以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、ドライバのアクセル操作に基づいて後輪に対して駆動力が発生させられる後輪駆動の自動二輪車両に対する車両姿勢補正制御を例に挙げて説明する。
図1は、車両姿勢補正制御が実行される自動二輪車両用のブレーキ液圧制御装置1の全体構成を示したものである。このブレーキ液圧制御装置1は、前輪FWおよび後輪RWに対してブレーキを掛けるものであるが、車両姿勢補正制御においては前輪FWおよび後輪RWの回転速度を制御する前輪速度制御手段もしくは後輪速度制御手段としての役割を果たす。具体的には、ブレーキ液圧制御装置1は、前輪FWに対して制動力を発生させる系統と後輪RWに対して制動力を発生させる系統の2つの配管系統を有した構成となっている。
図1に示されるように、ブレーキ液圧制御装置1には、ハンドル右側に位置するブレーキレバー11と右足置き前方に位置するブレーキペダル12が備えられている。これらブレーキレバー11およびブレーキペダル12は、それぞれ前輪FWと後輪RWに対して制動力を発生させるためのブレーキ操作部材に相当するものであり、ドライバに独立して操作されるものである。これらブレーキレバー11およびブレーキペダル12は、前輪マスタシリンダ(以下、M/Cという)13aと後輪M/C13bなどを介して、第1、第2配管系統14、15を備えたブレーキ回路に接続されている。
ブレーキレバー11は、前輪M/C13aなどを介して前輪FWに対して制動力を発生させる第1配管系統14に接続されている。ブレーキペダル12は、後輪M/C13bなどを介して後輪RWに対して制動力を発生させる第2配管系統15に接続されている。ブレーキレバー11やブレーキペダル12が操作されると、前輪M/C13aや後輪M/C13b内に発生させられたブレーキ液圧に基づいて、第1、第2配管系統14、15を通じて前輪FW側の前輪ホイールシリンダ(以下、W/Cという)16や後輪RW側の後輪W/C17に対してW/C圧を発生させ、これによりブレーキ力を発生させる。
前輪M/C13aおよび後輪M/C13bと前輪W/C16および後輪W/C17との間には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ2が備えられている。ブレーキ液圧制御用アクチュエータ2に備えられた各種制御弁等を制御することにより、第1配管系統14では前輪W/C16に加えられるW/C圧を制御し、第2配管系統15では後輪W/C17に加えられるW/C圧を制御する。
以下、第1、第2配管系統14、15の詳細構造について説明するが、第1配管系統14と第2配管系統15とは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統14について説明し、第2配管系統15については第1配管系統14を参照する。
第1配管系統14には、前輪M/C13aと前輪W/C16とを接続する主管路となる管路Aが備えられている。この管路Aを通じて、M/C圧が伝えられることによって前輪W/C16にW/C圧が発生させられる。
また、管路Aには、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁18が備えられている。この第1差圧制御弁18は、通常ブレーキ状態では連通状態とされ、ソレノイドに電流が流されると差圧状態となる。第1差圧制御弁18で形成される差圧はソレノイドに流す電流の電流値に応じて変化し、電流値が大きいほど大きな差圧量となる。この第1差圧制御弁18が差圧状態とされていると、W/C圧がM/C圧よりも差圧量分高くなるようにブレーキ液の流動が規制される。
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁18よりも前輪W/C16側となる下流において、前輪W/C16へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁19が備えられている。第1増圧制御弁19は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として電磁弁により構成されている。この第1増圧制御弁19が連通状態に制御されると、M/C圧あるいは後述するポンプ22からのブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧が前輪W/C16に加えられる。
なお、ドライバが行うブレーキレバー11の操作による通常のブレーキ時には、第1差圧制御弁18および第1増圧制御弁19は、常時連通状態に制御される。このため、前輪M/C13aに発生させられたM/C圧がそのまま前輪W/C16のW/C圧として伝えられることになる。また、第1差圧制御弁18および第1増圧制御弁19には、それぞれ安全弁18a、19aが並列に設けられている。
管路Aにおける第1増圧制御弁19および前輪W/C16の間には減圧管路としての管路Bが接続され、この管路Bに対して調圧リザーバ20が備えられている。また、管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として、電磁弁からなる第1減圧制御弁21が配設されている。この第1減圧制御弁21は、通常ブレーキ時には、常時遮断状態とされている。
さらに、調圧リザーバ20と管路Aにおける第1差圧制御弁18と第1増圧制御弁19との間を結ぶように、還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいは前輪W/C16側に向けてブレーキ液を吸入吐出するように、モータ3によって駆動される自吸式のポンプ22が設けられている。
そして、調圧リザーバ20と前輪M/C13aとを接続するように、補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じて、ポンプ22にて前輪M/C13aからブレーキ液を吸入し、管路Cを通じて管路Aに吐出することで、車両姿勢補正制御時や横滑り防止(ESC(Electronic Stability Control)制御時などにおいて、前輪W/C16側にブレーキ液を供給し、前輪W/C16のW/C圧を増加できるようになっている。
調圧リザーバ20は、管路Dに接続されて前輪M/C13a側からのブレーキ液を受け入れるリザーバ孔20aと、管路Bおよび管路Cに接続され前輪W/C16から排出されるブレーキ液を受け入れると共にポンプ22の吸入側にブレーキ液を供給するリザーバ孔20bとが備えられ、これらがリザーバ室20cと連通している。リザーバ孔20aより内側には、ボール弁からなる弁体20dが配設されている。この弁体20dは、弁座20eに離着することで管路Dとリザーバ室20cとの間の連通遮断を制御したり、弁座20eとの間の距離が調整されることでリザーバ室20cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体20dの下方には、弁体20dを上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド20fが弁体20dと別体で設けられている。また、リザーバ室20c内には、ロッド20fと連動するピストン20gと、このピストン20gを弁体20d側に押圧してリザーバ室20c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング20hが備えられている。
このように構成された調圧リザーバ20は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体20dが弁座20eに着座して調圧リザーバ20内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、ポンプ22の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室20c内に流動することがなく、ポンプ22の吸入側に高圧が印加されることもない。
一方、上述したように、第2配管系統15は、第1配管系統14における構成と略同様となっている。つまり、第1差圧制御弁18および安全弁18aは、第2差圧制御弁23および安全弁23aに対応する。第1増圧制御弁19および安全弁19aは、それぞれ第2増圧制御弁24および安全弁24aに対応し、第1減圧制御弁21は、第2減圧制御弁26に対応する。調圧リザーバ20および各構成要素20a〜20hは、調圧リザーバ25および各構成要素25a〜25hに対応する。ポンプ22は、ポンプ27に対応する。また、管路A、管路B、管路C、管路Dは、それぞれ管路E、管路F、管路G、管路Hに対応する。以上のようにしてブレーキ液圧制御用アクチュエータ2が構成されている。このようなブレーキ液圧制御用アクチュエータ2に備えられた各種制御弁18、19、21、23、24、26およびポンプ22、27を駆動するためのモータ3は、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)4によって駆動される。
ブレーキECU4は、ブレーキ液圧制御装置1の制御系を司る本発明の車両姿勢補正制御装置に相当するものであり、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。例えば、ブレーキECU4は前輪FWおよび後輪RWに備えられた車輪速度センサ5、ジャイロセンサ6およびサスストロークセンサ7からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU4は、アンチスキッド制御や横滑り防止制御などを実行するために、車輪速度センサ5の検出信号に基づいて各車輪FW、RWの車輪速度や車速(推定車体速度)、各車輪のスリップ率などを演算している。また、ブレーキECU4は、車両姿勢補正制御を実行するために、ジャイロセンサ6およびサスストロークセンサ7の検出信号に基づいてピッチレート、サスペンションのストローク量などを求めている。また、ブレーキECU4は、エンジン制御を行っているエンジンECU8と相互に情報通信を行っており、ブレーキECU4からはエンジンECU8に対してアクセル開度制御量(スロットルバルブ開度)を制御させるための指示信号の出力を行っている。エンジンECU8は、この指示信号に基づいてアクセル開度を調整して駆動輪である後輪RWの回転速度を制御する。このため、エンジンECU8も、車両姿勢補正制御において後輪RWの回転速度を制御する後輪速度制御手段としての役割を果たしている。
そして、ブレーキECU4は、各種演算結果に基づいて、アンチスキッド制御や車両姿勢補正制御などの各種車両制御を行い、車両制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御対象輪に対するブレーキ制御量やアクセル開度制御量を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU4が各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への供給電流を制御したり、エンジンECU8に対して指示信号を出力したりする。以上のような構成により、本実施形態にかかるブレーキ液圧制御装置1が構成されている。
このように構成されるブレーキ液圧制御装置1では、例えば、アンチスキッド制御等が実行されない通常のブレーキ時には、ブレーキECU4から各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への電流供給が行われない。このため、ブレーキレバー11やブレーキペダル12での操作量に応じたW/C圧が各W/C16、17に発生させられることになる。これにより、ブレーキレバー11やブレーキペダル12に応じた制動力が前輪FWや後輪RWに発生させられる。
また、アンチスキッド制御時には、必要に応じて、ブレーキECU4から各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への電流供給が行われる。これにより、管路B、Fを通じて管路A、Eと調圧リザーバ20、25が連通状態になり、各W/C16、17に発生させられたW/C圧が減少させられ、車輪スリップが抑制されることで車輪ロックを回避することが可能となる。
そして、車両姿勢補正制御時には、制御対象輪に対して制動力を発生させるためにブレーキ制御量に対応するW/C圧を発生させたり、アクセルを増加させるためにエンジンECU8に対してアクセル開度制御量を指示したりする。この車両姿勢補正制御が本発明の特徴となる制御であるため、以下、この車両姿勢補正制御について詳細に説明する。
本明細書でいう車両姿勢補正制御では、車両の全車輪FW、RWが路面から浮き上がったジャンプ時に車両の安定性を向上させるために車両の姿勢を制御する。具体的には、ジャンプ時に車両が過剰に前向きに回転することで転倒する前転しそうな場合(以下、前転傾向という)もしくは車両が過剰に後向きに回転することで転倒する後転しそうな場合(以下、後転傾向という)に、車両のピッチ姿勢を補正する必要がある。これらの場合に、ピッチ姿勢を補正して前転傾向および後転傾向を抑制する車両姿勢補正制御を行う。
図2は、前転傾向および後転傾向が発生する様子を示した模式図である。例えば、図2(a)に示すように、車両が走行路面の段差などによって高い位置から低い位置にジャンプして降りるときに、車両のフロント側が下がって前転傾向となることがある。また、図2(b)に示すように、車両の走行路面が登坂路から平坦路に変わる瞬間にジャンプするときに、車両のフロント側が上がって後転傾向となることがある。このような前転傾向や後転傾向になった場合には、その傾向を抑制できるようにすることで車両の安定性を向上させることが可能となる。このため、前転傾向であれば車両のフロント側が上がる方へ、後転傾向であれば車両のフロント側が下がる方へ力を作用させるような車両姿勢補正制御を行う。
具体的には、前転傾向や後転傾向は、車両がピッチ軸を中心とするピッチング方向に過剰に回転することにより発生する。ピッチング方向の運動の制御は、車両の中心より前方に位置して車両のピッチ軸と略平行な回転軸を持ち回転する前輪FW、もしくは、車両の中心より後方に位置して車両のピッチ軸と略平行な回転軸を持ち回転する後輪RWの回転速度を制御することにより実現することができる。
すなわち、車両のフロント側が上がる方向へ力を作用させるには、後輪RWの回転速度をより増加させるようにすれば良い。例えば、アクセルをオン(もしくは増加)させれば良い。また、車両のフロント側が下がる方向へ力を作用させるには、前輪FWや後輪RWの回転速度をより低減させるようにすれば良い。例えば、アクセルをオフしたり、前輪FWや後輪RWにブレーキを掛けたりすれば良い。このような車両姿勢補正制御を行うことで、車両に対して力を作用させ、車両の姿勢を安定化させることができる。
次に、このような力を作用させることができるメカニズムについて、図3および図4を参照して説明する。図3は、ある点を中心として角運動を行うときのイメージを示した図であり、図4は、車両への力の作用の仕方をモデル化した模式図である。
まず、角運動量保存則より、ある点に関する外力のモーメントの総和が0、つまり外力が加わっていない場合、その外力を受けて運動する質点または質点系のその点周りの角運動量は一定である。
すなわち、図3に示されるように、角運動量Mは、角運動の半径(質点の位置ベクトル)をr、運動量をpとすると、M=r×pで与えられる。そして、運動量pについては、数式1に表した運動方程式が成り立つことから、その両辺に角運動の半径rを掛けると、数式2が導出される。また、r×pを時間微分したd(r×p)/dtは、数式3のように表される。したがって、数式2、3より、数式4を導出することができる。なお、Nは回転力(トルク)である。
したがって、1個の質点に働く回転力、つまり外力がゼロであれば、角運動量は保存され、その点周りの角運動量は一定となる。このような前提のもと、車両姿勢補正制御を行うと、角運動量を保存するために車両を前向きもしくは後向きに回転させる方向に力を作用させることが可能となる。
具体的には、アクセルをオン(もしくは増加)させた場合、後輪RWを加速することになる。この場合、角運動量を保存するために後輪RWが加速した分の角運動量を打ち消すために車体が後向きに回転する方向に力が作用し、車両のフロント側を上げることができる。
より詳しくは、図4(a)に示すように、エンジンのスプロケットと後輪RWのスプロケットの間のチェーン30の上側に張力が発生する。これにより、後輪RWの回転軸を中心としてエンジンのスプロケットを上方に引上げるモーメントが発生し、これが後輪RWの回転軸を中心に車両の重心Wを引上げる力として働く。このため、車体が後向きに回転する。これは、後輪RWの回転軸を中心として考えた場合、後輪RWの角運動量の増加分に相当する角運動量が後輪の回転軸を中心とした車体の後輪RWの回転と逆方向の角運動量に移動し、角運動量保存の法則に従って、後輪RWの回転軸を中心とした全体の角運動量が保存されていると考えることもできる。
逆に、アクセルをオフ(もしくは減少)させた場合には、後輪RWの減速に基づく角運動量を打ち消すために、車体が前向きに回転する方向に力が作用し、車両のフロント側を下げることができる。つまり、アクセルをオンさせた場合と逆方向の力が作用させられることになる。
また、後輪RWのブレーキを掛けた場合には、後輪RWを減速することになる。この場合にも、後輪RWの減速に基づく角運動量を打ち消すために、車体が前向きに回転する方向に力が作用し、車両のフロント側を下げることができる。
より詳しくは、図4(b)に示すように、回転している後輪RWにスイングアーム31に固定されたブレーキで制動を掛けると、車輪には慣性があるため、制動力により後輪RWの速度が低下するだけでなく、後輪RWの回転軸を中心としてスイングアーム31を下方に押し下げる方向のモーメントが発生し、これがスイングアーム31を伝わって後輪RWの回転軸を中心に車両の重心Wを押し下げる力となり、車体が前向きに回転する。これは、後輪RWの回転軸を中心として考えた場合、後輪RWの角運動量の減少分に相当する角運動量が、後輪RWの回転軸を中心とした車体の後輪RWの回転と同方向の角運動量に移動し、角運動量保存の法則に従って、後輪RWの回転軸を中心とした全体の角運動量が保存されていると考えることもできる。
また、前輪FWのブレーキを掛けた場合には、前輪FWを減速することになる。この場合にも、前輪FWの減速に基づく角運動量を打ち消すために、車体が前向きに回転する方向に力が作用し、車両のフロント側を下げることができる。
より詳しくは、図4(c)に示すように、回転している前輪FWにフロントフォーク32に固定されたブレーキで制動を掛けると、車輪には慣性があるため、制動力により前輪FWの速度が低下するだけでなく、前輪FWの回転軸を中心としてフロントフォーク32を上方に引上げる方向のモーメントが発生し、これが前輪FWの回転軸を中心に車両の重心Wを引上げる力となり、車体が前向きに回転する。これは、前輪FWの回転軸を中心として考えた場合、前輪FWの角運動量の減少分に相当する角運動量が、前輪FWの回転軸を中心とした車体の前輪FWの回転と同方向の角運動量に移動し、角運動量保存の法則に従って、前輪FWの回転軸を中心とした全体の角運動量が保存されていると考えることもできる。
このように、アクセルをオン(もしくは増加)させることで車両のフロント側が上がる方向へ力を作用させることができ、アクセルをオフしたり、前輪FWや後輪RWにブレーキを掛けることで車両のフロント側が下がる方向へ力を作用させることができる。このようなメカニズムに基づいて車両姿勢補正制御を行う。
図5は、ブレーキECU4が実行する車両姿勢補正制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示す処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンのときに所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100では、初期設定として、アクセル開度制御量を0、フロントブレーキ制御量を0、リアブレーキ制御量を0にする。アクセル開度制御量とは、アクセル開度を制御するときの制御量であり、エンジンECU8に対して指示信号として伝えられる。フロントブレーキ制御量およびリアブレーキ制御量は、前輪FWや後輪RWに発生させる制動力の制御量を意味している。
ここでは、アクセル開度制御量については0、±1によって表している。アクセル開度制御量=0はアクセル開度について何も調整しないこと、アクセル開度制御量=1はアクセル開度を全開にすること、アクセル開度制御量=−1はアクセル開度を全閉にすることを意味している。また、フロントブレーキ制御量およびリアブレーキ制御量については0、1によって表している。ブレーキ制御量=0はブレーキについて何も調整しないこと、ブレーキ制御量=1は第1、第2差圧制御弁18、23によって所定の差圧(例えば10MPa)を発生させると共にモータ3を作動させてポンプ22、27を駆動し、前輪W/C16や後輪W/C17のW/C圧を上昇させてブレーキを掛けることを意味している。したがって、ステップ100で初期設定として各制御量を0に設定することで、アクセル開度やブレーキについて何も調整していない状態とする。
続いて、ステップ105に進み、ジャイロセンサ6の検出信号に基づいて、ピッチレートPrを検出する。ここで、ピッチレートPrとは、車両のピッチング方向、つまり車両左右方向と並行なピッチ軸を中心とした車両前後方向の回転角速度であるピッチ角速度に相当する。このピッチレートPrは、ジャンプ中における車両の空中姿勢を検出するために求めている。車両の姿勢の検出には、加速度センサを用いるのが一般的であるが、空中では速度変化が小さいし、弾道飛行(自由落下状態)なのでほぼ無重力状態となっており、加速度センサによって空中姿勢を検出することは難しい。このため、ジャイロセンサ6の検出信号を用いて空中姿勢を検出するようにしている。
具体的には、ステップ110に進み、ステップ105で求めたピッチレートPrに基づいて空中姿勢を示すパラメータの一つであるピッチ角θを演算する。例えば、制御周期が6msであった場合には、前回の制御周期の時に演算されたピッチ角θ(n−1)に対してピッチレートPrに演算周期を掛けること(θ(n)=θ(n−1)+Pr×6/1000)により、今回の制御周期でのピッチ角θ(n)を演算することができる。
そして、ステップ115に進み、ジャンプ中でないか否かを判定する。この判定は、サスストロークセンサ7の検出信号に基づいてサスペンションのストローク量を演算し、そのストローク量に基づいて行われる。すなわち、ストローク量が前輪FWおよび後輪RWに車重が加わっていない場合に想定される長さに至った時にジャンプ中、それよりも小さなストローク量であればジャンプ中ではないと判定するようにしている。ここで肯定判定されれば車両姿勢補正制御の必要がないためそのまま処理を終了し、否定判定されるとステップ120以降に進む。
ステップ120、125では、ピッチ角θが第1、第2閾角度θ1、θ2を超えているか否かを判定する。本実施形態の場合、車両が後方へ回転する側をピッチ角θを正の値としているため、ピッチ角θが第1、第2閾角度θ1、θ2を超えているとは、これらよりも大きくなっていることを意味する。第1閾角度θ1と第2閾角度θ2は、それぞれ後転傾向を抑制するために車両姿勢補正制御として実行する後転制御の制御開始と制御終了閾値を設定したものであり、第1閾角度θ1と第2閾角度θ2との関係は、0<θ2<θ1となっている。第1閾角度θ1は車両の姿勢が後転傾向にあって後転制御を開始すべきと想定される角度とされ後転判定ピッチ角閾値に相当する。第2閾角度θ2は後転傾向が抑制される程度に車両の姿勢が補正されたと想定される角度とされている。
ここで、ピッチ角θが制御開始閾値に相当する第1閾角度θ1よりも大きい場合には、ステップ120、125の両方で肯定判定され、ステップ130に進む。また、ピッチ角θが第2閾角度θ2より大きいが第1閾角度θ1以下の場合には、ステップ125において否定判定され、ステップ130を超えてステップ135に進む。
ステップ130では、後転制御フラグをオンする。そして、ステップ135に進んで後転制御フラグがオンされているか否かを判定し、ここでも肯定判定されるとステップ140において後転制御としてアクセル開度制御量=−1、フロントブレーキ制御量=1、リアブレーキ制御量=1に設定する。これにより、アクセルを全閉にしたり、第1、第2差圧制御弁18、23によって所定の差圧を発生させると共にモータ3を作動させてポンプ22、27を駆動し、前輪W/C16や後輪W/C17のW/C圧を上昇させてブレーキを掛ける。したがって、車両のフロント側が下がる方向に力が作用させられ、後転傾向が抑制されるためピッチ姿勢を補正できる。
また、ステップ125で否定判定された場合には、ピッチ角θが後転傾向に近づいているもののまだ後転制御を実行するには至らない状況か、既に後転制御が開始されて後転傾向が抑制されつつある状況である。前者の場合には、ステップ135で否定判定され、そのまま処理を終了する。また、後者の場合、一旦後転制御が開始させられるとステップ120においてピッチ角θが制御終了閾値に相当する第2閾角度θ2以下になるまでは後転制御フラグがオンされることになるため、ステップ125で否定判定されたとしてもステップ135で肯定判定され、ステップ140に進んで後転制御が継続される。
一方、ピッチ角θが第2閾角度θ2以下であるとき、つまり後転傾向が抑制されたとき、もしくは後転傾向ではなく前転傾向にあるときには、ステップ120で否定判定され、ステップ145に進む。そして、ステップ145に進んで後転制御フラグをオフしたのち、ステップ150以降に進む。
ステップ150、155では、ピッチ角θが第3、第4閾角度θ3、θ4を超えているか、具体的にはこれらの値未満であるか否かを判定する。本実施形態の場合、車両が前方へ回転する側をピッチ角θを負の値としているため、ピッチ角θが第3、第4閾角度θ3、θ4を超えているとは、これらよりも小さくなっていることを意味する。第3閾角度θ3と第4閾角度θ4は、それぞれ前転傾向を抑制するために車両姿勢補正制御として実行する前転制御の制御開始と制御終了閾値を設定したものであり、第3閾角度θ3と第4閾角度θ4との関係は、θ3<θ4<0となっている。第3閾角度θ3は車両の姿勢が前転傾向にあって前転制御を開始すべきと想定される角度とされ前転判定ピッチ角閾値に相当する。第2閾4度θ4は前転傾向が抑制される程度に車両の姿勢が補正されたと想定される角度とされている。
ここで、ピッチ角θが制御開始閾値に相当する第3閾角度θ3未満の場合には、ステップ150、155の両方で肯定判定され、ステップ160に進む。また、ピッチ角θが第4閾角度θ4未満であるが第3閾角度θ3以上の場合には、ステップ155において否定判定され、ステップ160を超えてステップ165に進む。
ステップ160では、前転制御フラグをオンする。そして、ステップ165に進んで前転制御フラグがオンされているか否かを判定し、ここでも肯定判定されるとステップ170において前転制御としてアクセル開度制御量=1に設定する。これにより、アクセルを全開にする。したがって、車両のフロント側が上がる方向に力が作用させられ、前転傾向が抑制されるためピッチ姿勢を補正できる。
また、ステップ155で否定判定された場合には、ピッチ角θが前転傾向に近づいているもののまだ前転制御を実行するには至らない状況か、既に前転制御が開始されて前転傾向が抑制されつつある状況である。前者の場合には、ステップ165で否定判定され、そのまま処理を終了する。また、後者の場合、一旦前転制御が開始させられるとステップ150においてピッチ角θが制御終了閾値に相当する第4閾角度θ4を超えるまでは前転制御フラグがオンされることになるため、ステップ155で否定判定されたとしてもステップ165で肯定判定され、ステップ170に進んで後転制御が継続される。
一方、ピッチ角θが第4閾角度θ4以上であるとき、つまり前転傾向が抑制されたとき、もしくは後転傾向も前転傾向も小さいときには、ステップ150で否定判定され、ステップ175に進む。そして、ステップ175に進んで前転制御フラグをオフしたのち、処理を終了する。以上により、車両姿勢補正制御処理が完了する。
図6および図7は、上記のようにして車両姿勢補正制御が実行される場合の一例を示したタイミングチャートである。図6は、車両の走行路面が登坂路から平坦路に変わる瞬間にジャンプするときに、車両のフロント側が上がって後転傾向になったときに後転制御が実行される場合のタイミングチャートである。図7は、車両が走行路面の段差などによって高い位置から低い位置にジャンプして降りるときに、車両のフロント側が下がって前転傾向になったときに前転制御が実行される場合のタイミングチャートである。
図6に示されるように、時点T1において走行路面が平坦路から登坂路に変わったときに、ピッチ角θがその登坂路の傾斜に応じた角度になる。また、時点T2において登坂路から再び平坦路に戻って車両がジャンプすると、ジャンプ中であると判定される。そして、ピッチ角θが上昇し、時点T3において制御開始閾値に相当する第1閾角度θ1を超えると、後転制御が開始され、アクセル開度が全閉にされると共に、前輪FWおよび後輪RWにブレーキが掛けられる。これにより、後転傾向が抑制されていき、時点T4においてピッチ角θが制御終了閾値に相当する第2閾角度θ2以下になると、後転制御が終了する。そして、時点T5において前輪FWおよび後輪RWのいずれかが走行路面に接すると、ジャンプ中でないと判定されることになる。
また、図7に示されるように、時点T1において走行路面の段差などによってジャンプし、高い位置から低い位置にジャンプして降りる状況になったとき、ジャンプ中であると判定される。そして、ピッチ角θが低下し、時点T2において制御開始閾値に相当する第3閾角度θ3未満になると、前転制御が開始され、アクセル開度が全開にされる。これにより、前転傾向が抑制されていき、時点T3においてピッチ角θが制御終了閾値に相当する第4閾角度θ4以上になると、前転制御が終了する。そして、時点T4において前輪FWおよび後輪RWのいずれかが走行路面に接すると、ジャンプ中でないと判定されることになる。
以上説明したように、本実施形態では、ジャンプ時に後転傾向にあるときには車両姿勢補正制御として後転制御を行うことで、車両のフロント側が下がる方向に力を作用させ、後転傾向が抑制されるようにしている。また、ジャンプ時に前転傾向にあるときには車両姿勢補正制御として前転制御を行うことで、車両のフロント側が上がる方向に力を作用させ、前転傾向が抑制されるようにしている。これにより、車両の安定性を向上させることが可能となる。
なお、車両のジャンプ時には、基本的にはアクセルがオフ、ブレーキがオフとなるため、前輪FWはジャンプ前の慣性で回っている状態となり、後輪RWはエンジンブレーキが掛かって後輪RWが接地している状態の時よりも早く回転速度が落ちていく状態となる。この状態において、上記のような車両姿勢補正制御を実行している。このため、ジャンプ時に前転傾向を抑制するためにアクセルをオンすると、急激に後輪RWの車輪速度が上昇する。また、ジャンプ時に後転傾向を抑制するために前輪FWや後輪RWにブレーキを掛けて前輪加速度や前輪加速度を下げられることになる。このような運転者の意図しない制動力や駆動力が作用した状態のままジャンプ終了になると、着地時に車両挙動が不安定になる可能性が有るため、着地タイミングを予測し、その着地直前に制御終了とすると好ましい。
しかしながら、車両の飛び出し角度と速度がわかったとしても、ジャンプ開始点と着地点の高度差が分からないので、着地タイミングを予測することはできない。したがって、着地タイミングを予測するのではなく、他の制御終了条件を用いるようにすると好ましい。例えば、ジャンプ開始から所定時間内のみ車両姿勢補正制御を制御許可とし、所定時間経過後は制御禁止して車両姿勢補正制御を終了とすることができる。また、車両姿勢補正制御の制御開始時の車輪速度からの速度変化、つまり速度偏差が所定範囲を超えたら車両姿勢補正制御を終了するようにしても良い。さらに、前輪FWもしくは後輪RWのいずれかの着地を検知したら同時に車両姿勢補正制御を終了するようにしても良い。前輪FWもしくは後輪RWの着地については、サスストロークセンサ7によって検出されるストローク量に基づいて検知することができる。また、車両姿勢補正制御の際に前輪FWと後輪RWのいずれか一方のみしか制御対象としないこともできるが、その場合には、ドライバの操作なしに制御対象となっていない側の車輪の車輪速度が急変したら車輪が着地したと検出するようにすることもできる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、ジャンプ時に実行する車両姿勢補正制御の制御対象として自動二輪車を例に挙げて説明したが、4輪車両ついてもジャンプ時に車両姿勢補正制御を実行することができ、特にバギーカーやATV(All Terrain Vehicle)のようなダート用車両などに適用すると好ましい。
また、車両の前転傾向もしくは後転傾向は、車両のピッチ軸を中心としたピッチング方向の運動、つまりピッチ状態として表れるため、上記実施形態ではピッチ角θに基づいて前転傾向もしくは後転傾向を検出するようにした。しかしながら、ピッチ角θの代わりにピッチ角速度を用いてピッチ状態を検出するようにしてもよい。ピッチ角速度が速い状態では運転者が運転姿勢や車両姿勢を適切に維持できない恐れがあり、車両姿勢補正制御を実行することが望ましい。例えば、ピッチ角速度が前転判定ピッチ角速度閾値となったときを前転傾向と想定される状態として前転制御を行ったり、後転判定ピッチ角速度閾値となったときを後転傾向と想定される状態として後転制御を行うようにすれば良い。
さらに、ピッチ角θとピッチ角速度の両方を用いて前転制御もしくは後転制御という車両姿勢補正制御を実行するようにしても良い。その場合、よりピッチ角速度が高いほど前転傾向や後転傾向に至る可能性が高い。このため、ピッチ角速度が高い方が低いときと比べて前転制御や後転制御の開始閾値となる第1閾角度θ1や第3閾角度θ3の絶対値が小さくなるようにすると、より早い段階から車両姿勢補正制御を開始できるため好ましい。
また、上記実施形態では、後転制御を実行するために前輪FWと後輪RWの両方を制御対象としたが、いずれか一方のみを実行することもできる。特に、ジャンプ終了時にブレーキが掛かった状態のために前輪FWがロックする可能性もあり、後輪RWのロックよりも前輪FWのロックの方が危険性が高いため、いずれか一方のみ制御対象とするのであれば後輪RW側とするのが好ましい。また、前輪FWと後輪RWの両方共に実行する場合においても、後輪RWのブレーキ制御量の方が前輪FWのブレーキ制御量よりも大きくなるようにしたり、後輪RW側を優先としてブレーキを掛けるような後転制御を実行し、後輪RW側のみでは足りない場合に前輪FW側にもブレーキを掛けるようにしても良い。その場合には、例えば後転傾向を2段階に分け、後転程度の軽い第1後転傾向とそれよりも後転程度の高い第2後転傾向とを判定できるようにし、第1後転傾向と判定されたときには後輪RWのみにブレーキを掛け、第2後転傾向と判定されたときには後輪RWに加えて前輪FWにもブレーキを掛けるようにすることができる。
また、上記実施形態では、後転制御の一例としてアクセルをオフし、前輪FWおよび後輪RWにブレーキを掛けるようにしたが、前輪FWもしくは後輪RWの回転速度を本来発生させられる回転速度より低減させられれば良い。つまり、本来発生させられる回転速度が上昇状態であるときにはその上昇度合いを低くする場合も含まれ、それが低下状態であるときにはその低下度合いを高くする場合も含まれる。このため、アクセル開度が0でない状態であればアクセル開度をより低減させるようにしても良く、前輪FWもしくは後輪RWに対してブレーキが掛けられている状態であればブレーキ制御量がより大きくなるようにしても良い。
同様に、前転制御の一例としてアクセルを全開するようにしたが、後輪RWの回転速度を本来発生させられる回転速度より増加させられれば良い。つまり、本来発生させられる回転速度が上昇状態のときにはその上昇度合いを高くする場合も含まれ、それが低下状態であるときにはその低下度合いを低くする場合も含まれる。このため、アクセル開度を全開にするのではなく、そのときのアクセル開度よりも増加させるようにすれば良い。また、前輪FWもしくは後輪RWに対してブレーキが掛けられている状態であればブレーキ制御量がより小さくなるようにしても良い。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、ブレーキECU4のうちステップ110の処理を実行する部分がピッチ状態検出手段、ステップ115の処理を実行する部分が車両ジャンプ判定手段、ステップ125の処理を実行する部分が後転傾向判定手段、140、170の処理を実行する部分がピッチ姿勢補正手段、ステップ155の処理を実行する部分が前転傾向判定手段に相当する。