JP5667471B2 - 温間での深絞り性に優れた高強度鋼板およびその温間加工方法 - Google Patents
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Description
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C :0.02〜0.3%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.8〜3.0%、
P :0.1%以下(0%を含む)、
S :0.01%以下(0%を含む)、
Al:0.001〜0.1%、
N :0.002〜0.03%
を含み、残部が鉄および不純物からなる成分組成を有し、
全組織に対する面積率で(以下、組織について同じ。)、
ベイニティック・フェライト:45〜85%、
残留オーステナイト:3%以上、
マルテンサイト+前記残留オーステナイト:10〜50%、
フェライト:5〜45%
の各相を含む組織を有し、
前記残留オーステナイトのC濃度(CγR)が0.6〜1.2質量%であり、
Kernel Average Misorientation値(以下、「KAM値」と略称する。)の頻度分布曲線において、
全頻度に対する、該KAM値が0.4°以下の頻度の比率XKAM≦0.4°(単位:%)と、フェライトの面積率Vα(単位:%)との関係が、XKAM≦0.4°/Vα≧0.8を満たし、かつ、
前記フェライトと該フェライト以外の各相(以下、「硬質第2相」と総称する。)との界面に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子が、前記硬質第2相1μm2当たり3個以下であり、
引張強度が980MPa以上である
ことを特徴とする100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板である。
成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%、
B :0.00001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板である。
成分組成が、さらに、
Ca :0.0005〜0.01%、
Mg :0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板である。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板を、100〜400℃に加熱後、3600s以内に加工することを特徴とする高強度鋼板の温間加工方法である。
上述したとおり、本発明鋼板は、上記従来技術と同じくTRIP鋼の組織をベースとするものであるが、特に、フェライトを所定量含有したうえで、該フェライト中のひずみ量が制御されているとともに、所定の炭素濃度のγRを所定量含有し、さらに、フェライトと硬質第2相との界面に析出したセメンタイト粒子の存在密度が制御されている点で、上記従来技術と相違している。
本発明における「ベイニティック・フェライト」とは、ベイナイト組織が転位密度の高いラス状組織を持った下部組織を有しており、組織内に炭化物を有していない点で、ベイナイト組織とは明らかに異なり、また、転位密度がないかあるいは極めて少ない下部組織を有するポリゴナル・フェライト組織、あるいは細かいサブグレイン等の下部組織を持った準ポリゴナル・フェライト組織とも異なっている(日本鉄鋼協会 基礎研究会 発行「鋼のベイナイト写真集−1」参照)。この組織は、光学顕微鏡観察やSEM観察するとアシキュラー状を呈しており、区別が困難であるため、ベイナイト組織やポリゴナル・フェライト組織等との明確な違いを判定するには、TEM観察による下部組織の同定が必要である。
γRは全伸びの向上に有用であり、このような作用を有効に発揮させるためには、全組織に対して面積率で3%以上(好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上)存在することが必要である。
強度確保のため、組織中にマルテンサイトを一部導入するが、マルテンサイトの量が多くなりすぎると成形性が確保できなくなるので、全組織に対してマルテンサイト+γRの合計面積率で10%以上(好ましくは12%以上、より好ましくは16%以上)50%以下に制限した。
フェライトは軟質相であるため、高強度化には寄与しないが、延性を高めるのには有効であることから、強度と伸びのバランスを高めるため、強度が保証できる面積率5%以上(好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上)45%以下(好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下)の範囲で導入する。
CγRは、加工時にγRがマルテンサイトに変態する安定度に影響する指標である。CγRが低すぎると、γRが不安定なため、応力付与後、塑性変形する前に加工誘起マルテンサイト変態が起るため、張り出し成形性が得られなくなる。一方、CγRが高すぎると、γRが安定になりすぎて、加工を加えても加工誘起マルテンサイト変態が起らないため、やはり張り出し成形性が得られなくなる。十分な張り出し成形性を得るためには、CγRは0.6〜1.2質量%とする必要がある。好ましくは0.7〜0.9質量%である。
フェライト中のひずみ量は伸びに大きな影響を及ぼし、フェライト面積率が一定の場合、該ひずみ量が大きければ伸びが低下する。このため、フェライト中のひずみ量を評価する指標として、XKAM≦0.4°/Vαを採用した(特開2010−255090号公報の段落[0032]〜[0036]参照)。この指標は、その値が高いほど、KAM値が低くひずみの少ない軟質なフェライトが多いことを意味しており、γRを除いたマトリックスの軟質の度合い、すなわち変形能の高さを示す指標となる。フェライト中のひずみ量をできるだけ小さくしてフェライトの導入量を少なくすることで、強度の低下度合いを小さくしつつ伸びを確保するため、XKAM≦0.4°/Vαは0.8以上(好ましくは0.9以上、さらに好ましくは1.1以上)とする。
本規定は、2相域加熱の際に溶解せずに残存したセメンタイト粒子の存在形態を規定するものであり、粗大なセメンタイト粒子の存在密度が高いと、γRの形成に寄与しうる炭素量が減少するため、伸びが低下する。また、破壊の起点として作用することで、より小さなひずみで破壊が起るようになるため、深絞り性が劣化する。深絞り性を確保するためには、円相当直径0.1μm以上の粗大なセメンタイト粒子は、硬質第2相1μm2当たり3個以下、好ましくは2.5個以下、さらに好ましくは2個以下に制限する。
本発明の鋼板は、上記組織のみ(ベイニティック・フェライト、マルテンサイト、ポリゴナル・フェライトならびにγRの混合組織)からなっていてもよいが、本発明の作用を損なわない範囲で、他の異種組織として、ベイナイトを有していてもよい。この組織は本発明鋼板の製造過程で必然的に残存し得るものであるが、少なければ少ない程よく、全組織に対して面積率で5%以下、より好ましくは3%以下に制御することが推奨される。
ここで、各相の面積率、γRのC濃度(CγR)、KAM値、ならびに、セメンタイト粒子のサイズおよびその存在密度の各測定方法について説明する。
C:0.02〜0.3%
Cは、高強度を確保しつつ、所望の主要組織(ベイニティック・フェライト+マルテンサイト+γR)を得るために必須の元素であり、このような作用を有効に発揮させるためには0.02%以上(好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上)添加する必要がある。ただし、0.3%超では溶接に適さない。
Siは、γRが分解して炭化物が生成するのを有効に抑制する元素である。特にSiは、固溶強化元素としても有用である。このような作用を有効に発揮させるためには、Siを1.0%以上添加する必要がある。好ましくは1.1%以上、より好ましくは1.2%以上である。ただし、Siを3.0%を超えて添加すると、2相域加熱時におけるセメンタイトの溶解を妨げ、円相当直径0.1μm以上の粗大なセメンタイト粒子の存在密度が上昇し特性が劣化するとともに、ベイニティック・フェライト+マルテンサイト組織の生成が阻害される他、熱間変形抵抗が高くなって溶接部の脆化を起こしやすくなり、さらには鋼板の表面性状にも悪影響を及ぼすので、その上限を3.0%とする。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下である。
Mnは、固溶強化元素として有効に作用する他、変態を促進してベイニティック・フェライト+マルテンサイト組織の生成を促進する作用も発揮する。さらにはγを安定化し、所望のγRを得るために必要な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、1.8%以上添加することが必要である。好ましくは1.9%以上、より好ましくは2.0%以上である。ただし、3.0%を超えて添加すると、上記Mnと同様に2相域加熱時におけるセメンタイトの溶解を妨げ、円相当直径0.1μm以上の粗大なセメンタイト粒子の存在密度が上昇し特性が劣化するとともに、鋳片割れが生じる等の悪影響が見られる。好ましくは2.8%以下、より好ましくは2.5%以下である。
Pは不純物元素として不可避的に存在するが、所望のγRを確保するために添加してもよい元素である。ただし、0.1%を超えて添加すると二次加工性が劣化する。より好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となって加工性を劣化させる元素である。好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。
Alは、脱酸剤として添加されるとともに、上記Siと相俟って、γRが分解して炭化物が生成するのを有効に抑制する元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Alを0.001%以上添加する必要がある。ただし、過剰に添加しても効果が飽和し経済的に無駄であるので、その上限を0.1%とする。
Nは、不可避的に存在する元素であるが、AlやNbなどの炭窒化物形成元素と結びつくことで析出物を形成し、強度向上や組織の微細化に寄与する。N含有量が少なすぎるとオーステナイト粒が粗大化し、その結果、伸長したラス状組織が主体になるためγRのアスペクト比が大きくなる。一方、N含有量が多すぎると、本発明の材料のような低炭素鋼では鋳造が困難になるため、製造自体ができなくなる。
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%、
B :0.00001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼の強化元素として有用であるとともに、γRの安定化や所定量の確保に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Mo:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)、Cu:0.01%以上(より好ましくは0.1%以上)、Ni:0.01%以上(より好ましくは0.1%以上)、B:0.00001%以上(より好ましくは0.0002%以上)を、それぞれ添加することが推奨される。ただし、Crは3.0%、Moは1.0%、CuおよびNiはそれぞれ2.0%、Bは0.01%を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCr:2.0%以下、Mo:0.8%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、B:0.0030%以下である。
Mg :0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、CaおよびMgはそれぞれ0.0005%以上(より好ましくは0.0001%以上)、REMは0.0001%以上(より好ましくは0.0002%以上)添加することが推奨される。ただし、CaおよびMgはそれぞれ0.01%、REMは0.01%を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCaおよびMgは0.003%以下、REMは0.006%以下である。
上記本発明鋼板は、100〜400℃の間の適正な温度に加熱した後、3600s以内(より好ましくは1200s以内)に加工するのが特に推奨される。
本発明鋼板は、上記成分組成を満足する鋼材を、熱間圧延し、ついで冷間圧延した後、熱処理を行って製造する。
熱間圧延条件は特に限定されるものではないが、例えば熱間圧延の仕上げ温度(圧延終了温度、FDT)を800〜900℃、巻取り温度を300〜600℃としてもよい。
また、冷間圧延の際の冷延率は10〜90%(より好ましくは30〜60%)としつつ、以下の熱処理条件にて熱処理を施す。
熱処理条件については、加熱中にα単相域の高温域に所定時間滞在させてフェライト中のひずみを開放した後、(γ+α)2相域で均熱して一定量をオーステナイト化し、所定の冷却速度で急冷して過冷した後、その過冷温度で所定時間保持してオーステンパ処理することで所望の組織を得ることができる。なお、所望の組織を著しく分解させることなく、本発明の作用を損なわない範囲で、めっき、さらには合金化処理してもよい。
逆変態前に高温域に長時間滞在させることでフェライトの回復・再結晶を促進させ、 フェライト中のひずみを開放させるためである。600〜Ac1℃の温度域を200s以上の滞在時間で昇温することが好ましく、1000s以上の滞在時間で昇温することがさらに好ましい。
均熱時に面積率で45〜85%の領域をオーステナイトに変態させることにより、その後の冷却時に十分な量の硬質第2相を変態生成させるためである。
フェライトの面積率を調整するためである。
オーステンパ処理することで所望の組織を得るためである。
Claims (4)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C :0.02〜0.3%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.8〜3.0%、
P :0.1%以下(0%を含む)、
S :0.01%以下(0%を含む)、
Al:0.001〜0.1%、
N :0.002〜0.03%
を含み、残部が鉄および不純物からなる成分組成を有し、
全組織に対する面積率で(以下、組織について同じ。)、
ベイニティック・フェライト:45〜85%、
残留オーステナイト:3%以上、
マルテンサイト+前記残留オーステナイト:10〜50%、
フェライト:5〜45%
の各相を含む組織を有し、
前記残留オーステナイトのC濃度(CγR)が0.6〜1.2質量%であり、
Kernel Average Misorientation値(以下、「KAM値」と略称する。)の頻度分布曲線において、
全頻度に対する、該KAM値が0.4°以下の頻度の比率XKAM≦0.4°(単位:%)と、フェライトの面積率Vα(単位:%)との関係が、XKAM≦0.4°/Vα≧0.8を満たし、かつ、
前記フェライトと該フェライト以外の各相(以下、「硬質第2相」と総称する。)との界面に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子が、前記硬質第2相1μm2当たり3個以下であり、
引張強度が980MPa以上である
ことを特徴とする100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%、
B :0.00001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Ca :0.0005〜0.01%、
Mg :0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の100〜400℃の温間での深絞り性に優れた高強度鋼板。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板を、100〜400℃に加熱後、3600s以内に加工することを特徴とする高強度鋼板の温間加工方法。
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