本発明の実施形態に係る超音波診断装置及び超音波診断装置の制御プログラムについて添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成図である。
超音波診断装置1は、送信系2、超音波プローブ3、受信系4、Bモード処理系5、直交位相検波器6、CFM処理系7、スキャンコンバータ8及び表示系9を備える。またCFM処理系7は、MTI(moving target indication)フィルタ10、自己相関器11及び血流情報演算器12を有する。
超音波診断装置1の各構成要素は回路を用いて構成することができる。但し、デジタル情報を処理する構成要素については、コンピュータに超音波診断装置1の制御プログラムを読み込ませることによって構築することができる。そのための超音波診断装置1の制御プログラムは、情報記録媒体に記録してプログラムプロダクトとして流通させることもできる。
超音波プローブ3は、複数の超音波振動子を備えている。各超音波振動子は、送信系2から所定の送信遅延時間を伴って印加された電気信号を超音波送信信号に変換して被検体の内部に送信する機能と、被検体内における超音波信号の反射によって生じた超音波反射エコー信号を受信して電気信号の受信信号に変換する機能とを有する。各超音波振動子から出力される受信信号は、受信系4に入力される。
超音波プローブ3には、2次元(2D: two-dimensional)走査用のプローブ及び3次元(3D: three-dimensional)走査用のプローブがある。2D走査用のプローブには、セクタタイプ、コンベックスタイプ及びリニアタイプ等の種類がある。また、3D走査用のプローブとしては、メカニカル4次元(4D: four dimensional)プローブや2Dアレープローブが知られている。尚、メカニカル4Dプローブは、1次元(1D: one-dimensional)アレーをアレーと交差する方向に揺動させて3D走査するためのプローブである。
ここでは、2D走査を行って2D超音波画像を生成する場合について説明するが、3D走査を行って2D超音波画像又は3D超音波画像を生成する場合についても同様である。
送信系2は、超音波プローブ3を駆動する回路である。送信系2は、超音波プローブ3に備えられる各超音波振動子に送信信号として電気信号を印加する機能を有する。また、送信系2が超音波振動子ごとの送信信号に所定の送信遅延時間を付与することにより送信指向性が生じ、送信ビームフォーミングを行うことができる。
受信系4は、超音波プローブ3に備えられる各超音波振動子からそれぞれ出力される受信信号を受信し、増幅処理、A/D(Analog to Digital)変換処理及び整相加算処理を含む信号処理を実行することによって受信指向性を有する走査位置からの受信信号を生成する機能を有する。すなわち、受信系4において受信ビームフォーミングを含む信号処理が実行される。
Bモード処理系5は、超音波形態画像データであるBモード像データ用に収集された超音波受信信号を受信系4から取得して、公知の信号処理を実行することによりBモード像用の超音波Bモードデータを生成する機能を有する。
直交位相検波器6は、超音波カラー画像データ用に収集された超音波受信信号を受信系4から取得して、超音波ドプラ信号を取得する機能を有する。超音波カラー画像データ用の超音波受信信号は、被検体内における同一方向の走査線から収集された複数の超音波受信信号である。そして、直交位相検波器6は、複数の超音波受信信号に直交位相検波を行って空間上の各点(走査点、サンプル位置)において複素信号の時系列データから成る超音波ドプラ信号を生成する機能を備えている。
CFM処理系7は、超音波ドプラ信号に対する信号処理を実行することにより血流の速度、分散及びパワー等の血流情報を含む超音波カラーデータを生成する機能を有する。
CFM処理系7のMTIフィルタ10は、超音波ドプラ信号から血流成分による信号以外のクラッタ成分を除去することにより血流ドプラ信号を得るためのフィルタである。同一の走査点からN個の時系列の超音波ドプラ信号が収集された場合には、血流ドプラ信号は、クラッタ成分の信号が除去されることによって当該走査点に対応するM個の複素数の時系列データとなる。但し、M≦Nである。
自己相関器11は、複素数の時系列データで構成される血流ドプラ信号の複素自己相関を求める機能を有する。走査領域内の各走査点におけるM個の複素数の血流ドプラ信号zi (i = 1, ..., M)は式(1)に示すように虚数単位jを用いて表すことができる。
zi=xi+jyi (1)
また、複素自己相関C(1)は、式(1)で示される血流ドプラ信号ziから式(2)により算出することができる。
但し、式(2)においてC(1)の1は、zi+1 *の添え字の1を表している。
血流情報演算器12は、血流ドプラ信号の複素自己相関に基づいて走査領域内の各走査点における血流の速度、分散及びパワー等の超音波カラーデータを算出する機能を有する。算出された超音波カラーデータは、超音波カラー画像データの生成用にスキャンコンバータ8に出力される。
図2は図1に示す血流情報演算器12の詳細構成図である。
血流情報演算器12は、速度/分散/パワー演算器20、ブランキング処理器21、ベクトル速度平均器22、平均速度算出器23、差分速度算出器24及び置換フィルタ25を有する。
速度/分散/パワー演算器20は、血流ドプラ信号の複素自己相関に基づいて各サンプル位置における血流の速度、分散及びパワーを算出し、血流速度データ、血流パワーデータ及び血流分散データを生成する機能を有する。
図3は、図2に示す速度/分散/パワー演算器20において算出対象となる血流の速度Vを表す複素平面を示す図である。
図3において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図3に示すように血流ドプラ信号の複素自己相関C(1)は、複素平面上ではベクトルとして表すことができる。血流の速度Vは、血流ドプラ信号ziの周波数に比例し、複素自己相関C(1)を示すベクトルの角度となる。従って、血流の速度Vは、係数を省略すると、複素自己相関C(1)から式(3)で算出することができる。
V = atan[Im{C(1)}/Re{C(1)}] (-π≦V<π) (3)
但し、式(3)においてIm()は虚部を出力する関数であり、Re()は実部を出力する関数である。尚、式(3)で示される-π、πは、血流ドプラ周波数の折返り周波数に相当する折返り速度である。
図4は、図2に示す速度/分散/パワー演算器20において算出される血流の速度Vをカラーバーに割り当てた例を示す図である。
図4(A)において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図4(A)は、互いに条件の異なる5通りの血流の速度V0. V1, V2, V3, V4を示している。また、図4(B)は図4(A)に示す各血流の速度V0. V1, V2, V3, V4を超音波カラー画像として表示させる際に割り当てられるカラーバーの例を示している。
図4(A)に示すように血流の速度Vが取り得る範囲は、0から±πの範囲となる。換言すれば、±πが折返り速度となる。従って、図4(B)に示すようにカラーバーの上限を+π、下限を-π、中央をゼロとすることができる。
また、0から+πの間における速度範囲では、血流の速度Vが正の値となり、この速度範囲は血流が超音波プローブ3に近づく速度範囲を表す。一方、0から-πの間における速度範囲では、血流の速度Vが負の値となり、この速度範囲は血流が超音波プローブ3から遠ざかる速度範囲を表す。
速度V0はベクトルが実軸上において正極側を向いた場合に相当する。つまり、速度V0は速度ゼロに相当する。従って、速度V0にはカラーバーの中央に対応するカラーが割り当てられる。
速度V1はベクトルの虚部が負値となって傾斜し、実軸上の負極側に折り返った状態に相当する。一方、速度V4はベクトルの虚部が正値となって傾斜し、実軸上の負極側に折り返った状態に相当する。すなわち、速度V1は折返り速度-πであり、速度V4は折返り速度+πである。従って、速度V1にはカラーバーの下限に対応するカラーが割り当てられる。一方、速度V4にはカラーバーの上限に対応するカラーが割り当てられる。
また、速度V3は0から+πの間における速度範囲となった状態に相当する。一方、速度V2は0から-πの間における速度範囲となった状態に相当する。従って、速度V3にはカラーバーの中央から上限の間における値に応じたカラーが割り当てられる。一方、速度V2にはカラーバーの中央から下限の間における値に応じたカラーが割り当てられる。
このように血流の速度Vをカラーバーに割り当てることによって、血流の速度Vをカラーで表示させる血流速度画像の表示用のデータを生成することができる。
血流のパワーC(0)は、血流ドプラ信号ziから式(4)により算出することができる。
また、血流の分散σ2は、係数を省略すると、血流ドプラ信号ziの複素自己相関C(1)及び血流のパワーC(0)から式(5)により算出することができる。
σ2 = 1-|C(1)|/C(0) (0 ≦ σ2 ≦ 1) (5)
従って、血流のパワーC(0)及び分散σ2についてもカラー表示させるための血流パワー画像の表示用のデータ及び血流分散画像の表示用のデータをそれぞれ生成することができる。
ブランキング処理器21は、血流速度データ、血流パワーデータ及び血流分散データ等の血流データのノイズを低減させるブランキング処理を行う機能を有する。ブランキング処理には、ある閾値以下の速度を呈するサンプル点をクラッタとみなしてブランキングする処理やある閾値以下のパワーを呈するサンプル点をノイズとみなしてブランキングする処理等がある。
しかし、ブランキング処理によっても除去できないノイズが存在する。すなわち、スペックル等の影響により、血流データにおいて周囲の血流領域における信号値と異なる値を呈する特異点が残存する。残存する特異点を表示させると、黒抜けや周囲と異なる輝度の点として表示される。
血流情報演算器12のベクトル速度平均器22、平均速度算出器23、差分速度算出器24及び置換フィルタ25は、ブランキング処理によって残存する特異的なノイズを除去することにより血流速度データの品質を向上させる機能を有する。従って、空間的に2次元的な位置に対応付けられる各サンプル点の血流速度データがノイズ除去処理の対象となる。
ベクトル速度平均器22は、所定の範囲内の複数のサンプル点における血流の速度Vを複素平面上において示す複数のベクトルの平均値を、複数のベクトルを用いた演算によってベクトルとして求める機能を有する。
図5は、図2に示すベクトル速度平均器22において処理対象となる血流のベクトル速度の例を示す図である。
図5(A), (B)において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図5(A)は、5箇所のサンプル点における血流ドプラ信号ziの複素自己相関C(1)を、複素平面上における5本のベクトルとして示した図である。
血流の速度は、各サンプル点における複素自己相関C(1)の実部Re{C(1)}と虚部Im{C(1)}を要素とするベクトルV1vector, V2vector, V3vector, ..., V5vectorで表すことができる。以下、複素平面上において速度を示すベクトルをベクトル速度と称し、ベクトル速度の長さをベクトル速度の大きさと称する。
尚、Re{C(1)}及びIm{C(1)}の代わりに、血流の速度Vの余弦cos(V)及び正弦sin(V)を要素とするベクトル速度V1'vector, V2'vector, V3'vector, ..., V5'vectorを用いて血流の速度を表現することもできる。図5(B)は、血流の速度Vの余弦cos(V)及び正弦sin(V)を要素とするベクトル速度V1'vector, V2'vector, V3'vector, ..., V5'vectorを用いて血流の速度を図示した例を示す。
図5(A)に示すように、複素自己相関C(1)の実部Re{C(1)}と虚部Im{C(1)}を要素とするベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, ..., V5vectorは、信号強度に応じて大きさが変化する。これに対して、図5(B)に示す血流の速度Vの余弦cos(V)及び正弦sin(V)を要素とするベクトル速度V1'vector, V2'vector, V3'vector, ..., V5'vectorは、信号強度によらず大きさが一定となる。以降の説明では、複素自己相関C(1)の実部Re{C(1)}と虚部Im{C(1)}を要素とするベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, ..., V5vectorを用いて血流の速度を表現する場合を例に説明する。
この場合、ベクトル速度平均器22では、複数のサンプル点におけるベクトル速度V1, V2, V3, ...の平均をとることによって平均値ベクトルVmean_vectorが求められる。
図6は、図2に示すベクトル速度平均器22において平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象となるサンプル点の設定例を示す図である。
図6に示すように、3×3のマトリックス上において互いに隣接する9つの複数のサンプル点を平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象として設定することができる。この場合、9つのサンプル点における各ベクトル速度V1vector, V2 vector, V3vector, ..., V9vectorの各要素の平均を求めることによって平均値ベクトルVmean_vectorが計算される。
図6に示す例では、マトリックスの中央のサンプル点におけるベクトル速度V5vectorと、マトリックスの中央のサンプル点にそれぞれ隣接する8つのサンプル点におけるベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, V4vector, V6vector, V7vector, V8vector, V9vectorから平均値ベクトルVmean_vectorが計算されることとなる。
そして、中央のサンプル点におけるスカラー量としての血流の速度V5をノイズ除去処理対象とすることが好適である。そのために、中央のサンプル点及び中央のサンプル点に隣接するサンプル点における血流のベクトル速度V1vector, V2 vector, V3vector, ..., V9vectorが用いられる。
但し、中央でない任意のサンプル点における血流の速度V1, V2, V3, V4, V6, V7, V8, V9をノイズ除去処理対象としてもよい。また、3×3のマトリックス以外のマトリックス上における複数のサンプル点を平均値の算出対象としてもよい。
更に、平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象となる複数のサンプル点に含まれるサンプル点のみならず、複数のサンプル点に含まれないサンプル点をノイズ除去の対象とすることもできる。平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象となる複数のサンプル点に含まれないサンプル点を、ノイズ除去の対象とする場合には、平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象となる複数のサンプル点の近傍におけるサンプル点をノイズ除去の対象とすることが、血流速度データの連続性を維持する観点から現実的である。
例えば、図6において中央のサンプル点における血流の速度V5をノイズ除去処理の対象とし、かつ隣接するサンプル点における血流のベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, V4vector, V6vector, V7vector, V8vector, V9vectorを平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象とする場合が該当する。また、3×3のマトリックス内の各サンプル点における血流のベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, ..., V9vectorを平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象とし、かつ3×3のマトリックス外のサンプル点における血流の速度をノイズ除去処理の対象とする場合もこれに該当する。
一方、図6に示すように中央のサンプル点における血流の速度V5をノイズ除去処理の対象とすれば、隣接するサンプル点における血流のベクトル速度V1vector, V2vector, V3vector, V4vector, V6vector, V7vector, V8vector, V9vectorを用いて等方的なノイズ除去を行うことができる。そこで、以降では、主として図6に示す中央のサンプル点における血流の速度V5をノイズ除去処理の対象とする場合を例に説明する。
平均速度算出器23は、平均値ベクトルVmean_vectorの実部に対する虚部の比の逆正接を複数のサンプル点における血流の平均速度Vmeanとして求める機能を有する。この計算は、式(3)と同様であり、血流の平均速度Vmeanはスカラー量として求められる。
差分速度算出器24は、平均値ベクトルVmean_vectorの算出対象となった各サンプル点におけるスカラー量としての速度V1, V2, V3, ..., V9と血流の平均速度Vmeanとの差分速度V1-Vmean, V2-Vmean, V3-Vmean, ..., V9-Vmeanを計算する機能と、差分速度V1-Vmean, V2-Vmean, V3-Vmean, ..., V9-Vmeanの折返り補正を行う機能とを有する。
折返り補正は、差分速度V1-Vmean, V2-Vmean, V3-Vmean, ..., V9-Vmeanを折返り速度の範囲内となるようにする補正である。従って、折返り補正は、式(6)に示すアルゴリズムによって行うことができる。
Vi-Vmean = Vi-Vmean+2π: Vi-Vmean < -π
= Vi-Vmean: -π ≦Vi-Vmean < π
= Vi-Vmean-2π: Vi-Vmean ≧ π
i = 1, 2, 3, ... ,9
(6)
すなわち、差分速度Vi-Vmeanが-πよりも小さい場合には、2πを加算した差分速度Vi-Vmean+2πを新たな差分速度とし、差分速度Vi-Vmeanが+π以上である場合には、2πを減算した差分速度Vi-Vmean-2πを新たな差分速度とする。このような折返り補正によって、-π≦Vi-Vmean< πを満たす差分速度Vi-Vmeanを得ることができる。尚、式(6)により折返り補正された差分速度Vi-Vmeanを以降ではVi#と表わす。
折返り補正処理が完了すると、折返り補正後における差分速度Vi#と差分処理前における速度Viとが関連付けられて差分速度算出器24から置換フィルタ25に与えられる。
置換フィルタ25は、各サンプル点における速度Viから特異点でなく、かつ周囲のサンプル点と整合性のあるもっともらしい速度Vpを抽出する機能と、抽出した速度Vpをノイズ除去処理の対象となるサンプル位置における速度と置換する機能を有する。
従って、図6に示すように、中央における速度V5がノイズ除去処理の対象となる速度であれば、置換フィルタ25は、抽出したもっともらしい速度Vpを中央における速度V5と置換する信号フィルタとなる。また、速度Vpの置換対象となるサンプル点の選択によって、任意のサンプル点における速度のノイズ除去処理を行うことができる。
確からしい速度Vpの抽出は、折返り補正後における差分速度Vi#を大きさ順に並べ、所定の順番における差分速度Vi#に対応する差分処理前の速度Viを確からしい速度Vpとみなすことによって行うことができる。
確からしい差分速度Vi#を抽出するための所定の順番は、任意に決定することが可能である。但し、中央値に相当する順番を所定の順番とすることが、特異値が確からしい速度Vpとして抽出されることを回避する観点から最も好適である。また、中央値付近の順番を所定の順番としても十分に特異値が抽出されることを回避できると考えられる。
従って、折返り補正後における各差分速度Vi#から中央値又は中央値近傍の差分速度Vi#を、確からしい差分速度Vi#として抽出することが望ましい。例えば、図6に示すように9つのサンプル点における差分速度Vi#に基づいて確からしい速度Vpを求める場合には、4番目、5番目又は6番目が所定の順番として望ましい順番となる。
このような順番の設定によって、ノイズ除去処理の対象となるサンプル点における血流の速度は、確からしい差分速度Vi#に対応するサンプル点における血流の速度Vpに置換される。これにより、仮にノイズ除去処理の対象となるサンプル点における速度が特異値であったとしても、隣接するサンプル点における速度Viと整合性のある確からしい速度Vpに補正することができる。
尚、中央のサンプル点等のノイズ除去対象となるサンプル点における置換前の本来の速度が特異値でなく、かつ隣接するサンプル点における速度Viと整合性を有する場合には、置換処理を行わずにそのまま血流速度データとして採用するようにすることが望ましい。
そこで、ノイズ除去対象となるサンプル点における置換前の速度が特異値でなく、かつ隣接するサンプル点における速度Viと整合性を有する適切な値である場合には、置換処理を行わないように置換フィルタ25を構成することができる。
ノイズ除去対象となるサンプル点における置換前の速度が適切な値であるか否かは、閾値処理によって判定することができる。ここでは具体例としてノイズ除去対象となるサンプル点が中央のサンプル点である場合について説明する。すなわち、適切な閾値Vtを設定し、中央のサンプル点における差分速度V5#と確からしい差分速度Vp#との差|V5#-Vp#|が閾値Vtよりも小さければ、置換前の速度V5が適切な値であると判定することができる。この場合、速度V5の置換処理は、式(7)のように表すことができる。
V5 = V5 : |V5#-Vp#|<Vt
Vp : |V5#-Vp#|≧Vt
(7)
尚、閾値Vtは、経験的又はシミュレーション等によって適切な値に決定することができる。
式(7)に示すような判定を含む速度値の置換処理によって、対象となるサンプル点における血流の速度が適切な値でないと判定される場合にのみ、確からしい差分速度に対応するサンプル点における血流の速度Vpに置換することができる。この結果、置換処理によって生じ得る画像のボケを抑制することができる。
別の具体例として、中央のサンプル点における差分速度|V5#|に対する閾値処理によって、置換前の速度V5が適切な値であるか否かを判定することもできる。
この結果、対象となるサンプル点における血流の速度は、適切な値でないと判定される場合にのみ他のサンプル点における確からしい血流の速度に置換されることとなる。すなわち、対象となるサンプル点における血流の速度が特異値である場合に整合性のある値に補正される。
そして、図6に示すような複数のサンプル点を含む所定の範囲とともに、ノイズの除去対象となるサンプル点を順次変えることによって全てのサンプル点における血流の速度を補正することができる。すなわち、全てのサンプル点について速度値の特異値を整合性のとれた速度値に補正することができる。
特に、血流の平均速度Vmeanは、ベクトル間の演算によって求められた平均値ベクトルVmean_vectorの成分から計算される。このため、折返りの影響を受けない。加えて、特異値が存在したとしても特異値の影響を殆ど受けない。このため、血流の平均速度Vmeanは、各サンプル点における血流の速度V1, V2, V3, ..., V9の折返り点での連続性を考慮した分布のほぼ中央における値となる。この結果、黒抜けや輝点等の特異点を効果的に除去し、血流速度データのデータ品質を向上することができる。
但し、血流に乱流やジェットが発生している場合など特殊なケースでは、対象となるサンプル点における血流の速度が画像の黒抜けに相当する速度ゼロに置換される恐れがある。そこで、置換フィルタ25に乱流やジェットが生じている状態等の所定の状態を検出する機能と、所定の状態が検出された場合には、対象となるサンプル点における血流の速度が特異値に置換されないようにするエラー処理を実行する機能を設けることができる。
置換フィルタ25において対象範囲における全てのサンプル点の血流速度が補正されると、補正された血流速度データとして超音波血流速度データが血流情報演算器12からスキャンコンバータ8に出力される。また、各サンプル点における血流分散データ及び血流パワーデータにブランキング処理等を施して得られる超音波血流分散データ及び超音波血流パワーデータについても血流情報演算器12からスキャンコンバータ8に出力される。
スキャンコンバータ8は、Bモード処理系5及びCFM処理系7からそれぞれ出力された各超音波データをスキャンフォーマットのデータからテレビフォーマットのデータに変換して合成する機能と、合成された超音波画像データを表示系9に出力する機能を有する。すなわち、スキャンコンバータ8は、超音波カラーデータ及び超音波Bモードデータの座標変換処理を行って超音波カラー画像データ及びBモード像データを生成し、合成することによって被検体の形態が描出されたBモード像データ上に血流の速度画像データ、速度分散画像データ或いはパワー画像データ等の超音波カラー画像データが重畳された超音波画像データを生成する機能を備えている。
表示系9は、モニタを備え、スキャンコンバータ8において生成された超音波画像データのRGB (Red, Green, Blue)変換を行ってモニタに表示する機能を有する。超音波カラー画像データについては、例えば図4(B)に示すようなカラーバーを用いてRGB変換することによってカラー画像の表示用のデータを生成することができる。一方、Bモード像データについては通常グレースケールでRGB変換される。この結果、グレースケールを用いて輝度表示されるBモード像上に血流画像をカラーで重畳表示させることができる。
尚、上述した例では、スキャンコンバータ8によるスキャンコンバージョン前の血流速度データに対してノイズ除去処理を施す場合について説明したが、スキャンコンバージョン後のテレビフォーマットの血流速度画像データに対してノイズ除去処理を施すようにしてもよい。この場合には、ベクトル速度平均器22がスキャンコンバータ8からテレビフォーマットの血流速度画像データを取得して各サンプル点におけるベクトル速度V1vector, V2 vector, V3vector, ..., V9vectorから平均値ベクトルVmean_vectorを計算するように構成される。
このような構成を有する超音波診断装置1には、被検体に超音波を送受信して複素信号として複数の血流ドプラ信号を収集するスキャン手段、血流ドプラ信号に基づいて血流の速度を求める速度演算手段、血流の速度を複素平面上における複数のベクトル単位で演算するベクトル演算及び速度の折返り補正を伴って血流の速度を補正する補正手段及び補正後の血流の速度に基づいて血流画像データを生成する画像生成手段としての機能が備えられる。
上述した例では、送信系2、超音波プローブ3、受信系4、直交位相検波器6及びCFM処理系7のMTIフィルタ10が協働して超音波診断装置1のスキャン手段として機能している。また、自己相関器11及び血流情報演算器12における速度/分散/パワー演算器20が速度演算手段として機能する一方、ベクトル速度平均器22、平均速度算出器23、差分速度算出器24及び置換フィルタ25が協働して補正手段として機能する。更に、スキャンコンバータ8が画像生成手段として機能している。
また、補正手段には、所定の範囲に含まれる複数のサンプル点における血流の各速度を複素平面上における複数のベクトルとして表し、複数のベクトルを平均して得られるベクトルに対応する血流の速度を平均速度として求める平均速度算出手段を備えることができる。上述した例では、ベクトル速度平均器22及び平均速度算出器23が協働して平均速度算出手段として機能している。
そして、補正手段は、平均速度と複数のサンプル点における血流の各速度との各差分速度が折返り速度の範囲内となるようにする折返り補正を行い、折返り補正後における各差分速度から抽出された確からしい差分速度に対応するサンプル点における血流の速度を用いて対象となるサンプル点における血流の速度を補正することができる。
尚、スキャン手段、速度演算手段、補正手段及び画像生成手段としての機能が超音波診断装置に備えられれば、他の構成要素で超音波診断装置1を構成することもできる。また、コンピュータに超音波診断装置1の制御プログラムを読み込ませることによって、超音波診断装置1をスキャン手段、速度演算手段、補正手段及び画像生成手段として機能させることもできる。
次に超音波診断装置1の動作および作用について説明する。
図7は、図1に示す超音波診断装置1により被検体の血流画像を収集してBモード像に重畳表示させる際の流れを示すフローチャートである。
まずステップS1において、被検体に超音波を送受信することによって超音波信号が収集される。すなわち、Bモード像用の超音波信号とカラードプラ血流画像用の超音波信号とを同時並行して収集するスキャンが実行される。
より具体的には、送信系2が超音波プローブ3に備えられる各超音波振動子に送信信号を印加する。このため、超音波プローブ3の各超音波振動子から超音波送信信号が被検体の内部における走査方向に送信される。そして、被検体内における超音波信号の反射によって生じた超音波反射エコー信号が各超音波振動子により受信される。各超音波振動子において受信された超音波反射エコー信号は、電気信号の受信信号として受信系4に出力される。そうすると、受信系4では、受信ビームフォーミングによって受信指向性を有する走査方向からの受信信号が生成される。
続いて同様な流れで各走査方向からの超音波信号が受信信号として順次収集される。また、カラードプラ血流画像用の超音波信号は、超音波ドプラ信号を取得するために同一の走査方向から複数回収集される。このため、カラードプラ血流画像用の超音波受信信号は、複数の信号で構成される受信データとなる。
Bモード像用の超音波受信信号は、Bモード処理系5に出力される。そして、Bモード処理系5においてBモード像用の超音波Bモードデータが生成される。一方、カラードプラ像用の超音波受信信号は、直交位相検波器6に出力される。
次に、ステップS2において、直交位相検波器6は、カラードプラ像用の複数の超音波受信信号に直交位相検波を行って空間上の各サンプル位置における時系列の超音波ドプラ複素信号を順次生成する。生成された超音波ドプラ信号は、CFM処理系7に出力される。そうすると、MTIフィルタ10では、超音波ドプラ信号からクラッタ成分がカットされる。これにより、血流ドプラ信号が生成される。
次に、ステップS3において、血流ドプラ信号に基づいて各サンプル位置における血流の速度、分散及びパワーが算出される。そのために、自己相関器11は、式(2)により、複素数の時系列データで構成される血流ドプラ信号の複素自己相関を求める。続いて、血流情報演算器12の速度/分散/パワー演算器20は、血流ドプラ信号の複素自己相関に基づいて、式(3), 式(4)及び式(5)により、各サンプル位置における血流の速度、パワー及び分散をそれぞれ算出し、血流速度データ、血流パワーデータ及び血流分散データを生成する。
次に、ステップS4において、ブランキング処理器21は、血流速度データ、血流パワーデータ及び血流分散データのノイズを低減させるブランキング処理を行う。しかし、ブランキング処理によってもノイズが残存する。特に、血流の速度は分散やパワーと異なり折返りが発生するので、分散やパワーとは異なった処理が必要になる。
そこで、ブランキング処理によって残存した血流速度データにおけるノイズの補正処理が実行される。ここでは、図6に示すように9つのサンプル点における血流の速度V1, V2, V3, ..., V9に基づいて中央のサンプル点における血流の速度V5のノイズ除去処理を行う場合を例に説明する。
具体的には、ステップS5において、ベクトル速度平均器22が各サンプル点における血流の速度V1, V2, V3, ..., V9を複素平面上において示す複数のベクトル速度V1vector, V2 vector, V3vector, ..., V9vectorの平均値を、平均値ベクトルVmean_vectorとして求める。
次に、ステップS6において、平均速度算出器23は、平均値ベクトルVmean_vectorの逆正接を複数のサンプル点における血流の平均速度Vmeanとして求める。
次に、ステップS7において、差分速度算出器24は、各サンプル点における速度V1, V2, V3, ..., V9と血流の平均速度Vmeanとの差分速度V1-Vmean, V2-Vmean, V3-Vmean, ..., V9-Vmeanを計算する。
次に、ステップS8において、差分速度算出器24は、各サンプル点における差分速度V1-Vmean, V2-Vmean, V3-Vmean, ..., V9-Vmeanの折返り補正を行う。折返り補正は、式(6)に示すようなアルゴリズムによって行うことができる。この結果、折返り補正後の差分速度V1#, V2#, V3#, ..., V9#は、折返り速度±πの範囲内となる。すなわち、-π≦Vi#< πとなる。
次に、ステップS9において、置換フィルタ25は、各サンプル点における速度V1, V2, V3, ..., V9から周囲のサンプル点と整合性のある確からしい速度Vpを抽出する。そのために、置換フィルタ25では、折返り補正後における差分速度V1#, V2#, V3#, ..., V9#の中央値又は中央値付近における値が確からしい差分速度として抽出される。そして、確からしい差分速度に対応する血流の速度が確からしい速度Vpとみなされる。
次に、ステップS10において、置換フィルタ25は、ノイズ除去のための補正対象となる中央のサンプル点における血流の速度V5が適切な値であるか否かを判定する。血流の速度V5が適切な値であるか否かの判定処理は、例えば式(7)に示すような閾値処理とすることができる。すなわち、中央のサンプル点における血流の差分速度V5#と確からしい差分速度Vp#との差|V5#-Vp#|が閾値Vtよりも小さいか否かを判定する閾値処理によって血流の速度V5が特異値であるか否かを判定することができる。
中央のサンプル点における血流の速度V5の値が適切でないと判定された場合には、ステップS11において、置換フィルタ25により血流の速度V5が確からしい速度Vpに置換される。これにより、中央のサンプル点における血流の速度V5が特異値であったとしても、周囲のサンプル点における血流の各速度Viと整合性のとれた速度Vpに補正することができる。
一方、中央のサンプル点における血流の速度V5の値が適切であると判定された場合には、置換フィルタ25による血流の速度V5の置換が行われない。これにより、血流速度データの置換に伴う画像のボケの発生を抑制することができる。
次に、ステップS12において、血流情報演算器12は、血流速度データの全てのサンプル点における血流の速度がノイズ補正の対象となったか否かを判定する。そして、全てのサンプル点における血流の速度がノイズ補正の対象となっていない場合には、ノイズ補正の対象となるサンプル点を変えて再びステップS5からステップS11までのノイズ補正処理を実行する。すなわち、図6に示す中央のサンプル点及び隣接する各サンプル点を順次移動させながら繰返しノイズ補正処理を実行する。
そして、ステップS12において、全てのサンプル点における血流の速度がノイズ補正されたと判定された場合には、ノイズ補正処理後の血流速度データ、血流パワーデータ及び血流分散データのうち必要な血流データがカラードプラ像用の超音波カラーデータとして血流情報演算器12からスキャンコンバータ8に出力される。
次に、ステップS13において、スキャンコンバータ8は、カラードプラ像用の超音波カラーデータ及びBモード像用の超音波Bモードデータのスキャンコンバートを行う。これによりテレビフォーマットの超音波カラー画像データ及びBモード像データが生成される。更に、スキャンコンバータ8は、超音波カラー画像データ及びBモード像データを合成する。これにより、Bモード像データに超音波カラー画像データが重畳された超音波画像データが生成される。
次に、ステップS14において、スキャンコンバータ8において生成された超音波画像データが表示系9に出力される。そうすると、表示系9は、超音波画像データのRGB変換を行う。超音波画像データ中の超音波カラー画像データのRGB変換には、例えば図4(B)に示すようなカラーバーを用いることができる。一方、超音波画像データ中のBモード像データのRGB変換には、グレースケールを用いることができる。
これにより、血流の速度、分散及びパワー等の血流動態をカラーで表示させる血流カラー画像の表示用のデータと、形態を輝度表示させるBモード像の表示用のデータが重畳されたカラー画像の表示用のデータが生成される。そして表示系9は、カラー画像の表示用のデータをモニタに表示させる。
この結果、表示系9のモニタには、Bモード像上にカラードプラ像が重畳表示された超音波診断画像が表示される。このとき表示系9に表示される血流速度画像は、ノイズ補正処理によって特異値が補正された良好な画質の画像となる。このため、ユーザは適切な診断を行うことができる。
特に、血流速度画像の生成に用いられる速度データは、ベクトル速度を利用したノイズ補正処理によって補正されている。従って、様々な血流速度分布に適応して特異値を除去することができる。以下、血流速度分布の傾向に応じたノイズ補正処理について説明する。
図8は、図6に示す中央のサンプル点に隣接する各サンプル点における血流の速度分布の第1の例を示す図である。
図8において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図8は、中央のサンプル点に隣接する8つのサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが、複素平面の第2象限に分布している例を示す。
すなわち、8つのサンプル点における血流の速度V1, V2, V3, V4, V6, V7, V8, V9が超音波プローブ3に近づく速度となっている。血流が一般的な流速で超音波プローブ3に近づく場合、血流の速度分布は図8に示すような分布となる。
中央のサンプル点における血流のベクトル速度V5vectorが、周囲の他のサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが分布する領域1に含まれる場合には、平均値ベクトルVmean_vectorが領域1の中心付近を終点とするベクトルとなる。
また、確からしい血流の速度Vpを差分速度Vi#の中央値に対応する血流の速度とすれば、確からしい血流の速度Vpは、平均値ベクトルVmean_vectorと終点が近いベクトル速度に対応する速度となる。従って、図8に示す例の場合、中央のサンプル点における血流の速度V5は、置換されないか或いは平均値ベクトルVmean_vector近傍の速度V1や速度V9と置換される。従って、中央のサンプル点における血流の速度V5は、整合性のとれた値となる。
一方、中央のサンプル点における血流のベクトル速度V5vectorが領域1に含まれない場合には、中央のサンプル点における血流の速度V5が特異値を呈する。しかし、平均値ベクトルVmean_vectorは、速度V1及び速度V9を示す各ベクトル速度の近傍となる。従って、確からしい速度Vpとして抽出される速度は、速度V1又は速度V9となる。このため、特異値である速度V5は、速度V1又は速度V9と置換されることによって整合性のとれた値に補正される。
図9は、図6に示す中央のサンプル点に隣接する各サンプル点における血流の速度分布の第2の例を示す図である。
図9において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図9は、中央のサンプル点に隣接する8つのサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが、複素平面の第2象限及び第3象限に跨って分布している例を示す。
すなわち、4つのサンプル点における血流の速度V1, V2, V3, V4が超音波プローブ3から遠ざかる速度となっており、残りの4つのサンプル点における血流の速度V6, V7, V8, V9が超音波プローブ3に近づく速度となっている。血流の流速が速く折返りが発生している場合、血流の速度分布は図9に示すような分布となる。
中央のサンプル点における血流のベクトル速度V5vectorが、周囲の他のサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが分布する領域1に含まれる場合には、平均値ベクトルVmean_vectorが領域1の中心付近を終点とするベクトルとなる。従って、図8に示す例と同様に、中央のサンプル点における血流の速度V5は、整合性のとれた値となる。
また、中央のサンプル点における血流のベクトル速度V5vectorが、領域1に含まれない場合においても、図8に示す例と同様に、特異値である速度V5は、速度V1又は速度V9と置換されることによって整合性のとれた値に補正される。
図10は、図6に示す中央のサンプル点に隣接する各サンプル点における血流の速度分布の第3の例を示す図である。
図10において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図10は、中央のサンプル点に隣接する8つのサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが、複素平面の第1象限及び第4象限に跨って分布している例を示す。
すなわち、4つのサンプル点における血流の速度V1, V2, V3, V4が超音波プローブ3に近づく速度となっており、残りの4つのサンプル点における血流の速度V6, V7, V8, V9が超音波プローブ3から遠ざかる速度となっている。血流の流速が遅く、かつ超音波プローブ3に近づく血流と超音波プローブ3から遠ざかる血流の双方が存在する場合、血流の速度分布は図10に示すような分布となる。図10に示すような速度分布は、例えば、心腔内において流入する血流と駆出される血流とが隣り合っている場合に、両血流間の境界において観測される。
図10に示すような速度分布の場合であっても、図8及び図9に示す例と同様に、中央のサンプル点における血流の速度V5は、ベクトル速度を用いたノイズ補正処理によって整合性のとれた値となる。
図11は、図6に示す中央のサンプル点に隣接する各サンプル点における血流の速度分布の第4の例を示す図である。
図11において縦軸は虚軸を示し、横軸は実軸を示す。図11は、中央のサンプル点に隣接する8つのサンプル点における血流のベクトル速度Vivectorが、複素平面の第1象限から第4象限までの全ての象限に跨って分布している例を示す。例えば、心腔内で乱流や弁逆流ジェットが生じ、血流がモザイクになっている場合、血流の速度分布は図11に示すような分布となる。
この場合、血流の平均速度Vmeanは様々な値を取り得る。その結果としてノイズ補正処理後における速度V5も様々な値を取り得る。中央のサンプル点の周囲は、モザイクになっているため、ノイズ補正処理後における速度V5が様々な値となっても通常は支障がない。
但し、各サンプル点における速度V1, V2, V3, ..., V9の中に黒抜けの原因となるゼロが存在する場合、平均速度Vmeanの値によってはノイズ補正処理後における速度V5として黒抜けに対応する速度が採用される恐れがある。従って、ノイズ補正処理の結果、黒抜けが残存するエラーを回避することが望ましい。
血流に乱流やジェットが発生している場合には、ベクトル速度Vivectorが様々な方向を向く。従って平均値ベクトルVmean_vectorの大きさは小さくなる。そこで、平均値ベクトルVmean_vectorの大きさ|Vmean_vector|に対する閾値処理によって乱流又はジェットが発生している場合等の特殊なケースを検出することができる。
具体的には、平均値ベクトルVmean_vectorの大きさ|Vmean_vector|に対する閾値Thを設定し、式(8)が成立する場合には乱流又はジェットが発生していると判定することができる。尚、閾値Thは、経験的又はシミュレーション等によって予め見積もることができる。
|Vmean_vector| < Th (8)
そして、式(8)が成立すると判定された場合には、速度V5として各サンプル点における速度V1, V2, V3, ..., V9の中から黒抜けとならない値を採用するエラー処理を置換フィルタ25において実行することができる。但し、中央のサンプル点における速度V5が特異値に置換されるエラーを回避するエラー処理は他の方法によって行うこともできる。
例えば、式(8)が成立する場合には予め決定した速度値を中央のサンプル点における速度V5の値として採用するエラー処理が挙げられる。或いは、式(8)が成立する場合には平均速度Vmeanの値を折返り速度、折返り速度の近傍における速度値又は中央のサンプル点における速度V5に設定する方法も挙げられる。更に、式(8)が成立する場合において、中央のサンプル点における速度V5が黒抜けに対応する値でなければ速度V5を置換しないようにすることもできる。
このようなエラー処理を置換フィルタ25で行うことによって、血流に乱流やジェットが発生した場合であっても、黒抜けを除去することができる。この結果、良好な画質でカラードプラ画像を表示させることが可能となる。
つまり以上のような超音波診断装置1は、3×3のマトリックス等として定義されたカーネルに含まれる複数のサンプル点における血流の速度値をそれぞれ複素平面上におけるベクトルとして表現し、ベクトルの平均値に対応する速度値を各サンプル点における速度値から減算した差分速度を用いて血流速度信号のノイズ補正を行うようにしたものである。すなわち、補正対象となるサンプル点が特異値を呈する場合に、複数のサンプル点に対応する差分速度に対するメディアン処理等によって抽出された確からしい速度値に特異値が置換される。
このため、超音波診断装置1によれば、血流速度画像を撮影する場合に、スペックル等の影響により黒抜けや周囲と異なる色を呈する輝点等の特異点が生じても除去することができる。この結果、ノイズが低減された良好な画質で血流速度画像を表示させることができる。
特に、メディアンフィルタ等の従来のノイズ除去処理手法では、折返り速度付近において符号が異なる血流速度分布を有する血流速度画像を生成する場合に、黒抜けを除去できずに残存する場合がある。
これに対して超音波診断装置1によれば、血流の速度を複素平面上のベクトルとして扱うため、折返りが発生する速度分布であるか否かを問わず、特異値を除去することができる。従って、典型的な流速分布中に特異点が存在する場合、流速が速く折返りが発生している状況において特異点が存在する場合、流速が遅く符号が正負の流速が存在する状況において特異点が存在する場合及び乱流やジェットが発生している状況において特異点が存在する場合のいずれにおいても特異点を除去することができる。
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。