以下、更に詳しく、本発明の実施の形態にかかるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明をする。
本発明は、サイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなるプリプレグであって、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、前記サイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.90であり、前記熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも次の構成要素(D):4員環以上の環構造を2つ以上有し、かつ、環構造に直結したアミン型グリシジル基またはエーテル型グリシジル基を1つまたは2つ有するエポキシ樹脂、(E):3つ以上の官能基を有するエポキシ樹脂、(F):潜在性硬化剤を含んでなる熱硬化性樹脂組成物であり、該熱硬化性樹脂組成物は、配合したエポキシ樹脂総量100質量%に対して、前記エポキシ樹脂(D)を5〜60質量%、前記エポキシ樹脂(E)を40〜80質量%含むことを特徴とする。
まず、本発明のプリプレグで使用するサイジング剤について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にもプリプレグを長期保管した場合の経時変化が小さく、複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維に塗付した際、サイジング層内側(炭素繊維側)に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在することで、炭素繊維と脂肪族エポキシ化合物(A)とが強固に相互作用を行い、接着性を高めるとともに、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)を多く存在させることで、内層にある脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を阻害しながら、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)にはマトリックス樹脂と強い相互作用が可能な化学組成として、所定割合のエポキシ基を含む芳香族エポキシ化合物(B1)および脂肪族エポキシ化合物(A)が所定の割合で存在するため、マトリックス樹脂との接着性も向上するものである。
サイジング剤が、芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(A)を含まない場合、サイジング剤とマトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の力学特性変化が小さいという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(B1)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が若干劣ることが確認されている。
また、サイジング剤が、脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなる場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(A)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、マトリックス樹脂中の硬化剤に代表される官能基を有する化合物との反応性が高く、プリプレグの状態で長期間保管すると、マトリックス樹脂とサイジング剤の相互作用により界面層の構造が変化し、そのプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性が低下する課題があることが確認されている。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグにした場合には、外層に多く存在する芳香族化合物(B)は、脂肪族エポキシ化合物(A)をマトリックス樹脂から遮断する役割を果たす。このことにより、脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性の高い成分との反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。なお、脂肪族エポキシ化合物(A)を芳香族化合物(B)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、サイジング剤表面の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明に係るサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)を35〜65質量%、芳香族化合物(B)を35〜60質量%少なくとも含むことが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することにより、接着性が向上する。また、65質量%以下とすることで、プリプレグを長期保管した場合にも、その後炭素繊維強化複合材料に成形した際の力学特性が良好になる。脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤において、芳香族化合物(B)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することで、サイジング剤の外層中の芳香族化合物(B)の組成を高く維持することができるため、プリプレグの長期保管時に反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性化合物との反応による力学特性低下が抑制される。また、60質量%以下とすることで、サイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、接着性を維持することができる。芳香族化合物(B)の配合量は、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、芳香族化合物(B)の配合量は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)に加えて、芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比(A)/(B1)は、52/48〜80/20であることが好ましい。(A)/(B1)を52/48以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などの力学特性が高くなる。また、(A)/(B1)を80/20以下とすることにより、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。(A)/(B1)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、(A)/(B1)の質量比は75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明にかかる脂肪族エポキシ化合物(A)は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基とを有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が有する官能基の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的にはデナコール(商標登録)EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的にはアデカレジン(商標登録)EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素からのみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。サイジング剤が芳香環を1個以上有する芳香族化合物(B)を含むと、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環の疎水性により、脂肪族エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用により炭素繊維側に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層外層に芳香族化合物(B)が多く存在する結果となる。これにより、芳香族化合物(B)が脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を抑制するため、本発明にかかるサイジング剤を塗布した炭素繊維をプリプレグに用いた場合、長期間保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。芳香族化合物(B)として、芳香環を2個以上有するものを選択することで、プリプレグとした際の長期保管安定性をより向上することができる。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
本発明において、芳香族化合物(B)は分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、芳香族化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。芳香族化合物(B)は、分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものである。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上の官能基を含んでいても良い。芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が、分子内に3個以上のエポキシ基または1個のエポキシ基と他の官能基を2個以上有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)の具体例としては、例えば、芳香族ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有する芳香族アミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(B1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的にはデナコール(商標登録)EX−731(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることに加え、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性を向上させる。芳香族エポキシ化合物(B1)は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物およびクレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)がフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがプリプレグを長期保管した場合の安定性、接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める促進剤、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取り扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。本発明において、プリプレグでの長期保管安定性を向上させる目的で、(A)および(B1)以外の化合物を含有することができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を配合することができる。本発明にかかるサイジング剤は、エステル化合物(C)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。エステル化合物(C)を配合することで、収束性が向上し、取り扱い性が向上すると同時に、マトリックス樹脂とサイジング剤との反応によるプリプレグを長期保管したときの力学特性の低下を抑制することができる。
エステル化合物(C)は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良い。なお、エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いた場合には、芳香族エステル化合物(C1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないエステル化合物(C)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる。かかる場合、芳香族化合物(B)の全てが、芳香族エステル化合物(C1)となることはなく、芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)と芳香族エステル化合物(C1)とにより構成される。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の取り扱い性が向上すると同時に、芳香族エステル化合物(C1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、プリプレグの長期保管時の力学特性低下の抑制効果が高くなる。また、芳香族エステル化合物(C1)は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、ブチレンオキシド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維とサイジング剤成分中のエポキシ化合物との接着性を高める目的で、接着性を促進する成分である3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を配合することができる。発明にかかるサイジング剤は、該化合物を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、0.1〜25質量%配合することが好ましい。2〜8質量%がより好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)に、接着性促進成分として3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を併用したサイジング剤は、該サイジング剤を炭素繊維に塗布し、特定の条件で熱処理した場合、接着性がさらに向上する。そのメカニズムは確かではないが、まず、該化合物が本発明で用いられる炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、本発明で用いられる炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合が形成され、接着性が向上するものと推定される。
接着性促進成分の具体的な例としては、N−ベンジルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩であることが好ましく、特に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩が好適である。
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ(株)製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ(株)製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ(株)製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ(株)製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ(株)製)などが挙げられる。
本発明において、サイジング剤に配合する接着性促進成分としては、トリブチルアミンまたはN,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンであることが好ましく、特にトリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好適である。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)の、より好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
本発明に用いられる炭素繊維としては、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであることが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで、脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が50mJ/m2以下であることで、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。
該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分は、炭素繊維を水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明に用いられる脂肪族エポキシ化合物(A)は表面自由エネルギーの極性成分が9mJ/m2以上、50mJ/m2以下のものであれば良い。また、芳香族エポキシ化合物(B1)は表面自由エネルギーの極性成分が0mJ/m2以上、9mJ/m2未満のものであれば良い。
本発明において、炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分ECFと脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族エポキシ化合物(B1)の表面エネルギーの極性成分EA、EB1がECF≧EA>EB1を満たすことが好ましい。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂(D)との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下で乾燥する。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、それ以外の成分を含んでも良い。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B1)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取り扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
サイジング液は、芳香族化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、芳香族化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョン液と混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期保管安定性の点から好ましく用いることができる。
サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング液を付与した後に、余剰のサイジング液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となったり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤の分解および揮発が起きて、炭素繊維との相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となる場合がある。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
上記のようにして製造した、本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤を塗布した炭素繊維のサイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする。本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、この(a)/(b)が、特定の範囲、すなわち、0.50〜0.90である場合に、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつプリプレグの状態で長期保管したときも力学特性低下が少ないことを見出してなされたものである。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が、好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、比率(a)/(b)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。(a)/(b)が大きいということは、表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族エステル由来の化合物が少ないことを示す。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
サイジング剤の内層を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.45〜1.0であることが好ましい。サイジング剤の内層は、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒で1〜10分間超音波洗浄した後、蒸留水で洗い流し、炭素繊維に付着している残存サイジング剤を0.10±0.05質量%の範囲に制御した後、上述した方法にて測定が行われる。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/eq.であることが好ましい。エポキシ当量が550g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、炭素繊維に塗布されたエポキシ当量が350g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いているマトリックス樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になるため好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は360g/eq.以上が好ましく、380g/eq.以上がより好ましい。また、塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、530g/eq.以下が好ましく、500g/eq.以下がより好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量を上記範囲とするためには、エポキシ当量180〜470g/eq.のサイジング剤を塗布することが好ましい。313g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、222g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いている樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になる。
本発明におけるサイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は220g/eq.以上が好ましく、240g/eq.以上がより好ましい。また、310g/eq.以下が好ましく、280g/eq.以下がより好ましい。また、本発明における炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで炭素繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量部以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる炭素繊維強化複合材料においてボイド生成が抑えられ、炭素繊維強化複合材料の品位が優れ、同時に力学特性が優れる。
サイジング剤の付着量は、サイジング塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量部の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.05質量部以上であると、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(A)でサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法では、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下の炭素繊維にサイジング剤を塗布することが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。50mJ/m2以下で、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
次に本発明におけるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について詳細を説明する。
本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂としての熱硬化性樹脂を含む。
本発明で使用する熱硬化性樹脂組成物は、(D)エポキシ樹脂と、(E)エポキシ樹脂硬化剤と、(F)S−B−M、B−MおよびM−B−Mからなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体とを含む。前記(F)ブロック共重合体の各ブロックは、共有結合によって連結されているか、一方のブロックに一つの共有結合形成を介して結合され、他方のブロックに他の共有結合形成を介して結合された中間分子によって連結されており、ブロックMはメタクリル酸メチルのホモポリマーまたはメタクリル酸メチルを少なくとも50質量%含むコポリマーであり、ブロックBはブロックMに非相溶で、そのガラス転移温度が20℃以下であり、ブロックSはブロックBおよびMに非相溶で、そのガラス転移温度はブロックBよりも高いことを特徴とする。
本発明におけるエポキシ樹脂(D)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)を含むことが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)は、熱硬化性樹脂組成物中の他のエポキシ樹脂(D)と、後述するブロック共重合体(F)との相溶性を高め、熱硬化性樹脂組成物に靱性を付与するために好適な成分である。
ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)とは、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールSもしくはこれらビスフェノール類のハロゲン、アルキル置換体を原料、もしくは、これらのビスフェノール類を複数重縮合したものを原料としてエピクロロヒドリンと反応させて得られる。ビスフェノール型エポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、複数の異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)は、分子量が600〜10000g/molの範囲のものが好ましく用いられる。より好ましくは700〜3000g/mol、更に好ましくは800〜2000g/molの範囲である。600g/mol未満であると、繰り返し単位が少ないため、相溶性が十分でなく、ブロック共重合体(F)が粗大相分離することがあり、樹脂の靱性が力学特性に反映しにくくなることがある。分子量が10000を超えると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなるため作業性が低下する。なお、本発明でいう分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られる数平均分子量のことを指す。数平均分子量の測定方法としては例えば、カラムに、“Shodex(登録商標)”80M(昭和電工(株)製)2本と、“Shodex(登録商標)”802(昭和電工(株)製)1本を用い、サンプルを0.3μL注入し、流速1mL/minで測定したサンプルの保持時間を、ポリスチレンの校正用サンプルの保持時間を用いて分子量に換算して求める方法などが使用できる。なお、液体クロマトグラフィーで複数のピークが観測される場合は、目的成分を分離して個々のピークについて分子量の換算を行うことができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)は、全エポキシ樹脂(D)中に、40〜90質量%含まれていることが好ましい。より好ましくは50〜80質量%、さらに好ましくは55〜75質量%である。ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)が40質量%に満たない場合、ブロック共重合体(F)の相溶性が不十分となり、硬化物中でブロック共重合体(F)が粗大な相分離を形成し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)が90質量%を超える場合、硬化物の弾性率が不十分となり、炭素繊維強化複合材料の力学特性が不足する場合がある。
ピスフェノール型エポキシ樹脂(D1)は、全エポキシ樹脂(D)中に40〜90質量%含まれていることが好ましく、この40〜90質量%のうち、20〜90質量%がピスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましく、より好ましくは28〜90質量%、さらに好ましくは36〜90質量%がビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが望ましい。これにより、アミン型エポキシ樹脂との相乗効果で弾性率を大きく向上できる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂が20質量%に満たない場合、硬化物の弾性率向上が不十分となり、炭素繊維強化複合材料の力学特性が不足する場合がある。
このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”826、“jER(登録商標)”827、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(大日本インキ工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−128(東都化成(株)製)、DER−331、DER−332(ダウケミカル日本(株)製)、“ARALDITE(登録商標)”LY556(ハンツマン・ジャパン(株)製)、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1004、“jER(登録商標)”1004AF、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”5050、“jER(登録商標)”5054、“jER(登録商標)”5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−170、“エポトート(登録商標)”YD−175(以上、東都化成(株)製)、“jER(登録商標)”4002、“jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4009P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−1514(大日本インキ化学工業(株)製)などが挙げられる。
また、本発明におけるエポキシ樹脂(D)は、熱硬化性樹脂硬化物の弾性率や耐熱性を向上させる目的で、アミン型エポキシ樹脂(D2)を含むことも好ましい。アミン型エポキシ樹脂(D2)とは、少なくとも2つのグリシジル基が結合したアミノ基を分子内に少なくとも1以上有するエポキシ樹脂をいう。アミン型エポキシ樹脂(D2)は、全エポキン樹脂(D)中、10〜60質量%配合することが好ましく、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは25〜45質量%である。アミン型エポキシ樹脂(D2)が10質量%に満たない場合、硬化物の弾性率の向上が不十分となり、炭素繊維強化複合材料の力学特性が不足する場合があり、アミン型エポキシ樹脂(D2)が60質量%を超える場合、硬化物の塑性変形能力が不十分となり、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。アミン型エポキシ樹脂(D2)とブロック共重合体(F)とを組み合わせることで、硬化物の耐熱性や弾性率を維持しつつ靱性を向上できる。
さらに、本発明のエポキシ樹脂(D)として、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)に加えて、かかるアミン型エポキシ樹脂(D2)を併用して用いることは、熱硬化性樹脂硬化物の靱性、弾性率および耐熱性のバランス点で好適である。ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)に加えて、アミン型エポキシ樹脂(D2)を配合する場合は、全エポキシ樹脂(D)中、ピスフェノール型エポキシ樹脂(D1)を、40〜90質量%、アミン型エポキシ樹脂(D2)を、10〜60質量%配合することが好ましい。
アミン型エポキシ樹脂(D2)としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキル置換体、水添品などを使用することができる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721、MY725(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、“TETRAD(登録商標)”−X、“TETRAD(登録商標)”−C(三菱ガス化学(株)製)等を使用することができる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホンの市販品としては、TG4DAS、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
ジグリシジルアニリンとしては、GAN(日本化薬(株)製)等を使用することができる。ジグリシジルトルイジンとしては、GOT(日本化薬(株)製)等を使用することができる。
本発明におけるアミン型エポキシ樹脂(D2)としては、示差走査熱量計(DSC)による反応開始温度(T0)が130℃〜150℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは135℃〜145℃の範囲にあることが望ましい。ここで、T0とは、エポキシ樹脂(D)100質量部に対し、硬化剤としてジシアンジアミド(以降、DICYと記すこともある)を化学量論量で1当量配合し、さらに硬化促進剤である3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)を3質量部配合したものを、昇温速度10℃/分で昇温測定を行った際の発熱開始温度である。ここで、ジシアンジアミドの添加量を計算するに当たっては、活性水素当量を12g/eq.として計算するものとする。
なお、発熱開始温度とは、DSC曲線がベースラインから離れる温度を、DSC曲線の接線が、硬化発熱ピーク中の、傾きが正の値となる側の変曲点における接線の傾きの1/10の傾きに到達する温度から求めるものとする。詳細なメカニズムは不明であるが、T0がかかる範囲内となるアミン型エポキシ樹脂(D2)を配合することで、ブロック共重合体(F)の相溶性が向上し、硬化物中でブロック共重合体(F)の相分離サイズ(相分離構造の大きさ)がより微細になり、炭素繊維強化複合材料の層間靱性がさらに向上する。かかるT0が130℃に満たない場合、相分離が大きくなる傾向があり、硬化物の靭性および塑性変形能力、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。かかるT0が150℃を超える場合、硬化反応が不完全となる場合があり、脆い炭素繊維強化複合材料となる場合がある。
また、アミン型エポキシ樹脂(D2)は、下記一般式(1)
(式(1)中、R
1とR
2は、それぞれ炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、アシル基、トリフルオロメチル基およびニトロ基からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。nは0〜4の整数、mは0〜5の整数である。R
1とR
2が複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Xは、−O−、−S−、−CO−、−C(=O)O−、−SO
2−から選ばれる1つを表す)で示される構造を有するものも好適に使用することができる。
上記一般式(1)で示される構造を有するアミン型エポキシ樹脂(D2)としては、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの樹脂は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取り扱い性の点から、上記一般式(1)のR1とR2がともに水素であるN,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1′−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
次に、上記一般式(1)で示される構造を有するアミン型エポキシ樹脂(D2)の製造方法について例示説明する。
上記一般式(1)で示される構造を有するアミン型エポキシ樹脂(D2)は、下記一般式(2)
(式(2)中、R1とR2は、それぞれ炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、アシル基、トリフルオロメチル基およびニトロ基からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。nは0〜4の整数、mは0〜5の整数である。R1とR2が複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Xは、−O−、−S−、−CO−、−C(=O)O−、−SO2−から選ばれる1つを表す)で示されるフェノキシアニリン誘導体と、エピクロロヒドリンを反応させることにより製造することができる。
すなわち、一般的なエポキシ樹脂の製造方法と同じく、アミン型エポキシ樹脂(D2)の製造方法は、フェノキシアニリン誘導体1分子にエピクロロヒドリン2分子が付加し、下記一般式(3)
(式(3)中、R1とR2は、それぞれ炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、アシル基、トリフルオロメチル基およびニトロ基からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。nは0〜4の整数、mは0〜5の整数である。R1とR2が複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Xは、−O−、−S−、−CO−、−C(=O)O−、−SO2−から選ばれる1つを表す)で示されるジクロロヒドリン体が生成する付加工程と続くジクロロヒドリン体をアルカリ化合物により脱塩化水素し、2個のエポキシ基を有する下記一般式(1)
(式(1)中、R1とR2は、それぞれ炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、アシル基、トリフルオロメチル基およびニトロ基からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。nは0〜4の整数、mは0〜5の整数である。R1とR2が複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Xは、−O−、−S−、−CO−、−C(=O)O−、−SO2−から選ばれる1つを表す)で示されるアミン型エポキシ樹脂(D2)が生成する環化工程からなる。
上記一般式(1)で示される構造を有するアミン型エポキシ樹脂(D2)の市販品としては、PxGAN(ジグリシジル−p−フェノキシアニリン、東レ・ファインケミカル(株)製)などが挙げられる。
また、本発明のエポキシ樹脂(D)には、未硬化時の粘弾性を調整して作業性を向上させたり、熱硬化性樹脂硬化物の弾性率や耐熱性を向上させる目的で、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、およびアミン型エポキシ樹脂(D2)以外のエポキシ樹脂を配合することができる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、およびアミン型エポキシ樹脂(D2)以外のエポキシ樹脂は1種類だけでなく、複数種組み合わせて添加してもよい。
(D1)、および(D2)以外のエポキシ樹脂としては、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ウレタンおよびイソシアネート変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
前記レゾルシノール型エポキシ樹脂の具体例としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”152、“jER(登録商標)”154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、“エピクロン(登録商標)”N−770、“エピクロン(登録商標)”N−775(以上、大日本インキ化学工業(株)製)などが挙げられる。
前記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、“エピクロン(登録商標)”N−665、“エピクロン(登録商標)”N−670、“エピクロン(登録商標)”N−673、“エピクロン(登録商標)”N−695(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
前記フェノールアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC−2000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200、“エピクロン(登録商標)”HP7200L、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、Tactix558(ハンツマン・ジャパン(株)製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
前記ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、エピコートYX4000、エピコートYL6616(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
前記ウレタンおよびイソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有するAER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348(旭電化(株)製)などが挙げられる。
これら(D1)、および(D2)成分以外のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(D)中10〜90質量%であることが好ましい。90質量%を超えて添加すると、ブロック共重合体(F)の相溶性が低下することがある。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤(E)を配合して用いる。エポキシ樹脂硬化剤(E)は、潜在性硬化剤(E1)であることが好ましい。ここで説明される潜在性硬化剤(E1)は、本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂(D)の硬化剤であって、温度をかけることで活性化してエポキシ基と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。具体的には、エポキシ当量184〜194g/eq.程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えた熱硬化性樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(E1)は、芳香族アミン硬化剤、ジシアンジアミドまたはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミドまたはその誘導体を用いる場合は、耐熱性や力学特性の観点から、エポキシ樹脂(D)100質量部に対して1〜10質量部配合することが好ましく、より好ましくは2〜8質量部である。ジシアンジアミドまたはその誘導体が1質量部に満たない場合、硬化物の塑性変形能力が不足し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。ジシアンジアミドまたはその誘導体が10質量部を超える場合、ブロック共重合体(F)が粗大な相分離を形成し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。ジシアンジアミドまたはその誘導体を粉体として樹脂に配合することは、室温での長期保管安定性や、プリプレグ化時の粘度安定性の観点から好ましい。ジシアンジアミドまたはその誘導体を粉体として用いる場合は、平均粒径は10μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、7μm以下である。10μmを超えると、例えばプリプレグ用途で使用する場合、加熱加圧により炭素繊維束に樹脂組成物を含浸させる際、ジシアンジアミドまたはその誘導体の粉体が炭素繊維束中に入り込まず、炭素繊維束表層に取り残される場合がある。
上記に説明した以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族アミン硬化剤、ジシアンジアミドまたはその誘導体に併用して用いてもよい。
また、硬化剤の総量は、エポキシ樹脂(D)成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。
また、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤を配合することもできる。
硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、長期保管安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好適に用いられる。特に、ウレア化合物と潜在性硬化剤(E1)のジシアンジアミドとの組合せが好適に用いられる。
ウレア化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials、LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物の配合量は、エポキシ樹脂(D)100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、エポキシ化合物の自己重合反応が、エポキシ化合物と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂(D)と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や長期保管安定性向上に有効な場合がある。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、S−B−M、B−M、およびM−B−Mからなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(F)(以下略して、ブロック共重合体(F)と記すこともある)を含む。ブロック共重合体(F)は、上記特許文献2(特表2003−535181号公報)あるいは上記特許文献3(国際公開2006/077153号公報)に記載されたブロック共重合体であり、熱硬化性樹脂組成物の優れた耐熱性を維持しつつ、硬化物の靱性や炭素繊維強化複合材料の層間靱性を向上させるために必須の成分である。
ここで、前記のS、B、および、Mで表される各ブロックは、共有結合によって連結されているか、一方のブロックに一つの共有結合形成を介して結合され、他方のブロックに他の共有結合形成を介して結合された中間分子によって連結されている。
ブロックMはメタクリル酸メチルのホモポリマーまたはメタクリル酸メチルを少なくとも50質量%含むコポリマーである。
ブロックBは、ブロックMに非相溶で、そのガラス転移温度Tg(以降、Tgとのみ記載することもある)が20℃以下のポリマーブロックである。
ブロックSは、ブロックBおよびMに非相溶で、そのガラス転移温度TgはブロックBよりも高いポリマーブロックである。
ガラス転移温度Tgは、熱硬化性樹脂組成物、ブロック共重合体(F)の各ポリマーブロック単体のいずれを用いた場合でも、RSAII(レオメトリックス社製)を用いてDMA法により測定できる。すなわち、1×2.5×34mmの板状のサンプルを、50〜250℃の温度で1Hzの牽引周期を加え、最大tanδ値をガラス転移温度Tgとする。ここで、サンプルの作製は次のようにして行う。熱硬化性樹脂組成物を用いた場合は、未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、1mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み1mmになるように設定したモールド中で135℃(ジシアンアミド使用の場合)または180℃(ジアミノジフェニルスルホン使用の場合)の温度で2時間硬化させることでボイドのない板状硬化物が得られ、ブロック共重合体(F)の各ブロック単体を用いた場合、2軸押し出し機を用いることで同様にボイドのない板が得られ、これらをダイヤモンドカッターにより上記サイズに切り出して評価することができる。
また、S、B、Mのいずれかのブロックがエポキシ樹脂(D)と相溶することは、靱性の向上の観点から好ましい。本発明において、いずれかのブロックがエポキシ樹脂(D)と相溶することは、未硬化のエポキシ樹脂(D)中に溶解することから確認することができる。また、すべてのブロックが非相溶な場合は、未硬化のエポキシ樹脂(D)中に溶解しない。これらの溶解の確認は、例えば、任意のエポキシ樹脂(D)100質量部に目的のブロック共重合体(F)を0.1質量部加え、150〜180℃のオイルバス中で2時間、撹拌したときに当該ブロック共重合体(F)がエポキシ樹脂(D)に溶解するかどうかを調べることにより行うことができる。
熱硬化性樹脂組成物中のブロック共重合体(F)の配合量は、力学特性やコンポジット作製プロセスへの適合性の観点から、エポキシ樹脂(D)100質量部に対して1〜10質量部である必要があり、好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは、3〜6質量部の範囲にあることが望ましい。ブロック共重合体(F)が1質量部に満たない場合、硬化物の靭性および塑性変形能力が不足し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不十分となる。また、ブロック共重合体(F)の配合量が10質量部を超える場合、硬化物の弾性率が顕著に低下し、炭素繊維強化複合材料の力学特性が不十分となる上、成形温度での樹脂流れが不足し、ボイドを含んだ炭素繊維強化複合材料となる。
かかるブロックMに、メタクリル酸メチル以外のモノマーを共重合成分として導入することは、エポキシ樹脂(D)との相溶性および硬化物の各種特性制御の観点から好適に実施される。かかるモノマー共重合成分は、特に限定されるものではなく、上記観点から適宜選択可能だが、通常は、極性の高いエポキシ樹脂(D)への相溶性を得るために、極性の高いモノマー、特に水溶性のモノマーが好適に使用される。中でも、アクリルアミド誘導体が好適に使用でき、特にジメチルアクリルアミドが好ましい。また、ブロックMの共重合成分は、アクリル系モノマーに限定されるものではなく、反応性のモノマーも適用可能である。
ここで反応性モノマーとは、エポキシ分子のオキシラン基または硬化剤の官能基と反応可能な官能基を有するモノマーを意味する。具体的な例をあげると、オキシラン基、アミン基またはカルボキシル基等の反応性官能基をあげることが出来るが、これらに限定されるものではない。反応性モノマーは、(メタ)アクリル酸(メタクリル酸とアクリル酸を総称して(メタ)アクリル酸と略記)、または、加水分解により(メタ)アクリル酸を生じる他の任意のモノマーにすることができる。反応性のモノマーを共重合成分として用いることで、エポキシ樹脂(D)との相溶性やエポキシ−ブロック共重合体界面での接着が良くなるため好ましく用いられる。
ブロックMを構成する他のモノマーの例としては、メタクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸−tert−ブチルが挙げられるが、ブロックMは少なくとも60質量%がシンジオタクティックPMMA(ポリメタクリル酸メチル)から成るのが好ましい。
ブロックBのガラス転移温度Tgは、20℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−40℃以下である。かかるガラス転移温度Tgは、硬化物の靱性の観点では低ければ低いほど好ましいが、−100℃を下回ると炭素繊維強化複合材料とした際に切削面が荒れるなどの加工性に問題が生じる場合がある。
ブロックBは、エラストマーブロックであることが好ましく、かかるエラストマーブロックを合成するのに用いられるモノマーは、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンから選択されるジエンにすることができる。
このブロックBは、ポリジエン、特にポリブタジエン、ポリイソプレンおよびこれらのランダム共重合体または部分的または完全に水素化されたポリジエン類の中から選択するのが、硬化物の靱性の観点から好ましい。ポリブタジエンの中では1,2−ポリブタジエン(Tg:約0℃)なども挙げられるが、ガラス転移温度Tgが最も低い1,4−ポリブタジエン(Tg:約−90℃)を使用するのがより好ましい。ガラス転移温度Tgがより低いブロックBを用いることは、炭素繊維強化複合材料の層間靭性や硬化物の靱性の観点から有利だからである。ブロックBは水素化されていてもよい。この水素化は通常の方法に従って実行される。
エラストマーのブロックBを合成するのに用いるモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートを用いることもまた好ましい。具体例としては、アクリル酸エチル(−24℃)、ブチルアクリレート(−54℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−85℃)、ヒドロキシエチルアクリレート(−15℃)および2−エチルヘキシルメタアクリレート(−10℃)を挙げることができる。ここで、各アクリレートの名称の後のカッコ中に示した数値は、それぞれのアクリレートを用いた場合に得られるブロックBのTgである。これらの中では、ブチルアクリレートを用いるのが好ましい。これらのブロックBを合成するモノマーとしてのアクリレートは、メタクリル酸メチルを少なくとも50質量%含むブロックMのアクリレートとは非相溶である。中でもブロックBとしては主として1,4−ポリブタジエンもしくは、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)から成ることが好ましい。
ブロック共重合体(F)としてトリブロック共重合体S−B−Mを用いる場合、ブロックSは、ブロックBおよびMに非相溶で、そのガラス転移温度Tgは、ブロックBよりも高いものが好ましい。ブロックSのTgまたは融点は、23℃以上であることが好ましく、50℃以上であるのがより好ましい。ブロックSとして、芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレンまたはビニールトルエンから得られるもの、1〜18の炭素原子を有するアクリル酸および/またはメタクリル酸のアルキルエステルから得られるものを挙げることができる。後者のアルキル鎖が1〜18の炭素原子を有するアクリル酸および/またはメタクリル酸のアルキルエステルから得られるものは、メタクリル酸メチルを少なくとも50質量%含むブロックMとは互いに非相溶である。
ブロック共重合体(F)としてトリブロック共重合体M−B−Mを用いる場合、トリブロック共重合体M−B−Mの二つのブロックMは、互いに同一でも異なっていてもよい。また、同じモノマーによるもので分子量が異なるものにすることもできる。
ブロック共重合体(F)として、トリブロック共重合体M−B−Mとジブロック共重合体B−Mとを併用する場合には、このトリブロック共重合体M−B−MのブロックMは、ジブロック共重合体B−MのブロックMと、同一でも異なっていてもよく、また、M−B−MトリブロックのブロックBはジブロック共重合体B−MのブロックBと同一でも異なっていてもよい。
ブロック共重合体(F)として、トリブロック共重合体S−B−Mとジブロック共重合体B−Mおよび/またはトリブロック共重合体M−B−Mとを併用する場合には、このトリブロック共重合体S−B−MのブロックMと、トリブロック共重合体M−B−Mの各ブロックMと、ジブロック共重合体B−MのブロックMとは互いに同一でも異なっていてもよく、トリブロック共重合体S−B−Mと、トリブロック共重合体M−B−Mと、ジブロック共重合体B−Mとの各ブロックBは互いに同一でも異なっていてもよい。
本発明の材料で使用されるブロック共重合体(F)は、アニオン重合によって製造でき、例えば欧州特許第EP524,054号公報や欧州特許第EP749,987号公報に記載の方法で製造できる。
トリブロック共重合体M−B−Mの具体例としては、メタクリル酸メチル−ブチルアクリレート−メタクリル酸メチルからなる共重合体として、アルケマ(株)製の“Nanostrength(登録商標)”M22や、極性官能基をもつ“Nanostrength(登録商標)”M22Nが挙げられる。トリブロック共重合体S−B−Mの具体例としては、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチルからなる共重合体として、アルケマ(株)製の“Nanostrength(登録商標)”123、“Nanostrength(登録商標)”250、“Nanostrength(登録商標)”012、“Nanostrength(登録商標)”E20、“Nanostrength(登録商標)”E20F、“Nanostrength(登録商標)”E40、“Nanostrength(登録商標)”E40Fが挙げられる。
ブロック共重合体(F)は、エポキシ樹脂(D)100質量部に対して、0.1質量部〜30質量部含まれていることが好ましい。より好ましくは1質量部〜20質量部、更に好ましくは1質量部〜10質量部、特に好ましくは3〜6質量部である。ブロック共重合体(F)の配合量が0.1質量部未満であると靱性向上が不十分になることがあり、30質量部を超えると熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるために作業性が低下することがある。
また、本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物には、粘弾性を制御しプリプレグのタックやドレープ特性を改良したり、炭素繊維強化複合材料の層間靱性などの力学特性を改良するため、エポキシ樹脂(D)に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子や、無機粒子等を配合することができる。
エポキシ樹脂(D)に配合する可溶性の熱可塑性樹脂は、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、エポキシ樹脂(D)に溶解していることが好適である。
さらに、この熱可塑性樹脂の末端官能基としては、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などのものが、カチオン重合性化合物と反応することができ、好ましく用いられる。水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができる。
中でも平均分子量が5000〜2000000g/molが好ましい。5000未満であると、組み合わせる(D)成分や(E)成分の種類によっては、十分な相溶性が得られず、(F)成分が粗大相分離する場合があり、2000000を超えると、少量でも粘度が上がりすぎるため、樹脂の粘度が高くなりプリプレグ化できない場合がある。
中でも、ポリピニルホルマール、ボリビニルブチラール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンエーテルは、加熱によりエポキシ樹脂に容易に溶解し、硬化物の耐熱性を損なうことなく、炭素繊維と熱硬化性樹脂組成物の接着性を改善すると共に、分子量の選択や配合量の調整により粘度調整が容易に行えるため好ましく用いられる。
具体的に熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリピニルアセタール樹脂としては、“ビニレック”(登録商標)K、“ビニレック”(登録商標)L、“ビニレック”(登録商標)H、“ビニレック”(登録商標)E(以上、チッソ(株)製)などのポリピニルホルマール、“エスレック”(登録商標)K(積水化学工業(株)製)などのポリピニルアセタール、“エスレック”(登録商標)B(積水化学工業(株)製)やデンカブチラール(電気化学工業(株)製)などのポリピニルブチラールなどが挙げられる。ポリエーテルスルホンの市販品としては、“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7200P(以上、住友化学工業(株)製)、“Ultrason(登録商標)”E2020P SR、“Ultrason(登録商標)”E2021SR(以上、BASF(株)製)、“GAFONE(登録商標)”3600RP、“GAFONE(登録商標)” 3000RP(以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Virantage(登録商標)”PESU VW−10200、“Virantage(登録商標)”PESU VW−10700(以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)などを使用することができ、また、特表2004−506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、SABIC Innovative Plastics(株)製)などが挙げられる。
エポキシ樹脂(D)に熱可塑性樹脂を溶解して用いる場合、バランスの点で、好ましくは熱硬化性樹脂組成物中、好ましくは熱可塑性樹脂の配合割合が1〜40質量%であり、より好ましくは5〜30質量%であり、さらに好ましくは8〜20質量%の範囲である。熱可塑性樹脂の配合量が多すぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が上昇し、熱硬化性樹脂組成物およびプリプレグの製造プロセス性や取り扱い性を損ねる場合がある。熱可塑性樹脂の配合量が少なすぎると、熱硬化性樹脂の硬化物の靱性が不足し、得られる炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。
また、アクリル系樹脂はエポキシ樹脂(D)との相溶性が高く、粘弾性制御のために好適に用いられ、中でもポリメタクリル酸エステルが好ましく用いられる。ポリメタクリル酸エステルの市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BR−83、“ダイヤナール(登録商標)”BR−85、“ダイヤナール(登録商標)”BR−87、“ダイヤナール(登録商標)”BR−88、“ダイヤナール(登録商標)”BR−108(以上、三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M100、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M500(以上、松本油脂製薬(株)製)などを挙げることができる。
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(日本合成ゴム工業(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(東都化成(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものであって、熱硬化性樹脂組成物に混合して用い得る熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/12共重合体や特開平01−104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、特に良好なエポキシ樹脂(D)との接着強度を与える。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。ポリアミド粒子の市販品としては、SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上東レ(株)製)、“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)等を使用することができる。
本発明では、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子は、得られる樹脂硬化物の弾性率と靱性を両立させる点から、エポキシ樹脂(D)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部配合するのがさらに好ましい。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の調製には、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機などが好ましく用いられる。エポキシ樹脂(D)にブロック共重合体(F)を投入、混練後、撹拌しながら組成物の温度を130〜180℃の任意の温度まで上昇させた後、その温度で撹拌しながらブロック共重合体(F)をエポキシ樹脂(D)に溶解させる。ブロック共重合体(F)をエポキシ樹脂(D)に溶解させた透明な粘調液を得た後、撹拌しながら好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度まで下げて、エポキシ樹脂硬化剤(E)を配合する。エポキシ樹脂硬化剤(E)ならびに硬化触媒を添加し混練する熱硬化性樹脂組成物の調整方法は、ブロック共重合体(F)の粗大な分離が発生しにくく、また樹脂組成物の長期保管安定性にも優れるため好ましく用いられる。
熱硬化性樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として用いる場合、タックやドレープなどのプロセス性の観点から、80℃における粘度が0.1〜200Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.5〜100Pa・s、さらに好ましくは1〜50Pa・sの範囲にあることが望ましい。0.1Pa・sに満たない場合、プリプレグの形状保持性が不十分となり割れが発生する場合があり、また成形時の樹脂フローが多く発生し、繊維含有量にばらつきを生じたりする場合がある。200Pa・sを超える場合、樹脂組成物のフィルム化工程でかすれを生じたり、強化繊維への含浸行程で未含浸部分が発生する場合がある。ここでいう粘度は、動的粘弾性測定装置(レオメーターRDA2:レオメトリックス社製;ARES:TAインスルツメント製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap 1mmで測定を行った複素粘性率η*のことを指している。
本発明のプリプレグにおいて、エポキシ樹脂硬化剤(E)には、潜在性硬化剤(E1)を用いることが好ましい。ここで説明される潜在性硬化剤(E1)は、エポキシ樹脂(D)の硬化剤であって、温度をかけることで活性化してエポキシ基等の反応基と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。具体的には、エポキシ当量184〜194程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えた熱硬化性樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(E1)は、芳香族アミン硬化剤、またはジシアンジアミドもしくはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、Lonzacure(登録商標)M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミド誘導体またはその誘導体とは、アミノ基、イミノ基およびシアノ基の少なくとも一つを用いて反応させた化合物であり、例えば、o−トリルビグアニド、ジフェニルビグアニドや、ジシアンジアミドのアミノ基、イミノ基またはシアノ基に熱硬化性樹脂組成物に用いるエポキシ化合物のエポキシ基を予備反応させたものである。
ジシアンジアミドまたはその誘導体の市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
芳香族アミン硬化剤、ジシアンジアミドまたはその誘導体以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族ジアミン硬化剤に併用して用いてもよい。
潜在性硬化剤(E1)として使用するフェノール化合物としては、マトリックス樹脂として上記で例示したフェノール化合物を任意に用いることができる。
本発明にかかるサイジング剤と、芳香族アミン硬化剤との組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤と芳香族アミン硬化剤のアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が、0.9でサイジング剤と芳香族アミン硬化剤とを混合し、混合直後と、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が25℃以下であるサイジング剤と、芳香族アミン硬化剤との組み合わせが好ましい。ガラス転移点の上昇が25℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が15℃以下であることがより好ましい。10℃以下であることがさらに好ましい。なお、ガラス転移点は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤と、ジシアンジアミドとの組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤とジシアンジアミドのアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が、1.0でサイジング剤とジシアンジアミドとを混合し、混合直後と、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が10℃以下であるサイジング剤と、ジシアンジアミドとの組み合わせが好ましい。ガラス転移点の上昇が10℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が8℃以下であることがより好ましい。
また、硬化剤の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
また、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤を配合することもできる。
硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、長期保管安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好適に用いられる。
特に、硬化促進剤としてウレア化合物が用いられる場合、潜在性硬化剤(E1)としてジシアンジアミドまたはその誘導体と組み合わせて用いられることが好適である。
ウレア化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials、LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、エポキシ化合物の自己重合反応が、エポキシ化合物と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や長期保管安定性向上に有効な場合がある。
エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を135℃、2時間で硬化させた硬化物の樹脂靱性(KIC)は、0.8〜2.8MPa・m1/2の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、1.2〜2.8MPa・m1/2の範囲内であり、さらに好ましくは、1.4〜2.8MPa・m1/2の範囲内にあることが望ましい。KICが0.8未満であると、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合があり、2.8を超えると、炭素繊維強化複合材料としたときに切削加工等の作業性が悪化する場合がある。
エポキシ樹脂硬化剤(E)として芳香族アミン硬化剤を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を180℃、2時間で硬化させた硬化物の樹脂靱性(KIC)は、0.8〜2.8MPa・m1/2の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、1.2〜2.8MPa・m1/2の範囲内であり、さらに好ましくは、1.4〜2.8MPa・m1/2の範囲内にあることが望ましい。KICが1.0未満であると、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合があり、2.8を超えると、炭素繊維強化複合材料としたときに切削加工等の作業性が悪化する場合がある。
エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を135℃、2時間で硬化させた際の硬化物のガラス転移温度Tgは、好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上であることが望ましい。ガラス転移温度が上記温度を下回ると、硬化物の耐熱性が不足し、コンポジット成形時もしくは使用時に反りや歪みを生じる場合がある。また、硬化物の耐熱性を高めると塑性変形能力や靭性が低下する傾向があるので、耐熱性の上限は、一般には150℃以下である。
エポキシ樹脂硬化剤(E)として芳香族アミン硬化剤を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を180℃、2時間で硬化させた際の硬化物のガラス転移温度Tgは好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上であることが望ましい。ガラス転移温度が上記温度を下回ると、硬化物の耐熱性が不足し、コンポジット成形時もしくは使用時に反りや歪みを生じる場合がある。また、硬化物の耐熱性を高めると塑性変形能力や靭性が低下する傾向があるので、耐熱性の上限は、一般には220℃以下である。
エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を135℃、2時間で硬化させた際の硬化物の曲げ弾性率は好ましくは3.3GPa以上、さらに好ましくは3.5GPa以上であることが望ましい。また、熱硬化性樹脂組成物の伸度の指標である曲げ撓み量は、好ましくは5mm以上、より好ましくは7mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。曲げ弾性率、曲げ撓み量のいずれかが上記範囲を下回ると、硬化物の塑性変形能力に劣る場合がある。また、曲げ弾性率、曲げ撓み量の上限は、一般にはそれぞれ5.0GPa以下、20mm以下である。
エポキシ樹脂硬化剤(E)として芳香族アミン硬化剤を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を180℃、2時間で硬化させた際の硬化物の曲げ弾性率は好ましくは3.3GPa以上、さらに好ましくは3.5GPa以上であることが望ましい。また、熱硬化性樹脂組成物の伸度の指標である曲げ撓み量は、好ましくは5mm以上、より好ましくは7mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。曲げ弾性率、曲げ撓み量のいずれかが上記範囲を下回ると、硬化物の塑性変形能力に劣る場合がある。また、曲げ弾性率、曲げ撓み量の上限は、一般にはそれぞれ5.0GPa以下、20mm以下である。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、その硬化過程でブロック共重合体(F)が相分離し、微細なアロイ構造が形成される。正確には、ブロック共重合体(F)中の複数のブロックのうち、エポキシ樹脂(D)に対して相溶性の低いブロックが、硬化中に相分離してできるものである。
エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合、本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、135℃で2時間硬化させたとき、大きさが10〜1000nmの範囲にある相分離構造を形成することが好ましい。ここで、相分離構造の大きさ(以下、相分離サイズと記載する)は、海島構造の場合、島相の大きさの数平均値である。島相が楕円形のときは、長径をとり、不定形の場合は外接する円の直径を用いる。また、二層以上の円または楕円になっている場合には、最外層の円の直径または楕円の長径を用いるものとする。なお、海島構造の場合、所定の領域内に存在する全ての島相の長径を測定し、これらの数平均値を相分離サイズとする。かかる所定の領域とは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。相分離サイズが10nmオーダー(10nm以上100nm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上200nm四方の領域)3箇所を選出した領域をいい、同様にして、相分離サイズが100nmオーダー(100nm以上1000nm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上2μm四方の領域)3箇所を選出した領域をいい、相分離サイズが1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上20μm四方の領域)をいうものとする。
もし、測定した相分離サイズが予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する領域を再度測定し、これを採用する。また、両相連続構造の場合、顕微鏡写真の上に所定の長さの直線を引き、その直線と相界面の交点を抽出し、隣り合う交点間の距離を測定し、これらの数平均値を相分離サイズとする。かかる所定の長さとは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。相分離サイズが10nmオーダー(10nm以上100nm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上1000nmの長さ)3本を選出したものをいい、同様にして、相分離サイズが100nmオーダー(100nm以上1000nm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上10μmの長さ)3本を選出したものをいい、相分離サイズが1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上100μmの長さ)3本を選出したものをいうものとする。
もし、測定した相分離サイズが予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する長さを再度測定し、これを採用する。なお、写真上での測定時には、0.1mm以上の相を島相として測定するものとする。かかる相分離サイズは、10〜500nmの範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは10〜200nm、とりわけ好ましくは15〜100nmの範囲にあることが望ましい。相分離サイズが10nmに満たない場合、硬化物の靭性が不足し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。また、相分離サイズが1000nmを超える粗大な相分離であると、硬化物の塑性変形能力や靭性が不足し、炭素繊維強化複合材料の層間靱性が不足する場合がある。この相分離構造は、樹脂硬化物の断面を走査型電子顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡により観察することができる。必要に応じて、オスミウムなどで染色しても良い。染色は、通常の方法で行われる。
エポキシ樹脂硬化剤(E)として芳香族アミン硬化剤を使用した場合、本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、180℃で2時間硬化させたとき、大きさが10〜1000nmの範囲にある相分離構造を形成することが好ましい。相分離構造の大きさは、エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合と同様にして測定することができる。
エポキシ樹脂硬化剤(E)としてジシアンジアミドもしくはその誘導体を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を135℃、2時間で硬化させた硬化物を沸騰水で360時間浸漬した時の吸水率は、6質量%以下であることが好ましい。一般に、硬化物の吸水率が上がると、吸水時の硬化物の塑性変形能力が低下する傾向があり、炭素繊維強化複合材料の吸水時の力学特性も低下する傾向にある。またアミン型エポキシ樹脂(D2)を含有する熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の吸水率は、アミン型エポキシ樹脂(D2)を含有せず、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)から主としてなる樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の吸水率に比べて、高くなる傾向がある。
エポキシ樹脂硬化剤(E)として芳香族アミン硬化剤を使用した場合、熱硬化性樹脂組成物を180℃、2時間で硬化させた硬化物を沸騰水で360時間浸漬した時の吸水率は、6質量%以下であることが好ましい。一般に、硬化物の吸水率が上がると、吸水時の硬化物の塑性変形能力が低下する傾向があり、炭素繊維強化複合材料の吸水時の力学特性も低下する傾向にある。またアミン型エポキシ樹脂(D2)を含有する熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の吸水率は、アミン型エポキシ樹脂(D2)を含有せず、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)から主としてなる樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の吸水率に比べて、高くなる傾向がある。
本発明で使用する熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、クレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることは、得られる樹脂硬化物や炭素繊維強化複合材料の導電性を向上することが出来るので、好ましく用いられる。
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラックが好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。
本発明で使用する熱硬化性樹脂組成物は、上記のような材料を所定の割合で配合することにより、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着性および長期保管安定性に優れるとともに、優れた炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性および層間靭性とを兼ね備えたプリプレグを提供することが可能となる。
次に、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがあり、特にスポーツ用品に関しては、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく採用される。より高品質で高性能の積層複合材料が要求される航空機用途においては、オートクレーブ成形法が好ましく採用される。各種車輌外装にはプレス成形法が好ましく用いられる。ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、炭素繊維強化複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフト、釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定及び圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き取って管状体を得る方法である。また、内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、成形する方法である。本方法は、ゴルフシャフト、バッド、テニスやバドミントン等のラケットの如き複雑な形状物を成形する際に好ましく用いられる。
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの炭素繊維量(炭素繊維目付)が70〜2000g/m2であることが好ましい。かかる炭素繊維量が70g/m2未満では、炭素繊維強化複合材料成形の際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。一方で、炭素繊維量が2000g/m2を超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。また、炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる炭素繊維強化複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる炭素繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、マトリックス樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる炭素繊維強化複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
本発明のプリプレグは、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子等の粒子(G)に富む層、すなわち、その断面を観察したときに、粒子(G)が局在して存在している状態が明瞭に確認しうる層(以下、粒子層と略記することがある)が、プリプレグの表面付近部分に形成されている構造であることが好ましい。
このような構造をとることにより、プリプレグを積層してエポキシ樹脂(D)を硬化させて炭素繊維強化複合材料とした場合は、プリプレグ層、即ち複合材料層の間で樹脂層が形成され易く、それにより、複合材料層相互の接着性や密着性が高められ、得られる炭素繊維強化複合材料に高度の耐衝撃性が発現されるようになる。
このような観点から、前記の粒子層は、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から、表面を起点として厚さ方向に好ましくは20%の深さ、より好ましくは10%の深さの範囲内に存在していることが好ましい。また、粒子層は、片面のみに存在させても良いが、プリプレグに表裏ができるため、注意が必要となる。プリプレグの積層を間違えて、粒子のある層間とない層間が存在すると、衝撃に対して弱い炭素繊維強化複合材料となる。表裏の区別をなくし、積層を容易にするため、粒子層はプリプレグの表裏両面に存在する方がよい。
さらに、粒子層内に存在する粒子(G)の存在割合は、プリプレグ中、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子(G)の全量100質量%に対して、好ましくは90〜100質量%であり、より好ましくは95〜100質量%である。
粒子(G)の存在率は、例えば、下記の方法で評価することができる。すなわち、プリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。このプリプレグ硬化物の両面に、プリプレグ硬化物の表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子(G)の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子(G)の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子(G)の存在率を計算する。ここで、粒子(G)の合計面積は、断面写真から粒子(G)部分を刳り抜き、その質量から換算して求める。樹脂中に分散する粒子(G)の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子(G)を染色する手段も採用できる。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、プリプレグを用いて得る方法の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP(登録商標)”、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびレジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維と熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む炭素繊維強化複合材料が得られる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途、さらにはゴルフシャフト、バット、釣り竿、バトミントンやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。次に示す実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1Sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1Sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1Sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1Sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1Sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1Sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(3)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1Sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1Sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(4)炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1Sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1Sピーク面積[C1S]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1Sピーク面積[F1S]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
COH/C={[F1S]/(3k[C1S] −2[F1S])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1Sピーク面積に対するF1Sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1Sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1Sピーク面積[C1S]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1Sピーク面積[F1S]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1Sピーク分割から反応率rを、O1Sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1S]/(3k[C1S]−(2+13m)[F1S])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1Sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
(5)サイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量
サイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミド中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで炭素繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(6)ガラス転移点の上昇温度
アミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が0.9になるようにサイジング剤と潜在性硬化剤(E)とを混合し、JIS K7121(1987)に従い、示差走査熱量計(DSC)により調整した混合物のガラス転移温度の測定を行った。容量50μlの密閉型サンプル容器に、3〜10mgの試料(試験片)を詰め、昇温速度10℃/minで30〜350℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。ここでは、測定装置として、TA Instruments社製の示差走査型熱量計(DSC)を使用した。
具体的には、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
また、ジシアンジアミドを硬化剤として使用する場合、アミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が1.0になるようにサイジング剤と潜在性硬化剤(E)とを混合し、上記と同様の方法で混合物のガラス転移温度の測定を行った。
続いて、調整した混合物を温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した後、上記の方法でガラス転移温度を測定し、初期からの上昇温度をガラス転移点の上昇温度とした(表中の「硬化剤とのΔTg」がそれに該当する)。
(7)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50mL/minの窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20L/minの乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(8)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/minで75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/minで125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/minで30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
(9)炭素繊維強化複合材料の0°の定義
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向炭素繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その軸方向を0°軸と定義し軸直交方向を90°と定義した。
(10)炭素繊維強化複合材料の0°引張強度測定
一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/minで引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値を(2)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付)/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF(炭素繊維)目付=190g/m2
Vf(炭素繊維体積分率)=56%
(11)プリプレグ保管後の0°引張強度利用率
プリプレグを温度25℃、湿度60%で20日保管後、(10)と同様に0°引張強度測定を行い、強度利用率を算出した。
(12)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率
プリプレグを、2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に150℃迄温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状の樹脂硬化物を作製する。硬化後、密着面と垂直な方向から切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で200倍以上に拡大しプリプレグの上下面が視野内に納まるようにして写真撮影した。同様な操作により、断面写真の横方向の5ヵ所でポリ四フッ化エチレン樹脂板間の間隔を測定し、その平均値(n=5)をプリプレグの厚さとした。プリプレグの両面について、プリプレグの表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率を計算した。ここで、微粒子の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求めた。
(13)熱可塑性樹脂粒子の平均粒径の測定
粒子の平均粒径については、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡にて粒子を1000倍以上に拡大し写真撮影し、無作為に粒子を選び、その粒子の外接する円の直径を粒径とし、その粒径の平均値(n=50)として求めた。
(14)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作成とGIC測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(e)の操作によりGIC試験用複合材料製平板を作製した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で180℃、圧力6kg/cm2で2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、サンプルの長さ側と平行になるようにカットした。
(d)JIS K7086(1993)に従い、ピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端(フィルムをはさんだ側)に接着した。
(e)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
作製した一方向強化材製平板を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。
JIS K7086(1993)附属書1に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/min、20mm到達後は1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、亀裂長さから、亀裂進展初期の限界荷重に対応するGIC(亀裂進展初期のGIC)を算出した。
(15)相分離の大きさ
前記(14)の試験後のサンプルの破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて下記の条件で与亀裂の先端付近4.5×6.0μmの範囲を撮影した。
装置:S−4100走査型電子顕微鏡(日立(株)製)
・加速電圧:3kV
・蒸着:Pt−Pd 約4μm
・倍率:20,000倍以上
この中から相分離した島の長径をすべて測定し平均することで、相分離サイズを得た。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・(A)成分:A−1〜A−3
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:113g/eq.、エポキシ基数:2
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:4
水酸基数:2
A−3:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、エポキシ基数:3以上
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、エポキシ基数:3
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、エポキシ基数:2
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、エポキシ基数:2
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:2
・エポキシ樹脂(D)成分
ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)成分:D−1〜D−4
D−1:“jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、分子量:378g/mol)
D−2:“jER(登録商標)”807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、分子量:340g/mol)
D−3:“jER(登録商標)”1004(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、分子量:1850g/mol)
D−4:“エポトート(登録商標)”YDF200 (ビスフェノールF型エポキシ樹脂、東都化成(株)製、分子量:950g/mol)
アミン型エポキシ樹脂(D2)成分:D−5、D−6
D−5:“アラルダイド(登録商標)”MY0500(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製、エポキシ当量:189g/eq.)
D−6:ELM434(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製、エポキシ当量:125g/eq.)
その他のエポキシ樹脂(D)成分
・“jER(登録商標)”YX4000H(ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量:192g/eq.)
・GAN(N−ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製)
・“エピクロン(登録商標)”HP7200L(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量:245g/eq.)
ブロック共重合体(F)成分:F−1〜F−3
F−1:“Nanostrength(登録商標)”E40F(トリブロック共重合体S−B−M:スチレン(Tg:90℃)−1,4−ブタジエン(Tg:−90℃)−メタクリル酸メチル(Tg:130℃)、アルケマ(株)製)
F−2:“Nanostrength(登録商標)”E20F(トリブロック共重合体S−B−M:スチレン(Tg:90℃)−1,4−ブタジエン(Tg:−90℃)−メタクリル酸メチル(Tg:130℃)、アルケマ(株)製)
F−3:“Nanostrength(登録商標)”M22N(トリブロック共重合体M−B−M:メタクリル酸メチル(Tg:130℃)−ブチルアクリレート(Tg:−54℃)−メタクリル酸メチル(Tg:130℃)、アルケマ(株)製)
・エポキシ樹脂硬化剤(E)成分:E−1、E−2
E−1:“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
E−2:DICY−7(ジシアンジアミド、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・熱可塑性樹脂粒子(G)
・“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製、平均粒子径:13.0μm)
・硬化補助剤
・DCMU99(N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、保土谷化学(株)製)
(実施例1)
本実施例は、次の第Iの工程、第IIの工程および第IIIの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99mol%とイタコン酸1mol%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボン酸濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分として(B−1)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−3)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70mol)スチレン化(5mol)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表1の通りである。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
混練装置で、ビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)成分として、(D−2)を10質量部および(D−4)を50質量部と、アミン型エポキシ樹脂(D2)成分として(D−6)を40質量部と、ブロック共重合体(F)成分として(F−3)を5質量部を配合して溶解した後、エポキシ樹脂硬化剤(E)成分として、(E−1)4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを45質量部混練して、熱可塑性樹脂粒子を除く1次樹脂組成物を作製した。得られた1次樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付32g/m2で離型紙上にコーティングし、1次樹脂フィルムを作製した。この1次樹脂フィルムを一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、一次プリプレグを得た。次に、最終的な炭素繊維強化複合材料用プリプレグのエポキシ樹脂組成が表1の配合量になるように、熱可塑性樹脂粒子としてトレパールTNを加えて調整した2次熱硬化性樹脂組成物で、ナイフコーターを用いて樹脂目付20g/m2で離型紙上にコーティングし、2次樹脂フィルムを作製した。この2次樹脂フィルムを、一次プリプレグの両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、目的のプリプレグを得た。また、得られたプリプレグを用い、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度測定および長期保管後の0°引張試験、および炭素繊維強化複合材料の層間靭性測定を実施した。結果を表1に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例2〜8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表1に示す(A)成分、および(B1)成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表1に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表1に示す。
(実施例9〜13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表2に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表2に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例14)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を55質量部、(B1)成分として(B−2)を22.5質量部、(C)成分22.5質量部をDMFに溶解してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物を用いた。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表2に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例15)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を60質量部、(B1)成分として(B−2)40質量部をDMFに溶解してサイジング液を調合した。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表2に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例16〜18)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、表3に示すビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、アミン型エポキシ樹脂(D2)、およびブロック共重合体(F)を表3に示す割合で配合し、溶解した後、表3に示すエポキシ樹脂硬化剤(E)を配合混練して、炭素繊維強化複合材料用の熱硬化性樹脂組成物を作製した。
得られた熱硬化性樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、1気圧で加熱加圧しながら熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。得られたプリプレグを用い、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度測定および長期保管後の0°引張試験、および炭素繊維強化複合材料の層間靭性測定を実施した。結果を表3に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例19〜24)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、表3に示すビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、アミン型エポキシ樹脂(D2)、およびブロック共重合体(F)を表3に示す割合で配合し、溶解した後、表3に示すエポキシ樹脂硬化剤(E)を配合混練して、熱可塑性樹脂粒子を除く1次樹脂組成物を作製した。得られた1次樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付32g/m2で離型紙上にコーティングし、1次樹脂フィルムを作製した。この1次樹脂フィルムを一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、一次プリプレグを得た。次に、最終的な炭素繊維強化複合材料用プリプレグのエポキシ樹脂組成が表3の配合量になるように、熱可塑性樹脂粒子としてトレパールTNを加えて調整した2次熱硬化性樹脂組成物で、ナイフコーターを用いて樹脂目付20g/m2で離型紙上にコーティングし、2次樹脂フィルムを作製した。この2次樹脂フィルムを、一次プリプレグの両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、目的のプリプレグを得た。得られたプリプレグを用い、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度測定および長期保管後の0°引張試験、および炭素繊維強化複合材料の層間靭性測定を実施した。結果を表3に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例25〜35)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
表4に示すビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、アミン型エポキシ樹脂(D2)を、表4の質量比で用いた以外は実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表4に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例36〜39、43)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表5に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
表5に示すビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、アミン型エポキシ樹脂(D2)、およびその他のエポキシ樹脂を、表5の質量比で用いた以外は実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表5に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例40〜42、44〜46)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表5に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
表5に示すビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)、アミン型エポキシ樹脂(D2)、およびその他のエポキシ樹脂等の材料を、表5の質量比で用いた以外は実施例16と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表5に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(比較例1〜3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表6に示す通り、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。層間靭性は高く、20日後の引張強度の低下率は小さいものの、初期の0°引張強度利用率が低いことがわかった。
(比較例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表6に示す通り、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は良好だったが、20日後の0°引張強度の低下率が大きいことが分かった。
(比較例5、6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(B1)を用いず、脂肪族エポキシ化合物(A)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表6に示す通り、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は高かったが、20日後の引張強度の低下率が大きいことが分かった。
(比較例7)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、脂肪族エポキシ化合物(A)を用いず、芳香族エポキシ化合物(B1)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表6に示す通り、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。層間靭性は高く、20日後の引張強度の低下率は小さいものの、初期の引張強度利用率が十分な値ではなかった。
(比較例8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表6に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、ブロック共重合体(F)を用いず、エポキシ樹脂(D)等を用いて、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。初期の引張強度利用率および20日後の引張強度の低下率は良好であるものの、層間靭性が十分な値ではなかった。
(比較例9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、ブロック共重合体(F)を用いず、エポキシ樹脂(D)等を用いて、実施例16と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。初期の引張強度利用率および20日後の引張強度の低下率は良好であるものの、層間靭性が十分な値ではなかった。
(比較例10)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(B1)を用いず、脂肪族エポキシ化合物(A)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表6に示す通り、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、エポキシ樹脂(D)等を用いて、実施例16と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価を実施した。結果を表6に示す。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は良好だったが、20日後の0°引張強度の低下率が大きいことが分かった。