図1に、車体2と車輪3と車両姿勢制御装置4とを備えた車両1の全体構成を示す。なお、図中の矢印Xは、前方および後方を含む前後方向を示す。また、図中の矢印Yは、左方および右方を含む左右方向を示す。前後方向と左右方向は互いに直交する直線方向である。前後方向および左右方向に直交する直線方向を、上方および下方を含む上下方向とする。前後方向および左右方向および上下方向は、車両1に固定された直交座標系における座標軸に平行な方向を示している。
前側の車輪3である前輪31,32は、前側の車軸Aである前軸AFを回転中心軸として回転する。左前輪31は、車体2の左前側部位に位置する。右前輪32は、車体2の右前側部位に位置する。
後側の車輪3である後輪33,34は、後側の車軸Aである後軸ARを回転中心軸として回転する。左後輪33は、車体2の左後側部位に位置する。右後輪34は、車体2の右後側部位に位置する。
パワーステアリング装置12は、前輪31,32と、前輪31,32の舵角を制御するための操舵ハンドル11とを接続する。前輪31,32の舵角は、操舵ハンドル11が操作されることによって変化する。一方、後輪33,34の舵角は変化しない。
車両姿勢制御装置4は、車体すべり角推定装置5と、車輪速センサ41〜44と、加速度センサ45と、ヨーレートセンサ46と、舵角センサ47と、メモリ48と、演算装置49と、前輪制御装置6と、後輪制御装置7とを有する。
車体すべり角推定装置5は、車体2の横すべり角を推定する。車体2の横すべり角は、例えば、車両1のヨーレートおよび加速度と、路面の摩擦係数とに基づいて算出される。なお、路面の摩擦係数はその推定精度が低ければ、横すべり角の推定精度が低くなるため、路面の摩擦係数に代えて車輪3に作用する横力に基づいて横すべり角が算出されることが好ましい。車輪3に作用する横力はタイヤ横力センサ(図示略)が検出する。
車輪速センサ41は、左前輪31の回転速度を検出する。車輪速センサ42は、右前輪32の回転速度を検出する。車輪速センサ43は、左後輪33の回転速度を検出する。車輪速センサ44は、右後輪34の回転速度を検出する。車輪速センサ41〜44により検出された車輪3の回転速度である車輪速に基づいて、車両1の進行方向に進む速度である車速が算出される。
加速度センサ45としては、例えば前後方向および左右方向および上下方向の加速度を検出する3軸加速度センサが設けられている。
ヨーレートセンサ46は、上下方向を回転中心軸とする車両1の回転の角速度であるヨーレートを検出する。
舵角センサ47は、前輪31,32の舵角を検出する。舵角センサ47により検出される舵角は、前輪31,32の実舵角を示し、操舵ハンドル11の操舵角とは異なる。
メモリ48は、情報を記憶する不揮発性の情報記憶装置である。メモリ48は、演算装置49が実行するプログラムおよびプログラムに用いる情報として、車両1の重心から前軸AFまでの距離、車両1の重心から後軸ARまでの距離、及び目標制御バランス値等の情報を記憶している。メモリ48に記憶された目標制御バランス値を書き換えることにより、目標制御バランス値の再設定が可能である。
演算装置49は、ECU(Electronic Control Unit)により構成される集積回路である。演算装置49は、メモリ48に記憶されているプログラムに基づいて車両姿勢制御処理を実行する。車両姿勢制御処理において、演算装置49は、前軸AFにおける車体2の横すべり角と、後軸ARにおける車体2の横すべり角とを算出して、これらの横すべり角に基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7を制御する。
前輪制御装置6は、操舵ハンドル11の舵角と連動せずに前輪31,32の舵角を制御することが可能なアクティブステアリング装置である。前輪制御装置6は、舵角センサ47を内蔵する。
後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の配分比率を制御する左右駆動力配分装置である。後輪制御装置7は、駆動輪である後輪33,34について、左後輪33の駆動力と右後輪34の駆動力の比率を制御する。
図2を参照して、車両1の姿勢制御に用いられる物理量等の定義を説明する。
一点鎖線Cは、車両1の左右中心軸(以下、「左右中心軸C」)を示している。左右中心軸Cは車両1の前後方向に対して平行に延びる。
点Gは、車両1および車体2の重心(以下、「重心G」)を示している。車両1において、重心Gは、前後方向における前軸AFと後軸ARとの間に位置する。
点Rは、上下方向を回転中心軸とする車両1および車体2の回転中心(以下、「回転中心R」)を示している。
矢印γは、回転中心Rを軸とした車両1の回転方向(旋回方向)を示している。
ヨーレートセンサ46により検出される車両1のヨーレートは、図中の矢印γを正の方向とする車両1の角速度である。車輪速センサ41〜44により検出される車速は、車両1の前方を正の方向とする車両1の速度である。
角βは、車体すべり角推定装置5により推定される車体2の横すべり角(以下、「車体すべり角β」)に相当する。車体すべり角βは、車両1の左右中心軸C上の任意の点において、車両1の進行方向Dと左右中心軸Cとのなす角である。
角βfは、前軸AFにおける車体2の横すべり角(以下、「横すべり角βf」)に相当する。横すべり角βfは、車両1の左右中心軸C上かつ前軸AF上において、矢印Dfで示す車両1の前側部位が滑ろうとする方向(以下、「前軸すべり方向Df」)と、車両1の左右中心軸Cとのなす角である。左右中心軸Cに対して旋回方向内側(矢印γで示す方向)に前軸すべり方向Dfが向いているとき、横すべり角βfは正の数で表される。左右中心軸Cに対して旋回方向外側に前軸すべり方向Dfが向いているとき、横すべり角βfは負の数で表される。
角βrは、後軸ARにおける車体2の横すべり角(以下、「横すべり角βr」)に相当する。横すべり角βrは、車両1の左右中心軸C上かつ後軸AR上において、矢印Drで示す車両1の後側部位が滑ろうとする方向(以下、「後軸すべり方向Dr」)と、車両1の左右中心軸Cとのなす角である。左右中心軸Cに対して旋回方向外側(矢印γの反対側方向)に後軸すべり方向Drが向いているとき、横すべり角βrは正の数で表される。左右中心軸Cに対して旋回方向内側に後軸すべり方向Drが向いているとき、横すべり角βrは正の数で表される。
横すべり角βfは、回転中心Rが前軸AFから離れるにつれて大きくなる。また、横すべり角βrは、回転中心Rが後軸ARから離れるにつれて大きくなる。したがって、回転中心Rが前軸AFと後軸ARとの間に位置するとき、横すべり角βfが大きくなるにつれて横すべり角βrは小さくなる。一方、横すべり角βrが大きくなるにつれて横すべり角βfは小さくなる。
角δは、前輪31,32の舵角(以下、「舵角δ」)である。舵角δは、図中の二点鎖線R1で示す前輪31,32の回転面に平行な方向と、前後方向とのなす角である。二点鎖線R2は、後輪33,34の回転面に平行な方向を示している。
矢印Lfは、前後方向において回転中心Rから前軸AFまでの距離(以下、「距離Lf」)を示している。また、矢印Lrは、前後方向において回転中心Rから後軸ARまでの距離(以下、「距離Lr」)を示している。前後方向における前軸AFと後軸ARの間に回転中心Rが位置するとき、距離Lfと距離Lrの和は、矢印Lで示す車両1のホイールベースと等しい。すなわち、距離Lfを「Lf」とし、距離Lrを「Lr」とし、車両1のホイールベースを「L」としたときに、「Lf+Lr=L」の数式が成立する。前軸AFよりも車両1の前方に回転中心Rが位置するとき、距離Lfは負の数で表される。
なお、前後方向において前軸AFから後軸ARまでの距離に相当する車両1のホイールベースは、矢印Cfで示す重心Gから前軸AFまでの距離(以下、「距離Cf」)と、矢印Crで示す重心Gから後軸ARまでの距離(以下、「距離Cr」)との和に等しい。したがって、図中の矢印Eで示す重心Gから回転中心Rまでの距離を「X」とし、距離Cfを「Cf」とし、距離Crを「Cr」としたとき、「Lf=Cf+X」の数式および「Lr=Cr−X」の数式が成立する。重心Gに対して車両1の前方に回転中心Rが位置するとき、重心Gから回転中心Rまでの距離は負の数で表される。
また、横すべり角βfを「βf」とし、横すべり角βrを「βr」としたとき、回転中心Rについて「Lr・βf+Lf・βr=0」の数式が成立する。したがって、横すべり角βf,βrが推定されることにより、距離Lf,Lrが算出可能、すなわち回転中心Rが導出可能である。
図3を参照して、車両姿勢制御装置4が実行する「車両姿勢制御処理」について説明する。図3に示す一連の処理は、ステップS1を除いて、演算装置49により実行される。
ステップS1では、車体すべり角推定装置5が、横すべり角βを推定する。横すべり角βの推定結果は、車体すべり角推定装置5から演算装置49に入力される。
ステップS2では、ヨーレートセンサ46を用いて車両1のヨーレートを検出する。ステップS3では、車輪速センサ41〜44を用いて車輪3の車輪速を検出して、車輪速に基づいて車速を算出する。ステップS4では、舵角センサ47を用いて前輪31,32の舵角を検出する。
ステップS5では、ステップS1で推定された横すべり角βと、メモリ48に予め記憶されている重心Gから前軸AFまでの距離Cfと、ステップS2で検出された車両1のヨーレートと、ステップS3で算出された車速とに基づいて、横すべり角βfを推定する。具体的には、下記数式(1)から横すべり角βfを算出する。なお、以下の数式において、横すべり角βfを「βf」とし、横すべり角βを「β」とし、距離Cfを「Cf」とし、車両1のヨーレートを「γ」とし、車速を「V」としている。
上記数式(1)は、一般的な車両モデルにおける前輪の横すべり角を表す数式において、前輪の舵角を「0」としたときの数式と同じである。
ステップS6では、ステップS1で推定された横すべり角βと、メモリ48に予め記憶されている重心Gから後軸ARまでの距離Crと、ステップS2で検出された車両1のヨーレートと、ステップS3で算出された車速とに基づいて、横すべり角βrを推定する。具体的には、下記数式(2)から横すべり角βrを算出する。なお、以下の数式において、横すべり角βrを「βr」とし、距離Crを「Cr」としている。
上記数式(2)は、一般的な車両モデルにおける後輪の横すべり角を表す数式と同じである。
ステップS7では、メモリ48に予め記憶されている目標制御バランス値と、ステップS5で推定された横すべり角βfと、ステップS6で推定された横すべり角βrとに基づいて、車両1の姿勢制御に使用する制御装置が決定される。具体的には、下記数式(3)を満たすとき、後輪制御装置7を使用することを決定する。一方、下記数式(4)を満たすとき、前輪制御装置6を使用することを決定する。なお、以下の数式において、目標制御バランス値を「α」としている。
上記数式(3)および(4)の成立は、「βf・α」の絶対値と「βr・(1−α)」の絶対値との大小関係、すなわち、「βf・α」の大きさと「βr・(1−α)」の大きさとの差Δβに依存する。以下、「|α・βf|−|(1−α)・βr|」の数式で表される差Δβを「Δβ」とする。
上記数式(3)および(4)において「α」が「0.5」のときは、横すべり角βfが横すべり角βrよりも大きいときに、後輪制御装置7を使用することが決定され、横すべり角βrが横すべり角βfよりも大きいときに、前輪制御装置6を使用することが決定される。すなわち、「α」を「0.5」とすると、回転中心Rが前輪31,32よりも後輪33,34に近いときに後輪制御装置7を使用することが決定され、回転中心Rが後輪33,34よりも前輪31,32に近いときに前輪制御装置6を使用することが決定される。したがって、「α」が「0.5」のときには、前輪31,32と後輪33,34との中央、すなわち、前軸AFと後軸ARとの中央を境界として、この境界に対する回転中心Rの位置に応じて、前輪制御装置6および後輪制御装置7の使い分けが決定される。目標制御バランス値を「1」に近づけることにより、上記数式(3)が成立する可能性が高くなるため、後輪制御装置7による車両1の姿勢制御を重視することができる。また、目標制御バランス値を「0」に近づけることにより、上記数式(4)が成立する可能性が高くなるため、前輪制御装置6による車両1の姿勢制御を重視することができる。
ステップS8では、メモリ48に予め記憶されている目標制御バランス値と、ステップS5で推定された横すべり角βfと、ステップS6で推定された横すべり角βrとに基づいて、車両1の姿勢を制御するための制御量を算出する。具体的には、下記数式(5)から制御量を算出する。なお、以下の数式において、制御量を「Cv」としている。
回転中心Rが前後方向において前軸AFと後軸ARとの間に位置する車両1においては、「βf」と「βr」は互いに異符号である。「Cv」は、前輪制御装置6による前輪31,32の制御量、後輪制御装置7による後輪33,34の制御量に相当する。前輪31,32の制御量は、前輪31,32の舵角の変化量に相当する。また、後輪33,34の制御量は、左後輪33の駆動力と右後輪34の駆動力の差に相当する。
なお、左右中心軸Cに対して旋回方向外側に後軸すべり方向Drが向いているときに、横すべり角βfが正の数で表される場合には、上記(5)の数式に代えて「Cv={α・βf}−{(1−α)・βr}」から制御量が算出される。
ステップS9では、ステップS8で算出された制御量に基づいて、ステップS7で決定された前輪制御装置6および後輪制御装置7の一方を使用することにより、前輪31,32および後輪33,34の一方が制御されて、車両1の姿勢が制御される。すなわち、ステップS7で前輪制御装置6を使用することが決定された場合には、ステップS9では、演算装置49が、ステップS8で算出された制御量を制御信号として前輪制御装置6に出力する。一方、ステップS7で後輪制御装置7を使用することが決定された場合には、ステップS9では、演算装置49が、ステップS8で算出された制御量を制御信号として後輪制御装置7に出力する。
ステップS9において、演算装置49から制御信号が入力された前輪制御装置6は、ステップS8で算出された制御量に基づいて、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」が「0」に近づくように前輪31,32の舵角を制御する。このとき、ステップ8で算出された制御量が大きいほど、前輪31,32の舵角の変化量を大きくする。
また、ステップS9において、演算装置49から制御信号が入力された後輪制御装置7は、ステップS8で算出された制御量に基づいて、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」が「0」に近づくように後輪33,34の駆動力の配分比率を制御する。このとき、ステップ8で算出された制御量が大きいほど、左後輪33の駆動力と右後輪34の駆動力の差を大きくする。
以上のようにして、車両姿勢制御装置4は、前軸AFにおける横すべり角βfと、後軸ARにおける横すべり角βrとに基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7を選択的に用いて車両1の姿勢を制御する。
図4を参照して、「α=0.5」かつ「Δβ>0」のときの車両1の姿勢制御を説明する。このとき、後輪制御装置7による後輪33,34の制御が行われ、前輪制御装置6による前輪31,32の制御は行われない。図4において車両1は、矢印γの方向に回転しているものとする。
「α=0.5」かつ「Δβ>0」のとき、車両1は、その進行方向Dが左右中心軸Cに対して車両1の回転方向側に位置するヘッドアウト姿勢の状態である。車両1の姿勢がヘッドアウト姿勢のとき、車両1の進行方向Dは、車両1の前方を、車両1の回転方向(旋回方向)に0度超90度未満の範囲で回転させた方向である。また、このとき車両1の回転中心Rは、車両1の前後方向において前軸AFと後軸ARの間に位置している。車両1がヘッドアウト姿勢の状態であるとき、車両1の進行方向Dと左右中心軸Cを一致させるためには、回転中心Rが前方に移動するように車両1の前側部位を矢印γの方向にさらに回転させればよい。
ここで、「α=0.5」かつ「Δβ>0」のときは、「α=0.5」かつ「Δβ<0」であるときに比べて、車両1の回転中心Rは車両1の後側に存在して、横すべり角βfは横すべり角βrに比べて大きいと判断できる。従って、小さな横すべり角βrが発生している後軸ARに設けられた後輪33,34を制御することにより、大きな横すべり角βfが発生している前軸AFに設けられた前輪31,32を制御する場合に比べて、車両1の前側部位を速やかに回転させることができる。
「α=0.5」のとき、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」を「0」に近づけることは、車両1の回転中心Rを前後方向において前軸AFと後軸ARの中央に移動させること、すなわち前後方向において前軸AFと後軸ARの中央における車体2の横すべり角βを「0」に近づけることを意味する。したがって、後輪制御装置7は、図4中の二点鎖線の矢印で示すように、左後輪33の駆動力に比べて、右後輪34の駆動力を大きくすることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
図5を参照して、「α=0.5」かつ「Δβ<0」のときの車両1の姿勢制御を説明する。このとき、前輪制御装置6による前輪31,32の制御が行われ、後輪制御装置7による後輪33,34の制御は行われない。図5において車両1は、矢印γの方向に回転しているものとする。
「α=0.5」かつ「Δβ<0」のとき、車両1は、車両1の回転中心Rが前輪31,32よりに位置するヘッドアウト姿勢の状態、もしくは、図5に示されるように、車両1の進行方向Dが左右中心軸Cに対して車両1の回転方向の反対側に位置するヘッドイン姿勢の状態である。車両1の姿勢がヘッドイン姿勢のとき、車両1の進行方向Dは、車両1の前方を、車両1の回転方向(旋回方向)の反対側に0度超90度未満の範囲で回転させた方向である。また、このとき車両1の回転中心Rは、車両1の前後方向において前軸AFよりも前方に位置している。車両1がヘッドイン姿勢の状態であるとき、車両1の進行方向Dと左右中心軸Cを一致させるためには、回転中心Rが後方に移動するように車両1の前側部位を矢印γの反対方向に回転させればよい。
ここで、「α=0.5」かつ「Δβ<0」のときは、「α=0.5」かつ「Δβ>0」であるときに比べて、車両1の回転中心Rは車両1の前側に存在して、横すべり角βrは横すべり角βfに比べて大きいと判断できる。したがって、小さな横すべり角βfが発生している前軸AFに設けられた前輪31,32を制御することにより、大きな横すべり角βrが発生している後軸ARに設けられた後輪33,34を制御する場合に比べて、車両1の前側部位を速やかに回転させることができる。
「α=0.5」のとき、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」を「0」に近づけることは、前後方向において前軸AFと後軸ARの中央における車体2の横すべり角βを「0」に近づけることを意味する。したがって、前輪制御装置6は、図5中の二点鎖線の矢印で示すように、前輪31,32の回転面を、車両1の回転方向の反対側方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
以上のように、「α=0.5」のときは、前軸AFから後軸ARまでの間が「5:5」で区切られる位置に回転中心Rが移動するように、車両1の姿勢が制御される。また、「α=0.3」のときは、前軸AFから後軸ARまでの間が「7:3」で区切られる位置に回転中心Rが移動するように、車両1の姿勢が制御される。すなわち、前軸AFから後軸ARまでの間が「(1−α):α」で区切られる位置に回転中心Rが移動するように、車両1の姿勢が制御される。
車両姿勢制御装置4の作用について説明する。
横すべり角βfと横すべり角βrと所定の目標制御バランス値とに基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7のうち車両1の姿勢制御に用いられる制御装置が決定されるとともに、車両1の姿勢を制御するための制御量が算出される。すなわち、前輪制御装置6および後輪制御装置7を用いて車両1の姿勢を制御する車両姿勢制御装置4は、横すべり角βfと横すべり角βrに基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7を使い分ける。「Δβ>0」のときは、後輪制御装置7により、後輪33,34が制御されて、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」が「0」に近づけられる。また、「Δβ<0」のときは前輪制御装置6により、前輪31,32が制御されて、「{α・βf}+{(1−α)・βr}」が「0」に近づけられる。このように「Δβ」の符号の正負に応じて前輪制御装置6と後輪制御装置7とが選択的に制御される。
(実施形態の効果)
本実施形態の車両姿勢制御装置4は、以下の効果を奏する。
(1)車両姿勢制御装置4は、前軸AFにおける横すべり角βfおよび後軸ARにおける横すべり角βrに基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7のいずれか一方を車両1の姿勢を制御するための装置として選択する。よって、前輪制御装置6と後輪制御装置7とを協調させ、車両1の前後方向に延びる左右中心軸Cに対して車両1の進行方向Dのなす角度を効果的に制御することができ、車両1の進行方向Dを適切に制御することができる。
(2)車両姿勢制御装置4は、横すべり角βf、横すべり角βr、およびメモリ48に記憶されている所定の目標制御バランス値に基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7のいずれか一方を車両1の姿勢を制御するための装置として選択する。よって、車両姿勢制御装置4が、所定の目標制御バランス値も加味して前輪制御装置6および後輪制御装置7のいずれか一方を選択して前輪31,32または後輪33,34を制御するため、車両1の進行方向の制御の自由度を高めることができる。
(3)車両姿勢制御装置4は、上記数式(3)が成立するとき後輪制御装置7を選択し、上記数式(4)が成立するとき、前輪制御装置6を選択する。このため、「βf・α」の大きさと「βr・(1−α)」の大きさの大小に応じて、前輪制御装置6または後輪制御装置7を選択することにより、車両1の左右中心軸Cに対して車両1の進行方向Dのなす角度を効果的に制御することができ、車両1の進行方向Dを適切に制御することができる。また、目標制御バランス値を示す「α」を1に近づけることにより、上記数式(3)が成立する可能性が高くなるため、後輪制御装置7による車両1の姿勢制御を重視することができる。また、目標制御バランス値を示す「α」を0に近づけることにより上記数式(4)が成立する可能性が高くなるため、前輪制御装置6による車両1の姿勢制御を重視することができる。
(4)車両姿勢制御装置4は、横すべり角βf、横すべり角βr、および目標制御バランス値に基づいて、前輪制御装置6による前輪31,32の制御量および後輪制御装置7による後輪33,34の制御量を算出する。このため、規範ヨーレートに基づかないで、前輪31,32の制御量および後輪制御装置7による後輪33,34の制御量を決定することが可能である。
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施態様以外の実施形態を含む、以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4は、上記数式(3)を満たすとき後輪制御装置7を使用することを決定する。一方、変形例の車両姿勢制御装置4は、上記数式(3)に代えて、下記数式(6)を満たすとき後輪制御装置7を使用することを決定する。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4は、上記数式(4)を満たすとき前輪制御装置6を使用することを決定する。一方、変形例の車両姿勢制御装置4は、上記数式(4)に代えて、下記数式(7)を満たすとき前輪制御装置6を使用することを決定する。
すなわち、上記実施形態の車両姿勢制御装置4は、横すべり角βfと横すべり角βrと所定の制御バランスとに基づいて、前輪制御装置6および後輪制御装置7のいずれか一方を前記車両の姿勢を制御するための装置として選択する。一方、変形例の車両姿勢制御装置4は、横すべり角βfと横すべり角βrのみに基づいて前輪制御装置6および後輪制御装置7のいずれか一方を前記車両の姿勢を制御するための装置として選択する。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4において、目標制御バランス値を示す「α」はメモリ48に記憶されている0以上1以下の値(例えば0.5)である。一方、変形例の車両姿勢制御装置4は、目標制御バランス値を車速に応じて変化させる。このような構成によれば、目標制御バランス値が車速に応じて変化するため、車速に応じて前輪制御装置6および後輪制御装置7が使い分けられ、車体2の横すべり角を車速に応じて制御することができる。
車速に応じた「α」は、下記数式(8)から算出されることが好ましい。なお、以下の数式において、車両1のホイールベース、すなわち前後方向において前軸AFから後軸ARまでの距離を「L」とし、車体2の目標横すべり角βを「β*」としている。
本変形例の演算装置49は、メモリ48に予め記憶されている重心Gから後軸ARまでの距離Crおよび目標横すべり角βおよび車両1のホイールベースと、ステップS2で検出された車両1のヨーレートと、ステップS3で算出された車速とに基づいて、上記数式(8)から目標制御バランス値を算出する。そして、ステップS7では、上記数式(8)で算出した目標制御バランス値と、ステップS5で推定された横すべり角βfと、ステップS6で推定された横すべり角βrとに基づいて、車両1の姿勢制御に使用する制御装置が決定される。また、ステップS8では、上記数式(8)で算出した目標制御バランス値と、ステップS5で推定された横すべり角βfと、ステップS6で推定された横すべり角βrとに基づいて、車両1の姿勢を制御する度合いである制御量が算出される。
上記数式(8)において、「γ」が大きくなるほど、「α」が大きくなる。このため、車両1のヨーレートが大きいときほど、目標制御バランス値が「1」に近づいて上記数式(3)が成立する可能性が高くなるため、後輪制御装置7による車両1の姿勢制御を重視することができる。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4は、横すべり角βfと横すべり角βrと所定の目標制御バランス値とに基づいて、前輪制御装置6による前輪31,32の制御量および後輪制御装置7による後輪33,34の制御量を算出する。一方、変形例の車両姿勢制御装置4は、横すべり角βfと横すべり角βrと車両1のヨーレートとに基づいて、前輪制御装置6による前輪31,32の制御量および後輪制御装置7による後輪33,34の制御量を算出する。このような構成によれば、車両姿勢制御装置4が、横すべり角βfと横すべり角βrの単なる大小関係だけでなく、車両1のヨーレートも加味して前輪31,32の制御量および後輪33,34の制御量を算出する。このため、車両1の前後方向に延びる左右中心軸Cに対して車両1の進行方向のなす角度、すなわち車両1の姿勢だけでなく、車両1の走行軌跡も制御することができる。
横すべり角βfと横すべり角βrと車両1のヨーレートとに基づく制御量は、下記数式(9)から算出されることが好ましい。なお、以下の数式において、前輪31,32の転舵角と車速とから算出される規範ヨーレートを「γ*」としている。規範ヨーレートは、ヨーレートセンサ46により検出される車両1のヨーレートと同様に、車両1の回転方向(図中の矢印γで示す方向)を正の方向とする。
本変形例の演算装置49は、舵角センサ47を用いて検出された前輪31,32の転舵角と、車輪速センサ41〜44を用いて検出された車速とに基づいて、規範ヨーレートを算出する。そして、演算装置49は、メモリ48に予め記憶されている目標制御バランス値と、ステップS5で推定された横すべり角βfと、ステップS6で推定された横すべり角βrと、算出した規範ヨーレートと、ヨーレートセンサ46を用いて検出したヨーレートとに基づいて、車両1の姿勢を制御する度合いである制御量を算出する。また、ステップS9において、演算装置49は、「{α・βf}+{(1−α)・βr}+(γ*−γ)」が「0」に近づくように前輪31,32または後輪33,34を制御する。
上記数式(9)において、「γ*<γ」であるとき、規範ヨーレートに対するヨーレートの偏差が大きくなるほど、「γ*−γ」は絶対値の大きな負の数になるため、「Cv」が小さくなる。また、「γ*>γ」であるとき、規範ヨーレートに対するヨーレートの偏差が大きくなるほど、「γ*−γ」は絶対値の大きな正の数になるため、「Cv」が大きくなる。また、「γ*=γ」であるとき、すなわち、車両1の旋回軌跡の逸脱がないと判断されるとき、数式(9)の「Cv」は上記数式(5)から算出される制御量と同じである。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4において、後輪制御装置7は左右駆動力配分装置である。一方、変形例の車両姿勢制御装置4において、後輪制御装置7は独立駆動装置である。また、変形例の車両姿勢制御装置4において、後輪制御装置7は、後輪33,34の舵角を制御することができる後輪ステアリング装置である。この場合、ステップ8で算出された制御量が大きいほど、ステップS9において後輪33,34の舵角の変化量を大きくする。すなわち、後輪制御装置7による後輪33,34の制御量は、後輪33,34の舵角の変化量に相当する。
図6を参照して、後輪制御装置7が後輪ステアリング装置により構成され、「α=0.5」かつ「Δβ>0」のときの車両1の姿勢制御を説明する。このとき、後輪制御装置7による後輪33,34の制御が行われ、前輪制御装置6による前輪31,32の制御は行われない。図6において車両1は、矢印γの方向に回転しているものとする。
図6は、図4と同様に車両1がヘッドアウト姿勢の状態であるときを示している。図6に示す状態において、後輪制御装置7は、図6中の二点鎖線の矢印で示すように、後輪33,34の回転面を、車両1の回転方向の反対側方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
以上のように、後輪制御装置7を後輪ステアリング装置により構成しても上記実施形態に準じた効果を得ることができる。すなわち、後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の比率を制御する駆動力配分装置に限定されない。
・上記実施形態(図1)の車両姿勢制御装置4において、前輪制御装置6はアクティブステアリング装置である。一方、変形例の車両姿勢制御装置4において、前輪制御装置6は独立駆動装置または左右駆動力配分装置である。なお、前輪31,32の舵角は変化させることができるように構成されている必要がある。前輪制御装置6が左右駆動力配分装置である場合、ステップ8で算出された制御量が大きいほど、ステップS9において左前輪31の駆動力と右前輪32の駆動力の差を大きくする。すなわち、前輪制御装置6による前輪31,32の制御量は、駆動輪である前輪31,32について、左前輪31の駆動力と右前輪32の駆動力の差に相当する。
図7を参照して、前輪制御装置6が左右駆動力配分装置により構成され、「α=0.5」かつ「Δβ<0」のときの車両1の姿勢制御を説明する。このとき、前輪制御装置6による前輪31,32の制御が行われ、後輪制御装置7による後輪33,34の制御は行われない。図7において車両1は、矢印γの方向に回転しているものとする。
図7は、図5と同様に、車両1がヘッドイン姿勢の状態であるときを示している。図7に示す状態において、前輪制御装置6は、図7中の二点鎖線の矢印で示すように、右前輪32の駆動力に比べて、左前輪31の駆動力を大きくすることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
以上のように、前輪制御装置6を左右駆動力配分装置により構成しても上記実施形態に準じた効果を得ることができる。すなわち、前輪制御装置6は、前輪31,32の舵角を制御する差動機構装置またはステアバイワイヤ装置等のアクティブステアリング装置に限定されない。