以下、実施の形態に係るインクジェットヘッドについて、図1乃至図10を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
(一実施形態)
図1は一実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図である。本実施形態に係るインクジェットヘッドは、複数のノズル穴51およびインクの液室を有するヘッド本体11と、それぞれこのヘッド本体11の液室に開口する複数のインク流路、これらのインク流路のうちのインク供給路80及び液室からの2経路のインク排出路81、インク供給路80へのインクの供給口82およびインク排出路81へのインクの排出口83を有するベース部12とを備える。このインクジェットヘッドはこのベース部12に設けられヘッド本体11を吐出駆動するドライバIC21を含む一対の駆動回路18と、駆動回路18の発熱を放熱する一対のヒートシンク14、15と、これらのヒートシンク14、15、駆動回路18、ベース部12およびヘッド本体11を固定する基準プレート(データムプレート:DATUM−PLATE−BLOCK)13と、それぞれこの基準プレート13に接続され冷媒を封止した2本のヒートパイプ66、67とを備えている。
図2はヘッド本体11の一例を示す上面斜視図である。図3はインクジェットヘッドの図2中のZZ線の縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。なお図2には枠部材53は示されておらず、図3では複数対の圧電素子のうちの一つのみが示されている。
ヘッド本体11はインクを吐出するインクジェットヘッド本体であり、複数のノズル穴51が形成されたオリフィスプレート52と、枠部材53とを有する。オリフィスプレート52はポリイミド製の矩形のフィルムである。ノズル穴51はそれぞれノズル配列方向に2列に形成される。枠部材53は例えばニッケル合金製であり、ベースプレート54の主面とオリフィスプレート52とにそれぞれ接着されている。
ベース部12は、インク供給路80に連通する孔85およびインク排出路81に連通する他の孔86を有するベースプレート54と、これらの孔85、86、インク供給路80、2本のインク排出路81、これらの2本のインク排出路81を結合した更に1本のインク排出路と、供給口82および排出口83を内部に形成されたマニフォールド22とを備える。マニフォールド22は、インク流路の分岐部兼結合部である。マニフォールド22は供給路82からインク供給路80、孔85を通って液室55にインクを供給する。マニフォールド22は液室55から圧力室87を経た孔86からのインクを、1本に結合されたインク排出路によりインクを排出口83へ排出する。
また、ベースプレート54、オリフィスプレート52及び枠部材53は液室55を形成している。複数のノズル穴51の下方にそれぞれ圧電素子87が設けられている。2列のノズル配列方向に沿って複数個の圧電素子87が設けられており、図3左方にその一方の列が示されている(他方の列の圧電素子87は不図示)。ノズル配列方向で隣接する2つの圧電素子87の側壁が一つの圧力室88を形成する。圧電素子87間の一つの圧力室88と、液室55との間でインクが流動可能になっている。ベースプレート54上の配線パターン84は圧力室内部の側壁及び底面に形成された電極89に接続されている。圧電素子87はドライバIC21により駆動され、圧力室88の容積を変化させる。インクは圧力室88に充填され、圧力室88を通過する。インクがノズル穴51から被記録媒体へ突出される。
図4は一実施形態に係るインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図であり、図1の例とは天地を反対にして表示している。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ベース部12のマニフォールド22はベースプレート54に供給パイプ16を介して上方からインクを供給し、排出パイプ17を介して下方からのインクを排出する。ベース部12はこのマニフォールド22上にシール用の部材24を介してこれらの供給パイプ16および排出パイプ17を設けている。供給パイプ16および排出パイプ17はそれぞれチューブに接続される。
また、一対の駆動回路18がベースプレート54を挟んで対称に設けられており、これらの駆動回路18はヘッド本体11とプリンタ本体側との間で制御信号を送受信し複数の圧電素子87を駆動する。片方の駆動回路18は、リジットプリント配線板(PCB)19と、耐熱性の2枚のフレキシブルプリント配線板(FPC)20と、複数個の駆動制御用のドライバIC(Dr.IC)21とを備えている。フレキシブルプリント配線板20は例えばポリイミド製のフィルム配線であり、その一端部がリジットプリント配線板19に接続され、他端部は配線パターン84(図3)に接続されている。ドライバIC21はCOF(chip on film)によりフレキシブルプリント配線板20にパッケージ化されている。ドライバIC21は、複数の電極89(図3)にそれぞれパルス電圧を印加可能にされている。他方の駆動回路18も一方の駆動回路18と同じ構成を有する。各駆動回路18はリジットプリント配線板19にプリンタ本体側のコントローラへのコネクタ32、受動部品33類を有する。
図5は一実施形態に係るインクジェットヘッドの締結前の分解斜視図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ヒートシンク14はネジ54やボルト38、39類によって基準プレート13の左側面に固定されており、ヒートシンク15も同様に基準プレート13の右側面に固定される。これらのヒートシンク14、15はネジ54やボルト38、39等によって互いにカシメ合い、ヒートシンク14の内壁面及びヒートシンク15の内壁面間に、基準プレート13、インク供給用のチューブ47及びインク排出用のチューブ48及び2本のヒートパイプ66、67を覆う。ヒートシンク14には例えばアルミニウム又は熱伝導に優れたモールドの成型品が用いられる。ヒートシンク14には複数のフィンが形成されてもよい。ヒートシンク15もヒートシンク14と同様である。これらのヒートシンク14、15が互いに取付けられた状態で、フレキシブルプリント配線板20がその根元から上方へ折り曲げられる。チューブ47、48の各下方の一端は供給パイプ16、排出パイプ17にそれぞれ接続される。チューブ47、48の各上方の他端はパイプ34、35にそれぞれ連結される。これらのパイプ34にはそれぞれインク供給管68、インク排出管69の各一端が接続されており、インク供給管68、インク排出管69の各他端は接続部64、65を介して第2のインク経路63、第1のインク経路62に接続されている。
インク供給管68は第2のインク経路63からインクの供給口82(図3)へインクを供給する。インク排出管69はこのインク供給管68に並設されインクの排出口83(図3)から第1のインク経路62へインクを排出する。第1のヒートパイプ66及び第2のヒートパイプ67はそれぞれこれらのインク供給管68およびインク排出管69の並設位置よりも外側に設けられている。
図6は一実施形態に係るインクジェットヘッドの三面図である。図6(a)はインクジェットヘッドの上面図である。図6(b)は図6(a)の正面図である。図6(c)は図6(b)のBB線による右側面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。基準プレート13は図6(b)のようにインクジェットヘッドをプリンタ本体側の鉄製の取付け板40に固定し、プリンタ本体に対して位置決めをするための金属プレートである。基準プレート13には例えばアルミニウム製の成型品が用いられており、取付け板40の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する。熱膨張率とは体積膨張率又は線膨張率であり、温度(摂氏)の逆数の次元により表される。基準プレート13(図4)は、それぞれパイプ34、35に挿通される貫通孔25、26と、それぞれヒートパイプ66、67にそれぞれ挿通される貫通孔29、30と、その長尺方向両端の締結部27、28とを有する。締結部28(図6)はボルト44によってこの締結部28の貫通穴、取付け板40側のボルト孔、及び取付け板40上のスペーサ兼ねスタッド42のそれぞれに螺合することでプリンタ本体側にインクジェットヘッドを固定する。締結部27もその貫通穴、取付け板40側のボルト孔及びスタッド43のそれぞれにボルト45を螺合させる。
図7は一実施形態に係るインクジェットヘッドとインクパスとの位置関係を示す斜視図である。図8は一実施形態に係るインクジェットヘッドとインクパスとの位置関係を示す別方向からの斜視図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。このインクジェットヘッドが設けられるプリンタ本体側には、インクタンク100と、図示しないインク循環機構とが設けられている。インク循環機構は、インクタンク100からのインクをインク循環方向に循環させてインクジェットヘッドにインクを供給し、このインクジェットヘッドからのインクをインク循環方向に循環させてインクタンク100へ排出する機構である。インク循環機構は複数本のインク経路を有する。
図7、図8の上方には、ヘッド本体11からの排出インクをインクタンク100へ排出する第1のインク経路(インクパス[out-port])62と、インクタンク100からの供給用インクをヘッド本体11へ供給する第2のインク経路(インクパス[in-port])63とが設けられている。第1のヒートパイプ66はその上端が第1のインク経路62及び第2のインク経路63に接続されており、その下端が基準プレート13に接続されている。第1のヒートパイプ66の上端はヒートパイプガイド60により第1のインク経路62及び第2のインク経路63に接続されてもよい。第2のヒートパイプ67はその上端が第1のインク経路62及び第2のインク経路63に接続されており、その下端が基準プレート13に接続されている。第2のヒートパイプ67の上端はヒートパイプガイド61により第1のインク経路62及び第2のインク経路63に接続されてもよい。
第1のヒートパイプ66は管内の流路と、この流路を上昇又は下降する冷媒とを有する。第1のヒートパイプ66の一端側、即ち下方において液相の冷媒が基準プレート13からの熱の吸収により気化してこの第1のヒートパイプ66の他端側、即ち上方に移動する。気相の冷媒は第1のインク流路62又は第2のインク流路63への熱の放出により冷却されて凝縮して第1のヒートパイプ66の下方へ流れ落ちる。第2のヒートパイプ67もその下方において液相の冷媒が基準プレート13からの熱の吸収により気化して第2のヒートパイプ67の上方に移動し、気相の冷媒が第1のインク流路62又は第2のインク流路63への熱の放出により冷却されて凝縮して第2のヒートパイプ67の下方へ流れ落ちる。
また、ドライバIC21がヒートシンク14、15の背面下部に密着する。4つのドライバIC21(図7、図8では2つのドライバIC21が示されている)はケーブル36、37によってプリンタ本体側のコントローラと信号を授受する。
図9は本実施形態に係るインクジェットヘッドの図6(a)のCCに沿う縦断面図である。図10は本実施形態に係るインクジェットヘッドの図9のDDに沿う縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。第1のヒートパイプ66、第2のヒートパイプ67の各下端部は屈曲し、これらの下端部はマニフォールド22の片面と基準プレート13の片面との空隙に挟まれた状態で固定される。つまり、第1のヒートパイプ66及び第2のヒートパイプ67は基準プレート13と、マニフォールド22との双方に接続されている。
次に上述の構成の本実施形態に係るインクジェットヘッドの作用動作について述べると、吐出についてはプリンタ本体からの駆動信号を各駆動回路18が受信し、何れかのドライバIC21は複数の圧力室88へパルス電圧信号を印可して電界を発生させ、これらの圧力室88の側壁を変形させる。ヘッド本体11では圧力室88の容積が拡張し縮小することにより、インクが加圧され、ヘッド本体11は液滴をノズル穴51から吐出する。このインクジェットヘッドが吐出時にドライバIC21にて発生した熱はヒートシンク14、15、第1のヒートパイプ66及び第2のヒートパイプ67に伝わり、ヒートシンク14、15及び基準プレート13は放熱する。
ここで締結部27、28が強い力でボルト締めされており駆動回路18の駆動期間が短い場合、発熱によりボルト44、45の軸芯の位置が基準プレート13の長尺方向外方へ変位しても冷却により元に戻り、ヘッド本体11が印字品質に影響を及ぼす程度に変形することはない。基準プレート13は長尺方向と直交する印字送り方向にも伸びるが、この送り方向のプレート寸法が伸びても冷却によりこのプレート寸法は元に戻る。あるいは印字ずれに実質的に寄与しない程度のずれにとどまる。
駆動回路18による発熱量の増大によりドライバIC21が放熱すると、ヒートシンク材質はアルミニウム製であるため高い熱伝導効率によって基準プレート13と取付け板40とがヒートシンク14、15からの伝熱によって図6(b)の左右へと膨張する。締結部27、28が強い力でボルト締めされた状態では基準プレート13は長尺方向外方へ向かって取付け板40よりも大きく膨張する。発熱対策を何らしないと、ヘッド本体11のノズル穴51の位置が長尺方向外方にずれる可能性がある。
その結果、インクジェットヘッドのプリンタ本体に対する位置ずれが発生し、印字に影響を及ぼす可能性がある。また、ドライバIC21において発生した熱が、ヒートシンク14、15、基準プレート13、供給パイプ16及び排出パイプ17といった金属製の連結部分(コネクション)を通じて、これらのコネクション内を流れるインクの温度に影響を与え、インク粘度を変化させて印字品質に影響を及ぼす。
インクジェットヘッドがインク循環を用いる目的は、圧力室88をインク循環により、第1にオリフィスプレート52上に開けられたノズル穴51への目詰まりを防止するためである。第2にIC駆動により発熱した圧力室88の温度をインク循環により、温度を均一に保つという目的もある。しかし、インク循環量にも限界があり、駆動条件(印字速度、パルスオンオフのDUTY比)によってはインク温度を均一に保つことが難しくなる。
そこで、熱膨張時に発生する締結部27、28といった取付部分による位置ずれをなくす為、及び、ドライバIC21の発熱によるインクへの影響を少なくする為、圧力室88の温度を均一に保つ為、実施の形態に係るインクジェットヘッドは図4〜図10に示すような構造を採用した。
図9に示さるように、第1のヒートパイプ66及び第2のヒートパイプ67の各端部が、マニフォールド22及び基準プレート13に接触し、これらのヒートパイプ66、67のもう片側端部がヒートパイプガイド64、65を通じて、第1のインク経路62、第2のインク経路63に接触し、熱交換を行っている。
これらのインク経路62、63は、複数のインクジェットヘッドをプリンタ本体の取付け板40に取付ける場合、これらのインクジェットヘッドのそれぞれとの間でインクを供給し、排出するために設けられている。第1のインク経路62、第2のインク経路63中には、インク循環機構に設けられたポンプによって複数のインクジェットヘッドへ供給及び排出されるインクが流れており、インク温度は一定になるように調整される。ヒートパイプガイド64、65は、熱伝導率の良い材質で作成されており、インク経路62、63中のインクの温度による熱を伝熱しやすい構造となっている。
この様な構造にすることにより、マニフォールド22の温度及び基準プレート13の温度をインク温度により促成することができ、マニフォールド22及び基準プレート13それぞれに接しているベースプレート54、圧力室88、ドライバIC22の温度上昇を調整することができる。
このように本実施形態に係るインクジェットヘッドによれば、循環型インクジェットヘッドにおいて、ヘッド構造体と、プリンタ本体側構造体との熱膨張率による取付部によるずれを少なくすることができる。ドライバIC21の発熱によるインクへの影響を少なくすることができ、圧力室88の温度を均一に保つことができるようになる。
上記実施形態では、図3の断面構造は一例であり、インクの供給路、インクの排出路の構造は種々変形可能である。第1のヒートパイプ66の各端部は上下に接続されていたが、第1のヒートパイプ66の各端部が接続される方向は、上下方向と異なる方向に接続あるいは連結されることがあることは言うまでも無い。第2のヒートパイプ67も第1のヒートパイプ66と同様である。これらの変更をして実施をしたに過ぎない実施品に対して実施形態に係るインクジェットヘッドの優位性は何ら損なわれるものではない。
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。