JP5907321B1 - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

樹脂含浸ストランド引張試験における応力σ−ひずみε曲線の非線形性の近似式から求まる値Aと広角X線回折測定における結晶配向度Π(%)が所定の関係式を満足し、かつ引張強度が所定値以上であるか、引張弾性率が所定の範囲内であり、かつ単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wとストランド弾性率Eとの積E×d/Wが所定値以上であるか、または、単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力が所定値以上であり、かつ単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維コンポジットのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が所定の範囲内である炭素繊維束。本発明は、優れた引張強度を有する高性能炭素繊維複合材料を得ることができる炭素繊維束、ならびにその製造方法を提供する。

Description

本発明は、炭素繊維複合材料用の炭素繊維束、ならびにその製造方法に関するものである。
環境問題に対する意識の高まりから、複合材料が注目を浴びている。炭素繊維は、複合材料用の強化繊維として、その用途が各種方面に拡がり、更なる高性能化が強く求められている。炭素繊維の引張強度を高めることは、圧力容器などの部材軽量化に寄与するため、引張強度をさらに高めることが重要な課題となっている。
炭素繊維のような脆性材料においては、グリフィスの式に従って炭素繊維の欠陥サイズを小さくするか、炭素繊維の破壊靱性値を高めることで炭素繊維の引張強度を高めることができる。特に炭素繊維の破壊靱性値の改善は、炭素繊維の欠陥サイズの状態に依存せずに炭素繊維の引張強度を高めることができる点で有効である(特許文献1)。さらに、炭素繊維の破壊靱性値の改善は、それを用いて得られる炭素繊維複合材料の引張強度を効率的に高めることができるという点でも有効である。
これまで、炭素繊維の引張強度と弾性率を向上させる方法として、耐炎化工程において温度の異なる複数の炉を用いることにより耐炎化温度を高温化する方法や、複数個の炉から構成される耐炎化炉において、各炉を通過した炭素繊維前駆体繊維をその密度に応じて伸長させる方法が提案されている(特許文献2〜5)。また、耐炎化工程の温度制御領域数を2〜3にして領域間の温度差を付けた温度制御を行う方法が提案されている(特許文献6)。
さらに、炭素繊維の圧縮強度を向上させるために炭素繊維のねじり弾性率を高める手法が知られている(特許文献7〜9)。これまでは、単繊維の圧縮強度を調べるに際し、炭素繊維単繊維のループ法が用いられてきた(特許文献7、10)。特許文献10では低弾性率の炭素繊維を用いて高い圧縮破壊歪みを得ており、また、特許文献7ではイオン注入技術を用いて炭素繊維の圧縮強度を高めているものの、炭素繊維の引張強度を十分に高めることができるものではなかった。
炭素繊維複合材料の引張弾性率および有孔板引張強度を向上させるために、炭素繊維の短試長領域の単繊維強度分布を制御する手法が知られている(特許文献11、12)。
国際公開第97/45576号 特開昭58−163729号公報 特開平6−294020号公報 特開昭62−257422号公報 特開2013−23778号公報 特開2012−82541号公報 特開平9−170170号公報 特開平5−214614号公報 特開2013−202803号公報 特開2014−185402号公報 特開2014−159564号公報 特開2014−159664号公報
炭素繊維の破壊靱性値を高めることは重要であり、破壊靱性値を高めるには本質的に炭素繊維の微細構造制御が重要である。特許文献1の提案は、シリコーン油剤、単繊維繊度および内外構造差を制御し、表面欠陥制御あるいは微細構造分布制御による物性改善を図るのみであって、微細構造そのものの改善を図ったものではなかった。
特許文献2の提案は、耐炎化工程の温度制御領域数を2〜3にして、各領域でなるべく高温で処理しようとしているが、その処理時間には44〜60分もの時間を要している。特許文献3の提案は、耐炎化工程の温度制御領域数を2〜3にし、高温の領域での熱処理時間を長くすることにより短時間での耐炎化を行うものであるため、高温での耐炎化時間が長いものであった。特許文献4の提案は、耐炎化炉での伸長程度を複数段設定する、または耐炎化時間短縮のために3〜6個の炉を必要とするものであるが、満足できる炭素繊維の微細構造制御には至っていない。特許文献5の提案は、耐炎化工程途中での繊維比重を1.27以上としてから280〜400℃で10〜120秒熱処理するものであるが、ごく終盤のみを高温化するだけでは満足できる炭素繊維の微細構造制御には至っていない。特許文献6の提案は、第1耐炎化炉後の耐炎糸比重を1.27以上に制御するものであって、満足できる微細構造制御には至っていない。
特許文献7〜9の提案における炭素繊維のねじり弾性率は、後述する剪断弾性率と一律に比較することは困難であるが、以下のことが言える。特許文献7、8の提案は、炭素繊維のねじり弾性率を高めるためにイオン注入や電子線照射を用いている。共有結合を切断して再配列をさせているために、得られる炭素繊維は格子欠陥を含むため、炭素繊維の剪断弾性率は満足するものとはならず、炭素繊維の引張強度との関連も考慮されていない。特許文献9の提案は、単糸繊度が大きくても通常の単糸繊度の炭素繊維と同等の物性を発現するとされるものであり、具体的には剪断弾性率が4GPa以上の炭素繊維が開示されているが、全く満足できるレベルには至っていない。
特許文献7、10の提案は炭素繊維の引張強度を高めようとするものではないし、実際にループ形状から判断される炭素繊維の引張強度が高いものでもない。
特許文献11の提案は、炭素繊維の短試長領域の単繊維強度分布を制御して有効板引張強度を向上させているものの、ストランド強度との両立という面では改善の余地を残しているものであった。特許文献12の提案は、炭素繊維の単繊維直径を小さくすることで欠陥を減少させて炭素繊維の短試長領域の単繊維強度分布を制御しており、炭素繊維複合材料の引張弾性率および有孔板引張強度を効率的に向上させるためには、改善の余地を残しているものであった。
本発明は、かかる課題を解決すべく、引張強度の高い炭素繊維複合材料を得ることができる炭素繊維(炭素繊維束)、およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明の炭素繊維束は、次の特徴を有するものである。
すなわち、本発明の炭素繊維束の第一の態様は、樹脂含浸ストランド引張試験における応力σ−ひずみε曲線の非線形性の近似式(1)から求まる係数Aと広角X線回折測定における結晶配向度Π(%)の関係が次式(2)を満足し、かつ引張強度が7.5GPa以上の炭素繊維束である。
ε=Aσ+Bσ+C ・・・(1)
(0.0000832Π−0.0184Π+1.00)/A≦−395 ・・・(2)
ここで、ΠはX線回折測定における結晶配向度(%)を示す。
本発明の炭素繊維束の第二の態様は、樹脂含浸ストランド引張試験における引張弾性率が240〜440GPaであり、かつ単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wとストランド弾性率Eとの積E×d/Wが14.6GPa以上である炭素繊維束である。
本発明の炭素繊維束の第三の態様は、炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力が8.5GPa以上であり、かつ炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの炭素繊維の単繊維コンポジットのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.24〜0.42個/mmである炭素繊維束である。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.98〜1.10の範囲となるまで8〜25分間耐炎化する第1耐炎化工程を行い、さらに、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.70〜0.75の範囲、かつ、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1のピーク強度の比が0.50〜0.65の範囲となるまで5〜14分間耐炎化する第2耐炎化工程を行って耐炎化繊維束を得て、その後、耐炎化繊維束を1000〜3000℃の不活性雰囲気中で炭素化する炭素化工程を行う炭素繊維束の製造方法である。
本発明によれば、優れた引張強度を発現する高性能炭素繊維強化複合材料を得ることができる炭素繊維束が得られる。
4点曲げ試験の測定方法を示す図である。
発明者らは、炭素繊維束の樹脂含浸ストランド(以下、単にストランドとも略記する)引張試験によって得られる応力−ひずみ曲線の非線形性が小さく、引張ひずみに対する引張弾性率の変化が小さいときに、炭素繊維の破壊靱性値が高く、引張強度が高い傾向にあることを見出した。ストランド引張試験は、炭素繊維束の特性を評価する簡便な試験方法である。炭素繊維束の応力−ひずみ曲線は、応力を縦軸、ひずみを横軸にした場合、一般的に下に凸の曲線を示す。これは、引張ひずみが加わるに従って、炭素繊維束の引張弾性率が高まることを表している。応力−ひずみ曲線の非線形性は、炭素繊維の剪断弾性率と相関があり、剪断弾性率が高いほど、応力−ひずみ曲線の非線形性が小さくなる。発明者らは、この結果に基づいてさらに検討した結果、炭素繊維の応力−ひずみ曲線の非線形性が小さくなるように、炭素繊維の製造条件を制御することにより、剪断弾性率が高い炭素繊維を得ることができ、その結果、炭素繊維束の引張強度が高くなるだけでなく、得られる炭素繊維複合材料の0°引張強度を効果的に高めることができることを見出した。
具体的には、本発明の炭素繊維束の第一の態様において、炭素繊維束を樹脂含浸ストランド引張試験により測定することにより求められる応力σ−ひずみε曲線を、下記の非線形性の近似式(1)に導入することにより求められる係数Aの値が次式(2)を満足する。
ε=Aσ+Bσ+C ・・・(1)
(0.0000832Π−0.0184Π+1.00)/A≦−395 ・・・(2)
ここで、Πは、炭素繊維束を広角X線回折測定により測定することにより求められる結晶配向度(%)を示す。
式(1)において、係数Aは応力−ひずみ曲線の非線形性を示す。係数Aは、炭素繊維束を樹脂含浸ストランド引張試験により測定することにより求められる応力σ(GPa)−ひずみε(−)曲線を、応力0〜3GPaの範囲で近似式(1)にフィッティングすることにより求められる。上記のように、炭素繊維束の応力−ひずみ曲線は、応力を縦軸、ひずみを横軸にした場合、一般的に下に凸の曲線を示すため、前記近似式(1)から求められる係数Aは、マイナスの値をとる。すなわち、係数Aが0に近いほど、非線形性が小さいことを意味する。
また、発明者らは、単に応力−ひずみ曲線の非線形性のみでは、炭素繊維の剪断弾性率との相関性が、必ずしも充分ではないことを見出した。炭素繊維における応力と変形に関係する理論については、例えば、 “カーボン(Carbon)”(オランダ), エルゼビア(Elsevier), 1991年, 第29巻, 第8号, p.1267-1279等に解説されている。しかしながら、これは学術的な検討であり、炭素繊維の強度を向上させるための実用的な検討に用いるためには用い難いものであった。発明者らは、これらの理論に基づいて検討を重ねた結果、実用的な観点から測定が比較的容易な結晶配向度Πと、上記近似式(1)の係数Aから導出される上記式(2)の左辺の値(0.0000832Π−0.0184Π+1.00)/Aが炭素繊維の剪断弾性率と極めて高い相関性があることを見出した。
ここで、上記のとおり、係数Aはマイナスの値を取るので、前記式(2)の左辺の値はマイナスの値をとる。前記式(2)の左辺の値の絶対値が大きいほど、炭素繊維の剪断弾性率は高くなる傾向にある。前記式(2)の左辺の値は−395以下であり、好ましくは−436以下であり、さらに好ましくは−445以下である。式(2)の左辺の値が−395よりも大きい場合、炭素繊維の引張強度が低くなる。
従来も引張強度を高めた炭素繊維は存在したが、その要因は、主に欠陥の減少による効果であって、応力−ひずみ曲線を制御できていたものではなかった。本発明の炭素繊維束は、係数Aの範囲が好ましくは−1.20×10−4以上であり、より好ましくは−9.8×10−5以上であり、より好ましくは−9.5×10−5以上、さらに好ましくは−9.3×10−5以上である。係数Aは、応力−ひずみ曲線の非線形性が弱まることで増加し、0に近づく。係数Aが0に近づくほど、炭素繊維束の剪断弾性率が高く、かつ、破壊靱性値が高くなる。応力−ひずみ曲線の非線形性を小さくするためには、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法を用いるとよい。
本発明の炭素繊維束の第一の態様において、引張強度は7.5GPa以上であり、好ましくは7.7GPa、より好ましくは7.9GPaである。ここで、引張強度は炭素繊維束の樹脂含浸ストランド引張試験によって評価した値である。引張強度が7.5GPa以上の場合、炭素繊維に含まれる欠陥は少ないため、炭素繊維の破壊靭性値が引張強度に支配的となる。炭素繊維に含まれる欠陥が多いと、炭素繊維の破壊靱性値を高めても引張強度が向上しないことがある。引張強度の上限は特にないが、経験的には10GPa程度である。炭素繊維束の破壊靱性値を高め、引張強度を高めるためには、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法を用いるとよい。
本発明の炭素繊維束の第二の態様において、単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wとストランド弾性率Eとの積E×d/Wは14.6GPa以上であり、好ましくは15.0GPa以上、より好ましくは15.2GPa以上である。単繊維ループ法とは、単繊維をループ状に変形させることで単繊維に与えた歪みと単繊維破断や座屈などの破壊挙動との関係を調べる手法である。単繊維をループ状に変形させると、単繊維の内側には圧縮歪み、外側には引張歪みが与えられる。引張破壊の前に圧縮座屈が起こることから、単繊維ループ法は、従来は炭素繊維の単繊維圧縮強度の試験方法として用いられることが多かった。引張破壊時点の引張歪みを評価することで、炭素繊維の到達可能引張強度とも言える値を評価できる。すなわち、d/Wは引張歪みに比例する値であり、この値とストランド弾性率E(詳細は後述する)との積は、引張強度に相当する値であると言える。単に炭素繊維のストランド強度を高めても炭素繊維複合材料の引張強度は高まらないことがあるが、かかるE×d/Wを高めることで効果的に炭素繊維複合材料の引張強度を高めることができる。市販されている炭素繊維や公知の炭素繊維との比較において、かかるE×d/Wを14.6GPa以上とすることで有意に炭素繊維複合材料の引張強度が高くなると言える(後述の表4−1、6を参照)。かかるE×d/Wの上限に特に制約はないが、19.0GPaをE×d/Wの上限とすれば十分である。なお、かかるパラメーターは、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法を用いることにより制御することができる。
なお、特許文献2に記載の炭素繊維において、破断直前の曲率半径を本発明のWに換算すると以下のことが言える。すなわち、破断直前の曲率半径をW/2と仮定すれば、炭素繊維の引張弾性率が142〜252GPaにおいてE×d/Wが最大で14.1GPaとなる。特許文献2に記載の従来の炭素繊維のE×d/Wの値は、このレベルであると推定できる。
本発明の炭素繊維束の第二の態様において、樹脂含浸ストランド引張試験における引張弾性率(単に、ストランド弾性率とも略記する。)は240〜440GPaであり、好ましくは280〜400GPaであり、より好ましくは310〜400GPaである。引張弾性率が240〜440GPaであれば、引張弾性率と引張強度のバランスに優れるために好ましい。引張弾性率は、後述する<炭素繊維のストランド引張試験>に記載の方法により求めることができる。このとき、歪み範囲を0.1〜0.6%とする。炭素繊維束の引張弾性率は、主に炭素繊維束の製造工程におけるいずれかの熱処理過程で繊維束に張力を付与するか、炭素化温度を変えることにより制御できる。
本発明において、単繊維20本に対して評価したE×d/Wの値のワイブルプロットにおけるワイブル形状係数mが12以上であることが好ましい。ワイブルプロットは、強度分布を評価するために広く用いられる手法であり、ワイブル形状係数mにより分布の広がりを知ることができる。本発明においてワイブルプロットはE×d/Wの値の小さいものから1、・・、i、・・、20のように番号をふり、縦軸をln(−ln(1−(i−0.5)/20))、横軸をln(E×d/W)として描く。ここでlnは自然対数を意味する。かかるプロットを最小自乗法により直線近似した際に、その傾きとしてワイブル形状係数mが得られる。ワイブル形状係数mが大きいほど強度分布は狭く、小さいほど強度分布が広いことを意味する。通常の炭素繊維の場合、単繊維引張試験により評価した引張強度のワイブル形状係数mは5付近の値をとることが多い。これは大きな欠陥のサイズ分布に由来すると解釈されている。一方、詳しい理由は必ずしも明確ではないが、本発明の炭素繊維の場合、E×d/Wのワイブル形状係数mは5付近よりも有意に大きいことを見出した。また炭素繊維の欠陥が多い場合、ワイブルプロットが屈曲することでmの値が小さくなることが分かった。ワイブル形状係数mが12以上であれば、炭素繊維の欠陥が十分に少なく好ましい。
本発明の炭素繊維束の第三の態様において、炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力は8.5GPa以上であり、かつ、炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの炭素繊維の単繊維コンポジットのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数は0.24〜0.42個/mmであり、好ましくは0.24〜0.37個/mmであり、より好ましくは0.24〜0.32個/mmである。
単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法とは、炭素繊維の単繊維1本を樹脂に埋め込んだコンポジットに歪みをステップワイズに与えながら各歪みでの繊維破断数を数えることで、炭素繊維の単繊維強度分布を調べる手法である。単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による炭素繊維の単繊維強度の測定は、“アドバンスド・コンポジット・マテリアルス(Advanced Composite Materials)”(日本)、2014年、23、5−6、p.535−550などに開示されている。
単繊維コンポジットのダブルファイバーフラグメンテーション法とは、炭素繊維の単繊維2本を0.5μm以上、平均単繊維径以下の間隔に平行に埋め込んだコンポジットに歪みをステップワイズに与え、各歪みでの繊維破断数を数えることで、炭素繊維の特に高強度領域の単繊維強度分布を調べる手法である。コンポジット中の繊維に破断が生じると破断した部分に隣接した箇所に数10%高い応力が負荷されて隣接繊維が選択的に破断することが知られている。すなわち、シングルファイバーフラグメンテーション法における繊維破断数に対する、ダブルファイバーフラグメンテーション法における繊維破断数を調べることでシングルファイバーフラグメンテーション法では負荷できない非常に高い応力状態での炭素繊維の単繊維強度分布を調べることができる。炭素繊維の単繊維2本の間隔が平均単繊維径を超えると隣接繊維の影響を受けにくくなるため高い応力を負荷できなくなる。炭素繊維の単繊維2本の間隔が0.5μm未満であると繊維破断の判定がしにくくなる。そのため、炭素繊維の単繊維2本を0.5μm以上平均単繊維径以下の間隔とする。
本発明の炭素繊維束の第三の態様において、炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力は、8.5GPa以上である。単繊維見掛け応力とは、単繊維コンポジット歪みと炭素繊維の単繊維弾性率の積のことを示す。シングルファイバーフラグメンテーション法において単繊維コンポジット歪みが低いときは繊維破断数が少なく、単繊維見掛け応力のバラツキが大きくなるため、繊維破断数0.30個/mmを指標とするのが良い。シングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力が8.5GPa以上であれば、炭素繊維の試長3〜10mm領域の単繊維強度分布が実質的に高いことを意味し、炭素繊維のストランド強度を有意に高めることができる。
欠陥低減などにより、単に炭素繊維のストランド強度を高めても炭素繊維複合材料の引張強度は高まらないことがあるが、上述のダブルファイバーフラグメンテーション法における繊維破断を少なくすることで効果的に炭素繊維複合材料の引張強度を高めることができる。シングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数は、隣接繊維の影響を受けないときは0.30個/mmとなるが、繊維破断のバラツキを考慮して0.24個/mm以上である。シングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.42個/mmを超えると高強度領域の単繊維強度分布が低いため、高い応力が負荷されたときに隣接繊維が破断しやすくなる。すなわち一つの単繊維破断がクラスター破断を引き起こして炭素繊維複合材料の引張強度は高まらないため、かかる繊維破断数は0.42個/mm以下とし、好ましくは0.37個/mm以下であり、より好ましくは0.32個/mm以下である。なお、かかるパラメーターは、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法を用いることにより制御することができる。
本発明の炭素繊維束の第三の態様において、炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときの繊維破断数が好ましくは2.0個/mm以上であり、より好ましくは2.1個/mm以上である。かかる繊維破断数が2.0個/mmを下回る場合、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着の低下により、繊維破断数が増加したときに繊維が応力を負担できずに炭素繊維複合材料の引張強度が低下することがある。応力負担が0の破断点から樹脂と炭素繊維との界面剪断で破断点間の繊維に応力が伝達されていくが、特にこのように破断数が増えた場合には繊維応力は増加しにくいので繊維破断数が飽和してくる。そのため、実繊維応力は、単繊維見掛け応力よりも小さい。炭素繊維の単繊維弾性率が低い場合は、単繊維見掛け応力を15.3GPaまで負荷する前に単繊維コンポジットが壊れることがあるが、繊維破断数が飽和している場合はその破断数で代用することができる。ここで、飽和とは単繊維コンポジット歪み変化をΔ1%としたときに繊維破断数の増加がΔ0.2個/mm以下となったときのことを言う。
炭素繊維束の好ましい結晶配向度は82%以上であり、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。結晶配向度の上限は原理的に100%となる。応力下で結晶配向度が高まることで、炭素繊維束の応力−ひずみ曲線が非線形性を示す。応力負荷前の炭素繊維束の結晶配向度が高いほど、結晶子が応力を負担して引張強度が高まりやすいため好ましい。炭素繊維束の結晶配向度は、後述する<炭素繊維の結晶配向度>に記載の方法により求めることができる。炭素繊維束の結晶配向度は、主に熱処理過程で炭素繊維束に張力を付与するか、炭素化温度を高めることで高めることができる。
炭素繊維束の好ましい単繊維直径は4.5〜7.5μmであり、より好ましくは5.0〜7.0μmである。単繊維直径が小さいほど欠陥が減少する傾向となるが、単繊維直径が4.5μm以上7.5μm以下の場合、引張強度が安定的となるため好ましい。単繊維直径は、炭素繊維束の単位長さ当たりの質量と比重から計算できる。
炭素繊維束の樹脂含浸ストランド引張試験における初期引張弾性率は、好ましくは280GPa以上であり、より好ましくは300GPa以上であり、さらに好ましくは320GPa以上である。通常、初期引張弾性率が高まるほど引張強度が低下することが知られている。かかる初期引張弾性率が280GPa以上であって、かつ、本発明の第一の態様〜第三の態様のいずれかを満足すれば、引張弾性率と引張強度のバランスに優れるために好ましい。初期引張弾性率は、樹脂含浸ストランドを引張試験して得た応力−ひずみ曲線の非線形性の近似式(1)から1/Bで計算される。初期引張弾性率はカタログ値で示されているような引張弾性率の約9割であることが多い。炭素繊維束の初期引張弾性率は、主に炭素繊維束の製造工程におけるいずれかの熱処理過程で繊維束に張力を付与するか、炭素化温度を変えることにより制御できる。
炭素繊維束の広角X線回折測定における結晶化度は、好ましくは40〜60%であり、より好ましくは43〜60%であり、さらに好ましくは45〜60%である。炭素繊維中の非晶部の剪断弾性率が高いほど炭素繊維の引張強度が高い傾向にある。炭素繊維の剪断弾性率が高く、結晶化度が高いほど非晶部の剪断弾性率が高いことを示す。結晶化度は炭素繊維の結晶子の体積分率を示し、結晶化度が40〜60%であれば満足できる非晶部の剪断弾性率を示すことが多い。結晶化度の評価は粉末にした炭素繊維束の広角X線回折測定から人造黒鉛の回折強度を基準にして求める(詳細は後述する<炭素繊維の結晶化度>に記載のとおり)。結晶化度は一般に炭素化温度により制御できる。
次に、本発明の炭素繊維束の製造方法について説明する。
炭素繊維束を製造する方法において、炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程、予備炭素化工程、および炭素化工程に供することにより、炭素繊維束を得る。炭素繊維の応力−ひずみ曲線の非線形性を弱めるためには、特に炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程に供する際に、得られた耐炎化繊維が、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.70〜0.75の範囲、かつ、赤外スペクトルの1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1のピーク強度の比が0.50〜0.65の範囲になるように制御する必要がある。赤外スペクトルにおける1453cm−1のピークはアルケン由来であり、耐炎化の進行とともに減少していく。1370cm−1のピークと1254cm−1のピークは耐炎化構造(それぞれナフチリジン環および水素化ナフチリジン環構造と考えられる。)に由来するピークであり、耐炎化の進行とともに増加していく。得られた耐炎化繊維の比重が1.35の場合に、1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が、0.63〜0.69程度である。耐炎化工程においては、ポリアクリロニトリルに由来するピークをなるべく減少させて炭化収率を高めるようにすることが一般的であるが、本発明ではあえて多くのアルケンを残すように、耐炎化工程の条件を設定する。このような構造を有する耐炎化繊維を予備炭素化工程に供することにより、得られる炭素繊維束の剪断弾性率を高める効果があると考えられる。さらに、1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1のピーク強度の比が0.50〜0.65となるように耐炎化条件を設定するのが重要である。1254cm−1のピークは耐炎化が不十分な部分で多く見られ、この構造が多いと、得られる炭素繊維の剪断弾性率を低下させると考えられる。かかるピーク強度比は耐炎化の進行とともに減少していき、特に初期の減少が大きいが、耐炎化条件次第では、時間を増やしてもかかるピーク強度比が0.65以下とならないこともある。
この2つのピーク強度比を目的の範囲内で両立させるためには、基本的には、炭素繊維前駆体繊維束を構成するポリアクリロニトリル系重合体に含まれる共重合成分の量が少ないこと、炭素繊維前駆体繊維束の結晶配向度が高いこと、炭素繊維前駆体繊維束の繊度を小さくすること、および耐炎化温度を後半に高くすることに主に注目して条件設定すればよい。赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.98〜1.10の範囲となるまで熱処理し(第1耐炎化工程)、続いて、第1耐炎化工程よりも高い温度で、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比を0.70〜0.75の範囲、かつ、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1ピーク強度の比が0.50〜0.65の範囲となるまで耐炎化時間を5〜14分、好ましくは5〜10分として熱処理(第2耐炎化工程)することが好ましい。第2耐炎化工程の耐炎化時間を短くするためには耐炎化温度を高く調整すればよいが、適切な耐炎化温度はポリアクリロニトリル前駆体繊維束の特性に依存する。炭素繊維束中心温度が好ましくは280〜310℃、より好ましくは280〜300℃、さらに好ましくは285〜295℃になるようにすることが、上述の赤外スペクトルの範囲に制御するために好ましい。耐炎化温度は一定である必要はなく、多段階の温度設定でも構わない。得られる炭素繊維の剪断弾性率を高めるためには、耐炎化温度は高く、耐炎化時間を短くすることが好ましい。第1耐炎化工程は、耐炎化時間が好ましくは8〜25分、より好ましくは8〜15分で、上述の範囲となるような耐炎化温度で耐炎化することが好ましい。
ここで述べる耐炎化時間とは耐炎化炉内に繊維束が滞留している時間を意味し、耐炎化繊維束とは、耐炎化工程後、予備炭素化工程前の繊維束を意味する。また、ここで述べるピーク強度とは、耐炎化繊維を少量サンプリングして赤外スペクトルを測定して得られたスペクトルをベースライン補正した後の各波長における吸光度のことであり、特にピーク分割などは行わない。また、試料の濃度は0.67質量%となるようにKBrで希釈して測定する。このように、耐炎化条件設定を変更するたびに赤外スペクトルを測定して、後述の好ましい製造方法にしたがって条件検討すればよい。耐炎化繊維の赤外スペクトルピーク強度比を適切に制御することで、得られる炭素繊維の応力−ひずみ曲線の非線形性を制御することができる。
ポリアクリロニトリル系重合体に含まれる共重合成分の量は0.1〜2質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。共重合成分を加えることで耐炎化反応の促進効果があるが、共重合量が0.1質量%未満では効果が得られにくい。また共重合量が2質量%を越えると単繊維表層の耐炎化が優先的に促進され、耐炎糸内部の耐炎化が不十分となるため、上述の赤外スペクトルピーク強度比の範囲を満たさない場合が多い。
本発明において、耐炎化工程とは、炭素繊維前駆体繊維束を、空気中の酸素雰囲気濃度±5質量%の酸素雰囲気濃度で200〜400℃で熱処理することを言う。
耐炎化工程のトータルの処理時間は、好ましくは13〜20分の範囲で適宜選択することができる。また、得られる炭素繊維束の剪断弾性率を向上させる目的から、得られる耐炎化繊維束の比重が好ましくは1.28〜1.32、より好ましくは1.30〜1.32の範囲となるように耐炎化の処理時間を設定する。より好ましい耐炎化工程の処理時間は耐炎化温度に依存する。耐炎化繊維束の比重は1.28以上なければ炭素繊維束の引張強度が低下することがある。耐炎化繊維束の比重が1.32以下であれば剪断弾性率を高めることができる。耐炎化繊維束の比重は耐炎化工程の処理時間と耐炎化温度により制御する。また、第1耐炎化工程から第2耐炎化工程に切り替えるタイミングは、繊維束の比重が1.21〜1.23の範囲とすることが好ましい。この際も前記赤外スペクトル強度比の範囲を満たすことを優先して耐炎化工程の条件を制御する。これらの耐炎化の処理時間や耐炎化温度の好ましい範囲は炭素繊維前駆体繊維束の特性やポリアクリロニトリル系重合体の共重合組成によって変化する。
耐炎化工程において、炭素繊維前駆体繊維束の比重が1.22以上であって、かつ、220℃以上で熱処理される間に繊維に与えられる熱量の積算値を、好ましくは50〜150J・h/g、より好ましくは70〜100J・h/gとするのがよい。耐炎化工程後半に与えられる熱量の積算値をかかる範囲に調整することで、得られる炭素繊維の応力−ひずみ曲線の非線形性を弱めやすい。熱量の積算値は、耐炎化温度T(K)と耐炎化炉の滞留時間t(h)、およびポリアクリルニトリル系前駆体繊維束の熱容量1.507J/g・℃を用いて、下式により求めた値である。
熱量の積算値(J・h/g)=T×t×1.507
ここで耐炎化工程に温度条件が複数ある場合には、各温度での滞留時間から熱量を計算して、積算すればよい。
炭素繊維前駆体繊維束の製造に供する原料としてはポリアクリロニトリル系重合体を用いることが好ましい。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものを言う。主構成成分とは、通常、重合体骨格の90〜100モル%を占める構成成分のことを言う。
炭素繊維前駆体繊維束の製造において、ポリアクリロニトリル系重合体は、製糸性向上の観点および、耐炎化処理を効率よく行う観点等から、共重合成分を含むことが好ましい。
共重合成分として使用可能な単量体としては、耐炎化を促進する観点から、カルボン酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体が好ましく用いられる。例えば、カルボン酸基を含有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのアルカリ金属塩、およびアンモニウム塩等が挙げられる。また、アミド基を含有する単量体としては、アクリルアミド等が挙げられる。
炭素繊維前駆体繊維束の製造において、ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法としては、公知の重合方法の中から選択することができる。
本発明の炭素繊維束を得るのに好適な炭素繊維前駆体繊維束の製造方法について述べる。
炭素繊維前駆体繊維束を製造するにあたり、製糸方法は乾湿式紡糸法および湿式紡糸法のいずれを用いてもよいが、得られる炭素繊維束の引張強度に有利な乾湿式紡糸法を用いるのが好ましい。製糸工程は、乾湿式紡糸法により紡糸口金から凝固浴に紡糸原液を吐出させ紡糸する紡糸工程と、該紡糸工程で得られた繊維を水浴中で洗浄する水洗工程と、該水洗工程で得られた繊維を水浴中で延伸する水浴延伸工程と、該水浴延伸工程で得られた繊維を乾燥熱処理する乾燥熱処理工程からなり、必要に応じて、該乾燥熱処理工程で得られた繊維をスチーム延伸するスチーム延伸工程を含むことが好ましい。紡糸原液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒に溶解したものである。
前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記ポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸溶液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。具体的には、凝固促進成分として水を使用することが好ましい。
前記水洗工程における水洗浴としては、温度が30〜98℃の複数段からなる水洗浴を用いることが好ましい。
また、水浴延伸工程における延伸倍率は、2〜6倍であることが好ましく、より好ましくは2〜4倍である。
水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
乾燥熱処理工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、乾燥温度は100〜200℃が例示される。
前記した水洗工程、水浴延伸工程、油剤付与工程、乾燥熱処理工程の後、必要に応じ、スチーム延伸を行うことにより、本発明の炭素繊維束を得るのに好適な炭素繊維前駆体繊維束が得られる。スチーム延伸は、加圧スチーム中において、少なくとも2倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは5倍以上延伸するのがよい。
前記耐炎化工程に引き続いて、予備炭素化工程を行うことが好ましい。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1200℃において、比重が1.5〜1.8になるまで熱処理することが好ましい。
予備炭素化された繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1000〜3000℃において炭素化する。炭素化工程の温度は、得られる炭素繊維のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると高強度領域の強度が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのがよい。より好ましい温度範囲は1200〜2000℃であり、さらに好ましい温度範囲は、1200〜1600℃である。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられる。生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。液相電解酸化の方法については特に限定はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる液相電解酸化処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング剤を付与することもできる。サイジング剤には、複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明において用いられる各種物性値の測定方法は、次のとおりである。
<単繊維ループ試験>
長さ約10cmの単繊維をスライドガラス上に置き、中央部にグリセリンを1〜2滴たらして単繊維両端部を繊維周方向に軽くねじることで単繊維中央部にループを作り、その上にカバーガラスを置く。これを顕微鏡のステージに設置し、トータル倍率が100倍、フレームレートが15フレーム/秒の条件で動画撮影を開始する。ループが視野から外れないようにステージを都度調節しながら、ループさせた繊維の両端を指でスライドガラス方向に押しつけつつ逆方向に一定速度で引っ張ることで、単繊維が破断するまで歪をかける。コマ送りにより破断直前のフレームを特定し、画像解析により破断直前のループの横幅Wを測定する。繊維直径dをWで除してd/Wを算出する。試験のn数は20とし、d/Wの平均値にストランド弾性率をかけ算することによりE×d/Wを求める。
<シングルファイバーフラグメンテーション法>
シングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数の測定は、次の(a)〜(e)の手順で行う。
(a)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物“エポトート(登録商標)YD−128”(新日鐵化学(株)製)190質量部とジエチレントリアミン(和光純薬工業(株)製)20.7質量部を容器に入れてスパチュラでかき混ぜ、自動真空脱泡装置を用いて脱泡する。
(b)炭素繊維単繊維のサンプリングとモールドへの固定
20cm程度の長さの炭素繊維束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単繊維をサンプリングした。このとき、束全体からできるだけまんべんなくサンプリングする。次に、穴あき台紙の両端に両面テープを貼り、サンプリングした単繊維に一定張力を与えた状態で穴あき台紙に単繊維を固定する。次に、ポリエステルフィルム“ルミラー(登録商標)”(東レ(株)製)を貼り付けたガラス板を用意して、試験片の厚さを調整するための2mm厚のスペーサーをフィルム上に固定する。そのスペーサー上に単繊維を固定した穴あき台紙を置き、さらにその上に、同様にフィルムを貼り付けたガラス板をフィルムが貼り付いた面を下向きにセットする。このときに繊維の埋め込み深さを制御するために、厚み70μm程度のテープをフィルムの両端に貼り付ける。
(c)樹脂の注型から硬化まで
上記(b)の手順で得られたモールド(スペーサーとフィルムに囲まれた空間)内に上記(a)の手順で調整した樹脂を流し込む。樹脂を流し込んだモールドを、あらかじめ50℃に昇温させたオーブンを用いて5時間加熱後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温する。その後、脱型、カットをして2cm×7.5cm×0.2cmの試験片を得る。このとき、試験片幅の中央0.5cm幅内に単繊維が位置するように試験片をカットする。
(d)繊維埋め込み深さ測定
上記(c)の手順で得られた試験片に対して、レーザーラマン分光光度計(日本分光 NRS−3000)のレーザーと532nmノッチフィルターを用いて繊維の埋め込み深さ測定を行う。まず、単繊維表面にレーザーを当て、レーザーのビーム径が最も小さくなるようにステージ高さを調整し、そのときの高さをA(μm)とする。次に試験片表面にレーザーを当て、レーザーのビーム径が最も小さくなるようにステージ高さを調整し、そのときの高さをB(μm)とする。このようにして得られた高さA、Bと、上記レーザーを使用して測定した樹脂の屈折率1.732から、以下の式により、繊維の埋め込み深さe(μm)を計算する。
Figure 0005907321
(e)4点曲げ試験
上記(c)の手順で得られた試験片に対して、図1に示すように外側圧子50mm間隔、内側圧子20mm間隔の治具を用いて4点曲げで引張り歪みを負荷する。ステップワイズに0.1%毎に歪みを与え、偏光顕微鏡により試験片を観察し、試験片長手方向の中心部10mmの範囲における単繊維の破断数を測定する。測定した破断数を10で除した値を繊維破断数(個/mm)とする。また、試験片の中心から幅方向に約5mm離れた位置に貼り付けた歪みゲージを用いて歪みε(%)を測定した。試験のn数は40とし、測定結果の算術平均値をε(%)の値とする。最終的な単繊維コンポジットの歪みεcは、歪みゲージのゲージファクターκ、上記(d)の手順で測定した繊維埋め込み深さe(μm)、残留歪み0.14(%)から以下の式で計算する。
Figure 0005907321
<ダブルファイバーフラグメンテーション法>
ダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数の測定は、次の(f)〜(j)の手順で行う。
(f)樹脂の調整
前記(a)と同様に行う。
(g)炭素繊維単繊維のサンプリングとモールドへの固定
20cm程度の長さの炭素繊維束をほぼ4等分し、4つの束から2本の単繊維をサンプリングし、穴あき台紙の両端に両面テープを貼り、サンプリングした単繊維に一定張力を与えた状態で2本の単繊維の間隔が0.5μm以上、平均単繊維径以内となり、かつ平行となるように固定する以外は前記(b)と同様に行う。
(h)樹脂の注型から硬化まで
前記(c)と同様に行う。
(i)繊維埋め込み深さ測定および単繊維間隔測定
前記(d)と同様に繊維埋め込み深さを測定した後、光学顕微鏡で単繊維間隔を測定する。単繊維間隔が0.5μm以上、平均単繊維径以下で平行に埋め込まれたコンポジットのみ試験に用いる。
(j)4点曲げ試験
前記(e)と同様に行う。なお、試験のn数は20とし、40本の単繊維について試験を行う。
<炭素繊維の単繊維弾性率>
炭素繊維の単繊維弾性率は、JIS R7606(2000年)に基づいて、以下の通りにして求める。まず、20cm程度の長さの炭素繊維の束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単糸をサンプリングして束全体からできるだけまんべんなくサンプリングする。サンプリングした単糸は、穴あき台紙に接着剤を用いて固定する。単糸を固定した台紙を引張試験機に取り付け、ゲージ長50mm、歪速度2mm/分、試料数20で引張試験により引張強力を測定し、測定結果の算術平均値を強力の値とする。弾性率は以下の式で定義される。
弾性率=(得られる強力)/(単繊維の断面積×得られる伸度)
測定する繊維束について、単位長さ当たりの質量(g/m)を密度(g/m)で除して、さらにフィラメント数で除して単繊維断面積を求める。密度は、比重液としてo−ジクロロエチレンを用いてアルキメデス法で測定する。
<炭素繊維のストランド引張試験>
炭素繊維の樹脂含浸ストランド引張弾性率(ストランド弾性率E)、引張強度および応力−ひずみ曲線は、JIS R7608(2008)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。ストランド弾性率Eは歪み範囲0.1〜0.6%の範囲で測定し、初期弾性率は歪み0における応力−ひずみ曲線の傾きから求める。なお、試験片は、次の樹脂組成物を炭素繊維束に含浸し、130℃の温度で35分間熱処理の硬化条件により作製する。
[樹脂組成]
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサン−カルボキシレート(100質量部)
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)
・アセトン(4質量部)。
また、ストランドの測定本数は6本とし、測定結果の算術平均値をその炭素繊維のストランド引張弾性率および引張強度とする。なお、後述の実施例および比較例においては、上記の3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサン−カルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製、“BAKELITE(登録商標)”ERL−4221を用いた。ひずみは伸び計を用いて測定する。
<比重測定>
1.0〜3.0gの繊維を採取し、120℃で2時間絶乾する。絶乾質量W(g)を測定した後、エタノールに含浸させ十分脱泡してから、エタノール浴中での繊維質量W(g)を測定し、繊維比重=(W×ρ)/(W−W)により繊維比重を求める。ここで、ρはエタノールの比重である。
<炭素繊維の結晶化度>
測定に供する炭素繊維をハサミで2〜3mmの長さに切断した後、めのう乳鉢を用いて繊維形状がなくなるまで10〜20分間粉砕する。そのようにして得られた炭素繊維粉末180mgに対し、シリカゲル粉末300mgとシリコーン粉末(100メッシュ)20mgを混合することで広角X線回折測定用試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=10〜40°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.01°、計数時間1秒。
得られた回折パターンに対して、シリコーン粉末(100メッシュ)を基準物質として、シリカゲル粉末およびシリコーン粉末由来のピークを除去した後、ローレンツ補正を行い、シリコーン粉末のピーク面積値で規格化した、炭素繊維の積分強度Xを求める。人造黒鉛についても同様の測定を行い、その際の積分強度X100を求める。このようにして求めた積分強度X、X100および炭素繊維の比重Bと人造黒鉛の比重B100から、下記式に従って炭素繊維の結晶化度A(%)を求める。
=X×B100/(B×X100)×100
なお、後述の実施例および比較例においては、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD−6100を用いた。
<炭素繊維束の結晶配向度Π>
測定に供する炭素繊維束を引き揃え、コロジオン・アルコール溶液を用いて固めることにより、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
2θ=25〜26°付近に現れるピークを円周方向にスキャンして得られる回折強度分布の半価幅H(°)から次式を用いて結晶配向度Π(%)を求める。
結晶配向度Π(%)=[(180−H)/180]×100
なお、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD−6100を用いる。
<炭素繊維の平均単繊維径>
測定する多数本の炭素フィラメントからなる炭素繊維束について、単位長さ当たりの質量A(g/m)および比重B(g/cm)を求める。求めたAおよびBの値ならびに測定する炭素繊維束のフィラメント数をCから、炭素繊維の平均単繊維径(μm)を、下記式で算出する。
炭素繊維の平均単繊維径(μm)=((A/B/C)/π)(1/2)×2×10
<赤外スペクトルの強度比>
測定に供する耐炎化繊維を、凍結粉砕後に2mgを精秤して採取し、それをKBr300mgと良く混合して、成形用治具に入れ、プレス機を用いて40MPaで2分間加圧することで測定用錠剤を作製する。この錠剤をフーリエ変換赤外分光光度計にセットし、1000〜2000cm−1の範囲でスペクトルを測定する。なお、バックグラウンド補正は、1700〜2000cm−1の範囲における最小値が0になるようにその最小値を各強度から差し引くことで行う。なお、上記フーリエ変換赤外分光光度計として、パーキンエルマー製Paragon1000を用いた。
<炭素繊維複合材料の0°引張強度>
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向として、その軸方向を0°軸、軸直交方向を90°軸と定め、作成後24時間以内の一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグ法により、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維複合材料)を得る。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得る。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/分で引張試験を行い、0°引張強度を求める。
(実施例1〜8および比較例1〜10)
アクリロニトリル99.0質量%とイタコン酸1.0質量%からなる共重合体(ただし、比較例8では、アクリロニトリル97.0質量%とイタコン酸3.0質量%からなる共重合体)を、ジメチルスルホキシドを溶媒として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を、紡糸口金から一旦空気中に吐出し、ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条を得た。
この凝固糸条を、常法により水洗した後、2槽の温水浴中で、3.5倍の延伸を行った。続いて、この水浴延伸後の繊維束に対して、アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行った。単繊維本数12000本としてから、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、その後交絡処理を行って、結晶配向度93%、単繊維本数12000本の炭素繊維前駆体繊維束を得た。炭素繊維前駆体繊維束の単繊維繊度は0.7dtexであった。ただし比較例10は単繊維繊度0.5dtexであった。次に、実施例1〜7および比較例1〜8、10については表1に、実施例8については表2に、比較例9については表3に示す耐炎化温度および耐炎化時間の条件を用いて、空気雰囲気のオーブン中で炭素繊維前駆体繊維束を延伸比1で延伸しながら耐炎化処理し、表1〜3にそれぞれ示す耐炎化繊維束を得た。
Figure 0005907321
Figure 0005907321
Figure 0005907321
ここで、表1において、「第1炉」において耐炎化する工程が第1耐炎化工程に該当し、「第2炉」(ただし、比較例4については「第2炉」および「第3炉」)において耐炎化する工程が第2耐炎化工程に該当する。また、表2において、「第1炉」「第2炉」「第3炉」「第4炉」において耐炎化する工程が第1耐炎化工程に該当し、「第5炉」「第6炉」において耐炎化する工程が第2耐炎化工程に該当する。表3において、「第1炉」「第2炉」において耐炎化する工程が第1耐炎化工程に該当し、「第3炉」「第4炉」「第5炉」「第6炉」において耐炎化する工程が第2耐炎化工程に該当する。
なお、本発明において第1耐炎化工程および第2耐炎化工程を行う耐炎化炉数に制限は無い。例えば、実施例1においては「第1炉」において250℃で耐炎化を11分、「第2炉」において285℃で耐炎化を6分行ったが、実施例8においては、第1耐炎化工程を4炉、第2耐炎化工程を2炉で実施した6炉構成により耐炎化を行った。
得られた耐炎化繊維束を、温度300〜800℃の窒素雰囲気中において、延伸比1.15で延伸しながら予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、最高温度1500℃、張力14mN/dTexで炭素化処理を行った。得られた炭素繊維束に、表面処理およびサイジング剤塗布処理を行って最終的な炭素繊維束としたものの物性を表4−1〜4−3に示す。なお、比較例1は特開2012−082541号公報の実施例4、比較例2は特開2009−242962号公報の実施例1、比較例3は特開2012−082541号公報の実施例1、比較例4は特開2012−082541号公報の実施例3、比較例5は特開2012−082541号公報の実施例7の耐炎化条件に倣って実施した。
比較例2および4の耐炎化繊維束は、耐炎化が不足していたため、炭素化工程において糸切れしてしまい、炭素繊維束を得られなかった。なお、参考例1、2、3として、特開2012−082541号公報のそれぞれ実施例1、3、7に全て倣って製造した耐炎化繊維束の物性を表5に示す。本発明の比較例3、4、5では、炭素繊維前駆体繊維束の製造条件が特開2012−082541号公報に記載の製造条件とは異なるため、参考例1、2、3と比較例3、4、5とでは、耐炎化繊維束が異なる特性を示している。
表4−3から読み取れるとおり、実施例1〜8では引張強度が7.5GPa以上の炭素繊維束が得られ、比較例1〜9では引張強度が7.5GPa以上の炭素繊維束が得られなかった。
さらに、得られた炭素繊維束を用いた炭素繊維複合材料の特性を評価するため、実施例1および比較例10の炭素繊維束について以下の手順で炭素繊維複合材料評価を実施した。なお、比較例10は比較例3と同条件で耐炎化および炭化を実施したが、単繊維繊度減少による表面欠陥の減少により比較例3よりも引張強度が高かった。濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで炭素繊維束を電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を、水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥することにより、電解処理された炭素繊維束を得た。ついで、“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)を含むサイジング液によりサイジング剤付着処理を行い、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。かかるサイジング剤塗布炭素繊維束を用いて、次の手順でプリプレグを作製した。まず、混練装置で、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)を35質量部、ビスフェノールAジグリシジルエーテル“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)を35質量部、N−ジグリシジルアニリンGAN(日本化薬(株)製)を30質量部、および、14質量部のスミカエクセル(登録商標)5003Pを混練して溶解した後、さらに4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部加えて混練し、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せて、ヒートロールを用い、温度100℃、1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。
かかるプリプレグを用いて炭素繊維複合材料を作製し、0°引張強度を評価した。その結果を表4−3に示す。実施例1および比較例10において、炭素繊維束の引張強度は7.6で同等であったものの、炭素繊維複合材料0°引張強度は、比較例10に比べて実施例1が優れていた。
Figure 0005907321
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なお、市販されている炭素繊維や公知の炭素繊維の特性を参考として表6に示す。
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Claims (13)

  1. 樹脂含浸ストランド引張試験における応力σ−ひずみε曲線の非線形性の近似式(1)から求まる係数Aと広角X線回折測定における結晶配向度Π(%)の関係が式(2)を満足し、かつ引張強度が7.5GPa以上の炭素繊維束;
    ε=Aσ+Bσ+C ・・・(1)
    (0.0000832Π−0.0184Π+1.00)/A≦−395 ・・・(2)
    ここで、A、B、Cは応力σとひずみεの2次関数の係数である。
  2. 広角X線回折測定における結晶配向度Π(%)が82%以上である、請求項1に記載の炭素繊維束。
  3. 樹脂含浸ストランド引張試験における引張弾性率が240〜440GPaであり、かつ単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wとストランド弾性率Eとの積E×d/Wが14.6GPa以上である炭素繊維束。
  4. 単繊維20本に対して評価したE×d/Wのワイブルプロットにおけるワイブル形状係数mが12以上である、請求項3に記載の炭素繊維束。
  5. 炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの単繊維見掛け応力が8.5GPa以上であり、かつ炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.30個/mmのときの炭素繊維の単繊維コンポジットのダブルファイバーフラグメンテーション法による繊維破断数が0.24〜0.42個/mmである炭素繊維束。
  6. 炭素繊維の単繊維コンポジットのシングルファイバーフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときの繊維破断数が2.0個/mm以上である、請求項5に記載の炭素繊維束。
  7. 樹脂含浸ストランド引張試験における初期引張弾性率が280GPa以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維束。
  8. 広角X線回折測定における結晶化度が40〜60%である、請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維束。
  9. ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.98〜1.10の範囲となるまで8〜25分間耐炎化する第1耐炎化工程を行い、さらに、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比が0.70〜0.75の範囲、かつ、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1のピーク強度の比が0.50〜0.65の範囲となるまで5〜14分間耐炎化する第2耐炎化工程を行って耐炎化繊維束を得て、その後、耐炎化繊維束を1000〜3000℃の不活性雰囲気中で炭素化する炭素化工程を行う炭素繊維束の製造方法。
  10. 耐炎化工程におけるトータルの処理時間を13〜20分の範囲とする、請求項9に記載の炭素繊維束の製造方法。
  11. 耐炎化工程における繊維の比重が1.22であって、かつ、220℃以上で熱処理される間に与えられる熱量の積算値が50〜150J・h/gの範囲内となるように耐炎化する、請求項9または10に記載の炭素繊維束の製造方法。
  12. 得られる耐炎化繊維束の比重が1.28〜1.32の範囲となるように耐炎化する、請求項9〜11のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  13. ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束において、アクリロニトリルに共重合成分をモノマー成分全体の0.1〜2質量%共重合させる、請求項9〜12のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
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