JP5484135B2 - オーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

オーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、オーステナイト相とマルテンサイト相の複相組織を有するステンレス鋼板であって、特に強度と延性をともに高レベルで両立させた鋼板、およびその製造方法に関する。
自動車部材や機械部品などの用途においては、加工性(延性)の良好な高強度ステンレス鋼材が要求される場合がある。加工性の良好な高強度ステンレス鋼としては、SUS301HT、SUS304HTなどの加工硬化型オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。この種の鋼は調質圧延によって機械的性質が調整される。その他の高強度ステンレス鋼としては、析出硬化型や変態強化型のマルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト+マルテンサイト複相組織高強度ステンレス鋼などがある。これらは主として熱処理によって機械的性質が調整される。
加工硬化型オーステナイト系ステンレス鋼は、Niを多く含有するため材料コストが高いという問題がある。他方、マルテンサイト系ステンレス鋼やオーステナイト+マルテンサイト複相組織高強度鋼は、強度には優れるものの同じ強度レベルで比較するとオーステナイト系鋼種に比べ加工性に劣る。
一方、特許文献1には、オーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼において、焼入れ後に3%以下の歪を付与し、その後、熱処理を施すことによって溶接軟化抵抗を付与する技術が開示されている。しかし、この技術によって得られる材料は比較的良好な延性を示すものの、自動車部材や機械部品などの用途においては 必ずしも満足できる強度レベルを呈するとは限らない。
特開平7−216451号公報
本発明は、オーステナイト系鋼種より安価で、かつマルテンサイト系鋼種や従来の複相組織高強度ステンレス鋼種よりも優れた強度−延性バランスを有するステンレス鋼板を提供しようというものである。
上記目的は特定の化学組成を有するオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼を用いて、熱処理を工夫することにより実現することができる。
すなわち本発明では、質量%で、C:0.20%以下、Si:1.0%以下、Mn:5.0%以下、Ni:6.0%以下、Cr:10.0〜18.0%、N:0.20%以下、Cu:0〜3.0%、Mo:0〜3.0%、B:0〜0.050%、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式で定義されるCr当量が10.0〜20.0、下記(2)式で定義されるNi当量が5.0〜15.0、下記(3)式で定まるMs点が0〜150℃である化学組成を有し、マトリクスが、オーステナイト相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト相である金属組織を有し、引張強さが1250N/mm2以上、かつ下記(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上であるオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板が提供される。
Cr当量=Cr+Mo+1.5Si…(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu…(2)
Ms={3000(0.068−C−N)+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110(8.9−Ni−Cu)+75(14.6−Cr)−32}×5/9…(3)
A値=引張強さ(N/mm2)×伸び(%)…(4)
ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。また、Cu、Mo、Bは任意添加元素である。
上記において「マトリクス」は金属素地を意味し、マトリクス中には析出物や介在物が存在していて構わない。上記(4)式には、引張方向が鋼板の圧延方向である引張試験によって求まる引張強さおよび伸びの値が代入される。上記複相組織ステンレス鋼板は、オーステナイト相中の炭素濃度が、全体の平均炭素濃度(鋼のC含有量)よりも高くなっている。また本発明では、特に前記強度・延性バランス指標A値が23000以上という、非常に高レベルの強度および延性を具備する材料を提供することができる。
また本発明では、上記の複相組織ステンレス鋼板の製造方法として、前述の化学組成を有する鋼板を、オーステナイト単相温度域に加熱してオーステナイト単相組織とした後、前記Ms点より低い温度まで急冷することにより、マトリクスが、オーステナイト相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト相である焼入れ材を得る工程(複相化処理工程)、
前記焼入れ材を「(3)式によるMs点+150℃」以上、Ac1点未満の温度範囲に加熱してマルテンサイト相中に固溶しているCの一部をオーステナイト相に排出させることにより、下記(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上である特性を付与する工程(炭素分配処理工程)、
を有するオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板の製造方法が提供される。
本発明によれば、高いレベルで強度と延性を具備し、オーステナイト系鋼よりもNi含有量を節約した安価なステンレス鋼板が提供可能となる。
本発明の複相組織ステンレス鋼板を得るためのヒートパターンおよび各段階における金属組織状態を模式的に示した図。
発明者らは詳細な研究の結果、後述の化学組成に調整したステンレス鋼板を、焼入れによる複相化処理、およびその後の加熱による炭素分配処理に供することにより、強度−延性バランスに優れた複相組織ステンレス鋼板が得られることを見出した。
図1に、本発明の複相組織ステンレス鋼板を得るためのヒートパターンおよび各段階における金属組織状態を模式的に示す。所定の板厚に調整された圧延材(冷延鋼板または熱延鋼板)を用意し、これを複相化処理に供する。複相化処理では、まず鋼板をオーステナイト(γ)単相温度域に加熱保持して溶体化処理する。オーステナイト単相組織(図1(A))とした後、マルテンサイト(α’)変態開始温度Ms点より低い温度Tq(℃)まで急冷することにより、オーステナイト(γ)相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト(α’)相である組織状態の焼入れ材を得る(図1(B))。以下において上記Tqを「焼入れ終了温度」ということがある。Ms点が常温より高い場合、Tqは常温とすることができる。焼入れ材ではオーステナイト相とマルテンサイト相における炭素濃度はそれぞれ、全体の平均炭素濃度(鋼のC含有量)と概ね等しい。このとき、C固溶限の小さいマルテンサイト相には炭素が過飽和に固溶されている。
次に、このような組織状態の焼入れ材を炭素分配処理に供する。炭素分配処理は、焼入れ材をAc1点以下の所定の温度域に加熱保持することにより、過飽和に固溶したマルテンサイト相中の炭素をオーステナイト相中へ拡散させる処理である(図1(C))。加熱保持後は常温まで冷却する。炭素分配処理によってオーステナイト相中の炭素濃度が上昇するため当該オーステナイト相のMs点は低下しており、常温まで冷却する過程で新たなマルテンサイトの生成はほとんど起こらない。
炭素分配処理後においては、全体の平均炭素濃度に対して、オーステナイト相は炭素濃度が高く、マルテンサイト相は炭素濃度が低くなっている。
このオーステナイト相は、焼入れ後に存在するいわゆる残留オーステナイト相であり、マルテンサイト相との共存により、オーステナイト相自体がクラック進展の障壁として働く。また、応力やひずみが付与されるとマルテンサイト相に変態してエネルギーを吸収し、TRIP効果による高延性を担う。さらに、本来マルテンサイト相に比べ強度の低いオーステナイト相の強度は、炭素濃度の増大によって多少向上している。一方、マルテンサイト相は本来の高強度を担う機能を発揮するとともに、炭素濃度の減少により延性・靱性も向上している。このような作用により本発明のオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板は、高強度を維持しながら、強度−延性バランスが高い水準に引き上げられている。
〔化学組成〕
以下、化学組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を確保する上で重要な元素である。またMs点を制御する上でもC含有量の設定は重要である。本発明では特に低C化していない一般的な汎用ステンレス鋼種(SUS430、SUS304など)と同等以上のC含有量とすればよい。例えば0.03%以上のC含有量を確保することがより効果的である。ただし、C含有量が高くなりすぎるとマルテンサイトが過剰に硬化し、延性・靱性が低下する。この場合、炭素分配処理によってマルテンサイト相中からオーステナイト相中へC拡散の進行を図っても、マルテンサイト相の延性・靱性低下を十分に解消することが難しくなることがある。またCはCr炭化物を形成するので、あまり多量のCを添加してもその添加効果は飽和する。種々検討の結果、C含有量は0.20%以下に抑える必要があり、0.15%以下とすることがより好ましい。
Siは、製鋼での脱酸作用を有する他、Cが炭化物形成に消費されることを抑制する作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるためには0.2%以上のSi含有量を確保することがより効果的であり、0.4%以上とすることが一層効果的である。ただし、多量のSi含有はSi酸化物を主体とする硬質な介在物の形成を招き、強度、疲労特性に悪影響を及ぼす。したがってSi含有量は1.0%以下に制限され、0.8%以下とすることがより好ましい。
Mnは、Ms点の制御、および適正溶体化処理温度の範囲拡大に有効な元素である。Mn含有量の下限は特に限定されないが、例えば0.05%以上の範囲で最適なMn含有量を設定すればよい。ただし、過度にMnを含有すると加工割れの起点となるMn系介在物が増大する。種々検討の結果、Mn含有量の上限は5.0%に制限され、3.0%以下の範囲で調整することがより好ましい。
Niは、靱性向上に有効な元素である。またMs点の制御にも有効である。Ni含有量の下限は特に限定されないが、例えば0.5%以上の範囲で最適なNi含有量を設定すればよい。ただし、Niは高価な元素であるから、本発明では6.0%以下の範囲で含有させる。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために10.0%以上の含有量とする。12.0%以上とすることがより好ましい。ただし、多量にCrを含有させるとCr炭化物が生成しやすくなり、炭素分配処理による強度−延性バランスの改善効果が十分に発揮されなくなる場合がある。種々検討の結果、Cr含有量は18.0%以下の範囲に制限され、17.0%以下あるいは16.0%以下の範囲に管理しても構わない。
Nは、Cと同様、鋼の強度向上に寄与し、またMs点を制御する上で重要な元素である。N含有量は例えば0.02%以上とすることが望ましい。ただし、過度にNを含有させると熱間圧延時に表面欠陥が生じやすくなる。種々検討の結果、N含有量は0.20%以下に制限される。
Cuは、適正溶体化温度の範囲を広げる作用を有し、またMs点の制御にも利用できることから、必要に応じて添加することができる。その場合、0.1%以上の範囲で添加することがより効果的である。ただし、過度のCu添加は耐食性の低下を招くので、Cuを添加する場合は3.0%以下の範囲で行う必要がある。
Moは、靱性向上に有効であり、また耐食性改善にも有効である。このため必要に応じてMoを添加することができる。その場合、0.03%以上の範囲で添加することがより効果的である。ただし、Moは高価な元素であるため、Moを添加する場合は3.0%以下の範囲で行う必要がある。2.0%以下の含有量範囲に管理してもよい。
Bは、オーステナイト結晶粒の成長抑制や熱間加工性の改善に有効であり、必要に応じて添加することができる。ただし、多量の添加は延性に悪影響を及ぼすので、Bを添加する場合は0.050%以下の範囲で行う。
下記(1)式のCr当量および(2)式のNi当量は、オーステナイト安定度に関連する指標である。
Cr当量=Cr+Mo+1.5Si…(1)
Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu…(2)
本発明ではCr当量が10.0〜20.0、かつNi当量が5.0〜15.0に調整された鋼を採用することにより、Ms点以下の所定の温度Tqに焼入れしたときに後述の所定の相比を有するオーステナイト+マルテンサイト複相組織が得られるようにしている。
下記(3)式のMsは、鋼のMs点(℃)を表す指標である。
Ms={3000(0.068−C−N)+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110(8.9−Ni−Cu)+75(14.6−Cr)−32}×5/9…(3)
本発明で規定する組成範囲の鋼に関しては、(3)式によりMs点が精度良く推定される。したがって、複相化処理における焼入れ終了温度は(3)式により算出されるMs点を基準として設定することができる。本発明ではこのMs点が0〜150℃となる組成の鋼を適用する。Ms点が150℃を超えると、後述の焼入れにおいて残留オーステナイト相の割合が10〜70体積%である複相組織を得るために焼入れ終了温度Tqを常温よりかなり高い温度に設定する必要が生じやすく、製造コスト低減には不利となる。また、Ms点が0℃より低い場合は焼入れ終了温度Tqの最適条件が氷点下のかなり低い温度となる場合が多く、やはり製造コスト低減には不利となる。(3)式によるMs点は15〜100℃であることがより好ましい。
〔金属組織〕
本発明のオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板は、マトリクスが、オーステナイト相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト相である金属組織を有するものである。オーステナイト相が10体積%より少ないと、延性が不十分となりやすく、またマルテンサイト相中の炭素濃度が十分に低減できないことがあり、靱性に劣る場合がある。一方、オーステナイト相が70体積%を超えて多くなると、強度が不十分となりやすい。オーステナイト相とマルテンサイト相の相比は、化学組成および複相化処理条件(焼入れ終了温度Tq)によって制御できる。
〔強度−延性バランス〕
本発明のオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板は、引張強さが1250N/mm2以上、かつ下記(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上という、優れた強度−延性バランスを呈するものである。
A値=引張強さ(N/mm2)×伸び(%)…(4)
自動車部材をはじめとする多くの高強度部材用途においては、引張強さ1250N/mm2以上の強度レベルが要求される場合が多々ある。このような強度レベルにおいてA値が17300以上となるステンレス鋼板は、従来、加工硬化型オーステナイト系鋼種など、高価な元素を多用する一部の鋼種を除き実現が難しかったものである。
本発明のオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板における強度−延性バランスは、化学組成、複相化処理条件(焼入れ終了温度Tq)、および炭素分配処理条件によって制御できる。
〔複相化処理〕
複相化処理に供する鋼板は、通常のステンレス鋼板製造工程によって得られた圧延材を適用することができる。例えば、「連続鋳造→熱間圧延→焼鈍・酸洗→冷間圧延」の工程で所定の製品板厚に調整した鋼板を使用することができる。冷間圧延工程では、必要に応じて中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延を行ってもよい。
複相化処理においては、まず圧延材をオーステナイト単相温度域に加熱保持して炭素および窒素が完全固溶するように溶体化処理する。例えば900〜1200℃×均熱0〜10minの条件が適用できる。過度に高温または長時間の保持を行うとオーステナイト粒が粗大化し、焼入れ後の複相組織も粗大化するので特性低下を招く要因となる。ここで均熱0minとは、材料の板厚中心部の温度が所定温度に到達した後、直ちに冷却することをいう。次いで溶体化処理温度からMs点より低い温度Tqまで急冷することにより、焼入れ処理を行う。急冷の手法は水あるいはその他の冷媒中に鋼板を浸漬する方法や、通板中の鋼帯に水等の液状冷媒を吹き付ける方法が採用できる。冷却速度は従来一般的なマルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ処理と同程度とすればよい。
焼入れ後のオーステナイト相とマルテンサイト相の相比は、焼入れ終了温度Tqによって制御可能である。成分組成に応じて、所定の相比が得られるTqの条件を予備実験により求めておき、そのデータに基づいてTqを設定することにより精度よく相比を制御することができる。
〔炭素分配処理〕
焼入れ後の鋼板は、常温で保管したのち炭素分配処理に供しても構わないし、連続ラインにおいて上記複相化処理と炭素分配処理を連続的に実施しても構わない。ただし、複相化処理後には調質圧延などの加工工程を挿入することなく、そのまま炭素分配処理に供することが好ましい。
炭素分配処理は前述のように焼入れ後のマルテンサイト相中に過飽和に存在している炭素をオーステナイト相中に吐き出させるための加熱処理である。その加熱は「(3)式によるMs点+150℃」以上、Ac1点未満の温度域で行う。下限は「(3)式によるMs点+200℃」以上に管理してもよい。また上限は600℃以下、あるいは550℃以下に管理してもよい。炭素分配処理後の強度−延性バランスは、オーステナイト相とマルテンサイト相の相比、およびマルテンサイト相からオーステナイト相への炭素の拡散の程度によって変化する。一般的にはマルテンサイト相の体積率が大きいほど強度が高くなる。また、炭素の拡散が(ある程度までは)進行することにより伸びが増大する。本発明で対象とする化学組成の鋼の場合、オーステナイト相とマルテンサイト相の相比は前工程の複相化処理によって決定づけられ、炭素分配処理ではほとんど変化しない。したがって、炭素分配処理によってマルテンサイト相からオーステナイト相への炭素の拡散を適度に進行させると、主として伸びが増大することにより、上記(4)式で表される強度・延性バランス指標A値は向上する。
マルテンサイト相からオーステナイト相への炭素の拡散は、加熱温度が高いほど進行しやすい。また加熱温度が同じであれば、加熱時間が(ある程度までは)長いほど進行しやすい。ところが、加熱温度が過度に高い場合や、加熱時間が過度に長い場合には、逆に強度・延性バランス指標A値が低下してくることがわかった。その原因は現時点で必ずしも明確ではないが、一つには固溶炭素や固溶窒素が析出してくることが考えられる。オーステナイト相中における炭素、窒素の固溶量が減少するとオーステナイト安定度が低下してしまう。また、加熱温度が高い場合にはマルテンサイト相の分解(マルテンサイト相→フェライト相+炭化物)が進行しやすくなり、これによって強度が低下することも要因になると考えられる。
強度−延性バランスは、化学組成、オーステナイト相とマルテンサイト相の相比に応じて、炭素分配処理における加熱温度および加熱時間を適正化することにより制御できる。炭素の拡散は加熱温度に到達するまでの昇温過程においても生じうるので、使用する加熱炉における「材料温度−時間曲線」を考慮する必要もある。具体的には、化学組成、相比、板厚毎の材料温度−時間曲線に応じて、引張強さが1250N/mm2以上、かつ(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上となる適正な加熱条件(炉温、在炉時間)を予備実験において求めておき、そのデータに基づいて熱処理を施せばよい。種々検討の結果、炭素分配処理における加熱温度(材料の最高到達温度)は上述のように「(3)式によるMs点+150℃」以上、Ac1点未満の範囲とする。本発明対象鋼種においては、この加熱温度範囲内で適正条件を見出すことができる。
また、例えば「熱処理」第42巻第3号の163頁に説明されているLarson−MillerパラメータPLM(下記(5)式参照)を用いて加熱条件を管理しても構わない。この場合、PLMが15000以下となるように加熱条件を設定すると良好な結果が得られる。
LM=Tn(logtn+20)…(5)
ただし、
n=Tn-1+αΔT
n=10P+Δt
P={(Tn-1/Tn)・(logtn-1+20)−20}
1=Δt
である。ここで、Tn、Tn-1、ΔTの単位は絶対温度(K)、tn、tn-1、Δtの単位は時間(h)であり、αは温度Tn-1での昇温または降温速度(K/h)である。
加熱後、常温までの冷却速度については特にこだわる必要はないが、炭化物が析出するような極端に遅い冷却速度は避けるべきである。析出により固溶炭素が減少すると分配処理による残留オーステナイトの安定度向上効果が十分に得られなくなる場合がある。
表1に示す鋼を溶製し、そのスラブを抽出温度1200℃にて熱間圧延して板厚4.0mmの熱延鋼帯とし、600℃×12h、炉冷の熱延板焼鈍および酸洗を施し、冷間圧延して板厚2.0mmとし、600〜700℃×均熱1minの中間焼鈍および酸洗を施し、仕上げ冷間圧延を行って板厚1.0mmの冷延鋼板を得た。この冷延鋼板に対して、「1100℃×均熱1minの溶体化処理→約20℃に調整された水中へ浸漬して急冷する焼入れ処理」からなる複相化処理を施し、次いで「大気中400〜500℃×在炉3〜60minの加熱→常温まで炉外で放冷(空冷)」による炭素分配処理を施すことにより、供試材を得た。炭素分配処理の加熱条件は表2中に示してある。一部、炭素分配処理を省略した供試材(焼入れ材)も用意した。なお、上記炭素分配処理の加熱温度はAc1点未満である。
各供試材について、以下の調査を行った。
〔残留オーステナイト量〕
供試材から採取した試料について透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて組織観察を行うことにより残留オーステナイト量(体積%)を求めた。なお、いずれの供試材もマトリクスを構成するオーステナイト相以外の相はマルテンサイト相であった。
〔硬さ〕
JIS Z2240に従って荷重10kgで鋼板表面のビッカース硬さを測定した。
〔引張強さ、伸び〕
供試材から圧延方向を長手方向とするJIS13B号引張試験片を採取し、引張速度1mm/minにて破断するまで引張試験を行って、引張強さおよび破断伸びを求めた。また、この引張強さおよび伸びの値を上記(4)式に代入して強度・延性バランス指標A値を求めた。
上記供試材の他、市販のJIS規格ステンレス鋼板の中からSUS301H、SUS304H、SUS420J2焼戻し材を入手し、硬さ、引張強さ、伸びを測定した。
これらの結果を表2に示す。表2中には参考のため、炭素分配処理の加熱条件についての前述(5)式によるLarson−MillerパラメータPLMを併記した。
表2からわかるように、適正な条件で複相化処理および炭素分配処理を施した本発明例のものは、引張強さが1250N/mm2以上の高強度を有し、かつ上記(4)式の強度・延性バランス指標A値が17300以上という、優れた強度−延性バランスを呈するものである。特に、炭素分配処理の条件によって、引張強さが1250N/mm2以上の高強度を有しながら、(4)式のA値が23000以上、あるいは25000以上、あるいは30000以上という、非常に高いレベルの強度−延性バランスを実現することができる。
なお、本発明例の複相化処理後(焼入れ材)と炭素分配処理後のサンプルについて、それぞれX線回折によりオーステナイト相(面心立方格子)の格子定数を測定したところ、いずれも炭素分配処理によって格子定数が増大していることが確認された。例えば表2のNo.1のデータを例示すると、オーステナイト相の格子定数は、焼入れまま;a=0.35834nm、炭素分配処理後;a=0.35918nmであった。この格子定数の増大は、炭素分配処理によってオーステナイト結晶の侵入型位置に固溶する炭素量が増大したことに起因するものであると考えられる。なお、窒素についてもマルテンサイト相中からオーステナイト相中への拡散が生じると考えられ、上記の格子定数増大には窒素の拡散も一部寄与しているものと考えられる。
一方、比較例であるNo.1−1、5−1は炭素分配処理を省略したものであり、焼入れにより高い強度を有する反面、伸びが低く、強度−延性バランスに劣る。No.5−5は炭素分配処理の加熱が過剰な条件(PLM>15000)であったことにより伸びが低下し、強度−延性バランスに劣る。No.21−1、21−2はMs点が高すぎる鋼を使用したことにより、常温付近への焼入れではオーステナイト相を十分に残留させることができず、炭素分配処理の有無にかかわらず強度−延性バランスに劣る。No.22−1、22−2はMs点が低すぎる鋼を使用したことにより、常温付近までの急冷ではマルテンサイト変態が生じておらず、炭素分配処理の有無にかかわらず強度−延性バランスに劣る。SUS301H、SUS304Hは加工硬化型オーステナイト系ステンレス鋼の鋼板であり、高強度を維持しながら優れた強度−延性バランスを実現することは容易でないことがわかる。SUS420J2焼戻し材はマルテンサイト系ステンレス鋼の鋼板であり、強度レベルは高いが強度−延性バランスに劣る。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.20%以下、Si:1.0%以下、Mn:5.0%以下、Ni:6.0%以下、Cr:10.0〜18.0%、N:0.20%以下、Cu:0〜3.0%、Mo:0〜3.0%、B:0〜0.050%、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式で定義されるCr当量が10.0〜20.0、下記(2)式で定義されるNi当量が5.0〜15.0、下記(3)式で定まるMs点が0〜150℃である化学組成を有し、マトリクスが、オーステナイト相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト相である金属組織を有し、引張強さが1250N/mm2以上、かつ下記(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上であるオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板。
    Cr当量=Cr+Mo+1.5Si…(1)
    Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu…(2)
    Ms={3000(0.068−C−N)+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110(8.9−Ni−Cu)+75(14.6−Cr)−32}×5/9…(3)
    A値=引張強さ(N/mm2)×伸び(%)…(4)
    ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
  2. オーステナイト相中の炭素濃度が、全体の平均炭素濃度(鋼のC含有量)よりも高くなっている請求項1に記載の複相組織ステンレス鋼板。
  3. 前記強度・延性バランス指標A値が23000以上である請求項1または2に記載の複相組織ステンレス鋼板。
  4. 質量%で、C:0.20%以下、Si:1.0%以下、Mn:5.0%以下、Ni:6.0%以下、Cr:10.0〜18.0%、N:0.20%以下、Cu:0〜3.0%、Mo:0〜3.0%、B:0〜0.050%、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式で定義されるCr当量が10.0〜20.0、下記(2)式で定義されるNi当量が5.0〜15.0、下記(3)式で定まるMs点が0〜150℃である化学組成の鋼板を、オーステナイト単相温度域に加熱してオーステナイト単相組織とした後、前記Ms点より低い温度まで急冷することにより、マトリクスが、オーステナイト相:10〜70体積%、残部:マルテンサイト相である焼入れ材を得る工程(複相化処理工程)、
    前記焼入れ材を「(3)式によるMs点+150℃」以上、Ac1点未満の温度範囲に加熱してマルテンサイト相中に固溶しているCの一部をオーステナイト相に排出させることにより、下記(4)式に示す強度・延性バランス指標A値が17300以上である特性を付与する工程(炭素分配処理工程)、
    を有するオーステナイト+マルテンサイト複相組織ステンレス鋼板の製造方法。
    Cr当量=Cr+Mo+1.5Si…(1)
    Ni当量=Ni+30(C+N)+0.5Mn+0.3Cu…(2)
    Ms={3000(0.068−C−N)+50(0.47−Si)+60(1.33−Mn)+110(8.9−Ni−Cu)+75(14.6−Cr)−32}×5/9…(3)
    A値=引張強さ(N/mm2)×伸び(%)…(4)
    ここで、(1)〜(3)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
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