JP5556191B2 - 熱間鍛造非調質鋼部品及びこれに用いる熱間鍛造用非調質鋼 - Google Patents
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Description
上記特許文献1の鋼を含め、多数の非調質鋼が開発されており、これらは大量生産可能な被削性を確保しているが、硬さがHV300未満であり、本発明で目的とする強度が得られない。そして、この鋼の強度を単純に高めても、被削性が低下してしまう。そのため、硬さを高めても優れた被削性を維持できる技術開発が必要であった。
特許文献2の鋼部品は、硬さがHV340以上で高強度を有しながら、被削性の優れる材料として提案されており、コストの問題、熱処理が必要であるという点を除けば、従来からの高強度、及び優れた被削性の要求を満足するものである。しかしながら、時効処理が必須であるため、コスト高になる共に、CO2発生量の点で問題がある。
2Mn+5Mo+Cr<3.1であり、
Ceq=C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Vが0.9〜1.1であり、
硬さがHV340以上であり、
引張強さが1100MPa以上であり、
降伏比が0.70以上であり、
組織がベイナイトが10%以下のフェライト・パーライト組織であることを特徴とする熱間鍛造非調質鋼部品にある(請求項1)。
化学成分が、質量%でC:0.35〜0.45%、Si:0.40%以下、Mn:0.90〜1.40%、S:0.040〜0.100%、Cr:1.00%以下、V:0.20〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、
2Mn+5Mo+Cr<3.1であり、
Ceq=C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Vが0.9〜1.1であることを特徴とする熱間鍛造用非調質鋼にある(請求項2)。
そこで、本発明の熱間鍛造非調質鋼部品及びこれに用いる熱間鍛造用非調質鋼は、コストを増大させることなく、高強度及び優れた被削性が得られるように、鋼を構成する各化学成分等の条件について鋭意検討を重ね、その条件を明確にしたものである。
そして、上記硬さ及び降伏比を満足し、かつ被削性を得ることができるように、成分元素の含有率、及びその配合比率を規定した。
Cは強度を確保するための基本元素である。そのため、Cの含有率を0.35質量%以上とすることにより、上述の高強度(引張強さ1100MPa以上、0.2%耐力770MPa以上)を確保することができる。しかし、含有率が0.45質量%を超えると、急激に被削性が低下するため、上限を0.45質量%とした。
Siは、製鋼時の脱酸剤として有効な元素であるが、鍛造後の冷却時に生じる脱炭量が増加し疲労強度を低下させるため、添加は脱酸に必要な最低限の量とすることが好ましい。そのため、Siの含有率の上限を0.40質量%とした。
Mnは、製鋼時の脱酸ならびに鋼の強度、靭性バランスを調整するために添加される元素であり、0.90質量%以上が必要である。しかし、Mnは多量添加すると、ベイナイト組織が生じ、耐力、被削性が大きく低下するため、上限を1.40質量%とした。
Sは、鋼中でCaS、MgS、MnS、(Ca,Mn)S、(Ca,Mg)S、(Ca,Mg,Mn)S等の硫化物系介在物を形成し、被削性向上に効果のある元素であり、HV340以上の硬さで必要な被削性を確保するためには不可欠な元素であるため、下限を0.040質量%とした。しかし、添加量を増加すると被削性に効果のある一方で、鍛造時に割れの発生が生じ易くなるため、上限を0.100質量%とした。
Crは、鋼の強度、靭性バランスを調整するために有効な元素である。しかしながら、添加量を増加するとMnの場合と同様にベイナイトが生じ、耐力、被削性が大きく低下するため、上限を1.00質量%とした。
Vは、鋼中で炭窒化物となって鍛造後の冷却中に金属組織において微細に析出することにより、フェライトを強化するという非調質鋼にとっては必須の元素である。そして、Vを0.20質量%以上含有させることにより、降伏比を0.70以上とすることができ、同一硬さで比較した場合の得られる耐力を高め、強度を改善することができる。しかしながら、0.50質量%を超えて含有させても、効果が飽和するため、上限を0.50質量%とした。
上記式における、Mn、Mo、Crは、それぞれ、上記化学成分における含有率(質量%)である。
上記成分元素の含有率がそれぞれ上記範囲を満たし、かつ、2Mn+5Mo+Cr<3.1を満たすことにより、ベイナイトの発生を10%以下に抑制し、主な組織をフェライト・パーライトとすることができ、被削性、及び降伏比0.70以上を確保することができる。ここで、ベイナイトの発生率は、断面観察による面積率によって評価する。
上記成分元素の含有率がそれぞれ上記範囲を満たし、かつ、Ceqが上記範囲を満たすことにより、HV340以上の硬さを有しつつ、優れた被削性を得ることができる。
つまり、本発明によれば、時効処理に頼ることなく、高強度を確保しつつ、優れた被削性を確保できる熱間鍛造非調質鋼部品及びこれに用いる熱間鍛造用非調質鋼を提供することができる。
そして、上記各成分の条件は、後述する実施例に示すごとく、様々な成分組成を有す鋼を用いた多くの実験を重ねて検討することにより得た条件である。
本例は、本発明の実施例にかかる熱間鍛造非調質鋼部品及び熱間鍛造用非調質鋼について説明する。
本例では、本発明の実施例として、表1に示す組成を有する鋼(試料E1〜試料E12)、本発明の比較例として、表1、2に示す組成を有する鋼(試料C1〜試料C26)を作製した。また、後述するごとく、S含有量と被削性との関係を評価するための比較例及び実施例として、表2に示す組成のを有する鋼(比較例としての試料C27、C28、C30〜C32、及び実施例としての試料C29)も作製した。
次に、試料E1〜試料E12、及び試料C1〜試料C26について、T断面のD/4部(丸棒の軸方向に直交する断面(T断面)における、外周面から中心に向かう深さが直径Dの1/4の部位)の硬さ及びミクロ組織を観察し、ベイナイト面積率を測定した。
硬さは、ビッカース硬さ(JIS Z 2244(2003)に準拠)を測定することにより測定した。
ミクロ組織は、ナイタールで腐食し、光学顕微鏡を用いて観察した。
表3、表4に、硬さ及びベイナイト面積率(%)を示す。
組織は、大部分がフェライト・パーライト組織でベイナイト組織は含まれていない(後述する図1〜図9において◆で表示)が、一部でベイナイト組織の存在が面積率10%を超えて確認された試料については、図1〜図7において、◇で表した。また、ベイナイト組織の存在が面積率10%以下の範囲で確認された試料については、図1〜図7において、△で表した。
次に、試料E1〜試料E12(試料E8は除く)、および試料C1〜試料C26について、切込速度200m/min、送り0.30mm/rev、仕込み2.0mm、水溶性切削油シンセティック♯770TG(20倍希釈)、刃具材質:超硬AC2000コートの条件で、旋削試験を実施(試験時間1000秒)した。試験後の刃具の横逃げ面摩耗幅を測定し、評価した。
なお、図1より、ベイナイト組織が10%を超えて生じると被削性が大きく低下することが確認できたため、上記した近似曲線は、ベイナイト組織が10%を超えて生じた試料のデータを除外して作製したものである。
そして、被削性及び強度についてより厳しい条件が要求される場合には、Cの含有率を0.37〜0.43質量%とすることがより好ましい。
図2には、試料E1〜試料E12、及び試料C1〜試料C26について、Ceqと硬度HVとの関係を示す。図2は、横軸をCeq、縦軸を硬さHVをとした。上述したように、◇はベイナイト組織の存在が面積率10%を超えて確認された試料の結果であり、△はベイナイト組織の存在が面積率10%以下の範囲で確認された試料の結果である。
図3は、上記試料E1〜試料E12(試料E8をの除く)、及び試料C1〜試料C26のうち、C含有率が0.43質量%以下であり、Cr含有率が1.0質量%以下である試料ついての、Mn含有率、第1被削性指数、及びCeqの関係を示す。図3は、横軸をCeq、縦軸を第1被削性指数とした。上述したように、◇はベイナイト組織の存在が面積率10%を超えて確認された試料の結果であり、△はベイナイト組織の存在が面積率10%以下の範囲で確認された試料の結果である。図3における曲線DはMn含有率が1.4質量%以下である試料の結果近似曲線を示し、曲線EはMn含有率が1.4質量%を超える試料の近似曲線を示す。
そして、Mn含有率が1.40質量%以下であり、ベイナイト組織が10%以下となる範囲については、Ceq0.9〜1.1の範囲において、第1被削性指数1以下を満足できることがわかる。この結果より、Mnの含有率の上限を1.40質量%とした。
そして、Cr含有率が1.00質量%以下の場合には、Ceq0.9〜1.1の範囲において第1被削性指数1以下を満足できることが分かる。この結果より、Crの含有率の上限を1.00質量%とした。
次に、試料E1〜試料E12、及び試料C1〜試料C26のD/4部から試験片を切り出し、試験片加工後、引張試験の実施を行った。
表3、表4に、引張強さTS(MPa)、0.2%耐力PS(MPa)、及び降伏比を示す。
そして、図5より、Vの含有率が増加するにしたがって降伏比は向上することがわかる。そして、Vの含有率が0.20質量%以上であり、かつ、ベイナイト組織が10%以下である場合には、降伏比0.70以上を満足できることがわかる。以上の結果より、主となる組織をフェライト・パーライト組織に限定し、許容するベイナイト組織の上限を面積率で10%以下にすると共に、Vの含有率の下限を0.20質量%とした。
特にMoは、Mn、Crに比べ少量の添加でベイナイト組織が生じると共に、Mn、Crに比べ高価な元素であるため、本発明では不純物としての含有のみ許容しているので、その含有率は0.02質量%以下であることが好ましい。
上記熱間鍛造非調質鋼部品が、フェライト・パーライト以外の組織であるベイナイト組織を有している場合には、上述したように、被削性が低下するだけでなく、降伏比も低下し、強度、被削性で共に劣る結果となる。
次に、試料E1〜試料E12、試料C8、試料C9、試料C22、及び試料C23について、応力比=−1、周波数30Hzの条件で、両振り引張圧縮疲労試験を行った。
表3及び表4に107回疲労限度(MPa)、及び耐久比(=107回疲労限度/引張強さ)を示す。
その後、試料E6、試料E7、試料E9、試料E10、試料C8、試料C9、及び試料C21〜試料C26について、JIS G 0058(2007)に規定された「鋼の脱炭層深さ測定方法」を行い、脱炭層深さを比較することにより脱炭性を評価した。
なお、表3、表4に示した脱炭性指数は、機械構造用炭素鋼S55Cの脱炭層深さを1とし、比率で示したものである。
図8に、脱炭性に影響を与えるSiの含有率と脱炭性指数との関係を示す。図8は、横軸にSi含有率(質量%)、縦軸に脱炭性指数をとった。
図8より、Si含有率0.40質量%以下で脱炭性指数0.2以下を満足でき、疲労強度の低下を抑制できることが分かる。そのため、Siの含有率の上限値を0.40質量%とした。
次に、試料E8、及びS以外の成分、Ceq、及び2Mn+5Mo+Crが上述の範囲を満たす試料C27〜試料C32(なお、試料C29については、S成分も上述の範囲内にある本発明品に相当する)について、日立ツール株式会社製強力型ロングドリルφ5(材質 ハイス)を使用してドリル試験を行った。回転数1127rpm、送り0.13mm/rev、加工深さ40mm、穴数150(未貫通穴)の条件で行った。150穴加工後の逃げ面コーナー磨耗量を測定し、比較、評価を行った。
Sは、上述したように、被削性向上に効果のある元素である。そして、S含有率と第2被削性指数の関係からS含有率の下限を規定した。
図9より、Sは、含有率が多くなるほど、被削性が向上することが分かる。そして、S以外の成分、Ceq、及び2Mn+5Mo+Crが上記範囲を満たす場合には、Sの含有率が0.040質量%以上であれば、第2被削性指数1以下を満足できることが分かる。これにより、Sの含有率の下限を0.040質量%とした。
次に、試料E6、試料E7、試料C8、試料C9、及び試料C21〜試料C26ついて、それぞれ100個鍛造し、割れの発生の有無を確認することにより割れ性を評価した。
鍛造は、φ35×200の鋼材を1200℃に加熱後、鍛造し、コンロッド部品を100個製造した。鍛造後、割れの発生の有無を確認した。
割れ性は、100個中1個でも割れが発生した場合を不合格(評価×)とし、100個全てに割れが発生していない場合を合格(評価○)とする。
図10は、S含有率と、割れ発生の有無の関係を示す図である。
図10より、S含有率が0.100質量%を超えると割れが発生することがわかる。また、図10には示していないが、S含有率の増加とともに、割れ個数が増加した。そのため、Sの含有率の上限を0.100質量%とした。
そして、大量生産した場合に確実に割れを防止するためには、S含有率の上限を低めとするのが望ましく、Sの含有率は、0.04〜0.07質量%であることが好ましい。
Claims (2)
- 化学成分が、質量%でC:0.35〜0.45%、Si:0.40%以下、Mn:0.90〜1.40%、S:0.040〜0.100%、Cr:1.00%以下、V:0.20〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、
2Mn+5Mo+Cr<3.1であり、
Ceq=C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Vが0.9〜1.1であり、
硬さがHV340以上であり、
引張強さが1100MPa以上であり、
降伏比が0.70以上であり、
組織がベイナイトが10%以下のフェライト・パーライト組織であることを特徴とする熱間鍛造非調質鋼部品。 - 請求項1に記載の熱間鍛造非調質鋼部品を製造するための熱間鍛造用非調質鋼であって、
化学成分が、質量%でC:0.35〜0.45%、Si:0.40%以下、Mn:0.90〜1.40%、S:0.040〜0.100%、Cr:1.00%以下、V:0.20〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、
2Mn+5Mo+Cr<3.1であり、
Ceq=C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Vが0.9〜1.1であることを特徴とする熱間鍛造用非調質鋼。
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