従来、光通信における光信号波長変換、光変調、光計測、光加工、医療、生物工学などの応用のため、紫外域−可視域−赤外域−テラヘルツ域にわたるコヒーレント光の発生と変調を行うことができる、多くの非線形光学デバイスおよび電気光学デバイスの開発が進められている。このような素子に用いられる非線形光学媒質および電気光学媒質として、種々の材料が研究開発されている。ニオブ酸リチウム(LiNbO3、以下、LNという)などの酸化物系化合物基板は、2次非線形光学定数、電気光学定数が非常に高く有望な材料として知られている。LNの高い非線形性を用いた光デバイスの一例として、擬似位相整合による差周波発生を利用した波長変換素子が知られている。
近年、光通信システムの通信容量の増大を図るために、波長の異なる複数の光を多重化して伝送する波長分割多重(WDM)通信システムが積極的に導入されている。このようなWDM通信システムにおいては、限られた波長数を有効に利用するために、信号波長を任意の信号波長に変換する波長変換デバイスの実用化が求められている。
従来、光の波長を変換する波長変換素子としては、半導体光増幅器を用いるもの、四光波混合を利用するもの等が知られている。しかしながら、これらの波長変換素子においては、光通信システムにおいて求められる高効率、高速、広帯域、低ノイズ、偏波無依存などの条件を満足させることはできていなかった。
図1に、従来のLNを用いた擬似位相整合型の波長変換素子の構成を示す。比較的小さな光強度を持つ信号光Aと、比較的大きな光強度を持つ励起光Bは、合波器1により合波され、分極反転構造を有する非線形光学媒質の光導波路2に入射される。光導波路2中で信号光Aは、非線形光学効果による差周波波発生により別の波長を持つ変換光Cへと変換される。変換光Cは、励起光Bと共に光導波路2から出射される。出射された変換光Cと励起光Bは、分波器3により分離される。信号光A、励起光Bの波長をそれぞれλ1、λ3とすると変換光Cの波長λ2は、
1/λ2=1/λ3−1/λ1
を満足する。変換光Cの波長λ2は、励起光波長λ3の2倍の波長を中心軸にして、信号光の波長λ1を中心軸の反対側に折り返した波長となる。例えば、励起光Bの波長λ1=0.78μmとした場合、波長λ1=1.54μmの信号光Aを、波長λ2=1.58μmの差周波光である変換光Cへと変換することができる。
信号光A及び変換光Cに対する変換帯域は、励起光の波長に対して±30nm以上と広く、例えば、波長分割多重(WDM)光通信に用いられる波長帯域C帯に束ねられたWDM信号をL帯へ、またはL帯からC帯へといった波長群の一括変換が可能である。
従来、このような擬似位相整合を利用した波長変換素子は、LNなどの非線形光学結晶基板に周期分極反転構造を作製した後、プロトン交換導波路を作製することによって実現されていた。これに対して、光導波路中への光閉じ込めを改善し、バルクもしくはバルクに近い非線形効果を利用した高効率な波長変換を実現するために、リッジ型の光導波路構造を有する波長変換素子が提案されている。
リッジ型光導波路を作製する方法を説明する。まず、Mg添加LN基板に周期分極反転構造を作製した後、別に用意したLN基板に接着剤を用いて接着する。Mg添加LN基板の基板厚さを平面研削加工によって薄くした後、ダイシングソーを用いた精密研削加工によってリッジ型導波路を作製する(例えば、非特許文献1参照)。
このような擬似位相整合を利用したLNからなる波長変換素子において、励起光は、差周波発生による1.5μm帯の波長変換を行なうために必要な励起波長の2倍の波長を持つ光が用いられることが多かった。これは、第二高調波発生(SHG)と差周波発生(DFG)のカスケード励起(以下、SHG−DFGカスケード励起法という)と呼ばれる手法を用いるためである。図1で説明した波長変換素子の例では、波長λ3=0.78μmの代わりに、波長λ3’=1.56μmの励起光が用いられる。波長λ3’=1.56μmの励起光Bは、非線形光学媒質内部で第二高調波(波長=0.78μm)に変換され、非線形光学媒質内部で発生した第二高調波と信号光Aとの差周波発生により、さらに変換光Cが得られる。
励起光に0.78μm帯を用いる方法では、0.78μm帯域において安定で波長精度が高く、高出力な光源が広く普及しておらず、簡単に準備することが困難であった。また、信号光と励起光の波長が半分も異なることから、光導波路の最適サイズが異なる。これにより導波路へ光を入射する際に、所望のモード以外の励振の抑制が必要となるなどの困難があった。一方、SHG−DFGカスケード励起法では、励起光の光源として、広く普及している安定で信頼性の高い1.5μm帯の光源を用いることができる。さらに、光ファイバアンプなどを用いることにより、簡単に高出力光を得ることができることから、従来、広く用いられてきた(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、SHG−DFGカスケード励起法による波長変換においては、変換光の品質が劣化しやすいという問題があった。SHG−DFGカスケード励起法では、励起光に1.5μm帯の光源を用いるため、波長が近接する3の光の分離、すなわち励起光と、信号光および変換光との分離が困難となる。従って、励起光波長と、信号光および変換光との間に一定の帯域、いわゆるガードバンドを設ける必要があった。この帯域を確保することにより、利用できる波長変換帯域が狭まり、一括変換できる波長数が少なくなってしまうという問題があった。
また、ガードバンドを設けると、信号光に近接する波長への変換が不可能になるという問題もあった。さらに、高い励起光を得るために光ファイバアンプを使用すると、ASEノイズの増加により信号光および変換光の品質が劣化するという問題があった。また、SHG−DFGカスケード励起法では、励起光および信号光の間の和周波発生によるクロストーク光が増加し、信号の品質が劣化するという問題もあった。
図2に、SHG−DFGカスケード励起法による波長変換光を示す。図2(a)は、SHG−DFGカスケード励起法を用いて波長変換を行った際の変換前後の光信号スペクトルの例を示している。破線は信号光スペクトル、実線は変換光スペクトルを示している。信号光は波長λ1=1.55μm帯の光、励起光は、光ファイバアンプにより600mWに増幅された波長λ3’=1584nmのCW光を用いている。SHG−DFGカスケード励起法においては、励起光の波長=1584nmを中心軸とし、差周波光として波長λ2=1.61μm帯の変換光が出力されている。図2(a)からわかるように、波長変換を行うことにより、光ファイバアンプによって付加されたASEノイズによりSN比が劣化してしまう。
図2(b)は、SHG−DFGカスケード励起法を用いて波長変換を行った際の変換前後の光信号スペクトルの別の例を示している。波長λ3’=1568nmの励起光の波長を中心軸として、左側に信号光4波と右側に変換光4波が出力されている。このとき、励起光、信号光および変換光の間で和周波光が発生する。この和周波光と、励起光、信号光および変換光との間で、さらなる波長変換が行われ、励起光の波長付近に不要なクロストーク光が発生しているのがわかる。クロストーク光の波長が信号光および変換光の波長と等しい場合には、それぞれの光のSN比が劣化してしまう。
以上説明したように、SHG−DFGカスケード励起法を用いた波長変換においては、SN比の劣化が避けられないため、0.78μm帯の励起光による波長変換が望まれる。しかしながら、この波長の組み合わせによる変換は、信号光および励起光の入力が低損失、かつ所望のモード以外のモードを励振することなく行う必要があるが、簡易に行なうことのできる手法がなかった。
一方、0.78μm帯の光源の入手が困難なこと、所望のモード以外のモードを抑制する必要性の観点から、非線形効果による第二高調波光(SHG)過程と差周波発生(DFG)過程を、別々に行う手法(独立多段励起)が望まれていた。SHG−DFGカスケード励起法は、内部で第二高調波光を発生させながら、同時に差周波発生を行うため、同じ第二高調波光の光パワーにおいて、独立多段励起法と比較すると、カスケード励起法が四分の一だけ効率が悪くなるという問題があった。言い換えると、独立多段励起法を用いれば、カスケード励起法に比べて、4倍の効率を得ることが出来る。
また、信号光の波長を任意の波長に変換するために、擬似位相整合を利用したLNを用いた波長変換手法として、和周波発生(SFG)と差周波発生(DFG)のカスケード励起(以下、SFG−DFGカスケード励起法)と呼ばれる手法が提案されている。
図3に、従来のLNを用いた擬似位相整合型の波長変換素子によるSFG−DFGカスケード励起法の構成を示す。波長λ1の信号号光Aと、2つの異なる波長を持った2つの励起光1B(波長λ2)および励起光2B(波長λ4)を、合波器11により合波し、集光レンズ12を介して、分極反転構造を有する非線形光学媒質13の光導波路13aに入射する。光導波路13aの中で、信号光Aは、非線形光学効果による和周波波発生により別の波長を持つ変換光C(波長λ3)へと変換される。信号号光A(波長λ1)と励起光1B(波長λ2)と変換光Cの間には、
1/λ3=1/λ2+1/λ1
の関係がある。非線形光学媒質内部で発生した和周波光(変換光C)と励起光2B(波長λ4)との差周波発生により、さらに変換光Dを得ることができる。変換光D(波長λ5)と変換光C(波長λ3)と励起光2B(波長λ4)の間には、
1/λ4=1/λ3−1/λ4
の関係がある。変換光Dは、変換光C、励起光1B、励起光2B、信号光Aと共に、集光レンズ14を介して光導波路13aから出射される。
しかしながら、SFG−DFGカスケード励起法による波長変換においては、変換光の品質が劣化しやすいという問題があった。また、励起光を得るために光ファイバアンプを使用すると、ASE光同士の和周波発生によって信号光の品質が劣化するという問題があった。さらに、励起光2Bのとることのできる波長に制限があるため、波長変換帯域が制限されるという問題もあった。例えば、励起光2Bを、信号光の波長、または和周波波発生により得られる変換光の2倍の波長に設定すると、励起光2Bの第二高調波発生、または励起光2Bと励起光1Bとの和周波発生により、変換光CにCW光が重畳される。このため、変換光Cに含まれる信号成分の受信感度が著しく低下する。励起光2Bのとることのできる波長が制限されるのはこのためである。従って、非線形効果による和周波発生(SFG)過程と差周波発生(DFG)過程とを、別々に行う手法が望まれていた。
一方、通信波長帯における波長変換器のほか、擬似位相整合型の波長変換素子を用いて、半導体レーザで実現されていない可視域または中赤外域でのレーザ光源の実用化が行なわれている。
現在、実用化されているレーザには、He−Neレーザ、Arレーザなどのガスレーザ、Nd:YAGレーザなどの固体レーザ、色素レーザおよび半導体レーザが知られている。近年、可視域および近赤外領域の波長帯を中心に、小型、軽量、安価な半導体レーザが普及している。特に、光通信の分野では、信号光源用の1.3μm帯および1.5μm帯半導体レーザと、ファイバアンプ励起用の0.98μm帯および1.48μm帯半導体レーザとが普及している。また、光記録媒体の読取装置のピックアップ用の光源として、CD(0.78μm帯)、DVD(0.65μm帯)、ブルーレイ(0.4μm帯)の半導体レーザも普及している。
しかしながら、半導体で実現することは難しい波長帯が存在することから、高効率な非線形光学媒質と、広く普及している波長帯の半導体レーザとを組み合わせたレーザ光源装置の開発が行われている。例えば、緑色、黄緑色、橙色といった波長0.5〜0.6μmのレーザを、半導体で実現することは難しく、高効率な非線形光学媒質による第二高調波発生、または和周波発生を用いたレーザ光源が実用化されている。さらに、2次の非線形光学媒質を用いて、第三高調波発生を、第二高調波発生(SHG)と和周波発生(SFG)とを組み合わせたSHG―SFGカスケード励起法によって実現することができる。
しかしながら、従来のSHG―SFGカスケード励起法では、ハイパワーの出力を得るのが困難であった。従来のSHG―SFGカスケード励起法では、入力した励起光(周波数ω)の第二高調波発生によりSH光(周波数2ω)を得て、続いて励起光(周波数ω)とSH光(周波数2ω)の和周波発生により第三高調波発生光(TH光:周波数3ω)を得る。この場合、初段の第二高調波発生により励起光のパワーが減衰する。第三高調波発生光の出力は、和周波発生にかかるSH光と励起光のパワーの乗算に比例するため、初段の第二高調波発生過程の効率を上げてハイパワーのSH光を得ても、その分だけ励起光のパワーが減衰するため、正味の第三高調波発生光の出力を大きくすることが難しかった。従って、非線形効果による第二高調波発生(SHG)過程と和周波発生(SFG)過程とを、別々に行う手法が望まれていた。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図8に、本発明の第1の実施形態にかかる導波路型反射素子の構成を示す。導波路型反射素子は、基板101の上に形成されたマルチモード干渉導波路104からなり、マルチモード干渉(MMI:Multi-Mode Interference)を利用して光合分波器の機能を奏することができる。マルチモード干渉導波路104は、第1の入出力導波路102と第2の入出力導波路103とが接続された入出力端面と、入出力端面と対向する面に、特定の波長の光を反射する光学膜105がコーティングされた反射端面とを有する。第1の入出力導波路102と第2の入出力導波路103とは、マルチモード干渉導波路104の光軸を示す中心線Aから対称の位置に接続されている。第1の入出力導波路102に波長1.5μm帯の光と波長0.78μm帯の光とが入射された場合、第2の入出力導波路103から0.78μm帯の光のみが出射する。
図9に、第1の実施形態にかかる導波路型反射素子における光の結合・分離を示すシミュレーション結果を示す。波長1.56μmの信号光と波長0.78μmの励起光とが結合する様子を、BPM(Beam Propagation Method)によるシミュレーションによって示した。図9(a)は、図8に示したマルチモード干渉導波路104であり、光軸を示す中心線Aに直行する方向の幅をWmとし、第1の入出力導波路102と第2の入出力導波路103とは、入出力端面において、中心線Aから間隔Δをおいて対称の位置に接続されている。この間隔Δは、2×ΔがWmの3分の1となるように設定されている。例えば、図9(a)に示すように、幅Wm=30μm、第1の入出力導波路102の間隔Δ1=5μm、第2の入出力導波路103の間隔Δ2=5μm、クラッドの屈折率=1.0、コアの屈折率=約2.1である。
図9(b)に、波長0.78μmの励起光を入力した場合の振る舞いを示す。横軸は、入出力導波路とマルチモード干渉導波路との接続点からの距離である。マルチモード干渉導波路104の中心線Aから間隔Δ1の位置に接続されている第1の入出力導波路102から入射した励起光は、マルチモード干渉導波路104に固有の複数のモードに展開され、マルチモード干渉導波路104内をマルチモード伝播する。このとき、各モードの伝播定数が異なるために生じるモード干渉によって、波長0.78μmの光がある光路長を伝播した後、マルチモード干渉導波路104の入出力端面と反対に中心線Aから間隔Δの位置に極値(収束点)を取る。
図9(c)に、波長1.56μmの信号光を入力した場合の振る舞いを示す。横軸は、入出力導波路とマルチモード干渉導波路との接続点からの距離である。マルチモード干渉導波路104の中心線Aから間隔Δ2の位置に接続されている第2の入力導波路103から入射した信号光は、マルチモード干渉導波路104に固有の複数のモードに展開され、マルチモード干渉導波路104内をマルチモード伝播する。このとき、各モードの伝播定数が異なるために生じるモード干渉によって、波長1.56μmの光がある光路長を伝播した後、マルチモード干渉導波路104の入出力端面と反対に中心線Aから間隔Δの位置に1回目の極値(収束点)を取った後、さらにその反対側に間隔Δの位置に2回目の極値(収束点)を取る。
収束点から次の収束点までの光路長をビート長と呼び、その長さをLπとすると、ほぼ以下の式に従う。
ここで、Weは光の感じる実効的なマルチモード干渉導波路の幅、ngは実効屈折率、λ0は入力光の波長である。ビート長は各波長に対し逆数で影響するため、本実施形態のように波長が半分異なる場合は、0.78μmの光が1回ビートを打つ間に、1.56μmの光が2回ビートを打つ。また、マルチモード干渉導波路の幅方向において最初にビートを打つ位置は、入出力端面における中心線Aからの間隔Δに対して、中心線Aを挟んで反対側に間隔Δの位置となる。その後、中心線Aを挟んで交互に間隔Δの位置にビートを打つことになる。
このように、マルチモード干渉導波路においては、各波長について、それぞれ幅方向に決まった位置の収束点においてビートを打つので、図9(a)に示すマルチモード導波路104の光軸方向の長さを、2つの波長帯のビート長の最小公倍数となる長さにして、両者が収束する点(幅Wm方向に中心線から間隔Δの位置)の近傍に出力を設けることにより、0.78μmの光と1.56μmの光とを結合して出力することができる。この特性を逆に用いれば、0.78μmの光と1.56μmの光を2つの光導波路に分波することもできる。すなわち、光合分波器として機能を実現することができる。
図9(a)のマルチモード干渉導波路104において、入出力端面から短波長(0.78μm)の光と長波長(1.56μm)とが収束する点の半分の長さ、すなわち2つの波長のビート長の最小公倍数となる長さの半分の位置に反射端面を設けた場合、短波長(0.78μm)の光と長波長(1.56μm)とを第1の入出力導波路102から入射すると、短波長(0.78μm)の光は第2の入出力導波路103へ、長波長(1.56μm)の光は第1の入出力導波路102へと分波が可能となる。
一方、反射端面に0.78μmの光に対しては反射、1.56μmの光に対しては反射防止の光学膜をコーティングすることにより、1.56μmの光は、反射防止膜による反射抑制効果とマルチモード干渉導波路による分波効果とにより減衰され、0.78μmの光のみを第2の入出力導波路103から高い波長選択性をもって取り出すことができる。
図9に示したシミュレーション結果では、光が入力される導波路の位置と、光が出力される導波路の位置とは、それぞれ中心線Aからの間隔Δが同じである。これは、2つの入力導波路が、マルチモード干渉導波路104の幅Wm=30μmを3等分する位置に設置されているためであり、収束点は入出力導波路の光軸方向の延長上に収束する。
一般に、収束点の位置(中心線Aからの間隔)は、入力導波路の位置(中心線Aからの間隔)に依存する。また、収束点は1つとは限らず、複数の収束点を持つ位置に出力導波路を設ける場合、どの収束点を用いるかによっても設置する出力導波路の中心線Aからの間隔は異なる。従って、出力導波路の設置位置は、波長、入力導波路の位置、合波分波の数等の条件を考慮し、所望の収束位置に合わせて決める。このようにして、マルチモード干渉導波路104は、光導波路のみの簡単な構成により、容易に波長0.78μmと1.56μmの光を合分波することができる。
図10に、図8に示した導波路型反射素子を作製する工程を示す。第1の実施形態においては、非線形光学媒質である第1の基板111は、ZカットZn添加LN基板である。第2の基板112としてZカットMg添加LN基板を用いる。なお、非線形光学媒質として、LNの他に、KNbO3、LiTaO3、LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1)、KTiOPO4、または、それらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料を用いることができる。
第1の基板111と第2の基板112とは、熱膨張係数がほぼ一致している。また、第1の基板111の屈折率よりも第2の基板112の屈折率のほうが小さい。なお、第1及び第2の基板111,112は何れも、両面が光学研磨されてある3インチウエハである。第1の基板111の厚さは300μm、第2の基板112の厚さは500μmである。
第一の工程において、用意した第1及び第2の基板111,112の表面を、通常の酸洗浄あるいはアルカリ洗浄によって親水性にした後、これら2つの基板をマイクロパーティクルが極力存在しない清浄雰囲気中で重ね合わせる。そして、重ね合わせた第1及び第2の基板111,112を電気炉に入れ、400℃で3時間熱処理することにより拡散接合を行う。接合された基板は、接合面にマイクロパーティクル等の挟み込みがなく、ボイドフリーであり、室温に戻したときにおいてもクラックなどは発生しない。
第二の工程において、研磨定盤の平坦度が管理された研磨装置を用いて、接着された基板の第1の基板111の厚さが20μmになるまで研磨加工を施す。研磨加工の後に、ポリッシング加工を行うことにより、鏡面の研磨表面を得ることができる。基板の平行度(最大高さと最小高さとの差)を光学的な平行度測定機を用いて測定したところ、3インチウエハの周囲を除き、ほぼ全体にわたってサブミクロンの平行度が得られ、薄膜基板113を作製することができる。薄膜基板113は、接着剤を用いず、第1の基板111と第2の基板112とを熱処理による拡散接合によって直接貼り合わせることにより作製したため、3インチウエハの全面積にわたって均一な組成、膜厚を有する。
その後、光導波路の作製手段としてはドライエッチングプロセスを用いて、光導波路を作製する。薄膜基板113のうち、第1の基板111の表面に通常のフォトリソグラフィのプロセスによって導波路パターンを作製する。その後、ドライエッチング装置に基板をセットし、Arガスをエッチングガスとして薄膜基板113の第1の基板111の表面をエッチングすることによりリッジ型光導波路を作製する(後述する図12を参照)。
図11に、第1の実施形態にかかる導波路型反射素子の作製寸法を示す。図11(a)は、導波路型反射素子を形成するための反射膜加工をする以前のMMI素子であるため、両側に入出力導波路を有するマルチモード干渉導波路124である。マルチモード干渉導波路124の幅は30μmであり、マルチモード干渉導波路124の光路長を3.5mmとしている。波長1.5μm帯の励起光及び波長0.78μmの光の入出力導波路122、123の導波路幅は5μmである。入出力導波路122は直線導波路であり、入出力導波路123は、曲率3mmの緩やかなカーブを描いて入出力導波路122から離れる。入出力導波路122,123は、間隔が5μmでマルチモード干渉導波路124と結合している。入出力導波路126、127は、マルチモード干渉導波路124の光軸方向の中心線からの間隔が、入出力導波路122、123と同じ間隔にある。
図11(b)に示したように、後のプロセスにおいて、マルチモード干渉導波路121の光路長の半分の位置(光路長1.75mm)で切り出し、その端面に波長0.78μmの光に対しては反射、波長1.5μm帯の光に対しては反射防止の光学膜125がコーティングされる。実際の端面構造及び作製方法は、図13を用いて後述する。
図12に、導波路型反射素子の入力導波路構成を示す。第1の基板111には、高さ5μm、導波路幅およそ5μmのリッジ型光導波路114が形成されている。マルチモード干渉導波路の特性は、式1からもわかるように導波路幅が大きく影響するため、第1の基板111の厚みよりも深くエッチング加工を施し、リッジ導波路の両脇の第1の基板材料を完全に取り除くことが望ましい。しかしながら、第2の基板112との接合面が極めて細くなるため、それに耐えうるだけの十分な接合強度を必要とする。本実施形態における直接接合法は、第1の基板111と第2の基板112がリッジ型光導波路114の直下の面のみで接合されているような構造においても剥離などが起きず、十分な接合強度を保つことができる。従って、リッジ型光導波路114の両脇を第2の基板112まで完全に落とす構造とすることもできる。
図13に、複数の導波路型反射素子を同時に作製する工程を示す。図13(a)の薄膜基板113は、図10に示した方法により作製されており、第1の基板111(ZカットZn添加LN基板)と第2の基板112(ZカットMg添加LN基板)とが接合されている。第1の基板111の表面に通常のフォトリソグラフィのプロセスによって、図11に示した作製寸法のマルチモード干渉導波路124、入出力導波路122,123,126,127のパターンを作製する。これらのパターンを3インチウエハである薄膜基板113に平行に複数本作製する。その後、ドライエッチング装置に基板をセットし、Arガスをエッチングガスとして薄膜基板113の第1の基板111の表面をエッチングすることにより、複数のマルチモード干渉導波路を作製する(図13(b))。
複数のマルチモード干渉導波路ごとに、薄膜基板113を短冊状に切り出し、入出力光導波路122,123の端面B1と、入出力光導波路126,127の端面B2とを光学研磨することによって、個々のマルチモード干渉導波路を切り出す(図13(c))。
端面加工処理を施す前に、集積されたマルチモード干渉導波路の特性を評価するために、分岐比の測定を行った。以下、図11を用いて説明する。分岐比とは、入出力導波路122から光を入力した際の入出力導波路126,127に出力される光の分波の比である。分岐比の値が小さいほど合波(分波)器としての特性が良いことを表す。1.56μmの信号光を入出力導波路122から入力し、入出力導波路126,127に出力された光パワーの和に対して、入出力導波路127から出力された光パワーの比を分岐比と定義する。このとき、分岐比の値は2%と十分小さいものであった。
同様に、0.78μmの励起光を入出力導波路122から入力し、入出力導波路126,127に出力された光パワーの和に対して、入出力導波路126から出力された光パワーの比を分岐比と定義する。このとき、分岐比の値は2%と十分小さいものであり、良好な合波器が作製できていることを確認することができる。
続いて、光ファイバ芯線が127μm間隔で配置されている光ファイバアレイを用いて、入出力導波路122に1.56μmの信号光を、入出力導波路123に0.78μmの励起光を入射した。光ファイバアレイに用いた2本の光ファイバ芯線は、それぞれモード径が異なり、1.56μm、0.78μmのそれぞれにおいてシングルモードとなる光ファイバ芯線を用いている。
合波器として機能するマルチモード干渉導波路124による光過剰損失を評価したところ、1.56μmの信号光が0.5dB、0.78μmの励起光が1.0dBと非常に小さい損失において、光が合波されていた。1.56μm帯の光源に波長可変光源を用いて、合波器による光過剰損失の波長依存性を測定した。ピークの出力光量と比較して、追加の過剰損失が1dB以内となる波長範囲は、約40nmと広い結果を得る。
図14に、導波路型反射素子の端面加工工程を示す。図9を参照して説明したように、マルチモード干渉導波路124の光軸方向の長さを、入出力導波路との結合が最も高くなる長さとし、光軸方向に対して垂直に切り出す。切り出した端面B3と、入出力光導波路122,123の端面B1とを光学研磨する。端面加工を施した後、1.5μm帯の光に対しては反射防止(AR)、0.78μm帯の光に対しては反射(HR)となる光学積層膜(AR/HR光学膜125)を、イオンアシスト型のスパッタリング装置を用いて端面B3に蒸着する。1.5μm帯の光に対しては反射防止(AR)膜の特性を評価したところ、反射率は0.5%であった。一方、端面B1には、1.5μm帯の光及び0.78μm帯の光に対して反射防止(AR)となるようにAR/AR光学膜128を形成する。
図15に、第1の実施形態にかかる導波路型反射素子の評価結果を示す。図14に示したように、作製した導波路型反射素子を用いて、1.56μmの光と0.78μmの光を分波することができる。1.56μmの光と0.78μmの光とを入出力導波路122に入射し、マルチモード干渉導波路124へと伝搬させる。マルチモード干渉導波路124の反射端面は0.78μmの光に対しては反射、1.56μmの光に対しては反射防止のAR/HR光学膜125がコーティングされている。マルチモード干渉導波路124へ入射されると0.78μmの光は、マルチモード干渉導波路124内を、マルチモード干渉を行いながら伝搬し、AR/HR光学膜125で反射された後に、入出力導波路123に結像される。一方、1.56μmの光は、マルチモード干渉導波路124の反射側端面にて形成されたAR/HR光学膜125にて反射光が抑制される。抑制しきれずに反射した一部の光は、0.78μmの光とは別の入出力導波路122に結像される。
マルチモード干渉導波路124を折り返し、入出力導波路123に出力された0.78μmの光において、AR/HR光学膜125の反射率は99%と非常に高いため、折り返しによる光の損失は、マルチモード干渉導波路124を往復する際の損失が支配的である。しかし、マルチモード干渉導波路124による光過剰損失が非常に小さい損失であるため、結果として、往復で2.0dBと非常に小さい損失で光の折り返しを行うことができる。
1.56μmの光のうちAR/HR光学膜125にて抑制しきれずに反射した一部の光は、入出力導波路122にそのほとんどが出力される。一方、マルチモード干渉導波路124は分岐比が2%であるので、反射して折り返した1.56μmの光のうち2%程度は入出力導波路123に出力される。1.56μmの光は、AR/HR光学膜125による反射抑制効果(−23dB程度)とマルチモード干渉導波路124による分波効果(−17dB程度)により、入射光量に対して−40dBと反射戻り光量を非常に小さい量に抑えることができる。結果として、同じ入出力導波路122から入射された1.56μmの光と0.78μmの光は、マルチモード干渉導波路124を折り返し通過することにより、入出力導波路123からは、0.78μmの光のみを選択的に出力することができ、その消光比は40dB程であった。
また本実施形態においては、二次非線形光学材料としてZnを添加したニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用いたが、ニオブ酸リチウムに限定されるものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの混晶(LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1))、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、チタニルリン酸カリウム(KTiOPO4)等に代表される二次非線形光学材料であれば同様の効果が得られる。また二次非線形光学材料の添加物に関しても、Znをに限定されるものではなく、Znの代わりにMg、Zn、Sc、In、Feを用いても良く、もしくは添加物を添加しなくてもよい。
(第2の実施形態)
図16に、本発明の第2の実施形態にかかる波長変換デバイスの構成を示す。第1の実施形態で示した導波路型反射素子を光合分波器として用いて、同一の基板201上に、第2高調波発生と波長変換を行う波長変換導波路206,207とともに集積した。光合分波器は、第1の実施形態で示したように、マルチモード干渉導波路204と、第1の入出力導波路202と第2の入出力導波路203とが接続された入出力端面と対向する面にコーティングされた、特定の波長の光を反射する光学膜205とから構成されている。第1の入出力導波路202および波長変換導波路206、第2の入出力導波路203および波長変換導波路207がそれぞれ接続されている。
波長変換導波路206に入力された波長1.56μmの励起光Aは、第2高調波発生により波長0.78μmの第2高調波に変換され、マルチモード干渉導波路204へ入力される。光学膜205は、0.78μmの光に対しては反射膜(HRコート)、1.56μmの励起光に対しては反射防止膜(ARコート)として機能する。導波路幅、導波路長、入出力位置を最適設計することにより、反射膜で反射された波長0.78μmの励起光Bは、第2の入出力導波路203から波長変換導波路207にのみ出力される。反射膜で僅かに反射された波長1.56μmの励起光Aは、第1の入出力導波路202から波長変換導波路206へ出力され、両者を分波することができる。
一方、光学膜205からマルチモード干渉導波路204に向けて、波長1.56μmの信号光を入力する。入力する位置は、マルチモード干渉導波路204の中心線からの間隔が、第1の入出力導波路202と同じ位置である。入力された波長1.56μmの信号光は、第2の入出力導波路203から波長変換導波路207にのみ出力される。波長変換導波路207において、波長1.56μmの信号光と波長0.78μmの励起光Bとによる差周波発生により、変換光が出力される。
図17に、第2の実施形態にかかる波長変換デバイスを作製する工程を示す。図10に示した第1の実施形態の場合と概ね同じである。非線形光学媒質である第1の基板211は、ZカットZn添加LN基板であり、波長変換導波路を形成するために、予め1.5μm帯で位相整合条件が満たされるように、周期分極反転構造が作製されている。LiNbO3結晶等における分極反転格子作製技術については多くの研究がなされており、そのうち、良好な結果が再現性よく得られる電界印加法を採用して、周期分極反転構造を作製する。第1の基板211上にリソグラフィにより周期レジストパターンを形成し、これを利用して周期的な電極(金属薄膜電極、液体電極等)を形成する。この電極から電圧パルスを印加することにより、良好な周期分極反転構造を得ることができる。
第2の基板212としてZカットMg添加LN基板を用いる。第一の工程は、第1の実施形態と同様に、用意した第1及び第2の基板211,212の拡散接合を行う。第二の工程において、第1の基板211の厚さが20μmになるまで研磨加工を施して、薄膜基板213を作製する。
図18に、第2の実施形態にかかる波長変換デバイスの作製寸法を示す。図18(a)は、導波路型反射素子を形成するための反射膜加工をする以前のMMI素子であるため、両側に入出力導波路を有するマルチモード干渉導波路204である。波長変換導波路206,207には、あらかじめ分極反転構造が付されており、その長さは45mmである。波長変換導波路206,207にマルチモード干渉導波路204が結合している。マルチモード干渉導波路204の幅は30μmであり、その光路長を3.5mmとしている。波長1.5μm帯の励起光及び波長0.78μmの光の入出力導波路202、203の導波路幅は5μmである。入出力導波路202は直線導波路であり、入出力導波路203は、曲率3mmの緩やかなカーブを描いて入出力導波路202から離れる。入出力導波路202,203は、間隔が5μmでマルチモード干渉導波路204と結合している。
図18(b)に示したように、後のプロセスにおいて、マルチモード干渉導波路204の光路長の半分の位置(光路長1.75mm)で切り出し、その端面に波長0.78μmの光に対しては反射、波長1.5μm帯の光に対しては反射防止の光学膜205がコーティングされる。
図19に、複数の波長変換デバイスを同時に作製する工程を示す。図19(a)の薄膜基板213は、図17に示した方法により作製されており、第1の基板211(ZカットZn添加LN基板)と第2の基板212(ZカットMg添加LN基板)とが接合されている。図に示したように、第1の基板211には、周期分極反転構造が形成された部分と形成されていない部分とが作り込まれている。入出力導波路202,203およびマルチモード干渉導波路204を、周期分極反転構造が形成されていない部分に作製し、波長変換導波路206,207を、周期分極反転構造が形成された部分に作製する。第1の実施形態と同様に、通常のフォトリソグラフィとエッチングのプロセスによって、複数の波長変換デバイスを作製する(図19(b))。
複数の波長変換デバイスごとに、薄膜基板213を短冊状に切り出し、入出力光導波路の端面C2と、波長変換導波路206,207の端面C1とを光学研磨することによって波長変換デバイスを得ることができる。(図19(c))。
第1の実施形態と同様に、マルチモード干渉導波路204の光軸方向の長さを、入出力導波路との結合が最も高くなる長さとし、光軸方向に対して垂直に切り出す。切り出した端面には、1.5μm帯の光に対しては反射防止(AR)、0.78μm帯の光に対しては反射(HR)となる光学積層膜(AR/HR光学膜205)を形成する。波長変換導波路206,207の端面には、1.5μm帯の光及び0.78μm帯の光に対して反射防止(AR)となるようにAR/AR光学膜208を形成する。
波長変換デバイスに集積されているマルチモード干渉導波路204は、第1の実施形態で作製したマルチモード干渉導波路と、寸法、材料ともに変わらないので分岐比の特性も同じである。波長0.78μm、1.56μmの光に対する分岐比は2%であった。光過剰損失は波長1.56μmの光が0.5dBであり、波長0.78μmの光が1.0dBである。ピークの出力光量と比較して、追加の過剰損失が1dB以内となる波長範囲は約40nmである。次に、波長変換デバイスとしての特性を得るために、入力導波路206から1.56μm帯の光を入力し、第二高調波発生から波長変換の効率を評価した。規格化変換効率は波長1555.4nmにおいて1300%/Wと高い値が得られた。
図20に、第2の実施形態にかかる波長変換デバイスの評価結果を示す。第二高調波発生(SHG)と差周波発生(DFG)を多段に行うSHG−DFG多段励起法による波長変換を行う。励起光として、外部共振器型の半導体レーザ(LD)223から出射された1.56μmの光を、エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)222で増幅し、AR/AR光学膜208を介して波長変換導波路206に入射する。波長変換導波路206において、第二高調波発生により、1.56μmの半分の波長0.78μmの光が生成される。
1.56μmの光と0.78μmの光は、波長変換導波路206を透過した後、マルチモード干渉導波路204に入射される。マルチモード干渉導波路204の反射端面には、AR/HR光学膜205がコーティングされている。マルチモード干渉導波路204へ入射されると、0.78μmの光は、マルチモード干渉導波路204内をマルチモード干渉を行いながら伝搬し、AR/HR光学膜205で反射された後に、波長変換導波路207に伝播される。一方、1.56μmの光は、マルチモード干渉導波路204の反射側端面にて形成されたAR/HR光学膜205にて反射光が抑制される。抑制されずに反射した一部の光は、0.78μmの光とは別の波長変換導波路206に伝播される。
マルチモード干渉導波路204を折り返し、波長変換導波路207に出力された0.78μmの光において、AR/HR光学膜205の反射率は99%と非常に高いため、折り返しによる光の損失は、マルチモード干渉導波路204を往復する際の損失が支配的である。しかし、マルチモード干渉導波路204による光過剰損失が非常に小さい損失であるため、結果として、往復で2.0dBと非常に小さい損失で光の折り返しを行うことができる。
1.56μmの光のうちAR/HR光学膜205にて抑制しきれずに反射した一部の光は、波長変換導波路206にそのほとんどが出力される。一方、マルチモード干渉導波路204は分岐比が2%であるので、反射して折り返した1.56μmの光のうち2%程度は波長変換導波路207に出力される。1.56μmの光は、AR/HR光学膜205による反射抑制効果(−23dB程度)とマルチモード干渉導波路204による分波効果(−17dB程度)により、入射光量に対して−40dBと反射戻り光量を非常に小さい量に抑えることができる。結果として、同じ波長変換導波路206から入射された1.56μmの光と0.78μmの光は、マルチモード干渉導波路204を折り返し通過することにより、波長変換導波路207からは0.78μmの光のみを選択的に出力することができ、その消光比は40dB程であった。
さらに、波長1.54μmを中心に100GHz間隔で配置された8波のC帯の信号光群を発生させ、合波器221で合波し、光学膜205からマルチモード干渉導波路204に向けて入力する。入力する位置は、マルチモード干渉導波路204の中心線からの間隔が、波長変換導波路206と同じ位置である。信号光群は、マルチモード干渉導波路204を伝搬した後、波長変換導波路207に入射される。波長変換導波路207内での0.78μmの光との差周波発生により、波長1.58μmを中心に100GHz間隔で配置された8波のL帯の波長変換信号光群が生成され、波長変換導波路207より出力される。
図21に、第2の実施形態にかかる波長変換デバイスによる波長変換光を示す。波長変換導波路207からの出力を観測した結果である。このとき、入力された信号光に対する変換光の光強度は+3dBであり、8波の変換光の光強度の偏差は1.5dB以下である。図2に示した従来の結果と比較すると、励起光が抑制されており、ASEも除去されていることがわかり、高いSN比を得ることができている。このように、本実施形態の波長変換デバイスによれば、第二高調波発生のための波長1.56μmの光が出力されるのを、非常に小さい値に抑えることができるので、差周波発生過程は、第二高調波発生過程とは独立した過程とすることができる。
マルチモード干渉導波路204は、モード間の干渉により光合波を行なうため、入力光が所定のモード以外のモードで伝播してきた場合、マルチモード干渉導波路204の損失が増大する。これは、マルチモード干渉導波路204が合波の機能を有すると共に、モードフィルタの役割を担っているからである。従って、本実施形態によれば、変換光のパワーをモニターするなどの特別な調整を行うことなく、励起光および信号光の透過光が最大になるように、光を入力すればよい。これにより、波長変換デバイスへの最適な入射条件が得られる。
1Wの励起光を入力した際に、パラメトリック利得により変換光は、入力した信号光に対して利得を持って変換される。これは、波長変換デバイスの変換効率が高いことに加えて、波長変換デバイス全体が直接接合リッジ型導波路であり、高パワーの入力に対してフォトリフラクティブ効果などの光損傷を起こすことなく、良好な波長変換特性を得られていることに起因する。また、カスケード励起法のように、1.56μm帯の強励起光を使う必要がないため、ASEノイズの影響が少なく、SN比が40dB以上の品質のよい変換光を得ることができる。さらに、信号光の波長を1.56μmに近づけていき、近接の波長変換を試みた場合でも、1.56μm帯の強い励起光が抑制されているため、信号光―変換光の差が50GHzの近接の波長変換であっても可能であり、かつ高いSN比を得ることができる。
励起光パワーを上げることにより、パラメトリック増幅が達成されPSAにも用いることができる。本実施形態によれば、ファイバ部品とは異なり、外乱による光位相の乱れが少ないために、PSAを安定して動作させることができる。
本実施形態においては、周期的に分極反転された二次非線形光学材料としてZnを添加したニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用いたが、ニオブ酸リチウムに限定されるものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの混晶(LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1))、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、チタニルリン酸カリウム(KTiOPO4)等に代表される二次非線形光学材料であれば同様の効果が得られる。また二次非線形光学材料の添加物に関しても、Znに限定されるものではなく、Znの代わりにMg、Zn、Sc、In、Feを用いても良く、もしくは添加物を添加しなくてもよい。
(第3の実施形態)
図22に、本発明の第3の実施形態にかかる波長変換デバイスの評価結果を示す。第3の実施形態においては、第2の実施形態の波長変換デバイスと同じ構成の波長変換デバイスを用いて、第二高調波発生(SHG)と和周波発生(SFG)とを多段独立に行う。第2の実施形態においては、2つの波長変換導波路の周期分極反転構造は、波長1.56μmの第二高調波発生に位相整合が取れるように設定していた。第3の実施形態においては、波長1.56μmの第二高調波発生に位相整合が取れる分極反転構造を有する波長変換導波路306と、波長1.56μmと波長0.78μmの和周波発生に位相整合が取れる分極反転構造を有する波長変換導波路307の両方が作製されている。
励起光として、外部共振器型の半導体レーザ(LD)323から出射された1.56μmの光を、エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)322で増幅し、AR/AR光学膜308を介して波長変換導波路306に入射する。波長変換導波路306内での第二高調波発生により、1.56μmの半分の波長0.78μmの光が生成される。1.56μmの光と0.78μmの光は、波長変換導波路306を透過した後、マルチモード干渉導波路304に入射される。
マルチモード干渉導波路304の反射端面は0.78μmの光に対しては反射、1.56μmの光に対しては反射防止のAR/HR光学膜305がコーティングされている。マルチモード干渉導波路304へ入射されると、0.78μmの光はマルチモード干渉導波路304内をマルチモード干渉を行いながら伝搬し、AR/HR光学膜305で反射された後に、波長変換導波路307に伝播される。一方、1.56μmの光は、マルチモード干渉導波路304の反射側端面にて形成されたAR/HR光学膜305にて反射光が抑制される。抑制しきれずに反射した一部の光は、0.78μmの光とは別の波長変換導波路306に結像される。
マルチモード干渉導波路304を折り返し、波長変換導波路307に出力された0.78μmの光において、AR/HR光学膜305の反射率は99%と非常に高いため、折り返しによる光の損失は、マルチモード干渉導波路304を往復する際の損失が支配的である。しかし、マルチモード干渉導波路304による光過剰損失が非常に小さい損失であるため、結果として、往復で2.0dBと非常に小さい損失で光の折り返しを行うことができる。
1.56μmの光のうちAR/HR光学膜305にて抑制しきれずに反射した一部の光は、波長変換導波路306にそのほとんどが出力される。一方、マルチモード干渉導波路304は分岐比が2%であるので、反射して折り返した1.56μmの光のうち2%程度は波長変換導波路307に出力される。1.56μmの光は、AR/HR光学膜305による反射抑制効果(−23dB程度)とマルチモード干渉導波路304による分波効果(−17dB程度)により、入射光量に対して−40dBと反射戻り光量を非常に小さい量に抑えることができる。結果として、同じ波長変換導波路306から入射された1.56μmの光と0.78μmの光は、マルチモード干渉導波路304を折り返し通過することにより、波長変換導波路307からは0.78μmの光のみを選択的に出力することができ、その消光比は40dB程であった。
さらに、波長1.56μmの第2の励起光を、光学膜305からマルチモード干渉導波路304に向けて入力する。入力する位置は、マルチモード干渉導波路304の中心線からの間隔が、波長変換導波路306と同じ位置である。第2の励起光は、マルチモード干渉導波路304を透過した後、波長変換導波路307に入射される。波長変換導波路307内での0.78μmの光との和周波発生により、波長0.520μmの波長変換光が生成され、波長変換導波路307から出力される。
第2の励起光は、LD323から出射された1.56μmの光を、光カプラ325で分岐し、第1の励起光とは独立の別のEDFA324により増幅する。従って、第1の励起光の第二高調波発生時のパワーの減衰を補うことができ、ハイパワーの第三次高調波発生が可能となる。
また、第2の励起光の光源を第1の励起光の光源とは別に用意してもよい。その場合、直列に配列した第二高波発生に位相整合が取れる分極反転周期構造と和周波数発生に位相整合が取れる分極反転周期構造の特性が一致しない場合に、第二の励起光の光源の波長を変えることにより特性の不一致を補い、高効率に波長変換を行うことができる。
さらに、和周波数発生に位相整合が取れる分極反転周期構造の反転周期を適当に調整すれば、第2の励起光の波長に第1の励起光の波長とは異なる波長を持つ光を用いることができる。例えば、第3の実施形態において、波長1.56μmの第二高波発生に位相整合が取れる分極反転周期構造と、波長1.57μmと波長0.78μmの和周波数発生に位相整合が取れる分極反転周期構造の両方を直列に作製すれば、最終的に0.521μmの光を生成することができる。このように、非線形効果による各周波数変換過程を独立に起こすことができるため、任意の波長の組み合わせにより波長変換を容易に実現することができる。
さらにまた、第1の励起光と第2の励起光を異なる波長にすることにより、第二高波発生、和周波数発生などの非線形効果による各周波数変換の逆過程による、逆周波数変換を防ぐことができ、ワットクラスのハイパワー出力を行う際に非常に有効な効果を奏する。
本実施形態においては、周期的に分極反転された二次非線形光学材料としてZnを添加したニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用いたが、ニオブ酸リチウムに限定されるものではなく、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの混晶(LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1))、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、チタニルリン酸カリウム(KTiOPO4)等に代表される二次非線形光学材料であれば同様の効果が得られる。また二次非線形光学材料の添加物に関しても、Znに限定されるものではなく、Znの代わりにMg、Zn、Sc、In、Feを用いても良く、もしくは添加物を添加しなくてもよい。
以上述べたように、本実施形態によれば、高い消光比によって短波長の光のみを選択的に出力することができ、長波長の光を十分に抑制することができる光合分波器を提供することができる。また、信号光と励起光との合波機能を有する光合分波器と、波長変換導波路とを集積することにより波長変換デバイスを実現することができるので、実装が容易であり、光損失が少なく、高パワー入力への耐性が強く、高品質な波長変換が可能であり、小型、低価格の波長変換デバイスを提供することができる。