与するとともに、残留オーステナイトの分解を抑制することで残留オーステナイト量を確保できるようにして延性の向上に寄与する必須の元素である。これらの作用を有効に発揮させるためには、Siを1.0%以上、好ましくは1.2%以上、さらに好ましくは1.4%以上含有させる必要がある。ただし、Si量が過剰になると、母相の延性が劣化して鋼板の延性が却って劣化するので、Si量は3.0%以下、好ましくは2.8%以下、さらに好ましくは2.6%以下とする。
Mnは、残留オーステナイトを多量に確保するために、非常に有効であるとともに、残留オーステナイトに濃化して残留オーステナイトの安定度を高めることができ、その結果延性向上に寄与する必須の元素である。またMnは、熱間圧延後の巻取り温度での保持中におけるベイナイト変態に寄与し、低IQ領域の面積率と高IQ領域の面積率を上昇させることで、延性に寄与する。これらの作用を有効に発揮させるためには、Mnを4.0%以上、好ましくは4.3%以上、さらに好ましくは4.6%以上含有させる必要がある。ただし、Mn量が過剰になると、ベイナイト変態が大幅に遅延し、焼鈍前の段階でベイナイトを十分に形成させることができなくなり、特性を確保できなくなるので、Mn量は7.0%以下、好ましくは6.7%以下、さらに好ましくは6.4%以下とする。
上述したとおり、本発明鋼板は、原則フェライトを含まず、所定量の残留オーステナイトと、残部実質的にベイナイトおよびマルテンサイト(これらの焼戻しされたものを含む)からなる組織に制御する点で、上記従来技術と異なっている。
残留オーステナイトは、変形中に加工誘起変態することで、材料を加工硬化させ、高強度化・高延性化に寄与する有用な組織である。このような作用を有効に発揮させるため、残留オーステナイトは面積率で40%以上、好ましくは41%以上、さらに好ましくは42%以上必要である。上記観点からは残留オーステナイトは多ければ多いほど好ましいが、この成分系の鋼では面積率で50%程度が上限である。
鋼板の強度を確保するためには、母相を高強度組織にする必要があるので、フェライトのような軟質組織はできるだけ含まないことが好ましいが、面積率で5%までの混入は許容される。
上述のとおり、鋼板の強度を確保するためには、母相を高強度組織にする必要があることから、残部組織は、硬質組織である、ベイナイトおよびマルテンサイトならびにこれらの焼戻し組織の混合組織とする。
EBSDによるIQ値は、強度の高い組織と、延性の高い組織の含有割合を示すパラメータとして導入したものである。ここで、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)とは、試験片表面に電子線を入射させたときに発生する反射電子から得られる菊池パターンを解析する手法である。また、IQ値は、EBSDにより得られた菊池パターンの強度に関する値で、測定部位における結晶の完全性をパラメータ化した数値である。結晶の完全性が高ければIQ値は高く、完全性が低ければIQ値は低くなる。そして、IQ値が5000以下の領域は、変態時に多くの転位等の格子欠陥が導入された、結晶の完全性が低いマルテンサイト相(焼戻しマルテンサイト相を含む)に相当する領域とみなすとともに、IQ値が6000以上の領域は、マルテンサイト相よりは欠陥の少ない、結晶の完全性が高いベイナイト相(焼戻しベイナイト相を含む)に相当する領域とみなした。そして、強度の高い組織であるマルテンサイト相に相当する、IQ値が5000以下の領域と、延性の高い組織であるベイナイト相に相当する、IQ値が6000以上の領域の各割合を制御することで、高強度でかつ高延性を実現することが可能となる。このような作用を有効に発揮させるため、IQ値が5000以下の領域は、面積率で25%以上、好ましくは28%以上、さらに好ましくは30%以上とし、IQ値が6000以上の領域は、面積率で30%以上、好ましくは32%以上、さらに好ましくは35%以上とする。
残留オーステナイト中にMnを濃化することで、残留オーステナイトが安定化し、より高いひずみ領域で加工誘起変態できるようになり、高ひずみ領域での加工硬化度合が高まるため、延性が向上する。このような作用を有効に発揮させるためには、前記残留オーステナイト中のMn濃度:鋼板全体のMn含有量の1.5倍以上、好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.7倍以上とする。
ここで、各相の面積率および残留オーステナイト中のMn濃度の各測定方法について説明する。
EBSDによるIQ値の測定は、「日本電子社製 電界放出型走査電子顕微鏡 JSM−6500F」を用いて、50μm×50μmの領域を0.125μmの測定ステップで像を観察し、解析ソフトウェア、「EDAX−TSL社製 OIM」を用いて解析を行った。そして、IQ値の分布より、IQ値が5000以下の領域と6000以上の領域の各面積率を算出した。
まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブ(鋼材)としてから熱間圧延を行い、巻取り温度を400℃未満として、30〜120min保持し、その後、常温まで冷却して熱延材とする。次いでこの熱延材を、酸洗等によりスケールを除去した後、冷間圧延を行うことなく、または、冷間圧延を行うとしても20%以下程度の低圧下率に留めた後、焼鈍温度:(Ae1+Ae3)/2±20℃で、保持時間:3000s以上の条件で焼鈍を施すことにより高強度高延性鋼板を得ることができる。
組織の一部または全部をベイナイトとするためである。この成分系の鋼では、巻取り温度を400℃以上にするとベイナイトが形成されにくくなるので、長時間保持してもベイナイト量が確保できず、さらに巻取り温度を500℃以上とするとフェライトが形成され始める。巻取り温度の下限は、特に限定されないが、巻取り温度を低くしすぎると巻き取りにくくなるので、300℃程度である。
また、ベイナイト変態を適正に進行させるためには保持時間を適正に制御する必要がある。保持時間が短すぎるとベイナイト変態が不十分となり、低IQ領域の面積率が低下するので、保持時間は30min以上、好ましくは40min以上、さらに好ましくは50min以上とする。一方、保持時間が長すぎるとベイナイト変態が進行しすぎて、高IQ領域の面積率が低下するので、保持時間は120min以下、好ましくは100min以下、さらに好ましくは80min以下とする。
熱延時の巻取りの際に形成された、マルテンサイトやベイナイト等のラス状組織をできる限りそのまま確保するためである。
2相域温度で所定時間加熱保持することで、Mnを拡散させてフェライト/オーステナイト間に分配させることによりオーステナイト中へのMnの濃化度を確保するとともに、熱延時の巻取りの際に導入されたベイナイト中に、焼鈍時の加熱の際に炭化物が形成されるが、その炭化物を十分に溶解するためである。保持時間が不足すると、ベイナイト中に炭化物が残存して破壊の起点になりやすく、強度・延性が劣化する原因となるので、保持時間は50min以上、好ましくは70min以上、さらに好ましくは90min以上とする。保持時間の上限は特に限定されないが、保持時間が長すぎると生産性が低下するので、保持時間は300min以下、さらには280min以下とするのが望ましい。
なお、Ae1(℃)およびAe3(℃)は、熱力学計算ソフト(Thermo−Calc Software、AB社製Termo−Calc)にて熱力学データベースとしてTCFE7を用い、C、Mn、Si、Alの含有量(質量%)から各温度におけるFCC、BCC、セメンタイト各相の相分率を求め、BCC−セメンタイトの2相状態からFCC−BCC−セメンタイトの3相状態に遷移する温度をAe1(℃)、FCC−BCCの2相状態からFCCの単相に遷移する温度をAe3(℃)と定義して求めた。
なお、本実施例において使用した実験サンプルは全て、フェライト相、残留オーステナイト相以外の残部はベイナイト相、マルテンサイト相、焼戻しベイナイト相、および焼戻しマルテンサイトからなるものであったので、下記表3にては、各相の面積率は、残留オーステナイト相およびフェライト相の面積率のみを記載している。
Claims (1)
- 成分組成が、質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:4.0〜7.0%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
鋼組織が、
残留オーステナイトが面積率で40%以上、
フェライトが面積率で5%以下
であり、残部がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトからなるとともに、
EBSDによるIQ値が5000以下の領域が面積率で25%以上、
同IQ値が6000以上の領域が面積率で30%以上であり、
さらに、前記残留オーステナイト中のMn濃度が鋼板全体のMn含有量の1.5倍以上である
ことを特徴とする高強度高延性鋼板。
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