実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1に係る画像読取装置100の構成を概略的に示す模式図である。図1には、画像読取装置100の撮像光学系の構造の一部を概略的に示す斜視図(左側)と、画像信号処理系(ラインメモリ105及び画像処理部106)の構成を概略的に示すブロック図(右側)とが含まれている。また、図2は、画像読取装置100の撮像光学系を図1のS1−S2線方向に見る概略的な断面及び主要な光線を示す模式図である。なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を用いる。画像の読み取りにおける主走査方向DXをX軸方向、主走査方向DXに直交する副走査方向DYをY軸方向、並びに主走査方向DX及び副走査方向DYの両方に直交する深度方向DZをZ軸方向とする。また、以下の説明において、Z軸方向は、画像読取装置100で読み取る原稿(被撮像物)の厚み方向である。
まず始めに、図1の左側に示される画像読取装置100の撮像光学系の構成を説明する。画像読取装置100の撮像光学系は、結像光学系101と、照明光源102と、天板103と、基板104上に配置された複数のラインセンサ141、142、・・・148とを有している。
天板103は、被撮像物の一例である原稿(図1には示さず)が載置される透明な原稿載置部材、例えば、ガラス板である。天板103は、原稿の深度方向DZの位置、すなわち、結像光学系101から原稿の被撮像物までの距離、を決める位置決め部として機能する。天板103は、原稿を天板103の上面103aの位置又はこの上面103aから深度方向DZにずれた位置に載置させる。本実施の形態においては、天板103の上面103aを合焦位置としており、原稿の読み取り位置に存在する被撮像領域31、32、・・・38が合焦位置にあるときには、原稿の被撮像領域31、32、・・・38から結像光学系101を通してラインセンサ141、142、・・・148に画像が結像される。ラインセンサの構成については後述する。被撮像領域31、32、・・・38は、原稿の天板103側の面であって、ラインセンサ141、142、・・・148によって読み取られる領域(視野範囲)であり、主走査方向DXに並ぶ複数の領域である。なお、後述するが、これらの被撮像領域31、32、・・・38は、主走査方向(X軸方向)に一部重複する領域があるように設定されている。
なお、天板103は、被撮像物の位置決め部として機能し、原稿の被撮像領域31、32、・・・38を撮像可能にできる構成であれば、ガラス板に限定されず、原稿を位置決めできる他の手段であってもよい。また、被撮像物には、文章、書画、写真などを表示した原稿の他に、紙幣、人間の指などのように、画像を読み取る対象となり得るすべてのものが含まれる。
照明光源102は、例えば、蛍光灯又はLEDなどから構成される。照明光源102は、例えば、天板103の下方であって原稿の被撮像領域31、32、・・・38の読み取りに支障が生じない位置に配置される。照明光源102は、原稿の被撮像領域31、32、・・・38に光を照射する。なお、照明光源102の形状は、図1に示されるような長尺形状に限定されず、他の形状であってもよい。また、図1には、照明光源102が、結像光学系101の副走査方向DYの一方の側にのみ配置されている場合を示したが、照明光源を結像光学系101の副走査方向DYの両側に配置してもよい。
結像光学系101は、千鳥状に配列された複数の短尺のラインセンサ141、142、・・・148に対応するように、千鳥状に配列された複数の結像光学部111、112、・・・118を含む。結像光学部111、112、・・・118のそれぞれは、機能的に独立した光学手段であり、被撮像領域31、32、・・・38の画像を、対応する複数の短尺のラインセンサ141、142、・・・148に結像させる機能を有する。複数の結像光学部111、112、・・・118は、XY面に平行な面上で千鳥状に配置されている光学セル(円柱状の形状で模式的に図示)によって構成される。また、本実施の形態において、複数の結像光学部111、112、・・・118は千鳥状に配置されているので、主走査方向DX方向に並ぶ奇数番目の1列の結像光学部111、113、・・・117を第1グループG21に属する第1の結像光学部といい、主走査方向DX方向に並ぶ偶数番目の1列の結像光学部112、114、・・・118を第2グループG22に属する第2の結像光学部と記載する。結像光学部111、112、・・・118及びこれらに対応するラインセンサ141、142、・・・148は、それぞれに対応する被撮像領域31、32、・・・38が主走査方向DXに互いに一部重複するように配置されている。
第1グループG21に属する第1の結像光学部111、113、115および117は、それぞれに対応する原稿の被撮像領域31、33、35および37から第1の結像光学部111、113、115および117に向かう第1の光の主光線が互いに平行になるように構成されている。すなわち、第1グループG21に属する第1の結像光学部111、113、115および117は、それらのそれぞれの光軸が互いに平行になるように構成されている。また、第2グループG22に属する第2の結像光学部112、114、116および118は、それぞれに対応する原稿の被撮像領域32、34、36および38から第2の結像光学部112、114、116および118に向かう第2の光の主光線が互いに平行になるように構成されている。すなわち、第2グループG22に属する第2の結像光学部112、114、116および118は、それらのそれぞれの光軸が互いに平行になるように構成されている。
また、図2は、原稿70が天板103の上面103aに密着して配置された場合、すなわち原稿70が合焦位置にある場合の画像読取装置100の撮像光学系を図1のS1−S2線方向に見る概略的な断面及び主要な光線を示す模式図である。図2に示されるように、画像読取装置100の結像光学系101を図1のS1−S2線方向に見た場合に、第1グループG21に属する第1の結像光学部113の光軸113aは、天板103の上面103aの垂線103bに対して傾斜しており、天板103の上面103aと垂線103bとの交点Fa1を通っている。他の第1の結像光学部111、115および117は、第1の結像光学部113と同様に配置されている。
同様に、第2グループG22に属する第2の結像光学部114の光軸114aは、垂線103bに対して、光軸113aと反対側に傾斜しており、天板103の上面103aと垂線103bとの交点Fa2を通っている。他の第2の結像光学部112、116および118は、第2の結像光学部114と同様に配置されている。なお、交点Fa1とFa2とは、図2においては重なって見えるが、実際にはX軸方向にずれている。
図1において、ラインセンサ141、142、・・・148は、結像光学部111、112、・・・118に対応するように基板104上に配置されている。ラインセンサ141、143、145および147は、第1グループG21に属する第1の結像光学部111、113、115および117にそれぞれ対応するように配置されており、ラインセンサ142、144、146および148は、第2グループG22に属する第2の結像光学部112、114、116および118にそれぞれ対応するように配置されている。第1グループG21に対応するラインセンサ141、143、145および147の集合を第1の撮像手段、第2グループG22に対応するラインセンサ142、144、146および148の集合を第2の撮像手段と記載する。
図3は、本実施の形態におけるラインセンサと結像光学系との位置関係を示す図である。図3(a)は、ひとつのラインセンサ141を上面から見た図であり、図3(b)は、このラインセンサ141と結合光学系101との光学的な関係を示す断面模式図である。ここで、カラー原稿を読み取る場合、ラインセンサ141は、図3(a)に示すように、R(赤)、G(緑)およびB(青)の光を透過するカラーフィルタを備えた3本のライン状の受光素子を副走査方向に所定の間隔で平行に並べたものであってもよい。この構成の場合、図3(b)に示すように、R、GおよびBのライン状の受光素子がそれぞれずれた位置を撮像しているため、被撮像物とラインセンサとの相対的な移動速度に合わせてR、G、Bのライン状の受光素子からの読み取りタイミングを同期させるか、後段の画像処理で位置ずれを補正することによってR、G、Bのライン状の受光素子で撮像された画像の位置合わせを行う。また、図3(b)に示すように、ラインセンサ141とこのラインセンサ141に対応する結像合光学系111との相対的位置(光軸中心位置からの副走査方向へのオフセット)が、R、GおよびBのライン状の受光素子間でわずかに異なっているため、R、GおよびBの色成分ごとにMTF特性が異なっていることを想定する。なお、ラインセンサ141以外の全てのラインセンサ142、143、・・・148もラインセンサ141と同様にカラーフィルタを備えた3本のセンサで構成されているものとする。
なお、本実施の形態の画像読取装置においては、図1に示すように、結像光学系101が、第1グループG21に属する第1の結像光学部111、113、115および117と第2グループG22に属する第2の結像光学部112、114、116および118とからなる構成で説明を行うが、このような態様に限定されず、結像光学系101が副走査方向DYに3列以上配置されている構成でもよい。
また、本実施の形態の画像読取装置においては、複数の結像光学部111、112、・・・118がXY面に平行な面上で千鳥状に配置された構成を示したが、このような態様に限定されず、複数の結像光学部の配置は、対応する被撮像領域において、隣接する被撮像領域が主走査方向DXに一部重複する領域を有するように構成される配置であれば、千鳥状以外の配置であってもよい。
さらに、本実施の形態の画像読取装置においては、結像光学系101は、4個の光学手段で構成された第1の結像光学部と4個の光学手段で構成された第2の結像光学部とで構成されているが、このような態様に限定されず、結像光学系101が、主走査方向DXの位置及び副走査方向DYの位置が異なり、対応する被撮像領域において、隣接する被撮像領域の一部が重なる少なくとも1個の光学手段で構成された第1の結像光学部と少なくとも1個の光学手段で構成された第2の結像光学部とを含む構成でもよい。また、光学手段の配置及び個数も、結像光学部の配置及び個数に応じて変更することができる。
また、本実施の形態の画像読取装置においては、光学手段としての結像光学部111、112、・・・118を、円柱状の形状で模式的に示したが、結像光学部の構成は円柱状の形状に限定されるものではない。被撮像領域31、32、・・・38からの光を集光し、それぞれの被撮像領域に対応するラインセンサ141、142、・・・148に結像させるように構成された任意の光学系を用いることができる。その構成例は、円柱状の集光レンズを各ラインセンサ上に並べた光学系(一般にセルフォックレンズアレイと称されるもの)であってもよいし、被撮像物からの光を折り曲げるミラーと反射型の集光素子とを含んだ反射光学系を構成してもよい。反射光学系により構成される結像光学系101の具体的な構成例を次に説明する。
図4〜6は、本実施の形態における結像光学系の構成を示す斜視図である。図4〜図6においては、説明の便宜上、図1に示した構成のうち、結像光学系101と天板103(図4には示さず)と基板104上に配置された複数のラインセンサ141、142、・・・148のみを図示している。
図4は、本実施の形態における結像光学系の構成を示す斜視図である。図4において、結像光学系101の具体的な構成例として、第1グループG21に属する第1の結像光学部411(図1における結像光学部111、113、115および117等に対応)は、折曲げミラー451aと、反射型の集光素子(例えば、集光ミラー)である第1凹面鏡452aと、絞りとして機能するアパーチャ453aと、反射型の集光素子(例えば、集光ミラー)である第2凹面鏡454aと、折曲げミラー455aと、これらの保持構造体とで構成されている。また、第2グループG22に属する第2の結像光学部412(図1にて結像光学部112、114、116および118等に対応)は、折曲げミラー451bと、反射型の集光素子である第1凹面鏡452bと、絞りとして機能するアパーチャ453bと、反射型の集光素子である第2凹面鏡454bと、折曲げミラー455bと、これらの保持構造体とで構成されている。さらには、アパーチャ453aを透過型とし、同一グループG21又はG22内において隣接する結像光学部間に遮光壁471を設け、アパーチャ453a及び453bよりも光の進行方向の下流における光路において、迷光を侵入させ難い構成としている。
図5は、図4に示した結像光学系において、天板103のに載置された原稿70からの読み取り光線がラインセンサ104へ到達するまでの光路を示したものである。この図5に示したように、原稿70の被撮像領域から出射された読み取り光線は、折曲げミラー451a、第1凹面鏡452aアパーチャ453a、第2凹面鏡454aおよび折曲げミラー455aを経由してラインセンサ104に到達する。
図6は、図4に示した結像光学系のS3−S4線方向に見る概略的な断面図である。この図6に示したように、原稿面から結像光学部への光路の途中に光路を水平方向に向ける第1の折曲げミラー451a及び451bが挿入されており、また、第2凹面鏡454aからラインセンサ141への光路の途中にも第2の折曲げミラー455a及び455bが挿入されている。第2の折曲げミラーにより折曲げる方向は、第1グループG21及び第2グループG22の何れについてもラインセンサ141、143又は142、144側である。図6に示されるように、天板103に対して各光学セルの光軸は、副走査方向DYに関して斜めに(すなわち、Z軸方向を基準して所定方向の角度で)入射する。このように、図4〜図6に示す結像光学系101の構成例においては、各結像光学部が、第1凹面鏡452a(又は452b)と、第2凹面鏡454a(又は454b)の2つの凹面鏡を有しているので、画像読取装置100の厚み方向(Z軸方向)及び幅方向(Y軸方向)において画像読取装置100の撮像光学系を小型化することができる。
また、図4〜図6に示す結像光学系101の構成例では、第1凹面鏡452aの後ろ側焦点位置にアパーチャ453aを配置すれば、原稿側にテレセントリックな光学系を実現できる。この場合、結像倍率は1より大きい拡大でも、1より小さい縮小でもよいが、等倍にしておくことによって、一般に流通している解像度のセンサを使用することができるという利点がある。また、原稿側にテレセントリックな光学系であることにより、原稿70が天板103から浮いた状態となり、図6に示したように画像読み取り位置が73、74または75と変化しても、ラインセンサに対する画像の転写倍率が変化することがないという利点がある。
なお、結像光学系101の構造は、上記態様に限定されず、第1凹面鏡452a、452b又は第2凹面鏡454a、454bを、レンズと反射ミラーの組み合わせなど、他の光学部材を用いて構成してもよい。また、各結像光学部が有する凹面鏡の数を、1枚又は3枚以上とすることもできる。
以上が、画像読取装置100の撮像光学系の構成の説明である。
次に、図1の右側に示される画像読取装置100の画像信号処理系の構成を説明する。画像読取装置100の画像信号処理系は、ラインセンサ141、142、・・・148によって撮像された画像データを一時的に保持するラインメモリ105と、各画像データ間のMTF特性のばらつきを補正したのち補正された画像データの結合を行う画像処理部106とを有している。
ラインメモリ105は、第1グループG21に対応するラインセンサ141、143、145および147並びに第2グループG22に対応するラインセンサ142、144、146および148によって取得された画像データを一時的に保持するものであり、主走査方向に読み取った被撮像領域31、32、・・・38の画像を、1ラインの画像として複数のラインの画像データを記憶保持する。
画像処理部106は、ラインメモリ105に保持されたラインセンサ141、142、・・・148に対応する画像データごとにMTFを補正したのち、これらの画像を結合する処理を行う機能を有しており、MTF補正パラメータ記憶手段106aと、MTF補正手段106bと、画像結合手段106cとにより構成されている。なお、図1には、ラインメモリ105と画像処理部106とを別個の構成として示しているが、これらは、例えば、同じ回路基板上の一体的な構成であってもよい。
MTF補正パラメータ記憶手段106aは、ラインセンサ141、142、・・・148により撮像された画像データのMTF特性のばらつきを補正するために、予めラインセンサごとに設定されたMTF補正パラメータを記憶する手段である。ここで、MTF補正パラメータは、工場出荷時やメンテナンス時に事前に基準チャート(後述)を用いてラインセンサごとのMTF特性のばらつきを測定し、そのばらつきを補正するために必要なラインセンサごとの補正量を算出しておいたものである。また、ラインセンサ141、142、・・・148のそれぞれがR、G、Bのセンサからなる場合には、MTF補正パラメータ記憶手段106aは、各ラインセンサに対して、色成分ごとのMTF補正パラメータを記憶していることとしてもよい。この場合は、基準チャートを用いて各ラインセンサに対して、色成分ごとにMTF特性のばらつきを測定しておく。さらに、MTF補正パラメータ記憶手段106aは、各ラインセンサ、各色成分について主走査方向のMTF補正パラメータと、副走査方向のMTF補正パラメータとを別々に記憶していることとしてもよい。本実施の形態では、MTF補正パラメータ記憶手段106aが、各ラインセンサ、各色成分についての主走査方向MTF補正パラメータと、副走査方向MTF補正パラメータを記憶しているものとする。ここで、各ラインセンサをNで表し、色成分をcで表すとして、MTF補正パラメータ記憶手段106aが記憶している主走査方向MTF補正パラメータをKH(N,c)、副走査方向MTF補正パラメータをKV(N,c)と表記する。これらの補正パラメータKH(N,c)およびKV(N,c)は、0から1までの値を取るものとする。
MTF補正手段106bは、MTF補正パラメータに応じて周波数応答特性が制御可能なフィルタ処理を行って、ラインセンサごとの画像データのMTFを補正する手段である。また、ラインセンサのそれぞれがR、G、Bのセンサからなる場合には、MTF補正手段106bは、MTF補正パラメータに応じて周波数応答特性が制御可能なフィルタ処理を行って、各ラインセンサに対して、色成分ごとの画像データのMTFを補正する手段である。
図7は、本実施の形態に係るMTF補正手段106bの具体的な構成示す模式図である。図7では、複数のラインセンサ、色成分の画像データのうち、1つのラインセンサ(ラインセンサNと表記)、1つの色成分(色成分cと表記)についての画像データを入力画像IN(N,c)としたときの処理ブロック図を示すものであり、すべてのラインセンサに対して、色成分の画像データについてMTF補正パラメータを変えながら同じ処理を行う。図7に示すように、MTF補正手段106bは、主走査方向フィルタ手段501と、副走査方向フィルタ手段502と、加重加算手段503とから構成されている。
主走査方向フィルタ手段501は、入力画像IN(N,c)の主走査方向(水平方向)の高周波数成分を減衰させた主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)を生成する機能を有する。副走査方向フィルタ手段502は、入力画像IN(N,c)の副走査方向(垂直方向)の高周波数成分を減衰させた副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)を生成する機能を有する。加重加算手段503は、入力画像IN(N,c)と、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)と、副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)とを、MTF補正パラメータから決定されるブレンド比率に従って加重加算してMTF補正画像OUT(N,c)を生成する機能を有する。ブレンド比率については後述する。
図8は、本実施の形態における主走査方向フィルタ手段501の特性を示す特性図である。図8(a)は、フィルタ係数の設定例を示した図である。図8(a)において、横軸は、処理対象画素の位置を原点とした周辺画素(タップ)の位置を表し、縦軸は、各タップの位置の画素値に対して乗算するフィルタ係数を表す。また、図8(b)は、図8(a)に示したフィルタ係数をフーリエ変換することにより求めたフィルタ処理の周波数特性を示す図である。
主走査方向フィルタ手段501は、入力画像IN(N,c)の各画素データについて、主走査方向の近傍に存在する画素の値を所定のフィルタ係数で重み付け加算することによって主走査方向の高周波数成分を減衰させた主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)を生成する。所定のフィルタ係数は、例えば、処理対象画素を中心とした主走査方向の近傍の17画素(中心1画素、左8画素、右8画素)に対して(このとき、タップ数を8と表現する)、図8(a)に示したようなフィルタ係数を用いることができる。主走査方向フィルタ手段501は、入力画像IN(N,c)の各画素について、主走査方向の周辺17画素(タップ)内の各画素データの値に図8(a)に示したフィルタ係数を乗算し、これらを周辺17画素(タップ)内で合計した結果を主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)の処理対象画素の値として出力するものであって、この処理を入力画像IN(N,c)内の全画素データについて行うことで、主走査方向LPF画像LPFH(N,c)を生成する。
図8(a)に示したフィルタ係数は、ローパスフィルタ(LPF;Low Pass Filter)の特性を有しており、例えば、0.6cycles/pixelの周波数において振幅応答が−2.14dBであり、これはすなわち、0.6cycles/pixelの周波数におけるMTFを0.78倍(−2.14dB)に低下させる特性をもつことを意味する。ここで、図8(b)において、正規化周波数0.5cycles/pixelはナイキスト周波数である。このように、主走査方向フィルタ手段501は、ある特定の周波数における主走査方向のMTFを所定の量だけ減衰させる機能を有するものである。
副走査方向フィルタ手段502においても、主走査方向フィルタ手段501と同様の処理を行い、副走査方向LPF画像LPFV(N,c)を生成する。
なお、主走査方向フィルタ手段501及び副走査方向フィルタ手段502におけるフィルタ係数及び周波数特性は、図8で示したものに限定されるものではない。ある特定の周波数におけるMTFを所定の量だけ減衰させる機能を有するものであれば、任意のフィルタ係数及び周波数特性のフィルタを設計可能である。本実施の形態では、図8(b)に示したように、低周波数(0から0.3cycles/pixel程度の周波数)の領域において略フラットであって、高周波数側に行くにつれて徐々に振幅応答が低下する(急峻に低下しない)特性をもつ設定例を用いた。これにより、目標とするナイキスト周波数付近の周波数におけるMTFを適切に補正しつつ、他の周波数の信号に対して与える影響を小さくすることができる。また、光学系の設計要因によって周波数ごとのラインセンサ間、色成分間のMTF特性の差が予め分かっている場合には、周波数ごとのMTF補正量の目標値を算出し、各周波数でMTFを補正量の目標値に比例する量だけ低下させるような周波数特性をもったフィルタを設計すれば、多くの周波数成分に対してMTFを適切に補正できるようになる。さらに、用いるフィルタ係数は、主走査方向フィルタ手段501と副走査方向フィルタ手段502とで異なっていてもよい。光学系の設計要因により、MTF特性が主走査方向と副走査方向で異方性をもっている場合には、主走査方向と副走査方向とで個別にフィルタ係数を設計することで、それぞれの方向に対して適切にMTFを補正できるようになる。
加重加算手段503は、MTF補正パラメータ記憶手段106aから、処理対象となっているラインセンサN、色成分cに対応するMTF補正パラメータKH(N,c)およびKV(N,c)を読み出し、入力画像IN(N,c)、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)および副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)に対して、それぞれ{1−KH(N,c)−KV(N,c)}、KH(N,c)およびKV(N,c)をブレンド比率として乗算したのち、これらの画像を加算してOUT(N,c)を生成する。
MTF補正手段106bは、全てのラインセンサ(N)、全ての色成分(c)に対する入力画像IN(N,c)に対して、それぞれ対応するMTF補正パラメータKH(N,c)、KV(N,c)を用いて上述の処理を適用する手段を有しており、全てのラインセンサ、全ての色成分に対する出力画像OUT(N,c)を生成する。なお、主走査方向フィルタ手段501及び副走査方向フィルタ手段502は、異なるラインセンサ、色成分間で共通のフィルタ係数を用いてもよいし、ラインセンサごと、色成分ごとに、フィルタ係数が異なるようにしてもよい。
画像結合手段106cは、MTF補正手段106bによってMTFが補正された全てのラインセンサ(N)、全ての色成分(c)に対するOUT(N,c)を結合して画像読取装置100の出力画像を生成する手段である。
以上が、画像信号処理系の構成の説明である。なお、画像処理部106における各手段は、上述のような処理機能を電気回路などのハードウェアによって実行する手段、又は上述のような処理機能をコンピュータプログラムなどのソフトウエアによって実行する手段のいずれか、あるいはそれらの手段が混在する構成であってもよい。
また、画像処理部106は、上述した処理以外に、画像反転処理や、各ラインセンサの画素ごとの黒レベルや白レベルを補正する黒補正・白補正(シェーディング補正)処理の機能を含んでもよい。画像反転処理とは、図4〜図6に示した反射光学系により、各ラインセンサ上に反転像として作られた原稿の画像を、画像処理によって反転させることによって反転を打ち消す処理である。画像反転処理は、画像処理部106前段に専用の回路で設けて行ってもよいし、ラインメモリ105へ画像データを格納するときの順序とラインメモリ105から画像データを読み出すときの順序とを逆にすることにより行ってもよい。
黒補正とは、得られている初期画像の画素値から、照明光源102がなく結像光学系101が暗時状態にあるときの短尺のラインセンサ141、142、・・・148の出力値(バックグラウンド値)を差し引く補正である。このバックグラウンド値は、黒補正データとして原稿読取前に事前に測定してその黒補正データを取得しておき、図示しない黒補正データ記憶手段などに記憶しておいてもよい。
白補正とは、画素値がある所定の白ターゲット値になるように、均一な白い原稿を読み取ったときに黒補正後の画素値にゲインを乗算する補正である。このゲインは、事前に白基準板を用いて画素値を測定し、この画素値と白ターゲット値から求めることができる。このようにして、事前に測定で得られたゲインを図示しない白補正データ記憶手段などに記憶しておいてもよい。
白補正では、照明光源102の主走査方向照度分布、結像光学系101の周辺光量比、および短尺のラインセンサ141、142、・・・148の各画素の感度ばらつきなどの静的な誤差要因を補正することができる。
このような黒補正・白補正(シェーディング補正)によって、均一な反射特性(均一な明るさ)をもつ原稿を読んだときに、均一な明るさの出力画像が得られるようになる。
次に、本実施の形態の画像読取装置100において、被撮像物(原稿)の画像を読み取って出力画像が生成されるまでの動作を説明する。
まず、画像読取装置100は、図1に示す主走査方向DXに沿って天板103上の原稿の被撮像領域31、32、・・・38の画像を、ラインセンサ141、142、・・・148で読み取り、主走査方向DXの読み取りが完了する毎に、副走査方向DYに読み取り位置を相対的に移動させる。この副走査方向DYの読み取り位置の移動は、原稿をY軸方向へ移動させる、又は結像光学系101および基板104をY軸方向へ移動させることのいずれかによって行うことができる。
図9は、本実施の形態における画像処理を示す模式図である。図9においては、画像読取装置100の4つのラインセンサから得られる画像(a)と、それらをMTF補正して得られるMTF補正画像(b)、及びそれらを結合して得られる出力画像(c)を左から順に示している。図9は、説明を容易にするため、主走査方向に加えて原稿を副走査方向に一旦読み終えた後の二次元の画像に対して、MTF補正処理と画像結合処理が行われる場合の図を表している。
ラインセンサ141、142、・・・148から出力される画像データは、図9(a)に示すように原稿を主走査方向に裁断した短冊型の画像データになる。なお、図9(a)において、画像80、81、82および83は、4つのラインセンサ141、142、143および144から得られる画像である。このような画像データが、原稿の副走査方向の走査に従って、1ラインずつラインメモリ105に保持される。
実際には、ラインセンサで原稿を読み取りながら画像処理部106にてMTF補正手段106bによるMTF補正処理と画像結合手段106cによる画像結合処理とがリアルタイムで行われるため、ラインメモリ105に保持される副走査方向のデータサイズは数十ライン分のみであり、原稿の副走査方向の走査に従い、処理に必要でなくなった画像データを1ライン分削除し、新たに読み込まれた画像データを1ライン分追加しながら、順次MTF補正処理と画像結合処理とが行われていく。
画像処理部106では、まず、MTF補正手段106bにおいて、各ラインセンサに対応するMTF補正パラメータを用いて画像80、81、82および83(図9(a))のMTFをそれぞれ補正し、MTF補正画像90、91、92および93(図9(b))を得る。ここで、ラインセンサのそれぞれがR、G、Bのセンサからなる場合には、画像80、81、82および83はそれぞれR成分、G成分、B成分からなっており、各ラインセンサ、各色成分に対応するMTF補正パラメータを用いて画像80のR成分、画像80のG成分、画像80のB成分、画像81のR成分、画像81のG成分、画像81のB成分、画像82のR成分、画像82のG成分、画像82のB成分、画像83のR成分、画像83のG成分および画像83のB成分のMTFをそれぞれ補正して、MTF補正画像90のR成分、MTF補正画像90のG成分、MTF補正画像90のB成分、MTF補正画像91のR成分、MTF補正画像91のG成分、MTF補正画像91のB成分、MTF補正画像92のR成分、MTF補正画像92のG成分、MTF補正画像92のB成分、MTF補正画像93のR成分、MTF補正画像93のG成分およびMTF補正画像93のB成分を生成する。
ここで、MTF補正手段106bにおけるMTF補正の動作についてより詳しく説明する。MTF補正手段106bは、主走査方向フィルタ手段501において、所定のフィルタ係数により定義されるローパスフィルタを入力画像IN(N,c)の主走査方向に作用させることにより、入力画像IN(N,c)のある特定の周波数における主走査方向のMTFを所定の量だけ減衰させた主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)を生成する。また、副走査方向フィルタ手段502において、所定のフィルタ係数により定義されるローパスフィルタを入力画像IN(N,c)の副走査方向に作用させることにより、入力画像IN(N,c)のある特定の周波数における副走査方向のMTFを所定の量だけ減衰させた副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)を生成する。次に、加重加算手段503において、ラインセンサN、色成分cに対応する主走査方向MTF補正パラメータKH(N,c)および副走査方向MTF補正パラメータKV(N,c)をMTF補正パラメータ記憶手段106aから読み出し、入力画像IN(N,c)、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)および副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)に対して、{1−KH(N,c)−KV(N,c)}、KH(N,c)およびKV(N,c)をそれぞれブレンド比率として乗算したのち、これらの画像を加算してOUT(N,c)を生成する。MTF補正手段106bにおける各処理の入出力関係を数式で表すと次式のようになる。
ここで、IN(N,c)(x,y)、LPFH(N,c)(x,y)、LPFV(N,c)(x,y)およびOUT(N,c)(x,y)は、それぞれ主走査方向の座標x、副走査方向の座標yにおける、入力画像IN(N,c)、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)、副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)および出力画像OUT(N,c)の画素値を表す。また、tapHは主走査方向フィルタ手段501のフィルタ係数の片側のタップ数、wH(i)(i=−tapH、・・・tapH)は主走査方向フィルタ手段501のフィルタ係数、tapVは副走査方向フィルタ手段502のフィルタ係数の片側のタップ数、およびwV(i)(i=−tapV、・・・tapV)は副走査方向フィルタ手段502のフィルタ係数である。
ここで、タップ数とは、フィルタ画像の各画素の画素値を算出するために、入力画像IN(N,c)の処理対象画素を中心に参照する周辺画素の数を表している。例えば、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)を算出する1式は、主走査方向のタップ数tapHのとき、処理対象画素を中心として片側(左側)にtapH画素、片側(右側)にtapH画素および中心1画素の合計(2×tapH+1)画素を参照することを意味する。同様に、副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)を算出する2式は、副走査方向のタップ数tapVのとき、処理対象画素を中心として片側(左側)にtapV画素、片側(右側)にtapV画素および中心1画素の合計(2×tapV+1)画素を参照することを意味する。
上記の動作によって、MTF補正手段106bにおいてMTF補正が可能となる原理について説明する。主走査方向フィルタ手段501は、所定のフィルタ係数により定義されるローパスフィルタを入力画像IN(N,c)の主走査方向に作用させることにより、入力画像IN(N,c)のある特定の周波数における主走査方向のMTFを所定の量だけ減衰させる。例えば、図8(a)で示したフィルタ係数を用いた場合には、図8(b)に示されるように、0.6cycles/pixelの周波数におけるMTFの減衰量は−2.14dB(0.78倍)であるので、仮に、入力画像IN(N,c)の0.6cycles/pixelの周波数における主走査方向のMTFが40%であったとすると、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)の0.6cycles/pixelの周波数における主走査方向のMTFは40%×0.78≒31.2%になるということを意味する。同様に、副走査方向フィルタ手段502は、図8(a)で示したフィルタ係数により定義されるローパスフィルタを副走査方向に作用させることにより、入力画像IN(N,c)の0.6cycles/pixelの周波数における副走査方向のMTFを0.78倍に減衰させた副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)を生成する。
ここで、MTF補正パラメータとして、KH(N,c)=0かつKV(N,c)=0を用いた場合、加重加算手段503における入力画像IN(N,c)に対するブレンド比率が1となり、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)および副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)に対するブレンド比率がともに0となるから、出力画像OUT(N,c)における主走査方向、副走査方向のMTFは共に入力画像IN(N,c)から変化しない(1.0倍である)。一方、MTF補正パラメータとして、KH(N,c)=1かつKV(N,c)=0を用いた場合、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)に対するブレンド比率が1となり、入力画像IN(N,c)および副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)に対するブレンド比率がともに0となるから、出力画像OUT(N,c)における主走査方向のMTFは0.78倍、副走査方向のMTFは1.0倍(変化しない)となる。このように、KH(N,c)として0〜1の間の値を設定することにより、主走査方向のMTFの減衰量を1.0倍から0.78倍までの間で調節することができる。
さらに、KH(N,c)とMTF減衰量との関係は線形であるため、例えばKH(N,c)=0.5のときは、主走査方向のMTFが0.61倍(=1.0−0.78×0.5)となった出力画像OUT(N,c)が得られる。一方、主走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)は、副走査方向に関してフィルタ処理を行わないため、KV(N,c)=0である限り、副走査方向のMTFは1.0倍(変化しない)となる。
また、MTF補正パラメータとして、KH(N,c)=0かつKV(N,c)=1を用いた場合、副走査方向フィルタ画像LPFH(N,c)に対するブレンド比率が1となり、入力画像IN(N,c)および主走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)に対するブレンド比率がともに0となるから、出力画像OUT(N,c)における主走査方向のMTFは1.0倍(変化しない)、副走査方向のMTFは0.78倍となる。このように、Kv(N,c)として0〜1の間の値を設定することにより、副走査方向のMTFを1.0倍から0.78倍までの間の値でMTFの減衰量を調節することができる。
さらに、KV(N,c)とMTF減衰量との関係は線形であるため、例えばKV(N,c)=0.5のときは、副走査方向のMTFが0.61倍(=1.0−0.78×0.5)となった出力画像OUT(N,c)が得られる。一方、副走査方向フィルタ画像LPFV(N,c)は、主走査方向に関してフィルタ処理を行わないため、KH(N,c)=0である限り、主走査方向のMTFは1.0倍(変化しない)となる。
したがって、KH(N,c)、KV(N,c)として、0〜1の値を設定することにより、主走査方向、副走査方向ごとに1.0倍〜0.78倍までの範囲でMTFの減衰量を連続的に(無段階で)調節できる。また、KH(N,c)、KV(N,c)をラインセンサごと、色成分ごとに設定し、全てのラインセンサ、全ての色成分の実測MTFを、ある一定の目標値に揃えるように減衰させれば、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFのばらつきを高精度に補正することができる。
次に、MTF補正手段106bにおいてラインセンサごと、色成分ごとのMTFのばらつきを補正するために、MTF補正パラメータ記憶手段106aに記憶するMTF補正パラメータを決定する方法を述べる。ラインセンサごと、色成分ごとのMTF補正パラメータKH(N,c)、KV(N,c)は、各ラインセンサと被撮像物との間に構成される光学系の組み立て誤差や、光学系とラインセンサとの位置決めにおける製造誤差によるばらつきを吸収するため、画像読取装置の個体ごとに初期調整で算出する必要がある。
図10に、本実施の形態の画像読取装置100におけるMTF補正パラメータ決定手順のフローを示す図である。図10に示すように、本実施の形態に係るMTF補正パラメータ決定方法は、画像読取装置100によって所定の解像度の縦縞と横縞のパターンを有する基準チャートを撮像する基準チャート撮像ステップS1と、基準チャートを撮像した画像からラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値を算出するMTF算出ステップS2と、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値を用いて、ラインセンサごと、色成分ごとのMTF補正パラメータを算出するMTF補正パラメータ算出ステップS3とからなる。MTF算出ステップS2は、主走査方向のMTF算出を行う主走査方向MTF算出ステップS2hと、副走査方向MTF算出ステップS2vとを含んでおり、MTF補正パラメータ算出ステップS3は、主走査方向MTF算出ステップS2hで算出したMTFを用いて主走査方向MTF補正パラメータを算出する主走査方向MTF補正パラメータ算出ステップS3hと、副走査方向MTF算出ステップS2vで算出したMTFを用いて副走査方向MTF補正パラメータを算出する副走査方向MTF補正パラメータ算出ステップS3vとを含んでいる。以下、各ステップについて説明する。
図11は、本実施の形態におけるMTF補正パラメータ決定に用いる基準チャートの一例を示す図である。まず、基準チャート撮像ステップS1において、画像読取装置100によって図11に示すような所定の解像度の縦縞と横縞のパターンを有する基準チャートをラインセンサごと、色成分ごとに撮像する。図11に示す基準チャートは、360dpi(dots per inch)の解像度の縦縞と横縞のパターンを含むチャートである。縦縞のパターンは、主走査方向に一定周波数で濃度値がサイン波状に変化するようになっている。横縞のパターンは、副走査方向に一定周波数で濃度値がサイン波状に変化するようになっている。また、基準チャートに描かれたパターンを撮像した際の白レベルと黒レベルとの信号値を知るために、白ベタ領域と黒ベタ領域とがこの基準チャート内に描かれていてもよい。基準チャートのパターンは、主走査方向に並べられた全てのラインセンサによって撮像される領域をカバーするように主走査方向に十分長く描かれている。基準チャート撮像ステップS1では、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った画像(画像処理部106にてMTF補正処理や画像結合処理が行われる前の画像)を得る。
次に、MTF算出ステップS2において、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った縦縞、横縞の画像を用いて、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値を算出する。主走査方向MTF算出ステップS2hは、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った縦縞の画像を用いて、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値を算出する。副走査方向MTF算出ステップS2vは、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った横縞の画像を用いて、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値を算出する。
MTFは、様々な周波数の縞模様の信号の振幅が、ある撮像光学系を通すことによってどの程度伝達されるかを表す数値であり、例えば、縞模様のパターンが撮像された領域の一部をMTFの測定エリアとして、以下に示す4式により計算することができる。
ここで、MAXはMTFを測定するエリア内の画素値の最大値、MINはMTFを測定するエリア内の画素値の最小値である。MTFを測定するエリアの大きさは、基準チャート画像の縞模様の周期よりも大きく、エリア内に基準チャート画像の縞模様の最も明るい部分と最も暗い部分とが含まれるように設定する。これにより、MAX−MINは、MTFを測定するエリアにおける縞模様の信号の振幅を表すサイン波の山から谷までの振幅の大きさを表す。一方、白レベルはチャートの白ベタ領域の信号値、黒レベルはチャートの黒ベタ領域の信号値であり、白レベル−黒レベルは、縞模様の画像がとりうる白から黒までの信号値の振幅の大きさの最大値を表す。MTFは、縞模様の画像がとりうる白から黒までの振幅の大きさの最大値に対する、実際の縞模様の信号画像におけるサイン波の山から谷までの振幅の大きさの比率を表したものである。
また、変形例として、MTFに相関する量を次に示す5式により計算してもよい。
5式は、MTFを測定するエリアにおける画素値の最大値と最小値の差(MAX−MIN)を、画素値の最大値と最小値の平均値の2倍の値(MAX+MIN)で正規化したものであり、コントラストの算出方法として用いられているものである。これにより、白レベルや黒レベルをチャート画像から測定することができない場合であっても、MTFに相関する量を算出することができる。
ラインセンサごと、色成分ごとのMTFの代表値は、例えば、以下の方法により求めることができる。主走査方向MTF算出ステップS2hでは、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った縦縞の画像から、主走査方向に一定サイズのウィンドウを設定し、このウィンドウ内の画素の画素値の最大値、最小値から4式や5式によりMTFを算出する。ウィンドウを主走査方向に沿って1画素ずつ動かしながらMTFを算出していくことで、主走査方向に沿った主走査方向MTFのプロファイルを得たのち、これらを主走査方向に平均化することによって当該のラインセンサ、色成分の主走査方向MTFの代表値とする。また、副走査方向MTF算出ステップS2vでは、ラインセンサごと、色成分ごとに読み取った横縞の画像から、副走査方向に一定サイズのウィンドウを設定し、このウィンドウ内の画素の画素値の最大値、最小値から4式や5式によりMTFを算出する。ウィンドウを主走査方向に沿って1画素ずつ動かしながらMTFを算出していくことで、主走査方向に沿った副走査方向MTFのプロファイルを得たのち、これらを主走査方向に平均化することによって当該のラインセンサ、色成分の副走査方向MTFの代表値とする。
MTF算出ステップS2では、以上で説明した方法により、全てのラインセンサN、色成分cごとに主走査方向MTFの代表値および副走査方向MTFの代表値を算出し、主走査方向MTF(MTFHpre(N,c))および補正前の副走査方向MTF(MTFVpre(N,c))とする。
次に、MTF補正パラメータ算出ステップS3において、ラインセンサごと、色成分ごとに算出された主走査方向MTF(MTFHpre(N,c))をもとに、ラインセンサごと、色成分ごとのMTF補正パラメータを求める。主走査方向MTF補正パラメータ算出手段S3hは、ラインセンサごと、色成分ごとに算出された主走査方向MTF(MTFHpre(N,c))をもとに、次に示す6式によりラインセンサごと、色成分ごとの主走査方向MTF補正パラメータKH(N,c)を求める。
ここで、targetHは、MTF補正後の主走査方向のMTFの目標値、factorHは、主走査方向フィルタ手段501におけるローパスフィルタ処理での主走査方向MTFの減衰率である。ここで、減衰率factorHは、所定の解像度におけるローパスフィルタ処理前のMTF値に対するローパスフィルタ処理後のMTF値の比率を表す値であり、図8(b)に示したようなフィルタの周波数特性から求めることができる。例えば、図8に示したフィルタ係数を用いる場合には、所定の解像度を0.6cycles/pixelとすると、図8(b)に示す縦軸の値(−2.14dB)を比率に換算した値(0.78)がfactorHとなる。
また、副走査方向MTF補正パラメータ算出手段S3vは、ラインセンサごと、色成分ごとに算出された副走査方向MTF(MTFVpre(N,c))をもとに、次に示す7式によりラインセンサごと、色成分ごとの副走査方向MTF補正パラメータKV(N,c)を求める。
ここで、targetVは、MTF補正後の副走査方向のMTFの目標値、factorVは副走査方向フィルタ手段502におけるローパスフィルタ処理での副走査方向MTFの減衰率である。ここで、減衰率factorVは、factorHと同様、所定の解像度におけるローパスフィルタ処理前のMTF値に対するローパスフィルタ処理後のMTF値の比率を表す値であり、図8に示したフィルタ係数を用いる場合には、所定の解像度を0.6cycles/pixelとすると、factorV=0.78となる。
一方、MTF補正後の主走査方向MTF(MTFHpost(N,c))および補正後の副走査方向MTF(MTFVpost(N,c))は、それぞれ次に示す8式および9式により予測できる。
6式および7式により求めたKH(N,c)およびKV(N,c)を、8式および9式に代入すると、MTFHpost(N,c)=targetH、MTFVpost(N,c)=targetVとなることからもわかるように、6式および7式により求めたKH(N,c)およびKV(N,c)は、主走査方向MTFを目標値targetHに補正し、副走査方向MTFを目標値targetVに補正するパラメータである。
MTF補正パラメータ算出ステップS3では、以上で説明した方法により、全てのラインセンサN、色成分cに対応する主走査方向MTF補正パラメータKH(N,c)と副走査方向MTF補正パラメータKV(N,c)とを算出する。
本実施の形態に係る画像読取装置100では、以上で説明した方法により、工場出荷時やメンテナンス時に事前に基準チャートを用いてラインセンサごと、色成分ごとのMTF特性のばらつきを測定し、そのばらつきを補正するために(全てのラインセンサ、全ての色成分がある一定の目標値となるように補正するために)必要な、ラインセンサごと、色成分ごとの補正量を算出し、これをMTF補正パラメータ記憶手段106aに記憶しておく。
MTF補正手段106bは、以上で説明した方法によって決定されたMTF補正パラメータを用いることによって、全てのラインセンサ、全ての色成分のMTFが、ある一定の目標値に揃うように減衰させ、ラインセンサごと、色成分ごとのMTFのばらつきを補正する。
次に、図9に示す画像結合手段106cにおいて、MTF補正手段106bで得られたMTF補正画像90、91、92および93を1枚の画像に結合して、画像読取装置100の出力画像を生成する動作について説明する。結像光学部111、112、・・・118及びこれらに対応する撮像素子部141、142、・・・148は、それぞれの被撮像領域が主走査方向DXに互いに一部重複するように配置されている。このため、MTF補正後の画像90、91、92および93の隣接する撮像素子部によって取得された画像の端部には、同じ画像(被撮像領域の同じ部分を撮像することによって得られる画像)が重複して含まれる。画像結合手段106cは、この重複して読み取られた2つの領域、例えば、領域90bと領域91a、領域91bと領域92a、領域92bと領域93aの画像を繋ぎ合せることによって、画像90、91、92および93を結合して、結合画像94を生成する。
図12は、本実施の形態に係る画像読取装置100において、原稿が天板から浮き上がるなどして原稿が合焦位置からずれている場合の4つの撮像素子部から得られる画像とそれらを結合して得られる結合画像とを示す図である。
第1の撮像素子部141、143、145および147と第2の撮像素子部142、144、146および148とを、副走査方向DYにおいて所定の間隔を離して配置し、第1の撮像素子部141、143、145および147の光軸と第2の撮像素子部142、144、146および148の光軸とが、YZ平面に投影された場合に、合焦位置(図2において、天板103の上面103a)において交差するようにした場合、隣り合う画像の主走査方向DXの結合位置は一定だが、副走査方向DYの結合位置は原稿の位置(原稿70の下面と天板103の上面103a間の距離)に応じて変化する。そのため、図12に示すように、結合する画像位置が副走査方向DYにずれた画像が得られるため、隣接する2つの画像を結合するときには重ね合わせの位置を副走査方向DYに調整したうえで結合する必要がある。
図13は、本実施の形態における撮像素子と原稿との位置関係を示す模式図である。図13を用いて、副走査方向DYに画像のずれが生じる原理について詳しく説明する。図13は、撮像素子部C0およびC1(例えば、図1における141および142に相当)が、図中における左から右に向けて移動しながら、天板103から距離Δz浮いている原稿70を読み取る場合を示している。撮像素子部C0およびC1が、図13における左側の位置Aにあるときには、第1グループ(G21)の光学系によって読み取られる画像の位置と第2グループ(G22)の光学系によって読み取られる画像の位置との間に、副走査方向DYのずれはない。次に、撮像素子部C0およびC1が、図13における中央の位置Bに移動したときは、第1グループ(G21)の光学系によって読み取られる画像の位置と第2グループ(G22)の光学系によって読み取られる画像の位置との間に、副走査方向DYのずれ(ずれ量Δy)が生じる。このずれは、撮像素子部C0およびC1が、原稿70の天板103から浮き上がり始める傾斜部分70cを読み取るときに徐々に増加して、最終的にずれ量Δyになる。また、原稿70の傾斜部分70cでは原稿面が傾いているため、原稿面に対する第1グループ(G21)の光学系の光軸の傾きと原稿面に対する第2グループ(G22)の光学系の光軸の傾きとが異なる。そのため、第1グループ(G21)の光学系によって読み取られた画像70eの副走査方向DYにおける長さ70e1と、第2グループ(G22)の光学系によって読み取られた画像70eの副走査方向DYにおける画像の長さ70e2とが異なる。その結果、画像の縮み方の違いによって、傾斜部分70cで画像の副走査方向DYのずれが発生する。最後に、撮像素子部C0およびC1が、図13における左側の位置Cに移動したときは、第1グループ(G21)の光学系によって読み取られる画像の位置と第2グループ(G22)の光学系によって読み取られる画像の位置との間に、副走査方向DYのずれは再びなくなる。
このような光学系を用いて図13のように凹凸(起伏)のある原稿を読み取ると、隣り合う画像のずれ量が原稿の高さに応じて変化する。従来の画像読取装置のように、予め固定のずれ量を定め、メモリを用いてデータを遅延させることにより、ずれを補正しながら画像の結合を行うと、ずれ量が変化した部分では画像を滑らかに繋げることができない。よって、高精度な画像の結合を行うためには、隣接する1組の撮像素子部によって読み取られた2枚の画像が繋がる位置の検出と画像の拡大又は縮小が必要となる。
図14は、画像結合手段106cにおいて、副走査方向DYのずれを検出する動作を説明するための図である。まず、図14に示されるように、画像結合手段106cは、1つのラインセンサで撮像された画像90の中からラインL0を選択し、選択したラインL0上の画素(x0,y0)を中心とするNA行×MA列の画素の領域を注目領域RAとする。画像結合手段106cは、この注目領域RAに含まれる画像の輝度値からベクトルデータA={a0,a1,・・・an}を作成する。同様に、隣接するラインセンサで撮像された画像91の中から任意の画素(x1,y1)を選択し、画素(x1,y1)を中心とするNB行×MB列の画素の領域を注目領域RBとする。画像結合手段106cは、この注目領域RBに含まれる画像の輝度値からベクトルデータB={b0,b1,…,bn}を作成する。
次に、画像結合手段106cは、作成された2つのベクトルデータA,Bを用いて、注目領域RAと注目領域RBとがどの程度似ているか(または、どの程度異なるか)を示す指標、例えば、不一致度d(x1,y1)を算出する。不一致度d(x1,y1)は、例えば、ベクトルデータA,Bの各成分の差分二乗和(SSD:Sum of Squared Difference)や差分絶対値和(SAD:Sum of Abusolute Difference)を計算することによって求めることができる。不一致度d(x1,y1)は、2つのベクトルデータの各成分の値が近い(2つのベクトルデータが似ている)ほど小さくなり、2つのベクトルデータの各成分の値が遠い(2つのベクトルデータが似ていない)ほど大きくなる。すなわち、不一致度d(x1,y1)が小さいほど、注目領域RAと注目領域RBの画像の一致度は高い。
画像結合手段106cは、画像91上で注目領域RBの位置を副走査方向DYに変えながら不一致度dを算出し、不一致度dが最小となる位置を検出することにより、注目領域RAと最も一致する位置を検出する。ここで、不一致度dが最小となる注目領域RBの中心画素を(x1,y1_min)とすると、画像90の画素(x0,y0)と画像91の画素(x1,y1_min)が原稿70の同一部分を読み取っているということになる。このため、画像90のラインL0と、このラインL0に一致する画像91のラインL1は次式10により算出できる。
同様に、画像91のラインL1の画像と、図9の(b)に示すように、この画像91に隣接する画像92のライン、この画像92に隣接する画像93のラインを順次求め、各ラインデータを繋ぎ合せることにより、図9の(c)に示すように、1ライン分の結合画像94を生成する。
画像結合手段106cは、以上のようにして副走査方向DYのずれを検出し、検出したずれ量に基づいて副走査方向のずれを補正しながら隣接するラインセンサの画像データを結合する。
このように本実施の形態の画像読取装置においては、副走査方向DYの画像ずれをダイナミックに補正しながら画像の結合が行えるため、図13のように原稿の高さが変化して各ラインセンサで撮像された画像が互いに副走査線方向にずれた場合でも、画像を滑らかに繋ぐことができ、高精度な結合画像を生成することができる。
なお、一方において、このように画像が副走査方向Dyにずれることにより得られる効果がある。副走査方向Dyにずれている量が算出できると、図13に示したように、原稿と天板103との間の距離Δzを求めることができる。天板103から原稿面までの距離Δzを画像のぼやけ補正処理のパラメータとして使用することにより、ぼやけ具合に応じた適切な補正が行えるため、画質の改善が期待できる。
画像結合手段106cでは、隣接するラインセンサの画像データ(例えば、ラインセンサ141で撮像された画像と、ラインセンサ142で撮像された画像)において、互いに重複している領域(図9において、90bと91a、91bと92a、92bと93a等の領域)の絵柄が一致するように副走査方向のシフト量を探索により求め、求めたシフト量に基づいて副走査方向のずれを補正しながら隣接するラインセンサの画像データを結合する。
なお、前述したように、MTF補正処理と画像結合処理に先立って、画像処理部106の図示しない手段において、黒補正・白補正処理や画像反転処理を行ってもよい。
次に、本実施の形態の画像読取装置における効果について詳細に説明する。
画像読取装置100においては、各ラインセンサ上に構成される結像光学系101や、結像光学部111、112、・・・118とラインセンサ141、142、・・・148との位置決めにおける設計要因や製造誤差により、複数のラインセンサ間、複数の色成分間でMTF特性のばらつきが生じる場合がある。設計要因によるものとしては、図3(b)に示したように、センサのRGBごとに結像光学部の光軸中心からの距離、すなわち、像高がずれているため、RGB間のMTFに特性差が生じる。また、図4〜図6に示したような構造により結像光学系101を構成する場合、第1グループG21に属する第1の結像光学部(図4では411)と第2グループG22に属する第2の結像光学部(図4では412)とは、副走査方向に対向するように配置にされているが、ここで、仮に第1グループG21に対応するラインセンサ(図4では141、143、・・・)と第2グループG21に対応するラインセンサ(図4では142、144、・・・)とにおけるRGBのセンサの配置が同じ方向であったとすると、第1グループG21と第2グループG21とでセンサのRGBの並びに対して光学系の方向が反対であるため、RGB間の特性差は、隣接するラインセンサ間において大きくなる。
製造誤差によるものとしては、各ラインセンサ上に構成される光学系の組み立て誤差や、光学系とラインセンサとの位置決めにおける製造誤差等がある。とくに、図4〜図6に示した構造により結像光学系101を構成する場合は、光路長を長くするために複数の光学部品を組み合わせており、そのそれぞれ取り付け精度によって結合光学系101の複数の結合光学部それぞれのMTF特性がばらつきやすくなる。
上述のような要因によって、ラインセンサごと、色成分ごとにMTF特性がばらついた場合、網点や縞模様などの周波数の高い周期的なパターンを含む原稿を読み取り、これらの画像を結合して1枚の画像を生成すると、主走査方向に沿ってコントラストの違いによる段差ができ、画質が劣化するという問題がある。しかしながら、上記の要因により発生するMTFの差は数%程度と微小であり、人間の目では数%程度の微小なMTFの差異をはっきりと識別することは困難であるため、通常は問題とはならない。
ところが、複写機やイメージスキャナ等の機器では、印刷やスキャン画像の生成の際にそれぞれのアプリケーションに適した画像を得るため、読み取った画像に対して輪郭強調、階調補正、ノイズ除去等の高画質化処理を施すことがある。これによってラインセンサ間の微小なMTF差は強調され、あるいは、明暗の段差に変換されて、人間の目ではっきりと識別できる段差となる。
ここでは、ラインセンサ間のMTF差が高画質化処理、とくに階調補正により明暗の段差に変換される原理を説明する。図15は、本実施の形態における画像読取装置の後段に構成される図示しない階調補正手段の入出力特性を示す特性図である。図15において、縦軸は入力信号レベル、横軸は出力信号レベルであり、曲線は階調補正カーブであり、模式的にMTFが異なる入力信号が当該階調補正カーブで変換処理されたときの出力信号を示している。入力1および入力2は、DCレベル(信号の平均レベル)が同じでMTF(振幅)が異なるサイン波を表し、それぞれの入力信号をある階調補正カーブにて処理したときの出力信号を出力1および出力2とする。図15に示したように、入力信号が出力信号に変換される際、入力信号のDCレベルよりも高い側と低い側の伸張量が異なるため出力信号のDCレベルがシフトしていることがわかる。入力信号のMTFに依存してそのシフト量が異なるため、入力DCレベルは同じであるにも関わらず、変換後の出力DCレベルが異なることになる。本実施の形態で示した画像読取装置100のように、ラインセンサごとにMTFが異なる場合は、このMTF差がラインセンサごとの明暗の差に変換され、段差がはっきりと視認されるようになって画質が劣化する。また、隣接するラインセンサ間で色成分ごとのMTF特性の差が大きくなっているようなケースでは、MTF差が階調補正によってラインセンサごとの色味の差に変換され、色味の段差となるため画質がきわめて劣化する。
後段でいかなる高画質化処理を施した場合であっても上記のような段差が視認されないようにするためには、MTFの段差をごく微小なレベルまで補正する必要がある。
本実施の形態に係る画像読取装置では、ラインセンサごとのMTF特性のばらつきを補正するために、全てのラインセンサのMTFをある一定の目標値に補正するためのMTF補正パラメータを予め決めておき、MTF補正パラメータを用いることによってラインセンサごとにMTFを補正するようにしたので、上述したように後段で所定の画像処理を施しても、ラインセンサごとに明暗の差を発生させることなく、高品質な読み取り画像を生成することが可能となる。
また、本実施の形態に係る画像読取装置において、各ラインセンサが複数の色成分(RGB)のセンサからなる場合には、ラインセンサごと、色成分ごとのMTF特性のばらつきを補正するために、全てのラインセンサ、全ての色成分のMTFをある一定の目標値に補正するためのMTF補正パラメータを予め決めておき、MTF補正パラメータを用いることによってラインセンサごと、色成分ごとにMTFを補正するようにしたので、上述したように後段で所定の画像処理を施しても、ラインセンサごとに明暗や色味の差を発生させることなく、高品質な読み取り画像を生成することが可能となる。
さらに、MTF補正パラメータを、MTF補正手段における加重加算手段のブレンド比率として与えるようにしたので、フィルタ係数を変更することなく無段階のMTF調整が実現できるようになり、回路規模を増大させる必要がない。また、MTF補正パラメータとMTF補正量との関係が線形であるため、MTF調整の精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、ラインセンサを千鳥状配置においてMTF補正する構成としたが、直線状配置の構成においても適用可能であることは明らかである。光学系の構成で主走査方向に重複させてラインセンサを配置していることや、画像結合手段で副走査方向の位置ずれ補正を行うことも必須ではない。本実施の形態におけるMTF補正手段は、複数のラインセンサを用いて読み取った画像を結合して1枚の画像を生成する画像読取装置全般について適用可能であり、複数のラインセンサで撮像された画像間のMTF差を補正することによって、上記と同様の効果を奏する。