以下に、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1から図16を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、ハイブリッド車両用駆動装置に関する。図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の動作を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両のスケルトン図、図3は、実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の作動係合表を示す図、図4は、クラッチ解放EV走行に係る共線図である。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン切り離しクラッチ(クラッチK0)を有するハイブリッドシステムにおいて、クラッチK0を解放し、かつエンジン1および第一回転機MG1を停止し、第二回転機MG2を動力源として走行するEV走行状態からエンジン始動する際、第一回転機MG1の回転数を正回転方向あるいは負回転方向へ変化させる制御と、クラッチK0を滑らせながらの係合制御とを同時に実施しながらエンジン1を始動させる始動方法を有する。また、エンジン始動時の第一回転機MG1の回転数の変化方向(正方向/負方向)は、車速に応じて異なる。これにより、エンジン始動の応答性向上と、クラッチK0の保護とを両立することができる。
本実施形態に係る車両100は、図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。車両100は、上記の動力源に加えて、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、クラッチK0、ECU50を含んで構成されている。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1、第一回転機MG1、第二回転機MG2、第一遊星歯車機構10、クラッチK0を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、ECU50等の制御装置を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸1aの回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸1aは、クラッチK0を介して入力軸2と接続されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸1aと同軸上かつ出力軸1aの延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。
本実施形態の第一遊星歯車機構10は、エンジン1および第一回転機MG1が接続された差動部である。第一遊星歯車機構10は、エンジン1の動力を第一回転機MG1側と出力軸40側とに分配する動力分配機構としての機能を有している。つまり、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1では、二つの遊星歯車機構10,20のうち、前段の第一遊星歯車機構10において動力分割がなされる。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、分配された動力によって第一回転機MG1に発電を行わせ、発生した電力により第二回転機MG2を力行させることができる。第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギヤ11、第一ピニオンギヤ12、第一リングギヤ13および第一キャリア14を有する。
第一リングギヤ13は、第一サンギヤ11と同軸上であってかつ第一サンギヤ11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギヤ12は、第一サンギヤ11と第一リングギヤ13との間に配置されており、第一サンギヤ11および第一リングギヤ13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギヤ12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギヤ12は、第一キャリア14と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギヤ12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
第一サンギヤ11には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第一サンギヤ11と一体回転する。本実施形態の第一サンギヤ11は、第一回転機MG1に接続された第一回転要素に対応している。また、第一キャリア14は、エンジン1に接続された第二回転要素に対応している。また、第一リングギヤ13は、第二回転機MG2および出力軸40に接続された第三回転要素に対応している。
クラッチK0は、第一キャリア14とエンジン1とを断続するクラッチである。クラッチK0は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができる。クラッチK0は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは解放する。完全係合状態のクラッチK0は、エンジン1の出力軸1aと第一キャリア14とを連結し、出力軸1aと第一キャリア14とを一体回転させることができる。一方、解放状態のクラッチK0は、エンジン1の出力軸1aと第一キャリア14とを切り離し、出力軸1aと第一キャリア14との相対回転を許容する。なお、クラッチK0は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のクラッチK0は、出力軸1aと第一キャリア14との相対回転を許容する。
第二遊星歯車機構20は、第二回転機MG2の回転を減速して出力する減速機構としての機能を有する。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギヤ21、第二ピニオンギヤ22、第二リングギヤ23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。
第二リングギヤ23は、第二サンギヤ21と同軸上であってかつ第二サンギヤ21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギヤ22は、第二サンギヤ21と第二リングギヤ23との間に配置されており、第二サンギヤ21および第二リングギヤ23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギヤ22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、車体側と連結されており、回転が規制されている。第二ピニオンギヤ22は、第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギヤ22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
第二サンギヤ21には、第二回転機MG2の回転軸34が接続されている。第二回転機MG2の回転軸34は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギヤ21と一体回転する。第二リングギヤ23は、第二遊星歯車機構20の出力要素であり、第二回転機MG2から第二サンギヤ21に入力された回転を出力軸40に出力する。
出力軸40は、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の出力軸である。出力軸40は、円筒形状をなしており、入力軸2と同軸上に回転自在に支持されている。第一リングギヤ13および第二リングギヤ23は、出力軸40の内周面に配置された内歯歯車である。従って、第一リングギヤ13と第二リングギヤ23とは常時連結されており、一体回転する。
カウンタドライブギヤ25は、出力軸40の外周面に配置された外歯歯車である。第一遊星歯車機構10を介して伝達されたエンジン1のトルク、および第二遊星歯車機構20を介して伝達された第二回転機MG2のトルクは、カウンタドライブギヤ25から図示しない駆動輪に出力される。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
ECU50は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。ECU50は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
ECU50は、エンジン1を制御することができる。ECU50は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。ECU50は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
ECU50には、エンジン回転数センサ、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、入力軸回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、ECU50は、エンジン回転数Ne、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数(以下、「MG1回転数」とも記載する。)Ng、第二回転機MG2の回転数(以下、「MG2回転数」とも記載する。)Nm、入力軸2の回転数(以下、「入力軸回転数」とも記載する。)Ni、出力軸40の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。なお、入力軸回転数Niは、第一キャリア14の回転数でもある。
ECU50は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値に基づいて各回転機MG1,MG2に対する供給電流を制御する。また、ECU50は、エンジントルクの指令値に基づいてエンジン1の燃料噴射量や噴射タイミング、点火タイミング等を制御する。
ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチK0を制御する。ECU50は、クラッチK0に対する供給油圧の指令値を出力する。図示しない油圧制御装置は、供給油圧の指令値に応じてクラッチK0に対する供給油圧を制御する。
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1と第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、第二回転機MG2を空転させることや第二回転機MG2に発電を行わせることも可能である。EV走行は、第二回転機MG2を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。
図3の係合表において、クラッチK0の欄の「○」は係合を示し、「−」は解放を示す。車両100では、EV走行として、クラッチ解放EV走行、あるいはクラッチ係合EV走行(通常EV走行)を選択的に実行することができる。
クラッチ解放EV走行は、図3に示すように、クラッチK0を解放し、かつ第二回転機MG2を動力源として走行するEVモードである。クラッチ解放EV走行に係る共線図は、図4に示されている。図4において、左側の軸は、第一サンギヤ11の回転数およびMG1回転数Ngを示し、中央の軸は、入力軸回転数Niおよびエンジン回転数Neを示し、右側の軸は、第一リングギヤ13の回転数を示す。図4では、黒三角がMG1回転数Ngを、黒四角が入力軸回転数Niを、黒丸がエンジン回転数Neをそれぞれ示す。なお、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の回転方向において、正方向とは車両100が前進するときの出力軸40の回転方向であり、負方向とは、正方向と反対の回転方向を示すものとする。
クラッチ解放EV走行では、クラッチK0が解放されていることにより、エンジン1が第一キャリア14から切り離されている。従って、エンジン回転数Neは0となる。クラッチ解放EV走行では、第二回転機MG2を動力源とし、MG2トルクによって車両100を駆動する。クラッチ解放EV走行では、MG1回転数Ngを低回転、例えば0回転に制御して走行するようにしてもよい。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数Ngを0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数Ngを0としてもよい。
クラッチ係合EV走行(通常EV走行)では、図3に示すように、クラッチK0を係合してEV走行を行う。クラッチ係合EV走行では、第二回転機MG2を動力源とし、MG2トルクによって車両100を駆動する。クラッチ係合EV走行では、エンジン回転数Neおよび入力軸回転数Niは0となり、第一回転機MG1は負回転する。
HV走行では、図3に示すように、クラッチK0が係合され、エンジン1と第一キャリア14とが接続される。エンジン1が出力するトルクは、第一キャリア14に入力される。第一回転機MG1は、エンジントルクに対する反力トルクとして負トルクを発生させ、エンジントルクを第一リングギヤ13から出力させる。これにより、エンジントルクは出力軸40から差動装置等を介して駆動輪に伝達され、車両100を前進駆動する駆動力を発生させる。
ECU50は、例えば、走行状態やバッテリの充電状態SOC等に基づいて、EV走行時にクラッチ係合EV走行あるいはクラッチ解放EV走行のいずれかを選択することができる。また、ECU50は、要求駆動力や車速、バッテリの充電状態SOC等に基づいて、EV走行あるいはHV走行のいずれかを選択することができる。
ここで、クラッチ解放EV走行中にエンジン1を始動するときには、手順が多くなり応答性が低下しやすいという問題がある。例えば、クラッチ解放EV走行においてエンジン始動を行う場合、以下のような方法が考えられる。
(1−1)第一回転機MG1によりクラッチK0の差回転数を0(あるいは略0)とする回転同期操作を行う。
(1−2)クラッチK0の係合操作を行う。
(1−3)第一回転機MG1によってエンジン回転数Neを上昇させ、点火し、エンジン1を始動する。
上記(1−1)から(1−3)を順に行う始動方法では、始動シーケンスが多く、エンジン始動時間や加速トルクの立ち上がり時間が長くなり、ドライバビリティが低下する可能性がある。
また、MG1回転数Ngや第一ピニオンギヤ12の自転回転数が大きくなり、過回転の発生や損失の増大が生じる可能性がある。また、MG1回転数Ngが高回転であると、第一回転機MG1の発電力が大きくなり、バッテリの受け入れ制限が発生することがある。その結果、第一回転機MG1の最大トルクの不足によりエンジン始動時に第一回転機MG1が必要トルクを発生することができない可能性がある。こうした問題は、高車速時に顕著に発生する。
また、クラッチ解放EV走行においてエンジン始動を行う場合、以下のような方法も考えられる。
(2−1)クラッチK0を滑らせながら係合し、エンジン回転数Neを上昇させる。
(2−2)点火してエンジン1を始動する。
上記(2−1)および(2−2)の始動方法の場合、クラッチK0が完全係合したときにエンジン回転数Neが不足し、燃料の噴射が許可されない可能性がある。クラッチK0の完全係合時のエンジン回転数Neが、燃料噴射を許可する下限の回転数よりも低い場合、第一回転機MG1によってエンジン回転数Neを更に上昇させてからエンジン1を始動することになり、エンジン始動時の応答性が低下することになる。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、以下に説明するように、クラッチ解放EV走行からHV走行へ遷移するときに、第一回転機MG1の回転制御(以下、「始動時MG1回転制御」とも記載する。)と、クラッチK0を半係合させた後に完全係合させる制御(以下、「始動時係合制御」とも記載する。)と、を並行して実行する所定始動制御を有する。
始動時MG1回転制御における第一回転機MG1の回転数変化の方向は、車速に応じて異なる。これにより、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、エンジン始動時の応答性を向上させることができる。
本実施形態では、車速Vが車速閾値Vt以上である場合、図6に示すように、MG1回転数Ngは負方向に変化させられる。高車速においては、エンジン始動開始時のクラッチK0の差回転が大きい。これに対して、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを負方向に変化させることにより、クラッチK0の差回転数を低減させることができ、クラッチK0の摩擦エネルギー低減やクラッチK0の完全係合までの時間短縮を図ることができる。
一方、車速Vが車速閾値Vt未満である場合、図12に示すように、MG1回転数Ngは正方向に変化させられる。低車速においては、エンジン始動開始時の入力軸回転数Niが小さい。このため、クラッチK0を完全係合させてもエンジン回転数Neが十分に上昇せず、燃料噴射を行えない可能性がある。これに対して、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを正方向に変化させることにより、入力軸回転数Niを上昇させることができる。従って、クラッチK0が完全係合したときのエンジン回転数Neの不足が抑制される。よって、クラッチK0の完全係合後に第一回転機MG1によりエンジン回転数Neを上昇させる手順の発生が抑制され、エンジン始動時間の短縮が可能となる。
以下に、車速Vが車速閾値Vt以上である場合(高車速時)と、車速Vが車速閾値Vt未満である場合(低車速時)とに分けて、本実施形態の所定始動制御について詳細に説明する。
(V≧Vtの場合)
図5は、高車速時のクラッチ解放EV走行を示す共線図、図6は、高車速時の所定始動制御を示す共線図、図7は、高車速時の所定始動制御のMG1回転数固定を示す共線図、図8は、高車速時の所定始動制御におけるクラッチK0の完全係合を示す共線図、図9は、高車速時の所定始動制御のエンジン始動を示す共線図、図10は、高車速時の所定始動制御完了後のHV走行を示す共線図である。
図5に示す走行状態では、車速Vは車速閾値Vt以上であり、入力軸回転数Niとエンジン回転数Neとの差回転、すなわちクラッチK0の差回転が大きい。この場合、ECU50は、図6に示すように、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを負方向に変化させ、これと並行してクラッチK0を滑らせながら係合する。ECU50は、0もしくは略0であったMG1回転数Ngを負方向に変化させ、入力軸回転数Niを低下させる。
また、ECU50は、クラッチK0に対して油圧を供給し、クラッチK0を半係合状態とする。クラッチK0の係合により、クラッチK0を介して伝達されるトルクにより、エンジン回転数Neは上昇する。入力軸回転数Niの低下とエンジン回転数Neの上昇により、クラッチK0の差回転数が低減する。また、ECU50は、クラッチK0に対する供給油圧を徐々に増加させてトルク容量を増加させる。なお、始動時係合制御におけるクラッチK0に対する供給油圧の増加速度は、最大速度よりも小さい。クラッチK0に対する供給油圧の増加速度は、例えば、クラッチK0の係合により発生する車速を低下させる向きのトルク(反力トルク)に対して、第二回転機MG2がこれを補償する反力キャンセルトルクを出力可能な範囲の速度とされることが好ましい。
ECU50は、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを負方向に変化させる場合、入力軸回転数Niが第一の回転数Nit_1以下となるとMG1回転数Ngの変化を停止する。図7には、入力軸回転数Niが第一の回転数Nit_1以下となり、MG1回転数Ngの変化が停止された状態が示されている。MG1回転数Ngを停止することで、MG1回転数Ngを負回転方向に操作し続けることによりクラッチK0が完全係合するときのエンジン回転数Neが低くなりすぎることを抑制することができる。
第一の回転数Nit_1は、例えば、エンジン回転数Neがエンジン噴射許可回転数未満となることを規制するように定められる。本実施形態の第一の回転数Nit_1は、エンジン1の燃料噴射を許可するエンジン回転数Neに基づいており、燃料噴射を許可する下限の回転数以上の回転数である。これにより、クラッチK0が完全係合するときのエンジン回転数Neが低すぎて燃料の噴射を行えなくなるという問題の発生が抑制される。
よって、本実施形態の所定始動制御によれば、クラッチK0が完全係合した後に低下しすぎたエンジン回転数Neを第一回転機MG1によって持上げる制御を不要とすることが可能であり、エンジン始動時間の短縮を図ることができる。
図8には、クラッチK0が完全係合したときの共線図が示されている。このときの入力軸回転数Niおよびエンジン回転数Neは、第一の回転数Nit_1以上であり、エンジン1の燃料噴射及び点火が許可される。つまり、本実施形態の所定始動制御によれば、クラッチK0が完全係合した時点で燃料噴射および着火を開始することができる。ECU50は、エンジン1の燃料噴射を指令し、図9に示すようにエンジン1の着火を行ってエンジン1を始動させる。
エンジン1の始動が完了すると、ECU50は、HV走行を開始する(図10参照)。ECU50は、要求駆動力に基づいて決定されたエンジントルクを出力させるようにエンジン1を制御する。また、ECU50は、第一回転機MG1に負トルクを出力させて反力受けとして機能させ、エンジントルクを第一リングギヤ13から出力軸40に出力させる。
(V<Vtの場合)
図11は、低車速時のクラッチ解放EV走行を示す共線図、図12は、低車速時の所定始動制御を示す共線図、図13は、低車速時の所定始動制御のMG1回転数固定を示す共線図、図14は、低車速時の所定始動制御におけるクラッチK0の完全係合を示す共線図、図15は、低車速時の所定始動制御のエンジン始動を示す共線図、図16は、低車速時の所定始動制御完了後のHV走行を示す共線図である。
図11に示す走行状態では、車速Vは車速閾値Vt未満であり、入力軸回転数Niとエンジン回転数Neとの差回転、すなわちクラッチK0の差回転は小さい。入力軸回転数Niが小さいため、そのままクラッチK0を完全係合させたとしても、エンジン回転数Neは燃料噴射が許可される回転数まで上昇しない可能性が高い。この場合、ECU50は、図12に示すように、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを正方向に変化させ、これと並行してクラッチK0を滑らせながら係合する。ECU50は、0もしくは略0であったMG1回転数Ngを正方向に変化させ、入力軸回転数Niを上昇させる。
また、ECU50は、クラッチK0に対して油圧を供給し、クラッチK0を半係合状態とする。クラッチK0の係合により、エンジン回転数Neは上昇する。ECU50は、クラッチK0に対する供給油圧を徐々に増加させてトルク容量を増加させる。供給油圧の増加による係合度合の増加に応じて、入力軸回転数Niとエンジン回転数Neとの差回転は低下する。
ECU50は、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを正方向に変化させる場合、入力軸回転数Niが第二の回転数Nit_2以上となるとMG1回転数Ngの変化を停止する。図13には、入力軸回転数Niが第二の回転数Nit_2以上となり、MG1回転数Ngの変化が停止された状態が示されている。MG1回転数Ngを停止することで、MG1回転数Ngを正方向に操作し続けることにより入力軸回転数Niが必要以上に上昇することを抑制することができる。これにより、クラッチK0が完全係合するまでの時間の短縮や、クラッチK0の摩擦エネルギー低減を図ることができる。
第二の回転数Nit_2は、例えば、クラッチK0を完全係合させるまでに要する時間、あるいはクラッチK0において許容される差回転数の上限の少なくともいずれか一方に基づく回転数であることが好ましい。言い換えると、第二の回転数Nit_2は、エンジン始動の応答性を向上させる観点、あるいはクラッチK0の耐性の少なくともいずれか一方に基づいて定められることが好ましい。第二の回転数Nit_2は、例えば、適合試験により、クラッチK0の差回転が許容される上限回転数未満となり、かつクラッチK0の係合を開始してから完全係合するまでの時間を短縮できるように定めることができる。クラッチK0において許容される差回転数は、例えば、クラッチK0の発熱量に基づいて定められてもよい。
なお、第二の回転数Nit_2は、エンジン1の燃料噴射を許可する回転数とされてもよい。このようにすれば、クラッチK0が完全係合した後、速やかに燃料噴射および着火を行ってエンジン1を始動することができる。
図14には、クラッチK0が完全係合したときの共線図が示されている。始動時MG1回転制御によって入力軸回転数Niが上昇しているため、クラッチK0の完全係合後に速やかにエンジン1の燃料噴射および着火を行うことができる。クラッチK0が完全係合した時点でエンジン回転数Neが燃料噴射を許可する回転数に達していない場合、ECU50は、第一回転機MG1によってエンジン回転数Neを上昇させる。エンジン回転数Neが、燃料噴射を許可する回転数に達している場合、燃料の噴射が実行され、図15に示すように、エンジン1の着火が行われてエンジン1が始動される。
エンジン1の始動が完了すると、ECU50は、HV走行を開始する(図16参照)。ECU50は、要求駆動力に基づいて決定されたエンジントルクを出力させるようにエンジン1を制御する。また、ECU50は、第一回転機MG1に負トルクを出力させて反力受けとして機能させ、エンジントルクを出力軸40に出力させる。
図1を参照して、本実施形態の所定始動制御の流れについて説明する。図1に示す制御フローは、走行中に実行され、例えば所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS10では、ECU50により、クラッチ解放EV走行中であるか否かが判定される。その判定の結果、クラッチ解放EV走行中であると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローは終了する。
ステップS20では、ECU50により、エンジン始動判断がなされたか否かが判定される。その判定の結果、エンジン始動判断がなされたと判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)には本制御フローは終了する。
ステップS30では、ECU50により、車速Vが車速閾値Vt以上であるか否かが判定される。その判定の結果、車速Vが車速閾値Vt以上であると判定された場合(ステップS30−Y)にはステップS40に進み、そうでない場合(ステップS30−N)にはステップS60に進む。
ステップS40では、ECU50により、MG1回転数Ngを負回転側に操作しクラッチK0を係合する操作がなされる。ECU50は、MG1回転数Ngを負方向に変化させ、これと並行してクラッチK0の係合度合を高めて行く制御を行う。ステップS40が実行されると、ステップS50に進む。
ステップS50では、ECU50により、入力軸回転数Niが第一の回転数Nit_1以下であるか否かが判定される。その判定の結果、入力軸回転数Niが第一の回転数Nit_1以下であると判定された場合(ステップS50−Y)には、ステップS80に進み、そうでない場合(ステップS50−N)にはステップS40に移行する。
ステップS60では、ECU50により、MG1回転数Ngを正回転側に操作しクラッチK0を係合する操作がなされる。ECU50は、MG1回転数Ngを正方向に変化させ、これと並行してクラッチK0の係合度合を高めていく制御を行う。ステップS60が実行されると、ステップS70に進む。
ステップS70では、ECU50により、入力軸回転数Niが第二の回転数Nit_2以上であるか否かが判定される。その判定の結果、入力軸回転数Niが第二の回転数Nit_2以上であると判定された場合(ステップS70−Y)にはステップS80に進み、そうでない場合(ステップS70−N)にはステップS60に移行する。
ステップS80では、ECU50により、MG1回転数Ngが固定される。ECU50は、MG1回転数Ngの変化を停止し、MG1回転数Ngを一定に維持する。なお、クラッチK0がまだ完全係合していない場合、MG1回転数Ngは固定されるが、供給油圧を増加させてクラッチK0を完全係合させる動作は継続される。ステップS80が実行され、クラッチK0が完全係合すると、ステップS90に進む。
ステップS90では、ECU50により、エンジン始動が完了される。ECU50は、エンジン回転数Neが燃料噴射を許可する回転数にある場合、燃料噴射および着火を実行してエンジン1を始動させる。また、エンジン回転数Neが燃料噴射を許可する回転数に達していない場合、第一回転機MG1によってエンジン回転数Neを上昇させてから燃料噴射および着火を実行してエンジン1を始動させる。ステップS90が実行されると、ステップS100に進む。
ステップS100では、ECU50により、HV走行が実行される。ステップS100が実行されると、本制御フローは終了する。
以上説明したように、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、クラッチ解放EV走行からエンジン1を始動するときに、始動時MG1回転制御と始動時係合制御とが並行して実行される。また、始動時MG1回転制御におけるMG1回転数Ngの変化の方向は、車速Vに応じて異なる。よって、エンジン始動の応答性を向上させることができる。
なお、始動時MG1回転制御と始動時係合制御とを並行して実行する場合に、始動時MG1回転制御の実行期間と始動時係合制御の実行期間とが重なりを有していればよく、いずれか一方の制御が先に開始されても、先に終了されてもよい。本実施形態では、始動時MG1回転制御と始動時係合制御とが同時に開始される。
また、本実施形態の所定始動制御では、高車速時には、クラッチK0の差回転数を低減するようにMG1回転数Ngが負方向に変化し、低車速時には、入力軸回転数Niを上昇させるようにMG1回転数Ngが正方向に変化する。よって、高車速時にはクラッチK0が完全係合するまでの時間を短縮してエンジン始動の応答性を向上させることができる。また、低車速時にはクラッチK0が完全係合するときのエンジン回転数Neの不足を抑制し、エンジン始動の応答性を向上させることができる。
また、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを負方向に変化させる場合、第一キャリア14(入力軸2)の回転数が第一の回転数Nit_1以下となるとMG1回転数Ngの変化が停止され、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを正方向に変化させる場合、第一キャリア14の回転数が第二の回転数Nit_2以上となるとMG1回転数Ngの変化が停止される。従って、始動時MG1回転制御によって入力軸回転数Niが低くなりすぎることや高くなりすぎることが抑制される。
第一の回転数Nit_1は、エンジンの燃料噴射を許可する回転数に基づいている。従って、クラッチK0の完全係合時のエンジン回転数Neを燃料噴射が許可されるエンジン回転数Neとすることができる。第二の回転数Nit_2は、クラッチK0を完全係合させるまでに要する時間、あるいはクラッチK0において許容される差回転数の上限の少なくともいずれか一方に基づいている。従って、クラッチK0の差回転数が大きくなりすぎることが抑制され、クラッチK0を完全係合させるまでに要する時間を短縮することや、クラッチK0の摩擦エネルギーを低減することが可能となる。
なお、第一の回転数Nit_1は、第二の回転数Nit_2以上の回転数であることが好ましい。これは、高車速域では、低車速域に比べて要求パワーが大きくなることが多いためである。要求パワーが大きいと、エンジン始動後のエンジン1の目標動作点は、高回転の動作点となる。エンジン始動時のエンジン回転数Neが低いと、エンジン始動後に目標とする動作点まで移行するために要する時間が増加し、またエンジン回転数Neの変化によるイナーシャ損失が増加することからドライバビリティが低下する可能性がある。これに対して、第一の回転数Nit_1を第二の回転数Nit_2以上としておくことで、所定始動制御によりエンジン1を始動するときの要求パワーに対する応答性を高めることができる。
なお、本実施形態では、第一回転機MG1に接続された第一回転要素が第一サンギヤ11、エンジン1に接続された第二回転要素が第一キャリア14、第二回転機MG2および出力軸40に接続された第三回転要素が第一リングギヤ13であったが、これには限定されない。第一回転機MG1と、エンジン1と、第二回転機MG2および出力軸40とが差動部のそれぞれ異なる回転要素に接続されていればよい。
所定始動制御において、始動時係合制御が省略されてもよい。つまり、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、少なくとも始動時MG1回転制御を有するものであればよい。始動時MG1回転制御は、クラッチK0の係合開始前に開始されても、クラッチK0の係合開始と同時に開始されてもよい。始動時係合制御が実行されない場合であっても、始動時MG1回転制御によって、エンジン1を始動するときの応答性を向上することが可能である。始動時MG1回転制御が実行される際に、クラッチが半係合とされた後に完全係合される場合には、ショックが抑制される等の更なる利点がある。
[実施形態の第1変形例]
上記実施形態において、車速Vに代えて、MG2回転数Nmに基づいて、始動時MG1回転制御におけるMG1回転数Ngの変化方向を異ならせるようにしてもよい。例えば、下記式(1)のように、MG2回転数Nmの絶対値が、閾値Nmtの絶対値以上である場合、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを負方向に変化させる。
|Nm|≧|Nmt|…(1)
一方、下記式(2)のように、MG2回転数Nmの絶対値が、閾値Nmtの絶対値未満である場合、始動時MG1回転制御においてMG1回転数Ngを正方向に変化させる。
|Nm|<|Nmt|…(2)
なお、車両100の前進時にMG2回転数Nmが正回転となるギヤトレーンでは、絶対値を用いずに、MG2回転数Nmと正の閾値Nmtとの比較結果に基づいて始動時MG1回転制御におけるMG1回転数変化の方向を定めるようにしてもよい。一般に、車速センサよりも回転機MG1,MG2の回転数センサの方がセンサの検知精度が高い。従って、MG2回転数Nmに基づいて始動時MG1回転制御のMG1回転数Ngを異ならせるようにする場合、閾値付近の検知精度が向上し、誤検知等のリスクが低減される。
[実施形態の第2変形例]
上記実施形態において、入力軸回転数Niに基づいてMG1回転数Ngの変化を停止することに代えて、MG1回転数Ngに基づいてMG1回転数Ngの変化を停止するようにしてもよい。
例えば、始動時MG1回転制御において、MG1回転数Ngを負方向に変化させているときに、MG1回転数Ngが第一のMG1回転数Ngt_1以下となるとMG1回転数Ngの変化が停止される。また、始動時MG1回転制御において、MG1回転数Ngを正方向に変化させているときに、MG1回転数Ngが第二のMG1回転数Ngt_2以上となるとMG1回転数Ngの変化が停止される。第一のMG1回転数Ngt_1および第二のMG1回転数Ngt_2は、車速あるいはMG2回転数Nmに応じて可変とされる。すなわち、車速あるいはMG2回転数Nmと、入力軸回転数Niの閾値(Nit_1,Nit_2)とに基づいて、MG1回転数Ngの閾値である第一のMG1回転数Ngt_1および第二のMG1回転数Ngt_2が定められる。
このように、MG1回転数Ngに基づいて、始動時MG1回転制御におけるMG1回転数Ngの変化を停止する方法によれば、既存のMG1回転数センサを使用することができ、新たに入力軸回転数センサ等を設ける必要がない。また、回転機MG1,MG2の回転数Ng,Nmから入力軸回転数Niを計算するロジックを省略でき、ECU50の計算負荷を軽減することができる。
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。