近年、環境への配慮から軽量かつリサイクル性に優れたアルミニウム材やマグネシウム材が建造物や車両等で多く利用され、その接合に交流アーク溶接装置が多く利用されている。交流アーク溶接装置は、逆極性と正極性とを交互に繰り返してアーク溶接を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
特に、大型建造物を生産する作業現場では、溶接装置を溶接作業場の近傍に配置できないことから、溶接トーチや母材ケーブルを延長する必要がある。溶接トーチや母材ケーブルを延長した結果、溶接負荷側のインダクタンスが増加し、交流溶接の極性反転の時のスイッチングの時に発生するサージ電圧で2次インバータを構成する半導体素子が破損するといった問題があった。
そのため、従来から、半導体保護のため、極性反転発生前に、低い電流(例えば、100A以下)を通電した後に、極性反転のスイッチングを行い、発生するサージ電圧を低く抑える対策が実施されてきた。
図6から図8を用いて、従来から慣用されている交流アーク溶接装置の動作に関して説明する。図6は従来の交流アーク溶接装置の概略構成を示す図、図7A、図7Bは、従来の交流アーク溶接装置における溶接電流波形の時間変化を示す図、図8A、図8Bは、従来の交流アーク溶接装置に溶接トーチを接続した状態を示す図である。図6のように構成された交流アーク溶接装置について、図7A、図7Bを用いてその動作を説明する。以下、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を用いた例にて説明する。
図6と図8A、図8Bにおいて、交流アーク溶接装置1は、溶接出力部2と、溶接制御部3と、算出部4と、交流周波数設定部7と、逆極性期間設定部8と、記憶部16と、を備えている。そして、交流アーク溶接装置1は、ケーブル1aを介して第1の溶接トーチ10または第2の溶接トーチ13を駆動することにより、電極9から母材12に対してアーク11を発生させて溶接を行う。なお、図8Aは、交流アーク溶接装置1に第1の溶接トーチ10を接続した例を示している。図8Bは、図8aに示される第1の溶接トーチ10のケーブル1aよりも、長さが長いケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を交流アーク溶接装置1に接続した例を示している。
また、図7A、図7Bにおいて、T1は交流周波数F1の周期、RENは逆極性期間、R5は正極性ベース期間、R6は逆極性ベース期間、IENPは正極性ピーク電流、IEPPは逆極性ピーク電流、IENBは正極性ベース電流、IEPBは逆極性ベース電流、IEN3は極性反転前の溶接電流(第2の溶接用トーチ13接続時の正極性期間における極性反転前の溶接電流)、IEP3は極性反転前の溶接電流(第2の溶接用トーチ13接続時の逆極性期間における極性反転前の溶接電流)である。
図6において、交流アーク溶接装置1の溶接出力部2は、外部から給電される商用電源(例えば、3相200V等)を入力とし、溶接制御部3からの出力に基づいて1次インバータ動作及び2次インバータ動作を行い、正極性と逆極性とを適正に切り替えて、実際に行う溶接に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
1次インバータは、通常、PWM(Pulse Wide Modulation)動作により駆動される、図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や、1次整流ダイオードや、平滑用電解コンデンサや、電力変換用変圧器等で構成される。
また、2次インバータは、通常、図示しないIGBTを用いたハーフブリッジやフルブリッジで構成され、出力極性を切り替える。
ここで、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ移動する現象であって、電極9がマイナスであり、母材がプラスの場合をいう。また、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ移動する現象であって、電極9がプラスであり、母材12がマイナスの場合をいう。
CPU等で構成される交流周波数設定部7は、交流周波数F1(例えば、70Hz)を設定するためのものであり、算出部4へ出力する。CPU等で構成される逆極性期間設定部8は、逆極性期間を設定するためのものであり、算出部4へ出力する。
逆極性期間は、一般的にはクリーニング期間ともよばれ、例えば、交流周期全期間に対する逆極性期間の比率である逆極性比率(例えば、30%等)が設定され、この逆極性比率に基づいて決定される。
CPU等で構成される記憶部16は、正極性ベース比率と、逆極性ベース比率との組み合わせを記憶しており、記憶している内容を算出部4へ出力する。ここで、正極性ベース比率は、正極性期間における極性反転前に、ピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の正極性期間に対する比率である。また、逆極性ベース比率は、逆極性期間における極性反転前に、ピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の逆極性期間に対する比率である。
CPU等で構成される算出部4は、交流周波数F1と、逆極性期間と、正極性ベース比率と、逆極性ベース比率と、を用いて、正極性ピーク期間、正極性ベース期間、逆極性ピーク期間および逆極性ベース期間を算出し、溶接制御部3へ出力する。ここで、交流周波数F1は、交流周波数設定部7により出力される。逆極性期間は、逆極性期間設定部8により出力される。正極性ベース比率と逆極性ベース比率は、組み合わせ記憶部16により出力される。
溶接制御部3は、算出部4の出力する各期間に基づき、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流を、正極性ベース期間中は正極性ピーク電流よりも低い正極性ベース電流を出力するように、出力指令信号を溶接出力部2へ出力する。また、溶接制御部3は、算出部4の出力する各期間に基づき、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流を、逆極性ベース期間中は逆極性ピーク電流よりも低い逆極性ベース電流を出力するように、出力指令信号を溶接出力部2へ出力する。
溶接出力部2は、この出力指令信号に基づいて出力制御を行う。溶接出力部2は、2次インバータの動作により、正極性期間中は正極性期間として動作し、電極9から母材12へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。また、逆極性期間中は、逆極性期間として動作し、母材12から電極9へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。また、溶接出力部2は、1次インバータの動作により、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流(例えば、400A)を出力し、正極性ベース期間中は正極性ベース電流(例えば100A)を出力する。また、溶接出力部2は、1次インバータの動作により、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流(例えば、−400A)を出力し、逆極性ベース期間中は逆極性ベース電流(例えば、−100A)を出力する。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、第1の溶接トーチ10あるいは第2の溶接トーチ13に給電され、タングステン等で構成される電極9の先端とアルミニウム材等である母材12との間にアーク11を発生し、交流アーク溶接を行う。
次に、図7Aを用いて、第1の溶接用トーチ10を接続した時の溶接電流波形の時間変化について説明する。
算出部4は、交流周波数F1(例えば、70Hz)の周期T1と、逆極性期間REN(逆極性比率が、例えば30%)と、正極性ベース比率R1(例えば、5%)と、逆極性ベース比率R2(例えば、11%)とを用いて、正極性ピーク期間(例えば、9.5msec)と、正極性ベース期間(例えば、0.5msec)と、逆極性ピーク期間(例えば、3.81msec)と、逆極性ベース期間(例えば、0.47msec)を算出する。
図7Aに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した時を考える。この時に、溶接電流は、その電流値が、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下する。そして、正極性ベース期間が終了すると、溶接電流波形は逆極性期間に移行する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した時を考える。この時に、溶接電流は、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下する。そして、逆極性ベース期間が終了すると、溶接電流波形は正極性期間に移行する。
上述のように、極性反転前に、正極性ピーク電流IENPから正極性ベース電流IENBまで溶接電流が低下する、あるいは、極性反転前に、逆極性ピーク電流IEPPから逆極性ベース電流IEPBまで溶接電流が低下する。この溶接電流の低下により、極性反転の際の2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧は低く抑えられる(例えば、300V程度)。これにより、溶接出力部2の2次インバータを構成する半導体素子が破損することがない。
次に、図7Bを用いて、図8Bに示す第1の長さのケーブル1aよりも長い第2の長さ(例えば、40m)のケーブル1aを備えた第2の溶接用トーチ13を接続した場合の溶接電流波形の動作について説明する。
図7Bに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了し正極性ベース期間に移行した時を考える。この時に、溶接電流は、正極性ベース電流IENBとなるように制御信号を出力していても、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から正極性ベース電流IENB(例えば100A)まで低下できない。そして、溶接電流は、正極性ベース電流IENBよりも大きい極性反転前溶接電流IEN3(例えば、300A)までしか低下せずに、逆極性期間に移行する。その理由は後述する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した時を考える。この時に、溶接電流は、逆極性ベース電流IEPBとなるように制御信号を出力していても、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下できない。そして、溶接電流は、逆極性ベース電流IEPBよりも大きい、極性反転前溶接電流IEP3(例えば、−300A)までしか低下せずに、正極性期間に移行する。その理由は以下に示す。
以上のように、従来技術では、溶接トーチに接続された溶接ケーブルが長くなることで、溶接負荷側のインダクタンスが増加し、溶接ケーブルが保持する電磁エネルギーにより溶接電流を急峻に低下させることができない。そのため、極性反転前の溶接電流が、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで低下できない。そして、目標指令値である正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBよりも高い電流である極性反転前溶接電流IEN3や極性反転前溶接電流IEP3の状態で極性反転が発生する。従って、2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧が高くなり(例えば、600V程度)、2次インバータを構成する半導体素子が破損するといった問題があった。
また、従来の交流アーク溶接装置は、インダクタンスが大きいケーブルを備えた溶接用トーチを接続した場合には、極性反転前に溶接電流が十分に低下できない状態で極性反転が行われる。このため、2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧が高くなり、2次インバータを構成する半導体素子が破損することがあった。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
本実施の形態1について、図1から図3を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接装置21の概略構成を示す図である。図2A、図2B、図2Cは、それぞれ本発明の実施の形態1における溶接電流波形の時間変化を示す図である。図3Aは、本発明の交流アーク溶接装置21に第1の溶接トーチ10を接続した状態を示す図、図3Bは、本発明の交流アーク溶接装置21に第2の溶接トーチ13を接続した状態を示す図である。
図1に示すように構成された交流アーク溶接装置21について、図2と図3を用いてその動作を説明する。以下、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を用いた例について説明する。
図1と図3に示すように、交流アーク溶接装置21は、溶接出力部2と、溶接制御部3と、算出部4と、選択部5と、記憶部6と、交流周波数設定部7と、逆極性期間設定部8と、を備えている。なお、記憶部6は、第1の記憶部14と第2の記憶部15と、を備えている。
また、図3Aに示すように、交流アーク溶接装置21には、ケーブル1aと電極9を有する第1の溶接トーチ10が接続されており、電極9と母材12との間に溶接出力を供給することにより、電極9と母材12との間にアーク11が発生する。
なお、図3Bに示すように、交流アーク溶接装置21に、第2の溶接トーチ13が接続された状態を示している。そして、第2の溶接トーチ13のケーブル1aは、第1の溶接トーチ10のケーブル1aよりも長いものである。
また、図2A、図2B、図2Cに示すように、T1は交流周波数F1における周期、RENは逆極性期間を示す。TB1は正極性ベース期間を示し、正極性期間と第1の組み合わせ時の正極性ベース比率R1とに基づき決められる。TB2は逆極性ベース期間を示し、逆極性期間RENと第1の組み合わせ時の逆極性ベース比率R2に基づき決められる。TB3は正極性ベース期間を示し、正極性期間と第2の組み合わせ時の正極性ベース比率R3に基づき決められる。TB4は逆極性ベース期間を示し、逆極性期間RENと第2の組み合わせ時の逆極性ベース比率R4に基づき決められる。IENPは正極性ピーク電流、IEPPは逆極性ピーク電流を示す。IENBは正極性ベース電流、IEPBは逆極性ベース電流を示す。IEN1は極性反転前溶接電流で、第2の溶接用トーチ接続時の第1の組み合わせ選択時の正極性期間における極性反転前溶接電流である。IEP1は極性反転前溶接電流で、第2の溶接用トーチ接続時の第1の組み合わせ選択時の逆極性期間における極性反転前溶接電流である。
図1に示すように、交流アーク溶接装置21の溶接出力部2は、外部から給電される商用電源(例えば、3相200V等)を入力とし、溶接制御部3からの出力に基づいて1次インバータ動作及び2次インバータ動作を行う。溶接出力部2は、正極性と逆極性とを適正に切り替えて、溶接に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
1次インバータは、通常、PWM(Pulse Wide Modulation)動作やフェーズシフト動作にて駆動される図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や、図示しないMOSFET(Metal−Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)や、図示しない1次整流ダイオードや、平滑用電解コンデンサや、電力変換用変圧器等で構成される。
また、2次インバータは、通常、図示しないIGBTを用いてハーフブリッジやフルブリッジで構成され、出力極性を切り替える。
ここで、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ向かう方向であり、電極9がマイナスであって母材がプラスの場合をいう。また、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ向かう方向であり、電極9がプラスであって母材12がマイナスの場合をいう。
また、CPU等で構成される交流周波数設定部7は、交流周波数F1(例えば、70Hz)を設定するためのものであり、設定された値を算出部4へ出力する。CPU等で構成される逆極性期間設定部8は、逆極性期間を設定するためのものであり、設定された値を算出部4へ出力する。なお、逆極性期間は、一般的にはクリーニング期間とよばれ、例えば、交流周期全期間に対する逆極性期間の比率(例えば、30%等)等に基づいて決定される。
CPU等で構成される記憶部6は、正極性ベース比率と、逆極性ベース比率との組み合わせを複数記憶しており、記憶している情報を選択部5へ出力する。ここで、正極性ベース比率は、正極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の正極性期間に対する比率である。逆極性ベース比率は、逆極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の逆極性期間に対する比率である。
第1の記憶部14は、記憶部6に含まれ、正極性ベース比率R1と逆極性ベース比率R2との複数の組み合わせのうち第1の組み合わせを記憶している。また、第2の記憶部15は、記憶部6に含まれ、正極性ベース比率R3と、逆極性ベース比率R4との組み合わせである第2の組み合わせを記憶している。ここで、正極性ベース比率R3は、第1の記憶部14に記憶されている第1の組み合わせにおける正極性ベース比率R1より大きい。逆極性ベース比率R4は、第1の記憶部14に記憶されている第1の組み合わせにおける逆極性ベース比率R2より大きい。
CPU等で構成される選択部5は、記憶部6からの複数の出力から1つを選択して、算出部4へ出力する。なお、選択部5による選択の方法については後述する。そして、図3Aに示す第1の長さのケーブル1a(例えば、4m)を備えた第1の溶接トーチ10を接続して溶接を行う場合には、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択する。また、図3Aに示す第1の長さのケーブル1aよりも長い、図3Bに示す第2の長さのケーブル1a(例えば、40m)を備えた第2の溶接トーチ13を接続して溶接を行う場合には、第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択する。
CPU等で構成される算出部4は、交流周波数設定部7が出力する交流周波数F1と逆極性期間設定部8が出力する逆極性期間と選択部5が出力する正極性ベース比率および逆極性ベース比率とを用いて、正極性ピーク期間、正極性ベース期間、逆極性ピーク期間および逆極性ベース期間を算出し、溶接制御部3へ出力する。
溶接制御部3は、算出部4の出力する各期間に基づき、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流を、正極性ベース期間中は正極性ピーク電流よりも低い正極性ベース電流を出力する出力指令信号を、溶接出力部2へ出力する。また、溶接制御部3は、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流を、逆極性ベース期間中は逆極性ピーク電流よりも低い(絶対値が小さい)逆極性ベース電流を出力する出力指令信号を、溶接出力部2へ出力する。
溶接出力部2は、溶接制御部3からの出力指令信号に基づき、2次インバータの動作により、正極性期間中は正極性期間として動作し、電極9から母材12へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。逆極性期間中は逆極性期間として動作し、溶接出力部2は、母材12から電極9へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。また、溶接出力部2は、1次インバータの動作により、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流(例えば、400A)を出力し、正極性ベース期間中は正極性ベース電流(例えば100A)を出力し、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流(例えば−400A)を出力し、逆極性ベース期間中は逆極性ベース電流(例えば−100A)を出力する。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、接続されている第1の溶接トーチ10あるいは第2の溶接トーチ13に給電され、タングステン等で構成される電極9の先端とアルミニウム材等である母材12との間でアーク11が発生し、交流アーク溶接を行う。
次に、図2Aを用いて、交流アーク溶接装置21に第1の溶接トーチ10を接続している時に、選択部5が第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択した場合の動作および溶接電流波形について説明する。
第1の長さのケーブル(例えば、4m)を備えた第1の溶接トーチ10を交流アーク溶接装置21に接続して溶接を行う場合、選択部5は、第1の記憶部14の出力を選択する。そして、算出部4は、交流周波数設定部7により設定された交流周波数F1(例えば、70Hz)と、逆極性期間設定部8で設定された逆極性期間REN(例えば、逆極性比率30%)と、第1の記憶部14に記憶されている第1の組み合わせの正極性ベース比率R1(例えば、5%)と第1の組み合わせの逆極性ベース比率R2(例えば、11%)とを用いて、正極性ピーク期間(例えば、9.5msec)と、正極性ベース期間(例えば、0.5msec)と、逆極性ピーク期間(例えば、3.81msec)と、逆極性ベース期間(例えば、0.47msec)と、を算出する。
図2Aに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下する。正極性ベース期間が終了すると、溶接電流は、逆極性期間に移行する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下する。逆極性ベース期間が終了すると、溶接電流は、正極性期間に移行する。
このように、溶接電流は、極性反転の前に、目標指令値である、正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで溶接電流が低下する。これにより、極性反転の際の2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧は低く抑えられる(例えば、300V程度)。その結果、溶接出力部2の2次インバータを構成する半導体素子が破損することがない。
次に、図3Bに示す第1の長さのケーブルよりも長い、第2の長さ(例えば、40m)のケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を交流アーク溶接装置21に接続した状態を考える。この状態で、選択部5が、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択した場合の溶接電流波形の動作について、図2Bを用いて説明する。
選択部5は、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択して算出部4に出力する。算出部4は、交流周波数設定部7で設定された交流周波数F1(例えば、70Hz)と、逆極性期間設定部8で設定された逆極性期間REN(例えば、逆極性比率30%)と、記憶部6に記憶されている第1の組み合わせの正極性ベース比率R1(例えば、5%)と第1の組み合わせの逆極性ベース比率R2(例えば、11%)とを用いて、正極性ピーク期間(例えば、9.5msec)と正極性ベース期間(例えば、0.5msec)と逆極性ピーク期間(例えば、3.81msec)と逆極性ベース期間(例えば、0.47msec)とを算出する。
図2Bに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、正極性ベース電流IENBとなるように指令がされていたとする。ところが、溶接電流は、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下できない。その結果、溶接電流は、正極性ベース電流IENBよりも大きい極性反転前溶接電流IEN1(例えば、300A)までしか低下せずに、逆極性期間に移行する。この理由は後述する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、逆極性ベース電流IEPBとなるように指令がされていたとする。ところが、溶接電流は、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下できない。その結果、溶接電流は、逆極性ベース電流IEPBよりも大きい極性反転前溶接電流IEP1(例えば、−300A)までしか低下せずに、正極性期間に移行する。この理由について以下に示す。
図3Bに示す第2の溶接トーチ13のように、溶接ケーブルが長くなることで、溶接負荷側のインダクタンスが増加する。そうすると、溶接ケーブルが保持する電磁エネルギーが増加することにより、溶接電流が急峻に低下できなくなる。そして、極性反転前の溶接電流が、所定の時間内で、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで低下することができない。このように、目標指令値である正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBよりも高い電流である極性反転前溶接電流IEN1や極性反転前溶接電流IEP1の状態で極性反転が発生する。これにより、2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧が高くなり(例えば、600V程度)、2次インバータを構成する半導体素子が破損する恐れがある。
次に、交流アーク溶接装置21に第2の溶接トーチ13が接続されている時に、選択部5が第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択した場合の溶接電流波形の動作について、図2Cを用いて説明する。
第2の長さのケーブル(例えば、40m)を備えた第2の溶接トーチ13を接続して溶接を行う場合、選択部5は、第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択して算出部4に出力する。算出部4は、交流周波数設定部7で設定された交流周波数F1(例えば、70Hz)と、逆極性期間設定部8で設定された逆極性期間REN(例えば、逆極性比率30%)と、第2の組み合わせの正極性ベース比率R3(例えば、20%)と、第2の組み合わせの逆極性ベース比率R4(例えば、44%)と、を用いて次の期間を算出する。ここで、第2の組み合わせの正極性ベース比率R3は、第1の記憶部14に記憶された第1の組み合わせにおける正極性ベース比率と逆極性ベース比率より大きく、第2の記憶部15に記憶されている。
そして、算出部4は、正極性ピーク期間(例えば、8.0msec)と正極性ベース期間(例えば、2.0msec)と、逆極性ピーク期間(例えば、2.4msec)と、逆極性ベース期間(例えば、1.9msec)とを算出する。このように、第2の組み合わせに基づいて正極性ピーク期間、正極性ベース期間、逆極性ピーク期間および逆極性ベース期間が算出される。これにより、第1の組み合わせに基づいて算出する場合と比べて、正極性ベース期間と逆極性ベース期間は長くなる。そして、正極性ピーク期間と逆極性ピーク期間は短くなる。
図2Cに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から溶接電流指令値である正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下して、逆極性期間に移行する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から溶接電流指令値である逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下して、正極性期間に移行する。
溶接ケーブルが長くなることで溶接負荷側のインダクタンスが増加し、溶接ケーブルが保持する電磁エネルギーが増加することにより、溶接電流が急峻に低下できなくなる。しかし、第2の組み合わせの正極性ベース比率R3は、算出される正極性ベース期間内に正極性ベース電流IENBまで低下可能な十分な大きさに設定されている。また、第2の組み合わせの逆極性ベース比率R4は、算出される逆極性ベース期間内に逆極性ベース電流IEPBまで低下可能な十分な大きさに設定されている。従って、極性反転前の溶接電流が、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで低下する。なお、正極性ベース比率R3や逆極性ベース比率R4は、例えば、実験や施工等によってデータを収集して求めておき、その結果を記憶部6に記憶させておくことができる。
上述のように、本発明を用いれば、極性反転前に、目標指令値である正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで溶接電流が垂下する。これにより、極性反転の際の2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧は低く抑えられ(例えば、300V程度)、2次インバータを構成する半導体素子が破損することがない。
以上のように、第1の溶接トーチ10が備えたケーブルよりもインダクタンスが大きい第2の長さ(例えば、40m)のケーブルを備えた第2の溶接トーチ13を接続し、交流アーク溶接を行う場合でも、交流アーク溶接装置21に搭載された半導体素子が破損することがない。なぜなら、第1の組み合わせにおける正極性ベース比率と逆極性ベース比率より大きい第2の組み合わせの正極性ベース比率と逆極性ベース比率を選択することで、極性反転前に溶接電流が十分低下できる。その結果、極性反転時の半導体素子のスイッチングで発生するサージ電圧を低く抑えることができるからである。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置21は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接装置であって、交流周波数設定部7と、逆極性期間設定部8と、記憶部6と、選択部5を備え、選択部5で選択した1つの組み合わせに基づいて溶接を行う構成としている。ここで、交流周波数設定部7は、交流周波数を設定し、逆極性期間設定部8は、逆極性期間を設定する。記憶部6は、正極性ベース比率と逆極性ベース比率との組み合わせを複数記憶する。なお、正極性ベース比率は、正極性期間に対する正極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の比率である。逆極性ベース比率は、逆極性期間に対する逆極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間の比率である。
この構成により、インダクタンスが大きいケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を接続しても、通常の正極性ベース期間と逆極性ベース期間より長い第2の組み合わせにおける正極性ベース期間と逆極性ベース期間を選択して溶接を行うことができる。これにより、極性反転時のスイッチングにより発生するサージ電圧を低く抑えることができ、半導体素子が破損することがない高い品質の交流アーク溶接装置21を実現することができる。
また、記憶部6は、正極性ベース比率と前記逆極性ベース比率との組み合わせを少なくとも2つ記憶しており、第1の組み合わせにおける正極性ベース比率と逆極性ベース比率は、第2の組み合わせにおける正極性ベース比率と逆極性ベース比率よりも小さく、溶接条件に応じてこの組み合わせを選択して溶接を行う構成としてもよい。ここで、溶接条件に応じて溶接を行うとは、例えば、第1の長さのケーブル1aを備えた第1の溶接トーチ10を接続して溶接を行う場合には、選択部5により第1の組み合わせを選択して溶接を行うことを意味する。また、同様に、第1の長さのケーブル1aよりも長い第2の長さのケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を接続して溶接を行う場合には、選択部5により第2の組み合わせを選択して溶接を行うことを意味する。
この構成により、溶接条件が異なるそれぞれの場合に対しても、溶接電流は、正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBの電流値のレベルまで十分に低下した後に、極性反転を行う。これにより、極性反転時のスイッチングにより発生するサージ電圧を低く抑えることができ、半導体素子が破損することがない高い品質の交流アーク溶接装置21を実現することができる。
なお、第2の組み合わせを選択することで、ベース期間が長くなるため、溶接電流の実際の出力値が下がる、あるいは、正極性期間の入熱と逆極性期間の入熱とのバランスが変わるといった溶接施工条件が変わる場合がある。このような場合には、例えばピーク電流を増加させる制御を併せて行う等、必要に応じて出力調整を行うことも考えられる。
また、本実施の形態1では、第2の溶接トーチ13を接続した際に、第2の組み合わせを選択した。この場合に限らず、溶接負荷側のインダクタンスが通常時より大きく増加した状態で使用する場合は、同様に第2の組み合わせを選択するようにしてもよい。このようなインダクタンスの増加状態は、例えばケーブル1aが短い第1の溶接トーチ10を使用しているが長い母材側ケーブル(例えば、40m)が接続された場合や、溶接ケーブルが巻かれた状態(例えば、10回巻かれる)で接続されるといった場合に生じると考えられる。
また、正極性ピーク電流および逆極性ピーク電流は、図2A、図2B、図2C中では任意の固定値として説明したが、正極性ピーク期間中に変動する波形であってもよい。
また、選択部5による選択は、手動で切り替えてもよいし、交流アーク溶接装置21に溶接負荷側のインダクタンスを自動測定する自動測定部17を設け、この自動測定部17の測定結果に基づいて自動で選択して切り替えてもよい。なお、自動測定部17は、選択のための閾値を有しており、インダクタンスが閾値より小さい場合は第1の組み合わせを選択し、インダクタンスが閾値以上の場合には第2の組み合わせを選択する。
なお、手動で切り替える場合は、例えば、2つのモードを切り替えるためのモード切替ボタン18を別途交流アーク溶接装置21に設け、このモード切替ボタン18の状態に基づいて選択部5が選択するようにしてもよい。このように、交流アーク溶接装置21の動作について、操作者による選択ができるようにしてもよい。
また、本実施の形態1では、交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接においても同様である。
(実施の形態2)
本実施の形態2について、図3から図5を用いて説明する。図4は、本実施の形態2における交流アーク溶接装置31の概略構成を示す図である。図5A、図5B、図5Cは、それぞれ本発明の実施の形態2における溶接電流波形の時間変化を示す図である。図3Aは、本発明の交流アーク溶接装置31に第1の溶接トーチ10を接続した状態を示す図、図3Bは、本発明の交流アーク溶接装置31に第2の溶接トーチ13を接続した状態を示す図である。図4に示すように構成された交流アーク溶接装置31について、図3A、図3Bおよび図5A、図5B、図5Cを用いてその動作を説明する。
本実施の形態2が実施の形態1と異なる主な点は、正極性ベース期間や逆極性ベース期間の決定方法である。すなわち、実施の形態1では、正極性ベース期間や逆極性ベース期間を、交流周波数、逆極性期間、正極性ベース比率および逆極性ベース比率に基づいて算出する例を示した。一方、本実施の形態2では、正極性ベース期間、逆極性ベース期間、正極性ピーク期間および逆極性ピーク期間の組み合わせを複数個、それぞれの組み合わせとして区別して記憶部に記憶しておき、この複数個の中から選択するようにしている。以下、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を用いた例について説明する。
図5Aに示すように、TP1は第1の組み合わせにおける正極性ピーク期間、TB1は第1の組み合わせにおける正極性ベース期間、TP2は第1の組み合わせにおける逆極性ピーク期間、TB2は第1の組み合わせにおける逆極性ベース期間を示している。また、図5Cに示すように、TP3は第2の組み合わせにおける正極性ピーク期間、TB3は第2の組み合わせにおける正極性ベース期間、TP4は第2の組み合わせにおける逆極性ピーク期間、TB4は第2の組み合わせにおける逆極性ベース期間を示している。また、図5Bに示すように、IEN2は第2の溶接トーチ13を接続した時の第1の組み合わせにおける正極性期間の極性反転前溶接電流を示している。IEP2は第2の溶接トーチ13を接続した時の第1の組み合わせにおける逆極性期間の極性反転前溶接電流を示している。
図4に示すように、CPU等で構成される記憶部6は、正極性ピーク期間と、正極性ベース期間と、逆極性ピーク期間と、逆極性ベース期間との組み合わせを複数個記憶しており、選択部5により選択された組み合わせを選択部5へ出力する。ここで、正極性ピーク期間は、正極性期間におけるピーク電流を通電する期間である。正極性ベース期間は、正極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間である。逆極性ピーク期間は、逆極性期間におけるピーク電流を通電する期間である。逆極性ベース期間は、逆極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低い(絶対値が小さい)ベース電流を通電する期間である。
第1の記憶部14は、記憶部6に含まれ、正極性ピーク期間と、正極性ベース期間と、逆極性ピーク期間と、逆極性ベース期間との第1の組み合わせを記憶する。また、第2の記憶部15は、記憶部6に含まれ、正極性ピーク期間と、第1の組み合わせの正極性ベース期間より長い正極性ベース期間と、逆極性ピーク期間と、第1の組み合わせの逆極性ベース期間より長い逆極性ベース期間と、の第2の組み合わせを記憶する。
CPU等で構成される選択部5は、記憶部6からの複数の組み合わせの出力から1つを選択して、溶接制御部3へ出力する。図3Aに示す第1の長さのケーブル1a(例えば、4m)を備えた第1の溶接トーチ10を接続して溶接を行う場合を考える。この場合に、選択部5は、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択して溶接制御部3に出力する。一方、第1の長さのケーブル1aよりも長い、図3Bに示す第2の長さのケーブル1a(例えば、40m)を備えた第2の溶接トーチ13を接続して溶接を行う場合を考える。この場合に、選択部5は、第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択する。
溶接制御部3は、選択部5の出力する各期間に基づき、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流を、正極性ベース期間中は正極性ピーク電流よりも低い正極性ベース電流を出力する出力指令信号を、溶接出力部2へ出力する。そして、溶接制御部3は、選択部5の出力する各期間に基づき、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流を、逆極性ベース期間中は逆極性ピーク電流よりも低い逆極性ベース電流を出力する出力指令信号を、溶接出力部2へ出力する。
溶接出力部2は、溶接制御部3からの出力指令信号に基づき、2次インバータの動作により、正極性期間中は正極性期間として動作し、電極9から母材12へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。また、溶接出力部2は、溶接制御部3からの出力指令信号に基づき、逆極性期間中は逆極性期間として動作し、母材12から電極9へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。また、溶接出力部2は、1次インバータの動作により、正極性ピーク期間中は正極性ピーク電流(例えば、400A)を出力し、正極性ベース期間中は正極性ベース電流(例えば、100A)を出力する。そして、溶接出力部2は、逆極性ピーク期間中は逆極性ピーク電流(例えば、−400A)を出力し、逆極性ベース期間中は逆極性ベース電流(例えば、−100A)を出力する。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、交流アーク溶接装置31に接続されている第1の溶接トーチ10あるいは第2の溶接トーチ13に給電される。そうすると、タングステン等で構成される電極9の先端とアルミニウム材等である母材12との間にアーク11が発生し、交流アーク溶接装置31は、交流アーク溶接を行う。
次に、交流アーク溶接装置31に第1の溶接トーチ10が接続されており、選択部5が、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択した場合の溶接電流波形の動作について、図5Aを用いて説明する。
第1の長さのケーブル1a(例えば、4m)を備えた第1の溶接トーチ10を交流アーク溶接装置31に接続して溶接を行う場合に、選択部5は、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択する。そして、選択部5は、第1の組み合わせの正極性ピーク期間TP1(例えば、9.5msec)と、第1の組み合わせの正極性ベース期間TB1(例えば、0.5msec)と、第1の組み合わせの逆極性ピーク期間TP2(例えば、3.81msec)と、第1の組み合わせの逆極性ベース期間TB2(例えば、0.47msec)とを溶接制御部3へ出力する。
図5Aに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した場合を考える。この際に、溶接電流は、正極性ベース期間TB1内に、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から溶接電流指令値である正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下して逆極性期間に移行する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した場合を考える。この際に、溶接電流は、逆極性ベース期間TB2内に、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から溶接電流指令値である逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下して正極性期間に移行する。
このように、極性反転前に、目標指令値である、正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで溶接電流が低下する。これにより、極性反転の際の2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧は低く抑えられる(例えば、300V程度)。その結果、溶接出力部2の2次インバータを構成する半導体素子が破損することがない。
次に、図5Bを用いて、第1の長さのケーブル1aよりも長い第2の長さ(例えば、40m)のケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を交流アーク溶接装置31に接続して溶接を行う場合を考える。この場合に、選択部5が、第1の記憶部14の出力を選択した場合の溶接電流波形の動作について説明する。
選択部5は、第1の組み合わせを記憶している第1の記憶部14の出力を選択し、第1の組み合わせの正極性ピーク期間TP1(例えば、9.5msec)と、第1の組み合わせの正極性ベース期間TB1(例えば、0.5msec)と、第1の組み合わせの逆極性ピーク期間TP2(例えば、3.81msec)と、第1の組み合わせの逆極性ベース期間TB2(例えば、0.47msec)とを溶接制御部3へ出力する。
図5Bに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、正極性ベース期間TB1内に、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から溶接電流指令値である正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下できない。すなわち、溶接電流は、正極性ベース電流IENBよりも大きい極性反転前溶接電流IEN2(例えば、300A)までしか低下できずに、逆極性期間に移行する。この理由は後述する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した際に、溶接電流は、逆極性ベース期間TB2内に、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から溶接電流指令値である逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下できない。溶接電流は、逆極性ベース電流IEPBよりも大きい極性反転前溶接電流IEP2(例えば、−300A)までしか低下できずに、正極性期間に移行する。この理由を以下に示す。
溶接ケーブルが長くなることで溶接負荷側のインダクタンスが増加し、溶接ケーブルが保持する電磁エネルギーが増加することにより、溶接電流が急峻に低下できなくなる。極性反転前の溶接電流が、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで垂下できず、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBよりも高い電流である極性反転前溶接電流IEN2や極性反転前溶接電流IEP2の状態で極性が反転する。これにより、2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧が高くなり(例えば、600V程度)、2次インバータを構成する半導体素子が破損する恐れがある。
次に、交流アーク溶接装置31に第2の溶接トーチ13を接続した時に、選択部5が第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択した場合の溶接電流波形の動作について、図5Cを用いて説明する。
第2の長さのケーブル1a(例えば、40m)を備えた第2の溶接トーチ13を交流アーク溶接装置31に接続して溶接を行う場合に、選択部5は、第2の組み合わせを記憶している第2の記憶部15の出力を選択する。そして、選択部5は、第2の組み合わせの正極性ピーク期間TP3(例えば、8.0msec)と、第2の組み合わせの正極性ベース期間TB3(例えば、2.0msec)と、第2の組み合わせの逆極性ピーク期間TP4(例えば、2.4msec)と、第2の組み合わせの逆極性ベース期間TB4(例えば、1.9msec)とを溶接制御部3へ出力する。
図5Cに示すように、正極性期間において、正極性ピーク期間が完了して正極性ベース期間に移行した場合を考える。この際に、溶接電流は、正極性ベース期間TB3内に、正極性ピーク電流IENP(例えば、400A)から溶接電流指令値である正極性ベース電流IENB(例えば、100A)まで低下して逆極性期間に移行する。
また、逆極性期間において、逆極性ピーク期間が完了して逆極性ベース期間に移行した場合を考える。この際に、溶接電流は、逆極性ベース期間TB4内に、逆極性ピーク電流IEPP(例えば、−400A)から溶接電流指令値である逆極性ベース電流IEPB(例えば、−100A)まで低下して正極性期間に移行する。
溶接ケーブルが長くなることで溶接負荷側のインダクタンスが増加し、溶接ケーブルが保持する電磁エネルギーが増加することにより、溶接電流が急峻に低下できなくなる。しかしながら、第2の組み合わせの正極性ベース期間TB3が、正極性ベース期間TB3内に、正極性ベース電流IENBまで低下可能な十分な大きさに設定されている。また、第2の組み合わせの逆極性ベース期間TB4が、逆極性ベース期間TB4内に、逆極性ベース電流IEPBまで低下可能な十分な大きさに設定されている。これらの設定により、極性反転前の溶接電流が、目標指令値の正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで低下できる。
極性反転前に、目標指令値である、正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBまで溶接電流が低下する。これにより、極性反転の際の2次インバータのスイッチングにより発生するサージ電圧は低く抑えられ(例えば、300V程度)、2次インバータを構成する半導体素子が破損することがない。
以上のように、インダクタンスが大きい第2の長さ1a(例えば、40m)のケーブルを備えた第2の溶接トーチ13を交流アーク溶接装置31に接続して交流アーク溶接を行う際に、次のような組み合わせが選択される。すなわち、第1の組み合わせにおける正極性ベース期間および逆極性ベース期間よりも長い、第2の組み合わせにおける正極性ベース期間および逆極性ベース期間が選択される。これにより、極性反転前に溶接電流を十分低下させることができ、極性反転のスイッチングで発生するサージ電圧を低く抑えることができるので、半導体素子が破損することがない。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置31は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接装置であって、記憶部6と、選択部5と、を備え、選択部5で選択した1つの組み合わせに基づいて溶接を行う構成としている。ここで、記憶部6は、正極性ピーク期間と、正極性ベース期間と、逆極性ピーク期間と、逆極性ベース期間との組み合わせを複数記憶する。なお、正極性ピーク期間は、正極性期間におけるピーク電流を通電する期間である。正極性ベース期間は、正極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間である。逆極性ピーク期間は、逆極性期間におけるピーク電流を通電する期間である。逆極性ベース期間は、逆極性期間における極性反転前にピーク電流よりも低いベース電流を通電する期間である。また、選択部5は、記憶部6に記憶している複数の組み合わせの中から1つの組み合わせを選択する。
この構成により、インダクタンスが大きいケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を接続しても、通常の正極性ベース期間と逆極性ベース期間より長い第2の組み合わせにおける正極性ベース期間と逆極性ベース期間を選択して溶接を行うことができる。これにより、極性反転時のスイッチングにより発生するサージ電圧を低く抑えることができ、半導体素子が破損することがない高い品質の交流アーク溶接装置31を実現することができる。
また、記憶部6は、正極性ピーク期間、正極性ベース期間、逆極性ピーク期間および逆極性ベース期間の組み合わせを少なくとも2つ記憶しており、第1の組み合わせにおける正極性ベース期間と逆極性ベース期間は、第2の組み合わせにおける正極性ベース期間と逆極性ベース期間よりも短く、溶接条件に応じてこの組み合わせを選択して溶接を行う構成としてもよい。ここで、溶接条件に応じて溶接を行うとは、例えば、第1の長さのケーブル1aを備えた第1の溶接トーチ10を接続して溶接を行う場合には、選択部5により第1の組み合わせを選択して溶接を行うことを意味する。また、第1の長さのケーブル1aよりも長い第2の長さのケーブル1aを備えた第2の溶接トーチ13を接続して溶接を行う場合には、選択部5により前記第2の組み合わせを選択して溶接を行うことを意味する。
この構成により、溶接条件が異なるそれぞれの場合に対しても、溶接電流は、正極性ベース電流IENBや逆極性ベース電流IEPBの電流値のレベルまで十分に低下した後に、極性反転を行う。これにより、極性反転時のスイッチングにより発生するサージ電圧を低く抑えることができ、半導体素子が破損することがない高い品質の交流アーク溶接装置31を実現することができる。
なお、第2の組み合わせを選択することで、ベース期間が長くなるため、溶接電流の実際の出力値が下がる、あるいは、正極性期間の入熱と逆極性期間の入熱とのバランスが変わるといった溶接施工条件が変わる場合がある。このような場合には、例えばピーク電流を増加させる制御を併せて行う等、必要に応じて出力調整を行うことも考えられる。
また、本実施の形態2では、交流アーク溶接装置31に第2の溶接トーチ13を接続した際に、第2の組み合わせを選択した。この場合に限らず、溶接負荷側のインダクタンスが通常時より大きく増加した状態で使用する場合は、同様に第2の組み合わせを選択してもよい。このようなインダクタンスの増加状態は、例えばケーブル1aが短い第1の溶接トーチ10を使用しているが、長い母材側ケーブル(例えば、40m)が接続された場合や、溶接ケーブルが巻かれた状態(例えば、10回巻かれる)で接続されるといった場合に生じると考えられる。
また、正極性ピーク電流および逆極性ピーク電流は、図5A、図5B,図5C中では任意の固定値として説明したが、正極性ピーク期間中に変動する波形であってもよい。
また、選択部5による選択は、手動で切り替えてもよいし、交流アーク溶接装置31に溶接負荷側のインダクタンスを自動測定する自動測定部17を設け、この自動測定部17の測定結果に基づいて自動で選択して切り替えてもよい。なお、自動測定部17は、選択のための閾値を有しており、インダクタンスが閾値より小さい場合は第1の組み合わせを選択し、インダクタンスが閾値以上の場合には第2の組み合わせを選択する。
なお、手動で切り替える場合は、例えば、2つのモードを切り替えるための図示しないモード切替ボタン18を別途交流アーク溶接装置31に設け、このモード切替ボタン18の状態に基づいて選択部5が選択するようにしてもよい。このように、交流アーク溶接装置31の動作について、操作者による選択ができるようにしてもよい。
また、本実施の形態2では、交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接においても同様である。
また、正極性ベース期間TB1、逆極性ベース期間TB2、正極性ベース電流IENBおよび逆極性ベース電流IEPB等は、例えば、実験や施工等によってデータを収集して求めておき、その結果を記憶部6に記憶させておくことができる。