以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、例えばエンジンと手動式変速機(マニュアルトランスミッション)とを搭載した車両に具体化している。また、本実施形態は、4サイクル4気筒エンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものとしている。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御、アイドリングストップ制御等を実施する。
図1に手動式変速機を中心とした車両制御システムの概略図を示す。エンジン10の出力軸(クランク軸11)にはクラッチ装置12を介して変速機13が接続されている。エンジン10は、火花点火式のガソリンエンジンであって、気筒ごとに燃料噴射手段としてのインジェクタ14と点火手段としての点火装置15(イグナイタ等)とを備えている。また、エンジン10には、エンジン始動時において当該エンジン10に初期回転(クランキング回転)を付与する始動装置としてのスタータ装置40が設けられている。なお、エンジン10はガソリンエンジンに限定されず、ディーゼルエンジンであってもよい。
クラッチ装置12は、クランク軸11に接続されたエンジン10側の円板12a(フライホイール等)と、トランスミッション入力シャフト21に接続された変速機13側の円板12b(クラッチディスク等)とを備えており、ドライバによるクラッチペダル17の踏込み操作又は踏込みの解除操作により、両円板12a,12b同士が接触及び離間のいずれかの状態に切り替えられるようになっている。すなわち、クラッチペダル17の踏込み操作に応じてクラッチ装置12の断続が行われる。詳しくは、ドライバによりクラッチペダル17が踏み込まれると、両円板12a,12bが相互に離れてエンジン10から変速機13への動力が遮断され、その踏込み操作が解除されると、両円板12a,12bが相互に接触してエンジン10から変速機13に動力が伝達されるようになっている。なお、クラッチ装置12により、ドライバによる操作に応じて動力の遮断及び伝達を行うクラッチ手段が構成されている。
変速機13は、ドライバによるシフト装置22の手動操作により変速比が切り替えられるマニュアルトランスミッションであり、トランスミッション入力シャフト21の回転をトランスミッション出力軸23(出力部)の回転に変換するものである。
図2に変速機13の概略図を示す。変速機13は、トランスミッション入力シャフト21を中心軸として回転するメインドライブギア131と、そのメインドライブギア131と噛み合わされ、カウンターシャフト132を中心軸として中心するメインドリブンギア133を備える。また、変速機13は、カウンターシャフト132を中心軸として回転する複数のドライブギア134を備え、そのドライブギア134と噛み合わされ、トランスミッション出力軸23を中心軸として回転する複数のドリブンギア135を備える。ドリブンギア135はトランスミッション出力軸23上で空転するようになっている。
ドリブンギア135の側方に設けられたスリーブ136が複数のドリブンギア135のいずれか一つとトランスミッション出力軸23とを固定することで、トランスミッション入力シャフト21の回転がトランスミッション出力軸23の回転に変換される。シフト位置がニュートラルの状態においては、メインドライブギア131、カウンターシャフト132,メインドリブンギア133及びドライブギア134が空転することになる。ここで、メインドライブギア131、カウンターシャフト132、メインドリブンギア133、ドライブギア134、ドリブンギア135は、トランスミッション入力シャフト21が回転する場合にそれに追従して各々回転する部材であり、これらを纏めて「入力ギア」と言う。
図1の説明に戻り、トランスミッション出力軸23には、ディファレンシャルギア25やドライブシャフト26等を介して車輪(駆動輪)27が接続されている。また、車輪27には、図示しない油圧回路等により駆動され、各車輪27に対して制動力を付与するブレーキアクチュエータ28が設けられている。
ECU30は、周知のマイクロコンピュータ等を備えてなる電子制御装置(制御手段)であり、本システムに設けられている各種センサの検出結果等に基づいて、インジェクタ14による燃料噴射量制御、点火装置15による点火制御など各種エンジン制御や、スタータ装置40の駆動制御、ブレーキアクチュエータ28による制動制御を実施する。センサ類について詳しくは、ECU30には、アクセル操作部材としてのアクセルペダル(図示略)の踏込み操作量を検出するアクセルセンサ31、クラッチペダル17の踏込み操作を検出するクラッチセンサ32、ブレーキペダル(図示しない)の踏込み操作量を検出するブレーキセンサ33、シフト装置22のシフト位置を検出するシフト位置センサ34、車速を検出する車速センサ35等が接続されており、これら各センサの検出信号がECU30に逐次入力されるようになっている。その他、本システムには回転速度センサや負荷センサ(エアフロメータ、吸気圧センサ)等も設けられているが、図示は省略している。
図3にアイドリングストップ制御に係る車両制御システムの概略図を示す。スタータ装置40は、ピニオン押出し式のエンジン始動装置であり、ピニオン41を回転駆動するモータ42と、ピニオン41をその軸線方向に押出し可能な電気駆動式のアクチュエータとしての電磁アクチュエータ43と、を備えている。モータ42は、モータ通電用リレー45を介してバッテリ46に接続されており、モータ通電用リレー45のスイッチ部が閉状態となることにより、バッテリ46からモータ42への給電が可能になっている。また、モータ通電用リレー45のコイルには、電気信号により開閉可能なモータ駆動リレー44が接続されている。このモータ駆動リレー44への閉信号によりモータ通電用リレー45のスイッチ部が閉状態となると、バッテリ46からモータ42への給電が行われ、モータ42が回転駆動する。
電磁アクチュエータ43は、ピニオン41にレバー等を介して駆動力を伝達するプランジャ47と、通電に伴いプランジャ47を軸線方向に移動させるコイル48と、を備えており、ピニオン駆動リレー49を介してバッテリ46に接続されている。ピニオン駆動リレー49は、モータ駆動リレー44に対する電気信号とは別個の電気信号により開閉可能となっている。これにより、モータ42によるピニオン41の回転駆動と、電磁アクチュエータ43によるピニオン41の押出しとを独立して制御可能になっている。
ピニオン41は、エンジン10の出力軸(クランク軸11)に連結されたリングギア18に対して、ピニオン41の押出しに伴い互いの歯部が噛み合い可能な位置に配置されている。詳しくは、電磁アクチュエータ43の非通電時では、ピニオン41はリングギア18に対して非接触の状態になっている。この非接触の状態においてピニオン駆動リレー49がオンされる(閉状態にされる)と、バッテリ46から電磁アクチュエータ43への給電によりプランジャ47が軸線方向に吸引されるとともに、ピニオン41がリングギア18に向かって押し出される。このとき、リングギア18の外周縁に設けられた歯部と歯部との間に、ピニオン41の外周縁に設けられた歯部が嵌り込むことにより、ピニオン41の歯部とリングギア18の歯部との噛み合いが生じる。また、この噛み合いが生じている状態でモータ42へ通電されることにより、ピニオン41によってリングギア18が回転され、エンジン10に初期回転が付与される。
本システムには、エンジン10の出力軸の回転に伴い所定クランク角毎に矩形状の信号を出力する回転センサとしてのクランク角センサ53が設けられている。クランク角センサ53は、クランク軸11と一体に回転するパルサ(回転円板)54と、パルサ54の外周部近傍に設けられた電磁ピックアップ部55と、を備えている。パルサ54の外周部には、所定の回転角度間隔(本実施形態では30°CA間隔)で突起56が設けられているとともに、その外周部の一部において複数の突起(例えば2歯分の突起)を欠落させた欠歯部57が設けられている。クランク軸11の回転に伴いパルサ54が回転すると、パルサ54の突起56が電磁ピックアップ部55に近付く毎に(本実施形態では基本的には30°CA毎に)電磁ピックアップ部55から検出信号(クランクパルス信号)が出力される。このクランクパルス信号のパルス幅に基づきエンジン回転速度や角速度が算出されるとともに、クランクパルス信号をカウントして回転角度位置(クランク角位置)が算出される。なお、クランク角センサ53の検出信号に基づいて算出したエンジン回転速度が回転検出値に相当する。
ECU30は、クランク角センサ53等の各種センサの検出結果等を入力し、それらに基づいてアイドリングストップ制御及びスタータ装置40の駆動制御を実施する。
次に、上記のシステム構成において実施されるアイドリングストップ制御について詳述する。アイドリングストップ制御は、概略として、エンジン10のアイドル運転時に所定の停止条件が成立すると当該エンジン10を自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジン10を再始動させるものである。エンジン停止条件としては、例えば、変速機13のシフトポジションがニュートラルに操作されたこと、及び、そのニュートラル操作の後にクラッチペダル17の踏込み操作が解除されたことが少なくとも含まれる。自動停止手段としてのECU30は、クラッチセンサ32及びシフト位置センサ34から入力される検出信号に基づいてエンジン停止条件が成立したか否かを判定する。なお、エンジン停止条件としては、車速が所定値以下まで低下したこと等を含んでいてもよい。
また、エンジン再始動条件としては、クラッチペダル17の踏込み操作が含まれ、エンジン停止状態において、ドライバがクラッチペダル17を踏み込むと、エンジン再始動条件が成立する。再始動手段としてのECU30は、クラッチセンサ32から入力される検出信号に基づいてエンジン停止条件が成立したか否かを判定する。
本システムでは、エンジン自動停止に伴いエンジン10の回転降下が生じる所定期間(回転降下期間)内に再始動条件が成立した場合、エンジン10の回転が完全に停止するのを待たずに、エンジン10を再始動することを可能にしている。エンジン回転速度が高い回転領域でピニオン41の噛み合わせを行うと、噛み合い音が大きくなったりギアの磨耗が促進させたりすることが懸念される。このとき、再始動要求の発生後においてできるだけ早い再始動を行うべく、回転予測手段としてのECU30は、エンジン回転速度の予測を行いその予測値が所定値となるタイミングでエンジン10を再始動する構成としている。
具体的には、自動停止条件の成立に伴いエンジン10の燃焼を停止し、その燃焼停止に伴う回転降下期間中に再始動条件が成立した場合、まず、エンジン回転速度に基づき決定されるタイミング(例えば、100rpm以下の低回転領域内)でピニオン駆動リレー49にオン信号を出力する。これにより、コイル48に通電され、ピニオン41がリングギア18に向かって押し出される。また、ピニオン41の押出しタイミングから所定の移動所要時間Tpが経過した後、モータ駆動リレー44にオン信号を出力する。ここで、移動所要時間Tpは、ピニオン41の押出し開始から、ピニオン41がリングギア18との接触位置まで移動してリングギア18に噛み合わされるのに要する時間に設定されている。これにより、エンジン10の回転が完全に停止するのを待たずに、ピニオン41がリングギア18に噛み合わされた状態で回転され、エンジン10のクランキングが実施される。
ここで、ピニオン41とリングギア18との噛み合いは、両者の噛み合い音やギアの摩耗を最小限に抑えるべく、ピニオン41に対するリングギア18の相対回転速度が所定の許容範囲(例えば0±100rpm)となるタイミングで実施することが好ましい。ところが、ピニオン41とリングギア18とは非接触の状態で配置されており、ピニオン41を押し出してリングギア18に噛み合わさせるには所定時間がかかる。そのため、再始動要求のタイミングでピニオン41の押出しを実施した場合、再始動要求のタイミングでは、ピニオン41とリングギア18との噛み合いを許容する許容範囲内にエンジン回転速度があっても、実際の噛み合い時には許容範囲外となることがある。
そこで、ECU30は、エンジン回転降下期間において、現時点よりも後のエンジン回転速度を予測しており、その予測データを用いることにより、ピニオン41の押出しタイミング及びモータ42の駆動タイミングを決定している。
本実施形態における回転予測方法について、図4を用いて以下説明する。本実施形態では、燃焼室の容積(シリンダ容積)の増減変化に伴うエンジン回転速度の増減1周期分を回転変動期間とし、前の回転変動期間のエンジントルク(ロスエネルギ)に基づいてその後の回転変動期間のエンジン回転速度を予測することによりエンジン回転速度を予測する。
より詳細には、回転予測手段が、回転降下期間においてエンジントルクは、ピストン位置で決まる同じ回転角度位置では一定であると仮定する。そして、シリンダ容積の増減変化に伴う瞬時回転速度の増減1周期分(本実施形態では180°CA)を回転変動期間として、現時点よりも前の回転変動期間において時系列で前後する複数のエンジン回転速度に基づいて、その後の回転変動期間のエンジン回転速度(瞬時回転速度)を予測するものである。なお、瞬時回転速度は、クランク軸11の所定回転角度の回転に要した時間から算出されるエンジン回転速度であり、クランクパルス信号の出力毎に回転速度算出手段としてのECU30によって算出されるエンジン回転速度である。この予測方法では、次のクランクパルス信号が出力される回転角度位置、すなわち次の演算タイミングの瞬時回転速度の予測値を算出するとともに、その回転予測値に基づいて、更にその次の演算タイミングの瞬時回転速度の予測値を算出するといった処理を複数回繰り返す。これにより、エンジン回転降下期間内でのエンジン回転軌道の予測が可能となる。
図4は、エンジン回転速度の予測値の算出方法を説明するための図である。なお、図4では、各気筒の上死点(TDC)から次のTDCまでの180°CA区間(回転変動期間)のうち、今回の回転変動期間をS[j]、前回の回転変動期間をS[j-1]、次回の回転変動期間をS[j+1]と示している。
ECU30は、エンジン自動停止要求後の回転降下期間において、クランク角センサ53からクランクパルス信号が入力される毎に(本実施形態では30°CA毎に)、前回のパルスの立ち上がりタイミングから今回のパルスの立ち上がりタイミングまでの時間である時間幅Δt[sec]に基づいて瞬時回転速度Ne(i)を算出し、これを都度記憶する。また、TDCから所定回転角度θ(クランク分解能)ごとの瞬時回転速度Ne(θ,i-1)の変化に基づいて、回転変動期間における回転角度位置間のエンジントルクTe(θn-θn+1)を算出する。例えば前回の回転変動期間(前回の180°CA区間)S[j-1]における回転角度位置間のエンジントルクTe(j-1)(θn-θn+1)は、下記式(1)により表される。
Te(j-1)(θn-θn+1)=−J・((ω(j-1)(θn+1))2 −(ω(j-1)(θn))2)/2 …(1)
ω(θn)[rad/sec]=Ne(θn)×360/60
なお、式(1)中、Jはエンジン10のイナーシャ(慣性モーメント)である。
図4において、現在のクランク角度位置がTDC後30°CAであり、それ以降のエンジン回転速度を予測する場合、まず、クランクパルス信号に基づいて、現時点の瞬時回転速度Ne(30,i)を算出する。また、その算出した瞬時回転速度Ne(30,i)と、直前のクランク角度位置の瞬時回転速度Ne(0,i)とを用いて、上記式(1)によりエンジントルクTe(0-30,i)を算出し、これを記憶する。
次いで、前回の180°CA区間S[j-1]において、TDCを基準とする回転角度が予測点と同じになるクランク角度位置と、その前回のクランク角度位置との間のエンジントルクの履歴値、ここではエンジントルクTe(j-1)(30-60)と、現在の瞬時回転速度Ne(30,i)とを用いて、次のパルスの立ち上がりタイミングのエンジン回転速度の予測値として、クランク角度位置60°CAの予測値Ne(60,i)を演算する。併せて、クランク角度位置30°CAから60°CAに到達するまでの予測到達時間t(j)(30-60)を演算する。さらに、前回の180°CA区間S[j-1]のクランク角度位置60°CAから90°CAまでのエンジントルクTe(j-1)(60-90)と、エンジン回転速度の予測値Ne(60,i)とを用いて、今回の180°CA区間S[j]においてTDC後の回転角度90°CAのクランク角度位置の予測値Ne(90,i)を演算するとともに、クランク角度位置60°CAから90°CAに到達するまでの予測到達時間t(j)(60-90)を演算する。この処理を何回も繰り返すことで、エンジン10の回転降下期間におけるエンジン回転速度(瞬時回転速度)を予測するとともに、その予測データを例えば線形補間することにより、回転降下期間におけるエンジン回転速度の軌道を予測する。なお、この予測方法に基づき算出した瞬時回転速度の予測値が図4中の黒丸で示すものであり、エンジン10の予測回転軌道が図中の破線で示すものである。
この予測演算は、クランクパルス信号の入力毎(30°CA毎)に、次のクランクパルス信号が入力されるまでの時間を利用して実行され、その都度、回転軌道の予測データが更新される。このとき、次のクランクパルス信号入力までの期間では、エンジン10の回転が停止するまでのエンジン回転降下軌道を予測してもよいし、あるいは、エンジン回転が停止する前の途中の時点で予測演算を打ち切ってもよい。なお、エンジン回転速度(瞬時回転速度)を角速度に換算して予測演算を行うようにしてもよい。
ここで、従来技術では、式(1)で用いるクランク軸11に作用するイナーシャJを、回転降下期間内において変化しない値として取り扱っている。しかしながら、手動変速機を備える車両では、クラッチペダル17が踏み込まれると、エンジン10から変速機13への動力が遮断され、その踏込み操作が解除されると、エンジン10から変速機13に動力が伝達されるようになっている。この踏込み操作によって、クランク軸11と一体として回転する部材が変化することで、クランク軸11に作用するイナーシャが変化する。
具体的には、エンジン10から変速機13への動力が遮断されていると、エンジン10のイナーシャJは、エンジン内部のピストン(図示略)、ピストンとクランク軸11とを連結するコンロッド(図示略)、クランク軸11及びフライホイール12aの各イナーシャの合計値、つまりエンジン10単体のイナーシャJeとなる。一方、変速機13のシフトポジションがニュートラルの状態でエンジン10から変速機13への動力が伝達されていると、図1及び図2に示すようにエンジン10とともに、クラッチホイール12b、トランスミッション入力シャフト21及び変速機13の入力ギアが回転する。このとき、エンジン10のイナーシャJは、入力ギアのイナーシャJgとエンジン10単体のイナーシャJeとを合算した値となる。
つまり、エンジン10と変速機13とを接続するクラッチ装置12が伝達状態から遮断状態へと変化すると、エンジン10のイナーシャJは入力ギアのイナーシャJg分減少する。また、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態へと変化するとエンジン10のイナーシャJは入力ギアのイナーシャJg分増加する。これら、エンジン10単体のイナーシャJe及び入力ギアのイナーシャJgは、予め実験により測定され、ECU30に記憶されている。
エンジン回転速度及びトランスミッション入力ギアの回転速度(ギア回転速度)の時間変化を図5にタイミングチャートとして示す。なお、図5におけるタイミングチャートにおいては、シリンダ容積の増減変化に伴うエンジン回転速度の増減を省略している。
時刻T1において、自動停止条件が成立し、エンジン10を停止させる処理が実行される。具体的には、点火装置15による燃料噴射および点火プラグによる点火が停止され、フリクションロス及びポンピングロスなどのエネルギロスに伴ってエンジン10の回転速度が降下していく。
時刻T2において、クラッチペダル17が踏み込まれて、クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態へと変化する。この場合、クランク軸11に作用するフリクションロス及びポンピングロスなどのエネルギロスがほぼ一定のままで、クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態へと変化しクランク軸11に作用するイナーシャJが入力ギアのイナーシャJg分だけ減少することとなる。このため、クラッチ装置12が遮断状態とされている間、エンジン回転速度は急峻に減少していく。
また、クラッチ装置12が伝達状態の場合、トランスミッション入力シャフト21(入力ギア)はクランク軸11と一体的に回転しているためギア回転速度とエンジン回転速度と等しい値となる。時刻T2において、クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態へと変化すると、入力ギアはクランク軸11と切り離された状態で回転するようになり、ギア回転速度とエンジン回転速度とは異なる値となる。入力ギアに作用するエネルギロスは主としてギアの回転に伴うフリクションロスであり、このエネルギロスはエンジン10のエネルギロスに比べて極めて小さな値である。このため、ギア回転速度は、遮断状態へと変化する直前の回転速度(時刻T2における回転速度)から、エンジン回転速度の減少に比べて緩やかに減少していく。ここで、クラッチ遮断中におけるギア回転速度の減少量は、遮断状態の継続時間に応じたものとなる。
時刻T3において、クラッチペダル17の踏込みが解除されて、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態へと変化する。このとき、クラッチ装置12が伝達状態とされる直前において、エンジン10におけるロスエネルギに相当する分エンジン回転速度よりギア回転速度Ngが速いため、クラッチ装置12が伝達状態とされる前後においてエンジン回転速度が非連続的に上昇する。
時刻T3以降において、クラッチ装置12が伝達状態とされるため、イナーシャJが増加することでエンジン回転速度の減少速度が遅くなり期間T1〜T2における減少速度と略等しくなる。
上述したように、時刻T2及び時刻T3において、エンジン回転速度の減少速度が変化する。このため、エンジントルクTeの履歴値を用いたエンジン回転速度の予測(第1予測手段による予測)が困難になることが懸念される。特に、時刻T3においては、エンジン回転速度の降下期間中にエンジン回転速度が非連続的に上昇するため、エンジン回転速度の予測値(第1回転予測値Ne1)が実際値と大きくずれると考えられる。
ここで、クラッチ装置12が伝達状態とされた直後のエンジン回転速度は、エンジン10単体のイナーシャJe及び変速機13のイナーシャJg、クラッチ装置12が伝達状態とされる直前のエンジン回転速度Ne及びギア回転速度Ngに応じた値となる。具体的には、クランク軸11に作用する回転エネルギと入力ギアに作用する回転エネルギとの和を、各イナーシャの和(Je+Jg)で割り、その割った値の平方根を算出することで、クラッチ装置12が伝達状態とされた直後のエンジン回転速度(Ne’)を算出することができる。
Ne’=√((Je×Ne2+Jg×Ng2)/(Je+Jg))… (2)
そこで、本実施形態の第2予測手段としてのECU30は、回転降下期間中において、クラッチ装置12が遮断状態に移行し、その後伝達状態に戻される場合に、エンジン回転速度の推定値Ne’を上記の式(2)を用いて算出する。そして、その算出したエンジン回転速度の推定値Ne’を用いて第2回転予測値Ne2を算出し、その第2回転予測値Ne2を用いることでエンジン回転速度の予測値の精度を向上させることができる。ここで、第1回転予測値Ne1と、回転速度の推定値Ne’と、その推定値を用いて算出された第2回転予測値Ne2とを合わせて「回転予測値」と言う。本実施形態では、これら第1回転予測値Ne1、回転速度の推定値Ne’、及び、第2回転予測値Ne2のいずれかを用いて、ピニオン41の押出しタイミング及びモータ42の駆動タイミングを決定している。
次に、本実施形態におけるエンジントルク算出処理を図6に示す。当該エンジントルク算出処理は、ECU30が所定時間毎に実施する。
ステップS11において、アイドリングストップ制御のエンジン自動停止におけるエンジン回転速度降下期間であるか否かを判定する。エンジン回転降下期間中でないと判定された場合(S11:NO)、処理を終了する。エンジン回転降下期間中であると判定された場合(S11:YES)、ステップS12において、クランク角センサ53からのクランクパルスが入力されたか否かを判定する。クランクパルスが入力されていない場合(S12:NO)、処理を終了する。クランクパルスが入力されている場合(S12:YES)、ステップS13において、エンジン回転速度の検出値(瞬時回転速度Ne)を算出する。
次に、ステップS14において、クラッチ装置12が伝達状態であるか否かを判定する。クラッチ装置12が伝達状態であると判定された場合(S14:YES)、ステップS15において、エンジン10のイナーシャJをJe+Jgに設定する。クラッチ装置12が遮断状態であると判定された場合(S14:NO)、ステップS16において、エンジン10のイナーシャJをJeに設定する。そして、ステップS15又はS16におけるイナーシャJの設定の後、ステップS17において、イナーシャJ及びステップS13において算出されたエンジン回転速度Neを用いてエンジントルクTeを算出して処理を終了する。
次に、本実施形態における回転速度予測処理を図7に示す。当該回転速度予測処理は、ECU30が所定時間毎に実施する。なお、イナーシャJの初期値は、Je+Jgとして設定されている。
ステップS21において、アイドリングストップ制御のエンジン自動停止におけるエンジン回転速度降下期間であるか否かを判定する。エンジン回転降下期間中でないと判定された場合(S21:NO)、処理を終了する。エンジン回転降下期間であると判定された場合(S21:YES)、ステップS22において、前回の回転予測タイミングからクラッチ装置12の状態が変化したか否かを判定する。クラッチ装置12の状態が変化していないと判定された場合(S22:NO)、ステップS23において、回転速度予測タイミングか否かを判定する。回転速度予測タイミングは、例えば、ピストンの位置がTDCであることである。これにより、180°CAごとにエンジン回転速度の予測値が算出される。回転速度予測タイミングでないと判定された場合(S23:NO)、処理を終了する。
回転速度予測タイミングであると判定された場合(S23:YES)、ステップS24において、ステップS13において算出されたエンジン回転速度の検出値Neを取得する。次に、ステップS25において、前回の回転変動期間において、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に変化したか否かを判定する。前回の回転変動期間において、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に変化していないと判定された場合(S25:NO)、ステップS26において、エンジントルク算出処理によって算出された前回の回転変動期間におけるエンジントルクTeの履歴値(前回値)を読み込む。
次に、ステップS28において、今回の回転変動期間における各クランク角度位置(θn=30,60,90,120,150,180°CA)におけるエンジン回転速度の予測値(第1回転予測値Ne1)及び各クランク角度位置に到達するまでの予測到達時間tを、前回の回転変動期間における同じ回転位置での回転検出値Neを用いて算出する。より詳細には、エンジン回転速度の検出値Ne、エンジントルクTeの履歴値及びクランク軸11に作用するイナーシャJに基づいて、各クランク角度位置(θn=30,60,90,120,150,180°CA)におけるエンジン回転速度の予測値(第1回転予測値Ne1)及び各クランク角度位置に到達するまでの予測到達時間tを算出して処理を終了する。
ω2(j)(θn+1)=ω2(j)(θn)−2/J×Te(j-1)(θn-θn+1) … (3)
ω(θn)[rad/sec]=Ne(θn)×360/60
具体的には、上記の関係式(3)を用いてエンジン回転速度の予測値Ne1を算出する。
前回の回転変動期間において、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に変化していいると判定された場合(S25:YES)、ステップS27において、エンジントルクTeの履歴値(前回値)に代えて、エンジントルク算出処理によって算出された前々回の回転変動期間におけるエンジントルクTeの履歴値(前々回値)を読み込む。そして、ステップS28において、各クランク角度位置におけるエンジン回転速度の予測値Ne1及び各クランク角度位置に到達するまでの予測到達時間tを算出して処理を終了する。つまり、前回の回転変動期間に、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に戻される時点が含まれる場合には、前回の回転変動期間におけるエンジントルクTeの履歴値に代えて、前回より前の回転変動期間におけるエンジントルクTeの履歴値を用いて、各クランク角度位置における第1回転予測値Ne1を算出する。
前回の回転予測タイミングからクラッチ装置12の状態が変化していると判定された場合(S22:YES)、ステップS29において、クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態に変化したか、又は、遮断状態から伝達状態に変化したか、のいずれであるかを判定する。クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態に変化したと判定された場合(S29:YES)、ステップS30において、現在のエンジン回転速度の検出値Neを取得する。そして、ステップS31において、その取得した現在のエンジン回転速度の検出値Neをギア回転速度Ngとして記憶する。そして、ステップS32において、イナーシャJの値をJeに設定して処理を終了する。
クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に変化したと判定された場合(S29:NO)、ステップS33において、クラッチ装置が伝達状態となる直前のエンジン回転速度Neの検出値を取得する。次に、ステップS34において、ギア回転速度算出手段としてのECU30は、ステップS31において記憶されたギア回転速度Ng及びクラッチ装置12が遮断状態とされていた時間(遮断継続時間)を用い、遮断継続時間が長いほど入力ギアに作用するロスエネルギが大きいとして、クラッチ装置12が伝達状態となる直前のギア回転速度Ng(ギア予測値)を算出する。具体的には、ステップS31において記憶されたギア回転速度Ngから遮断継続時間に応じた減速値を引くことで、ギア予測値を算出する。
次に、ステップS35において、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に変化した直後、即ち、現時点のエンジン回転速度の推定値Ne’を算出する。具体的には、式(2)を用いて、クラッチ装置12が伝達状態となる直前のギア回転速度Ng及びエンジン回転速度の予測値Ne1、並びに、入力ギアのイナーシャJg及びクランク軸11のイナーシャJeに基づいて、現時点のエンジン回転速度の推定値Ne’を算出する。つまり、遮断状態においてクランク軸11に作用するイナーシャJeと、エンジン回転速度の予測値Neとに基づいて、遮断状態においてクランク軸11に作用する回転エネルギを算出する。また、遮断状態において入力ギアに作用するイナーシャJgと、ギア回転速度Ngとに基づいて、遮断状態において入力ギアに作用する回転エネルギを算出する。そして、クランク軸11及び入力ギアにそれぞれ作用する回転エネルギの算出値の和と、伝達状態においてクランク軸11に作用するイナーシャJe+Jgに基づいて、クラッチ装置12が伝達状態に戻った時のエンジン回転速度の推定値Ne’を算出する。次に、ステップS36において、エンジン10のイナーシャJを伝達状態においてクランク軸11に作用するJe+Jgに設定する。
次に、ステップS37において、ステップS35において算出された現時点のエンジン回転速度の推定値Ne’を用いて、クラッチ装置12が伝達状態に戻される時点で含まれる回転変動期間において、次の変動期間となるまでの各クランク角度位置におけるエンジン回転速度の予測値(第2回転予測値Ne2)と、各クランク角度位置に到達するまでの予測到達時間tを算出する。具体的には、伝達状態への戻り時点におけるステップS28において算出済みの第1回転予測値Ne1と、ステップS35において算出されたエンジン回転速度の推定値Ne’との差(ΔNe)を算出する。そして、そのΔNeをステップS28において算出済みの第1回転予測値Ne1に加算することで補正して、第2回転予測値Ne2を算出する。そして、その算出された第2回転予測値Ne2を用いて予測到達時間tを算出する。ステップS37における処理の後、処理を終了する。
以下、本実施形態の効果を述べる。
エンジン10の自動停止に伴いエンジン回転速度が降下する期間において、変速機13の入力ギアがクランク軸11から切り離されて回転する遮断状態におけるクランク軸11及び入力ギアそれぞれの回転状態に基づいて、遮断状態から伝達状態に戻る場合の回転推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を算出する構成とした。このため、エンジン10の回転降下中にクラッチ装置12の遮断操作が行われても正確にエンジン回転速度を予測できる。
クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に戻った時のエンジン回転速度は、伝達状態に戻る前のエンジン回転速度とギア回転速度とから予測することが可能である。そこで、伝達状態に戻る前のエンジン回転速度の検出値Ne及びギア回転速度Ngに基づいて、前記クラッチ手段が遮断状態から伝達状態に戻った時のエンジン回転速度の推定値Ne’を算出することで、好適に回転予測値を算出することが可能になる。なお、伝達状態に戻る前のエンジン回転速度として、検出値Neに代えて、第1回転予測値Ne1を用いてもよい。
クラッチ装置12が伝達状態とされていると、クランク軸11と入力ギアとは一体で回転しているため、ギア回転速度とエンジン回転速度とは等しくなる。つまり、遮断状態におけるギア予測値Ngは、伝達状態から遮断状態に移行した際のエンジン回転速度の検出値Ne又は予測値Ne1を初期値として算出することができる。
遮断状態に移行し、その後伝達状態に戻されるまでの時間である継続時間が長くなるほど入力ギアに作用する摩擦によるロスエネルギが大きくなることから、本実施形態では、回転速度が減少しているとしてギア予測値Ngを算出する構成とした。これにより、ギア予測値Ngをより正確に算出することが可能になり、ひいては、エンジン回転速度の推定値Ne’及びエンジン回転速度の予測値Ne2の精度をより向上させることができる。
遮断状態から伝達状態に戻される場合のクランク軸11の回転速度は、遮断状態におけるクランク軸11及び入力ギアにそれぞれ作用する回転エネルギの和に基づいて算出することができる。遮断状態におけるクランク軸11及び入力ギアにそれぞれ作用する回転エネルギは、各回転速度の自乗値に比例し、また、クランク軸11及び入力ギアそれぞれに作用するイナーシャに比例する。そこで、クランク軸11の回転速度及びクランク軸11に作用するイナーシャJeから算出されるクランク軸11に作用する回転エネルギと、入力ギアの回転速度及び入力ギアに作用するイナーシャJgから算出される入力ギアに作用する回転エネルギと、に基づいて回転推定値Ne’を算出する構成とする。これにより、回転推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2の精度をより向上させることができる。
エンジン10の燃焼に基づき定められる回転変動期間では、回転位置に応じてエンジントルクTe(瞬時トルク)が変動する。この場合、各回転変動期間の当初の回転検出値と、回転変動期間内の各クランク角度位置におけるトルク変動の傾向とを用いることで、回転変動期間内において所定間隔ごとの第1回転予測値の算出が可能となっている。また、回転降下期間中にクラッチ操作が生じた場合には、第1回転予測値Ne1に代えて一時的に第2回転予測値Ne2が用いられるが、その直後であって、次の回転変動期間になるまでの期間においても、同様に第1回転予測値Ne1の使用が不可となる。
この点、次の回転変動期間となるまでは、第1回転予測値Ne1を、伝達状態への戻り時点における第1回転予測値Ne1と回転推定値Ne’との差分(ΔNe)に基づいて補正して第2回転予測値Ne2を算出するようにしたため、クラッチ操作の直後においても適正なる回転予測を実施できる。
回転降下期間においてピストン位置で決まる回転角度位置が同一であれば、クランク軸11に作用するエンジントルクTeが一定であると仮定する。第1回転予測手段は、その仮定の下、エンジン10の燃焼室の容積の増減変化に伴う瞬時回転速度の増減1周期分(本実施形態では180°CA)を回転変動期間として、現時点よりも前の回転変動期間のエンジン回転速度に基づいて、その後の回転変動期間のエンジン回転速度(瞬時回転速度)を予測するものである。より詳細には、各クランク角度位置におけるエンジン回転速度の検出値を用いて各クランク角度位置におけるエンジントルクTeを算出し、そのエンジントルクTeの算出値(履歴値)を用いて同じクランク角度位置におけるエンジン回転速度の予測値(第1回転予測値Ne1)を算出する。
ここで、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に戻ると、クランク軸11に作用するエネルギが非連続的に変化する。つまり、クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じた時点を含む回転変動期間の1周期において、クランク軸11に作用するエンジントルクTeがピストン位置で決まる回転角度位置では一定であるとする仮定が成立しなくなる。このため、クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じた時点を含む回転変動期間の1周期において算出されたエンジントルクTeを用いて回転予測値を算出すると、第1回転予測値Ne1の算出精度が低下する。
そこで、本実施形態では、クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じた時点を含む回転変動期間の1周期において算出されたエンジントルクTeの履歴値(前回値)に代えて、クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じる以前に算出されたエンジントルクTeの履歴値(前々回値)に基づいて第1回転予測値Ne1を算出する。
遮断状態では入力ギアがクランク軸11から切り離されて回転し、伝達状態ではクランク軸11と入力ギアとが一体として回転する。このため、遮断状態におけるクランク軸11に作用するイナーシャは、伝達状態におけるクランク軸11に作用するイナーシャと比べて、入力ギアのイナーシャだけ減少することになる。そこで、遮断状態におけるクランク軸11に作用するイナーシャJの値として、伝達状態における出力軸に作用するイナーシャJ=Je+Jgから入力ギアのイナーシャ分だけ引いた値Jeを用いて第1回転予測値Ne1を算出することで、より正確に予測値Ne1を算出することが可能になる。また、本実施形態では、回転予測値の算出に用いるエンジントルクの算出においても、遮断状態におけるクランク軸11に作用するイナーシャJの値として、伝達状態における出力軸に作用するイナーシャJ=Je+Jgから入力ギアのイナーシャ分だけ引いた値Jeを用いている。
実施形態における回転速度予測処理によって算出された第1回転予測値Ne1、回転推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を用いれば、回転速度の予測値と実際値との差を小さくすることができる。このため、回転降下期間中において自動再始動を行う際に、第1回転予測値Ne1、回転推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2と、ピニオン41を回転させた状態でピニオン41をリングギア18に噛み合わせる所定の噛み合わせ回転速度とに基づいてピニオン41の噛み合わせを実施するシステムにおいて、好適に再始動を実施することができる。
(他の実施形態)
・上記実施形態では、エンジン10の自動停止に伴いエンジン回転速度が降下する期間において、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態に戻る場合に、エンジン回転速度の推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を式(2)を用いて算出する構成とした。換言すると、エンジン回転速度の予測値Ne1又はエンジン回転速度の検出値Ne、ギア予測値Ng及びイナーシャJe,Jgを用いて推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を算出する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、ギア予測値Ng及びイナーシャJe,Jgのいずれも用いずに推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を算出する構成としてもよい。具体的には、クラッチ装置12が遮断状態から伝達状態へと戻った時点で、エンジン回転速度の予測値Ne1に予め定めた所定値を加算して推定値Ne’を算出し、その推定値Ne’に基づいて第2回転予測値Ne2を算出する構成としてもよい。
また、イナーシャJe,Jgを用いずに推定値Ne’及び第2回転予測値Ne2を算出する構成としてもよい。具体的には、エンジン回転速度の検出値Ne又は予測値Ne1とギア回転速度Ngの差に所定の比率を掛けた値を第1回転予測値Ne1に加算することで、推定値Ne’を算出し、その推定値Ne’に基づいて第2回転予測値Ne2を算出する構成としてもよい。
・入力ギアに作用するエネルギロスを極めて小さいと見なし、遮断状態におけるギア回転速度Ngを一定であるとしてもよい。即ち、図5の時刻T2におけるエンジン回転速度Neを時刻T3におけるギア回転速度Ngとみなし、そのギア回転速度Ngを用いてクラッチ装置12が遮断状態から伝達状態へと戻った時点でのエンジン回転速度の推定値Ne’を算出してもよい。
・クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じた時点を含む回転変動期間の1周期において算出されたエンジントルクTeの履歴値(前回値)に代えて、クラッチペダル17の踏込み解除操作が生じる以前に算出されたエンジントルクTeの履歴値(前々回値)に基づいて第1回転予測値Ne1を算出する構成とした。ここで、エンジントルクTeの履歴値(前々回値)に代えて、クラッチペダル17の踏込み操作が行われる以前に算出された、即ち、クラッチ装置12が伝達状態とされていた状態で算出されたエンジントルクTeの履歴値に基づいて第1回転予測値Ne1を算出する構成としてもよい。クラッチ装置12が伝達状態に戻された後の第1回転予測値Ne1の算出を、クラッチ装置12が伝達状態とされていた状態で算出されたエンジントルクTeの履歴値を用いることで、予測精度を向上させることが可能となる。
・クラッチ装置12が伝達状態から遮断状態とされた場合において、クランク軸11に作用するイナーシャJが変化しないものとしてエンジン回転速度の予測値Ne1,Ne2及びエンジントルクTeの算出を行ってもよい。
・回転速度センサを変速機13に設け、そのセンサによって入力ギアの回転速度を検出し、その検出値を用いてクラッチ装置12が遮断状態から伝達状態へと戻った時点でのエンジン回転速度の予測値Ne2を算出する構成としてもよい。
・上記実施形態では、変速機13として常時噛み合い式の構造の変速機を用いたが、ニュートラル状態においてトランスミッション入力シャフト21とトランスミッション出力軸23との間で動力が遮断されるものであればよく、同期噛み合い式など他の構造であってもよい。
・上記実施形態では、コイル48の通電/非通電を制御するピニオン駆動リレー49と、モータ42の通電/非通電を制御するモータ駆動リレー44とを有するスタータ装置40を本発明に適用する場合について説明したが、ピニオン41の移動と、モータ42の回転とを独立して制御可能なスタータ装置40の構成は上記に限定しない。例えば、従来のスタータ装置において、モータ通電制御用のリレーを設けたものを本発明に適用してもよい。具体的には、図3のスタータ装置40において、モータ駆動リレー44の代わりに、プランジャにおけるレバーとは反対側の端部にモータ通電用の接点が設けられているとともに、モータ42とバッテリ46との間に、ECU30からの制御信号に基づいてオン/オフの切り替え可能なモータ通電制御用のリレーが設けられている構成に適用する。この構成においても、ピニオン駆動リレー49とモータ通電制御用のリレーとを個別に制御することにより、ピニオン41とリングギア18との噛み合わせ動作と、モータ42の回転動作とを独立して制御可能である。
・本実施形態のエンジン制御システムは、4気筒エンジンを対象に適用されるものであるが、気筒数は限定されず、例えば、6気筒エンジンに適用されるものであってもよい。