電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストは、塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成されることによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成する。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから数μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さによって使用される銀粉の粒径が異なる。また、銀ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線、均一な厚さの電極を形成することができる。
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、銀ペースト中への分散性が高いことである。銀粉の粒径が均一で、且つペースト中への分散性が高いと、硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。逆に粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しないため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
更に、銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉は、銀ペーストの主成分であるため、銀ペースト価格に占める割合が大きいためである。製造コストの低減のためには、生産性が高いことや、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
上述した銀ペーストに使用される銀粉の製造は、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った槽内に還元剤溶液を投入して還元するバッチ式で行なわれることが多かった。しかしながら、バッチ式では、還元剤が投入された位置で局部的に還元反応が始まり、還元剤の投入開始から終了までの間で銀粒子の核が随時発生していくため、均一な粒径の銀粉を得ることは難しい。
このため、バッチ式ではなく、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合する還元方法が提案されている。
特許文献1には、銀アンミン錯体水溶液S1が一定の第一流路aを流れ、その第一流路aの途中に合流する第二流路bを設け、この第二流路bを通じて有機還元剤及び必要に応じた添加剤S2を流し、第一流路aと第二流路bとの合流点mで接触混合して還元析出させる銀粉の製造方法が開示されている。
しかしながら、この方法で得られる銀粉は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の平均粒径DIAが0.6μm以下、結晶子径が10nm以下であり、微細粒子である。このため、一般的な銀ペーストの用途には不向きであり、用途が限られたものとなってしまう。また、反応溶液中の銀濃度が低く、生産性に優れた製造方法とは言い難い。
上述した製造方法を含めて、銀源として用いる原料は硝酸銀が一般的である。しかしながら、硝酸銀は、アンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生し、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。更に、硝酸銀は、危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法が提案されている。塩化銀は、危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの、比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は、銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有するものが提供されている。
例えば、特許文献2には、塩化銀をアンモニア水に銀濃度で1〜100g/lとなるように溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて撹拌し、溶液中の銀アンミン錯体を液相還元して銀超微粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉は、粒径が0.1μm以下と微細であるため、電子工業用としては用途が限られてしまう。
上述のごとく銀粉の製造方法については多くの提案がなされているが、平均粒径が0.1μmから数μmで均一な一次粒子径を有した銀粉、すなわち一次粒子の粒度分布が狭く、分散性が高い銀粉を得ることと、優れた生産性を有し低コストで銀粉を得ることとが両立できていない。
以下、本発明に係る銀粉の製造方法及びその製造方法に用いられる銀粉の製造装置の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
本発明に係る銀粉の製造方法によって得られる銀粉は、銀粒子からなる。ここで、銀粒子形態を次のように定義する。すなわち、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものを一次粒子と呼ぶ。また、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結し、一次粒子及びネッキングした一次粒子が凝集したものを二次粒子と呼ぶ。したがって、銀粒子は、一次粒子及び二次粒子からなるものである。
<銀粉の製造方法>
本発明を適用した銀粉の製造方法は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とをそれぞれ定量的かつ連続的に流路内に供給し、該銀溶液と該還元剤溶液とを流路内で混合させた反応液中で銀錯体を定量的かつ連続的に還元反応を生じせしめ、還元反応が終了した還元後液の銀粒子スラリーを定量的かつ連続的に排出する。これにより、銀粉の製造方法では、還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれ、核発生の速度とその濃度が一定になり、さらに一定の粒成長を図ることができる。このため、この銀粉の製造方法では、得られる銀粒子の大きさが揃い、平均粒径が0.1μmから数μmで一次粒子の粒度分布がシャープな銀粉を得ることができる。さらに、この銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液を流路内で混合して得た反応液を、流路から排出された反応液を滞留する受槽内で撹拌しながら滞留させた後、固液分離することで、過度の凝集を抑制し、粒度分布が狭く分散性に優れた銀粉とすることができる。また、この銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に銀粉を得ることができ、高い生産性をもって銀粉を製造することができる。
さらに、この銀粉の製造方法では、塩化銀を原料とすることが可能であり、硝酸銀を出発原料とした際の亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を必要とせず、環境への影響も少ないプロセスであり、製造コストを低くすることができる。
このような銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液とを混合して得た反応液を流路から排出し、流路から排出された反応液を滞留する受槽内での滞留時間が、還元反応が終了する時間以上となるように撹拌しながら滞留させ、固液分離することが重要となる。これにより、この銀粉の製造方法では、受槽内で還元反応が終了して反応液中に残留している未還元の銀錯体がほぼ消費されるため、固液分離中に銀錯体が還元されて生成される銀による銀粒子の凝集を抑制することができる。
ここで、還元反応が終了する時間(以下、終了時間という)とは、反応液が流路から排出されてから、受槽内で還元反応が終了するまでの時間である。すなわち、終了時間は、受槽内での反応液の滞留時間の基準であるため、その始点は反応液が流路から排出された時点であり、終点は銀錯体の還元反応が終了した時点である。終了時間は、反応液中の銀イオン濃度でも判断することが可能であるが、酸化還元電位(ORP)は、還元反応の進行に伴って低下するため、ORPが最小値に達するまでの時間を測定して決定することが容易で迅速であり、好ましい。したがって、終了時間は、反応液の酸化還元電位(ORP)が最小値に達するまでの時間とすることが好ましい。一方、ORPが最小値に達するまでの時間は、銀錯体が還元されるまでに要する時間であるため、新たな銀錯体が供給される受槽では測定が困難である。したがって、流路出口で反応液を分取して、分取した反応液のORP変化を測定することによって判断される。還元反応が同条件であればORPが最小値に達するまでの時間は安定しているため、本発明のような同条件で連続的に還元反応を行わせる製造方法では、分取した反応液の測定結果により、受槽での滞留時間を判断することが可能となる。
さらに、この銀粉の製造方法では、流路出口から反応液を受槽内に排出しながら、受槽内で滞留させた反応液を槽外に送液して固液分離することが好ましい。銀溶液および還元剤溶液のそれぞれ全量を混合して受槽に滞留させた後、固液分離してもよいが、全量を滞留させるためには受槽の容量を大きくする必要があるとともに、固液分離する時間が銀溶液と還元剤溶液を混合する時間とは別に必要になるため生産性が低下する。銀溶液と還元剤溶液を混合して流路から受槽に反応液を排出しながら、受槽内の反応液を槽外に送液して固液分離することで、受槽を小さくすることが可能になるとともに、受槽内での滞留と固液分離を重複させて行うことが可能であり、生産性を向上させることができる。
受槽からの固液分離工程への送液は、断続的であってもよいが、連続的であることが好ましく、さらに一定量とすることが好ましい。また、固液分離工程への平均送液速度が流路からの排出速度と一致するようにすればよい。また、流路から受槽への反応液の排出と槽外の送液による固液分離を同時に行うと、還元反応が終了していない銀錯体も固液分離工程に送られるが、受槽における反応液の平均滞留時間が終了時間以上であれば、送られる銀錯体の量は僅かであり、固液分離の際の銀粒子の凝集を抑制することが可能である。
以下に、本実施の形態に係る銀粉の製造方法について、より詳細に説明する。
銀溶液は、還元されて銀となる銀錯体を含む溶液であり、各種銀塩を銀の原料として用いることができるが、塩化銀をアンモニア水に溶解することにより得たものであることが好ましい。このように、銀粉の製造方法では、塩化銀を原料とすることにより、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストの低減を図ることができる。塩化銀は、高純度のものを用いることが好ましく、高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン等を用いることもできるが、アスコルビン酸を用いることが特に好ましい。アスコルビン酸は、その還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく、銀溶液と還元剤溶液の混合時の核生成速度も遅くなり、一次粒子の粒径均一化と凝集の制御が容易であり、好ましい。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
還元剤としてアスコルビン酸を用いた場合、化学量論的には、アスコルビン酸0.25モルで銀1モルを還元することができる。銀溶液と還元剤溶液との混合時における混合比は、化学量論による混合比より多くすることが好ましく、具体的には銀1モルに対して還元剤を0.25〜0.50モルとすることが好ましく、0.30〜0.40モルとすることがより好ましい。0.25モル未満の場合は、廃液に未還元の銀錯体が残留し、銀粉の収率が低下する。一方、0.50モルを超えると、還元に利用されないアスコルビン酸が多く残留することになり、コスト的に不利となる。
銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液と混合させた反応液中の銀濃度を25〜50g/Lの範囲で調整することが好ましい。これにより、粒度分布がより狭い銀粉を高い生産性で製造することが可能となる。すなわち、反応液中の銀濃度を25〜50g/Lの範囲で調整することにより、還元により生成される銀粒子の粒径及び粒度分布をより厳密に制御することができる。
上述のように、この銀粉の製造方法においては、連続的に銀溶液と還元剤溶液を定量的に混合するため、混合後の還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれる。したがって、核発生の速度とその濃度が一定であるため、高い銀濃度であっても濃度の揺らぎによる異常な粒成長が抑制され、全体として粒子の成長速度を一定に保つことができ、粗大粒子の生成を抑制することができる。
ここで、銀濃度が低い場合には、粒子の成長速度は一定に保たれるものの、粒子成長が十分でなく、得られる一次粒子は微細なものとなることがある。このような微細な一次粒子では、洗浄後の乾燥処理において、銀粒子間で過度凝集が起こり易くなる。一方、銀濃度が高い場合には、核発生の濃度が一定に保たれても核発生が多過ぎるため、粒子の凝集が発生して粗大粒子が生成されることがある。したがって、銀溶液と還元剤溶液の混合後の反応液中の銀濃度を25〜50g/Lの範囲で調整することにより、粒度分布がより狭い銀粉をより高い生産性で得ることができる。
より具体的に、一次粒子の粒径は、反応液中の銀錯体を低濃度とすれば小さくなり、高濃度にすれば大きくなる傾向にあり、反応液中の銀濃度の調整により粒径を制御することができる。しかしながら、銀濃度が25g/L未満では、粒径が小さくなり過ぎる場合があるとともに十分な生産性が得られない。また、得られる銀粉のタップ密度も低くなり過ぎることがある。一方、銀濃度が50g/Lを超えると、一次粒子の凝集による粗大粒子が生成するため、銀粒子の粒度分布が広くなってしまう。
銀溶液と還元剤溶液を反応管に供給する手段としては、一般的な定量ポンプを用いることができるが、脈動の小さいものが望ましい。また、ポンプの流量は、インバータ制御で可変なものが望ましく、銀溶液と還元剤溶液のそれぞれの流量が一定となるように調整してその混合比を制御する。
また、銀の還元反応時の反応液の温度は、25〜40℃とすることが好ましい。25℃未満では、原料として塩化銀を用いた場合、塩化銀のアンモニア水に対する溶解度が小さくなり、反応液中の銀濃度を高められないことにより所望の粒径が得られない可能性がある。一方、40℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、溶解度が低下して核発生速度が大きくなり粒径が変動する可能性があり、さらの塩化銀の析出が起きることがある。
さらに、受槽内では、還元により生成した銀粒子が沈降しないように十分に攪拌することが必要になる。沈降すると、銀粒子が凝集体を形成して分散性が悪くなってしまうため好ましくない。攪拌は、銀粒子が沈降しない程度の力で行えばよく、一般的な攪拌機を用いることができる。受槽に入って余剰の還元剤が失活した反応液は、ポンプでフィルタープレス等の濾過機に送液することで、連続的に次の工程へと移送することができる。
銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液とを混合させた反応液に、分散剤を含有させることが好ましい。分散剤が含有されていないと、還元により発生した銀粒子が凝集を起こし、粗大粒子が発生したり、分散性が悪いものとなることがある。分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましく、又はこれらの2種以上を組合せて用いることがより好ましい。
分散剤は、予め還元剤溶液に添加しておくことにより、反応液に含有させることが好ましい。分散剤を銀溶液に混合しておくことも選択肢としてはあり得るが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られることが実験的に確認されている。これは、還元剤溶液に分散剤を添加しておくことで、銀粒子の生成場に分散剤が存在し、効率よく銀粒子の凝集を抑制できるためと考えられる。なお、分散剤として用いるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、還元反応時に発泡する場合があるため、還元剤溶液や銀溶液に消泡剤を添加してもよい。
分散剤の含有量としては、分散剤の種類及び得ようとする銀粉粒径により適宜決めればよいが、銀溶液中に含有される銀に対して0.3〜20質量%とすることが好ましく、0.3〜10質量%とすることがより好ましい。分散剤の含有量が0.3質量%未満であると、銀粒子の凝集抑制効果が十分に得られない可能性があり、一方で含有量が20質量%を超えても、それ以上に凝集抑制効果の向上はなく、排水処理等の負荷が増加するのみである。
還元反応が終了した反応液は、固液分離した後、洗浄し、乾燥する。固液分離は、濾過や遠心機を用いることができるが、連続的に送液して固液分離する場合はフィルタープレスを用いることが好ましい。また、洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、銀粒子を水に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、固液分離して銀粉を回収する方法を用いることができる。この方法において、銀粒子の水への投入、撹拌洗浄及び固液分離からなる操作を、数回繰返して行うことが好ましい。また、洗浄に用いる水は、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用し、特に純水を使用することが好ましい。
そして、水による洗浄を行った後、銀粒子の水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、水洗浄後の銀粒子をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の一般的な乾燥装置を用いて、40〜80℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
乾燥した銀粉は、乾燥凝集を解すために解砕機で処理をする。解砕機は、真空減圧雰囲気転動攪拌機等の解砕力の弱い装置が好ましい。解砕能力が強すぎると還元工程で制御した凝集形態を壊してしまうからである。乾燥工程で凝集した弱い凝集のみを解すことが必要である。
<2.銀粉の製造装置>
上述した銀粉の製造方法に用いられる銀粉の製造装置の一例として、図1及び図2に示す銀粉の製造装置を説明する。
図1に示す銀粉の製造装置1は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液を混合して反応液中で銀錯体を定量的かつ連続的に還元する機構を有する流路15を形成する反応管10と、流路15に銀溶液と還元剤溶液をそれぞれ定量的かつ連続的に供給する供給機構20、30と、流路15から排出された反応液を滞留させる受槽40と、滞留後の反応液を受槽40から送液して反応液を固液分離する固液分離機構50とを備える。この銀粉の製造装置1は、受槽40の容量が、銀溶液の流量と還元剤溶液の流量の和に還元反応が終了する時間を乗じて得られた液量以上であり、流路15、即ち反応管10と共に流路15を形成する還元管14から反応液が排出される排出位置40aと、槽内の反応液が固液分離機構50に送液される送液位置40bとの間に、反応液の流れを迂回させる迂回機構42が受槽40に設けられていることを特徴とするものである。
流路15は、図2に具体例を示した反応管10で構成される。この図2(A)は、反応管10の正面を示す図であり、図2(B)は、反応管10のX−X’断面を模式的に示した図である。図2に示すように、この反応管10は、銀錯体を含む銀溶液を供給する配管である銀溶液供給管11と、還元剤溶液を供給する配管である還元剤溶液供給管12と、銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12が接合され銀溶液と還元剤溶液とを混合する配管である混合管13とから構成されている。銀溶液供給管11は、直線状に形成され、還元剤溶液供給管12は、略L字状に形成されている。
図2に示すように、反応管10は、還元剤溶液供給管12の出口で両液が同方向に供給されるように、銀溶液供給管11の内部に還元剤溶液供給管12の直線部12Aが同軸上に配置され、銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12とが組み合わされている。これにより、反応管10では、銀溶液と還元剤溶液を同方向に供給することが可能となり、還元剤溶液供給管12の出口から供給された還元剤溶液の周りを銀溶液が均一に取り囲んで混合される。反応管10では、このような混合形態となることによって、局部的な混合比の変動や反応液の滞留が抑制され、両液は均一な還元当量で混合されるため、吸収量の安定した制御が可能となる。また、還元剤溶液供給管12の出口付近に、還元された銀が堆積することを抑制することができる。
反応管10では、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が0°となるように還元剤溶液供給管12を配置することが好ましい。なお、反応管10の製造上の誤差を含む程度に角度が付いてもよく、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が5°以内の角度であってもよい。すなわち、上述の混合形態を可能とする範囲内において、供給方向は、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が5°以内であることを含み、還元剤溶液供給管12の同軸上の配置は、供給方向が5°以内に収まるような角度が付くことを含むことを意味する。
例えば、反応管10では、銀溶液供給管11の内部にその銀溶液供給管11と同軸に配置された還元剤溶液供給管12の直線部12Aを、還元剤溶液供給管12の内径の5倍以上の長さに設けている。これにより、還元剤溶液供給管12の出口から出る還元剤溶液を層流とすることができ、それぞれの溶液の流速の違いによって両液が均一に混合されることになる。
なお、各供給管11、12の配置等は、各溶液の供給量や流速によっても、適宜変更することができ、還元剤溶液供給管12の直線部12Aと銀溶液供給管11の外部との接続部を曲線としたり、銀溶液の供給方向と反応管外から供給される還元剤溶液の供給方向とがなす角度を小さくして、還元剤溶液がより層流となりやすくしてもよい。また、各供給管11、12の寸法等についても、特に限定されるものではなく、各溶液を供給する際の所望とする流速や流れの状態等に基づいて、適宜設定することができる。
反応管10の材質は、銀溶液や還元剤溶液と反応しないことと、還元反応後の銀が付着しないことが選択上重要であり、ガラスもしくは石英が好ましい。銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12は、銀溶液や還元剤溶液と反応しない材質が選択されればよく、塩化ビニルやポリプロピレン、ポリエチレンなどから選択できる。
ここで、この銀粉の製造装置1を用いて流路15内で銀錯体の還元反応を十分に進行させて粒径を制御するため、流路15内で銀溶液と還元剤溶液とが混合されてから反応液がその流路15内を流下して出口に出るまでの時間(流下時間)が15秒以上60秒以下となるような流路長に流路15を構成することが好ましい。
その流下時間が15秒未満では、還元反応が不十分になり、未還元の銀錯体が反応液中に多量に残留し、銀粒子が連結して粗大粒となることや、凝集して分散性が悪くなることがある。一方、60秒を越える時間では、製造装置を無用に大きくするだけである。
銀粉の製造装置1では、反応管10のみによって15秒以上の流下時間とすることができない場合には、図1に示すように、混合管13に軟質チューブ等の管状物で構成された還元管14を接続して流路15の長さを調整するようにしてもよい。還元管14を軟質チューブで構成する場合には、この軟質チューブを混合管13に螺旋状に巻き付けてもよい。これにより、スペースを要せずに流路15の長さを調整することができる。
流路15に銀溶液と還元剤溶液をそれぞれ定量的かつ連続的に供給する機構20、30としては、一般的な定量ポンプを用いることができ、脈動の小さいものが好ましい。
受槽40は、流路15から排出された反応液を攪拌しながら滞留させる。受槽40は、銀溶液の流量と還元剤溶液の流量の和に還元反応が終了する時間を乗じた液量以上であることが必要となる。受槽40は、反応液を攪拌するために、例えば攪拌機又は超音波洗浄器等を備える。また、受槽40は、流路15から排出終了後に反応液を固液分離機構50に送液するためのバルブ44が底面に設けられている。ここで、流量としては、例えば、「L/分」が、終了する時間としては、例えば、「分」がそれぞれ用いられる。
固液分離機構50は、受槽40における滞留後の反応液が受槽40から送液され、反応液を固液分離する。固液分離機構50は、例えばフィルタープレス等である。
銀粉の製造装置1では、フィルタープレスを用いても、反応液の全量を一度に送液できない場合は、受槽40(第1の受槽40)からの送液をさらに攪拌しながら貯留できる第2の受槽41を第1の受槽40と固液分離機構50の間に設けることが好ましい。これにより、固液分離した銀粒子の排出などで、フィルタープレスへの送液を一旦停止する際にも、第1の受槽40から一定量を連続的に第2の受槽41に送液して滞留時間をさらに一定とすることが可能となる。第2の受槽41は、第1の受槽40と同じ容量又はそれ以下の容量であってもよく、第1の受槽40と同様に撹拌機又は超音波洗浄器等を備え、底面に固液分離機構50に送液するためのバルブ45が設けられている。
第1の受槽40には、流路15から反応液が排出される排出位置40aと、槽内の反応液が固液分離機構50に送液される送液位置40bとの間に、反応液の流れを迂回させる迂回機構42が設けられている。この迂回機構42は、排出位置40aから短絡的経路を経由して送液されることを防止する。これにより、流路15から排出された反応液が短時間で槽外に送液されることが抑制され、固液分離の際の銀粒子の凝集を抑制することができる。迂回機構42としては、送液用の吸入口位置(送液位置40b)側からの反応液の排出を堰により遮断すればよい。例えば、図2に示すように、流路15からの反応液の排出と、第2の受槽41への送液用の吸入が第1の受槽40の上面側で行われる場合、反応液の排出位置40aに堰42を設けて下部から反応液が第1の受槽40内に抜けるようにすればよい。
以上のような銀粉の製造装置1では、受槽40(第1の受槽40)中での滞留により、流路15から排出された反応液中の未還元の銀錯体が還元され、還元反応が終了して銀粒子の凝集が抑制される状態となる。したがって、銀粉の製造装置1では、受槽40(第1の受槽40)の容量を、銀溶液の流量と還元剤溶液の流量の和に還元反応が終了する時間を乗じた液量以上とすることで、平均滞留時間を還元反応が終了する時間以上とすることができる。すなわち、平均滞留時間は、受槽40(第1の受槽40)の容量を流入する流量の和で除したものであり、上述の容量とすることで、平均滞留時間を還元反応が終了する時間以上とすることができる。
このような銀粉の製造装置1では、平均粒径が0.1μmから数μmで一次粒子の粒度分布が狭く、分散性が高い銀粉を生産性が高く低コストで製造することができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、38℃の温水ジャケットで加熱した槽中において液温36℃に保持した25質量%アンモニア水540Lに、塩化銀45230g(住友金属鉱山株式会社製、純度99.9999%、水分率15.44%)を撹拌しながら投入して銀溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液374mlを上記銀溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において36℃に保持した。
次に、還元剤のアスコルビン酸20100g(関東化学株式会社製、試薬)を、30℃の純水5.35Lに溶解した。また、分散剤のポリビニルアルコール1760g(株式会社クラレ製、PVA205)を50℃の純水10Lに溶解した。これら2液を混合して還元剤溶液とし、その温度を36℃に調整した。
次に、銀溶液と還元剤溶液を、スムーズフローポンプ(株式会社タクミナ製APL−5とBPL−2)を使用して、それぞれ、2.7L/分、0.9L/分で反応管に供給し、反応管から排出された反応液を撹拌しながら受槽で保持した。反応管としては、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向を0°とした両液を混合撹拌するガラス製の同芯管(銀溶液供給管:内径10.0mm、還元剤溶液供給管:内径3.6mm、混合管長:100mm)を用いた。さらに内径12mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを還元管として反応管出口側に接続して、反応液を受槽に送液した。この時の還元速度は、銀量で144g/分であり、反応液中の銀濃度は40g/Lとなる。また、供給速度から求めた銀1モルに対するアスコルビン酸の混合比は0.33モルとなる。
そして、受槽には、図1に示すような、第1の受槽及び第2の受槽を有するものを使用した。第1の受槽は、容量約200Lのものを使用し、第2の受槽へは液レベル150Lの位置からポンプで第2の受槽へ送液した。第2の受槽は、容量約60Lのものを使用し、電極によるレベル制御でフィルタープレスへと送液した。第1の受槽での平均滞留時間は41.7分となる。
尚、還元中に還元管から流下する反応液100mLを採取し、酸化還元電位(ORP)の経時変化を測定した結果を図3に示す。ORPは、27分後に最小となりその後緩やかに上昇していた。反応終了までの時間は約30分であり、第1の受槽の平均滞留時間が十分な時間であることが確認できた。
さらに、銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後、第1および第2の受槽内での攪拌を40分継続した後、第1の受槽及び第2の受槽のそれぞれ底抜きバルブから残り全量をフィルタープレスへと送液した。
撹拌終了後の銀溶液を、フィルタープレス機を使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
続いて、回収した銀粒子を0.01mol/LのNaOH水溶液18L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。NaOH水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に2回繰返した後、純水18L中への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥して銀粉を得た。
得られた銀粉は、走査電子顕微鏡(SEM)観察による平均粒径が0.88μm、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.21であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。
(実施例2)
実施例2では、アスコルビン酸の溶解量を調整して、その混合比を0.35モルとした以外は実施例1と同様の条件と製造装置を使用して実施した。
受槽は、図1に示す構成で、第1の受槽は、容量約200Lのものを使用し、第2の受槽へは液レベル110Lの位置からポンプで第2の受槽へ送液した。第2の受槽は、容量約60Lのものを使用し、電極によるレベル制御でフィルタープレスへと送液した。第1の受槽での平均滞留時間は30.6分となる。
尚、還元中に還元管から流下する反応液100mLを採取し、ORPの経時変化を測定した結果を図4に示す。ORPは20分後に最小となりその後緩やかに上昇していた。反応終了までの時間は約20分であり、第1の受槽の平均滞留時間が十分な時間であることが確認できた。
そして、銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後、第1および第2の受槽内での攪拌を30分継続した。以降の工程も実施例1と同様に行った。
得られた銀粉は、走査電子顕微鏡(SEM)観察による平均粒径が0.93μm、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.19であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同条件・同装置で還元を行い、第1の受槽の液レベル位置を調整して、平均滞留時間を5分として実施した。その結果、フィルタープレスから回収した銀粉は固い凝集体となり、容易に解砕もできないものとなった。