(第1実施形態)
以下、車両の制御装置を具体化した第1実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両前方を「前」、車両後方を「後ろ」、車両運転者の右側方向を「右」、車両運転者の左側方向を「左」とする。
図1に示すように、車両11には、エンジン12が搭載されている。このエンジン12には、燃料を噴射する燃料噴射弁などを設けられており、この燃料噴射弁から噴射される燃料の量を調整することにより、エンジン12の出力トルクが調整される。
エンジン12の出力軸であるクランクシャフトは、変速機40に接続されている。本実施形態の変速機40は、トルクコンバータと多段変速段とを備える自動変速機であるが、この他の変速機でもよい。
変速機40の出力軸は、副変速機41に接続されている。副変速機41は、変速機40から伝達された駆動力を2段階に切り替える減速機であり、車室内に設けられた切替スイッチあるいは切替レバー等によって「H4」または「L4」のうちのいずれかの変速段が選択される。なお、「H4」は通常走行時に使用する変速段であり、「L4」は、悪路走行時などにおいて車両の駆動力を高める場合に使用する変速段である。
副変速機41の出力軸は、トランスファ42に接続されている。トランスファ42は、車両11の駆動方式を切り替える機構であり、エンジン12で発生した駆動力を車両11の後輪のみに伝達する駆動力伝達経路と、エンジン12で発生した駆動力を車両11の全車輪に伝達する駆動力伝達経路とが選択可能に構成されている。そして、車室内に設けられた切替スイッチあるいは切替レバー等によって「2WD」が選択されると、トランスファ42では、エンジン12で発生した駆動力を車両11の後輪のみに伝達する駆動力伝達経路が選択される。他方、車室内に設けられた切替スイッチあるいは切替レバー等によって「4WD」が選択されると、トランスファ42では、エンジン12で発生した駆動力を車両11の全車輪に伝達する駆動力伝達経路が選択される。なお、「2WD」と「4WD」とを車両走行状態に応じて自動的に切り替えるようにしてもよい。
トランスファ42の出力軸は、前側プロペラシャフト43及び後ろ側プロペラシャフト44に接続されている。
前側プロペラシャフト43は、前側デファレンシャルギヤ45に接続されている。前側デファレンシャルギヤ45は、車両旋回時等における車両左右輪の回転速度差を吸収しつつ駆動力を伝達するための差動機構である。なお、本実施形態の前側デファレンシャルギヤ45は、車両左右輪の回転速度差を吸収しつつ駆動力を伝達することが可能なデフフリー状態と、車両左右輪を直結状態にすることにより車輪の空転を抑えるデフロック状態とを切り替え可能に構成されている。
前側デファレンシャルギヤ45には、右前側ドライブシャフト46が接続されており、この右前側ドライブシャフト46の端部は車両の右前輪FRに接続されている。また、前側デファレンシャルギヤ45には、左前側ドライブシャフト47が接続されており、この左前側ドライブシャフト47の端部は車両の左前輪FLに接続されている。右前輪FR及び左前輪FLは、車両11を旋回させる転舵輪である。
後ろ側プロペラシャフト44は、後ろ側デファレンシャルギヤ47に接続されている。後ろ側デファレンシャルギヤ47も、車両旋回時等における車両左右輪の回転速度差を吸収しつつ駆動力を伝達するための差動機構である。なお、本実施形態の後ろ側デファレンシャルギヤ47も、車両左右輪の回転速度差を吸収しつつ駆動力を伝達することが可能なデフフリー状態と、車両左右輪を直結状態にすることにより車輪の空転を抑えるデフロック状態とを切り替え可能に構成されている。
後ろ側デファレンシャルギヤ47には、右後ろ側ドライブシャフト48が接続されており、この右後ろ側ドライブシャフト48の端部は車両の右後輪RRに接続されている。また、後ろ側デファレンシャルギヤ47には、左後ろ側ドライブシャフト49が接続されており、この左後ろ側ドライブシャフト49の端部は車両の左後輪RLに接続されている。
車室内に設けられたステアリングホイール24には、ステアリングシャフト25が固定されている。ステアリングシャフト25は、転舵アクチュエータ26に接続されている。転舵アクチュエータ26には、右前輪FR及び左前輪FLを転舵させるリンク機構部27が設けられている。
右前輪FRには、車輪の回転を制動する第1ホイールシリンダ36aが設けられている。第1ホイールシリンダ36aには、ブレーキ液で満たされた第1液圧供給路33aが接続されている。この第1液圧供給路33aを介して第1ホイールシリンダ36aに供給されるブレーキ液の圧力を調整されることにより、右前輪FRの制動力が調整される。
左前輪FLには、車輪の回転を制動する第2ホイールシリンダ36bが設けられている。第2ホイールシリンダ36bには、ブレーキ液で満たされた第2液圧供給路34aが接続されている。この第2液圧供給路34aを介して第2ホイールシリンダ36bに供給されるブレーキ液の圧力が調整されることにより、左前輪FLの制動力が調整される。
右後輪RRには、車輪の回転を制動する第3ホイールシリンダ36cが設けられている。第3ホイールシリンダ36cには、ブレーキ液で満たされた第3液圧供給路34bが接続されている。この第3液圧供給路34bを介して第3ホイールシリンダ36cに供給されるブレーキ液の圧力を調整されることにより、右後輪RRの制動力が調整される。
左後輪RLには、車輪の回転を制動する第4ホイールシリンダ36dが設けられている。第4ホイールシリンダ36dには、ブレーキ液で満たされた第4液圧供給路33bが接続されている。この第4液圧供給路33bを介して第4ホイールシリンダ36dに供給されるブレーキ液の圧力を調整されることにより、左後輪RLの制動力が調整される。
第1〜第4液圧供給路は、ブレーキアクチュエータ15に接続されている。このブレーキアクチュエータ15は、油圧ポンプ、油圧バルブ等で構成されている。このブレーキアクチュエータ15は、第1〜第4液圧供給路の各液圧供給路におけるブレーキ液圧を、ブレーキペダルの操作量や制御装置にて演算された要求制動力などに応じて調整することにより、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR、及び左後輪RLの各制動力を調整する。
右前輪FRを車両11に懸架するサスペンションには、車両右前部の車高を調整する第1車高調整機構50aが設けられており、左前輪FLを車両11に懸架するサスペンションには、車両左前部の車高を調整する第2車高調整機構50bが設けられている。
右後輪RRを車両11に懸架するサスペンションには、車両右後部の車高を調整する第3車高調整機構51aが設けられており、左後輪RLを車両11に懸架するサスペンションには、車両左後部の車高を調整する第4車高調整機構51bが設けられている。
ちなみに、上述した車高調整機構は周知の構成を採用することができる。例えば、本実施形態においては、ばねに代えて空気で車両を支える、いわゆるエアサスペンションを備えるようにしており、車両11を支える空気圧を増減させることにより車高が変化する。
車両11には、各種センサやスイッチが設けられている。
例えばブレーキペダルには、ブレーキペダルが踏み込まれているかどうかを検出するブレーキスイッチSW1が設けられている。アクセルペダルには、アクセルペダルが踏み込まれているかどうかを検出するアクセルスイッチSW2が設けられている。
第1車輪速度センサSE1は、右前輪FRの車輪速度である右前輪速度V(FR)を検出する。第2車輪速度センサSE2は、左前輪FLの車輪速度である左前輪速度V(FL)を検出する。第3車輪速度センサSE3は、右後輪RRの車輪速度である右後輪速度V(RR)を検出する。第4車輪速度センサSE4は、左後輪RLの車輪速度である左後輪速度V(RL)を検出する。
第1ストロークセンサSE5は、右前輪FRを懸架するサスペンションのストローク量である右前側ストローク量S(FR)を検出する。第2ストロークセンサSE6は、左前輪FLを懸架するサスペンションのストローク量である左前側ストローク量S(FL)を検出する。第3ストロークセンサSE7は、右後輪RRを懸架するサスペンションのストローク量である右後ろ側ストローク量S(RR)を検出する。第4ストロークセンサSE8は、左後輪RLを懸架するサスペンションのストローク量である左後ろ側ストローク量S(RL)を検出する。これら第1〜第4ストロークセンサの検出値から車両11の車高の状態が検出される。
操舵角センサSE9は、ステアリングホイール24の操舵角である舵角STを検出する。加速度センサSE10は、車両11の前後方向の加速度である前後加速度GXと、車両11の左右方向に作用する加速度である横加速度GYを検出する。ヨーレートセンサSE11は、車両11のヨーレートYRを検出する。なお、操舵角センサSE9は操舵角検出部を、加速度センサSE10は横加速度検出部を、ヨーレートセンサSE11はヨーレート検出部をそれぞれ構成する。
図2に示すように、ステアリングホイール24が左側に回動されると、舵角STは正の値になり、ステアリングホイール24が右側に回動されると、舵角STは負の値になる。そして、中立位置(車両11が直進状態になるステアリングホイール24の位置)からの回動量が多くなるほど、舵角STの絶対値は大きくなる。
図3に示すように、車両11が前進しているときには、前後加速度GXは正の値になり、前進方向への加速度が大きいときほど、前後加速度GXの絶対値は大きくなる。一方、車両11が後進しているときには、前後加速度GXは負の値になり、後進方向への加速度が大きいときほど、前後加速度GXの絶対値は大きくなる。なお、こうした加速度には、路面勾配に応じた重力加速度が反映される。そのため、車両11が極低車速にて走行している状態で、前後加速度GXが正の値になっているときには車両11が坂路を上り方向に走行していると判断することができ、前後加速度GXが負の値になっているときには車両11が坂路を下り方向に走行していると判断することが可能である。
また、車両11の右方向に加速度が作用しているとき(例えば車両11の左旋回時など)には、横加速度GYは正の値になり、右方向への加速度が大きいときほど、横加速度GYの絶対値は大きくなる。一方、車両11の左方向に加速度が作用しているとき(例えば車両11の右旋回時など)には、横加速度GYは負の値になり、左方向への加速度が大きいときほど、横加速度GYの絶対値は大きくなる。
そして、車両11が左方向に回動しているとき(例えば車両11の左旋回時など)には、ヨーレートYRは正の値になり、左方向への角加速度が大きいときほど、ヨーレートYRの絶対値は大きくなる。一方、車両11が右方向に回動しているとき(例えば車両11の右旋回時など)には、ヨーレートYRは負の値になり、右方向への角加速度が大きいときほど、ヨーレートYRの絶対値は大きくなる。
先の図1に示すように、車両11の前部には、第1カメラCAM1が設けられている。この第1カメラCAM1によって、第1カメラCAM1の真下の路面が撮影される。また、車両11の後部には、第2カメラCAM2が設けられている。この第2カメラCAM2によって、第2カメラCAM2の真下の路面が撮影される。
車両11の走行状態は、制御装置100によって制御される。制御装置100は、各種演算を行うCPU、車両制御に必要な各種データやプログラム等が記憶されているROM、各種データを一時的に記憶するRAM、各種信号を入力したり出力したりするインターフェース等を備えている。そして、制御対象ごとに制御部がユニット化されており、それら各制御部は、CAN170を通じて相互通信を行う。こうした相互通信により、各制御部で行われた演算結果や、各制御部に入力された検出信号などは、互いに共有可能にされている。また、第1カメラCAM1や第2カメラCAM2で捉えられた画像の信号は、CAN170を介して制御装置100内の画像処理部に送られる。
エンジン制御部110には、上記アクセルスイッチSW2や、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ、吸入空気量を検出するエアフロメータなどの各種センサが接続されている。エンジン制御部110は、検出された機関運転状態に応じて吸入空気量や燃料噴射量などを調整することにより、エンジン12の運転状態、例えば出力トルクなどを制御する。
変速機制御部120には、車室内に設けられたシフトレバーの操作位置や副変速機41の操作要求などが入力される。そして、シフトレバーの操作位置及び車速及びアクセル操作量などに基づいて変速機40の変速制御を行うとともに、副変速機41の操作要求に応じて「H4」または「L4」の切替制御を行う。
トランスファ制御部130には、トランスファ42の操作要求などが入力され、その入力された操作要求に応じて「2WD」または「4WD」の切替制御を行う。
ステアリング制御部140には、舵角STや車速などが入力され、それら入力信号に応じて転舵アクチュエータ26の駆動量を調整することにより、転舵輪の転舵や、ステアリングホイール24の操舵力軽減などを行う。
サスペンション制御部150には、第1〜第4ストロークセンサの検出値、車速、車室内に設けられた車高調整スイッチの操作状態などが入力される。そして、サスペンション制御部150は、上述した各車高調整機構の駆動を制御することにより、車両11の車高を走行状態や車両運転者の要求に応じた高さに調整する。
ブレーキ制御部160には、第1〜第4車輪速度センサの検出値、加速度センサSE10の検出値、ヨーレートセンサSE11の検出値、運転者によるブレーキペダルの操作力など、ブレーキ制御に必要な各種検出値が入力される。また、ブレーキ制御部160には、ブレーキスイッチSW1が接続されている。そして、ブレーキ制御部160は、各種演算により算出された要求制動力などに応じて、ブレーキアクチュエータ15を制御することにより、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR、及び左後輪RLの各制動力を適切に調整する。
ところで、車両11が坂路を走行しているときに、車輪のロックや空転などが発生すると、車輪の接地力が低下するようになる。そのため、車両の操作状態に応じた走行経路に対して、実際の車両は、接地力の不足によって、坂路の傾斜方向下側に偏向してずり下がる偏向ずり下がり状態になり、車両の姿勢が不安定になるおそれがある。なお、以下では、坂路の傾斜方向下側を「谷側」といい、坂路の傾斜方向上側を「山側」という。また、車両11が偏向ずり下がり状態になっていることを「車両偏向」という。
図4(A)及び図4(B)に、そうした車両偏向の例をそれぞれ示す。
図4(A)には、1つめの車両偏向状態を示す。この図に示すように、坂路の山側の車輪(この図では右前輪FRや左前輪FL)の接地力が低下すると、谷側の車輪(この図では左後輪RL)を支点にして、車両11が谷側に向けて回動する回動ずり下がりの状態が起きやすくなる。なお、こうした回動ずり下がりの状態を、以下では、「ワイパ」といい、車両11が右方向に回動する状態を「右ワイパ」、左方向に回動する状態を「左ワイパ」という。
図4(B)には、2つめの車両偏向状態を示す。この図に示すように、前後輪の接地力がともに低下すると、車両11の前輪(右前輪FR及び左前輪FL)及び後輪(右後輪RR及び左後輪RL)が谷側に向かってずり下がるようになる。そのため、車両11が、車両11の操作状態に応じた走行経路に対して坂路の谷側へ平行にずり下がる平行ずり下がりの状態が起きやすくなる。なお、こうした平行ずり下がりの状態を、以下では、「ずり落ち」といい、車両11の右側が谷側にずり落ちる状態を「右ずり落ち」、車両11の左側が谷側にずり落ちる状態を「左ずり落ち」という。
本実施形態では、図4に示した車両偏向が発生しているか否かを判定するために、ワイパ判定処理及びずり落ち判定処理を実行するようにしている。なお、それら各処理は、上記制御装置100にて所定周期毎に実行される。そして、この制御装置100が、偏向ずり下がり状態であるか否かを車両の姿勢状態を示す姿勢状態量に基づいて判定する判定部を構成する。
図5に、ワイパ判定処理の手順を示す。
この処理が開始されると、制御装置100は、車両11の車速が低速であるか否かを判定する(S100)。このステップS100では、右前輪速度V(FR)、左前輪速度V(FL)、右後輪速度V(RR)、及び左後輪速度V(RL)に基づいて算出される車両11の車速Vが、車速判定値KVよりも低いか否かが判定される。なお、車速判定値KVは、車速Vが予め定められた速度よりも低いか否かを判定するための値であり、予め適合値が設定されている。
そして、車速Vが車速判定値KV以上であるときには(S100:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、車速Vが車速判定値KV未満であるときには(S100:YES)、制御装置100は、車両11の姿勢状態を示す姿勢状態量が、右ワイパ有りの判定条件を満たすか否かを判定する(S110)。そして、右ワイパ有りの判定条件が満たされるときには(S110:YES)、制御装置100は、右ワイパ有りと判定して(S130)、本処理を終了する。
他方、右ワイパ有りの判定条件が満たされないときには(S110:NO)、制御装置100は、車両11の姿勢状態を示す姿勢状態量が、左ワイパ有りの判定条件を満たすか否かを判定する(S120)。そして、左ワイパ有りの判定条件が満たされるときには(S120:YES)、制御装置100は、左ワイパ有りと判定して(S140)、本処理を終了する。
他方、左ワイパ有りの判定条件が満たされないときには(S120:NO)、制御装置100は、現在のヨーレートYRが「YR≒0」であるか、つまりヨーレートYRが「0」にほとんど等しいか否かを判定する(S150)。そして、「ヨーレートYR≒0」でないとき(S150:NO)、つまりヨーレートYRがある程度発生しているときには、制御装置100は、ワイパに関する判定を保留して、本処理を終了する。
一方、「ヨーレートYR≒0」であるときには(S150:YES)、制御装置100は、ワイパ無し、つまりワイパが起きていないと判定して(S160)、本処理を終了する。
図6に、上記ステップS110及びステップS120でのワイパ判定条件を示す。
(車両11が坂路を上り方向へ走行しているときに右ワイパが起きた場合の判定条件)
上り方向への走行時には、坂路の勾配が上り勾配になるため、前後加速度GXは正の値になる。
また、右ワイパが起きているときには、車両11の右側が谷側になり、左側が山側になるため、横加速度GYの値は正の値になる。また、右ワイパが起きているときには、車両11が右方向に回転するため、ヨーレートYRの値は負の値になる。
ここで、ヨーレートYRの絶対値がある程度大きくても、ステアリングホイール24の操舵方向と車両11の回転方向とが同一であれば、車両11は運転者による車両11の操作状態に応じた走行経路を辿りながら走行しており、ずり下がりが起きていないため、ワイパは起きていない。一方、ステアリングホイール24の操舵方向と車両11の回転方向とが逆であれば、車両11は運転者による車両11の操作状態に応じた走行経路を辿っておらず、ワイパが起きていると判定することができる。
そこで、ヨーレートYRの値が車両の右回転を示しているときに、舵角STの値がステアリングホイール24の左操作を示している場合には、右ワイパが起きていると判定することができる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX>0」の場合には、次の条件式(1)〜(3)を全て満たすときに右ワイパありと判定される。
条件式(1)…「横加速度GY>横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは正の値)」。
条件式(2)…「ヨーレートYR<ヨーレート判定値KY(ただし、ヨーレート判定値KYは負の値)」。
条件式(3)…「舵角ST>舵角判定値KS(ただし、舵角判定値KSは負の値)」。ここで、ステアリングホイール24が左操作されている場合には、舵角STは正の値になるのであるが、本実施形態では、右ワイパ発生時におけるステアリングホイール24の微小な右操作も、ステアリングホイール24の左操作に含めるために、条件式(3)での舵角判定値KSを負の値に設定している。こうした点を考慮しないのであれば、条件式(3)での舵角判定値KSを正の値に設定してもよい。
図7に示すように、条件式(3)での舵角判定値KSの絶対値は、ヨーレートYRの絶対値が大きいときほど大きい値となるように、ヨーレートYRの絶対値に基づいて可変設定される。
なお、これらの条件式において、横加速度判定値KGやヨーレート判定値KYには、予め定められた適合値が設定されている。
(車両11が坂路を上り方向へ走行しているときに左ワイパが起きた場合の判定条件)
この場合も、上り方向への走行時には、坂路の勾配が上り勾配になるため、前後加速度GXは正の値になる。
また、左ワイパが起きているときには、車両11の右側が山側になり、左側が谷側になるため、横加速度GYの値は負の値になる。また、左ワイパが起きているときには、車両11が左方向に回転するため、ヨーレートYRの値は正の値になる。
また、上述した理由により、ヨーレートYRの値が車両の左回転を示しているときに、舵角STの値がステアリングホイール24の右操作を示している場合には、左ワイパが起きていると判定することができる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX>0」の場合には、次の条件式(4)〜(6)を全て満たすときに左ワイパありと判定される。
条件式(4)…「横加速度GY<横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは負の値)」。
条件式(5)…「ヨーレートYR>ヨーレート判定値KY(ただし、ヨーレート判定値KYは正の値)」。
条件式(6)…「舵角ST<舵角判定値KS(ただし、舵角判定値KSは正の値)」。ここで、ステアリングホイール24が右操作されている場合には、舵角STは負の値になるのであるが、本実施形態では、左ワイパ発生時におけるステアリングホイール24の微小な左操作も、ステアリングホイール24の右操作に含めるために、条件式(6)での舵角判定値KSを正の値に設定している。こうした点を考慮しないのであれば、条件式(6)での舵角判定値KSを負の値に設定してもよい。
図7に示すように、条件式(6)での舵角判定値KSの絶対値も、ヨーレートYRの絶対値が大きいときほど大きい値となるように、ヨーレートYRの絶対値に基づいて可変設定される。
なお、これらの条件式においても、横加速度判定値KGやヨーレート判定値KYには、予め定められた適合値が設定されている。
(車両11が坂路を下り方向へ走行しているときに右ワイパが起きた場合の判定条件)
下り方向への走行時には、坂路の勾配が下り勾配になるため、前後加速度GXは負の値になる。
また、右ワイパが起きているときには、車両11の右側が谷側になり、左側が山側になるため、横加速度GYの値は正の値になる。また、右ワイパが起きているときには、車両11が左方向に回転するため、ヨーレートYRの値は正の値になる。
また、上述した理由により、ヨーレートYRの値が車両の左回転を示しているときに、舵角STの値がステアリングホイール24の左操作を示している場合には、右ワイパが起きていると判定することができる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX<0」の場合には、次の条件式(7)〜(9)を全て満たすときに左ワイパありと判定される。
条件式(7)…「横加速度GY>横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは正の値)」。
条件式(8)…「ヨーレートYR>ヨーレート判定値KY(ただし、ヨーレート判定値KYは正の値)」。
条件式(9)…「舵角ST>舵角判定値KS(ただし、舵角判定値KSは負の値)」。ここで、ステアリングホイール24が左操作されている場合には、舵角STは正の値になるのであるが、本実施形態では、右ワイパ発生時におけるステアリングホイール24の微小な右操作も、ステアリングホイール24の左操作に含めるために、条件式(9)での舵角判定値KSを負の値に設定している。こうした点を考慮しないのであれば、条件式(9)での舵角判定値KSを正の値に設定してもよい。
先の図7に示すように、条件式(9)での舵角判定値KSの絶対値も、ヨーレートYRの絶対値が大きいときほど大きい値となるように、ヨーレートYRの絶対値に基づいて可変設定される。
なお、これらの条件式においても、横加速度判定値KGやヨーレート判定値KYには、予め定められた適合値が設定されている。
(車両11が坂路を下り方向へ走行しているときに左ワイパが起きた場合の判定条件)
下り方向への走行時には、坂路の勾配が下り勾配になるため、前後加速度GXは負の値になる。
また、左ワイパが起きているときには、車両11の右側が山側になり、左側が谷側になるため、横加速度GYの値は負の値になる。また、左いワイパが起きているときには、車両11が右方向に回転するため、ヨーレートYRの値は負の値になる。
また、上述した理由により、ヨーレートYRの値が車両の右回転を示しているときに、舵角STの値がステアリングホイール24の右操作を示している場合には、左ワイパが起きていると判定することができる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX<0」の場合には、次の条件式(10)〜(12)を全て満たすときに左ワイパありと判定される。
条件式(10)…「横加速度GY<横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは負の値)」。
条件式(11)…「ヨーレートYR<ヨーレート判定値KY(ただし、ヨーレート判定値KYは負の値)」。
条件式(12)…「舵角ST<舵角判定値KS(ただし、舵角判定値KSは正の値)」。ここで、ステアリングホイール24が右操作されている場合には、舵角STは負の値になるのであるが、本実施形態では、左ワイパ発生時におけるステアリングホイール24の微小な左操作も、ステアリングホイール24の右操作に含めるために、条件式(12)での舵角判定値KSを正の値に設定している。こうした点を考慮しないのであれば、条件式(12)での舵角判定値KSを負の値に設定してもよい。
先の図7に示すように、条件式(12)での舵角判定値KSの絶対値も、ヨーレートYRの絶対値が大きいときほど大きい値となるように、ヨーレートYRの絶対値に基づいて可変設定される。
なお、これらの条件式においても、横加速度判定値KGやヨーレート判定値KYには、予め定められた適合値が設定されている。
ちなみに、横加速度GY、ヨーレートYR、及び舵角STは、車両11の姿勢状態を示す値であって、車両11のワイパを判定するための姿勢状態量に相当する。
次に、ずり落ち判定処理の手順を説明する。
図8に、ずり落ち判定処理の手順を示す。
この処理が開始されると、制御装置100は、車両11の車速が低速であるか否かを判定する(S200)。このステップS200でも、車両11の車速Vが、車速判定値KVよりも低いか否かが判定される。なお、車速判定値KVは、車速Vが予め定められた速度よりも低いか否かを判定するための値であり、予め適合値が設定されている。
そして、車速Vが車速判定値KV以上であるときには(S200:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、車速Vが車速判定値KV未満であるときには(S200:YES)、制御装置100は、車両11の姿勢状態を示す姿勢状態量が、右ずり落ち有りの判定条件を満たすか否かを判定する(S210)。そして、右ずり落ち有りの判定条件が満たされるときには(S210:YES)、制御装置100は、右ずり落ち有りと判定して(S250)、本処理を終了する。
他方、右ずり落ち有りの判定条件が満たされないときには(S210:NO)、制御装置100は、車両11の姿勢状態を示す姿勢状態量が、左ずり落ち有りの判定条件を満たすか否かを判定する(S220)。そして、左ずり落ち有りの判定条件が満たされるときには(S220:YES)、制御装置100は、左ずり落ち有りと判定して(S260)、本処理を終了する。
他方、左ずり落ち有りの判定条件が満たされないときには(S220:NO)、制御装置100は、右ずり落ちの収束判定条件を満たすか否かを判定する(S230)。そして、右ずり落ちの収束判定条件を満たすときには(S230:YES)、制御装置100は、ずり落ち無しと判定して(S270)、本処理を終了する。
一方、右ずり落ちの収束判定条件を満たさないときには(S230:NO)、制御装置100は、左ずり落ちの収束判定条件を満たすか否かを判定する(S240)。そして、左ずり落ちの収束判定条件を満たすときには(S240:YES)、制御装置100は、ずり落ち無しと判定して(S270)、本処理を終了する。
他方、左ずり落ちの収束判定条件を満たさないときには(S240:NO)、制御装置100は、ずり落ちに関する判定を保留して、本処理を終了する。
図9に、上記ステップS210及びステップS220でのずり落ち判定条件を示す。
(車両11が坂路を上り方向へ走行しているときに右ずり落ちが起きた場合の判定条件)
上り方向への走行時には、坂路の勾配が上り勾配になるため、前後加速度GXは正の値になる。
また、右ずり落ちが起きているときには、車両11の右側が谷側になり、左側が山側になるため、横加速度GYの値は正の値になる。また、右ずり落ちが起きているときには、現在谷側になっている車両右側への横加速度GYが減少するため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、正の値になっている横加速度GYが「0」に近づく方向に変化していることを示すようになる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX>0」の場合には、次の条件式(13)及び(14)を全て満たすときに右ずり落ち有りと判定される。
条件式(13)…「横加速度GY>横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは正の値)」。
条件式(14)…「加速度変化量ΔGY<加速度変化量判定値KDGY(ただし、加速度変化量判定値KDGYは負の値)」。
なお、これらの条件式において、横加速度判定値KGや加速度変化量判定値KDGYには、予め定められた適合値が設定されている。
(車両11が坂路を上り方向へ走行しているときに左ずり落ちが起きた場合の判定条件)
上り方向への走行時には、坂路の勾配が上り勾配になるため、前後加速度GXは正の値になる。
また、左ずり落ちが起きているときには、車両11の右側が山側になり、左側が谷側になるため、横加速度GYの値は負の値になる。また、左ずり落ちが起きているときには、現在谷側になっている車両左側への横加速度GYが減少するため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、負の値になっている横加速度GYが「0」に近づく方向に変化していることを示すようになる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX>0」の場合には、次の条件式(15)及び(16)を全て満たすときに右ずり落ち有りと判定される。
条件式(15)…「横加速度GY<横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは負の値)」。
条件式(16)…「加速度変化量ΔGY>加速度変化量判定値KDGY(ただし、加速度変化量判定値KDGYは正の値)」。
なお、これらの条件式においても、横加速度判定値KGや加速度変化量判定値KDGYには、予め定められた適合値が設定されている。
(車両11が坂路を下り方向へ走行しているときに右ずり落ちが起きた場合の判定条件)
下り方向への走行時には、坂路の勾配が下り勾配になるため、前後加速度GXは負の値になる。
また、右ずり落ちが起きているときには、車両11の右側が谷側になり、左側が山側になるため、横加速度GYの値は正の値になる。また、右ずり落ちが起きているときには、現在谷側になっている車両右側への横加速度GYが減少するため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、正の値になっている横加速度GYが「0」に近づく方向に変化していることを示すようになる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX<0」の場合にも、「前後加速度GX>0」の場合と同様に、上記条件式(13)及び(14)を全て満たすときに右ずり落ち有りと判定される。
条件式(13)…「横加速度GY>横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは正の値)」。
条件式(14)…「加速度変化量ΔGY<加速度変化量判定値KDGY(ただし、加速度変化量判定値KDGYは負の値)」。
(車両11が坂路を下り方向へ走行しているときに左ずり落ちが起きた場合の判定条件)
下り方向への走行時には、坂路の勾配が下り勾配になるため、前後加速度GXは負の値になる。
また、左ずり落ちが起きているときには、車両11の右側が山側になり、左側が谷側になるため、横加速度GYの値は負の値になる。また、左ずり落ちが起きているときには、現在谷側になっている車両左側への横加速度GYが減少するため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、負の値になっている横加速度GYが「0」に近づく方向に変化していることを示すようになる。
上記の点を踏まえ、「前後加速度GX<0」の場合にも、「前後加速度GX>0」の場合と同様に、上記条件式(15)及び(16)を全て満たすときに左ずり落ち有りと判定される。
条件式(15)…「横加速度GY<横加速度判定値KG(ただし、横加速度判定値KGは負の値)」。
条件式(16)…「加速度変化量ΔGY>加速度変化量判定値KDGY(ただし、加速度変化量判定値KDGYは正の値)」。
ちなみに、横加速度GYは、車両11の姿勢状態を示す値であって、車両11のずり落ちを判定するための姿勢状態量に相当する。
(右ずり落ちの収束判定条件)
他方、上記ステップS230での右ずり落ちの収束判定条件は、次のように定められている。
すなわち、右ずり落ち有りの判定が行われた後、車両が水平になった場合、あるいは車両の右側が山側になった場合には、右ずり落ちが収まっていると判断することができる。そこで、次の条件式(17)が満たされる場合に、右ずり落ちの収束判定条件が満たされる。
条件式(17)…「右ずり落ち有りの判定履歴有り」かつ「横加速度GY≦0」。
また、右ずり落ちが収まってくると、谷側になっている車両右側への横加速度GYが再び正の方向に増加し始めるため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、横加速度GYが正の方向に向かって増大していることを示すようになる。そこで、次の条件式(18)が満たされる場合にも、右ずり落ちの収束判定条件が満たされる。
条件式(18)…「右ずり落ち有りの判定履歴有り」かつ「加速度変化量ΔGY>加速度変化量判定値KDGY(ただし、KDGYは正の値)」。
(左ずり落ちの収束判定条件)
他方、上記ステップS240での左ずり落ちの収束判定条件は、次のように定められている。
すなわち、左ずり落ち有りの判定が行われた後、車両が水平になった場合、あるいは車両の左側が山側になった場合には、左ずり落ちが収まっていると判断することができる。そこで、次の条件式(19)が満たされる場合に、左ずり落ちの収束判定条件が満たされる。
条件式(19)…「左ずり落ち有りの判定履歴有り」かつ「横加速度GY≧0」。
また、左ずり落ちが収まってくると、谷側になっている車両左側への横加速度GYが再び負の方向に増加し始めるため、横加速度GYの時間当たりの変化量である加速度変化量ΔGYは、横加速度GYが負の方向に向かって増大していることを示すようになる。そこで、次の条件式(20)が満たされる場合にも、左ずり落ちの収束判定条件が満たされる。
条件式(20)…「左ずり落ち有りの判定履歴有り」かつ「加速度変化量ΔGY<加速度変化量判定値KDGY(ただし、KDGYは負の値)」。
本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(1)坂路走行中の車両11が、車両11の操作状態に応じた走行経路に対して坂路の傾斜方向下側に偏向してずり下がる偏向ずり下がり状態であるか否かを、車両11の姿勢状態を示す姿勢状態量に基づいて判定するようにしている。従って、坂路に停止している車両ではなく、坂路を走行している車両11を対象にして車両11の偏向ずり下がり状態の有無が判定される。そのため、坂路走行中の車両11が偏向ずり下がり状態になっているか否かを判定することができる。
(2)偏向ずり下がり状態として、坂路の傾斜方向下側の車輪を支点にして、車両11が坂路の傾斜方向下側に向けて回動する回動ずり下がりの状態(上述したワイパ状態)であるか否かを判定するようにしている。従って、坂路の傾斜方向上側(つまり坂路における山側)の車輪の接地力が低下することにより車両11の山側が回動するようになる回動ずり下がりの状態を、判定することができるようになる。
(3)横加速度GYの作用方向に基づき、坂路の谷側に向いているのが車両11の右側なのか左側なのかが判定される。また、ヨーレートYRに基づき、車両11の回動方向や姿勢変化の早さなどが判定される。ここで、ヨーレートYRがある程度大きくても、ステアリングホイール24の操舵方向と車両11の回動方向とが同一であれば、車両11は運転者による車両の操作状態に応じた走行経路を辿りながら走行しているため、ワイパ状態にはなっていない。一方、ステアリングホイール24の操舵方向と車両11の回動方向とが逆であれば、車両11は運転者による車両11の操作状態に応じた走行経路を辿っておらず、ワイパ状態になっていると判定することができる。そこで、本実施形態では、ワイパ判定を行うときのパラメータとして、ステアリングホイール24の舵角STも利用するようにしている。従って、ワイパ状態になっている車両11の回動方向を特定することができるとともに、ワイパ状態の発生有無に関する誤判定を抑えることができる。
(4)偏向ずり下がり状態として、車両11の前輪及び後輪が坂路の傾斜方向下側に向かってずり下がる、平行ずり下がりの状態(上述したずり落ち状態)であるか否かを判定するようにしている。従って、車両11の前後輪の接地力がともに低下して、それら前後輪が坂路の傾斜方向下側(つまり坂路における谷側)に向かってずり下がることにより、車両11が、車両11の操作状態に応じた走行経路に対して坂路の谷側へ平行にずり下がるようになる平行ずり下がりの状態を判定することができるようになる。
(5)車両11がずり落ちている場合には、坂路の谷側に作用する横加速度GYが減少するようになるため、そうした横加速度GYの変化量である加速度変化量ΔGYに基づいてずり落ちの発生有無を判定することができるようになる。また、横加速度GYの作用方向に基づき、坂路の傾斜方向下側に向いているのが車両11の右側なのか左側なのかが判定されるため、ずり落ちの発生方向、つまり谷側に向かってずり落ちているのか、車両11の右側なのか左側なのかを判別することができる。このように車両11のずり落ちの有無を判定するためのパラメータとして、車両11の左右方向に作用する横加速度GYを利用するようにしているため、ずり落ちの発生有無及びずり落ちの発生方向を特定することができる。
(第2実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第2実施形態について、図10〜図12を参照して説明する。
第1実施形態では、ヨーレートセンサSE11を使ってヨーレートYRを検出するようにした。ここで、一般に、車両11の低車速領域においては、悪路走行時の車体の揺れなどによるノイズ的なヨーレートの影響が大きくなり、ヨーレートセンサの検出精度が低下する傾向がある。そこで、本実施形態では、車両11の前部に設けられた第1カメラCAM1により撮影された画像を利用してヨーレートYRを算出するようにしている。
図10及び図11に、画像を利用したヨーレートYRの算出原理を示す。なお、図10には、一例として上り方向への走行時において(GX>0)、左ワイパが起きたときの状態を示し、図11には、一例として下り方向への走行時において(GX<0)、右ワイパが起きたときの状態を示す。
図10に示すように、上り方向への走行時において左ワイパが起きたときには、車両11は、右後輪RRを支点にして車両11の前部が左方向に回動する。ここで、第1カメラCAM1により撮影された1つの画像から任意の目標物(例えば石などの追尾可能物)を選択する。こうした目標物は、車両11にワイパが起きると、画像上において車両11の横方向に移動したように撮影される。この目標物の画像上における所定時間T内での横移動量(例えば画像のサンプリング周期内における横移動量など)を制御装置100による画像処理にて演算し、その演算された値を車両11の横移動量を示すフロント横移動量CFとする。なお、車両11の横移動量は、車両11が左側に移動した場合には正の値に、右側に移動した場合には負の値となるように演算処理する。従って、図10に示す状態では、フロント横移動量CFは正の値になる。ちなみに、上り方向への走行時において右ワイパが起きたときには、車両11は、左後輪RLを支点にして車両11の前部が右方向に回動する。
また、ワイパの支点になっている後輪(図10の場合には右後輪RR)から第1カメラCAM1までの距離を後輪起点半径LRとする。なお、後輪起点半径LRは、車両毎に固有の値であり予め固定値を設定しておくことができる。こうした場合、ヨーレートYRは、次式(21)から算出することができる。
YR=CF/(LR・PT) …(21)
YR:ヨーレート(単位:rad/s)
CF:フロント横移動量(単位:mm)
LR:後輪起点半径(単位:mm)
PT:フロント横移動量を算出するときに用いた2つの画像の撮影間隔時間
他方、図11に示すように、下り方向への走行時において右ワイパが起きたときには、車両11は、左前輪FLを支点にして車両11の前部が左方向に回動する。この図11の状態においても、図10の状態と同様にして、車両11の横移動量を示すフロント横移動量CFを演算する。なお、図11に示す状態では、フロント横移動量CFは正の値になる。ちなみに、下り方向への走行時において左ワイパが起きたときには、車両11は、右前輪FRを支点にして車両11の前部が右方向に回動する。
そして、ワイパの支点になっている前輪(図11の場合には左前輪FL)から第1カメラCAM1までの距離を前輪起点半径LFとする。なお、前輪起点半径LFも、車両毎に固有の値であり予め固定値を設定しておくことができる。こうした場合、ヨーレートYRは、次式(22)から算出することができる。
YR=CF/(LF・PT) …(22)
YR:ヨーレート(単位:rad/s)
CF:フロント横移動量(単位:mm)
LF:前輪起点半径(単位:mm)
PT:フロント横移動量を算出するときに用いた2つの画像の撮影間隔時間
図12に、上記原理に基づいたヨーレートYRの算出処理の手順を示す。なお、この算出処理も、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、前後加速度GX、画像処理によって演算されたフロント横移動量CF、上記撮影間隔時間PTを読み込む(S300)。
そして、制御装置100は、読み込んだ前後加速度GXが正の値であるか否かを判定する(S310)。そして、前後加速度GXが正の値であるときには(S310:YES)、車両11が上り方向に走行していたため、制御装置100は、起点半径Lとして、上記後輪起点半径LRの値を設定する(S320)。
一方、前後加速度GXが負の値であるときには(S310:NO)、車両11が下り方向に走行していたため、制御装置100は、起点半径Lとして、上記前輪起点半径LFの値を設定する(S330)。
ステップS320またはステップS330にて、起点半径Lが設定されると、制御装置100は、フロント横移動量CF、起点半径L、及び撮影間隔時間PTに基づき、次式(23)からヨーレートYRを算出する(S340)。
YR=CF/(L・PT) …(23)
YR:ヨーレート(単位:rad/s)
CF:フロント横移動量(単位:mm)
L:起点半径(単位:mm)
PT:撮影間隔時間
こうしてヨーレートYRを算出すると、制御装置100は、本処理を終了する。そして、上述したワイパ判定処理では、この算出されたヨーレートYRが使用される。
なお、本実施形態では、車両11の横移動量を検出するために画像を撮影する第1カメラCAM1及び撮影された画像を演算処理することで横移動量を算出する制御装置100によって、車両11の横移動量を検出する横移動量検出部が構成されている。ちなみに第1カメラCAM1内で画像を演算処理して車両11の横移動量を算出する場合には、この第1カメラCAM1自体が横移動量検出部になる。また、本実施形態では、ヨーレートYRの算出を行うための第1カメラCAM1及び制御装置100によってヨーレート検出部が構成されている。
本実施形態によれば、次の作用効果を得ることができる。
(6)上記式(23)を使ってヨーレートYRを算出するようにしている。ここで、起点半径L及び撮影間隔時間PTは、予め定められた固定値とすることが可能なため、上記式(23)にフロント横移動量CFを代入するだけで、種々変化するヨーレートYRを容易に算出することができるようになる。
また、フロント横移動量CFから算出される上記ヨーレートYRは、上記式(23)からも明らかなように車速の影響を受けない。そのため、特に低車速領域において、悪路走行時の車体の揺れなどによるノイズ的なヨーレートの影響を受けるヨーレートセンサSE11よりも精度のよいヨーレートYRを得ることができるようになる。従って、例えば上記ワイパの発生有無に関する判定精度も向上するようになる。
(第3実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第3実施形態について、図13〜図16を参照して説明する。
第1実施形態では、横加速度GY、ヨーレートYR、舵角ST等に基づいて車両偏向の状態、つまりワイパ状態やずり落ち状態を判定するようにした。一方、本実施形態では、車両11の前部に設けられた第1カメラCAM1により撮影された画像、及び車両11の後部に設けられた第2カメラCAM2により撮影された画像を利用して、ワイパ状態やずり落ち状態を判定するようにしている。
図13及び図14に、画像を利用したワイパ状態の判定原理を示す。なお、図13には、一例として上り方向への走行時において(GX>0)、左ワイパが起きたときの状態を示し、図14には、一例として下り方向への走行時において(GX<0)、右ワイパが起きたときの状態を示す。
図13に示すように、上り方向への走行時において左ワイパが起きたときには、車両11は、右後輪RRを支点にして車両11の前部が左方向に回動する。ここで、第2実施形態と同様な態様にて、第1カメラCAM1の撮影画像を制御装置100にて演算処理することにより、車両前側の横移動量であるフロント横移動量CFを算出する。また、フロント横移動量CFの演算処理と同様な態様にて、第2カメラCAM2の撮影画像を演算処理することにより、車両後ろの横移動量であるリヤ横移動量CRを算出する。そして本実施形態でも、フロント横移動量CFやリヤ横移動量CRは、車両11が左側に移動した場合には正の値に、右側に移動した場合には負の値となるように演算処理する。
上記態様にてフロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRを算出する場合、図13に示すワイパ状態では、フロント横移動量CFは正の値になり、リヤ横移動量CRは負の値になる。
このように車両11がワイパ状態になっている場合には、車両前側の横移動方向と車両後ろ側の横移動方向とが逆になるため、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRの符号が異なっているときには、車両11がワイパ状態になっていると判定することができる。
また、図13に示すように、車両11の前輪(右前輪FR及び左前輪FL)がずり下がっている場合には、フロント横移動量CFの絶対値がリヤ横移動量CRの絶対値よりも大きくなる。この場合において、ワイパの支点になっている後輪(図13の場合には右後輪RR)から第1カメラCAM1までの距離を後輪起点半径LRRとする。なお、後輪起点半径LRRは、車両毎に固有の値であり予め固定値を設定しておくことができる。こうした場合、ヨーレートYRは、次式(24)から算出することができる。
YR=CF/(LRR・PT) …(24)
YR:ヨーレート(単位:rad/s)
CF:フロント横移動量(単位:mm)
LRR:後輪起点半径(単位:mm)
PT:フロント横移動量を算出するときに用いた2つの画像の撮影間隔時間
図14に示すように、下り方向への走行時において右ワイパが起きたときには、車両11は、左前輪FLを支点にして車両11の前部が左方向に回動する。この図14の状態においても、図13の状態と同様にして、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRを演算することにより、図14に示すワイパ状態では、フロント横移動量CFは正の値になり、リヤ横移動量CRは負の値になる。
このように、下り方向への走行時であっても、車両11がワイパ状態になっている場合には、車両前側の横移動方向と車両後ろ側の横移動方向とが逆になるため、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRの符号が異なっているときには、車両11がワイパ状態になっていると判定することができる。
また、図14に示すように、車両11の後輪(右後輪RR及び左後輪RL)がずり下がっている場合には、リヤ横移動量CRの絶対値がフロント横移動量CFの絶対値よりも大きくなる。この場合において、ワイパの支点になっている前輪(図14の場合には左前輪FL)から第2カメラCAM2までの距離を前輪起点半径LFFとする。なお、前輪起点半径LFFは、車両毎に固有の値であり予め固定値を設定しておくことができる。こうした場合、ヨーレートYRは、次式(25)から算出することができる。
YR=CR/(LFF・PT) …(25)
YR:ヨーレート(単位:rad/s)
CR:リヤ横移動量(単位:mm)
LFF:前輪起点半径(単位:mm)
PT:リヤ横移動量を算出するときに用いた2つの画像の撮影間隔時間
図15に、画像を利用したずり落ち状態の判定原理を示す。なお、図15には、一例として左ずり落ちが起きたときの状態を示す。
この図15に示すように、ずり落ちが起きたときには、車両11の前輪(右前輪FR及左前輪FLび)及び後輪(右後輪RR及び左後輪RL)が共に同一方向にずり下がる。従って、上述したフロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRを算出した場合、図15に示すずり落ち状態では、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRはともに正の値になる。なお、左ずり落ちが起きた場合には、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRはともに負の値になる。
このように、車両11がずり落ち状態になっている場合には、車両前側の横移動方向と車両後ろ側の横移動方向とが同一になるため、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRの符号が同一になっているときには、車両11がずり落ち状態になっていると判定することができる。
図16に、上記原理に基づいた車両偏向(ワイパ及びずり落ち)の判定処理手順を示す。なお、この判定処理も、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車速V、画像処理によって演算されたフロント横移動量CF及びリヤ横移動量CR、上記撮影間隔時間PTを読み込む(S400)。なお、本実施形態では、フロント横移動量CFを算出するために撮影される画像の撮影間隔時間PTと、リヤ横移動量CRを算出するために撮影される画像の撮影間隔時間PTとは同一にされているが、異なった撮影間隔時間にしてもよい。
次に、制御装置100は、車両11の車速Vが低速であるか否かを判定する(S410)。このステップS410での処理も、右前輪速度V(FR)、左前輪速度V(FL)、右後輪速度V(RR)、及び左後輪速度V(RL)に基づいて算出される車両11の車速Vが、上述した車速判定値KVよりも低いか否かが判定される。そして、車速Vが車速判定値KV以上であるときには(S410:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、車速Vが車速判定値KV未満であるときには(S410:YES)、制御装置100は、フロント横移動量CFの絶対値が横移動量判定値KCを超えているか、またはリヤ横移動量CRの絶対値が横移動量判定値KCを超えているかを判定する(S420)。横移動量判定値KCは、車両偏向が起きているか否かを判定するための閾値であり、予めの実験等を通じて得られた適合値が設定されている。
フロント横移動量CFの絶対値及びリヤ横移動量CRの絶対値が、ともに横移動量判定値KCを超えていないときには(S420:NO)、制御装置100は、車両偏向無しと判定し(S500)、ヨーレートYRを「0」に設定して(S540)、本処理を終了する。
一方、フロント横移動量CFの絶対値及びリヤ横移動量CRの絶対値のうちで少なくとも一方が横移動量判定値KCを超えているときには(S420:YES)、車両偏向が起きているため、制御装置100は、車両偏向の種類を特定するための処理を順次行う。
まず、ステップS420で肯定判定されたときには、制御装置100は、フロント横移動量CFの値及びリヤ横移動量CRの値が同符号であるか否かを判定する(S430)。
そして、フロント横移動量CFの値及びリヤ横移動量CRの値が異なった符号になっているときには(S430:NO)、上記原理から車両11がワイパ状態になっていると判断できる。そこで、ステップS430にて否定判定されるときには、上記原理に基づいたヨーレートYRの算出及びワイパ発生方向の特定を行うために、制御装置100は、ステップS440以降の処理を行う。
まず、ステップS440において、制御装置100は、フロント横移動量CFの絶対値がリヤ横移動量CRの絶対値よりも大きいか否かを判定する。そして、フロント横移動量CFの絶対値がリヤ横移動量CRの絶対値よりも小さいときには(S440:NO)、車両11は先の図14に示したような状態、つまり車両11の後輪側がずり下がっている状態になっているため、上記式(25)に基づいてヨーレートYRを算出する(S450)。
一方、フロント横移動量CFの絶対値がリヤ横移動量CRの絶対値よりも大きいときには(S440:YES)、車両11は先の図13に示したような状態、つまり車両11の前輪側がずり下がっている状態になっているため、上記式(24)に基づいてヨーレートYRを算出する(S460)。
ステップS450またはステップS460にて、ヨーレートYRを算出すると、次に、制御装置100は、算出されたヨーレートYRが正の値であるか否かを判定する(S470)。そして、算出されたヨーレートYRが負の値であるときには(S470:NO)、制御装置100は、右ワイパ有りと判定して(S480)、本処理を終了する。
一方、算出されたヨーレートYRが正の値であるときには(S470:YES)、制御装置100は、左ワイパ有りと判定して(S490)、本処理を終了する。
他方、上記ステップS430において、フロント横移動量CFの値及びリヤ横移動量CRの値が同符号になっているときには(S430:YES)、上記原理から車両11がずり落ち状態になっていると判断できる。そこで、ステップS430にて肯定判定されるときには、上記原理に基づいたずり落ち発生方向の特定を行うために、制御装置100は、ステップS510以降の処理を行う。
ステップS510では、制御装置100は、フロント横移動量CFが正の値であるか否かを判定する。そして、フロント横移動量CFが負の値であるときには(S510:NO)、制御装置100は、右ずり落ち有りと判定し(S520)、ヨーレートYRを「0」に設定して(S540)、本処理を終了する。
一方、フロント横移動量CFが正の値であるときには(S510:YES)、制御装置100は、左ずり落ち有りと判定し(S530)、ヨーレートYRを「0」に設定して(S540)、本処理を終了する。
なお、本実施形態では、車両11の横移動量を検出するために画像を撮影する第1カメラCAM1及び撮影された画像を演算処理することでフロント横移動量CFを算出する制御装置100によって、車両前側の横移動方向を検出する前側横移動方向検出部が構成されている。ちなみに第1カメラCAM1内で画像を演算処理して車両11の横移動量を算出する場合には、この第1カメラCAM1自体が前側横移動方向検出部になる。同様に、第2カメラCAM2及び制御装置100によって、車両後ろ側の横移動方向を検出する後ろ側横移動方向検出部が構成されている。ちなみに第2カメラCAM2内で画像を演算処理して車両11の横移動量を算出する場合には、この第2カメラCAM2自体が後ろ側横移動方向検出部になる。また、本実施形態では、フロント横移動量CF及びリヤ横移動量CRが、車両11の姿勢状態を示す値であって車両11の偏向状態を判定するための姿勢状態量に相当する。
本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
(7)車両11が回動ずり下がりの状態(ワイパ状態)になっているときには、車両前側の横移動方向と車両後ろ側の横移動方向とが逆になる。そこで、ワイパ発生による車両11の姿勢変化を、カメラ画像に基づいて検出される車両11の横移動方向にて把握するようにしている。従って、ヨーレートYRを使うことなく、ワイパ発生の有無を判定することができる。
(8)車両11が平行ずり下がりの状態(ずり落ち状態)になっている場合には、車両前側の横移動方向と車両後ろ側の横移動方向とが同一になる。そこで、ずり落ち発生による車両11の姿勢変化を、カメラ画像に基づいて検出される車両11の横移動方向にて把握するようにしている。従って、横加速度GYを使うことなく、ずり落ち発生の有無を判定することができる。
(9)上記式(24)や式(25)を使ってヨーレートYRを算出するようにしている。ここで、前輪起点半径LFF及び後輪起点半径LRR及び撮影間隔時間PTは、予め定められた固定値とすることが可能なため、上記式(24)にフロント横移動量CFを代入したり、上記式(25)にリヤ横移動量CRを代入したりするだけで、種々変化するヨーレートYRを容易に算出することができるようになる。
また、車両11の横移動量から算出される上記ヨーレートYRは、上記式(24)や式(25)からも明らかなように車速の影響を受けない。そのため、特に低車速領域において、悪路走行時の車体の揺れなどによるノイズ的なヨーレートの影響を受けるヨーレートセンサSE11よりも精度のよいヨーレートYRを得ることができるようになる。従って、例えば上記ステップS470での、ワイパの発生方向に関する判定の精度も向上するようになる。
(第4実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第4実施形態について、図17を参照して説明する。
本実施形態では、第1実施形態において車両偏向が発生していると判定された場合、つまりワイパまたはずり落ちが発生していると判定された場合には、そうした車両偏向を抑える抑制制御を実行するようにしている。なお、第2実施形態や第3実施形態において、車両偏向が発生していると判定された場合にも、本実施形態にかかる抑制制御を行ってもよい。
図17に、車両偏向を抑制する制御の処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S600)。そして、車両偏向が起きていないときには(S600:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S600:YES)、制御装置100は、ずり落ちが起きているか否かを判定する(S610)。そして、ずり落ちが起きているときには(S610:YES)、車両偏向の度合(車両11の操作状態に応じた走行経路に対して坂路の谷側に偏向してずり下がっている現状の車両11の走行経路の偏向量)が大きく、速やかに車両偏向を抑える必要がある。そのため、制御装置100は、自動操舵処理を実行して(S630)、本処理を終了する。
この自動操舵処理では、車両運転者による操舵方向とは逆の方向に前輪(右前輪FR及び左前輪FL)が転舵されるように、転舵アクチュエータ26の駆動量が制御される。そしてこの強制転舵により、車両11の偏向が抑制される。なお、車両偏向の度合が大きいときほど、強制的に転舵される前輪の転舵量は多くすることが好ましい。また、車両偏向の度合が大きいときほど、強制的に転舵される前輪の転舵速度を速くすることが好ましい。
一方、ステップS610にて、ずり落ちが起きていないと判定されるときには(S610:NO)、制御装置100は、現在の舵角STの絶対値が判定値αよりも大きいか否かを判定する(S620)。そして、舵角STの絶対値が判定値αよりも大きいときには(S620:YES)、ステアリングホイール24が比較的に大きく操作されている状態で車両偏向が起きており、速やかに車両偏向を抑える必要がある。そのため、制御装置100は、上述した自動操舵処理を実行して車両11の偏向を抑える(S630)。そして、本処理を終了する。なお、舵角STの絶対値が大きいときほど、強制的に転舵される前輪の転舵量は多くすることが好ましい。また、舵角STの絶対値が大きいときほど、強制的に転舵される前輪の転舵速度を速くすることが好ましい。
一方、舵角STの絶対値が判定値α以下であるときには(S620:NO)、ステアリングホイール24がそれほど大きく操作されていないため、自動操舵処理による強制転舵は行わない。しかし、その後、ステアリングホイール24が大きく操作されてしまうと車両偏向が助長されてしまうおそれがあるため、制御装置100は、車両偏向の助長を抑えるための操舵抑制処理を実行して(S640)、本処理を終了する。
この操舵抑制処理では、転舵アクチュエータ26によるステアリングホイール24の操舵補助力が低下するように、転舵アクチュエータ26の駆動が制御される。これにより車両運転者は、ステアリングホイール24を回転させにくくなるため、ステアリングホイール24が大きく操作されてしまうことを抑えることができ、車両偏向の助長が抑えられるようになる。また、ステアリングホイール24の操舵補助力が変化することにより、車両運転者に対して車両偏向の発生を知らせることも可能になる。なお、操舵抑制処理の実行に際しては、舵角STの絶対値が大きいときほど、ステアリングホイール24の操舵補助力が小さくなるように、つまり車両運転者がステアリングホイール24を回転させるときの回転抵抗が大きくなるように、転舵アクチュエータ26の駆動を可変制御することが好ましい。
本実施形態によれは、以下の作用効果を得ることができる。
(10)車両偏向が起きたときには、そうした車両偏向を抑える抑制制御が実行されることにより、車両偏向によって不安定化した車両11の姿勢を安定させることができる。
(11)上記抑制制御として、転舵アクチュエータ26等で構成される操舵機構を利用して、車両偏向を是正する制御を行うようにしている。より詳細には、上述した自動操舵処理や操舵抑制処理を行うようにしている。従って、車両偏向によって不安定化した車両11の姿勢を適切に安定させることができる。
(第5実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第5実施形態について、図18を参照して説明する。
第4実施形態では、車両偏向が発生していると判定された場合、操舵機構を利用して車両偏向を是正する制御を行うようにした。ここで、上述した車両偏向は、坂路での車輪接地力が低下することによって発生することが多い。そこで、本実施形態では、車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。
図18に、車両偏向を抑制する制御の処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S700)。そして、車両偏向が起きていないときには(S700:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S700:YES)、制御装置100は、現在、車両11が制動中であるか否かを判定する(S710)。ここでは、ブレーキスイッチSW1が「ON」になっているとき、あるいはブレーキ液圧が所定値以上に高いときに、車両11が制動中であると判定することが可能である。
そして、制動中であるときには(S710:YES)、制動による車輪ロックによって車輪接地力が低下していることが、車両偏向の発生原因であると考えることができる。そこで、制御装置100は、制動力低下処理を実行して(S720)、本処理を終了する。この制動力低下処理では、ブレーキ液圧が徐々に低下するようにブレーキアクチュエータ15が駆動制御される。これにより車輪ロックが解除されて車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。なお、制動力低下処理は、車両偏向が収まるまで実行される。また、車両11の各車輪における接地荷重を推定する。そして、接地荷重が小さく車輪接地力が小さくなっている車輪ほど制動力が小さくなるように、各車輪に設けられたホイールシリンダ36a〜36cのブレーキ液圧を個別に調整するようにしてもよい。
他方、ステップS710において、制動中ではないと判定されるときには(S710:NO)、過剰な駆動力付与による駆動輪の空転によって車輪接地力が低下していることが、車両偏向の発生原因であると考えることができる。そこで、制御装置100は、制動力増加処理を実行して(S730)、本処理を終了する。この制動力増加処理では、ブレーキ液圧が徐々に増加するようにブレーキアクチュエータ15が駆動制御される。これにより過剰な駆動力付与による駆動輪の空転が抑制されて車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。なお、この制動力増加処理も、車両偏向が収まるまで実行される。また、車両11の各車輪における接地荷重を推定する。そして、接地荷重が小さく車輪接地力が小さくなっている車輪ほど制動力が大きくなるように、各車輪に設けられたホイールシリンダ36a〜36cのブレーキ液圧を個別に調整するようにしてもよい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(11)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、車両11の制動力を調整して車輪のロックや空転を抑えるようにしているため、低下した車輪接地力が回復するようになる。従って、坂路での車輪接地力を高めることができる。
(第6実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第6実施形態について、図19を参照して説明する。
第5実施形態では、車両11の制動力を調整する制御を行うようにした。本実施形態でも、制動力を調整する制御を行うようにしているが、制動中であった場合の制動力制御の態様が異なっている。
図19に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S800)。そして、車両偏向が起きていないときには(S800:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S800:YES)、制御装置100は、現在、車両11が制動中であるか否かを判定する(S810)。ここでも、ブレーキスイッチSW1が「ON」になっているとき、あるいはブレーキ液圧が所定値以上に高いときに、車両11が制動中であると判定することが可能である。
そして、制動中ではないときには(S810:NO)、過剰な駆動力付与による駆動輪の空転によって車輪接地力が低下していることが、車両偏向の発生原因であると考えることができる。そこで、制御装置100は、第5実施形態と同様に制動力増加処理を実行して(S850)、本処理を終了する。
一方、ステップS810において、制動中であると判定されるときには(S810:YES)、制御装置100は、車両11が坂路を登坂中であるか否かを判定する(S820)。ここでは、前後加速度GX等に基づき、車両11が坂路を登坂中であるか否かの判定が行われる。
そして、車両11が坂路を登坂中であるときには(S820:YES)、制御装置100は、ブレーキアクチュエータの駆動制御を通じて、車両11の旋回方向内輪の制動力を増大させる(S830)。例えば登坂中に右旋回している場合には、右前輪FR及び右後輪RRの少なくとも一方の制動力が増大される。こうして旋回方向内輪の制動力が増大されると、車両11には、旋回方向への回転モーメントが発生するため、車両11の進行方向が変化し、登坂方向に(山側方向)向いていた車両11の姿勢は、降坂方向(谷側方向)に変化する。そのため、登坂中に発生した車両偏向は抑制されるようになる。
他方、ステップS820にて、登坂中ではないと判定されるとき、つまり車両11が坂路を下っている降坂中であるときには(S820:NO)、制御装置100は、ブレーキアクチュエータの駆動制御を通じて、車両11の旋回方向内輪側の後輪制動力を増大させる(S840)。例えば降坂中に右旋回している場合には、右後輪RRの制動力が増大される。こうして旋回方向内輪側の後輪制動力が増大されると、車両11には、旋回方向への回転モーメントが発生するため、車両11の進行方向が変化し、降坂方向(谷側方向)に向いていた車両11の姿勢は、登坂方向(山側方向)に変化する。そのため、降坂中に発生した車両偏向は抑制されるようになる。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(12)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路における車両11の走行方向に応じて制動力を高める車輪を変化させるようにしている。従って、車両偏向が抑制される方向に車両11の姿勢を変化させることができるようになる。
(第7実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第7実施形態について、図20を参照して説明する。
本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、エンジン12の出力トルク制御を行うようにしている。
図20に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S900)。そして、車両偏向が起きていないときには(S900:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S900:YES)、現在発生している車両偏向が、過剰な駆動力付与による駆動輪の空転などに起因した車輪接地力の低下が原因になっている可能性がある。そこで、制御装置100は、エンジン12の出力トルクを低下させる出力トルク低下処理を実行する(S910)。この出力トルク低下処理では、車輪の接地力が路面の摩擦係数及び接地荷重に応じた最適接地力を超えてしまうほどの車輪駆動力を付与しないように、エンジン12の出力トルクが現状の出力トルクよりも低減される。なお、接地荷重が特に低下しやすい山側駆動輪の駆動力を抑えるように出力トルクを制御することが好ましい。こうした出力トルク低下処理の実行によって、低下した車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
ここで、出力トルク低下処理を実行して駆動輪の駆動力を低下させると、エンジンブレーキの効果が大きくなって駆動輪の回転抵抗が増大し、車輪接地力が低下するおそれがある。そこで、制御装置100は、出力トルク低下処理を実行した後、エンジンブレーキによる車輪接地力の低下が起きているか否かを判定する(S920)。このステップS920での判定は、車輪(より厳密にはタイヤ)のスリップ率が所定値を超えているときに肯定判定される。
そして、エンジンブレーキによる車輪接地力の低下が起きていないときには(S920:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、エンジンブレーキによる車輪接地力の低下が起きているときには(S920:YES)、制御装置100は、出力トルクが規定量だけ増大するようにエンジン12の出力制御を行って(S930)、本処理を終了する。
なお、車両11が、各車輪への駆動力を任意に調整可能な機構を有している場合、例えばエンジン12の代わりに各車輪に電動モータを備えた、いわゆるインホイールモータ式の車両等の場合には、接地荷重の小さい車輪ほど駆動力を低下させるようにすることが望ましい。例えば、上記出力トルク抑制処理において、山側駆動輪への出力トルクを谷側駆動輪への出力トルクよりも小さくするようにしてもよい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(13)車両偏向を抑える抑制制御として、エンジン12の出力トルクを低下させる処理を行うようにしている。従って、低下した車輪接地力が回復するようになり、坂路での車輪接地力を高めることができる。
(第8実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第8実施形態について、図21を参照して説明する。
本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、車両11の駆動系制御を行うようにしている。
図21に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S1000)。そして、車両偏向が起きていないときには(S1000:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S1000:YES)、制御装置100は、現在、車両11が制動中であるか否かを判定する(S1010)。ここでも、ブレーキスイッチSW1が「ON」になっているとき、あるいはブレーキ液圧が所定値以上に高いときに、車両11が制動中であると判定することが可能である。
そして、制動中であるときには(S1010:YES)、制動による車輪ロックによって車輪接地力が低下していることが、車両偏向の発生原因であると考えることができる。そこで、制御装置100は、制動力に対して車輪の駆動力を十分に大きくすることにより車輪ロックが解除されるように、駆動力増大処理を実行して(S1020)、本処理を終了する。
この駆動力増大処理としては、次の(A)〜(C)の駆動系制御のうちの1つ、またはそれら各駆動系制御の組み合わせが実施される。
(A)副変速機41の変速段を「H4」から「L4」に変更して車輪の駆動力を増大させる。
(B)変速機40の変速段をシフトダウンして車輪の駆動力を増大させる。
(C)前輪及び後輪への駆動力分配量を変更可能な場合には、接地荷重が低下しやすい山側駆動輪への駆動力分配量を増大させることにより、山側駆動輪の駆動力を増大させる。
他方、ステップS1010にて、制動中ではないと判定されるときには(S1010:NO)、過剰な駆動力付与による駆動輪の空転によって車輪接地力が低下していることが、車両偏向の発生原因であると考えることができる。そこで、制御装置100は、車輪の駆動力を低下させることより駆動輪の空転等が抑制されるように、駆動力減少処理を実行して(S1030)、本処理を終了する。
この駆動力減少処理としては、次の(D)〜(F)の駆動系制御のうちの1つ、またはそれら各駆動系制御の組み合わせが実施される。
(D)副変速機41の変速段を「L4」から「H4」に変更して車輪の駆動力を減少させる。
(E)変速機40の変速段をシフトアップして車輪の駆動力を減少させる。
(F)前輪及び後輪への駆動力分配量を変更可能な場合には、接地荷重が低下しやすい山側駆動輪への駆動力分配量を減少させることにより、山側駆動輪の駆動力を減少させる。
なお、上述した駆動力増大処理や駆動力減少処理は、車両偏向が収まるまで実行される。また、駆動力増大処理や駆動力減少処理の実行によって変更された駆動系の状態は、車両偏向が収まった後で、変更前の状態に戻される。ちなみに、駆動力増大処理や駆動力減少処理の実行によって変更された駆動系の状態を、車両偏向が収まった後もそのまま保持してもよい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(14)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、車両11の駆動系の状態を変更して駆動輪に伝達される駆動力を変化させることにより、車輪のロックや空転などを抑えるようにしている。そのため、低下した車輪接地力が回復するようになる。従って、坂路での車輪接地力を高めることができる。
(第9実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第9実施形態について、図22を参照して説明する。
本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、車両11の車高調整を行うようにしている。
図22に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S1100)。そして、車両偏向が起きていないときには(S1100:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S1100:YES)、制御装置100は、車高調整処理を実行して(S1110)、本処理を終了する。
上記車高調整処理では、坂路の山側における車高が低くなり、坂路の谷側における車高が高くなるように、上記第1〜第4車高調整機構50a〜51bの駆動が制御される。
例えば、車両11の前輪(右前輪FR及び左前輪FL)が山側であり、後輪(右後輪RR及び左後輪RL)が谷側である場合には、車両右前部の車高を調整する第1車高調整機構50a及び車両左前部の車高を調整する第2車高調整機構50bの駆動制御を通じて車両11の前側の車高が低くされる。また、車両右後部の車高を調整する第3車高調整機構51a及び車両左後部の車高を調整する第4車高調整機構51bの駆動制御を通じて車両11の後ろ側の車高が高くされる。
こうした車高調整処理が実行されると、坂路走行中の車両姿勢が、車高調整処理の実行前に比べて水平状態に近づくようになるため、山側の車輪の接地荷重が増大して接地力が高まるようになる。このようにして山側の車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
なお、山側の車輪接地力を好適に高めるためには、路面の摩擦係数が低いときほど、あるいは坂路の勾配が大きいときほど、山側の車高低下量を大きくするとともに、谷側の車高増大量を大きくすることが好ましい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(15)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、車両11の車高を変更して車輪の接地荷重を高めるようにしているため、坂路走行時に低下しやすい山側の車輪接地力が高まるようになり、車両偏向が抑制可能になる。
(第10実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第10実施形態について、図23を参照して説明する。
本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、車両11の前側デファレンシャルギヤ45及び後ろ側デファレンシャルギヤ47をデフロック状態にするようにしている。
図23に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S1200)。そして、車両偏向が起きていないときには(S1200:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S1200:YES)、制御装置100は、デフロック処理を実行して(S1210)、本処理を終了する。
上記デフロック処理では、前側デファレンシャルギヤ45及び後ろ側デファレンシャルギヤ47がデフロック状態にされる。このようにして前後のデファレンシャルギヤがデフロック状態にされると、車両11の全車輪が直結状態になるため、車輪の空転が収まるようになる。従って、各車輪のうちのいずれかが空転したことにより車両偏向が起きた場合には、デフロック処理を実行することにより車輪の空転が収まって車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
ちなみに、前輪が空転している場合には、前側デファレンシャルギヤ45だけをデフロック状態にしてもよい。また、後輪が空転している場合には、後ろデファレンシャルギヤ47だけをデフロック状態にしてもよい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(16)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、車両11に設けられたデファレンシャルギヤをデフロック状態にして車輪の空転を抑えることにより、車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
(第11実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第11実施形態について、図24を参照して説明する。
本実施形態の車両11では、坂路を下る際の制動力を自動調整することにより、下り坂での車速を目標車速に維持する制御、いわゆるヒルディセント制御(以下、HDC:Hill Descent Control という)が制御装置100やブレーキアクチュエータ15によって行われる。
ここで、坂路を下る際の目標車速が低いほど、設定された目標車速を維持するために必要な制動力は大きくなり、車輪ロックなどによる車両偏向が起きやすくなる。
そこで、本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、HDCによる制動力の増大を抑えるようにしている。
図24に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S1300)。そして、車両偏向が起きていないときには(S1300:NO)、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S1300:YES)、制御装置100は、現在、HDCが実行されているか否かを判定する(S1310)。そして、HDCが実行されていないときには(S1310:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、HDCが実行されているときには(S1310:YES)、現在発生している車両偏向が、HDCによる制動力の増大によるものである可能性がある。そこで、制御装置100は、現在設定されているHDCの目標車速を規定量だけ増大させる処理を行い(S1320)、本処理を終了する。
ステップS1320にて、目標車速が増大されると、増大前に比べて目標車速を維持するために必要な制動力は小さくなるため、車輪の回転抵抗が小さくなり、車輪ロックなどが抑制されるようになる。このようにして車輪の回転抵抗が小さくなると、車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制される。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(17)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、HDC実行中の目標速度を増大させることにより制動力が低下するようになり、これにより車輪ロックの発生などが抑えられて車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
(第12実施形態)
次に、車両の制御装置を具体化した第12実施形態について、図25を参照して説明する。
本実施形態では、坂路での車輪接地力を高めることにより車両偏向を抑える抑制制御として、車両11の進行方向を逆向きにする制御を行うようにしている。
図25に、本実施形態における車両偏向の抑制処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置100によって所定周期毎に実行される。
本処理が開始されると、制御装置100は、車両偏向が起きているか否かを判定する(S1400)。そして、車両偏向が起きていないときには(S1400:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、車両偏向が起きているときには(S1400:YES)、制御装置100は、車両11が登坂中であるか否かを判定する(S1410)。そして、登坂中でないときには(S1410:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、登坂中であるときには(S1410:YES)、制御装置100は、変速機40の変速段が前進段であるか否かを判定する(S1420)。そして、変速機40の変速段が前進段でないときには(S1420:NO)、制御装置100は、本処理を終了する。
一方、変速機40の変速段が前進段であるときには(S1420:YES)、制御装置100は、これから車両11の進行方向を逆にする車両制御を開始することを車両運転者に知らせるための警告を報知する(S1430)。
次に、制御装置100は、前進段に設定されている変速機40の変速段を後進段に変更して(S1440)、本処理を終了する。
このように、登坂中に前進していた車両11において車両偏向が起きた場合には、車両11の進行方向が逆にされるため、車両11の状態は車両偏向が起きる前の状態に近づくようになる。従って、坂路での車輪接地力が高まるようになり、車両偏向が抑制される。
なお、ステップS1440にて変速機40の変速段を後進段に変更した後、車両偏向が収まった時点で、変速機40の変速段を再び前進段へと戻すようにしてもよい。この場合には、車両偏向が収まった後、車両の登坂を再開することができるようになる。
ちなみに、上述したような変速機40の変速段変更を、制御装置100にて自動的に行うのではなく、変速段の変更を促す警告を車両運転者に報知するようにしてもよい。例えば、ステップS1440において、後進段への変更を促す警告を報知するようにしてもより。また、後進による車両偏向が収まった時点で、前進段への変更を促す警告を報知するようにしてもよい。
本実施形態によれば、上記(10)記載の効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(16)車両偏向を抑える抑制制御として、坂路での車輪接地力を高める制御を行うようにしている。より詳細には、登坂中に前進していた車両11を後退させることにより、車輪接地力が高まるようになるため、車両偏向が抑制されるようになる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・ワイパ有りやずり落ち有りの判定が行われたときには、車両運転者に車両偏向が起きていることを報知するようにしてもよい。
・舵角判定値KSの絶対値は、ヨーレートYRの絶対値が大きいときほど大きい値となるように、ヨーレートYRの絶対値に基づいて可変設定されるようにした。この他、舵角判定値KSの絶対値を固定値にしてもよい。
・一般に、車両11の後退時における操舵は、前進時における操舵よりも難しい。従って、車両11の後退時にワイパが発生したときには、前進時にワイパが発生したときに比べて車両11の姿勢変化を抑えるための操舵も難しくなる。そこで、車両11の後退時には、前進時に比べて舵角判定値KSの絶対値を小さくするとよい。この場合には、車両前進時に比べて車両後退時の方が、より少ない舵角STにてワイパ発生有りと判定されるようになるため、例えば車両運転者に車両偏向が起きていることを報知する場合には、ワイパ発生の初期段階でそうした報知を行うことができる。従って、操舵が難しい車両後退時でも、ある程度の余裕をもって車両11の姿勢を是正することが可能になり、車両後退時でもある程度容易に車両偏向を抑えることができる。
・第1実施形態において、ワイパ判定のみ、またはずり落ち判定のみを行うようにしてもよい。
・第2実施形態では、第1カメラCAM1の画像からフロント横移動量CFを演算するようにした。この他、第2カメラCAM2の画像から算出されたリヤ横移動量CRを演算し、第2実施形態と同様な原理に基づいてヨーレートYRを算出するようにしてもよい。
・第3実施形態において、ワイパ判定のみを行ったり、ずり落ち判定のみを行ったり、ヨーレート算出のみを行ったりしてもよい。また、ワイパ判定とヨーレート算出のみを行ったり、ずり落ち判定とヨーレート算出のみを行ったりしてもよい。
・第4実施形態において、車両偏向が起きたときには、自動操舵処理及び操舵抑制処理のいずれか一方のみを行うようにしてもよい。
・第7実施形態において、S920及びS930の処理、つまりエンジンブレーキに関する各処理を省略してもよい。
・第8実施形態では、車輪ロック時に駆動力を増大するように、上記(A)の駆動系制御(副変速機41の変速段を「H4」から「L4」に変更する制御)を行うようにした。しかしながら、(A)の駆動系制御を実行して変速段を「L4」にすることで、車両の状態によってはエンジンブレーキが増大して車輪のロック傾向をかえって強めたり、車両の特性によってはアクセル操作による駆動力の変化が大きくなってコントロール性が低下するなど車両の安定性維持にマイナスと働くことも考えられる。従って、車両の状態や車両特性によっては、車輪ロック時に(A)の駆動系制御を実行しないようにしたり、あるいは(A)の駆動系制御とは逆の制御、つまり副変速機41の変速段を「L4」から「H4」に変更する制御を行ったりしてもよい。
・第9実施形態では、車両前後の車高を変更するようにした。この他、車両11の前側の車高だけを変更したり、車両11の後ろ側の車高だけを変更したりしてもよい。
・第1カメラCAM1を車両前部に設け、第2カメラCAM2を車両後部に設けるようにしたが、そうしたカメラの配設数や配設位置は適宜変更してもよい。
図26に、そうした変更例の一つを示す。この図26に示すように、車両11の右側には、車両右側の路面を撮影する第3カメラCAM3を設ける。こうした第3カメラCAM3は、例えば右ドアミラー300に内蔵するとよい。また、車両11の左側には、車両左側の路面を撮影する第4カメラCAM4を設ける。こうした第4カメラCAM4は、例えば左ドアミラー400に内蔵するとよい。そして、第3カメラCAM3の画像を処理することにより、右前輪FR近傍が右側に移動するときのフロント横移動量CFや、右後輪RR近傍が右側に移動するときのリヤ横移動量CRを算出するようにしてもよい。
同様に、第4カメラCAM4の画像を処理することにより、左前輪FL近傍が左側に移動するときのフロント横移動量CFや、左後輪RL近傍が左側に移動するときのリヤ横移動量CRを算出するようにしてもよい。
・カメラ画像に基づいて車両11の横移動量や横移動方向を検出するようにした。この他、第1カメラCAM1や第2カメラCAM2の代わりに、レーダー装置を設ける。そして、そのレーダー装置から得られたレーダー情報に基づいて車両11の横移動量や横移動方向を検出するようにしてもよい。
・車両11は、原動機として内燃機関を備えていた。この他、原動機として電動モータを備える車両や、電動モータ及び内燃機関を備える車両に対して、上記各実施形態及びそれらの変形例にかかる制御装置を適用してもよい。