以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の画像表示システムの全体構成を示す模式的な斜視図である。図1に示す画像表示システムは、画像表示装置1と、この画像表示装置1の前面に配置された略透明な薄板状の光学素子2と、光学素子2を駆動する駆動装置3と、を含んで構成されている。
画像表示装置1は、外部から入力される画像信号に基づいて画像(動画又は静止画)を表示する。この画像表示装置1としては、例えばバックライトと偏光板を使った液晶表示装置が用いられる。なお、本実施形態の画像表示装置1は、出射される光が偏光していればよく、液晶表示装置のみに限定されない。例えば、単色タイプで外観が鏡面になっていない有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置等を画像表示装置1として用いてもよい。
光学素子2は、外観上ほぼ透明な薄板状の素子であり、画像表示装置1の前面、すなわち画像表示装置1と観察者との間に配置される。この光学素子2は、駆動装置3から供給される駆動信号に応じて、画像表示装置1から出射される光の状態を制御する。それにより、観察者側において視認される表示画像に視覚効果(詳細は後述)が与えられる。
図2は、光学素子2の構造を示す模式的な断面図である。なお、図2においては便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する(後述する図面においても同様)。図2に示す本実施形態の光学素子2は、第1基板11、第1電極12、プリズムアレイ13、配向膜(第1配向膜)14、第2基板15、第2電極16、配向膜(第2配向膜)17、液晶層18を含んで構成される。
第1基板11および第2基板15は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板11と第2基板15との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており、それらのスペーサーによって第1基板11と第2基板15との相互間隔が保たれる。
第1電極12は、第1基板11の一面側に設けられている。同様に、第2電極16は、第2基板15の一面側に設けられている。第1電極12および第2電極16、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極12、第2電極16ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極12、第2電極16は、適宜パターニングされていてもよい。
プリズムアレイ13は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。図3にプリズムアレイ13の模式的な斜視図を示す。図3のように、本実施形態における各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角75°、底角が15°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば20μm程度、高さtは例えば5.2μm程度である。図3に示すように、プリズムアレイ13は、上面から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ13は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ13の成形方法の詳細については後述する。
配向膜14は、第1基板11の一面側に、第1電極12およびプリズムアレイ13を覆うようにして設けられている。また、配向膜17は、第2基板15の一面側に、第2電極16を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜14および配向膜17として、液晶層18の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。これらの配向膜14、17に対しては、所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。
液晶層18は、第1基板11の一面と第2基板15の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)のネマティック液晶材料を用いて液晶層18が構成されている。液晶層18に図示された太線は、液晶層18内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、第1基板11および第2基板15の各基板面に対して所定のプレティルト角を有してほぼ水平に配向する。
図4は、画像表示装置1からの出射光の偏光方向と、光学素子2における配向処理の方向との関係を説明するための図である。図示のように、本実施形態の画像表示装置1は、偏光板を備えた液晶表示装置であり、当該偏光板を通過した出射光が方向a1に偏光している。図示の例では、画像表示装置1の左右方向を基準として45°の方向に出射光が偏光している。これに対して、第1基板11は、配向膜14へ施された配向処理の方向a2が上記した出射光の偏光方向a1と略平行になるように配置されている。図示の例では、配向処理の方向a2は、プリズムアレイ13の各プリズムの長手方向(延在方向)a3との間で略45°に設定されている。また、第2基板15は、配向膜17へ施された配向処理の方向a4が上記した第1基板11の配向処理の方向a2との間でアンチパラレルの関係になるように配置されている。
ここで、第1基板11の配向処理の方向a2を画像表示装置1の出射光の偏光方向a1と略平行とすることによる利点について説明する。通常、液晶層18の液晶分子は、細長い形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることができるが、ある方向の偏光はそのまま透過する。したがって、画像表示装置1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子2において画像表装置側1に配置される第1基板11に施される配向処理の方向a2とが平行になるように配置することにより、原理的には、出射光の全成分を曲げることができる。すなわち、光の利用効率が高くなる。
これに対して、例えば画像表示装置1からの出射光の偏光方向a1と光学素子2における配向処理の方向a2が45°になるように配置した場合には、原理的に、出射光のうち約1/2の成分は曲げられるが残りの成分は制御することができなくなる。さらに、偏光方向a1と配向処理の方向a2とが直交するように配置した場合には、原理的に、光学素子2によって画像表示装置1の出射光を制御することができなくなる。
したがって、画像表示装置1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子2における配向処理の方向a2とが略平行になるように配置することがより望ましいといえる。なお、プリズムアレイ13の各プリズムの長手方向a3については、表示画像全体をどちらの方向に移動させるかという点では考慮する必要があるが、表示画像を移動可能かという点ではどの方向に設定しても影響がない。
次に、第1実施形態の画像表示システムにおける光学素子2の製造方法の一例について詳述する。
まず、第1基板11および第2基板15として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスであるガラス基板を1セット用意する。第1基板11、第2基板15のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極12、第2電極16を形成する。
次に、第1基板11の第1電極12上にプリズムアレイ13を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、そのピッチPが20ミクロン、高さtが約5.2μm、頂角75°、底角が15°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型(全体の大きさが例えば横80mm×縦80mm)を用いて、図6および図7に示す製造方法によってプリズムアレイ13を形成する。
ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ13上に配向膜14を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では、図5にその特性を示すように、熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(紫外線硬化性)のアクリル系樹脂を用いる。図5に示す特性は、220℃で2時間の熱処理を行い、熱処理前後での透過率の違いを評価したものである。図示のサンプルのように、短波長側でごく僅かに透過率の低下が見られるものの、ほぼ全可視波長域において初期と同等の透過率を示す材料を用いてプリズムアレイ13を形成することがより好ましい。ここで用いたアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなくガラスへの密着性も優れているとともに金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本実施形態のプリズムアレイ13を形成する材料として好適である。なお、これ以外のエポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、適用可能と考えられる。
上記のような光硬化性樹脂を用いたプリズムアレイ13の製造工程を図6および図7に基づいて詳述する。まず、図6(a)に示すように、土台63の上側に金型60をセットする。金型60の大きさは、例えば横80mm×縦60mm程度とすることができる。この金型60には、表面に離型剤もしくはコーティング剤が施されていることが好ましい。また、金型60にエアー抜き用の微小な溝が形成されていることも好ましい。
次いで、図6(b)に示すように、金型60の上に所定量の光硬化性樹脂材料61を供給する。光硬化性樹脂材料61としては、例えば屈折率1.51の材料を用いることができる。本工程における光硬化性樹脂材料61の供給量(滴下量)を制御することにより、光学素子2のプリズムアレイ13を所望の大きさに形成できる。
次いで、図6(c)に示すように、金型60の上に、光硬化性樹脂材料61を挟んで第1基板11を重ね合わせる。なお、図示の便宜上、第1電極12を省略して示している。なお、第1基板11の重ね合わせを真空中で行ってもよい。
さらに、図6(d)に示すように、第1基板11の裏面側に厚手の石英(例えば円形のもの)などの透明な基板64を配置する。次いで、図6(e)に示すように、所定の治具65を用いてこの基板64をプレスする。例えば、1分間以上プレスすることが望ましい。それにより、第1基板11が金型60側へ押圧され、光硬化性樹脂材料61が金型60と第1基板11の間隙において十分に広がる。
次いで、図7(a)に示すように、基板64および第1基板11を介して光(本例では紫外線)を照射することにより光硬化性樹脂材料61を硬化させる。それにより、第1基板11の片面上にプリズムアレイ13が形成される。本工程において、遮光マスク等を用いて紫外線の照射範囲を制御することによってもプリズムアレイ13の大きさを加減できる。本工程における紫外線の照射量は例えば20J/cm2程度とすればよい。なお、樹脂が硬化すればよいため、照射量はさほど厳密ではない。ただし、本実施形態では第1基板11がITO膜からなる第1電極12を有するので、ITO膜が紫外線を吸収することを考慮し、ITO膜の膜厚に応じて紫外線の照射量を加減する必要がある。
次いで、図7(b)に示すように基板64、治具65を取り外す。さらに、図7(c)に示すように、別の治具66を土台63の下側にセットする。この治具66には複数(例えば8つ)の突起部66aが設けられている。各突起部66aは、ある程度の固さを有し、かつ先端に弾力性を有している。また、土台63には、各突起部66aに対応した位置に設けられた複数の貫通孔63aを有している。
次いで、図7(d)に示すように、各貫通孔63aに各突起部66aを貫通させるようにして土台63に治具66を組み合わせることによって各突起部66aを第1基板11に突き当てて、第1基板11を金型60から剥離する。このとき、第1基板11がなるべく平行状態を保ったまま上方向へ移動するように治具66を移動させる。
以上により、図7(e)に示すように、第1基板11上に透明樹脂膜からなるプリズムアレイ13が完成する。その後、このプリズムアレイ13が形成された第1基板11を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
次いで、プリズムアレイ13が形成された第1基板11に配向膜14を形成する。同様に、第2基板15に配向膜17を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組みあわせ等の適宜の方法で配向膜材料を第1基板11上、第2基板15上にそれぞれ適当な膜厚(例えば800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば180℃で1.5時間の焼成)を行う。そして、熱処理によって得られた配向膜14、17のそれぞれに対して配向処理を行う。ここでは配向処理として、例えばラビング処理を行うが、光配向処理等の配向処理であってもよい。また、この配向処理は、第1基板11と第2基板15とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。
ここで、図4に示したように本実施形態では、配向処理の方向a2がプリズムアレイ13の各プリズムの延在方向a3に対して45°となるように配向処理が行われる。なお、配向処理の方向a2とプリズムの延在方向a3との相対的関係はこれに限定されない。本例においてプリズムアレイ13の各プリズムの延在方向a3に対して、配向処理の方向a2を45°としたのは、上記したように画像表示装置1からの出射光が45°方向に偏光しているので、その画像を左右(もしくは上下)に動かすのには配向処理の方向a2を45°とするのがよいためである。なお、画像を斜め方向(斜め45°)に動かしたい場合には、プリズムの延在方向a3と平行方向(もしくは直交方向)に配向処理の方向a2を設定すればよい。
次いで、一方の基板(例えば第1基板11)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ13のベース層とプリズムの高さを含め、液晶層18の厚さが10〜20μm程度となるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径が30μmのプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板15)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では、17μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
次いで、第1基板11と第2基板15とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板11と第2基板15の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層18を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが正、屈折率異方性Δnが0.298の液晶材料を用いる。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層18の液晶分子の配向状態を整える。
以上により本実施形態の光学素子2が得られる。この光学素子2を画像表示装置1の前面に配置することにより、本実施形態の画像表示システムが得られる(図1参照)。光学素子2の第1電極12および第2電極16を用いて液晶層18に交流電圧を印加すると、光学素子2を介して観察される画像表示装置1の表示画像は、左右方向にゆらゆら揺れるように視認される。この原理は以下のように考えられる。
すなわち、第1電極12および第2電極16を介して液晶層18に電圧を印加することにより、液晶分子の配列が変化する。これにより、液晶層18の屈折率値が変化するため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイ13と液晶層18との界面を透過する光の屈折角が変化する(スネルの法則)。液晶層18へ印加される電圧を交流電圧とすることで、プリズムアレイ13と液晶層18との界面を通過する光の屈折角の大きさを動的に変化させることができる。屈折角の大きさは、プリズムアレイ13の形状や液晶層18の屈折率異方性の値等により一概にいえないが、上記した数値例で製造した光学素子2においては6°程度である。また、プリズムアレイ13の斜面の傾斜角度を45°にすると最大で18°程度までの範囲で屈折角を変えることができる。
本実施形態の光学素子2では、複数の微小プリズムを一方向に配列してなるプリズムアレイ13を設けているため、必然的に場所によりセル厚(液晶層18の層厚)が異なることになる。一般には、液晶層18の液晶分子の応答速度はセル厚に依存し、セル厚の2乗に比例すると言われている。このため、液晶層18に印加する電圧を少しずつ連続的に変えると、セル厚が一番厚い位置での応答速度より電圧を変える速度が速い場合には、セル厚の違いによるレスポンスの違いにより、画像の位置を変える角度(上記の屈折角)に微妙にずれが生じる。その屈折角のずれを積極的に利用することにより、液晶表示装置1の表示画像は、光学素子2を介して観察者によって視認される際にゆらゆらと陽炎のように揺れて見える。
例えば、遊技機用の表示手段として本実施形態の画像表示システムを用いた場合には、“確率変動(確変)”状態に入ったときに、光学素子2の液晶層18へ印加する電圧を連続的に上げ下げして陽炎の様に揺れる状態を表示し、確定したときには液晶層18へ高い電圧を印加し、くっきりと見える画像を表示させるなど、これまでになかった視覚効果を実現できる。また、本実施形態の画像表示システムの用途は遊技機に限定されず、自動車用表示装置、各種照明用表示装置(一般照明、自動販売機等)など幅広い用途が考えられる(以下の実施形態も同様)。
なお、本実施形態の光学素子2は、一般的な液晶素子とは異なり偏光板が不要であるため原理的に高透過率である。具体的には、光学素子自体の透過率として90%以上が見込まれ、光学素子2の表面に反射防止コート(ARコート)を施した場合には95%以上の透過率が見込まれる(後述する各実施形態においても同様)。
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、第1電極12の上側にプリズムアレイ13を配置した光学素子2が用いられていたが、プリズムアレイ上に第1電極を配置してもよい。上記した図5に示したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ上であれば、その上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極を設けることができる。以下、詳細に説明する。
図8は、第2実施形態の光学素子の構造を示す模式的な断面図である。なお、画像表示システムの全体構成は第1実施形態の場合と同様である(図1参照)。図8に示す本実施形態の光学素子2aは、第1基板11、第1電極12a、プリズムアレイ13a、配向膜14a、第2基板15、第2電極16、配向膜17、液晶層18を含んで構成される。第1実施形態に係る光学素子2との相違点は、第1基板11上にプリズムアレイ13aが形成され、その上側に第1電極12a、配向膜14aが形成されている点である。それ以外の共通要素については詳細な説明を省略する。
次に、第2実施形態の画像表示システムにおける光学素子2aの製造方法の一例を詳述する。
まず、第1基板11および第2基板15として用いるためのガラス基板を用意する。本実施形態では、第1基板11としては導電膜を有しないガラス基板を用意する。また、第2基板15としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するガラス基板を用意することが好ましい。
次いで、第1基板11の一面上に、プリズムアレイ13aを形成する。プリズムアレイ13aの形成方法については上記した第1実施形態におけるプリズムアレイ13の場合と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
次いで、第1基板11のプリズムアレイ13a上に、第1電極12aを形成する。例えば、まずプリズムアレイ13aが形成された第1基板11を洗浄機にて洗浄する。洗浄方法としては、例えばアルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥の順に行うことができるが、これに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。その次に、プリズムアレイ13a上に、第1電極12aとなるべき透明導電膜を形成する。本例ではプリズムアレイ13a上にITO膜を成膜する。
ここで、プリズムアレイ13a上に直接にITO膜を成膜してもよいが、ITO膜の密着性をより向上させるために、プリズムアレイ13a上に酸化珪素(SiO2)膜を薄く形成することも好ましい。酸化珪素膜の形成は、例えばスパッタ法(交流放電)を用いて行うことができる。例えば、第1基板11を80℃に加熱しながら成膜を行うことにより、500Å程度の膜厚の酸化珪素膜を形成する。それに引き続き、例えばスパッタ法(交流放電)にてITO膜を形成する。例えば、第1基板11を100℃に加熱しながら成膜を行うことにより、約1000Å程度の膜厚のITO膜を形成する。このときSUSマスクなどを用いて余分な所にはITO膜が形成されないようにしてもよい。その後、必要に応じてITO膜をパターニングすることにより、第1電極12aが得られる。なお、ここでは成膜方法の一例としてスパッタ法を挙げたが、真空蒸着法、イオンビーム法、化学気相堆積法(CVD法)などの成膜方法を用いてもよい。
また、第2基板15について、ITO膜を適宜パターニングすることにより第2電極16を形成する。例えば、ITO膜付きのガラス基板を上記方法で洗浄した後に、一般的なフォトリソ工程を用いてITO膜をパターニングする。エッチング方法としては、例えば第二塩化鉄を用いたウェットエッチングを採用できる。
次いで、第1基板11、第2基板15のそれぞれを洗浄機により洗浄する。洗浄方法としては、例えばアルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥の順に行うことができるが、これに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
次いで、プリズムアレイ13aが形成された第1基板11に配向膜14aを形成する。同様に、第2基板15に配向膜17を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。各配向膜14a、17の形成方法については上記した第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。この配向処理は、第1基板11と第2基板15とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。
次いで、一方の基板(例えば第1基板11)上に、ギャップコントロール剤を適量含んだメインシール剤を形成する。また、他方の基板(例えば第2基板15)上にはギャップコントロール剤を散布する。本工程についてもその詳細は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
次いで、第1基板11と第2基板15とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。その後、第1基板11と第2基板15の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層18を形成する。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理を行うことにより、液晶層18の液晶分子の配向状態を整える。本工程についてもその詳細は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
以上により本実施形態の光学素子2aが得られる。この光学素子2aを画像表示装置1の前面に配置することにより、本実施形態の画像表示システムが得られる(図1参照)。本実施形態の光学素子2aについても、画像表示装置1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子2aの配向処理の方向a2とが平行となるように配置される(図4参照)。この光学素子2aの第1電極12および第2電極16を用いて液晶層18に交流電圧を印加すると、光学素子2aを介して観察される画像表示装置1の表示画像は、左右方向にゆらゆら揺れるように視認される。また、液晶層18に印加する電圧の大きさを徐々に上げていくと、光学素子2aを介して視認される表示画像の位置が連続的に変化する。
なお、液晶層18に印加する電圧の大きさは数ボルト程度で十分であり、第1実施形態の光学素子2に比較して低電圧化が図られる。これは、第2実施形態の光学素子2aにおいては、第1基板11上の第1電極12aと液晶層18との間にプリズムアレイ13aが存在することなく、第1電極12aから直接的に液晶層18へ電圧を印加できることが一因であると考え得る。また、プリズムアレイ13aにより液晶層18の厚み(セル厚)が場所によって異なるが、配向処理の方向をアンチパラレルとしている本実施形態の光学素子2aは、液晶層18の厚さに対して閾値がほとんど依存しないため、プリズムアレイ13aと液晶層18界面の屈折率変化の場所による差異がほとんどないことも一因であると考え得る。
上記した条件例に基づいて作製した光学素子2aにおいては、液晶層18に2.5ボルトを印加したときに表示画像が徐々に変化し始め、4ボルトで完全に移動して視認された。また、この電圧値の間では表示画像が同じ形のまま徐々に移動する様子が観察された。したがって、第2実施形態の光学素子2aを用いた画像表示システムは、光学素子2aへ印加する電圧を低くできるだけでなく連続的に配光を制御できるため、新規な視覚効果を実現できる。
(第3実施形態)
上述した第2実施形態では、光学素子2aのプリズムアレイ13a上に形成された第1電極12aには特段のパターニングが施されていなかったが、プリズムアレイ上の第1電極をパターニングすることも好ましい。以下、詳細に説明する。
図9は、第3実施形態の光学素子の構造を示す模式的な断面図である。なお、画像表示システムの全体構成は第1実施形態の場合と同様である(図1参照)。図9に示す本実施形態の光学素子2bは、第1基板11、複数の第1電極12b、プリズムアレイ13b、配向膜14b、第2基板15、複数の第2電極16b、配向膜17、液晶層18を含んで構成される。第2実施形態に係る光学素子2aとの相違点は、各第1電極12b、各第2電極12bともに、ストライプ状(短冊状)の複数の電極からなる点である。それ以外の共通要素については詳細な説明を省略する。
図10は、画像表示装置1からの出射光の偏光方向と、光学素子2bにおける配向処理の方向との関係を説明するための図である。上記のように、画像表示装置1はその出射光が方向a1に偏光している(図示の例では45°の方向)。これに対して、第1基板11は、配向膜14へ施された配向処理の方向a2が上記した出射光の偏光方向a1と略平行になるように配置されている。図示の例では、配向処理の方向a2は、プリズムアレイ13の各プリズムの長手方向(各第1電極12bの延在方向)a3との間で略45°に設定されている。また、第2基板15は、配向膜17へ施された配向処理の方向a4が上記した第1基板11の配向処理の方向a2との間でアンチパラレルの関係になるように配置されている。また、配向処理の方向a2は、各第2電極16bの延在方向a5との間で略45°に設定されている。
次に、第3実施形態の画像表示システムにおける光学素子2bの製造方法の一例について詳述する。光学素子2bの製造方法は基本的に上記した第2実施形態の光学素子2aの製造方法と共通であり、相違点を中心に説明する。
まず、第1基板11上にプリズムアレイ13bが形成される。次いで、プリズムアレイ13b上にITO膜などの透明導電膜が形成される。上記のように、プリズムアレイ13b上に酸化珪素膜を薄く形成した後に透明導電膜を形成することも好ましい。
次いで、プリズムアレイ13b上に透明導電膜であるITO膜を形成する。そして、このITO膜をパターニングすることにより、複数の第1電極12bを形成する。本実施形態では、フォトリソグラフィ技術によってパターニングを行う。エッチング方法としては、例えば第二塩化鉄を用いたウェットエッチングを採用できる。
このときに用いるフォトマスクとして、例えば本実施形態ではパターン幅(ITO膜が形成されている部分の幅)が80μm、線間の幅(第1電極12bの相互間距離)が20μmとなるようなフォトマスクを用いる。これにより、プリズムアレイ13bの各プリズムの延在方向と平行な方向に延びるストライプ状パターンの複数の第1電極12bが得られる。なお、各第1電極12bの延在方向と各プリズムの延在方向とは必ずしも平行でなくともよく、直交させてもよいし任意の角度をもっていてもよい。ただし、各プリズムの延在方向と各第1電極12bの延在方向とを平行またはこれに近い角度に配置したほうが第1電極12bの断線をより防ぎやすい。
また、本実施形態では、第2基板15上に複数の第2電極16bを形成する。具体的には、第2基板15上に透明導電膜であるITO膜を形成し、このITO膜をパターニングすることにより、複数の第2電極16bを形成する。本実施形態では、フォトリソグラフィ技術によってパターニングを行う。エッチング方法としては、例えば第二塩化鉄を用いたウェットエッチングを採用できる。各第2電極16bの形状は任意であり、本実施形態では各第1電極12bと同様なストライプ状パターンとする。また、各第2電極12bは、それらの延在方向が各第1電極12bの延在方向と直交するように形成する。
次いで、第1基板11、第2基板15のそれぞれを適宜洗浄した後に、第1基板11上に配向膜14bを形成し、第2基板15上に配向膜17を形成する。次いで、一方の基板(例えば第1基板11)上に、ギャップコントロール剤を適量含んだメインシール剤を形成し、かつ他方の基板(例えば第2基板15)上にはギャップコントロール剤を散布する。次いで、第1基板11と第2基板15とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。その後、第1基板11と第2基板15の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層18を形成する。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理を行うことにより、液晶層18の液晶分子の配向状態を整える。これら各工程についての詳細は第1実施形態および第2実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
以上により本実施形態の光学素子2bが得られる。この光学素子2bを画像表示装置1の前面に配置することにより、本実施形態の画像表示システムが得られる(図1参照)。本実施形態の光学素子2bについても、画像表示装置1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子2aの配向処理の方向a2とが平行となるように配置される(図10参照)。この光学素子2aの各第1電極12bおよび各第2電極16bを用いて液晶層18に種々の電圧を印加した場合に、光学素子2bを介して観察される画像表示装置1の表示画像がどのように視認されるかを、図11〜図16に基づいて説明する。なお、図11〜図14において、光学素子2bは、図中の上下方向に各第2電極16bが並ぶように配置されているものとする。また、図15、図16において、光学素子2bは、図中の上下方向に各第1電極12bが並ぶように配置されているものとする。
図11に示す例では、第1基板11の各第1電極12bには基準電位(接地電位)を与え、第2基板15の各第2電極16bには基準電位よりも相対的に高い電位(例えば数ボルトの電位)を与えた。また、画像表示装置1の表示画像としては、光学素子2bによる効果を分かりやすくするために四角い表示パターンを含む表示画像を用いた(以下も同様)。全ての第2電極12bに対して一定の電位を印加したところ、光学素子2bを介して視認される表示画像は図示のように四角いパターンを含む表示画像となった。また、各第2電極16bへ印加する電圧の大きさに応じ、光学素子2bを介して観察される表示画像は、本来の位置に対して横方向に移動した形で視認された。ここでいう「本来の位置」とは、画像表示装置1によって表示され、光学素子2bを介さないで視認した場合の表示画像の位置である。
図12に示す例では、第1基板11の各第1電極12bには基準電位(接地電位)を与えた。また、第2基板15の各第2電極16bには基準電位よりも相対的に高い電位(例えば数ボルトの電位)であってその大きさが連続的に(時間的に)変化する電位を与えた。このとき、光学素子2bを介して観察される表示画像は、図示のように四角いパターンを含む表示画像が、各第2電極16bへの印加電圧の変化に対応して左右方向にゆらゆら揺れて視認された(第1実施形態、第2実施形態と同様)。
図13に示す例では、第1基板11の各第1電極12bには基準電位(接地電位)を与えた。また、第2基板15の各第2電極16bには、基準電位よりも相対的に高い電位(例えば数Vの電位)であって、図示のように各第2電極16bに異なる電位を与えた。詳細には、一番上と中央と一番下の第2電極16bには、それぞれ所定の電位V1を与えた。また、一番上から中央までに並んだ各第2電極16bには、V1よりも高い電位であって、一番上から上1/4の位置の第2電極16bが最大電位(例えばV1より1ボルト程度高い電位)となるように、隣り合う電極同士で徐々に変化する電位を与えた。また、中央から一番下までに並んだ各第2電極16bには、V1よりも低い電位であって、中央から下1/4の位置の第2電極16bが最小電位(例えばV1より1ボルト程度低い電位)となるように、隣り合う電極同士で徐々に変化する電位を与えた。このとき、光学素子2bを介して観察される表示画像は、図示のように表示画像に含まれる四角いパターンが、各第2電極16bへの印加電圧の変化に対応してS字状に歪んだ状態に視認された。
図14に示す例では、図13に示した例における各第2電極16bへ与える電位を連続的に(時間的に)増減させている。このとき、光学素子2bを介して観察される表示画像は、図示のように表示画像に含まれる四角いパターンが、各第2電極16bへの印加電圧の変化に対応してS字状に歪んだ状態のまま左右にゆらゆら揺れて視認された。
図15に示す例では、第2基板15の各第2電極16bには基準電位(接地電位)を与えた。また、第1基板15の各第1電極12bには、基準電位よりも相対的に高い電位(例えば数ボルトの電位)であって、図示のように各第1電極12bに異なる電位を与えた。詳細には、一番左と中央と一番右の第1電極12bには、それぞれ所定の電位V1を与えた。また、一番左から中央までに並んだ各第1電極12bには、V1よりも高い電位であって、一番左から左1/4の位置の第1電極12bが最大電位(例えばV1より1ボルト程度高い電位)となるように、隣り合う電極同士で徐々に変化する電位を与えた。また、中央から一番右までに並んだ各第1電極12bには、V1よりも低い電位であって、中央から右1/4の位置の第1電極12bが最小電位(例えばV1より1ボルト程度低い電位)となるように、隣り合う電極同士で徐々に変化する電位を与えた。このとき、光学素子2bを介して観察される表示画像は、図示のように表示画像に含まれる四角いパターンが、縦方向に濃淡を有する状態に視認された。
図16に示す例では、図15に示した例における各第1電極12bへ与える電位を連続的に(時間的に)増減させている。このとき、光学素子2bを介して観察される表示画像は、図示のように表示画像に含まれる四角いパターンが縦方向に濃淡を有する状態のまま左右にゆらゆら揺れて視認された。
なお、図11〜図16に示す各例の何れにおいても、例えば100〜1000Hz程度の高周波(矩形波)を基本としてその実効値が0.1ヘルツから10ヘルツ程度の周期で変動する電位を各第1電極12b又は各第2電極16bに与えることがより望ましい。液晶層18に直流成分が加わることを回避できる点と、常に表示画像を少し動かした状態でゆらゆら揺れた状態に視認させる場合の駆動に対応しやすい点で有利だからである。
また、上記の図13〜図16の例においては、各第1電極12bまたは各第2電極16bに対して与えられる電位の増減が1周期分であったが、より細かな周期で増減する電位を与えることにより、表示画像のS字状の歪みをより細かくし、或いは濃淡のピッチを細かくすることが可能である。また、必ずしも連続的に電位を増減する必要はなく、不連続に増減する電位を与えてもよい。それにより、表示画像の歪みや濃淡の変化も不連続なものとなる。
このように、複数の第1電極12b又は複数の第2電極16bを設け、それぞれに異なる大きさの電位を与えることにより変化に富んだ視覚効果を実現できる。
(変形実施の態様)
本発明は上述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した第1実施形態の光学素子における第1電極を、第3実施形態の光学素子における第1電極のように構成してもよい。この場合でも同様の作用効果が得られる。また、第3実施形態の光学素子において、第1電極又は第2電極のいずれかはストライプ状等に構成せず、一体に構成されていてもよい。その場合、プリズムアレイがない側である第2電極のみストライプ状等にパターニングすると、エッチングによりプリズムアレイがダメージを受ける確率が減るのでより好ましい。
また、上記各実施形態において、液晶層18は水平配向に規制されていたが、90°捩れ配向等の捩れ配向としてもよい。また、液晶層18にカイラル剤を添加することなどにより液晶分子の配列方向を変えてもよい。また、液晶層18を形成する際の手法は真空注入にのみ限定されず、ODF法を用いてもよい。
また、プリズムアレイの断面形状は、上記した三角形状にのみ限定されない。断面形状は、例えば正弦波(サインカーブ)状でもよい。また、プリズムアレイの上面形状は、上記したストライプ状にのみ限定されない。上面形状は、例えば格子状、同心円状、楕円状、フレネルレンズ状、ドット状などでもよい。さらに、プリズムアレイの各プリズムの長手方向と配向処理の方向とを45°にしていたが、角度はこれに限定されず、狙いとする用途、視覚効果に応じて適宜設定できる。