図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の吐出孔8が設けられている。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の吐出孔8は、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラッ
ク(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、ヘッド本体13の一部である。図3では、説明のため、一部の流路を省略して描いている。図4は、図3と同じ位置の拡大平面図であり、図3とは別の一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき加圧室10(加圧室群9)、しぼり12および吐出孔8などを実線で描いている。図5は、圧電アクチュエータ基板21の平面図である。図5でも同様に、第1の共通電極用表面電極37や貫通孔38を実線で描いている。図6(a)は、図3のV−V線に沿った縦断面図であり、(b)
は、図5のX−X線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、接着積層された圧電アクチュエータ基板21とを有している。圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避ける位置に形成
されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各加圧室列に含まれる加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5a繋がっている4つの吐出孔8、つまり全部で16個の吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10および後述のダミー加圧室に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。すなわち、個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の上面に、第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている。個別電極35は加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の吐出孔8が形成されている。これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔群7は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
以上の流路は、液滴の吐出に直接関係する流路であるが、流路部材4には、図では省略してあるダミー加圧室が設けられている。ダミー加圧室は、加圧室10が設けられている台形状の領域の周囲に一列形成されている。ダミー加圧室により、加圧室10のうちの最も外側にある加圧室10の周囲の流路部材4の剛性などが、他の加圧室10の状態と近くなるので、液体吐出特性のばらつきを少なくできる。ダミー加圧室の形状は加圧室と同じであるが、他の流路に繋がってはいない。ダミー加圧室の配置は、加圧室10のマトリクス状の配置を延長するように配置される。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図6に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔である。この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向
かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、図6に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ15〜25μm程度である。圧電アクチュエータ基板21は、流路部材4の加圧室10の開口している平面状の面に積層されており、圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる、内部電極である共通電極34、Au系などの金属材料からなる第1の表面電極である個別電極35、個別電極25の上に形成されているAg系などの金属材料からなる接続ランド36を有している。個別電極35だけをAg系の金属材料で形成してもよい。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10およびダミー加圧室と対向する位置に配置されている個別電極本体35aと、個別電極本体35aから加圧室10のない位置まで引き出されている接続電極35bとを含んでいる。Au系導体の形成する場合の個別電極35の厚さは、0.3〜1μmであちり、Ag系導体の形成する場合の個別電極35の厚さは、1〜3μmである。る。接続電極35bには接続ランド36が形成されている。接続ランド36は例えばガラスフリットを含む銀からなり、厚さが5〜15μm程度で凸状に形成されている。また、接続ランド36には、必要に応じてさらに接続バンプを形成した上、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
なお、以上は、圧電アクチュエータ基板21が2層の圧電セラミック層の場合の構造であるが、3相層以上の圧電セラミック層を積層して、個別電極35と共通電極34が交互になるように配置してもよい。
個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の一方の主面の略全面に渡ってマトリクス状に形成されている。すなわち、第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている。
なお、個別電極35のうち列A、B、Cの個別電極は、その直下がダミー加圧室となるダミー個別電極45である。このダミー個別電極45から引き出される接続電極の一部には、ダミー接続ランド46が形成されている。また、ダミー接続ランド46は、個別電極35(ダミー個別電極35を含む)が形成されていない部分に単独にも形成されていて、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4を接合するときに加わる圧力を均等化することができる。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内の全ての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34(の個別電極35と対向してい部位)の厚さは0.7μm程度である。共通電極34は複数の貫通孔38中に入り込んでいる第2の表面電極である共通電極用表面電極37に電気的に繋がっており、さらに外部と電気的に繋がっている。貫通孔38の直径は50〜200μm程度である。貫通孔38は、共通電極用表面電極37が入り込みやすいように、共通電極34と繋がっている底部の形状より、圧電セラミック層21bの上面の開口の
形状が大きい方が好ましい。円形状の場合、上面の開口径が5〜25%、特に5〜15%、底面の開口径より大きいのが好ましい。さらに、貫通孔38の底部から上面の開口に向かって徐々に開口径が広がっていくのが好ましい。
上述の貫通孔38は、底面および内壁が共通電極用表面電極37で覆われているが、共通電極用表面電極37で埋まってはおらず、そのため、他の部位と比較して貫通孔38の形成されている部位は、圧電アクチュエータ基板21の部位と比較してクラックなどが生じやすい。貫通孔38が導体で埋まっている場合であっても、周囲と構造が違うことにより強度が弱かったり、わずかに変更しているために、周囲よりも壊れやすい。そのため、流路部材4と圧電アクチュエータ基板とを接着積層する際、貫通孔38の直下部分が接着不良になったり、接着が剥がれる起点や、圧電アクチュエータ基板21にクラックなどの破壊が生じる起点となりやすい。
そこで、圧電セラミック層21aの下面の、貫通孔38の直下部の周囲に凹部39を設ける。凹部39は、圧電アクチュエータ基板21を平面視した場合、貫通孔39の底面よりも外側に配置され、貫通孔39の底面からの距離は、貫通孔39の底面と同じ面積の円の直径の10%以上100%以下にするのが好ましい。10%以上離れていることにより、貫通孔39の底面と凹部39との間にクラックを生じさせ難くできる。また100%以下にすることで、貫通孔38の下の部分の接着性を良くする効果が高まる。凹部39は、例えば焼成前の生の積層体に加圧することで形成できる。
凹部39の平面形状は、円形のなどにして、貫通孔38の直下部の周囲にいくつか配置してもよいが、貫通孔38の直下部を囲む環状すれば、接着強度を高める効果を大きくできる。
また、他の問題として、貫通孔38となる孔を開けた圧電セラミック層21bとなるグリーンシートなどと、圧電セラミック層21aとなるグリーンシートなどと積層した場合に生じるおそれのある、貫通孔38付近の共通電極34の断線の問題がある。貫通孔38となる孔の開いた状態で積層を行うと、孔の内壁直下の共通電極34に局所的に圧力が加わり、変形する。また、貫通孔38となる孔に導体ペーストを充填してから積層する場合でも、充填量を完全に適正化するのは難しいので、充填量の過不足に応じで、周囲の共通電極34を変形させる。充填したほうが、変形の程度を少なくできる可能性が高いが、貫通孔39が、深さに対して開口径の大きいものであると、グリーンシートの状態で、貫通孔38となる孔の中に、導体ペーストなどを保持した状態を保ち難いので、充填していない状態で積層せざるを得なくなる。開口径が、深さ以上、特に、深さの倍以上である場合、充填しないで積層するのが好ましい。また、この問題は、孔の孔空けをパンチングで行ない、製造ばらつきなどで孔の縁にバリが生じた場合などに顕著になる。応力が加わると、貫通孔38直下の共通電極34は、圧電セラミック層21a側に押し込まれた形状になり、共通電極34は貫通孔38の周囲で下側に湾曲した形状になる。湾曲が激しい場合、圧電アクチュエータ21を作製した段階で導通不良になる場合があり、その後の応力などで断線することもある。
そこで、貫通孔39の内壁と接する部位の厚みを厚くする。厚くするのは内壁に沿った環状の領域でもよいが、形成位置のずれを考慮して、貫通孔38の底面とほぼ相似形で、貫通孔38より少し広い範囲で共通電極34に厚い部位34aを設けるのがよい。これにより、変位素子50の部分の共通電極34は薄く、変位素子50の変位量を大きく保ったまま、上述の断線の発生を低減できる。厚い部位34aの厚さは、周囲の共通電極34の1.5倍以上、特に2倍以上にすれば、断線を抑制する効果を高くできる。
厚い部位34aの形状としては、上述した形状以外に、貫通孔38が連なって配置され
ている場合は、それらを繋げるように帯状に形成してもよい。
また、厚い部位34aは共通電極となる導体ペーストを印刷する際に、その部分の厚さを厚くすることで形成できるが、そのように圧電アクチュエータ基板21を作製することで、上述の凹部39を形成することができる。共通電極34の下方向への湾曲が、貫通孔38の周囲でも生じることや、加工の位置ずれに対応するために、厚い部位34aは、貫通孔38の直下だけでなく、その周囲に配置される。そうすると、貫通孔38の周囲には、生積層体に積層する前の厚みが厚い部分ができる。そこでは、貫通孔38のある部分と比較すると圧電セラミック層21b(となるグリーンシートなど)がある分、厚くなり、その外側の部分と比較すると、共通電極34が厚くなっている分、厚くなっている。そのため、この部位に圧力が集中することにより、グリーンシートが伸びるように変形してその部分がわずかに薄くなる。そのような生の積層体を焼成すると、その部分が環状に凹み、凹部39を形成することができる。なお、貫通孔38となる孔に導体ペーストなどが充填されていても、充填量を少なくするなどすれば、深さは浅くなるが凹部39を形成することができる。
厚い部位34aの平面形状を貫通孔38の上部の開口よりも大きくすれば、凹部39を安定して形成できる。凹部39の深さは、積層条件や、厚い部位34aの厚さで調整できる。深さは、0.5〜10μm、好ましくは、1〜5μmとすれば、接着強度を強くできる。接着剤層の厚さを0.5〜1.5μmとする場合に、深さは、さらに1〜3μmとするのが好ましい。環状となっている凹部39の溝の幅は5〜50μm、好ましくは5〜30μmとされる。
以上のような、下部の周囲に凹部39が形成されている貫通孔38を、圧電アクチュエータ基板21の外周に配置すれば、その部位の接着が強くなるので、接着が端部から剥がれることを抑制できる。一カ所でも配置すれば、その部分の強度を強くすることができ、多角形状の圧電アクチュエータ基板の角部、より好ましくは、全ての角部に設ければ、より剥がれに難くできる。また、外辺に沿って複数個配置してもよい。
図6に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図6に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC
上のコンタクトおよび配線を介して、個別にアクチュエータ制御手段に電気的に接続されている。
本実施形態における圧電アクチュエータ基板21の液体吐出時の駆動方法の一例を、個別電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータ基板21は、上側(つまり、加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、加圧室10内において圧力波がマニホールド5から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。
これによると、加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、貫通孔38となる孔を、パンチングやレーザーで開ける。また、グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷等により形成する。貫通孔38と繋がる部位の共通電極34は、パターンニングして印刷して厚さを厚くする。
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、圧電アクチュエータ素体を作製する。その後、Agペーストを用いて圧電アクチュエータ素体表面に個別電極35および共通電極用表面電極37を印刷した後、焼成する。これにより、貫通孔38の直下周囲に凹部39を形成
できる。例えば、共通電極34の厚い部位34aを円形形成すれば、環状の凹部39を形成できる。
すなわち、圧電アクチュエータ基板21の製造方法として、セラミック振動板21aと少なくとも1層の圧電セラミック層21bとが積層されている積層体と、該積層体の圧電セラミック層21b側の主面に配置されている第1の表面電極35と、前記積層体の内部に配置されている内部電極34と、内部電極34に繋がるように圧電セラミック層21bを貫通している貫通孔38と、圧電セラミック層21b側の主面に、貫通孔38を覆うように配置されている第2の表面電極37とを備えている圧電アクチュエータ基板21を作製する工程であって、少なくともセラミック振動板21aとなる第1のグリーンシートと、圧電セラミック層21bとなる第2のグリーンシートと、内部電極34となる電極層とを積層して生積層体を作製する工程と、該生積層体を焼成する工程とを含み、電極層の貫通孔38の内壁と接する部位の厚さを、周囲の前記電極層の厚さよりも厚くすることで、圧電アクチュエータ21における、貫通孔38の直下部の周囲に凹部39を形成できる。また積層を、第1のグリーンシートに貫通孔38となる孔が開いた状態で行なえば、貫通孔38が安定して作製でき、凹部39の位置精度も高くなる。より安定して作製するためには、貫通孔38となる孔中に導体ペーストなどが充填されていない状態で積層するのがよい。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を接着層を介して積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータ基板21や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを加熱接合することができる。