本発明は、(1)交換性イオンを有する層状無機化合物が水に分散されてなる水分散体をイオン交換樹脂又は半透膜で処理することによって該水分散体中の層間イオン及び余剰イオンのうち余剰イオンを減少させる余剰イオン減少工程、及び(2)該余剰イオン減少工程の後の水分散体中の水を有機溶媒に置換することによって、交換性イオンを有する層状無機化合物が有機溶媒に分散されてなる有機溶媒分散体を形成する分散媒置換工程、を含む、交換性イオンを有する層状無機化合物の有機溶媒分散体の製造方法を提供する。ここで、該余剰イオンは、該水分散体中に存在するイオンのうち、層状無機化合物の層間イオンを除いたイオンであり、水分散体中に存在するイオンは、層間イオンと余剰イオンとから構成される。上記製造方法により得られる、交換性イオンを有する層状無機化合物の有機溶媒分散体においては、層状無機化合物が良好に分散しているとともに、該有機溶媒分散体と疎水性の樹脂等とを組み合せた場合に該樹脂と層状無機化合物とを均一に混合できる。これにより、該有機溶媒分散体を用いて、層状無機化合物を含む材料を形成した場合、該材料は、優れた透明性、寸法安定性、耐熱性、及びガスバリア性を有することができる。
本発明の特定の態様に係る製造方法は、(1)交換性イオンを有する層状無機化合物が水を主とする分散媒に分散している分散体において、交換性イオンの陰イオン種を水酸化物イオンに、かつ交換性イオンの陽イオン種を水素イオン及び/若しくはアンモニウムイオンにそれぞれ交換して脱塩すること、又は半透膜を介して分散体を脱塩すること、(2)上記脱塩後の分散体中の分散媒を、有機溶媒を主とするものに置換すること、そして(3)上記置換後の分散体より分散媒を除去すること、を含む。
[交換性イオンを有する層状無機化合物]
本発明において、交換性イオンを有する層状無機化合物(以下、単に層状無機化合物ともいう)の有機溶媒分散体、及び該層状無機化合物と樹脂との有機溶媒混合分散体を得るために用いる層状無機化合物について説明する。本発明において使用する層状無機化合物は層間イオンを有しうるものであれば特に限定されるものではなく、粘土鉱物、層状ポリケイ酸、層状ケイ酸塩、層状複水酸化物、層状リン酸塩、並びにチタン・ニオブ酸塩、六ニオブ酸塩及びモリブデン酸塩等の層状遷移金属酸素酸塩、並びに層状マンガン酸化物及び層状コバルト酸化物等を挙げることができる。層状無機化合物は、典型的には単層〜数十層まで分散媒中でへき開(剥離)できるものである。層状無機化合物として、へき開のしやすさの観点で特に好適なものは粘土鉱物である。
粘土鉱物としては、天然粘土でも合成粘土でもさしつかえなく、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト及びスチーブンサイトが、へき開のしやすさ及び合成のしやすさの観点から好ましく、また、ハイドロタルサイトも平均アスペクト比が大きなものが得やすく好適である。本発明で得られる有機溶媒混合分散体を用いて形成される材料に高い透明性、特に無着色という特徴を付与するためには合成粘土の利用が好ましく、合成サポナイト、合成ヘクトライト、合成スチーブンサイト、合成雲母、合成カリオナイト、合成ハイドロタルサイト等が好ましい。
ガスバリア性の観点からは平均アスペクト比が大きい層状無機化合物が好ましく、後述するナノシートの平均アスペクト比は、好ましくは40以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは500以上、最も好ましくは1000以上である。
上記のような大きい平均アスペクト比を有し、かつへき開しやすい層状無機化合物としては、具体的には、天然のモンモリロナイト(例えば、クニピア、クニミネ工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライト(例えば、NHTゾルB2若しくは分級NHT、トピー工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化雲母(例えば、NTS−5、トピー工業株式会社製)、高純度のタルクを珪フッ化ナトリウム又は珪フッ化リチウムとともに熱処理して変性させて得た膨潤性雲母(例えば、ME−100若しくはMEB−3、コープケミカル株式会社製)等を最も好適なものとして挙げることができる。
層状無機化合物のその他の例として、特開2007−308361号公報で開示されているような粘土粒子の水熱法による粒成長方法によって高アスペクト化した各種粘土、特開2009−107907号公報で開示されているようなモンモリロナイト類似構造を有する粘土、American Mineralogist,Vol90,931−944,2005に記載される尿素を用いて合成された高アスペクトのサポナイト等も挙げることができる。
ナノシートの平均アスペクト比が大きいほどガスバリア性を向上させることができるが、該平均アスペクト比が大きすぎるとへき開・分散性が低下しやすくなり、また増粘によって層状無機化合物の分散体の固形分濃度を上げることが困難になる傾向があるため、ナノシートの平均アスペクト比としては通常は30000以下が好ましく、10000以下がより好ましい。
なお、前述の層状無機化合物のなかでも、合成フッ素化雲母及び合成フッ素化ヘクトライトの少なくともいずれかを用いることは、ガスバリア性のみならず寸法安定性の点においても一般に好ましい結果を与えることが多いため本発明において好適である。
特に、層状無機化合物が、平均アスペクト比150以上を有し、且つ、合成フッ素化雲母及び合成フッ素化ヘクトライトの少なくともいずれかであることが好ましい。
なお、層状無機化合物(すなわちナノシート及び層間イオン)の組成に関しては、公知の文献に記載されている組成式で表されるが、それらは理想的な組成を示しているものであって、本発明で用いる各種の層状無機化合物の組成は、文献における組成式と厳密に一致している必要はない。また、層状無機化合物の原料としての粘土は不純物を含んでいてもよい。
本発明においては、水を典型とする分散媒に分散したコロイドの状態で少なくとも一部が液晶転移現象を発現して液晶相を形成することが可能な層状無機化合物を用いてもよい。このような層状無機化合物は後述の理由で高いアスペクト比を有すると考えられるため好ましい。ここでいう液晶相とは、層状無機化合物が分散液中で液晶転移することにより、層状無機化合物が分散した分散液中でのナノシートの向きが、ナノシートの面を一にしてある程度揃った集団の集まりとして挙動する相である。
層状無機化合物は、一般にナノシートの面内方向と厚み方向とで屈折率の異方性を有するため、ある程度ナノシートの面を一にして揃った集団の集まりにおいては複屈折性が発現する。このため、液晶相では偏光顕微鏡による観察において、偏光子と検光子とを用いたクロスニコル状態において、光の透過量が異なる種々の領域が観察される。また、鋭敏色板を入れることにより、液晶に特徴的な様々なテクスチャ及び干渉色が確認される。これに対して、ナノシートの向きが揃っておらず、各々のナノシートがばらばらの方向を向いて分散又は凝集して集まり存在している非液晶相では、前記の屈折率の異方性がキャンセルされて、全体としては屈折率も等方性を示す。従って、分散液が液晶相か非液晶相かの判断は、偏光顕微鏡による観察において、上記のような液晶に特有の状態が確認されるか否かで判断することができる。
上記のような液晶転移現象は、一般に平均アスペクト比の大きな層状無機化合物で起こりやすい。そのなかでも、合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母は、上記液晶転移現象が顕著であり本発明において好適である。
液晶相は、分散しているナノシートの向きが分散媒中である程度面を一にして揃った集団の集まりとして存在しているため非液晶相より密度が高い。また液晶相中に存在する層状無機化合物は、非液晶相中に存在する層状無機化合物よりも平均アスペクト比が大きい。これに対して、非液晶相は分散しているナノシートの向きが揃っておらず、各々のナノシートがばらばらの方向を向いていると考えられ、液晶相より密度が低く、かつ非液晶相中に存在する層状無機化合物の平均アスペクト比は相対的に小さい。
従って、液晶転移を起こすことが可能な層状無機化合物を分散媒に分散させて調製した分散液を用いて、又はこのような層状無機化合物を含む分散液として予め調製されている分散液を用いて、分散液を液晶相と非液晶相とに分離した後、液晶相中に存在する層状無機化合物を選択的に抽出すれば、平均アスペクト比がより大きな層状無機化合物を選択的に得ることが可能である。理論に拘束されるものではないが、液晶相におけるナノシートは、分散媒中である程度面を一にして配向しやすいことから、分散媒を除去して材料を得る際も、ナノシートが互いの面を一にして高度に配向しやすいと考えられ、結果として、配向不良による内部の欠陥発生が抑制されることによってガスバリア性及び透明性が向上された材料を得ることができると考えられる。
また、分散液の分離・抽出により得られる液晶相は非液晶相よりも密度が高いため、液晶相においては、層状無機化合物の質量に対する後述の余剰イオンの含有割合が相対的に少ない。この点においても液晶転移可能な層状無機化合物は本発明において好適である。
液晶相は非液晶相より密度が高いため、重力加速度の方向に対して下層に分離して得られることが多い。よって、重力がかかる環境中に静置しておくことで分散液を液晶相と非液晶相とに相分離することができ、これにより液晶相中に存在する層状無機化合物を選択的に抽出することができる。相分離に要する時間は、層状無機化合物の種類及び平均アスペクト比、分散液中の層状無機化合物の濃度、並びに分散液の粘度等によって異なるが、数時間で十分に分離できる場合もあり、一般には数日間放置しておくと良好に分離する。また、遠心分離法等、密度差を利用する公知の分離方法を用いて、分散液を液晶相と非液晶相とに分離する速度を上げることができる。
なお、分散液中の固形分濃度が高い場合、分散液が液晶相と非液晶相とに分離せず、全体が液晶相となることがある。この場合、適正な固形分濃度の分散液を液晶相と非液晶相とに分離できると考えられる条件と同様の条件下では、アスペクト比が小さく非液晶相に移行すべきナノシートの成分を十分分離できず、該成分が液晶相に混入してしまうため、平均アスペクト比が相対的に大きく、かつ配向特性に優れた層状無機化合物を選択的に得ることができない。
よってそのような場合には、分散液に水を典型とする分散媒をさらに添加する等して、分散液の固形分濃度を低下させることが好ましい。分散液を液晶相と非液晶相とに分離するために好ましい分散液の固形分濃度は、層状無機化合物の種類及び平均アスペクト比、分散液中の層状無機化合物の濃度、並びに分散液の粘度等によって異なるが、一般的には1.5質量%超6質量%未満であり、好ましくは1.5質量%超5質量%未満であり、より好ましくは2質量%超4.5質量%未満である。ただし、上記の範囲以外であっても、遠心分離法等によって大きな重力加速度を引加して分離性を向上させた場合はこの限りではなく、より広い固形分濃度範囲において分散液を液晶相と非液晶相とに分離することが可能である。なお、分散液の固形分濃度を低くしすぎると分散液全体が非液晶相になってしまう場合があるため、少なくとも液晶相を形成できる固形分濃度を採用するのがよい。
なお本明細書における固形分濃度は、予め重量の分かっている分散液中の分散媒を加熱して除去した後、残った固形物を十分に加熱して、残った固形物の重量を測定する方法で測定される値である。固形物の加熱条件として好ましい例として、150℃で1時間乾燥させる方法を挙げることができる。
ここで、本発明で用いられる層状無機化合物の平均粒子径Xと、前述の平均アスペクト比Zとについて説明する。
平均アスペクト比Zは、本発明で用いられる層状無機化合物が所望の分散媒に分散している分散液を動的光散乱法によって測定することで得られた平均粒子径をXとしたときに、層状無機化合物のナノシートの単位厚みdとZ=X/dなる関係を示す値と定義する。
上記単位厚みdは、層状無機化合物のみの粉末に対して、又は測定に際して基材の影響が十分排除できる基材(例えば平滑な樹脂基板又はシリコンウェハ等)上へ、層状無機化合物のみを固形分として含有する分散液を滴下した後、十分乾燥させた後に得られた薄膜に対して、X線回折法等の公知の測定方法により得られる値である。単位厚みdは、スメクタイト族及び雲母族の粘土においては、通常、0.93nm〜1.04nm程度であることが知られている。また、層間イオンをナトリウムイオンからリチウムイオンに交換した後、600℃程度で加熱して水分を除去したスメクタイト族の粘土(モンモリロナイト、ヘクトライト及びスチーブンサイト)では、ナノシート同士が理論的な限界まで密接するようになり、その際に上記測定方法によって得られる単位厚みdは0.95nmである。よってこれらの層状無機化合物(一般に2:1型構造をとるスメクタイト族に属する粘土及び雲母族の粘土)では、ナノシートの単位厚みdは0.95nmであると考えてよい。本明細書では特に断りのない限り、2:1型構造をとるスメクタイト族粘土及び雲母におけるナノシートの単位厚みdは0.95nmとして取り扱う。
次に、動的光散乱法によって得られる前述の平均粒子径Xについて説明する。分散媒中での層状無機化合物の平均粒子径の測定においては、層状無機化合物の形状が板状粒子であること等の理由で定義も測定方法も極めて困難で、現状では確立された測定手法は存在しない。しかし、粘度と粒子間距離の影響を十分考慮した上で動的光散乱法を用い、コンベンショナルな粒子径分布算出アルゴリズムによって算出された平均粒子径及び粒子径分布データの妥当性は比較的高いものと考えられる。
ただし、分散液の固形分濃度が高すぎる場合、又は分散液中の粒子密度が高すぎる場合には、マクロ的な特性として、分散液では分散媒単独と比較して、粘度が上昇するか、又はチクソトロピー的な挙動が発現しやすくなり、これらの場合、動的光散乱法によって算出される平均粒子径は実際の板状粒子の長手方向のサイズより大きく見積もられやすい。
また同様に、粒子が分散液中で近接して存在せざるを得ず、その近接した粒子間距離が、測定に用いる光の波長領域と同程度又はそれ未満であるような固形分濃度の分散液に対して、動的光散乱法による測定を行うと、近接した2つ以上の粒子を1つの大きな粒子として認識する可能性があり、結果として、平均粒子径が大きく見積もられることがある。
従って、動的光散乱法を用いて妥当性の高い平均粒子径の測定値を得るためには、可能な範囲の限界である低濃度を含む複数の固形分濃度の分散液で測定を行い、分散液の各濃度に対して得られる平均粒子径の値がほとんど濃度に依存しない状態で測定することが、好ましい方法の1つであると考えられる。本明細書における平均粒子径Xとしては、測定値が濃度に依存しない状態に対応するある濃度での測定結果(3回以上測定した平均が好ましい)と、その濃度の2倍の濃度での測定結果(同様に3回以上測定した平均が好ましい)の差が好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内である条件で得られたものを採用する。
上記のような測定を行うに際して好ましい分散液の固形分濃度は、層状無機化合物の種類及び分散状態並びに装置の感度等によって異なるため一義的に決めることは困難である。しかし、測定装置の測定精度が十分得られる濃度範囲であることを条件に、固形分として層状無機化合物のみを含有する分散液の固形分濃度としては、0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲が好ましく、より好ましい範囲は0.01質量%以上0.7質量%以下、最も好ましい範囲は0.02質量%以上0.5質量%以下である。なお一般に、粒子のアスペクト比がより大きくなると散乱強度が大きくなるため、アスペクト比がより大きい粒子はより低濃度の分散液で測定することが必要である。
このような細心の注意を払うことで、妥当性のある平均粒子径X及び平均アスペクト比Zを得ることができる。平均アスペクト比Zは本明細書中に定義される平均粒子径Xを用いて算出される値であり、必ずしも分散液中における層状無機化合物の実際の分散状態に対応する真の値ではない。特に、ナノシートのアスペクト比が大きいほど、上記方法で見積もられる平均粒子径Xと分散液中における実際のナノシートのサイズとの差が大きくなる傾向がある。
本発明で使用する層状無機化合物は交換性イオンを有する。層状無機化合物は、ほとんどの場合、交換性イオンとして、ナノシートの電荷を補償する役割を担っているイオン以外のイオン、すなわち余剰イオンを含んでおり、これは層状無機化合物を種々の用途で用いる際に不純物となる。従来、合成粘土は天然粘土と比較して合成物故に不純物が少ないと考えられてきたが、前述の余剰イオンに関しては必ずしも合成粘土のほうが少ないとは限らない。本明細書では層状無機化合物が含有する交換性イオンのうち、ナノシートの電荷を補償する役割を担っているイオンを層間イオンと定義し、系中、例えば水分散体中に存在するイオンのうち該層間イオン以外のイオンを余剰イオンと定義する。したがって、例えば層間イオンの一部又は全部がイオン交換によって別のイオンに置き換わるような場合には、余剰イオンと定義されるイオンの種類及び量も該イオン交換に連動して変化することになる。層間イオンは、固体状態においてナノシートの層の間に存在するイオンに通常大部分が対応するが、ナノシートの端部に電荷が存在し、その電荷を補償する形でナノシートの端部付近に存在するイオンが一部対応する場合もある。
[水分散体の準備]
上記の製造方法を実施するために、まず、交換性イオンを有する層状無機化合物が水に分散されてなる水分散体を準備する。本明細書において、水分散体とは、分散媒が水を主とする(すなわち分散媒全体の50質量%超が水である)分散体を意味する。好ましくは、交換性イオンを有する所望の層状無機化合物が好適に分散する分散媒を選択し、その分散媒中で層状無機化合物を可能な限り(理想的には単位層であるナノシートまで)へき開して分散させた「プレ分散液」を作製する。プレ分散液には、例えば上述の液晶相と非液晶相とに分離させた分散液から抽出した液晶相等を用いることができる。
上記のプレ分散液作製に用いられる分散媒としては、交換性の層間イオンがナトリウムイオン又はリチウムイオンを主とする水膨潤性の粘土鉱物である場合には水が好ましい。水以外の分散媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等)、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等と水との混合物が挙げられる。しかし通常、層間イオンが無機イオンである層状無機化合物においては、水を主とする分散媒を用いないとイオン交換に供するに足りる十分な分散状態が得られないため、プレ分散液の分散媒は水を主とすることが、特に水膨潤性の粘土鉱物では極めて好ましい。
分散媒と層状無機化合物とを単に混合するだけでは、プレ分散液として必要な高い分散状態が得られない場合がある。すなわち、層状無機化合物のナノシートの平均アスペクト比が大きくなることにより層面同士が相互作用する面積が大きくなるほど、層状無機化合物が有する電荷密度が大きくなるほど、そして電荷がナノシートのより表面に存在するほど、層面同士の結合力が大きくなるために単位層であるナノシートまでのへき開及び分散が困難になる。そのような分散困難な状態では、前述の余剰イオンの除去率及び層間イオンの交換率が低下するばかりでなく、凝集したナノシートの存在により、本発明を適用して形成される材料中で光の散乱が発生し、該材料の透明性を低下させる原因になる場合もある。
プレ分散液としての所望の高い分散状態を得るためには、公知の微分散装置、例えば、振とう装置、超音波分散、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等によって層状無機化合物に機械的な力を加えて該層状無機化合物の剥離・へき開をより促進することが、層状無機化合物の分散を進め、単位層であるナノシートまでへき開した分散状態に近づける意味で好ましい。また、層状無機化合物に機械的な力を加えることにより液晶転移も促進される傾向があり好ましい。
なかでも微分散装置として、超音波分散、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等を用いることがより好ましい。
高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製超高圧ホモジナイザー( 商品名:マイクロフルイダイザー)及びナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等が挙げられる。分散処理の好ましい圧力としては、高圧、特に、100kgf/cm2以上の圧力が好ましい。ただし、高圧下での分散処理により層状無機化合物が割れて微細化し、平均アスペクト比が小さくなる結果、本発明を適用して形成される材料のガスバリア性が低下する場合があり、該材料を膜状にした場合には成膜特性及び機械的強度の低下が起こる場合もあるので、100kgf/cm2以下の圧力下で層状無機化合物を分散処理した方が好ましい場合もある。
なお、高圧又は超音波により分散させることで層状無機化合物が割れて微細化する特徴を逆に利用して、平均アスペクト比が大きすぎるためにへき開・分散しにくい層状無機化合物を、高圧分散処理又は超音波処理等することで、分散しやすく、かつガスバリア性能の低下が顕著とならない平均アスペクト比まで層状無機化合物を割りながら分散させてもよい。特に、合成されたフッ素化雲母は平均アスペクト比が大きく、かつ層間の結合力が強い場合が多いため、よりへき開を進めるために上記のような微細化処理を実施することは好適である。
プレ分散液として好適な高い分散状態を得るためのもう1つの方法としては、高い分散状態にある層状無機化合物を分離・抽出して用いる方法を挙げることができる。すなわち、分散程度の低い成分を、遠心分離法のように大きな重力加速度を引加する分離方法等で分離し、分散程度の高い成分を抽出して用いることが好ましい。この方法は、前述したように液晶転移を起こす層状無機化合物において液晶相を分離・抽出できる場合があり、かつ、層状無機化合物に天然由来の不純物(例えば酸化ケイ素、炭酸カルシウム等)又は合成時に生成したガラス質のような不純物が含まれている場合にそれらを沈降除去でき、本発明の効果をより良好に得られる点で好ましい。
なお、層状無機化合物の分散性等に支障のない範囲内で、プレ分散液作製時に高分子、高分子前駆体、相溶化剤、分散剤、界面活性剤、安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、架橋剤、化学修飾剤、滑剤、結晶核剤、着色剤、複屈折制御剤等の添加剤を1種類以上で添加してもよい。該添加剤を加えるタイミングは任意でよく、最初に添加剤を分散媒に加えた後に層状無機化合物を分散させてもよいし、分散媒に層状無機化合物を分散させた後に添加剤を添加してもよい。添加剤は固体として添加してもよいし、加熱等で溶解させた状態で添加してもよいし、任意の溶媒に溶解又は分散させた溶液状態で添加してもよい。
特に、層状無機化合物のへき開と安定した分散のために、比較的低分子量のポリアクリル酸ナトリウム若しくはポリアクリル酸、又はリン酸といった公知のアニオン系に代表される分散剤を極僅か、具体的には層状無機化合物の質量に対して0.5質量%未満、好ましくは0.15質量%程度、プレ分散液中に添加することは本発明において好適である。しかし、分散剤を多く入れすぎると、溶媒除去後、分散剤が層状無機化合物の層間にインターカレーションし、層間距離を広げて、本発明を適用して形成される固体材料のガスバリア性を低下させる場合がある他、分散剤自体の吸湿性によって該材料の吸湿率が増大したり、耐熱性が低下したりする場合があるため注意が必要である。
プレ分散液中で分散させる層状無機化合物としては、1種類のみ用いてもよいし、平均アスペクト比や種類の異なった複数の層状無機化合物を同時に用いてもよい。
なお本発明においては、上述のプレ分散液を作製することに代え、水にある程度分散した状態で市販されている層状無機化合物の分散液を用いてもよい。この場合、前述のような微分散処理、添加剤の添加等をさらに行ってもよい。
例えば上述したような手段で、本発明における余剰イオン減少工程に供するための、交換性イオンを有する層状無機化合物が水に分散されてなる水分散体を準備することができる。
[余剰イオン減少工程]
本発明における余剰イオン減少工程は、交換性イオンを有する層状無機化合物が水に分散されてなる水分散体をイオン交換樹脂又は半透膜で処理することによって該水分散体中の余剰イオンを減少させる工程である。本発明においては、例えば前述のようにして作製したプレ分散液又は市販の分散液から得られる水分散体を用い、該水分散体中の交換性イオンのうち、層状無機化合物の電荷(すなわちナノシートの電荷)の補償に寄与する量を超えて存在する分の、不純物としてみなせる余剰イオン(陽イオン、及びその対となって存在する陰イオンの両方)を、イオン交換樹脂又は半透膜を用いて除去する。これにより、分散媒が水を主とする分散体及び分散媒が有機溶媒を主とする分散体のいずれにおいても、従来の有機イオンによる有機修飾及びシリル化処理等を行わずに、分散媒に対するナノシートの分散安定性が大幅に向上する。ナノシートの分散安定性が良好なこのような分散体を用いて形成される、ナノシートの層が配向して積層した構造を有する材料は、高い透明性、ガスバリア性、寸法安定性、及び高温下でも弾性率が低下しない等の特徴を発現することができる。
前述の余剰イオンは、層状無機化合物の種類、産地、精製方法、並びに合成物の場合には合成原料及び合成方法、等によって異なるが、多く見られるものとして、陽イオンとしてはナトリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、アルミニウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン等が例示され、陰イオンとしては硫酸イオン、水酸化物イオン、フッ素イオン、塩素イオン、硝酸イオン等が例示される。特に硫酸イオン(SO4 2-)を有する硫酸塩は、天然の粘土鉱物にも合成された粘土鉱物にも含まれていることが多い。また、ナノシートの八面体層の水酸基がフッ素化されてなる合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母では、合成時に用いたフッ素原料がフッ素イオンとして残留している。
それら余剰イオンは、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法によってその多くを除去することができる。余剰イオンが余剰陰イオンと余剰陽イオンとからなる場合、陽イオン交換樹脂を用いて余剰の陽イオンをアンモニウムイオン及び水素イオンの少なくともいずれかに交換し、且つ、陰イオン交換樹脂を用いて余剰の陰イオンを水酸化物イオンに交換することが好ましい。この場合、前述の交換に伴って発生した余剰のアンモニウムイオン又は水素イオンと前述の陰イオン交換によって生じた余剰の水酸化物イオンとが反応し、水、又は容易に除去可能なアンモニアと水が生成して、分散体中のイオン濃度を増大させることなく、分散媒が水を主体とする分散体から実質的に余剰イオンが除去されることになる。
イオン交換法によって余剰イオンを除去する場合には、カラムにイオン交換樹脂を詰めて分散体を流す方法に代表される、公知のイオン交換樹脂を用いる方法が好適である。この場合、陽イオンと陰イオンとの交換の順序としては、余剰イオン減少工程が、陰イオンを交換する第1段階と、第1段階の後に陽イオンを交換する第2段階とを含むようにすることが通常好ましい(ただし、水熱法によって合成されたルーセンタイトSWN及びSWF、コープケミカル株式会社製、を除く)。特に、平均アスペクト比が150以上の、フッ素化ヘクトライト及びフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母)においては、陰イオンを先に交換した後、陽イオンを交換することが極めて好適である。この順番を逆又は実質的に同時に行うと、経時とともに分散体のゲル化が進行し、又はゲル化速度が早まる場合がある。
余剰イオンは半透膜を用いて分散体を処理することによっても除去することができる。層状無機化合物において好適な所定値以上のサイズ及びアスペクト比を有するナノシートの粒子は透過せず、小さな余剰イオン種は透過するような平均細孔径サイズを有する半透膜、例えば限外濾過膜、精密濾過膜又は逆浸透膜を用いて公知の膜分離操作を行うことで、余剰イオンを分散媒とともに分離することができる。この場合、通常余剰イオンとともに分散媒も一部分離されていくため、そのままではナノシートが分散している水分散体の固形分濃度が上昇し粘性が増大して、余剰イオンの分離が進まなくなる場合がある。その場合、水分散体に適宜分散媒を追加して粘性の増大を抑えることが好ましい。
イオン交換樹脂又は半透膜で余剰イオンの除去を行う場合、処理に供する被処理水分散体の粘度は、水分散体が流動すれば、任意の濃度でよい。しかし、水分散体の固形分濃度が高すぎると粘性が増大して余剰イオンの除去効率が低下するか、又はイオン交換樹脂を詰めたカラム又は半透膜が組み込まれたフィルターカートリッジ等を水分散体が通過できなくなる場合がある。一方、水分散体の固形分濃度が低すぎると、本発明を適用して形成される材料の形成時に、分散媒を除去する際の分散媒の除去量が多くなって除去に時間がかかり、また乾燥等で分散媒を除去する場合には乾燥にエネルギーを多量に必要とする場合がある。
従って、被処理水分散体の固形分濃度の好ましい範囲としては、一般に0.1質量%以上10質量%以下の範囲であり、より好ましくは0.3質量%以上8質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5質量%以上7質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.7質量%以上5質量%以下の範囲である。
前述の余剰イオンの除去処理は、典型的には使用する分散媒の凝固点よりも高く沸点よりも低い温度において実施することができる。
本明細書における余剰イオンとは、層間イオンと電荷が同符号のものと逆符号のものとを包含する意味を有するが、上記の操作による、除去処理後の好ましい余剰イオンの量としては、例えば、余剰イオンのうち硫酸イオン及びフッ素イオンの残留量の合計として、層状無機化合物の質量の0.1質量%以下を例示でき、より好ましくは0.08質量%以下であり、特に好ましくは0.05質量%以下であり、最も好ましくは0.03質量%以下である。そのなかでも、特に硫酸イオンの割合としては、層状無機化合物の質量の0.01質量%以下が好ましく、最も好ましくは0.005質量%以下である。
層間イオンと電荷が逆符号のイオン種のイオン量の合計は、以下の方法で測定される各イオンの量から合計を算出することにより得られる。分散体中のイオン量は、イオンクロマトグラフィー分析を用い、例えば、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.36mMolのNaHCO3溶液と1.44mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件での測定により得られる値である。
本発明においては、余剰イオン減少工程においてイオン交換樹脂又は半透膜を用いるため、従来、イオン交換における層状無機化合物の凝集を抑制したり分散安定性を保持したりする目的で添加されていた、高水素結合性(多くは水溶性若しくは水膨潤性)の高分子及び金属アルコキシドの加水分解物等を添加することなく、イオン交換を行うことができる。
なお、公知の無機塩を添加する従来の方法でイオン交換を行うと、対イオンの混入により余剰イオンが増大してしまう問題と、分散体中のイオン濃度の増大の際にナノシートが凝集して沈降してしまい再分散が困難になる問題がある。
また、特開平10−203822号公報等に記載される、水、アルコール、ケトン等の高極性有機溶剤で十分に洗浄した後に乾燥する方法では、層間イオンがナトリウムイオン又はリチウムイオンである水膨潤性の層状無機化合物の場合、層状無機化合物自体が該溶剤で膨潤及び分散してしまうため、そのような溶剤で洗浄することは困難である。
層状無機化合物が有する交換性イオンのうち、固体状態においてナノシートの層の間に存在する層間イオンに対応するイオン種としては、本発明に好適なものとして以下のものが挙げられる。そのような層間イオンとしては有機イオンではなく、体積の小さな無機イオン種であることが必要である。そのような無機イオン種としては、アンモニウムイオン、水素イオン、マグネシウムイオン、及びカリウムイオン、バリウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、鉛イオンといった原子番号19以上の金属の無機イオンから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
しかし、イオン種として、電荷が2価以上のものは、余剰イオンの除去率等に依存するものの分散媒に対するナノシートの分散安定性が損なわれる場合が多く、有機溶媒分散体の状態のみならず水分散体の状態でも良好な分散安定性が得られない場合が多い。以上の理由で、本発明において特に好適な上記イオン種としては、アンモニウムイオン及びカリウムイオンを挙げることができる。
層間イオンがカリウムイオンの場合、水を主たる分散媒とする場合だけでなく、後述する有機溶媒を主とする分散媒に対しても良好な分散性が発現するため、本発明において好適である。しかし、層間イオンをカリウムイオンとした場合、例えばアンモニウムイオンと比べると分散体の固形分濃度を向上させにくく、かつ分散媒中における水の割合を低下させにくいため、疎水性の強い添加剤を混合すると添加剤が析出しやすい傾向がある。
また、層間イオンがナトリウムイオン又はリチウムイオンの場合もカリウムイオンと同様の傾向がある。また、ナトリウムイオン及びリチウムイオンは、例えばアンモニウムイオンと比べると吸水率が高く材料の耐水性を低下させやすい傾向がある。
層間イオンが水素イオンである場合、層間イオンがアンモニウムイオンである場合と比べて、後述するように層状無機化合物自体の分解及びそれに伴う凝集の問題が生じやすい傾向があり、適用できる層状無機化合物の種類が、アンモニウムイオンの場合と比べると制限される。
一方、層間イオンがアンモニウムイオンである場合、分散液の固形分濃度を最も向上させやすく、かつ分散媒中における水の割合を低下させやすいため疎水性の強い添加剤と混合しやすく、本発明において最も好適である。
本発明では、余剰イオン減少工程によって水分散体中の余剰イオンを除去した後、層間イオンに対応するイオン種が上記のように好ましいイオン種(すなわちアンモニウムイオンやカリウムイオン等)でない場合、イオン交換樹脂を用いて層間イオンに対応するイオン種を上記の好ましいイオン種、最も好適にはアンモニウムイオンに交換することが好ましい。
なお、このとき、公知の無機塩を添加する従来の方法でイオン交換を行うと、対イオンの混入により余剰イオンが増大してしまう問題がある。
通常、余剰イオンはナノシートの電荷補償に必要な層間イオンと分散体中では区別できず、交換性イオンとして存在している。すなわち、層間イオン以外に、該層間イオンと同じ符号の電荷を有するイオンが反対の電荷を有する対イオンとともに存在している。従って、余剰イオン除去のために水分散体中の陽イオン種を前述のイオン交換法によってアンモニウムイオン及び/又は水素イオンに交換すると、層間イオンに対応する陽イオン種も同時にアンモニウムイオン及び/又は水素イオンに交換される。
前述の方法により、層間イオンをアンモニウムイオンに交換することは、イオン交換により、余剰塩を除去すると同時に層間イオンをアンモニウムイオンに交換して層状無機化合物を得ることができるため、本発明において最も好適な方法である。つまり、水分散体中の陽イオン種をアンモニウムイオンに、陰イオン種を水酸化物イオンにそれぞれ交換するだけで、余剰塩の除去と層間イオンのアンモニウムイオンへの交換とが同時に達せられる。
層間イオンをアンモニウムイオンに交換する場合、イオン交換後の水分散体を加熱又は減圧処理することで、水分散体中に若干残留している余剰のアンモニウムイオンと水酸化物イオンとが反応して水とアンモニアになる反応がより進行し、水分散体中の余剰イオン由来のアンモニウムイオンと水酸化物イオンとを水分散体中からより良好に除去できるので好適である。
これに対して、層間イオンを水素イオンに交換する方法で余剰塩を除去した場合、本発明においてそのまま層間イオンとして水素イオンを用いる場合は前述のような注意を要する。すなわち、上記の方法により層間イオンを水素イオンに交換すると、層状無機化合物の種類によっては水素イオンによって層状無機化合物が分解され、分解して生じた他のイオン種に層間イオンが置き換わってしまう場合がある。
特に、層状無機化合物の組成としてマグネシウム、リチウム等を多く含む粘土種でこの分解反応が起こりやすく、モンモリロナイトを除き、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及び雲母に対して層間イオンとして水素イオンを用いる場合、層間イオンの少なくとも一部が水素イオンでなくなっている可能性がある。特に本発明において最も好適なフッ素化ヘクトライト及びフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母)では、層間イオンを水素イオンに交換すると、上記分解反応が原因となり常温では短時間でナノシートの凝集が発生しやすい傾向がある。
また、例えば市販の純水製造用等に用いられている脱塩用の、水素イオン型に調整された陽イオン交換樹脂と水酸化物イオン型に調整された陰イオン交換樹脂との混合樹脂を用いると、上記のような問題に加え、混合樹脂に水分散体を接触させている間は水素イオンが供給し続けられるために粘土の分解が進行しやすい傾向があり、長期間水分散体を混合樹脂に接触させていると粘土自体が分解されて、粘土そのものが分解して消失しやすい傾向がある。
よって、層間イオンを水素イオンに交換する方法を用いる場合には、水素イオンによる層状無機化合物の分解を抑制するために、水素イオンへの交換反応を冷却しながら行うことが好ましい。また、層間イオンを水素イオンから目的の無機イオン種に速やかに交換することが好ましい。
特に、余剰陽イオンの交換において、余剰陽イオンを水素イオンに交換した後、さらに該水素イオンをアンモニウムイオンに交換することが好ましい。
水素イオンを目的の無機イオン種に交換する方法としては、イオン交換樹脂を用いて層間イオンとしての水素イオンを目的の無機イオン種に交換する方法が好ましい。水素イオンをアンモニウムイオンへ交換する場合には、水分散体にアンモニア水を添加するか、又はアンモニアガスを吹き込むことでも、層間イオンとしての水素イオンをアンモニウムイオンに交換することができる。
なお、陰イオンを水酸化物イオンへ交換した後、陽イオンを水素イオンへ交換し、さらにその後に層間イオンとしての水素イオンを目的の無機イオン種に交換することで、水素イオンから目的の無機イオン種への交換時に余剰イオンは原理上はほぼ全て除去されるので、余剰イオンの残留量をより低減することができる。このとき、水素イオンから目的の無機イオン種への交換時に層状無機化合物の分解で発生したイオン種が問題となる場合には、さらにイオン交換樹脂等でイオン交換処理を行って目的のイオン種へ交換することで、その純度を高めてもよい。
層間イオンの目的の無機イオン種への交換率としては、該無機イオン種への交換前のイオン種の50質量%以上が目的の無機イオン種に交換されていることが好ましく、該無機イオン種への交換前のイオン種の目的無機イオン種への変換率は、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であり、できるだけ100質量%に近いことが望まれる。
なお上記交換率は、交換前後の分散体について、前述した方法で分散体中のイオン量を測定し、該測定値から算出できる。
なお、ナトリウムイオンは吸湿性が高いため、吸湿性を低下させたい用途において、交換性イオンとしてナトリウムイオンが存在している場合、前述の余剰イオンの除去及び層間イオンの交換処理によってナトリウムイオンを十分減少させておくことが好ましい。そのような場合、ナトリウムイオンの質量割合は、層状無機化合物の質量の0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、最も好ましくは0.001質量%以下であり、できるだけ0質量%に近いことが望まれる。なお上記の層状無機化合物中のナトリウムイオンの質量割合は、前述したイオン量の測定方法により得られる分散体中のナトリウムイオン量を、層状無機化合物の質量当たりに換算して算出される値である。
リチウムイオンはナトリウムイオンと同様に吸湿性を増大させる傾向があるため、層間イオンとしてリチウムイオンを採用する場合には、分散媒を除去した後に少なくとも230℃、好ましくは400℃以上の高温で加熱することが好ましい。本発明において、添加剤、及び、本発明を適用して形成される材料を形成する際の支持体が上記の高温に耐えられる場合には層間イオンをリチウムイオンにしてもよい。しかし、上記のような高温に耐える添加剤及び支持体は極めて少なく、層間イオンとしてリチウムイオンを採用する層状無機化合物の用途は限定されると考えられる。また、上記加熱によって吸湿性を十分に低下できる層状無機化合物の種類はある程度限られる。よって、上記のような加熱ができない場合には、ナトリウムイオンの場合について上述したのと同様の質量割合までリチウムイオンを十分減少させておくことが好ましい。
なお、前記の、イオン交換率、イオンの質量割合、及び全交換性イオンに占める層間イオンの割合は、層間イオンが陽イオンの場合、Schollenberger法を基本とする、酢酸アンモニウムと塩化ナトリウム又は塩化カリウムとを用いた公知の手法によって陽イオン交換容量(CEC)を求め、かつ分散体をイオンクロマトグラフィー法で測定してイオン種の濃度を定量することによって求めることができる。CECに対応する量の電荷は層間イオンの量に対応付けられ、それを超える量のイオンが存在すれば、それらイオンは余剰イオンに対応付けられる。
イオンクロマトグラフィー法で測定に問題がある場合(例えばナノシートの分解等が生じている場合)、層状無機化合物が元来有していた交換性イオンの量とイオン交換後の交換性イオンの量とを測定し、交換前後の値からイオン交換による特定イオンの減少量を算出し、そこから所望イオンへの交換率を算出してもよい。例えば市販の多くの合成粘土鉱物においては大部分の交換性陽イオンがナトリウムイオンであるため、その場合、ナトリウムイオンの量を交換前後で測定して減少量を算出し、そこから所望イオンへの交換率を算出してもよい。無論、ナトリウムイオン以外にも無視できない量の他のイオン種を含む場合には、それらも定量した上で交換率を算出する。
このようにして、水分散体中の余剰イオン濃度を十分に低減し、さらに固体状態においてナノシートの層の間に存在する層間イオンを目的の無機イオン種、好ましくはアンモニウムイオンに交換することで、水を主とする分散媒ばかりでなく、有機溶媒を主とする分散媒においても、層状無機化合物が高度に分散する効果が得られる。従って、従来のように有機カチオンのような有機イオン又はシラン処理で層状無機化合物の一部を変性(修飾)する処理等をせずとも、又はある種の親水性の高分子又は金属アルコキシド等の加水分解物等を加えなくとも、有機溶媒を主とする分散媒中で凝集及びゲル化等を起こさず、層状無機化合物が高度に分散する効果が得られる。上記手法によれば、そのような高度な分散が、平均アスペクト比150以上、さらには1000を超える高アスペクト比の層状無機化合物に対しても同様に発現する。
[分散媒置換工程]
本発明における分散媒置換工程は、上述した余剰イオン減少工程の後の水分散体中の水を有機溶媒に置換することによって、交換性イオンを有する層状無機化合物が有機溶媒に分散されてなる有機溶媒分散体を形成する工程である。なお該有機溶媒分散体は、分散媒が有機溶媒を主とする(すなわち、分散媒全体の50質量%超が有機溶媒である)分散体である。よって、分散媒置換工程においては、上記有機溶媒分散体が得られる程度に水を有機溶媒に置換すればよく、該置換は、水分散体中の水の全てを有機溶媒に置換することに限定されるものではない。本発明においては、上記分散媒置換工程を経ることにより、従来の水を主な分散媒とする分散体の場合と異なり、添加剤として水に難溶な疎水性のものを用いることができる。例えば、疎水性の添加剤を混合する前に、余剰イオン減少工程を経た水分散体における分散媒を、そのような疎水性の添加剤が溶解できる溶媒である有機溶媒を主とするものに置換することによって、疎水性の添加剤を均一に混合できる。
分散媒置換工程においての効果的な手法としては、水分散体中の水を主体とする分散媒に、水と親和性の高い、具体的には水と相溶性の高い有機溶媒を混合する方法を挙げることができる。
水と相溶性の高い有機溶媒としては、極性の高い有機溶媒を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、ジアセトンアルコール、フリフリルアルコール、アセト酢酸エチル、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセトン、アセトニルアセトン、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、酢酸、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N,N−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、カルバミド酸メチル、γブチロラクトン、トリアセチン、ギ酸イソプロピル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル等を挙げることができる。そのなかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン及びアセトニトリルは好適な溶媒である。
上記の有機溶媒は1種類のみを水分散体と混合してもよく、異なる複数の種類を水分散体と混合してもよい。異なる複数の種類の有機溶媒を水分散体と混合する場合には、水分散体に順次有機溶媒を添加してもよいし、予め所定の割合に混合した有機溶媒を水分散体に添加してもよいし、その両方の方法を併用してもよい。また、攪拌しながら、又は前述の微分散処理を行いながら有機溶媒を水分散体に添加してもよい。
なお、有機溶媒を水分散体と混合する際には、有機溶媒を主な分散媒とする分散体を得るために、事前に水分散体中の水の量を減少させて、水分散体の固形分濃度を上げておいてもよい。水分散体中の固形分濃度を上げる方法としては、例えば、水分散体を常圧又は減圧下で加熱して、水を蒸発させる方法が挙げられる。
本発明において最も好適な分散媒置換方法は、水を主な分散媒とする分散体(分散体中の水の量を減少させておいてもよい)と有機溶媒とを混合後、得られる混合物である分散体中の水の割合を減少させて、分散体中の分散媒に占める有機溶媒の割合を増加させる方法である。この方法により、分散媒における水の割合を大きく減少させ、分散媒の主な(すなわち50質量%超を占める)部分、特に分散媒の大部分を有機溶媒とすることができる。水分散体と有機溶媒とを混合した後に水の割合を減少させる方法としては、例えば水分散体と有機溶媒との混合物である分散液を常圧又は減圧下で加熱して、水成分を選択的に蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、混合する有機溶媒の沸点が水の沸点よりも高い場合に好ましく採用できる。
その他、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、ソーダ石灰、硫酸マグネシウム、ある種のイオン交換樹脂等の水吸着剤を用いて分散媒中の水の量を減少させてもよい。また、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のシラン化合物、又はマグネシウムエチラート等を用いて加水分解反応によって水を除去してもよい。また、上記のような方法を複数併用してもよい。例えば、減圧下で加熱することによって大部分の水を除去した後、モレキュラーシーブ等によってさらに水を除去してもよい。
本発明において、水分散体と有機溶媒との混合物において分散媒中に占める水の割合を減少させる場合、該混合物の分散媒中に占める水の割合は分散媒全体の35質量%以下まで減少させることが好ましく、25質量%以下まで減少させることがより好ましく、15質量%以下まで減少させることがさらに好ましく、10質量%以下まで減少させることがさらに好ましく、5質量%以下まで減少させることが最も好ましい。上記割合まで水の量を減少させることにより、分散媒置換工程後に得られる有機溶媒分散体に対して、水に難溶な疎水性の添加剤を均一に添加することができる。
本発明においては、前述の余剰イオン減少工程によって、さらに好ましくは層間イオンの好適な無機イオン種、特にアンモニウムイオンへの交換によって、このように分散媒における水の含有割合を十分に減らしても、従来の有機イオン又はシラン処理による有機修飾なしに層状無機化合物が分散媒に高度に分散できるという効果が得られる。
従って、本発明の方法によれば、水分が多いと析出等によって容易に均一に混合できないような、水に難溶な疎水性の添加剤と層状無機化合物とが均一に混合・分散した分散体を作製することが可能になる。
なお、上述の分散媒置換工程によって得られる、有機溶媒を主たる分散媒とする分散体中でのナノシートの分散安定性は、余剰イオンの残留量によって大きく変化する。本発明においては、余剰イオン減少工程において余剰イオンを十分に除去するため、有機溶媒中においてより良好なナノシート分散状態が得られ、また有機溶媒分散体の固形分濃度も向上させることができる。
さらに、層状無機化合物の種類及び分散させる有機溶媒の種類によっては、上記のように水を十分に除去することで、さらに層状無機化合物の分散性が向上する。具体的には、有機溶媒分散体の透明性が向上したり、層状無機化合物のへき開の進行に伴う粒子数の増加に伴う、該有機溶媒分散体の粘性の増大等が観測されることもある。
分散媒置換工程においては、前記のような方法によって得た、有機溶媒を主な分散媒とする分散体に、さらにより疎水性の高い、すなわち水と相溶しにくい有機溶媒を加えてもよい。そのような有機溶媒として、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等)、エーテル類(エチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル等)、ケトン類(ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン等)、ニトリル類(プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、プロピオン酸メチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、サリチル酸メチル等)、アセトフェノン、ベンゾフェノン、メチルセロソルブ、ベンジルアルコール、シリコーンオイル等を挙げることができる。
以上のようにして、交換性イオンを有する層状無機化合物の有機溶媒分散体を得ることができる。
なお、本発明の方法においては、有機溶媒分散体が得られるまでの任意のタイミングの分散体中に、後述するような、低分子、オリゴマー、高分子及び高分子前駆体、並びに他の任意の追加の添加剤等の添加剤を混合してもよい。いずれの場合も、分散媒置換工程後に加熱乾燥等によって分散媒を除去することにより、層状無機化合物を含む材料を形成できる。
本発明の方法によって製造される有機溶媒分散体には、水分が多いと析出等によって容易に均一に混合できないような、水に難溶な疎水性の添加剤をも組み合わせることができ、このような添加剤を、有機溶媒を主な分散媒とする分散体に均一に混合することができる。また該有機溶媒分散体においては、高アスペクト化による層状無機化合物の凝集や分散不足も起こらないため、疎水性の添加剤と層状無機化合物との均一なナノコンポジット材料(例えば粘土ナノコンポジット材料)を、層状無機化合物含有材料として製造できる。また、その結果として、透明性が高く、合成粘土を用いた場合には着色がなく、また従来技術のように有機イオンを用いる必要がないために耐熱性の低下が起こらず、かつ寸法安定性に優れ、高温でも弾性率の低下が少ない、層状無機化合物含有材料を得ることができる。また、本発明の方法を適用して、ナノシートの層が配向して積層した構造を有する材料を形成すれば、従来技術のように有機修飾に用いた有機イオンによる層間距離の拡大が起こらないため、ドライガスに対するバリア性が高い材料を得ることができる。
[有機溶媒混合分散体]
本発明はまた、上述した本発明の製造方法により得られる交換性イオンを有する層状無機化合物の有機溶媒分散体と、低分子、オリゴマー、高分子及び高分子前駆体から選択される1種以上の添加剤とが混合されてなる分散体(以下、単に有機溶媒混合分散体ともいう)に関する。
前述のようにして得られた有機溶媒分散体に対しては、低分子、オリゴマー、高分子及び高分子前駆体から選択される添加剤をさらに添加することができる。これらの添加剤は、有機溶媒分散体の分散媒に均一に溶解又は微分散するもの(すなわち疎水性を有するもの)であれば特に限定されず、公知の任意のものを用いることができる。上記添加剤は、それ自体で、又は適当な溶媒に溶解若しくは分散させてなる溶液若しくは分散液の状態で、本発明における有機溶媒分散体と組み合わせることができる。
本発明において、有機溶媒分散体又は有機溶媒混合分散体が含むことができる低分子、オリゴマー、高分子及び高分子前駆体としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂及びその誘導体、変性ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、酸化でんぷん、エーテル化でんぷん等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、セルロース繊維、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂(非晶性フッ素樹脂等)、アルキド樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂(芳香族ポリエステル樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(透明ポリイミド樹脂等)、スチレン樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂等を挙げることができる。これら樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。有機溶媒分散体を形成した後で、該有機溶媒分散体と組み合せるのが好ましい疎水性の添加剤としては、ポリエーテルスルホン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。
上記の添加剤のなかでも、ポリエーテルスルホン(ポリエーテルサルフォン)樹脂及びシリコーン樹脂は、耐熱性の点から好適である。ポリエーテルスルホン及びシリコーン等の難溶性樹脂は分散体中の水の割合が多いと析出しやすいため、十分に水が除去された有機溶媒分散体と混合することが好ましい。また、酸素ガスに対するガスバリア性の観点からは、ポリビニルアルコール樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(エバール)も好適である。透明性及び膜強度の点からは、防犯ガラス及び太陽電池に用いられるポリビニルブチラール樹脂(ポリアセタール樹脂)も好適である。
本発明の好ましい態様は、上述した本発明の製造方法により得られる交換性イオンを有する層状無機化合物の有機溶媒分散体と、ポリエーテルスルホン、シリコーン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルブチラールからなる群から選ばれる1種以上の樹脂とが混合されてなる、交換性イオンを有する層状無機化合物と樹脂との有機溶媒混合分散体を提供する。
本発明を適用して形成される材料に透明性が必要な場合、上記の低分子、オリゴマー、高分子又は高分子前駆体も透明又は着色が少ないことが好ましい。また、該材料に耐熱性、例えば着色温度が高いことが要求される場合には、上記の低分子、オリゴマー、高分子又は高分子前駆体もそのような耐熱性を有していることが好ましい。
本発明においては、追加の添加剤として、相溶化剤、分散剤、界面活性剤、安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、架橋剤、化学修飾剤、滑剤、結晶核剤、着色剤、複屈折制御剤等の公知の添加剤を1種類以上、有機溶媒分散体又は有機溶媒混合分散体が得られるまでの任意のタイミングで分散体中に含有させてもよい。なおこれらの追加の添加剤のうち疎水性を有するものは、有機溶媒分散体を形成した後で、該有機溶媒分散体に対して添加することが好ましい。
分散剤としては、例えばラウリル酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアミド化合物、ポリラウリルアミン、ポリビニルアミン、ステアリルアミン等のアミン化合物、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、酸変性樹脂、アミド樹脂等の極性樹脂、アミノシラン等を挙げることができる。
有機溶媒混合分散体およびそれらから溶媒を除去して得た材料の加熱時の酸化劣化を抑制する酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、並びにリン系及びイオウ系の酸化防止剤等を挙げることができ、該材料を燃えにくくする難燃剤としては三酸化アンチモンのような無機系難燃剤を挙げることができる。
化学修飾剤としては、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基等を含有するシランカップリング剤、特にオルガノアルコキシシランを挙げることができ、特に高分子又はその前駆体と化学修飾剤との架橋を考慮して、エポキシ基、アミノ基及び/又はビニル基のついた、例えばビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を好適に挙げることができる。
複屈折制御剤は、本発明を適用して形成される材料からなる形成体の複屈折率を調整する分子であり、分子内に剛直なメソゲン基を含む分子であって、例えばフルオレン、ナフタレン、カルバゾール、ビフェニル、4−ビフェニルカルボン酸、4−ヒドロキシビフェニル、2−ヒドロキシビフェニル、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、スチルベン、ジフェニルアセトン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、ベンズアルデヒドアジン、4−ベンゾイルビフェニル、カルコン、1,3−ジフェノキシベンゼン、フェナントレン、トラン等を挙げることができる。
上記の添加剤は単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。またそれらの添加剤は、有機溶媒混合分散体からの分散媒除去後の材料中にそのままの状態で又は化学反応等によってなんらかの形に変化した状態で存在していてもよいし、分散媒除去時又は形成体形成後等に、加熱、減圧、抽出洗浄等によって形成体より除去してもよい。
上記追加の添加剤を分散体中に混合するタイミングは任意で良く、例えば、有機溶媒分散体の製造において、分散媒置換工程の前に添加剤を水分散体と混合した後、分散媒置換工程で有機溶媒を添加してもよいし、分散媒置換工程において有機溶媒を添加後の分散体に添加剤を混合してもよいし、分散媒置換工程において水分散体に有機溶媒を添加して大部分の水を除去した後の分散体に添加剤を混合してもよいし、有機溶媒分散体を得た後、該有機溶媒分散体に対して添加剤を添加してもよい。添加剤は固体として添加してもよいし、加熱等で溶解させた状態で添加してもよいし、任意の溶媒に溶解又は微分散させた溶液又は分散液の状態で添加してもよい。
[有機溶媒混合分散体を用いて形成される材料]
本発明において得られる有機溶媒混合分散体を用い、例えば後述のような方法で、層状無機化合物を含む材料を得ることができる。該材料における層状無機化合物の含有割合は、層状無機化合物由来の特性が強く発現する点で、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。特に、材料のガスバリア性を飛躍的に向上させるためには、材料における層状無機化合物の含有割合が10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上である。さらに、水蒸気を含まないドライのガスに対するバリア性能を向上させたい場合には、層状無機化合物の上記含有割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが最も好ましい。一方、材料としての形状及び機能を保持する点で、層状無機化合物の上記含有割合は95質量%以下であることが好ましい。
さらに、上記の添加剤を混合する時又は混合した後、攪拌又は前述の微分散処理を行って、層状無機化合物と前述の添加剤とがより均一に混合された分散体を形成することが好ましい。
なお、そのような、攪拌又は前述の微分散処理を行うこと等で分散体中に気体成分が混入している場合には、真空脱泡、超音波照射、又は遠心分離等の処理によって気体成分を脱気することが好ましい。それらの処理は攪拌又は前述の微分散処理の後に行ってもよいし、それらの処理中に同時に行ってもよい。特に、本発明の有機溶媒混合分散体を用いてガスバリア材料及び光学材料を形成する場合には、混入している気体成分由来の気泡及び空隙が生じ、ガスバリア性及び透明性を低下させる要因になるため、有機溶媒混合分散体からの分散媒除去前に十分な脱気をすることが極めて重要である。
上記のような過程を経て、本発明の有機溶媒混合分散体より分散媒を除去することで、層状無機化合物を含む均一なナノコンポジット材料を製造することができる。分散媒除去時、熱による強い対流現象、分散媒の沸騰、又は機械的な攪拌等がなければ、ナノシートの板状形状により、通常、得られる材料中でナノシートは規則正しく整列する。特に、有機溶媒混合分散体を面状の支持体上で静置・乾燥させることで形成された膜状の材料においては、支持体面、すなわち膜面に対して層状無機化合物のナノシートがなるべく平行になるようにしてナノシートが積み重ねられた構造、すなわちナノシートが配向して積層した構造を形成することができる。
層状無機化合物を含む材料を得るために乾燥に供する有機溶媒混合分散体の固形分濃度としては、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましい。上記固形分濃度であれば乾燥時間がより短縮され、又は乾燥温度を下げることができる。有機溶媒混合分散体の固形分濃度は、混合、脱泡等が可能な濃度であればよく、有機溶媒混合分散体が非常に粘度の高いペースト状であってもよい。有機溶媒混合分散体から分散媒を除去する方法としては、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、不活性ガス雰囲気下放置、及び加熱蒸発法が好ましい。あるいは、これらの方法のうち、複数を組み合わせてもよい。
加熱蒸発法の場合、分散媒除去の具体例としては、例えば強制送風式オーブン等において、30℃以上250℃以下、好ましくは40℃以上200℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下の温度条件下で、10秒以上24時間以下、好ましくは1分以上10時間以下、より好ましくは3分以上6時間以下、さらに好ましくは5分以上3時間以下で有機溶媒混合分散体を乾燥させ、所望の材料を得る。しかし最適な乾燥時間は、材料の形状、分散体の固形分濃度、用いる分散媒、支持体の耐熱温度、そして分散体の液量等に大きく依存する。
なお、乾燥時に用いる前述の支持体は平面であっても曲面であっても良く、材質も特に限定されない。また、得られた膜状の材料は、前述の支持体上に固定したまま用いてもよいし、支持体より剥離して用いてもよい。
層状無機化合物を含む材料を支持体上に固定(付着)させたまま用いる場合には、膜状の該材料(典型的には透明材料)を支持体より剥離しにくくするために、支持体の表面に、アンカーコート層を設けてもよい。上記アンカーコート層の形成に使用されるアンカーコート剤としては、公知のものを特に制限なく使用できる。例えば、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系等のアンカーコート剤が挙げられ、例えば特許第3984791号に記載の公知の好適なアンカーコート剤を適宜選択して用いることができる。又は、支持体の表面を、コロナ処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理、電子線処理等しても良好なアンカー効果が得られることがある。なお、透明材料としての特性を生かすことが求められる場合には、それら支持体も透明であることが一般には好ましい。
支持体上に固定した状態で層状無機化合物を含む材料を用いる場合、支持体の材質は特に限定されないが、該材料に透明性が要求される場合には支持体が可視光の透過性を有することが好ましい。可視光の透過性を有する支持体として、樹脂材料の中では、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、トリアセチルセルロール樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂等を挙げることができる。
支持体より剥離して層状無機化合物を含む材料を用いる場合には、支持体の表面を易剥離処理しておくとよい。易剥離処理としては、例えば紫外線照射処理、電子線照射処理、イオンビーム照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理(例えばリモートプラズマ処理,フレームプラズマ処理)、物理的処理(例えば接触面積が少なくなるように表面を加工する機械処理)が挙げられる。
また、シリコーン樹脂のような密着性を低下させる樹脂を塗布したり、光,熱等の物理的刺激を受けて柔らかさ及びヤング率が変化するか又は発泡することによって密着性を低下させる剥離性付与剤を支持体上に塗布することで、支持体表面に易剥離層を設けてもよい。なお、これらの処理のうち複数を組み合わせてもよい。
なお、層状無機化合物を含む材料を支持体より剥離して自立膜として利用するためには、該材料がある程度以上の機械的強度を有する必要がある。そのためには取り扱い上、該材料にはある程度以上の膜厚が必要である。該膜厚としては、一般的には5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、最も好ましくは40μm以上である。該膜厚の上限は限定されるものではないが、透明性及びコストの観点から、20000μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
層状無機化合物を含む材料を支持体上に付着した膜として用いる場合には、該材料の膜厚を規定する要素は特にないが、該材料にガスバリア層としての機能を発現させる場合、十分なガスバリア性を有するために、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.8μm以上であることがさらに好ましく、1μm以上であることが特に好ましい。ただし、該膜厚を厚くしすぎると、応力の発生によって膜が反ってしまったり該材料と支持体との界面の剥離を起こしたりする場合があるため、該膜厚は500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm未満であることがさらに好ましく、より好適には10μmm未満である。
層状無機化合物のナノシートの配向積層状態を確認する手法としては、X線回折装置によるX線回折スペクトルの分析、及びTEM(透過型電子顕微鏡)による積層状態の直接観察が有効である。従来、X線回折測定によってガラス基板等の支持体上に形成された膜の配向積層状態、粘土を含むナノコンポジット材料におけるナノシートの分散及び剥離の状態等の様々な研究・評価が行われており、一般的には層状無機化合物の001面の一次回折によってX線回折スペクトルに生じるピークの相対強度、数、回折角度2θで表されるピークの位置及びその半価幅等によって、ナノシートの積層状態及び層間距離の分布を知ることができる。
本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料、特に層状無機化合物の含有割合が10質量%以上の材料において、有機溶媒混合分散体を塗り広げて液膜状とした後に分散媒を除去して得られた、かつナノシートの配向の程度が高い膜状の材料における平均層間距離(すなわちナノシートとナノシートとの平均存在間隔)は、ドライガスに対するガスバリア性を発現させることが求められる場合、気温20℃から28℃で相対湿度25%から80%の範囲内の環境下、好ましくは気温25℃相対湿度50%で測定された、X線回折スペクトルにおける001面の一次回折ピークの2θの位置から換算される値としての上記平均層間距離は、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、さらに好ましくは4nm以下、最も好ましくは2nm以下である。
上記の好ましい平均層間距離は、上記一次回折ピークのトップ位置(2θの値)に換算すると、一般的な銅のKα線である1.54Åの波長を用いた場合、ナノシートの1枚の層の厚みが約1nmであるスメクタイト族の粘土及び合成雲母族の粘土からなる膜においては、2θで0.8以上9.5以下の領域に対応する。
なお、材料におけるナノシートの平均層間距離が前記の好ましい範囲にあるか否かは、TEMによる画像観察で直接層間距離を測長することでも確認することができる。
本発明において、層状無機化合物を含む材料の耐水性を評価する尺度として、該材料を1気圧の大気中において150℃で2時間乾燥させた後、温度40℃かつ相対湿度90%の環境下に24時間該材料を暴露したときの吸湿率を以下の式で定義する。
吸湿率(%)=(24時間暴露後の材料の重量−24時間暴露前の材料の重量)/24時間暴露前の材料の重量×100(%)
上記吸湿率の値が小さいほど材料の耐水性が高いと考えることができる。本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料においては、該材料中における層状無機化合物の含有割合をk質量%としたとき、上記によって定義された吸湿率が、好ましくは0.05k%以下、より好ましくは0.03k%以下、さらに好ましくは0.02k%以下、最も好ましくは0.01k%以下であり、0%に近いほど好ましい。
ナノシートが規則正しく配向して積層している材料は、層状無機化合物自体に着色がなく、かつ添加剤が可視光領域に吸収を有さなければ、一般に高い透明性を有する。なお本発明において透明な材料とは、全光線透過率が光路長20μm超過において80%以上であること、及び、波長400nmにおける直線光の透過率が光路長3μm超過において70%以上であることのうち少なくともいずれかの物性を満たしているものと定義する。
層状無機化合物を含む材料において、波長400nmにおける直線光の透過率は光路長3μm超過においてより好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、最も好ましくは85%以上である。
また、層状無機化合物を含む材料の全光線透過率は光路長20μm超過においてより好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
さらに、層状無機化合物を含む材料としては、大気中150℃で1時間加熱しても上記の波長400nmにおける直線光の透過率及び全光線透過率を保持するものが好ましく、大気中200℃で1時間加熱しても上記の特性を保持するものが好ましい。無論、より高温及び/又はより長時間、例えば220℃若しくは250℃で1時間若しくは2時間又はそれ以上等の条件で加熱しても上記の特性を保持するものはさらに好ましい。
さらに、層状無機化合物を含む材料においてはヘイズ(曇度)の値が小さいほうがより透明であり一般的には好ましい場合が多い。ヘイズは材料内部の構造と材料表面の凸凹との2つの要因に起因するため、材料を任意の形状に加工・形成した場合には、その形成工程が大きく影響する。層状無機化合物を含む材料のヘイズは、一般的に、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、最も好ましくは3%以下であり、1%以下であれば透明性が非常に良好である。ただし、光を透過させかつ拡散させる必要がある用途の場合には、層状無機化合物を含む材料のヘイズが大きいほうがよい場合もある。
なお本明細書における全光線透過率及びヘイズとは、日本工業規格に規定されたプラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法JIS K 7361、プラスチックの光学的試験方法JIS K 7105、プラスチック透明材料のヘイズの求め方JIS K 7136に準拠して求められるものであり、全光線透過率に関してはJIS K 7361、ヘイズに関してはJIS K 7105とほぼ同じ値が得られる「NDH2000における測定方法1」によって測定されるものである。
ナノシートが規則正しく配向して積層している材料は、温度変化に対する寸法安定性が高い。温度変化に対する寸法安定性は、膜状とした材料の線膨張係数によって評価することができる。層状無機化合物を含む材料の線膨張係数は、50℃から少なくとも160℃付近までの、好ましくは200℃付近までの、より好ましくは260℃付近までの平均の線膨張係数の絶対値として、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、最も好ましくは5ppm以下であり、3ppm以下のものを得ることも可能である。
なお本明細書における線膨張係数は、熱機械分析装置(例えば株式会社島津製作所の「TMA−60」)を用い、例えば試料幅5mm、荷重10g、昇温レート5℃/分で線膨張係数を測定して得られる値である。
本発明においては層間イオンをアンモニウムイオン等へ交換する場合、ナトリウムをほとんど含まない材料が得られる。このような材料はアルカリ金属を嫌う用途、例えば電子デバイスの基板及び封止膜、梱包材、並びに光学フィルム等の用途に好適であると考えられる。
本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料を電子デバイス用途に用いる場合、該材料を膜又はフィルム状に形成し、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ及び電子ペーパーの基板並びにガスバリア膜に用いることが好適である。有機EL素子は照明用途に用いることも好適である。該材料は層状無機化合物及び添加剤の種類と割合とを選ぶことで高耐熱、低線膨張、ハイガスバリア、高透明、高柔軟性等の、ディスプレイ用途に必須な要求物性を複数同時に満たすことが可能であるため、例えばバックプレーンとなるアクティブマトリックス駆動回路を、該材料からなる膜又はフィルム状の形成体に高温下で直接形成することが可能となる。
膜又はフィルム状の形成体に駆動回路を直接形成できることによって、ガラス基板等の耐熱性を有する支持体上に前記駆動回路を形成した後にこれを樹脂フィルムに転写する等の従来方法を用いる必要がなくなり、ディスプレイの製造工程を少なくすることができる。これにより、次世代のフレキシブルディスプレイ用材料の製造に好適であるばかりでなく、重量及びコストの面でも優位であるという利点が得られる。また、ガラス基板を用いてディスプレイ用材料をバッチ生産する方式と異なり、層状無機化合物を含む材料が膜状に形成されたロール状のフィルムをそのまま用いてディスプレイ用材料を連続生産するロールトゥロール生産も可能となる。
なお、それら駆動回路は従来のシリコンをベースとした半導体技術によって構成してもよいが、ペンタセン及びチオフェン類に代表される有機半導体又はアモルファス無機半導体を用いてもよい。その際には回路形成にフォトリソグラフィー法を用いてもよいし、インクジェット法及びナノインプリント法等の印刷法を用いてもよい。
なお、有機ELディスプレイ及び電子ペーパーのバックプレーン、すなわち光を取り出す方向と反対方向の用途においては透明性は一般に不要であるが、本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料が透明である場合、ディスプレイの視認側及び有機EL照明の光取り出し側に用いることが好適である。
なお、本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料を適用可能な液晶ディスプレイの方式としては、TN、STN、VA、IPS等の種類が挙げられるが、複屈折制御剤を用いることで膜厚方向の複屈折を自由に調整することができるため、上記方式は特に限定されるものではない。厚み及び複屈折制御剤によって複屈折を調整することで、該材料を位相差板として用いることも可能である。
また、有機ELディスプレイ及び有機EL照明においても、トップエミッション型及びボトムエミッション型の双方に本発明を適用することができる。さらには、該材料は、電子ペーパーとしても、例えば電気泳動駆動式、電子粉流体方式、液晶を用いた方式等で特に限定されず用いることができる。
上記のディスプレイを駆動する回路としても、パッシブマトリクス方式及びアクティブマトリクス方式の双方に該材料を用いることができる。利用形態としては、回路を形成するための基板として、並びに外部からの酸素及び水蒸気を遮断するためのガスバリア層として、のいずれも可能である。
その他には、本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料が絶縁性である特徴を生かして、フィルム状の該材料を電気回路のフレキシブル基板として広範囲に用いることもできる。該材料を電気回路の基板として利用する場合、電子部品を実装する際の位置合わせに画像処理を用いる事が多く、その場合には基板に透明性が要求されるため、透明性を有するフィルム状の材料は好適である。特に、基板上の導体部分を導電性インクの塗布又は印刷で形成したフレキシブルプリント基板においては、フィルム状の材料の耐熱性と低い線膨張係数とを生かして導電性インクをより高温で焼成することが可能なため、塗布又は印刷で形成した導体部分の抵抗率をより低くすることが可能である。このようなフレキシブル基板及びフレキシブルプリント基板の好適な用途としては、RFIDタグの基板、銅張積層板等が挙げられる。
さらに、本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料は、光を通過させる必要があり、かつガスバリア性が要求される太陽電池にも適用することができる。太陽電池用の基板、保護層及びバックシートには高いガスバリア性能も求められるため、該材料を膜状に加工したものは太陽電池用途にも好適である。適用できる太陽電池の種類としては、結晶シリコン系、薄膜シリコン系、CIGS系のような化合物系、色素増感太陽電池、及び有機薄膜太陽電池等が挙げられ、特に高いガスバリア性を要求する有機薄膜太陽電池には好適である。さらに該材料は、CD−R及びDVD等の記録媒体の情報記録部位を酸素等から保護する保護膜としても有望である。
さらに、食品、医薬品又は電子部品等を梱包する包装材又は容器に該材料を用いることで、透明で中身が見えるという該材料の特徴を生かし、かつ包装材及び容器のガスバリア性を向上させることができる。
そのほかにも、本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料は、有機溶媒混合分散体を塗工することによって得られる材料であるため、酸素及び水蒸気から物体の表面を保護するコーティング材として用いることが可能である。このとき、該材料をコーティングする表面の形は平坦である必要はなく、3次元的に凸凹があってもよい。このようなコーティングによって、物体の表面及び内部が酸化等によって劣化していくことを抑制することができる。例えば、太陽電池のバックシートの代わりに、有機溶媒混合分散体を直接太陽電池表面に塗工してガスバリア性を付与することも可能である。
また、上記のコーティング特性を用いて、物体の貼り合わせ部に有機溶媒混合分散体を塗工することで、貼り合わせ面からのガスの進入を抑制することができる。
また、層状無機化合物を含む材料は、前述のような電子デバイス以外に、液体及び気体の搬送用のチューブ並びに貯蔵用のタンク等のガスバリア層に用いることも好適である。有機溶媒混合分散体から塗工することで、該チューブ及びタンクの内外面に立体的に該材料をコーティングすることができる。該材料は、特に、ガスバリア性が求められる、燃料電池の水素タンク及び輸送用ホース、並びにガソリンのホース及びタンクの構成材料として好適に用いることが可能である。該材料はまた、高いガスバリア性と金属に比較しての熱伝導率の低さとを生かして真空断熱材の真空保持材に用いることも好適である。その他、該材料は、電子部品、医薬品、食品等の水蒸気バリア性能が要求される包装材用途に対しても好適である。
上記の各用途においても、層状無機化合物として平均アスペクト比が150以上のフッ素化ヘクトライト若しくはフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト若しくは合成フッ素化雲母)を用いた材料が特に好適である。
なお、前述したディスプレイ、フレキシブル基板、フレキシブルプリント基板、太陽電池、有機半導体又はアモルファス無機半導体を有する電子デバイス等、梱包材、容器、チューブ及びタンク、並びに表面コーティング等に対して、本発明を適用して形成されるフィルム状又は膜状の材料を適用する際には、それらの材料をそのまま適用してもよいし、必要に応じて膜に別の機能を有する形成体(例えば主として無機材料からなるガスバリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐ保護層、表面を平滑化する平滑化層)等を付与してもよい。特に、ガスバリア性能をさらに高めるために、公知の無機薄膜、上記フィルム状又は膜状の材料、及びそれらを保護する主として樹脂材料からなる膜を積層させることは有効である。
例えば、任意の樹脂フィルム上に膜状に形成された、本発明を適用して形成される材料の上に、さらに、樹脂又は無機材料からなる、例えば膜状の材料を1層又は任意の組組み合わせの2層以上の多層で積層してもよい。さらに、積層された該多層の膜を樹脂フィルムから剥がしてもよい。例えば、樹脂フィルム−アンカーコート層−{本発明を適用して形成される膜状の材料−樹脂又は無機材料からなる膜−}平滑化層−保護層、のような組み合わせが好適である。括弧で示された膜状の材料と樹脂又は無機材料からなる膜との積層部分は、1層ずつでも、任意の組み合わせで多層積層されていても良い。また、樹脂又は無機材料からなる膜、アンカーコート層、平滑化層及び保護層はあってもなくても良く、それぞれの層は1層でも複数の層でもよい。
上記無機材料からなる膜を積層する場合、該膜としては、酸化珪素、アルミニウム、亜鉛スズ、並びに鉛の酸化物、炭化物、窒化物、酸炭化物、酸窒化物、炭化窒化物及び酸炭化窒化物のうちの1種又は2種以上の混合物等からなる、ガスバリア材料として公知の任意の薄膜層が好適である。
本発明を適用して形成される、層状無機化合物を含む材料の気体ガス透過量は、代表的な酸素ガスの場合で0.1cc・mm/(m2・day・atm)未満であることが好ましく、より好ましくは0.01cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、さらに好ましくは0.001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、よりさらに好ましくは0.0001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、最も好ましくは0.00001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、0.000001cc・mm/(m2・day・atm)未満である場合には極めて好ましい。上記の透過量は、乾燥した環境下のみならず、水蒸気を多く含む環境下においても同等であることが好ましい。特に、40℃で相対湿度90%の環境においても気体ガスの透過量が上記範囲である材料が好ましい。
なお上記ガス透過量は、JIS K7126に準拠して測定される値である。
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における分散体及び材料の物性は、下記の方法で評価した。
(1) 材料の吸湿率の測定
材料を粉体状に細かくし、大気下1気圧において150℃で2時間乾燥させた後、直ちに重量を測定し、この重量をH1gとした。その後、大気下1気圧において温度が40℃でかつ相対湿度が90%の環境下に24時間その材料を暴露した後、直ちに重量を測定し、この重量をH2gとした。このとき、以下の式によって算出される値を吸湿率とした。
吸湿率(%)=(H2−H1)/H1×100(%)
(2) 材料の透明性
株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計UV−3101PCで波長300nm以上800nm以下の波長範囲における透過率を測定することで、特定の波長における直線光の透過率を計測した。全光線透過率とヘイズに関しては、日本電色工業株式会社製の濁度計「NDH2000」で測定した。なお、ここでいう全光線透過率及びヘイズとは、日本工業規格に規定されたプラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法JIS K 7361、プラスチックの光学的試験方法JIS K 7105、プラスチック透明材料のヘイズの求め方JIS K 7136に準拠して求めたものであり、全光線透過率に関してはJIS K 7361、ヘイズに関してはJIS K 7105とほぼ同じ値が得られる「NDH2000における測定方法1」によって測定されたものである。
(3) 分散体中のイオンの存在割合
イオンクロマトグラフィー分析を、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.36mMolのNaHCO3溶液と1.44mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件にて実施して定量した。
(4) 平均粒子径
動的光散乱法によって平均粒子径を決定した。装置としては、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELSZ−2を用い、液温25℃にて約0.005質量%から0.5質量%の範囲で分散体の濃度を変化させ、その範囲内で濃度に対する依存性が認められない範囲を決定した。さらにその範囲内で散乱強度の高い濃度を任意に決定し、その濃度で3回測定を実施して、キュムラント解析結果に基づく平均粒子径の平均値をその分散体の平均粒子径とした。
(5) 酸素バリア性
JIS K7126に準拠したGTRテック株式会社製のガス・水蒸気透過率測定装置GTR−30XAASを用い、透過面積50.24cm2、差圧3気圧、酸素ガスをキャリアガスとして、温度24℃相対湿度0%、及び温度40℃相対湿度90%において測定した。
(6) X線回折分析
株式会社リガクのX線回折装置「RINT−2500」によって行った。X線波長は、Cu/Kαの1.54056Åを用いた。測定環境は気温25℃相対湿度50%で行った。
(7) 熱に対する寸法安定性
株式会社島津製作所の「TMA−60」で線膨張係数を測定した。測定の際、試料幅は5mm、荷重は10gとし、昇温レート5℃/分で行った。
(8) 貯蔵弾性率の測定
株式会社オリエンテック製の動的粘弾性装置バイブロン「DDV−01FP」で動的粘弾性測定を実施した。測定の際、サンプルサイズは3mm×40mm,チャック間距離は35mm,周波数は1Hz,荷重は6g,昇温速度は3℃/min,サンプル振幅は16μmで測定を行なった。
[実施例1]
層状無機化合物として層間イオンが主としてナトリウムイオンである溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:NHTゾルB2、トピー工業株式会社製)を用いた。
固形分濃度4.6質量%のNHTゾルB2水分散液300gを、超音波ホモジナイザーUS−600T(株式会社日本精機製作所製)を用い、チップ径36mmφ、V−LEVEL約3にて30分超音波照射した後、遠心分離装置himac CR20(株式会社日立製作所製)を用い、ローター番号13、500ml遠沈管を用い、6000rpm1時間の条件で遠心分離を行い、沈降物を分離除去して、プレ分散液を得た。得られたプレ分散液の固形分濃度は4.5質量%であり、平均粒子径は濃度依存性が大きいものの、0.1質量%より希薄に希釈した状態でほぼ一定値を示し、そのときの値は約157nmであった。分散液中の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが5.3質量%、リチウムイオンが0.059質量%、アンモニウムイオンが0.15質量%、カリウムイオンが0.047質量%であり大部分がナトリウムイオンであった。また、フッ素イオンが同0.78質量%、硫酸イオンが0.071質量%であった。
同合成ヘクトライトのメーカー提示によるCECは約100meq、前述の公知の方法で測定した値は約85meqであり、これより層間イオンとして存在しうるナトリウムイオンの割合は層状無機化合物の2.0〜2.3質量%であるため、上記データより少なくとも3〜3.3質量%のナトリウムイオンは余剰イオンとして存在していると考えられる。
このプレ分散液の粘度を、B型粘度計TV−33(東機産業株式会社製)を用いて測定したところ、回転数が12rpmの場合における粘度は4.3mPa・sであった。このプレ分散液の紫外可視吸収スペクトルを図1のAに示す。
このプレ分散液を固形分濃度2質量%に希釈したものを、本発明における水分散体とした。1Nの水酸化カリウムによって十分に水酸化物イオン型に調整した後に純水で十分に洗浄した陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400、オルガノ株式会社製)20mlをガラス製のカラムに詰めて、200mlの水分散体を1秒毎に約1滴の速度で上記の陰イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、水酸化物イオンへの陰イオン交換を行った。
1Nの塩化アンモニウム水溶液によって十分にアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120B、オルガノ株式会社製)約20mlをビーカーに入れ、そこに約10質量%のアンモニア水を攪拌しながら液がアルカリ性になるまで滴下した。そのようにしてアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂をガラス製のカラムに詰め、さらに1Nの塩化アンモニウム水溶液約200mlを1秒毎に約1滴の速度で流した後、約1000mlの純水で十分に洗浄し、カラムに詰まった十分にアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂を得た。
前述の陰イオン交換を行った水分散体150mlを、1秒毎に約1滴の速度で上記のアンモニウムイオン型に調整された陽イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、アンモニウムイオンへの陽イオン交換を行った、僅かに濁りのある水分散体を得た。得られた水分散体中の固形分の平均粒子径は151nm、この水分散体の固形分中のナトリウムイオンの存在割合は0.29質量%であって、層間イオンに占めるナトリウムイオンの割合は0質量%以上14.5質量%以下と算出された。すなわち、少なくとも85.5質量%以上の層間イオンは主としてアンモニウムイオンへ交換されたと考えられる。なお、固形分中の存在割合としては、アンモニウムイオンが5.14質量%、フッ素イオンが0.04質量%、硫酸イオンの量が検出限界以下であった。前述の方法と同様にして測定されたこの水分散体の粘度は5.1mPa・sであった。この水分散体の紫外可視吸収スペクトルを図1のBに示す。
得られた水分散体のpHは9.4であった。また、該水分散体をエバポレーターにて約60hPa,60℃の条件にて5分間減圧加熱すると、pHは8.1に低下した。
[実施例2]
実施例1と同様に層状無機化合物として溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトを用い、実施例1と同様にして余剰塩の除去及び層間イオンのアンモニウムイオンへのイオン交換を行って得た、固形分濃度2質量%の層間イオンがアンモニウムイオンに交換された水分散体を得た。
この水分散体130.5gとN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)58.8gを混合し、ロータリーエバポレーターにて約60hPa,60℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去して、大部分の分散媒がDMACである、固形分濃度として約4.5質量%の極めて透明な分散液57.6gを本発明における有機溶媒分散体として得た。この有機溶媒分散体の紫外可視吸収スペクトルを図1のCに示す。後述の実施例3と同様にして測定されたこの有機溶媒分散体の粘度は39.9mPa・sであった。
この有機溶媒分散体に、本発明における樹脂としてのエチレン含量44モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(Aldrich社製)が固形分濃度として10質量%となるよう溶解したDMACを溶媒とする溶液11.2gを添加し、60℃で30分攪拌した後、同条件の同ロータリーバポレーターにてさらに約5分減圧加熱して、層状無機化合物とエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する分散液を、本発明における有機溶媒混合分散体として得た。
表面が易剥離処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをホットプレート上に敷き、ステンレス製のへらとテフロン(登録商標)製の厚み2mmのガイドを用いて、この有機溶媒混合分散体をその液厚みが約2mmとなるようにしてPETフィルム上に塗布した。その後、ホットプレートの設定温度を70℃とし約4時間、次に続いて90℃として約3時間乾燥させて分散媒を加熱除去し、層状無機化合物の割合が70質量%の膜状の材料を得た。
その後、PETフィルムからその膜状の材料を剥離し、真空乾燥機にて100℃1時間、次に150℃で2時間乾燥させて、分散媒を十分除去した。
得られた膜状の材料は表面の形状に乱れがあったものの、目視で着色の認められない平均膜厚75μmの膜であった。この膜の吸湿率は0.7%であった。
この膜の全光線透過率は91.9%、ヘイズは11.1%であった。波長400nmにおける直線光の透過率は74.5%、波長550nmにおける直線光の透過率は80.1%であり、波長380nmから780nmまでの範囲における透過率の最大値と最小値の差は9.86%であった。この膜の紫外可視吸収スペクトルを図2のDに示す。
この材料のX線回折を測定したところ、分散媒除去時、支持体であるPET側と反対であった大気面側で2θ=6.32の位置(層間距離に換算して1.40nm)、支持体であるPETと密着していた面で2θ=6.57の位置(層間距離に換算して1.34nm)に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
この膜の寸法安定性を確認するため線膨張係数を測定した。測定の際、最初に常温から250℃まで加熱した後42℃まで冷却した後、同様に261℃まで加熱して測定したところ、47℃から261℃の範囲における平均の線膨張係数の絶対値は4.3ppm/℃であり、熱に対する寸法安定性が極めて高いことが示された。
この膜の酸素バリア性を測定したところ、24℃において水蒸気を含まない高純度酸素ガスの透過係数は0.0069cc・mm/(m2・day・atm)以下(装置の測定限界以下)、40℃において相対湿度90%の水蒸気を含む高純度酸素ガスの透過係数は0.0041cc・mm/(m2・day・atm)以下(装置の測定限界以下)であり、高水蒸気環境下でも酸素ガスに対して高いガスバリア性を有していることが示された。
この膜の赤外吸収を反射型赤外分光装置(ATR)にて両面とも測定した結果、多少の差異はあるものの、両面ともに層状無機化合物及びエチレン−ビニルアルコール共重合体由来のピークを強く検出し、層状無機化合物とエチレン−ビニルアルコール共重合体が膜厚方向で大きく層分離せず存在していることが確認できた。
[実施例3]
実施例2と同様にして、余剰塩が除去され、及び層間イオンがアンモニウムイオンに交換された、固形分濃度2質量%の溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液26.0gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)15.3gを混合し、実施例2と同様にして分散媒を除去して、大部分の分散媒がDMFである、極めて透明な分散液10.7gを本発明における有機溶媒分散体として得た。
この有機溶媒分散体に、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製のエスレックBX−1)が固形分濃度として10質量%となるよう溶解したDMFを溶媒とする溶液12.1gを添加し、実施例2と同様の条件で同ロータリーエバポレーターにてさらに減圧加熱して、層状無機化合物とポリビニルブチラールを含有する極めて透明な分散液20.3gを本発明における有機溶媒混合分散体として得た。
その後、実施例2と同様にして分散媒を除去し、層状無機化合物の割合が30質量%の平均膜厚140μmの厚い膜状の材料、及び平均膜厚73μmで全光線透過率が89.0%、ヘイズが4.8%の膜状の材料を得た。平均膜厚130μmの膜の吸湿率は4.8%であった。平均膜厚73μmの膜の紫外可視吸収スペクトルを図2のEに示す。
この材料のX線回折を測定したところ、分散媒除去時、支持体であるPET側と反対であった大気面側で2θ=6.35の位置(層間距離に換算して1.39nm)、支持体であるPETと密着していた面で2θ=6.36の位置(層間距離に換算して1.39nm)に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
平均膜厚140μmの膜の寸法安定性を、実施例2と同条件にて測定したところ、46℃から261℃の範囲における平均の線膨張係数の絶対値は1.9ppm/℃であり、熱に対する寸法安定性が極めて高いことが示された。
平均膜厚140μmの膜の貯蔵弾性率を30℃から測定したところ、約140℃でサンプルが破断してしまったものの、30℃から130℃付近の間で貯蔵弾性率が急激に低下するところが見られず、測定したすべての温度範囲で10GPa以上を保っていた。ポリビニルブチラールのみからなる膜ではそのガラス転移温度付近である60℃付近から貯蔵弾性率が急激に低下し、93℃において1.6MPaとなって、それ以上の温度では事実上貯蔵弾性率がほとんど0となってしまう事実と比較すると、本発明を適用して形成される材料は添加剤として混合した樹脂のガラス転移温度を超えても、その貯蔵弾性率が大きく減少しないことが示された。
実施例2と同様にATRにて材料の赤外吸収を両面とも測定した結果、両面ともに層状無機化合物及びポリビニルブチラール由来のピークをほぼ等しく検出し、層状無機化合物とポリビニルブチラールが両面とも均一に存在していることが分かった。
[実施例4]
実施例3と同様にして、余剰塩が除去され、及び層間イオンがアンモニウムイオンに交換されたフッ素化ヘクトライトの、DMFを主たる分散媒とする固形分濃度が3.63質量%である分散液を本発明における有機溶媒分散体として得た。
この有機溶媒分散体9.60gに、変性シリコーンKF9904(信越化学工業株式会社製)を0.044g添加し、室温で2時間攪拌して、透明材料を形成する分散液を本発明における有機溶媒混合分散体として得た。
その後、実施例2と同様にして分散媒を除去し、層状無機化合物の割合が約89質量%の、平均膜厚21μmで全光線透過率が91.0%、波長400nmにおける直線光の透過率が83.9%、ヘイズが5.4%の膜状の材料を得た。紫外可視吸収スペクトルを図2のFに示す。
この材料のX線回折を測定したところ、分散媒除去時、支持体であるPET側と反対であった大気面側で2θ=6.58の位置(層間距離に換算して1.34nm)、支持体であるPETと密着していた面で2θ=6.70の位置(層間距離に換算して1.32nm)に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
実施例2と同様にATRにて材料の赤外吸収を両面とも測定した結果、両面ともに層状無機化合物及び変性シリコーンKF9904由来のピークを強く検出し、層状無機化合物と変性シリコーンKF9904が層分離せず存在していることが確認できた。
[実施例5]
層状無機化合物として層間イオンが主としてナトリウムイオンである溶融法によって合成されたフッ素化雲母の分散液(商品名:NTS−5、トピー工業株式会社製)を用いた。
純水によって固形分濃度を2質量%に希釈したNTS−5水分散液400gを、実施例1と同じ遠心分離装置により8000rpm10分の条件で遠心分離し、沈降物を分離除去して、プレ分散液を得た。得られたプレ分散液の固形分濃度は0.47質量%であった。また、プレ分散液中の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが8.1質量%、フッ素イオンが2.9質量%、硫酸イオンが0.037質量%、硝酸イオンが0.20質量%であった。
このプレ分散液を用い、実施例1と同様にして水分散体の調製、余剰塩の除去及び層間イオンのアンモニウムイオンへのイオン交換を行い、固形分濃度が0.58質量%の水分散体を得た。この水分散体の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが0.10質量%、アンモニウムイオンが4.6質量%、フッ素イオンが0.043質量%、硫酸イオンが0.017質量%、硝酸イオンが検出限界以下であった。すなわち、前記のイオン交換によってナトリウムイオンの98.8質量%が除去されたことになる。
この水分散体71.1gとDMF67.9gを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、残留水分の割合が約10.6質量%にまで低減されたDMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約0.99質量%の透明な分散液41.6gを本発明における有機溶媒分散体として得た。この有機溶媒分散体を一昼夜放置しても、層状無機化合物の析出や沈降は目視では認められなかった。
実施例3で用いたポリビニルブチラール1.0gを10.0gのDMFに溶かし、その溶液2.31gに前記有機溶媒分散体10.0gを添加し、室温で約30分攪拌して、透明な分散液を本発明における有機溶媒混合分散体として得た。その後、実施例2と同様にして、層状無機化合物の割合が30質量%の、平均膜厚43μmで全光線透過率が90.8、%、ヘイズが19.3%の膜状の材料を得た。
この材料のX線回折を測定したところ、分散媒除去時、支持体であるPET側と反対であった大気面側において、2θ=6.50の位置(層間距離に換算して1.36nm)に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
[実施例6]
層状無機化合物として層間イオンが主としてナトリウムイオンであるタルク変性法によって合成されたフッ素化雲母の分散液(商品名:MEB3、コープケミカル株式会社製)を用いた。
純水によって固形分濃度を2質量%に希釈したMEB3水分散液400gを、実施例1と同じ遠心分離装置により8000rpm10分の条件で遠心分離し、沈降物を分離除去して、プレ分散液を得た。得られたプレ分散液の固形分濃度は1.36質量%であった。また、プレ分散液中の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが3.3質量%、フッ素イオンが0.26質量%、硫酸イオンが0.024質量%であった。
このプレ分散液を用い、実施例1と同様にして水分散体の調製、余剰塩の除去及び層間イオンのアンモニウムイオンへのイオン交換を行い、固形分濃度が1.25質量%の水分散体を得た。この水分散体の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが0.060質量%、アンモニウムイオンが2.4質量%、フッ素イオンが0.042質量%、硫酸イオンが0.010質量%であった。すなわち、前記のイオン交換によってナトリウムイオンの98.2質量%が除去されたことになる。
この水分散体61.8gとDMF85.4gを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、残留水分の割合が約6.5質量%にまで低減されたDMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約1.61質量%の透明な分散液47.9gを本発明における有機溶媒分散体として得た。この有機溶媒分散体を一昼夜放置しても、層状無機化合物の析出や沈降は目視では認められなかった。
実施例5で用いたポリビニルブチラール1.0gを10.0gのDMFに溶かした溶液3.76gに前記有機溶媒分散体10.0gを添加し、室温で約30分攪拌して、透明な分散液を本発明における有機溶媒混合分散体として得た。その後、実施例2と同様にして、層状無機化合物の割合が30質量%の、平均膜厚45μmで全光線透過率が91.3%、ヘイズが60.6%の膜状の材料を得た。
この材料のX線回折を測定したところ、分散媒除去時、支持体であるPET側と反対であった大気面側において、2θ=6.30の位置(層間距離に換算して1.40nm)に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
[実施例7]
層状無機化合物として、層間イオンが主としてナトリウムイオンである溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、トピー工業株式会社製)を用い、実施例1と同様にして同様のプレ分散液を得た。
このプレ分散液(イオン交換に供していないもの)に純水を加え、固形分濃度を0.5質量%とした分散液を本発明における水分散体として調製した。この水分散体を、ペンシル型モジュール用小型実験装置PS−24001(旭化成株式会社製)及びマイクローザAHP−0013(分画分子量:50000、旭化成株式会社製)を用いて濃縮し、濃縮液の固形分濃度が1.0質量%になるまで分散媒の濾過を行い、分散液と分散媒を分離することで、分散媒とともに分散液中の余剰塩を排出した。
その後、再び前記濃縮液に純水を加え、固形分濃度を0.5質量%とした後、上記と同様の濃縮・分散媒の分離操作を計6回繰り返し、固形分濃度が1.0質量%の水分散体を得た。
この水分散体の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが3.18質量%、フッ素イオンが0.038質量%、硫酸イオンが0.028質量%であった。すなわち、前記のイオン交換によってフッ素イオンの86.4質量%、硫酸イオンの74.5質量%が除去されたことになる。
この水分散体に対して、前述の実施例群と同様にしてアンモニウム型に調整したイオン交換樹脂を接触させ層間イオンをアンモニウムイオンに交換した後、必要に応じて分散媒を有機溶媒に置換して添加剤を混合した後、分散媒を除去すると、層状無機化合物を含有する材料を得ることができる。
[実施例8]
実施例1で用いた合成フッ素化ヘクトライトを用い、実施例1と同様にして超音波照射及び遠心分離を行って得た、固形分濃度が4.5質量%のプレ分散液を2質量%に希釈して水分散体を調製した後、実施例1と同様にして水酸化物イオンへの陰イオン交換を行った。
1Nの塩酸によって十分に水素イオン型に調整した後、純水で十分に洗浄した実施例1と同じ陽イオン交換樹脂約20mlをカラムに詰めて、200mlの水分散体の水素イオンへの陽イオン交換を行い、カラムより出てきた液を、氷水で冷やしながら容器に捕集した。捕集後、液を氷水で冷やしながら直ちに10質量%のアンモニア水を、pH試験紙でpHが7後半程度になるように攪拌しながら微量滴下した。
この水分散体の固形分中の存在割合としては、ナトリウムイオンが0.37質量%、アンモニウムイオンが2.0質量%であり、実施例1の場合と比較してアンモニウムイオンがより少なくなっていることが分かった。
[実施例9]
実施例1と同様にして、固形分濃度2質量%の層間イオンがアンモニウムイオンに交換された、合成フッ素化ヘクトライトの分散液37.7gとN,N−ジメチルホルムアミド43.6gを混合し、実施例2と同様にして分散媒を交換し、大部分の分散媒がDMFである、極めて透明な分散液23.5gを本発明における有機溶媒分散体として得た。
この有機溶媒分散体に、ポリエーテルスルホン(住友化学工業株式会社製のスミカエクセル4100P)が固形分濃度として10質量%となるよう溶解したDMFを溶媒とする溶液4.4gを添加した。実施例2と同条件で同ロータリーエバポレーターにてさらに減圧加熱した後、さらに同ポリエーテルサルフォン溶液を13.2g添加し、さらに実施例4と同条件で同ロータリーエバポレーターにてさらに減圧加熱して、層状無機化合物とポリエーテルサルフォンを含有する極めて透明な分散液30.3gを本発明における有機溶媒混合分散体として得た。
その後、実施例2と同様にして分散媒を除去し、層状無機化合物の割合が30質量%の平均膜厚130μmの厚い膜状の材料、及び平均膜厚23μmで全光線透過率が87.2%、ヘイズが14.1%の薄い膜状の材料を得た。平均膜厚130μmの膜の吸湿率は1.0%であった。
この膜の加熱による着色黄変特性を評価するため、平均膜厚23μmの膜を大気中1気圧の環境で250℃1時間加熱した後、全光線透過率を測定したところ、全光線透過率は86.2%でその低下は極微量であり、着色は認められなかった。
この膜の寸法安定性を確認するため、平均膜厚130μmの膜を用い、実施例5と同条件にて線膨張係数を測定した。46℃から229℃の範囲における平均の線膨張係数の絶対値は16ppm/℃であり、熱に対する寸法安定性が高いことが示された。
この膜の貯蔵弾性率を確認するため、平均膜厚130μmの膜を用い、実施例3と同条件にて動的粘弾性測定を実施した。わずかに250℃付近で貯蔵弾性率の低下が認められたものの、30℃から350℃付近の間で貯蔵弾性率が1桁以上低下するところは見られず、測定したすべての温度範囲で10GPa以上を保っていた。同ポリエーテルスルホンのみからなる膜では220℃付近から貯蔵弾性率が急激に低下し、ガラス転移温度を超えたと考えられる240℃において貯蔵弾性率がほとんど0となってしまう事実と比較すると、本発明を適用して形成される材料は添加剤として混合した樹脂のガラス転移温度を超えても、その貯蔵弾性率が大きく減少しないことが示された。
[比較例1]
実施例1で用いた合成ヘクトライトを用い、実施例1と同様にして超音波照射及び遠心分離を行って得た、固形分濃度が4.5質量%のプレ分散液10.0gを、陽イオン交換及び陰イオン交換を行わずにそのままN,N−ジメチルアセトアミド10.0gと混合し、ロータリーエバポレーターにて約60hPa,60℃の条件にて減圧加熱することで、残る分散媒の大部分がN,N−ジメチルアセトアミドとなるよう、分散媒を10.2g除去した。しかしながら、除去過程で粒状の凝集物が析出し、残った分散液はゲル化してしまい、透明かつ十分な流動性及び均一性のある分散液は得られなかった。
[比較例2]
平均アスペクト比が約50で、水への分散性に優れた合成サポナイト(商品名:スメクトンSA、クニミネ工業株式会社製)を用いた。
150℃で1時間焼成して水分を除去した固体のスメクトンSA2.0gとDMF98gとをガラス製のスクリュー管内で混合した。スメクトンSAは分散せず、わずかに膨潤して体積が増大した状態で、スクリュー管の底に沈殿した。
1Nの塩酸によって十分に水素イオン型に調整した実施例1で用いたものと同じ陽イオン交換樹脂約10mlと、水酸化物イオン型に調整した実施例1で用いたものと同じ陰イオン交換樹脂約14mlとを、均一に混ざるように良く混合した。
この混合したイオン交換樹脂5.0gを前記のスメクトンSAとDMFとを混合した液に加え、1時間攪拌した。スメクトンSAは分散せず、膨潤して体積が増大した状態で底に沈殿する状態に変わりはなかった。
この混合液を1ヶ月放置し続けても、スメクトンSAの沈殿状態に変化は認められなかった。このことはすなわち、層間イオンとしてナトリウムイオンを主として含む水膨潤型層状無機化合物が、有機溶媒中では限定的な膨潤はしても分散はしないため、イオン交換樹脂で余剰塩を除去することができず、直接有機溶媒中へ分散させることはできないことを示している。