JP5924585B2 - 高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板及びその製造方法、並びに高強度陽極酸化皮膜付きアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
前記8000系合金とともに5000系合金をベースとして強度を確保しつつ、Si、Fe、Mn量などを規定して、アルマイト色調を淡灰色としたアルミニウム合金板や、前記8000系合金をベースとして強度を確保しつつ、さらにMn、Siを添加して、アルマイト色調を均一にするアルミニウム合金板及びその製造方法なども開発されてきた。また、最近では、1000系合金をベースとしたアルマイト皮膜の色調の均一性を向上させたアルミニウム合金板及びその製造方法なども開発されている。
特許文献2には、Fe:0.2〜0.6重量%、Si:0.03〜0.20重量%及びTi:0.005〜0.05重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板及びその製造方法が記載されている。これによると、材料の化学成分Fe、Si及びTiの含有量を適切に調整するとともに、特にFe/Si比を適正な範囲にすることにより、準安定相の形成が抑制され、金属間化合物が安定相主体となり、粗面化処理の際のピットの均一性及び陽極酸化被膜の色調の均一性が著しく向上するとのことである。
特許文献3では、質量%で、Mg:2.0〜3.0%、Cr:0.15〜0.25%、Ti:0.005〜0.20%、またはTi:0.005〜0.20%及びB:0.0005〜0.05%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、該不純物中のSiを0.15%以下、Feを0.4%以下、Mnを0.06%以下とし、前記Crの含有量をTCR%、Crの固溶量をSCR%としたとき、PCR=TCR−SCR≦0.065%であるアルミニウム合金板が提案されている。
これによると、Crを含有させたAl−Mg系合金板は、Cr含有の金属間化合物を所定以下とすることにより、硫酸浴による陽極酸化皮膜を被覆しても黄色味を極力抑えた淡緑白色に発色するアルミニウム合金板を製造できるとのことである。
強度の高い5000系合金板では、放熱性を高めるためにはマトリックスに固溶し易いMgの含有量を低下させて導電率を高めることが有効である。しかしながら、このようにMg含有量を低下させた5000系合金板を筺体用の素材として適用する際、A5052合金板(例えば、調質:H32)と組み合されて使用される場合がある。このような場合、当然のことながら筺体としての色調の統一性が要求され、低Mgの5000系合金板に施されたアルマイト皮膜には、A5052合金板に施されたアルマイト皮膜の色調に準ずる色調が求められる。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、電子機器用の筺体等に用いられ、白色調でかつ適切な黄味がある均一なアルマイト皮膜を施すことが可能な高強度で熱伝導性に優れたアルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
本発明のアルマイト処理用高強度アルミニウム合金板としては、X線回折分析を行った際の積分回折強度比(Iα-Al(Fe・Mn)Si/IAl3Fe)が0.1〜0.8の範囲内であるものが好ましい。
そして、本発明で提供されるアルマイト処理用アルミニウム合金板に、前処理としてアルカリエッチングを施し、さらに硫酸アルマイト処理を施すと、CIE規格の、L*値:85〜90、a*値:−1.0〜−0.3、b*値:0.5〜1.0の範囲の色調を呈するアルマイト皮膜が得られる。
ところで、Al−Mg-Fe系アルミニウム合金板において白色調でかつ色調の均一なアルマイト皮膜を得るためには、鋳塊に生成したAl6Fe準安定相を均質化処理によってAl3Fe安定相に拡散変態させることが必要となる。一般的には、鋳塊の均質化処理温度は高い方が、鋳塊に生成したAl6Fe準安定相を比較的高温の均質化処理によってAl3Fe安定相に拡散変態させることにより、白色調のアルマイト皮膜となる傾向がある。
また、本発明のように、アルマイト色調に適切な黄味を付与するため所定量のMnを含有する場合には、鋳塊にα−Al(Fe・Mn)Si相が生成している。詳細については後述するが、鋳塊に生成したα−Al(Fe・Mn)Si相の粒子は、均質化処理によって一部マトリックスに固溶するものの最終板まで残存し、アルマイト皮膜中に取り込まれ、皮膜厚さが厚くなるとともに、アルマイト皮膜は灰色を呈し易いことが判明している。
そこで、本発明者らは、均質化処理温度、冷間圧延(調質)等製造条件等がアルマイト皮膜の色調に及ぼす影響を綿密に調査した。さらに、引張り試験、導電率の測定、アルマイト処理用素材中に存在する金属間化合物のX線回折強度分析等を通じて、白色調でかつ適切な黄味がある均一なアルマイト皮膜を施すことが可能な高強度で熱伝導性に優れたアルミニウム合金板を得るべく鋭意検討を重ね、本発明に到達した。
以下にその内容を説明する。
Mg:0.80〜1.8質量%
Mgは、アルミニウム合金板の強度を確保するため、必須の元素である。Mg含有量が0.80質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低下するため、好ましくない。Mgの含有量が1.8質量%を超えると、最終板の導電率(熱伝導度)が低下するばかりではなく、均質化処理温度にもよるが、鋳塊に存在するMg偏析層(β-Mg相)によって、バーニング(局部融解)を起こすおそれがある。
したがって、Mg含有量は、0.80〜1.8質量%と規定する。より好ましいMg含有量は、0.85〜1.7質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.90〜1.6質量%の範囲である。
Feは、アルミニウム合金板の強度を確保するため、必須の元素である。Fe含有量が0.05質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低下するため、好ましくない。Feの含有量が0.30質量%を超えると、成形性が低下するばかりではなく、均質化処理温度にもよるが、最終板に残存するα−Al(Fe・Mn)Si相の量が多くなり、α−Al(Fe・Mn)Si相の粒子はアルマイト皮膜中に取り込まれ、灰色を呈し易くなり明度(L*値)が低下するため、好ましくない。
したがって、Fe含有量は、0.05〜0.30質量%と規定する。より好ましいFe含有量は、0.07〜0.28質量%の範囲である。さらに好ましいFe含有量は、0.10〜0.25質量%の範囲である。
Siは、原料地金、返り材から混入する。Siは、Mgと金属間化合物を形成するが、0.20%を超える範囲では、固相線温度を下げることになり、保持温度560℃以上の均質化処理が不可能になる。本発明においては、保持温度560℃以上の均質化処理が必要なため、Si含有量は、0.20質量%以下の範囲と規定する。より好ましいSi含有量は、0.18質量%以下の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、0.15質量%以下の範囲である。
Cuは、原料地金、返り材から混入する。Cuは、アルマイト色調に適切な黄味(CIE規格のb*値)を付与する上で必須の元素である。Cu含有量が0.03質量%未満では、アルマイト色調の黄味(b*値)が弱くなりすぎるとともに、筺体等に必要な光沢が得られない。また、Cu含有量が0.15質量%を超えると、最終板におけるCuAl2やCuMgAl2等の析出量にもよるが、アルマイト色調の黄味(b*値)が強くなりすぎる。
したがって、Cu含有量は、0.03〜0.15質量%と規定する。より好ましいCu含有量は、0.03〜0.12質量%の範囲である。さらに好ましいCu含有量は、0.03〜0.10質量%の範囲である。
Mnは、原料地金、返り材から混入する。Mnは、アルマイト色調に適切な黄味(b*値)を付与する上で必須の元素である。Mn含有量が0.05質量%未満では、適切な黄味(b*値)が得られない。Mn含有量が0.20質量%を超えると、黄味(b*値)が強くなりすぎるばかりではなく、均質化処理温度にもよるが、最終板に残存するα−Al(Fe・Mn)Si相の量が多くなり、α−Al(Fe・Mn)Si相の粒子はアルマイト皮膜中に取り込まれ、灰色を呈し易くなり明度(CIE規格のL*値)が低下するため、好ましくない。
したがって、Mn含有量は、0.05〜0.20質量%の範囲と規定する。より好ましいMn含有量は、0.05〜0.18質量%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は、0.05〜0.15質量%の範囲である。
Crは、原料地金、返り材から混入する。Crは、アルマイト色調に適切な黄味(b*値)を付与する上で必須の元素である。Cr含有量が0.05質量%未満では、適切な黄味(b*値)が得られない。Cr含有量が0.15質量%を超えると、アルマイト色調の黄味(b*値)が強くなりすぎるため、好ましくない。
したがって、Cr含有量は、0.05〜0.15質量%と規定する。より好ましいCr含有量は、0.05〜0.12質量%の範囲である。さらに好ましいCr含有量は、0.05〜0.10質量%の範囲である。
Znは、返り材等から不可避的に混入する。Znは、アルマイト色調の黄味(b*値)を強める成分である。本発明においては、Zn含有量は、0.15質量%未満に規制する。Zn含有量が、0.15質量%以上であると、アルマイト前処理である苛性ソーダによるアルカリエッチングにおいて、処理液中へのZn溶解量が増し、酸化亜鉛を含むアルカリ浴が形成される。そのアルカリ浴中で前処理を続けると、アルミニウム合金板の表面上にZnが析出するようになり、アルマイト処理後の外観にムラが出て意匠性を阻害するおそれがある。
したがって、Zn含有量は、0.15質量%未満に規制する。より好ましいZn含有量は、0.12質量%未満である。さらに好ましいZn含有量は、0.10質量%未満である。
Tiは、原料地金、返り材から混入する。Tiは、鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止することもできる。勿論、Tiは単独で添加してもよいが、Bと共存することによりさらに強力な結晶粒の微細化効果を期待できるので、Al−5%Ti−1%Bなどのロッドハードナーでの添加であってもよい。Ti含有量が、0.001質量%未満であると、鋳塊鋳造時の微細化効果が不十分なため、鋳造割れを招くおそれがあり、好ましくない。Ti含有量が、0.10質量%を超えると、鋳塊鋳造時にTiAl3等の粗大な金属間化合物が晶出して、ストリーク状の欠陥が発生する可能性があるため、好ましくない。
したがって、好ましいTi含有量は、0.001〜0.10質量%の範囲である。より好ましいTi含有量は、0.005〜0.07質量%の範囲である。さらに好ましいTi含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲である。
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するもので、それらの許容できる含有量は、例えば、Niの0.10質量%未満、Zrの0.10質量%未満、Ga、B及びVの0.05質量%未満、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.05質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
特に、Bについては、Tiと同様に鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止することもできる。このため、必要に応じて含有させることもできる。B含有量が0.05質量%を超えると、TiB2が安定化した金属間化合物となって、結晶粒微細化効果が減衰するとともに、アルマイト色調の均一性が低下するおそれがあるため、好ましくない。
0.2%耐力:180MPa以上
本発明のアルミニウム合金素材に白色色調のアルマイト処理を施した合金板は、電子機器用の筺体等として使用されるため、高い強度が要求される。特に最近では、電子機器の薄型小型化が進んでいるため、従来よりもさらに薄肉の材料でも使用する際には容易に変形しづらく、かつ高級感を醸し出すアルマイト処理材が望まれている。
したがって、本発明に係る合金板は、引張り試験における0.2%耐力が180MPa以上のものに限定した。
前述したように、近年、電子機器の薄型小型化が進んでおり、放熱性の優れた素材も望まれている。このため、本発明に係る合金板は、導電率が40(IACS%)以上のものに限定した。導電率が40(IACS%)以上の合金板であれば、熱伝導性が高く、放熱性の優れた素材として、電子機器の筺体等の用途として好適である。
詳細については後述するが、最終板に対して、アルカリエッチング、硫酸アルマイト処理を施し、アルマイト皮膜の厚さが7μmの時に色調を測定して、CIE規格のL*値が85〜90の範囲内、同じくa*値が−1.0〜−0.3の範囲内、同じくb*値が0.5〜1.0の範囲内であれば、白色調でかつ適切な黄味があるアルマイト皮膜を施すことが可能なアルマイト処理用素材であるといえる。すなわち、A5052合金板のアルマイト色調が、規格範囲内での組成変動や調質、或いはアルマイト皮膜厚さ等の要因で多少変動したとしても、本発明であるアルマイト処理用素材は、A5052合金板のアルマイト色調に準ずる色調を実現することができる。
前述のとおり、アルマイト色調の明度(L*値)は、アルマイト処理用素材に存在するFe系の金属間化合物の種類と関係があることが知られている。鋳塊に生成したAl6Fe準安定相がアルマイト処理用素材に残存する場合、このAl6Fe準安定相の粒子はアルマイト皮膜中に酸化されずに取り込まれるため、皮膜厚さが厚くなるとともに、アルマイト皮膜は灰色を呈する。一方、Al3Fe安定相の場合には、アルマイト皮膜中に酸化されて取り込まれるため、皮膜厚が厚くなっても明度の低下が少なく、アルマイト皮膜は灰色を呈しにくい。
また、本発明のように、アルマイト色調に適切な黄味を付与するため所定量のMnを含有する場合には、鋳塊にα−Al(Fe・Mn)Si相が生成している。鋳塊に生成したα−Al(Fe・Mn)Si相の粒子は、均質化処理によって一部マトリックスに固溶するものの最終板まで残存し、アルマイト皮膜中に取り込まれ、皮膜厚さが厚くなるとともに、アルマイト皮膜は灰色を呈し易いことが判明している。
したがって、アルマイト皮膜の色調に影響を及ぼす因子として、アルマイト処理用素材をX線回折分析した際の積分回折強度比(Iα-Al(Fe・Mn)Si/IAl3Fe)を定義した。本発明の合金組成の範囲内において、アルマイト処理用素材をX線回折分析した際に、積分回折強度比(Iα-Al(Fe・Mn)Si/IAl3Fe)が0.1〜0.8の範囲内にあれば、アルマイト色調が規定範囲内に収まる。
溶解・溶製
溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするため、母合金等再度の原料投入も重要ではあるが、前記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。
インライン脱ガスは、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガス等を吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20cc/100g以下に低減することが好ましい。
鋳造のままの鋳塊においては、α-Al(Fe・Mn)Si相が存在している。均質化処理温度にもよるが、このα-Al(Fe・Mn)Si相の一部を均質化処理によってマトリックス中に固溶させることができる。また、Mn含有量にもよるが、鋳造のままの鋳塊においては、Al6Fe、AlmFe準安定相が生成している可能性もある。このような場合であっても、均質化処理温度を高く設定することによって、これらAl6Fe、AlmFe準安定相をAl3Fe安定相に拡散変態させることができる。
均質化処理温度が560℃未満であると、α-Al(Fe・Mn)Si相の固溶や上記拡散変態に要する保持時間が長くなり、生産性が低下するので好ましくない。均質化処理温度が620℃を超えると、前述のようにMg量にもよるが、鋳塊の凝固時に生成したミクロ的なMg偏析層(β-Mg相)においてバーニング(局部融解)を起こすおそれがある。
したがって、均質化処理温度は560〜620℃の範囲とする。
均質化処理温度における保持時間が1時間未満であると、処理炉内の昇温速度などにもよるが、鋳塊全体の実体温度が所定の均質化温度に到達しないおそれがある。均質化処理温度における保持時間が5時間を超えると、均質化処理温度にもよるが、それ以上の効果は期待できず、酸化によるスケールの発生が激しくなり生産性も低下するため、好ましくない。したがって、均質化処理温度における保持時間は、1〜5時間とする。
熱間圧延
均質化処理を施された鋳塊は、その後クレーンで吊るされて、均質化処理炉から熱間圧延機に持ち来たされ、熱間圧延機の機種にもよるが、通常何回かの圧延パスによって熱間圧延されて所定の厚み、例えば3〜8mm程度の厚みの熱延板としてロールに巻き取る。
熱間圧延板を巻き取ったロールは、冷延機に通され、通常何パスかの冷間圧延が施される。この際、冷間圧延によって導入される塑性歪により加工硬化が起こるため、必要に応じて、中間焼鈍処理が行なわれる。通常中間焼鈍は軟化処理でもあるので、材料にもよるがバッチ炉に冷延ロールを挿入し、300〜400℃の温度で、1時間以上の保持が行なわれる。保持温度が300℃よりも低いと、軟化が促進されず、保持温度が400℃をこえると、生産性が低下して処理コストが高くなる。また、この中間焼鈍を連続焼鈍炉(CAL)にて行う場合には、420〜480℃の温度で、15秒以内の保持が行われる。保持温度が420℃よりも低いと、軟化が促進されず、保持温度が480℃をこえると、生産性が低下して処理コストが高くなる。
前述したように、冷間圧延時の中間焼鈍条件も含めた最終板の調質によっても、析出物の析出状態が変化し、転位密度も変化する。このため、アルカリエッチング処理におけるエッチピットの状態が変化することになり、アルマイト皮膜処理後の色調及び色調の均一性にも影響を及ぼすことになる。
最終冷延率が15%未満の場合、最終板の転位密度が低いため、エッチピット密度も低くなり、アルマイト処理材の明度(L*値)を低下させ、筋っぽさを消す効果が低下する。最終冷延率は15%以上であれば、最終板の転位密度も高くなってエッチピット密度も高くなり、アルマイト処理材の明度(L*値)を増加させ、筋っぽさを消す効果がある。最終冷延率が95%を超えると、コイルの耳割れが発生して、歩留まりが低下するおそれがあるため、好ましくない。したがって、最終冷延率は、15〜95%が好ましい。より好ましい最終冷延率は、20〜95%の範囲である。さらに好ましい最終冷延率は、30〜95%の範囲である。
本発明において、最終冷間圧延の後に行なわれる最終焼鈍は、例えば焼鈍炉によって温度150〜200℃で1時間以上保持するバッチ処理であってもよいが、連続焼鈍炉によって例えば200℃〜250℃の温度で15秒以内保持する連続焼鈍処理であってもよい。いずれにしても、本発明において最終焼鈍は必ずしも必須ということではないが、アルマイト処理前に金型成形を行う場合も考慮すると、最終板をやや軟化させておくことが望ましい。金型成形における成形性も考慮すると、比較的低温で焼鈍処理しておくことが望ましい。また、この比較的低温の焼鈍処理は、軟化処理としての意味もあるが、安定化処理としての意味もある。焼鈍処理を施さない圧延のまま材では、長期間の時間経過とともに耐力の低下が認められるため、予め時効処理しておき、耐力を長期間安定化させる狙いがある。
所定の各種インゴットおよびスクラップ材を計量、配合して、溶解炉兼保持炉内に投入した。800℃溶解したところで、脱滓用フラックス1kgを2個投入し、次いで、撹拌棒によって、炉内のアルミニウム溶湯を十分に撹拌した。次いで、Mgインゴットを投入し、さらに30分間の鎮静を行った後、スプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを採取した。次いで、溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去し、先ほど採取したディスクサンプルの中間分析結果を基に、不足している成分について、各種インゴットを投入添加し、さらに溶湯を撹拌した。その後、さらに30分間の鎮静を行ってスプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを再度採取した。
引張り特性の評価
得られた最終板の強度評価は、引張り試験における0.2%耐力(MPa)によって行った。具体的には、引張り方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、引張強度、0.2%耐力、伸び(破断伸び)を求めた。本明細書において、0.2%耐力が180MPa以上であった供試材を強度良好(○)とし、0.2%耐力が180MPa未満であった供試材を強度不足(×)とした。評価結果を表3に示す。
次にアルマイト処理では、供試材を硫酸濃度170g/L、溶存Al:10g/Lの溶液中で液温18℃、電流密度1.0A/dm2でアルマイト処理を行い、皮膜厚さが7μmになるようアルマイト処理した後、水洗し、95℃で、15分間封孔処理させた後、水洗し、常温乾燥させた。
上記のようにして施したアルマイト皮膜(7μm厚さ)の色調を測定して評価を行った。アルマイト皮膜色調の測定は、色彩色差計(CR−300 MINOLTA社製)を用いて、D65光源を用いて、JIS Z8722に準じて行った。測色値はCIE規格のL*a*b*表色系で表す。L*値は明度を表し、値が大きいほど明るくなり、白色調に近くなる。a*値とb*値は色合いを表し、a*値は+側が赤色、−側が緑色、b*値は+側が黄色、−側が青色を表し、それぞれの絶対値が大きいほど色合いが強くなる。
本明細書において、L*値が85〜90の範囲内であった供試材を色調評価良好(○)とし、L*値が85〜90の範囲外であった供試材を色調評価不良(×)とした。a*値が−1.0〜−0.3の範囲内であった供試材を色調評価良好(○)とし、a*値が−1.0〜−0.3の範囲外であった供試材を色調評価不良(×)とした。b*値が0.5〜1.0の範囲内であった供試材を色調評価良好(○)とし、b*値が0.5〜1.0の範囲外であった供試材を色調評価不良(×)とした。評価結果を併せて表3に示す。
導電率(IACS%)は、導電率計(AUTOSIGMA 2000 日本ホッキング株式会社製)にて、測定を実施した。導電率が40(IACS%)以上であった供試材を導電率良好(○)とし、導電率が40(IACS%)未満であった供試材を導電率不良(×)とした。評価結果を併せて表3に示す。
総合評価は、アルマイト皮膜の厚さが7μmの時のアルマイト色調の測定結果のL*値、a*値、b*値の全てが上述した基準範囲内にあり、0.2%耐力が180MPa以上、かつ導電率が40(IACS%)以上の全てを満たした供試材のみ総合評価良好(○)とし、前記項目のひとつでも満たさないものがあれば総合評価不良(×)とした。
比較例1の供試材(A5052合金組成)は、Mg含有量が2.7質量%と高かったため、均質化処理温度は530℃と低く設定された。比較例1の供試材は、Mn含有量が0.02質量%と低かったが、Cr含有量が0.18質量%と高かったため、アルマイト色調のL*値、a*値、b*値とも規定範囲内であった。しかし、Mg含有量が2.7質量%と高かったため、導電率が35(IACS%)で低すぎて規定範囲外であった。
比較例3の供試材は、均質化処理温度が580℃と高かったため、アルマイト色調のL*値は規定範囲内であった。しかし、Cu含有量が0.02質量%と低かったため、アルマイト色調のb*値が低すぎて規定範囲外であった。
比較例4の供試材は、Cu含有量が0.17質量%と高かったため、アルマイト色調のL*値が低く、b*値が高すぎて規定範囲外であった。
比較例6の供試材は、Fe含有量が0.49質量%と高く、Mn含有量が1.09質量%と極めて高く、さらに均質化処理温度が530℃と低かったため、アルマイト色調のL*値が低く、a*値、b*値が高すぎて規定範囲外であった。
比較例7の供試材は、Mn含有量、Cr含有量ともに0.01質量%と低かったため、アルマイト色調のb*値が低すぎて規格範囲外であった。
XRD装置は、(株)リガク製X線回折装置RAD−rRを用いて測定した。測定条件は、管球Cu−Kα、管電圧50kV、管電流200mA、走査速度1°/min、走査範囲(2θ)10°〜70°とした。そして、検出された各相を代表するピークのうち、強度が高く、他成分に由来するピークと重複の無い1ピークについて、すなわちα−Al(Fe・Mn)Siは2θ=41.7°付近、Al3Feは2θ=24.1°付近、AlmFeは2θ=25.7°付近のピークについて積分回折強度を求めた。なお、これらの積分回折強度は各試料につき3回の平均値(n=3)で算出した。表4に、分析した供試材No、均質化処理温度、アルマイト7μm時のL*値、およびXRD回折の強度測定結果を示す。
Claims (6)
- Mg:0.80〜1.8質量%、Fe:0.05〜0.30質量%、Si:0.20質量%以下、Cu:0.03〜0.15質量%、Mn:0.05〜0.20質量%、Cr:0.05〜0.15質量%を含み、Zn:0.15質量%未満に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、0.2%耐力が180MPa以上、導電率が40以上(IACS%)であることを特徴とする高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板。
- X線回折分析を行った際の積分回折強度比(Iα-Al(Fe・Mn)Si/IAl3Fe)が0.1〜0.8の範囲内である請求項1に記載の高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板。
- 請求項1に記載の成分組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、560〜620℃の温度で1〜5時間保持する均質化処理を施した後、熱間圧延と、中間焼鈍を介して或いは介さずに、最終冷延率15〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする請求項1に記載の高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記冷間圧延の後に、さらに最終焼鈍を施す請求項3に記載の高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1又は請求項2に記載の高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板を基材とし、その表面に陽極酸化皮膜を有するアルミニウム合金板であって、前記陽極酸化皮膜の色調範囲が、L*値:85〜90、a*値:−1.0〜−0.3、b*値:0.5〜1.0であることを特徴とする高強度陽極酸化皮膜付きアルミニウム合金板。
- 陽極酸化皮膜付きA5052合金板と組み合わせて電子機器の筺体として使用される請求項5に記載の高強度陽極酸化皮膜付きアルミニウム合金板。
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JP2012160362A JP5924585B2 (ja) | 2012-07-19 | 2012-07-19 | 高強度アルマイト処理用アルミニウム合金板及びその製造方法、並びに高強度陽極酸化皮膜付きアルミニウム合金板 |
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