JP5862690B2 - 電動機駆動装置の制御装置および電動機駆動システム - Google Patents
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Description
本発明は、電動機駆動装置の制御装置および電動機駆動システムに関し、例えば同期電動機へと交流電圧を印加する電動機駆動装置に関する。
非特許文献1,2には、同期電動機の制御方法について記載されている。同期電動機は巻線を有する電機子と、界磁とを有している。特許文献1では同期電動機の一次磁束が制御される。より詳細には、制御軸として、互いに直交するγ軸及びδ軸を採用し、一次磁束のγ軸成分を零に、δ軸成分を一次磁束指令値に、それぞれ制御する。
また非特許文献1,2では、制御の安定性を向上すべく、γ軸電流に基づく補正量で補正を行なって、δ−γ回転座標系の回転速度を算出している。当該補正量としては、非特許文献1では、γ軸電流とゲインとの積が採用され、非特許文献2では、γ軸電流から直流成分を除去して得られる高調波成分と、ゲインとの積が採用されている。
角、山村、常広、「DCブラシレスモータの位置センサレス制御方法」、電気学会論文誌D、1991年、第111巻、第8号、p.639―644
瓜田、山村、常広、「同期機駆動用汎用インバータについて」、電気学会論文誌D、1999年、第119巻、第5号、p.707―712
しかしながら、非特許文献1,2では、ゲインをどのように決定するかについて記載も示唆もない。
本願出願人は、電動機の回転速度制御についての制御性とゲインとの間に関連性を見出した。
そこで、本発明は、回転速度制御の制御性を向上できる電動機駆動装置の制御技術を提供することを目的とする。
本発明にかかる電動機駆動装置の制御装置の第1の態様は、界磁(23)と電機子(21)とを有する同期電動機(2)へと交流電圧を印加し、交流電流(iu,iv,iw)を出力する駆動装置(1)を制御する制御装置(3)であって、δc軸と前記δc軸に対して所定の進み方向に90度進むγc軸とを有する回転座標系の、固定座標系に対する回転角(θ)に基づいて、前記交流電流を、前記回転座標系におけるδc軸電流(iδc)およびγc軸電流(iγc)に、変換する座標変換部(34)と、補償ゲイン(Km)と前記γc軸電流に依存する補償値との積で求まる補正量で、前記回転座標系の回転速度(ω1)の指令値(ω1*)を補正して、前記回転速度(ω1)を求める回転速度演算部と、前記回転速度に基づいて前記回転角を算出する位相演算部(33)と、前記界磁による前記電機子への鎖交磁束(Λ0)と、前記交流電流によって発生する電機子反作用の磁束との合成である一次磁束(λ)が、前記回転座標系において前記δc軸に沿うように、前記交流電圧についての前記回転座標系における電圧指令値([vδγ *])を生成する電圧指令演算部(35)と、前記電圧指令値および前記回転角に基づいて、前記駆動装置による前記交流電圧の印加を制御する制御信号を生成する制御信号生成部(36)とを備える電動機駆動装置の制御装置であって、前記補償ゲインは、前記回転速度が基準値よりも小さいときに第1ゲイン値を採り、前記回転速度が前記基準値よりも大きいときに、前記第1ゲイン値よりも大きい第2ゲイン値を採る。
本発明にかかる電動機駆動装置の制御装置の第2の態様は、第1の態様にかかる電動機駆動装置の制御装置であって、前記補償値は、時定数(Tm)で抽出される前記γc軸電流(iγc)の高調波成分であり、前記時定数は、前記回転速度が基準値よりも小さいときに第1時定数値を採り、前記回転速度が前記基準値よりも大きいときに、前記第1時定数値よりも大きい第2時定数値を採る。
本発明にかかる電動機駆動システムの第1の態様は、第1または第2の態様にかかる電動機駆動装置の制御装置と、前記駆動装置とを備える。
本発明にかかる電動機駆動装置の制御装置の第1の態様および電動機駆動システムの態様によれば、補償ゲインと補正量とで補正を行なって回転速度を求め、これに基づいて、一次磁束がδc軸に沿うように駆動装置が制御されることになる。これにより、同期電動機の負荷トルクに対する出力トルクの伝達関数の周波数特性の位相遅れは、補償ゲインが大きいほど、低域側において増大する。また、この制御により、伝達関数の周波数特性のゲイン(伝達ゲイン)のピーク値は、補償ゲインが大きいほど、低減することになる。
第1の態様によれば、補償ゲインは、回転速度が基準値よりも小さいときに第1ゲイン値を採り、回転速度が基準値よりも大きいときに、第1ゲイン値よりも大きい第2ゲイン値を採る。これにより、実施の形態で詳述するように、回転速度の広い範囲で回転速度の制御性を高めることができる。
本発明にかかる電動機駆動装置の制御装置の第2の態様によれば、位相遅れは、時定数が大きいほど低域側において増大することになる。また伝達ゲインのピーク値は、時定数が大きいほど低減することになる。時定数は、回転速度が基準値よりも小さいときに第1時定数値を採り、回転速度が基準値よりも大きいときに、第1時定数値よりも大きい第2時定数値を採るので、回転速度の広い範囲で回転速度の制御性を高めることができる。
実施の形態の詳細な説明に入る前に、この発明の前提について説明する。
<1.前提>
図1は同期電動機(以下、単に「電動機」と称す。なお同期電動機の特殊なものとして、スイッチトリラクタンスモータのように界磁を有しないものもある。しかしここでは同期電動機とは界磁を有しているものを指す。)における空隙磁束[λ](記号[]はベクトル量を表す:以下同様)と、界磁による電機子への鎖交磁束[Λ0](以下、単に「鎖交磁束」と称す)との関係を示すベクトル図である。鎖交磁束[Λ0]は例えば電動機が永久磁石を有している場合には当該永久磁石によって発生するし、電動機が界磁巻線を有している場合には当該界磁巻線に電流が流れることによって発生する。
図1は同期電動機(以下、単に「電動機」と称す。なお同期電動機の特殊なものとして、スイッチトリラクタンスモータのように界磁を有しないものもある。しかしここでは同期電動機とは界磁を有しているものを指す。)における空隙磁束[λ](記号[]はベクトル量を表す:以下同様)と、界磁による電機子への鎖交磁束[Λ0](以下、単に「鎖交磁束」と称す)との関係を示すベクトル図である。鎖交磁束[Λ0]は例えば電動機が永久磁石を有している場合には当該永久磁石によって発生するし、電動機が界磁巻線を有している場合には当該界磁巻線に電流が流れることによって発生する。
電動機の回転と同期する回転座標系としてd−q回転座標系を導入する。ここではd軸を鎖交磁束[Λ0]と同相に設定し、q軸はd軸に対して、電動機の制御によって回転させたい方向(以下、単に「回転方向」と称す)に向かって位相が90度進む。
また回転座標系としてδ−γ回転座標系とδc−γc回転座標系とを導入する。δ軸はd軸に対して、γ軸はq軸に対して、それぞれ電動機の回転方向に向かって位相角φで位相が進む。δc軸はd軸に対して、γc軸はq軸に対して、それぞれ電動機の回転方向に向かって位相角φcで位相が進む。以下、説明の便宜上、δ軸のd軸に対する位相角φを実位相角φと称し、δc軸のd軸に対する位相角φcを推定位相角φcと称する。
例えば、「一次磁束制御」として知られている電動機の制御方法では、空隙磁束[λ]と同相にδ軸を設定する。この場合、実位相角φは負荷角(鎖交磁束[Λ0]と空隙磁束[λ]との間の位相角)として把握される。
さて、空隙磁束[λ]は周知のように、電動機(より詳細には電動機が備える電機子が有する電機子巻線)に供給される電圧及び電流と、電動機の機器定数(例えばインダクタンス、電機子巻線の抵抗成分、鎖交磁束)と、電動機の回転速度とで決定される。よって空隙磁束[λ]の推定値[λ^]は、上記の電圧及び電流、機器定数、回転速度の実測値(あるいは指令値、推定値)から得られる。上述の「一次磁束制御」では、指令値[λ*]のγ軸成分は0である。
かかる制御においてδc−γc回転座標系を採用すると、推定位相角φcが実位相角φと一致することで、電動機の回転を適切に制御することができる。機器定数、回転速度、電動機に与えられる電圧及び電流が完全に把握されていれば、これらに基づいて得られる推定値[λ^]を指令値[λ*]と等しくなるように制御することにより、空隙磁束[λ]が指令値[λ*]と一致するからである。
<2.電力変換装置の構成>
図2は上記の前提に基づいて、本実施の形態にかかる電動機制御装置3の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
図2は上記の前提に基づいて、本実施の形態にかかる電動機制御装置3の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
電動機2は三相の電動機であり、電機子21と、界磁23たる回転子を備える。技術的な常識として、電機子21は電機子巻線22を有し、回転子は電機子21と相対的に回転する。界磁23は例えば鎖交磁束を発生させる磁石を備える場合について説明される。
電圧供給源1は例えば電圧制御型インバータ及びその制御部を備え、三相の電圧指令値[vx *]=[vu * vv * vw *]t(括弧の後の上付の“t”は行列の転置を示す。以下同様)に基づいて、三相電圧vu,vv,vwを電動機2に印加する。これにより、電動機2には三相電流[ix]=[iu iv iw]tが流れる。但し、電圧指令値[vx *]や三相電流[ix]が有する成分は、例えばU相成分、V相成分、W相成分の順に記載されている。
電動機制御装置3は、電動機2に対し、空隙磁束[λ]及び回転速度(以下の例では回転角速度)を制御する装置である。空隙磁束[λ]は一次磁束とも称され、鎖交磁束[Λ0]と、電機子21に流れる電機子電流(これは三相電流[ix]でもある)によって発生する電機子反作用の磁束との合成である。
電動機制御装置3は、座標変換部34と、制御信号生成部36と、電圧指令演算部35と、回転速度演算部32と、位相演算部33とを備えている。
座標変換部34は、電流検出部5によって検出される三相電流[ix]を、δc−γc回転座標系における電流[iδγc]=[iδc iγc]tに変換する。この変換には電動機2についての固定座標系(例えばUVW固定座標系またはα−β固定座標系)に対するδc−γc回転座標系の回転角θが用いられる。これらの変換は周知の技術で実現されるので、ここではその詳細を省略する。
制御信号生成部36は、δc−γc回転座標系における電圧指令値[vδγ *]と回転角θとに基づいて、制御信号を電圧供給源1に出力する。例えば制御信号生成部36は座標変換部であり、回転角θに基づいて、δc−γc回転座標系の電圧指令値[vδγ *]を三相の電圧指令値[vx *]に変換する。電圧供給源1の制御部は制御信号に基づいて、電圧制御型インバータを制御する。
位相演算部33は回転速度ω1を積分して回転角θを計算する。回転速度ω1は回転速度演算部32の出力として得られる。回転速度演算部32については後に詳述する。
電圧指令演算部35は、電流[iδγc]、回転速度ω1および一次磁束指令値[λ*]を入力し、電圧指令値[vδγ *]を出力する。この電圧指令値[vδγ *]は例えば電圧方程式に基づいて算出される。一般に、δc−γc回転座標系において次式の電圧方程式(1)が成立する。但し、[I],[J]及びそれらの要素を囲む記号[]は行列を示す。
ここで、Rは電機子巻線22の抵抗成分の抵抗値を示し、sは微分演算子を示し、[λδγc]=[λδc λγc]tは、δc−γc回転座標における一次磁束[λ]を示す。抵抗値Rは予め電圧指令演算部35内に格納しておくことができる。
さて、定常状態においては微分演算子sによる演算結果は0となることから、定常状態における電圧方程式は式(1)から下式(2)として導かれる。
電圧指令演算部35は式(3)で示すようにフィードフォワード量[F]とフィードバック量[B]とを加算し、電圧指令値[vδγ *]を求める。フィードフォワード量[F]は、式(2)の右辺において、一次磁束[λδγc]を一次磁束指令値[λ*]=[λδ * 0(=λγ *)]tと置くことで求められる。フィードバック量[B]は例えば一次磁束[λδγc]と一次磁束指令値[λ*]との偏差に基づく量を採用できる。具体的には一次磁束指令値[λ*]と一次磁束[λδγc]との偏差にフィードバックゲインGλを乗じる。フィードバックゲインGλは電圧指令演算部35に予め格納しておくことができる。
式(3)においては、フィードバックゲインGλはスカラー量として示したが、一次磁束の偏差に対して作用する2行2列の非零行列であってもよい。
理想的には、フィードバック量[B]が0となれば、δ軸成分λδ *とδc軸成分λδcが、γ軸成分λγ *とγc軸成分λγcが、それぞれ一致していることになり、式(2)で示される定常状態が、δc−γc回転座標系における制御で実現できていることになる。
また、フィードバック量[B]を電流の偏差から求めてもよい。具体的には式(4)に従ってフィードバック量[B]を求める。但しフィードバックゲインGi(≠0)及び電流[iδγc]の指令値[iδγ *]=[iδ * iγ *]tを導入した。フィードバックゲインGiは電流の偏差に対して作用する2行2列の非零行列であってもよい。
このようにしてフィードバック量[B]を求める場合、電圧指令演算部35には電流指令値[iδγ *]が入力される。なお電流と磁束の関係([λ]=[L・i]+[Λ0])に基づいて、電流指令値[iδγ *]を一次磁束指令値[λ*]から求めても良い。
電圧指令値[vδγ *]はフィードバック量[B]のみから求められてもよい。
回転速度演算部32は、回転速度指令値ω1*に対して電流iγcに基づく補正量を用いた補正を行なって回転速度ω1を算出する。かかる補正は非特許文献1,2にも記載されている。ここではまず、非特許文献1で示す回転速度ω1の補正について説明する。より詳細には、以下の式を用いて回転速度ω1を算出する。
ここで、ωrm*は電動機2の機械的な回転速度についての回転速度指令を示し、nは界磁23の極対数を示し、ωcorrは補償量を示し、Kmはゲイン(以下、補償ゲインと呼ぶ)を示す。補償量ωcorrは、例えば定常状態において、電流iγcと補償ゲインKmとの積である。簡単のため、電動機2の機械的負荷が正転している場合の回転方向と、機械的な回転速度指令値ωrm*、回転座標系の回転速度ω1および指令値ω1*が正転している場合の回転方向は同一とする。言い換えれば、ここでは簡単のために、回転速度指令値ωrm*、回転速度ω1および指令値ω1*についての正転の方向を、機械的負荷の正転の方向と同じ方向に設定するのである。そして例えば正転のときに各値が正の値を採るものとする。
式(5)によれば、電流iγcが大きいほど回転速度指令値ω1*を低減するように補正することになる。これにより、非特許文献1で説明されるように、制御をより安定化することができる。
図2の例示では、回転速度演算部32は、速度指令補正部321と速度補償部322と減算器323とを有している。速度補償部322は電流iγcを入力し、この電流iγcに補償ゲインKmを乗じた値を補正量(Km・iγc)として出力する。なお図2の例示では、速度補償部322には回転速度ω1も入力される。本実施の形態では、後に詳述するように、回転速度ω1に応じて補償ゲインKmを決定するからである。
速度指令補正部321は回転速度指令値ωrm*と補正量(Km・iγc)とを入力する。ただし、図2では、速度指令補正部321への補正量の入力を省略して示している。速度指令補正部321は、補正量(Km・iγc)の平均値を算出して補償量ωcorrを算出し、さらに式(6)に基づいて回転速度指令値ω1*を算出する。減算器323は回転速度指令値ω1*と補正量(Km・iγc)とを入力し、回転速度指令値ω1*から補正量を減算して回転速度ω1を算出する(式(5))。
次に、非特許文献2の回転速度ω1の算出について説明する。より詳細には、以下の式を用いて回転速度ω1を算出する。
ここで、Tmは、ハイパスフィルタの時定数を示す。「Tm・s/(1+Tm・s)」で示される要素は、時定数Tmを用いたハイパスフィルタ処理を示す。よって式(7)によれば、時定数Tmで抽出された電流iγcの高調波成分と、補償ゲインKmとの積を用いて回転速度ω1を補正することになる。なお補償ゲインKmは、ハイパスフィルタ処理のゲインと把握することもできる。
定常状態において電流iγcがほぼ一定と考えられるので、「Tm・s/(1+Tm・s)・iγc」はほぼ零となり、回転速度ω1が回転速度指令値ω1*と等しくなる。一方で、電流iγcが比較的高い周波数で変動すると、電流iγcの高調波成分に基づいて回転速度ω1が補正される。これにより、非特許文献2で説明されるように、乱調を抑制した電動機2の安定な運転が実現される。
この場合、速度指令補正部321は回転速度指令値ωrm*を入力し、式(8)を用いて回転速度指令値ω1*を算出する。速度補償部322は、電流iγcを入力し、この電流iγcに対してハイパスフィルタ処理を行なって直流成分を除去し、これに補償ゲインKmを乗じた値を補正量として出力する。この場合でも、後に詳述するように、回転速度ω1に応じて補償ゲインKmを決定する。減算器323は、回転速度指令値ω1*から補正量を減算して回転速度ω1を算出する。
本実施の形態においても、非特許文献1,2と同様にして、電流iγcに依存する値と補償ゲインKmとの積で求まる補償量で補正を行なって、回転速度ω1を算出する。さらに本実施の形態では、補償ゲインKmの設定方法により、回転速度制御の制御性を向上することを企図する。
<3.補償ゲインKmの設定方法>
<3−1.式(7)および式(8)に基づく回転速度の補償>
回転速度制御の制御性を考慮するために、電動機2の負荷トルクτLに対する電動機2の出力トルクτeの伝達関数を考慮する。この伝達関数を算出するために要する式を、以下に列挙する。
<3−1.式(7)および式(8)に基づく回転速度の補償>
回転速度制御の制御性を考慮するために、電動機2の負荷トルクτLに対する電動機2の出力トルクτeの伝達関数を考慮する。この伝達関数を算出するために要する式を、以下に列挙する。
式(9)は電動機2の運動方程式であり、Jはイナーシャを示す。式(10)は、δc−γc回転座標系の回転速度ω1と、d−q回転座標系の回転速度(n・ωrm)との関係を示す式であり(図1も参照)、回転速度ω1,(n・ωrm)の差が位相角φcの微分値と一致する。式(11)は、出力トルクτeを示す式である。式(12)は、一次磁束[λ]のγc軸成分λγcを示す式である。式(12)において、Lは電機子巻線22についてのインダクタンスを示し、Λ0は鎖交磁束[Λ0]の大きさ(スカラー量)を示す。式(12)は、周知のように、一次磁束[λ]が電気子反作用による磁束[L・i]と鎖交磁束[Λ0]との合成であることから導かれる式である。
また、理想的な一次磁束制御が行なわれていると仮定すると、λγc≒0の近似式が成立する。また、非特許文献1,2にも記載されているように、通常、一次磁束制御では、位相角φcが小さい範囲で行なわれる。よって、sinφc≒φcの近似式が成立する。さらに定常状態では回転速度指令値ω1*の時間変化(s・ω1*)は零に近似される。
式(7)および式(8)に示す回転速度ω1の算出式と、式(9)〜(12)と、上記の近似とを用いて、負荷トルクτLに対する出力トルクτeの伝達関数を導くと、伝達関数は以下の式で表される。
図3は、この伝達関数の周波数特性におけるゲイン(以下、伝達ゲインと呼ぶ)と位相(以下、伝達位相と呼ぶ)との一例を示している。図3においては、補償ゲインKmがそれぞれ値Km1〜Km6を採るときの伝達ゲインと伝達位相とが示されている。値Km1〜Km6は、その添え字の数字が大きいほど大きい。よって値Km1が最も小さく、値Km6が最も大きい。
伝達ゲインは負荷トルクτLの大きさ(振幅)に対する出力トルクτeの大きさ(振幅)の比であるので、伝達ゲインが1(零dB)から遠ざかると、負荷トルクτLと出力トルクτeとの差が増大する。式(9)からも理解できるように、負荷トルクτLと出力トルクτeとの差は回転速度ωrmの変動を生じさせる。したがって回転速度ωrmの変動を低減する観点からは、伝達ゲインは1(零dB)に近いことが望ましい。
伝達位相は負荷トルクτLと出力トルクτeとの位相差であり、この位相差によっても負荷トルクτLと出力トルクτeとに差が生じる。したがって、伝達位相は零に近いほうが望ましい。なお伝達位相が負の範囲で低減することは、出力トルクτeの負荷トルクτLに対する位相遅れが大きくなることを意味する。
さて、本実施の形態では、回転速度ω1に基づいて補償ゲインKmを決定するところ、まずは負荷トルクτLに含まれる周波数成分に対する補償ゲインKmの影響について考慮する。負荷トルクτLが回転位置に応じて変化するとき、負荷トルクτLの主たる周波数成分は回転速度ωrmと正の相関関係を有するからである。例えば、電動機2が1シリンダの圧縮機を駆動している場合には、回転速度ωrmと同じ周波数成分が、主として負荷トルクτLに含まれる。よって回転速度ωrmが小さいときには、負荷トルクτLの主たる周波数成分の周波数は小さくなる。
図3の伝達ゲインのグラフから理解できるように、補償ゲインKmが小さいほど、伝達ゲインのQ値は増大してピーク値も増大し、また、ピーク値を採るときの周波数(以下、共振周波数とも呼ぶ)は補償ゲインKmが小さいほど高まる。図3の例示では、補償ゲインKmが値Km1を採るときに、共振周波数は最も高く20強rad/sであり、ピーク値は最も高く30弱dBである。
そして図3に示すとおり、低周波数領域(周波数がおよそ10rad/s程度よりも低い領域)において、伝達ゲインは、補償ゲインが小さくなるほど広い範囲で1(零dB)に近づく。よって、負荷トルクτLが低周波数領域内の周波数成分を多く含む場合には、伝達ゲインを1(零dB)に近づけるべく、補償ゲインKmとして小さい値を採用する。
また図3の伝達位相のグラフから理解できるように、低周波数領域においては、補償ゲインKmが小さいほど、伝達位相はより広い範囲で零に近づく。よって、伝達位相を零に近づけるという観点でも、負荷トルクτLが低周波数領域内の周波数成分を多く含む場合には、補償ゲインKmとして小さい値を採用することが望ましい。
このように補償ゲインKmとして小さい値を採用することにより、低周波数領域において、回転速度ωrmの変動を抑制して制御することができる。言い換えれば、高い制御性で回転速度制御を行なうことができる。
一方で、高周波数領域(周波数がおよそ10rad/s程度よりも高い領域)には、低周波数領域とは違って、補償ゲインKmが小さいときの伝達ゲインのピーク値が含まれている。図3の例示では、補償ゲインKmが値Km1,Km2を採るときのピーク値は、いずれも20dBを超えている。よって負荷トルクτLが高周波数領域内の周波数成分を多く含む場合には、特に共振周波数付近の周波数成分において、出力トルクτeが大幅に増大し、回転速度ωrmの変動を生じさせる。よって、負荷トルクτLが高周波数領域内の周波数成分を多く含む場合には、伝達ゲインのピーク値を低減すべく、補償ゲインKmはより大きい値を採用することが望ましい。
その一方で、高周波数領域においても、位相遅れは、補償ゲインKmが大きいほど、より低域側において零付近から増大し始める。しかしながら、高周波数領域においては、伝達位相よりも優先して伝達ゲインを零(dB)に近づけるほうが望ましい。その理由を以下に考察する。
高周波数領域では、補償ゲインKmが小さいときの伝達ゲインのピーク値が含まれており、このピーク値は例えば20dBを超える。よって、共振周波数における出力トルクτeの振幅は、共振周波数における負荷トルクτLの振幅の数十倍にも達する。このような場合に、伝達位相を零に近づけたとしても、負荷トルクτLと出力トルクτeとの差を効率的に低減することはできない(出力トルクτeの振幅の数十分の1%を低減できるに過ぎない)。例えば負荷トルクτLおよび出力トルクτeの振幅をそれぞれ1,50とすると、{50・sin(θ−Δθ)}と{sinθ}との差の最大値は、伝達位相Δθが0度であるときに最小となるものの、その値は49(低減量は1%)である。つまり、効率的に当該差を低減できない。よって、この場合には、伝達ゲインそのものの低減が望まれるのである。
つまり低周波数領域においては、伝達ゲインが小さいので、伝達位相を低減することによって、出力トルクτeと負荷トルクτLとの差を効率的に低減する。他方、高周波数領域においては、伝達ゲインが大きいので、伝達ゲインを優先的に低減することで、当該差を効率的に低減するのである。
上述の内容に鑑みて、本実施の形態では、回転速度ω1に基づいて補償ゲインKmを決定する。負荷トルクτLの主たる周波数成分は、回転速度ω1と正の相関関係を有するので、回転速度ω1が基準値ωrefよりも小さいときに、補償ゲインKmとして第一ゲイン値K1を採用し、回転速度ω1が基準値ωrefよりも大きいときに、補償ゲインKmとして第二ゲイン値K2(>K1)を採用する。ゲイン値K1,K2および基準値ωrefは、予め実験またはシミュレーションにより決定することができ、例えば速度補償部322内に格納される。速度補償部322は、回転速度ω1と基準値ωrefとの大小関係を判別し、その判別結果に基づいて上記のように補償ゲインKmを決定する。
基準値ωrefは、例えば次のように決定できる。即ち、回転速度ω1が小さいときに採用する補償ゲインKm(例えば値Km1)を用いて電動機2を運転し、回転速度ω1を徐々に大きくする。そして、負荷トルクτLの周波数成分(特に高次の周波数成分)が共振周波数に近づくことにより生じる回転速度ωrmの変動幅が許容値を超えるときの回転速度ω1を、基準値ωrefとして採用すればよい。
以上のように、本実施の形態によれば、より広い回転速度範囲において、良好な制御性で電動機2の回転速度を制御することができる。
なお回転速度ω1の大小に基づいて補償ゲインKmの値を設定しているものの、より細かく補償ゲインKmの値を設定しても良い。例えば回転速度ω1が第1基準値よりも小さいときに、第1値を採用し、回転速度ω1が第1基準値よりも大きく第2基準値よりも小さいときに、第2値(>第1値)を採用し、回転速度ω1が第2基準値よりも大きいときに、第3値(>第2値)を採用しても良い。要するに、補償ゲインKmは回転速度ω1と正の相関関係を有していれば良い。言い替えれば、補償ゲインKmは回転速度ω1に対して単調非減少で増加すればよい。いずれにおいても、補償ゲインKmは、回転速度ω1がある基準値よりも小さいときに、第1値を採り、回転速度ω1がその基準値よりも大きいときに、第1値よりも大きい第2値を採るからである。
また、電動機2の機械的負荷が正転している場合の回転方向と、回転座標系の回転速度ω1が正転している場合の回転方向が異なる場合についても考慮する。つまり、機械的負荷の正転の方向と、回転速度指令値ωrm*、回転速度ω1および指令値ω1*の正転の方向とを互いに反対に設定した場合についても考慮する。この場合、機械的負荷の回転方向と同一となるように(−1)を乗じた回転速度(−ω1)の大小に基づいて補償ゲインKmを設定しても良い。
或いは、回転速度ω1の絶対値に基づいて補償ゲインKmを設定しても良い。これにより、回転速度ω1が正負両方を採る場合(四象限運転)でも、適切に制御できる。
<3−2.式(5)及び式(6)に基づく回転速度の補償>
式(7)において時定数Tmを無限大に近づけたときの、「Tm・s/(1+Tm・s)」の極限値は1である。この極限値を用いれば式(7)は式(5)と一致する。したがって、簡単のために補償量ωcorrを無視すると、式(13)の伝達関数において、Tmを無限大に近づけることで、式(5)および式(6)の速度補償を用いた場合の伝達関数を導出することができる。式(5)および式(6)の速度補償を用いた伝達関数は以下のように導かれる。
式(7)において時定数Tmを無限大に近づけたときの、「Tm・s/(1+Tm・s)」の極限値は1である。この極限値を用いれば式(7)は式(5)と一致する。したがって、簡単のために補償量ωcorrを無視すると、式(13)の伝達関数において、Tmを無限大に近づけることで、式(5)および式(6)の速度補償を用いた場合の伝達関数を導出することができる。式(5)および式(6)の速度補償を用いた伝達関数は以下のように導かれる。
図4は、この伝達関数の周波数特性における伝達ゲインと伝達位相との一例を示している。また図4では、補償ゲインKmがそれぞれKm1〜Km6を採るときの伝達ゲインと伝達位相とが示されている。図4から理解できるように、補償ゲインKmが大きいほど、伝達ゲインのピーク値は低減する。また補償ゲインKmが大きいほど、周波数が20強rad/sよりも低い領域において、低周波数領域側において位相遅れが大きくなる。
図4の伝達位相のグラフから理解できるように、低周波数領域においては、補償ゲインKmを小さくするほど、より広い周波数領域において位相遅れが小さくなる。また伝達ゲインのグラフから理解できるように、低周波数領域においては、伝達ゲインは比較的広い範囲で1(零dB)に近い値を維持する。よって、回転速度ω1が基準値ωrefよりも小さいときには、補償ゲインKmとして小さい値(第一ゲイン値)を採用する。
一方で、高周波数領域には、伝達ゲインのピーク値が含まれており、補償ゲインKmとして最も小さい値を採用するほど、伝達ゲインが共振して大きく増大する。よって回転速度ω1が基準値ωrefよりも大きいときには、伝達ゲインを優先的に低減すべく、補償ゲインKmとして第一ゲイン値よりも大きい第二ゲイン値を採用する。
これにより、より広い回転速度範囲において、良好な回転速度特性で電動機2の回転速度を制御することができる。
<4.時定数Tmの設定方法>
図5は、式(13)の伝達関数の周波数特性における伝達ゲインと伝達位相との一例を示している。また図5では、時定数Tmがそれぞれ値Tm1〜Tm5を採るときの伝達ゲインと伝達位相とが示されている。値Tm1〜Tm5は、その添え字の数字が小さいほど小さい。図5から理解できるように、時定数Tmが大きいほど、伝達ゲインのピーク値は低減する。また補償ゲインKmが大きいほど、周波数が20強rad/sよりも低い領域において、より低周波数領域側で位相遅れが大きくなる。
図5は、式(13)の伝達関数の周波数特性における伝達ゲインと伝達位相との一例を示している。また図5では、時定数Tmがそれぞれ値Tm1〜Tm5を採るときの伝達ゲインと伝達位相とが示されている。値Tm1〜Tm5は、その添え字の数字が小さいほど小さい。図5から理解できるように、時定数Tmが大きいほど、伝達ゲインのピーク値は低減する。また補償ゲインKmが大きいほど、周波数が20強rad/sよりも低い領域において、より低周波数領域側で位相遅れが大きくなる。
図5の伝達位相のグラフから理解できるように、低周波数領域においては、時定数Tmを小さくするほど、より広い周波数領域において位相遅れが小さくなる。また伝達ゲインのグラフから理解できるように、低周波数領域においては、伝達ゲインは比較的広い範囲で1(零dB)に近い値を維持する。よって、回転速度ω1が基準値ωrefより小さいときには、時定数Tmとして第一時定数値を採用する。
一方で、高周波数領域には、伝達ゲインのピーク値が含まれており、時定数Tmとして最も小さい値Km1を採用すると、伝達ゲインが共振して大きく増大する。よって回転速度ω1が基準値ωrefよりも大きいときには、伝達ゲインを優先的に低減すべく、時定数Tmとして第一時定数値よりも大きい第二時定数値を採用する。第一時定数値および第二時定数値は予め決定され、例えば速度補償部322内に格納される。
これにより、より広い回転速度範囲において、良好な回転速度特性で電動機2の回転速度を制御することができる。
時定数Tmは、補償ゲインKmと同様に、回転速度ω1と正の相関関係を有していれば良い。言い替えれば、時定数Tmは回転速度ω1に対して非単調減少で増加すればよい。
上記の種々の実施の形態は、互いの機能を損なわない限り、適宜に組み合わせることができる。
上記のブロック図は模式的であり、各部はハードウェアで構成することもできるし、ソフトウェアによって機能が実現されるマイクロコンピュータ(記憶装置を含む)で構成してもよい。各部で実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。
1 駆動装置
2 同期電動機
21 電機子
22 電機子巻線
23 界磁
vδ*,vγ* 電圧指令値
iδ* 電流指令値
2 同期電動機
21 電機子
22 電機子巻線
23 界磁
vδ*,vγ* 電圧指令値
iδ* 電流指令値
Claims (3)
- 界磁(23)と電機子(21)とを有する同期電動機(2)へと、制御信号に基づいて、交流電圧を印加し、交流電流(iu,iv,iw)を出力する駆動装置(1)を制御する制御装置(3)であって、
δc軸と前記δc軸に対して所定の進み方向に90度進むγc軸とを有する回転座標系の、固定座標系に対する回転角(θ)に基づいて、前記交流電流を、前記回転座標系におけるδc軸電流(iδc)およびγc軸電流(iγc)に、変換する座標変換部(34)と、
補償ゲイン(Km)と前記γc軸電流に依存する補償値との積で求まる補正量で、前記回転座標系の回転速度(ω1)の指令値(ω1*)を補正して、前記回転速度(ω1)を求める回転速度演算部と、
前記回転速度に基づいて前記回転角を算出する位相演算部(33)と、
前記界磁による前記電機子への鎖交磁束(Λ0)と、前記交流電流によって発生する電機子反作用の磁束との合成である一次磁束(λ)が、前記回転座標系において前記δc軸に沿うように、前記交流電圧についての前記回転座標系における電圧指令値([vδγ *])を生成する電圧指令演算部(35)と、
前記電圧指令値および前記回転角に基づいて、前記制御信号を生成する制御信号生成部(36)と
を備える電動機駆動装置の制御装置であって、
前記補償ゲインは、前記回転速度が基準値よりも小さいときに第1ゲイン値を採り、前記回転速度が前記基準値よりも大きいときに、前記第1ゲイン値よりも大きい第2ゲイン値を採る、電動機駆動装置の制御装置。 - 前記補償値は、時定数(Tm)で抽出される前記γc軸電流(iγc)の高調波成分であり、前記時定数は、前記回転速度が基準値よりも小さいときに第1時定数値を採り、前記回転速度が前記基準値よりも大きいときに、前記第1時定数値よりも大きい第2時定数値を採る、請求項1に記載の電動機駆動装置の制御装置。
- 請求項1または2に記載の電動機駆動装置の制御装置と、
前記駆動装置と
を備える、電動機駆動システム。
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-
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