ところで、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、例えば車両の一時停止中に所定の停止条件が成立すればエンジンを自動停止させると共に、所定の始動条件が成立すればエンジンを再始動させる、いわゆるアイドルストップシステムが知られている。そこで、前述したターボ過給機付きエンジンに、こうしたアイドルストップシステムを適用することが考えられる。
ここで、エンジンの始動条件としては、例えば運転者がアクセル操作等をすることにより成立する、車両の発進要求を伴った始動条件と、例えばバッテリの充電状態(SOC:State Of Charge)が低下したり、空調装置のコンプレッサの作動が必要になった等の、発進要求はないものの車両側の要求によって成立する、発進要求を伴わない始動条件と、の大別して2種類が存在する。
この内、車両の発進要求を伴わない始動条件が成立した場合は、エンジンの始動を短時間で完了させた上で、その始動完了後に、運転者のアクセル操作等に起因する発進要求が行われることに備えて待機しておくことが望ましい。これに対し、発進要求を伴った始動条件が成立した場合は、エンジンの始動を短時間で完了させることは勿論のこと、その始動完了後、即座に車両の発進及び加速を行わなければならないが、その際の発進加速性能を高める観点からはターボ過給が早期に開始されることが望ましい。このように始動条件の成立時にエンジンの始動を行う際には、発進要求の有無に応じて要求が異なるのである。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ターボ過給機付きエンジンの再始動制御に関し、始動条件の成立時に、発進要求の有無に応じて始動制御を最適化することにある。
ここに開示する技術は、排気通路上に直列に配置された第1及び第2タービンを含む第1及び第2のターボ過給機を備えた、いわゆる2ステージターボ構成のターボ過給機付きエンジンの始動制御装置を前提として、発進要求を伴う始動条件の成立時と、発進要求を伴わない始動条件の成立時とで、前記第1及び第2タービンをバイパスする第1及び第2のバイパス路のバルブ制御を異ならせることにした。
つまり、車両の発進要求を伴う始動条件が成立したときには、エンジンの始動完了後にはターボ過給を早期に開始して発進加速性能を向上させる観点から、排気通路上の相対的に上流側に配置された第1タービンの背圧を下げてその前後の差圧を大きくし、それによって、第1及び第2タービンの内、第1タービンの回転数を0(ゼロ)回転から速やかに上昇させる。そのために、エンジンの始動条件の成立後に第1タービンをバイパスする第1バイパス路上の第1バルブは閉じる一方で、第2タービンをバイパスする第2バイパス路上の第2バルブは開けておくバルブ制御を実行する。
一方、車両の発進要求を伴わない始動条件が成立したときには、ターボ過給を早期に開始したいという要求はない一方で、エンジン始動完了後に発進が要求されたときに速やかに対応する必要があることから、第1及び第2タービンの双方を回転させた状態で待機しておく。そのために、エンジンの始動条件の成立後に第1及び第2バルブを共に閉じるバルブ制御を実行する。
具体的に、ここに開示するターボ過給機付きエンジンの始動制御装置は、車両に搭載されたエンジンと、前記エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記エンジンの排気通路上の、相対的に上流側に配置された第1タービンを含む第1のターボ過給機と、相対的に下流側に配置された第2タービンを含む第2のターボ過給機と、前記第1タービンをバイパスする第1バイパス路上に介設された、ノーマルオープンの第1バルブと、前記第2タービンをバイパスする第2バイパス路上に介設された、ノーマルオープンの第2バルブと、所定の停止条件が成立したときに前記エンジンを停止すると共に、所定の始動条件が成立したときには、前記燃料噴射弁を通じて前記燃焼室内に供給した燃料を燃焼させる所定の始動制御を実行して前記エンジンを始動させる始動制御手段と、を備える。
そして、前記始動制御手段は、前記車両の発進要求を伴う始動条件が成立したときには、前記始動制御の実行と共に、前記始動条件の成立後に前記第1バルブを閉じると共に、前記エンジンの始動が完了して所定時間が経過した時点で前記第2バルブを閉じる第1のバルブ制御を実行する一方、前記車両の発進要求を伴わない始動条件が成立したときには、前記始動制御の実行と共に、前記始動条件の成立後に前記第1及び第2バルブを共に閉じる第2のバルブ制御を実行する。
ここで、第1バルブ及び第2バルブはそれぞれ、その開度を調整可能なバルブとすればよく、ここでいう「バルブを閉じる」ことには、バルブを全閉にすることの他、バルブの開度を、閉じ側の所定開度にすることを含み得る。
この構成によると、車両の発進要求を伴った始動条件の成立時には、エンジンの燃焼室内に燃料を供給しかつ燃焼させることでエンジンを始動させる始動制御を実行する。そして、この始動制御と共に、エンジンの排気通路上の相対的に上流側に配置された第1タービンをバイパスする第1バイパス路上の第1バルブを閉じる。第1バルブは、エンジンの始動制御の開始時に閉じる、又は、エンジンの始動完了後に閉じるようにしてもよい。一方で、相対的下流側に配置された第2タービンをバイパスする第2バイパス路上の第2バルブは、エンジンの始動が完了して所定時間が経過した時点で閉じる。つまり、始動条件の成立後、エンジンの始動が完了して所定時間が経過するまでの過渡期間においては、第1バルブが閉じかつ第2バルブが開いた状態になり得る。この状態は、第1タービン下流側の第2タービンをバイパスし得る状態であるから、第1タービンの背圧を低下させ、第1タービンの前後差圧を大きくする。このことは、エンジンの始動に伴い第1タービンの回転数を0回転から速やかに上昇させ、エンジンの始動完了後においては、第1のターボ過給機による過給を早期に開始する上で有利になる。つまり、発進加速性能を高め得る。
一方、車両の発進要求を伴わない始動条件の成立時には、前記の始動制御の実行と共に、第1バイパス路上の第1バルブ及び第2バイパス路上の第2バルブをそれぞれ閉じる。ここで、第1及び第2バルブを閉じるタイミングは、前記始動条件の成立後において適宜設定すればよく、例えば始動条件の成立直後(つまり、エンジンの始動制御の開始時)としてもよいし、エンジンの始動完了の直後としてもよい。第1及び第2バルブを閉じることによって、停止していた第1及び第2タービンのそれぞれが、エンジンの始動に伴い回転を開始し得るようになるから、エンジンの始動完了後には、第1及び第2タービンのそれぞれを回転している状態で待機させ得る。このことは、エンジンの始動完了後に発進要求がなされたときに、その発進要求に速やかに対応する上で有利になる。
前記第1バルブは、前記エンジンが低回転域のときに閉じる一方、それ以外の領域では開けるように構成されている、としてもよい。ここで、「バルブを開ける」には、バルブを全開にすることの他、バルブの開度を開き側の所定開度にすることを含む。
つまり第1のターボ過給機は、主にエンジンが低回転域のときに過給を行う、相対的に小型のターボ過給機としてもよい。つまり、エンジンの低回転域では第1バルブを閉じて、小型のターボ過給機を駆動させることで立ち上がり特性を良好にする一方で、エンジンが中回転乃至高回転域にあるときには第1バルブを開けて第1タービンをバイパスすることにより、排気抵抗を低減し得る。この構成はまた、第1タービンが小型かつ低イナーシャになり得ることから、前述したように、発進要求を伴うエンジンの始動条件成立時に第1タービンの回転数を0回転から速やかに高める上でより一層有利になる。
前記エンジンはディーゼルエンジンであり、前記始動制御手段は、前記車両の発進要求を伴う始動条件が成立したときには、圧縮上死点付近で燃料を噴射する主噴射に続いて、膨張行程時に燃料を噴射する後噴射を行うポスト噴射制御をさらに実行する、としてもよい。
膨張行程時に後噴射を行うことは、排気エネルギを増大させて第1タービンの回転数を速やかに高める上で有利になり得る。つまり車両の発進要求を伴う始動条件の成立時には、前述した第1バルブ制御に、ポスト噴射制御を組み合わせることによって、第1のターボ過給機による過給を早期に開始すると共に、十分な過給圧を確保して、発進加速性能をより一層高め得る。
以上説明したように、前記のターボ過給機付きエンジンの始動制御装置によると、車両の発進要求を伴った始動条件の成立時には、エンジンの始動制御と共に、始動条件の成立後、エンジンの始動が完了して所定時間が経過するまでの過渡期間において、第1バルブを閉じかつ第2バルブを開いた状態にすることで、第1タービンの前後差圧を大きくして、第1タービンの回転数を0回転から速やかに高め得る。その結果、第1のターボ過給機による過給を早期に開始して、エンジンの始動完了直後の発進加速性能を高め得る。一方、車両の発進要求を伴わない始動条件の成立時には、エンジンの始動制御の実行と共に、第1及び第2バルブを共に閉じることで、エンジンの始動完了後に、第1及び第2タービンの双方を回転している状態で待機させ得るため、エンジンの始動完了後になされる発進要求に速やかに対応する上で有利になる。
以下、ターボ過給機付きエンジンの始動制御装置を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係る制御装置を採用したエンジン1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面には深皿形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。シリンダブロック11には、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1が配設されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用され得る。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
また、前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、圧縮行程上死点付近で燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。また、サージタンク33には、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2が配設されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、上流側から順に、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3と、詳しくは後述する大型及び小型ターボ過給機61,62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気の温度を検出する過給空気温度センサSW4と、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。この酸化触媒41aが触媒を構成する。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。また、酸化触媒41aとフィルタ41bの間には、酸化触媒41aを通過した排気ガスの温度を検出する排気温センサSW5が配設されている。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路50によって接続されている。この排気ガス還流通路50は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
さらに、図2に示すように、エンジン1には、クランクシャフト15の回転角を検出する2つのクランク角センサSW6,SW7が設けられている。一方のクランク角センサSW6から出力される検出信号に基づいてエンジン回転数(回転速度)が検出されると共に、両クランク角センサSW6,SW7から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク角位置が検出されるようになっている。また、エンジン1には、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW8と、車両のブレーキペダル(図示省略)の操作を検出するブレーキペダルセンサSW9と、車両のクラッチペダル(図示省略)の操作を検出するクラッチペダルセンサSW10及び車両のシフトレバー(図示省略)の操作を検出するシフトレバーセンサSW11(手動変速機の場合)と、車両の速度を検出する車速センサSW12とが設けられている。
ここで、大型ターボ過給機61及び小型ターボ過給機62の構成について詳しく説明する。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間(詳しくは、吸気温度センサSW3と過給空気温度センサSW4との間)に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。尚、吸気通路30における大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとの間には、大型コンプレッサ61aで過給された吸気の圧力を検出する中間圧センサSW13が設けられている。
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
そして、吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(ノーマルクローズ)となるように構成されている。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(ノーマルオープン)となるように構成されている。
小型ターボ過給機62が第1のターボ過給機を、大型ターボ過給機61が第2のターボ過給機を、小型排気バイパス通路64が第1バイパス路を、大型排気バイパス通路65が第2バイパス路を、レギュレートバルブ64aが第1バルブを、ウエストゲートバルブ65aが第2バルブを、それぞれ構成する。
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60は、エンジン1に取り付けられている。そして、過給機ユニット60の吸気通路30の出口は、インタークーラ35の上流端と、ゴムホース30aを介して接続されている。つまり、インタークーラ35は、車体に取り付けられており、エンジン1に取り付けられた過給機ユニット60とは異なる振動が生じる。そこで、過給機ユニット60とインタークーラ35との異なる振動が互いに影響し合わないように、それぞれの振動をゴムホース30aで吸収するようにしている。同様の理由から、インタークーラ35の下流端と、吸気通路30のスロットル弁36の上流部分とも、ゴムホース30bを介して接続されている。
このように構成されたターボ過給機付きのエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御装置を構成する。PCM10は、図2に示すように、前記センサSW1〜SW13の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、動弁系のVVM71、各種の弁のアクチュエータへ制御信号を出力する。また、PCM10は、エンジン1の始動時に、インジェクタ18やスタータモータ72へ制御信号を出力すると共に、必要に応じてグロープラグ19へも制御信号を出力する。さらに、PCM10は、タイミングベルト等によりクランクシャフト15に連結されたオルタネータに内蔵されたレギュレータ回路73に制御信号を出力することによって、車両の電気負荷及び車両バッテリの電圧等に対応した発電量の制御を実行する。
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61,62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。
詳しくは、PCM10は、図3に示す、エンジン回転数とエンジン負荷とをパラメータとするマップにおける低負荷かつ低回転側の領域A(エンジン負荷が所定負荷(エンジン回転数が大きいほど小さくなる)以下の領域)では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、大型及び小型ターボ過給機61,62の両方を作動させる。一方、高負荷かつ高回転側の領域B(エンジン負荷が前記所定負荷よりも大きい領域)では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65a、過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
本実施形態では、PCM10は、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させると共に、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させるように、いわゆるアイドルストップ制御を行う。
具体的には、PCM10は、自動停止条件が成立すると、インジェクタ18による燃料の噴射を停止させる。例えば、水温センサSW1によって検出されるエンジン冷却水の温度が所定温度以上でありかつ、ブレーキペダルセンサSW9の検出信号に基づいて判定されるブレーキペダルの踏み込み操作が所定時間継続すると共に、車速センサSW12の検出信号に基づいて判定される車速が予め設定した微低速(例えば、時速2〜5km)以下となって車両が実質、停止していることを、自動停止条件とすることができる。この自動停止の際には、スロットル弁36の開閉制御、及び、レギュレータ回路73を通じたオルタネータ制御を併せて行うことにより、エンジン1の再始動に適したピストン位置でエンジン1を停止させるようにする。
その後、再始動条件が成立すると、PCM10は、各気筒11aへの燃料供給を開始すると共に、スタータモータ72の駆動によりエンジン1にアシストトルクを付与して、前記燃焼によりエンジン1を再始動させる(始動制御手段)。このように、このエンジン1は、アシストトルクを付与するものの、基本的には燃焼によって再始動を行うため再始動時間が極めて短いという特徴がある。例えば、車両バッテリの残容量が少なくなって充電が必要になったこと、空調装置のコンプレッサの作動が必要になったこと、又はアクセル開度センサSW8若しくはクラッチペダルセンサSW10からの検出信号に基づいて乗員によるアクセル操作若しくはクラッチ操作が検出されたこと等を、再始動条件とすることができる。この内、車両バッテリの残容量が少なくなって充電が必要になったことや、空調装置のコンプレッサの作動が必要になったことは、発進要求を伴わない始動条件ということができ、逆に、アクセル操作若しくはクラッチ操作が検出されたことは、発進要求を伴う始動条件ということができる。
このエンジン1の再始動に際し、PCM10は、発進要求を伴う始動条件の成立時と、発進要求を伴わない始動条件の成立時とで、前述したレギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aのバルブ制御を異ならせている。以下に、PCM10による、エンジン1の再始動に係る制御について、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートを参照しながら説明する。ここで、図4のフロー中の各ステップの順番は、説明の便宜上のものであり、その順番を適宜入れ替えたり、また、各ステップの実行を時間的に並列に行ったりすることは勿論可能である。
まず、図4のフローのステップST1において、エンジン1の再始動条件が成立したか否かを判定する。再始動条件としては、前述したように、発進要求を伴う再始動条件と、発進要求を伴わない再始動条件と、が含まれる。ステップST1で再始動条件が成立していないとき(NOのとき)には、このステップST1を繰り返し、再始動条件が成立したとき(YESのとき)には、ステップST2に移行する。
ステップST2では、再始動制御の実行を開始する。つまり、各気筒11aへの燃料供給を開始する。この燃焼始動によって、図5(B)に示すように、エンジン回転数は、変動しながら次第に高まることになる。続くステップST3では、発進要求が有るか否かを判定し、発進要求が有るとき(YESのとき)にはステップST4に移行する一方、発進要求がないとき(NOのとき)にはステップST9に移行する。ここで、図5(A)に示すように、発進要求が有るときには発進要求再始動実行フラグがONになる(実線参照)。
発進要求が有るときのステップST4では、圧縮上死点付近で燃料を噴射する主噴射に続いて、膨張行程時に燃料を噴射する後噴射を行うポスト噴射制御を実行する(図5(D)の図の実線も参照)。従って、ポスト噴射制御は、エンジン1の始動条件が成立し、エンジン1の始動制御の開始と共に、開始されることになる。ポスト噴射制御によって、エンジン回転数を高めることなく、後述するように排気エネルギを高める。続くステップST5では、レギュレートバルブ64aに通電して、これを閉じる(図5(E)の図の実線を参照)。これによって、レギュレートバルブ64aは、始動条件の成立直後に閉じられるが、このタイミングはスタータモータ72の駆動中であることを考慮して、レギュレートバルブ64aを、例えば、後述するエンジン1の始動完了後に閉じるようにしてもよい。ここで、レギュレートバルブ64aは全閉乃至閉じ側の所定開度にすればよい。一方、ウエストゲートバルブ65aには通電を行わず、全開の状態のまま(ノーマルオープン)にする(図5(F)の実線を参照)。こうしてレギュレートバルブ64aを閉じかつ、ウエストゲートバルブ65aを開く第1のバルブ制御の実施によって、大型タービン61bがバイパスされ得るため、小型タービン62bの背圧が低下し、この小型タービン62bの背圧の前後差圧が大きくなる。このことは、図5(G)に実線で例示するように、小型タービン62bの回転数を0回転から速やかに高めることになる。尚、図5(G)の破線は、後述するように、第1のバルブ制御を実施しない場合の、小型タービン62bの回転数の変化の一例である。一方、前述のように、大型タービン61bは、バイパスされ得るため、図5(H)に示すように、大型タービン61bの回転数の上昇は緩慢になる。
そうして、ステップST6でエンジン1の再始動の完了後(換言すれば完爆後)、所定時間が経過したか否かを判定する。尚、完爆判定は、例えばエンジン回転数に基づいて行ってもよく、エンジン1の完爆後は、完爆フラグがONになる(図5(C)参照)一方、発進要求再始動フラグがOFFになる(図5(A)参照)。
完爆後、所定時間が経過していないとき(NOのとき)には、ステップST6を繰り返す。一方、所定時間が経過したとき(YESのとき)には、ステップST7に移行する。ここでステップST6は、エンジン1の完爆後で、小型タービン62bの回転数が所定回転数以上となって小型タービン62bの回転が安定状態になったかを判定するためステップである。そのため、前記の「所定時間」は、小型タービン62bの回転が安定状態となり得る程度の時間として、例えば実験等を通じて予め設定しておけばよい。尚、ここでは完爆後の経過時間に基づいて、小型タービン62bの回転安定を判定しているが、小型タービン62bの回転安定を判定し得るパラメータであれば、時間に限定されず、適宜のパラメータを採用し得る。
完爆後、所定時間が経過して、小型タービン62bの回転が安定したステップST7では、ポスト噴射制御を終了する(図5(D)の実線を参照)と共に、続くステップST8で、ウエストゲートバルブ65aに通電をして、これを閉じる(つまり、全閉乃至閉じ側の所定開度にする。図5(F)の実線も参照)。こうして、発進要求を伴う始動条件が成立した場合の、エンジン1の始動制御が全て完了する。この場合は、図5(G)に実線で示すように、小型タービン62bの回転数が早期に高まることから小型ターボ過給機62による過給が、エンジン1の始動完了後の発進加速に際し早期に開始される。それと共に、小型タービン62bの回転が安定するまで、前記のポスト噴射等を継続することによって、十分な過給圧を確保して、エンジン1の再始動後の発進加速性能が高まり得る。
一方、前記ステップST3で、発進要求がないとして移行したステップST9では、前述したステップST4のポスト噴射制御を行わない(図5(D)の破線参照)。また、ステップST5のレギュレートバルブ64aの閉じ制御も行わない(図5(E)の破線参照)。そうしてエンジン1の再始動が完了した後に、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aをそれぞれ閉じる第2のバルブ制御を実行する。この閉じタイミングには、エンジン1の始動制御の開始から完爆までの間のスタータモータ72の駆動に伴う突入電流の発生時には、それ以外の制御を極力行わないという意味がある。尚、前述したように、このエンジン1は、再始動は基本的に燃焼によって行われ、スタータモータ72は補助的に用いられるのみであるから、エンジン1の再始動条件が成立した直後にレギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aをそれぞれ閉じてもよい。また、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aはそれぞれ全閉乃至閉じ側の所定開度にする(図5(E)及び(F)の破線参照)。
こうして、発進要求を伴わないエンジン1の再始動時には、図5(G)及び(H)に破線で示すように、小型タービン62b及び大型タービン61bの回転数が共に、徐々に上昇するようになり、エンジン1の完爆後には所定の回転状態となって、その後に起こり得る発進要求に備えることが可能になる。
このように前記の構成では、発進要求を伴うエンジン1の始動条件が成立したときには、そのエンジン1の始動制御の開始から、完爆後所定時間が経過するまでの過渡期間において、レギュレートバルブ64aを閉じる一方で、ウエストゲートバルブ65aを開ける状態にすることで、この過渡期間中の小型タービン62bの前後差圧を大きくし得る。このことは、図5(G)に実線で示すように、小型タービン62bの回転数を、0回転から速やかに上昇させることを可能にする。その結果、小型ターボ過給機62による過給を、エンジン1の始動完了後に早期に開始することが可能になり、発進要求を伴う始動条件の成立時のように、エンジン1の始動完了後、即座に発進及び加速を行う状況において、その発進加速性能が向上し得る。この場合において、小型タービン62bは、相対的にイナーシャが小さいため0回転から回転数を上昇させる上では有利である。
またその際に、ポスト噴射制御を組み合わせることによって、排気エネルギの増大により、小型タービン62bの回転数をより一層速やかに高め得る。
また、ウエストゲートバルブ65aを、エンジン1の完爆後、所定時間が経過するまで開けた状態にすると共に、前記のポスト噴射制御もまた、エンジン1の完爆後、所定時間が経過するまで継続することによって、小型タービン62bの回転数を安定回転にまで早期に到達させることが可能になり、エンジン1の始動完了後の発進加速時には、十分な過給圧を確保して発進加速性のより一層の向上が図られ得る。
一方、発進要求を伴わないエンジン1の始動条件が成立したときには、前記とは異なり、ターボ過給機による過給の早期開始という要求がないことから、前述したような小型タービン62bの回転数を速やかに高める必要がない。一方で、この場合は、エンジン1の始動が完了した後に運転者の発進要求が行われることに備えて、小型タービン62b及び大型タービン61bの双方を、所定の回転数まで回転させた状態にしておくことが好ましい。従って、発進要求を伴わないエンジン1の始動条件が成立したときには、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aを共に閉じることによって、エンジン1の始動完了後には、小型タービン62b及び大型タービン61bの双方を所定の回転数まで回転させた状態にし得る。また、この場合はポスト噴射は不要であり、そうした不要なポスト噴射を実行しないことで、燃費性能の点で有利になる。
尚、前記のレギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの制御については、この実施形態のようにディーゼルエンジンへの適用に限定されず、ターボ過給機付きガソリンエンジンのアイドルストップ制御にも適用可能である。