[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態である車両用前照灯100について、図面を参照しながら説明する。
本願の発明者らは、実験を行い検討を重ねた結果、夜間運転時の暗い環境下では年齢が高くなるにつれ短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)が少ない光源に対する周辺視での気づきが低下することを見出した。また、夜間運転時の暗い環境下では年齢が高くなるにつれ短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)が多い光源に対する周辺視での気づきが向上することを見出した。そして、本願の発明者らは、上記知見及び人間の眼の視覚特性に基づき検討を重ねた結果、人間の視覚特性に適応するように、年齢に応じて配光範囲や分光分布を変化させることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させることが可能となると考え、この着想に基づき本発明を完成した。
まず、本願の発明者らが行った実験について説明する。
以下の実験では、短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)の割合を表す指標としてS/P比を用いた。S/P比は、次の式で表される。ただし、S(λ)は光源のスペクトル、V(λ)は明所視での比視感度、V´(λ)は暗所視での比視感度である。
S/P比は、公知の測定装置(例えば、分光放射輝度計)を用いて測定対象の光源から放射される光のスペクトルを測定し、上記式を用いて演算することで求められる。
従来、車両用前照灯においては、S/P比2.0以上の光源は用いられておらず、夜間運転時の暗い環境下でS/P比2.0以上の光源からの光が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
次の表1に、本願の発明者らが測定した一般的な車両用前照灯の光源のS/P比を示す。S/P比が高い光源ほど、短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)が多いことを表す。
表1の各光源は、市販の車両に実際に搭載されている車両用前照灯の光源として用いられている光源である。表1を参照すると、一般的な車両用前照灯の光源のS/P比は、1.5〜1.8程度であることが分かる。
ハロゲン電球、HID電球はその構造上S/P比を変化させることが難しく、S/P比はほぼ表1に示した1.46、1.75となる。
表1の各LEDは、青色LED素子とYAG等の黄色蛍光体とを組み合わせた構造の白色LEDである。この構造の白色LEDは、発光色が、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、運転者の眼に自然な色に見えるように、黄色蛍光体の濃度が調整されている。なお、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲は、座標値(0.31,0.28),(0.44,0.38),(0.50,0.38),(0.50,0.44),(0.455,0.44),(0.31,0.35)を結ぶ直線で囲まれた範囲である。
上記構造の白色LEDは、S/P比が1.5より小さいと、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすことが難しくなる。従って、S/P比の下限は1.5近傍となる。一方、S/P比が2程度(1.95程度)までであれば法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすことが可能であるが、S/P比が1.8を超えて2に近づくと黄色光が減って青っぽい光となり、運転者の眼に不自然な色に見える。また、S/P比が1.8を超えて2に近づくと効率が低下し(光束が減少し)、車両用前照灯の光源に求められる明るさを確保できなくなる。従って、運転者の目に自然な色に見え、かつ、高効率の車両用前照灯を構成する観点から、上記構造の白色LEDのS/P比の上限は1.8近傍となる。
以上のように、従来、一般的な車両用前照灯の光源のS/P比は、1.5〜1.8程度で、S/P比2.0以上の光源は用いられておらず、夜間運転時の暗い環境下でS/P比2.0以上の光源からの光が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
[実験]
本願の発明者らは、夜間運転時の暗い環境下でS/P比(特にS/P比2.0以上)が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかを確認すべく、以下の実験を行った。
図1は実験に用いた装置の構成図、図2は実験に用いた光源のS/P比を示すグラフである。
実験には、図1に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として、次の表2及び図2に示す相関色温度及びS/P比が異なる合計7つの光源を用いた。
図3は、実験に用いた各光源の分光分布である。なお、THはハロゲン電球、HIDはHID電球を表している。LEDの横に付した数字(例えば、4500K)は相関色温度を表している。
LED4500K、LED5500K、LED6500Kは、青色LED素子及び黄色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDで、黄色蛍光体の濃度を調整することで、相関色温度及びS/P比を表2に示すように調整した。
図4(a)はS/P比が2.0以上の光源(LED5500K(new1)、LED5500K(new2))の構造例である。
図4(a)に示すように、LED5500K(new1)、LED5500K(new2)は、青色LED素子B、赤色LED素子R及び緑色蛍光体Gを組み合わせた構造の白色LEDで、緑色蛍光体Gの濃度を調整し緑色光を増やすことで、S/P比を表2に示すように調整した。緑色蛍光体Gは、青色LED素子B、赤色LED素子Rを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑色光を発光する。緑色光が増えると、発光色がブルーグリーンとなり、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を逸脱する。そこで、赤色LED素子Rを加えその出力を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲内となるように調整した。
LED5500K(new1)及びLED5500K(new2)は、分光分布が周辺視での気づきが高いと予測される光源の分光分布に近い形状となるように調整した。
図5はLED5500K(new1)の分光分布、図6はLED5500K(new2)の分光分布である。図7は、視感度の形状から予測される周辺視での気づきの高い光源の分光分布の例である。図7に示した光源によれば、青色LED素子からの青色光(図7中丸数字の1参照)、青色LED素子からの青色光(図7中丸数字の1参照)によって励起される緑色蛍光体からの緑色光(図7中丸数字の2参照)、赤色LED素子からの赤色光(図7中丸数字の3参照)により、白色光が実現される。図7に示した分光分布によれば、図7中の丸数字の2の山が視感度曲線に合致しているため、効率良く明るさを感じさせることが可能となる。
図5、図6を参照すると、LED5500K(new1)及びLED5500K(new2)の分光分布が、図7に示した周辺視での気づきが高いと予測される光源の分光分布に近い形状であることが分かる。
実験は、次の手順で行った。まず、図1に示すように、正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視して表示された文字を読んでいる間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置に一定輝度(1、0.1、0.01[cd/m2])に調整した光源が照射しているグレーの色材をランダムに呈示した。
そして、光源を点灯してから(白色光を呈示してから)、呈示光(グレーの色材からの反射光)に気づいた被験者が、手元にあるボタンを押すまでの時間(反応時間RT)を測定した。以上を、光源ごとに測定した。
なお、実験に用いた光源の輝度設定値は1、0.1、0.01[cd/m2]の3段階、背景輝度は1[cd/m2]である。被験者は45歳未満5名(30代3名、40代2名)、45歳以上5名(40代2名、50代3名)である。
従来、夜間運転時の暗い環境下で年齢が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
本願の発明者らは、上記測定結果を分析した結果、夜間運転時の暗い環境下では年齢が高くなるにつれ周辺視野(30°、45°、60°、75°の位置)に呈示したS/P比が低い光源に対する気づきが低下すること、夜間運転時の暗い環境下では年齢が高くなるにつれS/P比が高い光源に対する周辺視での気づきが向上すること(反応時間が短くなり、見逃し率が低下すること)を見出した。
図8〜図10に測定結果を示す。図8は、横軸が光源の呈示角度、縦軸が見逃し率の座標系に、45歳未満の測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。なお、見逃し率とは、光源を点灯してから被験者が呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合のことである。図9は、横軸が光源の呈示角度、縦軸が見逃し率の座標系に、45歳以上の測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。図10は、横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。図10中の数字は各データ群の決定係数である。
図8、図9を参照すると、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が低い光源(TH、LED4500K、LED5500K、HID、LED6500等)に対する見逃し率が増加すること、すなわち、年齢が高くなるにつれS/P比が低い光源(TH、LED4500K、LED5500K、HID、LED6500等)に対する周辺視(例えば、30°、45°、60°、75°の位置)での気づきが低下することが分かる。
また、図8、図9を参照すると、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が高い光源(LED5500K(new1),LED5500K(new2)等)に対する見逃し率が低下すること、すなわち、年齢が高くなるにつれS/P比が高い光源(LED5500K(new1),LED5500K(new2)等)に対する周辺視(例えば、30°、45°、60°、75°の位置(特に、60°、75°の位置)での気づきが向上することが分かる。
また、図10を参照すると、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が2.0以上に増加するにつれ反応速度が短くなり、見逃し率が低下すること、すなわち、年齢が高くなるにつれS/P比が2.0以上の光源に対する周辺視での気づきが向上することが分かる。
なお、45歳未満では、S/P比が増加しても反応時間及び見逃し率はほぼ横ばいで、両者の間に相関は見られない。
従来、車両用前照灯の配光範囲は、年齢にかかわらず一定で、変化しなかった。
本出願の発明者らは、年齢が高くなるにつれS/P比が高い光源に対する周辺視での気づきが向上すること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)を見出し(上記実験参照)、この知見及び人間の眼の視覚特性に基づいて検討を重ねた結果、人間の視覚特性に適応するように、年齢に応じて配光範囲を変えることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能になると考え、この着想に基づき本発明を完成した。
以下、年齢に応じて配光範囲を変えることが可能な車両用前照灯100の構成例について説明する。
図11は、年齢に応じて配光範囲を変えることが可能な車両用前照灯100を搭載した車両Vの正面図である。
図11に示すように、本実施形態の車両用前照灯100は、自動車等の車両Vの前面の左右両側に配置されており、片側3つの灯具ユニット10、20、30を備えている。各灯具ユニット10〜30には、その光軸調整が可能なように公知のエイミング機構(図示せず)が連結されている。
[灯具ユニット10]
灯具ユニット10は、公知のプロジェクタ型の灯具ユニットであり、車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上にすれ違いビーム用配光パターンP1を形成するように構成されている。灯具ユニット10の光源は、例えば、S/P比が1.82のHID電球(又はS/P比が1.5〜1.8程度の白色LED)である。
図12(a)は、灯具ユニット10により車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1(スクリーン配光)の例である。図14は、車両用前照灯100により路面上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1(路面配光)の例である。図14中、すれ違いビーム用配光パターンP1の輪郭は2[lx]のラインを示している。
カットオフラインは、鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側が、対向車線側カットオフラインCLRとして水平方向に延びるようにして形成されるとともに、V−V線より左側が、自車線側カットオフラインCLLとして対向車線側カットオフラインCLRよりも段上がりで水平方向に延びるようにして形成されている。そして、この自車線側カットオフラインCLLにおけるV−V線寄りの端部は、斜めカットオフラインCLSとして形成されている。この斜めカットオフラインCLSは、対向車線側カットオフラインCLRとV−V線との交点から左斜め上方の傾斜角(例えば45°程度)で延びている。
すれ違いビーム用配光パターンP1においては、対向車線側カットオフラインCLRとV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Hの0.5〜0.6°程度下方に位置しており、このエルボ点Eをやや左寄りに囲むようにして高光度領域が形成されている。
なお、灯具ユニット10は、すれ違いビーム用配光パターンP1を形成するように構成された灯具ユニットであればよく、公知のリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、公知のダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。
[灯具ユニット20]
灯具ユニット20は、公知のプロジェクタ型の灯具ユニットであり、車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上に走行ビーム用配光パターンP2を形成するように構成されている。灯具ユニット20の光源は、例えば、S/P比が1.46のハロゲン電球である。
図12(b)は、灯具ユニット20により形成される走行ビーム用配光パターンP2の例である。走行ビーム用配光パターンP2は、水平線H−Hと鉛直線V−Vとの交点を含む領域を照射する高光度の配光パターンである。
なお、灯具ユニット20は、走行ビーム用配光パターンP2を形成するように構成された灯具ユニットであればよく、公知のリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、公知のダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。
[灯具ユニット30]
灯具ユニット30は、視覚特性補完用追加ランプ30A、視覚特性補完用追加ランプ30B等を備えている。
視覚特性補完用追加ランプ30Aは、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AX(図14参照)に対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲を照射するランプである。
一方、視覚特性補完用追加ランプ30Bは、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲を照射するランプである。
図13(a)は、プロジェクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A1、30B1の構成例である。
図13(a)に示すように、プロジェクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A1、30B1はそれぞれ、車両前後方向に延びる光軸AX30上に配置された投影レンズ31、投影レンズ31の後側焦点F31より後方側かつ光軸AX30近傍に配置された第1光源32A(又は第2光源32B)、第1光源32A(又は第2光源32B)の上方に配置された反射面33等を備えている。
投影レンズ31は、レンズホルダー等(図示せず)に保持されて車両前後方向に延びる光軸AX30上に配置されている。投影レンズ31は、例えば、車両前方側表面が凸面で車両後方側表面が平面の平凸非球面の投影レンズである。
第1視覚特性補完用LED光源32A(第2視覚特性補完用LED光源32Bも同様)は、例えば、図4(a)に示すように、青色LED素子B、赤色LED素子R及び緑色蛍光体Gを組み合わせた構造の白色LED(例えば1ミリ角の発光面×4)である。緑色蛍光体Gは、青色LED素子B、赤色LED素子Rを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑色光を発光する。緑色光が増えると、発光色がブルーグリーンとなり、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を逸脱する。そこで、赤色LED素子Rを加えその出力を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲内となるように調整した。青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体としては、公知のものを用いることが可能である。
各光源32A、32Bは、緑色蛍光体の濃度等を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0に調整されている。なお、各光源32A、32Bの相関色温度は、4500〜7000K又は5000〜6000Kの白色光が望ましい。
なお、各光源32A、32BのS/P比は2.0に限定されない。S/P比が2.0以上に増加するにつれ夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきが向上する(反応速度RTが短くなり、見逃し率が低下する)という知見(上記実験参照)に基づけば、各光源32A、32Bは、S/P比が2.0〜3.0の範囲の光源であればよい。S/P比3.0を上限とした理由は、S/P比が3.0を超えると、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすことが難しくなるためである。
各光源32A、32Bは、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0以上の光源であればよく、青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDに限定されない。
例えば、各光源32A、32Bは、図4(b)に示すように、青色LED素子Bと緑及び赤色蛍光体GRとを組み合わせた構造の白色LEDであってもよい。緑及び赤色蛍光体GRは、青色LED素子Bを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑及び赤色光を発光する。また、各光源32A、32Bは、赤色LED素子、緑色LED素子及び青色LED素子を組み合わせた構造の白色LEDであってもよいし、紫外若しくは近紫外LED素子とRGB蛍光体とを組み合わせた構造の白色LEDであってもよい。これらの構造の白色LEDであっても、蛍光体の濃度等を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0以上の光源を構成することが可能である。
各光源32A、32B(白色LED)は、その発光面を上に向けた状態で基板K上に実装されて、投影レンズ31の車両後方側焦点F31より後方側かつ光軸AX30近傍に配置されている。各白色LED32A、32Bは、その一辺を光軸AX30に直交する水平線に沿わせて所定間隔で一列(図13(a)中紙面に直交する方向)に複数個(例えば4個)かつ光軸AX30に対して対称に配置されている。
反射面33は、第1焦点F1が第1光源32A(又は第2光源32B)近傍に設定され、第2焦点F2が投影レンズ31の後側焦点F31近傍に設定された回転楕円系の反射面(回転楕円面又はこれに類する自由曲面等)である。
反射面33は、各光源32A、32Bから略上向きに放射される光が入射するように、各光源32A、32Bの側方(図13(a)中、車両後方側の側方)から投影レンズ31に向かって延びて、各光源32A、32Bの上方を覆っている。
視覚特性補完用追加ランプ30Aを構成する反射面33は、当該反射面33で反射されて投影レンズ31を透過して前方に照射される第1光源32Aからの光を、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲に配光するように設計されている。一方、視覚特性補完用追加ランプ30Bを構成する反射面33は、当該反射面33で反射されて投影レンズ31を透過して前方に照射される第2光源32Bからの光を、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲に配光するように設計されている。
上記構成のプロジェクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A1によれば、第1光源32Aから放射された光は、反射面33で反射されて投影レンズ31の後側焦点F31近傍で収束した後、投影レンズ31を透過して前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲が照射される(図14、図15参照)。図14は、視覚特性補完用追加ランプ30A1、30B1の照射範囲(路面配光)の例である(灯具ユニット10により路面上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1を含む)。図15は、図14に示した配光パターンに対応するスクリーン配光の例である(車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上に形成される)。
また、上記構成のプロジェクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30B1によれば、第2光源32Bから放射された光は、反射面33で反射されて投影レンズ31の後側焦点F31近傍で収束した後、投影レンズ31を透過して前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲が照射される(図14、図15参照)。
上記構成の灯具ユニット30(視覚特性補完用追加ランプ30A1、視覚特性補完用追加ランプ30B1)によれば、視覚特性補完用LED光源32A、32Bを制御することで、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲(車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜75°(又は右30〜75°)の範囲又は左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲)に制御することが可能となる。
なお、視覚特性補完用追加ランプ30Aは、第1光源32Aからの光を左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲に配光するものであればよく、図13(b)に示す公知のリフレクタ型の灯具ユニット30A2であってもよいし、図13(c)に示す公知のダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニット30A3であってもよい。
同様に、視覚特性補完用追加ランプ30Bは、第2光源32Bからの光を左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲に配光するものであればよく、図13(b)に示す公知のリフレクタ型の灯具ユニット30B2であってもよいし、図13(c)に示す公知のダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニット30B3であってもよい。
図13(b)は、リフレクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A2、30B2の例である。
図13(b)に示すように、リフレクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A2、30B2はそれぞれ、車両前後方向に延びる光軸AX30近傍に発光面を略下に向けた状態で配置された第1光源32A(又は第2光源32B)、焦点F34が第1光源32A(又は第2光源32B)近傍に設定された放物面系の反射面34(回転放物面又はこれに類する自由曲面等)等を備えている。
各光源32A、32B(白色LED)は、その発光面を下に向けた状態で基板上に実装されて、反射面34の焦点F34近傍に配置されている。白色LED32A、32Bは、その一辺を光軸AX30に直交する水平線に沿わせて所定間隔で一列(図13(b)中紙面に直交する方向)に複数個(例えば4個)かつ光軸AX30に対して対称に配置されている。
視覚特性補完用追加ランプ30A2を構成する反射面34は、第1光源32Aから入射する光を予め定められた方向へ反射(配分)して、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲に配光するように設計されている。一方、視覚特性補完用追加ランプ30B2を構成する反射面34は、第2光源32Bから入射する光を予め定められた方向へ反射(配分)して、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲に配光するように設計されている。
上記構成のリフレクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30A2によれば、第1光源32Aから放射された光は、反射面34で反射されて前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲が照射される(図14参照)。
また、上記構成のリフレクタ型の視覚特性補完用追加ランプ30B2によれば、第2光源32Bから放射された光は、反射面34Aで反射されて前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲が照射される(図14参照)。
上記構成の灯具ユニット30(視覚特性補完用追加ランプ30A2、視覚特性補完用追加ランプ30B2)によっても、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲(車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜75°(又は右30〜75°)の範囲又は左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲)に制御することが可能となる。
図13(c)は、ダイレクトプロジェクション型(直射型)の視覚特性補完用追加ランプ30A3の例である。
図13(c)に示すように、ダイレクトプロジェクション型(直射型)の視覚特性補完用追加ランプ30A3、30B3はそれぞれ、車両前後方向に延びる光軸AX30上に配置された投影レンズ35、投影レンズ35の後側焦点F35近傍に発光面を投影レンズ35に向けた状態で配置された第1光源32A(又は第2光源32B)等を備えている。
各光源32A、32B(白色LED)は、その発光面を投影レンズ35に向けた状態で基板K上に実装されて、投影レンズ35の焦点F近傍に配置されている。各白色LED32A、32Bは、その一辺を光軸AX30に直交する水平線に沿わせて所定間隔で一列(図13(c)中紙面に直交する方向)に複数個(例えば4個)かつ光軸AX30に対して対称に配置されている。
視覚特性補完用追加ランプ30A3を構成する投影レンズ35の出射面は、当該投影レンズ35の出射面から出射する第1光源32Aからの光を予め定められた方向へ屈折させて、左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲に配光するように設計されている。一方、視覚特性補完用追加ランプ30B3を構成する投影レンズ35の出射面は、当該投影レンズ35の出射面から出射する第2光源32Bからの光を予め定められた方向へ屈折させて、左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲に配光するように設計されている。
上記構成のダイレクトプロジェクション型の視覚特性補完用追加ランプ30A3によれば、第1光源32Aから放射された光は、投影レンズ35を透過して前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲(図14参照)が照射される。
また、上記構成のダイレクトプロジェクション型の視覚特性補完用追加ランプ30B3によれば、第2光源32Bから放射された光は、投影レンズ35を透過して前方に照射される。これにより、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲(図14参照)が照射される。
上記構成の灯具ユニット30(視覚特性補完用追加ランプ30A3、視覚特性補完用追加ランプ30B3)によっても、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲(車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜75°(又は右30〜75°)の範囲又は左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲)に制御することが可能となる。
次に、車両用前照灯100の変形例について説明する。
図16(a)は、灯具ユニット10を2つのユニット(例えば集光域を照射するプロジェクタ型の第1ユニット10A、拡散域を照射するプロジェクタ型の第2ユニット10B)で構成し、片側に5つの灯具ユニット10A、10B、20、30A(30A1〜30A3)、30B(30B1〜30B3)を一列に配置した車両用前照灯100Aの例(変形例)である。
なお、灯具ユニット10A、10B、30A、30Bの光源として、図16(b)に示すようなマトリックス光源を用いてもよい。
図16(b)は、灯具ユニット10の光源として、S/P比が1.5〜1.8程度の光源10a、光源32A及び光源32Bがマトリックス状に配置されたマトリックス光源を用い、片側に2つの灯具ユニット10、20を一列に配置した車両用前照灯100Bの例(変形例)である。
上記各変形例によっても、各光源の点灯箇所を制御することで、ドライバーの年齢に応じた配光範囲(車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜75°(又は右30〜75°)の範囲又は左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲)に制御することが可能となる。
なお、視覚特性補完用追加ランプ30A又は30B(又はこれに相当するランプ)を、鉛直軸を中心にスイブル可能に支持する公知の支持手段、視覚特性補完用追加ランプ30A又は30B(又はこれに相当するランプ)に連結された公知のアクチュエータ等を設けてもよい。このようにすれば、アクチュエータを制御して視覚特性補完用追加ランプ30A又は30B(又はこれに相当するランプ)をスイブルさせることで、ドライバーの年齢に応じた配光範囲に制御することが可能となる。
[配光範囲制御システム60]
次に、灯具ユニット30の配光範囲を制御する配光範囲制御システムについて説明する。
図17(a)は配光範囲制御システム60のシステム構成図、図17(b)は配光範囲データの例である。
図17(a)に示すように、配光範囲制御システム60は、ドライバー選択/登録部61、ドライバー年齢算出部62、判定部63、制御部64等を備えている。制御部64には、視覚特性補完用LED光源32A、32Bが電気的に接続されている。これら各部の機能は、例えば、車両Vに搭載されたECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
ドライバー選択/登録部61は、ドライバーの氏名と生年月日とを入力する機能、当該入力されたドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部62aに登録する機能、データベース部62aに登録されたドライバーの氏名の中から特定のドライバーの氏名をドライバーに選択させる機能等を備えている。
ドライバー年齢算出部62は、現在の年月日を把握するクロック機能、ドライバー選択/登録部61で選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部62aから読み出す機能、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づき、ドライバーの年齢を算出する機能等を備えている。
判定部63は、ドライバー年齢算出部62で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲データ及び明るさデータをデータベース部63aから読み出す機能等を備えている。
図17(b)に示すように、データベース部63aには、複数の年齢(又は年齢層)と当該複数の年齢(又は年齢層)それぞれに対応する配光範囲データ(例えば、視覚特性補完用LED光源32A、32Bのうち点灯する光源を特定するデータ又はスイブル角)と明るさデータ(例えば、路面上の照度ラインが2[lx]となるように予め定められた電流値である。)とが対応付けられて格納されている。なお、2[lx]とした理由は、月明かり(例えば、満月)の下での照度が略1[lx]であるため、これよりも若干明るくすることで、照射されていることが分かるようにするためである。
制御部64は、判定部63により読み出された配光範囲データに基づき、視覚特性補完用LED光源32A、32Bのうち当該配光範囲データにより特定される光源を制御してこれを点灯させることで、灯具ユニット30の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲に制御する。又は、制御部64は、アクチュエータを制御して視覚特性補完用追加ランプ30A又は30B(又はこれに相当するランプ)を判定部63により読み出された配光範囲データにより特定されるスイブル角スイブルさせることで、灯具ユニット30の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲に制御する。
次に、上記構成の配光範囲制御システム60の動作について、図18を参照しながら説明する。
図18は、配光範囲制御システム60の動作を説明するためのフローチャートである。
以下の処理は、主に車載のECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
まず、データベース部62aに登録されているドライバーの氏名が検索される(ステップS1)。ドライバー選択/登録部61は、その検索されたドライバーの氏名を、例えば、車載のタッチパネル付きの画面(例えば、ナビ画面。図17(a)中の符号S参照)に表示する。
この画面中に自己の氏名が表示されていない場合(ステップS2:no)、ドライバーは、画面中の「新規ドライバー」を、タッチパネルを介して選択して、自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を入力する(ステップS3)。ドライバー情報の入力は、例えば、ドライバーの免許証又は携帯電話機等から読取部(図示せず)で当該ドライバーの氏名、生年月日等のドライバー情報を読み取り、その読み取ったドライバー情報を入力するようにしてもよいし、画面に50音のキーセット等を表示し、タッチパネルを介して自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を直接入力するようにしてもよい。
ドライバー選択/登録部61は、ステップS3で入力されたドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部62aに登録する(ステップS4)。
一方、画面中に自己の氏名が表示されている場合(ステップS2:yes)、ドライバーは、画面中の自己の氏名を、タッチパネルを介して選択する(ステップS5)。
ドライバーの氏名が選択されると、ドライバー年齢算出部62は、当該選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部62aから読み出し、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づいてドライバーの年齢を算出する(ステップS6)。
判定部63は、ステップS6で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲データ及び明るさデータをデータベース部63aから読み出す。
例えば、ステップS6で算出されたドライバーの年齢が45歳以上の場合(ステップS7:no)、判定部63は、45歳以上に対応付けられた配光範囲データ(点灯する光源=視覚特性補完用LED光源32A及び32B)及び明るさデータ(電流値I1)をデータベース部63aから読み出す(ステップS8)。そして、制御部64は、その読み出された45歳以上に対応付けられた配光範囲データ及び明るさデータに基づき、当該配光範囲データにより特定される視覚特性補完用LED光源32A及び32Bに電流値I1を印加してこれを点灯させる(ステップS9)。
視覚特性補完用LED光源32Aから放射された光は、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左45〜75°(又は右45〜75°)の範囲を照射する(図14参照)。また、視覚特性補完用LED光源32Bから放射された光は、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲を照射する(図14参照)。この場合、路面上の2[lx]ラインは、左右30〜75°にかけての範囲に広がる(図14参照)。
左右30〜75°の範囲にした理由は、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が高い光源に対する周辺視(30°、45°、60°、75°の位置)での気づきが向上するとの知見(上記実験参照)に基づき、45歳以上の周辺視での気づきを向上させるためである。
以上のようにして、灯具ユニット30の配光範囲がドライバーの年齢(45歳以上)に適応した配光範囲に制御される。
一方、ステップS6で算出されたドライバーの年齢が45歳未満の場合(ステップS7:yes)、判定部63は、45歳未満に対応付けられた配光範囲データ(点灯する光源=視覚特性補完用LED光源32B)及び明るさデータ(電流値I2)をデータベース部63aから読み出す(ステップS10)。そして、制御部64は、その読み出された45歳未満に対応付けられた配光範囲データ及び明るさデータに基づき、当該配光範囲データにより特定される視覚特性補完用LED光源32Bに電流値I2を印加してこれを点灯させる(ステップS11)。
視覚特性補完用LED光源32Bから放射された光は、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左30〜45°(又は右30〜45°)の範囲を照射する(図14参照)。この場合、路面上の2[lx]ラインは、左右30〜45°にかけての範囲に広がる(図14参照)。
左右30〜45°の範囲にした理由は、45歳未満では、45歳以上と比べて、60°、75°の位置に呈示された光源に対する見逃し率が小さく、60°、75°の範囲を照射しても気づきが向上しないため(上記実験参照)、60°、75°の範囲を照射する意味がないためである。
以上のようにして、灯具ユニット30の配光範囲がドライバーの年齢(45歳未満)に適応した配光範囲に制御される。
以上説明したように、上記構成の車両用前照灯100によれば、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲に制御する構成であるため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能となる。
また、上記構成の車両用前照灯100によれば、判定部63(読出手段に相当)により読み出された配光範囲データ(ドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲データ)に基づいて、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲に自動的に制御することが可能となる。
次に、変形例について説明する。
上記実施形態では、灯具ユニット30からの光の配光範囲をドライバーの年齢に応じた配光範囲に自動的に制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ドライバーの年齢を(例えば45歳以上又は45歳未満のいずれかを)ドライバーに選択させるスイッチを設け、灯具ユニット30からの光の配光範囲をその選択された年齢に応じた配光範囲に制御するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、年齢層を45歳以上と45歳未満に区分した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図37を参照すると、人間の眼の視感度は年齢が高くなるに従い低下するため、年齢層をさらに細分化し(例えば、18〜29歳、30〜39歳、40〜59歳、60歳以上のように細分化し)、この細分化された年齢層ごとに配光範囲を変えるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、すれ違いビーム用配光パターンP1を形成するとともに、上記のように配光範囲を変更する例について説明したが本発明はこれに限定されない。例えば、走行ビーム用配光パターンP2を形成するとともに、上記のように配光範囲を変更するようにしてもよい。
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態である車両用前照灯200について、図面を参照しながら説明する。
従来、車両用前照灯のS/P比は、年齢にかかわらず一定で、変化しなかった。
本出願の発明者らは、年齢が高くなるにつれS/P比が高い光源に対する周辺視での気づきが向上すること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)を見出し(上記実験参照)、この知見及び人間の眼の視覚特性に基づいて検討を重ねた結果、人間の視覚特性に適応するように、年齢に応じてS/P比を変えることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能になると考え、この着想に基づき本発明を完成した。
以下、年齢に応じてS/P比を変えることが可能な車両用前照灯200の構成例について説明する。
図19は、年齢に応じてS/P比を変えることが可能な車両用前照灯200を搭載した車両Vの正面図である。
図19に示すように、本実施形態の車両用前照灯200は、自動車等の車両Vの前面の左右両側に配置されており、片側2つの灯具ユニット10C、20を備えている。各灯具ユニット10C、20には、その光軸調整が可能なように公知のエイミング機構(図示せず)が連結されている。車両前照灯200を構成する灯具ユニット20は、車両用前照灯100を構成する灯具ユニット20と同様の構成であるため、その説明を省略する。
灯具ユニット10Cは、その光源として図22に示すマトリックス光源12を用いた点以外、公知のプロジェクタ型の灯具ユニット(例えば、灯具ユニット10)と同様の構成である。
図12(a)は、灯具ユニット10Cにより車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1(スクリーン配光)の例である。図20は、車両用前照灯200により路面上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1(路面配光)の例である。図20中、すれ違いビーム用配光パターンP1の輪郭は2[lx]のラインを示している。
図21(a)は、プロジェクタ型の灯具ユニット10C1の例である。
図21(a)に示すように、プロジェクタ型の灯具ユニット10C1は、車両前後方向に延びる光軸AX10上に配置された投影レンズ11、投影レンズ11の後側焦点F11より後方側かつ光軸AX10近傍に配置されたマトリックス光源12、マトリックス光源12の上方に配置された反射面13、マトリックス光源12からの光の一部を遮光するように、投影レンズ11とマトリックス光源12との間に配置されたシェード14等を備えている。
投影レンズ11は、レンズホルダー等(図示せず)に保持されて車両前後方向に延びる光軸AX10上に配置されている。投影レンズ11は、例えば、車両前方側表面が凸面で車両後方側表面が平面の平凸非球面の投影レンズである。
図22はマトリックス光源12の例である。図22に示すように、マトリックス光源12は、S/P比が異なる複数の光源を含む光源である。図22中の□はS/P比が2.0以上の第1光源12A、○はS/P比が2.0未満の第2光源12Bで、各光源12A、12Bは図22に示すようにマトリックス状に配置されている。なお、図22は、各光源12A、12Bが10の例であるが、その数は適宜増減することが可能である。
第1光源12Aは、例えば、図4(a)に示すように、青色LED素子B、赤色LED素子R及び緑色蛍光体Gを組み合わせた構造の白色LED(例えば1ミリ角の発光面×5)である。緑色蛍光体Gは、青色LED素子B、赤色LED素子Rを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑色光を発光する。緑色光が増えると、発光色がブルーグリーンとなり、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を逸脱する。そこで、赤色LED素子Rを加えその出力を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲内となるように調整した。青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体としては、公知のものを用いることが可能である。
第1光源12Aは、緑色蛍光体の濃度等を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0に調整されている。
なお、第1光源12AのS/P比は2.0に限定されない。S/P比が2.0以上に増加するにつれ夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきが向上する(反応速度RTが短くなり、見逃し率が低下する)という知見(上記実験参照)に基づけば、第1光源12Aは、S/P比が2.0〜3.0の範囲の光源であればよい。S/P比3.0を上限とした理由は、S/P比が3.0を超えると、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすことが難しくなるためである。
第1光源12Aは、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0以上の光源であればよく、青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDに限定されない。
例えば、第1光源12Aは、図4(b)に示すように、青色LED素子Bと緑及び赤色蛍光体GRとを組み合わせた構造の白色LEDであってもよい。緑及び赤色蛍光体GRは、青色LED素子Bを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑及び赤色光を発光する。また、第1光源12Aは、赤色LED素子、緑色LED素子及び青色LED素子を組み合わせた構造の白色LEDであってもよいし、紫外若しくは近紫外LED素子とRGB蛍光体とを組み合わせた構造の白色LEDであってもよい。これらの構造の白色LEDであっても、蛍光体の濃度等を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0以上の光源を構成することが可能である。
第2光源12Bは、青色LED素子及び黄色蛍光体を組み合わせた構造の白色LED(例えば1ミリ角の発光面×5)で、黄色蛍光体の濃度を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0未満(例えば、1.5〜1.8)に調整されている。45歳未満では、S/P比が増加しても反応時間及び見逃し率はほぼ横ばいで、両者の間に相関は見られないという知見(上記実験参照)に基づけば、45歳未満では、S/P比が2.0以上の光源を用いる意味がなく、S/P比が2.0未満の光源を用いるのが望ましい。
第2光源12Bは、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たし、かつ、S/P比が2.0未満の光源であればよく、青色LED素子及び黄色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDに限定されない。
マトリックス光源12(各白色LED12A、12B)は、その発光面を上に向けた状態で基板K上に実装されて、投影レンズ11の車両後方側焦点F11より後方側かつ光軸AX10近傍に配置されている。マトリックス光源12(各白色LED12A、12B)は、その一辺を光軸AX10に直交する水平線に沿わせてかつ光軸AX10に対して対称に配置されている。
なお、各光源12A、12Bの相関色温度は、4500〜7000K又は5000〜6000Kの白色光が望ましい。
反射面13は、第1焦点F1がマトリックス光源12近傍に設定され、第2焦点F2が投影レンズ11の後側焦点F11近傍に設定された回転楕円系の反射面(回転楕円面又はこれに類する自由曲面等)である。
反射面13は、マトリックス光源12から略上向きに放射される光が入射するように、マトリックス光源12の側方(図21(a)中、車両後方側の側方)から投影レンズ11に向かって延びて、マトリックス光源12の上方を覆っている。
上記構成のプロジェクタ型の灯具ユニット10C1によれば、マトリックス光源12から放射された光は、反射面13で反射されて投影レンズ11の後方側焦点F11近傍で収束した後、投影レンズ11を透過して前方に照射される。これにより、仮想鉛直スクリーン上に、すれ違いビーム用配光パターンP1が形成される(図12(a)、図20、図23参照)。すれ違いビーム用配光パターンP1は、シェード14により規定されるカットオフラインをその上端縁に含んでいる。図20は、車両用前照灯200により路面上に形成されるすれ違いビーム用配光パターンP1(路面配光)の例である。図23は、図20に示した配光パターンP1に対応するスクリーン配光の例である(車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上に形成される)。
上記構成の灯具ユニット10C1によれば、光源12A、12Bを制御することで、マトリックス光源12のS/P比(分光分布)をドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御することが可能となる。これにより、すれ違いビーム用配光パターンP1全体のS/P比がドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御される。
なお、灯具ユニット10C1は、すれ違いビーム用配光パターンP1を形成するように構成された灯具ユニットであればよく、図21(b)に示す公知のリフレクタ型の灯具ユニット10C2であってもよいし、図21(c)に示す公知のダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニット10C3であってもよい。
図21(b)は、リフレクタ型の灯具ユニット10C2の例である。
図21(b)に示すように、リフレクタ型の灯具ユニット10C2は、車両前後方向に延びる光軸AX10近傍に発光面を略下に向けた状態で配置されたマトリックス光源12、焦点F15がマトリックス光源12近傍に設定された放物面系の反射面15(回転放物面又はこれに類する自由曲面等)等を備えている。
マトリックス光源12は、その発光面を下に向けた状態で基板上に実装されて、反射面15の焦点F15近傍に配置されている。マトリックス光源12は、その一辺を光軸AX10に直交する水平線に沿わせてかつ光軸AX10に対して対称に配置されている。
反射面15は、マトリックス光源12から入射する光を予め定められた方向へ反射(配分)して、仮想鉛直スクリーン上に、図12(a)に示すすれ違いビーム用配光パターンP1を形成するように設計されている。
上記構成のリフレクタ型の灯具ユニット10C2によれば、マトリックス光源12から放射された光は、反射面15で反射されて前方に照射される。これにより、仮想鉛直スクリーン上に、すれ違いビーム用配光パターンP1が形成される(図12(a)参照)。
上記構成の灯具ユニット10C2によっても、第1光源12A及び第2光源12Bのいずれか一方を制御してこれを点灯させることで、マトリックス光源12のS/P比(分光分布)をドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御することが可能となる。これにより、すれ違いビーム用配光パターンP1全体のS/P比がドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御される。
図21(c)は、ダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニット10C3の例である。
図21(c)に示すように、ダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニット10C3は、車両前後方向に延びる光軸AX10上に配置された投影レンズ16、投影レンズ16の後方側焦点F16近傍に配置されたシェード17、シェード17の後方近傍に発光面を投影レンズ16に向けた状態で配置されたマトリックス光源12等を備えている。
マトリックス光源12は、その発光面を投影レンズ16に向けた状態で基板K上に実装されて、投影レンズ16の焦点F16近傍に配置されている。マトリックス光源12は、その一辺を光軸AX10に直交する水平線に沿わせてかつ光軸AX10に対して対称に配置されている。
投影レンズ16の出射面は、当該投影レンズ16の出射面から出射するマトリックス光源12からの光を予め定められた方向へ屈折させて、仮想鉛直スクリーン上に、図12(a)に示すすれ違いビーム用配光パターンP1を形成するように設計されている。
上記構成のダイレクトプロジェクション型の灯具ユニット10C3によれば、マトリックス光源12から放射された光は、投影レンズ16を透過して前方に照射される。
これにより、仮想鉛直スクリーン上に、すれ違いビーム用配光パターンP1が形成される(図12(a)参照)。すれ違いビーム用配光パターンP1は、シェード17により規定されるカットオフラインをその上端縁に含んでいる。
上記構成の灯具ユニット10C3によっても、第1光源12A及び第2光源12Bのいずれか一方を制御してこれを点灯させることで、マトリックス光源12のS/P比(分光分布)をドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御することが可能となる。これにより、すれ違いビーム用配光パターンP1全体のS/P比がドライバーの年齢に応じたS/P比(2.0以上又は2.0未満)に制御される。
[S/P比制御システム70]
次に、灯具ユニット10CのS/P比を制御するS/P比制御システムについて説明する。
図24(a)はS/P比制御システム70のシステム構成図、図24(b)は分光分布データの例である。
図24(a)に示すように、S/P比制御システム70は、ドライバー選択/登録部71、ドライバー年齢算出部72、判定部73、制御部74等を備えている。制御部74には、マトリックス光源12が電気的に接続されている。これら各部の機能は、例えば、車両Vに搭載されたECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
ドライバー選択/登録部71は、ドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部72aに登録する機能、データベース部72aに登録されたドライバーの氏名の中から特定のドライバーの氏名をドライバーに選択させる機能等を備えている。
ドライバー年齢算出部72は、現在の年月日を把握するクロック機能、ドライバー選択/登録部71で選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部72aから読み出す機能、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づき、ドライバーの年齢を算出する機能等を備えている。
判定部73は、ドライバー年齢算出部72で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた分光分布データ及び明るさデータをデータベース部73aから読み出す機能等を備えている。
図24(b)に示すように、データベース部73aには、複数の年齢(又は年齢層)と当該複数の年齢(又は年齢層)それぞれに対応する分光分布データ(例えば、マトリックス光源12を構成する複数の光源12A、12Bのうち点灯する光源を特定するデータ)と明るさデータ(例えば、路面上の照度ラインが2[lx]となるように予め定められた電流値である。)とが対応付けられて格納されている。なお、2[lx]とした理由は、月明かり(例えば、満月)の下での照度が略1[lx]であるため、これよりも若干明るくすることで、照射されていることが分かるようにするためである。
制御部74は、判定部73により読み出された分光分布データに基づき、マトリックス光源12を構成する複数の光源12A、12Bのうち当該分光分布データにより特定される光源を制御してこれを点灯させることで、マトリックス光源12のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御する。
次に、上記構成のS/P比制御システム70の動作について、図25を参照しながら説明する。
図25は、S/P比制御システム70の動作を説明するためのフローチャートである。
以下の処理は、主に車載のECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
まず、データベース部72aに登録されているドライバーの氏名が検索される(ステップS20)。ドライバー選択/登録部71は、その検索されたドライバーの氏名を、例えば、車載のタッチパネル付きの画面(例えば、ナビ画面。図24(a)中の符号S参照)に表示する。
この画面中に自己の氏名が表示されていない場合(ステップS21:no)、ドライバーは、画面中の「新規ドライバー」を、タッチパネルを介して選択して、自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を入力する(ステップS22)。ドライバー情報の入力は、例えば、ドライバーの免許証又は携帯電話機等から読取部(図示せず)で当該ドライバーの氏名、生年月日等のドライバー情報を読み取り、その読み取ったドライバー情報を入力するようにしてもよいし、画面に50音のキーセット等を表示し、タッチパネルを介して自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を直接入力するようにしてもよい。
ドライバー選択/登録部71は、ステップS22で入力されたドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部72aに登録する(ステップS23)。
一方、画面中に自己の氏名が表示されている場合(ステップS21:yes)、ドライバーは、画面中の自己の氏名を、タッチパネルを介して選択する(ステップS24)。
ドライバーの氏名が選択されると、ドライバー年齢算出部72は、当該選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部72aから読み出し、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づいてドライバーの年齢を算出する(ステップS25)。
判定部73は、ステップS25で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた分光分布データ及び明るさデータをデータベース部73aから読み出す。
例えば、ステップS25で算出されたドライバーの年齢が45歳以上の場合(ステップS26:no)、判定部73は、45歳以上に対応付けられた分光分布データ(点灯する光源=第1光源12A)及び明るさデータ(電流値I3)をデータベース部73aから読み出す。そして、制御部74は、その読み出された45歳以上に対応付けられた分光分布データ及び明るさデータに基づき、当該分光分布データにより特定されるマトリックス光源12中の第1光源12Aに電流値I3を印加してこれを点灯させる(ステップS27)。これにより、マトリックス光源12のS/P比がドライバーの年齢(45歳以上)に応じたS/P比(2.0以上)に制御される。
マトリックス光源12(白色LED12A)から放射された光は、反射面13で反射されて投影レンズ11の後方側焦点F11近傍で収束した後、投影レンズ11を透過して前方に照射される。これにより、仮想鉛直スクリーン上に、すれ違いビーム用配光パターンP1(S/P比:2.0以上)が形成される(図12(a)参照)。すなわち、すれ違いビーム用配光パターンP1全体のS/P比がドライバーの年齢(45歳以上)に適応したS/P比(2.0以上)に制御される。なお、すれ違いビーム用配光パターンP1は、路面上では図20に示すように配置される。図20中、すれ違いビーム用配光パターンP1の輪郭は2[lx]のラインを示している。
一方、ステップS25で算出されたドライバーの年齢が45歳未満の場合(ステップS26:yes)、判定部73は、45歳未満に対応付けられた分光分布データ(点灯する光源=第2光源12B)及び明るさデータ(電流値I4)をデータベース部73aから読み出す。そして、制御部74は、その読み出された45歳未満に対応付けられた分光分布データ及び明るさデータに基づき、当該分光分布データにより特定されるマトリックス光源12中の第2光源12Bに電流値I4を印加してこれを点灯させる(ステップS27)。これにより、マトリックス光源12のS/P比がドライバーの年齢(45歳未満)に応じたS/P比(2.0未満)に制御される。
マトリックス光源12(白色LED12B)から放射された光は、反射面13で反射されて投影レンズ11の後方側焦点F11近傍で収束した後、投影レンズ11を透過して前方に照射される。これにより、仮想鉛直スクリーン上に、すれ違いビーム用配光パターンP1(S/P比:2.0未満)が形成される(図12(a)参照)。すなわち、すれ違いビーム用配光パターンP1全体のS/P比がドライバーの年齢(45歳未満)に適応したS/P比(2.0未満)に制御される。なお、すれ違いビーム用配光パターンP1は、路面上では図20に示すように配置される。図20中、すれ違いビーム用配光パターンP1の輪郭は2[lx]のラインを示している。
以上説明したように、上記構成の車両用前照灯200によれば、マトリックス光源12のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御する構成であるため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能となる。
また、上記構成の車両用前照灯200によれば、判定部73(読出手段に相当)により読み出された分光分布データ(ドライバーの年齢に対応付けられた分光分布データ)に基づいて、マトリックス光源12のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に自動的に制御することが可能となる。
次に、変形例について説明する。
上記実施形態では、マトリックス光源12のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に自動的に制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ドライバーの年齢を(例えば45歳以上又は45歳未満のいずれかを)ドライバーに選択させるスイッチを設け、マトリックス光源12のS/P比をその選択された年齢に応じたS/P比に制御するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、年齢層を45歳以上と45歳未満に区分した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図37を参照すると、人間の眼の視感度は年齢が高くなるに従い低下するため、年齢層をさらに細分化し(例えば、18〜29歳、30〜39歳、40〜59歳、60歳以上のように細分化し)、この細分化された年齢層ごとにS/P比を変えるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、上記のようにS/P比が変更されたマトリックス光源12からの光ですれ違いビーム用配光パターンP1を形成する例について説明したが本発明はこれに限定されない。例えば、上記のようにS/P比が変更されたマトリックス光源12からの光で走行ビーム用配光パターンP2(図12(b)参照)を形成するようにしてもよい。
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態である車両用前照灯300について、図面を参照しながら説明する。
従来、車両用前照灯のすれ違いビーム用配光パターンのS/P比は、年齢にかかわらず一定で、変化しなかった。
本出願の発明者らは、年齢が高くなるにつれS/P比が高い光源に対する周辺視での気づきが向上すること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)を見出し(上記実験参照)、この知見及び人間の眼の視覚特性に基づいて検討を重ねた結果、人間の視覚特性に適応するように、年齢に応じてすれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比を変えることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能になると考え、この着想に基づき本発明を完成した。
以下、年齢に応じてすれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比を変えることが可能な車両用前照灯300の構成例について説明する。
図26は、年齢に応じてすれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比を変えることが可能な車両用前照灯300を搭載した車両Vの正面図である。図27は、車両用前照灯300の正面図である。
図26、図27に示すように、本実施形態の車両用前照灯300は、自動車等の車両Vの前面の左右両側に配置されており、片側5つの灯具ユニット10D、10E、20、30C、30Dを備えている。各灯具ユニット10〜30には、その光軸調整が可能なように公知のエイミング機構(図示せず)が連結されている。車両用前照灯300を構成する灯具ユニット20は、車両用前照灯100を構成する灯具ユニット20と同様の構成であるため、その説明を省略する。
[灯具ユニット10D]
灯具ユニット10Dは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左0〜5°(又は右0〜5°)の範囲を照射し(図28参照)、車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上にすれ違いビーム用配光パターンを形成する(図29参照)ように構成されている。図28は車両用前照灯300により路面上に形成されるすれ違いビーム用配光パターン(路面配光)の例である。図29は、図28に示した配光パターンに対応するスクリーン配光の例である(車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上に形成される)。
灯具ユニット10Dは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左0〜5°(又は右0〜5°)の範囲を照射するランプであればよく、図21(a)に示すプロジェクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図21(b)に示すリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図21(c)に示すダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。灯具ユニット10Dの光源は、例えば、S/P比が1.82のHID電球(又はS/P比が1.5〜1.8程度の白色LED)である。
[灯具ユニット10E]
灯具ユニット10Eは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射し(図28参照)、車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている)上にすれ違いビーム用配光パターンを形成する(図29参照)ように構成されている。灯具ユニット10Eは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射するランプであればよく、図21(a)に示すプロジェクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図21(b)に示すリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図21(c)に示すダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。灯具ユニット10Eの光源は、例えば、S/P比が1.82のHID電球(又はS/P比が1.5〜1.8程度の白色LED)である。
[視覚特性補完用追加ランプ30C]
視覚特性保管用追加ランプ30Cは、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射するランプである。視覚特性保管用追加ランプ30Cは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射するランプであればよく、図13(a)に示すプロジェクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図13(b)に示すリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図13(c)に示すダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。視覚特性保管用追加ランプ30Cの光源は、視覚特性補完用追加ランプ30Aと同様、第1視覚特性補完用LED光源32Aである。
[視覚特性補完用追加ランプ30D]
視覚特性保管用追加ランプ30Dは、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左15°以上(又は右15°以上)の範囲を照射するランプである。視覚特性保管用追加ランプ30Dは、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左15°以上(又は右15°以上)の範囲を照射するランプであればよく、図13(a)に示すプロジェクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図13(b)に示すリフレクタ型の灯具ユニットであってもよいし、図13(c)に示すダイレクトプロジェクション型(直射型)の灯具ユニットであってもよい。視覚特性保管用追加ランプ30Dの光源は、視覚特性補完用追加ランプ30Bと同様、第2視覚特性補完用LED光源32Bである。
上記構成の視覚特性保管用追加ランプ30C、30Dによれば、視覚特性補完用LED光源32A、32Bを制御することで、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比(分光分布)をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御することが可能となる。
[S/P比制御システム80]
次に、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比を制御するS/P比制御システムについて説明する。
図30(a)はS/P比制御システム80のシステム構成図、図30(b)は配光範囲・分光分布データの例である。
図30(a)に示すように、S/P比制御システム80は、ドライバー選択/登録部81、ドライバー年齢算出部82、判定部83、制御部84等を備えている。制御部84には、灯具ユニット10D、10E、30C、30Dの光源が電気的に接続されている。これら各部の機能は、例えば、車両Vに搭載されたECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
ドライバー選択/登録部81は、ドライバーの氏名と生年月日とを入力する機能、当該入力されたドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部82aに登録する機能、データベース部82aに登録されたドライバーの氏名の中から特定のドライバーの氏名をドライバーに選択させる機能等を備えている。
ドライバー年齢算出部82は、現在の年月日を把握するクロック機能、ドライバー選択/登録部81で選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部82aから読み出す機能、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づき、ドライバーの年齢を算出する機能等を備えている。
判定部83は、ドライバー年齢算出部82で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲・分光分布データ及び明るさデータをデータベース部83aから読み出す機能等を備えている。
図30(b)に示すように、データベース部83aには、複数の年齢(又は年齢層)と当該複数の年齢(又は年齢層)それぞれに対応する配光範囲・分光分布データ(例えば、灯具ユニット10D、10E、30C、30Dの光源のうち点灯する光源を特定するデータ)と明るさデータ(例えば、路面上の照度ラインが2[lx]となるように予め定められた電流値である。)とが対応付けられて格納されている。なお、2[lx]とした理由は、月明かり(例えば、満月)の下での照度が略1[lx]であるため、これよりも若干明るくすることで、照射されていることが分かるようにするためである。
制御部84は、判定部83により読み出された配光範囲・分光分布データに基づき、灯具ユニット10D、10E、30C、30Dの光源のうち当該配光範囲・分光分布データにより特定される光源を制御してこれを点灯させることで、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御する。
次に、上記構成のS/P比制御システム80の動作について、図31を参照しながら説明する。
図31は、S/P比制御システム80の動作を説明するためのフローチャートである。
以下の処理は、主に車載のECU(図示せず)が所定のプログラムを実行することで実現される。
まず、データベース部82aに登録されているドライバーの氏名が検索される(ステップS40)。ドライバー選択/登録部81は、その検索されたドライバーの氏名を、例えば、車載のタッチパネル付きの画面(例えば、ナビ画面。図30(a)中の符号S参照)に表示する。
この画面中に自己の氏名が表示されていない場合(ステップS41:no)、ドライバーは、画面中の「新規ドライバー」を、タッチパネルを介して選択して、自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を入力する(ステップS42)。ドライバー情報の入力は、例えば、ドライバーの免許証又は携帯電話機等から読取部(図示せず)で当該ドライバーの氏名、生年月日等のドライバー情報を読み取り、その読み取ったドライバー情報を入力するようにしてもよいし、画面に50音のキーセット等を表示し、タッチパネルを介して自己の氏名、生年月日等のドライバー情報を直接入力するようにしてもよい。
ドライバー選択/登録部81は、ステップS42で入力されたドライバーの氏名と生年月日とを対応付けてデータベース部82aに登録する(ステップS43)。
一方、画面中に自己の氏名が表示されている場合(ステップS41:yes)、ドライバーは、画面中の自己の氏名を、タッチパネルを介して選択する(ステップS44)。
ドライバーの氏名が選択されると、ドライバー年齢算出部82は、当該選択されたドライバーの氏名に対応付けられた生年月日をデータベース部82aから読み出し、当該読み出した生年月日とクロック機能からの出力(現在の年月日)とに基づいてドライバーの年齢を算出する(ステップS45)。
判定部83は、ステップS45で算出されたドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲・分光分布データ及び明るさデータをデータベース部83aから読み出す。
例えば、ステップS45で算出されたドライバーの年齢が45歳以上の場合(ステップS46:no)、判定部83は、45歳以上に対応付けられた配光範囲・分光分布データ(点灯する光源=灯具ユニット10Dの光源、視覚特性補完用追加ランプ30C及び30Dの光源(視覚特性補完用LED光源32A及び32B)及び明るさデータ(電流値I5)をデータベース部83aから読み出す(ステップS47〜S49)。そして、制御部84は、その読み出された45歳以上に対応付けられた配光範囲・分光分布データ及び明るさデータに基づき、当該配光範囲・分光分布データにより特定される灯具ユニット10Dの光源、視覚特性補完用追加ランプ30C及び30Dの光源(視覚特性補完用LED光源32A及び32B)に電流値I5を印加してこれを点灯させる。
灯具ユニット10D(の光源)から放射される光は、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左0〜5°(又は右0〜5°)の範囲を照射する(図28参照)。
左右0〜5°の範囲にした理由は、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が高い光源に対する周辺視(桿体が多く存在する範囲)での気づきが向上するとの知見(上記実験参照)に基づき、左右5°以上の範囲をS/P比が高い光源で照射するためである。
また、視覚特性補完用LED光源32A(視覚特性保管用追加ランプ30C)から放射される光は、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射する(図28参照)。
さらに、視覚特性補完用LED光源32B(視覚特性保管用追加ランプ30D)から放射される光は、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左15°以上(又は右15°以上)の範囲を照射する(図28参照)。
これにより、図29に示す配光パターンが形成される。この場合、路面上のS/P比が2.0以上の範囲は、左右5°以上の範囲に広がる(図28参照)。左右5°以上の範囲にした理由は、45歳以上では、45歳未満と比べて、S/P比が高い光源に対する周辺視(桿体が多く存在する範囲)での気づきが向上するとの知見(上記実験参照)に基づき、45歳以上の周辺視での気づきを向上させるためである。
以上のように、すれ違いビーム用配光パターン中の一部(基準軸AXに対して左5°以上の範囲(又は右5°以上の範囲))のS/P比がドライバーの年齢(45歳以上)に適応したS/P比(2.0以上)に制御される。
一方、ステップS45で算出されたドライバーの年齢が45歳未満の場合(ステップS46:yes)、判定部83は、45歳未満に対応付けられた配光範囲・分光分布データ(点灯する光源=灯具ユニット10D、10Eの光源及び視覚特性補完用LED光源32B)及び明るさデータ(電流値I6)をデータベース部83aから読み出す(ステップS50〜S52)。そして、制御部84は、その読み出された45歳未満に対応付けられた配光範囲・分光分布データ及び明るさデータに基づき、当該配光範囲・分光分布データにより特定される灯具ユニット10D、10Eの光源及び視覚特性補完用LED光源32Bに電流値I6を印加してこれを点灯させる。
灯具ユニット10D(の光源)から放射される光は、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左0〜5°(又は右0〜5°)の範囲を照射する(図28参照)。
また、灯具ユニット10E(の光源)から放射される光は、車両前方のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左5〜15°(又は右5〜15°)の範囲を照射する(図28参照)。
さらに、視覚特性補完用LED光源32B(視覚特性保管用追加ランプ30D)から放射される光は、車両前方の周辺領域のうち車両前後方向に延びる基準軸AXに対して左15°以上(又は右15°以上)の範囲を照射する(図28参照)。
これにより、図29に示す配光パターンが形成される。この場合、路面上のS/P比が2.0以上の範囲は、左右15°以上の範囲に広がる(図28参照)。左右15°以上の範囲にした理由は、45歳未満では、45歳以上と比べて、水晶体の黄濁がそれほど進んでおらず、5〜15°未満の範囲を照射する意味がないためである。
以上のように、すれ違いビーム用配光パターン中の一部(基準軸AXに対して左15°以上の範囲(又は右15°以上の範囲))のS/P比がドライバーの年齢(45歳未満)に適応したS/P比(2.0未満)に制御される。
以上説明したように、上記構成の車両用前照灯300によれば、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御する構成であるため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを向上させること(特に、45歳以上の反応速度を速め、見逃し率を低下させること)が可能となる。
また、上記構成の車両用前照灯300によれば、判定部83(読出手段に相当)により読み出された配光範囲・分光分布データ(ドライバーの年齢に対応付けられた配光範囲・分光分布データ)に基づいて、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に自動的に制御することが可能となる。
次に、変形例について説明する。
上記実施形態では、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に自動的に制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ドライバーの年齢を(例えば45歳以上又は45歳未満のいずれかを)ドライバーに選択させるスイッチを設け、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をその選択された年齢に応じたS/P比に制御するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、年齢層を45歳以上と45歳未満に区分した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図37を参照すると、人間の眼の視感度は年齢が高くなるに従い低下するため、年齢層をさらに細分化し(例えば、18〜29歳、30〜39歳、40〜59歳、60歳以上のように細分化し)、この細分化された年齢層ごとにS/P比を変えるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、すれ違いビーム用配光パターン中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、走行ビーム用配光パターンP2中の一部のS/P比をドライバーの年齢に応じたS/P比に制御するようにしてもよい。
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。