以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示すハイブリッド車両Vは、左右の前輪WFL、WFR及び左右の後輪WRL、WRRを有する四輪車両であり、ハイブリッド車両Vには、前輪WFL、WFRを駆動するための前輪駆動装置DFSと、後輪WRL、WRRを駆動するための後輪駆動装置DRSが搭載されている。前輪駆動装置DFSと後輪駆動装置DRSは、互いに機械的に独立して別個に設けられている。以下、左右の前輪WFL、WFR及び左右の後輪WRL、WRRをそれぞれ総称して、適宜「前輪WFL、WFR」及び「後輪WRL、WRR」という。
前輪駆動装置DFSは、本出願人による特許第5362792号に開示されたものと同じものであるので、以下、その構成及び動作について簡単に説明する。前輪駆動装置DFSは、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3と、フロントモータ4と、エンジン3及びフロントモータ4の動力を変速し、前輪WFL、WFRに伝達する変速装置5を有している。
エンジン3は、燃料の燃焼によって作動するガソリンエンジンであり、その吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火時期などは、図3に示す制御装置1の後述するECU2によって制御される。周知のように、吸入空気量はスロットル弁(図示せず)を介して、燃料噴射量及び燃料噴射時期は燃料噴射弁(図示せず)を介して、点火時期は点火プラグ(図示せず)を介して、それぞれ制御される。
フロントモータ4は、回転電機、例えば三相交流モータであり、三相コイルなどで構成されたステータと、磁石などで構成されたロータ(いずれも図示せず)を有している。ステータは、パワードライブユニット(以下「PDU」という)6を介して、充放電可能なバッテリ7に電気的に接続されている。このPDU6は、インバータなどの電気回路で構成されており、ECU2に電気的に接続されている(図3参照)。
フロントモータ4では、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7からPDU6を介してステータに電力が供給されると、それに伴い、この電力が電磁誘導作用により動力に変換され、ロータが回転する(力行)。この場合、ステータに供給される電力が制御されることによって、ロータの動力が制御される。また、ステータへの電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータが回転しているときに、ロータに入力された動力が電磁誘導作用により電力に変換され、発電が行われるとともに、発電した電力が、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7に充電されたり、後輪駆動装置DRSの後述する第1及び第2リヤモータ41、61に供給されたりする。
また、ハイブリッド車両Vには、エアコンのコンプレッサなどから成る補機8と、12Vバッテリ(図示せず)が搭載されており、補機8はPDU6を介して、12VバッテリはDC/DCコンバータ(図示せず)を介して、フロントモータ4のステータ及びバッテリ7に電気的に接続されている。補機8には、フロントモータ4で発電した電力や、バッテリ7の電力が供給され、補機8に供給される電力は、ECU2により、PDU6を介して制御される。
前記変速装置5は、いわゆるデュアルクラッチトランスミッションで構成されている。図示しないが、変速装置5は、第1クラッチを介してエンジン3に接続された第1入力軸と、フロントモータ4と第1入力軸の間に配置された遊星歯車装置と、第2クラッチを介してエンジン3に接続された第2入力軸と、第1及び第2入力軸と平行な出力軸と、第1及び第2入力軸に回転自在に設けられた複数の入力ギヤと、出力軸に一体に設けられ、複数の入力ギヤに噛み合う複数の出力ギヤと、複数の入力ギヤの1つを第1又は第2入力軸に選択的に連結し、その入力ギヤとそれに噛み合う出力ギヤによるギヤ段を設定するシンクロ装置などを有している。
以上の構成により、第1及び第2クラッチならびにシンクロ装置などをECU2で制御することにより、第1及び第2クラッチの接続/遮断状態に応じて、エンジン3の動力(以下「エンジン動力」という)及び/又はフロントモータ4の動力が第1入力軸に、又はエンジン動力が第2入力軸に、選択的に入力される。入力された動力は、シンクロ装置によって設定されたギヤ段による所定の変速比で変速された状態で、出力軸に出力され、さらに、ファイナルギヤ9及び左右の前駆動軸SFL、SFRを介して、左右の前輪WFL、WFRに伝達される。
図2に示すように、前記後輪駆動装置DRSは、第1リヤモータ41、第1遊星歯車装置51、第2リヤモータ61及び第2遊星歯車装置71を有している。これらの第1リヤモータ41、第1遊星歯車装置51、第2遊星歯車装置71、及び第2リヤモータ61は、左右の後輪WRL、WRRの間に、左側からこの順で並んでおり、左右の後駆動軸SRL、SRRと同軸状に設けられている。左右の後駆動軸SRL、SRRは、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されるとともに、それらの一端部がそれぞれ、左右の後輪WRL、WRRに連結されている。
上記の第1リヤモータ41は、フロントモータ4と同様の三相交流モータであり、ステータ42と、回転自在のロータ43を有している。ステータ42は、ハイブリッド車両Vに固定されたケーシングCAに取り付けられるとともに、前述したPDU6を介して、フロントモータ4のステータ及びバッテリ7に電気的に接続されている。ロータ43は、中空の回転軸44に一体に取り付けられている。回転軸44は、左後駆動軸SRLの外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。
第1リヤモータ41では、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7からの電力や、フロントモータ4で発電した電力が、PDU6を介してステータ42に供給されると、それに伴い、この電力が電磁誘導作用により動力に変換され、ロータ43が回転する(力行)。この場合、ステータ42に供給される電力が制御されることによって、ロータ43の動力が制御される。また、ステータ42への電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータ43が回転しているときに、ロータ43に入力された動力が電磁誘導作用により電力に変換され、発電が行われるとともに、発電した電力が、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7に充電される。
第1遊星歯車装置51は、第1リヤモータ41の動力を減速して左後輪WRLに伝達するためのものであり、第1サンギヤ52、第1リングギヤ53、2連ピニオンギヤ54及び第1キャリヤ55を有している。第1サンギヤ52は、前述した回転軸44に一体に取り付けられており、第1リヤモータ41のロータ43と一体に回転自在である。第1リングギヤ53は、第1サンギヤ52よりも大きな歯数を有しており、中空の回転軸81に一体に取り付けられている。回転軸81は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。2連ピニオンギヤ54は、第1ピニオンギヤ54a及び第2ピニオンギヤ54bを一体に有しており、その数が3つ(2つのみ図示)である。また、2連ピニオンギヤ54は、第1キャリヤ55に回転自在に支持されており、その第1ピニオンギヤ54aが第1サンギヤ52に、第2ピニオンギヤ54bが第1リングギヤ53に、それぞれ噛み合っている。第1キャリヤ55は、左後駆動軸SRLの他端部に一体に取り付けられており、左後駆動軸SRLと一体に回転自在である。
前記第2リヤモータ61及び第2遊星歯車装置71は、第1リヤモータ41及び第1遊星歯車装置51とそれぞれ同様に構成されているため、以下、その構成について簡単に説明する。第2リヤモータ61及び第2遊星歯車装置71は、後述するワンウェイクラッチ83を中心として、第1リヤモータ41及び第1遊星歯車装置51と対称に設けられている。第2リヤモータ61のステータ62は、前記ケーシングCAに取り付けられるとともに、PDU6を介して、フロントモータ4のステータ、バッテリ7及び第1リヤモータ41のステータ42に電気的に接続されている。また、第2リヤモータ61のロータ63は、中空の回転軸64に一体に取り付けられている。回転軸64は、右後駆動軸SRRの外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。
第2リヤモータ61では、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7の電力や、フロントモータ4で発電した電力が、PDU6を介してステータ62に供給されると、それに伴い、この電力が電磁誘導作用により動力に変換され、ロータ63が回転する(力行)。この場合、ステータ62に供給される電力が制御されることによって、ロータ63の動力が制御される。また、ステータ62への電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータ63が回転しているときに、ロータ63に入力された動力が電磁誘導作用により電力に変換され、発電が行われるとともに、発電した電力が、ECU2によるPDU6の制御によって、バッテリ7に充電される。
第2遊星歯車装置71は、第2リヤモータ61の動力を減速して右後輪WRRに伝達するためのものであり、第2サンギヤ72、第2リングギヤ73、2連ピニオンギヤ74及び第2キャリヤ75を有している。第2サンギヤ72、第2リングギヤ73及び2連ピニオンギヤ74の歯数は、第1サンギヤ52、第1リングギヤ53及び2連ピニオンギヤ54の歯数とそれぞれ同じに設定されている。
第2サンギヤ72は、前述した回転軸64に一体に取り付けられており、第2リヤモータ61のロータ63と一体に回転自在である。第2リングギヤ73は、第2サンギヤ72よりも大きな歯数を有しており、中空の回転軸82に一体に取り付けられている。回転軸82は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、前述した回転軸81と若干の隙間を存した状態で軸線方向に対向している。2連ピニオンギヤ74は、第2キャリヤ75に回転自在に支持されており、その第1ピニオンギヤ74aが第2サンギヤ72に、第2ピニオンギヤ74bが第2リングギヤ73に、それぞれ噛み合っている。第2キャリヤ75は、右後駆動軸SRRの他端部に一体に取り付けられており、右後駆動軸SRRと一体に回転自在である。
後輪駆動装置DRSはさらに、ワンウェイクラッチ83及び油圧ブレーキ84を有している。ワンウェイクラッチ83は、インナーレース83a及びアウターレース83bを有しており、第1及び第2遊星歯車装置51、71の間に配置されている。なお、図2では、図示の便宜上、インナーレース83aが外側に、アウターレース83bが内側に、それぞれ描かれている。インナーレース83aは、前述した回転軸81、82に係合しており、それにより、インナーレース83a、回転軸81、82、第1及び第2リングギヤ53、73は、一体に回転自在である。また、アウターレース83bは、ケーシングCAに取り付けられている。ワンウェイクラッチ83は、回転軸81、82に逆転させる動力が伝達されたときには、回転軸81、82をケーシングCAに接続することによって、回転軸81、82、第1及び第2リングギヤ53、73の逆転を阻止する一方、回転軸81、82に正転させる動力が伝達されたときには、回転軸81、82とケーシングCAの間を遮断することによって、回転軸81、82、第1及び第2リングギヤ53、73の正転を許容する。
油圧ブレーキ84は、多板式のクラッチで構成されており、ケーシングCA及び回転軸81、82に取り付けられるとともに、第1及び第2遊星歯車装置51、71の外周に配置されている。油圧ブレーキ84は、ECU2で制御されることにより、第1及び第2リングギヤ53、73を制動する制動動作と、第1及び第2リングギヤ53、73の回転を許容する回転許容動作とを、選択的に実行する。油圧ブレーキ84の制動力は、ECU2によって制御される。
さらに、図3に示すように、ECU2には、クランク角センサ21から、CRK信号が入力される。このCRK信号は、エンジン3のクランク軸(図示せず)の回転に伴い、所定のクランク角ごとに出力されるパルス信号である。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、ECU2には、モータ回転数センサ22から、フロントモータ4の回転数(以下「フロントモータ回転数」という)NFMを表す検出信号が、電流電圧センサ23から、バッテリ7に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が、入力される。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ7の充電状態SOCを算出する。
さらに、ECU2には、アクセル開度センサ24からハイブリッド車両Vのアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車輪速センサ25から、前輪WFL、WFRの回転数(以下「前輪回転数」という)NWF及び後輪WRL、WRRの回転数(以下「後輪回転数」という)NWRを表す検出信号が、入力される。ECU2は、検出された前輪回転数NWF及び後輪回転数NWRに基づいて、ハイブリッド車両Vの車速VPを算出する。また、ECU2には、勾配センサ26から、ハイブリッド車両Vが走行している路面の傾斜角を表す検出信号が入力される。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ21〜26からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、前輪駆動装置DFS及び後輪駆動装置DRSの動作を含むハイブリッド車両Vの動作を制御する。
前輪駆動装置DFSの動作モードには、エンジン3のみをハイブリッド車両Vの動力源として用いるENG走行モードと、フロントモータ4のみを動力源として用いるEV走行モードと、エンジン3をフロントモータ4でアシストするアシスト走行モードと、エンジン動力の一部を用いてフロントモータ4でバッテリ7を充電する充電走行モードと、ハイブリッド車両Vの減速走行中の走行エネルギを用いてフロントモータ4でバッテリ7を充電する減速回生モードなどが含まれる。各動作モードにおける前輪駆動装置DFSの動作は、ECU2によって制御される。以下、ENG走行モード、EV走行モード、アシスト走行モード及び充電走行モードを総称して適宜、「前輪駆動モード」という。
また、後輪駆動装置DRSの動作モードには、駆動モード、回生モード及び左右輪トルク差モードなどが含まれる。各動作モードにおける後輪駆動装置DRSの動作は、ECU2によって制御される。以下、これらの動作モードについて順に説明する。
[駆動モード]
この駆動モードは、左右の後輪WRL、WRRを第1及び第2リヤモータ41、61の動力で駆動する動作モードである。駆動モードでは、第1及び第2リヤモータ41、61で力行を行うとともに、両者41、61に供給される電力を制御する。また、左右の後輪WRL、WRRを正転させる場合には、第1及び第2リヤモータ41、61のロータ43、63を正転させるとともに、油圧ブレーキ84で第1及び第2リングギヤ53、73を制動する。図4は、駆動モード中、左右の後輪WRL、WRRを正転させた場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係の一例を示している。
前述した各種の回転要素の間の連結関係から明らかなように、第1サンギヤ52の回転数は、第1リヤモータ41(ロータ43)の回転数と等しく、第1キャリヤ55の回転数は、左後輪WRLの回転数と、第1リングギヤ53の回転数は、第2リングギヤ73の回転数と、それぞれ等しい。また、第2サンギヤ72の回転数は、第2リヤモータ61(ロータ63)の回転数と等しく、第2キャリヤ75の回転数は、右後輪WRRの回転数と等しい。また、周知のように、第1サンギヤ52の回転数、第1キャリヤ55の回転数及び第1リングギヤ53の回転数は、共線図において、互いに同じ一つの直線上に位置する共線関係にあり、第1サンギヤ52及び第1リングギヤ53は、第1キャリヤ55の両外側に位置する。このことは、第2サンギヤ72、第2キャリヤ75及び第2リングギヤ73についても同様に当てはまる。
以上から、各種の回転要素の間の回転数の関係は、図4に示す共線図のように表される。なお、同図及び後述する他の共線図では、値0を示す横線から縦線上の白丸までの距離が、各回転要素の回転数に相当する。また、図4において、TM1は、力行に伴って発生する第1リヤモータ41の出力トルク(以下「第1リヤモータ力行トルク」という)であり、TM2は、力行に伴って発生する第2リヤモータ61の出力トルク(以下「第2リヤモータ力行トルク」という)である。また、RRLは、左後輪WRLの反力トルクであり、RRRは、右後輪WRRの反力トルク、ROWは、ワンウェイクラッチ83の反力トルクである。
前述したように、ワンウェイクラッチ83は、第1及び第2リングギヤ53、73の逆転を阻止するように構成されている。また、図4から明らかなように、第1リヤモータ力行トルクTM1は、第1サンギヤ52を正転させるように作用するとともに、第1リングギヤ53を逆転させるように作用する。以上により、第1リヤモータ力行トルクTM1は、第1リングギヤ53に作用するワンウェイクラッチ83の反力トルクROWを反力とし、第1キャリヤ55及び左後駆動軸SRLを介して、左後輪WRLに伝達され、その結果、左後輪WRLが駆動される。同様に、第2リヤモータ力行トルクTM2は、第2リングギヤ73に作用するワンウェイクラッチ83の反力トルクROWを反力とし、第2キャリヤ75及び右後駆動軸SRRを介して、右後輪WRRに伝達される。その結果、右後輪WRRが駆動される。
[回生モード]
この回生モードは、ハイブリッド車両Vの減速走行中などに、ハイブリッド車両Vの走行エネルギを用いて第1及び第2リヤモータ41、61で発電(回生)を行うとともに、回生した電力をバッテリ7に充電する動作モードである。回生モードでは、第1及び第2リヤモータ41、61で回生する電力を制御するとともに、油圧ブレーキ84で第1及び第2リングギヤ53、73を制動する。図5は、回生モードにおける各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。同図において、BM1は、回生に伴って発生する第1リヤモータ41の出力(制動)トルク(以下「第1リヤモータ回生トルク」という)であり、BM2は、回生に伴って発生する第2リヤモータ61の出力(制動)トルク(以下「第2リヤモータ回生トルク」という)である。また、TRLは、左駆動輪WRLの慣性トルクであり、TRRは、右駆動輪WRRの慣性トルク、RBRは、油圧ブレーキ84の反力トルクである。
図5から明らかなように、第1及び第2サンギヤ52、72にそれぞれ伝達された第1及び第2リヤモータ回生トルクBM1、BM2は、油圧ブレーキ84の反力トルクRBRを反力として、第1及び第2キャリヤ55、75にそれぞれ伝達され、さらに、左右の後駆動軸SRL、SRRを介して、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。その結果、左右の後輪WRL、WRRが制動される。
[左右輪トルク差モード]
この左右輪トルク差モードは、ハイブリッド車両Vの旋回時に、左右の後輪WRL、WRRにトルク差を生じさせる動作モードである。左右輪トルク差モードでは、第1及び第2リヤモータ41、61の一方で力行を、他方で回生を行い、一方に供給される電力及び他方で回生する電力を制御するとともに、油圧ブレーキ84で第1及び第2リングギヤ53、73を制動する。図6は、第1リヤモータ41で力行を行うとともに、第2リヤモータ61で回生を行った場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。同図における各種のパラメータは、図4及び図5を参照して説明したとおりである。
図6と、これまでの説明から明らかなように、第1リヤモータ力行トルクTM1が、第1遊星歯車装置51を介して左後輪WRLに伝達されることにより、左後輪WRLが駆動されるとともに、第2リヤモータ回生トルクBM2が、第2遊星歯車装置71を介して右後輪WRRに伝達されることにより、右後輪WRRが制動される。その結果、左右の後輪WRL、WRRの間で逆方向のトルクが発生し、ハイブリッド車両Vに右回りのヨーモーメントが発生する。
上記とは逆に、第1リヤモータ41で回生を、第2リヤモータ61で力行を、それぞれ行った場合には、ハイブリッド車両Vに左回りのヨーモーメントが発生する。
また、前輪駆動装置DFS及び後輪駆動装置DRS全体の動作モードとして、全輪駆動モードが設定されている。この全輪駆動モードは、ハイブリッド車両Vのすべての車輪WFL、WFR、WRL、WRRを駆動する動作モードである。全輪駆動モードにおける前輪駆動装置DFS及び後輪駆動装置DRSの動作は、ECU2によって制御される。
全輪駆動モードによる動作は、ハイブリッド車両Vのスリップ時や、加速時、登坂走行中に実行される。スリップ時か否かの判定は、検出された前輪回転数NWFと後輪回転数NWRとの差異などに基づいて行われる。また、加速時か否かの判定は、検出されたアクセル開度APに基づいて行われる。さらに、登坂走行中か否かの判定は、検出された路面の傾斜角に基づいて行われる。
また、全輪駆動モード中、基本的には、エンジン動力の一部を用いてフロントモータ4で発電を行うとともに、フロントモータ4で発電した電力を第1及び第2リヤモータ41、61に供給することによって、エンジン動力の一部が、フロントモータ4、PDU6、第1及び第2リヤモータ41、61を介して、後輪WRL、WRRに伝達されるとともに、エンジン動力の残りが、前輪WFL、WFRに伝達される。また、全輪駆動モード中、フロントモータ4で発電した電力は、第1及び第2リヤモータ41、61に加え、補機8にも供給され、バッテリ7は、フロントモータ4と補機8、第1及び第2リヤモータ41、61との間の電力の授受を調整するためのバッファとして機能する。例えば、フロントモータ4で発電した電力が、補機8、第1及び第2リヤモータ41、61に供給すべき電力に対して不足するときには、その不足分が、バッテリ7の電力によって補われる。以下、第1及び第2リヤモータ41、61を総称して、適宜「リヤモータ41、61」という。
次に、図7を参照しながら、ECU2によって実行される、エンジン3、フロントモータ4及びリヤモータ41、61を制御するための処理について説明する。本処理は、所定の制御周期(例えば10msec)で繰り返し実行される。まず、図7のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、リヤモータ41、61を制御するためのリヤモータ制御処理を実行し、次いで、エンジン3を制御するためのエンジン制御処理を実行する(ステップ2)とともに、フロントモータ4を制御するためのフロントモータ制御処理を実行し(ステップ3)、本処理を終了する。
図8は、図7のステップ1で実行されるリヤモータ制御処理を示している。まず、図8のステップ11では、全輪駆動モードフラグF_AWDRが「1」であるか否かを判別する。この全輪駆動モードフラグF_AWDRは、前述した全輪駆動モード中であることを「1」で表すものである。このステップ11の答えがNO(F_AWDR=0)のときには、そのまま本処理を終了する一方、YES(F_AWDR=1)のとき、すなわち、全輪駆動モード中であるときには、算出された車速VPとアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、全輪要求トルクTAWREQを算出する(ステップ12)。この全輪要求トルクTAWREQは、前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRの全体を駆動するために、前輪駆動装置DFS及び後輪駆動装置DRSに要求されるトルクである。
次いで、算出された全輪要求トルクTAWREQに基づいて、後輪要求トルクTRWREQを算出する(ステップ13)。この後輪要求トルクTRWREQは、後輪WRL、WRRを駆動するために後輪駆動装置DRS(リヤモータ41、61)に要求されるトルクであり、全輪要求トルクTAWREQに、値1.0よりも小さい所定の後輪配分比率を乗算することによって、算出される。
次に、算出された後輪要求トルクTRWREQに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、リヤモータ目標電力ERMOBJを算出する(ステップ14)。このリヤモータ目標電力ERMOBJは、リヤモータ41、61に供給される電力の目標値であり、上記ステップ14の実行により、リヤモータ41、61から後輪WRL、WRRに伝達されるトルクが後輪要求トルクTRWREQになるように、算出される。
上記ステップ14に続くステップ15では、算出されたリヤモータ目標電力ERMOBJに基づく制御信号をPDU6に出力し、本処理を終了する。このステップ15の実行により、リヤモータ目標電力ERMOBJに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することで、制御信号が算出されるとともに、算出された制御信号がPDU6に出力されることによって、フロントモータ4やバッテリ7からリヤモータ41、61に供給される電力がリヤモータ目標電力ERMOBJになるように、PDU6が制御される。
次に、図9を参照しながら、図7のステップ2で実行されるエンジン制御処理について説明する。まず、図9のステップ21では、補機負荷用電力EACを算出する。この補機負荷用電力EACは、補機8に供給される電力の要求値であり、センサ(図示せず)で検出された補機8のON/OFF状態に基づいて、算出される。次いで、前述した全輪駆動モードフラグF_AWDRが「1」であるか否かを判別する(ステップ22)。この答えがNO(F_AWDR=0)で、全輪駆動モード中でないときには、前述した前輪駆動モードによりエンジン3を制御するために、ステップ23以降を実行し、本処理を終了する。
このステップ23では、車速VP及びアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、前輪要求トルクTFWREQを算出する。この前輪要求トルクTFWREQは、前輪WFL、WFRを駆動するために前輪駆動装置DFS(エンジン3など)に要求されるトルクである。次いで、前輪駆動モード用のエンジン目標トルクTENOBJを算出するための処理を実行する(ステップ24)。このエンジン目標トルクTENOBJは、エンジン3のトルク(以下「エンジントルク」という)の目標値であり、ステップ24で実行される処理の詳細については、後述する。
次に、算出されたエンジン目標トルクTENOBJに基づく制御信号をエンジン3のスロットル弁や燃料噴射弁に出力し(ステップ25)、本処理を終了する。このステップ25の実行により、エンジン目標トルクTENOBJに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することで、制御信号が算出されるとともに、算出された制御信号がスロットル弁などに出力されることによって、エンジン3の吸入空気量などが制御される。その結果、エンジントルクが、エンジン目標トルクTENOBJになるように制御される。
図10は、図9のステップ24で実行される前輪駆動モード用のエンジン目標トルクTENOBJを算出するための処理を示している。まず、図10のステップ41では、ENG走行モードフラグF_ENGMODが「1」であるか否かを判別する。このENG走行モードフラグF_ENGMODは、前輪駆動モードの前述したENG走行モード中であることを「1」で表すものである。
このステップ41の答がYES(F_ENGMOD=1)のとき、すなわち、ENG走行モード中であるときには、エンジン目標トルクTENOBJを、図9のステップ23で算出された前輪要求トルクTFWREQに設定し(ステップ42)、本処理を終了する。これにより、ENG走行モード中には、エンジン3から前輪WFL、WFRに伝達されるトルクが、前輪要求トルクTFWREQになるように制御される。
一方、ステップ41の答がNO(F_ENGMOD=0)で、ENG走行モード中でないときには、EV走行モードフラグF_EVMODが「1」であるか否かを判別する(ステップ43)。このEV走行モードフラグF_EVMODは、前輪駆動モードの前述したEV走行モード中であることを「1」で表すものである。このステップ43の答がYES(F_EVMOD=1)のとき、すなわち、EV走行モード中であるときには、エンジン目標トルクTENOBJを値0に設定し(ステップ44)、本処理を終了する。これにより、EV走行モード中には、エンジン3が停止される。
一方、ステップ43の答がNO(F_EVMOD=0)のとき、すなわち、ENG走行モード中でもなく、また、EV走行モード中でもなく、前輪駆動モードの前述したアシスト走行モード中又は充電走行モード中であるときには、車速VPに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、エンジン目標トルクTENOBJを算出し(ステップ45)、本処理を終了する。このマップでは、エンジン目標トルクTENOBJは、車速VPに対し、エンジン3のより良好な燃費が得られるような値に、設定されている。エンジン目標トルクTENOBJになるように制御されるエンジントルクは、上述したマップの設定により、前輪要求トルクTFWREQに対して、アシスト走行モード中には不足し、充電走行モード中には余る。後述する前輪駆動モード用のフロントモータ4の制御によって、アシスト走行モード中におけるエンジン動力の不足分は、フロントモータ4でアシストされ、充電走行モード中におけるエンジン動力の余剰分は、フロントモータ4による発電により電力に変換され、バッテリ7に充電される。
図9に戻り、前記ステップ22の答えがYES(F_AWDR=1)で、全輪駆動モード中であるときには、全輪駆動モードによりエンジン3を制御するために、以下のステップ26〜37を実行する。まず、ステップ26では、電気パス損失電力EEPを算出する。前述したように、全輪駆動モード中には、エンジン動力の一部がフロントモータ4やリヤモータ41、61を介して後輪WRL、WRRに伝達され、当該動力の伝達は、一旦、電力に変換してから、動力に戻して伝達する、いわゆる電気パスによって行われる。この電気パスでは、フロントモータ4で動力が電力に変換される際の損失(発電効率)と、変換した電力がPDU6を介してリヤモータ41、61に供給される際の損失(電力伝達効率)と、リヤモータ41、61に供給された電力が動力に変換される際の損失(力行効率)とが、発生する。上記の電気パス損失電力EEPは、これらの損失を電力に換算した値であり、前述したリヤモータ目標電力ERMOBJに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。
上記ステップ26に続くステップ27では、アシスト制御フラグF_ASSIが「1」であるか否かを判別する。このアシスト制御フラグF_ASSIは、リヤモータアシスト制御の実行中であることを「1」で表すものである。このリヤモータアシスト制御は、エンジン3をリヤモータ41、61でアシストするための制御であり、ハイブリッド車両Vの加速時や、登坂走行時などで、それにより全輪要求トルクTAWREQが比較的大きいときに、実行される。リヤモータアシスト制御では、フロントモータ4で発電した電力に加え、バッテリ7の電力がリヤモータ41、61に供給される。
上記ステップ27の答えがNO(F_ASSI=0)で、リヤモータアシスト制御の実行中でないときには、図8のステップ14で算出されたリヤモータ目標電力ERMOBJと、図9のステップ26で算出された電気パス損失電力EEPを用い、次式(1)によって、電気パス要求電力EEPASSを算出する(ステップ28)。
EEPASS=ERMOBJ+EEP ……(1)
この電気パス要求電力EEPASSは、フロントモータ4からリヤモータ41、61に供給される電力の要求値である。
次いで、バッテリ充電制御フラグF_CHARが「1」であるか否かを判別する(ステップ29)。このバッテリ充電制御フラグF_CHARは、バッテリ充電制御の実行中に「1」に設定されるものである。このバッテリ充電制御は、エンジン動力の一部を用いてフロントモータ4で発電した電力の一部をバッテリ7に充電するための制御であり、算出されたバッテリ7の充電状態SOCが比較的小さく、かつ、全輪要求トルクTAWREQが比較的小さいときに、実行される。
上記ステップ29の答がYES(F_CHAR=1)で、バッテリ充電制御の実行中であるときには、バッテリ充電電力ECHを算出する(ステップ30)。このバッテリ充電電力ECHは、バッテリ充電制御の実行中にバッテリ7に充電される電力の要求値であり、図8のステップ12で算出された全輪要求トルクTAWREQに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。このマップでは、バッテリ充電電力ECHは、全輪要求トルクTAWREQが小さいほど、より大きな値に設定されている。
上記ステップ30に続くステップ31では、前記ステップ28、21及び30でそれぞれで算出された電気パス要求電力EEPASS、補機負荷用電力EAC及びバッテリ充電電力ECHを用い、次式(2)によって、フロントモータ要求電力EFMREQを算出する。このフロントモータ要求電力EFMREQは、フロントモータ4に要求される発電電力である。
EFMREQ←EEPASS+EAC+ECH ……(2)
一方、ステップ29の答えがNO(F_CHAR=0)のとき、すなわち、リヤモータアシスト制御の実行中でもなく、また、バッテリ充電制御の実行中でもないときには、ステップ28及び21でそれぞれ算出された電気パス要求電力EEPASS及び補機負荷用電力EACを用い、次式(3)によって、フロントモータ要求電力EFMREQを算出する(ステップ32)。
EFMREQ←EEPASS+EAC ……(3)
一方、前記ステップ27の答がYES(F_ASSI=1)で、リヤモータアシスト制御の実行中であるときには、リヤモータアシスト電力EASを算出する(ステップ33)。このリヤモータアシスト電力EASは、リヤモータアシスト制御の実行中にバッテリ7からリヤモータ41、61に供給される電力の要求値を表すものであり、図8のステップ12で算出された全輪要求トルクTAWREQに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。このマップでは、リヤモータアシスト電力EASは、全輪要求トルクTAWREQが大きいほど、より大きな値に設定されている。
上記ステップ33に続くステップ34では、図8のステップ14で算出されたリヤモータ目標電力ERMOBJ、前記ステップ26及び33でそれぞれ算出された電気パス損失電力EEP及びリヤモータアシスト電力EASを用い、次式(4)によって、電気パス要求電力EEPASSを算出する。
EEPASS←ERMOBJ+EEP−EAS ……(4)
次いで、前記ステップ32を実行することにより、ステップ34及び21でそれぞれ算出された電気パス要求電力EEPASS及び補機負荷用電力EACを用い、前記式(3)によって、フロントモータ要求電力EFMREQを算出する。
前記ステップ31又は32に続くステップ35では、ステップ31又は32で算出されたフロントモータ要求電力EFMREQに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、フロントモータ要求トルクTFMREQを算出する。これにより、フロントモータ要求トルクTFMREQは、フロントモータ要求電力EFMREQをトルクに換算した値に算出される。
次いで、図8のステップ12で算出された全輪要求トルクTAWREQに基づいて、前輪要求トルクTFWREQを算出する(ステップ36)。このステップ36の実行により、前輪要求トルクTFWREQは、前輪駆動モードの場合(前記ステップ23)と異なり、全輪要求トルクTAWREQに所定の前輪配分比率を乗算することによって、算出される。この前輪配分比率は、値1.0から前記後輪配分比率を減算した値に設定されている。以上により、ステップ36で算出された前輪要求トルクTFWREQと、図8のステップ13で算出された後輪要求トルクTRWREQとの和は、全輪要求トルクTAWREQと等しくなる。
次に、上記ステップ35及び36でそれぞれ算出されたフロントモータ要求トルクTFMREQ及び前輪要求トルクTFWREQの和を、エンジン目標トルクTENOBJとして算出する(ステップ37)。次いで、前記ステップ25を実行することにより、エンジン目標トルクTENOBJに基づく制御信号をスロットル弁などに出力し、本処理を終了する。
次に、図11を参照しながら、図7のステップ3で実行されるフロントモータ制御処理について説明する。まず、図11のステップ51では、全輪駆動モードフラグF_AWDRが「1」であるか否かを判別する。この答がNO(F_AWDR=0)で、全輪駆動モード中でないときには、フロントモータ4を前輪駆動モードによって制御するために、前輪駆動モード用のフロントモータ目標電力EFMOBJを算出するための処理を実行する(ステップ52)。このフロントモータ目標電力EFMOBJは、フロントモータ4が発電又は消費(力行)する電力の目標値である。
次いで、算出されたフロントモータ目標電力EFMOBJに基づく制御信号をPDU6に出力し(ステップ53)、本処理を終了する。このステップ53の実行により、フロントモータ目標電力EFMOBJに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することで、制御信号が算出されるとともに、算出された制御信号がPDU6に出力されることによって、フロントモータ4が発電又は消費する電力がフロントモータ目標電力EFMOBJになるように、PDU6が制御される。
図12は、図11のステップ52で実行される前輪駆動モード用のフロントモータ目標電力EFMOBJを算出するための処理を示している。まず、図12のステップ71では、ENG走行モードフラグF_ENGMODが「1」であるか否かを判別する。この答がYES(F_ENGMOD=1)で、ENG走行モード中であるときには、フロントモータ目標電力EFMOBJを値0に設定し(ステップ72)、本処理を終了する。これにより、ENG走行モード中には、フロントモータ4が停止される。
一方、上記ステップ71の答がNO(F_ENGMOD=0)で、ENG走行モード中でないときには、EV走行モードフラグF_EVMODが「1」であるか否かを判別する(ステップ73)。この答がYES(F_EVMOD=1)で、EV走行モード中であるときには、図9のステップ23で算出された前輪要求トルクTFWREQに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、フロントモータ目標電力EFMOBJを算出し(ステップ74)、本処理を終了する。これにより、EV走行モード中には、フロントモータ4から前輪WFL、WFRに伝達されるトルクが、前輪要求トルクTFWREQになるように制御される。
一方、上記ステップ73の答がNO(F_EVMOD=0)のとき、すなわち、ENG走行モード中でもなく、また、EV走行モード中でもなく、アシスト走行モード中又は充電走行モード中であるときには、算出されたエンジン回転数NEに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、フィルタ係数kを算出する(ステップ75)。その詳細については後述する。
次いで、図9のステップ23で算出された前輪要求トルクTFWREQに所定の1次遅れのフィルタリング処理を施すことによって、前輪推定トルクTFWESTを算出する(ステップ76)。この前輪推定トルクTFWESTは、前輪WFL、WFRの実際のトルク(以下「前輪実トルク」という)の推定値であり、具体的には、上記ステップ75で算出されたフィルタ係数kを用い、次式(5)によって算出される。
TFWEST=k(TFWREQ−TFWESTZ)+TFWESTZ ……(5)
ここで、TFWESTZは、前輪推定トルクTFWESTの前回値である。なお、エンジン3の始動直後などで、前輪推定トルクの前回値TFWESTZが、今回のループの直前のループで算出されていないときには、前輪推定トルクTFWESTは、前輪要求トルクTFWREQに設定される。
ステップ76に続くステップ77では、図10のステップ45で算出されたエンジン目標トルクTENOBJに所定の1次遅れのフィルタリング処理を施すことによって、エンジン推定トルクTENESTを算出する。このエンジン推定トルクTENESTは、実際のエンジントルクの推定値であり、具体的には、ステップ75で算出されたフィルタ係数kを用い、次式(6)によって算出される。
TENEST=k(TENOBJ−TENESTZ)+TENESTZ ……(6)
ここで、TENESTZは、エンジン推定トルクTENESTの前回値である。なお、エンジン3の始動直後などで、エンジン推定トルクの前回値TENESTZが、今回のループの直前のループで算出されていない場合には、エンジン推定トルクTENESTは、エンジン目標トルクTENOBJに設定される。
ここで、フィルタ係数kについて説明する。フィルタ係数kは、前輪要求トルクTFWREQに対する前輪実トルクの応答遅れや、エンジン目標トルクTENOBJに対する実際のエンジントルクの応答遅れを補償しながら、前輪推定トルクTFWEST及びエンジン推定トルクTENESTを精度良く算出するために、実験などにより予め設定されたものである。また、前記マップでは、フィルタ係数kは、エンジン回転数NEが高いほど、より大きな値に設定されている。以上から、ステップ76で実行されるフィルタリング処理は、前輪要求トルクTFWREQに対する前輪実トルクの応答遅れを補償するための応答遅れ補償演算(以下「前輪応答遅れ補償演算」という)に相当する。また、ステップ77で実行されるフィルタリング処理は、エンジン目標トルクTENOBJに対する実際のエンジントルクの応答遅れを補償するための応答遅れ補償演算(以下「エンジン応答遅れ補償演算」という)に相当する。
前記ステップ77に続くステップ78では、ステップ76で算出された前輪推定トルクTFWESTから、ステップ77で算出されたエンジン推定トルクTENESTを減算することによって、フロントモータ目標トルクTFMOBJを算出する(ステップ78)。次いで、算出されたフロントモータ目標トルクTFMOBJに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、フロントモータ目標電力EFMOBJを算出し(ステップ79)、本処理を終了する。
このステップ79の実行によって、フロントモータ目標電力EFMOBJは、フロントモータ4のトルク(正のトルク又は負のトルク)がフロントモータ目標トルクTFMOBJになるように、算出される。これにより、アシスト走行モード中には、フロントモータ目標電力EFMOBJは、バッテリ7からフロントモータ4に供給される電力の目標値として算出され、それにより、前輪WFL、WFRに伝達されるトルクに対するエンジントルクの不足分が、フロントモータ4によってアシストされる。また、充電走行モード中には、フロントモータ目標電力EFMOBJは、フロントモータ4で発電する電力の目標値として算出され、それにより、前輪WFL、WFRに伝達されるトルクに対するエンジントルクの余剰分が、フロントモータ4で電力に変換されるとともに、変換された電力がバッテリ7に充電される。
アシスト走行モード中及び充電走行モード中に、フロントモータ目標電力EFMOBJの算出に前輪推定トルクTFWEST及びエンジン推定トルクTENESTを用いるのは、次の理由による。すなわち、エンジン3は燃料の燃焼により作動するため、その応答性が低いので、エンジントルクは、エンジン目標トルクTENOBJにすぐには収束しない。これに対し、フロントモータ4は、電磁誘導作用により作動するため、その応答性が高いので、フロントモータ4のトルクは、フロントモータ目標トルクTFMOBJにすぐに収束する。このため、フロントモータ目標電力EFMOBJの算出に前輪推定トルクTFWEST及びエンジン推定トルクTENESTを用いることによって、そのときのエンジントルクの不足分及び余剰分を、フロントモータ4の制御で相殺することができるためである。
図11に戻り、前記ステップ51の答がYES(F_AWDR=1)で、全輪駆動モード中であるときには、全輪駆動モードによりフロントモータ4を制御するために、以下のステップ54〜61を実行する。
まず、ステップ54では、図9のステップ28又は34で算出された電気パス要求電力EEPASSに基づき、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、電気パストルクTEPASSを算出する。これにより、電気パストルクTEPASSは、電気パス要求電力EEPASSをトルクに換算した値に算出される。すなわち、電気パストルクTEPASSは、エンジン3からフロントモータ4及びリヤモータ41、61を介した電気パスによって後輪WRL、WRRに伝達されるトルクの要求値に相当する。
上記ステップ54に続くステップ55では、図9のステップ37で算出されたエンジン目標トルクTENOBJから、ステップ54で算出された電気パストルクTEPASSを減算することによって、演算用中間値TINTERを算出する。次に、図12のステップ75と同様、エンジン回転数NEに応じ、前記マップを検索することによって、フィルタ係数kを算出する(ステップ56)。
次いで、上記ステップ55で算出された演算用中間値TINTERに、図12のステップ77と同じフィルタリング処理を施すことによって、フィルタ後中間値TINFILを算出する(ステップ57)。具体的には、フィルタ後中間値TINFILは、ステップ56で算出されたフィルタ係数kを用い、次式(7)によって算出される。
TINFIL=k(TINTER−TINFILZ)+TINFILZ ……(7)
ここで、TINFILZは、フィルタ後中間値TINFILの前回値である。なお、エンジン3の始動直後などで、フィルタ後中間値の前回値TINFILZが、今回のループの直前のループで算出されていないときには、フィルタ後中間値TINFILは、演算用中間値TINTERに設定される。
次に、ステップ57で算出されたフィルタ後中間値TINFILに、ステップ54で算出された電気パストルクTEPASSを加算することによって、エンジン推定トルクTENESTを算出する(ステップ58)。
以上のように、全輪駆動モード中におけるエンジン推定トルクTENESTの算出方法(ステップ55〜58)は、前述した前輪駆動モード中におけるそれ(図12のステップ75、77)と異なっている。全輪駆動モード中には、上述した算出方法から明らかなように、エンジン目標トルクTENOBJのうちの電気パストルクTEPASS以外の成分に、フィルタリング処理を施すことによって、すなわち、エンジン応答遅れ補償演算を施すことによって、エンジン推定トルクTENESTが算出される。
ステップ58に続くステップ59では、図9のステップ36で算出された前輪要求トルクTFWREQに、図12のステップ76と同じフィルタリング処理を施すことによって、前輪推定トルクTFWESTを算出する。このステップ59での前輪推定トルクTFWESTの算出は、ステップ56で算出されたフィルタ係数kを用い、前記式(5)に従って行われる。これにより、前輪要求トルクTFWREQに、前輪応答遅れ補償演算が施されることによって、前輪推定トルクTFWESTが算出される。
次に、上記ステップ59で算出された前輪推定トルクTFWESTから、ステップ58で算出されたエンジン推定トルクTENESTを減算することによって、フロントモータ目標トルクTFMOBJを算出する(ステップ60)。次いで、図12のステップ79と同様、算出されたフロントモータ目標トルクTFMOBJに基づき、前記マップを検索することによって、フロントモータ目標電力EFMOBJを算出する(ステップ61)。次に、前記ステップ53を実行し、算出されたフロントモータ目標電力EFMOBJに基づく制御信号をPDU6に出力し、本処理を終了する。
また、図13は、全輪駆動モード中で、かつ、バッテリ充電制御の実行中における各種のパラメータの大小関係を、概略的に示している。図13に示すように、全輪要求トルクTAWREQは、前輪要求トルクTFWREQと後輪要求トルクTRWREQの和に等しい(図8のステップ13、図9のステップ36)。
また、フロントモータ要求電力EFMREQは、リヤモータ目標電力ERMOBJ、補機負荷用電力EAC、電気パス損失電力EEP及びバッテリ充電電力ECHの総和と等しい(図9のステップ28、31)。フロントモータ要求トルクTFMREQは、フロントモータ要求電力EFMREQのトルク換算値である(ステップ35)。さらに、エンジン目標トルクTENOBJは、フロントモータ要求トルクTFMREQと前輪要求トルクTFWREQの和に等しい(ステップ37)。
また、図14は、本実施形態による動作例を示しており、この動作例は、動作モードが前輪駆動モードの充電走行モード、全輪駆動モード、及び前輪駆動モードの充電走行モード(時点t3)の順に切り換えられた場合の動作例である。図14において、TADDは、上乗せトルクであり、前輪駆動モード中には、エンジン目標トルクTENOBJと前輪要求トルクTFWREQとの差に相当し、全輪駆動モード中には、フロントモータ要求トルクTFMREQに相当する。また、TENACTは実際のエンジントルクであり、TFWACTは前輪実トルク(前輪WFL、WFRの実際のトルク)、TAWACTは、前輪実トルクと後輪WRL、WRRの実際のトルクの和(以下「全輪実トルク」という)である。さらに、ECHBATは、バッテリ7に充電される電力(以下「バッテリ充電電力」という)であり、ELMTは、バッテリ充電電力ECHBATの上限値である。
前輪駆動モードの充電走行モード中、前輪推定トルクTFWEST及びエンジン推定トルクTENESTが算出される(図12のステップ76、77)。図14に示すように、エンジン推定トルクTENESTは、エンジン目標トルクTENOBJに対して若干、遅れて変化するとともに、実際のエンジントルクTENACTとほぼ等しい状態で推移している。また、前輪推定トルクTFWESTは、前輪要求トルクTFWREQに対して若干、遅れて変化するとともに、前輪実トルクTFWACTとほぼ等しい状態で推移している。以上のように、エンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTFWESTの算出精度が高いことがわかる。
また、前輪駆動モード中には、リヤモータ41、61から後輪WRL、WRRにトルクが伝達されないので、全輪実トルクTAWACTは、前輪実トルクTFWACTと等しい。なお、図14では、便宜上、全輪実トルクTAWACTが、前輪実トルクTFWACTからずらして描かれている。
さらに、フロントモータ目標トルクTFMOBJは、前輪推定トルクTFWESTからエンジン推定トルクTENESTを減算することによって算出される(図12のステップ78)。このことは、全輪駆動モード中についても同様である(図11のステップ60)。このため、図14におけるエンジン推定トルクTENESTと前輪推定トルクTFWESTで囲まれたハッチングの部分の面積は、フロントモータ目標トルクTFMOBJと値0を示す横線で囲まれたハッチングの部分の面積と等しい。この場合、フロントモータ目標トルクTFMOBJは負値に算出され、フロントモータ4では、発電が行われることによって、制動トルク(負のトルク)が発生する。
また、前述したように、フロントモータ目標電力EFMOBJは、フロントモータ4のトルクがフロントモータ目標トルクTFMOBJになるように、算出される(図12のステップ79)ので、フロントモータ目標トルクTFMOBJと同様に推移する。このことは、全輪駆動モード中についても同様に当てはまる(図11のステップ61)。この場合、フロントモータ4では発電が行われるため、フロントモータ目標電力EFMOBJは、フロントモータ目標トルクTFMOBJと同様、負値に算出される。さらに、前輪駆動モードの充電走行モード中には、フロントモータ4で発電された電力がバッテリ7に充電されるため、バッテリ充電電力ECHBATは、フロントモータ目標電力EFMOBJと同様に推移し、上限値ELMTよりも若干、小さくなっている。なお、図14では、バッテリ充電電力ECHBATとフロントモータ目標電力EFMOBJの関係についての理解を容易にするために、バッテリ充電電力ECHBATを表す縦軸を、下側を正として表している。
そして、全輪駆動モードが開始されると(時点t1〜)、この動作例では、バッテリ充電制御が実行され、全輪実トルクTAWACTがほぼ一定の状態で推移するとともに、前輪要求トルクTFWREQが、後輪要求トルクTRWREQの分、減少し、その後、一定の状態で推移している。また、前輪要求トルクTFWREQが減少するのに応じて、前輪推定トルクTFWESTが、遅れをもって減少している。
さらに、リヤモータ目標電力ERMOBJは、値0から増大した後、一定の状態で推移している。上乗せトルクTADDは、フロントモータ要求トルクTFMREQと等しく、フロントモータ要求トルクTFMREQは、リヤモータ目標電力ERMOBJに応じて算出される(図9のステップ28、31、35)。このため、上乗せトルクTADDは、リヤモータ目標電力ERMOBJに応じて増大し、その後、一定の状態で推移している。
以上のように、前輪要求トルクTFWREQが減少するものの、その分、フロントモータ要求トルクTFMREQ(上乗せトルクTADD)が増大するため、エンジン目標トルクTENOBJは一定の状態で推移し、エンジン推定トルクTENESTも、一定の状態で推移している。また、フロントモータ目標トルクTFMOBJの絶対値(=|TFWEST−TENEST|)は、前輪推定トルクTFWESTが減少した分、増大している。
さらに、全輪駆動モード中、エンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTFWESTはそれぞれ、実際のエンジントルクTENACT及び前輪実トルクTFWACTとほぼ等しい状態で推移している。
また、フロントモータ目標電力EFMOBJが、フロントモータ目標トルクTFMOBJに応じて増大しているものの、その分の電力が、リヤモータ41、61に供給されるため、バッテリ充電電力ECHBATは増大せず、上限値ELMTよりも低く、かつ一定の状態で推移している。
そして、全輪駆動モードの終了直前になると(時点t2)、リヤモータ目標電力ERMOBJが値0に向かってステップ状に減少し、それに応じて、上乗せトルクTADD(=前輪要求トルクTFMREQ)が減少する。この動作例では、全輪駆動モードの終了直前に、アクセル開度APが非常に小さくなったため(図示せず)、それに応じて、エンジン目標トルクTENOBJ及び前輪要求トルクTFWREQがステップ状に急減している。さらに、両パラメータTENOBJ及びTFWREQが減少するのに応じて、エンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTFWESTもそれぞれ減少している。
この場合、前述したエンジン推定トルクTENESTの算出方法から明らかなように、エンジン目標トルクTENOBJのうちの電気パストルクTEPASS以外の成分に、フィルタリング処理が施される。この電気パストルクTEPASSは、リヤモータ目標電力ERMOBJに基づいて算出される。以上により、エンジン推定トルクTENESTは、リヤモータ目標電力ERMOBJが減少するのに応じて、電気パストルクTEPASSの分、ステップ状に減少している。それに応じて、フロントモータ目標トルクTFMOBJ及びフロントモータ目標電力EFMOBJの絶対値も、ステップ状に減少している。
以上のように、全輪駆動モードの終了直前、リヤモータ目標電力ERMOBJが減少するのに応じて、フロントモータ目標電力EFMOBJの絶対値が減少するので、バッテリ充電電力ECHBATは増大せずに、上限値ELMTよりも小さい状態で推移している。すなわち、本実施形態によれば、リヤモータ目標電力ERMOBJの変化に遅れないように、フロントモータ4を適切に制御でき、ひいては、バッテリ7が必要以上に充電されるのを防止することができる。
また、前述したように、エンジン3の応答性は、フロントモータ4及びリヤモータ41、61の応答性よりも低い。このため、図14に示すように、実際のエンジントルクTENACTは、エンジン目標トルクTENOBJに対して遅れをもって減少するのに対し、図示しないものの、発電に伴って発生したフロントモータ4の制動トルクは、フロントモータ目標トルクTFMOBJに応じてすぐに減少する。以上により、前輪実トルクTFWACTは、図14に示すようにステップ状に増大する。一方、図示しないものの、リヤモータ41、61の出力トルク(第1及び第2リヤモータ力行トルクTM1、TM2)は、リヤモータ目標電力ERMOBJに応じてすぐに減少する。以上により、図14に示すように、全輪実トルクTAWACT(前輪実トルクTFWACTと後輪WRL、WRRの実際のトルクとの和)は、増大側に変動しない。
また、全輪駆動モードが終了されるとともに前輪駆動モードの充電走行モードが再開された以降(時点t3〜)では、エンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTWFESTはそれぞれ、エンジン目標トルクTENOBJ及び前輪要求トルクTFWREQに対して遅れをもって減少している。また、上乗せトルクTADD、フロントモータ目標トルクTFMOBJ、フロントモータ目標電力EFMOBJ及びバッテリ充電電力ECHBATは、一定の状態で推移している。
また、図15に示す比較例は、全輪駆動モード中、前輪駆動モードの場合と同様に、エンジン目標トルクTENOBJをフィルタリング処理することによって、エンジン推定トルクTENESTを算出するとともに、算出されたエンジン推定トルクTENESTに応じて、フロントモータ目標トルクTFMOBJを算出した場合の例である。
図15に示すように、この比較例では、前輪駆動モードの充電走行モードから、全輪駆動モードに移行し(時点t4)、全輪駆動モードが終了する直前(時点t5)までは、エンジン推定トルクTENESTなどの各種のパラメータは、上述した実施形態の動作例の場合と同様に推移する。
しかし、比較例では、本実施形態と異なり、エンジン目標トルクTENOBJをそのままフィルタリング処理(エンジン応答遅れ補償演算)することによって、エンジン推定トルクTENESTが算出される。これにより、全輪駆動モードの終了直前に、エンジン推定トルクTENESTは、リヤモータ目標電力ERMOBJが減少するのに応じてステップ状には減少せず、遅れをもって減少している。それに応じて、フロントモータ目標トルクTFMOBJ及びフロントモータ目標電力EFMOBJの絶対値は、緩やかに減少し、リヤモータ目標電力ERMOBJのようにステップ状には減少しない。その結果、バッテリ充電電力ECHBATは、ステップ状に一時的に増大し、上限値ELMTを大きく上回った後、緩やかに減少する。
また、全輪駆動モードが終了されるとともに前輪駆動モードの充電走行モードが再開された以降(時点t6〜)では、フロントモータ目標トルクTFMOBJ及びフロントモータ目標電力EFMOBJの絶対値は、エンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTFWESTに応じて緩やかに減少し、それに応じて、バッテリ充電電力ECHBATが緩やかに減少する。そして、前輪駆動モードが再開されてからある程度、時間が経過すると、バッテリ充電電力ECHBATは、上限値ELMTを若干、下回り、その後、上限値ELMTを下回った状態で推移する。
以上のように、この比較例では、全輪駆動モードの終了直前からある程度の時間が経過するまでの間において、バッテリ充電電力ECHBATが上限値ELMTを超えてしまい、バッテリ7が必要以上に充電されることによって、その寿命が低下するおそれがある。
これに対して、本実施形態によれば、図14を参照して説明したように、バッテリ充電電力ECHBATは上限値ELMTを超えず、バッテリ7が必要以上に充電されることがない。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における左右の前輪WFL、WFRが、本発明における第1車輪に相当し、本実施形態における左右の後輪WRL、WRRが、本発明における第2車輪に相当する。また、本実施形態におけるエンジン3及びフロントモータ4が、本発明における熱機関及び第1回転電機にそれぞれ相当し、本実施形態における第1及び第2リヤモータ41、61が、本発明における第2回転電機に相当するとともに、本実施形態におけるバッテリ7が、本発明における蓄電器に相当する。
さらに、本実施形態におけるECU2が、本発明における熱機関実動力算出手段、車輪実動力算出手段、第1回転電機制御手段、車輪動力要求値算出手段、電力要求値算出手段、及び熱機関制御手段に相当するとともに、本実施形態におけるPDU6が、本発明における第1回転電機制御手段に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、前輪WFL、WFRに機械的に連結されたエンジン3に、フロントモータ4が機械的に連結されるとともに、後輪WRL、WRRに、リヤモータ41、61が機械的に連結されており、フロントモータ4及びリヤモータ41、61に、バッテリ7が電気的に接続されている。また、実際のエンジントルクの推定値であるエンジン推定トルクTENESTが算出される(図11のステップ58、図12のステップ77)とともに、前輪実トルクの推定値である前輪推定トルクTFWESTが算出される(図11のステップ59、図12のステップ76)。
さらに、算出されたエンジン推定トルクTENEST及び前輪推定トルクTFWESTに応じて、フロントモータ4が制御される(図11のステップ60、61、図12のステップ78、79、図11のステップ53)。これにより、前述した従来の制御装置と異なり、実際のエンジントルクの推定値(エンジン推定トルクTENEST)に加え、前輪実トルクの推定値(前輪推定トルクTFWEST)に応じて、フロントモータ4の動力を適切に制御でき、それにより、ハイブリッド車両Vのドライバビリティを向上させることができる。
また、全輪駆動モード中、エンジン動力の一部を用いてフロントモータ4で発電した電力をリヤモータ41、61に供給するために、フロントモータ4の発電が制御される(図9のステップ28、31、32、34、35、37、図11のステップ55〜61、53)。さらに、エンジン3から前輪WFL、WFRに伝達されるトルクの要求値である前輪要求トルクTFWREQが算出される(図9のステップ36)とともに、フロントモータ4からリヤモータ41、61に供給される電力の要求値である電気パス要求電力EEPASSが算出される(図9のステップ28、34)。
さらに、算出された前輪要求トルクTFWREQ及び電気パス要求電力EEPASSに応じて、エンジン目標トルクTENOBJが算出される(図9のステップ31、32、35、37)とともに、算出されたエンジン目標トルクTENOBJに基づいて、エンジン3が制御される(ステップ25)。これにより、エンジントルクを、前輪要求トルクTFWREQ及び電気パス要求電力EEPASSに応じて適切に制御することができる。
また、エンジン推定トルクTENESTは、エンジン目標トルクTENOBJのうちの電気パストルクTEPASS以外の成分にフィルタリング処理を施すことによって、算出される(図11のステップ55〜58)。このように、エンジン推定トルクTENESTの算出を、エンジン目標トルクTENOBJを用いて行うので、エンジン推定トルクTENESTを適切に算出することができる。また、電気パストルクTEPASSは、電気パス要求電力EEPASSに基づいて算出され(ステップ54)、フィルタリング処理は、エンジン応答遅れ補償演算(エンジン目標トルクTENOBJに対する実際のエンジントルクの応答遅れを補償するための応答遅れ補償演算)に相当する。
以上から明らかなように、エンジン推定トルクTENESTは、前輪要求トルクTFWREQ及び電気パス要求電力EEPASSに応じて算出され、当該算出にあたり、前輪要求トルクTFWREQに応じた演算には、エンジン応答遅れ補償演算を含む演算方法が用いられ、電気パス要求電力EEPASSに応じた演算には、エンジン応答遅れ補償演算を含む演算方法が用いられない。すなわち、本実施形態では、図9のステップ37及び図11のステップ55〜57によるフィルタ後中間値TINFILを算出するための演算が、本発明における所定の第1演算に相当し、ステップ54による電気パストルクTEPASSを算出するための演算が、本発明における所定の第2演算に相当する。以上により、本実施形態によれば、エンジン推定トルクTENESTを、エンジントルクの応答遅れを補償しながら精度良く算出することができる。それに加え、図14を参照して説明したように、リヤモータ目標電力ERMOBJすなわち電気パス要求電力EEPASSの変化に遅れないように、フロントモータ4を適切に制御できるので、フロントモータ4及びリヤモータ41、61の間での電力の授受を適切に制御でき、ひいては、バッテリ7が必要以上に充電されるのを防止することができる。
また、エンジン目標トルクTENOBJの算出用のパラメータである前輪要求トルクTFWREQに応じて、前輪推定トルクTFWESTを適切に算出することができる(図11のステップ59)。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明における蓄電器は、バッテリ7であるが、キャパシタでもよい。また、実施形態では、第1及び第2リヤモータ41、61をそれぞれ、第1及び第2遊星歯車装置51、71を介して、左右の後輪WRL、WRRに連結しているが、両者51、71を介さずに、左右の後輪WRL、WRRに直結してもよい。さらに、実施形態では、エンジン3及びフロントモータ4を前輪WFL、WFRに、デュアルクラッチトランスミッションで構成された変速装置5を介して連結しているが、他の適当な変速装置を介して連結してもよい。
また、実施形態では、本発明における熱機関及び第1回転電機に相当するエンジン3及びフロントモータ4を前輪WFL、WFRに連結するとともに、本発明における第2回転電機に相当するリヤモータ41、61を後輪WRL、WRRに連結しているが、これとは逆に、熱機関及び第1回転電機を後輪に連結するとともに、第2回転電機を前輪に連結してもよい。さらに、実施形態では、本発明における熱機関及び第1回転電機に相当するエンジン3及びフロントモータ4が連結された前輪WFL、WFRとは別個の後輪WRL、WRRに、本発明における第2回転電機に相当するリヤモータ41、61を連結しているが、熱機関、第1及び第2回転電機をハイブリッド車両の同じ車輪に連結してもよく、この場合、第2回転電機などの連結先は、ハイブリッド車両の前輪及び後輪のいずれでもよい。また、実施形態では、本発明における第2回転電機として、第1及び第2リヤモータ41、61から成る2つの回転電機を用いているが、単一の回転電機を用いてもよい。
さらに、実施形態は、フロントモータ4、リヤモータ41、61及びバッテリ7に補機8が接続されたハイブリッド車両Vに、本発明を適用した例であるが、本発明は、補機が接続されていないタイプのハイブリッド車両にも、適用可能である。この場合、前述した図9に示す処理において、補機に関連するパラメータ(EAC)は削除される。
また、実施形態では、全輪駆動モード中に、前輪要求トルクTFWREQ及び電気パス要求電力EEPASSに応じて、エンジン目標トルクTENOBJを一旦、算出し、算出されたエンジン目標トルクTENOBJを用いて、エンジン推定トルクTENESTを算出しているが、エンジン目標トルクTENOBJを用いずに、前輪要求トルクTFWREQ及び電気パス要求電力EEPASSに応じて、エンジン推定トルクTENESTを算出してもよい。
この場合、エンジン推定トルクTENESTは、例えば次のようにして算出される。すなわち、フロントモータ要求トルクTFMREQと前輪要求トルクTFWREQの和から電気パストルクTEPASSを減算した値(TFMREQ+TFWREQ−TEPASS)に、フィルタリング処理(エンジン応答遅れ補償演算)を施し、それにより得られた値に、電気パストルクTEPASSを加算することによって、エンジン推定トルクTENESTが算出される。あるいは、補機負荷用電力EACをトルクに換算した値と前輪要求トルクTFWREQとの和に、フィルタリング処理を施し、それにより得られた値に、電気パストルクTEPASSを加算することによって、エンジン推定トルクTENESTが算出される。なお、電気パス要求電力EEPASSの算出にあたり、電気パス損失電力EEPを省略してもよい。
さらに、実施形態では、電気パストルクTEPASSにフィルタリング処理を施さずに、エンジン推定トルクTENESTを算出しているが、実施形態によるフィルタリング処理よりも熱機関の応答遅れの補償度合いが低い(1次遅れの度合いが低い)フィルタリング処理を、電気パストルクに施してもよい。これにより、第1回転電機の制御を大きく遅らせることなく、エンジン推定トルクの算出精度を高めることができる。また、実施形態では、前輪要求トルクTFWREQなどの各種のパラメータを、トルクとして算出しているが、トルクと相関のある動力として算出してもよい。
さらに、実施形態では、本発明における熱機関は、ガソリンエンジンであるエンジン3であるが、燃料の燃焼により作動する他の適当な熱機関、例えば、ディーゼルエンジンや、LPGエンジンなどでもよい。また、実施形態では、本発明における第1及び第2回転電機にそれぞれ相当するフロントモータ4及びリヤモータ41、61は、三相交流モータであるが、ブラシレスDCモータでもよい。さらに、実施形態では、ハイブリッド車両Vの前輪WFL、WFRの数及び後輪WRL、WRRの数は、それぞれ2つであるが、任意である。また、以上の実施形態のバリエーションを適宜、組み合わせてもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。