実施形態1.
図1は本発明のベーン型圧縮機の実施形態1を示す縦断面図であり、図1を参照してベーン型圧縮機200について説明する。なお、図1において実線で示す矢印は流体(ガス冷媒)の流れ、破線で示す矢印は冷凍機油25の流れを示している。図1のベーン型圧縮機200は、密閉容器103と、密閉容器103内に収納された圧縮要素101と、圧縮要素101の上部に位置し圧縮要素101を駆動する電動要素102と、密閉容器103内の底部に設けられ、冷凍機油25を貯溜する油溜め104で構成される。
圧縮要素101を駆動する電動要素102は、例えばブラシレスDCモータで構成される。電動要素102は、密閉容器103の内周に固定される固定子21と、固定子21の内側に配設された、永久磁石を使用する回転子22とを備える。固定子21には密閉容器103の上面に溶接により固定されたガラス端子23から電力が供給される。密閉容器103の側面には吸入管26が取り付けられており、上面には吐出管24が取り付けられている。
図2は図1のベーン型圧縮機200における圧縮要素101の一例を示す分解斜視図、図3は第1のベーンおよび第2のベーンの一例を示す模式図、図4はブッシュの一例を示す斜視図、図5は図1のベーン型圧縮機200におけるI−I断面図を示すものであり、図1から図5を参照して圧縮要素101について説明する。尚、図1から図5のベーン型圧縮機200においてはベーンが2つ設けられた場合について例示する。
(1)シリンダ1:全体形状が略円筒状で、軸方向の両端部が開口している。シリンダ内周面1bの一部には、軸方向に貫通し外側に抉られた切欠き部1cが設けられており、切欠き部1cには吸入管26と連通した吸入ポート1aが開口している。また、シリンダ1にはガス(冷媒)を吐出するための吐出ポート1dが設けられている。吐出ポート1dは、シリンダ内周面1bとロータ部4aとの最近接点32を挟んで吸入ポート1aと反対側に位置し、最近接点32の近傍のフレーム2に面した側に設けられている(図2、図5参照)。また、外周部には軸方向に貫通した油戻し穴1eが設けられている。
(2)フレーム2:断面が略T字状で、シリンダ1に接する部分が略円板状であり、シリンダ1の一方の開口部(図2では上側)を閉塞する。フレーム2のシリンダ1に対向する面には、シリンダ内周面1bと同心円で形成される凹部2aが形成されており、フレーム2の中央部には円筒状の主軸受部2cが設けられている。なお、凹部2aは、円形状の穴であってもよいしリング状の溝であってもよい。また、フレーム2には軸方向に貫通した吐出ポート2dが設けられており、吐出ポート2dはシリンダ1の第1の吐出ポート1dに連通している。さらに吐出ポート2dのシリンダ1の反対側の面には、吐出弁27および吐出弁27の開度を規制するための吐出弁押え28が取付けられている。また、シリンダ1に設けた吐出ポート1dと連通し、軸方向に貫通した吐出ポート2dが設けられ、吐出ポート2dのシリンダ1と反対側の面には、吐出弁27(図2に図示)および吐出弁27の開度を規制するための吐出弁押え28(図2に図示)がフレーム2に取り付けられている。
(3)シリンダヘッド3:断面が略T字状で、シリンダ1に接する部分が略円板状であり、シリンダ1の他方の開口部(図2では下側)を閉塞する。シリンダヘッド3のシリンダ1に対向する面には、シリンダ内周面1bと同心円で形成される凹部3aが形成されており、シリンダヘッド3の中央部には円筒状の主軸受部3cが設けられている。なお、凹部3aは円形状の穴であってもよいしリング状の溝であってもよい。
(4)ロータシャフト4:シリンダ1内で回転運動する円柱形のロータ部4aおよびロータ部4aに回転力を伝達するシャフト部4b、4cを有し、ロータ部4aとシャフト部4b、4cとは一体となった構造を有している。シャフト部4b、4cはそれぞれフレーム2の主軸受部2c、シリンダヘッド3の主軸受部3cで支承される。ロータ部4aには、断面が略円形で軸方向に貫通したブッシュ保持部4d、4e及びベーン逃がし部4f、4gが形成されている。ブッシュ保持部4dとベーン逃がし部4f、及びブッシュ保持部4eとベーン逃がし部4gとは連通しており、ベーン逃がし部4fおよびベーン逃がし部4gの軸方向端部はフレーム2の凹部2aおよびシリンダヘッド3の凹部3aと連通している。また、ブッシュ保持部4dとブッシュ保持部4e、ベーン逃がし部4fとベーン逃がし部4gとはほぼ対称の位置に配置されている。ロータシャフト4の下端部には例えば特開2009−264175号公報に記載されているようなロータシャフト4の遠心力を利用した油ポンプ31(図1に図示)が設けられている。油ポンプ31はロータシャフト4の内部に設けられ軸方向に延びる給油路4hと連通しており、給油路4hと凹部2aとの間には給油路4iが設けられており、給油路4hと凹部3a間には給油路4jが設けられている。したがって、凹部2a、凹部3aにはそれぞれ給油路4i、4jから潤滑油(冷凍機油)25が供給されることになる。また、シャフト部4bの主軸受部2cの上方の位置に排油穴4k(図1に図示)が設けられている。
(5)第1のベーン5:略四角形の板状の部材で、シリンダ1の内周面1bの中心周りに回転するようにロータ部4aに保持されている。第1のベーン5は、ベーン部5aと、ベーン部5aのフレーム2側の端面に設けられた、部分リング状のベーンアライナ部5cと、ベーン部5aのシリンダヘッド3側の端面に設けられた、部分リング状のベーンアライナ部5dとを有している。そして、シリンダ内周面1b側に位置するベーン先端部5bは外側に円弧形状に形成され、その円弧形状の半径は、シリンダ内周面1bの半径とほぼ同等の半径で構成されている。また、ベーン部5aのベーン長さ方向およびベーン先端部5bの円弧の法線方向は、ベーンアライナ部5c、5dを形成する円弧の中心を通るように形成されている。
(6)第2のベーン6:略四角形の板状の部材で、シリンダ1の内周面1bの中心周りに回転するようにロータ部4aに保持されている。第2のベーン6は、ベーン部6aと、ベーン部6aのフレーム2側の端面に設けられた、部分リング状のベーンアライナ部6cと、ベーン部6aのシリンダヘッド3側の端面に設けられた、部分リング状のベーンアライナ部6dとを有している。そして、シリンダ内周面1b側に位置するベーン先端部6bは外側に円弧形状に形成され、その円弧形状の半径は、シリンダ内周面1bの半径とほぼ同等の半径で構成されている。また、ベーン部6aのベーン長さ方向およびベーン先端部6bの円弧の法線方向は、ベーンアライナ部6c、6dを形成する円弧の中心を通るように形成されている。上述したベーンアライナ部5cとベーンアライナ部6cとは、フレーム2の凹部2aに収容され、凹部2aの外周面からなるベーンアライナ軸受部2bに沿って回転可能に支持される。同様に、ベーンアライナ部5dとベーンアライナ部6dとは、シリンダヘッド3の凹部3aに収容され、凹部2aの外周面であるベーンアライナ軸受部2bに沿って回転可能に支持される。
(7)ブッシュ7、8:略半円柱状で、1対で構成される。1対のブッシュ7および8がロータシャフト4のブッシュ保持部4d、4eに挿入され、円弧状の外側面7b、8bにおいてロータ部4aと摺動する。また、1対のブッシュ7、8は平面状の内側面7e、8e側で板状の第1のベーン5のベーン部5a、第2のベーン6のベーン部6aを挟んで保持する。これにより、第1のベーン5および第2のベーン6は、ロータ部4aに対してブッシュ中心7a、8aを軸に回転自在かつ略法線方向に移動可能(スライド可能)に保持される。また、外側面7b、8bには油溝7f、8fが形成されており、内側面7e、8eには油溝7g、8gが形成されている。また、ブッシュ7、8は、円柱の一部を切り欠いた切り欠き側面7c、7d、8c、8dを備えている(図4参照)。
次に、図5を参照してベーン型圧縮機200内に形成される吸入室9、中間室10、圧縮室11について説明する。図5において、ロータ部4aとシリンダ内周面1bとは1箇所(最近接点32)において最近接しており、第1のベーン5と最近接点32とにより仕切られた吸入室9と、第1のベーン5および第2のベーン6により仕切られた中間室10と、第2のベーン6と最近接点32とにより仕切られた圧縮室11とが形成される。
具体的には、最近接点32は、シリンダ内周面1bとロータ部4aの外周面との間の空間が吸入室9および圧縮室11とに仕切る。また、ベーン先端部5bがシリンダ内周面1bに近接してシリンダ内周面1bとロータ部4aの外周面との間の空間を仕切る。ここで、ベーンアライナ軸受部2b、3bの半径をra(図3参照)、シリンダ内周面1bの半径をrc(図5参照)としたとき、第1のベーン5のベーンアライナ部5c、5dの外周側とベーン先端部5b間の距離rv(図3参照)は、下記としている。なお、式(1)においてδはベーン先端部5bとシリンダ内周面1b間の隙間を示す。
rv=rc−ra−δ ・・・ (1)
式(1)のように距離rvを設定することで、第1のベーン5はシリンダ内周面1bに接触することなく回転することになる。ここで、隙間δが極力小さくなるように距離rvを設定し、ベーン先端部5bからの冷媒の漏れを極力少なくしている。なお、式(1)の関係は、第2のベーン6においても同様で、第2のベーン6のベーン先端部6bとシリンダ内周面1b間は狭い隙間を保ちつつ、第2のベーン6は回転することになる。
そして、第1のベーン5、第2のベーン6、シリンダ内周面1bにより、シリンダ1内に吸入室9、中間室10、圧縮室11の3つの空間が形成される。吸入室9には、切欠き部1cを介して吸入管26を介して冷凍サイクルの低圧側に連通する吸入ポート1aが開口している。圧縮室11は、シリンダ1に設けた吐出ポート1dを介して吐出時以外は吐出弁27で閉塞されるフレーム2に設けた吐出ポート2dに連通している。切欠き部1cは最近接点32の近傍から、第1のベーン5のベーン先端部5bとシリンダ内周面1bが相対する点Aの範囲まで設けられている。したがって、中間室10は、回転角度90°までは吸入ポート1aと連通するが、その後、吸入ポート1a、吐出ポート1dのいずれとも連通しない回転角度の範囲があり、その後吐出ポート1dと連通する。
図6は図1のベーン型圧縮機におけるI−I断面図であり、図6を参照しながら、吸入室9、中間室10及び圧縮室11の容積が変化する様子を説明する。なお、図6では簡単のため、吸入ポート1a、切欠き部1c、吐出ポート1dを省略し、吸入ポート1a、吐出ポート1dをそれぞれ矢印で吸入、吐出として示している。また、図6の回転角度(回転位相)は、ロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ内周面1bとが最近接している最近接点32と、第1のベーン5とシリンダ内周面1bとが相対する一箇所とが一致するときを「回転角度0°」と定義する。ここで、「回転角度180°」以降の状態は、「回転角度0°」において、第1のベーン5と第2のベーン6が入れ替わった状態と同じになり、以降は「回転角度0°」から「回転角度135°」までと同じ圧縮動作になる。また、図6の「回転角度0°」の図に示す矢印は、ロータシャフト4の回転方向(図6では時計方向)を示している。
「回転角度0°」では、最近接点32と第2のベーン6で仕切られた右側の中間室10は、切欠き部1cを介して吸入ポート1aと連通しており、中間室10に吸入ポート1aからガス(冷媒)が吸入される。一方、最近接点32と第2のベーン6で仕切られた左側の空間は吐出ポート1dに連通した圧縮室11となる。
「回転角度45°」では、第1のベーン5と最近接点32で仕切られた空間は吸入室9となる。一方、第1のベーン5と第2のベーン6で仕切られた中間室10は、切欠き部1cを介して吸入ポート1aと連通しており、中間室10の容積は「回転角度0°」のときより大きくなりガス(冷媒)の吸入を続ける。また、第2のベーン6と最近接点32で仕切られた空間は圧縮室11となる。圧縮室11の容積は「回転角度0°」のときより小さくなり、ガス(冷媒)は圧縮され徐々にその圧力が高くなる。
「回転角度90°」では、第1のベーン5のベーン先端部5bがシリンダ内周面1b上の点Aと重なるので、中間室10は吸入ポート1aと連通しなくなる。これにより、中間室10でのガス(冷媒)の吸入は終了する。また、この状態で、中間室10の容積は略最大となる。圧縮室11の容積は「回転角度45°」のときより更に小さくなり、ガス(冷媒)の圧力は上昇する。吸入室9の容積は「回転角度45°」のときより大きくなり、ガス(冷媒)の吸入を続ける。
「回転角度135°」では、中間室10の容積は「回転角度90°」のときより小さくなり、ガス(冷媒)の圧力は上昇する。また、圧縮室11の容積も「回転角度90°」のときより小さくなり、ガス(冷媒)の圧力は上昇する。吸入室9の容積は「回転角度90°」のときより大きくなり、ガス(冷媒)の吸入を続ける。
その後、第2のベーン6が吐出ポート1dに近づくが、圧縮室11の圧力が冷凍サイクルの高圧(吐出弁27を開くのに必要な圧力も含む)を上回ったときに吐出弁27が開き、圧縮室11のガス(冷媒)は吐出ポート1d、吐出ポート2dを通って、図1に示すように密閉容器103内に吐出される。密閉容器103内に吐出されたガス(冷媒)は、電動要素102を通過して密閉容器103の上部に固定(溶接)された吐出管24から外部(冷凍サイクルの高圧側)に吐出される。したがって、密閉容器103内の圧力は高圧である吐出圧力となる。
第2のベーン6が吐出ポート1dを通過した後、圧縮室11に高圧のガス(冷媒)が若干残る(ロスとなる)。そして、「回転角度180°」(図示せず)で、圧縮室11が消滅したとき、この高圧の冷媒は吸入室9にて低圧の冷媒に変化する。なお、「回転角度180°」では吸入室9が中間室10に移行し、中間室10が圧縮室11に移行して、以降圧縮動作が繰り返される。
このように、ロータシャフト4の回転により、吸入室9は徐々に容積が大きくなり、ガス(冷媒)の吸入を続ける。以後中間室10に移行するが徐々に容積が大きくなり、更にガス(冷媒)の吸入を続ける。途中で、中間室10の容積は最大となり、吸入ポート1aに連通しなくなるので、ここでガス(冷媒)の吸入を終了する。以後、中間室10の容積は徐々に小さくなり、ガスを圧縮する。その後、中間室10は圧縮室11に移行して、ガスの圧縮を続ける。所定の圧力まで圧縮されたガスは、吐出ポート1d、吐出ポート2dを通って吐出弁27を押し上げて、密閉容器103内に吐出される。
図7はベーンアライナ部5c、6cの回転動作の一例を示す断面図であり、図7を参照してベーン型圧縮機200の動作例について説明する。なお、図7に示す回転角度(回転位相)の定義は図6に示す角度の定義と同一のものである。ロータシャフト4のシャフト部4bが電動要素102の駆動部からの回転動力を受け、ロータ部4aがシリンダ1内で回転する。ロータ部4aの回転に伴い、ロータ部4aの外周付近に配置されたブッシュ保持部4d、4eは、ロータシャフト4を中心とした円周上を移動する。そして、ブッシュ保持部4d、4e内に保持されている1対のブッシュ7、8、およびその1対のブッシュ7、8の間に回転可能に保持されている第1のベーン5のベーン部5a、第2のベーン6のベーン部6aもロータ部4aとともに回転する。
第1のベーン5、第2のベーン6は、回転による遠心力を受け、ベーンアライナ部5c、6cおよびベーンアライナ部5d、6dがベーンアライナ軸受部2b、3bにそれぞれ押付けられて摺動しながら、ベーンアライナ軸受部2b、3bの中心まわりに回転する。ここで、ベーンアライナ軸受部2b、3bとシリンダ内周面1bとは同心であるため、第1のベーン5、第2のベーン6はシリンダ内周面1bの中心まわりに回転することになる。すると、第1のベーン5のベーン部5a、第2のベーン6のベーン部6aの長さ方向がシリンダ中心に向かうように、ブッシュ7、8がブッシュ保持部4d、4e内で、ブッシュ中心7a、8aまわりに回転することになる。
以上の動作において、ブッシュ7と第1のベーン5のベーン部5aの側面およびブッシュ8と第2のベーン6のベーン部6aの側面は互いに摺動を行う。また、ロータシャフト4のブッシュ保持部4dとブッシュ7、ブッシュ保持部4eとブッシュ8も互いに摺動することになる。
図8は図5のベーン部5aの周辺部位を示す断面模式図であり、図1から図8を参照して冷凍機油(潤滑油)25の流れについて説明する。なお、図8中、実線で示す矢印は冷凍機油25の流れを示している。図1に破線で示すように、ロータシャフト4の回転により、油ポンプ31により油溜め104から冷凍機油25が吸い上げられ、給油路4hに送り出される。給油路4hに送り出された冷凍機油25は、給油路4iを通ってフレーム2の凹部2a、給油路4jを通ってシリンダヘッド3の凹部3aに送り出される。
凹部2a、3aに送り出された冷凍機油25は、ベーンアライナ軸受部2b、3bを潤滑するとともに、凹部2a、3aと連通したベーン逃がし部4f、4gに供給される。ここで、密閉容器103内の圧力は高圧である吐出圧力になっているため、凹部2a、3aおよびベーン逃がし部4f、4g内の圧力も吐出圧力となる。また、凹部2a、3aに送り出された冷凍機油25の一部は、フレーム2の主軸受部2cおよびシリンダヘッド3の主軸受部3cに供給される。
ベーン逃がし部4fの圧力は吐出圧力であり、吸入室9、中間室10の圧力より高いため、冷凍機油25は、ブッシュ7、8の外側面7b、8bとロータ部4aとの摺動部位及び内側面7e、8eとベーン部5aとの間の摺動部位を潤滑しながら、圧力差および遠心力によって吸入室9および中間室10に送り出される。中間室10に送り出された冷凍機油25の一部はベーン先端部5bとシリンダ1の内周面1b間の隙間をシールしながら吸入室9に流入する。
なお、第1のベーン5で仕切られる空間が吸入室9と中間室10である場合について示したが、回転が進んで、第1のベーン5で仕切られる空間が中間室10と圧縮室11となる場合でも同様である。そして、圧縮室11内の圧力がベーン逃がし部4fの圧力と同じ吐出圧力に達した場合でも、遠心力によって冷凍機油25は圧縮室11に向かって送り出されることになる。以上の動作は第1のベーン5に対して示したが、第2のベーン6においても同様の動作を行う。
ここで、上述のように各ベーン5、6がシリンダ1内の空間を仕切った際、回転方向側の圧力が反回転方向側の圧力よりも大きくなる。この各ベーン5、6の両側に生じる圧力差により、ベーン5、6に対して反回転方向側への変動荷重が周期的に作用し、ベーン5、6を挟んだ1対のブッシュ7、8のうちで反回転方向側のブッシュ7、8に作用する荷重が大きくなる。このため、反回転方向側のブッシュ7、8において、内側面7e、8eとベーン部5a、6aとの摺動面において磨耗が発生する、あるいは焼付きが発生する場合がある。さらに、ブッシュ7、8は、ブッシュ保持部4d、4eに対し、隙間を開けて挿入され保持されている。そして、ロータ部4aの回転に追従してブッシュ7、8がロータ部4aの回転中心と同心で回転動作するようになっている。このとき、ブッシュ7、8にはロータ部4aの径方向を基準として外側に向かう遠心力が作用し、外側面7b、8bとブッシュ保持部4d、4eとの対向面のうち、ロータ径方向基準で外側の隙間が詰まり、磨耗や焼付きが発生しやすい。
このように、ブッシュ7、8において、内側面7e、8eとベーン部5a、6aとの摺動面及び外側面7b、8bとロータ部4aとの摺動面において摩耗等が発生する場合がある。一方で、上記摩擦面における隙間を大きく設定して給油量を増やした場合、信頼性は改善されるが、ブッシュ摺動部を介した漏れは増加するため、漏れによる損失も増加し性能低下の原因となる。
そこで、図5のブッシュ7、8の側面7b、7e、8b、8eには、冷凍機油(潤滑油)25が給油される油溝7f、7g、8f、8gがそれぞれ設けられている。各油溝7f、7g、8f、8gは、ブッシュ7、8の上面から下面まで直線状に延びた溝であって、ロータシャフト4が所定の回転角度(回転位相)になったとき、凹部2a、3aと連通するようになっている。凹部2a、3aには供給路4i、4jを介して冷凍機油25が充填されているため、各油溝7f、7g、8f、8gが凹部2a、3aに連通した際に凹部2a、3aから給油されることになる。
図9及び図10はそれぞれ各油溝7f、7gに給油される様子を示す断面模式図であり、図9及び図10を参照して各油溝7f、7gへの給油について説明する。なお、以下にブッシュ7の油溝7f、7gについて説明するが、ブッシュ8の油溝8f、8gについても同様である。まず、図9及び図10において、フレーム2の凹部2a及びシリンダヘッドの凹部3aには油ポンプ31によって油溜め104から給油路4iを介して冷凍機油25が給油される。したがって、油溝7f、7gが凹部2a、3aに連通する所定の回転角度αでは、凹部2a、3a内の冷凍機油25が油溝7f、7gへ強制給油される。一方、油溝7f、7gが凹部2a、3aに連通しない回転角度では油溝7f、7gへの油の給油が停止される。
この油溝7f、7gと凹部2a、3aとが連通する回転角度αの設定は、油溝7f、7gの位置によって定まるものであり、油溝7f、7gの位置がロータ部4aの内周側に近づくほど回転角度αは広くなっていく。油溝7f、7gと凹部2a、3aとが連通する所定の回転角度αは、第1のベーン5を跨いだ圧力差が所定の圧力以上になる範囲に設定される。ここで、回転角度=0°で第2のベーン6に対して回転方向側の圧縮室11の圧力が高圧に達する(あるいは回転角度=180°の時点で第1のベーン5に対して回転方向側のあるいは中間室10の圧力が高圧に達する)ものと仮定した場合、油溝7f、7gは、回転角度α=135°〜245°のときに凹部2a、3aと連通するような位置に設けられている。これは、回転角度=0°〜135°の範囲では、第1のベーン5を跨いだ吸入室9と中間室10は共に低圧であるため、第1のベーン5を跨いだ圧力差は生じていないからである。このように、圧力差が低圧の状態の場合には、油溝7f、7gから冷凍機油25が供給されないようにすることにより、過剰給油による漏れ損失の増加を抑制することができる。
一方、回転角度=135°〜360°の範囲において、回転角度=135°〜245°の範囲内において油溝7f、7gは凹部2a、3aと連通し、回転角度=245°〜360°の範囲において、油溝7f、7gは凹部2a、3aと連通しない。具体的には、回転角度=135°〜180°では、第1のベーン5を跨いで反回転方向側の吸入室9は低圧であり、回転方向側の中間室10は中間圧〜高圧であるため、第1のベーン5の側面に圧力差が生じる。さらに、回転角度=180°では、吸入室9が中間室10に移行し、中間室10が圧縮室11に移行し、回転方向側の圧縮室11が昇圧している分だけ第1のベーン5を跨いだ圧力差は回転角度=135°に比べて大きくなる。そのため、第1のベーン5を挟んだ1対のブッシュ7のうちで反回転方向側のブッシュ7に作用する荷重が大きくなり、外側面7bと内側面7eの摺動面における油膜がなくなり易くなる。したがって、回転角度α=135°〜180°の範囲では、ブッシュ7の油溝7f、7gが凹部2a、3aに連通し、凹部2a、3a内の冷凍機油25が油溝7f、7gに強制給油されるようにする。
また、回転角度=180°〜360°の範囲において、ブッシュ7の回転方向側の圧力は高圧である。一方、ブッシュ7の反回転方向側の圧力は、回転角度=180°〜270°の範囲では低圧に推移し、回転角度=270°〜360°の範囲では低圧から高圧に推移する。上述した回転方向側の圧力と反回転方向側の圧力との関係において、回転角度α=180°〜245°の範囲では第1のベーン5の両側の空間における圧力差が高圧になる。このため、回転角度=180°〜245°の範囲において油溝7f、7gが凹部2a、3aに連通し、回転角度=245°〜360°の範囲では連通しない。
すなわち、第1のベーン5を跨いだ圧力差は、回転角度=0°〜90°の範囲で最小となり、回転角度=90°〜180°の範囲で増加し、回転角度=180°〜270°の範囲で最大となり、回転角度=270°〜360°の範囲で減少していく。そのうち、圧力差が所定の高圧状態になる回転角度=180°〜245°の範囲において、油溝7f、7gは凹部2a、3aに連通するようになっている。
なお、前述の通り、この説明は簡略化のために回転角度=0°で第2のベーン6の回転方向側の圧縮室11の圧力が高圧に達する(あるいは回転角度=180°で第1のベーン5の回転方向側の中間室10の圧力が高圧に達する)と仮定した場合であるが、それ以外の運転条件においても、ベーン5を跨いだ圧力差の変動はおよそ同様の傾向を示す。
このように、ベーン5を跨いだ圧力差が増加する回転角度(回転位相)α、すなわち摺動面の油膜がなくなり易い回転角度αの近傍の範囲に限定して、油溝7f、7gへ強制的に給油することで、過剰給油による漏れ損失の増加を抑制しながら、ベーンの動作の信頼性を向上させることができる。また、ベーン部5a、6a側に油溝を設けるのではなく、ブッシュ7、8側に油溝7f、7gを設けることにより、溝の形成によるベーン部5a、6aの強度の低下を防止することができる。
なお、ブッシュ7の油溝7f、7gと凹部2a、3aが、所定の回転角度=135°〜245°で連通する場合について例示したが、第1のベーン5を跨いだ圧力差が増加する回転位相の近傍の範囲で、ブッシュ7の油溝7f、7gと凹部2a、3aが連通するように設定するものであれば、上記回転角度αに限定されない。また、ブッシュ7の油溝7f、7gと凹部2a、3aの位置関係について説明したが、ブッシュ8の油溝8f、8gと凹部2a、3aにおいても同様の位置関係であり、同様の効果が得られる。
図11A〜図11Dは油溝7f、7gの変形例を示す斜視図である。なお、以下にブッシュ7の油溝7f、7gについて説明するが、ブッシュ8の油溝8f、8gにおいても同様の構成とすることができる。図11Aのブッシュ7において、油溝7f、7gは、軸方向に沿って直線状に延びているとともに、ブッシュ7の上下端面を貫通せずに2分割にされている。図11Bのブッシュ7は、図11Aと同様、油溝7f、7gは軸方向に沿って直線状に延びているがブッシュ7の上下端面を貫通せずに2分割にされている。さらに、各側面7b、7eにおいてそれぞれ複数の油溝7f、7gが形成されている。図11Cのブッシュ7において、油溝7f、7gは軸方向に対し傾斜して直線状に延びているとともに、ブッシュ7の上下端面を貫通せずに2分割にされている。図11Dのブッシュ7において、ブッシュ7には所定の曲率の曲線状に油溝7f、7gが設けられている。
図11A〜図11Dに示す形状を有する油溝7f、7gであっても、ベーン5を跨いだ圧力差が増加する回転位相、すなわち摺動面の油膜がなくなり易い回転角度(回転位相)αの近傍の範囲に限定して、油溝7f、7gへ強制的に給油することで、過剰給油による漏れ損失の増加を抑制しながら、ベーン5、6の動作の信頼性を向上させることができる。なお、図11A〜図11Dのブッシュ7において、外側面7bと内側面7eとに形成される油溝7f、7gが同一のパターンを有する場合について例示しているが、それぞれ図11A〜11Dの異なるパターンを組み合わせるようにしてもよい。
図12〜図14は本発明のベーン型圧縮機におけるブッシュ7、8の実施形態2〜4を示す模式図であり、図12〜図14を参照してブッシュ7、8の実施形態2〜4について説明する。なお、図12〜図14において図8と同一の構成を有する部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
図12においては、第1のベーン5を挟んだ1対のブッシュ7のうち、反回転方向のブッシュ7にのみ油溝7f、7gが設けられている。前述の通り、ベーン部5aを跨いだ圧力差による荷重は反回転方向側に作用するため、摺動面の信頼性の確保が困難な反回転方向側のブッシュ7側にのみ油溝7f、7gが設けられている。これにより、ブッシュ7における摺動面の信頼性を向上し、かつ、回転方向側のブッシュ7の側面における過剰給油を抑制し、漏れによる損失の増加を抑制することができる。
図13においては、第1のベーン5を挟んだ1対のブッシュ7のうち、外側面7b側にのみ油溝7fが設けられており、内側面7e側には設けられていない。この構成では、ブッシュ7に遠心力が作用することで隙間が詰まり易くなる外側面7b側に積極的に給油することで、外側面7bの磨耗や焼付きを抑制することができる。なお、ブッシュ7の外側面の油溝7fについて説明したが、ブッシュ8の油溝8fにおいても同様の構成とすることで同様の効果が得られる。
図14においては、ブッシュ7の内側面7e側にのみ油溝7gが設けられており、内側面7e側には設けられていない。ベーン逃がし部4fの圧力は常に高圧であり、吸入室9ならびに中間室10の圧力は回転位相によって低圧から高圧に推移する。そのため、油溝7f、7gを双方ともに設けない場合、外側面7bと内側面7eを通過する油の圧力は、ベーン逃がし部4fと吸入室9(あるいは中間室10)の中間圧となる。このとき、図14のように、内側面7eの油溝7gを設けて高圧の油を直接給油することにより、その分だけ外側面7bに比べて圧力が高くなり、外側面7bの全面をロータ部4aに押し付けることができる。
これにより、遠心力によってロータ部4aの径方向外側の隙間のみが詰まり易かった外側面7bの隙間を摺動面全面に渡って押し付けることが可能となるため、外側面7bの磨耗や焼付きを抑制することができる。なお、ここではブッシュ7の油溝7gについて説明したが、ブッシュ8の油溝8gにおいても同様の構成とすることで同様の効果が得られる。
本発明の実施形態は上記各実施形態に限定されない。たとえば、上記各実施形態において、ベーン枚数が2枚の場合について示したが、ベーン枚数が1枚または3枚以上の場合であってもよい。
また、上記各実施形態1〜4において、ロータシャフト4の遠心力を利用した油ポンプ31について示したが、油ポンプ31の形態はいずれでもよく、例えば特開2009−62820号公報に記載の容積形ポンプを油ポンプ31として用いてもよい。
また、上記各実施形態1〜4において、部分リング形状のベーンアライナがベーンに一体に取り付けられる場合について示したが、例えば、ロータシャフトの内側を中空に構成しその中にベーンの固定軸を配し、ベーンはその固定軸に回転可能に取り付けられている場合においても、同様の効果が得られる。
また、上記各実施形態において、ベーンアライナ部5c、5d、6c、6dが部分リング形状である場合について例示しているが、ロータ部4a内のベーンが1つである場合はベーンアライナ部がリング形状であってもよい。
さらに、上記各実施形態において、油溝7f、7g、8f、8gは、いわゆるU字状の溝に形成されている場合について例示しているが、断面矩形状もしくは断面三角形状を有するものであってもよい。また、図12〜図14に示す油溝7f、7g、8f、8gとして図11A〜図11Dに示す各形状のいずれを採用してもよい。