以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1−1.リチウムイオン二次電池(円筒型)
1−2.リチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)
2.二次電池の用途
2−1.電池パック
2−2.電動車両
2−3.電力貯蔵システム
2−4.電動工具
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池について説明する。
<1−1.リチウムイオン二次電池(円筒型)>
図1および図2は、二次電池の断面構成を表しており、図2では、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大している。
[二次電池の全体構成]
ここで説明する二次電池は、電極反応物質であるLi(リチウムイオン)の吸蔵放出により負極22の容量が得られるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、いわゆる円筒型であり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、巻回電極体20および一対の絶縁板12,13が収納されている。巻回電極体20は、例えば、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回されたものである。
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などにより形成されている。電池缶11の表面には、Niなどの金属材料が鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられており、その電池缶11は密閉されている。この電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、大電流に起因する異常な発熱を防止するものであり、温度の上昇に応じて抵抗が増加するようになっている。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にアスファルトが塗布されていてもよい。
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、例えば、Alなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、例えば、Niなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に取り付けられていると共に、電池蓋14と電気的に接続されている。負極リード26は、電池缶11に取り付けられていると共に、その電池缶11と電気的に接続されている。
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bを有している。正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
正極材料は、リチウム含有化合物であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物またはリチウム遷移金属リン酸化合物などである。リチウム遷移金属複合酸化物は、Liと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物であり、リチウム遷移金属リン酸化合物は、Liと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含む化合物である。中でも、遷移金属元素は、Co、Ni、MnまたはFeなどのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 またはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素である。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LiCoO2 、LiNiO2 、または下記の式(20)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などである。リチウム遷移金属リン酸化合物は、例えば、LiFePO4 またはLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。ただし、上記以外のリチウム遷移金属複合酸化物またはリチウム遷移金属リン酸化合物でもよい。
LiNi1-z Mz O2 …(20)
(MはCo、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Yb、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種であり、zは0.005<z<0.5を満たす。)
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などでもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。ただし、正極材料は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であれば、上記した一連の材料以外の材料でもよい。
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはポリイミドなどである。
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上である。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bを有している。
負極集電体22Aは、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域で負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法は、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などである。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般的に、電解銅箔と呼ばれている。
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤および正極導電剤と同様である。充放電時の意図しないリチウム金属の析出を防止するために、負極材料の充電可能な容量は正極21の放電容量よりも大きいことが好ましい。
負極材料は、Liと合金を形成可能である金属元素または半金属元素のいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料(金属系材料)であり、より具体的には、SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料である。リチウムイオンを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
この金属系材料は、単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。合金には、2種類以上の金属元素からなる材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。なお、合金は、非金属元素を構成元素として含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種類以上の共存物などがある。また、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
Siの合金は、例えば、Si以外の構成元素としてSn、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrなどのいずれか1種類または2種類以上の元素を含む材料である。Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素としてCまたはOなどのいずれか1種類または2種類以上を含む材料である。なお、Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、Siの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
Siの合金または化合物は、例えば、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、またはLiSiOなどである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
Snの合金は、例えば、Sn以外の構成元素としてSi、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrなどの元素のいずれか1種類または2種類以上を含む材料である。Snの化合物は、例えば、CまたはOなどのいずれか1種類または2種類以上の構成元素として含む材料である。なお、Snの化合物は、例えば、Sn以外の構成元素として、Snの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。Snの合金または化合物は、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどである。
また、Snを含む材料は、例えば、Snを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料であることが好ましい。第2構成元素は、例えば、Co、Fe、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Ce、Hf、Ta、W、BiまたはSiなどのいずれか1種類または2種類以上である。第3構成元素は、例えば、B、C、AlおよびPなどのいずれか1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を含むことで、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
中でも、Sn、CoおよびCを構成元素として含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、Cの含有量が9.9質量%〜29.7質量%であり、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、Sn、CoおよびCを含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、Liと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
X線回折により得られた回折ピークがLiと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、Liとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、Liとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、Liと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、Cの存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。Snなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光法(XPS)で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。Cの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、Cの1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、Au原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
なお、SnCoC含有材料は、構成元素がSn、CoおよびCだけからなる材料(SnCoC)に限られない。すなわち、SnCoC含有材料は、例えば、必要に応じて、さらにSi、Fe、Ni、Cr、In、Nb、Ge、Ti、Mo、Al、P、GaまたはBiなどのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
このSnCoC含有材料の他、Sn、Co、FeおよびCを構成元素として含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、Feの含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は9.9質量%〜29.7質量%、Feの含有量は0.3質量%〜5.9質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、Feの含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は11.9質量%〜29.7質量%、Sn、CoおよびFeの含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%、CoおよびFeの含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
なお、負極活物質層22Bは、負極活物質として上記した負極材料(金属系材料)を含んでいれば、さらにリチウムイオンを吸蔵放出可能である他の負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
他の負極材料は、例えば、炭素材料である。リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂またはフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
また、他の負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などでもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。ただし、他の負極材料は、上記以外の他の材料でもよい。
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法または焼成法(焼結法)、あるいはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子(粉末)状の負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させてから塗布する方法である。気相法は、例えば、物理堆積法または化学堆積法などである。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などである。溶射法とは、溶融状態または半溶融状態の負極活物質を噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法により塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法としては、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
この二次電池では、上記したように、充電途中で負極22にリチウム金属が意図せずに析出することを防止するために、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量が正極の電気化学当量よりも大きくなっている。また、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上であると、4.20Vである場合と比較して、同じ正極活物質でも単位質量当たりのリチウムイオンの放出量が多くなるため、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されている。これにより、高いエネルギー密度が得られるようになっている。
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックなどの多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどである。
特に、セパレータ23は、例えば、上記した多孔質膜(基材層)と、その基材層の片面または両面に設けられた高分子化合物層とを含んでいてもよい。正極21および負極22に対するセパレータ23の密着性が向上するため、巻回体である巻回電極体20の歪みが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層に含浸された電解液の漏液も抑制されるため、充放電を繰り返しても抵抗が上昇しにくくなると共に電池膨れが抑制される。
高分子化合物層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。ただし、高分子材料は、ポリフッ化ビニリデン以外の他の材料でもよい。この高分子化合物層は、例えば、高分子材料が溶解された溶液を準備したのち、その溶液を基材層の表面に塗布してから乾燥させることで形成される。なお、基材層を溶液中に浸漬させてから乾燥させてもよい。
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、下記の式(1)で表される不飽和環状炭酸エステルのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解液は、溶媒および電解質塩などの他の材料を含んでいてもよい。
(Xはm個の>C=CR1−R2とn個の>CR3R4とが任意の順に結合された2価の基である。R1〜R4は水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基であり、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。mおよびnはm≧1およびn≧0を満たす。)
不飽和環状炭酸エステルとは、1または2以上の炭素間二重結合(>C=C<)を有する環状炭酸エステルである。電解液が不飽和環状炭酸エステルを含んでいるのは、負極22が負極活物質として金属系材料を含んでいても、電解液の化学的安定性が飛躍的に向上するからである。これにより、電解液の分解反応が著しく抑制されるため、サイクル特性および保存特性などの電池特性が向上する。
詳細には、負極活物質が低反応性の非金属系材料(例えば炭素材料)である場合には、充放電時において炭素材料の反応性に起因する電解液の分解反応がほとんど問題にならない。このため、電池特性は、電解液中における不飽和環状炭酸エステルの有無に応じてほとんど影響を受けない。
これに対して、負極活物質が高反応性の金属系材料である場合には、高いエネルギー密度が得られる反面、充放電時において金属系材料の反応性に起因する電解液の分解反応が顕著になる。このため、電池特性は、電解液中における不飽和環状炭酸エステルの有無に応じて大きく変化する。すなわち、金属系材料を用いた場合には、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含んでいないと、負極活物質の反応性に起因する電解液の分解反応が進行しやすいため、電池特性も低下しやすくなる。この傾向は、特に、高温環境などの厳しい条件下で顕著になる。しかしながら、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含んでいると、充放電時において不飽和環状炭酸エステルに起因する強固な被膜が負極22の表面に形成されるため、その負極22が電解液から保護される。これにより、負極活物質の反応性に起因する電解液の分解反応が進行しにくくなるため、電池特性が維持されやすくなる。
式(1)中のXは、m個の>C=CR1−R2とn個の>CR3R4とが全体として2価となる(両末端に1つずつ結合手を有する)ように結合された基である。隣り合う(互いに結合される)基は、>C=CR1−R2同士のように同じ種類の基でもよいし、>C=CR1−R2および>CR3R4のように異なる種類の基でもよい。すなわち、2価の基を形成するために用いられる>C=CR1−R2の数(m)および>CR3R4の数(n)は任意であり、それらの結合順も任意である。
>C=CR1−R2は、上記した炭素間二重結合を有する2価の不飽和基であるのに対して、>CR3R4は、炭素間二重結合を有しない2価の飽和基である。ここで、n≧0であるため、飽和基である>CR3R4はX中に含まれていてもいなくてもよいが、m≧1であるため、不飽和基である>C=CR1−R2はX中に必ず1つ以上含まれていなければならない。このため、Xは、>C=CR1−R2だけにより構成されていてもよいし、>C=CR1−R2および>CR3R4の双方により構成されていてもよい。不飽和環状炭酸エステルは、その化学的構造中に少なくとも1つの不飽和基を有していなければならないからである。
mおよびnの値は、m≧1およびn≧0という条件を満たしていれば特に限定されない。中でも、>C=CR1−R2が>C=CH2 であると共に>CR3R4が>CH2 である場合には、(m+n)≦5という条件を満たしていることが好ましい。Xの炭素数が多くなりすぎないため、不飽和環状炭酸エステルの溶解性および相溶性が確保されるからである。
なお、>C=CR1−R2および>CR3R4におけるR1〜R4のうちの任意の2つ以上は互いに結合されており、その結合された基同士により環が形成されていてもよい。一例を挙げると、R1とR2とが結合されていてもよいし、R3とR4とが結合されていてもよいし、R2とR3またはR4とが結合されていてもよい。
R1〜R4に関する詳細は、以下の通りである。ただし、R1〜R4は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R1〜R4のうちの任意の2つまたは3つが同じ種類の基でもよい。
R1〜R4の種類は、水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基であれば、特に限定されない。Xが少なくとも1つの炭素間二重結合(>C=CR1−R2)を有していることで、R1〜R4の種類に依存せずに上記した利点が得られるからである。
ハロゲン基は、例えば、フッ素基(−F)、塩素基(−Cl)、臭素基(−Br)またはヨウ素基(−I)などのいずれか1種類または2種類以上であり、中でも、フッ素基が好ましい。不飽和環状炭酸エステルに起因する被膜が形成されやすいからである。
「炭化水素基」とは、CおよびHにより構成される基の総称であり、直鎖状でもよいし、1または2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。1価の炭化水素基は、例えば、炭素数=1〜12のアルキル基、炭素数=2〜12のアルケニル基、炭素数=2〜12のアルキニル基、炭素数=6〜18のアリール基、または炭素数=3〜18のシクロアルキル基などである。不飽和環状炭酸エステルの溶解性および相溶性などを確保しつつ、上記した利点が得られるからである。
より具体的には、アルキル基は、例えば、メチル基(−CH3 )、エチル基(−C2 H5 )またはプロピル基(−C3 H7 )などである。アルケニル基は、例えば、ビニル基(−CH=CH2 )またはアリル基(−CH2 −CH=CH2 )などである。アルキニル基は、例えば、エチニル基(−C≡CH)などである。アリール基は、例えば、フェニル基またはナフチル基などである。シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基またはシクロオクチル基などである。
「酸素含有炭化水素基」とは、CおよびHと共にOにより構成される基であり、1価の酸素含有炭化水素基は、例えば、炭素数=1〜12のアルコキシ基などである。不飽和環状炭酸エステルの溶解性および相溶性などを確保しつつ、上記した利点が得られるからである。より具体的には、アルコキシ基は、例えば、メトキシ基(−OCH3 )またはエトキシ基(−OC2 H5 )などである。
「2つ以上が結合された基」とは、例えば、上記したアルキル基などのうちの2種類以上が全体として1価となるように結合された基であり、例えば、アルキル基とアリール基とが結合された基、またはアルキル基とシクロアルキル基とが結合された基などである。より具体的には、アルキル基とアリール基とが結合された基は、例えば、ベンジル基などである。
「ハロゲン化炭化水素基」とは、上記した炭化水素基のうちの少なくとも一部の水素基(−H)がハロゲン基により置換(ハロゲン化)されたものであり、そのハロゲン基の種類は、上記した通りである。同様に、「ハロゲン化酸素含有炭化水素基」とは、上記した酸素含有炭化水素基のうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換されたものであり、そのハロゲン基の種類は、上記した通りである。
1価のハロゲン化炭化水素基は、例えば、上記したアルキル基などがハロゲン化されたものであり、すなわちアルキル基などのうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換されたものである。より具体的には、アルキル基などがハロゲン化された基は、例えば、トリフルオロメチル基(−CF3 )またはペンタフルオロエチル基(−C2 F5 )などである。また、1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基は、例えば、上記したアルコキシ基などのうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換されたものである。より具体的には、アルコキシ基などがハロゲン化された基は、例えば、トリフルオロメトキシ基(−OCF3 )またはペンタフルエトキシ基(−OC2 F5 )などである。
なお、R1〜R4は、上記以外の種類の基でもよい。具体的には、R1〜R4は、例えば、上記した一連の基の誘導体でもよい。この誘導体とは、一連の基に1または2以上の置換基が導入されたものであり、その置換基の種類は任意でよい。
中でも、不飽和環状炭酸エステルは、下記の式(2)または式(3)で表されることが好ましい。上記した利点が得られる上、容易に合成できるからである。
(R5〜R10は水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基であり、R5およびR6は互いに結合されていてもよいし、R7〜R10のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。)
式(1)と式(2)との関係に着目すると、式(2)に示した不飽和環状炭酸エステルは、式(1)中のXとして、>C=CR1−R2に対応する1つの不飽和基(>C=CH2 )と、>CR3R4に対応する1つの飽和基(>CR5R6)とを有している。一方、式(1)と式(3)との関係に着目すると、式(3)に示した不飽和環状炭酸エステルは、Xとして、>C=CR1−R2に対応する1つの不飽和基(>C=CH2 )と、>CR3R4に対応する2つの飽和基(>CR7R8および>CR9R10)とを有している。ただし、1つの不飽和基および2つの飽和基は、>CR7R8、>CR9R10および>C=CH2 の順に結合されている。
式(2)中のR5およびR6、ならびに式(3)中のR7〜R10に関する詳細は、式(1)中のR1〜R4と同様であるため、その説明を省略する。
ここで、不飽和環状炭酸エステルの具体例は、下記の式(1−1)〜式(1−56)で表され、その不飽和環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。ただし、不飽和環状炭酸エステルの具体例は、式(1−1)〜式(1−56)に列挙するものに限られない。
中でも、式(2)に該当する式(1−1)など、または式(3)に該当する式(1−32)などが好ましい。より高い効果が得られるからである。
電解液中における不飽和環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%〜10重量%であることが好ましく、0.1重量%〜5重量%であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
電解液に用いられる溶媒は、有機溶媒などの非水溶媒(上記した不飽和環状炭酸エステルを除く)のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
この非水溶媒は、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルまたはニトリルなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸ブチレンなどであり、鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸メチルプロピルなどである。ラクトンは、例えば、γ−ブチロラクトンまたはγ−バレロラクトンなどである。カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチルなどである。ニトリルは、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリルまたは3−メトキシプロピオニトリルなどである。
この他、非水溶媒は、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、またはジメチルスルホキシドなどでもよい。同様に優れた電池容量などが得られるからである。
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
特に、溶媒は、下記の式(4)および式(5)で表される他の不飽和環状炭酸エステルのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。充放電時において主に負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。R11およびR12は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよい。また、R13〜R16は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R13〜R16のうちの一部が同じ種類の基でもよい。溶媒中における他の不飽和環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%である。ただし、他の不飽和環状炭酸エステルの具体例は、以下で説明する化合物に限られず、式(4)および式(5)に該当する他の化合物でもよい。
(R11およびR12は水素基またはアルキル基である。)
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基またはアリル基であり、R13〜R16のうちの少なくとも1つはビニル基またはアリル基である。)
式(4)に示した他の不飽和環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。R11およびR12の種類は、水素基またはアルキル基であれば、特に限定されない。アルキル基は、例えば、メチル基またはエチル基などであり、そのアルキル基の炭素数は、1〜12であることが好ましい。優れた溶解性および相溶性が得られるからである。炭酸ビニレン系化合物の具体例は、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、または4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどである。なお、R21およびR22は、アルキル基のうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換された基でもよい。この場合における炭酸ビニレン系化合物の具体例は、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、または4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどである。中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手できると共に、高い効果が得られるからである。
式(5)に示した他の不飽和環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。R13〜R16の種類は、水素基、アルキル基、ビニル基またはアリル基であれば、特に限定されない。ただし、R13〜R16のうちの少なくとも1つがビニル基またはアリル基であることを条件とする。アルキル基の種類および炭素数は、R11およびR12と同様である。炭酸ビニルエチレン系化合物の具体例は、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手できると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在してもよい。
なお、他の不飽和環状炭酸エステルは、式(4)および式(5)に示した化合物の他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)でもよい。
また、溶媒は、下記の式(6)および式(7)で表されるハロゲン化炭酸エステルのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。充放電時において主に負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。式(6)に示したハロゲン化炭酸エステルは、1または2以上のハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル(ハロゲン化環状炭酸エステル)である。式(7)に示したハロゲン化炭酸エステルは、1または2以上のハロゲンを構成元素として含む鎖状の炭酸エステル(ハロゲン化鎖状炭酸エステル)である。なお、R17〜R20は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R17〜R20のうちの一部が同じ種類の基でもよい。このことは、R21〜R26についても同様である。溶媒中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜50重量%である。ただし、ハロゲン化炭酸エステルの具体例は、以下で説明する化合物に限られず、式(6)および式(7)に該当する他の化合物でもよい。
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R17〜R20のうちの少なくとも1つはハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R21〜R26のうちの少なくとも1つはハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。)
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素(F)、塩素(Cl)または臭素(Br)が好ましく、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
ハロゲン化環状炭酸エステルは、例えば、下記の式(6−1)〜式(6−21)で表される化合物などである。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。中でも、式(6−1)に示した4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは式(6−3)に示した4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、後者がより好ましい。また、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手できると共に、高い効果が得られるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。このスルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。溶媒中におけるスルトンの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。ただし、スルトンの具体例は、上記した化合物に限られず、他の化合物でもよい。
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。この酸無水物は、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物、またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。ただし、酸無水物の具体例は、上記した化合物に限られず、他の化合物でもよい。
電解液に用いられる電解質塩は、例えば、リチウム塩などの塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、例えば、リチウム塩以外の他の塩(例えばリチウム塩以外の軽金属塩)を含んでいてもよい。
このリチウム塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、または臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。ただし、リチウム塩の具体例は、上記した化合物に限られず、他の化合物でもよい。
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のうちの少なくとも1種類が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
特に、電解質塩は、下記の式(8)〜式(10)で表される化合物のいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、R31およびR33は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよい。このことは、R41〜R43、R51およびR52についても同様である。ただし、式(8)〜式(10)に示した化合物の具体例は、以下で説明する化合物に限られず、式(8)〜式(10)に該当する他の化合物でもよい。
(X31は長周期型周期表における1族元素または2族元素、またはAlである。M31は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素または15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−C(=O)−R32−C(=O)−、−C(=O)−CR33
2 −、または−C(=O)−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基またはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基またはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2または4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素または2族元素である。M41は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素または15族元素である。Y41は−C(=O)−(CR41
2 )
b4−C(=O)−、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−C(=O)−、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−CR43
2 −、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−S(=O)
2 −、−S(=O)
2 −(CR42
2 )
d4−S(=O)
2 −、または−C(=O)−(CR42
2 )
d4−S(=O)
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1または2の整数であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素または2族元素である。M51は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素または15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基またはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−C(=O)−(CR51
2 )
d5−C(=O)−、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−C(=O)−、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−CR52
2 −、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−S(=O)
2 −、−S(=O)
2 −(CR51
2 )
e5−S(=O)
2 −、または−C(=O)−(CR51
2 )
e5−S(=O)
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基またはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基またはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1または2の整数であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、1族元素とは、H、Li、Na、K、Rb、CsおよびFrである。2族元素とは、Be、Mg、Ca、Sr、BaおよびRaである。13族元素とは、B、Al、Ga、InおよびTlである。14族元素とは、C、Si、Ge、SnおよびPbである。15族元素とは、N、P、As、SbおよびBiである。
式(8)に示した化合物は、例えば、式(8−1)〜式(8−6)で表される化合物などである。式(9)に示した化合物は、例えば、式(9−1)〜式(9−8)で表される化合物などである。式(10)に示した化合物は、例えば、式(10−1)で表される化合物などである。
また、電解質塩は、下記の式(11)〜式(13)で表される化合物のいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、mおよびnは、同じ値でもよいし、異なる値でもよい。このことは、p、qおよびrについても、同様である。ただし、式(11)〜式(13)に示した化合物の具体例は、以下で説明する化合物に限られず、式(11)〜式(13)に該当する他の化合物でもよい。
LiN(Cm F2m+1SO2 )(Cn F2n+1 SO2 ) …(11)
(mおよびnは1以上の整数である。)
(R61は炭素数=2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
LiC(Cp F2p+1SO2 )(Cq F2q+1SO2 )(Cr F2r+1SO2 ) …(13)
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
式(11)に示した化合物は、鎖状のイミド化合物であり、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、または(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などである。
式(12)に示した化合物は、環状のイミド化合物であり、例えば、式(12−1)〜式(12−4)で表される化合物などである。
式(13)に示した化合物は、鎖状のメチド化合物であり、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などである。
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、中でも、非水溶媒に対して0.3mol/kg〜3.0mol/kgであることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵されると共に、放電時において、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
最初に、正極21を作製する。正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して、正極合剤とする。続いて、正極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。こののち、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
また、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。負極活物質と必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとが混合された負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、必要に応じて負極活物質層22Bを圧縮成型する。
また、溶媒に電解質塩を分散させたのち、不飽和環状炭酸エステルを加えて電解液を調製する。
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、溶接法などを用いて、正極集電体21Aに正極リード25を取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層してから巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。続いて、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、負極22が金属系材料を含有していると共に、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有している。この場合には、上記したように、電解液の化学的安定性が特異的に向上するため、負極活物質として高反応性の金属系材料を用いても電解液の分解反応が著しく抑制される。よって、二次電池が充放電または保存されても電解液が分解しにくくなるため、優れた電池特性を得ることができる。
特に、電解液中における不飽和環状炭酸エステルの含有量が0.01重量%〜10重量%であれば、より高い効果を得ることができる。また、不飽和環状炭酸エステルが式(1−1)〜式(1−56)に示したものであり、特に式(2)または式(3)に示したものであれば、より高い効果を得ることができる。
<1−2.リチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)>
図3は、他の二次電池の分解斜視構成を表しており、図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面を拡大している。以下では、既に説明した円筒型の二次電池の構成要素を随時引用する。
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池であり、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されている。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層されてから巻回されたものである。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。この巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この導電性材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
外装部材40は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、Al箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムでもよい。
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。この密着性の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを有していると共に、負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを有している。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。このため、負極活物質層22Bは、負極活物質として金属系材料を含有している。また、セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、いわゆるゲル状の電解質である。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。この電解質層36は、必要に応じて、添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
高分子化合物は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などのいずれか1種類または2種類以上である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、円筒型の場合と同様であり、その電解液は、不飽和環状炭酸エステルを含有している。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵されると共に、放電時において、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極33に吸蔵される。
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
第1手順では、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布してゲル状の電解質層36を形成する。続いて、溶接法などを用いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層してから巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40の外周縁部同士を接着させて巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
第2手順では、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33および負極34を積層してから巻回させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40を密封する。続いて、モノマーを熱重合させる。これにより、高分子化合物が形成されるため、ゲル状の電解質層36が形成される。
第3手順では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物は、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体)などである。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40の開口部を密封する。続いて、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成される。
この第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との十分な密着性が得られる。
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極34が金属系材料を含有していると共に、電解質層36の電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有しているので、円筒型の二次電池と同様の理由により、優れた電池特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、円筒型と同様である。
<2.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして使用可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として使用される二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。後者の場合、主電源の種類は二次電池に限られない。
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ノート型パソコンなどの電源として用いられる電池パックである。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることで、有効に性能向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
ここで、二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
<2−1.電池パック>
図5は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、図5に示したように、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上の二次電池を含む組電池であり、それらの接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時に制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時に補正処理を行うために用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定して、その測定電圧アナログ/デジタル変換(A/D)変換して制御部61に供給するものである。
スイッチ制御部67は、電流測定部66および電圧測定部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
なお、二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.2V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)が記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部10が残容量などの情報を把握できる。
温度検出素子69は、電源62の温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)または電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
<2−2.電動車両>
図6は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、図6に示したように、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
この電動車両は、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力により発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力によりモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
なお、図示しない制動機構により電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力によりモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
なお、上記では電動車両としてハイブリッド自動車について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
<2−3.電力貯蔵システム>
図7は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、図7に示したように、一般住宅または商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
なお、電気機器94は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビまたは給湯器などの1または2以上の家電製品を含んでいる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機または風力発電機などの1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクまたはハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所または風力発電所などの1種類または2種類以上である。
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、必要に応じて外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御し、効率的で安定したエネルギー供給を可能にするようになっている。
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて、必要に応じて電気機器94または電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
<2−4.電動工具>
図8は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、図8に示したように、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御物99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、必要に応じて電源100からドリル部101に電力を供給して可動させるようになっている。
本技術の具体的な実施例について、詳細に説明する。
(実験例1−1〜1−14)
以下の手順により、図1および図2に示した円筒型のリチウムイオン二次電池を作製した。
正極21を作製する場合には、最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とをLi2 CO3 :CoCO3 =0.5:1のモル比で混合した。続いて、空気中で混合物を焼成(900℃×5時間)して、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて帯状の正極集電体21A(20μm厚のAl箔)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型した。
負極22を作製する場合には、負極活物質として金属系材料(Si)を用いて蒸着法により負極活物質層22Bを形成した。この場合には、電子ビーム蒸着法を用いて負極集電体22A(15μm厚の電解Cu箔)の両面に負極活物質(Si)を堆積させた。なお、10回の堆積工程を繰り返して、負極集電体22Aの片面側における負極活物質層22Bの厚さを6μmとした。
比較のために、負極活物質として非金属系材料(炭素材料:C)を用いて塗布法により負極活物質層22Bを形成した。この場合には、負極活物質(人造黒鉛)90質量部と、負極結着剤(PVDF)10質量部とを混合して、負極合剤とした。続いて、負極合剤を有機溶剤(NMP)に分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、負極活物質層22Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型した。
電解液を調製する場合には、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジメチル(DMC))に電解質塩(LiPF6 )を溶解させたのち、表1に示したように、必要に応じて不飽和環状炭酸エステルを加えた。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DMC=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
二次電池を組み立てる場合には、最初に、正極集電体21AにAl製の正極リード25を溶接すると共に、負極集電体22AにNi製の負極リード26を溶接した。続いて、セパレータ23(25μm厚の微多孔性ポリプロピレンフィルム)を介して正極21と負極22とを積層してから巻回したのち、粘着テープで巻き終わり部分を固定して巻回電極体20を作製した。続いて、巻回電極体20の巻回中心にセンターピン24を挿入した。続いて、Ni鍍金された鉄製の電池缶11の内部に、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら収納した。この場合には、正極リード25の一端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の一端部を電池缶11に溶接した。続いて、減圧方式により電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させた。最後に、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめた。これにより、円筒型の二次電池が完成した。なお、二次電池を作製する場合には、正極活物質層21Bの厚さを調節して、満充電時にリチウム金属が負極22に析出しないようにした。
二次電池の電池特性(サイクル特性および保存特性)を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる場合には、電池状態を安定化させるために常温環境中(23℃)で二次電池を1サイクル充放電させたのち、同環境中で二次電池をさらに1サイクル充放電させて放電容量を測定した。続いて、同環境中でサイクル数の合計が100サイクルに到達するまで充放電を繰り返して放電容量を測定した。この結果から、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、0.2Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電し、さらに定電圧で電流が0.05Cに到達するまで充電した。放電時には、0.2Cの電流で終始電圧2.5Vに到達するまで定電流放電した。なお、「0.2C」および「0.05C」とは、それぞれ電池容量(理論容量)を5時間および20時間で放電しきる電流値である。
保存特性を調べる場合には、サイクル特性を調べた場合と同様の手順により電池状態を安定化した二次電池を用いて、常温環境中(23℃)で二次電池を1サイクル充放電させて放電容量を測定した。続いて、二次電池を再び充電させた状態で恒温槽中(80℃)に10日間保存したのち、常温環境中(23℃)で二次電池を放電させて放電容量を測定した。この結果から、保存維持率(%)=(保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100を算出した。充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様である。
負極活物質として非金属系材料(炭素材料)を用いた場合には、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有しているか否かにかかわらず、高いサイクル維持率および保存維持率が得られた。すなわち、炭素材料を用いた場合には、電解液中における不飽和環状炭酸エステルの有無に応じてサイクル維持率および保存維持率に変化が生じなかった。
これに対して、金属系材料を用いた場合には、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有していると、その不飽和環状炭酸エステルを含有していない場合と比較して、サイクル維持率および保存維持率の双方が高くなった。
これらの結果は、以下のことを表している。低反応性の炭素材料を用いた場合には、その炭素材料が電解液の化学的安定性(分解反応の進行性)にほとんど影響を与えない。これにより、不飽和環状炭酸エステルの有無によらずに高いサイクル維持率および保存維持率が得られるため、その不飽和環状炭酸エステルを用いてもサイクル維持率および保存維持率が改善されない。これに対して、高反応性の金属系材料を用いた場合には、その金属系材料が電解液の化学的安定性に大きな影響を及ぼす。このため、不飽和環状炭酸エステルを用いないと低いサイクル維持率および保存維持率しか得られないのに対して、その不飽和環状炭酸エステルを用いるとサイクル維持率および保存維持率が大きく改善される。
特に、不飽和環状炭酸エステルを用いた場合には、その含有量が0.01重量%〜10重量%、さらに0.01重量%〜5重量%であると、サイクル維持率および保存維持率がより高くなった。
(実験例2−1〜2−16)
表2に示したように溶媒の組成を変更したことを除き、実験例1−5と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
ECと組み合わせた溶媒は、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチルメチル(EMC)または炭酸プロピル(PC)である。この他、他の不飽和環状炭酸エステルは炭酸ビニレン(VC)、ハロゲン化炭酸エステルは4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、シス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(c−DFEC)、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(t−DFEC)、または炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)である。また、スルトンはプロペンスルトン(PRS)、酸無水物は無水コハク酸(SCAH)または無水スルホプロピオン酸(PSAH)である。
溶媒の組成は、重量比でEC:PC:DMC=10:20:70である。溶媒中の含有量は、VCが2重量%、FEC、c−DFEC、t−DFECまたはDFDMCが5重量%、PRS、SCAHまたはPSAHが1重量%である。
溶媒の組成を変更しても、高いサイクル維持率および保存維持率が得られた。特に、電解液が他の不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルトンまたは酸無水物を含んでいると、サイクル維持率および保存維持率の一方または双方がより高くなった。
(実験例3−1〜3−3)
表3に示したように電解質塩の組成を変更したことを除き、実験例1−5と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
LiPF6 と組み合わせた電解質塩は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、式(8−6)に示したビス[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウム(LiBOB)、またはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 :LiTFSI)である。この場合には、LiPF6 の含有量を溶媒に対して0.9mol/kg、LiBF4 等の含有量を非水溶媒に対して0.1mol/kgとした。
電解質塩の組成を変更しても、高いサイクル維持率および保存維持率が得られた。特に、電解液がLiBF4 などの他の電解質塩を含んでいると、サイクル維持率および保存維持率がより高くなった。
(実験例4−1〜4−12,5−1〜5−16,6−1〜6−3)
表4〜表6に示したように、焼結法を用いて負極活物質層22Bを形成したことを除き、実験例1−1〜1−12、2−1〜2−16,3−1〜3−3と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
負極22を作製する場合には、負極活物質(Si粉末)90質量部と、負極結着剤(PVDF)10質量部とを混合して、負極合剤とした。続いて、負極合剤を有機溶剤(NMP)に分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、焼成(350℃×3時間)した。
負極活物質層22Bの形成方法を変更しても、表1〜表3と同様の結果が得られた。すなわち、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有していると、高いサイクル維持率および保存維持率が得られた。これ以外の傾向は、表1〜表3の結果について説明した場合と同様であるため、その説明を省略する。
(実験例7−1〜7−4)
表7に示したように、金属系材料としてSnCoC含有材料(SnCoC)を用いたことを除き、実験例1−5,1−12,2−6,2−15と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
負極22を作製する場合には、最初に、Co粉末およびSn粉末を合金化してCoSn粉末としたのち、C粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物10gを直径9mmの鋼玉約400gと一緒にセットした。続いて、反応容器中をAr雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が20時間になるまで繰り返した。続いて、反応容器を室温まで冷却してSnCoCを取り出したのち、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
得られたSnCoCの組成を分析したところ、Snの含有量は49.5質量%、Coの含有量は29.7質量%、Cの含有量は19.8質量%、SnおよびCoの割合(Co/(Sn+Co))は37.5質量%であった。この際、SnおよびCoの含有量は誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分析で測定し、Cの含有量は炭素・硫黄分析装置で測定した。また、X線回折法によりSnCoCを分析したところ、2θ=20°〜50°の範囲に半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPSによりSnCoC含有材料を分析したところ、図9に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側(284.5eVよりも低い領域)にSnCoC中におけるC1sのピークP3とが得られた。この結果から、SnCoC中のCは他の元素と結合していることが確認された。
SnCoCを得たのち、負極活物質(SnCoC)80質量部と、負極結着剤(PVDF)8質量部と、負極導電剤(グラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部)12質量部とを混合して、負極合剤とした。続いて、負極合剤を有機溶剤(NMP)に分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型した。
金属系材料の種類を変更しても、表1および表2と同様の結果が得られた。すなわち、電解液が不飽和環状炭酸エステルを含有していると、高いサイクル維持率および保存維持率が得られた。これ以外の傾向は、表1および表2の結果について説明した場合と同様であるため、その説明を省略する。
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術について説明したが、本技術は実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、二次電池の種類としてリチウムイオン二次電池について説明したが、これに限られない。本技術の二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により電池容量が表される二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料が用いられると共に、その負極材料の充電可能な容量は、正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
また、電池構造が円筒型またはラミネートフィルム型であると共に、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。本技術の二次電池は、角型、コイン型またはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても、同様に適用可能である。
また、電極反応物質としてLiを用いる場合について説明したが、これに限られない。この電極反応物質は、例えば、NaまたはKなどの他の1族元素や、MgまたはCaなどの2族元素や、Alなどの他の軽金属でもよい。本技術の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更しても同様の効果を得ることができる。
また、不飽和環状炭酸エステルの含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本技術の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本技術の効果が得られるのであれば、上記した範囲から含有量が多少外れてもよい。
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極および負極と共に電解液を備え、
前記負極は、SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、
前記電解液は、下記の式(1)で表される不飽和環状炭酸エステルを含有する、
二次電池。
(Xはm個の>C=CR1−R2とn個の>CR3R4とが任意の順に結合された2価の基である。R1〜R4は水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基であり、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。mおよびnはm≧1およびn≧0を満たす。)
(2)
前記ハロゲン基はフッ素基、塩素基、臭素基またはヨウ素基であり、
前記1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基は炭素数=1〜12のアルキル基、炭素数=2〜12のアルケニル基、炭素数=2〜12のアルキニル基、炭素数=6〜18のアリール基、炭素数=3〜18のシクロアルキル基、炭素数=1〜12のアルコキシ基、それらのうちの2つ以上が結合された基、またはそれらの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換された基である、
上記(1)に記載の二次電池。
(3)
前記不飽和環状炭酸エステルは下記の式(2)または式(3)で表される、
上記(1)または(2)に記載の二次電池。
(R5〜R10は水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基であり、R5およびR6は互いに結合されていてもよいし、R7〜R10のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。)
(4)
前記不飽和環状炭酸エステルは下記の式(1−1)〜式(1−56)で表される、
上記(1)または(2)に記載の二次電池。
(5)
前記電解液中における前記不飽和環状炭酸エステルの含有量は0.01重量%〜10重量%である、
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の二次電池。
(6)
前記SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、Siの単体、合金および化合物、ならびにSnの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種である、
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の二次電池。
(7)
リチウムイオン二次電池である、
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の二次電池。
(8)
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池の使用状態を制御する制御部と、
その制御部の指示に応じて前記二次電池の使用状態を切り換えるスイッチ部と
を備えた、電池パック。
(9)
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部と、
その駆動力に応じて駆動する駆動部と、
前記二次電池の使用状態を制御する制御部と
を備えた、電動車両。
(10)
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される1または2以上の電気機器と、
前記二次電池からの前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部と
を備えた、電力貯蔵システム。
(11)
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される可動部と
を備えた、電動工具。
(12)
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池を電力供給源として備えた、電子機器。