JP6063318B2 - アルミニウム合金およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム合金およびその製造方法に関するものである。
自動車、鉄道車両、船舶等の輸送分野においては、エンジン部品およびコンプレッサー等の機械部品において、省エネルギーを目的として軽量なアルミニウム合金展伸材が多く使用されている。本用途では主に材料の耐熱性が要求されることから、アルミニウム合金種の中でも特に耐熱性に優れる2000系合金(Al−Cu系合金)が使用されている。
最近の自動車における燃費規制強化に代表されるように、自動車・船舶等の輸送用機械にはさらに強く省エネルギーが求められ、それに応じて本用途におけるアルミニウム合金材が使用される温度条件や荷重負荷条件が高まっており、さらなる耐熱性の向上が必要な状況にある。
本用途での耐熱アルミニウム合金展伸材としては、従来からJIS規格で規定されたJIS 2618合金(以下、2618合金)が広く使用されている。2618合金の成分は、Cu:1.9質量%〜2.7質量%、Mg:1.3質量%〜1.8質量%、Si:0.10質量%〜0.25質量%、Fe:0.9質量%〜1.3質量%、Ni:0.9質量%〜1.2質量%、Ti:0.04質量%〜0.10質量%、および、残部がAlで規定されているように、Al−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金であって、特に150〜200℃の温度範囲において、他の種々の2000系合金に比較して優れた耐熱性を有している。
2618合金を改良して、耐熱性をさらに向上させた合金が、特許文献1〜3等に記載されている。特許文献1〜3に記載されている合金はいずれも、2618合金の基本成分であるAl−Cu−Mg−Si−Fe−Niに加えて、Mn、Cr、Zr、Sc、V等の遷移元素を必須元素として添加することによって耐熱性の向上を図っている。しかし、特許文献1〜3に記載されている上記の遷移元素を用いて耐熱性の向上を図った場合は、その付随的な影響として、合金の焼入れ感受性が高まってしまい、部材の径・板厚・肉厚が大きくなって、溶体化処理後の焼入れにおいて冷却速度が不可避的に低下した場合に、耐熱性向上効果が得られなくなることがあった。特に本用途では、比較的大径・厚板・大肉厚の部材が多いため、これらの技術が適用できる部材は、比較的小型部材に限定されることがあった。
また一方で、近年、5軸加工機の加工速度の向上および低廉化に伴い、これまでアルミニウム合金の精密鋳物でしか製造することができなかったコンプレッサーホイールなどの複雑形状を有する部材を、アルミニウム合金展伸材を素材として、5軸加工機によって短時間で部材を削り出すことが可能となっており、削出し製品として、従来の鋳物製品に置き換わりつつある。このような5軸加工機による削出しの製造工程では、素材であるアルミニウム合金展伸材に対して、高い切削性が要求されるようになっている。ここで要求される切削性とは、具体的には、切削後の部材の表面粗さが小さいことや、切削時に出るアルミニウム合金の切り屑が細かく分断されて、工具に巻きつくことなく切り屑処理しやすいことである。
特開2011−122180号公報 特開2010−18854号公報 特開2008−202121号公報
上述のように、昨今の省エネルギー化を背景とした、アルミニウム合金展伸材への耐熱性向上要求特性の高まりや、5軸加工機の性能向上・普及に伴うアルミニウム合金展伸材を素材とした削出し製法の主流化を背景とした、アルミニウム合金展伸材への切削性向上要求の高まりがあるが、従来の2618合金を常法に従って製造するだけでは、この要求に応えることは難しかった。また、特許文献1〜3に記載された技術等のようにAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金に適宜遷移元素を添加して耐熱性を向上させたりしても、焼入れ感受性が高まるため、比較的大型の部材になると、耐熱性が不十分な場合が多く、また、切削性はほとんど向上が認められなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼入れ感受性を高めてしまうことなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができ、かつ、同時に高い切削性を有するアルミニウム合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第一の観点に係るアルミニウム合金は、
含有率が2.8質量%以上4.5質量%以下のCuと、
含有率が1.4質量%以上2.4質量%以下のMgと、
含有率が1.1質量%以上2.0質量%以下のFeと、
含有率が1.2質量%以上2.0質量%以下のNiと、
含有率が0.1質量%以上0.90質量%以下のSiと、
含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、
を含み、
Mnの含有率が0.1質量%未満、
Crの含有率が0.1質量%未満、
Zrの含有率が0.1質量%未満、
Scの含有率が0.1質量%未満、
Vの含有率が0.1質量%未満、
に規制され、
残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
マトリクス中において、円相当径で1μm以上20μm以下の晶出物粒子の分布密度が13000個/mm2以上である、
ことを特徴とする。
本発明の第二の観点に係るアルミニウム合金の製造方法は、
上記アルミニウム合金の製造方法であって、
均質化処理工程が、
鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金を、450℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持する第一の均質化処理工程と、
500℃以上、前記第一の均質化処理工程後の前記アルミニウム合金の固相線温度未満の温度で1時間以上保持する第二の均質化処理工程と、
を含む、
ことを特徴とする。
前記第二の均質化処理工程後のアルミニウム合金を、300℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持する第三の均質化処理工程をさらに含んでもよい。
本発明によれば、焼入れ感受性を高めてしまうことなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができ、かつ、同時に高い切削性を有するアルミニウム合金およびその製造方法を提供することができる。
本発明の実施例に係る回転曲げ疲労試験片の形状を模式的に示す図である。
本発明者は、2618合金と同様に、Al−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金をベースとして、これらの構成元素の添加量を最適化するとともに、焼入れ感受性を高めてしまうことになる遷移元素については、その含有率を制限することによって、焼入れ感受性を低く保ち、比較的大径・厚板・大肉厚の部材であっても耐熱性に優れる部材の製造が可能であることを見出し、本発明をなすに至った。さらに、本発明者は、部材の製造プロセスにおける均質化処理条件を最適化して、最終的なアルミニウム合金材のマトリクス中の晶出物粒子の分布密度を、通常の2618合金に比べて高いレベルとすることによって、高い耐熱性と高い切削性とを両立し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
(成分元素)
まず、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金について、以下に成分元素を説明する。なお、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと、不可避不純物と、からなる。
(Cu、Mg)
CuおよびMgは、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金を構成する主要元素である。CuおよびMgは、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金を470℃以上の温度域に保持する溶体化処理を行った際にAlマトリクス中に一旦固溶し、その後、室温付近まで急冷すること(焼入れと呼ばれる)によって過飽和固溶体としてから、所定の温度で人工時効処理を行うことによって、Al、CuおよびMgからなる微細な析出物(以降、これをS’析出物と呼ぶ)をマトリクス中に形成することにより、室温強度および耐熱性の向上に寄与する。またこれに加えて、Cuは、鋳造の凝固時に固溶限度を超える分は、Al、Fe、Ni、Cuを構成元素とする晶出物を形成して、マトリクス中に分布する。この晶出物は、その後に続く製造工程のうちの均質化処理時によって最適なサイズ・粒子径に調整されて、最終的なアルミニウム合金素材中に分布して、材料の耐熱性および切削性の両方の向上に寄与する。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率の下限を2.8質量%、アルミニウム合金中のMgの含有率の下限を1.4質量%とする。CuおよびMgそれぞれの元素の含有率が上記数値未満の場合、CuおよびMgの固溶量が不足して、S’相の析出密度が低くなるため、アルミニウム合金が十分な耐熱性を得ることができない。また、Cuの含有率が2.8質量%よりも低いと、鋳造の凝固時の晶出物の形成量が減少して、最終的なアルミニウム合金素材中の晶出物粒子の分布密度が低下してしまい、アルミニウム合金における耐熱性および切削性の十分な向上効果が得られない。
また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率の上限を4.5質量%、アルミニウム合金中のMgの含有率の上限を2.4質量%とする。CuおよびMgそれぞれの元素の含有率が上記数値を超えると、CuおよびMgの元素の固溶限を大幅に越えてしまうために、溶解・鋳造時に1mm程度の非常に粗大な晶出物がアルミニウム合金中に形成され、最終的なアルミニウム合金素材中に残存してしまう。このような非常に粗大な晶出物は、材料の高温延性を大幅に低下させるとともに、高温疲労やクリープ破断等の素材の早期破壊の原因となる。
そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率を2.8質量%以上4.5質量%以下とし、アルミニウム合金中のMgの含有率を1.4質量%以上2.4質量%以下とする。
(Fe、Ni)
FeおよびNiも、Cu、Mgと同様に、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金を構成する主要元素である。FeおよびNiは、鋳造の凝固時にAl、Fe、Ni、Cuを構成元素とする晶出物をマトリクス中に形成する。この晶出物は、その後に続く製造工程の均質化処理によって最適なサイズ・粒子径に調整されて、最終的なアルミニウム合金素材中に分布して、材料の耐熱性および切削性の両方の向上に寄与する。またこれらのAl、Fe、Ni、Cuを構成元素とする晶出物粒子は、マトリクス中に高密度に分散することによって、アルミニウム合金の溶体化や材料の使用時など、高温で保持される際に、結晶粒組織の安定化に寄与して、結晶粒の成長・粗大化を防止して、アルミニウム合金の耐熱性向上に寄与する。
アルミニウム合金中のFeの含有率が1.1質量%未満の場合、Al、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物の形成量が減少して、最終的なアルミニウム合金素材中の晶出物粒子の分布密度が低下して、アルミニウム合金における耐熱性および切削性の十分な向上効果が得られない。また、同様に、アルミニウム合金中のNiの含有率が1.2質量%未満の場合、Al、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物の形成量が減少して、最終的なアルミニウム合金素材中の晶出物粒子の分布密度が低下して、アルミニウム合金における耐熱性および切削性の十分な向上効果が得られない。
さらに、アルミニウム合金中のFeの含有率が2.0%を超える場合、溶解・鋳造時に1mm程度の非常に粗大な晶出物を形成して、材料の高温延性を大幅に低下させるとともに、高温疲労やクリープ破断等の素材の早期破壊の原因となる。また、同様に、アルミニウム合金中のNiの含有率が2.0%を超える場合、溶解・鋳造時に1mm程度の非常に粗大な晶出物を形成して、材料の高温延性を大幅に低下させるとともに、高温疲労やクリープ破断等の素材の早期破壊の原因となる。
そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のFeの含有率を1.1質量%以上2.0質量%以下とし、アルミニウム合金中のNiの含有率を1.2質量%以上2.0質量%以下とする。
(Si)
Siは本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金を構成する主要元素である。アルミニウム合金に添加されたSiは、アルミニウム合金の溶体化処理を行う前の段階において、MgとともにMgSi晶出物または析出物としてマトリクス中に存在し、溶体化処理として470℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲に保持されると、MgSiが溶解して、Si原子はマトリクス中に固溶する。その後、アルミニウム合金を室温付近まで急冷する焼入れ処理を行うと、Si原子は、マトリクス中の原子空孔とペア(Si−空孔ペア)を形成し、溶体化処理温度で平衡的に多数存在した原子空孔を室温まで安定に持ち込み、結果として、焼入れ後のマトリクス中には多量の過剰空孔が形成される。続いて、180℃以上200℃以下の温度範囲で、5時間以上保持する人工時効処理を行うと、このSi−空孔ペアが分解され、フリー空孔がマトリクス中に形成される。このフリー空孔は、時効析出時に形成されるAl、CuおよびMgからなる微細析出物S’相の核生成を助長して、結果としてS’相の析出が高密度となり、人工時効処理後の室温強度と耐熱性が大幅に向上する。ここで、アルミニウム合金中のSiの含有率が0.1質量%未満では、溶体化処理時に形成されるSi−空孔ペア量が不十分で、室温付近まで急冷後の人工時効処理時のS’相の析出密度が低いために、アルミニウム合金が得られる耐熱性が不十分である。また、アルミニウム合金中のSiの含有率が0.90質量%を超えると、溶体化処理前の状態においてMgと形成されるMgSiの量が多くなり過ぎ、溶体化処理時に完全に固溶することができず、マトリクス中に粗大なMgSi粒子が残存してしまう。この粗大粒子は、アルミニウム合金の高温延性を大幅に低下させるとともに、高温疲労やクリープ破断等の素材の早期破壊の原因となる。
そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のSiの含有率を0.1質量%以上0.90質量%以下とする。
(Ti)
Tiは溶解・鋳造において、アルミニウム合金が凝固するに際して、凝固の核生成サイトとして機能することによって、鋳塊組織の微細化に寄与する。これによって、製造プロセスの途中に行われる溶体化処理時に微細な結晶粒組織が形成され、耐熱性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のTiの含有率が0.01質量%未満の場合は、アルミニウム合金の鋳塊組織を微細にする効果が不十分である。また、アルミニウム合金中のTiの含有率が0.20質量%を超えると、鋳造時にAl−Tiからなる粗大な化合物が晶出し、材料の高温延性、高温疲労等の耐熱特性が大幅に低下する。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のTiの含有率を0.01質量%以上0.20質量%以下とする。
また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、Tiは全量を単独で添加されてもよいし、その一部または全量をTi−Bの化合物の形態で添加されてもよい。共添加されるアルミニウム合金中のBの含有率が0.001質量%以上であることによって、鋳塊を微細にする効果を十分に得ることができる。また、アルミニウム合金中のBの含有率が0.05質量%以下であることによって、鋳造時におけるTi−Bからなる粗大な化合物の晶出が抑制され、高温延性、耐熱性を維持することができる。そのため、Ti−Bの化合物の形態で添加される場合に共添加されるアルミニウム合金中のBの含有率は、0.001質量%以上0.05質量%以下の範囲とすることが、より好ましい。
(Mn、Cr、Zr、Sc、V)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のMnの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のCrの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のZrの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のScの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のVの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であることが好ましい。なお、本明細書において、含有率が「0質量%」とは、0質量%だけではなく、検出機器における当該元素の検出下限以下の微少な含有率をも含むものとする。遷移元素のより好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.1質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.1質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.1質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.1質量%未満、V:0.001質量%以上0.1質量%未満である。より一層好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.05質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.05質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.05質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.05質量%未満、V:0.001質量%以上0.05質量%未満である。また、さらに好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.035質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.035質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.030質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.030質量%未満、V:0.001質量%以上0.030質量%未満である。
遷移元素であるMn、Cr、Zr、ScおよびVは、アルミニウム合金中に添加されると、マトリクス中に上記の各遷移元素とAlとからなる微細な分散粒子(粒径1μm未満)を形成し、上述のAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子と同様に、アルミニウム合金の結晶粒組織の安定化に寄与する。これによって、アルミニウム合金を高温に保持した際の結晶粒組織を安定化する効果を有し、結晶粒の成長・粗大化を防止して、耐熱性向上に寄与する。しかしながら、その一方で、これらの遷移元素とAlとからなる微細な分散粒子がマトリクス中に存在すると、溶体化処理後に急冷する焼入れ時に、主溶質元素であるCuおよびMgからなる安定相のS相(CuMgAl)が、この分散粒子とマトリクスとの界面上に不均一核生成して、比較的粗大に生成してしまう。これによって、焼入れ後におけるマトリクス中のCu・Mgの溶質濃度が低下して、その後の人工時効処理時におけるS’相の析出密度が低下して、アルミニウム合金の耐熱性が低下する。この焼入れ時の冷却途中におけるS相の析出は、冷却速度が小さいほど顕著となり、冷却速度の低下に伴って、人工時効処理後の強度が大きく低下する。この場合のように、人工時効処理後の強度が冷却速度の影響を受けやすいという傾向は、一般的に、「焼入れ感受性が高い」として表現され、焼入れ感受性が高い傾向を有するアルミニウム合金は、部材のサイズが大きくなるにつれて、不可避的に焼入れ時の冷却速度が低下するため、人工時効処理後の強度低下が大きくなり、耐熱性の低下も大きく、比較的大型の部材では、高い耐熱性を確保できなくなってしまう。そのため、遷移元素であるMn、Cr、Zr、ScおよびVを上述の範囲とすることによって、アルミニウム合金の焼入れ感受性の増大が抑制され、特に、溶体化処理後の焼入れ時の部材サイズが大きい場合であってもアルミニウム合金の耐熱性の顕著な低下を抑制することができる。
一方で、上述のAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子による結晶粒組織安定化効果を用いた場合は、この晶出物粒子とマトリクス界面とが不均一核生成のサイトとならないため、溶体化後の急冷時の冷却途中におけるS相の不均一核生成が生じない。このため、アルミニウム合金中の上記の遷移元素の含有率を上記の範囲とすることによって、部材のサイズが大きくなって焼入れ時の冷却速度が低下した場合であっても人工時効処理後の強度低下が小さく(焼入れ感受性が低く)、アルミニウム合金の耐熱性の低下が小さいという特徴が得られる。
上述の遷移元素は基本的に積極的にアルミニウム合金に添加されない場合でも、リサイクルした二次合金を多く用いた場合に、多く混入する場合があるため、溶解・鋳造段階で溶湯の元素分析を行い、これらの遷移元素の混入を確認して、含有率が上述の範囲となるようにすることが、より好ましい。
(その他の元素)
上記の元素の他に、耐食性等を向上させることを目的として微量のZnを添加してもよい。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のZnの含有率を0.001質量%以上1.0質量%未満とすることが、より好ましい。
(製造方法)
以下、本発明の実施形態に係る耐熱性と切削性の両方に優れたアルミニウム合金展伸材の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金展伸材は、基本的には、圧延・押出・鍛造といったアルミニウム合金展伸材の常法に従って製造することができるが、その製造工程のうちの均質化処理工程の条件を最適化することによって、高い耐熱性と切削性を本発明の実施形態に係るアルミニウム合金に付与することが可能となる。
以下、圧延・押出・鍛造といったアルミニウム合金展伸材に共通して行われる製造方法の工程を簡単に述べる。はじめに、溶解・鋳造を行い、アルミニウム合金鋳塊を得る。その後、均質化処理を行ってから、熱間加工を行い、さらにその後、必要に応じて冷間加工を行う。また、この冷間加工の前または途中に必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。さらにその後、溶体化処理を行なってから、室温に近い温度まで急冷する焼入れを行った後に、最終的に人工時効処理を行って、耐熱性と切削性に優れたアルミニウム合金展伸材を得る。
以下、主要な工程ごとに製造方法を詳述する。
(溶解工程・鋳造工程)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の成分範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯に対して、脱ガス処理や不純物を除去するための濾過処理などを行った後、半連続鋳造法(DC鋳造法またはホットトップ鋳造法)によって鋳造して、アルミニウム合金鋳塊を製造する。鋳造後には、引き続き行われる熱間加工に備えて、必要に応じて鋳塊表面の鋳肌を削り取る面削を行ってもよい。面削は、後述する均質化処理後に行ってもよい。
(均質化処理工程)
次に、均質化処理を行う。均質化処理は、通常、アルミニウム合金の鋳造の凝固時に形成される凝固組織に特徴的な濃度偏析を解消して均一化することを目的に行なわれるが、本発明の実施形態においては、上記目的に加えて、鋳造の凝固時に生成した晶出物の分布および形態を最適化することによって、最終的なアルミニウム合金素材中の晶出物粒子のサイズ・分布密度を最適化して、アルミニウム合金における耐熱性と切削性との両方を向上させることをも目的とする。
本発明の実施形態においては、以下の条件で均質化処理が行なわれる。はじめに、アルミニウム合金鋳塊を450℃以上500℃未満の温度範囲に1時間以上保持する1段目の処理を行い(第一の均質化処理工程)、引き続いて、500℃以上、アルミニウム合金の固相線温度未満の温度範囲に1時間以上保持する2段目の処理を行う(第二の均質化処理工程)。1段目の処理温度まで鋳塊を加熱する際の昇温速度は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば1℃/分以上5℃/分以下の昇温速度で行なうことがより好ましい。1℃/分以上の昇温速度とすることによって、昇温に要する時間を短縮できるため高い生産性を維持することができる。また、昇温速度を5℃/分以下とすることによって、昇温途中での濃度偏析が十分に進み、昇温途中での濃度偏析による合金濃度が高い部分での局部溶融の発生が抑制され、最終的なアルミニウム合金素材の延性を維持することができる。また、1段目の処理温度から、2段目の処理温度への昇温速度条件についても、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、1段目の処理工程で濃度偏析が十分に解消されているため、生産性を重視して、たとえば、1℃/分以上の昇温速度で昇温することが、より好ましい。
以下、本発明の実施形態において、均質化処理を1段目と2段目とに分けて行う理由を説明する。
1段目として450℃以上500℃未満の温度範囲に1時間以上保持する目的は、この均質化処理によって、凝固時に形成される凝固組織に特徴的な濃度偏析を解消することである。この処理を行うことによって、濃度偏析が解消されて、次に行われる2段目の均質化処理温度まで昇温した場合でも、局部溶融が生じることがない。
1段目の処理温度が450℃未満の場合には、保持時間を長時間にしても十分に濃度偏析を解消することができず、2段目の均質化処理温度まで加熱した際に局部溶融を生じて、最終的なアルミニウム合金の延性が低下してしまう。また、1段目の処理温度が500℃以上の場合には、十分に濃度偏析が解消する前に500℃以上の高温に保持されてしまうために、局部溶融を生じて、最終的なアルミニウム合金の延性が低下してしまう。
また、1段目の保持時間が1時間未満の場合、濃度偏析の解消が不十分で、次に行われる2段目の処理で局部溶融が生じて、最終的なアルミニウム合金の延性が低下してしまう。1段目の保持時間の上限は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、濃度偏析の解消効果は1時間以上の保持でほぼ飽和するので、生産性を高める観点から保持時間は10時間以下とすることがより好ましく、5時間以下とすることがより一層好ましい。
2段目の均質化処理として、500℃以上、アルミニウム合金の固相線温度(たとえば、540℃)未満の温度範囲に1時間以上保持する目的は、鋳造の凝固時に生成したAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とするランダムな形状の晶出物を高温で保持することによって、分断して、球状化せしめ、円相当径にして1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子として、再分布させるためである。本明細書において「円相当径」とは、顕微鏡の画像上で粒子の大きさを測定した時に、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径のことを言う。このような晶出物のサイズおよび形状の変化は、晶出物とマトリクスとの間の界面エネルギーを最小にする方向に自発的に進むものである。このような均質化処理によって再配列された晶出物粒子の分布は、続いて行われる熱間加工や冷間加工、溶体化処理、焼入れ、人工時効処理後もほぼ同様に引き継がれ、最終的なアルミニウム合金においても、マトリクス中に円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm以上となる。そのため、後述するように、アルミニウム合金の耐熱性と切削性の両方を高めることができる。
一方、2段目の処理温度が500℃未満の場合、保持温度が低いために、長時間の保持を行なっても、このようなランダム形状の晶出物の球状化はほとんど進まず、最終的なアルミニウム合金におけるマトリクス中の1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm未満となる。そのため、アルミニウム合金の耐熱性と切削性を十分に高めることができない。また、2段目の処理温度がアルミニウム合金の固相線温度を超えた場合は、処理中にアルミニウム合金の一部で局所溶融が生じてしまい、最終的なアルミニウム合金の延性が低下してしまう。また、2段目の保持時間が1時間未満の場合、ランダム形状の晶出物の球状化が十分に進まず、最終的なアルミニウム合金におけるマトリクス中の1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm未満となる。そのため、アルミニウム合金の耐熱性と切削性を十分に高めることができない。2段目の保持時間の上限は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、ランダム形状の晶出物の球状化の進展は、ほぼ1時間の保持で完了し、その後、保持時間とともに晶出物粒子の径が微増する変化を示すため、生産性を高める観点から、たとえば、保持時間を10時間以下とすることがより好ましく、5時間以下とすることがより一層好ましい。
上述の2段の均質化処理が完了した後、室温または所定の温度まで冷却する。冷却速度は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、生産性を高めることを目的として、たとえば、1℃/分以上の速度で冷却することが、より好ましい。
また、上述の2段の均質化処理を行った後、さらに、300℃以上400℃未満の温度範囲に1時間以上保持する3段目の処理を行ってもよい(第3の均質化処理工程)。この処理を行うと、2段目の500℃以上の温度範囲で保持されることによって一旦固溶していたCuおよびMgが、300℃以上400℃未満の温度範囲で、比較的粗大なS相析出物として多量に析出して、アルミニウム合金中のCuおよびMgの固溶量が大幅に低下する。これによって、次に行なわれる熱間加工時の変形抵抗が大幅に低下するので、比較的小さい負荷荷重で、熱間加工することが可能となる。特に、熱間押出の場合は、比較的高い速度で熱間押出することが可能となり、生産性を向上させることができる。なお、2段目の処理温度から3段目の処理温度までの冷却速度は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、生産効率を高める観点から1℃/分以上の速度で冷却することが、より好ましい。3段目の処理温度を300℃以上とすることによって、短い時間の処理であってもS相析出物が十分に析出し、アルミニウム合金中のCuおよびMgの固溶量を大幅に低下させることができ、熱間加工時の変形抵抗が大幅に低下し、加工のための負荷荷重を低減することができる。また、3段目の加熱温度を400℃未満とすることによって、CuおよびMgの固溶限があまり高くならないため、短い時間の処理であってもS相析出物が十分に析出し、アルミニウム合金中のCuおよびMgの固溶量を大幅に低下させることができ、熱間加工時の変形抵抗が大幅に低下し、加工のための負荷荷重を低減することができる。また、3段目の処理時間を1時間以上とすることによって、S相析出物の析出が十分に得られて、アルミニウム合金中のCuおよびMgを十分に固溶させることができるため、熱間加工時の変形抵抗を大幅に低下させることができる。なお、3段目の処理時間の上限は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、生産性を高める観点から、たとえば、処理時間を10時間以下とすることがより好ましく、5時間以下とすることが、より一層好ましい。
(熱間加工工程)
均質化処理工程の後、一旦室温まで冷却してから再度加熱して熱間加工を行うか、もしくは均質化処理後に、直接、熱間加工温度まで温度調節して熱間加工を行う。熱間加工は、板を製造する場合は熱間圧延により行い、管や棒などを製造する場合は熱間押出により行い、その他の形状に加工する場合は熱間鍛造により行うことができる。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金はいずれの熱間加工も行うことができ、またその加工条件は、最終製品の耐熱特性に影響しないため、熱間加工条件は素材の熱間加工性を考慮して、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択される。
(冷間加工工程・中間焼鈍工程)
熱間加工の後、必要に応じて、最終製品の形状に精度良く仕上げるため、冷間加工を行う。冷間加工を行う前に、必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。また、冷間加工を2回以上に分けて行う場合は、冷間圧延と冷間圧延の間で適宜中間焼鈍を行ってもよい。冷間加工は、板を製造する場合は冷間圧延、管や棒などを製造する場合は冷間引抜き、その他の形状に加工する場合は冷間鍛造によって行う。冷間加工および中間焼鈍の条件は最終的な耐熱特性に影響しないため、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、中間焼鈍については、たとえば300℃〜450℃の温度範囲に1時間以上保持することによって行うことが、より好ましい。
(溶体化処理工程)
熱間加工または冷間加工の後、CuおよびMgをマトリクス中に固溶させること、および、MgSiを分解固溶させて、Siをマトリクス中に固溶させることを目的として溶体化処理が行われる。溶体化処理の条件は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、アルミニウム合金材料を470℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の温度範囲で1秒間以上保持することによって行うことが、より好ましい。また、より好ましい溶体化処理温度の範囲は500℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲であり、さらに好ましい溶体化処理温度の範囲は520℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲であり、いずれの温度範囲においても、1秒間以上保持することがより好ましい。
なお、アルミニウム合金展伸材の製造方法のうち熱間押出による熱間加工の場合は、上述の熱間加工と溶体化処理を兼ねて行うことができ、この場合は、溶体化処理を兼ねた熱間押出に引き続いて、後述する溶体化処理後の急冷を、水焼入れ、ミスト吹きつけ等によって連続的に行うプレス焼入れと呼ばれる工程を採用してもよい。
(溶体化処理後の急冷(焼き入れ)工程)
溶体化後の急冷は、たとえば、アルミニウム合金材料を冷水や温水に浸漬したり、ミストを吹き付けたり、冷風を吹き付けたりすることによって行われる。冷却速度は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、実質的に耐熱性が付与できる冷却速度として、溶体化処理温度から100℃までの平均冷却速度を1℃/秒以上で行うことが、より好ましい。冷却速度を1℃/秒以上とすることによって、焼入れ感受性が低い本発明の実施形態に係るアルミニウム合金における耐熱性の低下を抑制することができる。また、冷却を終了する温度についても本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、100℃以上、室温以下の範囲で冷却することがより好ましく、それによって、アルミニウム合金の最終的な耐熱特性を高く維持することができる。
(人工時効処理工程)
溶体化処理工程と、それに続く急冷(焼き入れ)工程が完了した後に、人工時効処理を行って、アルミニウム合金の材料強度を高めて、耐熱性を向上させる。人工時効処理の条件は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、170℃以上210℃以下の温度範囲で、5時間以上保持することが、より好ましい。こうすることで、CuとMgとからなるS’相がマトリクス中に高密微細に析出して、効果的にアルミニウム合金の材料強度を高めることができ、耐熱性を向上させることができる。
以上の工程によって、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金が製造される。
(ミクロ組織の形態)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金には、以下に述べるようなミクロ組織的な特徴が認められる。すなわち、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金は、マトリクス中に、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズのAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子が、13000個/mm以上の分布密度で存在するという特徴を有する。この晶出物粒子は、分散強化機構によって、特に高温での材料強度向上に寄与する。晶出物粒子のサイズが円相当径で1μm以上であることによって、分散強化に一層寄与することが可能となる。また、晶出物粒子のサイズが円相当径で20μm以下であることによって、分散強化への寄与に加えて、高温クリープ破壊や高温疲労破壊の起点となることを抑制することができる。そのため、本発明の実施形態においては、好ましい範囲として、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子についての分布密度を規定する。ここで、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm以上であることによって、分散強化を生じさせるために十分な数の晶出物粒子が得られ、2618合金を上回る耐熱性向上効果を得ることができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金における晶出物粒子の分布密度のより好ましい範囲を13000個/mm以上とする。また、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子分布密度の上限は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の成分の範囲から、30000個/mmを上限とすることが、より一層好ましい。
晶出物粒子は、上述の耐熱性向上効果に加えて、アルミニウム合金材料の切削性向上効果も合わせて有する。これは、アルミニウム合金材料の表面を切削工具で切削した際に、工具の刃先において材料が小片に分断される際に、局所領域において、この晶出物粒子が起点となって優先的に破壊され、切り屑が細かく分断されるからである。これによって、切削加工後のアルミニウム合金部材表面の仕上がり面の精度が向上し、また同時に切り屑が細かく分断されることによって、切り屑処理性が向上するという切削性向上効果も得られる。切削性向上効果の観点からは、晶出物粒子のサイズが大きければ大きいほど、また、分布密度が高ければ高いほど効果は大きいが、耐熱性向上の効果を両立させるため、本発明の実施形態におけるアルミニウム合金においては、好ましい晶出物粒子のサイズの範囲を円相当径で1μm以上20μm以下とし、より好ましい分布密度の範囲を13000個/mm以上30000個以下/mm以下の範囲とする。
本発明の実施形態において、晶出物粒子の分布密度の測定は、たとえば、以下のようにして行なわれる。
人工時効処理が施されたアルミニウム合金材料の任意の断面を観察面として、通常の金属組織観察のための常法に従って、鏡面研磨仕上げした後、たとえば、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチングを行う。エッチング後に金属組織観察用の光学顕微鏡を用いて順光で観察することによって、分散粒子の分布密度を測定することが可能である。さらに具体的には、光学顕微鏡で、たとえば、100倍の倍率に設定して観察を行った場合、晶出物粒子はマトリクスに対して暗いコントラストで黒点として認識することが可能である。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の場合、この黒色粒子はほとんど全てがAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子であるので、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの粒子を1視野ごとに計数して、たとえば、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、晶出物粒子の分布密度(個/mm)を測定することができる。
上述のように、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金展伸材は、従来の耐熱性を有するアルミニウム合金よりも高い耐熱性と切削性とを合わせ持ち、さらに、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金展伸材は、溶体化処理後の急冷において、比較的小さい冷却速度であっても耐熱性の低下が小さく、その高い耐熱性を維持することができ、比較的大型の耐熱部材にも適用することができる。
すなわち、本発明の実施形態によれば、種々の検討によって最適化されたAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金の成分範囲と、製造プロセスを最適化することによって、2618合金と比較して、より高い耐熱性を有するとともに、高い切削性を有するアルミニウム合金を得ることができる。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金は、焼入れ感受性が低いという特徴を有しており、省エネルギー化のために耐熱合金が必要な部材のうち、比較的大型の部材としても使用することができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例A)
表1に示す組成に調整した各アルミニウム合金を溶解して、ホットトップ鋳造法によって鋳造して、φ300mm×長さ800mmサイズの鋳塊(ビレット)を作製した。次に、以下に示す条件でビレットに均質化処理を行った。はじめに、1段目の均質化処理として1℃/分の昇温速度で室温から470℃まで加熱して3時間保持した。次に、2段目の均質化処理として1℃/分の昇温速度で510℃まで加熱して3時間保持した。ついで、5℃/分の冷却速度で一旦室温まで冷却した。その後、ビレットの円周方向について表皮5mmを面削してから、これらのビレットを480℃に加熱した後、熱間押出を行い、φ70mmの丸棒とした。実施例Aのアルミニウム合金供試材については、冷間加工と中間焼鈍はいずれも行わず、溶体化処理として、520℃にて20分間保持した後、80℃の温水に投入する焼入れを行った。焼入れ中、520℃から100℃までの平均冷却速度は、5℃/秒であった。その後、人工時効処理として、190℃で12時間保持する処理を行い、合金番号1〜30(実施例1〜15、比較例1〜15)のサンプルを得た。その後、以下に詳細を示す晶出物粒子分布評価試験、耐熱性評価試験および切削性評価試験を行った。表1中、「−」は検出下限以下の数値であったことを示す。
(晶出物粒子分布評価試験)
上述の工程で製造した各アルミニウム合金サンプルの押出丸棒について、押出方向に対して垂直面で切断することによって円断面を露出した後、その円断面の(1/2)r部を観察部として、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチングを行った。エッチング後に金属組織観察用の光学顕微鏡を用いて、100倍の倍率に設定して順光で観察を行った。マトリクス中の黒点をAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子として、円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの粒子を1視野ごとに計数して、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、晶出物粒子(分散粒子)の分布密度(個/mm)を測定した。各サンプルについての晶出物粒子の分布密度測定結果を表2に示す。
(耐熱性評価試験)
上述の工程で製造した各アルミニウム合金サンプルについて、高温での長時間使用を想定して、200℃で500時間保持する熱処理を行った後、押出棒の長手方向が引張方向となるように、押出棒の中心部からJIS4号試験片形状の丸棒引張試験片を採取した。この丸棒引張試験片を200℃の試験雰囲気にて、引張のクロスヘッド速度を5mm/分の条件として高温引張試験を行って、その際の引張強度(TS:Tensile Strength)を計測した。結果を表2に示す。
また、同様に、200℃で500時間保持する熱処理を行った後、押出棒の長手方向が引張・圧縮方向となるように、図1に示す回転曲げ疲労試験片を各サンプルから採取して、200℃の雰囲気温度中で回転曲げ疲労試験を行った。回転曲げ疲労試験の試験周波数は20Hzとして、最大最小応力比R=−1、応力振幅160MPaの条件で、破断までの繰り返し数を測定した。結果を表2に示す。
(切削性評価試験)
上述の工程で製造した各アルミニウム合金サンプルの丸棒材を500mmの長さに切断した後、切削性評価用の高速旋盤加工機(昌運カズヌーブ製、型式:HB500)(インバータを接続し、周波数を調整することによって主軸回転数を無段階変化でき、一定速度での切削が可能)にセットして、丸棒材の切削加工を以下の条件で行った。
・工具材種:超硬K種G10E
・工具すくい角:6°
・工具逃げ角:5°
・工具ノーズ半径:0.4mm
・切削速度:7m/秒
・切込み量:1.0mm
・送り量:0.1mm/rev
5kmの切削距離まで切削を行った後、丸棒材を取り外して、丸棒の切削表面の長手方向平行の粗度を接触式粗さ計(小阪研究所社製、型式:SE−30D)によって測定した。その際に得られた各種アルミニウム合金の最大高さRmaxを表2に示す。また、切削距離が5km付近で生じた切り屑を採取して、切り屑処理性を評価した。結果を表2に示す。切り屑長さが10cm以上の場合は、連続した切り屑として「連続」と記載し、切り屑長さが10cm未満の場合は、任意の切り屑10点の平均長さを測定して、その平均値を表2に記載した。
(実施例1の評価結果)
実施例1〜15(合金番号1〜15)の評価結果について説明する。合金番号1〜15のサンプルは、含有率が2.8質量%以上4.5質量%以下のCuと、含有率が1.4質量%以上2.4質量%以下のMgと、含有率が1.1質量%以上2.0質量%以下のFeと、含有率が1.2質量%以上2.0質量%以下のNiと、含有率が0.1質量%以上0.90質量%以下のSiと、含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、を含み、 Mnの含有率が0.1質量%未満、Crの含有率が0.1質量%未満、Zrの含有率が0.1質量%未満、Scの含有率が0.1質量%未満、Vの含有率が0.1質量%未満であった。
また、合金番号1〜15のサンプルはいずれも、Al、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子の分布が、円相当径で1μm以上20μm以下の晶出物粒子の、マトリクス中における分布密度が13000個/mm2以上であった。
表2に示すように、合金番号1〜15のサンプルはいずれも、300MPa以上の高い高温引張強度と、800000回以上の高い破断までの繰返し数を示し、高温強度および高温での疲労特性が優れていることがわかった。さらに、合金番号1〜15のサンプルは、切削性が良く、切削後の表面粗度Rmaxが3.0μm以下であり、非常に平坦な仕上げ面が得られ、かつ、平均の切り屑長さが10cm未満であり、切り屑処理性に優れていることがわかった。
一方、比較例1(合金番号16)は、Cuの含有率が2.8質量%未満であった。このため、Cuの固溶量が不足して、S’相の析出密度が低下して、十分な耐熱性が得られなかった。また、晶出物の形成量が減少して、最終的なアルミニウム合金中の円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm未満であった。そのため、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。また、切削性が低く、切削後の表面粗度が大きく、切り屑も連続しており、切り屑処理性が低かった。
比較例2(合金番号17)は、Cuの含有率が4.5質量%超過であった。このため、Cuの固溶限を大幅に超えてしまうために、溶解・鋳造時に1mm程度の非常に粗大な晶出物を形成して、最終的なアルミニウム合金に残存した。非常に粗大な晶出物粒子によって、合金番号17のアルミニウム合金の高温疲労特性が著しく低下し、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例3(合金番号18)は、Mgの含有率が1.4質量%未満であった。このため、Mgの固溶量が不足して、S’相の析出密度が低下して、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例4(合金番号19)は、Mgの含有率が2.4質量%超過であった。このため、Mgの固溶限を大幅に超えてしまい、溶解・鋳造時に1mm程度の非常に粗大な晶出物を形成して、最終的なアルミニウム合金素材に残存した。非常に粗大な晶出物粒子によって、合金番号19のアルミニウム合金の高温疲労特性が著しく低下し、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例5(合金番号20)は、Siの含有率が0.1質量%未満であった。そのため、溶体化処理時に形成されるSi−空孔ペアの量が不十分で、急冷後の人工時効時のS’相の析出密度が小さかった。このため、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例6(合金番号21)は、Siの含有率が0.9質量%超過であった。このため、溶体化処理前の状態においてMgと形成されるMgSi量が多くなり過ぎ、溶体化処理時に完全に固溶することができず、マトリクス中に数百μmサイズの粗大なMgSi粒子が残存した。粗大なMgSi粒子によって、合金番号21のアルミニウム合金の高温疲労特性が著しく低下し、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例7(合金番号22)は、Feの含有率が1.1質量%未満であり、Niの含有率が1.2質量%未満であった。このため、Al、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物の形成量が減少して、最終的なアルミニウム合金中の円相当径で1μm以上20μm以下のサイズの晶出物粒子の分布密度が13000個/mm未満であった。このため、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。また、切削性が低く、切削後の表面粗度が大きく、切り屑も連続しており、切り屑処理性が低かった。
比較例8(合金番号23)は、Feの含有率が2.0質量%超過であり、Niの含有率が2.0質量%超過であった。このため、Al、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物の一部が、溶解・鋳造時に著しく粗大化して、その後、熱間加工や冷間加工を行った後の最終状態においても非常に粗大な晶出物粒子(100μm以上)として残存した。粗大な晶出物粒子によって、合金番号23のアルミニウム合金の高温疲労特性が著しく低下し、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例9(合金番号24)は、Tiの含有率が0.01質量%未満であった。このため、鋳塊組織を微細化する効果が不十分であり、鋳塊組織が粗く、結果として溶体化処理後に急冷した後の結晶粒組織が粗大であった。このため、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例10(合金番号25)は、Tiの含有率が0.20質量%超過であった。このため、鋳造時にAlおよびTiからなる粗大な化合物が晶出して、最終的なアルミニウム合金においても粗大晶出物として残存した。粗大な晶出物によって、合金番号25のアルミニウム合金の高温疲労特性が著しく低下し、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例11(合金番号26)はMnの含有率が0.1質量%超過であり、比較例12(合金番号27)はCrの含有率が0.1質量%超過であり、比較例13(合金番号28)はZrの含有率が0.1質量%超過であり、比較例14(合金番号29)はScの含有率が0.1質量%超過であり、比較例15(合金番号30)はVの含有率が0.1質量%超過であった。このため、合金番号26〜合金番号30のアルミニウム合金の焼入れ感受性が高く、溶体化処理後に比較的小さい冷却速度(5℃/秒)で焼入れを行った場合は、焼入れ途中で、MgとCuとからなる安定相のS相が、分散粒子とマトリクスとの界面で不均一核生成しやすく、結果としてCuとMgの溶質濃度が低下して、S’相の析出密度が小さくなり、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
(実施例B)
表1に示す合金番号1の組成に調整したアルミニウム合金について、以下の製造プロセスで、供試材(サンプル)とするアルミニウム合金展伸材を作製した。
はじめに、アルミニウム合金を溶解して、ホットトップ鋳造法により鋳造して、φ300mm×長さ800mmサイズの鋳塊(ビレット)を作製した。このビレットについて、表3に示す条件で均質化処理を行った後、一旦室温まで冷却してから、ビレットの円周方向について表皮5mmを面削した。ビレットを440℃に加熱保持した後、熱間押出を行い、φ70mmのサイズの丸棒形状に押出した。その後、冷間引抜きにより冷間加工を行って、φ50mmサイズの丸棒形状とした。この状態における、この合金の固相線温度は540℃であった。この丸棒について、530℃にて30分間保持する条件で溶体化処理を行った後、25℃の水に焼入れて急冷した。溶体化処理温度から100℃までの冷却速度は、約10℃/秒であった。その後、190℃で12時間保持する条件で人工時効処理を行い、実施例Aに記載した方法と同じ方法によって、晶出物粒子分布評価試験、耐熱性評価試験および切削性評価評試験を行った。結果を表3に示す。表3中、「−」は、3段目の均一化処理が行われなかったことを示す。
(実施例Bの評価結果)
実施例16〜21(条件番号1〜6)の評価結果について説明する。実施例16〜21(条件番号1〜6)のアルミニウム合金は、合金番号1の成分を有し、表3に示すように、鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金が450℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持され(第一の均質化処理工程)、500℃以上、第一の均質化処理工程後のアルミニウム合金の固相線温度未満の温度で1時間以上保持された後(第二の均質化処理工程)、300℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持されて(第三の均質化処理工程)、製造された。そのため、表4に示すように、実施例16〜21(条件番号1〜6)のアルミニウム合金において、円相当径で1μm以上20μm以下のAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子の、マトリクス中における分布密度は13000個/mm2以上であった。
それゆえ、表4に示すように、実施例16〜21のアルミニウム合金はいずれも、300MPa以上の高い高温引張強度と、800000回以上の高い破断までの繰返し数を示し、高温強度および高温での疲労特性が優れていることがわかった。さらに、実施例16〜21のアルミニウム合金は、切削性が良く、切削後の表面粗度Rmaxが3.0μm以下であり、非常に平坦な仕上げ面が得られ、かつ、平均の切り屑長さが10cm以下であり、切り屑処理性に優れていることがわかった。
実施例22(条件番号7)、実施例23(条件番号8)および実施例24(条件番号9)は、合金番号1の成分を有し、表3に示すように、鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金が450℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持され(第一の均質化処理工程)、500℃以上、第一の均質化処理工程後のアルミニウム合金の固相線温度未満の温度で1時間以上保持されて(第二の均質化処理工程)、製造された。実施例22〜24(条件番号7〜9)のアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中へのCuおよびMgの固溶量が若干少なかったと考えられ、熱間加工時の変形抵抗はあまり変化しなかったと考えられるが、表4に示すように、円相当径で1μm以上20μm以下のAl、Fe、NiおよびCuを構成元素とする晶出物粒子の、マトリクス中における分布密度は13000個/mm2以上であった。
それゆえ、表4に示すように、実施例22〜24のアルミニウム合金はいずれも、300MPa以上の高い高温引張強度と、800000回以上の高い破断までの繰返し数を示し、高温強度および高温での疲労特性が優れていることがわかった。さらに、実施例22〜24のアルミニウム合金は、切削性が良く、切削後の表面粗度Rmaxが3.0μm以下であり、非常に平坦な仕上げ面が得られ、かつ、平均の切り屑長さが10cm以下であり、切り屑処理性に優れていることがわかった。
一方、比較例16(条件番号10)は、1段目の均質化処理の温度が450℃未満であった。このため、鋳塊組織の濃度偏析を十分に解消することができず、2段目の均質化処理温度まで加熱した際に局部溶融を生じて、最終的なアルミニウム合金の延性が大幅に低下した。その結果、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例17(条件番号11)は、1段目の均質化処理の温度が500℃超過であった。このため、最終的なアルミニウム合金の延性が大幅に低下した。その結果、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例18(条件番号12)は、1段目の均質化処理の時間が1時間未満であった。このため、鋳塊組織の濃度偏析を十分に解消することができず、続いて行われた2段目の均質化処理で局部溶融を生じて、最終的なアルミニウム合金の延性が低下した。その結果、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例19(条件番号13)は、2段目の均質化処理の温度が500℃未満であった。このため、長時間にわたって保持しても、ランダム形状の晶出物の球状化がほとんど進まず、最終的なアルミニウム合金において、円相当径で1μm以上20μm以下の晶出物粒子のマトリクス中における分布密度が13000個/mm2未満であった。そのため、条件番号13のアルミニウム合金の耐熱性は低く、また、切削性も低かった。
比較例20(条件番号14)は、2段目の均質化処理の温度が、アルミニウム合金の固相線温度以上であった。このため、2段目の均質化処理中にアルミニウム合金の一部で局所溶融が生じてしまい、最終的なアルミニウム合金の延性が低下した。その結果、高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。
比較例21(条件番号15)は、2段目の均質化処理の時間が、1時間未満であった。このため、ランダム形状の晶出物の球状化がほとんど進まず、最終的なアルミニウム合金において、円相当径で1μm以上20μm以下の晶出物粒子のマトリクス中における分布密度が13000個/mm2未満であった。そのため、条件番号15のアルミニウム合金の耐熱性は低く、また、切削性も低かった。

Claims (3)

  1. 含有率が2.8質量%以上4.5質量%以下のCuと、
    含有率が1.4質量%以上2.4質量%以下のMgと、
    含有率が1.1質量%以上2.0質量%以下のFeと、
    含有率が1.2質量%以上2.0質量%以下のNiと、
    含有率が0.1質量%以上0.90質量%以下のSiと、
    含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、
    を含み、
    Mnの含有率が0.1質量%未満、
    Crの含有率が0.1質量%未満、
    Zrの含有率が0.1質量%未満、
    Scの含有率が0.1質量%未満、
    Vの含有率が0.1質量%未満、
    に規制され、
    残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
    マトリクス中において、円相当径で1μm以上20μm以下の晶出物粒子の分布密度が13000個/mm2以上である、
    ことを特徴とするアルミニウム合金。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金の製造方法であって、
    均質化処理工程が、
    鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金を、450℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持する第一の均質化処理工程と、
    500℃以上、前記第一の均質化処理工程後の前記アルミニウム合金の固相線温度未満の温度で1時間以上保持する第二の均質化処理工程と、
    を含む、
    ことを特徴とするアルミニウム合金の製造方法。
  3. 前記第二の均質化処理工程後のアルミニウム合金を、300℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持する第三の均質化処理工程をさらに含む、
    ことを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金の製造方法。
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