===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
即ち、(1)媒体にインクを吐出する複数のノズルが所定方向に並んだノズル列と、(2)前記ノズル列を前記媒体に対して、前記所定方向と交差する方向に移動する移動機構と、(3)前記媒体を前記ノズル列に対して、前記所定方向に搬送する搬送機構と、(4)前記移動機構によって前記ノズル列を前記交差する方向に移動させながら前記ノズル列からインクを吐出させる吐出動作と、前記搬送機構によって前記媒体を前記所定方向に搬送させる搬送動作と、を交互に繰り返させる制御部であって、先の前記吐出動作にて形成される第1の画像の端部と後の前記吐出動作にて形成される第2の画像の端部とが重複するように前記搬送動作にて前記媒体を搬送させて、前記第1の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、前記第2の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、を異ならせる制御部と、(5)を有することを特徴とする印刷装置を実現すること。
このような印刷装置によれば、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域とにおけるインクの着色剤の沈み込み量の差を小さくすることができ、重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらを低減できる。
かかる印刷装置であって、前記第2の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量を、前記第1の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量よりも多くすること。
このような印刷装置によれば、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらをより低減することができる。
かかる印刷装置であって、前記ノズルから吐出されるインクは顔料インクであること。
このような印刷装置によれば、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらを低減することができる。
かかる印刷装置であって、前記第1の画像の端部と前記第2の画像の端部とが重複する領域に対する補正値を記憶し、前記制御部は、印刷データにおいて前記重複する領域に対応する画素の示す階調値を前記補正値にて補正すること。
このような印刷装置によれば、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらをより低減することができる。
かかる印刷装置であって、前記制御部は、前記媒体に普通紙が選択された場合に、前記第1の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、前記第2の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、を異ならせること。
このような印刷装置によれば、普通紙に印刷する場合には、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらを低減することができ、普通紙以外の媒体に印刷する場合には搬送誤差が生じた時などの画質劣化をより抑制できる。
かかる印刷装置であって、前記第1の画像の端部と前記第2の画像の端部とが重複する領域では、前記交差する方向にドットが並んだ複数のドット列が前記所定方向に並び、前記制御部は、各前記ドット列を形成するために、先の前記吐出動作にて吐出させるインク量と後の前記吐出動作にて吐出させるインク量を異ならせること。
このような印刷装置によれば、搬送誤差が生じた時などの画質劣化を抑制できる。
かかる印刷装置であって、前記制御部は、前記複数のドット列において、先の前記吐出動作と後の前記吐出動作のうちの吐出するインク量が少ない方の前記吐出動作にて形成されるドットの前記交差する方向の位置を異ならせること。
このような印刷装置によれば、搬送誤差が生じた時などの画質劣化を抑制できる。
また、媒体にインクを吐出する複数のノズルが所定方向に並んだノズル列を前記所定方向と交差する方向に移動させながら前記ノズル列からインクを吐出させる吐出動作と、前記媒体を前記ノズル列に対して前記所定方向に搬送させる搬送動作と、を交互に繰り返す印刷方法であって、先の前記吐出動作にて形成する第1の画像の端部と後の前記吐出動作にて形成する第2の画像の端部とが重複するように前記媒体を搬送させて、前記第1の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、前記第2の画像の端部を形成するために前記ノズルから吐出させるインク量と、を異ならせることを特徴とする印刷方法である。
このような印刷方法によれば、画像の端部が重複する領域とそれ以外の領域とにおけるインクの着色剤の沈み込み量の差を小さくすることができ、重複する領域とそれ以外の領域との濃度むらを低減できる。
===インクジェットプリンターの構成===
以下、印刷装置をインクジェットプリンターとし、また、インクジェットプリンターの中のシリアル式プリンター(プリンター1)を例に挙げて実施形態を説明する。
図1Aは、本実施形態のプリンター1の全体構成ブロック図であり、図1Bは、プリンター1の一部の斜視図である。外部装置であるコンピューター60から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー10により、各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御し、用紙S(媒体)に画像を形成する。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラー10は各ユニットを制御する。
コントローラー10は、プリンター1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター60とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU12は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU12は、ユニット制御回路14により各ユニットを制御する。
搬送ユニット20(搬送機構に相当)は、用紙Sを印刷可能な位置に送り込み、印刷時に搬送方向(所定方向に相当)に所定の搬送量で用紙Sを搬送させるためのものである。
キャリッジユニット30(移動機構に相当)は、ヘッド41を搬送方向と交差する方向(以下、移動方向という)に移動させるためのものである。
ヘッドユニット40は、用紙Sにインクを吐出するためのものであり、ヘッド41有する。ヘッド41の下面にはインク噴射部であるノズルが複数設けられている。また、各ノズルに対応付けられたピエゾ素子を駆動することによって、ノズルからインクが吐出される。
図2は、ヘッド41の下面におけるノズル配列を示す図である。360個のノズル(#1〜#360)が所定のノズルピッチ(360dpi)にて搬送方向に並んだノズル列が形成されている。ヘッド41には4つのノズル列が形成され、それぞれ異なる色のインクを吐出する。本実施形態のヘッド41は、イエローインクを吐出するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを吐出するシアンノズル列Cと、ブラックインクを吐出するブラックノズル列Kと、を有する。
このような構成のシリアル式のプリンター1では、キャリッジユニット30によって移動方向に移動するヘッド41からインクを断続的に噴射させて用紙S上にドットを形成するドット形成動作と、搬送ユニット20によって用紙Sを搬送方向に搬送する搬送動作と、を交互に繰り返す。その結果、先のドット形成動作により形成されたドットの位置とは異なる位置にドットを形成することができ、用紙上に2次元の画像を形成することが出来る。
===比較例の部分オーバーラップ印刷について===
図3Aは、バンド印刷の様子を示す図である。説明の簡略のため、1つのノズル列が有するノズルの数を12個とする。本来プリンター1ではヘッド41に対して媒体が搬送方向に搬送されるが、図中ではヘッド41を搬送方向に移動させて描いている。バンド印刷は、ヘッド41の移動方向への1回の移動(以下、パスとも呼ぶ)によりバンド画像を印刷する画像形成動作と、バンド画像の端部に位置するドット同士の間隔がノズルピッチ(360dpi)となるように用紙を所定の搬送量F1にて搬送する搬送動作と、を交互に繰り返す印刷方法である。
図3Aでは、先のパス(以下、先行パス)にて白丸(○)のドットで構成されるバンド画像が形成され、後のパス(以下、後行パス)にて黒丸(●)のドットで構成されるバンド画像が形成されている。1つのバンド画像は、複数のドットが移動方向に並んだドット列(以下、ラスタライン)が、ノズルピッチ(360dpi)おきにノズル数分だけ搬送方向に並んで構成される。また、先行パスのバンド画像(○)における最上流側のラスタラインと後行パスのバンド画像(●)における最下流側のラスタラインとの間隔がノズルピッチ360dpiとなるように、用紙の搬送量F1が決定される。このように、バンド印刷では、先行パスにて印刷されたラスタラインの間(又はドットの間)に、後行パスのラスタライン(又はドット)が形成されない。
図3Bは、バンド印刷における搬送動作において搬送誤差が発生した時のドット形成の様子を示す図である。先行パスにてバンド画像(○)が印刷された後に、所定の搬送量F1よりも多い搬送量F1+αにて用紙が搬送されたとする。そうすると、先行パスの最上流側のラスタラインと後行パスの最下流側のラスタラインとの間隔がノズルピッチよりも大きくなり(360dpi+α)、画像上に移動方向に沿った白スジが現れてしまう。逆に、所定の搬送量F1よりも少ない搬送量にて用紙が搬送されると(不図示)、先行パスのバンド画像の端部と後行パスのバンド画像の端部が重なり、画像上に移動方向に沿った濃いスジが現れてしまう。このように、バンド印刷では搬送誤差などが発生すると、画像上にスジが現れて画質が劣化してしまう。
図4Aは、比較例の部分オーバーラップ印刷の様子を示す図である。比較例の部分オーバーラップ印刷では、先行パスにてノズル列の上流側の端部ノズル(図中では#9〜#12)にて形成されたドット(○)と、後行パスにてノズル列の下流側の端部ノズル(#1〜#4)にて形成されたドット(●)とが、搬送方向および移動方向に交互に並ぶように印刷されている。即ち、部分オーバーラップ印刷では、先行パスにて形成された画像の端部と後行パスにて形成された画像の端部とが重複するように印刷が行われる。そのため、先行パスにて上流側の端部ノズル(#9〜#12)が対向した用紙上の領域に、後行パスにて下流側の端部ノズル(#1〜#4)が対向するように、用紙が搬送方向に搬送量F2にて搬送される(搬送動作に相当)。以下の説明のため、2回のパスにて印刷される画像の繋ぎ目部分を「重複領域」と呼び、それ以外の1回のパスにて印刷される画像部分を「通常領域」と呼ぶ。
図4Bは、比較例の部分オーバーラップ印刷において搬送誤差が生じた様子を示す図である。図中では、所定の搬送量F2よりも多く用紙が搬送された場合を示し、後行パスにて形成されるドット(●)が搬送誤差α分だけ搬送方向の上流側にずれて形成されている。しかし、部分オーバーラップ印刷では画像の繋ぎ目である重複領域を2つのパスに分けて印刷するため、後行パスのドットがずれて形成されたとしても、先行パスのドットは搬送方向に所定の間隔で形成される。そのため、バンド印刷(図3B)では搬送誤差が生じた場合に画像上にスジが生じてしまうが、比較例の部分オーバーラップ印刷(図4B)では画像上にスジが生じてしまうことを防止できる。このように部分オーバーラップ印刷では、画像の繋ぎ目である重複領域を2つのパスにて印刷するため、搬送誤差による画質劣化を緩和することが出来る。
なお、部分オーバーラップ印刷では、通常領域は1つのノズルによりラスタラインが形成され、重複領域は2つのノズルによりラスタラインが形成される。また、比較例の部分オーバーラップ印刷(図4A)における重複領域のラスタラインは、先行パスにて形成されるドット(○)と後行パスにて形成されるドット(●)が搬送方向および移動方向に交互に並んで構成されている。
そのため、比較例の重複領域では、先行パスのドット数と後行パスのドット数が等しく、先行パスで重複領域に対してノズルから吐出されるインク量と後行パスで重複領域に対してノズルから吐出されるインク量とが等しい。また、言い換えれば、比較例の部分オーバーラップ印刷では、印刷データ上において、重複領域対応する画素が、先行パスのノズルと後行パスのノズルに50%ずつ割り当てられている。
===インクの色材の沈み込みについて===
図5A及び図5Bは、顔料インクを用紙Sに吐出する様子を示す図である。本実施形態のプリンター1のヘッド41からは、着色剤が顔料である「顔料インク」が吐出されるとする。顔料は溶媒(例えば水分)に溶け込まないため、図中では「黒い四角(■)」にて顔料を示す。また、用紙Sは普通紙とする。
図5Aでは、まず、印刷データ上の2つの画素に対応する用紙上の2つの画素領域のうちの一方の画素領域に対して所定量の顔料インクが吐出される。ノズルから吐出された顔料インク滴が用紙S上に着弾すると、顔料インクの溶媒成分などが用紙Sの繊維内に浸透する。この時、大部分の顔料成分は用紙Sの繊維内に浸透せずに用紙Sの表面に留まる。そうして、用紙S上の顔料成分でドットが形成され、用紙S上の顔料成分により人は用紙上の色を認識する。
また、図5Aでは、一方の画素領域に顔料インクが吐出された後、所定の時間の経過後に、他方の画素領域に顔料インクが吐出されている。この時、一方の画素領域に吐出された顔料インクの溶媒成分などは既に用紙S内部に浸透し、顔料成分は用紙S上に留まって定着している。そのため、他方の画素領域に顔料インク滴を吐出しても、一方の画素領域の顔料成分は用紙S上に留まったままである。また、他方の画素領域に吐出された顔料インクも同様に、顔料インクの溶媒成分などは用紙Sの繊維内部に浸透するが、顔料成分は用紙Sの表面に留まる。こうして、図5Aの2つの画素領域では、比較的に多くの顔料成分が用紙S上に留まり、発色性が良く、人に濃く視認される。
図5Bでは、用紙上の2つの画素領域に対して、それぞれ所定量の顔料インクが同時に吐出される。隣接する画素領域に同時にインク滴を吐出すると、用紙S上に着弾した2つの顔料インク滴が互いに影響を及ぼし合う。そのため、図5Aのように2回に分けて顔料インク滴が吐出される場合に比べて、画素領域上の顔料インク滴の量が多くなる。そうすると、顔料インクの溶媒成分などが用紙Sの繊維内に浸透する際に、着弾した顔料インク滴の下方に位置する顔料成分が他の顔料成分などの重みにより用紙Sの繊維内に沈み込んでしまう。最終的に、一部の顔料成分は用紙Sの表面に留まるが、一部の顔料成分は用紙Sの繊維内に沈み込んでしまう。そのため、図5Bの2つの画素領域では、用紙S上に留まる顔料成分の量が少なくなり、発色性が悪く、人に淡く視認される。
このように、図5Aと図5Bでは、2つの画素領域に対して同じ量の顔料インクを吐出したにも関わらず、2回に分けて顔料インクを吐出した図5Aの方が用紙Sの表面の留まる顔料成分が多く、同時に顔料インクを吐出した図5Bの方が用紙Sの表面に留まる顔料成分が少ない。顔料成分が用紙の繊維内に沈み込むと発色性が悪くなる。そのため、図5Aのように2回に分けて顔料インクが吐出された画像の方が、図5Bのように1回で顔料インクが吐出された画像よりも、濃い画像となる。
図5Aのように2回に分けてインクを吐出するとは、単位領域に対して(図5では2つの画素領域に対して)同時に吐出されるインク量が少なく、図5Bのようにインクを1回で吐出するとは、単位領域に対して同時に吐出されるインク量が多いということである。そのため、単位領域に対して同時に吐出されるインク量が少ないほど、顔料成分が用紙Sの繊維内に沈み込み難く、発色性が良くなり、単位領域に対して同時に吐出されるインク量が多いほど、顔料成分が用紙Sの繊維内に沈み込み易く、発色性が悪いと言える。
また、図5Bでは、2つの画素領域に対して同時に顔料インク滴を吐出している場合の現象を示しているが、一方の画素領域に顔料インク滴が吐出された直後に、隣接する画素領域に顔料インク滴が吐出された場合にも、図5Bと同様の現象が発生すると考えられる。即ち、一方の画素領域に顔料インク滴が着弾してからその顔料インク滴が用紙S内部に浸透する前までの短時間の間に、隣接する画素領域に顔料インク滴が吐出された場合には、お互いに影響を及ぼして一部の顔料成分が用紙S内部に沈み込んでしまう。即ち、単位領域に対して短い時間間隔でインクを吐出すると、顔料成分が用紙Sの繊維内に沈み込み易く、発色性が悪くなる。
なお、媒体として、表面がコーティングされた専用紙(例えばコート紙、光沢紙)やフィルム(例えばOHPシート)などを使用する場合には、顔料成分が媒体内に沈み込み難いため、このような現象は発生し難い。また、媒体として普通紙を使用する場合に限らず、顔料成分が媒体内部に沈み込む場合には、このような現象が発生する。
また、顔料インクに限らず、着色剤が染料である染料インクにおいても同様の現象が発生する。そのため染料インクを使用するプリンター1であっても以下に説明する印刷方法を実施するとよい。ただし、染料は溶媒に溶け込み易いのに対して顔料は溶媒に溶け込まないため、顔料インクの方が、図5Aおよび図5Bに示す現象が発生し易いと考えられる。
図6は、顔料インクを用いて比較例の部分オーバーラップ印刷を行った際に発生する濃度むらを示す図である。図中の斜線部分が通常領域に相当し、クロス部が重複領域に相当する。前述のように、比較例の部分オーバーラップ印刷では、1パスにて形成される画像の繋ぎ目部分(端部)が重複するように印刷が行われる。そのため、画像の繋ぎ目である重複領域は2回のパスにて印刷が行われる、それ以外の通常領域は1回のパスにて印刷が行われる。
図4Aに示すように、比較例の部分オーバーラップ印刷では、通常領域の1つのラスタライン(移動方向に沿うドット列)は1回のパスにて形成されるのに対して、重複領域の1つのラスタラインは、先行のパスにて半分のドットが形成された後に、後行のパスにて残りの半分のドットが形成される。また、重複領域のラスタラインは先行パスのドットと後行パスのドットが移動方向および搬送方向に交互に形成されている。
即ち、比較例の部分オーバーラップ印刷では、通常領域の方が重複領域に比べて、単位領域に同時に又は短い時間間隔で吐出されるインク量が多くなる。そのため、通常領域では顔料成分が媒体内部に沈み込み易く、濃度が淡く視認され、重複領域では顔料成分が媒体内部に沈み込み難く、濃度が濃く視認され、画像全体で濃度むらが発生する。なお、図4Aではノズル数を少なくしているため、通常領域と重複領域の搬送方向の幅の差が小さいが、実際は重複領域の幅は通常領域の幅よりも小さい。そのため、顔料成分の沈み込みの違いにより、重複領域が画像上に濃いスジとして現れ、画質を劣化する。
そこで、本実施形態では、部分オーバーラップ印刷を行う際に、着色剤(顔料成分)の沈み込みの違いにより発生する通常領域と重複領域の濃度むらを低減することを目的とする。
===本実施形態の部分オーバーラップ印刷について===
本実施形態では、顔料成分の沈み込みの違いによる通常領域と重複領域の濃度むらを解消するために、重複領域における顔料成分の沈み込みを多くして、通常領域の顔料成分の沈み込みと同等にする。前述のように、単位領域に同時に又は短い時間間隔で吐出するインク量が多いほど、顔料成分が沈み込み易い。そのため、比較例の部分オーバーラップ印刷では、重複領域に対して、先行パスで吐出するインク量と後行パスで吐出するインク量とを同じにしているのに対して、本実施形態の部分オーバーラップ印刷では、重複領域(第1の画像の端部と第2の画像の端部が重複する領域)に対して、先行パス(先の吐出動作)で吐出するインク量と後行パス(後の吐出動作)で吐出するインク量とを異ならせる。
即ち、先行パスか後行パスの何れかのパスで、重複領域に同時に(又は短い時間間隔で)吐出するインク量を多くする。そうすることで、重複領域に多くのインク量を吐出するパスにおいて、顔料成分が用紙内部に多く沈み込むため、重複領域の顔料成分の沈み込みを、通常領域の顔料成分の沈み込みに近づけることが出来る。その結果、重複領域と通常領域の濃度差を小さくすることが出来る。
図7Aは、先行パスと後行パスにおいて重複領域に対するインク吐出量を変化させて部分オーバーラップ印刷を行った画像を裏側から輝度値(L値:単位面積当たりの明るさを示す)を測定した結果を示す表であり、図7Bは、図7Aの測定結果をグラフにした図である。なお、輝度値を測定した画像は普通紙に顔料インクで印刷された画像であり、搬送方向および移動方向の印刷解像度が「360dpi×360dpi」である。また、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインク吐出量の比は、28%,17%,5%,64%であり、通常領域を1パスで印刷し、重複領域を2パスで印刷した画像である。
通常領域では顔料成分が用紙内部に沈み込むため、用紙の裏側(印刷面と反対面側)から通常領域を見ると、沈み込んだ顔料成分によって画像が見え易い。逆に、重複領域では顔料成分が用紙の表面に留まるため、用紙の裏側から重複領域を見ると画像が見え難い。図7Aの測定結果を行う時に使用した用紙は白とし、顔料成分が用紙内部に沈み込むほど、用紙の裏側から測定した輝度値が低くなる(暗く見える)。即ち、通常領域は重複領域に比べて顔料成分が沈み込むため、通常領域の輝度値は重複領域の輝度値よりも低い結果となる。
図7Aの測定結果では、通常領域の輝度値と重複領域の輝度値の差を示している。例えば、図7Aの1番の結果では、重複領域に吐出するインク量のうち、先行パスのインク吐出量を6.25%とし、後行パスのインク吐出量を93.75%として画像を印刷した時に、通常領域と重複領域の(裏面の)輝度値の差が「0.233」であることを示している。
この重複領域と通常領域の輝度値の差が小さいということは、重複領域の顔料成分の沈み込み量が通常領域の顔料成分の沈み込み量に近づいたということである。そのため、通常領域と重複領域の輝度値の差が小さいほど、用紙を表面から見た際に重複領域と通常領域の濃度差が小さく、濃度むらを解消することが出来たということである。
図7A及び図7Bの結果から、先行パスのインク吐出量と後行パスのインク吐出量の比を50%にした時に(8番結果)、通常領域と重複領域の輝度値の差(2.328)が最も大きい。この結果から比較例の部分オーバーラップ印刷(図4A)のように、重複領域に対して、先行パスから吐出するインク量と後行パスから吐出するインク量を同じにすると、通常領域と重複領域の濃度差が最も大きくなり、画質が最も劣化することが分かる。
そして、先行パスのインク吐出量を後行パスのインク吐出量よりも多くするにつれて(番号が大きい結果ほど)、通常領域と重複領域の輝度値の差が小さくなり、濃度むらが解消される。また、後行パスのインク吐出量を先行パスのインク吐出量よりも多くするにつれて(番号が小さい結果ほど)、通常領域と重複領域の輝度値の差が小さくなり、濃度むらが解消される。
つまり、先行パスと後行パスの何れか一方のパスにて、重複領域に吐出するインク量を多くするほど、濃度むらが解消される。これは、一方のパスで重複領域に吐出するインク量を多くするほど、単位領域に同時に(又は短い時間間隔で)吐出されるインク量が増加し、通常領域と同様に、用紙内部への顔料成分の沈み込み量が多くなるからである。
また、後行パスで重複領域に吐出するインク量の比率を最大にした時(1番結果)の、通常領域と重複領域の輝度値の差(0.233)の方が、先行パスで重複領域に吐出するインク量の比率を最大にした時(15番結果)の、通常領域と重複領域の輝度値の差(0.502)よりも小さく、濃度むらがより解消されている。その他の結果においても(例えば2番結果と14番結果の比較)、後行パスで重複領域に吐出するインク量を先行パスで重複領域に吐出するインク量よりも多くすることで(第2の画像の端部を形成するために吐出させるインク量を第1の画像の端部を形成するために吐出させるインク量よりも多くすることで)、通常領域と重複領域の輝度値の差をより小さくすることができる。
つまり、重複領域に対して、先行パスのインク吐出量よりも後行パスのインク吐出量を多くすることで、通常領域と重複領域の濃度むらをより改善することが出来る。具体的には、重複領域に吐出するインク量のうち、94%のインク量を後行パスにて吐出させ、残りの6%のインク量を先行パスにて吐出させることで、濃度むらが最も改善される。
以上をまとめると、本実施形態の部分オーバーラップ印刷では、先行パスにて重複領域に吐出するインク量と後行パスにて重複領域に吐出するインク量を異ならせることで、通常領域と同様に重複領域の顔料成分の沈み込み量を増やし、通常領域と重複領域の濃度むらを低減する。また、先行パスにて重複領域に吐出するインク量よりも後行パスにて重複領域に吐出するインク量を増やすことで、より濃度むらを改善することが出来る。
<印刷例1>
図8は、本実施形態の部分オーバーラップ印刷にて形成されるドットを示す図であり、図9は、印刷例1における印刷データの作成手順を示す図である。印刷例1では、重複領域に吐出されるインク量のうちの6%のインク量を先行パスにて吐出させ、残りの94%のインク量を後行パスにて吐出させるとする。なお、これに限られず、先行パスで94%のインク量を吐出させ、後行パスで6%のインク量を吐出させてもよい。また、図8では、全てのノズルから所定の時間おきにインク滴が吐出されるとし(即ち、全ての画素がドット形成を示すとし)、パス1・パス3で形成されたドットを白丸(○)で示し、パス2で形成されたドットを黒丸(●)で示す。
図8では、1つのラスタラインが16個のドットから構成されており、パス1とパス2の重複領域に属する4つのラスタライン(移動方向に沿うドット列)は、それぞれ、先行のパス1の1個のドット(○)と後行のパス2の15個のドット(●)で構成される。このように、重複領域に対して、後行パスのインク吐出量(形成するドット数)を先行パスのインク吐出量(形成するドット数)よりも多くすることで、重複領域の顔料成分の沈み込み量を通常領域の顔料成分の沈み込み量に近づける。そうして、重複領域と通常領域の濃度むらを低減する。また、搬送誤差が生じたとしても、先行パスの画像と後行パスの繋ぎ目である重複領域を2回のパスで印刷するため、図3Bに示すバンド印刷のように画像の繋ぎ目に隙間が生じてしまうことを防止できる。
次に、プリンター1が図8に示すような印刷を行うための印刷データの作成手順(図9)について説明する。本実施形態の印刷システムでは、プリンター1に印刷させるための印刷データを、コンピューター60のメモリーに記憶されたプリンタードライバーに従って、コンピューター60が行うとする。そして、コンピューター60に作成された印刷データはプリンター1に送信され、プリンター1のコントローラー10はその印刷データに従って印刷動作を制御する。そのため、本実施形態では、コンピューター60とプリンター1が接続された印刷システムが「印刷装置」に相当し、プリンタードライバーがインストールされたコンピューター60とプリンター1のコントローラー10が「制御部」に相当する。
また、プリンターに接続されたコンピューター60によって印刷データが作成されるに限らず、例えば、プリンター1のコントローラー10が、印刷データを作成し、先行パスにて重複領域に吐出するインク量と後行パスにて重複領域に吐出するインク量を異ならせてもよい。この場合、プリンター1単体が印刷装置に相当し、プリンター1のコントローラー10が制御部に相当する。
まず、解像度変換処理(S001)では、コンピューター60の各種アプリケーションプログラムから出力された画像データを、用紙に印刷する際の解像度に変換する。なお、解像度変換処理後の画像データは、RGB色空間により表される多階調のデータ(RGBデータ)である。次の色変換処理(S002)では、RGBデータを、プリンター1のインクに対応したCMYK色空間により表されるCMYKデータに変換する。
そして、ハーフトーン処理(S003)では、多階調数のデータをプリンター1が形成可能な階調数のデータに変換する。本実施形態のプリンター1は1種類のサイズのドットを形成するとし、この場合は、1つの画素が「ドットを形成する」「ドットを形成しない」の2階調にて表現される。
その後、コンピューター60は画像データに基づく印刷が「普通紙」で行われるか否かを判断する。もし、ユーザーによって「普通紙」が選択されている場合には(S004→YES)、本実施形態の部分オーバーラップ印刷(図8)を行うように印刷データを作成する。ユーザーによって普通紙以外が選択されている場合には(S004→NO)、比較例の部分オーバーラップ印刷(図4A)を行うように印刷データを作成する。
前述のように、媒体の種類によって顔料成分(着色剤)の沈み込み易さが異なる。普通紙のように、一度に多量のインクが吐出された時に顔料成分が沈み込んでしまう媒体を使用する場合には、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量を異ならせる(即ち、図8の本実施形態の部分オーバーラップ印刷を行う)。そうすることで、通常領域の顔料成分の沈み込み量と重複領域の顔料成分の沈み込み量の差を小さくすることができ、濃度むらを解消することが出来る。なお、図9のフローでは、S004にて普通紙を判断基準にしているが、これに限らず、顔料成分が内部に沈み込み易い媒体を使用する場合には、本実施形態の部分オーバーラップ印刷を行うようにするとよい。
また、普通紙以外が選択された場合には、比較例の部分オーバーラップ印刷(図4A)のように、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量を同等にするとよい(先行パスのノズルに割り当てる画素数と後行パスのノズルに割り当てる画素数を同等にする)。そうすることで、搬送誤差が生じた時の画質劣化をより抑制できる。例えば、図4Bに示すように搬送誤差が所定の搬送量F2よりも大きい場合に、後行パスのドットが搬送方向の上流側にずれて形成されたとしても、画像の繋ぎ目部分に先行パスの比較的に多くのドット(本来形成されるべきドットの半分のドット)が形成されるため、搬送誤差による画質劣化をより抑制できる。また、普通紙以外の媒体であって、顔料成分が内部に沈み込み難い媒体であれば、重複領域に吐出するインク量を先行パスと後行パスで50%ずつにしても、顔料成分の沈み込みの違いによる濃度むらが発生しない。
そして、普通紙が選択されている場合には(S004→YES)、重複領域に対応する画素のうちのドットを形成する画素(以下、吐出画素)を、先行パスのノズルに割り当てるのか、それとも後行パスのノズルに割り当てるのかを決定する(S005)。ここでは、重複領域に対応する吐出画素のうち、94%の画素を後行パスのノズルに割り当て、6%の画素を先行パスのノズルに割り当てる。そうすることで、「後行パスで重複領域に吐出するインク量と先行パスで重複領域に吐出するインク量」の比率を「94対6」にすることができ、顔料成分の沈み込みの違いによる濃度むらを低減することが出来る。
図8に示す重複領域のラスタラインでは、移動方向に並ぶ16個のドットのうちの、15個のドット(パス2の●)は後行パスのノズルで形成され、1個のドット(パス1の○)が先行パスのノズルにて形成されている。即ち、重複領域に属する1つのラスタラインを形成するためのインク量(16個のドット)は、先行パスのノズルから吐出されるインク量が6%(1個のドット)を占め、後行パスのノズルから吐出されるインク量が94%(15個のドット)を占めている。
このように、重複領域が複数のラスタラインから構成される場合には、ラスタラインごとに(交差する方向にドットが並んだ複数のドット列ごとに)、所定の比率(ここでは6%と94%)で、先行パスで形成するドット数と後行パスで形成するドット数を異ならせるとよい。そのために、コンピューター60は、画像データ上の移動方向に対応する方向に並ぶ複数の画素(以下、画素列)の中の吐出画素を、所定の比率で、先行パスのノズルと後行パスのノズルに割り当てる。そうすることで、一方のパスで重複領域に吐出するインク量を少なくしたとしても、各ラスタラインにおいて一方のパスのドットが存在する。そのため、搬送誤差が生じたとしても、図3Bのバンド印刷のように画像上に白スジが発生してしまうことを防止できる。
また、図8では、1つのラスタラインが16個のドットで構成されているため、先行パスのノズルにて形成されるドット数が1個である。しかし、実際には、1つのラスタラインは多数のドットから構成されるため、先行パスのノズルにて形成されるドット数も複数となる。このとき、重複領域の1つのラスタラインにおいて、インク量を少なくするパス1のドット(○)が移動方向に所定間隔おきに配置されるとよい。即ち、パス1のドットが偏って位置せずに移動方向にバランスよく配置されるとよい。具体的には、図8では、パス1のドットが16個に1個の割合で形成されるため、16個のドットおきにパス1のドットを配置するとよい。そうすることで、搬送誤差が生じたときの画質劣化をより抑制できる。
また、1つの重複領域に属する複数のラスタラインにおいて、インク吐出量を少なくする方のパスのドットの移動方向の位置を異ならせる。具体的には、図8に示すように、パス1とパス2の重複領域において、最下流側のラスタラインでは2桁目のドットがパス1のノズルにより形成され、次に下流側のラスタラインでは6桁目のドットがパス1のノズルにより形成され、更に下流側のラスタラインでは10桁目のドットがパス1のノズルにより形成され、最上流側のラスタラインでは14桁目のドットがパス1のノズルにより形成されている。
このように、重複領域に属するラスタラインが複数である場合、インク吐出量を少なくする方のパスのドットを、異なるラスタラインにおいて、移動方向に分散して配置させるとよい。そのために、コンピューター60は、重複領域の複数のラスタラインに対応する各画素列において、インク吐出量を少なくする方のパスのノズルに割り当てる吐出画素の移動方向の位置(桁番号)を画素列ごとに異ならせる。更に、重複領域の複数のラスタラインに対応する各画素列において、インク吐出量を少なくする方のパスのノズルに割り当てる吐出画素が、偏ることなく、移動方向にバランスよく配置されるとよい。図8では、重複領域の複数のラスタラインにおいて、パス1のドット(○)が移動方向に4つおきに形成されている。
そうすることで、一方のパスで重複領域に吐出するインク量を少なくしたとしても、重複領域全体において、一方のパスのドットが移動方向に分散して存在するため、搬送誤差が生じたとしても、図3Bのバンド印刷のように画像上に白スジが発生してしまうことを防止できる。
そうして、重複領域に対応する吐出画素が先行パスのノズルと後行パスのノズルに割り振られた後は、コンピューター60は、ラスタライズ処理(S006)として、マトリクス状の画素データをプリンター1に転送すべきデータ順に並べ替える。これらの処理を経て生成された印刷データは、印刷方式に応じたコマンドデータ(搬送量など)と共にプリンター1に送信される。
以上をまとめると、印刷例1では、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量を異ならせる為に、印刷データ上の重複領域に対応する画素のうちの吐出画素を、ラスタラインごとに(画素列ごとに)所定の比率(例えば6%と94%)にて、先行パスのノズルと後行パスのノズルに割り当てる。そうすることで、通常領域と重複領域の濃度むらを低減することが出来る。また、重複領域に吐出するインク量を少なくするパスのノズルに割り当てる吐出画素は移動方向に分散させる。そうすることで、搬送誤差が生じたとしても画質劣化を抑制できる。
また、図9に示す印刷データの作成フローのように、ハーフトーン処理後に、重複領域に対応する画素のうちの吐出画素を、所定の比率(例えば6%と94%)で、先行パスのノズルと後行パスのノズルに割り当てるに限らない。印刷データ上において、重複領域に対応する画素を、吐出画素であるか不吐出画素であるかに関わらず、所定の比率で、先行パスのノズルと後行パスのノズルを割り当ててもよい。
そうすることで、例えば、先行パスのノズルに割り当てる画素数を少なくすれば、確率的に先行パスのノズルから重複領域に吐出するインク量を少なくすることができ、後行パスのノズルに割り当てる画素数を多くすれば、後行パスのノズルから重複領域に吐出するインク量を多くすることができる。その結果、先行パスと後行パスで重複領域に吐出するインク量を異ならせることができ、通常領域と重複領域の濃度むらを低減することができ、また、図9の印刷データ作成フローに比べて、コンピューター60が印刷データを作成する処理を容易にすることが出来る。
ただし、図9の印刷データ作成フローのように、重複領域に対応する画素のうちの吐出画素を、先行パスのノズルと後行パスのノズルに、所定の比率で割り当てる方が、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量を確実に所定の比率にすることが出来る。
また、重複領域の多くの画素が吐出画素である場合ほど(例えばベタ塗り印刷の場合ほど)、ある画素領域の近傍画素領域にドットが形成される確率が高いので、先行パスのインク吐出量と後行パスのインク吐出量を異ならせて、単位領域(ある画素領域と近傍の画素領域)に同時に吐出させるインク量を調整すること(顔料成分の沈み込み量を調整すること)が必要となる。しかし、重複領域の吐出画素数が少ない場合には、もともと、ある画素領域の近傍画素領域にドットが形成される確率が低いため、単位領域(ある画素領域と近傍画素領域)に同時に吐出させるインク量を調整する必要性が低く、故意に先行パスのインク吐出量と後行パスのインク吐出量を異ならせる必要性が低くなる。そこで、コンピューター60は、重複領域に形成されるドット数(吐出画素数)が、例えば閾値よりも多い場合に、本実施形態の部分オーバーラップ印刷を行うようにしてもよい。
<印刷例2>
図10は、印刷例2における印刷データの作成処理を示す図である。印刷例2では、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量を異ならせるだけでは改善しきれない濃度むらを、補正値Hによって補正する。ここでは、先行パスと後行パスとで重複領域に吐出するインク量を異ならせても、未だ重複領域が通常領域に比べて濃度が高い場合に、補正値Hによって、重複領域に対応する画素の示す階調値を濃度の淡い階調値に補正する。
このような補正値Hを算出するために、プリンター1の製造工程などにて、本実施形態の部分オーバーラップ印刷(図8)をプリンター1に実際に行わせて、テストパターンを形成させるとよい。テストパターンとして、均一の所定階調値の画像を、本実施形態の部分オーバーラップ印刷(図8)により、1つ又は複数個印刷させるとよい。そのテストパターンをスキャナなどで読み取らせ、均一の所定階調値の画像における通常領域の読取階調値と重複領域の読取階調値を取得する。
この通常領域の読取階調値と重複領域の読取階調値の差が、先行パスと後行パスとで重複領域に吐出するインク量を異ならせただけでは改善しきれない濃度むらである。そこで、重複領域の読取階調値Scに対する通常領域の読取階調値Stの比率を、重複領域の濃度を淡くするための補正値Hとして算出する(H=St/Sc)。算出した補正値Hはプリンター1のメモリー13などに記憶させるとよい。この補正値Hによって、重複領域に対応する画素の示す階調値を濃度の淡い階調値に補正する。
具体的には、図10のフローに示すように色変換処理(S102)後に、重複領域に対応する画素の示す多階調のデータを補正値Hによって濃度補正処理する。補正値Hによって重複領域に対応する画素の階調値を淡い階調値に補正することで、同じ階調値であっても、重複領域に吐出するインク量を通常領域に吐出するインク量よりも少なくすることができ、重複領域が通常領域よりも濃く視認されてしまうことを防止できる。
また、テストパターンとして、均一の所定階調値の画像を1個形成し、それに基づいて1つの補正値Hを算出した場合には、重複領域に対応する画素の示す階調値に関わらず、共通の補正値Hを使用する。一方、テストパターンとして、均一の所定階調値の画像を複数個形成し、それに基づいて複数の補正値Hを算出した場合には、重複領域に対応する画素の示す各階調値に合わせた補正値Hを、テストパターンから算出した複数の補正値Hの線形補間によって算出し、濃度補正処理を行うとよい。
このように、部分オーバーラップ印刷を行う際に、重複領域に吐出するインク量を先行パスと後行パスとで異ならせるだけでは、通常領域と重複領域の濃度むらが改善しきれない場合に、更に、重複領域に対応する画素の示す階調値を濃度の淡い階調値に補正するとよい。そうすることで、顔料成分の沈み込みの違いにより発生する濃度むらをより改善することが出来る。
なお、先行パスと後行パスとで重複領域に吐出するインク量を異ならせるだけでは改善しきれない濃度むらを、重複領域に対応する画素の示す階調値を補正するに限らない。通常領域に対応する画素の示す階調値を、補正値Hによって濃い階調値に補正してもよい。ただし、重複領域に対応する画素数の方が通常領域に対応する画素数よりも少ないため、重複領域に対応する画素の示す階調値を補正する方が、コンピューター60の処理が容易となる。
<印刷例3>
図11Aは、先行パスで重複領域に吐出するインク量と後行パスで重複領域に吐出するインク量の比率をラスタラインごとに異ならせた場合のドット形成の様子を示す図である。前述の印刷例1では(図8)、重複領域のラスラインにおける先行パスのインク量と後行パスのインク量の比率が、全てのラスタラインにおいて6%と94%である。しかし、これに限らず、重複領域のラスタラインごとに、先行パスで吐出するインク量と後行パスで吐出するインク量の比率を異ならせてもよい。
例えば、図11Aでは、先行パス(パス1)で重複領域に吐出するインク量を後行パス(パス2)で重複領域に吐出するインク量よりも少なくするものの、先行パスの通常領域側(搬送方向の下流側)に近いラスタラインでは、先行パスで吐出するインク量の比率を高めている。
具体的には、パス1とパス2の重複領域に属するラスタラインのうち、搬送方向の最下流側(パス1の通常領域側)のラスタラインでは、先行パスと後行パスのインク吐出量の比率が「19%と81%」であり、次に下流側のラスタラインでは、先行パスと後行パスのインク吐出量の比率が「13%と87%」である。そして、パス1とパス2の重複領域に属するラスタラインのうち、パス2の通常領域側(搬送方向の上流側)に位置する2つのラスタラインでは、先行パスと後行パスのインク吐出量の比率が「6%と94%」となる。
このように、重複領域に属するラスタラインごとに先行パスと後行パスのインク吐出量の比率を異ならせ、更に、一方のパス(パス1)のインク吐出量を他方のパス(パス2)のインク吐出量よりも少なくする場合であっても、一方のパスの画像側のラスタラインでは、一方のパスのインク吐出量の比率を他のラスタラインに比べて高くするとよい(一方のパスのドット数を増やすとよい)。そうすることで、一方のパスの画像から他方のパスの画像への移行を滑らかにすることができ、パス1の画像とパス2の画像の繋ぎ目(重複領域)をより目立ち難くすることが出来る。
図11Bは、同じ重複領域内において先行パスで重複領域に吐出するインク量を多くするラスタラインと後行パスで重複領域に吐出するインク量を多くラスタラインを混在させた様子を示す図である。前述の印刷例1では(図8)、重複領域の全てのラスラインにおいて、先行パスのインク量よりも後行パスのインク量を多くしているが、これに限らない。図7A及び図7Bに示すように、先行パスのインク量を多くする場合であっても、後行パスのインク量を多くする場合であっても、通常領域と重複領域の濃度むらを低減できる効果が得られる。
そこで、重複領域のラスタラインのうち、先行パスの通常領域側(搬送方向の下流側)に近いラスタラインでは先行パスのインク量を後行パスのインク量よりも多くし、後行パスの通常領域側(搬送方向の上流側)に近いラスタラインでは後行パスのインク量を先行パスのインク量よりも多くしてもよい。そうすることで、先行パスの画像から後行パスの画像への移行を滑らかにすることができ、先行パスの画像と後行パスの画像の繋ぎ目(重複領域)をより目立ち難くすることが出来る。
===その他の実施の形態===
上記の各実施形態は、主としてインクジェットプリンターを有する印刷システムについて記載されているが、濃度むら補正方法等の開示が含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
<印刷装置について>
インクの吐出方式は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけて、インク室を膨張・収縮させることによりインクを吐出するピエゾ方式でもよいし、発熱素子を用いてノズル内に気泡を発生させ、その気泡によってインクを吐出させるサーマル方式でもよい。