(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
まず、偽造防止用潜像画像表出構造における潜像画線群(1)の一例について説明する。図1に本発明の潜像画線群(1)を示す。なお、この潜像画線群(1)とは、従来の技術のスクランブルイメージにあたる。潜像画線群(1)は、潜像画線(3)の集合によって構成されて成る。図1に示す潜像画線群(1)は図2に示す「三つの桜の花びら」の画像と「2013」の数字を含んだ基画像(2)を特定の方法で分断及び圧縮することで形成した。同じ基画像(2)を従来の方法で作製した図55のスクランブルイメージ(1)と比較すると、基画像(2)を予見することが困難な構成となっている。
図3に潜像画線群(1)の具体的な構成を示す。潜像画線群(1)は、それぞれ形状が相似でない、すなわち非相似形状の複数の潜像画線(3)によって構成されて成る。第一の実施の形態においては、潜像画線群(1)の中心(A−A’線上)に位置する潜像画線(3(a))は、両端が細く尖った直線であり、中心部から図中S1方向に向かって、極端に縦長な半楕円の潜像画線(3(b))、やや縦長な半楕円の潜像画線(3(c))、縦長な潜像画線(3(d))へ形状が微妙に変化している。図3においては潜像画線群(1)の中から四つの潜像画線(3(a)、3(b)3(c)3(d))のみを抜粋して拡大するが、第一の実施の形態において、一つの潜像画線群(1)を構成する潜像画線(3)であってもそれぞれの画線形状はすべて異なっている。なお、第一の実施の形態においては、潜像画線群(1)に含まれるすべての潜像画線(3)が互いに相似でなく、非相似形状である例であるが、本発明の潜像画線群(1)の構成はこれに限定されるわけではなく、少なくとも潜像画線群(1)に含まれる潜像画線(3)の中に相似でない形状の潜像画線(3)が一部に含まれていれば良い。
なお、それぞれの潜像画線(3)とは、黒く塗りつぶされた画像のみを指すのではなく、その周囲の画像が形成されて無い非画線領域を含めた一定の領域を指す。図3の例では中心部の潜像画線(3(a))は、曲線で囲まれた細い笹の葉状の領域全体を指し、半楕円の潜像画線(3(b)、3(c)3(d))では曲線で囲まれた馬蹄形の領域全体を指す。
なお、第一の実施の形態において、それぞれの潜像画線(3)は互いに非相似形状であるが、隣り合う位置関係にある潜像画線(3)同士は、潜像画線群(1)に含まれるすべての潜像画線(3)の形状の中でも最も似た形状を有することが望ましい。この理由は、本発明においては、非相似形状である複数の潜像画線(3)を用いて潜像画線群(1)を形成するため、潜像画線群(1)中にはそれぞれ全く形状の異なる非相似形状の潜像画線(3)が含まれるが、それぞれ隣り合う潜像画線(3)同士の形状が著しく異なると、フィルタ画像(6)を重ねた場合、基画像(2)に歪が生じ、基画像(2)が不明瞭な形で再生される場合がある。そのため、基画像(2)を可能な限り歪のない、明瞭な形で再生するために、少なくとも隣り合った潜像画線(3)同士は非相似形状であっても、可能な限り形状を似せることが望ましい。
第一の実施の形態において、それぞれの潜像画線群(1)は形状が異なるため、当然のことながら画線方向や画線幅、それぞれの潜像画線(3)間のピッチも異なる。ただし、一つの潜像画線群(1)の中に含まれるそれぞれの潜像画線(3)の画線幅のうち、最も大きい画線幅を持つ潜像画線(3)の画線幅と、最も小さい画線幅を持つ潜像画線(3)の画線幅の倍率が2倍以下であることが望ましく、また同様に一つの潜像画線群(1)の中に含まれる各潜像画線(3)間のピッチは、最も大きいピッチと最も小さいピッチの倍率が2倍以下であることが望ましい。これは、これ以上の画線幅の差やピッチの差があると、フィルタ画像(6)を重ねた場合に出現する基画像(2)が、部分的に解像度が低下したり、濃淡に強弱が生じたりするためであり、基画像(2)を画像全体として違和感なく再生するために満たしたほうが良い条件である。また、画線幅は図3における中心部の潜像画線(3(a))で示した例のように、一つの潜像画線(3)の中でも太くしたり、細くしたり、自在に変化させて良い。
続いて、潜像画線群(1)のより具体的な構造を説明するとともに、同時にその作製方法について説明する。図4に示すように、説明の都合上、潜像画線群(1)の一部である「2013」の文字を暗号化した部分を抜粋して拡大し、その部分の構造について具体的に説明する。図4に拡大した潜像画線群(1)の「2013」を表す部分は、n個の潜像画線(3(1)、3(2)、3(3)・・・3(i)・・・3(n−1)、3(n))から成る。具体的には、特定の画線幅(W1(1))の第一の潜像画線(3(1))から第一の潜像画線(3(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(1)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(2))の第二の潜像画線(3(2))があり、第二の潜像画線(3(2))から第二の潜像画線(3(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(2)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(3))の第三の潜像画線(3(3))があり、・・・特定の画線幅(W1(n−1))を有する第n−1の潜像画線(3(n−1))から第n−1の潜像画線(3(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(n)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(n))の第nの潜像画線(3(n))がある。それぞれの画線幅W1(1)、W1(2)、W1(3)、・・・W1(n−1)、W1(n)は同じ値でも良く、異なっていても良い。また、それぞれのピッチP1(1)、P1(2)、P1(3)、・・・P1(n−1)、P1(n)は、同じ値でも良く異なっていても良い。
それぞれの潜像画線(3)は、基画像(2)を部分的に取り出して潜像画線(3)の画線方向と直交する方向に沿って圧縮した構造を有する。第一の実施の形態における潜像画線群(1)については、それぞれの潜像画線(3)は、形状自体が異なること加え、それぞれが現す画像(黒く塗りつぶした部分)もすべて異なる。
それぞれの潜像画像(3)が表す画像の構成について、作製方法を解説しながら明らかにする。例として第一の潜像画線(3(1))から第一の方向(S1方向)に数えてi番目にあたる第iの潜像画線(3(i))の具体的な作製方法について図5を用いて説明する。なお、説明の都合上、潜像画線群(1)の一部である「2013の数字」の部分のみを抜粋して説明する。まず、基画像(2)である「2013」に対して、図5(a)に示すように第iの潜像画線(3(i))の輪郭を現した第iの輪郭領域(4(i))を特定の位置に重ねる。それぞれの輪郭領域(4)とは、それぞれの潜像画線(3)の輪郭を現したものである。
この第iの輪郭領域(4(i))と、基画像(2)との位置関係を決めたのち、この第iの輪郭領域(4(i))の中心線(4a(i))から、画線方向と直交する方向(図中S1方向)にそれぞれ均等な距離(L/2)の長さの辺(L)を有し、対象と成る基画像(2)が完全に含まれる高さ(H)を有する第iのフレーム(4a(i))を配置する。この第iのフレーム(4a(i))の範囲中に含まれる基画像(2)を図5(d)のように第iのフレーム内画像(5(i))とする。この第iのフレーム内画像(5(i))を図5(e)に示すように第iの輪郭領域(4(i))の中心線(4a(i))の画線方向と直交する方向に対して、中心線(4a(i))に向かって一定の圧縮率で圧縮し、図5(e)に示すような画線方向と直交する方向の長さ(画線幅)W0の第iの圧縮フレーム内画像(5P(i))を作製する。この第iの圧縮フレーム内画像(5P(i))に対して、図5(f)に示すように、第iの輪郭領域(4(i))をマスクとして重ね合わせ、第iの圧縮フレーム内画像(5P(i))と第iの輪郭領域(4(i))が重畳した領域が、第iの潜像画線(3(i))となる。
以上のような方法を繰り返して、第一の潜像画線(3(1))から第nの潜像画線(3(n))までを作製したものが図6に示す潜像画線群である。すなわち、それぞれの潜像画線(3)とは、各潜像画線(3)が位置する位相を中心として基画像(2)に特定のフレーム(4a)を当てはめて圧縮フレーム内画像(5P)を作製して、最後に輪郭領域(4)をマスクとして重畳領域を取りだしてそれぞれの潜像画線(3)としてのものである。ピッチP1離れて隣り合う、潜像画線(i)と、潜像画線(i+1)とは、基画像(2)をそれぞれピッチP1離れた位置でそれぞれの潜像画線の形状に応じて圧縮した画線である。
以上のように、それぞれの潜像画線(3)の幅はそれぞれ異なっている一方で、それぞれの潜像画線(3)に対して適用するフレームにおける、画線方向と直交する方向の長さ(画線幅)Lは、いずれの潜像画線(3)においても同じであり、また、それぞれの圧縮フレーム内画像(5P)における、画線方向と直交する方向の長さ(画線幅)W0は、いずれの潜像画線(3)においても同じである。そのため、それぞれの潜像画線(3)中に含まれる基画像(2)の圧縮率(W0/L)はすべて同じである。フレームの高さ(H)については、対象と成る基画像(2)が完全に含まれる高さが有れば良い。以上が本発明の潜像画線群(1)の構成とその作製方法である。
本発明で言う「画線方向」及び「画線方向と直交する方向」について説明する。画線が直線である場合、図7(a)に示すように画線方向は完全に固定された一つの方向のみとなり、その方向は画線自体と一致し、画線方向と直交する方向は、画線と90度で交わる方向となる。一方、図7(b)に示すように画線が曲線である場合、画線方向とはそれぞれの地点で連続的に変化する。すなわち、それぞれの地点における曲線の接線方向が画線方向となり、画線方向と直交する方向とは、それぞれの地点における曲線の法線方向(画線上のある点から直角に外側に向かう方向)となる。
本発明を構成する潜像画線群(1)を構成する上で従来の作製方法と最も異なる点は、それぞれの圧縮フレーム内画像(5P)を、最終的にそれぞれ対を成す輪郭領域(4)でマスクして抜き出す工程の存在である。この工程が必要な理由は、以下の通りである。本発明の潜像画線群(1)は、それぞれの潜像画線(3)の画線幅やピッチがそれぞれ異なるために、それぞれの潜像画線(3)の画線幅やピッチに合わせてそれぞれの潜像画線(3)に対して圧縮率自体を変えてしまった場合、後述するフィルタ画像(6)を重ね合わせた場合に再生される基画像(2)に歪みが生じて不明瞭な画像となってしまう。本発明のように、画線幅やピッチがそれぞれ異なる潜像画線(3)によって構成された、従来技術と比較してより複雑な潜像画線群(1)を構成している場合、一旦すべて同じ圧縮率で圧縮フレーム内画像(5P)を作製したのち、輪郭領域(4)でマスクして重畳領域を、潜像画線(3)を構成しなければ、基画像(2)を歪み無く再生することができない。
続いて、本発明の偽造防止用潜像画像表出構造を実現する上で、潜像画線群(1)と対を成し、潜像画線群(1)中に暗号化された基画像(2)を再生するために必要となるフィルタ画像(6)について説明する。図8にフィルタ画像(6)の概要を示し、図9及び図10にフィルタ画像(6)の具体的な構造を示す。フィルタ画像(6)は、潜像画線群(1)の各潜像画線(3)と対を成すフィルタ画線(7)が複数配置されたフィルタ画線群(17)により構成されて成る。
本発明において、潜像画線(3)とフィルタ画線(7)が対を成すとは、潜像画線群(1)の上にフィルタ画線群(17)が配置される際に、一つの潜像画線(3)に対して一つのフィルタ画線(7)が配置されることである。したがって、対を成す潜像画線(3)とフィルタ画線(7)が配列されている潜像画線群(1)とフィルタ画線群(17)のピッチは同一の関係となっている。
図9に示すのは、図3に示した四つの潜像画線(3(a)、3(b)3(c)3(d))と、それぞれの潜像画線に対応した四つのフィルタ画線(7(a)、7(b)7(c)7(d))を抜粋したものである。それぞれのフィルタ画線(7)は、基本的にはそれぞれ対を成す潜像画線(3)の輪郭領域(4)内部を完全に塗りつぶした構造を有する。フィルタ画線(7)の画線幅(W2(i))は、対を成す潜像画線(3)の画線幅(W1(i))と異なっていてもよい。ただし、その画線幅の変化率(W2(i)/W1(i))は、すべての画線において同じである必要がある。
図10に示すのは、図4に示した潜像画線群(1)と対を成す領域のフィルタ画線群(17)を抜粋し、拡大して示したものである。この領域におけるフィルタ画線群(17)は、n個のフィルタ画線(7(1)、7(2)、7(3)・・・7(i)・・・7(n−1)、7(n))から成る。具体的には、特定の画線幅(W2(1))の第一のフィルタ画線(7(1))から第一のフィルタ画線(7(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(1)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(2))の第二のフィルタ画線(7(2))があり、第二のフィルタ画線(7(2))から第二のフィルタ画線(7(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(2)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(3))の第三のフィルタ画線(7(3))があり、・・・特定の画線幅(W2(n−1))を有する第n−1のフィルタ画線(7(n−1))から第n−1のフィルタ画線(7(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(n)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(n))の第nのフィルタ画線(7(n))がある。
このフィルタ画線(7)はそれぞれ前述の潜像画線(3)と対を成す関係にあり、第一のフィルタ画線(7(1))は、第一の潜像画線(3(1))と対を成し、第二のフィルタ画線(7(2))は、第二の潜像画線(3(2))と対を成し、第三のフィルタ画線(7(3))は、第三の潜像画線(3(3))と対を成し・・・第n−1のフィルタ画線(7(n−1))は、第n−1の潜像画線(3(n−1))と対を成し、第nのフィルタ画線(7(n))は、第nの潜像画線(3(n))と対を成す関係にある。
それぞれのフィルタ画線(7)の画線幅W2(1)、W2(2)、W2(3)、・・・W2(n−1)、W2(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。また、それぞれのフィルタ画線(7)のピッチP1(1)、P 1(2)、P 1(3)、・・・P1(n−1)、P1(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。加えて、それぞれの画線幅W1(1)、W1(2)、W1(3)、・・・W1(n−1)、W1(n)と、それぞれのフィルタ画線(7)の画線幅W2(1)、W2(2)、W2(3)、・・・W2(n−1)、W2(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。一方、それぞれのフィルタ画線(7)と潜像画線(3)のピッチP1(1)、P1(2)、P1(3)、・・・P1(n−1)、P1(n)は同じ値である必要がある。以上がフィルタ画線群(17)から成るフィルタ画像(6)の説明である。
なお、フィルタ画線群(17)については、前述した潜像画線群(1)との重ね合わせにより、分割された基画像(2)が結合画像として表出されるものであるため、潜像画線群(1)の一部の情報をサンプリング(取り出し)できる機能(色、特性等)を有する必要がある。
続いて、本発明の潜像画線群(1)とフィルタ画像(6)を重ね合わせた場合の効果について説明する。図11(a)に示すように、それぞれ対を成す潜像画線(3)とフィルタ画線(7)がほぼ重なり合う位置関係で二つの画像を重ね合わせると、図11(b)に示すように基画像(2)が再生される。潜像画線群(1)とフィルタ画像(6)を重ね合わせて基画像(2)が再生される効果は、従来のスクランブルイメージと同様であるが、それぞれ対を成す画線同士が重なり合うような位置関係で重ね合わせ無い限り、基画像(2)は再生されない。これは、従来の単純な直線で構成されたスクランブルイメージにおいては、二つの画像が単に平行に重なれば画像が再生されていたのと大きく異なる。すなわち、潜像画線群(1)を再生するための判別具であるフィルタ画像(6)を保持していたとしても、適正な重ね合わせ位置を知らなければ基画像(2)を再生させることができない。このような効果は、従来の技術と比較して判別者を限定した、セキュリティレベルのより高い技術として機能させる場合に特に有効である。
(第二の実施の形態)
続いて、第二の実施の形態として、偽造防止用潜像画像表出構造における潜像画線群(1)の構成の一例であって、第一の実施の形態と異なった潜像画線群(1’)の構成について説明する。図12に本発明の潜像画線群(1’)を示す。潜像画線群(1’)は、潜像画線(3’)の集合によって構成されて成る。図12に示す潜像画線群(1’)は、第一の実施の形態と同様な基画像(2)、すなわち図2に示した「三つの桜の花びら」の画像と「2013」の数字を含んだ基画像(2)を第一の実施の形態とは異なる方法で分断及び圧縮することで形成して成る。この潜像画線群(1’)における一つ一つの潜像画線(3’)は、ミラー反転によって鏡像化されているために、同じ基画像(2)から作製した図1の潜像画線群(1)と比較すると、基画像(2)を予見することがより困難な構成となっている。
図13に潜像画線群(1’)の具体的な構成を示す。潜像画線群(1’)は、第一の実施の形態の例と同様に、それぞれ形状が相似でない、すなわち非相似形状の複数の潜像画線(3’)によって構成されて成る。第二の実施の形態における潜像画線群(1’)と、第一の実施の形態における潜像画線群(1)とは、それぞれの潜像画線(3’)中の画像が異なるだけであり、基本的な輪郭領域(4)の形状や画線幅、画線ピッチ等は、第一の実施の形態と同様であるため、具体的な説明については省略する。
第二の実施の形態における潜像画線群(1’)と、第一の実施の形態における潜像画線群(1)の相違点である、それぞれの潜像画像(3’)が表す画像の構成について、作製方法を解説しながら明らかにする。例として第一の潜像画線(3’(1))からS1方向に数えてi番目にあたる第iの潜像画線(3’(i))の具体的な作製方法について図14を用いて説明する。なお、説明の都合上、潜像画線群(1’)の一部である「2013の数字」の部分のみを抜粋して説明する。まず、基画像(2’)である「2013」に対して、図14(a)に示すように第iの潜像画線(3’(i))の輪郭を現した第iの輪郭領域(4’(i))を特定の位置に重ねる。
この第iの輪郭領域(4’(i))と、基画像(2’)との位置関係を決めたのち、この第iの輪郭領域(4’(i))の中心線(4a’(i))から、画線方向と直交する方向(図中S1方向)にそれぞれ均等な距離(L/2)の長さの辺(L)を有し、対象と成る基画像(2’)が完全に含まれる高さ(H)を有する第iのフレーム(4a’(i))を配置する。ここまでは第一の実施の形態の手法と全く同じである。第二の実施の形態においては、この第iのフレーム(4a’(i))の範囲中に含まれる基画像(2)を図14(d)に示すように、ミラー反転して鏡像化し、この鏡像化した画像を第iのフレーム内画像(5R’(i))とする。この鏡像化した第iのフレーム内画像(5R’(i))を第一の実施の形態と同様に、図14(e)に示すように第iの輪郭領域(4’(i))の中心線(4a’(i))の画線方向と直交する方向に対して、中心線(4a’(i))に向かって一定の圧縮率で圧縮し、図14(e)に示すような画線方向と直交する方向の長さ(画線幅)W0の第iの圧縮フレーム内画像(5P’(i))を作製する。この第iの圧縮フレーム内画像(5P’(i))に対して、第一の実施の形態と同様に、図14(f)に示すように、第iの輪郭領域(4’(i))をマスクとして重ね合わせ、第iの圧縮フレーム内画像(5P’(i))と第iの輪郭領域(4’(i))が重畳した領域が、第iの潜像画線(3’(i))となる。
以上のような方法を繰り返して、第一の潜像画線(3’(1))から第nの潜像画線(3’(n))までを作製することができる。すなわち、図15に示すように、それぞれの基画像(2’)に対して特定の方向(S1方向)に位相がずれて配されたそれぞれの輪郭領域の中心線(4’)を基準に同じ幅Lのフレームを当てはめ、フレーム内に含まれた画像を鏡像化したのち圧縮して、圧縮フレーム内画像(5P’)を作製して、最後に輪郭領域(4’)をマスクとして重畳領域を取りだしてそれぞれの潜像画線(3’)とすることで、潜像画線群(1’)とする。以上のように、第二の実施例における潜像画線群(1’)と、第一の実施例における潜像画線(1)の違いとは、それぞれを構成する潜像画線(3’、3)が基画像(2’、2)をミラー反転した鏡像であるか否かである。その他の潜像画線群(1’)の構造、加えて潜像画線群(1’)と対を成すフィルタ画線(6’)の構造等は、第一の実施の形態と同様であることから説明を省略する。この潜像画線群(1’)に第一の実施の形態で説明したのと同じフィルタ画像(6’)を重ね合わせた場合、第一の実施の形態と同様に基画像(2’)が再生される。
本発明の潜像画線群(1)は、第一の実施の形態で説明した構成と、第二の実施の形態で説明した構成を同時に用いることもできる。図16に示す潜像画線群(1)は、基画像(2)のうち、左端の桜の花びら(2b)と右端の桜の花びら(2d)とを第一の実施の形態で説明した構造、すなわち基画像(2)を鏡像化していない構造とし、その他中央の桜の花びら(2c)と数字(2a)を第二の実施の形態で説明した構造、すなわち基画像(2)を鏡像化した構造としている。このように、一つの基画像(2)に対して、第一の実施の形態で説明した構造と、第二の実施の形態で説明した構造の、二つの異なる構造を組み合わせても良い。
また、フィルタ画線群(17)や潜像画線群(1)の形状(より具体的には潜像画線群(1)の輪郭領域(4)の構造)については、当然のことながら第一の実施の形態と第二の実施の形態で説明したような構造に限定されるわけではない。図17に一例を示すが、例えば図17(a)に示すように曲線から直線へと変化する構造、図17(b)のようにある曲線が異なる形状の曲線へと変化する構造、図17(c)のような直線から楕円へと変化する構造、図17(d)のような円が楕円へと変化する構造等、それぞれのフィルタ画線群(17)や潜像画線群(1)を構成するフィルタ画線(7)、潜像画線(3)の中に、少なくとも一部に互いに非相似な形状が存在すれば良い。このような構造を含むことで、従来の技術と比較して、基画像(2)が予見しづらく、かつ、偽造が困難な本発明の偽造防止用潜像画像表出構造を実現することができる。
この偽造防止用潜像画像表出構造の具体的な付与形態の一例としては、図18に示すように、セキュリティ印刷物(8)に一部に潜像画線群(1)を印刷し、真偽判別が必要な場合に、本技術の情報開示対象者が透過性を有する基材に付与されたフィルタ画像(6)を重ね合わせて基画像(2)が再生されることを確認すればよい。
この偽造防止用潜像画像表出構造の潜像画線群(1)を作製する上で、潜像画線群(1)を見た場合に基画像(2)を予見しづらい画像としたいと作製者が考える場合には、潜像画線群(1)の形状をより複雑な構成とすることに加え、それぞれの潜像画線(3)中に含まれる基画像(2)の圧縮率(W0/L)をより小さな値とすることが望ましい。この圧縮率(W0/L)の値が1の場合には潜像画線群(1)は基画像(2)と同じ画像であり、圧縮率が1より小さな値となるにつれて一つの潜像画線(1)の中に含まれる基画像(2)の情報が多くなり、結果として潜像画線群(1)を見ても基画像(2)を予見しづらい画像へと変化する。この偽造防止用潜像画像表出構造の潜像画線群(1)を作製する上では、圧縮率は0.01以上、0.5以下の値を用いることが望ましい。
圧縮率が0.5を超えると潜像画線群(1)を見た場合に基画像(2)を容易に予見できてしまい、0.01未満だと用いる潜像画線群(1)の形状によっては、再生される基画像(2)に歪が生じて不明瞭な画像となる場合があるためである。
(第三の実施の形態)
続いて、第三の実施の形態として前述の偽造防止用潜像画像表出構造を応用して作製する潜像印刷物について説明する。この潜像印刷物とは、正反射光下において基画像にあたる潜像画像が再生され、かつ、観察角度を変化させることで再生された基画像が動いて見える、いわゆる、「動画的な視覚効果」を備える。基本的には前述の偽造防止用潜像画像表出構造の潜像画線群とフィルタ画線群とを一体化した技術であり、フィルタ画線群と同じ模様を盛り上がりのある蒲鉾状の画線で形成し、その上に潜像画線群を重ねて形成する。前述の偽造防止用潜像画像表出構造とは異なり、観察者はフィルタ画像を別に用意する必要がなく、可視光下で容易に真偽判別することができるため、真偽判別性に優れた技術である。
図19に、本発明の潜像印刷物(9’’)を示し、図19(b)には潜像印刷物(9’’)のA−A’ラインにおける断面図を示す。潜像印刷物(9’’)は、基材(10’’)上に、印刷画像(11’’)を備える。基材(10’’)は、印刷画像(11’’)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であっても良く、材質は問わない。また、印刷画像(11’’)は透明であっても着色されていても良く、その色彩は問わない。
図20に印刷画像(11’’)の構成の概要を示す。印刷画像(11’’)は、前述の偽造防止用潜像画像表出構造におけるフィルタ画像(6、6’)にあたる蒲鉾状画線群(6’’)と、偽造防止用潜像画像表出構造における潜像画線群(1’’)が重なって形成されて成る。印刷画像(11’’)の積層構造は、蒲鉾状画線群(6’’)の上に潜像画線群(1’’)が重なる構造を有して成る。
第三の実施の形態において、潜像印刷物(9’’)の蒲鉾状画線群(6’’)の構成は、第1の実施の形態で用いたフィルタ画像(6)と同じ画像を用い、潜像印刷物(9’’)の潜像画線群(1’’)の構成は、前述の図16で潜像画線群(1)と同じ画像を用いた例で説明する。
まず、蒲鉾状画線群(6’’)について説明する。前述の通り、第1の実施の形態で用いたフィルタ画像(6)と同じ画像を用いており、図21に示すように、それぞれ形状が互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の蒲鉾状画線(7’’)によって構成されて成る。フィルタ画線群(17)におけるフィルタ画線(7)と、本潜像印刷物(9’’)における蒲鉾状画線(7’’)の違いとは、蒲鉾状画線(7’’)は高さ方向に一定の高さの盛り上がりを必要とすることと、後述する光学特性が必要なことであり、平面構造についてはフィルタ画線(7)と同じである。
以上のような構成の蒲鉾状画線群(6’’)を、印刷画線に盛り上がりを形成できる印刷方式によって形成する。出現する潜像画像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状画線(7’’)の盛り上がり高さは3μm以上が必要であるため、スクリーン印刷や凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、凸版印刷等であってもこの程度の画線の盛り上がり高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適性等を考慮して1mm以下とする。
また、蒲鉾状画線(7’’)は、明暗フリップフロップ性又は、カラーフリップフロップ性を備える必要がある。明暗フリップフロップ性とは、正反射した場合に明度が上昇する特性を指し、カラーフリップフロップ性とは、色相が変化する特性を指す。すなわち、蒲鉾状画線(7’’)は、光が入射した場合に、明度や色相が変化することで、色彩が大きく変化する特性を有する必要がある。色彩の変化の大きさが大きければ大きいほど、出現する潜像画像の視認性は高くなる。
前述のような盛り上がりを有する蒲鉾状画線(7’’)に明暗フリップフロップ性を付与する方法の一例としては、高光沢なインキ樹脂を用いたり、インキ中に金属顔料を混合したりすることで容易に実現することができる。カラーフリップフロップ性を付与できる機能性材料の一例としては、パール顔料やコレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料や鱗片状金属顔料等が考えられる。
続いて、潜像画線群(1’’)について説明する。前述の通り、図16に示した潜像画線群(1)と同じ画像を用いており、図22に示すように、それぞれ形状が互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の潜像画線(3’’)によって構成されて成る。
潜像画線(3’’)には盛り上がりは必須ではなく、このため、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像化されていた基画像(2’’)を可視化するために、潜像画線(3’’)は正反射時に蒲鉾状画線(7’’)との間に色差が生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が蒲鉾状画線(7’’)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。
また、潜像画線(3’’)は蒲鉾状画線(7’’)の上に重ねて形成されるために、潜像画線(3’’)下の蒲鉾状画線(7’’)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる蒲鉾状画線(7’’)の色彩変化を抑制する働きを成す。したがって、潜像画線(3’’)が重なっているか否かによって、蒲鉾状画線(7’’)の正反射時に、色彩により大きな違いが生じるため、潜像画像の視認性をより高めるためには、潜像画線(3’’)は高い光遮断性を備えていることが望ましい。
そのため、潜像画線(3’’)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。
更に、潜像画線(3’’)は、拡散反射光下では不可視であることが望ましいことから、無色透明又は半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合したりして、UVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することもできる。
また、潜像画線(3’’)は、版面を用いる印刷機で形成するだけでなく、プリンター等のデジタル印刷機を用いて形成しても良い。また、潜像画線(3’’)にあたる画像を、蒲鉾状画線(7’’)を切削して付与することで形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状画線(7’’)は、多くの場合、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、又は大きく低下するために、本発明で潜像画線(3’’)に必要とする特性を付与することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
本発明の潜像印刷物(9’’)は、蒲鉾状画線群(6’’)の上に潜像画線群(1’’)を重ね合わせて形成するが、この二つの画像の重ね合わせの位置関係について説明する。図23は、蒲鉾状画線群(6’’)と潜像画線群(1’’)の二つの画像の重なり合いの適正な位置関係を示す。潜像印刷物(9’’)において、蒲鉾状画線(7’’)の上に潜像画線(3’’)が重なり合う必要があるが、二つの画線が単に重なればよいのではなく、それぞれ一対に対応した蒲鉾状画線(7’’)と潜像画線(3’’)同士が重なる必要がある。つまり、図23の断面拡大図に示すように、それぞれの蒲鉾状画線(7’’(i−1)、7’’(i)、7’’(i+1)、7’’(i+2))に対してそれぞれ対を成す関係にある潜像画線(3’’(i−1)、3’’(i)、3’’(i+1)、3’’(i+2))がそれぞれ重なり合う位置関係が、本発明における最も適正な重ね合わせの位置関係である。
蒲鉾状画線群(6’’)と潜像画線群(1’’)の位置関係については、印刷時の刷り合わせの変動によっては適正な位置関係から外れる可能性がある。このような場合でも、それぞれ対を成す関係の蒲鉾状画線(7’’)と潜像画線(3’’)が、少なくとも一部に重なった状態であれば本発明の効果は発揮される。
続いて、本発明の潜像印刷物(9’’)の効果について説明する。図24に、本発明の効果を示す。印刷画像(11’’)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像である基画像(2’’)は不可視であり、単に印刷画像(11’’)のみが視認できる(図示せず)。一方の正反射光下においては、桜の花びらと数字を表した基画像(2’’)が光のコントラストによって出現する。
図24(a)、(b)、(c)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(9’’)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(11’’)中の基画像(2’’)の位置が変化し、基画像(2’’)がそれぞれの位置の蒲鉾状画線(7’’)と直交する方向に動いているように見える。第三の実施の形態においては、図16で示した左右の二つの桜の花びらは(2b、2d)は潜像印刷物(9’’)の傾きが大きくなるにしたがって、円心に向かって動いているように見え、中央の桜の花びら(2c)は外周方向へと動いているように見え、2013の数字はA方向からA’方向へと動いているように見える。入射する光に対して潜像印刷物(9’’)の傾きを変えて観察することによって、すなわち、基画像(2’’)の一部がそれぞれ異なる方向へと動く効果が生じる。
以上のような効果が生じる原理について説明する。例えば、潜像印刷物(9’’)のA側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線群(6’’)を形成している盛り上がりを有する蒲鉾状画線(7’’)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA側にあたる画線表面のみであり、逆に、潜像印刷物(9’’)のA’側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線(7’’)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA’側の方向にあたる画線表面のみである。
以上のように、蒲鉾状画線(7’’)のような、盛り上がりを有する画線が光を反射する場合、入射する光に対して入射光と法線を成す画線表面を中心に光を反射しており、言い換えれば、入射する光の角度に応じて、盛り上がりを有する画線表面のうち、強く光を反射する領域は変化している。
蒲鉾状画線(7’’)の表面には、それぞれ潜像画線(3’’)が形成されていることから、蒲鉾状画線(7’’)が光を強く反射した場合には、その画線上に重ねられた潜像画線(3’’)と蒲鉾状画線(7’’)とは異なる色彩に変化し、それまで隠蔽されていた潜像画線(3’’)が色彩の違いによって可視化される。
この場合、可視化される潜像画線(3’’)は、蒲鉾状画線(7’’)のうち光を強く反射した領域に重ねられて形成されていた潜像画線(3’’)のみであり、それ以外の領域に重ねられて形成されていた潜像画線(3’’)は隠蔽されたままとなる。このため、光が入射した場合、蒲鉾状画線(7’’)には、その画線表面の一部にのみ、光を強く反射する領域が形成されるため、この光を強く反射した領域の上に重ねられた潜像画線(3’’)のみがサンプリングされて可視化される。このサンプリングの仕組みは、前述の偽造防止用潜像画像表出構造における蒲鉾状画線群(1)にフィルタ画像(6)を重ねた場合と同じであるため、サンプリングの結果、基画像(2’’)と同じ画像が潜像画像として再現される。
この際、サンプリングされる幅、すなわち、それぞれの蒲鉾状画線(7’’)が光を強く反射する領域の幅が狭い方が、出現する潜像画像は、より基画像(2’’)に近く、輪郭がシャープで画像全体が明瞭に再現される。
逆に、その幅が広い場合には、より潜像画線群(1’’)に近く、輪郭がぼやけ、不明瞭な状態で再現されてしまう。この状態を防ぐためには、それぞれの盛り上がりを有する画線が光を強く反射する領域を狭くする必要があり、盛り上がりを有する画線の高さをより高くすることが有効である。
観察者の視点が動いたり、潜像印刷物(9’’)を傾けたりした場合には、光が入射する角度が変化するために、蒲鉾状画線(7’’)の表面のうち、光を反射する領域も移動し、それに伴って潜像画線(3’’)のサンプリングされる領域も移動することで、観察者には出現した基画像(2’’)が動いて見える。
また、潜像画線(3’’)が、鏡像化されている場合と、鏡像化されていない構成の場合では、出現する潜像画像は全く同じ基画像(2’’)が再生されるものの、潜像画線(3’’)中の基画像(2’’)の画像情報の配置方向が逆転しているため、傾けた場合の動きの方向はそれぞれ正反対の方向に動く。
また、潜像印刷物(9’’)に正対して観察した場合、右眼と左眼とでは、入射した光が印刷物で反射して眼に入る角度がわずかに異なるため、蒲鉾状画線(7’’)の光を反射する画線表面もわずかに異なっている。このため、出現する潜像画像は、右眼から見た場合と左眼から見た場合では水平方向の位相が異なり、これによって両眼視差に起因する立体的な視覚効果が生じる。
例えば、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、右にある場合には潜像画像は印刷物の表面よりも手前にあるように感じられる。逆に、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、左にある場合には潜像画像は印刷物の表面よりも奥にあるように感じられる。
このため、各潜像画線をミラー反転させて鏡像化した潜像画線を用いて潜像画線群を形成した場合、潜像画像の動きの方向が逆方向に変化するだけでなく、遠近感も逆転する。潜像画線をミラー反転させない場合、出現する潜像画像は、印刷画像自体よりも手前に存在するように感じられ、潜像画線をミラー反転させた場合、出現する潜像画像は、印刷画像自体よりも奥に存在するように感じられる。
このように、遠近感が逆転する原因は、ミラー反転の有無により潜像画像の動きの方向が逆方向に変化し、右眼で捉える潜像画像の位置と、左眼で捉える潜像画像の位置が逆転するために両眼視差に起因する遠近感も逆転するためである。
この立体的な視覚効果を生じさせるためには、観察者から見て水平方向に画像が動いて見える効果が必須であるため、蒲鉾状画線(7’’)を垂直方向に近い角度(より具体的には観察者の左右の眼を結んだ方向と直交する方向)で並べたほうが、この効果は高くなる。
以上が、本発明の潜像印刷物(9’’)において、潜像印刷物(9’’)が光を強く反射した場合に潜像画像として基画像(2’’)が出現し、動画効果と立体的な視覚効果が生じる原理である。
本発明と従来の技術との差異の一つは、潜像画像の動きの方向の多様さにある。従来の技術においては、盛り上がりを有する画線の画線方向は一つの方向に制限されていたため、潜像画像の動く方向には制約があった。
例えば、図25(a)に示すように、盛り上がりを有する画線の画線方向が垂直方向である場合には、潜像画像は水平方向にしか動かず、一方、図25(b)に示すように、盛り上がりを有する画線の画線方向が水平方向である場合には、潜像画像は垂直方向にしか動かない。
本発明の潜像印刷物(9’’)においては、図25(c)に示すように、潜像画像を動きの方向をあらかじめ決めておけば、盛り上がりを有する蒲鉾状画線(7’’)の画線方向を動きの方向と直交した画線方向に設定することで、希望する方向に潜像画像を動かすことが可能となり、動きのデザインの自由度が向上した。
また、従来技術のような一定の方向に潜像画像が動く効果と比較して、仮に同じ距離だけ潜像画像が動いた場合でも、複数の異なる方向に潜像画像が動いた場合には、その効果をより容易に認識することができる。このため、真偽判別技術に必須である判別性がより高まった。
また、従来技術において、特に図25(a)に示すように、盛り上がりを有する蒲鉾状画線(7’’)の画線方向が垂直方向である場合には、例えば、第三の方向(図中S3方向)から光が入射した場合には潜像画像がシャープに再現され、優れた動画効果が生じるものの、第二の方向(図中S2方向)から光が入射した場合には、潜像画像はややぼやけた画像となるとともに、動きは鈍くなり、第一の方向(図中S1方向)から光が入射した場合には、潜像画像は不明瞭な画像となるとともに、ほとんど動きが生じなくなる。
図25(b)も同様に、画線方向と平行な光に対しては、潜像画像はぼやけた画像となるとともに、ほとんど動きが生じない。以上のように、従来技術においては特定の光の入射角度では優れた効果を発揮するものの、ある特定の入射角度ではその効果が失われるという問題があった。
一方、本発明の潜像印刷物(9’’)においては、図25(c)に示すように、例えば、第三の方向(図中S3方向)から光が入射した場合には、印刷画像(3)のうちの11Cに示した領域では、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となる。
第二の方向(図中S2方向)から光が入射した場合には、印刷画像(11’’)のうちの11Bに示した領域では、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となり、第一の方向(図中S1方向)から光が入射した場合には印刷画像(11’’)のうちの11Aに示した領域では、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となる。
すなわち、第一から第三までのいかなる角度で光が入射した場合でも、印刷画像(11’’)の中の少なくとも一部の領域において、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好である領域が存在する。特許文献1に記載の従来の技術においては、特定の光の入射角度において効果が低下したが、本発明の潜像印刷物(9’’)では印刷画像(11’’)全体として効果が低下する光の入射角度がない構成を取ることができる。
様々な環境下で真偽判別のために機能することが望まれる偽造防止技術においては、あらゆる条件において判別機能が失われないことが大切であり、本発明の潜像印刷物(9’’)のこの効果は、偽造防止技術に望まれる性質を満たしていると言える。
また、蒲鉾状画線(7’’)は、それぞれ形状が異なる、非相似形状の画線によって構成されていることから、入射する光の角度が変化することで、蒲鉾状画線群(6’’)の光を反射する領域が変化し、美しい光のグラデーションが生じる。
例えば、第三の実施の形態の例を用いて説明すると、図26に示すように、第一の方向から光が入射した場合には、図26(a)に示すように入射光と直交する蒲鉾状画線群(6’’)の集合で構成される11Aの領域が強く光を反射する一方、11Aの領域から離れるに従って11Bの領域では光量はわずかずつ減り、11Cの領域は、ほとんど反射光を生じない。
また、第二の方向から光が入射した場合には図26(b)に示すように、入射光と直交する蒲鉾状画線群(6’’)の集合で構成される11Bの領域が強く光を反射する一方、11Bの領域から離れるに従って11Aと11Cの領域では、光量はわずかずつ減る。
第三の方向から光が入射した場合には図26(c)に示すように、入射光と直交する蒲鉾状画線群(6’’)の集合で構成される11Cの領域が強く光を反射する一方、11Cの領域から離れるに従って11Bの領域では光量はわずかずつ減り、11Aの領域は、ほとんど反射光を生じない。
以上のように、入射する光の角度に応じて、美しい光の輪のようなグラデーションが生じる。また、この光のグラデーションは、潜像印刷物(9’’)の傾きを変えた場合、その動きに対応して瞬時にその光の輪が印刷画像(11’’)中で回転するように見えるため、人目を引きやすく、高い判別性を備える。この光のグラデーションの効果を高めるためには、それぞれの蒲鉾状画線群(6’’)の中に画線方向が大きく変化する曲線を用いることが望ましい。
また、従来技術の構成では、盛り上がりを有する画線の画線方向と平行な方向から光が入射した場合、例えば、図25(a)に示した構成では第一の方向から光が入射した場合、潜像画像がぼやけて動画効果が生じないだけでなく、印刷画像中に潜像画線群全体が反射光の強弱によって浮かび上がってしまい、観察者に不完全な画像を視認されてしまうという問題があった。
これは、従来技術の構成では、盛り上がりを有する画線すべてが同じ画線方向を有するために、平行な方向から光が入射した場合には盛り上がりを有する画線全体から均等なムラのない反射光が生じてしまい、潜像画線群の有無のみが必要以上に目立ってしまうことに起因していた。
偽造防止技術において、本来出現を意図していない不明瞭な画像が可視化されることは、所望の効果以外の異なった効果が発生することであり、潜像画像の視認性や動画効果が低下するといった「所望の効果の低下」とは別の大きな問題であった。
本発明の潜像印刷物(9’’)において、例えば、第一の方向から光が入射した場合、11Aの領域にシャープな潜像画像と優れた動画効果が生じる一方で、11Bと11Cの領域では、潜像画像がぼやけた画像となり、動画効果も低下する点では従来技術と同様である。
ただし、本発明の潜像印刷物(9’’)においては従来技術と異なり、11Bと11Cの領域の領域において潜像画線群(1’’)の有無によって生じる反射光の強弱よりも、隣接する11Aの領域の反射光の強さや蒲鉾状画線(7’’)上に生じる光のグラデーションの反射光の強弱のほうが相対的に強いため、11Bと11Cに出現する潜像画像の視認性は相対的に低くなり、特に11Cの領域に出現する画像は極めて認識しづらい。
このことから、本発明の潜像印刷物(9’’)においては、従来の技術のように潜像画線群(1’’)全体が反射光の強弱によって浮かび上がりづらくなり、観察者に不完全な画像を視認されてしまう問題が大きく改善された。これは、本発明の従来の技術との大きな差異の一つである。
また、特にそれぞれの蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)には、それぞれの画線の形状が異なる、非相似形状の画線を用いることができるため、例えば第3の実施の形態で用いたような直線と曲線が無理なく混在した画線構成の蒲鉾状画線群(6’’)と潜像画線群(1’’)を用いることができる。本技術の特性上、潜像画像の立体効果を高めたい場合には垂直方向(図中S1方向:より具体的には観察者の左右の眼を結んだ方向と直交する方向)の画線方向を有する画線でそれぞれの蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)を構成することが望ましく、その一方で出現する潜像画像の動きをより認識しやすくする、すなわち動画効果を高める上では、多くの画線方向を含んだ曲線でそれぞれの蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)を構成することが望ましい。
それぞれの蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)を従来の技術のように、単なる直線や曲線のようなすべて相似な形状の画線で形成した場合には、立体効果か動画効果のいずれか一方の効果しか強調できないが、本発明のように非相似形状の画線で蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)を形成した場合には、例えば、直線と曲線を連続的に変化させた第3の実施の形態で示した構造の蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)を用いることによって、二つの効果を無理なく両立させることができる。
具体的には、第3の実施の形態で示した構造であれば、印刷画像(11’’)の画像下部は、S1方向に画線方向を有する直線によって形成されるため、この領域において立体感を強調でき、上部に関しては曲線で構成されるため、この領域において動画効果を強調できるため、本発明のように、それぞれの蒲鉾状画線(7’’)及び潜像画線(3’’)には、それぞれの画線の形状が異なる、非相似形状の画線を用いることではじめて、一つの印刷画像(11’’)の中で立体効果と動画効果の二つの効果を両立させる効果を得ることができる。
(第四の実施の形態)
続いて、第三の実施の形態と同様に、偽造防止用潜像画像表出構造を応用して潜像印刷物(9’’’)を形成した例であって、印刷画像(11’’’)の中の潜像画像の位置が変化するだけでなく、潜像画像の形状自体が変化する例について説明する。
図27に、本発明の潜像印刷物(9’’’)を示し、図27(b)には潜像印刷物(9’’’)のA−A’ラインにおける断面図を示す。潜像印刷物(9’’’)は、基材(10’’’)上に、印刷画像(11’’’)を備える。基材(10’’’)は、第三の実施の形態と同様に印刷画像(11’’’)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であっても良く、材質は問わない。また、印刷画像(11’’’)は透明であっても着色されていても良く、その色彩は問わない。
図28に印刷画像(11’’’)の構成の概要を示す。印刷画像(11’’’)は、蒲鉾状画線群(6’’’)と潜像画線群(1’’’)が重なって形成されて成る。印刷画像(11’’’)の積層構造は、蒲鉾状画線群(6’’’)の上に潜像画線群(1’’’)が重なる構造を有して成る。
図29に第四の実施の形態における基画像(2’’’)を示す。本基画像(2’’’)は、1250の文字部(2a’’’)と、彩紋部(2b’’’)から成る。本基画像(2’’’)の最大の特徴は、彩紋部(2b’’’)の図柄にあり、印刷画像(11’’’)のほぼ全面にまたがって一つの図柄が構成されていることが第三の実施の形態との最大の差異となっている。このように、大きな単一の図柄が印刷画像(11’’’)の中に配されることで、第三の実施の形態とは異なる効果が発揮される。この具体的な効果については後述する。
まず、蒲鉾状画線群(6’’’)について説明する。蒲鉾状画線群(6’’’)は図30に示すように、それぞれ形状が互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の蒲鉾状画線(7’’’)によって構成されて成る。蒲鉾状画線群(6’’’)の中心部の蒲鉾状画線(7’’’(a))は、両端が尖った直線形状を有し、それ以外の蒲鉾状画線(7’’’)は楕円形状を有する。図30に示すように、蒲鉾状画線群(6’’’)の中心から外周部へ行くに従って、蒲鉾状画線(7’’’)における楕円形状の縦横の比率が徐々に変化する構造を有する。
図31に示すのは、蒲鉾状画線群(6’’’)の一部を抜粋し、拡大して示したものである。この領域における蒲鉾状画線群(6’’’)は、n個の蒲鉾状画線(7’’’(1)、7’’’(2)、7’’’(3)・・・7’’’(i)・・・7’’’(n−1)、7’’’(n))から成る。具体的には、特定の画線幅(W2(1))の第一の蒲鉾状画線(7’’’(1))から第一の蒲鉾状画線(7’’’(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP2(1)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(2))の第二の蒲鉾状画線(7’’’(2))があり、第二の蒲鉾状画線(7’’’(2))から第二の蒲鉾状画線(7’’’(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP2(2)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(3))の第三の蒲鉾状画線(7’’’(3))があり、・・・特定の画線幅(W2(n−1))を有する第n−1の蒲鉾状画線(7’’’(n−1))から第n−1の蒲鉾状画線(7’’’(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP2(n)ずれた位置に、特定の画線幅(W2(n))の第nの蒲鉾状画線(7’’’(n))がある。それぞれの蒲鉾状画線(7’’’)の画線幅W2(1)、W2(2)、W2(3)、・・・W2(n−1)、W2(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。また、それぞれの蒲鉾状画線(7’’’)のピッチP2(1)、P 2(2)、P2(3)、・・・P2(n−1)、P2(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。その他蒲鉾状画線(7’’’)の条件については、第三の実施の形態と同じであり、説明を省略する。
続いて、潜像画線群(1’’’)について説明する。図32に示すように、それぞれ形状が互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の潜像画線(3’’’)によって構成されて成る。それぞれの潜像画線(3’’’)は、対を成す蒲鉾状画線(7’’’)と同じ形状を有して成り、中心部の潜像画線(3’’’(a))は、両端が尖った直線形状を有し、それ以外の潜像画線(3’’’)は楕円形状を有する。図30に示した蒲鉾状画線群(6’’’)と同様に、図32に示す潜像画線群(1’’’)も、中心から外周部へ行くに従って、潜像画線(3’’’)における楕円形状の縦横の比率が徐々に変化する構造を有する。
図33に示すのは、潜像画線群(1’’’)の一部を抜粋し、拡大して示したものである。この領域における潜像画線群(1’’’)は、n個の潜像画線(3’’’(1)、3’’’(2)、3’’’(3)・・・3’’’(i)・・・3’’’(n−1)、3’’’(n))から成る。具体的には、特定の画線幅(W1(1))の第一の潜像画線(3’’’(1))から第一の潜像画線(3’’’(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(1)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(2))の第二の潜像画線(3’’’(2))があり、第二の潜像画線(3’’’(2))から第二の潜像画線(3’’’(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(2)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(3))の第三の潜像画線(3’’’(3))があり、・・・特定の画線幅(W1(n−1))を有する第n−1の潜像画線(3’’’(n−1))から第n−1の潜像画線(3’’’(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)の特定のピッチP1(n)ずれた位置に、特定の画線幅(W1(n))の第nの潜像画線(3’’’(n))がある。それぞれの潜像画線(3’’’)の画線幅W1(1)、W1(2)、W1(3)、・・・W1(n−1)、W1(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。また、それぞれの潜像画線(3’’’)のピッチP1(1)、P1(2)、P1(3)、・・・P1(n−1)、P1(n)は同じ値でも良く異なっていても良い。その他潜像状画線(3’’’)の条件については、第三の実施の形態と同じであり説明を省略する。
基画像(2’’’)から潜像画線(3’’’)へ変換する方法は、第一の実施の形態と第二の実施の形態で説明した方法を用いた。なお、基画像(2’’’)のうち、1250の文字を表す数字部(2a’’’)は、画像を鏡像化しない第一の実施の形態で説明した方法を用い、本基画像(2’’’)のうちの彩紋部(2b’’’)を表す画像は、画像を鏡像化する第二の実施の形態で説明した方法を用いた。具体的な作製方法については、第一の実施の形態と第二の実施の形態で説明した方法と同じであるため省力する。
本発明の潜像印刷物(9’’’)の蒲鉾状画線群(6’’’)と潜像画線群(1’’’)の重ね合わせの位置関係について説明する。図34は、蒲鉾状画線群(6’’’)の上に潜像画線群(1’’’)の重なり合いの位置関係が適正な状態を示す。二つの画像の位置関係は、第三の実施の形態と同様であって、図34の断面拡大図に示すように、それぞれの蒲鉾状画線(7’’’(i−1)、7’’’(i)、7’’’(i+1)、7’’’(i+2))に対してそれぞれ対を成す関係にある潜像画線(3’’’(i−1)、3’’’(i)、3’’’(i+1)、3’’’(i+2))がそれぞれ重なり合う位置関係が、本発明における最も適正な重ね合わせの位置関係である。
続いて、本発明の潜像印刷物(9’’’)の効果について説明する。図35に、本発明の効果を示す。印刷画像(11’’’)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、図35(a)に示すように、潜像画像である基画像(2’’’)は不可視であり、単に印刷画像(11’’’)のみが視認できる。一方の正反射光下においては、彩紋と数字を表した基画像(2’’’)が光のコントラストによって出現する。
図35(b)、(c)、(d)、(e)に示すように、入射する光に対して潜像印刷物(9’’’)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(11’’’)中の基画像(2’’’)の位置が変化し、基画像(2’’’)がそれぞれの位置の蒲鉾状画線(7’’’)と直交する方向に動いているように見える。
図35(b)は、潜像印刷物(9’’’)を正反射光下でB辺を図面上側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2’’’)のうち数字(2a’’’)の位置は変化しない一方で、基画像(2’’’)のうち彩紋(2B’’’)の位置はB’辺側へと移動する。図35(c)は、潜像印刷物(9’’’)を正反射光下でA’辺を図面右側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2’’’)のうち数字(2a’’’)はA’辺側へと移動する一方で、基画像(2’’’)のうち彩紋(2b’’’)の位置はA辺側へと移動する。図35(d)は、潜像印刷物(9’’’)を正反射光下でB´辺を図面下側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2’’’)のうち数字(2a’’’)の位置は変化しない一方で、基画像(2’’’)のうち彩紋(2b’’’)の位置はB辺側へと移動する。図35(e)は、潜像印刷物(9’’’)を正反射光下でA辺を図面左側へ傾けた状態であり、この場合、この場合、基画像(2’’’)のうち数字(2a’’’)はA辺側へと移動する一方で、基画像(2’’’)のうち彩紋(2b’’’)の位置はA’辺側へと移動する。
以上のように、第四の実施の形態の蒲鉾状画線(7’’’)は円を含んだ構成を有するため、360度いかなる方向に傾けたとしても、潜像印刷物(9’’’)全体にまたがって形成された彩紋部(2b’’’)はそれに対応した方向へと動く特徴を有する。また、図35(c)及び図35(e)に示すように、潜像印刷物(9’’’)を左右方向に動かした場合、数字部(2a’’’)と彩紋部(2b’’’)の動きの方向はそれぞれ逆方向となる。なお、図35(a)及び図35(d)に示すように、潜像印刷物(9’’’)を上下方向に動かした場合、数字部(2a’’’)の位置が変化しないのは、数字部(2a’’’)が印刷された蒲鉾状画線(7’’’)は上下方向(B−B’方向)に画線方向を有する画線であるため、画線方向と同一方向の上下方向へ基画像(2’’’)を動かす効果を有していないためである。
更に、第四の実施の形態においては、印刷画像(11’’’)のほぼ全面にまたがって一つの図柄が構成されている彩紋部(2b’’’)に関しては、第三の実施の形態のように画像の位置が単に変化するだけでなく、画像の形状自体が変化する特徴を有する。形状の変化の傾向については、図36(a)に示すとおりであり、第四の実施の形態の構成においては円周へと動く方向では拡大され、円心へと動く方向では縮小される。これは、彩紋部(2b’’’)の下に存在する蒲鉾状画線(7’’’)の画線方向がそれぞれの位置において異なっているために生じる効果であって、変化する形状に関しては、蒲鉾状画線(7’’’)の画線方向を調整することで、任意に設計することができる。一方、対比として図36(b)に直線で蒲鉾状画線(7’’’)が構成された従来の技術における基画像(2’’’)の動きの方向を示すが、この場合、基画像(2’’’)は形状が変化せず、基画像(2’’’)全体がそのままの形状を保って平行移動するだけである。この基画像(2’’’)の形状が変化する効果は、従来の画線方向が一定方向に固定されている構成の技術では実現できない効果であって、本発明独自の効果の一つである。以上が第四の実施の形態の説明である。
本発明の潜像印刷物(9)の構成において、蒲鉾状画線(7)及び潜像画線(3)は、動画効果の認証性を高めるために、画線方向が連続的に変化する曲線を少なくとも一部に含むことが望ましい。その場合の曲線は、画線角度にして少なくとも10度以上変化するものが望ましく、30度以上変化することがより望ましい。
10度未満の角度変化では、従来の直線で蒲鉾状の画線が構成された印刷物と比較して、効果の面で顕著な差異が生じないためである。動画効果を高める上で、最も効果的な蒲鉾状画線(7)及び潜像画線(3)の構成は、第四の実施の形態で示した360度のあらゆる画線方向を有した円を一部に有した構成である。
本発明の潜像印刷物(9)における蒲鉾状画線群(6)及び潜像画線群(1)のピッチは、0.05mm以上1.0mm以下で形成する。0.05mm以下のピッチは、蒲鉾状画線に3μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現できる画線のピッチとしてはほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ、0.05mm以下のピッチで画線を形成できた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像画像の視認性が極端に低くなるため適当ではない。また、逆に、1.0mm以上のピッチで形成した場合には、潜像画像として再現できる画像の解像度が極端に低くなってしまうため同様に適切ではない。
また、潜像画線(7)を作製するにあたって、圧縮フレーム内画像(5P)における、画線方向と直交する方向の長さ(画線幅)W0/フレームの長さ(L)の比率(圧縮率)を変えることで、出現する潜像画像の動きの速さや動き幅の大きさを制御することができる。W0/Lの値(圧縮率)を小さく設計した場合には、出現した潜像画像は傾けた場合に早く動き、動きの幅も大きくなり、圧縮率を大きく設計した場合には、出現した潜像画像は傾けた場合に遅く動き、動きの幅も小さくなる。
ただし、動きの早さや幅の大きさと、出現する潜像画像のシャープさはトレードオフの関係にあり、圧縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像は基画像(8)と比較してぼやけた画像となり、逆に圧縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像は基画像(8)をほぼそのまま再現したようなシャープな画像となる。
また、圧縮率は、動きの早さや動きの幅の大きさや、出現する潜像画像のシャープさに関係するだけでなく、遠近感にも関係する。すなわち、圧縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は大きくなり、圧縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は小さくなる。
以上のように、縮率を変えることで、動きの速さと動きの幅、潜像画像のシャープさ、遠近感が変化する。縮率の具体的な数値の範囲については、基画像(8)の複雑さや蒲鉾状画線(6)の幅にも左右されるが、0.02以上0.5以下程度で形成することが望ましい。
圧縮率が0.5を超えると、立体的な視覚効果や動画的な視覚効果が低くなり過ぎ、0.02未満だと潜像画線(3)の幅内に画像を圧縮した場合に印刷再現性を超えた解像度になる場合が多いためである。いずれにしても、ユーザの求める効果に応じて適宜、適正な数値を選択する必要がある。
本発明を実施するための形態において、潜像画像として文字を例にして説明したが、これに限定される必要はなく、文字の他に記号、図柄、図柄などでも形成可能である。
なお、本明細書中で言う正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。
(潜像印刷物の作製方法及び作製用ソフトウェア)
次に、本発明の実施の形態による偽造防止用潜像画像表出構造の作製に用いられる装置について、その構成を示した図46を用いて説明する。この作製装置は、入力部101、処理部102、記憶部103及び出力部104を備えている。入力部101は、本発明の実施の形態の偽造防止用潜像画像表出構造の作製に必要なデータを入力し、処理部102に与える。処理部102は、与えられたデータを記憶部103に格納するとともに、偽造防止用潜像画像表出構造の作製に必要な演算処理及び画像処理等を行い、得られた結果を出力部104に与える。出力部104は、処理部102から与えられたデータを、外部の、例えば、図示されてない印刷機等に出力する。
このような作製装置を用いて本実施の形態による偽造防止用潜像画像表出構造を作製する方法について、その手順を示した図47を用いて説明する。なお、以下説明する作製方法及びソフトウェアについては、本出願人が既に出願している特許第5200284号に記載されている潜像要素群(本発明の「潜像画線群(1)」に相当)及び盛り上がりを有する要素群(本発明の「フィルタ画線群(17)」に相当)から成る潜像印刷物を始めとする同様の構成を伴う技術にも適用できるものである。したがって、前述した本発明の潜像画線群(1)及びフィルタ画線群(17)は曲線状に形成されているが、曲線状の画線に限定されず、特許第5200284号に記載されているような直線状の画線群に対しても適用することができるものである。
なお、以下の説明では、前述した本発明の偽造防止用潜像画像表出構造である曲線状の画線群について説明する。また、取り扱う全ての画像データについては、複数の画素により構成されるものとして記載するが、必ずしも画素により構成される必要は無く、画素を持たず連続直線や連続曲線等のベクトル情報で構成された画像であっても良い。
さらに、以下の説明では取り扱う全ての画像データについて、画像内に二つの直行する座標軸を定めるものとし、図49に示すように画像の左下を原点として右方向の軸をx軸、上方向の軸をy軸とそれぞれ定める。このとき、取り扱う全てのデータ画像について、各画像内の任意の位置をx成分及びy成分から成る座標を用いて表すことが可能であることから、以下の説明では取り扱う全ての画像データにおいて前記座標を統一的に用いるものとする。よって例えば、異なる画像データにおいて同一の座標を持つ位置同士を「同じ位置」と表現する。
まずステップS11として、フィルタ画像(6)に関する画像データを作製する。具体的には、所定の画線幅のフィルタ画線(7)を複数配列したフィルタ画線群(17)から成るフィルタ画像(6)を画像データとして処理部102が作製するか、又はあらかじめ作製したフィルタ画像(6)を外部から画像データとして入力部101より入力し処理部102を介して、記憶部103に格納する。
次に、記憶部103に格納されたフィルタ画像(6)に対して、処理部102がステップS21の基画像圧縮情報生成処理を行うことにより、基画像圧縮情報(15)を得る。基画像圧縮情報(15)は、ステップS31の基画像圧縮処理において基画像(2)を圧縮することにより潜像画線群(1)を得る際の基画像をどの方向に圧縮するか等の圧縮方向に関する情報を持つ。得られた基画像圧縮情報(15)は記憶部103に格納する。
ステップS12として、基画像(2)を画像データとして処理部102が作製するか、又は外部からあらかじめ作製された画像データとして入力部101より入力し処理部102を介して、記憶部103に格納する。この処理は、ステップS31の基画像圧縮処理よりも前に実施する。
ステップS31として、記憶部103に格納された基画像(2)及び基画像圧縮情報を用いて、処理部102が基画像圧縮処理を行う。基画像圧縮処理により得られた画像は潜像画線群(1)を含む画像であり、この画像を潜像画線群画像と呼ぶ。本ステップで得られた潜像画線群画像は、記憶部103に格納する。
最後にステップS41として、記憶部103に格納された潜像画線群画像を、処理部102を介して出力部104へ与える。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理において、フィルタ画像(6)から基画像圧縮情報(15)を得る処理方法について、図48を用いてさらに詳細に説明する。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理では最初に、記憶部103に格納されたフィルタ画線群(17)を構成する複数のフィルタ画線(7)に対し、ステップS211の中心線抽出処理により、各フィルタ画線(7)から中心線(14)を抽出して記憶部103に格納する。
フィルタ画線(7)の中心線(14)及び中心線抽出処理について説明する。ここでいう画線の中心線(14)とは、画線に対して細線化処理を施すか、又は画線の輪郭からの距離が極大となるような位置の集合を抽出することにより、得られる線のことである。中心線(14)を得るためのこれらの処理方法はいずれも一般的な画像処理手法であり、例えば以下の文献において、処理方法が詳細に記載されている。この処理を行うことによって、例えば図50(a)で示すフィルタ画線群(17)から、図50(b)に示す中心線(14)を抽出することができる。
田村秀行 著、コンピュータ画像処理、オーム社出版局、2002年発行
村上伸一 著、画像処理工学 第2版、東京電機大学出版局、2004年発行
以下では図50(b)に示すような、黒色の画素により構成される中心線(14)を含む独立した画像を生成するものとして説明を行い、この画像を中心線画像と呼ぶが、中心線の形状を表す情報さえ保持できれば独立した中心線画像は必須では無い。例えばフィルタ画線群(17)内に中心線の形状情報を記録しても良く、あるいは例えば前記の通り定められた座標における関数として中心線の形状情報を保持しても良い。
次にステップS212再近傍中心線位置取得処理では、処理部102が自動で定めた複数の位置P1、P2、…、Pn(nは任意の自然数)の集合である再近傍中心位置取得位置Pについて、記憶部103に格納された中心線(14)のうち最も近い位置を計算により求める。
処理部102が再近傍中心位置取得位置Pの各位置P1、P2、…、Pnを自動で定める方法は任意であるが、図51(a)で示すように記憶部103に格納されているフィルタ画線群(17)内の全画素の各中心位置を再近傍中心位置取得位置Pとすることが通常である。もしも図51(b)で示すP1、P2、…、Pn’(n’はnよりも小さい任意の自然数)のように間隔が広くなるような各位置の定め方をした場合は、図51(a)で示すようにP1、P2、…、Pnを定めた場合と比べて、処理部102による必要計算量が減少して処理速度が向上するかわりに後工程のステップS31基画像圧縮処理における圧縮方向及び圧縮率の計算誤差が大きくなり、最終的に得られる潜像画線群(1)に影響を与える。
また、再近傍中心位置取得位置Pを自動で定めるに際しては、後工程のステップS31基画像圧縮処理において圧縮処理を行わないことが分かっている領域にP1、P2、…、Pnを置かないことによって、無駄な計算を省略することが可能である。例えば後述するように、本作製方法によって生成する潜像画線群(1)における潜像画線(3)の画線形状を、フィルタ画線(7)の画線形状と一致するように定めるものとすると、フィルタ画線(7)外の位置に対して圧縮処理を行う必要が無くなるため、図52に示すようにフィルタ画線(7)上のみにP1、P2、…、Pnを定めても良い。
P1、P2、…、Pnの各位置について、中心線(14)のうち最も近い各位置をQ1、Q2、…、Qnと定義する。このようなP1、P2、…、Pn及びQ1、Q2、…、Qnの例を図53(a)に図示する。このときQ1、Q2、…、Qnの位置を計算により求める方法は特に限定しないが、例えばP1、P2、…、Pnの各位置から中心線(14)を構成する各画素までの距離を総当たりで全て計算すれば、計算時間はかかるが確実にQ1、Q2、…、Qnの位置を求めることが可能である。このような総当たりによる方法のほかにも、中心線(14)の形状を関数として取り扱うことにより数学的にQ1、Q2、…、Qnを求めても良い。
P1、P2、…、Pnの中の一つであるPi(iは1以上、かつ、n以下の自然数)に対して最も近くなるような中心線(14)上の位置が複数存在する場合、例えば、図53(b)で例示するように、Piに対して最も近くなるような中心線(14)上の位置がQi’とQi’’の二つ存在するような場合の処理は特に限定するものではないが、例えば、Qi’とQi’’のいずれか一方をランダム又はあらかじめ定めた何らかの方法により選択してQiとしても良いし、又は図53(b)に示すように、ベクトルPiQi’にベクトルPiQi’’を加えて得られたベクトルをPiQiと定義することによりQiの位置を求めても良い。Piに対して最も近くなるような中心線(14)上の位置が3点以上存在する場合も同様である。
次にステップS213の基画像圧縮情報変換処理では、P1、P2、…、Pn及びQ1、Q2、…、Qnから、ベクトルP1Q1、ベクトルP2Q2、…、ベクトルPnQnを計算した後、P1とベクトルP1Q1、P2とベクトルP2Q2、…、PnとベクトルPnQnを関連付けて記憶部103に格納する。このとき、ベクトルP1Q1、ベクトルP2Q2、…、ベクトルPnQnの各ベクトルを基画像圧縮情報(15)と定義する。なお、ここで言う関連付けとは、ステップS213より後のステップにおいてP1の位置を指定して基画像圧縮情報(15)を参照しようとした場合に基画像圧縮情報(15)としてベクトルP1Q1を得ることが可能であり、P2、…、Pnの各位置に対しても同様に基画像圧縮情報(15)としてベクトルP2Q2、…、ベクトルPnQnを得ることが可能な状態で情報を記憶部103に格納するという意味である。
ステップS213より後のステップにおいてP1、P2、…、Pnのいずれでもない位置を指定して基画像圧縮情報(15)を参照した場合に、記憶部103に格納されたP1、P2、…、Pn及びベクトルP1Q1、ベクトルP2Q2、…、ベクトルPnQnに対して処理部102において補間処理を行うことによりベクトル情報を得ることが可能となるようなステップを、ステップS213以降、かつ、ステップS31の基画像圧縮処理以前に設けても良い。このようにして補間処理によって得たベクトルについても、基画像圧縮情報(15)とする。このときの補間処理としては、画像の一般的な拡大縮小処理方法をそのまま用いることが可能であり、このような処理方法として、例えば、ニアレストネイバー法、バイリニア法、バイキュービック法が一般に知られている。
なお、例えばステップS212の基画像圧縮情報変換処理においてP1及びQ1が確定した後であれば、ステップS213の再近傍中心線位置取得処理においてP1とベクトルP1Q1を関連付けて基画像圧縮情報として記憶部103に格納することが可能であることから、必ずしもステップS212の完全終了後にステップS213を実施する必要は無い。
ステップS21の基画像圧縮情報生成処理は、以上の一連のステップS211、S212、S213によって構成されており、これらの処理を行うことにより基画像圧縮情報(15)が得られる。
このようにして得た基画像圧縮情報(15)が、本発明における潜像画像(3)の作製において果たす役割について説明する。
前述のとおりP1、P2、…、Pnの各位置について、中心線(14)のうち最も近い各位置をQ1、Q2、…、Qnと定義していることから、初等幾何によれば、直線P1Q1、直線P2Q2、…、直線PnQnは、いずれも中心線(14)と直交することがわかる。よってフィルタ画線(7)の方向を、同フィルタ画線(7)から得られた中心線(14)の方向と同一として定義すると、直線P1Q1、直線P2Q2、…、直線PnQnは、いずれもフィルタ画線(7)に直交する。
さらに本作製方法によって生成する潜像画線群(1)における潜像画線(3)の画線形状を、フィルタ画線(7)の画線形状と一致するように定めるものとすると、直線P1Q1、直線P2Q2、…、直線PnQnは、いずれもフィルタ画線(7)の方向、すなわち潜像画線(3)の画線方向に対して直交する。
第一の実施の形態及び第二の実施の形態で記載した通り、本発明において潜像画線(3)は、基画像(2)を部分的に取り出して潜像画像(3)の画線方向と直交する方向に沿って圧縮した構造を有することから、この画像方向と直交する圧縮は、直線P1Q1、直線P2Q2、…、直線PnQnと同一方向に沿って行われることになる。
記憶部103に格納された基画像圧縮情報(15)の形式は、直線P1Q1、直線P2Q2、…、直線PnQnと同等の情報を含んでいれば形式は問わないことから、ここでは前述の通り、P1、P2、…、Pnの位置情報とベクトルP1Q1、ベクトルP2Q2、…、ベクトルPnQnを関連付けて基画像圧縮情報(15)を格納するものとして説明を行っている。
以上の理由により、本発明における潜像画像(3)の作製に際して、位置毎の画像圧縮方向を決める情報として基画像圧縮情報(15)が必要となる。
次に、ステップS31の基画像圧縮処理において基画像圧縮情報(15)及び基画像(2)から潜像画線群(1)を生成する方法について説明する。
ここで、新たに生成した潜像画線群(1)を格納するための画像として、フィルタ画線群(17)とx方向の画素数が同一、かつ、y方向の画素数が同一となるような潜像画線群画像(16)を、処理部102が自動で生成して記憶部103に格納するものとする。また、生成時の潜像画線群画像(16)は、画線を全く含まないものとする。ここでは取り扱う全ての画像において画線の色は黒色であるものとして説明を行うため、このとき生成時の潜像画線群画像(16)は白色の画素のみで構成される。さらに、潜像画線群画像(16)の四隅の座標位置は、それぞれフィルタ画線群(17)の四隅の各座標位置と同じであるものとして説明を行う。
また、ステップS31の基画像圧縮処理を行う際は、あらかじめ圧縮係数kが入力部101により作製装置外から入力され記憶部103に格納されているものとする。ただし圧縮係数kは正または負の数であり、0ではないものとする。より好ましくは、kは、−1よりも大きく、かつ、1よりも小さい、0以外の数である。
ステップS31の基画像圧縮処理では、潜像画線群画像(16)を構成する任意の画素について、同画素が存在する位置を指定して基画像圧縮情報(15)を得た後、画素が存在する位置及び基画像圧縮情報(15)及び圧縮係数kを用いて後述のとおり計算を行うことによって、参照位置を得る。次に、潜像画線群画像(16)を構成する前述の画素が有する色情報を、基画像(2)内において前述の参照位置にある画素の色情報により上書きする。ただしここで言う色情報とは、一般的なデジタル画像において画素が持つ明るさ及び/又は色彩を表す数値情報のことであり、一般には0〜255の数値で表わされる赤、緑、青の各成分又はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各成分によって構成される情報のことである。
もしも前述の参照位置に基画像(2)の画素が存在しない場合、すなわち参照位置が基画像(2)の範囲外となるような場合の処理方法は特に限定するものではないが、この場合、参照位置の基画像(2)の色情報を非画線色である白色であるものとみなして処理を行うことが望ましい。
ステップS31の基画像圧縮処理における上述の処理を、潜像画線群画像(16)を構成する画素のうち、潜像画線(3)内の位置に存在する全ての画素に対して行うことにより、潜像画線群画像(16)の中に潜像画線群(1)が形成される。潜像画線(3)の形状は、ステップS11で入力したフィルタ画線群(17)内のフィルタ画線(7)の画線形状をそのまま潜像画線(3)の形状として用いても良いし、入力部101によりあらかじめ作製装置外から入力しておいても良い。
潜像画線群画像(16)を構成する任意の画素について、同画素が存在する位置をPiとし、位置Piを指定して得られる基画像圧縮情報(15)をベクトルPiQiとしたときに、前述の位置Pi、ベクトルPiQi及び圧縮係数kから計算により参照位置Pi’を求める方法を説明する。
このとき計算により求めたい参照位置Pi’は、ベクトルQiPi’とベクトルQiPiと圧縮係数kを用いて次式で表わされる。ただし、ベクトルQiPiは位置Qiから位置Piに向かうベクトルのことであり、ベクトルPiQiを逆向きにしたベクトルのことであり、数学的にはベクトルPiQiに−1を乗ずることでベクトルQiPiが得られる。
k×(ベクトルQiPi’) = ベクトルQiPi = −(ベクトルPiQi)
前式左側の等号は、ベクトルQiPiは、ベクトルQiPi’をk倍に圧縮又は引き延ばしたベクトルに等しいということを表している。kが−1よりも大きく、かつ、1よりも小さい、0以外の数である場合、ベクトルQiPiは、ベクトルQiPi’をk倍に圧縮したベクトルである。図54は、ベクトルQiPi’とベクトルQiPiとの対応関係の例を示した図であり、同一形状の中心線(14)及び同一位置のPi及びQiに対して、kが0より大きい場合の例を図54(a)に、kが0より小さい場合の例を図54(b)に示す。
このとき前述のとおり直線PiQiは中心線(14)の方向に対して直交していることから、kが0よりも大きい場合は図54(b)に例示したように、任意の画像を、中心線(14)を中心に、中心線(14)と直交する方向へk倍に圧縮した場合、圧縮前に位置Pi’にあった画素は圧縮後には位置Piへと移動している。またkが0よりも小さい場合は図54(b)に例示したように、任意の画像を中心線(14)に対してミラー反転して鏡像化した後に、この鏡像化した画像を、中心線(14)を中心に、中心線(14)と直交する方向へ−k倍に圧縮した場合、ミラー反転及び圧縮前に位置Pi’にあった画素は、ミラー反転及び圧縮後には位置Piへと移動している。
よって、基画像(2)内の参照位置Pi’にある画素の色情報で、潜像画線群画像(16)内の位置Piの画素の色情報を上書きする処理を行うことで、kが0より大きい場合には基画像(2)に対して前述の圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られ、kが0より小さい場合には基画像(2)に対して前述のミラー反転及び圧縮処理を施して潜像画線群画像(16)内に格納したのと同等の効果が得られる。さらに潜像画線群画像(16)内において潜像画線(3)内の位置に存在する全ての画素について、各画素の位置を位置Piとして上記処理を実施することにより、潜像画線群画像(16)内に潜像画線群(1)が形成される。
このステップS31の基画像圧縮処理において、圧縮係数kが0よりも大きい場合の上記の処理は、本発明の第一の実施の形態において説明した潜像画線群(1)の作製方法に相当し、圧縮係数kが0よりも小さい場合の上記の処理は、本発明の第二の実施の形態において説明した潜像画線群(1)の作製方法に相当する。
最後にステップS41の潜像画線群出力処理において、潜像画線群(1)を含んだ潜像画線群画像(16)を出力部(104)へ出力する。
以上のステップを実施することで、潜像画線群(1)を含んだ潜像画線群画像(16)が得られる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
図37に、本発明の潜像印刷物(9−1)を示し、図37(b)には潜像印刷物(9−1)のA−A’ラインにおける断面図を示す。潜像印刷物(9−1)は、基材(10−1)上に、印刷画像(11−1)を備える。基材(10−1)は、一般的な白色コート紙(日本製紙製)を用いた。印刷画像(11−1)は拡散反射光下では黒色に視認される色彩で構成した。
図38に印刷画像(11−1)の構成の概要を示す。印刷画像(11−1)は、蒲鉾状画線群(6−1)と潜像画線群(1−1)を重ねて構成した。印刷画像(11−1)の積層構造は、蒲鉾状画線群(6−1)の上に潜像画線群(1−1)が重なる構造とした。また、図39に基画像(2−1)を示す。本基画像(2−1)は、1250の文字部(2a−1)と、彩紋部(2b−1)から構成した。
まず、蒲鉾状画線群(6−1)について説明する。図40に示すように、それぞれの形状は互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の蒲鉾状画線(7−1)によって構成した。この形状については、第四の実施の形態と同じであるため説明を省略する。
図41に示すのは、蒲鉾状画線群(6−1)の一部を抜粋し、拡大して示したものである。この領域における蒲鉾状画線群(6−1)は、n個の蒲鉾状画線(7−1(1)、7−1(2)、7−1(3)・・・7−1(i)・・・7−1(n−1)、7−1(n))から成る。具体的には、画線幅0.4mmの第一の蒲鉾状画線(7−1(1))から第一の蒲鉾状画線(7−1(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.6mmずれた位置に、画線幅0.4mmの第二の蒲鉾状画線(7−1(2))を配し、第二の蒲鉾状画線(7−1(2))から第二の蒲鉾状画線(7−1(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.59mmずれた位置に、画線幅0.39mmの第三の蒲鉾状画線(7−1(3))を配し・・・、中心部に向かって画線幅とピッチはやや小さく設定し、画像中心においては、画線幅は0.3mm、ピッチは0.45mmとし、中心から再び外周へ向かって画線幅とピッチを大きく変え、最終的には画線幅0.4mmの第n−1の蒲鉾状画線(7−1(n−1))から第n−1の蒲鉾状画線(7−1(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.6mmずれた位置に、画線幅0.4mmの第nの蒲鉾状画線(7−1(n))がある構成で形成した。
以上のような構成の蒲鉾状画線群(6−1)を、表1に示すUV乾燥型のスクリーンインキを用いて、スクリーン印刷によって基材(2)に印刷した。表1に示すインキは、拡散反射光下では着色顔料の色である黒色に見えるが、正反射光下では虹彩色パール顔料の干渉色である金色に変化する、優れたカラーフリップフロップ性を備えたインキである。このインキによって形成した蒲鉾状画線(7−1)の盛り上がり高さは約10μmであった。
続いて、潜像画線群(1−1)について説明する。図42に示すようにそれぞれの形状は互いに相似でない、すなわち非相似形状の複数の潜像画線(3’’’)によって構成した。この形状については第四の実施の形態と同じであるため説明を省略する。
図43に示すのは、潜像画線群(1−1)の一部を抜粋し、拡大して示したものである。この領域における潜像画線群(1−1)は、n個の潜像画線(3−1(1)、3−1(2)、3−1(3)・・・3−1(i)・・・3−1(n−1)、3−1(n))から成る。具体的には、画線幅0.4mmの第一の潜像画線(3−1(1))から第一の潜像画線(3−1(1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.6mmずれた位置に、画線幅0.4mmの第二の潜像画線(3−1(2))を配し、第二の潜像画線(3−1(2))から第二の潜像画線(3−1(2))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.59mmずれた位置に、画線幅0.39mmの第三の潜像画線(3−1(3))を配し・・・、中心部に向かって画線幅とピッチはやや小さく設定し、画像中心においては、画線幅は0.3mm、ピッチは0.45mmとし、中心から再び外周へ向かって画線幅とピッチが大きく変え、最終的には画線幅0.4mmの第n−1の潜像画線(3−1(n−1))から第n−1の潜像画線(3−1(n−1))の画線方向と直交する方向(図中S1方向)のピッチ0.6mmずれた位置に、画線幅0.4mmの第nの潜像画線(3−1(n))がある構成で形成した。
以上の構成の潜像画線群(1−1)を透明なマットインキ(マットメジウム T&K TOKA製)を用いてウェットオフセット印刷方式で、図44に示すように、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(7−1)と潜像画線(3−1)の画線中心が完全に重なり合う関係で蒲鉾状画線群(6−3)と潜像画線群(1−3)を重ね合わせて、潜像印刷物(1−11)を形成した。
以上の手順で作製した本発明の潜像印刷物(9−1)の効果について説明する。図45に、本発明の効果を示す。印刷画像(11−1)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、図45(a)に示すように、潜像画像である基画像(2−1)は不可視であり、単に印刷画像(11−1)のみが視認できた。一方の正反射光下においては、印刷画像(11−1)全体が金色の干渉色を発する中に、彩紋と数字を表した基画像(2−1)が黒色で出現した。
図45(b)は、潜像印刷物(9−1)を正反射光下でB辺を図面上側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2−1)のうち数字(2a−1)の位置は変化しない一方で、基画像(2−1)のうち彩紋(2B−1)は形状を変化させながら、その位置はB’辺側へと移動した。図45(c)は、潜像印刷物(9−1)を正反射光下でA’辺を図面右側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2−1)のうち数字(2a−1)はA’辺側へと移動する一方で、基画像(2−1)のうち彩紋(2b−1)は形状を変化させながら、その位置はA辺側へと移動した。図45(d)は、潜像印刷物(9−1)を正反射光下でB辺を図面下側へ傾けた状態であり、この場合、基画像(2−1)のうち数字(2a−1)の位置は変化しない一方で、基画像(2−1)のうち彩紋(2b−1)は形状を変化させながら、その位置はB辺側へと移動した。図35(e)は、潜像印刷物(9−1)を正反射光下でA辺を図面左側へ傾けた状態であり、この場合、この場合、基画像(2−1)のうち数字(2a−1)はA辺側へと移動する一方で、基画像(2−1)のうち彩紋(2b−1)は形状を変化させながら、その位置はA’辺側へと移動した。
以上のように、作製した潜像印刷物(9−1)は、正反射光下において、印刷画像(11−1)全体が金色の干渉色を発する中に、彩紋と数字を表した基画像(2−1)が黒色で現れ、潜像印刷物(9−1)を正反射光下で傾きを変えることで、内部の彩紋と数字の位置や形状がそれぞれ変化することが確認できた。