JP5846445B2 - 冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
適正な降伏強度と、所定の全伸びを確保するには、適度な降伏強度の向上を可能にするベイナイトを主体とし、延性を向上させるフェライトを含む組織とする必要がある。
(1)質量%で、C:0.09%以上0.16%以下、Si:0.05%以上0.60%以下、Mn:1.95%以上3.00%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.02%以上0.45%以下、Ti:0.01%以上0.2%以下、N:0.01%以下を含有するとともに下記式(1)を満たし、さらにCr:0.02%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上2.0%以下およびB:0.0003%以上0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成と、面積%で、下部ベイナイト:60%以上、フェライト:6%以上40%以下、残留オーステナイト:3%以下であるとともに、前記下部ベイナイトおよびフェライトの平均粒径が5μm以下、前記下部ベイナイトおよびフェライトの粒径の最大値が9μm以下である鋼組織とを有し、鋼板表面から5μm深さまでの表層部における平均Mn濃度であるMnsur(単位:質量%)が下記式(2)および(3)を満足し、引張強度が980MPa以上、降伏強度が690MPa以上850MPa以下、全伸びが12%以上、曲げ性が下記式(4)を満足する機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板:
0.15≦[Si]+[Al]≦0.64 (1)
Mnsur≦2.60 (2)
Mnsur/[Mn]≦0.90 (3)
R/t≦1.0 (4)
ここで、[M]は元素Mの含有量(単位:質量%)であり、Mnsurは上記の通りであり、Rは曲げ角度を90°としたVブロック法による曲げ試験において割れの発生しない最小の内側半径(単位:mm)、tは板厚(単位:mm)である。
(A)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を1180℃以上1280℃以下の温度域に2時間以上5時間以下保持した後に粗熱間圧延を施して厚さ36mm以上の粗バーとなし、前記粗バーを1100℃以上として脱スケール処理を施し、さらに、860℃以上950℃以下の温度域で圧延を完了する仕上熱間圧延を施し、次いで、420℃以上570℃以下の温度域で巻き取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷延鋼板とする酸洗・冷間圧延工程;および
(D)前記酸洗・冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1.0℃/秒以上の平均加熱速度でAc3点以上880℃以下の温度域まで加熱して前記温度域に10秒間以上200秒間以下保持し、次いで、1℃/秒以上15℃/秒以下の平均冷却速度で600℃以上740℃以下の温度域まで冷却し、さらに、20℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で330℃以上500℃以下の温度域まで冷却して前記温度域に20秒間以上500秒以下保持する熱処理を施す焼鈍工程:
0.15≦[Si]+[Al]≦0.64 (1)
Mn sur ≦2.60 (2)
Mn sur /[Mn]≦0.90 (3)
R/t≦1.0 (4)
ここで、[M]は元素Mの含有量(単位:質量%)であり、Mn sur は上記の通りであり、Rは曲げ角度を90°としたVブロック法による曲げ試験において割れの発生しない最小の内側半径(単位:mm)、tは板厚(単位:mm)である。
(C:0.09%以上0.16%以下)
Cは、フェライト変態を抑制してベイナイト変態を促進する作用を有し、後述する鋼組織を得るのに寄与する元素である。また、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。C含有量が0.09%未満では、所定の特性を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.09%以上とする。一方、C含有量が0.16%超では、抵抗溶接のナゲット部の硬度上昇により溶接部強度の低下が著しくなる。したがって、C含有量は0.16%以下とする。好ましくは0.15%以下である。
Siは、強度向上に寄与する元素であるとともに、フェライト生成を促進する作用を有し、後述する鋼組織を得るのに寄与する元素である。Si含有量が0.05%未満では、980MPa以上の引張強度を安定して確保することが困難となるだけでなく、フェライト生成量が不足する場合がある。したがって、Si含有量は0.05%以上とする。好ましくは0.2%以上である。一方、Si含有量が0.60%超では、フェライト面積率が過大となり、所望の降伏強度が得られない場合がある。したがって、Si含有量は0.60%以下とする。
Mnは、フェライト変態を抑制することにより、ベイナイト変態を促進する作用を有し、後述する鋼組織を得るのに寄与する元素である。Mn含有量が1.95%未満では、所定の特性を確保することが困難となる。したがって、Mn含有量は1.95%以上とする。一方、Mn含有量が3.00%超では、抵抗溶接のナゲット部の硬度上昇により溶接部強度の低下が著しくなる。したがって、Mn含有量は3.00%以下とする。
Pは、不純物として含有される元素であり、抵抗溶接のナゲット内で偏析を生じてナゲット部の靭性を低下させる作用を有する。P含有量が0.02%超では、抵抗溶接のナゲット部の靭性低下が著しくなる。したがって、P含有量は0.02%以下とする。
Sは、不純物として含有される元素であり、抵抗溶接のナゲット部の靭性を低下させる作用を有する。また、鋼中にMnSを形成して鋼板の加工性を低下させる。S含有量が0.01%超では、抵抗溶接のナゲット部の靭性低下が著しくなったり、鋼板の加工性低下が著しくなったりする。したがって、S含有量は0.01%以下とする。
Alは、鋼の精錬過程において鋼を脱酸して鋼材を健全化する作用を有する元素である。また、Siと同様、フェライト変態を促進する元素である。Al含有量が0.02%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Al含有量は0.02%以上とする。Al含有量が0.45%超では、酸化物系介在物増加に起因する表面性状の劣化や加工性の劣化が顕著となる。したがって、Al含有量は0.45%以下とする。好ましくは0.40%以下である。本発明における鋼中のAl含有量は、酸可溶性Al(sol.Al)のことである。
Tiは鋼中に微細な析出物を形成して鋼板の結晶粒を微細化することにより、鋼板の加工性を高める作用を有する。Ti含有量が0.01%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Ti含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.02%以上である。一方、Ti含有量が0.20%超では、上記作用による効果が飽和して、コスト的に不利となる。したがって、Ti含有量は0.2%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
Nは、不純物として含有される元素であり、鋼中に粗大な窒化物を形成して鋼板の加工性を低下させる作用を有する。N含有量が0.01超では、鋼板の加工性低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。
これらの元素は、鋼板の焼入れ性を高め、フェライト変態を抑制することにより、ベイナイト変態を促進する作用を有し、後述する鋼組織を得るのに寄与する元素である。Cr含有量が0.02%未満、Mo含有量が0.01%未満、かつ、B含有量が0.0003%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Cr:0.02%以上、Mo:0.01%以下およびB:0.0003%以上からなる群から選択される1種または2種以上を含有させる。Crを含有させる場合には、Cr含有量を0.1%以上とすることが好ましく、Moを含有させる場合には、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましく、Bを含有させる場合には、B含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。しかし、Cr含有量が1.0%超では、化成処理性の劣化が著しくなる。したがって、Cr含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.9%以下である。また、Mo含有量を2.0%超としたり、B含有量を0.01%超としたりしても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらに製造コストの上昇を招く。したがって、Mo含有量は2.0%以下、B含有量は0.01%以下とする。Mo含有量は1.6%以下、B含有量は0.008%以下とすることが好ましい。
上述のとおり、SiおよびAlはフェライト生成を促進する元素であり、フェライト面積率を高めて全伸びを高める作用を有する。SiおよびAlの合計含有量である[Si]+[Al]の値が0.15%未満では、所定のフェライト面積率を確保して、優れた全伸びを確保することが困難である。したがって、SiおよびAlの合計含有量は0.15%以上とする。好ましくは0.30%以上である。一方、[Si]+[Al]の値が0.64%超では、フェライト面積率が過剰となり、目的とする降伏強度を確保することが困難となる場合がある。したがって、SiおよびAlの合計含有量は0.64%以下とする。
これらの元素は、任意元素であり、鋼板の焼入れ性を高めることにより、鋼板の強度を高める作用を有する。したがって、980MPa以上の引張強度を確保することを容易にするために、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、Cu含有量を1.0%超としたり、Ni含有量を1.0%超としたりしても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらに製造コストの上昇を招く。したがって、Cu含有量は1.0%以下、Ni含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.8%以下、Ni含有量は0.8%以下とすることがさらに好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Cuについては0.05%以上、Niについては0.05%以上の量で含有させることが好ましい。
これらの元素は、任意元素であり、Tiと同様に鋼中に微細な析出物を形成して鋼板の結晶粒を微細化することにより、鋼板の加工性を高める作用を有する。したがって、より良好な加工性を確保するために、これらの元素の1種または2種含有させてもよい。しかし、Nb含有量を0.10%超としたり、V含有量を0.10%超としたりしても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコストの上昇を招く。したがって、Nb含有量は0.10%以下、V含有量は0.10%以下とする。Nb含有量は0.05%以下、V含有量は0.08%以下とすることが好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Nbについては0.02%以上、Vについては0.02%以上の量で含有させることが好ましい。
これらの元素は、任意元素であり、硫化物、酸化物等の介在物を球状化して介在物による成形性の劣化を無害化することができる元素である。また、TiNなどの窒化物の生成核となる酸化物になるため、TiNを微細分散化でき、成形性の劣化に関して無害化することができる。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、REM含有量を0.10%超としたり、Mg含有量を0.01%超としたり、Ca含有量を0.01%超したりとしても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらに製造コストの上昇を招く。したがって、REM含有量は0.10%以下、Mg含有量は0.01%以下、Ca含有量は0.01%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、REMについては0.0001%以上、Mgについては0.0001%以上、Caについては0.0001%以上の量で含有させることが好ましい。
Biは、凝固の接種核となり、凝固時のデンドライトアーム間隔を小さくし、凝固組織を細かくする作用がある。その結果、MnやSi等の偏析し易い元素の偏析を抑制し、鋼板の局所的な強度差を改善し、曲げ加工性を向上させる作用を有する。したがって、Biを含有させてもよい。しかし、Biは鋼中に酸化物を形成するため、Bi含有量が0.05%超では、鋼中の酸化物が多くなり、当該酸化物が割れの起点となり、曲げ加工性を劣化させる。したがって、Bi含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
本発明において、鋼組織とは、鋼中の平均的な鋼組織を示す鋼板表面から板厚の1/4の位置における鋼組織を意味する。
降伏強度を適正な範囲とするために、ベイナイト面積率を60%以上、フェライト面積率を6%以上40%以下とする。ここで、フェライト面積率を6%以上とすることは、優れた全伸びを確保するためにも重要である。
ベイナイトおよびフェライトの粒径は、曲げ性を確保するために非常に重要である。
ベイナイトおよびフェライトの粒径を小さくすることにより、曲げ加工時の歪が分散され、優れた曲げ性を得ることができる。したがって、ベイナイトおよびフェライトの平均粒径を5μm以下とし、さらに、ベイナイトおよびフェライトの粒径の最大値を9μm以下とする。
(Mnsur≦2.60、かつMnsur/[Mn]≦0.90)
鋼板表層部のMn濃度が高いと、スラブ製造時のMn偏析に起因して、曲げ成形時に応力集中が生じやすくなり、割れが発生しやすい。鋼板表面から5μm深さまでの表層部における平均Mn濃度であるMnsur(単位:質量%)が2.60%超では、後述する製造方法により鋼板表層部のMn濃度の低減を図ることで、Mnsurが下記式(3)を満足しても、鋼板表層部のMn偏析に起因する曲げ性の低下を抑制することが困難となり、優れた曲げ性を確保することが困難である。したがって、Mnsurは下記式(2)を満足するものとする。
Mnsur/[Mn]≦0.90 (3)
ここで、[Mn]は鋼中のMn含有量(単位:質量%)、Mnsurは、上記の通り、鋼板表面から5μm深さ位置までの表層部における平均Mn濃度(質量%)である。
(引張強度:980MPa以上)
引張強度が980MPa未満の冷延鋼板については、本発明が目的とする降伏強度を適正範囲とした際の成形性低下という課題が生じることは少ない。したがって、本発明の対象を明確にするため、引張強度を980MPa以上とする。
降伏強度が690MPa未満では、特にシートレール用途においては部品の剛性が不足し、衝突時の安全性を確保できない。したがって、降伏強度は690MPa以上とする。一方、降伏強度が850MPa超では、スプリングバック量が大きくなり、部品の寸法精度が確保できない。したがって、降伏強度は850MPa以下とする。
全伸びが12%未満では、伸びフランジ成形時や絞り成形時に、割れが発生する可能性がある。したがって、全伸びは12%以上とする。
R/t>1.0では、厳しい曲げ成形を施した際に割れが発生する場合がある。したがって、下記式(4)を満足する曲げ性を有するものとする。好ましくは下記式(4−1)を満足する曲げ性を有することである。
R/t≦0.5 (4−1)
ここで、Rは曲げ角度を90°としたVブロック法による曲げ試験において割れの発生しない最小の内側半径、tは板厚であり、単位はいずれもmmである。また、前述した通り、「割れ」とは、前記曲げ試験における曲げ成形後に、曲げ部の表面に深さ10μm以上、幅15μm以上の亀裂が発生している状態をいう。
本発明に係る冷延鋼板は、鋼板の表面に耐食性の向上等を目的としてめっき層を備えさせた表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっきとしては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
本発明に係る冷延鋼板は、上記化学組成、鋼組織、鋼板表層部の元素濃度および機械特性を満足するものであればよく、その製造方法は特に限定する必要はないが、以下に説明する方法により製造することが好適である。
鋳造工程においては、鋳造過程で生じる表層部のMn偏析を抑制するように、上記化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する。
上記温度域での平均冷却速度が10℃/秒未満では、凝固が遅すぎるため、スラブデンドライト樹間が広がり、最終製品において圧延方向に展伸したMnの幅方向偏析が大きくなり、曲げ加工性を劣化させる。したがって、上記平均冷却速度を10℃/秒以上とする。好ましくは15℃/秒以上である。上記の平均冷却速度は、例えば、鋳込み直後において、水冷に用いる冷却水量を増大させるなどの手段により達成できる。
熱間圧延工程においては、表層部のMn濃度の低下を図るとともに、最終製品において目的とする鋼組織を得るため、鋳造工程により得られた鋳片を1180℃以上1280℃以下の温度域に2時間以上5時間以下保持した後に粗熱間圧延を施して厚さ36mm以上の粗バーとなし、前記粗バーを1100℃以上として脱スケール処理を施し、さらに、860℃以上950℃以下の温度域で圧延を完了する仕上熱間圧延を施し、次いで、420℃以上570℃以下の温度域で巻き取って熱延鋼板とする。
粗熱間圧延に供する鋳片は、表層部のMnを酸化スケール中に濃化させ、このスケールを後工程の脱スケール工程で除去することにより表層部のMn濃度の低下を図るためと、Mnを十分に拡散させることにより表層部のMn偏析を緩和するため、1180℃以上の温度域に2時間以上保持する。一方、スケールの過生成による歩留り低下を回避し、加熱コストの低減を図るため、温度域の上限は1280℃、保持時間の上限は5時間とする。
上記のように温度保持した鋳片に粗熱間圧延を施して、厚さ36mm以上の粗バーにした後、得られた粗バーは、その表面に形成された酸化スケールを除去するため、1100℃以上として脱スケール処理を施す。この脱スケール処理は、典型的には高圧水噴射により行われる。
脱スケール処理された粗バーに仕上熱間圧延を施して、所定の厚みの熱延鋼板を得る。仕上熱間圧延の完了温度は、熱間圧延中のフェライト変態に起因するハンチングを抑制するとともに、冷間圧延および焼鈍後の鋼板について良好な加工性を確保するため、860℃以上とする。また、過剰な粒成長を抑制して、冷間圧延および焼鈍後の鋼板について目的とする機械特性を得るために、950℃以下とする。
仕上熱間圧延完了から巻取までの条件は特に規定しないが、仕上熱間圧延完了後10秒以内に熱延鋼板の表面温度が600℃以下となるように冷却すれば、熱延鋼板の組織中にフェライトやパーライトが生成されるのが抑制されて、鋼組織の均一化・微細化が一層図られ、最終製品において好適な鋼組織を得ることが容易になるので好ましい。このような冷却は、仕上熱間圧延完了後10秒以内の冷却水量を増加させることにより達成できる。
巻取温度は、熱延鋼板の組織を均一・微細化し、その後の焼鈍において組織を制御し、目的とする組織を得るうえで非常に重要である。巻取温度が570℃超では、熱延鋼板の組織中にフェライト、パーライトが生成し、組織の均一化・微細化が困難となる。また、鋼板表層部の全体的な酸化や粒界酸化の進行が著しくなり、酸洗および冷間圧延後において、鋼板表面に微細クラックが生成し、曲げ性が低下する場合がある。したがって、巻取温度は570℃以下とする。好ましくは520℃以下である。一方、巻取温度が420℃未満では、熱延鋼板中にマルテンサイトが生成してしまい、冷間圧延における鋼板の平坦くずれや破断を生じやすくなる。また、焼鈍後の組織の微細化・均一化が困難となる。したがって、巻取温度は420℃以上とする。好ましくは440℃以上である。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷延鋼板とする。酸洗および冷間圧延は常法に従って実施すればよい。冷間圧延の条件は特に規定する必要はないが、加工性を具備させるために適正な集合組織を得るとの観点からは圧下率を20%以上とすることが好ましい。圧下率はより好ましくは30%以上である。圧下率の上限は特に特定されないが、通常は90%以下である。
上記酸洗・冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1.0℃/秒以上の平均加熱速度でAc3点以上880℃以下の温度域まで加熱して前記温度域に10秒間以上200秒間以下保持し、次いで、1℃/秒以上15℃/秒以下の平均冷却速度で600℃以上740℃以下の温度域まで冷却し、さらに、20℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で330℃以上500℃以下の温度域まで冷却して前記温度域に20秒間以上500秒以下保持する熱処理を施す。この熱処理は焼鈍を目的とし、一般には連続焼鈍設備において実施される。
上述したように、本発明に係る冷延鋼板はその表面にめっき層を形成して表面処理鋼板としてもよい。その場合には、上記方法で製造された冷延鋼板に常法に従ってめっきを施す。めっき種は特に制限されないが、耐食性に優れた亜鉛系めっき(亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっき)とするのが一般的である。めっき手法も特に制限されないが、一般的には溶融めっきまたは電気めっきである。めっきが溶融めっきである場合には、前記焼鈍工程に続けて溶融めっきを実施することができる。
熱間圧延工程における粗バー加熱温度は、脱スケールのための加熱温度であり、この加熱後に常法に従って高圧水ジェットにより脱スケール処理してから、仕上圧延を実施した。仕上圧延完了後の冷却は水冷により実施した。
各冷延鋼板から、圧延方向に直角な方向を長手方向とするJIS5号引張試験片を採取し、引張特性(降伏強度YP、引張強度TS、全伸びEl)を調査した。
鋼板の組織は、板幅方向の1/4位置の鋼板表面から板厚1/4の位置において、圧延に平行および垂直な方向の断面を、SEMを用いて2000倍で50視野観察し、画像解析により各相および組織の面積分率およびフェライトおよびベイナイトの粒径を測定した。粒径の測定は、JISG0552の交差線分法に準拠して実施し、平均値および最大値で表した。
各冷延鋼板から圧延方向に直角方向を長手方向とするJIS1号曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠したVブロック法により、曲げ性を調査した。割れの判定は、光学顕微鏡およびSEMを用いて曲げ部表面、断面を調査し、上述の基準で実施した。
GDSを用いて、鋼板表面から表層5μm深さまでのMn濃度を測定し(n=10)、平均値を算出した。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.09%以上0.16%以下、Si:0.05%以上0.60%以下、Mn:1.95%以上3.00%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.02%以上0.45%以下、Ti:0.01%以上0.2%以下、N:0.01%以下を含有するとともに下記式(1)を満たし、さらにCr:0.02%以上1.0%以下、Mo:0.01%以上2.0%以下およびB:0.0003%以上0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成と、
面積%で、下部ベイナイト:60%以上、フェライト:6%以上40%以下、残留オーステナイト:3%以下であるとともに、前記下部ベイナイトおよびフェライトの平均粒径が5μm以下、前記下部ベイナイトおよびフェライトの粒径の最大値が9μm以下である鋼組織とを有し、
鋼板表面から5μm深さまでの表層部における平均Mn濃度であるMnsur(単位:質量%)が下記式(2)および(3)を満足し、
引張強度が980MPa以上、降伏強度が690MPa以上850MPa以下、全伸びが12%以上、曲げ性が下記式(4)を満足する機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板。
0.15≦[Si]+[Al]≦0.64 (1)
Mnsur≦2.60 (2)
Mnsur/[Mn]≦0.90 (3)
R/t≦1.0 (4)
ここで、[M]は元素Mの含有量(単位:質量%)であり、Mnsurは上記の通りであり、Rは曲げ角度を90°としたVブロック法による曲げ試験において割れの発生しない最小の内側半径(単位:mm)、tは板厚(単位:mm)である。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:1.0%以下およびNi:1.0%以下からなる群から選択された1種または2種を含有する請求項1に記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.10%以下およびV:0.10%以下からなる群から選択された1種または2種を含有する請求項1または請求項2に記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.10%以下、Mg:0.01%以下およびCa:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.05%以下を含有する請求項1から請求項4までのいずれかに記載の冷延鋼板。
- 下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする、面積%で、下部ベイナイト:60%以上、フェライト:6%以上40%以下、残留オーステナイト:3%以下であるとともに、前記下部ベイナイトおよびフェライトの平均粒径が5μm以下、前記下部ベイナイトおよびフェライトの粒径の最大値が9μm以下である鋼組織とを有し、鋼板表面から5μm深さまでの表層部における平均Mn濃度であるMn sur (単位:質量%)が下記式(2)および(3)を満足し、引張強度が980MPa以上、降伏強度が690MPa以上850MPa以下、全伸びが12%以上、曲げ性が下記式(4)を満足する機械特性を有する冷延鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項5までのいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を1180℃以上1280℃以下の温度域に2時間以上5時間以下保持した後に粗熱間圧延を施して厚さ36mm以上の粗バーとなし、前記粗バーを1100℃以上として脱スケール処理を施し、さらに、860℃以上950℃以下の温度域で圧延を完了する仕上熱間圧延を施し、次いで、420℃以上570℃以下の温度域で巻き取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷延鋼板とする酸洗・冷間圧延工程;および
(D)前記酸洗・冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1.0℃/秒以上の平均加熱速度でAc3点以上880℃以下の温度域まで加熱して前記温度域に10秒間以上200秒間以下保持し、次いで、1℃/秒以上15℃/秒以下の平均冷却速度で600℃以上740℃以下の温度域まで冷却し、さらに、20℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で330℃以上500℃以下の温度域まで冷却して前記温度域に20秒間以上500秒以下保持する熱処理を施す焼鈍工程。
0.15≦[Si]+[Al]≦0.64 (1)
Mn sur ≦2.60 (2)
Mn sur /[Mn]≦0.90 (3)
R/t≦1.0 (4)
ここで、[M]は元素Mの含有量(単位:質量%)であり、Mn sur は上記の通りであり、Rは曲げ角度を90°としたVブロック法による曲げ試験において割れの発生しない最小の内側半径(単位:mm)、tは板厚(単位:mm)である。 - 前記焼鈍工程(D)の後にめっき工程を有する請求項6に記載の冷延鋼板の製造方法。
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