JP6011556B2 - 燐酸質肥料原料の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、高炉から出銑される溶銑中の燐濃度は0.1質量%程度であるため、従来の一般的な溶銑の予備脱燐処理や溶銑の脱炭精錬で生成される製鋼スラグ中の燐酸(P2O5)濃度は、高々5質量%程度と低く留まっている。なお、ここでいう「予備脱燐処理」とは、溶銑を転炉などで脱炭精錬する前に、予め溶銑中の燐を除去する処理をいう。このままでは、製鋼スラグを燐酸資源、例えば燐酸質肥料原料として利用できる見込みはほとんどない。そのため、これらの製鋼スラグは、路盤材などの土木用材料として使用されているのが現状であり、スラグ中の燐は有効に利用されていない。
そこでさらに、燐酸質肥料として種々のスラグについて、スラグ組成と肥料効果との関係を、チンゲンサイを用いた栽培試験で評価した。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、燐酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、チンゲンサイを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。チンゲンサイの生育状況は、燐酸質肥料として対照肥料である過燐酸石灰を施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。得られた結果を表1に示す。
このことから、燐酸質肥料原料中の燐酸含有量に加えて、SiO2量が肥料効果に大きく影響していることを突き止め、肥料効果が高い燐酸質肥料原料(スラグ)となるためには、スラグの組成を、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO2、P2O5の合計量が50%以上、P2O5が15%以上で、かつCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2が10%以上含有する組成のスラグとする必要があることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグに還元処理を施して得られる燐含有溶銑に、さらに脱燐処理を施し、得られる脱燐スラグを燐酸質肥料原料とするに当たり、前記脱燐処理を、得られる前記脱燐スラグがCaO含有量とSiO2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2が10%以上となる組成を有するように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整するとともに、さらに珪素源を供給する処理とすることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(2)(1)において、前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記珪素源の供給を、火点に対して行うことを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、P2O5が15%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計含有量が50%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
燐含有製鋼スラグには、CaO、SiO2を主成分とし、燐がP2O5なる酸化物として含まれ、また鉄がFeOやFe2O3等の形態で酸化物として含有されている。このような燐含有製鋼スラグに、還元剤を使用して還元処理を施す。なお、使用する還元剤は、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上とすることが好ましい。
ついで、本発明では、得られた高燐含有溶銑に、脱燐処理を施す。なお、得られた高燐含有溶銑に、高炉から出銑された溶銑を混合して、適正な燐濃度に調整してもよい。
脱燐処理設備としては、例えば図3に示すような、反応容器(転炉型)1に、上吹きランス2、インジェクションランス3、ホッパー11、貯蔵タンク5,6等を備えた設備が例示できる。
脱燐処理では、得られた高燐含有溶銑を反応容器1に装入し、上吹きランス2から酸素ガスを吹付けると同時に、この酸素ガスを搬送ガスとして、貯蔵タンク6に貯蔵されたCaO源4を吹付ける。CaO源としては、生石灰が例示でき、フッ素化合物が混入していないCaO系精錬剤(脱燐剤)とすることが好ましい。なお、反応の促進という観点から、CaO系精錬剤は、粉末状とし、粒径1mmアンダー(1mm未満)の粉末とすることが好ましい。なお、上吹きランス2からCaO系精錬剤などの粉体を溶銑に吹付けることを「投射」ともいう。また、インジェクションランス3を利用して、窒素ガスを搬送ガスとして貯蔵タンク5に貯蔵されたCaO系精錬剤(脱燐剤)を溶銑中に吹き込んでも良い。
得られるスラグの塩基度が1.5未満では、図1に示すように、燐酸含有量を、安定して所望値以上とすることができない。ここでいう「所望値」とは、スラグ全量に対する質量%で、P2O5:15%以上である。スラグ中のP2O5含有量が15%以上確保できれば、燐酸質肥料として所望の肥料効果を期待できる。
脱燐処理で、スラグへの燐濃化のために溶銑にCaO系精錬剤(脱燐剤)を投入するとともに、珪素源を供給することにより、さらに高い肥料効果を有する組成のスラグとする。
[%Si] ≦ 1/2[%Si]input ‥‥(1)
[%Si]input:装入Si濃度(質量%)
を満足する、溶銑中のSi濃度が、装入時のSi濃度[%Si]inputの半分以下に低下した時点とすることが好ましい。なお、吹錬開始からt秒後の溶銑中のSi濃度は、次式
[%Si]=[%Si]input exp(−kSi・Input O2) ‥‥(1a)
[%Si]input:装入Si濃度(質量%)、kSi:処理設備で決まる定数、
Input O2:吹錬開始からt秒後までに供給される酸素量(Nm3/t)、
で算出できる。また、その際の珪素源の投入量QSiO2(ton)は、次(2)式
QSiO2 ≦ (0.6/0.85)×(WCaO+WP205+(WSiO2)input)‥‥(2)
を満足するように調整することが好ましい。
WP205 =([%P]input−[%P]output )/100×(MP205/MP)×Wm ‥‥(3)
(WSiO2)input =([%Si]input−[%Si]output )/100×(MSiO2/MSi)×Wm ‥‥(4)
ここで、[%P]inputは装入溶銑中のP濃度(質量%)、[%P]output は脱燐処理終了時(終点時)の溶銑中のP濃度(質量%)、[%Si]inputは装入溶銑中のSi濃度(質量%)、[%Si]outputは脱燐処理終了時(終点時)の溶銑中のSi濃度(質量%)であり、Wmは、装入溶銑量(ton)である。また、MP205、MSiO2は各化合物の分子量であり、MP、MSiは、各元素の原子量である。
WSiO2 =(WSiO2)input +QSiO2 ‥‥(5)
Wtotal = WCaO + WP205 + WSiO2 ‥‥(6)
そして、上記した(3)〜(6)式と、スラグ塩基度:1.5以上、燐酸含有量:15質量%以上という、得られるスラグ(脱燐スラグ)の条件
WCaO/WSiO2 ≧ 1.5 ‥‥(7)
WP205/Wtotal ≧ 0.15 ‥‥(8)
とから、上記した(2)式を導くことができる。
ついで、これら高燐溶銑200tonを転炉型反応容器に装入し、脱燐処理を実施した。
また、吹錬末期に生成したスラグを採取し、ガラスビード分析法を用いて組成を分析した。また、スラグ中に含まれる鉱物相について、X線回折を用いて測定した。さらに、肥料公定規格に準拠して、クエン酸二アンモニウム溶液(pH7)に溶解する燐酸(可溶性燐酸)量を測定した。得られた値から、スラグ中に含まれる全燐酸に対する可溶性燐酸の割合(燐酸可溶率)を算出した。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、燐酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、ヒロシマナを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。ヒロシマナの生育状況は、燐酸質肥料として対照肥料である過燐酸石灰を施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。
2 上吹きランス
3 インジェクションランス
4 CaO源
5 貯蔵タンク
6 貯蔵タンク
7 溶銑
11 ホッパー
12 生成スラグ
Claims (6)
- 製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグに還元処理を施して得られる燐含有溶銑に、さらに脱燐処理を施し、得られる脱燐スラグを燐酸質肥料原料とするに当たり、
前記脱燐処理を、得られる前記脱燐スラグがCaO含有量とSiO2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつCaO、P2O5、SiO2の三元系での質量%でSiO2が10%以上となる組成を有するように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整するとともに、さらに珪素源を供給する処理とすることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。 - 前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする請求項1に記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
- 前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
- 前記珪素源の供給を、火点に対して行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
- 前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、P2O5が15%以上となる組成を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
- 前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計含有量が50%以上となる組成を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
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