前記特許文献1の技術では、電動式オイルポンプが駆動できないときは、変速機構への作動油供給量不足を回避するためにエンジン回転速度を上昇させるので、例えばDレンジ等で走行中であれば車速が上昇して走行安定性が低下し、Nレンジが選択されて停車中であればエンジンの吹き上りが発生する。いずれの場合も、運転者がアクセル操作をしていないのに不意に車速が上昇したりエンジンが吹き上るので、運転者に違和感を与えることになる。
このような不具合を回避するために、予め容量の大きい大型の機械式オイルポンプを用いることが考えられる。しかし、大型の機械式オイルポンプを用いると、自動変速機への搭載性が低下するばかりでなく、駆動抵抗の増大や重量の増大等による燃費の悪化が問題となる。また、エンジン回転が高くなると必要以上に多い作動油が供給されてロスが大きくなる。
そこで、本発明の目的は、機械式オイルポンプと電動式オイルポンプとを備えた自動変速機において、電動式オイルポンプが異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは電動式オイルポンプが異常のときのために予め大型の機械式オイルポンプを用いたりすることなく、電動式オイルポンプが異常のときの変速機構への作動油供給量不足を回避することである。
前記課題を解決するために、本発明は、作動油が供給又は排出されることにより締結又は解放される複数の摩擦締結要素を有する変速機構と、エンジンにより駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第1作動油供給装置と、前記エンジンに依存しない駆動源により駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第2作動油供給装置とを備える自動変速機の制御方法であって、前記第1作動油供給装置と前記第2作動油供給装置との双方を駆動する領域で前記第2作動油供給装置が異常か否かを判定する判定工程と、前記判定工程により前記第2作動油供給装置が正常と判定されたときは、変速の迅速化のために、当該判定の時点で締結されている摩擦締結要素と締結されていない摩擦締結要素との双方に通じる油路に油圧を供給する油圧供給工程と、前記判定工程により前記第2作動油供給装置が異常と判定されたときは、当該判定の時点で締結されていない摩擦締結要素の少なくとも一部に通じる油路への油圧供給を抑制することにより、前記変速機構の作動油消費量を正常時に比べて低減させる作動油消費量低減工程とを有することを特徴とするものである(請求項1)。
本発明によれば、エンジンにより駆動される第1作動油供給装置とエンジンに依存しない駆動源により駆動される第2作動油供給装置とを備えた自動変速機において、前記第2作動油供給装置が異常のときは、変速機構の作動油消費量を低減させるので、たとえ第2作動油供給装置の作動油供給量が十分でなくても問題とならず、第1作動油供給装置の作動油供給量と第2作動油供給装置の作動油供給量とを合わせた合計の作動油供給量が変速機構にとって十分な供給量となり、第2作動油供給装置が異常のときの変速機構への作動油供給量不足が回避される。
具体的に、第2作動油供給装置が異常と判定されたときは、異常と判定された時点で締結されていない摩擦締結要素に通じる油路への油圧供給を抑制するので、当該異常判定の時点で達成されているギヤ段を確保して走行を継続しつつ、変速機構への作動油供給量不足が確実に回避される。
そのため、第2作動油供給装置が異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは第2作動油供給装置が異常のときのために予め大型の第1作動油供給装置を用いたりせずに済み、エンジン回転速度を上昇させた場合の走行安定性の低下や運転者の違和感が回避され、また、第1作動油供給装置を大型化した場合の搭載性の低下や燃費の悪化が回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記第1作動油供給装置と前記第2作動油供給装置との双方を駆動する領域での前記第2作動油供給装置の目標吐出圧を設定する目標吐出圧設定工程をさらに有し、前記目標吐出圧設定工程で設定された目標吐出圧が実現されないときに前記第2作動油供給装置が異常と判定する(請求項2)。
この構成によれば、第2作動油供給装置の目標吐出圧が実現されないときに該第2作動油供給装置が異常と判定するので、第2作動油供給装置の吐出圧を指標にして第2作動油供給装置の異常が精度よく判定される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記第2作動油供給装置の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときに前記第2作動油供給装置が異常と判定する(請求項3)。
この構成によれば、第2作動油供給装置の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときに該第2作動油供給装置が異常と判定するので、第2作動油供給装置の吐出圧を直接検出することなく第2作動油供給装置の回転数を検出するだけで第2作動油供給装置の異常が精度よく判定される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記作動油消費量低減工程は、前記判定工程による異常判定の時点で締結されていない全ての摩擦締結要素に通じる油路への油圧供給を抑制するものである(請求項4)。
この構成によれば、前記異常判定の時点で達成されているギヤ段を確保して走行を継続しつつ、変速機構への作動油供給量不足が確実に回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記作動油消費量低減工程は、前記判定工程による異常判定の時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、当該異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段から判断して達成される可能性が相対的に高い第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧供給を抑制するものである(請求項5)。
この構成によれば、第2作動油供給装置が異常と判定されたときは、異常と判定された時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、当該時点で達成されている第1のギヤ段から判断して達成される可能性が相対的に高い第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、前記異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、変速機構への作動油供給量不足が確実に回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記自動変速機は、予め設定された変速特性に基いてギヤ段を自動的に切り替えるオートモードと、運転者の手動操作に基いてギヤ段を切り替えるマニュアルモードとのいずれか一方が選択可能に構成されており、前記作動油消費量低減工程は、前記マニュアルモードが選択されているときは、前記判定工程による異常判定の時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、当該異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧供給を抑制するものである(請求項6)。
この構成によれば、マニュアルモードが選択されているときに、第2作動油供給装置が異常と判定されたときは、異常と判定された時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、当該時点で達成されている第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、前記異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、変速機構への作動油供給量不足が確実に回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記自動変速機は、予め設定された変速特性に基いてギヤ段を自動的に切り替えるオートモードと、運転者の手動操作に基いてギヤ段を切り替えるマニュアルモードとのいずれか一方が選択可能に構成されており、前記作動油消費量低減工程は、前記オートモードが選択されているときは、前記判定工程による異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段への変速のみを許可するように設定された変速特性に変更し、前記異常判定の時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、前記第2のギヤ段(異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さいギヤ段)の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧供給を抑制するものである(請求項7)。
この構成によれば、オートモードが選択されているときに、第2作動油供給装置が異常と判定されたときは、異常と判定された時点で達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段への変速のみを許可するように設定された変速特性に変更することで、前記異常判定の時点で締結されていない摩擦締結要素のうち、前記第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素(ここで、第2作動油供給装置が異常のときの変速特性は、前記異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段への変速のみを許可するように設定されているから、換言すれば、第2作動油供給装置が正常のときの変速特性は、前記異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に大きいギヤ段への変速も許可するように設定されているから、前記第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素の数は、第2作動油供給装置が異常のときは、正常のときに比べて、増えている)に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、前記異常判定の時点で達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から変速が許可された第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、油路への油圧の供給を抑制する摩擦締結要素の数が増えていることから、変速機構への作動油供給量不足が確実に回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記作動油消費量低減工程は、アクセル開度の増大時に実行される(請求項8)。
アクセル開度の増大時は、エンジントルクは応答性よく増大するが、エンジン回転は慣性の影響のため遅れて増大する。そのため、変速機構の作動油消費量の増大に第1作動油供給装置の作動油供給量の増大が追いつかなくなり、締結中の摩擦締結要素がスリップする可能性が生じる。この構成によれば、前記のような状況下において変速機構の作動油消費量を低減させるので、前記のような状況下においても、変速機構への作動油供給量不足が回避され、結果として、締結中の摩擦締結要素のスリップが抑制される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記作動油消費量低減工程は、作動油の温度が所定温度以上のときに実行される(請求項9)。
作動油の温度が所定温度以上のときは、作動油の粘性が低く、作動油の漏れが多くなる。そのため、変速機構の作動油消費量が増大する。この構成によれば、前記のような状況下において変速機構の作動油消費量を低減させるので、前記のような状況下においても、変速機構への作動油供給量不足が回避される。
本発明の自動変速機の制御方法においては、好ましくは、前記第1作動油供給装置と前記第2作動油供給装置との双方を駆動する領域は、エンジン回転数が所定回転数未満の領域である(請求項10)。
エンジン回転数が所定回転数未満の領域では、第1作動油供給装置の作動油供給量が不足する傾向にある。したがって、この構成によれば、エンジン回転数が所定回転数未満の領域で第2作動油供給装置も駆動することによって、前記第1作動油供給装置の作動油供給量不足が補われる。一方、エンジン回転数が所定回転数以上の領域では、第1作動油供給装置の作動油供給量が十分となる。したがって、この構成によれば、エンジン回転数が所定回転数以上の領域では、第2作動油供給装置は駆動する必要がなくなる。
また、本発明は、作動油が供給又は排出されることにより締結又は解放される複数の摩擦締結要素を有する変速機構と、エンジンにより駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第1作動油供給装置と、前記エンジンに依存しない駆動源により駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第2作動油供給装置と、前記摩擦締結要素への作動油の供給状態を制御する制御弁と、前記第2作動油供給装置の回転数を検出する回転数センサと、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサと、これらのセンサから検出信号を入力し、前記制御弁に制御信号を出力する制御コントローラとを備える自動変速機の制御装置であって、前記制御コントローラは、少なくともエンジン回転数に基いて前記第1作動油供給装置と前記第2作動油供給装置との双方を駆動する領域か否かを判定し、前記領域と判定したときは、該領域での前記第2作動油供給装置の目標吐出圧を設定し、前記第2作動油供給装置の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達するか否かを判定し、前記回転数に到達すると判定した正常時は、変速の迅速化のために、当該判定の時点で締結されている摩擦締結要素と締結されていない摩擦締結要素との双方に通じる油路に油圧を供給し、前記回転数に到達しないと判定した異常時は、当該判定の時点で締結されていない摩擦締結要素の少なくとも一部に通じる油路への油圧供給を抑制することにより、前記変速機構の作動油消費量を正常時に比べて低減させるように前記制御弁を制御するものであることを特徴とするものである(請求項11)。
本発明によれば、エンジンにより駆動される第1作動油供給装置とエンジンに依存しない駆動源により駆動される第2作動油供給装置とを備えた自動変速機において、前記第2作動油供給装置の回転数が前記第2作動油供給装置の目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときは、変速機構の作動油消費量を低減させるので、たとえ第2作動油供給装置の作動油供給量が十分でなくても問題とならず、第1作動油供給装置の作動油供給量と第2作動油供給装置の作動油供給量とを合わせた合計の作動油供給量が変速機構にとって十分な供給量となり、第2作動油供給装置が異常のときの変速機構への作動油供給量不足が回避される。
そのため、第2作動油供給装置が異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは第2作動油供給装置が異常のときのために予め大型の第1作動油供給装置を用いたりせずに済み、エンジン回転速度を上昇させた場合の走行安定性の低下や運転者の違和感が回避され、また、第1作動油供給装置を大型化した場合の搭載性の低下や燃費の悪化が回避される。
さらに、第2作動油供給装置の吐出圧を指標にして第2作動油供給装置の異常が精度よく判定されると共に、第2作動油供給装置の吐出圧を直接検出することなく第2作動油供給装置の回転数を検出するだけで第2作動油供給装置の異常が精度よく判定される。
また、本発明は、作動油が供給又は排出されることにより締結又は解放される複数の摩擦締結要素を有する変速機構と、エンジンにより駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第1作動油供給手段と、前記エンジンに依存しない駆動源により駆動され、前記変速機構に作動油を供給する第2作動油供給手段と、前記第2作動油供給手段の回転数を検出する回転数検出手段と、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを備える自動変速機の制御装置であって、少なくとも前記エンジン回転数検出手段で検出されるエンジン回転数に基いて前記第1作動油供給手段と前記第2作動油供給手段との双方を駆動する領域か否かを判定する第1の判定手段と、前記第1の判定手段で前記領域と判定されたときは、該領域での前記第2作動油供給手段の目標吐出圧を設定する目標吐出圧設定手段と、前記回転数検出手段で検出される前記第2作動油供給手段の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達するか否かを判定する第2の判定手段と、前記第2の判定手段により前記回転数に到達すると判定された正常時は、変速の迅速化のために、当該判定の時点で締結されている摩擦締結要素と締結されていない摩擦締結要素との双方に通じる油路に油圧を供給する油圧供給制御手段と、前記第2の判定手段により前記回転数に到達しないと判定された異常時は、当該判定の時点で締結されていない摩擦締結要素の少なくとも一部に通じる油路への油圧供給を抑制することにより、前記変速機構の作動油消費量を正常時に比べて低減させる作動油消費量低減手段とを有することを特徴とするものである(請求項12)。
本発明によれば、エンジンにより駆動される第1作動油供給手段とエンジンに依存しない駆動源により駆動される第2作動油供給手段とを備えた自動変速機において、前記第2作動油供給手段の回転数が前記第2作動油供給手段の目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときは、変速機構の作動油消費量を低減させるので、たとえ第2作動油供給手段の作動油供給量が十分でなくても問題とならず、第1作動油供給手段の作動油供給量と第2作動油供給手段の作動油供給量とを合わせた合計の作動油供給量が変速機構にとって十分な供給量となり、第2作動油供給手段が異常のときの変速機構への作動油供給量不足が回避される。
そのため、第2作動油供給手段が異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは第2作動油供給手段が異常のときのために予め大型の第1作動油供給手段を用いたりせずに済み、エンジン回転速度を上昇させた場合の走行安定性の低下や運転者の違和感が回避され、また、第1作動油供給手段を大型化した場合の搭載性の低下や燃費の悪化が回避される。
さらに、第2作動油供給手段の吐出圧を指標にして第2作動油供給手段の異常が精度よく判定されると共に、第2作動油供給手段の吐出圧を直接検出することなく第2作動油供給手段の回転数を検出するだけで第2作動油供給手段の異常が精度よく判定される。
本発明によれば、機械式オイルポンプと電動式オイルポンプとを備えた自動変速機において、電動式オイルポンプが異常のときの変速機構への作動油供給量不足を回避することができ、その際に、電動式オイルポンプが異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは電動式オイルポンプが異常のときのために予め大型の機械式オイルポンプを用いたりせずに済み、エンジン回転速度を上昇させた場合の走行安定性の低下や運転者の違和感が回避され、また、機械式オイルポンプを大型化した場合の搭載性の低下や燃費の悪化が回避される。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。本実施形態においては、本発明は、図1に示す自動変速機1に適用されている。
(1)全体構成
この自動変速機1は、例えばフロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に搭載されている。この自動変速機1は、図外のエンジン出力軸に取り付けられたトルクコンバータと、このトルクコンバータを介してエンジンの出力回転が入力される変速機構30とを備える。
エンジンの出力回転が変速機構30に入力される経路として、後に詳しく述べるように、入力軸4から第3プラネタリギヤセット(以下、プラネタリギヤセットを「PGS」と記す)60のサンギヤ61に直接入力される経路と、入力軸4から第1クラッチ10及び出力部材11を経由して第1PGS40のサンギヤ41及び第2PGS50のサンギヤ51に入力される経路と、入力軸4から第2クラッチ20及び出力部材21を経由して第2PGS50のピニオンキャリヤ53に入力される経路とが設けられている。
変速機構30の出力回転は、出力ギヤ7から取り出される。出力ギヤ7は、第1PGS40のピニオンキャリヤ43に連結されている。出力ギヤ7から取り出された回転は、図外のカウンタドライブ機構を介して差動装置に伝達され、左右の車軸を駆動する。
これらの第1クラッチ10、第2クラッチ20、第1PGS40、第2PGS50、第3PGS60及び出力ギヤ7は、入力軸4の軸芯上に同軸に並んで配置されている。そして、その状態で、変速機ケース5に収納されている。
変速機構30は、動力伝達経路を構成する、第1、第2、第3PGS40、50、60を有している。第1、第2、第3PGS40、50、60は、エンジン側からこの順に相互に軸方向に隣接して配置されている。
変速機構30は、摩擦締結要素として、第1、第2クラッチ10、20及び第1、第2、第3ブレーキ70、80、90を有している。第1、第2クラッチ10、20は、軸方向にオーバーラップして、すなわち径方向に並んで配置されている。これらの第1、第2クラッチ10、20及び第1、第2、第3ブレーキ70、80、90は、エンジン側からこの順に軸方向に配置されている。第1、第2ブレーキ70、80の間にワンウエイクラッチ9が配置されている。
第1、第2PGS40、50はシングルピニオン型PGS、第3PGS60はダブルピニオン型PGSである。各PGS40、50、60は、サンギヤ41、51、61と、このサンギヤ41、51、61に噛み合うピニオン42、52、62と、このピニオン42、52、62を支持するピニオンキャリヤ43、53、63と、前記ピニオン42、52、62に噛み合うインターナルギヤ44、54、64とを備えている。
次に、これらの変速機構30の構成要素同士の連結関係、及び変速機構30の構成要素と入力軸4や出力ギヤ7との連結関係を説明する。
第1PGS40のサンギヤ41と第2PGS50のサンギヤ51とが連結され、第1PGS40のインターナルギヤ44と第2PGS50のピニオンキャリヤ53とが連結され、第2PGS50のインターナルギヤ54と第3PGS60のインターナルギヤ64とが連結されている。
連結されたサンギヤ41、51は、第1クラッチ10の出力部材11に連結され、第1クラッチ10を介して入力軸4に断接可能に連結されている。連結されたインターナルギヤ44及びピニオンキャリヤ53は、第2クラッチ20の出力部材21に連結され、第2クラッチ20を介して入力軸4に断接可能に連結されている。
連結されたインターナルギヤ44及びピニオンキャリヤ53は、第1ブレーキ70及びワンウエイクラッチ9を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。連結されたインターナルギヤ54、64は、第2ブレーキ80を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。第3PGS60のピニオンキャリヤ63は、第3ブレーキ90を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。
第3PGS60のサンギヤ61は、入力軸4に直接連結されている。第1PGS40のピニオンキャリヤ43は、出力ギヤ7に直接連結されている。
以上の連結関係により、本実施形態に係る自動変速機1においては、図2の締結表に示すように、第1、第2クラッチ10、20及び第1、第2、第3ブレーキ70、80、90の締結状態が切り替わることにより、前進6速と後退速(Rev)とが達成される。図2の締結表において、「○」は締結されることを示す。
1速では第1クラッチ(ロークラッチ)10と第1ブレーキ(ローリバースブレーキ)70とが締結される。入力軸4の回転は、第1PGS40のサンギヤ41に入力される。入力された回転は、第1PGS40によって大きな減速比で減速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
なお、第1ブレーキ70は、エンジンブレーキを作動させる1速でのみ締結される。エンジンブレーキを作動させない1速では、第1ブレーキ70は締結されず、代わりに、ワンウェイクラッチ9がロックすることによって1速が達成される。図2の締結表において、1速の第1ブレーキ70が「(○)」で表されているのは、こういう意味である。
2速では第1クラッチ(ロークラッチ)10と第2ブレーキ(2−6ブレーキ)80とが締結される。入力軸4の回転は、第1PGS40のサンギヤ41と、第2PGS50のピニオンキャリヤ53を介して第1PGS40のインターナルギヤ44とに入力される。入力された回転は、1速よりも小さな減速比で減速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
3速では第1クラッチ(ロークラッチ)10と第3ブレーキ(R−3−5ブレーキ)90とが締結される。入力軸4の回転は、第1PGS40のサンギヤ41と、第3PGS60のインターナルギヤ64及び第2PGS50のピニオンキャリヤ53を介して第1PGS40のインターナルギヤ44とに入力される。入力された回転は、2速よりもさらに小さな減速比で減速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
4速では第1クラッチ(ロークラッチ)10と第2クラッチ(ハイクラッチ)20とが締結される。入力軸4の回転は、第1PGS40のサンギヤ41と、第2PGS50のピニオンキャリヤ53を介して第1PGS40のインターナルギヤ44とに入力される(減速なし)。入力された回転は、第1PGS40全体を入力軸4と一体に回転させるので、減速比1の回転が第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
5速では第2クラッチ(ハイクラッチ)20と第3ブレーキ(R−3−5ブレーキ)90とが締結される。入力軸4の回転は、第3PGS60のインターナルギヤ64及び第2PGS50のサンギヤ51を介して第1PGS40のサンギヤ41と、第2PGS50のピニオンキャリヤ53を介して第1PGS40のインターナルギヤ44とに入力される(減速なし)。入力された回転は、増速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
6速では第2クラッチ(ハイクラッチ)20と第2ブレーキ(2−6ブレーキ)80とが締結される。入力軸4の回転は、第2PGS50のサンギヤ51を介して第1PGS40のサンギヤ41と、第2PGS50のピニオンキャリヤ53を介して第1PGS40のインターナルギヤ44とに入力される(減速なし)。入力された回転は、5速よりも大きな増速比で増速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から出力ギヤ7に取り出される。
後退速(Rev)では第1ブレーキ(ローリバースブレーキ)70と第3ブレーキ(R−3−5ブレーキ)90とが締結される。入力軸4の回転は、第3PGS60のインターナルギヤ64及び第2PGS50のサンギヤ51を介して第1PGS40のサンギヤ41に入力される。入力された回転は、第2PGS50により回転方向が逆転されており、第1PGS40によって大きな減速比で減速された後、第1PGS40のピニオンキャリヤ43から入力軸4の回転方向と反対方向の回転として出力ギヤ7に取り出される。
以上のように、本実施形態に係る自動変速機1においては、変速機構30は、3つのPGS40、50、60と、2つのクラッチ10、20と、3つのブレーキ70、80、90とを有し、これらのクラッチ10、20及びブレーキ70、80、90が選択的に締結されることにより、PGS40、50、60の動力伝達経路が切り替わり、前進6速と後退速とが達成される。
(2)本実施形態の特徴
図3に示すように、この自動変速機1には、エンジンにより駆動され、前記変速機構30に作動油を供給する機械式オイルポンプ(第1作動油供給装置、第1作動油供給手段)111と、エンジンに依存しない電動モータ112aにより駆動され、前記変速機構30に作動油を供給する電動式オイルポンプ(第2作動油供給装置、第2作動油供給手段)112とが備えられている。機械式オイルポンプ111でオイルパン201から吸い上げられた作動油は第1油路L1に吐出され、電動式オイルポンプ112でオイルパン201から吸い上げられた作動油は第2油路L2に吐出される。第1油路L1に吐出された作動油及び第2油路L2に吐出された作動油は相互に合流して第3油路L3に供給される。つまり、第3油路L3内の作動油供給量は、機械式オイルポンプ111の作動油供給量と電動式オイルポンプ112の作動油供給量とを合わせた合計の作動油供給量となる。第3油路L3に供給された作動油は第3油路L3を経て油圧回路200に収容されたレギュレータバルブ127に供給される。レギュレータバルブ127で所定圧に調圧された作動油は第4油路L4を経てマニュアルバルブ126に供給され、マニュアルバルブ126から第5油路L5に供給される。レギュレータバルブ127で余剰とされた作動油は第6油路L6を経て潤滑油路202に供給される。
第5油路L5に供給された作動油は、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図3には図示せず。図4参照)を経由し、さらに、油路L121〜L125を経て、それぞれ油圧回路200に収容された第1〜第5リニアソレノイドバルブ121〜125に供給される。ここで、前記各種バルブ等131…131は、特許請求の範囲に記載の「摩擦締結要素への作動油の供給状態を制御する制御弁」に相当する。
第1リニアソレノイドバルブ121と第1クラッチ10との間に第1クラッチラインL10が、第2リニアソレノイドバルブ122と第2クラッチ20との間に第2クラッチラインL20が、第3リニアソレノイドバルブ123と第1ブレーキ70との間に第1ブレーキラインL70が、第4リニアソレノイドバルブ124と第2ブレーキ80との間に第2ブレーキラインL80が、第5リニアソレノイドバルブ125と第3ブレーキ90との間に第3ブレーキラインL90が、それぞれ設けられている。
各リニアソレノイドバルブ121〜125は、それぞれ通電時に、油路L121〜L125と各ラインL10、L20、L70、L80、L90とを連通させる。これにより、油路L121〜L125を経て各リニアソレノイドバルブ121〜125に供給された作動油は各ラインL10、L20、L70、L80、L90を経て各摩擦締結要素10、20、70、80、90に供給され、各摩擦締結要素10、20、70、80、90が締結される。
一方、各リニアソレノイドバルブ121〜125は、それぞれ非通電時は、各ラインL10、L20、L70、L80、L90を各バルブ121〜125のドレイン穴(×)に導く(油路L121〜L125は各リニアソレノイドバルブ121〜125で遮断される)。これにより、各ラインL10、L20、L70、L80、L90を経て各摩擦締結要素10、20、70、80、90に供給された作動油は各摩擦締結要素10、20、70、80、90から排出され、各摩擦締結要素10、20、70、80、90が解放される。
図4に示すように、この自動変速機1には、制御コントローラ100が備えられている。この制御コントローラ100は、現在達成されているギヤ段を判定するギヤ段判定部101、シフトレバーの選択位置を検出するシフトポジションセンサ102、車速を検出する車速センサ103、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ104、バッテリの蓄電量を検出するバッテリセンサ105、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)106、電動式オイルポンプ112の回転数を検出する電動式オイルポンプ回転数センサ(回転数センサ、回転数検出手段)107及び作動油の温度を検出する油温センサ108から検出信号を入力し、前記電動式オイルポンプ112、第1〜第5リニアソレノイドバルブ121〜125及び各種バルブ等131…131に制御信号を出力する。
本実施形態に係る自動変速機1は、車速とエンジン負荷とをパラメータとして予め設定された変速特性に基いてギヤ段を自動的に切り替えるオートモードと、運転者のシフトレバー等の手動操作に基いてギヤ段を切り替えるマニュアルモードとのいずれか一方が選択可能に構成されている。
また、本実施形態に係る自動変速機1では、変速時間の短縮化、迅速化を図るために、現在締結されている摩擦締結要素に油圧を供給する油路だけでなく、現在締結されていない摩擦締結要素に油圧を供給する油路にも油圧を予め供給しておく油圧供給が行われる。具体的には、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)を制御して、現在締結されていない摩擦締結要素を含む全ての摩擦締結要素10、20、70、80、90に通じる油路L121〜L125に油圧が予め供給される。なお、供給された油圧はリニアソレノイドバルブ121〜125で遮断され、各ラインL10、L20、L70、L80、L90には供給されない。
例えば、マニュアルモードでは、基本的に、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)を制御して、現在締結されていない摩擦締結要素を含む全ての摩擦締結要素10、20、70、80、90に通じる油路L121〜L125に油圧が供給される。しかしながら、機械式オイルポンプ111と電動式オイルポンプ112との双方を駆動する領域で、電動式オイルポンプ112が異常のときは、図5(a)の変速許可マップに示すように、現在達成されているギヤ段(変速前のギヤ段、第1のギヤ段)から一度の手動操作によって達成されるギヤ段(変速後のギヤ段、第2のギヤ段)への変速のみが許可される。
なお、図5(a)のマップにおいて、「○」は、変速が許可されることを示す。つまり、1−2変速、1−Rev変速、2−1変速、2−3変速、3−2変速、3−4変速、4−3変速、4−5変速、5−4変速、5−6変速、6−5変速、Rev−1変速のみが許可され、例えば、1−3変速や、4−2変速等は禁止される。そして、図5(b)の油圧供給抑制摩擦締結要素一覧表に示すように、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、変速許可ギヤ段(第2のギヤ段)の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。例えば、現ギヤ段(第1のギヤ段)が1速の場合、変速許可ギヤ段(第2のギヤ段)は2速及び後退速であるから、1速、2速及び後退速のいずれが達成されたときでも締結されない摩擦締結要素は、図2から明らかなように、第2クラッチ20である。したがって、現ギヤ段(第1のギヤ段)が1速の場合は、第2クラッチ20に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。具体的には、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)を制御して、第2クラッチ20に油圧を供給する油路L122への油圧供給を抑制(油圧供給の停止も含む)する(つまり電動式オイルポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への油圧の供給が抑制される)。換言すれば、油路L122(ひいては変速機構30)の作動油の消費量が低減される。
ここで、図5(b)の変速許可ギヤ段(第2のギヤ段)は、マニュアルモードにおいて、現在達成されている現ギヤ段(第1のギヤ段)から判断して達成される可能性が相対的に高いギヤ段である。
オートモードでは、電動式オイルポンプ112が正常のときは、図6(a)の変速許可マップ及び図6(b)の油圧供給抑制摩擦締結要素一覧表に示すように、例えば、現ギヤ段(変速前のギヤ段、第1のギヤ段)が4速の場合、変速許可ギヤ段(変速後のギヤ段、第2のギヤ段)は1−3、5、6速であるから、1−6速のいずれが達成されたときでも締結されない摩擦締結要素は、図2から明らかなように、存在しない。しかしながら、電動式オイルポンプ112が異常のときは、図7(a)の変速許可マップ及び図7(b)の油圧供給抑制摩擦締結要素一覧表に示すように、現ギヤ段(変速前のギヤ段、第1のギヤ段)が4速の場合、変速許可ギヤ段(変速後のギヤ段、第2のギヤ段)は3、5速であるから、3−5速のいずれが達成されたときでも締結されない摩擦締結要素は、図2から明らかなように、第1ブレーキ70及び第2ブレーキ80である。したがって、現ギヤ段(第1のギヤ段)が4速の場合は、第1ブレーキ70及び第2ブレーキ80に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。具体的には、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)を制御して、第1ブレーキ70及び第2ブレーキ80に油圧を供給する油路L123、L124への油圧供給を抑制(油圧供給の停止も含む)する(つまり電動式オイルポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への油圧の供給が抑制される)。換言すれば、油路L123、L124(ひいては変速機構30)の作動油の消費量が低減される。
ここで、図6(b)、図7(b)の変速許可ギヤ段(第2のギヤ段)は、オートモードにおいて、現在達成されている現ギヤ段(第1のギヤ段)から判断して達成される可能性が相対的に高いギヤ段である。
なお、図6(a)、図7(a)のマップにおいて、「○」は、変速が許可されることを示す。また、図7(a)のマップにおいて、「×」は、電動式オイルポンプ112が正常のときは変速が許可されるが、電動式オイルポンプ112が異常のときは変速が禁止されることを示す。
図6(a)のオートモード正常時の変速許可マップと、図7(a)のオートモード異常時の変速許可マップとを比較すると、異常時は正常時に比べて、2−4変速や3−1変速のような飛越変速が可能な限り禁止されている。つまり、図7(a)のオートモード異常時の変速許可マップは、図6(a)のオートモード正常時の変速許可マップに比べて、現在達成されているギヤ段(変速前のギヤ段、現ギヤ段、第1のギヤ段)からギヤ段位の変化が相対的に小さいギヤ段(変速後のギヤ段、変速許可ギヤ段、第2のギヤ段)への変速のみを許可するように設定されている。そして、オートモードが選択されているときに、電動式オイルポンプ112が異常のときは、変速特性が図6に示した変速特性から図7に示した変速特性に変更される。
ここで、図7の電動式オイルポンプ112が異常のときの変速特性は、現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段への変速のみを許可するように設定されているから、換言すれば、図6の電動式オイルポンプ112が正常のときの変速特性は、現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に大きいギヤ段への変速も許可するように設定されているから、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、前記第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素の数は、電動式オイルポンプ112が異常のとき(図7)は、正常のとき(図6)に比べて、増えている。
本実施形態において、電動式オイルポンプ112が異常のときとは、例えば、電動式オイルポンプ112が故障したとき、電動式オイルポンプ112が異物をかみこんで一時的に作動油を吐出できない状態になったとき、バッテリの蓄電量が不足して電動式オイルポンプ112が駆動できないとき等を含む。
次に、図8のフローチャートに基いて、前記制御コントーラ100が行う制御動作の一例を説明する。
ステップS1で、各種信号を読み込んだ後、ステップS2で、機械式オイルポンプ111と電動式オイルポンプ112との双方を駆動する領域(以下「両ポンプ駆動領域」という)か否かを判定する(第1の判定手段)。例えば、現在達成されているギヤ段、アクセル開度(要求油圧)、エンジン回転数、作動油の温度、変速の有無等から、変速機構30の作動油消費量(必要量)及び機械式オイルポンプ111の作動油供給量(吐出量)を求め、変速機構30の作動油消費量が機械式オイルポンプ111の作動油供給量を超えるときは、両ポンプ駆動領域と判定し、変速機構30の作動油消費量が機械式オイルポンプ111の作動油供給量以下のときは、機械式オイルポンプ111のみを駆動する領域と判定する。
その結果、両ポンプ駆動領域と判定されたときは、ステップS3で、前記両ポンプ駆動領域での電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないか否かを判定する。例えば、前記ステップS2で求めた変速機構30の作動油消費量から機械式オイルポンプ111の作動油供給量を減算した値を電動式オイルポンプ112の目標作動油供給量とし、この電動式オイルポンプ112の目標作動油供給量から電動式オイルポンプ112の目標吐出圧を設定する(目標吐出圧設定工程、目標吐出圧設定手段)。そして、電動式オイルポンプ112の回転数が、この電動式オイルポンプ112の目標吐出圧を実現する回転数に到達するか否かを判定し(第2の判定手段)、到達しないと判定されたときは、前記両ポンプ駆動領域での電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないと判定する。すなわち、電動式オイルポンプ112が異常と判定する。
その結果、電動式オイルポンプ112が異常と判定されないときは、ステップS4で、前記目標吐出圧を実現するように電動式オイルポンプ112の駆動制御をおこなう。一方、電動式オイルポンプ112が異常と判定されたときは、ステップS5で、マニュアルモードか否かを判定する。
その結果、マニュアルモードと判定されたときは、ステップS6で、前述の図5(a)に示したマニュアルモード変速許可マップに基いて、マニュアルモードの変速制御を行い、その際、前述の図5(b)に示したように、現在締結されていない摩擦締結要素(つまりステップS3で異常の判定がなされた時点で締結されていない摩擦締結要素)のうち、現在達成されている第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。これにより、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)が制御されて、油路L121〜L125のうちのいくつかの油路への作動油の供給量(ひいては変速機構30への作動油供給量ないし変速機構30への油圧の供給)が抑制される。換言すれば、油路L121〜L125の作動油の消費量(ひいては変速機構30の作動油消費量)が低減される。このステップS6は、作動油消費量低減工程及び作動油消費量低減手段に相当する。
一方、ステップS5でマニュアルモードと判定されないとき、つまりオートモードと判定されたときは、ステップS7で、前述の図7(a)に示したオートモード異常時変速許可マップに基いて、オートモードの変速制御を行い、その際、前述の図7(b)に示したように、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、変速許可ギヤ段(現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段)の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。これにより、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)が制御されて、油路L121〜L125のうちのいくつかの油路への作動油の供給量(ひいては変速機構30への作動油供給量ないし変速機構30への油圧の供給)が抑制される。換言すれば、油路L121〜L125の作動油の消費量(ひいては変速機構30の作動油消費量)が低減される。このステップS7は、作動油消費量低減工程及び作動油消費量低減手段に相当する。
次に、図9のフローチャートに基いて、前記制御コントーラ100が行う制御動作の他の例を説明する。
ステップS11〜S14は、図8のステップS1〜S4と同様であるので、説明は省略する。
ステップS13で、両ポンプ駆動領域での電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないと判定されたとき、すなわち、電動式オイルポンプ112が異常と判定されたときは、ステップS15で、現在締結されていない摩擦締結要素(つまりステップS13で異常の判定がなされた時点で締結されていない摩擦締結要素)に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。つまり、モードがマニュアルモードであるかオートモードであるかに拘らず、現ギヤ段を達成するために現在締結されている摩擦締結要素以外の全ての摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制するのである。これにより、油圧回路200内に配設された各種バルブ等131…131(図4参照)が制御されて、油路L121〜L125のうちの比較的多数の油路への作動油の供給量(ひいては変速機構30への作動油供給量ないし変速機構30への油圧の供給)が抑制(停止も含む)される(つまり電動式オイルポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への油圧の供給が抑制される)。換言すれば、油路L121〜L125の作動油の消費量(ひいては変速機構30の作動油消費量)が低減される。このステップS15は、作動油消費量低減工程及び作動油消費量低減手段に相当する。
(3)本実施形態の作用効果
以上説明したように、本実施形態では、エンジンにより駆動される機械式オイルポンプ111と、電動モータ112aにより駆動される電動式オイルポンプ112とを備える自動変速機1において、次のような特徴的な構成を採用した。
制御コントローラ100は、両ポンプ駆動領域で電動式オイルポンプ112が異常のとき(例えば、電動式オイルポンプ112が故障したとき、電動式オイルポンプ112が異物をかみこんで一時的に作動油を吐出できない状態になったとき、バッテリの蓄電量が不足して電動式オイルポンプ112が駆動できないとき等)は、変速機構30の作動油消費量を低減させる制御を行う(ステップS6、S7、S15)。
これにより、たとえ電動式オイルポンプ112が異常で、該ポンプ112の作動油供給量が十分でなくても問題とならず、機械式オイルポンプ111の作動油供給量と電動式オイルポンプ112の作動油供給量とを合わせた合計の作動油供給量が変速機構30にとって十分な供給量となり、電動式オイルポンプ112が異常のときの変速機構30への作動油供給量不足が回避される。
そのため、例えば、電動式オイルポンプ112が異常のときにエンジン回転速度を上昇させたり、あるいは電動式オイルポンプ112が異常のときのために予め大型の機械式オイルポンプを用いたりせずに済み、エンジン回転速度を上昇させた場合の走行安定性の低下や運転者の違和感が回避され、また、機械式オイルポンプ111を大型化した場合の搭載性の低下や燃費の悪化が回避される。
また、制御コントローラ100は、両ポンプ駆動領域での電動式オイルポンプ112の目標吐出圧を設定し(ステップS3、S13)、設定された目標吐出圧が実現されないときに電動式オイルポンプ112が異常と判定する(ステップS3、S13)。
これにより、電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現されないときに該ポンプ112が異常と判定するので、電動式オイルポンプ112の吐出圧を指標にして該ポンプ112の異常が精度よく判定される。
また、制御コントローラ100は、電動式オイルポンプ112の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときに電動式オイルポンプ112が異常と判定する(ステップS3、S13)。
これにより、電動式オイルポンプ112の回転数が前記目標吐出圧を実現する回転数に到達しないときに該ポンプ112が異常と判定するので、電動式オイルポンプ112の吐出圧を直接検出することなく該ポンプ112の回転数を検出するだけで該ポンプ112の異常が精度よく判定される。
また、制御コントローラ100は、ステップS6、S7、S15の作動油消費量低減工程では、電動式オイルポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への油圧の供給を抑制する。
これにより、電動式オイルポンプ112が異常のときは、該ポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への油圧の供給を抑制するので、結果的に、電動式オイルポンプ112が正常のときに必要とされる変速機構30への作動油供給量が抑制されることになり、そのため、たとえ電動式オイルポンプ112の作動油供給量が十分でなくても問題とならず、電動式オイルポンプ112が異常のときの変速機構30への作動油供給量不足が確実に回避される。
また、制御コントローラ100は、特にステップS15の作動油消費量低減工程では、現在締結されていない摩擦締結要素に油圧を供給する油路(L121〜L125の一部)への油圧供給を抑制する。
これにより、電動式オイルポンプ112が異常のときは、現在締結されていない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給(この油圧供給は、例えば、変速時間の短縮化、迅速化を図るために、現在締結されていない摩擦締結要素に通じる油路にも油圧を予め供給しておくものである)を抑制するので、現在達成されているギヤ段を確保して走行を継続しつつ、変速機構30への作動油供給量不足が確実に回避される。
また、制御コントローラ100は、特にステップS6、S7の作動油消費量低減工程では、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、現在達成されている第1のギヤ段から判断して達成される可能性が相対的に高い第2のギヤ段(図5(b)の変速許可ギヤ段、図7(b)の変速許可ギヤ段)の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。
これにより、電動式オイルポンプ112が異常のときは、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、現在達成されている第1のギヤ段から判断して達成される可能性が相対的に高い第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、現在達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、変速機構30への作動油供給量不足が確実に回避される。
また、制御コントローラ100は、特にマニュアルモードが選択されているときは、ステップS6の作動油消費量低減工程では、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、現在達成されている第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。
これにより、マニュアルモードが選択されているときに、電動式オイルポンプ112が異常のときは、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、現在達成されている第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、現在達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から一度の手動操作によって達成される第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、変速機構30への作動油供給量不足が確実に回避される。
また、制御コントローラ100は、特にオートモードが選択されているときは、ステップS7の作動油消費量低減工程では、変速特性を現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段への変速のみを許可するように設定された変速特性に変更し、より具体的には、図6(a)のオートモード正常時の変速許可マップを図7(a)のオートモード異常時の変速許可マップに変更し、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、前記第2のギヤ段(現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい変速許可ギヤ段)の達成時にも締結されない摩擦締結要素に油圧を供給する油路への油圧供給を抑制する。
これにより、オートモードが選択されているときに、電動式オイルポンプ112が異常のときは、図6(a)のオートモード正常時の変速許可マップを図7(a)のオートモード異常時の変速許可マップに変更することで、現在締結されていない摩擦締結要素のうち、現在達成されている第1のギヤ段からギヤ段位の変化が相対的に小さい第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素(この第2のギヤ段の達成時にも締結されない摩擦締結要素の数は、図6と図7とを比較すると分かるように、電動式オイルポンプ112が異常のときは、正常のときに比べて、増えている)に通じる油路への油圧の供給を抑制するので、現在達成されている第1のギヤ段を確保して走行を継続しつつ、且つ、第1のギヤ段から変速が許可された第2のギヤ段への変速時間の短縮化も確保しつつ、油路L121〜L125への油圧の供給を抑制する摩擦締結要素の数が増えていることから、変速機構30への作動油供給量不足が確実に回避される。
また、本実施形態においては、制御コントローラ100は、ステップS6、S7、S15の作動油消費量低減工程をアクセル開度の増大時に実行するのが好ましい。
アクセル開度の増大時は、エンジントルクは応答性よく増大するが、エンジン回転は慣性の影響のため遅れて増大する。そのため、変速機構30の作動油消費量の増大に機械式オイルポンプ111の作動油供給量の増大が追いつかなくなり、締結中の摩擦締結要素がスリップする可能性が生じる。したがって、そのような状況下において変速機構30の作動油消費量を低減させることにより、変速機構30への作動油供給量不足が回避され、結果として、締結中の摩擦締結要素のスリップが抑制されるからである。
また、本実施形態においては、制御コントローラ100は、ステップS6、S7、S15の作動油消費量低減工程を作動油の温度が所定温度以上のときに実行するのが好ましい。
作動油の温度が所定温度以上のときは、作動油の粘性が低く、作動油の漏れが多くなる。そのため、変速機構30の作動油消費量が増大する。したがって、そのような状況下において変速機構30の作動油消費量を低減させることにより、変速機構30への作動油供給量不足が回避されるからである。
また、本実施形態においては、前記両ポンプ駆動領域は、エンジン回転数が所定回転数未満の領域であることが好ましい。
エンジン回転数が所定回転数未満の領域では、機械式オイルポンプ111の作動油供給量が不足する傾向にある。したがって、エンジン回転数が所定回転数未満の領域で電動式オイルポンプ112も駆動することによって、機械式オイルポンプ111の作動油供給量不足が補われるからである。一方、エンジン回転数が所定回転数以上の領域では、機械式オイルポンプ111の作動油供給量が十分となる。したがって、エンジン回転数が所定回転数以上の領域では、電動式オイルポンプ112は駆動する必要がなくなるからである。
(4)他の実施形態
前記実施形態では、ステップS3、S13で、電動式オイルポンプ112の回転数に基いて電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないか否かを判定したが、これに限らず、例えば第2油路L2に油圧センサ109(図4参照)を配置し、この油圧センサ109で検出される第2油路L2内の油圧を電動式オイルポンプ112の吐出圧と看做し、前記第2油路L2内の油圧に基いて電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないか否かを判定してもよい。
あるいは、レギュレータバルブ127の一端にタッチセンサ110(図4参照)を配置し、このタッチセンサ110の信号がオンに固定されていることで、電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないと判定することもできる。すなわち、レギュレータバルブ127には、前述したように、機械式オイルポンプ111から吐出された作動油と電動式オイルポンプ112から吐出された作動油とが相互に合流した作動油が第3油路L3を経て供給され、供給された作動油はレギュレータバルブ127で所定圧に調圧されて第4油路L4に供給される一方で、余剰の作動油は第6油路L6を経て潤滑油路202に供給される。電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現しているときは、第3油路L3内の油圧は前記調圧用の所定圧よりも高く、そのためレギュレータバルブ127のスプールはレギュレータバルブ127の両端に当接しない調圧状態に維持される。したがって、前記タッチセンサ110でレギュレータバルブ127のスプールがレギュレータバルブ127の一端に当接し続けていること(タッチセンサ110の信号がオンに固定されていること)が検出されたときは、レギュレータバルブ127のスプールは調圧状態になく、レギュレータバルブ127には前記調圧用の所定圧よりも低い油圧が供給されていることになる。このことは電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現していないことを意味し、これにより、レギュレータバルブ127の一端に配置したタッチセンサ110の信号がオンに固定されていることで、電動式オイルポンプ112の目標吐出圧が実現できないと判定することができる。