JP5284915B2 - 構造物の移動方法及び建築物 - Google Patents

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Description

本発明は、免震支持された構造物を移動させる構造物の移動方法、及びこの構造物の移動方法によって移動させる構造物を有する建築物に関する。
地震により、免震建物の免震層に残留変形が生じた場合や、免震建物の上屋(以下、「上部構造物」とする)を支持する免震装置としての積層ゴムに残留変形が生じた場合に、地震が収まった後に上部構造物を横移動させることによって免震層や積層ゴムに生じた残留変形を無くす又は減らすことが求められる。
この理由の1つとして、積層ゴムの性能劣化の問題が挙げられる。図18(a)の正面図に示すような積層ゴム322に残留変形が生じると、積層ゴム322には大きな歪が局部的に発生する。そして、図18(b)の正面図に示すように、積層ゴム322に生じた残留変形を放置しておくと、積層ゴムは、大きな歪が局部的に発生している状態で上部構造物の自重Qと共に水平方向の応力を長期にわたって受け続けることになる。これにより、積層ゴム322のゴム破断などの損傷や、積層ゴム322の免震装置としての性能及び耐久性の低下が懸念される。
また、他の理由としては、免震建物の免震層の安全性の問題が挙げられる。免震層や積層ゴムに残留変形が残っている状態で次の地震が発生した場合、設計で想定した免震層クリアランスや積層ゴムの限界変形量を超えてしまうことが考えられる。
また、免震層クリアランスの大きさの変化により、このクリアランスを覆うグレーチングが設置できなくなってしまうことや、上部構造物のずれた配置又は免震層のエキスパンション部の目地のずれによって美観が損なわれてしまうことなどが問題となる。
積層ゴムの性能劣化や次の地震発生に対する安全性を考慮した場合、免震層の残留変形は50mm以内に留めることが一般的に好ましいとされており、また、管理基準においても免震層の許容残留変形は概ね50mmと定められている。
特に、弾性すべり支承のような、すべり支承と積層ゴムとによって構成される免震装置が免震層に設けられている場合、積層ゴムや免震層に生じる残留変形は大きくなる傾向にあるので、上部構造物を横移動させて積層ゴムや免震層に生じた残留変形を無くす又は減らすことのニーズは高くなる。
図19に示すように、特許文献1の免震支承装置300では、積層ゴム体302の下端面に取付け板304が取り付けられ、この取付け板304が基礎306上に固定されている。
積層ゴム体302は、薄肉補強鋼板308とゴム層310とを交互に積層して形成されている。また、積層ゴム体302の上端部には、厚肉補強鋼板312を介して滑り材314が取り付けられており、上部構造物316に固定された介在体本体318の下面に形成された低摩擦層320に滑り材314が摺動自在に当接している。
よって、基礎306に微小地震が発生した場合には、低摩擦層320と滑り材314との間の摩擦力により低摩擦層320と滑り材314との間に相対的滑り変位は生じず、積層ゴム体302のせん断変形によって上部構造物316へ伝達される振動が減衰される。
また、比較的大きな地震が基礎306に発生した場合には、低摩擦層320と滑り材314との間に相対的滑り変位が生じ、この滑り変位による摩擦熱と、積層ゴム体302のせん断変形とによって上部構造物316へ伝達される振動が減衰される。
このように、特許文献1の免震支承装置300は、低摩擦層320と滑り材314との間に相対的滑り変位を生じさせて免震効果を発揮するものなので、この免震支承装置300が設けられた免震層に大きな残留変形が生じてしまうことが考えられる。
しかし、上部構造物のような免震支持された構造物を従来の方法で横移動させることは技術的に難しい。例えば、免震支持された構造物全体をジャッキで押すことによってこの構造物を横移動させる場合、容量の大きなジャッキや多数のジャッキが必要となる。この問題は、免震支持された構造物が重量構造物の場合に特に顕著であり、現実的に実施をすることが困難となる。
特開平9−310408号公報
本発明は係る事実を考慮し、免震支持された構造物をこの構造物の重量や規模に関係なく移動させることが可能な構造物の移動方法、及びこの構造物の移動方法によって移動させる構造物を有する建築物を提供することを課題とする。
請求項1に記載の発明は、ゴム体とすべり支承とが上下方向に直列配置された免震装置を介して下部構造物の上に支持された上部構造物を移動させる構造物の移動方法において、前記すべり支承は、前記上部構造物又は前記下部構造物に固定された構造物側すべり部材と、前記ゴム体に固定され前記構造物側すべり部材に接触するゴム体側すべり部材と、を備え、加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加える。
請求項1に記載の発明では、免震装置を介して下部構造物の上に上部構造物が支持されている。免震装置は、ゴム体とすべり支承とが上下方向に直列配置された構成となっている。すべり支承は、構造物側すべり部材とゴム体側すべり部材とを備えている。構造物側すべり部材は、上部構造物又は下部構造物に固定されている。また、ゴム体側すべり部材は、ゴム体に固定されると共に構造物側すべり部材に接触している。そして、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えて上部構造物を移動させる。
ここで、せん断変形が生じているゴム体には、このせん断変形に起因する復元力が発生する。そして、この復元力は上部構造物に対する反力(以下、「復元反力」とする)として作用している。また、上部構造物を支持する全てのゴム体から発生する復元反力が釣り合っているときに、上部構造物は静止状態となる。
よって、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えることにより、力を加えられたゴム体から発生する復元力の大きさや向きが変化する。これにより、復元反力の釣り合い状態が変化し、新たな釣り合い状態になるまで上部構造物は下部構造物に対して横方向に移動する。
また、すべり支承のすべり変形機能を利用して(構造物側すべり部材に対してゴム体側すべり部材をすべらせて)ゴム体側すべり部材を移動させる(ゴム体のせん断変形状態を変える)ことができる程度の力を加力手段により横方向に加えるだけでよいので、作用させる力が小さい加力手段を用いることができる。
すなわち、ゴム体側すべり部材と構造物側すべり部材との接触面に発生する摩擦力よりも大きい力を横方向に加えればよいので、上部構造物の全体重量に関係なく、個々の免震装置(すべり支承)に生じている摩擦力(=ゴム体側すべり部材と構造物側すべり部材との接触面の摩擦係数×個々の免震装置が支持している鉛直荷重)に応じた性能の加力手段を用いることができる。
また、加力手段による加力は、上部構造物を支持する全部のゴム体(ゴム体側すべり部材)に対して同時に行わなくてもよいので、少ない数(最低1つ)の加力手段によって下部構造物に対して上部構造物を移動させることができる。例えば、地震等により移動した上部構造物を完全に元の位置に戻すのであれば、全部のゴム体(ゴム体側すべり部材)に最低1回ずつ加力を行う必要があるが、このような場合には、加力手段を盛り換えながら各ゴム体(ゴム体側すべり部材)への加力を順に行っていけばよい。
これらにより、免震支持された構造物(上部構造物)をこの構造物の重量や規模に関係なく移動させることができる。
請求項2に記載の発明は、前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に加える力の方向は、前記加力手段により力を加える前の前記ゴム体側すべり部材の中心位置と、前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置と、を結ぶ方向である。
請求項2に記載の発明では、加力手段により力を加える前のゴム体側すべり部材の中心位置と、上部構造物を所定位置に移動させたときに構造物側すべり部材に対して配置されるゴム体側すべり部材の中心位置とを結ぶ方向を、加力手段によりゴム体側すべり部材に加える力の方向としている。
このような方向に加力手段により力を加えることによって、所定位置に上部構造物を移動させる又は近づけることができる。また、ゴム体に残留変形が生じている場合、ゴム体に生じている残留変形を無くす又は減らすことができる。
請求項3に記載の発明は、前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置は、前記構造物側すべり部材の中心位置と平面視にて一致する。
請求項3に記載の発明では、上部構造物を所定位置に移動させたときに構造物側すべり部材に対して配置されるゴム体側すべり部材の中心位置を、構造物側すべり部材の中心位置と平面視にて一致する位置としている。
これによって、構造物側すべり部材の中心で免震装置が上部構造物を支持する配置となる設計上の正規の位置に上部構造物を移動させる又は近づけることができる。
請求項4に記載の発明は、前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置に、前記加力手段による一度の加力で前記ゴム体側すべり部材の中心を移動させる。
請求項4に記載の発明では、加力手段による一度の加力で、上部構造物を所定位置に移動させたときに構造物側すべり部材に対して配置されるゴム体側すべり部材の中心位置にゴム体側すべり部材の中心を移動させる。
これによって、所定位置に上部構造物を移動させる又は近づけることができる。また、ゴム体に残留変形が生じている場合、ゴム体に生じている残留変形を無くす又は減らすことができる。
請求項5に記載の発明は、前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、前記構造物側すべり部材に前記ゴム体側すべり部材を固定する。
請求項5に記載の発明では、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、構造物側すべり部材にゴム体側すべり部材を固定する。
これによって、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、構造物側すべり部材の下面又は上面に対してゴム体側すべり部材の上面又は下面がすべるのを防ぐことができる。すなわち、ゴム体側すべり部材の上面又は下面のすべりによるゴム体のせん断変形量の低下を防ぐことができるので、ゴム体の復元力が変化する(小さくなる)ことを防ぐことができる。
請求項6に記載の発明は、前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、前記構造物側すべり部材と前記ゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を大きくする。
請求項6に記載の発明では、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、構造物側すべり部材とゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を大きくする。
これによって、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、構造物側すべり部材の下面又は上面に対してゴム体側すべり部材の上面又は下面がすべる量を低減することができる。すなわち、ゴム体側すべり部材の上面又は下面のすべりによるゴム体のせん断変形量の低下を低減することができるので、ゴム体の復元力の変化を低減することができる。
請求項7に記載の発明は、前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えるときに、前記構造物側すべり部材と前記ゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を小さくする。
請求項7に記載の発明では、構造物側すべり部材とゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を小さくした状態で、加力手段によりゴム体側すべり部材に横方向の力を加える。
これによって、小さな横方向の力でゴム体側すべり部材を移動させることができる。すなわち、作用させる横方向の力がより小さい加力手段を用いることができる。
請求項8に記載の発明は、前記上部構造物を支持する全部又は一部の前記ゴム体の前記ゴム体側すべり部材に、前記加力手段により横方向の力を同時に加える。
請求項8に記載の発明では、上部構造物を支持する全部又は一部のゴム体を加力手段による加力の対象とする。そして、これらのゴム体に固定されているゴム体側すべり部材の全てに対して、加力手段により横方向の力を同時に加える。これによって、上部構造物を移動させるのに掛かる時間を短くすることができる。
請求項9に記載の発明は、前記上部構造物を支持する全部の前記ゴム体の前記ゴム体側すべり部材に、前記加力手段により横方向の力を加える。
請求項9に記載の発明では、上部構造物を支持する全部のゴム体を加力手段による加力の対象とする。そして、これらのゴム体に固定されているゴム体側すべり部材の全てに対して、加力手段により横方向の力を加える。これによって、所定位置に上部構造物を移動させる又は近づけることができる。また、ゴム体に残留変形が生じている場合、ゴム体に生じている残留変形を無くす又は減らすことができる。
請求項10に記載の発明は、前記免震装置は、弾性すべり支承である。
請求項10に記載の発明では、免震装置を弾性すべり支承とすることにより、免震装置としての支持能力及び免震能力を確実に得ることができる。
請求項11に記載の発明は、前記免震装置は、弾塑性すべり支承である。
請求項11に記載の発明では、免震装置を弾塑性すべり支承とすることにより、免震装置としての支持能力及び免震能力を確実に得ることができ、また、弾塑性すべり支承が塑性変形することにより振動エネルギーを吸収するので、地震時において下部構造物に対して上部構造物が横方向に移動する量を小さくすることができる。
請求項12に記載の発明は、前記上部構造物は、大規模構造物である。
請求項12に記載の発明では、大規模構造物である上部構造物は自重が大きいので、従来の方法で横方向に移動させることは技術的に難しい。例えば、大規模構造物である上部構造物全体をジャッキで押すことによってこの上部構造物を移動させる場合、一般的な免震建物の免震層の構成で考えると、上部構造物全体の自重の10%程度の載荷能力がジャッキに必要となることが予測される。すなわち、過大な容量のジャッキや過剰の数のジャッキが必要となるので、現実的に実施をすることが難しい。
これに対して、請求項12の構造物の移動方法では、すべり支承のすべり変形機能を利用して(構造物側すべり部材の下面又は上面に対してゴム体側すべり部材の上面又は下面をすべらせて)ゴム体側すべり部材を移動させる(ゴム体のせん断変形状態を変える)ことができる程度の力を加力手段によってゴム体側すべり部材に加えるだけでよいので、作用させる力が小さい加力手段を用いることができる。
すなわち、ゴム体側すべり部材と構造物側すべり部材との接触面に発生する摩擦力よりも大きい力を横方向に加えればよいので、上部構造物の全体重量に関係なく、個々の免震装置(すべり支承)に生じている摩擦力(=ゴム体側すべり部材と構造物側すべり部材との接触面の摩擦係数×個々の免震装置が支持している鉛直荷重)に応じた性能の加力手段を用いることができる。
さらに、加力手段による加力は、上部構造物を支持する全部のゴム体(ゴム体側すべり部材)に対して同時に行わなくてもよいので、少ない数(最低1つ)の加力手段によって下部構造物に対して上部構造物を移動させることができる。例えば、地震等により移動した上部構造物を完全に元の位置に戻すのであれば、全部のゴム体(ゴム体側すべり部材)に最低1回ずつ加力を行う必要があるが、このような場合には、加力手段を盛り換えながら各ゴム体(ゴム体側すべり部材)への加力を順に行っていけばよい。
これらにより、自重が大きい大規模構造物であっても移動させることができる。
請求項13に記載の発明は、請求項1〜12の何れか1項に記載された構造物の移動方法によって移動させる前記上部構造物を有する建築物である。
請求項13に記載の発明では、重量や規模に関係なく移動させることが可能な上部構造物を有する建築物を構築することができる。
本発明は上記構成としたので、免震支持された構造物をこの構造物の重量や規模に関係なく移動させることが可能な構造物の移動方法、及びこの構造物の移動方法によって移動させる構造物を有する建築物を提供することができる。
本発明の第1の実施形態に係る建築物を示す立面図である。 本発明の第1の実施形態に係る弾性すべり支承を示す正面図である。 本発明の第2の実施形態に係る免震層及び積層ゴムに残留変形が生じるメカニズムを示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る免震層に残留変形が生じた際の積層ゴムの変形方向を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る免震層に残留変形が生じた際の積層ゴムの変形方向を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 図7のA−A矢視図である。 本発明の第2の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係るコンクリート収縮した上部建物を有する建築物を示す立面図である。 本発明の第2の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第3の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第3の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 本発明の第3の実施形態に係る雄ネジを示す斜視図である。 本発明の第3の実施形態に係る固定部材を示す斜視図である。 本発明の第4の実施形態に係る構造物の移動方法を示す説明図である。 従来の積層ゴムを示す正面図である。 従来の免震支承装置を示す正面図である。
図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る構造物の移動方法及び建築物について説明する。なお、本実施形態では、鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用した例を示すが、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建築物に対して適用することができる。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1の立面図に示すように、建築物10は、上部構造物としての鉄筋コンクリート造の上部建物12と、地盤14上に設けられた下部構造物としての鉄筋コンクリート造の基礎16と、基礎16と上部建物12との間に設けられた免震層18とによって構成されている。
免震層18には、複数の弾性すべり支承20が免震装置として配置され、これらの弾性すべり支承20を介して基礎16上に上部建物12が支持されている。図1には4つの弾性すべり支承20のみが描かれているが、1つ以上の弾性すべり支承20を介して基礎16上に上部建物12が支持されている建築物であればよい。
図2の正面図に示すように、弾性すべり支承20は、ゴム体としての円柱状の積層ゴム22とすべり支承24とが上下方向に直列配置された構成となっている。
積層ゴム22の下端部には円板状に形成された鋼製のフランジ34が設けられており、このフランジ34が基礎16に固定されている。
なお、積層ゴム22の形状は、円柱状以外の形状であってもよく、例えば、角柱状であってもよい。積層ゴム22を角柱状とした場合には、フランジ34を、平面形状が四角形の板部材とするのが好ましい。
すべり支承24は、構造物側すべり部材としてのすべり板26と、ゴム体側すべり部材としての円板状のすべり材28とを備えている。すべり板26の平面形状は、正方形となっている。すべり板26は、上部建物12に固定されている。また、すべり材28は、積層ゴム22に固定されると共にすべり板26に接触している。
なお、すべり板26やすべり材28の平面形状は他の形状であってもよく、すべり板26の平面形状を円形にしてもよいし、すべり材28の平面形状を四角形にしてもよい。
第1の実施形態の構造物の移動方法では、加力手段としての油圧ジャッキ(不図示)を上部建物12の下面に固定し(油圧ジャッキの反力を上部建物12にとり)、この油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加える。これにより、基礎16に対して上部建物12を横方向に移動させることができる。
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
弾性すべり支承20(図2を参照のこと)のすべり材28に横方向の力を作用させると、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべり、積層ゴム22にはせん断変形が発生する。また、せん断変形が生じている積層ゴム22には、このせん断変形に起因する復元力が発生する。そして、この復元力は上部建物12に対する反力(以下、「復元反力」とする)として作用し、上部建物12を支持する全ての弾性すべり支承20から発生する復元反力が釣り合っているときに、上部建物12は基礎16に対して静止した状態となる。
よって、油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えると、力を加えられたすべり材28を有する弾性すべり支承20(積層ゴム22)から発生する復元力の大きさや向きが変化する。これにより、復元反力の釣り合い状態が変化し、新たな釣り合い状態になるまで上部建物12が基礎16に対して横方向に移動する。すなわち、弾性すべり支承20に設けられた積層ゴム22の復元力により、基礎16に対して上部建物12を横方向に移動させることができる。
また、弾性すべり支承20のすべり変形機能を利用して(すべり板26の下面に対してすべり材28の上面をすべらせて)すべり材28を移動させる(積層ゴム22のせん断変形状態を変える)ことができる程度の力を加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に加えるだけでよいので、作用させる力が小さい加力手段を用いることができる。
すなわち、すべり材28とすべり板26との接触面に発生する摩擦力よりも大きい力を横方向に加えればよいので、上部建物12の全体重量に関係なく、個々の弾性すべり支承20(すべり支承24)に生じている摩擦力(=すべり材28とすべり板26との接触面の摩擦係数×個々の弾性すべり支承20が支持している鉛直荷重)に応じた性能の油圧ジャッキを用いることができる。
また、加力手段としての油圧ジャッキによる加力は、上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20(すべり材28)に対して同時に行わなくてもよいので、少ない数(最低1つ)の加力手段によって基礎16に対して上部建物12を移動させることができる。
例えば、256基の弾性すべり支承20で支持された上部建物12において、上部建物12の重量が43万tfであり、すべり板26の下面とすべり部材28の上面との接触面の摩擦係数が0.15である場合、上部建物12全体を油圧ジャッキで押して移動させるには、43万tf×0.15=6.45万tfより、約6万tfのジャッキ容量が必要となる。1台の油圧ジャッキの容量を300tfとすると、6万tf/300tf=200となり、200台という非現実的な数の油圧ジャッキが必要になる。
これに対して、第1の実施形態の構造物の移動方法では、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面をすべらせることが可能な容量の油圧ジャッキを1台用意して、この油圧ジャッキを盛り換えて使用すればよい。すなわち、1台の油圧ジャッキによって上部建物12を移動させることができる。
全ての弾性すべり支承20が均等に上部建物12の重量を支持していると仮定して具体的に試算を行うと、((上部建物12の総重量)/(弾性すべり支承20の総数))×(すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面の摩擦係数)=(43万tf/256基)×0.15≒250tfより、300tfの油圧ジャッキが1台あればよいことになる。
よって、これまで説明したように、第1の実施形態の構造物の移動方法では、作用させる力が小さい加力手段を用いることができ、また、少ない数の加力手段によって基礎16に対して上部建物12を横方向に移動させることができる。すなわち、免震支持された上部構造物(上部建物12)をこの上部構造物の重量や規模に関係なく移動させることができる。
また、図1に示すように、上部建物12を支持する免震装置を弾性すべり支承20とすることにより、免震装置としての支持能力及び免震能力を確実に得ることができる。
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
なお、第1の実施形態では、油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えることにより基礎16に対して上部建物12を移動させる例を示したが、1つの油圧ジャッキのみを用いて、複数の弾性すべり支承20のすべり材28に対して順番に加力を行うようにしてもよいし、複数の油圧ジャッキを用いて複数の弾性すべり支承20のすべり材28に対して同時に加力を行うようにしてもよい。全部の弾性すべり支承20のすべり材28に対して同時に加力を行わなくてもよいので、必要とする油圧ジャッキの数を少なくすることができる。
また、必要とする位置に上部建物12を移動させることができるまで、複数の弾性すべり支承20のすべり材28に対して順番に加力を行えばよいので、上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20のすべり材28に対して油圧ジャッキによる加力を行わなくてもよい。
次に、本発明の第2の実施形態とその作用及び効果について説明する。
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
まず、地震の発生によって弾性すべり支承20の積層ゴム22や免震層18に残留変形が生じるメカニズムについて図3(a)〜(d)の立面図により説明する。なお、説明をわかり易くするために、図3(a)〜(d)では、2つの弾性すべり支承20によって上部建物12が支持された建築物30とする。また、上部建物12の右側に配置されている弾性すべり支承20、積層ゴム22、すべり支承24を弾性すべり支承20R、積層ゴム22R、すべり支承24Rとし、上部建物12の左側に配置されている弾性すべり支承20、積層ゴム22、すべり支承24を弾性すべり支承20L、積層ゴム22L、すべり支承24Lとする。
図3(a)の正面図には、上部建物12が所定位置に配置されている状態が示されている。所定位置とは、建築物30の設計時に想定した、基礎16に対する上部建物12の位置を意味する。すなわち、所定位置は、建築物30の竣工時における基礎16に対する上部建物12の初期位置のことである。
図3(a)では、弾性すべり支承20R、20Lに、上部建物12の重量による鉛直力が軸力NR、NLとして作用している。
ここで、図3(b)の正面図に示すように、地震により上部建物12の左側から右側へ横方向の地震力Wが作用して上部建物12が右側に移動すると、上部建物12には時計回りのモーメントMが発生する。これにより、弾性すべり支承20R、20Lには、上部建物12の重量による鉛直力と、モーメントMの発生に起因して生じる鉛直力とが合わさった鉛直方向の軸力NR、NLが作用する。
モーメントMの発生に起因して生じる鉛直力は、上部建物12の右側では下向きになり、上部建物12の左側では上向きになる。これにより、上部建物12の自重による鉛直力は下向きの力なので、弾性すべり支承20Rに作用する鉛直方向の軸力NRは図3(a)の軸力NRよりも大きくなり、弾性すべり支承20Lに作用する鉛直方向の軸力NLは図3(a)の軸力NLよりも小さくなる。
このため、すべり支承24Rでは、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面の面圧が大きくなることに伴って摩擦抵抗は大きくなり、これによってすべり支承24Rのすべり出し荷重が大きくなる。すなわち、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべり出すタイミングが遅くなるので、積層ゴム22Rのせん断変形は大きくなる。また、すべり支承24Lでは、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面の面圧が小さくなることに伴って摩擦抵抗は小さくなり、これによってすべり支承24Lのすべり出し荷重が小さくなる。すなわち、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべり出すタイミングが早くなるので、積層ゴム22Lのせん断変形は小さくなる。
次に、図3(c)の正面図に示すように、地震により上部建物12の右側から左側へ横方向の地震力Wが作用して上部建物12が左側に移動すると、上部建物12には反時計回りのモーメントMが発生する。
これによって、図3(b)のときとは逆に、弾性すべり支承20Rに作用する鉛直方向の軸力NRは図3(a)の軸力NRよりも小さくなり、弾性すべり支承20Lに作用する鉛直方向の軸力NLは図3(a)の軸力NLよりも大きくなる。
このため、すべり支承24Rのすべり出し荷重が小さくなるので、積層ゴム22Rのせん断変形は小さくなる。また、すべり支承24Lのすべり出し荷重が大きくなるので、積層ゴム22Lのせん断変形は大きくなる。
地震が発生している間、上部建物12は左右への移動を繰り返し、これに伴って、弾性すべり支承20R、20Lは図3(b)、(c)で説明した挙動を繰り返す。
そして、図3(d)の正面図に示すように、地震がおさまったときに上部建物12は所定位置からずれた位置に配置され、免震層18に残留変形を生じる。さらに、積層ゴム22R、22Lは、上部建物12の移動方向において上部建物12の外周部に向かって傾斜(積層ゴム22Rは右に傾斜、積層ゴム22Lは左に傾斜)し、積層ゴム22R、22Lに残留変形を生じる。
図3(d)において、弾性すべり支承20R、20Lに作用する軸力NR、NLは、上部建物12の重量による鉛直力なので、図3(a)の軸力NR、NLと同じ大きさである。
図4は、建築物10が震度6強の地震を受けた後の積層ゴム22の残留変形の状態を示した地震応答解析結果の一例である。上部建物12の重量を43万tf、上部建物12を支持する弾性すべり支承20の総数を256基、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面の摩擦係数を0.15とした。
上部建物12が所定位置に配置された状態における、上部建物12の下面の平面配置12Aが一点鎖線で示され、建築物10が震度6強の地震を受けた後の上部建物12の下面の平面配置12Bが実線で示されている。
図5の平面図に示すように、矢印32の末端は、平面視におけるフランジ34の中心位置を示し、矢印32の先端は、平面視におけるすべり材28の中心位置を示している。すなわち、図4において、矢印32が左向きならば積層ゴム22は左に傾斜していることになり、矢印32が右向きならば積層ゴム22は右に傾斜していることになる。また、矢印32の長さが長ければ積層ゴム22に大きな残留変形が生じていることになり、矢印32の長さが短ければ積層ゴム22に小さな残留変形が生じていることになる。
なお、矢印32の長さと、上部建物12の移動量(平面配置12Aと平面配置12Bとの位置の差)とは、説明をわかり易くするために、異なった倍率で拡大して描いたものであり、誇張した表現となっている。
図4に示すように、建築物10が震度6強の地震を受けた後の状態において、上部建物12は、X軸の方向に31cm移動し、X軸と直交するY軸の方向に26cm移動している。また、積層ゴム22は上部建物12の外周部に向かって傾斜している。すなわち、図3(d)と同様の結果が得られ、建築物10の免震層18と、積層ゴム22とに残留変形を生じていることがわかる。
次に、免震層18及び弾性すべり支承20の積層ゴム22に残留変形が生じた建築物10に対して、第2の実施形態の構造物の移動方法を適用した一例を示す。なお、以下の説明において用いられる記号に付与される符号が正(+)の場合には、左から右へ向かう方向を意味し、符号が負(−)の場合には、右から左へ向かう方向を意味する。例えば、後に説明する力Pに負の符号が付与された−Pは、力Pが右から左へ向かう方向に作用していることを意味する。
ここでは、n基の弾性すべり支承20によって支持されている上部建物12を移動する方法について、図6(a)〜(d)を用いて説明する。説明の都合上、各弾性すべり支承20に1からnまでの番号を付けて区別し、任意の弾性すべり支承20の番号をiとする。また、説明をわかり易くするために、図6(a)〜(d)において上部建物12は左右真横にのみ移動し、奥行き方向には移動しないものとする。
図6(a)の正面図には、上部建物12が所定位置に配置されている状態が示されている。所定位置とは、建築物10の設計時に想定した、基礎16に対する上部建物12の位置を意味する。すなわち、所定位置は、建築物10の竣工時における基礎16に対する上部建物12の初期位置のことである。
このとき、弾性すべり支承20の積層ゴム22にはせん断変形が生じておらず、フランジ34の中心位置、すべり材28の中心位置、及びすべり板26の中心位置が平面視にてほぼ一致している。図6(a)〜(d)では、正面視におけるフランジ34の中心位置、すべり材28の中心位置、及びすべり板26の中心位置を点34P、28P、26Pとして示している。
なお、すべり板26のように平面形状が四角形の場合には、この四角形の対角線の交点を中心位置とすればよい。また、フランジ34、すべり材28、及びすべり板26の平面形状が円形や四角形でない場合には、それらの平面形状のほぼ中央の位置をフランジ34、すべり材28、及びすべり板26の中心位置とすればよい。
図6(b)の正面図には、図6(a)の建築物10が地震を受け、図3(a)〜(d)で説明したメカニズムにより免震層18及び弾性すべり支承20の積層ゴム22に残留変形が生じている状態が示されている。
免震層18には、残留変形Δ(=図6(a)における上部建物12の位置(所定位置)と、図6(b)における上部建物12の位置との差の距離)が生じ、任意(i番)の弾性すべり支承20の積層ゴム22には、残留変形δが生じている。すなわち、点34Pと点26Pとの間の距離がΔとなり、点34Pと点28Pとの間の距離がδとなっている。
ここで、任意(i番)の弾性すべり支承20(積層ゴム22)のゴムせん断剛性をK、復元反力をFとすると、任意(i番)の弾性すべり支承20について式(1)の関係が成り立つ。
Figure 0005284915
また、上部建物12は静止しているので式(2)の関係が成り立し、式(1)、(2)から式(3)が求められる。
Figure 0005284915
Figure 0005284915
この状態から、以下に示すステップ1〜3を経て、基礎16に対して上部建物12を移動させ、上部建物12を元の位置(所定位置)に戻す。
(1)ステップ1
図6(c)の正面図に示すように、加力手段としての油圧ジャッキ(不図示)を上部建物12の下面に固定し(油圧ジャッキの反力を上部建物12にとり)、この油圧ジャッキにより、i番の弾性すべり支承20に設けられているすべり材28に横方向の力Pを加える。
このとき、図7の正面図、及び図7のA−A矢視図(すべり板26、すべり材28、及びフランジ34のみを表示)である図8に示すように、油圧ジャッキにより力Piを加える前の(図6(b)の状態における)すべり材28の中心位置28Cと、上部建物12を所定位置に移動させた(戻した)ときに配置される(図6(a)の状態における)すべり板26に対するすべり材28の中心位置28C(すべり板26の中心位置26C直下のすべり材28の位置)とを結ぶ方向へ油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加え、すべり材28の中心位置28Cを、すべり板26の中心位置26Cと平面視にて一致させる。このときの油圧ジャッキのストロークは、Δ−δとなる。
図6(a)で示したように、上部建物12を所定位置に配置した状態においては、フランジ34の中心位置34C、すべり材28の中心位置28C、及びすべり板26の中心位置26Cを平面視にてほぼ一致させているので、上部建物12を所定位置に移動させた(戻した)ときに配置される(図6(a)の状態における)すべり板26に対するすべり材28の中心位置28Cは、すべり板26の中心位置26Cと平面視にて一致する。
油圧ジャッキの反力は上部建物12にとられているので、油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加えることにより、上部建物12は基礎16に対してαだけ移動する。すなわち、図6(c)に示すように、免震層18に生じるせん断変形(=図6(a)における上部建物12の位置(所定位置)と、図6(c)における上部建物12の位置との差の距離)はΔ+αとなる。
ここで、1番の弾性すべり支承20の有するすべり材28に力Pが加えられた状態において、1番の弾性すべり支承20については式(4)の関係が成り立つ。
Figure 0005284915
また、このときに他の弾性すべり支承20については式(5)の関係が成り立つ。
Figure 0005284915
また、1番の弾性すべり支承20の有するすべり材28に力Pが加えられた後に上部建物12が静止していることから、復元反力Fの合計と力Pを足し合わせた値は0になるので、式(6)の関係が成り立つ。
Figure 0005284915
そして、式(4)に式(6)を足すことによって式(7)が求められ、式(7)から式(5)を引くことによって式(8)が求められる。
Figure 0005284915
Figure 0005284915
さらに、式(8)を整理すると式(9)、(10)となり、式(10)を一般化することにより式(11)が求められる。
Figure 0005284915
Figure 0005284915
Figure 0005284915
(2)ステップ2
1番の弾性すべり支承20の有するすべり材28への力Pの加力が完了した後、油圧ジャッキを解放する。このとき、上部建物12の移動や積層ゴム22のせん断変形の変化は起こらない。
(3)ステップ3
残りの全部(2番からn番まで)の弾性すべり支承20に対して、順にステップ1、2を繰り返し行う。
よって、式(3)、(11)により式(12)が求められる。すなわち、図6(d)の正面図に示すように、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20に対して1回ずつ油圧ジャッキによる力Pの加力を行えば、所定位置に上部建物12を移動させることができ、これによって免震層18に生じた残留変形を無くすことができる。
また、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20に設けられている積層ゴム22に生じた残留変形を無くすことができる。
Figure 0005284915
よって、これまで説明したように、第2の実施形態では、油圧ジャッキにより力Piを加える前のすべり材28の中心位置28Cと、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cとを結ぶ方向へ油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加え、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cにすべり材28の中心を移動させることによって、所定位置に上部建物12を移動させることができる。また、積層ゴム22に残留変形が生じている場合、積層ゴム22に生じている残留変形を無くすことができる。
また、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cを、すべり板26の中心位置26Cと平面視にて一致させることによって、すべり板26の中心位置26Cで弾性すべり支承20が上部建物12を支持する配置となる設計上の正規の位置(所定位置)に上部建物12を移動させることができる。
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
なお、第2の実施形態では、免震層18に弾性すべり支承20のみが配置されている例を示したが、上部建物12の横方向への移動に対して抵抗力を作用させるダンパー等の装置が免震層18に設けられている場合には、これらの装置を外してから上部建物12の移動作業(ステップ1〜3)を行うことが望ましい。
また、第2の実施形態では、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cにすべり材28の中心を移動させる例を示したが、上部建物12を所定位置に完全に移動させる必要がない場合には、すべり材28の中心を完全に移動させなくてもよく、油圧ジャッキにより力Piを加える前のすべり材28の中心位置28Cと、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cとを結ぶ方向へ、油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加えさえすれば、所定位置に上部建物12を近づけることができる。また、ゴム体に残留変形が生じている場合、ゴム体に生じている残留変形を減らすことができる。
また、第2の実施形態では、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20のすべり材28に対して1回ずつ油圧ジャッキによる力Pの加力を行える例を示したが、所定位置に完全に上部建物12を移動させなくてもよい(例えば、許容範囲に上部建物12を移動できればよい)場合には、全部の弾性すべり支承20のすべり材28に油圧ジャッキによる力Pの加力を行わなくてもよい。この場合、弾性すべり支承20の積層ゴム22に生じた残留変形は小さくなるが、完全には無くならない。
上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20のすべり材28に、油圧ジャッキにより横方向の力Pを加えることによって、所定位置に上部建物12を移動させる又は効果的に近づけることができる。また、積層ゴム22に残留変形が生じている場合、積層ゴム22に生じている残留変形を無くす又は効果的に減らすことができる。
また、第2の実施形態では、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cにすべり材28の中心を移動させる例を示したが、この移動は、油圧ジャッキによる一度の加力によって行ってもよいし、複数回の加力によって行ってもよい。油圧ジャッキによる一度の加力によって行えば、所定位置に上部建物12を効率よく移動させる又は近づけることができる。また、積層ゴム22に残留変形が生じている場合、積層ゴム22に生じている残留変形を効率よく無くす又は減らすことができる。
また、第2の実施形態では、ステップ1において油圧ジャッキにより力Pを加える弾性すべり支承20(すべり材28)を1つとする例を示したが、油圧ジャッキによって同時に力Pを加える弾性すべり支承20(すべり材28)は複数であってもよい。第2の実施形態では全部の弾性すべり支承20(すべり材28)を同時に押さなくてよいので、必要とする油圧ジャッキの数を少なくすることができる。複数の弾性すべり支承20(すべり材28)に対し、油圧ジャッキによって同時に力Pを加えれば、上部建物12を移動させるのに掛かる時間を短くすることができる。
また、第2の実施形態では、上部建物12から任意(i番)の弾性すべり支承20に作用する鉛直方向の軸力をN、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面の摩擦係数をμとしたときに、式(13)の条件を満たせば、油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加えた後にすべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべることなく確実に復元反力をすべり板26へ伝えることができるので好ましい。
Figure 0005284915
また、式(14)の条件を満たす場合には、Δ−δのせん断変形を積層ゴム22に与えることができないので、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20のすべり材28に対して1回ずつ油圧ジャッキによる力Pの加力を行っても、所定位置に上部建物12を移動させることができない。このような場合には、油圧ジャッキの1回の加力によるストロークDを((μ・N)/K)−δとし、式(13)の条件を満たすようになるまで、油圧ジャッキによってこのストロークDによる加力を繰り返し行えばよい。
Figure 0005284915
また、第2の実施形態では、弾性すべり支承20の積層ゴム22及び免震層18に残留変形が生じている状態(図6(b)を参照のこと)の上部建物12を所定位置に移動させることにより、弾性すべり支承20の積層ゴム22及び免震層18に生じていた残留変形を無くす例を示したが、図9(a)の正面図に示すように、上部建物12が所定位置に配置されていて免震層18に残留変形は無く、弾性すべり支承20の積層ゴム22のみに残留変形が生じている状態の建築物10に対して第2の実施形態の構造物の移動方法を適用してもよい。以下、説明をわかり易くするために、図9(a)〜(d)において上部建物12は左右真横にのみ移動し、奥行き方向には移動しないものとする。
このような場合には、Δ=0として先に説明したステップ1〜3を行えばよい。図9(b)の正面図、及び図10の正面図に示すように、加力手段としての油圧ジャッキ(不図示)を上部建物12の下面に固定し(油圧ジャッキの反力を上部建物12にとり)、この油圧ジャッキにより、i番の弾性すべり支承20に設けられているすべり材28に横方向の力Pを加えて、図9(c)の正面図のようにする。
このとき、油圧ジャッキにより力Piを加える前の(図9(b)の状態における)すべり材28の中心位置28Cと、上部建物12を所定位置に移動させた(戻した)ときに配置される(図6(a)の状態における)すべり板26に対するすべり材28の中心位置28C(すべり板26の中心位置26C直下のすべり材28の位置)とを結ぶ方向へ油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加え、すべり材28の中心位置28Cを、すべり板26の中心位置26Cと平面視にて一致させる。このときの油圧ジャッキのストロークは−δ(油圧ジャッキによって右から左へδ押す)となる。
そして、図9(d)の正面図に示すように、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20(すべり材28)に対して1回ずつ油圧ジャッキによる力Pの加力を行えば、所定位置に上部建物12を移動させることができ、これによって、全部(1番からn番まで)の弾性すべり支承20に設けられている積層ゴム22に生じた残留変形を無くすことができる。
このように、第2の実施形態の構造物の移動方法を用いる前後で基礎16に対する上部建物12の配置に変化がなくても、途中の過程で上部建物12が移動していれば、第2の実施形態の構造物の移動方法の技術的思想が適用されていることとなる。すなわち、「上部構造物(上部建物12)を移動させる構造物の移動方法」とは、「上部構造物(上部建物12)を移動させることによって上部構造物(上部建物12)を所定位置に配置する」ことを意味する。
図9(a)の状況は、例えば、図11の立面図に示すように、上部建物36を形成するコンクリートが乾燥収縮した場合に起こり得る。図11では、弾性すべり支承20を介して基礎16の上に上部建物36が支持されているので、先に説明したステップ1〜3を行うことにより、弾性すべり支承20に生じている残留変形を無くすことができる。
また、第2の実施形態では、図6(a)〜(d)、及び図9(a)〜(d)において上部建物12は左右真横にのみ移動し、奥行き方向には移動しないものとして説明したが、左右真横以外の方向に横移動させる上部建物12に対しても第2の実施形態を適用することができる。例えば、図12の平面図に示すように、すべり板26及びすべり材28が斜めに移動した場合においても、油圧ジャッキにより力Piを加える前のすべり材28の中心位置28Cと、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28C(平面視における、すべり板26の中心位置26C)とを結ぶ方向へ油圧ジャッキによりすべり材28に力Pを加えればよい。
また、第2の実施形態では、建築物10の設計時に想定した、基礎16に対する上部建物12の位置を所定位置とした例を示したが、所定位置は上部建物12を移動させたい任意の位置とすることができる。
この場合、上部建物12を所定位置に移動させたときにすべり板26に対して配置されるすべり材28の中心位置28Cは、任意の位置に上部建物12を移動させた時に、せん断変形していない状態の積層ゴム22において、この積層ゴム22に固定されているすべり材28の中心位置28Cがすべり板26上で位置する点となる。
これにより、移動させたい任意の位置に上部建物12を移動させる、又は近づけることができる。
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態は、第1及び第2の実施形態において説明した油圧ジャッキによるすべり材28への加力の後に、すべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定するものである。したがって、第3の実施形態の説明において、第1及び第2の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
第3の実施形態では、図13(b)の正面図に示すように、加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えた後に、固定部材46によってすべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定する。
図13(a)の正面図には、固定部材46によってすべり板26にすべり材28を固定する前の状態が示されている。油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えて、すべり板26に対してすべり材28をすべらせる際には、図13(a)の状態で行う。
図13(a)、及び図13(a)のB−B矢視図である図14(a)に示すように、すべり板26及び上部建物12に形成された複数の孔56に、図15の斜視図に示す雄ネジ58が収容されている。雄ネジ58の頭58Aの端面58Bは平らになっており、孔56に形成された雌ネジに雄ネジ58を完全にねじ込んだときに、端面58Bとすべり板26の下面とが面一となる。このようにして、端面58Bとすべり板26の下面とにより、すべり材28の滑動を可能とするすべり面が形成されている。
なお、雄ネジ58の端面58Bには、孔56の雌ネジに雄ネジ58をねじ込む際にドライバー(ねじ回し)の先端を挿入する+又は−の溝が形成されている。この溝は、雄ネジ58の端面58Bの平滑度を低下させないように形成されている。
図13(b)、及び図13(b)のC−C矢視図である図14(b)に示すように、固定部材46によってすべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定する際には、すべり材28の横方向への移動を拘束するようにすべり材28の周囲に複数の固定部材46を配置する。
図16の斜視図に示すように、固定部材46は、円柱状に形成された鋼製の軸部材48と、円筒状に形成された鋼製の外径変更部材50、52、54とを組み合わせて構成されている。外径変更部材50の本体50Aの内径の大きさは軸部材48の本体48Aが挿入可能な大きさになっており、外径変更部材52の本体52Aの内径の大きさは外径変更部材50の本体50Aが挿入可能な大きさになっており、外径変更部材54の本体54Aの内径の大きさは外径変更部材52の本体52Aが挿入可能な大きさになっている。
また、軸部材48の本体48A及び外径変更部材50、52、54の本体50A、52A、54Aの下端部には鍔部48B、50B、52B、54Bが設けられている。そして、外径変更部材54の本体54Aに外径変更部材52の本体52Aを挿入し、この外径変更部材52の本体52Aに外径変更部材50の本体50Aを挿入し、この外径変更部材50の本体50Aに軸部材48の本体48Aを挿入した状態で、軸部材48の雄ネジ部48Cを孔56に形成された雌ネジにねじ込んだときに、鍔部48B、50B、52Bに外径変更部材50、52、54の本体50A、52A、54Aの下面が当たって下方に落ちないようになっている。
そして、軸部材48と外径変更部材50、52、54との組み合わせによって、固定部材46の外径を変更する。例えば、軸部材48のみによって固定部材46を構成すれば、固定部材46の外径を最も小さくすることができる。また、軸部材48と外径変更部材50とによって固定部材46を構成すれば、軸部材48のみによって構成した固定部材46よりも外径を大きくすることができる。また、軸部材48と外径変更部材50、52、54とによって固定部材46を構成すれば、固定部材46の外径を最も大きくすることができる。
図13(b)、及び図14(b)に示すように、すべり板26に固定部材46を設置する際には、固定部材46の設置位置にある雄ネジ58を取外し、その雄ネジ58が収容されていた孔56に形成されている雌ネジに固定部材46を構成する軸部材48の雄ネジ部48Cをねじ込む。
図14(b)に示すように、固定部材46の周壁とすべり材28の周壁との間の距離が出来るだけ小さくなるように、先に説明した方法で固定部材46の外径を調整する。固定部材46の周壁とすべり材28の周壁との間の距離は0である(固定部材46の周壁とすべり材28の周壁とが接触している)ことが好ましい。
次に、本発明の第3の実施形態の作用及び効果について説明する。
図13(b)及び図14(b)に示すように、加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えた後に、固定部材46によってすべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定することにより、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべるのを防ぐことができる。すなわち、すべり材28の上面のすべりによる積層ゴム22のせん断変形量の低下を防ぐことができるので、積層ゴム22の復元力が変化する(小さくなる)ことを防ぐことができる。
以上、本発明の第3の実施形態について説明した。
なお、第3の実施形態では、軸部材48と3つの外径変更部材50、52、54とを組み合わせて固定部材46を構成した例を示したが、固定部材46を構成する外径変更部材の数、外径変更部材の大きさ及び形状や、作り出すことができる固定部材46の外径のバリエーションは適宜決めればよい。
また、固定部材46以外の部材を用いてすべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定してもよい。
また、第3の実施形態では、6つの固定部材46によってすべり板26にすべり材28を横方向の移動に対して固定する例を示したが(図14(b)を参照のこと)、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべるのを防ぐことができるように固定部材46が配置されていればよく、固定部材46の数や配置は適宜決めればよい。
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態は、第1及び第2の実施形態において説明した油圧ジャッキによるすべり材28への加力の後に、すべり板26とすべり材28との接触面に生じる摩擦力を大きくするものである。したがって、第4の実施形態の説明において、第1及び第2の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
第4の実施形態の弾性すべり支承68では、図17(a)の正面図に示すように、板状に形成された鋼製のフランジ60が積層ゴム22の上端部に設けられている。フランジ60には貫通孔が複数形成されておりこの貫通孔の内壁には雌ネジ62が形成されている。
フランジ60の上面には、すべり材28が載置されている。フランジ60の雌ネジ62には、フランジ60の上面から先端部が突出するようにボルト64がねじ込まれている。すべり材28の下面には、この突出したボルト64の先端部が回転可能に収容される収容穴66が形成されている。
図17(a)の状態では、フランジ60の上面からすべり材28が浮き上がらない程度にボルト64が雌ネジ62にねじ込まれている(ボルト64の先端が収容穴66の天井面に当たっていない)ので、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力は、図7で示した弾性すべり支承20の場合と変わらない。
ここで、図17(b)の正面図に示すように、油圧ジャッキによってすべり材28へ加力を行った後に、ボルト64を雌ネジ62にさらにねじ込んで、フランジ60の上面からすべり材28を浮き上がらせることによって、すべり板26とすべり材28との間に作用する軸力を増加させる。これによって、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力は、図17(a)の状態よりも大きくなる。
次に、本発明の第4の実施形態の作用及び効果について説明する。
図17(b)に示すように、加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えた後に、フランジ60の上面からすべり材28を浮き上がらせてすべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力を大きくすることにより、すべり板26の下面に対してすべり材28の上面がすべる量を低減することができる。すなわち、すべり材28のすべりによる積層ゴム22のせん断変形量の低下を低減することができるので、積層ゴム22の復元力の変化を低減することができる。
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明した。
なお、第1〜第4の実施形態では、加力手段としての油圧ジャッキを上部建物12の下面に固定することにより、油圧ジャッキの反力を上部建物12にとる例を示したが、油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えることができればよく、油圧ジャッキの反力は、基礎16にとってもよいし、基礎16を支持する地盤14に取ってもよい。
基礎16や地盤14に反力を取る場合には、油圧ジャッキにより力が加えられる弾性すべり支承20の番号をi番としたときに、式(15)の条件を満たす必要がある。
上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20に作用する軸力が等しく、且つ上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20においてすべり材28の上面とすべり板26の下面との接触面の摩擦係数がほぼ等しい場合には、上部建物12が3つ以上の弾性すべり支承20によって支持されていれば、式(15)の条件を満たすものと考えられる。
Figure 0005284915
また、第1〜第4の実施形態では、加力手段を油圧ジャッキとした例を示したが、加力手段は、すべり材28に対して所定の力を横方向に加えられるものであればよい。
また、第1〜第4の実施形態では、免震装置を弾性すべり支承20とした例を示したが、免震装置は、すべり支承とゴム体、又はゴム体とすべり支承とを上下に直列配置したものであればよい。
すべり支承は、すべり変形により基礎16に対して上部建物12を横方向に相対移動させることができるものであればよい。
ゴム体はせん断変形に起因して復元力を発生するものであればよく、単層ゴムとしてもよいし、積層ゴムとしてもよい。
また、減衰機構付き積層ゴムと、すべり支承とを上下方向に直列に配置した弾塑性すべり支承を免震装置としてもよい。減衰機構付き積層ゴムとしては、例えば、高減衰積層ゴムや鉛プラグ入り積層ゴム等が挙げられる。免震装置を弾塑性すべり支承とすれば、免震装置としての支持能力及び免震能力を確実に得ることができ、また、減衰機構付き積層ゴムが塑性変形することにより振動エネルギーを吸収するので、地震時において基礎16に対して上部建物12が横方向に移動する量を小さくすることができる。
また、上部建物12は、すべり支承とゴム体とによって構成された免震装置のみによって支持されていてもよいし、上部建物12を支持する支承として一般的な積層ゴム(例えば、天然ゴム系積層ゴム)を併用して用いてもよい。
また、第1〜第4の実施形態では、加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加える例を示したが、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力を小さくした状態で、加力手段としての油圧ジャッキによりすべり材28に横方向の力を加えてもよい。
これによって、小さな横方向の力ですべり材28を移動させることができる。すなわち、作用させる横方向の力がより小さい加力手段を用いることができる。
すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力を小さくする方法としては、例えば、接触面に、霧状の水や揮発性のアルコールを噴霧する方法を用いてもよいし、シリコンオイル、グリースを塗布する方法を用いてもよい。水や揮発性アルコールを噴霧する方法は、加力手段によって横方向の力を加えた後に水や揮発性アルコールを拭き取る必要がないので好ましい。
また、すべり板26の下面とすべり材28の上面との接触面に生じる摩擦力を小さくする他の方法としては、油圧ジャッキ等で鉛直方向に上部建物12を押し上げて、免震装置に作用する軸力を低減する方法を用いてもよい。
また、第1〜第4の実施形態で示したすべり板26の表面(すべり面)は、例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、各種合成樹脂、ポリエチレン、二硫化モリブデン等によって形成してもよい。
また、すべり材28の表面(すべり面)は、例えば、ステンレス材、ブレーキディスク材に用いられる鋳鉄、セラミックス、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、各種合成樹脂、ポリエチレン、二硫化モリブデンによって形成してもよい。
また、第1〜第4の実施形態では、免震層18を基礎16と上部建物12との間に設けられた基礎免震層とした例を示したが、免震層18は中間免震層としてもよい。
また、第1〜第4の実施形態で示した上部建物12を大規模構造物としてもよい。大規模構造物とした上部建物12は自重が大きいので、従来の方法で横方向に移動させることは技術的に難しい。例えば、上部建物12全体を油圧ジャッキで押すことによってこの上部建物12を移動させる場合、一般的な免震建物の免震層の構成で考えると、上部建物12全体の自重の10%程度の載荷能力がジャッキに必要となることが予測される。すなわち、過大な容量の油圧ジャッキや過剰の数の油圧ジャッキが必要となるので、現実的に実施をすることが難しい。
これに対して、第1〜第4の実施形態で示した構造物の移動方法では、すべり支承24のすべり変形機能を利用して(すべり板26に対してすべり材28をすべらせて)すべり材28を移動させる(積層ゴム22のせん断変形状態を変える)ことができる程度の力を加力手段としての油圧ジャッキによってすべり材28に加えるだけでよいので、作用させる力が小さい加力手段を用いることができる。
すなわち、すべり材28とすべり板26との接触面に発生する摩擦力よりも大きい力を横方向に加えればよいので、上部建物12の全体重量に関係なく、個々の弾性すべり支承20(すべり支承24)に生じている摩擦力(=すべり材28とすべり板26との接触面の摩擦係数×個々の弾性すべり支承20が支持している鉛直荷重)に応じた性能の油圧ジャッキを用いることができる。
さらに、加力手段による加力は、上部建物12を支持する全部の弾性すべり支承20(すべり材28)に対して同時に行わなくてもよいので、少ない数(最低1つ)の加力手段によって基礎16に対して上部建物12を移動させることができる。例えば、地震等により移動した上部建物12を完全に元の位置に戻すのであれば、全部の弾性すべり支承20(すべり材28)に最低1回ずつ加力を行う必要があるが、このような場合には、油圧ジャッキを盛り換えながら各弾性すべり支承20(すべり材28)への加力を順に行っていけばよい。
これらにより、自重が大きい大規模構造物であっても移動させることができる。
ここで、大規模構造物とは、通常の容量のジャッキで同時に押すことが困難な構造物を意味する。例えば、大規模構造物とは、「構造物の自重≧(一般的に用いられる油圧ジャッキの最大載荷力)×(通常の工事で同時に使用可能な油圧ジャッキの台数)/すべり支承のすべり面の摩擦係数」となる構造物と考えることもできる。なお、一般的な免震建物の免震層の構成の場合、摩擦係数は0.1程度になると考えられる。
また、上部構造物は、さまざまな構造や規模の構造物とすることができる。特に、火力発電所、原子力発電所、高層ビル、工場、病院等の重量の大きな構造物に対して第1〜第4の実施形態の構造物の移動方法を用いた場合に、より優れた効果を発揮することができる。
これまで説明したように、第1〜第4の実施形態で示した構造物の移動方法によって移動させる上部建物を有する建築物であれば、上部建物の重量や規模に関係なく上部建物を移動させることができる。
ここで、「構造物の移動方法によって移動させる上部建物」とは、例えば、第1〜第4の実施形態で示した構造物の移動方法を行うための加力手段や、この加力手段を設けるための固定機構を有する上部建物、又は第1〜第4の実施形態で示した構造物の移動方法が記載された管理マニュアル等が備えられている上部建物を意味する。
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第4の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
10 建築物
12、36 上部建物(上部構造物)
16 基礎(下部構造物)
20、68 弾性すべり支承(免振装置)
22、38 積層ゴム(ゴム体)
24 すべり支承
26 すべり板(構造物側すべり部材)
26C、28C 中心位置
28 すべり材(ゴム体側すべり部材)

Claims (13)

  1. ゴム体とすべり支承とが上下方向に直列配置された免震装置を介して下部構造物の上に支持された上部構造物を移動させる構造物の移動方法において、
    前記すべり支承は、前記上部構造物又は前記下部構造物に固定された構造物側すべり部材と、前記ゴム体に固定され前記構造物側すべり部材に接触するゴム体側すべり部材と、を備え、
    加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加える構造物の移動方法。
  2. 前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に加える力の方向は、
    前記加力手段により力を加える前の前記ゴム体側すべり部材の中心位置と、
    前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置と、を結ぶ方向である請求項1に記載の構造物の移動方法。
  3. 前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置は、前記構造物側すべり部材の中心位置と平面視にて一致する請求項2に記載の構造物の移動方法。
  4. 前記上部構造物を所定位置に移動させたときに前記構造物側すべり部材に対して配置される前記ゴム体側すべり部材の中心位置に、前記加力手段による一度の加力で前記ゴム体側すべり部材の中心を移動させる請求項2又は3に記載の構造物の移動方法。
  5. 前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、前記構造物側すべり部材に前記ゴム体側すべり部材を固定する請求項1〜4の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  6. 前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えた後に、前記構造物側すべり部材と前記ゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を大きくする請求項1〜4の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  7. 前記加力手段により前記ゴム体側すべり部材に横方向の力を加えるときに、前記構造物側すべり部材と前記ゴム体側すべり部材との接触面に生じる摩擦力を小さくする請求項1〜6の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  8. 前記上部構造物を支持する全部又は一部の前記ゴム体の前記ゴム体側すべり部材に、前記加力手段により横方向の力を同時に加える請求項1〜7の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  9. 前記上部構造物を支持する全部の前記ゴム体の前記ゴム体側すべり部材に、前記加力手段により横方向の力を加える請求項1〜8の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  10. 前記免震装置は、弾性すべり支承である請求項1〜9の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  11. 前記免震装置は、弾塑性すべり支承である請求項1〜9の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  12. 前記上部構造物は、大規模構造物である請求項1〜11の何れか1項に記載の構造物の移動方法。
  13. 請求項1〜12の何れか1項に記載された構造物の移動方法によって移動させる前記上部構造物を有する建築物。
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