以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るモータ駆動装置のブロック図である。なお、図1は、一例を示すものであり、この構成に限定されるものではなく、三相のインバータブリッジ回路を備えた構成であればよい。
図1に示すように、モータ駆動装置は、三相交流電源(電源)1からの交流を直流に変換する整流器2と、整流器2からの直流を交流に変換して三相モータ3に出力するインバータブリッジ回路4と、インバータブリッジ回路4をPWM制御するモータ制御回路(制御回路)5とを備えている。また、整流器2の出力端には、整流器2の出力(直流電圧)を平滑にする平滑コンデンサ6が並列に接続されている。インバータブリッジ回路4は、整流器2の出力端に対して互いに並列に接続された三相分のハーフブリッジ回路7を有している。
U相のハーフブリッジ回路7uは、上アーム(ハイサイド)のスイッチング素子T1と下アーム(ローサイド)のスイッチング素子T4とを直列に接続し、スイッチング素子T1、T4のそれぞれに対して還流ダイオードD1、D4を並列に接続して構成される。同様に、V相のハーフブリッジ回路7vは、上アームのスイッチング素子T2と下アームのスイッチング素子T5とを直列に接続し、スイッチング素子T2、T5のそれぞれに対して還流ダイオードD2、D5を並列に接続して構成される。
W相のハーフブリッジ回路7wは、上アームのスイッチング素子T3と下アームのスイッチング素子T6とを直列に接続し、スイッチング素子T3、T6のそれぞれに対して還流ダイオードD3、D6を並列に接続して構成される。また、U相のスイッチング素子T1、T4の接続点、V相のスイッチング素子T2、T5の接続点、W相のスイッチング素子T3、T6の接続点は、それぞれ三相モータ3の不図示の三相の励磁コイルを介して相互に接続されている。
三相のハーフブリッジ回路7u−7wには、モータ制御回路5からPWM信号が入力される。スイッチング素子T1−T6のゲートにはモータ制御回路5からの入力ラインが接続されている。スイッチング素子T1−T6は、モータ制御回路5からPWM信号が印加されることで、オン状態とオフ状態とが切り替えられる。このスイッチング素子T1−T6のオンオフによって、三相モータ3に流れるU相電流、V相電流、W相電流が制御される。本実施の形態では、U相電流、V相電流、W相電流がそれぞれ120°シフトした正弦波状の三相電流波形(図2参照)を描くようにPWM制御される。
三相モータ3が駆動される際には、インバータブリッジ回路4から三相モータ3に電力を供給する力行運転と、三相モータ3からインバータブリッジ回路4に電力が戻ってくる回生運転とが繰り返される。力行運転の場合には、三相モータ3に対して急激な加速が必要とされ、インバータブリッジ回路4での消費電力も大きくなる。一方、回生運転の場合には、高速回転から急激な減速になるほど三相モータ3からインバータブリッジ回路4を介して平滑コンデンサ6に戻る回生電流が大きくなる。
なお、本実施の形態のスイッチング素子T1−T6は、パワートランジスタで構成したが、この構成に限定されない。スイッチング素子は、電流電圧を制御できる電流電圧制御素子であればよく、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、バイポーラトランジスタでもよい。また、還流ダイオードD1−D6は、回生電流の経路を構成する素子であればよく、パワートランジスタに内蔵される寄生ダイオードを使用することもできる。
次に、モータ制御回路によるPWM制御について説明する。ここでは、三相制御方式で三相電流波形を形成する場合と、二相制御方式で三相電流波形を形成する場合について個別に説明する。図2は、三相モータに流れる三相電流波形を示す図である。図3は、三相制御方式のPWM信号波形の一例を示す図である。図4は、二相制御方式のPWM信号波形の一例を示す図である。図5は、二相制御方式のPWM信号波形の他の一例を示す図である。
図6は、二相制御方式のPWM制御パターンの切り替え時の一例を示す図である。図7は、二相制御方式のPWM制御パターンの切り替え時の他の一例を示す図である。なお、図2において、実線UがU相電流の変化、破線VがV相電流の変化、一点鎖線WがW相電流の変化をそれぞれ示している。また、図3から図7において、U上、V上、W上が上アームのU相、V相、W相をそれぞれ示し、U下、V下、W下が下アームのU相、V相、W相をそれぞれ示している。
図2に示すように、三相電流波形は、正弦波状に変化するU相電流、V相電流、W相電流を120°シフトして形成される。U相電流を基準とすると、位相0°付近でU相電流の電流値が0になり、位相120°付近でV相電流の電流値が0になり、位相240°付近でW相電流の電流値が0になる。このように、各相の電流位相を120°シフトさせた三相電流波形では、60°毎にいずれか1相の電流値が0になるように変化する。この三相電流波形は、インバータブリッジ回路4に入力されるPWM信号によって形成される。
図3を参照して、三相制御方式について説明する。三相制御方式は、U相、V相、W相の三相のそれぞれにオン区間とオフ区間とを設定し、パルス周期内で三相のスイッチング素子Tの切り替えを生じさせることで三相電流波形を形成する制御方式である。例えば、図2のP1に示す三相電流波形の位相120°付近は、図3に示すPWM信号波形に基づいたスイッチングにより形成される。位相120°付近では、上アームのU相、V相、W相のデューティ比がそれぞれ50%以上、50%、50%以下に設定され、下アームのU相、V相、W相のデューティ比がそれぞれ50%以下、50%、50%以上に設定される。
ステップAの区間では、上アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がLowに設定され、下アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がHighに設定される。よって、スイッチング素子T1−T3がオフ状態に制御され、スイッチング素子T4−T6がオン状態に制御される。この結果、三相モータ3に流れる電流が、スイッチング素子T6、還流ダイオードD4、三相モータ3、又はスイッチング素子T6、還流ダイオードD5、三相モータ3に転流される。なお、転流とは一つの経路から他の経路への流れを示し、本実施の形態においては三相モータ3の駆動に影響を与えない流れを示している。
ステップBの区間では、上アームにおいて、U相、V相、W相のいずれか1相のPWM信号がHighに設定され、残り2相のPWM信号がLowに設定される。また、下アームにおいて、上アームでHighに設定された1相のPWM信号がLowに設定され、上アームでLowに設定された残り2相のPWM信号がHighに設定される。図3では、上アームのU相、下アームのV相、W相のPWM信号がHighに設定され、上アームのV相、W相、下アームのU相のPWM信号がLowに設定されている。よって、スイッチング素子T1、T5、T6がオン状態に制御され、スイッチング素子T2−T4がオフ状態に制御される。この結果、上アームのスイッチング素子T1から三相モータ3を通って下アームのスイッチング素子T5、T6に向かって電流が流れ、三相モータ3が駆動される。
ステップCの区間では、上アームにおいて、U相、V相、W相のいずれか2相のPWM信号がHighに設定され、残り1相のPWM信号がLowに設定される。また、下アームにおいて、上アームでHighに設定された2相のPWM信号がLowに設定され、上アームでLowに設定された残り1相のPWM信号がHighに設定される。図3では、上アームのU相、V相、下アームのW相のPWM信号がHighに設定され、上アームのW相、下アームのU相、V相のPWM信号がLowに設定されている。よって、スイッチング素子T1、T2、T6がオン状態に制御され、スイッチング素子T3−T5がオフ状態に制御される。この結果、上アームのスイッチング素子T1、T2から三相モータ3を通って下アームのスイッチング素子T6に向かって電流が流れ、三相モータ3が駆動される。
ステップDの区間では、上アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がHighに設定され、下アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がLowに設定される。よって、スイッチング素子T1−T3がオン状態に制御され、スイッチング素子T4−T6がオフ状態に制御される。この結果、三相モータ3に流れる電流は、スイッチング素子T1、三相モータ3、還流ダイオードD2、又はスイッチング素子T1、三相モータ3、還流ダイオードD3に転流される。このように、三相制御方式は、ステップA−ステップDまでの処理の組み合せにより制御される。
図3に示すように、三相電流波形の位相120°付近では、ステップA、ステップB、ステップC、ステップD、ステップD、ステップC、ステップB、ステップAの順に処理が実施される。このとき、三相モータ3に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、図3の下半部に示すような傾向を示す。この三相制御方式は、三相全てのスイッチング素子Tのオンオフ状態を切り替えるため、スイッチング回数が多くスイッチング損失が大きい。このため、三相制御方式と比較してスイッチング回数を減らすことができる二相制御方式が提案されている。
続いて、図4及び図5を参照して、二相制御方式について説明する。二相制御方式は、上アーム及び下アームのいずれか一方においてU相、V相、W相のうち1相に常時オン区間を設定し、いずれか他方において上記1相に常時オフ区間を設定する。すなわち、二相制御方式は、U相、V相、W相のいずれか1相のスイッチング素子Tの切り替えをなくすことで、二相制御によって三相電流波形を形成する制御方式である。例えば、図2のP2に示す三相電流波形の位相90°付近は、図4に示すPWM信号波形に基づいたスイッチングにより形成される。また、図2のP3に示す三相電流波形の位相270°付近は、図5に示すPWM信号波形に基づいたスイッチングにより形成される。
図4及び図5に示すように、二相制御方式は、上記したステップBとステップDとの組み合わせ、又は上記したステップAとステップCとの組み合わせにより制御される。ステップBとステップDとの組み合わせでは、上アームにおいてU相、V相、W相のいずれか1相のPWM信号が1パルス周期にわたってHighに設定され、下アームにおいてこの1相のPWM信号が1パルス周期にわたってLowに設定される。また、ステップAとステップCとの組み合わせでは、上アームにおいてU相、V相、W相のいずれか1相のPWM信号が1パルス周期にわたってLowに設定され、下アームにおいてこの1相のPWM信号が1パルス周期にわたってHighに設定される。
図4に示すように、三相電流波形の位相90°付近では、ステップB、ステップD、ステップD、ステップBの順に処理が実施される。ここでは、上アームのU相のPWM信号が1パルス周期にわたってHighに設定され、下アームのU相のPWM信号が1パルス周期にわたってLowに設定される。よって、U相のスイッチング素子T1に対して常時オン区間が設定され、U相のスイッチング素子T4に対して常時オフ区間が設定される。このとき、三相モータ3に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、図4の下半部に示すような傾向を示す。
図5に示すように、三相電流波形の位相270°付近では、ステップA、ステップC、ステップC、ステップAの順に処理が実施される。ここでは、上アームのU相のPWM信号が1パルス周期にわたってLowに設定され、下アームのU相のPWM信号が1パルス周期にわたってHighに設定される。よって、U相のスイッチング素子T1に対して常時オフ区間が設定され、U相のスイッチング素子T4に対して常時オン区間が設定される。このとき、三相モータ3に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、図5の下半部に示すような傾向を示す。
ところで、二相制御方式を用いることでスイッチング回数を低減できるが、三相電流波形の位相60°、120°、180°、240°、300°、360°付近のように電流値が0になる位相には適用し難いという問題がある。例えば、図6に示すように、位相60°から位相120°までは第1のPWM制御パターンを繰り返して二相制御し、位相120°から位相180°までは第2のPWM制御パターンを繰り返して二相制御する。PWM制御パターンの切り替えが生じる位相120°付近では、パルス幅(出力電圧指令値)が急激に変化するため、二相制御方式では適切に制御することができない。
この場合、この二相制御方式のPWM制御パターンの切り替わり部分に一時的に三相制御方式のPWM制御パターンを挟む構成が考えられる。例えば、図7に示すように、位相60°付近から120°付近までは第1のPWM制御パターンを繰り返して二相制御し、位相120°付近から位相180°付近までは第2のPWM制御パターンを繰り返して二相制御し、ちょうど位相120°では第3のPWM制御パターンで三相制御する。このような構成により、PWM制御パターンの切り替え時のパルス幅の急激な変化を抑え、三相電流波形の電流値が0になる位相についても対応可能にしている。
しかしながら、このような構成では位相120°付近において制御方式を頻繁に切り替える必要があるため、制御構成が煩雑になるという不具合がある。また、第1のPWM制御パターンから第3のPWM制御パターンへの切り替わり時に、破線Sに示すようにスイッチングが発生してスイッチング損失が増加する。本件出願人は、二相制御方式と三相制御方式の組み合わせに起因する上記不具合を改善するために本発明に至った。以下、本発明のモータ制御回路5によるPWM制御について詳細に説明する。
図8は、本実施の形態に係るPWM信号波形の一例を示す図である。図9は、本実施の形態に係る転流区間をオフ区間としたPWM信号波形の一例を示す。また、図8及び図9において、U上、V上、W上が上アームのU相、V相、W相をそれぞれ示し、U下、V下、W下が下アームのU相、V相、W相をそれぞれ示している。
本実施の形態に係るPWM制御では、上記した三相制御方式と二相制御方式とを60°毎に切り替えるように制御する。例えば、図8に示すように、位相60°−120°までは三相制御し、位相120°−180°までは二相制御する。よって、位相60°−120°までの三相制御では、ステップA、ステップB、ステップC、ステップD、ステップD、ステップC、ステップB、ステップAの順に処理が繰り返される。一方、位相120°−180°までの二相制御では、ステップA、ステップC、ステップC、ステップAの順に処理が繰り返される。
したがって、三相制御方式から二相制御方式への切り替わり時には、三相制御方式のステップAと二相制御方式のステップAとが連続する。このため、三相制御方式のオン区間と二相制御方式の常時オン区間が連続し、三相制御方式のオフ区間と二相制御方式の常時オフ区間が連続するように制御される。よって、三相制御方式と二相制御方式との切り替え時のスイッチング回数が減ってスイッチング損失が低減される。本実施の形態に係るPWM制御では、三相電流波形の位相60°−120°、180°−240°、300°−360°を三相制御方式で制御し、三相電流波形の位相0°−60°、120°−180°、240°−300°を二相制御方式で制御することで、制御方式の切り替え時にステップAを連続させることができる。
なお、三相電流波形の位相0°−60°、120°−180°、240°−300°を三相制御方式で制御し、位相60°−120°、180°−240°、300°−360°を二相制御方式で制御することも可能である。この場合、制御方式の切り替え時にステップDが連続することで、三相制御方式のオン区間と二相制御方式の常時オン区間が連続し、三相制御方式のオフ区間と二相制御方式の常時オフ区間が連続するように制御される。よって、三相制御方式と二相制御方式との切り替え時のスイッチング回数が減ってスイッチング損失が低減される。また、本実施の形態に係るPWM制御では、制御方式の切り替えが60°毎に行われるので、二相制御方式で制御できない区間だけを一時的に三相制御方式に切り替えて、再び二相制御方式に戻す構成と比較して制御構成が煩雑になることもない。
次に、図1及び図8を参照して、位相60°−120°までの三相制御について説明する。ステップAの区間では、上アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がLowに設定され、下アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がHighに設定される。よって、スイッチング素子T1−T3がオフ状態に制御され、スイッチング素子T4−T6がオン状態に制御される。この結果、三相モータ3に流れる電流が、スイッチング素子T6、還流ダイオードD4、三相モータ3、又はスイッチング素子T6、還流ダイオードD5、三相モータ3に転流される。
次に、ステップBの区間では、上アームのU相、下アームのV相、W相のPWM信号がHighに設定され、上アームのV相、W相、下アームのU相のPWM信号がLowに設定されている。よって、スイッチング素子T1、T5、T6がオン状態に制御され、スイッチング素子T2−T4がオフ状態に制御される。この結果、上アームのスイッチング素子T1から三相モータ3を通って下アームのスイッチング素子T5、T6に向かって電流が流れ、三相モータ3が駆動される。
次に、ステップCの区間では、上アームのU相、V相、下アームのW相のPWM信号がHighに設定され、上アームのW相、下アームのU相、V相のPWM信号がLowに設定されている。よって、スイッチング素子T1、T2、T6がオン状態に制御され、スイッチング素子T3−T5がオフ状態に制御される。この結果、上アームのスイッチング素子T1、T2から三相モータ3を通って下アームのスイッチング素子T6に向かって電流が流れ、三相モータ3が駆動される。
次に、ステップDの区間では、上アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がHighに設定され、下アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がLowに設定される。よって、スイッチング素子T1−T3がオン状態に制御され、スイッチング素子T4−T6がオフ状態に制御される。この結果、三相モータ3に流れる電流は、スイッチング素子T1、三相モータ3、還流ダイオードD2、又はスイッチング素子T1、三相モータ3、還流ダイオードD3に転流される。続いて、ステップD、ステップC、ステップB、ステップAの順に処理が行われる。そして、この8ステップを1周期として処理が繰り返される。
次に、位相120°−180°までの二相制御について説明する。ステップAの区間では、上アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がLowに設定され、下アームのU相、V相、W相の三相全てのPWM信号がHighに設定される。よって、スイッチング素子T1−T3がオフ状態に制御され、スイッチング素子T4−T6がオン状態に制御される。この結果、三相モータ3に流れる電流が、スイッチング素子T6、還流ダイオードD4、三相モータ3、又はスイッチング素子T6、還流ダイオードD5、三相モータ3に転流される。
次に、ステップCの区間では、上アームのU相、V相、下アームのW相のPWM信号がHighに設定され、上アームのW相、下アームのU相、V相のPWM信号がLowに設定されている。よって、スイッチング素子T1、T2、T6がオン状態に制御され、スイッチング素子T3−T5がオフ状態に制御される。この結果、上アームのスイッチング素子T1、T2から三相モータ3を通って下アームのスイッチング素子T6に向かって電流が流れ、三相モータ3が駆動される。続いて、ステップC、ステップAの順に処理が行われる。そして、この4ステップを1周期として処理が繰り返される。
このように、本実施の形態に係るPWM制御では、三相制御方式と二相制御方式とを60°毎に切り替え、この切り替えタイミングにおけるスイッチングの発生を抑えることで、制御構成を容易にしつつ、スイッチング損失を低減している。
また、上記したPWM制御では、U相、V相、W相のうち最も短いオン区間が、三相モータ3の駆動に影響を与えない転流区間として設定されている。図9に示すように、この転流区間をオフ区間に設定することも可能である。よって、三相モータ3の駆動に影響を与えることなく、スイッチング回数を減らして、スイッチング損失を更に低減することができる。また、スイッチング素子Tのオン区間(動作時間)が減少するため、飽和損失を低減することもできる。なお、全ての転流区間をオフ区間に設定してもよいし、一部の転流区間だけをオフ区間に設定してもよい。
ところで、三相電流波形の位相60°、120°、180°、240°、300°、360°付近では、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwのいずれかの電流値が0に近付くように三相制御されている。例えば、図3に示すように、三相電流波形の位相120°付近では、V相電流Ivの電流値が0に近付くように制御されており(図2参照)、三相モータ3にはV相電流Ivが流れない。よって、図10に示すように、V相電流Ivの電流値が0に近付く直前のオン区間をオフ区間に設定しても、三相モータ3の駆動に影響がない。よって、三相モータ3の駆動に影響を与えることなく、スイッチング回数を減らして、スイッチング損失を更に低減することができる。
なお、三相電流波形の電流値が0になる直前の1パルス(1パルス周期)のV相のオン区間をオフ区間に設定してもよいし、三相電流波形の電流値が0になる直前の数パルス(数パルス周期)のV相のオン区間をオフ区間に設定してもよい。また、スイッチング素子Tのオン区間(動作時間)が減少するため、飽和損失を低減することもできる。このとき、三相モータ3に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、図10の下半部に示すような傾向を示しており、図3の下半部に示すようなV相電流Ivの一時的な増減を抑えることができ、無駄な電流を抑えることができる。
また、三相制御方式と二相制御方式とを60°毎に切り替える構成に、三相電流波形のいずれかの相の電流値が0になる直前の1パルス又は複数パルスのオン区間をオフ区間に設定する構成を適用したが、この構成に限定されない。通常の三相制御方式に対して、三相電流波形の1相の電流値が0になる直前の1パルス又は複数パルスのオン区間をオフ区間に設定する構成を適用することも可能である。
図11を参照して、上記したPWM制御のシミュレーション結果について説明する。図11は、シミュレーションで使用する回路図である。以下のシミュレーションでは、3つのPWM制御パターンを実施した。1つ目のPWM制御パターンは、三相制御方式のみを用いた通常のPWM制御である。2つ目のPWM制御パターンは、二相制御方式において転流区間をオフ区間に設定したPWM制御である。3つ目のPWM制御パターンは、三相制御方式において三相電流波形の電流値が0になる1相をオフ区間に設定したPWM制御である。
すなわち、1つ目のPWM制御パターンは図3に示すような通常制御を想定している。2つ目のPWM制御パターンは、図9の右半部に示すように、三相制御方式から二相制御方式に切り替わった状態を想定している。3つ目のPWM制御パターンは、図10に示すように、三相制御方式においてV相に常時オフ区間が設定された状態を想定している。
図11に示すシミュレーション回路は、図1に示す全体構成図に対応するものである。このシミュレーション回路では、電源V1を280[V]に設定し、スイッチング素子T1−T6としてIGBTを用いた。IGBTのゲート駆動電圧のLowレベルは−5[V]であり、Highレベルは15[V]である。また、各IGBT駆動用のゲート抵抗R1−R6を30[Ω]に設定した。さらに、三相モータ3のインダクタンス成分L1−L3を1500[μH]に設定し、三相モータ3の内部抵抗R7−R9を1.03[Ω]に設定した。
また、図中のPWM_U_UP、PWM_V_UP、PWM_W_UP、PWM_U_DOWN、PWM_V_DOWN、PWM_W_DOWNは、それぞれPWM信号源を示す。以上の構成で、PWM信号の1パルス周期を90[μs]とし2周期の観測を行い、スイッチング素子T1−T6のスイッチング損失の平均値を算出した。ここで、1つ目のPWM制御パターンでは、スイッチング素子T1−T6のオン時間を、それぞれ55[μs]、33[μs]、33[μs]、57[μs]、35[μs]、35[μs]に設定した。この結果、1つ目のPWM制御パターンの平均のスイッチング損失は5.43[W]になった。
2つ目のPWM制御パターンでは、スイッチング素子T1、T2、T5のオン時間を、18[μs]、8[μs]、10[μs]に設定し、スイッチング素子T3、T4を常時オフに設定し、スイッチング素子T6を常時オンに設定した。この結果、2つ目のPWM制御パターンの平均のスイッチング損失は4.22[W]になり、1つ目のPWM制御パターンと比較して2周期で1.2[W]程度低減された。よって、三相制御方式と二相制御方式とを60°毎に切り替える制御方式では、三相制御のみを適用する構成と比較して、全体としてのスイッチング損失を低減させることが確認できた。
3つ目のPWM制御パターンでは、スイッチング素子T1、T3、T4、T6のオン時間を、53[μs]、33[μs]、55[μs]、35[μs]に設定し、スイッチング素子T2、T5を常時オフに設定した。この結果、3つ目のPWM制御パターンの平均のスイッチング損失は5.42[W]になり、1つ目のPWM制御パターンと比較して2周期で0.1[W]程度低減された。よって、三相制御方式において三相電流波形の電流値が0になる1相をオフ区間に設定する制御方式では、通常の三相制御構成と比較して、全体としてのスイッチング損失を低減させることが確認できた。
なお、本シミュレーション結果は、2周期分のスイッチング損失を測定したものであるので、三相モータ3の駆動時間の増加によってPWM制御が繰り返されることで、効果が大きくなることが想定される。
以上のように、本実施の形態に係るモータ駆動装置によれば、三相制御方式と二相制御方式とを切り替えて制御されるため、三相制御方式だけでPWM制御する構成と比較してスイッチング回数を減らして、スイッチング損失を低減できる。また、三相制御方式と二相制御方式との切り替え時においても、スイッチングが生じないように制御されるため、スイッチング損失を低減できる。さらに、二相制御方式と三相制御方式とが60°毎に切り替わるため、制御構成が複雑になることがない。よって、簡易な制御構成で、スイッチング損失による電力損失を低減できる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記した実施の形態において、三相交流電源1から整流器2を介してインバータブリッジ回路4に直流電圧が供給される構成としたが、この構成に限定されない。インバータブリッジ回路4に対して直流電圧が供給される構成であればよく、三相交流電源1及び整流器2の代わりに直流電源を設ける構成としてもよい。