JP5846980B2 - 歯科用接着材キット - Google Patents

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Description

本発明は、歯科医療分野等における歯の修復に使用される歯科用接着材キットに関する。
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは、歯の空洞に充填した後重合硬化して使用されるのが一般的である。しかし、コンポジットレジン自体は歯質、例えばエナメル質や象牙質への接着性を持たないため、重合性組成物を用いた歯科用接着材と併用することが必要である。そのため、このような接着材は、コンポジットレジン及び歯質両方に接着することが要求される。
従来、接着材の歯質に対する接着強度を向上させるために、使用に際しては、歯面に対して、
(a)硬い歯質(主にエナメル質)のエッチング処理、更に、
(b)歯質の中へプライマーと呼ばれる接着性向上成分を浸透せしめるプライミン
グ処理、
という前処理が行われていた。
エッチング処理は、酸水溶液を用いて歯質を脱灰する処理であり、酸により脱灰された歯質の表面は粗造化したエナメル質や象牙質が露出することとなる。エッチング処理した後、該露出したエナメル質及び象牙質への接着材の接着機構はそれぞれ異なり、具体的には以下のとおりである。
エナメル質への接着材の接着は、酸水溶液により脱灰された粗造な表面へ、接着性成分が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合により達成される。一方、象牙質への接着材の接着は、脱灰後に象牙質の表面に露出されたスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着性組成物が浸透して硬化するというミクロな機械的嵌合により達成される。
しかるに、コラーゲン繊維の微細な空隙に接着性組成物を浸透させるのは容易ではなく、このため、脱灰処理後に、更に、プライマーの歯質(特に象牙質)への浸透(プライミング処理)を行ってから接着材が塗布されることとなるわけである。
上述したように、エナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、損傷された歯を修復する際において、エッチング処理及びプライミング処理の2段階の前処理が行われ、この2段階の前処理を行った上、接着性組成物を歯面に塗布して硬化させる(ボンディング処理)という3ステップシステムが基本的な手段であり、トータルエッチング処理方法と呼ばれている。
現在実施されている3ステップシステムのトータルエッチング処理による前処理は、プライミング処理とボンディング処理が別個に行われるウエットボンディングという方法と、エッチング処理とプライミング処理とが一液で行われるセルフエッチングという方法とに大きく分けられ、何れも一長一短がある。
ウエットボンディングは、一般に、比較的酸性の強い酸(例えばリン酸)をエッチング材として治療すべき歯面に施してエッチング処理を行った後、浸透性の接着性組成物を施してプライミング処理を行うというものである。この場合、浸透性の接着性組成物として、光重合開始剤を含む重合性組成物を使用した場合には、この接着性組成物は、コンポジットレジンを接合するための接着材(ボンディング材)として機能するので、プライミング処理に連続して光照射により重合硬化を行うことにより、ボンディング処理も行うことができる。
かかる方法では、エッチング処理が比較的酸性の強い酸を用いて行われるため、エナメル質の粗面化が有効に進行し、このため、エナメル質との機械的嵌合力を高めることができる。即ち、エナメル質との接着強度を向上させる上では、ウエットボンディングが有利である。
ただ、エッチング処理後には、エッチング材を水洗により除去することが必要であると同時に、エッチングにより露出した歯面を濡れた状態に保持し、この状態で浸透性の接着性組成物を施さなければならない。即ち、エッチング材が残存していると、エナメル質の粗面化が過度に進行してしまい、窩洞が大きくなってしまうため、このエッチング材は除去しなければならない。また、エッチング処理後に露出した歯面が乾燥してしまうと、象牙質を形成しているコラーゲン繊維が収縮してしまい、接着性組成物の浸透が困難となってしまうため、濡れた状態に保持しておく必要があるわけである。
このことから理解されるように、ウエットボンディングでは、象牙質に対する接着性を確保することが難しい(テクニックセンシティビティが高い)という欠点がある。エッチング処理後の歯面の濡れ具合によって、接着性組成物の浸透度が変動し、象牙質に対する接着性に大きな影響が生じてしまうからである。また、象牙質に対する接着性が不満足になるため、接着耐久性も低いという問題もある。
一方、セルフエッチングでは、エッチング処理とプライミング処理とが一液で行われるため、ウエットボンディングに比して工程数が少なく、また、プライミング処理に際してエッチング材を除去したり、歯面を濡れた状態に保持するなどの面倒な作業が必要ないというのが、当然ながら大きな利点であり、特に象牙質に対しては安定して高い接着性を得ることができる。
しかしながら、セルフエッチングには、エナメル質に対しての接着性が不十分になるという問題がある。即ち、エッチング処理とプライミング処理とが同じ液で行われるため、液の保存安定性やエッチング処理の程度をある程度制御することが必要なため、強い酸を用いることができない。エッチング材として強い酸を用いると、液がゲル化してしまい、エッチング処理能力や浸透性が損なわれてしまう。また、エナメル質ばかりか象牙質の浸食が大きく進行し、大きな窩洞が形成されてしまうことになるからである。従って、エッチング処理材としては弱い酸を使用せざるを得ず、このため、エナメル質の粗面化が十分に進行せず、この結果、エナメル質に対する機械的勘合力が不十分となり、エナメル質に対しての接着性が不十分となってしまうのである。
このように、ウエットボンディング及びセルフエッチングの何れも、エナメル質及び象牙質の何れか一方に対する接着性が不満足となる。現在、種々の歯科用接着用組成物が提案されているが、エナメル質及び象牙質の両方に対して優れた接着性を示すものは殆どないといってよい。エナメル質及び象牙質の両方に対して接着性を示すものはあるとしても、やはり、エナメル質及び象牙質の何れか一方に対する接着性についての向上が求められているのが現状である。
例えば、特許文献1には、重合性単量体とアルコキシ基を有するチタン化合物を含む歯科用接着性組成物が提案されているが、かかる組成物では、象牙質に対して良好な接着性を得ることができない。例えば、エッチング材を用いてのエッチング処理後に、この接着性組成物を歯面に施し、次いで重合硬化を行うことにより、エナメル質に対しては、良好な接着性を確保できるが、象牙質に対する接着性は十分ではない。このことは、特許文献1では、象牙質に対しての接着強度の評価すらされていないことからも明らかである。
また、特許文献2には、接着強度及び耐久性を向上させるために重合性単量体と共に第四族元素イオンを含有する一液型接着性組成物が開示されている。この一液型接着性組成物は、セルフエッチングによりエッチング処理及びプライミング処理を行うものであり、配合されているのが弱い酸であるため、エナメル質に対する接着性のさらなる向上が求められている。
更に、特許文献3には、特定のモノマーを使用することにより、歯牙表面が過度に乾燥された場合にも、歯牙表面の優れた湿潤特性をもたらすことができる接着性組成物が開示されている。該接着性組成物は、リン酸でエッチング処理した象牙質を乾燥させても安定に接着性を示すことができるというものであるが、象牙質に対する接着強度はまだ十分ではなく、耐久性も低いという問題があり、さらなる技術改良が期待されている。
特開昭56−136865 WO2010/010901 特表2009−542740
従って、本発明の目的は、エナメル質及び象牙質の何れに対しても高い接着強度を示し且つ接着耐久性にも優れた硬化物を形成し得る接着性組成物を含む歯科用接着材キットを提供することにある。
従来、第四族イオンが酸性基含有重合性単量体と共存している組成物では、重合硬化物中にイオン架橋が形成され、これにより、硬化物の歯質に対する接着性が向上することが知られているが、本発明者等は、このような第四族イオンの中でも特にチタン(IV)イオンが、イオン架橋性ばかりか、象牙質を形成しているコラーゲンに対して極めて高い親和性を示し、この結果、このようなチタンイオンを含む単量体成分は象牙質中に容易に浸透し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、リン酸エッチング材が収容されたパッケージ(A)と接着性組成物が収容されたパッケージ(B)とを含む歯科用接着材キットにおいて、
前記接着性組成物は、
(a)酸性基含有重合性単量体(a1)を含む重合性単量体成分;及び、
(b)チタン(IV)イオン;
(c)溶媒;
含むことを特徴とする歯科用接着材キットが提供される。
本発明の歯科用接着性キットは、
(1)前記チタン(IV)イオン(b)が、前記酸性基含有重合性単量体(a1)1g
当り、0.2乃至1.5モルの量で前記接着性組成物中に存在していること、
(2)前記重合性単量体成分(a)が、リン酸水素ジエステル基を有すること、
(3)前記溶媒(c)が、水または水溶性有機溶媒もしくはこれらの混合溶媒であるこ
と、
(4)前記接着性組成物が、重合開始剤(d)を含有していること、
(5)前記接着性組成物が、チタン(IV)イオン(b)の1モル当り、
0.4〜2.0モルのフッ化物イオン(e)を含有していること、
が好ましい。
本発明の歯科用接着剤キットは、リン酸エッチング材が収容されたパッケージ(A)と接着性組成物が収容されたパッケージ(B)と含むものであり、このようなパッケージの構成から理解されるように、この歯科用接着剤キットでは、リン酸エッチング材を用いてエッチング処理が行われた後に、接着性組成物によるプライミング処理が行われることとなる。
従って、本発明では、比較的強い酸であるリン酸を用いてエッチング処理が行われる。このため、歯のエナメル質を粗面化することができ、硬化物とエナメル質との機械的勘合力を向上させ、エナメル質に対する硬化物の接着性を高めることができる。
また、本発明の歯科用接着剤キットでは、パッケージ(B)に収容されている接着性組成物を用いてプライミング処理が行われるが、かかる組成物中に存在するチタン(IV)イオン(b)が架橋構造を形成することに加え、エッチング処理によって露出した象牙質中に該組成物が速やかに浸透するため、象牙質に対する接着性が一段と向上した硬化物を形成することができるのである。
本発明において、上記の接着性組成物が象牙質中に浸透することは、本発明者等が後述する実施例の実験結果から推定したものである。
即ち、硬化物が象牙質に対して高い接着強度を示し、しかも硬化物の歯質に対する接着耐久性も高いという事実に加え、この接着性組成物を用いてのプライミング処理を、エッチング処理後の歯面を乾燥した状態で行った場合においても、歯面が濡れた状態で行った場合と同等に近い高い接着強度が得られている。しかるに、歯面が乾燥した状態では、象牙質を形成しているコラーゲン繊維が収縮した状態にあり、通常ならば、接着性組成物は極めて浸透しにくいはずである。従って、コラーゲン繊維が収縮した状態にあった場合においても、収縮していない状態(歯面が濡れた状態)にあった場合と同等に近い接着強度が得られるということは、チタンイオンがコラーゲン繊維に対して高い親和性を示し、この組成物が収縮したコラーゲン繊維中に速やかに浸透したためであると考えられるわけである。
また、エッチング処理後の歯面を乾燥した状態で行った場合においても、歯面が濡れた状態で行った場合と同等に近い高い接着強度が得られるということは、象牙質接着について、高度のテクニックセンシビティを必要としないことを意味しており、これも本発明の大きな利点である。
本発明の歯科用接着材キットは、エッチング処理に使用されるリン酸エッチング材を収容しているパッケージ(A)と、プライミング処理に使用される接着性組成物を収容しているパッケージ(B)とを含むものである。
<パッケージ(A)>
パッケージ(A)に収容されているリン酸エッチング材は、既に述べたように、歯面をエッチングすることにより、歯の表面のエナメル質を脱灰し、その表面を微細な凹凸の粗面とし、この部分に形成される硬化物とエナメル質との機械的勘合力を高め、両者の接着強度を向上させるものである。
このようなリン酸エッチング材は、それ自体公知であり、オルトリン酸(HPO)の水溶液である。
尚、リン酸以外の酸は、生体に対する適合性或いは歯質に対するエッチング能に問題があるため使用することができない。例えば、クエン酸では、脱灰力が不十分となり、エナメル質に対する接着強度が低下してしまう。
リン酸水溶液のリン酸濃度は、口腔内に悪影響を与えずに適度なエッチング効果(脱灰力)を示す程度に設定されていればよく、一般的には30〜50質量%、特に35〜45質量%程度である。例えば、リン酸濃度が高すぎると、口腔内に悪影響を与えるおそれがあり、また、リン酸濃度が高すぎても低すぎても、脱灰力が低下する傾向がある。
また、このパッケージ(A)には、リン酸エッチング材以外にも、エッチング処理に悪影響を与えない限りの量で、エッチング処理に使用され得る種々の添加材が配合されていてよい。例えば、特開2005−8537号公報に開示されているような色素を、脱灰の程度を図るために10〜1000ppm程度配合することもできる。また、リン酸エッチング材の粘度を高め、所定の窩洞部に適量を施せるようにするために、数%程度の量で無機微粒子や水溶性高分子などを配合することもでき、さらには、香料なども適宜配合することができる。
このようなリン酸エッチング材を用いてのエッチング処理は、小筆等を用いて、このエッチング材を修復すべき歯面に施すことにより行われ、処理時間は、歯面に形成されている窩洞の程度によっても異なるが、一般的には10〜30秒程度である。
このエッチング処理が終了した後、この歯面を水洗してリン酸エッチング材やエッチングにより生成した脱灰物を除去した後、パッケージ(B)に収容されている接着性組成物を用いてのプライミング処理が行われる。
<パッケージ(B)>
プライミング処理に使用されるパッケージ(B)に収容されている接着性組成物は、重合性単量体成分(a)を含んでいるものであり、さらにこの組成物中にはチタン(IV)イオン(b)が存在しており、さらに、イオンを存在させるための溶媒(c)を含み、必要に応じて、重合開始剤(d)及びフッ化物イオン(e)等を配合することができる。
このような接着性組成物を用いてのプライミング処理は、通常は、リン酸エッチング材等が水洗により除去されてウエットな状態にある歯面に、そのまま、該接着性組成物を施すことにより行われるが、エアブロー等により水分を飛ばして歯面を乾燥させた後に、この接着性組成物を施してプライミング処理を行うこともできる。即ち、歯面が乾燥してコラーゲン繊維が収縮した状態であっても、ウエットな状態でコラーゲン繊維が収縮していない状態にある場合と同等或いは同等に近い接着強度を確保できる。従って、本発明は、象牙質接着について、高いテクニックセンシビティが要求されないという利点を有しているわけである。
また、このような歯質のプライミング処理に使用される接着性組成物は、歯列矯正用ブラケットやコンポジットレジンを接着固定するための歯科用接着材をしっかりと接着保持するためのプライマーとして歯面に残存するが、この接着性組成物自体を歯科用接着材として使用することもできるし、コンポジットレジン用のプライマーとしても使用することができる。
以下、この接着性組成物に配合される各成分について説明する。
[重合性単量体成分(a)]
この接着性組成物における重合性単量体成分(a)(以下、単に「単量体成分」と呼ぶ)は、この接着性組成物の上に施される各種材料(例えば歯列矯正用ブラケット、コンポジットレジン、歯科用接着材など)に対する接着性を付与するために使用される基本成分である。
このような単量体成分は、接着性組成物の歯質に対する浸透性や後述する4価のチタンイオンのイオン架橋による接着性向上能を十分に発揮させるために、少なくともその一部が酸性基含有重合体(a1)であることが必要であり、酸性基含有重合体(a1)が存在していることを条件として、酸性基を有していない重合体(a2)を適宜含有している。即ち、酸性基含有重合体(a1)を含んでいないと、後述する4価のチタンイオンを接着組成物中に十分な量で存在させることが困難となり、この接着性組成物の歯質に対する浸透性が低下し、さらには硬化物中に十分なイオン架橋構造が形成されず、象牙質のみならず、エナメル質に対しての接着性や接着耐久性が不満足なものとなってしまう。
酸性基含有重合体(a1);
酸性基含有重合体(a1)(以下、単に酸性モノマーと呼ぶ)が単量体成分(a)を占める割合は、一般に5質量%以上であるが、好適な含有量は、接着性組成物の使用形態によって若干異なる。
例えば、パッケージ(B)の接着性組成物を、単なる歯質前処理材として使用するときには(即ち、プライミング処理のみに使用する場合)には、単量体成分(a)中の5〜80質量%、特に20〜70質量%が酸性モノマー(a1)であることが望ましい。また、この接着性組成物そのものを歯科用接着材として使用する時には、5〜50質量%、特に10〜30質量%が酸性モノマー(a1)であることが好適であり、何れの場合も、残部が酸性基を含有していない重合性単量体(a2)である。一般に、歯科用接着材として使用する場合には、それ自体にコンポジットレジンや歯列矯正ブラケットなどに対して十分な接着性を持たせるため、酸性基を含有していない重合性単量体(a2)の使用量が、歯質用前処理材として使用する場合よりも多い。
上述した酸性モノマー(a1)は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
このような酸性モノマー(a1)が分子中に有している酸性基としては、人体に悪影響を及ぼさない限り特に制限されないが、一般的には、カルボン酸基(無水物基を含む)やカルボン酸基を含む基、及びリン酸系の基(リン酸含有基、ホスホン酸含有基、ホスフィン酸含有基)が適当であり、リン酸系の基(−P(=O)(OH)を含む基)を含む基が好適である。
リン酸系の基の具体例は次の通りである。
リン酸基を含む基:
−O−P(=O)(OH)
(−O−)P(=O)(OH);
ホスホン酸基を含む基:
−O−P(=O)R(OH)
−A−P(=O)(OH)
ホスフィン酸を含む基:
−A−P(=O)H(OH)
(−A−)P(=O)(OH);
上記において、Rは水素原子または有機基であり、Aは有機基である。
本発明においては、このようなリン酸系の基の中でも、リン酸基を含む基、特にリン酸水素ジエステル基[(−O−)P(=O)(OH)]を含む基が、後述する4価のチタンイオンによるイオン架橋性を最も効果的に発揮させ、本質的に歯質等に対する結合力を高くし、特に高い接着強度が得られるという点から最も好適である。
また、酸性モノマー(a1)が分子中に有している重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
特に、硬化速度の観点からは、酸性モノマー(a1)は、重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であることが好適である。
上記のような酸性基及び重合性不飽和基を分子中に有している酸性モノマー(a1)は、それぞれ1種単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができるが、本発明において、最も好適に使用される酸性モノマー(a1)、例えば酸性基としてリン酸水素ジエステル基を含む重合性単量体の代表例は、次の下の通りである。
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシブチル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[10−(メタ)アクリロイルオキシデシル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[12−(メタ)アクリロイルオキシドデシル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[3−(メタ)アクリロイルオキシプロパン−2−イル]ハイドロジェン
ホスフェート
ビス[(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチル]ハイドロジェンホスフェート
ビス[(メタ)アクリロイルオキシジエトキシエチル]ハイドロジェン
ホスフェート
ビス[(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシエトキシエチル]ハイドロジェン
ホスフェート
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルエチルハイドロジェンホスフェート
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルブチルハイドロジェンホスフェート
酸性基を含有していない重合性単量体(a2);
酸性モノマー(a1)と併用され得る酸性基を含有していない重合性単量体(a2)(以下、非酸性モノマーと呼ぶ)は、酸性基を含有しておらず且つ分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有しているという条件を満足している限り、公知の化合物を何等制限無く使用できる。かかる重合性単量体が有している重合性不飽和基としては、前述した酸性モノマー(a1)で例示したものと同様のものを挙げることができるが、特にアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましい。
このような非酸性モノマー(a2)の代表例としては、以下の(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができ、これらは1種単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
1.モノ(メタ)アクリレート系単量体;
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
2−シアノメチル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリセリルモノ(メタ)アクリレート、
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等。
2.多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]
プロパン、
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロ
ポキシ]フェニル}プロパン、
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ウレタン(メタ)アクリレート、
エポキシ(メタ)アクリレート等。
また、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を混合して用いることも可能である。このような他の重合性単量体としては、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン系化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;などを挙げることができる。これらの他の重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
また、本発明において、非酸性モノマー(a2)として疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、併せて2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用することが好適である。このような両親媒性の単量体の併用により、本発明の接着性組成物の必須成分である水の分離を防止し、組成の均一性を確保することができ、安定して高い接着強度を得ることができるからである。
[チタン(IV)イオン(b)]
本発明において、接着性組成物(B)には、チタン(IV)イオン(b)が含有していることが必要である。
即ち、4価のチタンイオン(b)を接着性組成物中に存在させることにより、その象牙質に対する浸透性を大幅に向上させることができる。先にも述べたように、このチタンイオンは、エッチング処理により露出した象牙質のコラーゲン繊維に対する親和性が極めて高く、このため、例えば乾燥して収縮した状態のコラーゲン繊維の隙間にも十分浸透することとなる。即ち、4価のチタンイオン(b)の存在は、接着性組成物のプライミング処理能を著しく向上させるのである。
また、既に知られているように、4価のチタンイオン(b)は、前述した重合性単量体成分中の酸性基と強固なイオン結合を形成する。即ち、このようなイオン結合体を含む組成物を重合することによってポリマー鎖のイオン架橋が形成され、イオン架橋による接着力の向上効果も発現する。従って、前述した象牙質中への高い浸透性とイオン架橋性とが相乗的に作用し、エナメル質や象牙質などの歯質に対する接着性及び接着耐久性が著しく向上することとなる。
勿論、イオン架橋性に関して言えば、4価のチタン以外の多価金属イオン、例えばジルコニウムイオンなども有しており、従って、このような多価金属イオンを存在させることによっても歯質に対する接着性を向上させることはできる。しかしながら、このような他の多価金属イオンは、コラーゲン繊維に対する親和性が乏しく、満足すべきプライミング処理能を有していない。特に、乾燥状態の象牙質に対する浸透性が大きく低下してしまう。従って、4価のチタン以外の多価金属イオンを存在させた場合と比較すると、その接着性向上効果は劣ったものとなる。
本発明において、このような4価のチタンイオン(b)は、例えば、前述した酸性モノマー(a1)1g当り、0.2乃至1.5ミリモル、特に0.4乃至1.2ミリモルの量で接着性組成物中に存在していることが好ましい。即ち、このような濃度で4価のチタンイオンが存在していることにより、象牙質に対する浸透性と酸性モノマー(a1)との協働作用によるイオン架橋性とが効果的に発現し、接着性向上効果を最大限に発揮させることができる。
尚、接着性組成物中に存在する4価のチタンイオンの量は、この組成物から固体成分を除いた後、誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析装置または蛍光X線(XRF)分析装置を用いての測定により求めることができる。
例えば、ICP発光分析装置を用いる場合は、接着性組成物を水溶性有機溶媒で濃度1質量%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルター等で濾過し、固体成分を除去する。得られた濾液中のチタンイオン濃度をICP発光分析装置で測定し、接着性組成物中に存在する4価のチタンイオンの量を算出することができる。
また、XRF分析装置を用いる場合は、接着性組成物をシリンジフィルター等でろ過し、固体成分を除去する。得られた濾液中のチタンイオン濃度をXRF分析装置で測定し、接着性組成物中に存在するチタンイオンの量を算出することができる。
また、接着性組成物中の酸性基の量は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより組成物中から酸性モノマー(a1)を単離し、単離した酸性モノマー(a1)の質量分析によって分子量を測定し、更に、核磁気共鳴分光(NMR)測定を行って構造を決定する。さらに、単離された酸性モノマー(a1)を用いて、標準物質との検量線を作成し、前出の濾液の一部に標準物質を添加して高速液体クロマトグラフィーで測定することにより、酸性モノマー(a1)の量を算出することができる。
本発明において、接着性組成物中に存在する4価のチタンイオンの量を上記の範囲内に調整するには、接着性組成物中に配合される4価のチタンイオンを放出し得るチタン化合物の量を、そのイオン放出性に応じて設定すればよい。
このようなイオン放出性のチタン化合物としては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド等のチタンアルコキシドが代表的であり、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド等、チタンイオンの溶出が速く、副生物がアルコールであるため接着強度に影響がなく副生物の除去が容易であり、また取り扱いが容易な点から好適である。また、チタンアルコキシド以外にも、チタンと各種酸との塩類、チタンのハロゲン化物(特にフッ化物)なども使用することができ、さらには、チタンイオン放出性のフィラーも使用することができるが、より安定にチタンイオンを放出することができ、チタンイオン量の設定を精度よく行うことができるという点で、前述したチタンアルコキシドが最も好適である。
[溶媒(c)]
溶媒は、上述した4価のチタンイオン(b)やその他の成分を均一に接着性組成物中に分散させるために必要であり、一般に、水溶性有機溶媒や水が溶媒として使用される。
水溶性有機溶媒としては、特に制限されないが、一般的には、乾燥により容易に除去できるという観点から、室温で揮発性を有するものが好適である。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。
このような揮発性の水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
また、上記の水溶性有機溶媒に変えて、或いは水溶性有機溶媒と共に(即ち、混合溶媒として)、水を溶媒として使用することもできる。水の使用は、特に4価のチタンイオン(b)の量を確保し且つ該イオンを接着組成物中に均一に分散させる上で好適である。
本発明において、溶媒の使用量は、水溶性有機溶媒と水とで適量が異なっており、例えば、水溶性有機溶媒の配合量は、一般的には、重合性単量体成分(a)100質量部当たり、10乃至500質量部、特に20乃至350質量部の量が好ましい。また、水の配合量は、重合性単量体成分(a)100質量部当たり、5乃至100質量部、特に10乃至50質量部の範囲とするのがよく、本発明においては、水溶性有機溶媒及び水を上記の範囲で併用することが最も好適である。
[その他の成分]
上述した単量体成分(a)を含み且つ4価のチタンイオン(b)が存在する接着性組成物には、それ自体公知の種々の配合剤が配合されていてよく、例えば、重合開始剤(d)やフッ化物イオン(e)等を配合することができる。
重合開始剤(d);
重合開始剤は、この接着性組成物を、各種材料(例えば、接着材や歯の修復材)を接着固定するためのプライマーとして使用するときは、特に必要ないが、接着材として使用する場合には、それ自体で硬化させるために必要となる。
このような重合開始剤は、口腔内で重合を開始させることや任意のタイミングで重合を開始させ得ることから、光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤としては、そのもの自身が光照射によってラジカル種を生成する化合物や、このような化合物に重合促進剤を加えた混合物が使用される。
それ自身が光照射にともない分解して重合可能なラジカル種を生成する化合物としては、以下のものを例示することができる。
α−ジケトン類;
カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、
ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、
3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等。
チオキサントン類;
2,4−ジエチルチオキサントン等。
α−アミノアセトフェノン類;
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ブタノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ブタノン−1、
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
プロパノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
プロパノン−1、
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ペンタノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ペンタノン等。
アシルフォスフィンオキシド誘導体;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチル
フォスフィンオキシド等。
また、上記した重合促進剤としては、第三級アミン類、バルビツール酸類、メルカプト化合物などが使用される。その具体例は以下の通りである。
第三級アミン類;
N,N−ジメチルアニリン、
N,N−ジエチルアニリン、
N,N−ジ−n−ブチルアニリン、
N,N−ジベンジルアニリン、
N,N−ジメチル−p−トルイジン、
N,N−ジエチル−p−トルイジン、
N,N−ジメチル−m−トルイジン、
p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、
m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、
p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、
p−ジメチルアミノアセトフェノン、
p−ジメチルアミノ安息香酸、
p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、
p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、
N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、
N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、
N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、
p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、
p−ジメチルアミノスチルベン、
N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、
4−ジメチルアミノピリジン、
N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、
N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、
トリブチルアミン、
トリプロピルアミン、
トリエチルアミン、
N−メチルジエタノールアミン、
N−エチルジエタノールアミン、
N,N−ジメチルヘキシルアミン、
N,N−ジメチルドデシルアミン、
N,N−ジメチルステアリルアミン、
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、
2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等。
バルビツール酸類;
5−ブチルバルビツール酸、
1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等。
メルカプト化合物;
ドデシルメルカプタン、
ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等。
また、接着性組成物を、ハイドロパーオキサイド等の過酸化物を配合したコンポジットレジン用の歯面プライマーとして用いる場合には、重合開始助剤としてバナジウム化合物を配合しても良い。プライマーに配合されたバナジウム化合物が、コンポジットレジン中の過酸化物と反応し、ラジカルを生成することで、歯質とコンポジットレジンの接着性が向上する。バナジウム化合物は酸化数が−I価から+V価までとるが、本発明に使用されるバナジウム化合物は、安定性および活性が高い理由から、+IV価または+V価バナジウム化合物を使用することが特に好ましい。当該+IV価または+V価バナジウム化合物としては公知の化合物が制限なく使用できる。具体的に例示すると、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラート、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド等のバナジウム化合物が挙げられる。中でも、プライマーに対する溶解性の観点から、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラート、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシドが好ましく、オキソバナジウム(IV)ビスマルトラートが最も好ましい。
このような重合開始剤(d)の配合量は、この接着性組成物を硬化できるだけの有効量であれば特に限定されず、適宜設定すれば良いが、一般的には、重合性単量体成分(a)100質量部当り、0.01乃至10質量部、特に0.1乃至5質量部の範囲とするのがよい。上記配合量が少なすぎると重合が不十分になり易く、多すぎると硬化体の強度が低下する傾向がある。
フッ化物イオン(e);
本発明において、フッ化物イオン(e)は、パッケージ(B)内での接着性組成物の保存安定性を確保するために使用されるものであり、特に接着性組成物が水を含む場合に好適に中に水が存在する場合の保存安定を確保するために効果的である。
即ち、この接着性組成物には、4価のチタンイオン(b)が存在しているため、長期保存中に、このチタンイオンが水分と反応し、固体の酸化物を形成してしまうことがある。このような酸化物の形成は、水が存在するときに顕著であるが、水が存在しない場合においても、パッケージ(B)の蓋の開閉を繰り返すことにより、空気中の水分や酸素がパッケージ(B)内に取り込まれ、チタンイオンの酸化物が形成されてしまうこととなる。
しかるに、チタンイオンの酸化物の形成は、接着性組成物中でのチタンイオン濃度の低下をもたらし、象牙質への浸透性やイオン架橋性が損なわれてしまい、接着強度やその耐久性の低下が生じてしまうこととなる。また、チタンイオンの酸化物の析出により、パッケージ(B)に設けられている内容物取り出し用のノズルが詰まってしまうこともある。フッ化物イオン(e)は、このような酸化物の形成を有効に防止するものである。
尚、フッ化物イオンによるチタンイオンの酸化物の形成抑止は、実験的に確認されており(例えばWO 2010/010901参照)、酸性モノマー(a1)と4価のチタンイオンとのイオン架橋体の一部がフッ化物イオンによってフッ素化され、フッ素化されたイオン架橋体が水による加水分解等を受けにくく、安定であるため、酸化物の形成が抑制されるものと考えられている。
このようなフッ化物イオン(e)は、チタン酸化物の析出を防ぐことができる程度の量で存在させればよいが、一般に、4価のチタンイオン(b)1モル当り0.4〜4.0モル、特に0.4〜1.7モルの量で存在させるのがよい。
また、上記のフッ化物イオン(e)の供給源としては、フッ化物イオンを放出可能なフッ化物であれば何ら制限されない。
例えば、フッ化水素酸、金属フッ化物、フッ化アンモニウム類、フルオロアルミノシリケートガラス等が使用され、特に好ましくは金属フッ化物が使用される。このような金属フッ化物を例示すると、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属フッ化物;フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属フッ化物;フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の土類金属フッ化物;フッ化チタン、フッ化ジルコニウム等の第四族元素のフッ化物;フッ化亜鉛等を挙げることができる。中でもアルカリ金属フッ化物、第四族元素のフッ化物が好ましく、アルカリ金属フッ化物がより好ましい。最も好ましくはフッ化ナトリウムである。
このようなフッ化物イオンの供給源は、前述したチタンイオンの供給源と共に、酸性モノマー(a1)及び溶媒(c)と混合することにより、所定量のフッ化物イオン(e)を放出し、チタンイオンの酸化物形成を抑制する。
尚、接着性組成物中のフッ化物イオン(e)は、組成物が均一である限り、配合したフッ化物がほとんどイオン化して組成物中に存在しているが、フルオロアルミノシリケートガラス等から溶出させる場合には、その含有量を陰イオンクロマトグラフィーにより測定して求めることができる。具体的な方法を示すと、純粋で濃度1%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルターで濾過し、固体成分を除去する。得られた濾液に含まれるフッ化物イオン濃度を陰イオンクロマトグラフィーにより測定し、接着性組成物中のフッ化物イオン含有量を算出することができる。
その他の配合剤;
パッケージ(B)の接着性組成物には、上記(a)〜(e)成分以外にも、例えば、硬化物の機械的強度や及び耐水性を向上させる為に無機充填剤を配合することができる。
このような無機充填剤としては、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、重金属(例えばバリウム、ストロンチウム、ジルコニウム)を含むガラス、アルミノシリケート、ガラスセラミックス、シリカやシリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア、シリカ・アルミナなどの複合無機酸化物などが挙げられ、このうちシリカが最も好ましい。
これらの無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化することで重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。疎水化の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。上記各種フィラーは単独または二種以上を混合して使用することができる。
上述した無機充填剤の配合量は、一般に、重合性単量体成分(a)100質量部当たり、5〜200質量部、特に、10〜100質量部程度である。
また、本発明においては、接着性組成物の接着性を損なわない範囲で、必要に応じて歯科用接着性組成物の配合成分として公知の他の成分、例えば、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料などが配合されていてもよい。
上述した接着性組成物は、公知の歯質用接着性組成物と同様にして製造することができ、例えば、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合することにより製造され、製造された接着性組成物は、パッケージ(B)に充填される。
<その他のパッケージ>
本発明の歯科用接着材キットは、パッケージ(B)内の接着性組成物の使用形態に応じて、パッケージ(A)及び(B)に加えて他のパッケージも使用されることがある。
即ち、本発明の歯科用接着材キットにおいては、パッケージ(A)のリン酸エッチング材を修復すべき歯面に塗布してエッチング処理を行い、処理後の歯面を水洗し、リン酸エッチング材を除去した後、該歯面が濡れた状態のまま(或いはエアブローなどにより乾燥を行ってもよい)、パッケージ(B)の接着性組成物を施してのプライミング処理が行われる。このプライミング処理後に、適宜、歯質用の接着材を用いて、コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物、或いはブラケット等の歯列矯正用器具を歯質に接着固定するわけである。
しかるに、上記の接着性組成物は、これに重合開始剤(d)が配合されているものは、これ自体を歯質用の接着材として使用することができる。即ち、プライミング処理後の歯質中に浸透している接着性組成物を、歯科用照射器を用いての可視光照射により硬化させた後、これに、歯科用修復物や歯列矯正用器具を接着固定することができる。この場合には、この歯科用接着材キットは、パッケージ(A)及び(B)の2種のみでよく、その他のパッケージ無しで使用されることとなる。
また、上記の組成物は、コンポジットレジンを歯質に接着固定するためのプライマーとしても使用することができる。この場合には、プライミング処理後、光照射等の硬化処理を行うことなく直ちにペースト状のコンポジットレジンを塗布し、上記と同様の光照射により硬化せしめることができる。即ち、歯質内に浸透している接着性組成物は、コンポジットレジンに配合されている重合開始剤が該接着性組成物内に浸透し、コンポジットレジンと一体的に硬化することとなる。
この場合にも、この歯科用接着材キットは、パッケージ(A)及び(B)の2種のみでよく、その他のパッケージ無しで使用される。
一方、接着性組成物にバナジウム化合物が配合され、コンポジットレジンに重合開始剤の一部として過酸化物が配合される場合、過酸化物が該接着性組成物内に浸透し、ラジカルが発生するため、強固に歯質に接着する。この場合には、上述したパッケージ(A)及び(B)に加えて、専用のコンポジットレジンが収容されたパッケージが必要となる。
さらに、この接着性組成物は、歯科用修復物等を接着固定する接着材用のプライマーとして使用することもできる。この場合には、この接着性組成物には、プライミング処理後、光照射等の硬化処理を行うことなく直ちに歯科用接着材を塗布し、上記と同様の光照射により硬化した後、これに、歯科用修復物や歯列矯正用器具を接着固定することとなる。
従って、この場合には、上述したパッケージ(A)及び(B)に加えて、歯科用接着材が収容されたパッケージが必要となる。
このような歯科用接着材は、従来公知のものでよく、例えば特開2010−201516号等に記載されているものを使用することができる。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
[リン酸エッチング材(A)]
リン酸:30%リン酸水溶液
[その他エッチング材]
クエン酸:30%クエン酸水溶液
[酸性基含有重合性単量体(a1)]
PM1:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート
PM2:ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート
フェニルP:2−メタクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェン
フォスフェート
MDP:10−メタアクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
6−MHPA:6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート
[非酸性重合性単量体(a2)]
BIsGMA:2,2‘−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシ
プロポキシ)フェニル)プロパン
D−2.6E:2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシ
フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MTA:メタクリル酸
BAAP:1,3−ビスアクリルアミドプロパン
[チタン(IV)イオン(b)]
TI(O−I−Pr):チタニウムテトライソプロポキシド
TI(O−n−Bu):チタニウムテトラブトキシド
[その他金属イオン]
Zr(O−I−Pr):ジルコニウムテトライソプロポキシド
Hf(OEt):ハフニウムテトラエトキシド
Al(O−I−Pr):アルミニウムトリイソプロポキシド
Ca(O−I−Pr):カルシウムジイソプロポキシド
[水溶性有機溶媒(c)]
IPA:イソプロピルアルコール
アセトン
[重合開始剤(d)]
光重合開始剤
CQ:カンファーキノン
[フッ化物イオン(e)]
フッ化ナトリウム:NaF
その他重合開始剤
パーオクタH:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
BMOV:オキソバナジウム(IV)ビス(マルトラート)
[重合促進剤]
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
[紫外線吸収剤]
TNP:2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
[無機フィラー]
F1:ヒュームドシリカ(平均粒径0.007μm)をジメチルジクロロシランにより
表面処理したもの
F2:球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.4μm)をγ―メタクリロイルオキシ
プロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものと、球状シリカ−ジルコニ
ア(平均粒径0.07μm)γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラ
ンにより疎水化処理したものとを質量比70:30にて混合した混合物
MF:フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、株式会社トク
ヤマ製)を湿式の連続型ボールミル(SCミル、三井鉱山株式会社製)を用いて、
平均粒径0.4μmまで粉砕したもの。
以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
(1)試験片作成方法I(歯科用接着性組成物をコンポジットレジン用接着材として適用した場合)
a)エッチングを行わない場合
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞内にコンポジットレジン用接着材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣクイック、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により10秒間光照射して、接着試験片Iaを作製した。
b)リン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
同様に、牛歯エナメル質および象牙質平面を削り出し、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、孔の部分にリン酸を塗布して15秒放置後、リン酸を10秒以上水洗し、再び圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、同様にパラフィンワックスを固定して模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞内にコンポジットレジン用接着材を塗布し、直ちに圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片Ibを作製した。
c)リン酸エッチングの後にエアブローを行わない場合
同様に、牛歯エナメル質および象牙質平面を削り出し、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、孔の部分にリン酸を塗布して15秒放置後、リン酸を10秒以上水洗し、水分を綿球で吸い取った後、同様にパラフィンワックスを固定して模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞内にコンポジットレジン用接着材を速やかに塗布し、直ちに圧縮空気を約20秒間吹き付けて乾燥し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片Icを作製した。
d)クエン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
エッチング材として、クエン酸を用いた以外は、試験片Ibと同様にして模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞内に歯科用接着材を塗布し、直ちに圧縮空気を約20秒間吹き付けて乾燥し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片Idを作製した。
(2)試験片作成方法II(歯科用接着性組成物をコンポジットレジン用接着材用前処理材として適用した場合)
a)エッチングを行わない場合
試験片Iaと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用歯接着材用前処理材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、更にコンポジットレジン用接着材(トクソーマックボンドII)を塗布し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片IIaを作製した。
b)リン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
試験片Ibと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用接着材用前処理材を塗布し、直ちに圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、更にコンポジットレジン用接着材を塗布し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片IIbを作製した。
c)リン酸エッチングの後にエアブローを行わない場合
試験片Icと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用接着材用前処理材を速やかに塗布し、直ちに圧縮空気を約20秒間吹き付けて乾燥し、更にコンポジットレジン用接着材を塗布し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片IIcを作製した。
d)クエン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
試験片Idと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用接着材用前処理材を速やかに塗布し、直ちに圧縮空気を約20秒間吹き付けて乾燥し、更にコンポジットレジン用接着材を塗布し、同様に10秒間光照射した。更にその上に同様に歯科用コンポジットレジンを充填し、光照射して、接着試験片IIdを作製した。
(3)試験片作成方法III(歯科用接着性組成物をコンポジットレジン用前処理材として適用した場合)
a)エッチングを行わない場合
試験片Iaと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用前処理材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、更に専用の歯科用コンポジットレジンを充填し、20秒間光照射して、接着試験片IIIaを作製した。
b)リン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
試験片Ibと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用前処理材を塗布し、直ちに圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、更に専用の歯科用コンポジットレジンを充填し、同様に光照射して、接着試験片IIIbを作製した。
c)リン酸エッチングの後にエアブローを行わない場合
試験片Icと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用前処理材を速やかに塗布し、直ちに圧縮空気を約20秒間吹き付けて乾燥し、更に専用の歯科用コンポジットレジンを充填し、同様に光照射して、接着試験片IIIcを作製した。
d)クエン酸エッチングの後にエアブローを行う場合
試験片Idと同様にして形成した模擬窩洞内に、コンポジットレジン用前処理材を塗布し、直ちに圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、更に専用の歯科用コンポジットレジンを充填し、同様に光照射して、接着試験片IIIdを作製した。
(4)耐久試験後の接着強度の測定方法
接着試験片Ia、Ib、Ic、Id、IIa、IIb、IIc、IId、IIIa、IIIb、IIIc、及びIIIdのいずれかを熱衝撃試験器に入れ、4℃の水槽に1分間浸漬後、60℃の水槽に移し1分間浸漬し、再び4℃の水槽に戻す操作を、3000回繰り返した。
その後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/mInにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を耐久試験後の接着強度として測定し、接着耐久性を評価した。
<実施例1>
重合性単量体として、12gのPM1、18gのPM2の等モル混合物、24gのBIsGMA、16gの3G及び30gのHEMA;チタンイオン源として、5.9gのチタンイソプロポキシド;重合開始剤として、1.25gのカンファーキノン、1.25gのDMBE;水溶性有機溶媒として、85gのIPA;及びその他成分として、BHTを0.03g用い、これらを均一になるまで攪拌混合した後、20gの蒸留水を加えて再度均一になるまで攪拌混合して本発明の接着性組成物からなる、コンポジットレジン用接着材を得た。
この接着材について、各試験片の接着強度を測定した。接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
<実施例2〜17及び比較例1〜10>
実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なる接着材を調製した。得られたコンポジットレジン用接着材について、各試験片の接着強度を測定した。接着剤の組成を表1、結果を表2に示した。
Figure 0005846980
Figure 0005846980
<実施例18〜23及び比較例11〜14>
表3に記載の前処理材を、実施例1の接着材と同様に調製し、得られた前処理材を、コンポジットレジン用接着材の前処理材として用いた。各試験片の接着強度を測定した結果を表4に示した。
Figure 0005846980
Figure 0005846980
<実施例24>
非酸性重合性単量体として用いた2.4gのBIsGMA、5.6gのD−2.6E及び4.0gの3Gに対して、0.06gのCQ、0.1gのDMBE、0.1gのパーオクタH、0.11gのTNP、0.002gのHQMEおよび0.015gのBHTを加え、暗所にて均一になるまで撹拌し、マトリックスとした。得られたマトリックス3.3gを、6.23gのF1および0.47gのMFとメノウ乳鉢で混合し、真空下にて脱泡することにより、フィラー充填率67.0%の光硬化型のコンポジットレジンCR1を得た。
実施例1の方法に準じ、表5に示した組成のコンポジットレジン用前処理材を調製した。上記コンポジットレジンCR1と、調製したコンポジットレジン用前処理材を用いて各試験片の接着強度を測定した。結果を表6に示した。
<実施例25,26及び比較例15,16>
同様に、表5に示す組成のコンポジットレジン用前処理材を調製した。尚、NaFを添加する場合には、所定の濃度の水溶液を予め調製し、水と合わせて最後に添加した。上記コンポジットレジンCR1と、調製したコンポジットレジン用前処理材を用いて各試験片の接着強度を測定した。結果を表6に示した。
Figure 0005846980
Figure 0005846980

Claims (6)

  1. リン酸エッチング材が収容されたパッケージ(A)と接着性組成物が収容されたパッケージ(B)とを含む歯科用接着材キットにおいて、
    前記接着性組成物は、
    (a)酸性基含有重合性単量体(a1)を含む重合性単量体成分;
    (b)チタン(IV)イオン;
    (c)溶媒;
    含むことを特徴とする歯科用接着材キット。
  2. 前記チタン(IV)イオン(b)が、前記酸性基含有重合性単量体(a1)1g当り、0.2乃至1.5ミリモルの量で前記接着性組成物中に存在している請求項1に記載の歯科用接着材キット。
  3. 前記重合性単量体成分(a)が、リン酸水素ジエステル基を有する請求項1又は2に記載の歯科用接着材キット。
  4. 前記溶媒(c)が、水または水溶性有機溶媒もしくはこれらの混合溶媒である請求項1乃至3の何れかに記載の歯科用接着材キット。
  5. 前記接着性組成物が、重合開始剤(d)を含有している請求項1乃至4の何れかに記載の歯科用接着材キット。
  6. 前記接着性組成物が、チタン(IV)イオン(b)の1モル当り、0.4〜2.0モルのフッ化物イオン(e)を含有している請求項1乃至5の何れかに記載の歯科用接着材キット。
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