JP5446980B2 - マルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法及びマルテンサイト系高Cr電縫溶接鋼管の製造方法 - Google Patents
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更に、電縫溶接鋼管では、熱延鋼板に含有されていた水素が溶接部に残存したり、電縫溶接時に、溶接雰囲気に存在する水素ガスや水蒸気が分解して生成した水素が、溶接部に侵入して、一定濃度の水素が溶接部に存在する。また、電縫溶接では鋼管長手方向に加熱部分が線状であり、残りの大部分は加熱されないので、溶接部が冷却された際に高い引張応力が発生する。
低温割れの発生を防止するためには、1)鋼中水素を低減すること、2)鋼材の水素脆化割れ感受性を低減すること、3)溶接部に生じる引張応力を低減すること、などが有効である。
この方法では、溶接部が焼き戻されて、溶接部の硬さが低下し、水素濃度が減少するため、水素脆化割れ感受性が低下し、また、溶接部の残留応力も緩和される。しかし、この方法でも低温割れは完全には防止できず、5%以下の低温割れが発生する場合があった。
C:0.1〜0.5%、
Cr:7〜18%
を含有し、
Si:0.5%以下、
Mn:2%以下、
P:0.03%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.1%以下
に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板をロール成形し、電縫溶接した後、100℃以下に冷却された電縫鋼管の溶接部を、溶接線から円周方向の加熱幅を、肉厚の2倍に相当する長さ以上として、冷却後直ちに600℃以上、700℃未満に再加熱することを特徴とするマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。
Ni:4%以下、
Cu:4%以下、
Mo:2%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。
(3)前記鋼板が、上記(1)または(2)に記載の成分組成に加え、さらに、質量%で、
V:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
Nb:0.2%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。
(4)前記鋼板が、上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の成分組成に加え、さらに、質量%で、
Ca:0.01%以下
を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。
Ips=Ni+0.3Cu+40C+34N−1.1Cr−1.8Mo・・・(式1)
(6)上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の溶接部の熱処理方法を実施した後、鋼管全体に焼き入れ、焼き戻し処理を施すことを特徴とするマルテンサイト系高Cr電縫溶接鋼管の製造方法。
その結果、焼入れ性が高いマルテンサイト系高Cr鋼の溶接部にはマルテンサイトが生成し、水素脆化割れ感受性が高くなり、低温割れが発生し易くなる。特に、マルテンサイト変態の終了温度であるMf点が100℃以上である場合は、溶接部の金属組織は完全にマルテンサイトになり、低温割れが発生し易くなる。
溶接部の残留応力が引張応力であると低温割れの原因になるため、電縫溶接後の溶接部熱処理は700℃未満で行うことが必要である。
一方、溶接部を再加熱する温度が低いと、溶接部の硬さの低下が不十分になり、水素脆化割れ感受性を低下させることができない。
更に、本発明者らは、種々のマルテンサイト系高Cr電縫溶接鋼管の溶接部を種々の温度で再加熱し、低温割れの発生を確認した。その結果、軟化と残留応力の効果により、最も低温割れが発生しにくくなる温度域は、600℃以上、700℃未満であることを確認した。また、再加熱によって発生する残留応力は、溶接部の加熱幅により変化し、低温割れの発生に影響を与えることがわかった。検討の結果、肉厚の2倍以上の幅で溶接部を再加熱すると残留応力が低減し、低温割れの発生が著しく抑制されることがわかった。
まず、マルテンサイト系高Cr電縫溶接鋼管の素材である鋼板の成分組成について説明する。なお、成分組成の「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、金属組織をマルテンサイトとし、強度を高めるために必要な元素であり、下限を0.1%とする。一方、C量が0.5%を超えると、強度が高くなり、炭化物の生成によって延性や靭性を損なうため、上限を0.5%以下とする。
Mnは、脱酸元素であり、また、オーステナイト生成元素であることから、金属組織をマルテンサイトにするために、C量に応じて、添加しても良い。しかし、2%を超えて含有させても効果が飽和するので、上限を2%以下とする。
Sは、不純物であり、含有量が0.05%を超えると、硫化物が増加して、熱間加工性、延性や靭性を損なうため、上限を0.05%以下に制限する。
Nは、オーステナイトに固溶し、強度に寄与する元素であるが、0.1%を超えて含有させると、窒化物を生成して、延性や靭性を損なうため、上限を0.1%以下とする。
Niは、耐食性の向上に有効な元素であり、靭性の向上にも寄与する。Niは高価な元素であるため、上限を4%以下とすることが好ましい。
Cuは、耐食性の向上に有効な元素であり、析出物を生じて強度の向上にも寄与する。Cuを4%超添加すると、強度が上昇し、靭性が低下することがあるため、上限を4%以下とすることが好ましい。
V、Ti、Nbは、炭窒化物を生じて強度の向上に寄与する元素であるが、過剰に添加すると靭性を損なうことがある。したがって、Vは0.1%以下、Tiは0.1%以下、Nbは0.2%以下を上限として添加することが好ましい。
Caは、硫化物を生成し、熱間加工性を向上させる元素であるが、過剰に添加すると介在物を生じて延性や靭性を損なうことがある。したがって、Ca量の上限は0.01%以下とすることが好ましい。
Ipsは、焼入れのために鋼管全体を加熱した際の、金属組織のオーステナイト変態の指標である。下記(式1)の右辺では、オーステナイトを安定化する元素であるNi、Cu、C、Nの係数が正、フェライトを安定化する元素であるCr、Moの係数が負であり、Ipsの数値が大きいほど、オーステナイトが安定になることを意味する。
Ips=Ni+0.3Cu+40C+34N−1.1Cr−1.8Mo・・・(式1)
得られた鋼板を管状にロール成形し、シーム部を電縫溶接する。電縫溶接後、溶接部は冷却され、超音波探傷などの検査を行い、溶接部熱処理を施す。
しかし、本発明においては、電縫溶接と、超音波探傷及び溶接部の熱処理とは、同一の製造ライン上で行われるため、溶接部の熱処理は、超音波探傷での冷却に引き続いて連続して直ちに行われる。したがって、超音波探傷において100℃以下に冷却された後、溶接部の熱処理が施されるまでの時間が10分を超えることはなく、この間に低温割れが発生することはない。
溶接部の再加熱温度は、600℃以上、700℃未満とする。溶接部の再加熱温度が600℃以上であると溶接衝合部近傍が十分に軟化し、低温割れの発生を抑制することができる。また、溶接部の再加熱温度を700℃未満にすると、溶接部に発生する引張の残留応力が小さくなり、低温割れの発生を抑制することができる。
溶接部の再加熱方法は、特に規定せず、高周波誘導加熱、通電加熱、レーザー等の熱源を利用した加熱などを用いることができる。なお、電縫鋼管を製造する際のラインスピードは、数10m/分以上であるため、このような造管速度に追従し、かつ電縫溶接部のような狭い幅を加熱するためには、誘導加熱が好適である。誘導加熱では、加熱装置の配置によって、溶接部熱処理に再加熱される部位の幅を制御することができる。
焼入れ後のマルテンサイトままでは強度が高すぎ、靭性も低いので、Ac1点以下の温度で焼き戻しを行う。
なお、Ac1点、Ac3点はMf点と同様、小試験片を加熱、冷却して得られた膨張曲線から測定することができる。
電縫溶接後、得られた電縫鋼管を冷却して溶接部に水を散布して超音波探傷を行い、そのまま、製造ラインに設置された誘導加熱装置を用いて、表2に示す条件で加熱し、自然放冷した。なお、電縫溶接直後の超音波探傷では、全ての鋼管に割れ等の欠陥が発生していないことが確認された。
表2に示すように、加熱条件が本発明の範囲では低温割れが発生していない。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.1〜0.5%、
Cr:7〜18%
を含有し、
Si:0.5%以下、
Mn:2%以下、
P:0.03%以下、
S:0.05%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.1%以下
に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板をロール成形し、電縫溶接した後、100℃以下に冷却された電縫鋼管の溶接部を、溶接線から円周方向の加熱幅を、肉厚の2倍に相当する長さ以上として、冷却後直ちに600℃以上、700℃未満に再加熱することを特徴とするマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。 - 前記鋼板が、請求項1に記載の成分組成に加え、さらに、質量%で、
Ni:4%以下、
Cu:4%以下、
Mo:2%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。 - 前記鋼板が、請求項1または2に記載の成分組成に加え、さらに、質量%で、
V:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
Nb:0.2%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。 - 前記鋼板が、請求項1〜3の何れか1項に記載の成分組成に加え、さらに、質量%で、
Ca:0.01%以下
を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。 - 前記鋼板のC、N、Ni、Cu、Cr、Moの含有量[質量%]から下記(式1)によって求められるIpsが−11以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のマルテンサイト系高Cr電縫鋼管溶接部の熱処理方法。
Ips=Ni+0.3Cu+40C+34N−1.1Cr−1.8Mo・・・(式1) - 請求項1〜5の何れか1項に記載の溶接部の熱処理方法を実施した後、鋼管全体に焼き入れ、焼き戻し処理を施すことを特徴とするマルテンサイト系高Cr電縫溶接鋼管の製造方法。
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