以下、本発明を具体化したデュアルクラッチ式自動変速機の第1の実施形態について、図1〜図8を参照し説明する。図1は、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。図1に示す車両はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、原動機の一例でありガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン4、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1、差動装置14(ディファレンシャル)、駆動軸15a、15b、駆動輪16a、16b(前輪)および図示しない従動輪(後輪)を備えている。なお、図1は車両の上面図であり、図1の上方が車両の前方に相当する。
図2に示すようにデュアルクラッチ式自動変速機1は、複数のギヤ段が形成され収納されるミッションケース11、およびデュアルクラッチ40(本発明のデュアルクラッチに該当する)を収納するクラッチハウジング12を有している。ミッションケース11およびクラッチハウジング12によってケース10を形成している。
また、デュアルクラッチ式自動変速機1は、ミッションケース11に収容される複数のギヤ段の切替え(変速シフト)、およびデュアルクラッチ40(本発明のデュアルクラッチに該当する)が有する第1クラッチディスク41(本発明の第1クラッチを構成する)および第2クラッチディスク42(本発明の第2クラッチを構成する)の切替えを制御する本発明に係る変速制御装置を有している。変速制御装置はECU2(Engine Control Unit)とTCU3(Transmission Control Unit)とによって構成されている。
図1に示すように、ECU2にはエンジン4の駆動軸4b近傍に設けられたエンジン4の出力軸回転数センサ4a、エンジン4が有するスロットルボデーのスロットルバルブを開閉させるモータ、スロットルボデーのスロットルバルブ開度を検出するスロットル開度センサ、燃料噴射をおこなうインジェクタ(いずれも図略)、およびアクセルペダルPに設けられたアクセル開度センサ27等が接続されている。これによって各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。例えば、取得したTCU3からのデータを含んだ以上の情報に基づきモータを駆動させスロットルボデーのスロットル開度を制御する、或いは、インジェクタの燃料噴射量を制御する等してエンジン4の駆動軸4bの回転数であるエンジン回転数Neを制御する。
図1に示すように、TCU3には、デュアルクラッチ40の切替え制御を行なう後述する第1、第2クラッチアクチュエータ17、18が有する各直流電動モータ19a、19b、各直流電動モータ19a、19bが出力するストロークを検出するストロークセンサ17a、18a、車速センサ23a、23b、第1および第2入力軸回転数センサ24a、24bが接続されている。またTCU3には、後述する第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ作動させるフォーク駆動機構130の各モータ131、およびストロークを検出するシフトストロークセンサ136〜139が接続されている(図3参照)。これによってTCU3は各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。TCU3はECU2と接続されCAN通信によってECU2と相互に情報を交換しながらデュアルクラッチ式自動変速機1の変速制御を適切に行なう。
図2に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機1は、前進7速のデュアルクラッチ式自動変速機であり、ケース10内の軸線方向に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32を備えている。またケース10内には、デュアルクラッチ40、各ギヤ段の駆動ギヤ51〜57、最終減速駆動ギヤ58、68、各ギヤ段の従動ギヤ61〜67、後進ギヤ70、およびリングギヤ80を備えている。以降、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32と同一軸方向を入力軸方向と称す。
第1入力軸21は、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。第1入力軸21の外周面には、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第1入力軸21には、複数の奇数段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51および3速駆動ギヤ53が直接形成されている。また複数の奇数段駆動ギヤである5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57は、第1入力軸21の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入され固定されている。また、第1入力軸21の端部の外周面には、第1クラッチディスク41の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第1クラッチディスク41の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第1入力軸21上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
第2入力軸22は、中空軸状に形成されており、第1入力軸21の1部の外周に複数の軸受を介して回転可能に支承され、且つ、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同心に相対回転可能に配置されている。また、第2入力軸22の外周面には、第1入力軸21と同様に、軸受けを支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第2入力軸22には、複数の偶数段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4速駆動ギヤ54および6速駆動ギヤ56が形成されている。また、第2入力軸22の端部の外周面には、第2クラッチディスク42の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第2クラッチディスク42の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第2入力軸22上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
第1副軸31は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第1副軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。さらに、第1副軸31には、1速従動ギヤ61、および3速従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、および後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
第1副軸31の外歯スプラインには、後述する第1シフトクラッチ101(本発明の第1シフト機構に該当する)、および第3シフトクラッチ103(本発明の第2シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ58は、図1に示す差動装置14(ディファレンシャル)のリングギヤ80に噛合している。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される1速従動ギヤ61は第1入力軸21に形成された1速駆動ギヤ51と噛合し、1速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって1速従動ギヤ61が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が1速従動ギヤ61側に移動して1速従動ギヤ61と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより1速従動ギヤ61と第1副軸31とが一体的に回転する状態となる(この状態を1速ギヤ段が成立した状態という。なお、以降2速〜7速および後進の変速段においても同様である)。このとき、第1シフトクラッチ101の作動の状態は第1シフトクラッチ101用のシフトストロークセンサ136によって監視され第1シフトクラッチ101が現状どのような状態であるかTCU3によって把握されている。以降、第2シフトクラッチ102〜第4シフトクラッチ104も同様である。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される3速従動ギヤ63は、第1入力軸21に形成された3速駆動ギヤ53と噛合し、3速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって3速従動ギヤ63が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が3速従動ギヤ63側に移動して3速従動ギヤ63と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより3速従動ギヤ63と第1副軸31とが一体的に回転する状態(3速ギヤ段成立状態)となる。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される4速従動ギヤ64は、第2入力軸22に形成された4速駆動ギヤ54と噛合し、4速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって4速従動ギヤ64が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が4速従動ギヤ64側に移動して4速従動ギヤ64と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより4速従動ギヤ64と第1副軸31とが一体的に回転する状態(4速ギヤ段成立状態)となる。
さらに、TCU3によって第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される後進ギヤ70が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が後進ギヤ70側に移動して後進ギヤ70と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより後進ギヤ70と第1副軸31とが一体的に回転する状態(後進ギヤ段成立状態)となる。なお、後進ギヤ70は、第2副軸32に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62と一体的に形成された小径ギヤ62aに常に噛合している。
第2副軸32は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に軸承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第2副軸32の外周面には、第1副軸31と同様に、最終減速駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第2副軸32の外歯スプラインには、第2シフトクラッチ102(本発明の第2シフト機構に該当する)、および第4シフトクラッチ104(本発明の第1シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ68は、差動装置14のリングギヤ80に噛合している。リングギヤ80は、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ68に噛合されることで、第1副軸31および第2副軸32に常時回転連結される。このリングギヤ80は、ケース10に軸支される出力軸(図略)および差動装置14を介して駆動軸15a、15bおよび駆動輪16a、16bに回転連結されている。さらに、第2副軸32には、上記の2速従動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、および7速従動ギヤ67、を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62は第2入力軸22に形成された2速駆動ギヤ52と噛合し、2速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって2速従動ギヤ62が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が2速従動ギヤ62側に移動して2速従動ギヤ62と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより2速従動ギヤ62と第2副軸32とが一体的に回転する状態(2速ギヤ段成立状態)となる。
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される5速従動ギヤ65は、第1入力軸21に形成された5速駆動ギヤ55と噛合し、5速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって5速従動ギヤ65が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が5速従動ギヤ65側に移動して5速従動ギヤ65と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより5速従動ギヤ65と第2副軸32とが一体的に回転する状態(5速ギヤ段成立状態)となる。
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される6速従動ギヤ66は、第2入力軸22に形成された6速駆動ギヤ56と噛合し、6速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって6速従動ギヤ66が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が6速従動ギヤ66側に移動して6速従動ギヤ66と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより6速従動ギヤ66と第2副軸32とが一体的に回転する状態(6速ギヤ段成立状態)となる。
さらに、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される7速従動ギヤ67は、第1入力軸21に形成される7速駆動ギヤ57と噛合し、7速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって7速従動ギヤ67が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が7速従動ギヤ67側に移動して7速従動ギヤ67と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより7速従動ギヤ67と第2副軸32とが一体的に回転する状態(7速ギヤ段成立状態)となる。
次にデュアルクラッチ40について図1、図2に基づいて説明する。なお、図1、図2のデュアルクラッチ40を比較すると構成が異なる様に見えるが、図2のデュアルクラッチ40は図1のデュアルクラッチ40に対してより簡易的に描いたものであって、図1、図2のデュアルクラッチ40は同じものである。
デュアルクラッチ40は、第1入力軸21および第2入力軸22に対して同心に設けられている。デュアルクラッチ40は、図2の右側においてクラッチハウジング12に収容され、図1、図2に示すように、第1、第2クラッチディスク41、42、センタプレート43、第1、第2プレッシャプレート44、45、および第1、第2ダイアフラムスプリング46、47(図1参照)を有している。このとき第1クラッチディスク41、センタプレート43、第1プレッシャプレート44および第1ダイアフラムスプリング46によって本発明の第1クラッチを構成している。また第2クラッチディスク42、センタプレート43、および第2プレッシャプレート45および第2ダイアフラムスプリング47によって本発明の第2クラッチを構成している。
第1クラッチディスク41はエンジン4の回転駆動トルクTer(本発明の回転駆動力に該当する)を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク42はエンジン4の回転駆動トルクTerを2入力軸22に伝達する。第1クラッチディスク41は、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク42は、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
センタプレート43は図1、図2に示すように、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42との間にその面が第1、第2クラッチディスク41、42の面と平行に対向して配置されている。センタプレート43は第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられエンジン4の駆動軸4bに連結されて一体回転する。
第1および第2プレッシャプレート44、45は図1、図2に示すように、センタプレート43との間でそれぞれ第1、および第2クラッチディスク41、42を挟持し第1、および第2クラッチディスク41、42と圧着可能に配置されている。
図1に示す第1、第2ダイアフラムスプリング46、47は、円板状に形成されている。第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43を中心として、入力軸方向に第1プレッシャプレート44と反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング46の外径部と第1プレッシャプレート44とは円筒状の連結部44aによって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部に支持されている。このような状態において第1ダイアフラムスプリング46の外径部がエンジン4方向に付勢するばね力によって連結部44aをエンジン4側に付勢すると第1プレッシャプレート44が第1クラッチディスク41から離間する。
また第1ダイアフラムスプリング46の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると第1ダイアフラムスプリング46の外径部のエンジン4方向へのばね力は減衰する。そして、それとともにセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング46の外径部はエンジン4とは反対方向に移動する。これらによって第1プレッシャプレート44は第1クラッチディスク41方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第1クラッチディスク41を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第1入力軸21に伝達される。なお、上記において第1ダイアフラムスプリング46の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L1によって制御するが詳細については後述する。
また第2ダイアフラムスプリング47は第2プレッシャプレート45の変速機側で、且つセンタプレート43の腕部43aのエンジン4側に配置され第2プレッシャプレート45と対向している。第2ダイアフラムスプリング47の外径部は、外径部のばね力がセンタプレート43から延在している腕部43aを変速機側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時において第2プレッシャプレート45は第2クラッチディスク42に圧着されないようになっている。そして第2ダイアフラムスプリング47の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると腕部43aに接触する第2ダイアフラムスプリング47の外径部を支点として押圧部近傍がエンジン4方向へ移動する。これによって第2プレッシャプレート45がダイアフラムスプリング47に押され第2クラッチディスク42方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第2クラッチディスク42を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第2入力軸22に伝達される。なお、第1ダイアフラムスプリング46と同様に第2ダイアフラムスプリング47の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L2によって制御する。
上述した第1ダイアフラムスプリング46、および第2ダイアフラムスプリング47の内径部の押圧は、図1に示す第1、および第2クラッチアクチェータ17、18(本発明のクラッチアクチェータに該当する)によって制御する。第1、および第2クラッチアクチェータ17、18は、それぞれ直流電動モータ19a、19bと、直流電動モータ19a、19bの作動によってボールねじ構造により直線運動するロッド25a、25bと、ロッド25a、25bの直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング46、47の各内径部にリンク機構によって伝達する伝達部26a、26bと、ロッド25a、25bの直線運動のアクチュエータ作動量L1、L2を検出するストロークセンサ17a、18aと、を有している。そして、ストロークセンサ17a、18aにより検出されたロッド25a、25bのアクチュエータ作動量L1、L2に関する情報はTCU3に送信される。
デュアルクラッチ40がこのように構成されるので、TCU3から第1または第2クラッチアクチュエータ17、18に変速指令が送出されると、TCU3は第1または第2クラッチアクチュエータ17、18を所定のアクチュエータ作動量L1、L2だけ変速機側に向かって作動させ、エンジン4から入力軸に伝達されるクラッチトルクTcを制御する。これによりTCU3は第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21、および第2入力軸22のうちのエンジン4から切り離される入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行なう。
また同時にTCU3は、第1クラッチを構成する第1クラッチディスク41および第2クラッチを構成する第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちのエンジン4に接続される入力軸に対応するクラッチのクラッチディスクを、クラッチトルクTcが、エンジン4の出力駆動トルクTe(本発明の出力駆動力に該当する)とエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetに基づいて演算される目標クラッチトルクTcaになるよう制御する(詳細については後述する)。そして、エンジン4の回転数Neが、接続される入力軸の回転数Ni1またはNi2と同期すると接続させる係合制御を行なう。具体的には直流電動モータ19a、または19bを作動させ、ロッド25a、または25bの作動が第1または第2ダイアフラムスプリング46、47の内径部をエンジン4側に向かって押圧するよう制御する。
次に、第1〜第4シフトクラッチ101〜104について図2、図3に基づいて説明する。図2、図3に示す各フォーク72a、72b、72c、72dは、第1〜第4シフトクラッチ101〜104が有するスリーブ202の外周部に係合してスリーブ202を入力軸方向にスライドさせる部材である。各フォーク72a〜72dは、それぞれのフォーク駆動機構130によって駆動される。
フォーク駆動機構130は、第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ駆動するために本実施形態においては4つ設けられている。それぞれのフォーク駆動機構130は、図3に示すように、回転軸にウォームギヤ132が形成されたモータ131、ウォームギヤ132に噛合するウォームホイール133、ウォームホイール133に同心に一体的に形成されたピニオンギヤ134、ピニオンギヤ134に噛合するラック軸135を備えている。このラック軸135には、各フォーク72a〜72dがそれぞれ一体に設けられている。つまり、それぞれのフォーク駆動機構130のモータ131を回転することで、そのモータ131に連結されているフォーク72a〜72dが第1副軸31または第2副軸32の軸方向にスライドする。
また、図3に示すようにフォーク72a〜72dが軸方向にスライドして移動するストローク量を検出するためのシフトストロークセンサ136〜139がピニオンギヤ134の回転軸近傍にそれぞれ設けられている。シフトストロークセンサ136〜139はTCU3に接続されTCU3の演算部にてウォームホイール133の回転数がストローク量に変換される。なお、シフトストロークセンサ136〜139はモータ131の回転軸近傍にそれぞれ設けてもよい。
第1シフトクラッチ101は、第1副軸31の軸方向において1速従動ギヤ61と3速従動ギヤ63との間に配置されている。第2シフトクラッチ102は、第2副軸32の軸方向において2速従動ギヤ62と6速従動ギヤ66との間に配置されている。また第3シフトクラッチ103は、第1副軸31の軸方向において4速従動ギヤ64と後進ギヤ70との間に配置されている。さらに第4シフトクラッチ104は、第2副軸32の軸方向において5速従動ギヤ65と7速従動ギヤ67との間に配置されている。
図2に示すように第1シフトクラッチ101は、クラッチハブ201と、1速係合部材205と、3速係合部材205と、シンクロナイザリング203と、スリーブ202とを有している。クラッチハブ201は第1副軸31にスプライン固定されている。1速係合部材205は1速従動ギヤ61に圧入固定され、3速係合部材205は3速従動ギヤ63に圧入固定されている。シンクロナイザリング203は、クラッチハブ201と左右の各係合部材205、205との間にそれぞれ介在されている。スリーブ202はクラッチハブ201の外周に軸線方向移動自在にスプライン係合されている。そして第1シフトクラッチ101は各従動ギヤ61、63を交互に第1入力軸21に離脱可能に接続する周知のシンクロメッシュ機構である。
第1シフトクラッチ101のスリーブ202は、中立位置では係合部材205、205の何れにも係合されていない。しかしフォーク駆動機構130の作動によってラック軸135が入力軸方向に駆動され、ラック軸135に固定されスリーブ202の外周の環状溝に係合されたフォーク72aによりスリーブ202が1速従動ギヤ61側にシフトされれば、スリーブ202の内歯(図略)は1速従動ギヤ61側のシンクロナイザリング203にスプライン係合する。そしてシンクロナイザリング203を1速従動ギヤ61に押しつけながら第1副軸31と1速従動ギヤ61の回転を同期させる。次にスリーブ202の内歯が1速係合部材205の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸31と1速従動ギヤ61を一体的に連結して1速ギヤ段を成立させる。またフォーク駆動機構130によりフォーク72aがスリーブ202を3速従動ギヤ63側にシフトさせれば、同様にして第1副軸31と3速従動ギヤ63の回転を同期させた後にこの両者を一体的に連結して3速ギヤ段を成立させる。
第2〜第4シフトクラッチ102〜104は、第1シフトクラッチ101と実質的に同一構造で取り付け位置が異なるのみである。第2シフトクラッチ102は2速従動ギヤ62および6速従動ギヤ66を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし2速ギヤ段および6速ギヤ段を成立させる。また第3シフトクラッチ103は4速従動ギヤ64および後進ギヤ70を第1副軸31に選択的に連結して相対回転不能とし4速ギヤ段および後進ギヤ段を成立させる。さらに第4シフトクラッチ104は5速従動ギヤ65および7速従動ギヤ67を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし5速ギヤ段および7速ギヤ段を成立させる。
次にTCU3について説明する。TCU3は前述の通り第1〜第4シフトクラッチ101〜104を作動させるフォーク駆動機構130を制御するシフトクラッチ制御部(図略)を有している。
また、TCU3は、変速指令が送出されると、後述するクラッチ制御部3bによって、第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち係合されている一方を切離制御し、他方を係合制御(接続制御)する。具体的には、2速ギヤ段から3速ギヤ段のように変速比が小さい変速段に向かってシフトするアップ変速の変速指令が送出された場合には、次のような変速制御を行なう。
クラッチ制御部3bは、先ず、2速駆動ギヤ52が固定された第2入力軸22に連結される第2クラッチディスク42を切離する切離制御を行う。また、同時にクラッチ制御部3bは、成立された3速駆動ギヤ53が固定された第1入力軸21に連結される第1クラッチディスク41を接続する係合制御を行う。このとき第1クラッチディスク41を接続する過程において、エンジン回転数Neを、接続される第1入力軸回転数Ni1と同期させる同期制御を行う。そして、クラッチ制御部3bは、エンジン回転数Neが第1入力軸回転数Ni1に同期すると、第1クラッチディスク41を完全に接続する。
ここで、上記のようなアップ変速においては、変速前後における車速が一定であると仮定すると、変速比は小さくなっていることから、第2入力軸回転数Ni2よりも第1入力軸回転数Ni1が低く、エンジン回転数Neは変速前後で低下することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、クラッチ制御部3bは、上記のように、第1クラッチディスク41を接続制御する前に、エンジン回転数Neを第1入力軸回転数Ni1と同期させる同期制御を行い変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
また、例えば3速ギヤ段→2速ギヤ段等のダウン変速においては変速前後における車速が一定であると仮定すると、変速比は大きくなっていることから、第1入力軸回転数Ni1よりも第2入力軸回転数Ni2が高く、エンジン回転数Neは変速前後で上昇することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、クラッチ制御部3bは、第2クラッチディスク42を接続制御する前に、エンジン回転数Neを第2入力軸回転数Ni2に同期させる同期制御を行ない変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
次にTCU3は、図1に示すように、クラッチトルク−作動量記憶部3aと、前述したクラッチ制御部3bと、基準走行抵抗記憶部3cと、走行抵抗演算部3dと、基準クラッチトルク演算部3eと、差演算部3fと、クラッチトルク補正制御部3gとを有している。
クラッチトルク−作動量記憶部3aは、クラッチのクラッチトルクTcを制御する図4に示す事前に取得されたクラッチアクチュエータ17、18のアクチュエータ作動量LとクラッチトルクTcとの対応関係を例えばROMに記憶している。
クラッチ制御部3bは、上述したとおり、TCU3に指示される所要の目標クラッチトルクTcaに対応する第1、第2クラッチアクチュエータ17、18のアクチュエータ作動量L1、L2をクラッチトルク−作動量記憶部3aの表(図4参照)から求める。そしてクラッチアクチュエータ17、18をクラッチアクチュエータ作動量L1、L2だけ作動させてクラッチトルクTcを目標クラッチトルクTcaに制御する。
なお、目標クラッチトルクTcaは下記[数1]により演算する。この目標クラッチトルクTcaは、低速ギヤ段側のクラッチを切離制御した後に、高速ギヤ段側クラッチに対してこのトルクで制御する場合、または、シフトダウンに際して高速ギヤ段側クラッチを切離制御した後に、低速ギヤ段側クラッチに対してこのトルクで制御する場合に、変速ショックを抑制した変速が可能となる基準の伝達トルクである。
[数1]
Tca=Te−Ie・ΔNet
Tca:目標クラッチトルク
Te :現在のエンジン出力駆動トルク
Ie :イナーシャ
ΔNet:目標回転数変速度
そのため、目標クラッチトルクTcaの演算部では、先ず、エンジン2のイナーシャIe(慣性モーメントまたは慣性能率ともいう)にエンジン4の目標回転数変速度ΔNet(本発明の目標回転数変速度に該当する)を乗算して高速ギヤ段側クラッチまたは低速ギヤ段側クラッチの目標慣性トルクIe・ΔNetを算出する。この「目標慣性トルクIe・ΔNet」とは、エンジン4の駆動軸4bのエンジン回転数Neを好適に変化(減速又は加速)させるために第1、第2クラッチ41、42からエンジン4の駆動軸4bに伝達されるべき減速トルク又は加速トルクに相当する。なお、上記においてエンジン回転数Neを減速させるときには目標慣性トルクIe・ΔNetは負の値をとり、加速させるときには正の値をとるものとする。
目標回転数変速度ΔNetは、アップ変速制御またはダウン変速制御において、エンジン回転数Neの変速度の目標値として予め定められている値である。つまり、目標回転数変速度ΔNetは、アップ変速制御またはダウン変速制御においてエンジン回転数Neの変速度が目標回転数変速度ΔNetとなるように制御すれば、変速ショックを抑制しつつ、変速を早期に完了することができる。
そして、エンジン4の現在の出力駆動トルクTe(本発明の原動機の出力駆動力に該当する)から目標慣性トルクIe・ΔNetを減算して目標クラッチトルクTcaを算出する。このエンジン4の「現在の出力駆動トルクTe」は、例えば、エンジン4の駆動軸4bの回転数であるエンジン回転数NeやアクセルPのアクセル開度などの検出値に基づいて算出することができる。
次に基準走行抵抗記憶部3cでは、下記[数2]によって車両の車速Vの2次関数として演算される、車両が平坦路を走行するときに車輪が路面から受ける走行抵抗Rrを基準走行抵抗Rbとして例えばROMに記憶している(図5のグラフ参照)。
[数2]
Rr=aV2+b(=Rb)
Rr:平坦路での走行抵抗
V:車速
a:係数1
b:係数2
走行抵抗演算部3dは、変速指令が送出されるとエンジン4の現在の出力駆動トルクTe、変速段のギヤ比Gi、車両重量Mおよび車両加速度aから現在の現在走行抵抗Rpを演算する(下記[数3]参照)。なお、係数1であるa、および係数2であるbは、実験によって求めればよい。
[数3]
Rp=Te×Gi/(2πRt)−Ma
Rp=現在走行抵抗
Te:現在の出力駆動トルク
Gi:ギヤ比
Rt:タイヤ半径
M:車両重量
a:車両加速度
基準クラッチトルク演算部3eでは、前述したエンジン4の現在の出力駆動トルクTeとエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetとに基づいて演算される目標クラッチトルクTcaを基準クラッチトルクTcbとして演算する。つまり、従来技術のように走行抵抗を考慮しない場合における目標クラッチトルクTcaを演算する。
差演算部3fは、基準走行抵抗記憶部3cに記憶された基準走行抵抗Rbのうち現在の車両の車速Vpに対応する基準走行抵抗Rbpを演算する。そして演算された該基準走行抵抗Rbpと走行抵抗演算部3dによって演算された現在走行抵抗Rpとの差を演算する。つまり、現在の車両の車速Vpによって平坦路を走行したときに得られる式[数2]によって演算される基準走行抵抗Rbpと実際の現在走行抵抗Rpとを比較する。
なお、基準走行抵抗Rbpは、1点ではなく実験等によって設定されるある程度の公差幅をもって設定してもよい。例えば本実施形態においては基準走行抵抗は基準走行抵抗Rbpを中心としてRbp1〜Rbp2(Rbp1<Rbp2)の範囲として設定している。これにより現在走行抵抗Rpの判定範囲をRbp1より小さい場合、基準走行抵抗Rbpを含むRbp1〜Rbp2の範囲内である場合、およびRbp2より大きな場合の3つの場合にわけている。
クラッチトルク補正制御部3gは、差演算部3fによって演算された現在走行抵抗Rpと、現在の車速Vpに応じた基準走行抵抗Rbp(本実施形態においてはRbp1〜Rbp2)との差に応じて、目標クラッチトルクTcaを補正する。即ち、図6に示すように、現在走行抵抗Rpと基準走行抵抗Rbp2との差が正である、即ち現在走行抵抗Rpの方が基準走行抵抗Rbpの公差上限値Rbp2より大きければ、クラッチの係合制御においてクラッチトルク制御部3bが、目標クラッチトルクTcaを基準クラッチトルク演算部3eによって演算された基準クラッチトルクTcbより差に応じて大きくなるよう補正し目標クラッチトルクTceで制御する(図7(b)2点鎖線参照)。このとき、本実施形態においては、補正後の目標クラッチトルクTceでクラッチを制御するために、目標慣性トルクIe・ΔNetを増加させて対応する。なお、実際には、制御が可能な目標回転数変速度ΔNetを大きくすることによって対応する。
さらに図6に示すように、現在走行抵抗Rpと基準走行抵抗Rbp1との差が負である、即ち現在走行抵抗Rpの方が基準走行抵抗Rbpの公差下限値Rbp1より小さければ、クラッチの係合制御においてクラッチトルク制御部3bが、目標クラッチトルクTcaを基準クラッチトルク演算部3eによって演算された基準クラッチトルクTcbより差の絶対値に応じて小さくなるよう補正し目標クラッチトルクTccで制御する(図7(b)参照)。このときも、本実施形態においては、補正後の目標クラッチトルクTccでクラッチを制御するために、目標回転数変速度ΔNetを小さくすることによって対応する。
なお、このときの目標クラッチトルクTceおよび目標クラッチトルクTccの演算方法はどのようなものでも良いが本実施形態においては、例えば現在基準走行抵抗Rbpに対する現在走行抵抗Rpの割合に応じ同様の比例関係でリニアに小さくしたり、大きくしたりしている。ただし、これに限らず基準走行抵抗Rbp1以下またはRbp2以上の範囲では例えば制御するクラッチトルクTcを一定の目標クラッチトルクTcd、またはTcgに制御してもよい(図6内2点鎖線参照)。
また図6(b)に示すように、現在走行抵抗Rpが基準走行抵抗Rbp1〜Rbp2の範囲内にある場合には、制御する目標クラッチトルクTcaを基準クラッチトルクTcbと等しくすればよい。ただし、これに限らず、現在走行抵抗Rpが基準走行抵抗Rbp1〜Rbp2の範囲内であっても、クラッチトルク補正制御部3gによってクラッチの係合制御の適する値を演算し補正してもよい。
次に、走行中の車両における第1の実施形態のデュアルクラッチ式自動変速機1のTCU3(変速制御装置)の変速制御方法、および作用について図7のタイムチャートおよび図8のフローチャートに基づいて説明する。
なお、本実施形態においては、第2クラッチディスク42が係合状態であり入力軸22が回転駆動されているものとする。そして車両は入力軸22で成立している2速ギヤ段によって走行しているものとする。その後、アクセル開度および車速Vが図示しない3速ギヤ段の変速線を通過したことにより3速ギヤ段への変速要求がTCU3から送出されたものとして説明する。
図8のフローチャートに示すように、ステップS10では図7(a)に示す3速ギヤ段への変速要求がTCU3から送出されたか否かが判定される。3速ギヤ段への変速要求が送出されれば、制御が開始されるのでステップS12に移動し、送出されていなければ、変速要求が送出されるまでステップS10の処理を繰り返す。
ステップS12(走行抵抗演算ステップ)では、上述したように式[数3]に基づき走行抵抗演算部3dによって2速ギヤ段で走行中の車両の現在の現在走行抵抗Rpが演算される。現在の走行抵抗Rpは、上述のとおりエンジン4の現在の出力駆動トルクTe、2速ギヤ段のギヤ比Gi、車両重量Mおよび車両加速度aから求めることができる。つまり現在の出力駆動トルクTeによって本来出力されるはずの車両加速度aの大きさと、実際の両加速度aとを比較することにより走行抵抗Rを算出するものである。
ステップS14(基準クラッチトルク演算ステップ)では、基準クラッチトルク演算部3eが、上記式[数1]によって、エンジン4の現在の出力駆動トルクTeとエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetに基づいて3速ギヤ段に変速するときの目標クラッチトルクTcaを演算し基準クラッチトルクTcbとする。
ステップS16(差演算ステップ)では、差演算部3fが、まず基準走行抵抗記憶部3cに記憶され上記式[数2]によって演算される基準走行抵抗Rbから現在の車両の車速Vpに対応する走行抵抗Rを演算し基準走行抵抗Rbpとする。なお、上述したように、このとき、基準走行抵抗Rbpは公差幅を有し、上限値をRbp2とし、下限値をRbp1とする(図6参照)。なお、公差幅はどのように決定してもよい。また公差幅は設けなくともよい。
ステップS18(差演算ステップ)では、差演算部3fが、基準走行抵抗Rbpの公差下限値Rbp1と走行抵抗演算部3dによって演算された現在走行抵抗Rpとの差(現在走行抵抗Rp−基準走行抵抗Rbpの公差下限値Rbp1)を演算する。そして差が負、つまり現在走行抵抗Rpの方が小さければステップS20に進む。また差が正、つまり現在走行抵抗Rpの方が大きければステップS22に進む。
ステップS20(クラッチトルク補正制御ステップ)ではクラッチトルク補正制御部3gが基準クラッチトルク演算部3eで演算された基準クラッチトルクTcbよりも差の絶対値に応じて小さくなるよう目標クラッチトルクTccを演算する。上述したようにこのとき演算方法はどのようなものでもよい。しかし本実施形態においては現在基準走行抵抗Rbpに対する走行抵抗Rpの割合に応じて同様の比例関係でリニアに小さくしている(図6参照)。
そして図7の(b)に示すように、クラッチ制御部3bが第2クラッチアクチュエータ18を作動させて第2クラッチディスク42を切離制御し、エンジン4と第2入力軸22とを切離する。また、目標クラッチトルクTccに対応する第1クラッチアクチュエータ17のアクチュエータ作動量L1をクラッチトルク−作動量記憶部3aから求める。このとき、小さくした目標クラッチトルクTccは上記式[数1]においてエンジン出力駆動トルクTeは変更せずに減速して変速されるエンジン4の目標回転数変速度ΔNetを小さくすることによって達成する。そして第1クラッチディスク41のクラッチトルクTcが目標クラッチトルクTccになるよう制御しエンジン4のエンジン回転数Neと第1入力軸21の入力軸回転数Ni1とを同期させた後に係合させる(図7(b)の第1クラッチトルク41のTcc参照)。これにより変速制御中に第1クラッチトルク41を介して第1入力軸21に伝達される回転駆動トルクTer(回転駆動力)は第1クラッチトルク41が基準クラッチトルクTcbで制御され係合された場合と比べ小さな値となる。このため車輪に伝達される力が抑制され車両の意図せぬ加速が防止される。
ステップS22(差演算ステップ)では、差演算部3fが、基準走行抵抗Rbpの公差上限値Rbp2と走行抵抗演算部3dによって演算された現在走行抵抗Rpとの差(現在走行抵抗Rp−基準走行抵抗Rbpの公差下限値Rbp2)を演算する。そして差が正、つまり現在走行抵抗Rpの方が大きければステップS24に進む。また差が負、つまり現在走行抵抗Rpの方が小さければステップS26に進む。
ステップS24(クラッチトルク補正制御ステップ)ではクラッチトルク補正制御部3gが基準クラッチトルク演算部3eで演算された基準クラッチトルクTcbよりも基準走行抵抗Rbpの公差上限値Rbp2と現在走行抵抗Rpとの差に応じて大きくなるよう目標クラッチトルクTceを演算する(図6参照)。このとき演算方法はステップS20で説明したようにどのようなものでもよいが、本実施形態においては現在基準走行抵抗Rbpに対する走行抵抗Rpの割合に応じて同様の比例関係でリニアに大きくしている。
そしてステップS20と同様、図7の(b)に示すように、クラッチ制御部3bが第2クラッチアクチュエータ18を作動させて第2クラッチディスク42を切離制御し、エンジン4と第2入力軸22とを切離する。また、目標クラッチトルクTceに対応する第1クラッチアクチュエータ17のアクチュエータ作動量L1をクラッチトルク−作動量記憶部3aから求める。このとき、大きくなるよう補正した目標クラッチトルクTceは上記式[数1]においてエンジン出力駆動トルクTeは変更せずに減速して変速されるエンジン4の目標回転数変速度ΔNetを大きくすることによって達成する。そして第1クラッチディスク41のクラッチトルクTcが目標クラッチトルクTceになるよう制御しエンジン4のエンジン回転数Neと第1入力軸21の入力軸回転数Ni1とを同期させた後、完全係合させる(図7(b)の第1クラッチトルク41のTce参照)。これにより変速制御中に第1クラッチトルク41を介して第1入力軸21に伝達される回転駆動トルクTer(回転駆動力)は、第1クラッチディスク41が基準クラッチトルクTcbで制御される場合と比べ大きな値となり車輪に伝達される力が補填される。このため、図7(d)の2点鎖線部に示すように、走行抵抗Rbが増加しても変速中において車両加速度aが大きく落ち込むことはなく、良好なフィーリングが得られる。
ステップS26(クラッチトルク補正制御ステップ)では、クラッチトルク補正制御部3gが基準クラッチトルク演算部3eで演算された基準クラッチトルクTcbを選択する。なお、このとき上述したように、適切な目標クラッチトルクToを演算して求めてもよい。そして上記と同様にクラッチ制御部3bが第2クラッチアクチュエータ18を作動させて第2クラッチディスク42を切離制御するとともに、基準クラッチトルクTcbまたは目標クラッチトルクToによってエンジン4のエンジン回転数Neと第1入力軸21の入力軸回転数Ni1とを同期させた後係合させる。このように、走行抵抗Rbが平坦路の走行抵抗Rrと同じ場合には、特別な制御を行なわず通常通りの基準クラッチトルクTcbでクラッチの係合を行なうので、制御の負担が軽減される。
上述の説明から明らかな様に、本実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機1の発明によれば、変速制御装置は、アップシフトの変速指令が送出されると走行中の車両の現在走行抵抗Rpを走行抵抗演算部3dによって演算し、基準走行抵抗記憶部3cに記憶された基準走行抵抗に基づき現在の車両の車速Vpに対応して演算された現在の基準走行抵抗Rb(本実施形態においては公差上限値Rbp2)との差を演算する。そして現在走行抵抗Rpの方が大きく差が正である時にはエンジン4(原動機)の出力駆動トルクTe(出力駆動力)とエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetに基づいて演算される目標クラッチトルクTceが基準クラッチトルクTcbより差に応じた分だけ大きくなるように目標回転数変速度ΔNetを大きくして係合制御する。また現在走行抵抗Rpの方が基準走行抵抗Rb(本実施形態においては公差下限値Rbp1)より小さく差が負である時には目標クラッチトルクTccが基準クラッチトルクTcbより差の絶対値に応じた分だけ小さくなるように目標回転数変速度ΔNetを小さくして係合制御する。また現在走行抵抗Rpが基準クラッチトルクTcb(本実施形態においては基準クラッチトルクTcbを中心として公差上下限値(Rbp1〜Rbp2)内)と同じであるときには目標クラッチトルクTcaを基準クラッチトルクTcbと等しい値として制御する。このように現在走行抵抗Rpの方が大きい時には目標クラッチトルクTcaが大きくなるよう補正するので入力軸を介して車輪に伝達される力が補填され、変速時におけるトルク減少の発生が抑制され良好なフィーリングが得られる。また現在走行抵抗Rpの方が小さい時には目標クラッチトルクTcaが小さくなるよう補正するので車輪に伝達される力が抑制され車両の意図せぬ加速が防止される。
なお、本実施形態においては基準走行抵抗Rbと現在走行抵抗Rpとの差を演算し、現在走行抵抗Rpの方が小さい時には目標クラッチトルクTcaが基準クラッチトルクTcbより差の絶対値に応じた分だけ小さくなるよう設定した。そして現在走行抵抗Rpの方が大きい時には目標クラッチトルクTcaが基準クラッチトルクTcbより差に応じた分だけ大きくなるよう設定した。そして、いずれの場合も目標回転数変速度ΔNetを増減して目標クラッチトルクTccまたはTceの増減に対応した。
しかしこの態様に限らず、別の実施形態として、上記式[数1]において、エンジン4の出力駆動トルクTe(出力駆動力)を増減することによって上記実施形態における目標クラッチトルクTccまたはTceの増減に対応してもよい。例えば、アップ変速制御において現在走行抵抗Rpが基準走行抵抗Rbより大きく、基準クラッチトルクTcbよりも高い目標クラッチトルクTceで制御する場合には、同期中に減速して変速されるエンジン4の目標回転数変速度ΔNetを例えば一定とした状態で、エンジン4の出力駆動トルクTeを現在走行抵抗Rpと基準クラッチトルクTcbとの差に応じて目標出力駆動トルクTebまで増加させ目標クラッチトルクTceに対応するようにしてもよい(図7(b)の破線参照)。これによって車輪16a、16bに伝達される回転駆動トルクTer(回転駆動力)が確保され、第1の実施形態と同様、良好な変速フィーリングが得られる。また、目標回転数変速度ΔNetを変更せずとも出力駆動トルクTerを増加させて目標クラッチトルクTceに対応できるので、クラッチ係合時にショックなく接続することができる。
また、アップ変速制御において現在走行抵抗Rpが基準走行抵抗Rbより小さい場合には、目標回転数変速度ΔNetを例えば一定とした状態で、エンジン4の出力駆動トルクTeを現在走行抵抗Rpと基準クラッチトルクTcbとの差に応じて目標出力駆動トルクTeaまで減少させ目標クラッチトルクTccに対応するようにしてもよい(図7(b)の破線参照)。これによって、車輪16a、16bに伝達される回転駆動トルクTer(回転駆動力)が抑制され、第1の実施形態と同様、意図せぬ車両の加速が防止される。なお、上記においてエンジン4の出力駆動トルクTeの増加および減少はスロットルバルブ開度、燃料噴射量等を制御することによって行なう。
さらに別の実施形態として、エンジン4の出力駆動トルクTeと目標回転数変速度ΔNetとを同時に増減させて制御しながら目標クラッチトルクTce、および目標クラッチトルクTccに対応するようにしてもよい。
なお、本実施形態においては、第1入力軸21に、奇数段の駆動ギヤで51、53、55および57を固定して設け、第2入力軸22に、偶数段の駆動ギヤ52、54、および56を固定して設けた。そして第1副軸31および第2副軸32に、第1入力軸21の奇数段駆動ギヤと噛合して奇数変速段を成立させる従動ギヤ61、63、65、67と、第2入力軸22の偶数段駆動ギヤと噛合して偶数変速段を成立させる従動ギヤ62、64、66とを遊転可能に設けた。しかし、この形態に限らず第1入力軸21および第2入力軸22に、それぞれ駆動ギヤ51、53、55、57と駆動ギヤ52、54、56とを遊転可能に設けてもよい。そしてこのときには第1副軸31、および第2副軸32に1速〜7速従動ギヤ61〜67を固定して設けてやればよい。
また、特開2011−144872公報の図1に開示されるデュアルクラッチ式自動変速機のように7速駆動ギヤ26aのみを第1入力軸15に遊転可能に設け、7速駆動ギヤ26aに噛合する7速従動ギア26bを第2副軸18に固定して設けてもよい。さらに公報の図1に示すように切替えクラッチ30Dが紙面右方に移動することによって第1入力軸15と出力軸19とを直結するよう構成してもよい。このようなデュアルクラッチ式自動変速機においても同様の効果が得られる。
また、本実施形態においては、フォークシャフト135を4本設け、それぞれのフォークシャフト135に対して設けたフォーク72a〜72dを各々作動させて各ギヤ段の切り替えを行なった。しかしこれに限らずセレクト用モータを設け、セレクト用モータの駆動によりフォークシャフトを選択し、選択したフォークシャフトをシフト用モータによってスライドさせて各ギヤ段の切り替えを行なってもよい。
さらに、デュアルクラッチ式自動変速機を、自動車に適用するのではなく、自動二輪車等の他の自動変速機に適用してもよい。