以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画するピストン2と、シリンダ1内に移動自在に挿通されるとともにピストン2に連結されるピストンロッド4と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3a,3bと、圧力室R3と、圧力室R3内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9の圧力室R3に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するバイパス路Bと、バイパス路Bの途中に設けられて伸側室R1の圧力で開弁してバイパス路Bを開放する伸側リリーフ弁23と、バイパス路Bの途中であって伸側リリーフ弁23と並列に設けられて圧側室R2の圧力で開弁してバイパス路Bを開放する圧側リリーフ弁24とを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
また、この緩衝装置Dにあっては、シリンダ1の上端には環状のヘッド部材11が装着され、シリンダ1の下端はキャップ12によって閉塞されている。そして、ピストンロッド4の上端は、ヘッド部材11によって摺動自在に軸支されてシリンダ1外へ突出され、緩衝装置Dは、所謂、片ロッド型の緩衝装置とされている。そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満され、また、緩衝装置Dは、伸側室R1にのみピストンロッド4が挿通される片ロッド型であるので、ピストンロッド4がシリンダ1内に出入りする体積を補償するため、シリンダ1内の下方にシリンダ1の内周に摺接して圧側室R2の下方に気体室Gを区画する摺動隔壁13が設けられており、単筒型の緩衝装置に設定されている。なお、ピストンロッド4がシリンダ1に進退する体積の補償については、シリンダ1内に気体室Gを設けるほか、シリンダ1外にリザーバが設けるようにしてもよく、リザーバをシリンダ1外に設ける場合、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間にリザーバを形成する複筒型緩衝装置とするほか、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバを形成するようにしてもよい。なお、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2の圧力を高めるために圧側室R2とリザーバとの間を仕切る仕切部材と、仕切部材に設けられて圧側室R2からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるベースバルブとを設けるようにしてもよい。なお、上記した作動室たる伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
以下、各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の図1中下端に圧力室R3を形成するハウジング14およびピストンホルダ15を介して連結され、シリンダ1の内周に摺接して、シリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画している。
ピストンロッド4の上端は、シリンダ1の図中上端部に取り付けられたヘッド部材11内に挿入されて外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間はヘッド部材11に積層された環状のシール部材50でシールされており、シリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、上記したように、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁13が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。
ピストンロッド4は、ピストンロッド本体16と、ピストンロッド本体16の図1中下端に設けた筒状であって大径のハウジング14とを備えて構成されており、ハウジング14の図1中下端の開口部には、ピストン2を保持するピストンホルダ15が嵌合されている。このピストンホルダ15は、ハウジング14の下端開口端を内側へ向けて加締めることでハウジング14の開口端に固定されている。なお、ハウジング14は、この実施の形態の場合、ピストンロッド4の先端に形成されていて、ピストンロッド4とで一部品を構成しているが、ピストンロッド4とは別部品として構成してピストンロッド4に取り付けて一体化するようにしてもよい。
ハウジング14は、この実施の形態の場合、ピストンロッド本体16の下端に設けたフランジ部14aと、フランジ部14aから垂下される筒部14bと、筒部14bの上方側の内径を小径とすることで設けた段部14cと、筒部14bの外周から筒部14bの内周であって段部14cよりも上方側に開口して伸側室R1と圧力室R3とを連通する通孔14dと、筒部14bの外周から筒部14bの内周であって段部14cよりも下方側に開口して伸側室R1と圧力室R3とを連通する透孔14eとを備えて構成されている。ハウジング14のフランジ部14aの上端であるハウジング14の肩には、ピストンロッド本体16の外周に装着される弾性体でなる環状の伸切ストッパ22が積層されている。
また、ピストンホルダ15は、円盤部15aと、円盤部15aの下端に垂下される軸部15bと、円盤部15aの外周から立ち上がって上記ハウジング14の筒部14bの図1中下端に嵌合する筒状のソケット15cと、軸部15bの先端から圧力室R3へ開口する圧側流路6と、軸部15bの側方から開口して圧側流路6に連通される横孔15dとを備えて構成されている。そして、このピストンホルダ15は、円盤部15aをハウジング14の筒部14bの下端内周に嵌合され、筒部14bの下端を内周側へ加締めることでハウジング14に固定される。このように、ハウジング14にピストンホルダ15を固定すると、ハウジング14内が伸側室R1から区画されて圧力室R3が形成される。
そして、このように構成される圧力室R3は、ハウジング14内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9によって伸側圧力室7および圧側圧力室8に区画される。フリーピストン9は、有底筒状とされており、底部9aを図1中下方へ向けて筒部9bの外周をハウジング14における筒部14bの内周に摺接させてハウジング14内に挿入されている。フリーピストン9は、上記のようにハウジング14内に摺動自在に挿入されると圧力室R3内を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画する。なお、フリーピストン9の底部9aを図1中下方へ向けてハウジング14内に収容することで、伸側圧力室7内で気泡が生じたり、緩衝装置Dの組立の際に伸側圧力室7内に気泡が取り残されたりしても、フリーピストン9内に気泡が溜まって外部へ気泡を排出することができなくなってしまうことが防止されている。このようにフリーピストン9内に気泡が溜まることが無いので、後述する緩衝装置Dの減衰力の特性が安定することになる。底部9aを下方へ向けてハウジング14内にフリーピストン9を収容することで上記の利点を享受することができるが、底部9aを図1中上方側へ向けてフリーピストン9をハウジング14内に収容することもできる。
また、フリーピストン9は、この実施の形態の場合、筒部9bの外周に設けた環状溝9cと、フリーピストン9の筒部9bの内周から環状溝9cへ通じる孔9dと、筒部9bの環状溝9cよりも図1中下方側に設けた環状のシール装着溝9eとを備えており、シール装着溝9eには、ハウジング14の筒部14bの内周に摺接してフリーピストン9とハウジング14との間をシールするシールリング17が装着される。
また、このフリーピストン9に、フリーピストン9の圧力室R3に対する変位量に応じてその変位を抑制する附勢力を作用させるばね要素10が設けられており、このばね要素10は、伸側圧力室7内であってフランジ部14aとフリーピストン9の底部9aの図1中上端との間に介装された伸側コイルばね18と、圧側圧力室8内であってピストンホルダ15の円盤部15aとフリーピストン9の底部9aとの間に介装された圧側コイルばね19とで構成されている。したがって、フリーピストン9は、これら伸側コイルばね18および圧側コイルばね19でなるばね要素10によって上下側から挟持されて、圧力室R3内の所定の中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。なお、中立位置は、圧力室R3の軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素10によって位置決められる位置のことである。なお、ばね要素10としては、フリーピストン9を弾性支持できればよいので、コイルばね以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一の弾性体を用いてばね要素10としてもよい。
そして、フリーピストン9が上記中立位置にあるときには、必ず環状溝9cがハウジング14の筒部14bに設けた透孔14eに対向するようになっており、環状溝9cが孔9dを介して伸側圧力室7に連通されているので、フリーピストン9が中立位置にあると、伸側室R1と伸側圧力室7とが、通孔14dの他、透孔14e、環状溝9cおよび孔9dを介して連通される。そして、フリーピストン9がストロークエンドまで変位すると、すなわち、フリーピストン9の筒部9bの図1中上端がハウジング14の内周に設けられた段部14cに当接するか、フリーピストン9の底部9aの図1中下端がピストンホルダ15のソケット15cの上端に当接するまで変位すると、透孔14eがフリーピストン9の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。すなわち、伸側流路5は、通孔14d、透孔14e、環状溝9cおよび孔9dで構成されており、この伸側流路5の一部を構成する透孔14eはフリーピストン9のハウジング14に対する変位で流路面積が変化するオリフィス流路を形成している。なお、通孔14dは、この実施の形態の場合、これを通過する液体の流れに抵抗を与えることができるような流路面積に設定されており、固定オリフィスとして機能するようになっている。
つまり、この緩衝装置Dの場合、フリーピストン9の中立位置からの変位量が所定の変位量となるときに、オリフィス流路である透孔14eの開口端全てが環状溝9cに対向する状況からフリーピストン9の外周に対向し始める状況に移行して徐々に透孔14eの流路面積が減少し始め、伸側流路5における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン9の変位量の増加に伴って徐々に透孔14eの流路面積が減少し、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、透孔14eが完全にフリーピストン9の外周で閉塞されて、伸側流路5における流路抵抗が最大となり伸側圧力室7が通孔14dのみによって伸側室R1に連通されるようになっている。なお、フリーピストン9の筒部9bの内外を連通する透孔を設けるとともに、ハウジング14の内周に環状溝と当該環状溝を伸側室R1へ連通する孔を設けて、フリーピストン9がストロークエンドまで変位するとフリーピストン9に設けた透孔がハウジング14の筒部14bによって閉塞されるようにしておき、この透孔をオリフィス流路としてもよい。
また、上記のように構成されたフリーピストン9をハウジング14内に挿入する場合、フリーピストン9を筒部9b側からハウジング14に挿入するが、シールリング17は、ハウジング14に設けた透孔14eを跨ぐことが無く、フリーピストン9がハウジング14内でストロークしてもシールリング17に透孔14eが干渉することが無いようになっている。すなわち、シールリング17のフリーピストン9における装着位置は、フリーピストン9をハウジング14内へ挿入する際に透孔14eを跨がない位置に設けられるので、シールリング17が透孔14eに干渉して傷んでしまうことがなく、良好なシール性を発揮することができるようになっている。これに対し、ピストンホルダ15に設けた圧側流路6には、図示したところでは、抵抗となる絞りや弁を設けていないが、絞り等の弁を設けるようにしてもよい。
また、この実施の形態の場合、フリーピストン9が伸側圧力室7を最圧縮する際に、ハウジング14の段部14cによって移動が規制されるようになっているので、通孔14dがフリーピストン9によって閉塞されないようになっており、伸側流路5が遮断されることが無いようにしてあるが、段部14cを設けずにフリーピストン9が図1中上方側のストロークエンドにまで達すると通孔14dがフリーピストン9で閉塞されるようにして、完全に伸側流路5を遮断することで伸側圧力室7を閉鎖して液圧ロックを効かせてフリーピストン9とハウジング14との衝突を防止し、衝突音を生じさせないようにすることもできる。
つづいて、ピストン2は、環状に形成されるとともに、ピストンホルダ15に設けた軸部15bの外周に装着されている。また、このピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3a,3bが設けられ、減衰通路3aの図1中上端はピストン2の図1中上方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV1にて閉塞され、他方の減衰通路3bの図1中下端もピストン2の図1中下方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV2によって閉塞されている。
この積層リーフバルブV1,V2は、共に環状に形成され、内周側には上記した軸部15bが挿入されている。
そして、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2と伸側室R1の差圧によって撓んで開弁し減衰通路3aを開放して圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置Dの伸長作動時には減衰通路3aを閉塞するようになっており、他方の積層リーフバルブV2は、積層リーフバルブV1とは反対に緩衝装置Dの伸長作動時に減衰通路3bを開放し、収縮作動時には減衰通路3bを閉塞する。すなわち、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の積層リーフバルブV2は、緩衝装置Dの伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素である。また、積層リーフバルブV1,V2で減衰通路3a,3bを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R1と圧側室R2とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、積層リーフバルブV1,V2の外周に切欠を設けたり、積層リーフバルブV1,V2が着座する弁座に凹部を設けたりするなどして形成される。なお、減衰力発生要素としては、上記した積層リーフバルブV1,V2の他にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。
さらに、ピストンホルダ15に設けた軸部15bの外周であって積層リーフバルブV1の図1中上方には、伸側室R1から圧側室R2へ向けてバイパス路Bを通過する液体の流れを許容する伸側リリーフ弁23と、当該伸側リリーフ弁23に並列されて圧側室R2から伸側室R1へ向けてバイパス路Bを通過する液体の流れを許容する圧側リリーフ弁24が組付けられている。
伸側リリーフ弁23は、ピストンホルダ15のピストン2よりも上方側である伸側室側に装着されて横孔15dを通じて伸側室R1を圧側流路6に連通する伸側バイパス路25aを有する環状の伸側バルブディスク25と、当該伸側バルブディスク25の図1中下方に積層されて伸側バイパス路25aを開閉する環状の伸側弁体26とを備えて構成されている。
また、圧側リリーフ弁24は、ピストンホルダ15のピストン2よりも上方側である伸側室側であって伸側弁体26よりも下方に装着されて横孔15dを通じて伸側室R1を圧側流路6に連通する圧側バイパス路27aを有する環状の圧側バルブディスク27と、圧側バルブディスク27の図1中下方に積層されて圧側バイパス路27aを開閉する環状の圧側弁体28とを備えて構成されている。
詳しくは、ピストン2の図1中上方に積層された積層リーフバルブV1の上方に、圧側弁体28、圧側バルブディスク27、伸側弁体26および伸側バルブディスク25の順に積層してピストンホルダ15の軸部15bの外周に組み付けられ、伸側バルブディスク25と圧側バルブディスク27の外周には、隔壁筒29が嵌合されており、伸側バルブディスク25と圧側バルブディスク27との間の空間Aが伸側室R1から区画されている。そして、ピストンホルダ15の軸部15bに設けた横孔15dの出口端は、圧側バルブディスク27の内周に設けられて圧側バイパス路27aに通じる凹部27bに対向させてあり、当該出口端は、この凹部27bおよび圧側バイパス路27aを介して上記した空間Aに連通されている。したがって、空間Aは、横孔15dおよび圧側流路6を介して圧側室R2に連通されるとともに、伸側バイパス路25aおよび圧側バイパス路27aを介して伸側室R1にも通じている。すなわち、この場合、バイパス路Bは、圧側流路6から分岐していて、横孔15d、空間A、伸側バイパス路25a、凹部27bおよび圧側バイパス路27aによって構成されている。
そして、伸側弁体26は、伸側バルブディスク25の空間A側に積層されて伸側バイパス路25aを開閉する環状のリーフバルブとされており、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力を上回り開弁圧に達すると開弁してバイパス路Bを開放する。このように、伸側リリーフ弁23がバイパス路Bを開放するので、伸側室R1内の液体は減衰通路3bだけでなく、バイパス路Bをも通過して圧側室R2へ移動するようになる。
圧側弁体28は、圧側バルブディスク27の伸側室R1側に積層されて圧側バイパス路27aを開閉する環状のリーフバルブとされており、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力を上回り開弁圧に達すると開弁してバイパス路Bを開放する。このように圧側リリーフ弁24がバイパス路Bを開放するので、圧側室R2内の液体は減衰通路3aだけでなく、バイパス路Bをも通過して伸側室R1へ移動するようになる。
なお、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24がピストン2よりも伸側室側に設けられていればよいので、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24の構造は、上記した具体的な構造に限定されるものではない。
上記したように、ピストンホルダ15の軸部15bには、伸側リリーフ弁23、圧側リリーフ弁24、積層リーフバルブV1、ピストン2および積層リーフバルブV2が順に組み付けられ、この積層リーフバルブV2の下方からピストンナット21が螺着される。このピストンナット21によって、伸側リリーフ弁23、圧側リリーフ弁24、ピストン2および積層リーフバルブV1,V2がピストンホルダ15に固定される。
緩衝装置Dは、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置Dの作動について説明する。まず、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24がバイパス路Bを開放しない状況下での緩衝装置Dの作動を説明する。
フリーピストン9における中立位置からの変位量がオリフィス流路である透孔14eを閉塞し始めない範囲内にある場合、フリーピストン9は、伸側流路5の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置Dへ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン9の振幅も、透孔14eを閉塞し始めない範囲内で大きくなる。
フリーピストン9の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン9が伸側コイルばね18および圧側コイルばね19でなるばね要素10から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置Dが伸長する場合、圧側圧力室8内の圧力は、伸側圧力室7内の圧力よりもばね要素10の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置Dが収縮する場合には、伸側圧力室7内の圧力は、圧側圧力室8内の圧力よりもばね要素10の附勢力分だけ小さくなる。
このように、緩衝装置Dが低周波振動を呈すると伸側圧力室7と圧側圧力室8にばね要素10の附勢力に見合った差圧が生じるので、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、伸側流路5、圧側流路6、伸側圧力室7および圧側圧力室8でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、減衰通路3a,3bの流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が大きいまま維持される。
逆に、緩衝装置Dへの入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン9の振幅はより小さくなる。フリーピストン9の振幅が小さくなると、フリーピストン9がばね要素10から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置Dが伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室7内の圧力と圧側圧力室8内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は大きくなるので、伸側流路5および圧側流路6を通過する流量も多くなる。
緩衝装置Dへ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R1から圧側室R2或いは圧側室R2から伸側室R1へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、減衰通路3a,3bの積層リーフバルブV1,V2を通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置Dの減衰特性は、図2に示すように、推移することになる。
そのため、この緩衝装置Dにあっては、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
つづいて、フリーピストン9の中立位置からの変位量が伸側流路5の流路抵抗を増加させる範囲内となる場合の緩衝装置Dにおける動作について説明する。この場合、緩衝装置Dが伸長しても収縮しても、フリーピストン9が中立位置からの変位量の増加に伴って透孔14eの閉塞量を増加させるため、徐々に伸側流路5の流路面積が小さくなり、フリーピストン9が上下のいずれかストロークエンドに到達すると完全に透孔14eが閉塞され、伸側流路5の流路面積が固定オリフィスとして機能する通孔14dの流路面積にまで制限されて最小となる。
つまり、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始めた後は変位量に応じて伸側流路5の流路抵抗を徐々に大きくし、フリーピストン9がストロークエンドに到達すると流路抵抗が最大となる。
ここで、フリーピストン9がストロークエンドまで変位するのは、伸側圧力室7もしくは圧側圧力室8への液体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置Dの伸縮の振幅が大きい場合である。
緩衝装置Dに入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置Dは、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に伸側流路5の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン9のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての液体の移動量も減少し、その分減衰通路3a,3bを通過する液体量が増加することになり、緩衝装置Dの発生減衰力は徐々に大きくなっていく。
そして、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、それ以上、見掛け上の流路を介しての液体の移動はなくなり、緩衝装置Dの伸縮方向を転ずるまでは液体は減衰通路3a,3bのみを通過することになり、緩衝装置Dは、最大の減衰係数で減衰力を発生することになる。
すなわち、フリーピストン9がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動が緩衝装置Dに対し入力されても、フリーピストン9の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン9がストロークエンドに達するまでに緩衝装置Dは徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン9がストロークエンドに達して圧力室R3内を介して伸側室R1と圧側室R2の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン9が圧力室R3における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置Dの伸圧の両行程で発揮される。
したがって、この緩衝装置Dにあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止できる。
上記したように伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24がバイパス路Bを開放しない場合、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、入力振動周波数に依存して車両に適した減衰力を発生することができる。
これに対して、緩衝装置Dが非常に高い速度で伸縮させられる場面、つまり、シリンダ1に対するピストン2の移動速度が高速域に達する場面においては、入力振動周波数の如何によらず、伸側室R1から圧側室R2へ或いは圧側室R2から伸側室R1へ移動する流量が大きくなり、絞り通路として機能する伸側流路5の通過液体の流れに与える抵抗が積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2が液体の流れに与える抵抗よりも非常に大きくなり、液体は減衰通路3a,3bを優先的に流れて伸側室R1から圧側室R2へ或いは圧側室R2から伸側室R1へ移動しようとする。しかしながら、本実施の形態の緩衝装置Dにあっては、ピストン速度が高速で図1中上方に移動して伸長作動を呈すると、高圧となった伸側室R1内の圧力が伸側リリーフ弁23に作用し、伸側リリーフ弁23が開弁動作してバイパス路Bを通じて伸側室R1と圧側室R2とが連通するようになっており、また、ピストン速度が高速で図1中下方に移動して収縮作動を呈すると、高圧となった圧側室R2内の圧力が圧側リリーフ弁24に作用し、圧側リリーフ弁24が開弁動作してバイパス路Bを通じて圧側室R2と伸側室R1とが連通するようになっている。
したがって、緩衝装置Dが高速で伸縮作動を呈する場合には、液体は、減衰通路3a,3bのみならず、バイパス路Bを介して、伸側室R1から圧側室R2へ或いは圧側室R2から伸側室R1へ移動するようになり、緩衝装置Dの発生する減衰力を低減して、積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2の仕様で設定された値にまで高まることがない。
このように、本実施の形態の緩衝装置Dにあっては、ピストン速度が非常に高速となって圧力室R3を介しての液体の見掛け上の移動が難しくなっても、図3および図4の破線で示す従来の緩衝装置の周波数減衰力特性および速度減衰力特性(緩衝装置のピストン速度に対する減衰力の特性)に対して、図3および図4の実線に示すように、ピストン速度に対する減衰力の勾配を小さくさせて、減衰力を確実に低下させることができるので、従来の緩衝装置のように減衰力が高止まりしてしまって、車軸から車体への振動の伝達を絶縁する効果が消失してしまうといった不具合を解消でき、車両における乗り心地を向上させることができる。
また、緩衝装置Dの伸長時には、伸側リリーフ弁23のみが開放動作し、緩衝装置Dの収縮時には、圧側リリーフ弁24のみが開放動作するので、緩衝装置Dの伸長時における速度減衰力特性を伸側弁体26と伸側バイパス路25aの設定によって調節でき、緩衝装置Dの収縮時における速度減衰力特性を圧側弁体28と圧側バイパス路27aの設定で調節することができる。つまり、緩衝装置Dの伸長時と収縮時のそれぞれの速度減衰力特性を別個独立に設定することができ、チューニングの自由度が格段に向上する。
つまり、図4に示すように、緩衝装置Dの伸長側の速度減衰力特性の伸長側の折れ点aの位置、折れ点a以後の傾きと、緩衝装置Dの収縮側の速度減衰力特性の収縮側の折れ点bの位置、折れ点b以後の傾きとを別個独立に設定することができ、折れ点aの位置については伸側弁体26の開弁圧で、折れ点a以後の傾きは伸側バイパス路25aの開口面積や通路抵抗によって、折れ点bの位置については圧側弁体28の開弁圧で、折れ点b以後の傾きは圧側バイパス路27aの開口面積や通路抵抗によって、それぞれ設計者の意図によって自由に設定することができる。
このように、緩衝装置Dの収縮行程における速度減衰力特性の勾配を小さくできるので、車輪が路面突起に乗り上げた際のインパクトショックの低減効果が高くなり、伸長行程における速度減衰力特性の勾配を小さくできるので沈み込んだ車体の揺返し時に生じる衝撃を緩和することが可能であって、伸縮の両側で速度減衰力特性を自由に設定することができるから、この緩衝装置Dにあっては、旋回時にはしっかりと車体を支えつつもインパクトショックを低減でき、しなやかでありつつもしっかりとした足回りを車両に提供することができる。
なお、図4に示した伸側および圧側の速度減衰力特性は、積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2にオリフィスを並列した構成とした場合のものである。図4で示すように、低周波数域の振動入力でピストン速度が極低速域にある際における減衰力特性は、液体がオリフィスを優先的に通過することによって立上る特性となり、ピストン速度が低速域において途中で減衰力特性に変曲点が表れるのは、積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2が開弁してリーフバルブによる特性が支配的になるからである。
なお、積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2における抵抗を小さくすることで、ピストン速度が高速となった際の減衰力を小さくすることも考えられるが、そうすると、ピストン速度が低速である場合であって低周波数域の振動に対して発生する減衰力も小さくなってしまい、減衰力不足を生じて車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせる不具合があるが、本実施の形態の緩衝装置Dにあっては、積層リーフバルブV1および積層リーフバルブV2における抵抗を小さくすることなくピストン速度が高速時における減衰力を低くすることができるので、このような不具合を招くことも無い。
なお、本実施の形態においては、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24の動作を説明するために、便宜上、ピストン速度に低速および高速でなる区分を設けており、これらの区分の境の境界速度は伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24がそれぞれ開弁する速度であり、伸長側と収縮側で低速と高速の境界速度を同じとせずともよい。したがって、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24の開弁圧は任意に設定することが可能である。
緩衝装置Dは、上述のように動作する。ところで、緩衝装置Dは、ピストンロッド4をヘッド部材11で軸支するとともに、ピストンロッド4の先端に連結されるピストン2がシリンダ1に摺接することで、横方向からの力(横力)を受けた際に、ヘッド部材11とピストン2とでこの横力を受ける構造となっているため、ヘッド部材11とピストン2との嵌合長さをある程度確保する必要性から、伸切ストッパ22がヘッド部材11に当接してそれ以上の緩衝装置Dの伸長を規制することでピストン2とヘッド部材11の最低限必要な嵌合長さを確保するよう伸切位置を規制しており、伸切ストッパ22とピストン2までの間の長さは緩衝装置Dのストローク長に寄与しない。
ここで、この緩衝装置Dにあっては、圧力室R3がピストンロッド4に設けられてフリーピストン9が摺動自在に挿入される筒状のハウジング14と、ピストン2が装着されるとともにハウジング14の開口部を閉塞するピストンホルダ15とで形成されて伸側室R1側に配置され、さらに、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24がピストンホルダ15の外周であってピストン2よりも伸側室側に装着されているので、ハウジング14、ピストンホルダ15、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24をピストン2とヘッド部材11の最低限必要な嵌合長さの範囲内に収めることで、緩衝装置Dのストローク長に影響を与えることなく、圧力室R3を設けることができる。よって、本発明の緩衝装置Dにあっては、圧力室R3を緩衝装置Dのストローク長を犠牲にすることが無く設けることができ、また、緩衝装置Dの全長も長くなることが無い。したがって、本発明の緩衝装置Dによれば、バイパス路B、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24の設置により車両における乗り心地を向上させつつも、ストローク長との確保と車両への搭載性を両立することが可能となる。
また、伸切ストッパ22とピストン2との間に、圧力室R3を形成するハウジング14、伸側リリーフ弁23および圧側リリーフ弁24が収まるようにすれば、緩衝装置Dのストローク長を全く犠牲にすることなく、圧力室R3をシリンダ1内に形成することができ、緩衝装置Dの全長にも影響を全く与えることが無い。
さらに、伸切ストッパ22がハウジング14の肩に積層されるようにすることで、伸切ストッパ22をピストンロッド4の外周に固定するためのフランジを設けずに済み、部品点数とコストの削減と緩衝装置Dを軽量化することができる。
ピストンホルダ15が外周にピストン2が装着される軸部15bを備え、圧側流路6が軸部15bに設けられており、バイパス路Bがこの圧側流路6から分岐するようになっているので、圧側流路6およびバイパス路Bを無理なく設けることができる。
なお、上記したところでは、ピストンロッド4がピストンロッド本体16の先端にハウジング14を一体に形成しているが、図5に示すように、ピストンロッド30の下端外周に螺子部30aを設けて、この螺子部30aに筒状のハウジング31を螺着することでピストンロッド30にハウジング31を設けるようにしてもよい。なお、ピストンロッド30とハウジング31の固定方法としては螺子締結以外の方法を採用してもよく、たとえば、溶接することによってこれらを一体化するようにしてもよい。このことは、ハウジング14,31とピストンホルダ15の一体化に際しても同様であり、図1および図5に示したところでは、ハウジング14,31の下端開口端を加締めることでピストンホルダ15を一体化するようにしているが、これに限らず、たとえば、溶接や螺子締結によって一体化を図ることも可能である。また、伸側流路5は、図5に示したところでは、ピストンロッド30の先端から側方へ抜けるロッド内通路30bによって形成されており、ピストンホルダ15に設けた圧側流路6の途中に絞り6aを設置するようにしている。このように、圧側流路6に絞り6aを設けて伸側流路5に絞りを設けないようにすることで、伸側圧力室7からの気泡の抜けがよくなるメリットがあるが、伸側流路5に絞りを設けるようにしてもよく、この図5に示したところでは、フリーピストン9のハウジング31に対する変位によって流路面積を可変にするオリフィス流路を設けているが、オリフィス流路の設置は任意であるので、設けないようにしてもよい。
また、ハウジング14,31およびピストンホルダ15の形状および構造は、適宜設計変更が可能であり、上記に説明し図示した形状および構造に限定されるものではない。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。