本発明の歯科用接着性組成物は、(A)重合性単量体成分と、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体、及び(C)水を含有してなる歯科用接着性組成物であり、前記(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体の双性イオン性基が下記一般式(1)で示されることを特徴とする歯科用接着性組成物である。以下、本発明の歯科用接着性組成物に含まれる各成分について、順次詳細に説明する。
歯科用接着性組成物に含有される(A)重合性単量体について説明する。本発明の重合性単量体は分子中に少なくとも一つの重合性基を有する。分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であるのが好ましい。
本発明で用いることのできる重合性単量体は、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を持つ物で有れば、公知の化合物を何等制限無く使用できる。具体例を示すと、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート又はメチルメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
本発明の歯科用接着性組成物中の(A)重合性単量体の配合量は、10質量%以上配合することが好ましく、高い接着性を出すためにさらに好ましくは20質量%以上配合する。
本発明の接着性組成物は、(A)重合性単量体成分中に、(A1)酸性基含有重合性単量体を含有させることができる。ここで、(A1)酸性基含有重合性単量体は、分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と少なくとも1つの酸性基を有するものである。酸性基としては、公知のものを使用することができ、(A1)酸性基含有重合性単量体成分の化合物の分子中に存在する酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。酸無水物の基についても、酸性基に加水分解した状態のものとして、上記酸性基に含める。
また、(A1)酸性基含有重合性単量体成分の化合物の分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
本発明で用いられる(A1)酸性基含有重合性単量体成分として好適に使用できる化合物を例示すれば、下記式に示す化合物の他、ビニル基に直接リン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
上記化合物中、R1は水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。その中でも歯質の脱灰作用が高く(主に酸性度の強いリン酸系の基を有する為と思われる)、歯質に対する接着力が高い基−O−P(=O)(OH)2、基(−O−)2P(=O)OH等のリン酸系の基を含有している重合性単量体を使用することが好ましい。
また、(A1)酸性基含有重合性単量体成分は重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物が、硬化速度の点から好ましい。
(A1)酸性基含有重合性単量体成分を配合する場合、(A)重合性単量体中の(A1)酸性基含有重合性単量体成分の含有割合は、エナメル質及び象牙質の両方に対する接着強度の観点から5質量%以上であり、歯質の脱灰、歯質への浸透性および強度のバランスの点から10〜60質量%であるのが好適である。
更に、上記重合性単量体以外の重合性単量体を混合して重合することも可能である。これらの他の重合性単量体を例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリレート系単量体;10−メルカプトデシル(メタ)アクリレートや6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレート等のチオウラシル基含有(メタ)アクリレート系単量体;メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等を挙げることができる。これらの重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
次に、歯科用接着性組成物に含有される(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体について説明する。ここで、双性イオン性基とは、プラスの電荷を帯びた原子団とマイナスの電荷を帯びた原子団とを有する官能基であり、局所的には極性を有するものの官能基としては電気的中性を保ったものである。
本発明で用いることのできる双性イオン性基を側鎖に有する重合体に含まれる双性イオン性基としては、公知のものを何等制限無く使用できる。具体例を示すと、プラスの電荷を帯びた原子団としては、低級アルキルアンモニウム基、低級アルキルホスホニウム基等のオニウムカチオンが挙げられ、マイナスの電荷を帯びた原子団としては、リン酸基やスルホン酸基、カルボキシル基等の酸アニオンが挙げられる。
このような双性イオン性基を側鎖に有する重合体の双性イオン性基としては、下記一般式(1)で示されるものが好ましい。
(式中、n、mは1から4までの整数、R2からR4はそれぞれ独立して炭素数1から4までのアルキル基である。Aは窒素原子を表す。)
(式中、R5は炭素数1から4までのアルキル基である。)
特にコラーゲンのペプチド結合との相互作用のしやすさから、下記一般式(4)で示されるものがより好ましい。
(Aは窒素原子を表す。)
上記双性イオン基のうち、一般式(4)で示されるものがより好ましく、この場合、オニウムカチオンとして低級アルキルアンモニウム基である場合が化学的安定性の点でより好ましい。
本発明の双性イオン性基を側鎖に有する重合体の主鎖は、公知の主鎖であれば特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。中でも、(A)重合性単量体成分として(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用する場合には、本発明の接着性組成物中に均一に溶解分散しやすく良好な接着性が得られやすいので、主鎖がポリ( メタ) アクリレートである下記一般式(7)に示される双性イオン性基を側鎖に有する重合体が好適に用いられる。
なお該重合体は、重合性単量体成分と相溶させる観点から、直鎖構造であることが好ましい。
(上記式中R1は水素またはメチル基を示す。n、mは1から4までの整数、R2からR4はそれぞれ独立して炭素数1から4までのアルキル基である。Aは窒素原子を表す。)
双性イオン性基を有する重合体は、双性イオン性基を有する重合性単量体のみ、または双性イオン性基を有する重合性単量体と任意の双性イオン性基を含まない重合性単量体を原料として用い、公知の重合体の製造方法に従って得られる。
ここで、双性イオン性基を有する重合性単量体と任意の双性イオン性基を含まない重合性単量体は共に重合性不飽和基を含み、重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。重合のしやすさから、双性イオン性基を有する重合性単量体と任意の双性イオン性基を含まない重合性単量体に含まれる重合性不飽和基は同一のものが好ましい。
双性イオン性基を有する重合性単量体は公知の双性イオン性基を有する単量体を用いることができ、双性イオン性基を有する重合性単量体としては双性イオン性基の異なる2種以上のものを用いても良い。双性イオン性基を有する重合性単量体の重合性不飽和基がアクリロイル基またはメタクリロイル基である場合の双性イオン性基を有する重合性単量体を具体的に例示すると、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2−(トリメチルホスホニオ)エチルホスフェート、{(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルアンモニオエチル}−メチルホスフェート、(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルアンモニオエチルスルファート、(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルアンモニオエチルカルボン酸、{(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルホスホニオエチル}−メチルホスフェート、(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルホスホニオエチルスルファート、(メタクリロイルオキシ)エチル−ジメチルホスホニオエチルカルボン酸等が挙げられる。
双性イオン性基を有する重合性単量体と共重合させる任意の重合性単量体は、双性イオン性基を有する重合性単量体と共重合性を示すものであれば公知の双性イオン性基を含まない重合性単量体を用いることができ、中でも本発明の効果を十分に発揮させるために、イオン性基を持たない重合性単量体が好ましい。
双性イオン性基を有する重合性単量体の重合性不飽和基がアクリロイル基またはメタクリロイル基である場合の共重合に好適な双性イオン性基を含まない重合性単量体を具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、メトキシエチル( メタ) アクリレート、エトキシエチル( メタ) アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルキルエーテル(メタ)アクリレート類、アセチルオキシエチル(メタ)アクリレート、プロピオンオキシエチル(メタ)アクリレート、ブタノンオキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また本発明の双性イオン性基を側鎖に有する重合体の分子量も特に限定されるものではないが、耐久性及び溶液とした際の取り扱いやすさの点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)で測定したポリスチレン換算分子量で、数平均分子量で1×103〜1×106の範囲にある重合体が好適である。分子量が大きいほど耐久性に優れる傾向があるが、あまりに分子量が大きいと、接着性組成物の粘度が高くなりすぎて、操作性に劣ったり、極端な場合には重合性単量体成分と相溶しなくなったりする。また、分子量が小さいと、接着性組成物の硬化体強度が低下する。
本発明の双性イオン性基を側鎖に有する重合体の双性イオン性基の数は特に制限されるものではないが、本発明の効果を十分に発揮させる点で、双性イオン性基を有する単量体成分が少なくとも10mol%以上、好適には50mol%以上含有することが好ましい。
双性イオン性基を側鎖に有する重合体の配合量は、特に制限されるものではないが、歯質に対して、高い接着強度を発揮させ、かつエアブローによる溶媒除去直後に歯面に対して均一な厚みで接着材層を形成させることができる点で、重合性単量体成分100質量部あたり、0.01〜50質量部が好ましく、さらに接着耐久性の観点から、0.02〜20質量部がより好ましい。配合量が多すぎると重合性単量体の重合が不十分となり、硬化体の強度が低下する。
本発明の歯科用接着性組成物はさらに、(C)水を含有してなることを特徴としている。水を含有させることで、歯科用接着性組成物の歯質に対する親和性が向上する。この理由は次のように推測している。すなわち、歯質の象牙質成分であるコラーゲンに含まれるペプチド鎖は局所的に正と負に帯電して交互に織り成す構造を有しており、ここに双性イオン基が相互作用することにより強固な結合が生まれ、さらに水が介在することで、双性イオンの局部的な解離が起こり、上記双性イオン性基がペプチド鎖と相互作用することでより結合が強固となると考えられる。こうした水は、本発明の接着性組成物を歯面に塗付した際に、該接着性組成物を硬化させる前にエアブローにより除去られるのが一般的であり、そのため重合性単量体成分100質量部あたりの水の配合量は0.01〜50質量部が好ましく、双性イオン性基が十分にイオン解離するために0.1〜25質量部がより好ましい。
また、(D)水溶性有機溶媒又は両親媒性の重合性単量体を使用すると、水の分離を防ぎ、均一な組成となるため接着強度の点で好ましい。両親媒性の重合性単量体には2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が用いられ、両親媒性の単量体の好ましい配合量は、吸水性の観点から重合性単量体成分100質量部に対して55質量部以下、好適には50質量部以下が好ましい。
また、水溶性有機溶媒は、水溶性を示し、室温で揮発性を有するものを使用することができる。ここで言う水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。また、揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましく、双性イオン性基を側鎖に有する重合体との相溶性の点からイソプロピルアルコール、アセトンが特に好ましい。
なお、これらの水溶性有機溶媒も、前記水と同様に、本発明の接着性組成物を歯面に塗布した際に、該接着性組成物を硬化させる前にエアブローすることにより除去させて使用される。
これらの水溶性有機溶媒の配合量は、通常、重合性単量体成分100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜200質量部である。
本発明の歯科用接着性組成物は歯科用途において、歯質の接着用に有用に使用される。特に、コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物を歯質に接着させる際に使用される歯科用接着材や歯科用接着性コンポジットレジンとして有用であり、これらの場合には(E)重合開始剤が有効量配合される。重合開始剤は、化学重合型と光重合型に分類され、目的に応じて適宜選定すればよい。また、光重合開始剤と化学重合開始剤を併用し、光重合と化学重合のどちらによっても重合を開始させることの出来るデュアルキュアタイプとすることも可能である。
コンポジットレジンを歯質に接着させる歯科用接着材や歯科用接着性コンポジットレジンには光重合開始剤が好適に用いられる。代表的な光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い重合活性を得られて好ましい。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤としては、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3'−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
一方補綴物等の歯科用修復物を歯質に接着させる歯科用接着材(以下、歯科用レジンセメントとも言う。)には化学重合開始剤が好適に用いられる。代表的な化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ、有機過酸化物類、アミン類及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせ、バルビツール酸、アルキルボラン等の化学重合開始剤等が挙げられる。
該化学重合開始剤に使用される各化合物として好適なものを以下に例示すると、有機過酸化物類としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を配合して使用することができる。
アミン類としては、第二級又は第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,Nジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
アリールボレート類としては、1分子中に少なくても1つのホウ素―アリール結合を有していれば、公知のものを使用することができるが、保存安定性が高いことや取り扱いの容易さ、入手のし易さから、1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートが最も好ましい。1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートの具体例としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p―クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3―ヘキサフルオロ―2―メトキシ―2―プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p―オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。
上記化学重合開始剤の中でも、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせに、+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物を併用した化学重合開始剤は、重合活性が高いことから、特に好適に使用できる。さらに、上記の有機過酸化物を併用することにより、重合活性をさらに高めることができるため、最も好ましい。
上記バナジウム化合物の具体例としては、四酸化二バナジウム(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1―フェニル―1,3―ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等を挙げることができる。
本発明の(E)重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は、重合性単量体を100質量部としたときに、0.01〜10質量部の範囲であるのが好ましい。0.01質量部未満では接着材の硬化性が低下する傾向にあり、逆に10質量部を超えると、接着材の硬化体強度が低下する傾向にある。重合開始剤の上記配合量は、0.1〜8質量部の範囲であるのがより好ましい。
本発明の歯科用組成物には、必要に応じてフィラーを含有させてもよい。ここでフィラーとは、特に制限なく従来公知のシリカ系無機フィラー、有機フィラー、無機有機複合フィラーが何等制限なく利用できる。
ここで、シリカ系無機フィラーとは、シリカ、或いはシリカと結合可能な周期表第2〜14族の金属酸化物及びシリカを主成分とする複合酸化物粒子のことをいう。複合酸化物粒子の場合、シリカ成分は、少なくとも10mol%以上、好適には50mol%以上含有するのが良好である。
シリカ系無機フィラーを具体的に例示すると、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。上記シリカは、湿式シリカであっても良いが、ヒュームドシリカと呼ばれる乾式シリカが好ましい。また、フルオロアルミノシリケートガラス等の多価金属イオン溶出性フィラーも好適に使用することができる。中でもX線造影性を有するシリカ−ジルコニア、バリウムガラス等が好適に利用できる。
これらシリカ系無機フィラーの粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。シリカ系無機フィラーの製造法は何ら制限されず、溶射法、ゾルゲル法、火炎溶融法等が利用できる。本発明の歯科用接着性組成物を歯科用接着材に適用する場合には、火炎溶融法によるフィラーが好ましい。また本発明の歯科用接着性組成物を歯科用接着性コンポジットレジンに適用する場合には、ゾルゲル法によるフィラーが好ましく、球状フィラーがより好ましい。
このようなシリカ系無機フィラーは、シランカップリング処理されたものが好適に利用できる。シランカップリング剤の具体例を示すと、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、11−メタクリルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11−メタクリルオキシウンデシルメチルジメトキシシラン等である。
有機フィラーとしては、ポリアルキルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリアルキルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子が挙げられ、特にポリアルキルメタクリレートが好適に用いられる。
また、有機−無機複合フィラーとしては、これら無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合フィラーが挙げられる。
歯科用接着材に用いる場合のこれらフィラーの配合量は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して2〜100質量部の範囲、より好ましくは5〜50質量部である。2質量部未満では強度向上効果が十分に得られず、30質量部を超えると粘度が上昇し、歯質への浸透性が阻害され歯質接着強度の向上効果が十分に得られなくなる。
また、本発明の接着性組成物が歯科用レジンセメントや歯科用接着性コンポジットレジンとして用いられる場合のフィラーの配合量は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して100〜2000質量部の範囲である。ここで歯科用接着性コンポジットレジンとは、上記歯質へ接着させるための重合性単量体組成物をコンポジットレジンに含有させて、ボンディング材を使用しなくても、歯牙と直に接着するコンポジットレジンであり、その場合フィラーの配合量が100重量部未満ではコンポジットレジンとして十分な強度が得られない。
さらに、本発明の歯科用組成物には、用途に関わらずに必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、有機増粘材、重合禁止剤、重合調整剤、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を添加することが可能である。
歯科用接着性組成物の用途別に、好ましい組成を示せば、歯科用接着材の場合、(A)重合性単量体成分、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分、(C)水、(D)水溶性有機溶媒成分、(E)重合開始剤成分、及びフィラー成分を含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分0.01〜50質量部であり、(C)水0.01〜50質量部であり、(D)水溶性有機溶媒成分2〜400質量部であり、(E)重合開始剤成分0.01〜10質量部であり、フィラー成分2〜100質量部であるのが好適である。
また、歯科用接着性組成物の用途が一液型(セルフエッチング型)歯科用接着材の場合、好ましい組成は、(A)重合性単量体成分、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分、(C)水、(D)水溶性有機溶媒成分、(E)重合開始剤成分、及びフィラー成分を含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A1)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含んでなる(A)重合性単量体成分100質量部に対して、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分0.01〜50質量部であり、(C)水0.01〜50質量部であり、(D)水溶性有機溶媒成分2〜400質量部であり、(E)重合開始剤成分0.01〜10質量部であり、フィラー成分2〜100質量部であるのが好適である。
さらに、歯科用接着性組成物の用途が歯科用前処理材の場合、好ましい組成は、(A)重合性単量体成分、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分、(C)水及び(D)水溶性有機溶媒成分を含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A1)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含んでなる(A)重合性単量体成分100質量部に対して、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分0.01〜50質量部であり、(C)水0.01〜50質量部であり、(D)水溶性有機溶媒成分2〜400質量部であるのが好適である。
歯科用接着性組成物の用途が歯科用接着性コンポジットレジンの場合、(A)重合性単量体成分、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分、(C)水、(E)重合開始剤成分、及びフィラー成分を含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A1)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含んでなる(A)重合性単量体成分100質量部に対して、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分0.01〜50質量部であり、(C)水0.01〜10質量部であり、(E)重合開始剤成分0.01〜10質量部であり、フィラー成分100〜2000質量部であるのが好適である。
歯科用接着性組成物の用途が歯科用レジンセメントの場合、(A)重合性単量体成分、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分、(C)水、(E)重合開始剤成分、及びフィラー成分を含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A1)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含んでなる(A)重合性単量体成分100質量部に対して、(B)双性イオン性基を側鎖に有する重合体成分0.01〜50質量部であり、(C)水0.01〜10質量部であり、(E)重合開始剤成分0.01〜10質量部であり、フィラー成分100〜2000質量部であるのが好適である。
なお、歯科用レジンセメントの場合、上記(E)重合開始剤としては、通常、化学重合型と光重合型が併用される。化学重合開始剤は、通常2つ以上の成分からなり、使用時にこれらが混合されることにより重合開始能が発揮されるため、保存性を考慮した場合その包装形態は2包装以上に分けたものになる。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
(1)製造例1 メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体の合成
ガラス製重合管に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPC)30g、ヘキシルメルカプタン0.95g(8.0mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16g(1.0 mmol)およびベンゼン50mlを入れ、凍結−脱気を繰り返した後で窒素雰囲気に置換した。60℃で加熱を行い、加熱開始後3 時間経過した時点から内容物の一部のサンプリングを行い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:東ソー製HLC−8020)を用いて重合体の分子量を追跡した。生成した重合体の数平均分子量が2.0×104となった時点で、加熱をやめて反応を停止させた。なおGPCの測定に用いた溶媒はテトラヒドロフランであり、数平均分子量はポリスチレン換算の値である。
溶液重合の結果得られた重合体溶液をヘキサン− ジエチルエーテル(3:2)混合液に投入して沈殿、乾燥することによりメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体(PMPC)を得た。このものを再度GPCにて分析した結果、数平均分子量2.1×104、分子量分布2.0であった。
(2)製造例2 MPCとメタクリル酸メチルとの共重合体の合成
ガラス製重合管にMPC12g、メタクリル酸メチル(以下、MMA)18g、ヘキシルメルカプタン0.95g、AIBN0.16gおよびベンゼン50mlを入れ、製造例1に準じて重合を行った。
得られた共重合体(PMPC−PMMA)の1H−NMRの結果から、該共重合体中のMPCの割合は25mol%であり、GPCにて分析した結果、数平均分子量2.3×104、分子量分布2.0であった。
(3)製造例3 MPCとメタクリル酸ブチルとの共重合体の合成
ガラス製重合管にMPC12g、メタクリル酸ブチル(以下、BMA)18g、ヘキシルメルカプタン0.95g、AIBN0.16gおよびベンゼン50mlを入れ、製造例1に準じて重合を行った。
得られた共重合体(PMPC−PBMA)の1H−NMRの結果から、該共重合体中のMPCの割合は29mol%であり、GPCにて分析した結果、数平均分子量1.9×104、分子量分布2.0であった。
尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
[重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[酸性基を有する重合性単量体]
PM1:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート
PM2:ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート
SPM:PM1とPM2の2:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ1,1−ウンデカンジカルボン酸
[揮発性の水溶性有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
BMOV:ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
PhBTEOA:テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
[フィラー]
FS1:火炎溶融法によるシリカ粒子。平均1次粒径18nm、メチルトリクロロシラン処理物。
MSa:ゾルゲル法によるシリカ−チタニア球状粒子、平均1次粒径0.07μm。γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
MSb:ゾルゲル法によるシリカ−ジルコニア球状粒子、平均1次粒径0.4μm。γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
MS1:MSaとMSbの1:1の混合物
[双性イオン性基を持たない重合体]
PMMA:ポリメタクリル酸メチル(重量平均分子量500,000)
PBMA:ポリメタクリル酸ブチル(重量平均分子量160,000)
また、以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
(1)接着試験
(a)接着試験片の作成方法I(歯科用接着性組成物が歯科用接着材の場合に適用)
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に2ステップ型コンポジットレジン用エッチングプライマー(トクソーマックボンドIIのエッチングプライマー材、トクヤマデンタル社製)を塗布し、その上に本発明の歯科用接着材を塗布して10秒放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片Iを作製した。
(b)接着試験片の作成方法II(歯科用接着性組成物が一液型(セルフエッチング型)歯科用接着材の場合に適用)
上記(a)接着試験片の作成方法Iと同様の方法により形成した模擬窩洞内に本発明の一液型歯科用接着材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片IIを作製した。
(c)接着試験片の作成方法III(歯科用接着性組成物が歯科用前処理材の場合に適用)
上記(a)接着試験片の作成方法Iと同様の方法により形成した模擬窩洞内に本発明の歯科用前処理材を塗布し、10秒放置後圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、その上に2ステップ型コンポジットレジン用接着材(トクソーマックボンドIIのボンディング材、トクヤマデンタル社製)を塗布し、必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片IIIを作製した。
(d)接着試験片の作成方法IV(歯科用接着性組成物が歯科用接着性コンポジットレジンの場合に適用)
上記(a)接着試験片の作成方法Iと同様の方法により形成した模擬窩洞内に本発明の歯科用接着性コンポジットレジンを充填した。必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射して、接着試験片IVを作製した。
(e)接着試験方法
上記の方法で作製した試験片を熱衝撃試験器に入れ、4℃の水槽に1分間浸漬後、60℃の水槽に移し1分間浸漬し、再び4℃の水槽に戻す操作を、6000回繰り返した。
その後、上記試験片にステンレス製アタッチメントを接着し、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を保存試験後の接着強度として測定し、保存安定性を評価した。
(2)被膜厚み
上記の方法で作製した試験片をダイヤモンドカッターを用いて被着面に垂直に切断して接着部位の断面を露出させた。往水下、#3000のエメリーペーパーで接着断面を研磨し、レーザー顕微鏡(キーエンス社製)で接着層の被膜厚みを測定した。
(実施例1)
0.1gのPMPC、重合性単量体として46gのBisGMA、34gの3G及び20gのHEMAと、揮発性有機溶媒として70gのIPA、重合開始剤として1.0gのCQ、1.5gのDMBE、フィラーとして10gのFS1を用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、5gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の接着性組成物からなる、歯科用接着材を得た。得られた歯科用接着材について、被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
(比較例1、2)
双性イオン性基を側鎖に有する重合体を用いないこと以外は実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なる歯科用接着材を調整した。得られた歯科用接着材について、被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
実施例1は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された接着材を用いたものであるが、十分に厚い被膜厚さであり、象牙質対して高い接着強度を示した。これに対して、比較例1,2はそれぞれ、双性イオン性基を側鎖に有する重合体を含まない場合、および双性イオン性基を持たない重合体を配合した場合であり、いずれの場合においても被膜厚さは薄く、接着強度は低い値を示した。
(実施例2)
0.1gのPMPC、重合性単量体として30gのSPM、36gのBisGMA、24gの3G及び10gのHEMAと、揮発性有機溶媒として、70gのIPA、重合開始剤として1.0gのCQ、1.5gのDMBE、フィラーとして10gのFS1を用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、19gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の接着性組成物からなる、一液型歯科用接着材を得た。得られた一液型歯科用接着材について、被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。一液型歯科用接着材の組成を表3に、評価結果を表4に示した。
(実施例3〜14)
実施例2の方法に準じ、表3に示した組成の異なる一液型歯科用接着材を調整した。得られた各一液型歯科用接着材について、各々を用いて被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。一液型歯科用接着材の組成を表3に、評価結果を表4に示した。
(比較例3〜6)
双性イオン性基を側鎖に有する重合体を用いないこと以外は実施例2の方法に準じ、表3に示した組成の異なる一液型歯科用接着材を調整した。得られた各一液型歯科用接着材について、被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。一液型歯科用接着材の組成を表3に、評価結果を表4に示した。
実施例2〜14は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された一液型歯科用接着材を用いたものであるが、いずれの場合においても十分に厚い被膜厚さであり、象牙質対して高い接着強度を示した。これに対して、比較例3〜6は双性イオン性基を側鎖に有する重合体を含まない場合、および双性イオン性基を持たない重合体を配合した場合、水を含まない場合であり、いずれの場合においても被膜厚さは薄く、接着強度は低い値を示した。
(実施例15)
0.1gのPMPC、重合性単量体として30gのSPM、36gのBisGMA、24gの3G及び10gのHEMAと、揮発性有機溶媒として、70gのIPAを用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、19gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の接着性組成物からなる歯科用前処理材を得た。得られた歯科用前処理材について、それぞれ被膜厚さ、象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用前処理材の組成を表5に、評価結果を表6に示した。
(実施例16〜24)
実施例15の方法に準じ、表5に示した組成の異なる接着材を調整した。得られた歯科用前処理材について、各々を用いて被膜厚さ、および象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用前処理材の組成を表5に、評価結果を表6に示した。
(比較例7、8)
双性イオン性基を側鎖に有する重合体を用いないこと以外は実施例15の方法に準じ、表5に示した組成の異なる歯科用前処理材を調整した。得られた各歯科用前処理材について、それぞれ被膜厚さ、象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用前処理材の組成を表5に、評価結果を表6に示した。
実施例15〜24は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯科用前処理材を用いたものであるが、いずれの場合においても厚い被膜厚さであり、高い接着強度を示した。これに対して、比較例7,8は双性イオン性基を側鎖に有する重合体を含まない場合、および双性イオン性基を持たない重合体を配合した場合であり、いずれの場合においても被膜厚さは薄く、接着強度は低い値を示した。
(実施例25)
0.1gのPMPC、重合性単量体として30gのSPM、44gのBisGMAと26gの3G、重合開始剤として1.0gのCQ、1.5gのDMBE、フィラーとして150gのMS1を用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、5gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の接着性組成物からなる歯科用接着性コンポジットレジンを得た。得られた歯科用接着性コンポジットレジンについて、象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用接着性コンポジットレジンの組成を表7に、評価結果を表8に示した。
(実施例26〜30)
実施例25の方法に準じ、表7に示した組成の異なる歯科用接着性コンポジットレジンを調整した。得られた歯科用接着性コンポジットレジンについて、各々を用いて象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用接着性コンポジットレジンの組成を表7に、評価結果を表8に示した。
(比較例9、10)
双性イオン性基を側鎖に有する重合体を用いないこと以外は実施例25の方法に準じ、表7に示した組成の異なる歯科用接着性コンポジットレジンを調整した。得られた歯科用接着性コンポジットレジンについて、象牙質に対する接着強度を測定した。歯科用接着性コンポジットレジンの組成を表7に、評価結果を表8に示した。
実施例25〜30は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯科用接着性コンポジットレジンを用いたものであるが、いずれの場合においても高い接着強度を示した。
これに対して、比較例9、10は双性イオン性基を側鎖に有する重合体を含まない場合、および双性イオン性基を持たない重合体を配合した場合であり、いずれの場合においても接着強度は低い値を示した。