以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る墨出しシステム100の構成を示す斜視図である。この図に示すように、墨出しシステム100は、自律走行型の墨出し装置10と、レーザーレンジファインダ(以下、LRFという)110と、トータルステーション120と、墨出し装置10をコントロールするパーソナルコンピュータ(以下、PCという)130とを備えている。
図2は、墨出し装置10を示す斜視図である。この図に示すように、墨出し装置10は、杭芯の打設位置を示すマークを地面に押印するスタンプ機構12と、水平方向の位置調整を可能にスタンプ機構12を支持する位置調整機構20と、位置調整機構20を支持するフレーム50と、フレーム50の底部に配された走行機構60と、フレーム50の上部に支持された一対の計測プリズム70A、70Bとを備えている。
スタンプ機構12は、上記マークが刻印されインクが充填されたスタンプ部14と、スタンプ部14を昇降させる昇降機構16とを備えている。昇降機構16は、スランプ部14を鉛直方向(図中z方向)に移動可能に支持するレール16Rと、スタンプ部14をレール16Rに沿って移動させるモータ16Mとを備えている。この昇降機構16によりスタンプ部14が地面まで下降されることにより上記マークが地面に押印される。
位置調整機構20は、スタンプ機構12を互いに直交する2方向(図中x方向及びy方向)に移動させるx−y調整機構30と、x−y調整機構30を鉛直軸周りの方向(図中θ方向)に回転させる回転角調整機構40とを備えている。x−y調整機構30は、昇降機構16をモータ駆動によりy方向に移動させるy軸ステージ32と、y軸ステージ32をモータ駆動によりx方向に移動させるx軸ステージ34とを備えている。
y軸ステージ32は、y方向に延び、昇降機構16をy方向に移動可能に支持するレール32Rと、昇降機構16をレール32Rに沿って移動させるモータ32Mとを備えている。また、x軸ステージ34は、x方向に延び、レール32Rをx方向に移動可能に支持するレール34Rと、レール32Rをレール34Rに沿って移動させるモータ34Mとを備えている。
また、回転角調整機構40は、x軸ステージ34をフレーム50の中段の台板52に鉛直軸周りに回転自在に支持する回転支軸42と、回転支軸42をその軸心周りに回転させるモータ44とを備えている。回転支軸42は、フレーム50の中心を通る鉛直軸上に配されている。
フレーム50は、x−y調整機構30の周囲に配された4本の脚部54と、4本の脚部54の上端に固定された円盤状の上記台板52と、台板52の周縁部に下端が固定された4本の脚部56と、4本の脚部54の上端に固定された円盤状の台板58とを備えている。4本の脚部54は、正方形状に配されている。また、台板52上には、上記モータ44やコントローラ18等が設置されている。また、回転支軸42は、台板52の中心に回転自在に支持されている。また、台板58上には、上記一対の計測プリズム70A、70Bが設置されている。
走行機構60は、複数の多方向移動ホイール(例えば、オムニホイール(登録商標))62を備えている。多方向移動ホイール62は、車輪本体の円周方向に複数の樽型の小輪が取り付けられた車輪であり、車輪本体の回転により前後方向に移動し、小輪の回転により左右方向に移動できるようになっている。各多方向移動ホイール62に対応して不図示のモータが設けられており、各モータが個別に制御されることにより、走行機構60及びその上に設置されているフレーム50等の進行方向が制御される。
一対の計測プリズム70A、70Bは、トータルステーション用のプリズム反射鏡であり、トータルステーションの本体から投射された測距測角用の光を反射してその本体へ送り返す。
図3は、位置調整機構20を示す正面図である。また、図4は、位置調整機構20を示す側面図である。図3に示すように、回転支軸42の下端が、x軸ステージ34のレール34Rの上面に固定されている。ここで、回転支軸42の中心は、レール34Rの長手方向中央部から一方側にずれた位置に配されている。また、レール34Rの長手方向一方側にはモータ34Mが設けられている。
また、図4に示すように、レール34Rのスライダ34Sが、レール32Rの上面に固定されている。ここで、スライダ34Sは、レール32Rの長手方向中央部から一方側にずれた位置に配されている。また、レール32Rの長手方向一方側にはモータ32Mが設けられている。
また、レール32Rのスライダ32Sが、昇降機構16のレール16Rの上部に固定されている。ここで、スタンプ部12は、レール16Rよりもレール32Rの長手方向一方側に配されている。また、回転角調整機構40のモータ44と回転支軸42とは減速機構46を介して連結されており、回転支軸42の中心とモータ44の回転軸とは互いにはずれて配されている。
図5から図8までは、位置調整機構20の作用を示す平面図である。図5に示すように、位置調整機構20では、回転支軸42の中心を原点O´とするx´−y´座標が設定されている。このx´−y´座標は、回転支軸42が回転することにより、図5に示す初期位置から原点O´の周りに回転する。なお、x´−y´座標のx´>0,y´>0の領域を第1象限、x´−y´座標のx´<0,y´>0の領域を第2象限、x´−y´座標のx´<0,y´<0の領域を第3象限、x´−y´座標のx´>0,y´<0の領域を第4象限という。
x軸ステージ34のレール34Rは、x´軸上に配されている。y軸ステージ32のレール32Rは、y´軸と平行に配されており、レール34Rに沿ってx´方向に移動する。これにより、スタンプ機構12がx´方向に移動する。また、スタンプ機構12は、レール32Rに沿ってy´方向に移動する。即ち、スタンプ部14によるマークMの押印位置が、図中破線のハッチングで示すx´−y´平面A内で移動する。
ここで、x軸ステージ34では、モータ34Mがレール34Rの長手方向一方側(図中−x´側)に配され、y軸ステージ32では、モータ32Mがレール32Rの長手方向一方側(図中−y´側)に配されている。このため、y軸ステージ32のレール32Rの−x´側への移動が制限され、スタンプ機構12の‐y´側への移動が制限される。従って、スタンプ機構12の可動範囲であるx´−y´平面Aは、第1象限側に偏り、第2から第4象限では、x´−y´平面Aに含まれない範囲が広くなる。
ここで、x´−y´平面Aの中心は、第1象限に配されており、x´−y´平面Aの回転中心である回転支軸42は、x´−y´平面Aの中心に対して第3象限側にずらして配されている。このため、x´−y´平面Aの回転半径Rは、x´−y´平面Aの中心から頂点までの距離(対角線の1/2の長さ)よりも長くなる。
図6は、x−y調整機構30を図4に示す初期位置から90°反時計周りに回転させた状態を示している。この図に示すように、x´−y´平面Aは、第2象限側に偏り、第1、第3及び第4象限では、x´−y´平面Aに含まれない範囲が広くなる。ここで、x´−y´平面Aを図4に示す初期位置から反時計周り方向に回転させることにより、第1及び第2象限における上端の領域を、x´−y´平面Aに含めることができる。
図7は、x−y調整機構30を図5に示す初期位置から180°反時計周り方向に回転させた状態を示している。この図に示すように、x´−y´平面Aは、第3象限側に偏り、第1、第2及び第4象限では、x´−y´平面Aに含まれない範囲が広くなる。ここで、x´−y´平面Aを図6に示す位置から反時計周り方向に回転させることにより、第2及び第3象限における左端の領域を、x´−y´平面Aに含めることができる。
図8は、x−y調整機構30を図5に示す初期位置から270°反時計周り方向に回転させた状態を示している。この図に示すように、x´−y´平面Aは、第4象限側に偏り、第1から第3象限では、x´−y´平面Aに含まれない範囲が広くなる。ここで、x´−y´平面Aを図7に示す位置から反時計周り方向に回転させることにより、第3及び第4象限における下端の領域をx´−y´平面Aに含めることができる。
そして、図5に示すように、x−y調整機構30を、図8に示す位置から反時計周り方向に回転させて初期位置に戻すことにより、第4及び第1象限における右端の領域を´−y´平面Aに含めることができる。以上、x−y調整機構30を回転支軸42の周りに回転させることにより、墨出し装置10の内部でのスタンプ機構12の可動範囲を拡張できる。
ここで、図1に示すように、墨出しシステム100では、LRF110で墨出し装置10の位置を計測しながら、その計測値に基づいて墨出し装置10を目標位置に向けて走行させる。その後、目標位置に向けて走行した墨出し装置10の位置を、トータルステーション120で計測する。そして、その計測された位置と目標位置との誤差を補正するべく、位置調整機構20を作動させる。そして、スタンプ部14を下降させてマークMを地面に押印する。以上で現場における墨出しが完了する。
トータルステーション120は、所定位置に設置された視準器122までの距離や、計測プリズム70A、70Bまでの距離や、トータルステーション120の本体を始点として視準器122や計測プリズム70A、70Bを終点とする各ベクトルの角度等に基づいて、計測プリズム70A、70Bの位置を算出する。そして、トータルステーション120は、計測プリズム70A、70Bの位置に基づいて、墨出し装置10の原点O´の位置を算出する。
LRF110は、レーザ距離計を鉛直軸の周りに回転させることによりレーザ光を水平方向に走査して、上記鉛直軸から被計測物の輪郭上の複数の計測点までの距離を計測する水平ラインスキャンタイプの1軸の光走査式測距装置である。レーザ光の走査とは、レーザ光の射出角度を順次変化させることにより、レーザ光で受光面を所定方向に順次なぞることである。LRF20は、所定角度(例えば、0.25°)回転される毎に光源からレーザ光を射出し、反射されたレーザ光を受光部が受光して、上記鉛直軸から被計測物の輪郭上の計測点までの距離を計測する。
本実施形態における被計測物は、墨出し装置10の上下の台板52、58の周りにシート材を固定することにより形成された半径rの円柱形状のターゲット112である。また、ターゲット112の円周面112Bは、レーザ光の乱反射を抑制するべく低輝度仕上げされている。これにより、LRF110の鉛直軸から円周面112B上の計測点までの距離を計測する際のノイズを低減できる。また、円周面112Bの色は、レーザ光の反射率を考慮して、黒等の暗色ではなく、白等の明色である。
図9は、墨出しシステム100の概略構成を示すブロック図である。この図に示すように、PC130は、LRF110及びトータルステーション120に無線LANや通信ケーブル等により接続されている。PC130は、LRF1100からの距離情報やトータルステーション120からの位置情報等を入力する入力部(入力インターフェース)131と、計算処理用のプログラムを記憶した不揮発性メモリ等の記憶部133と、当該プログラムを揮発性メモリ等に読み出して計算処理を実行する情報処理部(CPU)140とを備える。
情報処理部140は、位置計測部141と、走行制御部132と、位置調整制御部134とを備えている。位置計測部141は、分別部142と、クラスタリング部144と、ノイズ除去部146と、推定部148と、判定部149とを備える。上記プログラムは、分別部142の分別機能、クラスタリング部144のクラスタリング機能、ノイズ除去部146のノイズ除去機能、推定部148の推定機能、及び判定部149の判定機能を実現させる。
図10は、プログラムにより位置計測部141の各部の機能が実現されて行われる処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、入力部131が、LRF110から距離情報を取得すると(ステップ1)、分別部142が、LRF110から距離情報が送信された計測点のうち、前景領域としての円周面112B上の計測点と、背景領域としての円周面112Bの周辺領域における計測点とを背景差分法により分別する(ステップ2)。
また、クラスタリング部144は、分別部42により前景領域に属すると判断された計測点に対して、最短距離法を用いてユーグリッド距離に基づいたクラスタリングを行う(ステップ3)。
また、ノイズ除去部146は、カルマンフィルタを用いて、クラスタリング部144によりクラスタリングされた多数の計測点のデータに含まれるノイズ成分を除去する(ステップ4)。なお、当該ノイズ成分の除去方法の詳細については後述する。
また、推定部148は、一定距離法や最小二条法や最尤法等の推定手法を用いて、クラスタリング部144によりクラスタリングされノイズ除去部146によりノイズ成分を除去された多数の計測点から、ターゲット112の中心位置を推定する(ステップ5)。なお、推定部148による中心位置の推定は、予め入力されたターゲット112の円周面112Bのプロファイルデータに基づいて最小二乗法等の推定手法を用いて行われるものであり、ニュートン法による繰り返し計算によって収束値を得るものである。なお、推定部148による中心位置の推定については、詳細に後述する。
また、判定部149は、推定部148がニュートン法による繰り返し計算によって算出した値が、収束値未満になっているか否かを判定し、収束値未満であれば中心位置を確定し、収束値以上であれば再度計算を繰り返す(ステップ6、7)。
図9に示すように、PC130は、走行機構60を制御する走行制御部132を備えている。この走行制御部132は、判定部149によって確定された墨出し装置10の中心座標(原点O´)と、予め設定されている目標座標Rとに基づいて、墨出し装置10の原点O´に対する目標座標Rの方向及び距離を算出し、算出した結果に基づいて走行機構60の走行方向及び走行距離を設定する。これにより、墨出し装置10が、目標座標Rに向けて移動する。
また、PC130は、位置調整機構20を制御する位置調整制御部134を備えている。この位置調整制御部134は、トータルステーション120により計測された墨出し装置10の原点O´の位置座標と、予め設定されている目標座標Rとに基づいて、墨出し装置10の原点O´の位置座標に対する目標座標Rの方向及び距離を算出し、算出した結果に基づいてスタンプ機構12の移動方向及び移動距離を設定する。これにより、スタンプ部14が、目標座標Rまで移動する。
ここで、LRF110を使用して墨出し装置10の原点O´の位置を計測する方法について詳細に説明する。図11(A)は、カルマンフィルタによるノイズ除去を行っていない場合における円周面112Bの片側のプロファイルの検出結果を示すグラフである。また、図11(B)は、カルマンフィルタによるノイズ除去を行った場合における円周面112Bのプロファイルの片側の検出結果を示すグラフである。
ここで、円周面112Bの片側の円弧部の両端で反射された鏡面成分の光は、LRF20まで戻らず、当該円弧部の両端で反射された乱反射成分の光のみが、LRF20に戻る。このため、LRF20が検出する反射光の信号雑音比(S/N比)が高くなる。従って、カルマンフィルタによるノイズ除去を行っていない場合には、円周面112B上の多数の計測点までの距離の検出精度が悪化し、図11(A)に示すように、円周面112Bの円弧部の両端の形状が崩れる。
そこで、反射光強度フィルタをカルマンフィルタとして用い、反射光強度が所定値より低いデータをノイズ成分として除去した。これにより、円周面112B上の多数の計測点までの距離の計測精度を向上でき、図11(B)に示すように、円周面112Bの円弧部の両端の形状の崩れを抑制でき、より正確な円周面112Bのプロファイルデータを得ることができる。
次に、推定部148によるターゲット112の中心位置の推定方法の詳細について説明する。
まず、一定距離法について説明する。図12は、一定距離法の原理を示す図である。このグラフに示すように、一定距離法では、クラスタリング部144によりクラスタリングされた多数の計測点(図中黒丸で示す)の中心(クラスタ中心)の位置(xcl,ycl)を求める。そして、LRF110の回転軸とクラスタ中心とを結ぶ直線Lに沿ってクラスタ中心から上記回転軸の反対側へ距離dだけずらした位置を、円周面112Bの中心位置(xobj,yobj)とみなす。
ここで、LRF110の計測精度を理由として、LRF110の計測データに基づいて導出されるクラスタ中心点(xcl,ycl)は、円周面112Bの中心と一致しない。そこで、円周面112Bの半径rに基づいて上述のパラメータdを定め、LRF110の回転軸とクラスタ中心とを結ぶ直線Lに沿ってクラスタ中心から上記回転軸の反対側へ距離dだけずらした位置を、円周面112Bの中心点(xobj,yobj)とみなしている。
円周面112Bの中心点(xobj,yobj)は、下記(1)式で表される。なお、βは、LRF110の回転軸とクラスタ中心とを結ぶ直線LとX軸(但しx≧0)との角度である。
ここで、一定距離法は、既知である被計測物の輪郭のプロファイルに応じてパラメータdを設定して被計測物の輪郭に対して所定の位置関係にある所定点(以下、特徴点と称する)を推定するという手法であり、様々な形状の被計測物の特徴点を推定できるという利便性を有する。しかし、一定距離法は、クラスタ中心のデータとパラメータdとに基づき、被計測物の特徴点のおおよその位置を推定するという手法である。このため、一定距離法は、推定の精度の面では、クラスタの全てのデータを利用して被計測物の特徴点を推定する、最小二乗法や最尤法等の手法と比して劣る。
そこで、図13に示すように、最小二乗法と最尤法とを用いて、クラスタの全データ(xa,ya),α=1,…,Nから円周面112Bの中心位置を推定する。ここで、円周面112Bの計測領域である円弧部のプロファイルを数式化すると、下記(2)式で表される円の方程式になる。このため、クラスタの全データ(xa,ya),α=1,…,Nから円の方程式のパラメータ(a,b,r)を推定する。なお、a,bは、それぞれターゲット112の中心位置の2次元平面におけるX座標、Y座標であり、rは、ターゲット112の半径である。
まず、最小二乗法について説明する。
円の最小二乗法は、下記(3)式で表される誤差の二乗和JLSを最小化するパラメータa,b,rを推定する手法である。
ここで、本実施形態では、ターゲット112の半径rが既知であるため、推定するパラメータはa,bの2つとなり、上記(3)式は下記(4)式で表される非線形方程式となる。
そこで、非線形方程式の反復解法としてニュートン・ラフソン法を用いて、パラメータa、bを推定する。その際、ニュートン・ラフソン法の初期値u0の設定が重要となるが、本実施形態では、上記(1)式で表される一定距離法の推定値(xobj,yobj)をニュートン・ラフソン法の初期値u0に設定する。
ニュートン・ラフソン法の手順として、まず、初期値u0を代入した関数JLS(u0)を2次近似した下に凸の曲面の最小値を与える点u1=(a1,b1)を求める。次のステップでは、この点u1を代入した関数JLS(u1)を2次近似した曲面の最小値u2を求める。そして、最終的にこれをuiが収束するまで繰り返す。uiが収束すれば、そのuiがJLS(u)の最小値を与える点である。
ui=(ai,bi)を代入した関数JLS(ai,bi)を2次近似した下に凸の曲面の最小値ui+1=(ai+1,bi+1)は下記(5)式で表される。
ここで上記(5)式の右辺の1次微分を含む勾配gLS,iは、下記(6)(7)式で表される。
また、上記(5)式の右辺の2次微分を含むヘッセ行列HLS,iは、下記(8)(9)(10)式で表される。
即ち、ニュートン・ラフソン法を用いた半径rが既知の円の最小二乗法の手順では、最初のステップにおいて、初期値u0=(a0,b0)を上記(5)〜(10)式に代入し、ヘッセ行列の初期値HLS,0と勾配の初期値gLS,0とを算出し、関数JLS(u0)を2次近似した下に凸の曲面の最小値を与える点u1=(a1,b1)を算出する。そして、次のステップでは、u1=(a1,b1)を上記(5)〜(10)式に代入し、ヘッセ行列HLS,1と勾配gLS,1とを算出し、関数JLS(u1)を2次近似した下に凸の曲面の最小値を与える点u2=(a2,b2)を算出する。そして、このステップを、最終的にuiが収束するまで繰り返す。
次に、最尤法について説明する。
円の最尤法は、下記(11)式で表されるJMLを最小化するパラメータa,b,rを推定する手法である。
ここで、本実施形態では、ターゲット112の半径rが既知であるため、推定するパラメータはa,bの2つとなり、上記(11)式は下記(12)式で表される非線形方程式となる。
そこで、最小二乗法の場合と同様、非線形方程式の反復解法としてニュートン・ラフソン法を用いて、パラメータa、bを推定する。その際、上記(1)式で表される一定距離法の推定値(xobj,yobj)をニュートン・ラフソン法の初期値u0に設定する。
ニュートン・ラフソン法の手順として、まず、初期値u0を代入した関数JML(u0)を2次近似した下の凸の曲面の最小値を与える点u1=(a1,b1)を求める。次のステップでは、この点u1を代入した関数JML(u1)を2次近似した曲面の最小値u2を求める。そして、最終的にこれをuiが収束するまで繰り返す。uiが収束すれば、そのuiがJLS(u)の最小値を与える点である。
ここで、上記(12)式は、分子が2乗和であり、分母も(xα−a)2+(yα−b)2であるため、下に凸の関数である。従って、ui=(ai,bi)を代入した関数JML(ai,bi)を2次近似した曲面の最小値ui+1=(ai+1,bi+1)は下記(13)式で表される。
ここで上記(13)式の勾配gML,iは、下記(14)(15)式で表される。
但し、A(ai,bi)は下記(16)式で表される。
また、上記(13)式のヘッセ行列HML,iは、下記(17)(18)(19)式で表される。
即ち、ニュートン・ラフソン法を用いた半径rが既知の円の最尤法の手順では、最初のステップにおいて、初期値u0=(a0,b0)を上記(13)〜(19)式に代入し、ヘッセ行列の初期値HLS,0と勾配の初期値gLS,0とを算出し、関数JLS(u0)を2次近似した下に凸の曲面の最小値を与える点u1=(a1,b1)を算出する。そして、次のステップでは、u1=(a1,b1)を上記(13)〜(19)式に代入し、ヘッセ行列HML,1と勾配gML,1とを算出し、関数JLS(u1)を2次近似した下に凸の曲面の最小値を与える点u2=(a2,b2)を算出する。そして、このステップを、最終的にuiが収束するまで繰り返す。
図14は、上述の3つの解析方法を用いて、LRF110により取得されたデータから、ターゲット112の中心位置を推定した結果を示すグラフである。このグラフにおいて、一定距離法を用いた推定結果は実線で示し、最小二乗法を用いた推定結果は破線で示し、最尤法を用いた推定結果は鎖線で示している。また、横軸はLRF110の回転軸からターゲット112の中心(原点O´)までの距離(mm)であり、縦軸は推定された中心位置の誤差(mm)である。
本実験では、屋外でLRF20を用いて半径r=250mmのターゲット112の円周面112Bに対してレーザ光を10回走査することにより、円周面112B上の計測点のデータ(xa,ya),α=1,…,Nを取得し、取得した全データからターゲット112の中心位置を推定した。また、本実験では、赤外光に対しても反射率が高い白色の画用紙を円周面112Bに貼り付けた。また、本実験では、ノイズ除去部46のカルマンフィルタをONにしており、多数の計測点のデータから、反射光強度が所定値より小さいノイズ成分を除去している。
図14のグラフに示すように、最小二乗法と最尤法とを用いてターゲット112の中心位置(原点O´)を推定した結果が、一定距離法を用いてターゲット112の中心位置を推定した結果と比して良好であった。
ここで、本実施形態では、ターゲット112の半径rが既知であることから、最小二乗法と最尤法とを用いて推定するパラメータは、a、bの2つに減っている。これにより、ターゲット112の中心位置を推定する精度が向上されている。
次に、トータルステーション120を使用して墨出し装置10の原点O´の位置を計測しながら、スタンプ部14を目標座標Rに位置決めする方法について詳細に説明する。図15は、墨出しを行う現場の座標系を示す図である。この図に示すように、墨出しを行う現場について、LRF110の鉛直軸を原点Oとするx−y座標が設定されている。このため、LRF110は、x−y座標における原点Oから計測点までの距離を計測する。また、トータルステーション120は、x−y座標における墨出し装置10の原点O´の位置を計測する。
図16は、トータルステーション120により墨出し装置10の原点O´の位置を計測する原理を説明するための図である。この図に示すように、トータルステーション120は、所定位置T(xt,yt)に設置されている。また、視準器122は、所定位置C(xc,yc)に設置されている。
トータルステーション120により墨出し装置10の原点O´の位置を計測するに際して、その最初に、既知点である基準点R(xr,yr)、所定位置C(xc,yc)に基づいて、ベクトルTO、ベクトルTC、これらがなす角α1を計測し、その計測結果に基づいて所定位置T(xt,yt)を算出する。
次に、ベクトルTB、ベクトルTA、ベクトルTOとベクトルTBとがなす角α2、及びベクトルTOとベクトルTAとがなす角α3を計測し、その計測結果に基づいて、計測プリズム70A、70Bの位置(xa,ya)、(xb,yb)を算出する。そして、計測プリズム70A、70Bの位置に基づいて墨出し装置10の原点O´(xo,yo)の位置を算出する。ここで、原点O´(xo,yo)は下記(20)(21)式で表される。
図17は、原点をO´(xo,yo)とする現場の座標系(x´−y´座標系)と墨出し装置10の座標系(u−v座標系)との関係を示す図である。x−y座標系における目標座標R(x,y)は、移動ベクトルOO´(xo,yo)で移動させ、回転角θだけ回転させることにより、下記(22)式で示すu−v座標系における目標座標R(u,v)に同次変換することができる。
そして、回転角θ=‐θ´を代入して上記(22)式を逆行列に変換し、上記(20)(21)式で表す値を代入することにより、u−v座標系における目標座標R(u,v)を下記(23)式のように表すことができる。
ここで、detT=1であることから、u−v座標系における目標座標R(u,v)は、下記(24)(25)式で表すことができる。
また、θ´は、ベクトルOA´((xa−xb)/2,(ya−yb)/2)と、ベクトルO´x´の単位ベクトルすなわちベクトルOxの単位ベクトル(1,0)とのなす角であることから、cosθ´とsinθ´とはそれぞれ下記(26)(27)式で表すことができる。但し、0≦θ´≦180°,ya−yb≧0とする。
ここで、u<bu、u>auかつv<bv、v>bvである場合に、目標座標R(u,v)は、u−v座標系の範囲外に位置する。この場合、走行制御部132は、ベクトルO´Rから、原点O´と目標座標R(u,v)との距離と、原点O´に対する目標座標R(u,v)の方向とを算出する。そして、走行制御部132は、算出した方向に算出した距離だけ走行機構60を走行させる。これにより、目標座標R(u,v)がu−v座標系の範囲内に入る。
一方、bu≦u≦au、かつ、bv≦v≦avである場合に、目標座標R(u,v)は、u−v座標系の範囲内に位置する。この場合、位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)の象限を判定する。
図18は、u−v座標系とx´‐y´座標系との関係を示す図である。この図に示すように、u−v座標系の第1象限は、0≦u≦auかつ0≦v≦avの領域であり、u−v座標系の第2象限は、bu≦u<0かつ0≦v≦avの領域である。また、u−v座標系の第3象限は、bu≦u≦0かつBV≦v<0の領域であり、u−v座標系の第4象限は、0<u<auかつbv≦v<0の領域である。
位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)が、上述の第1〜第4象限の何れに位置するかを判定し、その判定結果に応じて、x´−y´座標系のu−v座標系に対する回転角θ“を設定する。位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)が、第1象限に位置する場合には、回転角θ”を0°に設定する。この場合、u−v座標系とx´−y´座標系とが一致することから、スタンプ部14のx´−y´座標系における座標(x´,y´)は(u,v)となる。
位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)が、第2象限に位置する場合には、回転角θ“を90°に設定する。この場合、スタンプ部14のx´−y´座標系における座標(x´,y´)は(−v,u)となる。また、位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)が、第3象限に位置する場合には、回転角θ”を180°に設定する。この場合、スタンプ部14のx´−y´座標系における座標(x´,y´)は(−u,−v)となる。さらに、位置調整制御部134は、目標座標R(u,v)が、第4象限に位置する場合には、回転角θ“を270°に設定する。この場合、スタンプ部14のx´−y´座標系における座標(x´,y´)は(v,−u)となる。
図19は、トータルステーション120により墨出し装置10の原点O´を計測してから、スタンプ部14で地面にマークMを押印するまでの処理を説明するためのフローチャートである。なお、上述したように、トータルステーション120による墨出し装置10の原点O´を計測する前に、LRF110で墨出し装置10の位置を計測しながら、その計測値に基づいて墨出し装置10を目標座標Rに向けて走行させる。
本処理ルーチンは、トータルステーション120により原点O´の位置が計測された後に開始されてステップ1へ移行する。ステップ11では、走行制御部132が、上記(20)〜(27)式に基づいて、x−y座標系における目標座標R(x,y)を、u−v座標系における目標座標R(u,v)に同次変換する。次に、ステップ12では、走行制御部132が、目標座標R(u,v)が、u−v座標系の範囲内であるか否か、即ち、bu≦u≦auかつbv≦v≦avであるか否かを判定する。その結果、肯定判定された場合にはステップ13へ移行する一方、否定判定された場合にはステップ20へ移行する。
ステップ20では、走行制御部132が、ベクトルO´Rから、原点O´と目標座標R(u,v)との距離と、原点O´に対する目標座標R(u,v)の方向とを算出し、算出した方向に算出した距離だけ走行機構60を走行させる。即ち、墨出し装置10を目標座標Rに向けて移動させる。そして、ステップ12へ移行する。
ステップ13では、位置調整制御部134が、目標座標Rがu−v座標系の第1〜第4象限の何れに位置するかを判定し、その判定結果に応じて、x´−y´座標系のu−v座標系に対する回転角θ“を設定する。上述したように、目標座標R(u,v)が第1象限に位置する場合、回転角θ”は0°に設定され、目標座標R(u,v)が第2象限に位置する場合、回転角θ”は90°に設定される。また、目標座標R(u,v)が第3象限に位置する場合、回転角θ”は180°に設定され、目標座標R(u,v)が第4象限に位置する場合、回転角θ”は270°に設定される。
次に、ステップ14では、位置調整制御部134が、x−y調整機構30を作動させ、スタンプ機構12をx´−y´平面内でx´軸方向及びy´軸方向に移動させることにより、スタンプ機構12を目標座標R(u,v)まで移動させる。次に、ステップ15では、位置調整制御部134が、昇降機構16を作動させ、スタンプ部14を地面まで下降させ、地面にマークMを押印させる。以上で処理ルーチンを終了する。
以上、本実施形態に係る墨出しシステム10では、LRF110のレーザ光の走査範囲内に存するターゲット112であればその中心位置(原点O´)を計測できる。これにより、リアルタイムでターゲット30の中心位置を計測することができ、墨出し装置10の原点O´の位置を計測しながら、その計測値に基づいて、墨出し装置10を目標位置へ向けて移動させることができる。そして、墨出し装置10を目標位置へ向けて移動させた後、トータルステーション120を使用して、墨出し装置10の原点O´の位置を高精度に計測することにより、スタンプ部14を、位置調整機構20で目標位置との誤差を補正するべく移動させ、正確に目標位置に位置決めすることができる。
なお、本実施形態では、インクでマークMを押印するスタンプ型の墨出し器が、位置決め対象物である墨出し方法を例にとって本発明を説明した。しかし、レーザ墨出し器が、位置決め対象物である墨出し方法や、ドリルが位置決め対象物である加工装置の位置決め法法等の他の位置決め方法にも本発明を適用可能である。
また、本実施形態では、地面に墨出しを行う墨出し方法を例にとって本発明を説明した。しかし、壁面に墨出しを行う墨出し方法や、天井に墨出しを行う墨出し方法等の他の墨出し方法にも本発明を適用可能である。
また、本実施形態では、墨出し装置10を自律走行させる例をとって本発明を説明したが必須ではなく、手動で移動させてもよい。さらに、本実施形態では、スタンプ部14を二次元平面内で位置決めするx−y調整機構30を鉛直軸周りに回転させることにより、スタンプ部14の墨出し装置10内における可動範囲を拡張したが、必須ではない。