図1ないし図18はこの発明の一実施形態を示す。まず、図1と共にこの実施形態の概要について説明する。このインホイールモータ駆動装置は、駆動輪70のハブを回転自在に支持する車輪用軸受Aと、回転駆動源としての電気モータBと、この電気モータBの回転を減速してハブに伝達する減速機Cと、ハブに制動力を与えるブレーキDとを、駆動輪70の中心軸O上に配置したものである。ここで言う「中心軸O上に配置する」とは、必ずしも各構成要素が中心軸O上に位置するということではなく、各構成要素が中心軸Oに対して機能的に作用しているということである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
図2に示すように、車輪用軸受Aは、内周に複列の転走面3を形成した外輪1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外輪1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受Aは、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外輪1と内方部材2との間の軸受空間のアウトボード側端およびインボード側端は、シール部材7,8でそれぞれシールされている。
外輪1は静止側軌道輪となるものであって、減速機Cのケーシング33に取り付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所にねじ孔14が設けられている。外輪1は、前記ケーシング33のボルト挿通孔33aに挿通した取付ボルト15を前記ねじ孔14に螺合させることにより、前記ケーシング33に取り付けられる。
内方部材2は回転側軌道輪となるものであって、駆動輪70およびブレーキ輪46取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9は、特許請求の範囲で言う「ハブ」に該当する。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪10の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト16の圧入孔17が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、駆動輪70およびブレーキ輪46を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の内周には、前記貫通孔11のアウトボード側端を塞ぐキャップ18が取り付けられている。
電気モータBは、図1のように、筒状のケーシング22に固定したステータ23と出力軸24に取り付けたロータ25との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のものである。出力軸24は、2つの軸受26でケーシング22に支持されている。電気モータBは、インバータ等を含む制御回路からなるモータ制御ユニット137により制御される。また、電気モータBには、電気モータを回転駆動させる電力を供給する電力ケーブル(図示せず)が接続されており、電力ケーブルは、電気モータBのケーシング22の外径面を経由するようにして配線されている。
図2および図3に示すように、減速機Cはサイクロイド減速機として構成されている。すなわち、この減速機Cは、外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板34a,34bを、それぞれ軸受35を介して入力軸32の各偏心部32a,32bに装着し、ケーシング33のインボード側壁とアウトボード側壁の間に差し渡した複数の外ピン36で、各曲線板34a,34bの偏心運動を外周側で案内するとともに、ハブ輪9の貫通孔11にスプライン嵌合されて一体に回転する出力軸37に取り付けた複数の内ピン38を、各曲線板34a,34bの内部に設けた複数の貫通孔39に嵌挿挿入したものである。入力軸32は、電気モータBの出力軸24とスプライン結合されて一体に回転するようになっている。なお、入力軸32はケーシング33と出力軸37の内径面とに2つの軸受40で両持ち支持されている。また、曲線板34a,34bの外形となるトロコイド曲線は、サイクロイド曲線であることが好ましいが、その他のトロコイド曲線であっても良い。上記の「サイクロイド減速機」は、上記のように外形をトロコイド曲線とした減速機であるトロコイド減速機を含めて称している。
電気モータBの出力軸24が回転すると、これと一体回転する入力軸32に取り付けられた各曲線板34a,34bが偏心運動を行う。この各曲線板34a,34bの偏心運動が、内ピン38と貫通孔39との係合によって、車輪のハブである内方部材2に回転運動として伝達される。出力軸24の回転に対して内方部材2の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
前記2枚の曲線板34a,34bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして入力軸32の各偏心部32a,32bに装着され、各偏心部32a,32bの両側には、各曲線板34a,34bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部32a,32bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト41が装着されている。
図4に示すように、前記各外ピン36と内ピン38には軸受42,43が装着され、これらの軸受42,43の外輪42a,43aが、それぞれ各曲線板34a,34bの外周と各貫通孔39の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン36と各曲線板34a,34bの外周との接触抵抗、および内ピン38と各貫通孔39の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板34a,34bの偏心運動をスムーズに内方部材2に回転運動として伝達することができる。
図5に示すように、ブレーキDは、駆動輪70と共にハブフランジ9aに取り付けられたブレーキ輪46およびこのブレーキ輪46に摩擦接触可能なブレーキパッド47を有する作動部48と、ブレーキパッド47を作動させる駆動部49とを有し、この駆動部49の駆動源としてブレーキ用電気モータ50を用いた電動ブレーキとされている。ブレーキ輪46はブレーキディスクからなる。ブレーキパッド47は、ブレーキ輪46を挟み付けるように一対設けられている。片方のブレーキパッド47は、ブレーキフレーム51に固定され、もう片方のブレーキパッド47は、ブレーキフレーム51に直線的に進退自在に設置された進退部材52に取り付けられている。進退部材52の進退可能方向はブレーキ輪46に対面する方向である。進退部材52は、ブレーキフレーム51に対して回り止めされている。
駆動部49は、上記ブレーキ用電気モータ50と、この電気モータ50の回転出力を往復直線運動に変換してブレーキパッド47に制動力として伝えるボールねじ53とを有し、電気モータ50の出力は減速伝達機構58を介してボールねじ53に伝達される。ボールねじ53は、ねじ軸54が軸受57を介してブレーキフレーム51に回転のみ自在に支持され、ナット55が上記進退部材52に固定されている。進退部材52とナット55とは、互いに一体の部材であっても良い。
ボールねじ53は、ねじ軸54およびナット55と、これらねじ軸54の外周面およびナット55の内周面に対向して形成されたねじ溝間に介在する複数のボール56とを有する。ナット55には、ねじ軸54とナット55の間に介在するボール56を無端の経路で循環させる循環手段(図示せず)を有している。循環手段は、リターンチューブやガイドプレートを用いた外部循環形式のものであっても、エンドキャップや駒を用いた内部循環形式のものであっても良い。また、このボールねじ53は、短い距離を往復動作させるものであるため、上記循環手段を有しない形式のもの、例えばねじ軸54とナット55間の複数のボール56をリテナ(図示せず)で保持したリテナ式のものであっても良い。
減速伝達機構58は、ブレーキ用電気モータ50の回転をボールねじ53のねじ軸54に減速して伝える機構であり、ギヤ列で構成されている。減速伝達機構58は、この例では、電気モータ50の出力軸に設けられたギヤ59、およびねじ軸54に設けられて上記ギヤ59に噛み合うギヤ60からなる。減速伝達機構58は、この他に、例えばウォームおよびウォームホイル(図示せず)からなるものとしても良い。
このブレーキDは、ブレーキペダル等の操作部材61の操作に従い上記電気モータ50を制御する操作部62を有する。この操作部62には、アンチロック制御手段65が設けられている。操作部62は、上記操作部材61と、この操作部材61の動作量および動作方向を検出可能なセンサ64と、このセンサ64の検出信号に応答して電気モータ50を制御する制御装置63とでなり、この制御装置63に上記アンチロック制御手段65が設けられている。制御装置63は、モータ制御信号を生成する手段およびそのモータ制御信号によりモータ電流を制御可能なモータ駆動回路(いずれも図示せず)を有している。
アンチロック制御手段65は、操作部材61の操作による制動時に、駆動輪70の回転に応じて電気モータ50による制動力を調整することで、駆動輪70の回転ロックを防止する手段である。アンチロック制御手段65は、上記制動時に、駆動輪70の回転速度を検出し、検出速度から駆動輪70の回転ロックまたはその兆候が検出されると、電気モータ50の駆動電流を低下させ、または一時的に逆回転出力を発生するなどして、制動力、つまりブレーキパッド47の締め付け力を調整する処理を行う。駆動輪70の回転速度の検出には、電気モータBに設けられる回転数センサ87の出力が利用される。
図1に示すように、車輪用軸受Aのハブフランジ9aには、前記ブレーキ輪46と共に駆動輪70が取り付けられる。駆動輪70は、ホイール71の周囲にタイヤ72を設けたものである。ハブフランジ9aとホイール71との間にブレーキ輪46を挟み込んだ状態で、ハブフランジ9aの圧入孔17に圧入したハブボルト16をホイール71に螺着させることで、駆動輪70およびブレーキ輪46がハブフランジ9aに固定される。
静止側軌道輪である外輪1の外径面には、4つのセンサユニット120が設けられている。図6は、外輪1をアウトボード側から見た正面図を示す。ここでは、これらのセンサユニット120が、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外輪1における外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。
これらのセンサユニット120は、図7および図8に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材121と、この歪み発生部材121に取り付けられて歪み発生部材121の歪みを検出する歪みセンサ122とでなる。歪み発生部材121は、鋼材等の弾性変形可能な金属製の厚さ3mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状で中央の両側辺部に切欠き部121bを有する。また、歪み発生部材121は、外輪1の外径面にスペーサ123を介して接触固定される2つの接触固定部121aを両端部に有する。歪みセンサ122は、歪み発生部材121における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、歪み発生部材121の外面側で両側辺部の切欠き部121bで挟まれる中央部位が選ばれており、歪みセンサ122は切欠き部121bの周辺の周方向の歪みを検出する。なお、歪み発生部材121は、静止側軌道輪である外輪1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外輪1の変形がセンサユニット120に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。「想定される最大の力」は、車輪用軸受Aに異常な大きさの力が作用しても、その力が除かれるとセンサ系を除く車輪用軸受としての正常な機能が復元される範囲の最大の力である。
前記センサユニット120は、その歪み発生部材121の2つの接触固定部121aが、外輪1の軸方向に同寸法の位置で、かつ両接触固定部121aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部121aがそれぞれスペーサ123を介してボルト124により外輪1の外径面に固定される。前記各ボルト124は、それぞれ接触固定部121aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔125からスペーサ123のボルト挿通孔126に挿通し、外輪1の外周部に設けられたねじ孔127に螺合させる。このように、スペーサ123を介して外輪1の外径面に接触固定部121aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材121における切欠き部121bを有する中央部位が外輪1の外径面から離れた状態となり、切欠き部121bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部121aが配置される軸方向位置として、ここでは外輪1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外輪1の外径面における前記スペーサ123が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
このほか、図9に断面図で示すように、外付部材1の外径面における前記歪み発生部材121の2つの接触固定部121aが固定される2箇所の中間部に溝1cを設けることで、前記スペーサ123を省略し、歪み発生部材121における切欠き部121bが位置する2つの接触固定部121aの中間部位を外輪1の外径面から離すようにしても良い。
また、歪み発生部材121は、図10に示すように、平面概形が単調な帯状とし、図7の例のような切欠き部121bを形成しないものであっても良い。
歪みセンサ122としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ122を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材121に対しては接着による固定が行われる。
また、歪みセンサ122を歪み発生部材121上に厚膜抵抗体にて形成することができる。その場合のセンサユニット120の構造を図11に示す。このセンサユニット120は、歪み発生部材121のセンサ取付面121A上に絶縁層150が形成され、この絶縁層150の表面の両側に対を成す電極151,151が形成され、これら電極151,151の間で前記絶縁層150の上に歪みセンサとなる歪み測定用抵抗体152が形成され、さらに電極151,151と歪み測定用抵抗体152の上に保護膜153が形成された構造となっている。
外輪1の外径面に取り付けられた前記センサユニット120は、図2のように保護カバー90で覆われる。なお、図6では前記保護カバー90を省略して示している。保護カバー90は、インボード側に向かって内径が拡大する筒状とされている。具体的には、保護カバー90は、インボード側が大径部でアウトボード側半部が内径側に縮小する小径部となる円筒状とされている。この保護カバー90のインボード側端はOリング91を介して外輪1のフランジ1aの外径面に取り付けられ、保護カバー90のアウトボード側端は外輪1の外径面に嵌合させられる。保護カバー90の材料としては、ステンレス鋼等の金属材料や、PA66+GF等の樹脂材料が用いられる。外輪1のフランジ1aの外径面には周方向に延びるOリング嵌着用の溝1dが設けられ、この溝1dにOリング91を嵌着させることで、Oリング91が軸方向に位置決めされると共に、保護カバー90のインボード側端と外輪1のフランジ1aの外径面との間が確実に密封される。また、センサユニット120の設置部周辺には樹脂モールドなどが施され、防水処理される。
このように、センサユニット120は保護カバー90内における外輪1の外径面に固定されることになるので、それらの固定部が、外部環境により腐食して固定が不安定になるのを防止でき、足廻りの過酷な環境で使用される装置でありながらセンサユニット120の正常動作が可能となる。
各センサユニット120は信号ケーブル129を介して信号処理ユニット130に接続される。信号処理ユニット130は、各センサユニット120のセンサ出力信号から駆動輪70に加わる荷重を推定する荷重推定手段133を有する信号処理装置であり、ここでは減速機Cのケーシング33のアウトボード側端の外径面に設置されている。信号処理ユニット130は、センサユニット120と共に外輪1の外径面に設置しても良いし、電気モータBのケーシング22の外径面に設置しても良い。
外輪1のフランジ1aには、各センサユニット120の信号ケーブル129を引き出すケーブル挿通孔92が軸方向に貫通して設けられ、信号ケーブル129を引き出したあとで、ケーブル挿通孔92にはモールド樹脂などの弾性充填材93が充填される。
また、前記ケーブル挿通孔92を出た信号ケーブル129は、減速機Cのケーシング33のアウトボード側端に形成したケーブル案内用の切欠き部33bを経由して信号処理ユニット130へと引き出され、信号ケーブル129の周囲は防水シール部材94によって防水処理が施される。切欠き部33bは外径面に開口する貫通孔であっても良い。これにより、外部から泥水や塩水等がケーブル挿通孔92を経て保護カバー90内に浸入するのを防止できる。
このほか、センサユニット120から信号処理ユニット130までの配線を、減速機Cのケーシング33内部を通過するように構成し、信号ケーブル129が外部に出ることなく信号処理ユニット130に接続されるようにしても良い。この場合、信号ケーブル129が外部に露出せず、泥水などの浸入経路も最小限に抑えることができるので、防水性能が向上し、信頼性を高めることができる。
ここで、信号ケーブル129の配線状態について、詳細に説明する。
ケーブル挿通孔92を出た信号ケーブル129は、減速機Cのケーシング33に取り付けられた係止部95によって減速機Cのケーシング33に固定されている。係止部95は、センサユニット120のインボード側であって、信号処理ユニット130のアウトボード側に取り付けられている。図12は、係止部95を外径側から見た拡大平面図である。図13は、図12のXIII−XIII矢視断面図である。図14は、図12のXIV(インボード側)から見た正面図である。係止部95は、信号ケーブル129のうちの少なくとも一部を係止するものであって、減速機Cのケーシング33と信号ケーブル129との間隔を固定するものである。そして、センサユニット120から信号処理ユニット130に至るまでの信号ケーブル129の経路途中に設けられている。係止部95は、減速機Cのケーシング33の外径面に固定され、信号ケーブル129の外周面を受入可能な筒状の通路95aを有する固定部材である。具体的には、係止部95は、減速機Cのケーシング33の外径面に取り付けられる支持部97と、支持部97に対して着脱可能であって、支持部97の径方向に対向して配置される蓋部96とを含む。支持部97は、略L字状であって、減速機Cのケーシング33の外径面と接する接部97eと、接部97eのインボード側端部から外径側に延びる延部97fとを含む。そして、延部97fのうち、蓋部96に対向する対向面において設けられる凹み96cと、蓋部96のうち、延部97fに対向する対向面において設けられる凹み97cとにより、信号ケーブル129を受け入れる筒状の通路95aを構成している。筒状の通路95は、例えば、インボード側から見た場合に円形状であって、信号ケーブル129の径に沿った大きさである。そして、周方向一方側に偏って位置している。延部97fおよび蓋部96のうち、信号ケーブル129と接触するインボード側およびアウトボード側の角部97b,96bは、共に面取り加工されている。面取り加工は、例えば、R面取り加工や、C面取り加工を適用することができる。係止部95は、信号ケーブル129の一部を、支持部97と蓋部96とで挟持することによって、減速機Cのケーシング33に係止するものである。なお、減速機Cのケーシング33のうち、係止部95が固定される領域33aは、平らな形状になっている。
また、支持部97は、減速機Cのケーシング33と支持部97の接部97eとをボルト99で螺合することにより、減速機Cのケーシング33と強固に固定されている。さらに、蓋部96は、支持部97の延部97fと蓋部96とをボルト98で螺合することにより、支持部97と強固に固定されている。ボルト99は、信号ケーブル129が延びる方向に垂直な方向に、筒状の通路95aを挟んで両側に設けられてもよいし、図12に示すように、一方側のみに設けてもよい。ボルト98においても同様である。
図15は、信号処理ユニット130の概略構成をブロック図で示す。この信号処理ユニット130は、前処理手段131と、平均・振幅抽出手段132と、荷重推定手段133と、パラメータ記憶手段134と、I/F機能を有する通信手段135とを備える。前処理手段131は、各センサユニット120からのセンサ出力信号を増幅する機能と、これらセンサ出力信号からノイズ成分を除去するフィルタリング機能と、増幅・フィルタリングされたセンサ出力信号をAD変換するAD変換機能を持つ。これにより、センサユニット120からの微弱なセンサ出力信号が近くに設置された信号処理ユニット130でデジタル信号に変換されるので、ノイズの影響を受けにくくなり、検出精度を高めることができる。平均・振幅抽出手段132は、前処理手段131を経たセンサ出力信号から後述する平均値と振幅値とを抽出する機能と、抽出した平均値などを補正する機能を有する。荷重推定手段133は、平均・振幅抽出手段132で抽出された平均値と振幅値とを用いて駆動輪70に加わる荷重を推定する機能を有する。このように、センサユニット120のセンサ出力信号の演算をすべて信号処理ユニット130で行うようにしているので、使い勝手がよくなり、また外部配線の本数も最小化され、信頼性が向上する。
センサユニット120は、外輪1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、歪みセンサ122の出力信号は、センサユニット120の設置部の近傍を通過する転動体5の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット120における歪みセンサ122に最も近い位置を通過するときにセンサ出力信号の振幅は最大値となり、その位置から転動体5が遠ざかるにつれて低下する。これにより、軸受回転時にはセンサ出力信号は、その振幅が転動体5の配列ピッチを周期として変化する図16のような正弦波に近い波形となる。そこで、前記平均・振幅抽出手段132では、荷重を求めるデータとしてセンサ出力信号の振幅値(交流成分)と振幅の平均値(直流成分)を演算して抽出する。
平均・振幅抽出手段132で演算された平均値には、歪みセンサ122自体の温度特性や外輪1の温度歪みや、その他の原因によるドリフト量が存在する。そこで、平均・振幅抽出手段132では、センサ出力信号のドリフトを補正する。その補正のためのパラメータは前記パラメータ記憶手段134に記憶され、このパラメータ記憶手段134から読み出して前記ドリフトの補正に使用される。パラメータ記憶手段134は例えば不揮発メモリからなる。また、温度によるドリフトを補正するため、例えば図7に仮想線で示すように少なくとも1つのセンサユニット120の歪み発生部材121に温度センサ128を設け、この温度センサ128の出力信号をセンサユニット120のセンサ出力信号とともに前記前処理手段131を経て平均・振幅抽出手段132に入力し、これをドリフト補正に使用しても良い。この場合、温度センサ128に必要な情報も、前記パラメータ記憶手段134に記憶させておいても良い。平均・振幅抽出手段132で用いる演算式や補正パラメータは、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
荷重推定手段133では、平均・振幅抽出手段132で演算・抽出された平均値および振幅値を変数とし、これらの変数にそれぞれ所定の補正係数を乗算した一次式から駆動輪70に加わる荷重(垂直方向荷重Fz,駆動力や制動力となる荷重Fx,軸方向荷重Fy)を推定する。前記一次式における補正係数も前記パラメータ記憶手段134に記憶され、このパラメータ記憶手段134から読み出して使用される。この場合の補正係数も予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。荷重推定手段133で得られた荷重データは、通信手段135を経て、車体側に設置される上位の電気制御ユニット(ECU)85(図18)との通信(例えばCANバスなどを通じて)により電気制御ユニット85へ出力される。必要に応じて荷重データをアナログ電圧で出力するものとしても良い。前記パラメータ記憶手段134に記憶される各種パラメータは、通信手段135を通して外部から書き込むようにしても良い。図17は、センサユニット120のセンサ出力信号から各荷重Fx,Fy,Fzが荷重推定手段133で推定されるまでの処理の概略の流れを示す。
駆動輪70と路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受Aの静止側軌道輪である外輪1にも荷重が印加されて変形が生じる。ここではセンサユニット120における薄板材からなる歪み発生部材121の2つの接触固定部121aが、外輪1の外径面に接触固定されているので、外輪1の歪みが歪み発生部材121に拡大して伝達され易く、その歪みが歪みセンサ122で感度良く検出される。
また、この実施形態では前記センサユニット120を4つ設け、各センサユニット120を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外輪1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で等配しているので、車輪用軸受Aに作用する垂直方向荷重Fz、駆動力や制動力となる荷重Fx、軸方向荷重Fyを精度良く推定することができる。
図18のように、前記荷重データが入力される電気制御ユニット85には、その荷重データから路面の状態や駆動輪70と路面の接地状態が異常であることを判定する異常判定手段84が設けられている。また、電気制御ユニット85の出力側には、電気モータB、ブレーキCの電気モータ50、およびサスペンションDの減衰手段74が接続されていて、電気制御ユニット85は信号処理ユニット130から送られてくる荷重データに基づき路面の状態や駆動輪70と路面の接地状態に関する情報を、電気モータB、ブレーキCの電気モータ50、およびサスペンションDの減衰手段74に出力する。
このように、電気制御ユニット85では、信号処理ユニット130から送られてくる荷重データに基づき路面の状態や駆動輪70と路面の接地状態に関する情報を出力するようにしているので、路面の状態や接地状態をより正確に推測することができる。このようにして得られる各種情報を、電気モータBの制御や車両の姿勢制御に利用することにより安全性や経済性を向上させることができる。例えば、車両の旋回が円滑に行われるように、前記情報を電気モータBに出力して左右の駆動輪70の回転速度を制御する。制動時に駆動輪70のロックが生じないように、ブレーキDの電気モータ50に前記情報を出力して制動を制御する。旋回時に車体が左右に大きく傾いたり、加速時や制動時に車体が前後に大きく傾いたりするのを防止するために、サスペンション73の減衰手段74に前記情報を出力してサスペンション制御を行う。また、異常判定手段84は、前記3軸方向の力が許容値を超えたと判断される場合に、異常信号を出力する。この異常信号も、自動車の車両制御に使用することができる。さらに、リアルタイムで駆動輪70と路面間の作用力を出力すると、よりきめ細かな姿勢制御が可能となる。
このように、このインホイールモータ駆動装置では、歪み発生部材121およびこの歪み発生部材121に取り付けられた1つの歪みセンサ122からなるセンサユニット120を、車輪用軸受Aの静止側軌道輪である外輪1の外径面に取り付け、歪み発生部材121は、外輪1の外径面に接触固定される2つの接触固定部121aを有する薄板材からなるものとしたたため、駆動輪70と路面の接地点に作用する力で歪みが生じる車輪用軸受Aの外輪1の歪みをセンサユニット120で精度良く検出できる。これにより、センサユニット120で得られる複数のセンサ出力信号を用いて荷重を演算・推定することで、駆動輪70と路面の接地点に作用する3軸方向の荷重Fx,Fy,Fzを精度良く推定でき、電気モータBや車両を精度良く制御するのに効果的となる。
また、このように、このインホイールモータ駆動装置では、係止部95により、信号ケーブル129のうちの少なくとも一部を減速機Cのケーシング33に係止して、減速機Cのケーシング33と信号ケーブル129との間隔を固定するため、信号ケーブル129の例えば揺れ動く等の移動を規制することができる。その結果、信号ケーブル129を安定して位置させることができる。
また、係止部95を減速機Cのケーシング33の外径面に取り付けるため、容易に取り付けを行うことができる。また、角部97b,96bの面取り加工により信号ケーブルに加わる応力を緩和することができる。
また、この実施形態では、信号処理ユニット130がセンサ出力信号を増幅する信号増幅機能と、センサ出力信号からノイズ成分を除去するフィルタリング機能と、センサ出力信号をAD変換するAD変換機能とを有するものとしているので、センサユニット120のセンサ出力信号がデジタル信号に変換されて荷重推定に用いられ、荷重データもデジタルデータとして演算出力される。このため、必要な電線の本数も最小化され、使用する信号ケーブル129のコストを低減できる。同時に、断線などの発生リスクも低減され、信頼性も向上する。
また、信号処理ユニット130は、さらにセンサ出力信号を補正する補正機能と、センサ出力信号の平均値を求める平均値抽出機能と、センサ出力信号の振幅値を求める振幅値抽出機能と、補正に用いられる補正パラメータ、平均値抽出および振幅値抽出に用いられる計算パラメータ、および平均値と振幅値を変数として荷重推定手段133で用いられる演算式の計算パラメータを記憶する記憶機能とを含む演算処理機能を有するので、とくに振幅値で温度の影響を軽減できて、電気モータや減速機の発熱による荷重演算誤差の増加を抑えることができ、それだけ荷重推定の精度を高めることができる。また、信号処理ユニット130がこのような演算処理機能を備えることにより、装置ごとに異なる補正パラメータや計算パラメータの調整を簡単に行うことができる。
この実施形態では、内方部材がハブの一部を構成する第3世代型の車輪用軸受Aとしたが、内方部材と車輪のハブとが互いに独立した第1または第2世代型の車輪用軸受としても良い。さらに、各世代形式のテーパころタイプである車輪用軸受としても良い。
このインホイールモータ駆動装置は、ブレーキDが電気モータ50でブレーキパッド47を移動させる電動ブレーキであるため、油圧式のブレーキで発生する油漏れによる環境汚染を回避することができる。また、電動ブレーキであるため、ブレーキパッド47の移動量を素早く調整することができ、旋回時における左右の駆動輪70の回転速度制御の応答性を向上させられる。
また、このインホイールモータ駆動装置は、サスペンション73の減衰手段74を電動で作動させるため、サスペンション制御の応答性を向上させることができ、車両姿勢を安定させられる。
以上の説明では、駆動輪70と路面に作用する3軸方向の力を推定する信号処理ユニット130の出力から、電気モータBの駆動、ブレーキDの作動、サスペンション73の作動を制御するものとしたが、ステアリング装置からの信号も含めて上記各制御を行うと、実際の走行に即した制御を行う上でさらに望ましいものとなる。
なお、上記の実施形態においては、係止部95は、支持部97と蓋部96とを含む構成であって、信号ケーブル129の一部を、支持部97と蓋部96とで挟持することによって、減速機Cのケーシング33と信号ケーブル129との間隔を固定する例について説明したが、これに限ることなく、係止部95は、筒状の通路95aの壁面に接着剤を塗布することにより、信号ケーブルと支持部97および蓋部96とを接着することにより、強固に固定してもよい。
また、係止部95は、支持部97と蓋部96とをボルト98によって固定する構成に限ることなく、互いに嵌め合わせてもよい。
また、係止部95は、角部97b,96bが共に面取り加工されている構成に限ることなく、弾性を有する部材等を角部97b,96bに設けてもよい。
また、上記の実施形態においては、係止部95は、支持部97と蓋部96とを含む構成の例について説明したが、これに限ることなく、例えば矩形状の固定部材において貫通孔を有する構成とし、この貫通孔に信号ケーブル129を挿通させることにより、信号ケーブル129のうちの少なくとも一部を減速機Cのケーシング33に係止してもよい。また、このような貫通孔において、貫通孔を構成する壁面のうちの一部を外部に開口させる切り欠き溝を設ける構成とし、切り欠き溝をから貫通孔に信号ケーブル129を押し入れることにより、貫通孔に信号ケーブル129を挿通させてもよい。
また、係止部95は、減速機Cのケーシング33に設けてもよい。例えば、減速機Cのケーシング33の外径面において、外径面から内径側に凹む凹部であって、凹部は、開口部に向かって開口幅が狭くなるような形状であってもよい。このように、減速機Cのケーシング33に設けた場合には、インホイールモータ駆動装置の部材点数を抑えることができる。
また、係止部95は、減速機Cのケーシング33の外径面に信号ケーブル129を当接させるように押し当てる押当部材であってもよいし、減速機Cのケーシング33の外径面に接着剤を介して信号ケーブル129を接着させるようにして係止してもよい。
また、上記の実施形態においては、センサユニット120は、歪みセンサ122を含み、係止部95は、このような歪みセンサ122を含むセンサユニット120から信号処理ユニット130に至るまでの信号ケーブル129を係止する例について説明したが、これに限ることなく、例えば、駆動輪70の回転速度を検出する回転数センサ87から配線される信号ケーブルに適用してもよい。係止部95は、あらゆるセンサから配線される信号ケーブルを係止する場合に適用することができる。
さらに、上記の実施形態においては、係止部95は、減速機Cのケーシング33に取り付けられる例について説明したが、これに限ることなく、図19に示すように、電気モータBのケーシング22に取り付けられてもよい。図19は、インホイールモータ駆動装置の外観概略図である。図19に示すように、減速機Cのケーシング33の外径面に、バンド状のバンド係止部100が複数取り付けられており、電気モータCのケーシング33の外径面に、係止部95が取り付けられている。そして、ケーブル挿通孔92を出た信号ケーブル129は、バンド係止部100によって、減速機Cのケーシング33と信号ケーブル129との間隔を固定され、係止部95によって、電気モータBのケーシング22との間隔を固定される。そして、図19に示すように、信号ケーブル129うちの電気モータBのケーシング22に該当する部分は、信号ケーブル129が分断されて、接続端子(コネクタ)101を設けられており、係止部95により、そのコネクタ101を電気モータBのケーシング22に固定してもよい。こうすることにより、作業性の向上を図ることができる。
なお、この場合、信号ケーブル129は、電気モータBのケーシング22の外径面を経由する電力ケーブルと異なる周方向位置に配置されることが望ましい。こうすることにより、センサから出力されるセンサ出力信号において、電力ケーブルによるノイズの影響等を適切に低減することができる。
また、上記の実施形態においては、電気モータBのケーシング22と、減速機Cのケーシング33とは、別部材で構成される例について説明したが、これに限ることなく、一体化された部材であってもよい。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。