以下、本発明の鞍乗り型車両を自動三輪車に適用した実施形態について添付図面に基づき説明する。尚、以下の説明中、前後左右とは、その自動三輪車を基準にして言うものとする。
先ず図1〜図3において、自動三輪車Tは、単一の前輪Wfを操向可能に支持する車体Bと、左右一対の後輪Wr,Wrを支持しながらそれらを駆動するパワーユニットPとを有し、車体Bは、パワーユニットPに対して、車体Bの左右方向へのローリングを可能にするローリングジョイントJrを介して連結され、またパワーユニットPは、車体Bに対して、パワーユニットPの上下揺動を可能にするスイングジョイントJsを介して連結され、さらに車体B及びパワーユニットP間に懸架装置Sが介装される。
車体Bは、ステップフロア1、フロントウインドシールド2、リヤピラー3及びルーフ4を備え、これらの内側に画成されるキャビン5内に操向ハンドル6及び操縦者用シート7が配設される。また車体Bは、パワーユニットPを上方から覆う車体後部Baを有しており、その車体後部Ba上にラゲッジボックス8が取り付けられる。
図4〜図6において、パワーユニットPは、クランクケース13の前部にシリンダ部10を水平に近い前傾姿勢をもって連設すると共に、クランク軸11を左右方向水平に配置した水冷式エンジン9と、このエンジン9のクランクケース13に一体的に結合され、内部に自動変速装置及び差動装置を収容する伝動ケース14とを備えており、その伝動ケース14の後部の左右両側壁に支持される左右の出力軸15,15の外端に後輪Wr,Wrがそれぞれ取り付けられる。したがって、エンジン9の動力は、伝動ケース14内の前記自動変速機及び差動装置を介して後輪Wr,Wrに伝動するようになっている。クランクケース13の底部には、その前方に突出する支持板16がボルト結合される。
図4、図5、図8及び図9に示すように、車体Bは、その後方に水平に突出する左右一対のメインフレーム17,17と、それらの上方に配置される、それぞれ左右一対の前部ステー18,18及び後部ステー19,19とを有しており、前部ステー18,18及び後部ステー19,19により前記車体後部Baが支持される。
左右のメインフレーム17,17には、その上面より起立する左右一対の懸架ブラケット板20,20が結合される。図9に明示するように、これら懸架ブラケット板20,20は、相互間隔が左右のメインフレーム17,17の相互間隔より狭い前端部20a,20aと、相互間隔が左右のメインフレーム17,17の相互間隔と略等しい後端部20b,20bとを有するように中間部が屈曲しており、それらの前端部20a,20aは、水平方向の第1クロスメンバ21を介して相互に一体に連結される。この第1クロスメンバ21の両端部は、上記前端部20a,20aを貫通してそれらの外側面より突出しており、その突出端部に前部ステー18,18の下端が結合される。
また懸架ブラケット板20,20の後端部20b,20bの内側面には、水平方向の第2クロスメンバ22の両端が一体的に結合され、その第2クロスメンバ22の両端部に後部ステー19,19の下端部が一体的に結合される。上記各部の結合には溶接が用いられる。
図8、図10〜図12において、前記ローリングジョイントJrは、ローリング軸線Yに沿って延びる支持孔24aを有するジョイントケース24と、上記支持孔24aに軸受ブッシュ39(図11参照)を介して回転可能に嵌合、連結されるジョイント軸25とで構成され、ジョイントケース24は、スイングジョイントJsを介して車体Bに連結される。ジョイントケース24は、上部及び下部ケース半体24U,24Lに二分割され、これら両ケース半体24U,24Lは、それらの左右両側方に張り出した鍔部24Ua,24Laにおいてボルト23により相互に結合される。
ジョイント軸25は、その後端部に上下方向に偏平なジョイント軸ベース25aを一体に備えており、そのジョイント軸ベース25aがパワーユニットPの前記支持板16に固着される。ローリング軸線Yは、車両の縦中心面上で車両の前方に向かってやゝ上向きに傾斜しており、車体Bは、このローリング軸線Y周りにおいて左右方向へローリングし得るようになっている(図3参照)。
ジョイント軸25及びジョイントケース24間には、ジョイントケース24を介して車体Bに起立方向の付勢力を付与するナイトハルト式の起立付勢手段26が介装される。
図8〜図9、図12において、前記スイングジョイントJsは、前記第2クロスメンバ22の前方に並んで懸架ブラケット板20,20の後端部20b,20bに両端部が固着される左右方向のリンク支点軸27と、このリンク支点軸27に上方の基端部が支持されて前後及び上下方向に揺動し得る防振リンク28と、この防振リンク28の下方の揺動端部をジョイントケース24の前端部に連結するピボット軸29と、防振リンク28の揺動角度を緩衝的に規制する弾性ストッパ手段30とで構成される。
図10に示すように、防振リンク28は、長尺の支持筒31と、この支持筒31の両端部に一端部がそれぞれ固着される一対リンク部材32,32と、これらリンク部材32,32の前端部に固着される一対の短尺の支持筒33,33とで構成され、その長尺の支持筒31は、両懸架ブラケット板20,20に両端部が支持されるリンク支点軸27にゴムブッシュ34を介して嵌合され、短尺の支持筒33,33にピボット軸29の両端部がゴムブッシュ35,35を介して嵌合され、両支持筒33,33間のピボット軸29が、ジョイントケース24の前端側の上部に一体に突設される左右一対の前部支持ボス36,36に軸受ブッシュ37,37を介して嵌合される。軸受ブッシュ37,37間のピボット軸29の外周には、ディスタンスカラー38が嵌合される。
図8及び図10に示すように、前記弾性ストッパ手段30は、一対のリンク部材32,32の少なくとも一方の前後両面に接着され、表面に複数のクッション突起40aを有する一対のストッパゴム40,40と、前側のストッパゴム40のクッション突起40aに接するように懸架ブラケット板20,20に固設される前部ストッパ板41と、後側のストッパゴム40のクッション突起40aに接するように第2クロスメンバ22に固設される後部ストッパ板42とで構成される。
以上において、リンク支点軸27は車体Bに支持される静止軸であり、防振リンク28の基端部は、そのリンク支点軸27に回動可能に支持される防振リンク28の根元であるる。
而して、ジョイントケース24は、ピボット軸29を支点として上下に揺動可能であり、また防振リンク28はリンク支点軸27を支点として前後方向に揺動可能であり、その揺動量は、防振リンク28と、その前後のストッパ板41,42との間でストッパゴム40,40が圧縮変形される範囲で緩衝的に規制される。したがって、パワーユニットP側からスイングジョイントJsのピボット軸29に入力される衝撃を、防振リンク28の揺動とストッパゴム40,40の圧縮変形により吸収して、その衝撃の車体B側への伝達を抑え、乗り心地を良好にする。
図8、図9、図11及び図12において、前記懸架装置Sは、ジョイントケース24と、第1クロスメンバ21及び懸架ブラケット板20,20との間に介装される。この懸架装置Sは、クッションユニット45、ベルクランク型レバー46及びリンク47よりなっている。
クッションユニット45は、シリンダ48と、その内部に摺動可能に収容されるピストン(図示せず)とよりなる公知の油圧式のものであって、シリンダ48と、前記ピストンの、シリンダ48の一端壁を貫通するピストンロッド49には、互いに対向する一対のフランジ状のばね座48a,49aが形成され、このばね座48a,49a間にコイルばねよりなる懸架ばね50が縮設される。またシリンダ48の他端壁には取り付けボス51が形成され、ピストンロッド49の先端には二股連結部材52が固設されている。
このクッションユニット45は、スイングジョイントJsの上方で中心軸線Aを車両前後方向に向けて略水平に配置される。そして前端の取り付けボス51は、前記第1クロスメンバ21の上面に固設される第1支持部材53に両端部が支持される第1支点軸55により支持され、後端の二股連結部材52は、レバー46及びリンク47を介してジョイントケース24に次のように連動連結される。
レバー46は、前端部46aと、この前端部46aの後上方に位置する上端部46bと、前端部46aの後下方に位置する下端部46cとを有しており、その前端部46aは、前記第2クロスメンバ22の後面に固設される第2支持部材54で両端部が支持される第2支点軸56により支持され、上端部46bは第1ピボット軸57を介して前記二股連結部材52に連結され、下端部46cは、第2ピボット軸58を介してリンク47の上端部に連結される。
そのリンク47の下端部46cは、スイングジョイントJsのピボット軸29の後下方でジョイントケース24の後端部上面に突設される後部支持ボス60に第3ピボット軸59を介して連結される。
以上において、第1及び第2支点軸55,56は、車体Bに支持される静止軸であり、取り付けボス51は、第1支点軸55に回動可能に支持されるクッションユニット45の根元であり、また前端部46aは、第2支点軸56に回動可能に支持されるレバー46の根元である。
而して、自動三輪車Tの走行中、後輪Wr,Wrが路面の凹凸に沿って上下に振動すると、パワーユニットPがローリングジョイントJrと共に、スイングジョイントJsのピボット軸29周りに上下に振動し、その振動は、リンク47及びレバー46を介してクッションユニット45に前後方向の振動として伝達され、クッションユニット45及び懸架ばね50の伸縮作用によりその振動エネルギが減衰される。
また曲路走行時、車体Bを左又は右方向にバンク、即ちローリングさせると、車体Bに懸架装置Sを介して連結したジョイントケース24と、パワーユニットPに一体的に連結したジョイント軸25とが、ナイトハルト式の起立付勢手段26を捩じりながら相対的に回動することで、スムーズなローリング(図16〜図18参照)が可能となる。そしてジョイントケース24及びジョイント軸25の相対回動に伴ない起立付勢手段26に生じる捩じり反発力が車体Bの起立を助勢する。
ところで、懸架装置Sは、スイングジョイントJsの上方で中心軸線Aを車両前後方向に向けて略水平に配置されると共に、前端部が車体に支持されるクッションユニット45と、このクッションユニット45の後端をスイングジョイントJsの後方でジョイントケース24に連動連結するレバー46及びリンク47とで構成されるので、パワーユニットPを、比較的大径のクッションユニット45に邪魔されることなくスイングジョイントJsに近づけることができ、これにより車両前後長の短縮化、延いては自動三輪車Tのコンパクト化を図ることができ、またパワーユニットPをスイングジョイントJsに近づけた分、パワーユニットPを含む上下揺動系の軽量化、延いてはばね下荷重の軽減を図ることができる。
特に、パワーユニットPのエンジン9のシリンダ部10直前に配置されることになるレバー46の上端部46bは、パワーユニットPの上方への揺動に連動して前方に回動することになるから、エンジン9をレバー46の上端部46bに充分近づけても、エンジン9とレバー46との干渉を防ぐことができ、車両前後長の短縮化に寄与し得る。
またスイングジョイントJsの上方に存在するデッドスペースをクッションユニット45の設置に有効利用することで、自動三輪車Tの一層のコンパクト化を図ることができる。
またクッションユニット45の前端部を支持する第1支点軸55、レバー46の前端部46aを支持する第2支点軸56及び防振リンク28の基端部を支持するリンク支点軸27は、車体Bのメインフレーム17,17及び前、後部ステー18,18;19,19に固設される左右一対の懸架ブラケット板20,20に支持されるので、上記各支点軸55,56,27の支持剛性を効果的に高め、パワーユニットP側から上記各支点軸55,56,27に入力される荷重を懸架ブラケット板20,20によって強固に受け止めることができる。
また左右一対の懸架ブラケット板20,20は、前記防振リンク28の基端部のリンクリンク支点軸27を支持する後端部20b,20bよりも相互間隔が狭い前端部20a,20aを有するように中間部が屈曲しており、前記前端部20a,20a間を連結する第1クロスメンバ21の上面には、クッションユニット45の前端部の第1支点軸55の両端部を支持する第1支持部材53が固設されるので、両懸架ブラケット板20,20の前端部20a,20a間を連結する第1クロスメンバ21のスパンを極力短くしてその剛性を強化し、クッションユニット45を強固に支持することができる。
しかも第1クロスメンバ21は、その両端部が前記懸架ブラケット板20,20を貫通してそれらの外側方に突出するように配設され、その突出した両端部には、車体Bの後部を支持する前部ステー18,18が結合されるので、第1クロスメンバ21の剛性を、左右の懸架ブラケット板20,20と前部ステー18,18により効果的に強化することができ、したがってその第1クロスメンバ21にクッションユニット45の前端部を強固に支持させることができる。
図12〜図14において、前記ジョイントケース24及びジョイント軸ベース25a間には、車体Bのローリング軸線Y周りのローリングを規制もしくは緩衝する、即ち制御する油圧・直動式のローリングダンパ61が接続される。このローリングダンパ61は、ダンパシリンダ62と、このダンパシリンダ62内を摺動するダンパピストン63と、このダンパピストン63に結合されてダンパシリンダ62の両端壁外に突出するピストンロッド64とを備えており、そのダンパシリンダ62は、前記ジョイント軸ベース25a上に固定される下部シリンダホルダ65と、これにボルト結合される上部シリンダホルダ66とで挟持されることにより、軸線を車幅に向けた水平姿勢でジョイント軸ベース25aに固定される。
一方、ピストンロッド64は連動機構67を介してジョイントケース24に連結される。その連動機構67は、ピストンロッド64の一端部にその有効長さを調整し得るよう連結される第1アイボルト68と、ジョイントケース24に固定されてダンパシリンダ62より上方位置に配置される第2アイボルト69と、第1及び第2アイボルト68,69の各目玉部68a,69aにそれぞれ嵌合保持される第1及び第2ピボットボルト70,71と、これら第1及び第2ピボットボルト70,71に両端部が回転自在に支持されるリンク72とにより構成され、車体Bのローリング時(図17、図18参照)、第2ピボットボルト71のローリング軸線Y周りの回転を直線運動に変換してピストンロッド64に伝達するようになっている。第2アイボルト69は、ジョイントケース24の上面に前記後部支持ボス60の後面に隣接してボルト結合される支持台73の上端部に固着される。
上記のように、直動式のローリングダンパ61において、ダンパシリンダ62は、軸線を車幅に向けた水平姿勢でジョイント軸ベース25aに固定され、ピストンロッド64は連動機構67を介してジョイント軸25に連結されるので、ダンパシリンダ62は、車体Bのローリングに関係なく、常に水平状態を維持して路面との間隔に変化を生じさせない。したがってダンパシリンダ62は、自動三輪車Tにおいて比較的低い位置を占めるジョイントケース24への設置が可能となり、車両の低重心化に寄与し得ると共に、車体Bのバンク角に影響を及ぼすことがない。
前記リンク72には、その前面を覆うリンクカバー75がボルト76により固着される。またダンパシリンダ62には、リンク72と反対側でダンパシリンダ62から露出するピストンロッド64の外周を覆う筒状のロッドカバー77が取り付けられる。これらリンクカバー75及びロッドカバー77は、リンク72及びピストンロッド64への、特に車両前方からの他物の接触を防ぐように働く。
このロッドカバー77は、外端面が開放しているが、少なくとも車体Bのローリング中立時、(図16参照)、リンク72と反対側のピストンロッド64の露出部全体を覆う長さを持っている。ロッドカバー77の根元側には水抜き孔77aが設けられる。
ところで、ローリングダンパ61の上記構造上、ピストンロッド64は、車体Bのローリング時には、ダンパシリンダ62からの突出長さがローリング方向側で増加し(図17参照)、それと反対側で減少する(図18参照)ことになり、前方から飛来する石などの他物がピストンロッド64の突出部分に接触する機会は、突出長さ増加側で増加し、突出長さ減少側で減少することになる。
そこで、車体Bは、そのローリング時、ピストンロッド64の、突出長さ増加側の突出部の前面側を覆うように形成される。これにより、ピストンロッド64の、突出長さ増加側の突出部に対する前方からの他物の接触を回避することができる。したがって、図示例では、車体Bの、ロッドカバー77側へのローリング時、ピストンロッド64の、ローリング方向側の端部がロッドカバー77から突出するようになっているが、その突出端部の前面側を車体Bで覆うことができ、前方からの他物の接触を回避することができる。こうすることで、ロッドカバー77を、車体Bのローリング中立時のみ、リンク72と反対側のピストンロッド64の露出部を覆うに足るだけの長さに設定することを可能にし、ロッドカバー77を含むローリングダンパ61の軸方向全長を極力短くして、使用頻度の高い車体Bのローリング中立時、ロッドカバー77を含むローリングダンパ61全体の前面側を車体Bで容易に覆うことができる。
図5及び図6に示すように、前記エンジン9は、支持板16を介してジョイント軸ベース25aを支持するクランクケース13と、このクランクケース13の前部に前傾姿勢で連設されてローリングジョイントJrの上面に対向するシリンダ部10とを備えており、そのシリンダ部10とローリングジョイントJrとの間のスペース78に上記ローリングダンパ61は配置される。これによって、ローリングダンパ61の設置による車両の前後長の増加を回避することができる上、シリンダ部10の前傾姿勢により、車両の低重心化を図ることができる。
図4、図6及び図7において、前記エンジン9の冷却のためのラジエータ80が一方の後輪Wr、図示例では右側の後輪Wrの前側に配置される。このラジエータ80は、上部水タンク81、その下方に配置される下部水タンク82、両水タンク81,82間を連通する放熱コア83及び、この放熱コア83の両側で両水タンク81,82間を連結する側枠84,84よりなっており、上部水タンク81には、これに冷却水を補給し得るサブタンク85が接続される。
このラジエータ80は、放熱コア83の通風入口面83a及び通風出口面83bを車両の前後方向に向けて配置される。更にラジエータ80は、その車幅方向外側端が内側端より後方位置を占めるように傾斜し、且つその上端が下端より後方位置を占めるように傾斜した姿勢で配置される。
またラジエータ80の通風出口面83b、右側の後輪Wrの前面、エンジン9のクランクケース13側面の三者に囲まれる平面視で三角形状のスペース86に、放熱コア83の通風出口面83bに対向して冷却風を引き込む冷却ファン87と、この冷却ファン87を支持つゝ駆動し得る電動モータ88とが配置され、この電動モータ88は、ステー89を介してラジエータ80に支持される。またラジエータ80は、その側枠84,84をエンジン9のクランクケース13にボルト結合されるブラケット90に弾性支持部材91を介して取り付けることにより、パワーユニットPに弾性的に支持される。
而して、図3に示すように、車体Bのローリング時、パワーユニットPを覆う車体後部Baが、一方の後輪Wrの前側に配置されるラジエータ80に接近するが、そのラジエータ80は、それの車幅方向外側端が車幅方向内側端より後方に位置するように傾斜姿勢をもってパワーユニットPに支持されるので、車体後部Baとラジエータ80との間に、それらの干渉を回避するに充分な間隙92を容易に確保することができる。またそれに関連してラジエータ80は、一方の後輪Wrの外側面位置から外方へ出ない範囲で、従来のものより車両外側方向への配置が可能となるので、走行中、発生する走行風を前輪Wfに邪魔されることなくラジエータ80の放熱コア83へスムーズに導入することができる。したがって大量の走行風を、放熱コア83を通風入口面83aから通風出口面83bへとスムーズに通過させ、冷却ファン87の作動と相俟って放熱コア83の放熱を効果的に図り、ラジエータ80のエンジン9に対する冷却性能を高めることができる。さらに車体後部Baを極力低い位置に配置することが可能となり、自動三輪車Tのコンパクト化に寄与し得る。
またパワーユニットPの上下揺動時、特に上方揺動時にも、パワーユニットPと共に上下揺動するラジエータ80が、車体後部Baに接近するが、そのラジエータ80は、それの上端が下端より後方に後方に位置するように傾斜姿勢をもってパワーユニットPに支持されるので、車体後部Baとラジエータ80との間に、それらの干渉を回避するに充分な間隙を容易に確保することができる。
さらに図7に示すように、一方の後輪Wrの前面と、ラジエータ80の通風出口面83bと、クランクケース13の側面との間に形成される平面視で三角状のスペース86に、放熱コア83の通風出口面83bに対向する冷却ファン87と、この冷却ファン87を支持及び駆動すべくラジエータ80に支持される電動モータ88とが配設されるので、冷却ファン87及び電動モータ88の設置に、一方の後輪Wr、ラジエータ80及び、クランクケース13の三者で囲まれるデッドスペース86が利用されることになり、それらの設置による自動三輪車Tの大型化を抑えることができる。
また図4〜図6及び図12に示すように、ラジエータ80の下方にはローリングダンパ61のダンパシリンダ62が配置される。このダンパシリンダ62は、軸線を車幅に向けた水平姿勢でジョイント軸ベース25aに固定される。このようなラジエータ80及びダンパシリンダ62の上下配置によれば、これらによる自動三輪車Tの前後長の増加を極力抑えることができると共に、ラジエータ80への走行風の導入をダンパシリンダ62が妨げられずに可能する。
また図16〜図18に示すように、ローリングダンパ61の傾斜したリンク72が前記ラジエータ80の下面に隣接するように配置される。その際、車体Bのラジエータ80側へのローリング時、それに応じて車幅方向外方に移動するリンク72の外端がラジエータ80と干渉しないように、ローリングダンパ61は、その長手方向中央部がローリング軸線Yよりラジエータ80と反対側にオフセットするように配置される。こうすることで、ローリングダンパ61とラジエータ80との車幅方向での近接配置を可能し、車両の前後長の増加を抑えることができる。
図4〜図6において、エンジン9の吸気系は、前傾したシリンダ部10の上面に接続される略水平配置のスロットルボディ95と、このスロットルボディ95の後方上流端に接続されるエアクリーナ96と、このエアクリーナ96の入口に接続されるプリチャンバ97とで構成され、プリチャンバ97で雨水等を分離した空気がエアクリーナ96に流入し、濾過されるようになっている。エアクリーナ96は、パワーユニットPの上面中央部に搭載、支持される。
またエンジン9の排気系は、シリンダ部10の下面に接続されてシリンダ部10の一側面近傍を横切ってエアクリーナ96の近傍に達する排気管98と、この排気管98の後方下流端に接続されてエアクリーナ96の一側面に隣接する排気浄化用の触媒コンバータ99と、この触媒コンバータ99の下流端に接続されるマフラ100とで構成される。
マフラ100は円筒状をなしていて、その中心軸線を車幅方向に向けながらエアクリーナ96の後面に隣接した配置される。排気管98は、その後端部の下面より第1支持ブラケット101を突出させており、それをクランクケース13にボルト結合している。またマフラ100は、その下面より第2支持ブラケット102を突出させており、それを伝動ケース14の後端部にボルト結合している。こうしてマフラ100は、パワーユニットPの上面後部に配置される。
上記スロットルボディ95からマフラ100に亙り、それらの上面を覆うカバー104が配設され、このカバー104は、マフラ100の後面をも覆うように、後端部が下方に湾曲してしている。このカバー104は、パワーユニットPに固着されるリヤフレーム105により支持され、そしてスロットルボディ95、エアクリーナ96及びマフラ100との間に第1通風間隙106を画成する。
このカバー104の左右両側部には、後輪Wr,Wrの上面を覆う一対のフェンダ108,108が一体に連設される。このカバー104の中央部には、スロットルボディ95やエアクリーナ96が臨むメンテナンス窓109が開口しており、このメンテナンス窓109は、通常、取り外し可能なリッド104aにより閉鎖される。したがって、リッド104aは、その閉鎖状態ではカバー104の一部となる。
カバー104の、マフラ100の後面を覆う後部の後面には、カバー104に支持される導風板111が第2通風間隙107を開けて対置される。この導風板111は、カバー104より上方に突出させたその上端から、カバー104の後端近傍に位置する下端に向かって後方へ傾斜するように配置され、また導風板111と、それに対向するカバー104とは、第2通風間隙107が下方に向かって狭くなるように形成される。
この導風板111は、ライセンスプレート取り付け板112と、これに上端部をボルト116で固着されて下方に延びるライセンスプレート114とで構成される。ライセンスプレート取り付け板112は、その左右両端から前方下向きに屈曲するステー部112a,112aと、これらステー部112a,112aの下端部間を連結する水平方向のフランジ112bとを一体に備えており、そのフランジ112bが、カバー104の、マフラ100の上面に対向する水平部104bにボルト115で固着される。ステー部112a,112aは、第2通風間隙107での空気の流れに抵抗しないよう、板状をなしている。
カバー104の後端部背面には、第2通風間隙107での空気の流れに抵抗しないよう薄肉に形成されたリフレクタ117が接着され、またライセンスプレート取り付け板112の上端部の背面にはライセンスランプ118が付設される。
尚、ライセンスプレート取り付け板112を下方に延長させて、それのみで導風板111を構成することもでき、またライセンスプレート114のみで導風板111を構成することもできる。
而して、自動三輪車Tの走行中、走行風Wがカバー104の周囲を前方から後方へと流れる。その際、特に、導風板111は走行風Wを捉えて、第2通風間隙107へ流下させることで、エジェクタ効果により第1通風間隙106からの走行風Wの流出を促進させるので、第1通風間隙106での通風量が増加し、第1通風間隙106に臨むマフラ100を効果的に冷却して、エンジン9の出力低下を押えることができる。
特に、導風板111は、カバー104より上方に突出させたその上端から下端に向かって後方へ傾斜するように配置されるので、導風板111は、より多くの走行風Wを捉えて第2通風間隙107へ流下させてエジェクタ効果を高め、第1通風間隙106内の空気の下方への引き出しを効果的に行い、マフラ100の冷却を一層図ることができる。
また第2通風間隙107は下方に向かって狭くなっているので、第1通風間隙106における空気流速は下方の出口に向かって高まり、エジェクタ効果をより高め、第1通風間隙106からの空気の引き出しを一層効果に行うことができる。
またマフラ100の前方にはエアクリーナ96がを配設されるにも拘らず、第1通風間隙106では、エアクリーナ96からマフラ100へと空気の流れが発生するので、マフラ100によるエアクリーナ96の加熱を防ぐことができる。
さらに導風板111は、ライセンスプレート114もしくはそのライセンスプレート114を取り付けるライセンスプレート取り付け板112、又はその両者114,112で構成されるので、専用の導風板111を用意する必要がなくなり、構造の簡素化に寄与し得る。しかも導風板111はカバー104に取り付けられることで、その取り付けを容易に行うことができる。
図2に示すように、前記操向ハンドル6には、左グリップ123に隣接してブレーキレバー120が軸支され、このブレーキレバー120に図示しないイコライザ機構を介して左右一対のブレーキケーブル121,121(図4及び図5参照)の前端が接続され、それらの後端は、左右の後輪Wr,Wrを制動するための後輪ブレーキ122,122の作動レバー122a,122aに接続される。したがって、ブレーキレバー120を操作することにより、後輪ブレーキ122,122を同時に作動し得るようになっている。
また操向ハンドル6の右端部に設けられるスロットルグリップ123と、前記エンジン9のスロットルボディ95におけるスロットル弁(図示せず)とがスロットルケーブル124を介して接続され、スロットルグリップ123の回転操作によりスロットル弁を開閉し、エンジン9の出力を制御し得るようになっている。
図11〜図15において、上記ブレーキケーブル121,121は、車体B及びパワーユニットP間に亙りそれらの左右側方に配設され、それらの妄動を防ぐための左右一対の前部ガイド部材125,125′及び後部ガイド部材126,126が前記ジョイントケース24及びジョイント軸ベース25aに次のように支持される。
図11及び図15に明示するように、左右の前部ガイド部材125,125′は合成樹脂製であって、それぞれの外周を囲繞する金属製の前バンド127,127′に保持され、これら前バンド127,127′は、ジョイントケース24を構成する上部及び下部ケース半体24U,24Lの鍔部24aU,24Laにボルト23によってそれぞれ共締めされる。
左側の前部ガイド部材125(図15参照)は、正三角形状のリング状をなしており、その内側には、左側の前記ブレーキケーブル121と前記スロットルケーブル124とがそれぞれ挿通される前部ガイド孔128と補助ガイド孔130とが隔壁125aを挟んで設けられる。前部ガイド孔128は、前記正三角形状の一辺に平行して延びる長孔状をなし、補助ガイド孔130は、前部ガイド孔128と前記正三角形状の頂点との間に配置される正三角形状をなしている。そして、この左側の前部ガイド部材125のジョイントケース24による支持状態では、前部ガイド孔128は、その長手方向が車幅方向外方に向かって上向きとなる傾斜姿勢をとるようになっており、また補助ガイド孔130は、前部ガイド孔128より車幅方向内方に配置される。
また右側の前部ガイド部材125′(図11参照)は、長円形状のリング状をなしており、その内側には、右側の前記ブレーキケーブル121が挿通される前部ガイド孔128が設けられる。その前部ガイド孔128は、右側の前部ガイド部材125′のジョイントケース24による支持状態では、その長手方向が車幅方向外方に向かって上向きとなる傾斜姿勢をとるようになっている。而して、左右の前部ガイド孔128,128は、背面視でローリング軸線Yに関して対称的に配置される。
図12〜図14に示すように、左右の後部ガイド部材126,126も合成樹脂製であって、それぞれの外周を囲繞する金属製の後バンド131,131に保持され、これら後バンド131,131は、ジョイント軸ベース25aの両側面に前記支持板16と共にボルト132によって固着される。これら後部ガイド部材126,126は、長円形状のリング状をなしており、それぞれの内側には、左右の前記ブレーキケーブル121,121がそれぞれ挿通される後部ガイド孔129,129が設けられる。これら後部ガイド孔129,129は、前記長円形状に対応した長孔状をなしており、後部ガイド部材126,126のジョイント軸ベース25aによる支持状態では、その長手方向が車幅方向に沿って水平となる傾斜姿勢をとるようになっている。
左右の後部ガイド部材126,126は、左右の前部ガイド部材125,125′より下方に配置され、左右のブレーキケーブル121,121は、左右の前部ガイド孔128,128を通過した後、前記ローリングダンパ61の下側を通って左右の後部ガイド孔129,129を通過するように配設される。また左右のブレーキケーブル121,121は、車体Bのローリング中立状態、即ち起立状態では、前部ガイド孔128,128及び後部ガイド孔129,129の中心部に位置するように配設される。
したがって、各前部ガイド孔128は、対応する側のブレーキケーブル121の、車幅方向外側に向かって上向きとなる斜め方向に沿う遊動を許容する第1遊動代133を持つことになり、また各後部ガイド孔129は、対応する側のブレーキケーブル121の、車幅方向に沿う遊動を許容する第2遊動代134を持つことになる。また前部ガイド部材125,125′は、後部ガイド部材126,126より車幅方向内側に配置される。
而して、車体B側のブレーキケーブル121,121は、ジョイントケース24側に支持される前部ガイド部材125,125′の前部ガイド孔128,128により上下方向の撓みが規制され、またパワーユニットP側のブレーキケーブル121,121は、ジョイント軸25側に支持される後部ガイド部材126,126の後部ガイド孔129,129により上下方向の撓みが規制されるので、自動三輪車Tの走行中でも、ブレーキケーブル121,121を所定の地上高に保持することができる。
しかも、車体Bのローリング時には(図17及び図18参照)、前部ガイド部材125,125′がジョイントケース24と共にローリングするのに対して、前部ガイド孔128,128内のブレーキケーブル121,121は、ローリングしないパワーユニットP側のブレーキケーブル121,121の影響を受けるため、ローリングが少ないが、前部ガイド孔128,128には、ブレーキケーブル121,121の、車幅方向外側に向かって上向きとなる斜め方向に沿う遊動を許容する第1遊動代133が設けられるので、前部ガイド孔128,128は、上記第1遊動代133の範囲内でブレーキケーブル121,121に対して相対的に移動し、ブレーキケーブル121,121に無理な撓みを強いることがない。
また、車体Bのローリング時、前部ガイド孔128,128がブレーキケーブル121,121を車幅方向に移動させることがあっても、後部ガイド孔129には、ブレーキケーブル121,121の、車幅方向に沿う遊動を許容する第2遊動代134が設けられているから、パワーユニットP側のブレーキケーブル121,121も上記第2遊動代134の範囲内で無理なく車幅方向に移動することができる。
また左右の後輪Wr,Wrの作動レバー122a,122aに接続される左右のブレーキケーブル121,121を、上記のようにジョイントケース24に支持される前部ガイド部材125,125′と、ジョイント軸25に支持される後部ガイド部材126,126によりガイドすると共に、前部ガイド部材125,125′を、後部ガイド部材126,126より車幅方向内側に配置したので、特に前部ガイド部材125,125′により左右のブレーキケーブル121,121をローリング軸線Yに比較的近い位置でガイドすることが可能となり、その結果、前部ガイド孔128,128の第1遊動代133を比較的小さく設定し得るため、前部ガイド部材125,125′の小型化を図ることができる。
また一方の前部ガイド部材125,125′には、スロットルケーブル124を挿通させる補助ガイド孔130が設けられるので、スロットルケーブル124に対する専用のガイド部材が不要となり、部品点数の削減をもたらすことができる。
車体Bにおいて、シート7の下部には図示しないバッテリが配設されており、そのバッテリとパワーユニットPの電装部品との間を接続するワイヤハーネス135(図8、図12参照)が車体B及びパワーユニットP間に亙り配線される。そのワイヤハーネス135の誘導するガイド板136が、右側の前部ガイド部材125′を保持する前バンド127′と共に、ボルト23によりジョイントケース24に固着される。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことができる。例えば、車体Bを、シート7が車体後部Baまで延長した鞍乗り型に構成することもできる。